(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085850
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】広視野映像取得光学装置および広視野撮像装置
(51)【国際特許分類】
G03B 37/00 20210101AFI20240620BHJP
G03B 15/00 20210101ALI20240620BHJP
G03B 19/07 20210101ALI20240620BHJP
【FI】
G03B37/00 A
G03B15/00 W
G03B19/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200614
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】宮川 和典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘人
(72)【発明者】
【氏名】堺 俊克
(72)【発明者】
【氏名】今村 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】為村 成亨
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正英
【テーマコード(参考)】
2H054
2H059
【Fターム(参考)】
2H054BB05
2H059BA01
(57)【要約】
【課題】超広視野な画像でありながら、画像歪みが減少され、画像を合成した際のつなぎ目が目立たない画像の撮影を可能とし得る広視野映像取得光学装置および広視野撮像装置を提供する。
【解決手段】被写体情報を担持した光の入射側から、撮像レンズ4、5、6および光導波路7がこの順に設けられ、撮像レンズ4、5、6は、光軸方向が互いに異なるように構成され、光導波路7は、光入射端面11A、11B、11Cが各々、対応する撮像レンズ4、5、6の光軸に垂直となるように構成されるとともに、各々の撮像レンズ4、5、6から出射され、光入射端面11A、11B、11Cの各部から入射して、光導波路7の光伝搬部13を伝搬した光を外部に出射する光出射端面12を備え、光導波路7の光出射端面12の後段に、被写体情報を取得する撮像素子2を備えてなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体情報を担持した光の入射側から、撮像レンズおよび光導波路がこの順に設けられ、
該撮像レンズは、光軸方向が互いに異なる、少なくとも2つの撮像レンズにより構成され、
前記光導波路は、該撮像レンズからの光が入射する光入射端面の各々が、対応する前記撮像レンズの光軸に垂直方向となるように構成されるとともに、各々の前記撮像レンズから出射され、該光入射端面の各々から入射して、該光導波路の内部を伝搬した光を外部に出射する光出射端面を備えたことを特徴とする広視野映像取得光学装置。
【請求項2】
前記光出射端面は、前記光入射端面の各部から入射した光を同一方向に出射する1つの平面形状を構成することを特徴とする請求項1に記載の広視野映像取得光学装置。
【請求項3】
前記光導波路が複数の光ファイバを束ねた構造を備えたことを特徴とする請求項1に記載の広視野映像取得光学装置。
【請求項4】
前記撮像レンズのうち少なくとも1つは、該撮像レンズの光軸方向への移動が調整可能に、前記光導波路に直接的または間接的に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の広視野映像取得光学装置。
【請求項5】
前記光出射端面に表示される、前記被写体情報を担持した映像を視認可能となるように設定されてなることを特徴とする請求項1に記載の広視野映像取得光学装置。
【請求項6】
前記光出射端面に表示される、前記被写体情報を担持した映像を評価可能な手段を付加してなることを特徴とする請求項1に記載の広視野映像取得光学装置。
【請求項7】
請求項1~6のうちいずれか1項に記載の広視野映像取得光学装置を備え、該広視野映像取得光学装置の前記光導波路の前記光出射端面の後段に、前記被写体情報を取得する平板状の撮像部を備えたことを特徴とする広視野撮像装置。
【請求項8】
前記撮像部が、光電変換を行う1つまたは複数の撮像素子で構成されてなることを特徴とする請求項7に記載の広視野撮像装置。
