(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085861
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体基板、炭化珪素半導体基板の製造方法、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240620BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240620BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H01L29/78 652G
H01L29/78 652T
H01L29/78 658A
H01L29/78 658E
H01L29/78 658L
H01L29/78 653A
H01L29/78 652H
H01L29/78 652J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200640
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】竹中 研介
(72)【発明者】
【氏名】俵 武志
(72)【発明者】
【氏名】原田 信介
(57)【要約】
【課題】n
-型炭化珪素エピタキシャル層のキャリア濃度分布のばらつきを5%以下に抑制した炭化珪素半導体基板、炭化珪素半導体基板の製造方法、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素半導体基板は、第1導電型の炭化珪素半導体基板1と、炭化珪素半導体基板1のおもて面に設けられた、炭化珪素半導体基板1より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層2と、を備える。第1半導体層2の一部に、第2導電型の不純物を含み、第2導電型の不純物は、結晶軸方向を示すオリエンテーションフラットと平行な方向または垂直な方向のいずれかで、不純物濃度差を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の炭化珪素半導体基板と、
前記炭化珪素半導体基板のおもて面に設けられた、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層と、
を備え、
前記第1半導体層の一部に、第2導電型の不純物を含み、
前記第2導電型の不純物は、結晶軸方向を示すオリエンテーションフラットと平行な方向または垂直な方向のいずれかで、不純物濃度差を有することを特徴とする炭化珪素半導体基板。
【請求項2】
第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の不純物濃度分布を測定する第2工程と、
前記第1半導体層に第2導電型の不純物を注入する第3工程と、
を含み、
前記第3工程では、前記第1半導体層の不純物濃度が低い領域に対して、前記第2導電型の不純物の注入量を低くして、前記第1半導体層の不純物濃度が高い領域に対して、前記第2導電型の不純物の注入量を高くすることを特徴とする炭化珪素半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程では、前記炭化珪素半導体基板と前記第1半導体層との界面から所定の領域に対して、前記第2導電型の不純物を注入することを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記第3工程では、前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板と反対側の表面から所定の領域に対して、前記第2導電型の不純物を注入することを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素半導体基板の製造方法。
【請求項5】
第1導電型の炭化珪素半導体基板と、
前記炭化珪素半導体基板のおもて面に設けられた、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層の前記炭化珪素半導体基板に対して反対側の表面に設けられた、第2導電型の第2半導体層と、
前記第2半導体層の表面に、選択的に設けられた第1導電型の第1半導体領域と、
前記第2半導体層および前記第1半導体領域を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチと、
前記トレンチ内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体層に接触する第1電極と、
前記炭化珪素半導体基板の裏面に設けられた第2電極と、
を備え、
前記第1半導体層の一部に、第2導電型の不純物を含み、
前記第2導電型の不純物は、結晶軸方向を示すオリエンテーションフラットと平行な方向または垂直な方向のいずれかで、不純物濃度差を有することを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の不純物濃度分布を測定する第2工程と、
前記第1半導体層に第2導電型の不純物を注入する第3工程と、
前記第1半導体層の前記炭化珪素半導体基板に対して反対側の表面に、第2導電型の第2半導体層を形成する第4工程と、
前記第2半導体層の表面に、選択的に第1導電型の第1半導体領域を形成する第5工程と、
前記第2半導体層および前記第1半導体領域を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第6工程と、
前記トレンチ内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する第7工程と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体層に接触する第1電極を形成する第8工程と、
前記炭化珪素半導体基板の裏面に第2電極を形成する第9工程と、
を含み、
前記第3工程では、前記第1半導体層の不純物濃度が低い領域に対して、前記第2導電型の不純物の注入量を低くして、前記第1半導体層の不純物濃度が高い領域に対して、前記第2導電型の不純物の注入量を高くすることを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体基板、炭化珪素半導体基板の製造方法、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、大電流を制御するパワー半導体素子の材料としては、従来シリコン(Si)単結晶が用いられている。シリコンパワー半導体素子にはいくつかの種類があり、用途に合わせてそれらが使い分けられているのが現状である。例えば、PiNダイオード(P-intrinsic-N diode)やバイポーラトランジスタ、さらに、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)は、いわゆるバイポーラ型デバイスである。これらの素子は、電流密度は多く取れるものの高速でのスイッチングができず、例えば、バイポーラトランジスタは数kHzが、IGBTでは20kHz程度の周波数がその使用限界である。一方、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)は、大電流は取れないものの、数MHzまでの高速で使用できる。しかしながら、市場では大電流と高速性を兼ね備えたパワーデバイスへの要求は強く、シリコンIGBTやパワーMOSFETなどの改良に力が注がれ、現在ではほぼシリコン材料物性限界に近いところまで開発が進んできた。
【0003】
また、パワー半導体素子の観点からの材料検討も行われ、炭化珪素(SiC)が次世代のパワー半導体素子として、低オン電圧、高速・高温特性に優れた素子であることから、最近特に注目を集めている。というのも、SiCは化学的に非常に安定な材料であり、結晶構造が4H-SiCの場合はバンドギャップが3.26eVと広く、高温でも半導体として極めて安定的に使用でき、また、最大電界強度もシリコンより1桁以上大きいからである。SiCはシリコンにおける材料限界を超える可能性大であることから、パワー半導体用途で今後の伸長が大きく期待される。
【0004】
炭化珪素半導体装置としては、現在までに、ショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky Barrier Diode)、プレーナゲート構造やトレンチゲート構造の縦型MOSFETが製品化されている。
【0005】
このような、炭化珪素半導体装置では、n+型炭化珪素基板のおもて面にドリフト層として、n-型炭化珪素エピタキシャル層が堆積される。例えば、5×1018/cm3程度にN(窒素)がドープされたn+型炭化珪素基板上に、ドープ濃度1×1016/cm3、厚み10μm程度のn-型炭化珪素エピタキシャル層が熱CVD装置を用いて成膜されている。このn-型炭化珪素エピタキシャル層のn+型炭化珪素基板に対して反対側の表面に、MOS構造等の炭化珪素半導体装置の表面構造が形成されている。
【0006】
また、第1導電型の半導体エピタキシャル層の厚さ分布と半導体エピタキシャル層の不純物の濃度分布とが正の相関を有することで、半導体ウェハの主面に平行な面内における素子特性のばらつきを抑える技術が提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のn
-型炭化珪素エピタキシャル層の膜厚分布は通常5%以下と良好であるが、不純物濃度分布は10%以下程度と悪くなっている。ここで、
図14は、従来の炭化珪素半導体基板を示す上面図である。
図15は、従来の炭化珪素半導体基板のx軸方向の不純物濃度分布を示すグラフである。
図16は、従来の炭化珪素半導体基板のy軸方向の不純物濃度分布を示すグラフである。
【0009】
図14では、結晶軸