【請求項9】
前記撮像部が、撮像レンズを備えたカメラであることを特徴とする請求項7に記載の広視野撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パノラマ画像に代表される広い視野(画角)の映像を取得するための広視野映像取得光学装置および広視野撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
映像メディア技術として、映像がもたらす高臨場感に加えて、VR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augmented Reality:拡張現実)等の多様な番組を視聴・体感することを可能とする技術の実現が期待されている。
このような技術の中でも、超広視野な画像でありながら、画像歪みが生じない撮影を可能とする装置の実現が、強く要望されている。
【0003】
従来、超広視野な画像を取得する技術として、超広角(魚眼)レンズを取り付けた、1台または複数のカメラを用いたものが知られている(例えば、下記特許文献1を参照)。
また、自動車の安全運転に寄与するドライブレコーダー用のカメラシステムでは、前面用と後面用の2台のカメラ、さらには、死角補償用の2台のカメラにより得られた各画像を、別の広角レンズにより取得した情報に基づいて繋ぎ合わせることで広視野撮影を実現しているものが知られている(例えば、下記特許文献2を参照)。
【0004】
さらに、TOMBOと称される重複像眼方式のカメラでは、複数のレンズ群を用いた撮影手法が提案されており(例えば、下記特許文献3を参照)、特に複数の光学プリズムを用いて取得した各画像に合成処理を施すことで、画角180度相当の超広角撮影を実現したものが知られている(例えば、下記非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-315380号公報
【特許文献2】特開2011-250193号公報
【特許文献3】特開2001-61109号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】CMOSイメージセンサを用いた複眼カメラとその応用、豊田孝、映像情報メディア学会誌 Vol.63,No.3,pp284~287(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術においては、超広角(魚眼)レンズの特性上、特に画像周辺部における、湾曲状の画像歪や光量の低下等の課題発生が避けられない。
また、上記特許文献2に記載された技術では、特許文献1に記載された技術と同様に、レンズに起因する画像歪等の課題発生が避けられない。さらに、複数台のカメラ映像を1枚の画像として合成処理する場合には、画像のつなぎ目が目立ってしまい、必ずしも満足した画像が得られない。
【0008】
さらに、上記特許文献3や上記非特許文献1に記載された技術では、複数のプリズム(または回折格子)を使用するためシステムがどうしても大きくなってしまう。さらに、複眼レンズ毎に結像された画像を合成した際のつなぎ目が目立ってしまうことや、レンズ由来の湾曲状の歪が生じること等、により画質改善には至っていない。
なお、上記特許文献3や上記非特許文献1に記載された技術において、光学プリズムを用いない重複像眼方式による場合には、各レンズにより得られた画像同士の視差が極めて小さいため、広視野撮影を実現することが困難である。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、超広視野な画像でありながら、画像歪みが減少され、画像を合成した際のつなぎ目が目立たない画像の撮影を可能とし得る広視野映像取得光学装置および広視野撮像装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するため、本発明の広視野映像取得光学装置および広視野撮像装置は以下のような構成とされている。
すなわち、本発明に係る広視野映像取得光学装置は、
被写体情報を担持した光の入射側から、撮像レンズおよび光導波路がこの順に設けられ、
該撮像レンズは、光軸方向が互いに異なる、少なくとも2つの撮像レンズにより構成され、
前記光導波路は、該撮像レンズからの光が入射する光入射端面の各々が、対応する前記撮像レンズの光軸に垂直方向となるように構成されるとともに、各々の前記撮像レンズから出射され、該光入射端面の各々から入射して、該光導波路の内部を伝搬した光を外部に出射する光出射端面を備えたことを特徴とするものである。
なお、上記「撮像レンズ」には、単レンズのみならず複数枚のレンズを組み合わせたレンズ系も含まれるものとする(以下、同じ)。
【0011】
ここで、前記光出射端面は、前記光入射端面の各部から入射した光を同一方向に出射する1つの平面形状を構成することができる。
なお、前記光導波路が複数の光ファイバを束ねた構造を備えたものとすることが可能である。
また、前記撮像レンズのうち少なくとも1つは、該撮像レンズの光軸方向への移動が調整可能に、前記光導波路に直接的または間接的に取り付けられていることが好ましい。
また、前記光出射端面に表示される、前記被写体情報を担持した映像を視認可能となるように設定されてなることが好ましい。
また、前記光出射端面に表示される、前記被写体情報を担持した映像を評価可能な手段を付加するように構成することも可能である。
【0012】
一方、本発明に係る広視野撮像装置は、上記いずれかに記載の広視野映像取得光学装置を備え、該広視野映像取得光学装置の前記光導波路の前記光出射端面の後段に、前記被写体情報を取得する平板状の撮像部を備えたことを特徴とするものである。
この場合において、前記撮像部が、光電変換を行う1つまたは複数の撮像素子で構成されたものとすることができる。また、前記撮像部が、撮像レンズを備えたカメラとすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る広視野映像取得光学装置および広視野撮像装置においては、複数の撮像レンズにより画角を分担させ、各撮像レンズからの入射光を光導波路の光入射端面に結像させ、この光導波路内を伝搬させることにより、この光導波路の光出射端面に複数の撮像レンズによる画像を繋いだ広視野撮影画像(パノラマ画像)を投影することができる。すなわち、特に広角ではない標準レンズ相当の光学設計を複数個のレンズについて行えばよくなるので、魚眼レンズなどの超広角レンズ(画角が大きい)で課題となっていた、特に画像周辺部における、非線形歪や周辺画像歪、さらには周辺光量不足等を回避し得る広視野撮影を可能とすることができる。
また、撮像レンズの光入射側にプリズム等の視差拡張用の構造物を配さなくてもよいため光学設計が容易であり、また、小型で軽量化された装置を実現することができる。
【0014】
また、本発明の広視野映像取得光学装置によれば、前記光出射端面に表示される、前記被写体情報を担持した映像を視認可能に設定することで、光学像を直接観察することができる。また、この光出射端面の後段に、可視像の情報(明暗情報等)を評価する手段を設けた構成とすることにより、光路中に配されたレンズや光学系の評価を行うことができる。
【0015】
さらに、本発明の広視野撮像装置によれば、広視野映像取得光学装置の光導波路の光出射端面の後段に、被写体情報を撮像する撮像部を備えているので、パノラマ画像としての被写体情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態1に係る広視野撮像装置の構造、および広視野映像取得光学装置の構造を示す概念図である。
【
図2】本発明の実施形態2に係る広視野撮像装置の構造、および広視野映像取得光学装置の構造を示す概念図である。
【
図3】本発明の実施形態3に係る広視野撮像装置の構造、および広視野映像取得光学装置の構造を示す概念図である。
【
図4】本発明の各実施形態に係るレンズのバックフォーカスを変更する機構の一例を示す概略図である。
【
図5】従来技術に係る撮像装置の構造((a)従来の一般的な撮像装置、(b)従来の、光結像用光導波路(FOP)を用いた撮像装置)を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る広視野映像取得光学装置および広視野撮像装置について図面を用いて説明する。
本実施形態に係る広視野映像取得光学装置および広視野撮像装置は、テレビカメラにおける撮影方式の中でも、より広い視野(画角)を画像として撮らえることができる装置である。
【0018】
(概要)
まず、本実施形態に係る広視野映像取得光学装置の概要を、代表図として実施形態1を表す
図1を用いて説明する。
この広視野映像取得光学装置1000は、光入射側に配された、互いに光軸方向が異なる、複数の撮像レンズ(
図1では3つのレンズ)4、5、6を備えている。さらに、これら複数の撮像レンズ4、5、6から出射された光が入射される、該撮像レンズ4、5、6各々の光軸に対してほぼ垂直に配される光入射端面11A、11B、11Cと、この光入射端面11A、11B、11Cから入射された光を伝搬する光伝搬部13と、この光伝搬部13により伝搬された光を外部に出射する光出射端面12と、を有する光導波路(本実施形態では光導波路7として、FOP(Fiber Optics Plate)を用いているので、以下、単にFOP7とも称する)を備えている。
一方、本実施形態に係る広視野撮像装置2000は、広視野映像取得光学装置1000を備え、この広視野映像取得光学装置1000の光導波路7の光出射端面12の後段に(
図1では光出射端面12に略当接するように)撮像部(
図1では撮像素子2)を設ける。
【0019】
以下、本実施形態の主たる特徴について列挙する。
(1)複数の撮像レンズ4、5、6は、光軸が互いに異なる、少なくとも2つの撮像レンズで構成される。
(2)各方向に振向けられた(光軸方向が互いに異なる)撮像レンズ4、5、6により、光導波路7の光入射端面11A、11B、11Cの各々に結像した光は、光導波路7の光出射端面12において光出射が同一方向となるように揃えられる。
【0020】
(3)上述したように、同一平面上(光導波路7の光出射端面12側)に撮像部2(単一の撮像素子や、複数の撮像素子群を含む)を配置して広視野撮像装置2000を構成することで被写体情報に基づく画像信号を出力できる。
(4)その一方、撮像部2を設けない広視野映像取得光学装置1000の構成によっても、光導波路7の光出射端面12を視認可能に構成したり、光導波路7の光出射端面12に表示された光画像情報を種々の光学測定器等を用いて撮像レンズ4、5、6や光導波路7等の性能評価を行うこともできる。
また、光導波路7の光出射端面12に表示された光画像情報を撮像装置(種々のカメラを含む)を用いて再撮像することによりパノラマ画像を得ることもできる。
【0021】
(5)広視野撮像装置2000では、上述したように撮像部2を備えているが、撮像部2は、単一の撮像素子であっても複数の撮像素子群からなるものであってもよく、1式の素子毎に駆動するようにしてもよいし、画素毎または画素領域毎に分割駆動するようにしてもよい。
(6)本実施形態に係る広視野映像取得光学装置1000および広視野撮像装置2000は複眼撮像方式を実現する広視野撮像の手法を採用しており、各撮像レンズ4、5、6の焦点距離(画角)、撮像レンズ4、5、6の個数、および光導波路7への光入射角度に基づいて(例えば、
図1に示すように3つのレンズ4、5、6を用いる場合には、光導波路7の光軸に対する入射角度を、後述するように、レンズ4では0度、レンズ5では-60度、レンズ6では+60度となるようにすることが考えられる。)、広視野の撮影画角を決定することができる。換言すれば、目的とする取得画像に必要な撮影画角から、撮像レンズ4、5、6および光導波路7の仕様を決定することが肝要である。
これにより、撮像レンズ4、5、6の光入射側にプリズム等の視差拡張用の構造物を配さなくてもよいため光学設計が容易であり、また、小型で軽量化された装置を実現することができる。
【0022】
具体的には、例えば、撮像レンズ4、5、6の1つ当たりの画角(撮像範囲の水平方向)が60度以上であれば、撮像レンズ4、5、6を3つとし、光導波路7への光入射方向を3方向として設計すればよい。すなわち、
図1に示すように、光導波路7の中心(中心軸)から第1レンズ4の光軸方向を0度とした場合には、光軸の支点Pを中心として、第2レンズ5の光軸を逆時計回りに60度(-60度)回転させ、第3レンズ6の光軸を時計回りに60度(+60度)回転させるように構成すればよい(180度÷3=60度)。
なお、撮像素子の個数については、複数個のレンズから光導波路で導かれた光学像を平面上の1つの撮像素子で撮影する手法のほか、複数個配置した撮像素子による分割撮影の手法を採用することもできる。
【0023】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1に係る広視野映像取得光学装置1000および広視野撮像装置2000について図面を用いてより具体的に説明する。
<広視野撮像装置の基本構成>
本実施形態の広視野撮像装置2000の基本構成を
図1((a)は縦断面図であり、(b)は斜め上方から見た斜視図である)に示す。ここでは互いに光軸の角度が異なる3つの撮像レンズ4、5、6を用いた例を示す。
本実施形態の広視野撮像装置2000は、撮像素子からなる撮像部2(以下、単に撮像素子2とも称する)の光軸に対して、光軸が平行に設定された撮像レンズ4と、光軸が互いに傾いて設定された撮像レンズ5および撮像レンズ6を備え、さらに、これら3つの撮像レンズ4、5、6の光軸に対して略垂直な光入射端面11A、11B、11C、複数の光ファイバからなる光伝搬部13、および光入射端面11A、11B、11Cから入射し、光伝搬部13により伝搬された光を出射する平面状の光出射端面12を有する光導波路7を備え、さらに、この光出射端面12に対向するように近接配置された平板状の撮像素子2(平面上の受光面を有する)を備えている。
一方、本実施形態の広視野映像取得光学装置1000の基本構成は、本実施形態の広視野撮像装置2000の基本構成から撮像素子2の構成を外すことで表される。
なお、
図1において、a11、a12、a13は撮像レンズ4、5、6の直径を示し、b11、b12、b13は撮像レンズ4、5、6のバックフォーカスを示し、c11、c12、c13は撮像レンズ4、5、6の撮像範囲(直径)を示す。
【0024】
ところで、従来の一般的な撮像装置の概略は、例えば
図5に示すような構成とされる。
まず、
図5(a)は、従来からの最も単純な撮像装置を示すものである。撮像レンズ501で集光された光を撮像素子502の受光面上に結像し、撮像素子502で光電変換することで電気的に画像データを取得している。
また、
図5(b)は、撮像レンズ601と撮像素子602の間にFOP603を挿入した従来の撮像装置(例えば、特許第6518038号等)では、撮像レンズ601により、光学像をFOP603の光入射端面上に結像し、FOP603の内部で光伝搬させ、光出射端面に光学像を投影するようにしている。
これに対して、本実施形態の広視野撮像装置2000では、
図1に示すように、3つの撮像レンズ4、5、6を用い、その画角と振り向け角度について、以下のように設定している点で、上述した従来技術等とは大きく相違する。
【0025】
すなわち、3つの撮像レンズ4、5、6の画角は、共に60度以上とされている。一方、3つの撮像レンズ4、5、6の振り向け角度は、
図1、2では、撮像素子2の受光面に対して垂直方向である上方向からの光入射方向(0方向)を0度とした場合に、光軸の支点P(全ての撮像レンズ4、5、6の光軸が交差する点)を中心として、撮像レンズ4については0度、撮像レンズ5については左方向(反時計回りに)に60度(-60度)、撮像レンズ6については右方向(時計回りに)に60度(+60度)である。
まず、3つの撮像レンズ4、5、6は同仕様とし、撮像範囲の対角として上述したように60度以上の画角(60度×3=180度)に設定し、各撮像レンズ4、5、6の振り向け方向を上述した振り向け角度に設定すれば、光導波路7の光出射端面12において画角180度の広視野な光学像を出射(投影)することができる。
【0026】
ここで、本実施形態に係る広視野映像取得光学装置1000および広視野撮像装置2000の主要な構成要素である光導波路についてより詳しく説明する。
光導波路は、入射した光を光出射端面まで伝搬して出射する機能を備えた光学部材であり、コアガラス、クラッドガラスおよびクロストーク防止用の結合ガラスからなる光ファイバを構成要素とし、この光ファイバが並列された、単層の光導波路7を多段に積み上げたタイプのものや、複数の光ファイバ部材を束ねるように構成したタイプのもの等がある。
本実施形態に係る広視野映像取得光学装置1000および広視野撮像装置2000においては、光導波路7として、光ファイバを繊維状に配置して一枚のプレート状に形成したFOPを用いている。ただし、本発明の広視野映像取得光学装置および広視野撮像装置としては、他のタイプの光導波路を用いることが勿論可能である。
【0027】
上記光導波路7では、上記FOPを用い、例えば
図1に示すように、撮像レンズ4、5、6からの光学像が各々光入射端面11A、11B、11Cに結像された場合、その光学像を光出射端面12に光伝搬することができる。
また、この光導波路7は、CMOS等の固体撮像素子からなる撮像素子2の受光面に密着させることで、光入射端面11A、11B、11Cに結像された光学像を撮像素子2に良好に伝搬することができる。
すなわち、光導波路7の光出射端面12には、撮像レンズ4、5、6で得られた光学像が投影されるので、本実施形態の広視野撮像装置2000のように、撮像素子2を上記光出射端面12に近接配置(光結合)してその光学像を撮像することの他、本実施形態に係る広視野映像取得光学装置1000において、上記光出射端面12に投影された光学像を直接視認することや、この光学像を別カメラで撮影することが可能である。
【0028】
上述した要素技術を用い、撮像レンズ4、5、6の個数、撮像レンズ4、5、6の焦点距離(画角)および光軸の支点Pの位置に基づき、各撮像レンズ4、5、6の振り向け角度、および撮像面積に応じた形状の光導波路7を構成すれば、歪が低減され、画像のつなぎ目が視認され難い、広視野な光学画像を得ることができる。
【0029】
次に、本実施形態に係る広視野撮像装置2000の撮像素子2等について、より詳しく説明する。
撮像素子2としては、例えば、上述したCMOSの他、CCD等の固体撮像素子が用いられる。また、本発明の広視野撮像装置においては、撮像素子に替えて、通常の撮像管や、FOPを基板としたFOP-HARP撮像管などの撮像装置を用いることもできる。
さらに、高感度撮影の要求がある場合には、イメージインテンシファイアやマイクロチャンネルプレート(MCP)を用いることも考えられる。また、フィルムに代表される感光材料を用いることもできる。
【0030】
また、撮像素子2の平面形状をなす受光面を、光導波路7の光出射端面12に対して、40μm以内となるように近接配置すれば、画角180度の良好な広視野撮影を実現することができる。なお、近接配置することにより生じた、撮像素子2と光導波路7の微小な隙間は、上記と同様に専用のグリース等により埋めて、対向する撮像素子2の受光面と、光導波路7の光出射端面12間で良好に光結合させることにより、歪の無い高精度な画像を取得することが可能である。
この撮像素子2は単一の撮像素子であってもよいし、複数の撮像素子を組み合わせるようにしてもよい。
なお、撮像素子2は一つの素子を一体的に駆動するようにしてもよいし、画素毎または画素領域毎に分割駆動するようにしてもよい。
【0031】
<光導波路の光伝搬作用>
図1に示す光導波路7に用いられるFOPは、一般的には前述したように、多数の光ファイバを束ねた構造とされ、透光部分であるコアガラス、遮光部分であるクラッドガラス、およびファイバのクロストーク防止用の結合ガラスの3種のガラス構造体から構成されている。
一般的に光を伝搬するコアガラス部分は直線状のストレートファイバであり、この光ファイバに対する光入射角度により、光伝搬後の光導波路7の光出射端面12から出射される出射範囲(水平方向の長さ)c11´、c12´、c13´が異なる。すなわち、撮像レンズ4、撮像レンズ5、撮像レンズ6の、各々対応する光入射端面11A、B、C上の撮像範囲(直径)c11、c12、c13が略同じ範囲であっても、この光ファイバに対する光入射角度が異なれば光出射端面12から出射される水平方向の出射範囲c11´、c12´、c13´は異なることになる。
【0032】
ただし、
図1に示す実施形態1に係る広視野撮像装置2000においては、撮像レンズ4の光軸に沿って入射した光は、光導波路7の垂直に配された光ファイバに対して0度で入射するように設定されているが、撮像レンズ5の光軸に沿って入射した光は、該光ファイバに対して-60度(上記0度に対して左回りの角度を-とする)で入射するように設定され、撮像レンズ6の光軸に沿って入射した光は、該光ファイバに対して+60度(上記0度に対して右回りの角度を+とする)で入射するように設定されているので、光入射端面11B、C上の撮像範囲(直径)c12、c13が同一の範囲である場合には、光出射端面12から出射される出射範囲(水平方向)c12´、c13´は同一の範囲となる。
すなわち、この場合、下記式(1)が成立する。
c11´≠c12´=c13´ (1)
【0033】
上述したように、光導波路7の光出射端面12の画像面積が、c11´部分に対して、c12´部分およびc13´部分では、
図1(a)の水平方向に縮小された形状となる。
このような形状を元の形状に直す方策としては、コアガラスの断面形状等に基づき、画像の伸縮率を予め計算で求め、その伸縮率に応じて出力画像を補正する手法を採用し得る。
また、撮像レンズ5および撮像レンズ6の前後に、画像の水平方向(
図1(a)の横方向)を伸縮させる補正レンズを付加して、元の形状に直す方策を採用することも可能である。
【0034】
(実施形態2)
以下、本発明の実施形態2に係る広視野映像取得光学装置1100および広視野撮像装置2100について
図2((a)は縦断面図であり、(b)は斜め上方から見た斜視図である)を用いて説明する。なお、実施形態2のものは上記実施形態1のものと類似した構成をなしているため、対応する構成部材については、実施形態1の部材に付された符号に100を加えて表示し、その詳しい説明は省略する。
なお、
図2において、a21、a22、a23は撮像レンズ104、105、106の直径を示し、b21、b22、b23は撮像レンズ104、105、106のバックフォーカスを示し、c21、c22、c23は撮像レンズ104、105、106の撮像範囲(直径)を示す。
この実施形態2に係る光導波路107と撮像素子102の光結合手法においては、例えば
図2(a)に示すように、光導波路107と撮像素子102の間に光学結像用の光導波路107´を挿入するようにしている。なお、FOPが予め固体撮像素子の受光面上に取り付けられた、FOP付きCCDカメラ等が一般に市販されているので、その利用により、本実施形態に係る広視野撮像装置2100を容易に構築することが可能である。
なお、光学結合用の光導波路107´は、光導波路107と同様のFOPを用いてもよいし、異なるFOPを用いてもよい。
また、光導波路107および光学結合用の光導波路107´の両者に同様のFOPが用いられている場合、前述した手法と同様に、両者の隙間に専用のグリースを使用して両者の密着性を向上させることで、両者の光結合を良好なものとすることができる。
【0035】
(実施形態3)
以下、本発明の実施形態3に係る広視野映像取得光学装置1200および広視野撮像装置2200について
図3((a)は縦断面図であり、(b)は(a)の一部拡大模式図であり、(c)は斜め上方から見た斜視図である)を用いて説明する。なお、実施形態3の構成部材のうち上記実施形態1のものと対応する構成部材については、実施形態1の部材に付された符号に200を加えて表示し、その詳しい説明は省略する。
実施形態3に係る広視野映像取得光学装置1200および広視野撮像装置2200は、上記実施形態1、2よりも撮像レンズ201の数を増加させた場合を示すものである。このように撮像レンズ201を増加させていくと、光導波路の形状は円筒形(半円筒形)に近づき、1つの撮像レンズ201が担う撮像範囲はより小さくなっていく。
【0036】
図3(a)は、光導波路207の外周面において周方向に設置する撮像レンズ201の数を15個とし、撮像レンズ201の1つ当たりの撮像範囲(対角)の画角を12度以上とした場合の形態を示すものである。
図3(c)は、
図3(a)に示す光導波路207を斜め上方から見たときの斜視図であって、円筒形状をなす光導波路207の外周面に撮像レンズ201が整然と配列され、この円筒形状をなす光導波路207の軸に垂直となる0方向からの入射光が、この円周面に照射される様子が示されている。
なお、レンズの個数が多くなった場合、レンズとこれを支持する構造体を一体化してアレイ構造とすることも可能である。
【0037】
ところで、より多くの撮像レンズ201で構成した場合、例えば上記実施形態3に示す構成のものでは、入射方向0方向に対して、光軸が±70度以上傾いた撮像レンズ201から入射する光は、円筒型の光導波路207のコアガラス220の延伸方向に対して、大きな角度を持つこととなる(
図3(b)の一部拡大模式図を参照)。
このような場合には、光導波路(FOP)207の屈折率Na(コアガラス220の屈折率n
0とクラッドガラス221の屈折率n
1に基づいて決定される)が1のものを使用すればよく、これにより、上記0方向に対して±90度の範囲に亘って各撮像レンズ201からの光を受光することができるため、入射方向0方向に対して、光軸が大きく傾いた撮像レンズ201からの光に対しても、光導波路207の各光ファイバを介して光出射端面32の方向に良好に伝搬することができる。
【0038】
以下、屈折率Naを求める具体的な式(2)を示す。ここで、nは光ファイバの入射側の媒体(通常は空気)の屈折率であり、θは光導波路207(の各光ファイバ)の光入射端面31に対する光入射角である。
NA=n・Sinθ=(n0
2-n1
2)1/2 (2)
【0039】
(変更態様)
本発明の広視野映像取得光学装置および広視野撮像装置は、上記実施形態のものに限られるものではなく、その他の種々の態様の変更が可能である。例えば、撮像レンズの焦点距離、大きさ、性能等の特性は、撮像レンズ全てで同じであってもよいし、必要に応じて、一部の撮像レンズあるいはすべての撮像レンズの特性を互いに変えてもよい。
また、上記実施形態の広視野撮像装置は、光導波路の光入射端面が平面形状とされているが、これに替えて、この光入射端面を曲面形状(球面形状、円筒面形状等を含む)とすることも可能である。
【0040】
また、レンズの仕様を変更する場合には、当該撮像レンズのバックフォーカス(実施形態1では、
図1に示すb11、b12、b13、実施形態2では、
図2に示すb21、b22、b23)の変更が必要となる。そこで、そのようなレンズ仕様の変更の可能性がある場合には、撮像レンズを、光導波路に対して、間接的又は直接的に係止させ、必要に応じて光導波路の光入射端面に垂直に移動可能とする構成を持たせることが好ましい。
例えば、
図4に示すように、撮像レンズ304は、クロストーク防止用の隔壁308と連結された構造体のため、この隔壁308を利用して、撮像レンズ304の光出射面と光導波路307の光入射端面の間隔に相当するバックフォーカスb41を、ネジ、スペーサーおよびバネ等を用いて、調整することができるように構成してもよい。
【0041】
すなわち、光導波路307に設置された隔壁308に連結されたレンズ鏡筒352に対し、撮像レンズ304を保持するレンズホルダ351が螺合されるように構成されており、必要に応じて、レンズホルダ351をレンズ鏡筒352に対して左右いずれかの方向に回転させることにより、バックフォーカスb41の距離を簡易に変更することができるように構成されている。なお、
図4において、a41は撮像レンズ304の直径を示し、c41は撮像レンズ304の撮像範囲(直径)を示す。
なお、上記レンズ鏡筒352は、隔壁308ではなく、光導波路307に直接連結されるように構成してもよい。
【0042】
また、上記実施形態においては、本発明の広視野撮像装置の撮像部として、光導波路の光出射端面に近接させた撮像素子を用いているが、この撮像素子に替えて、撮像レンズを備えたカメラ等を用いてもよく、このカメラとしては静止画撮像用であっても動画撮像用であってもよく、従来のどのようなカメラシステムであっても適用することが可能である。
また、このカメラは複数個設けてもよい。
また取得する映像は可視光のみならず、赤外光、紫外光、その他の放射線であってもよく、取得する映像の用途に応じて選択可能である。
なお、撮像素子を用いる場合、平板上の撮像素子の表裏に受光面を形成することにより、180度以上の広視野パノラマ画像を取得することも可能である。
【0043】
また、上記実施形態の広視野映像取得光学装置においては、超広視野映像を、一平面とされた撮像素子の受光面上に出射する機能を有するものを用いているが、これに替え、光導波路の光出射端面からの光に係る映像信号を光ファイバ等を用いて光伝送することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
2、102、202、502、602 撮像素子(撮像部)
4、5、6、104、105、106、201、304、501、601 撮像レンズ
7、107、107´、207、307、603 光導波路(FOP)
8、108、208、308 隔壁
11A、11B、11C、21A、21B、21C、31 光入射端面
12、22、32 光出射端面
13、23、33 光伝搬部
220 コアガラス
221 クラッドガラス
351 レンズホルダ
352 レンズ鏡筒
1000、1100、1200 広視野映像取得光学装置
2000、2100、2200 広視野撮像装置
a11、a12、a13、a21、a22、a23、a41 撮像レンズの直径
b11、b12、b13、b21、b22、b23、b41 撮像レンズのバックフォーカス
c11、c12、c13、c21、c22、c23、c41 撮像レンズの撮像範囲
c11´、c12´、c13´、c21´、c22´、c23´ 光出射端面からの出射範囲(水平方向の長さ)
P 光軸の支点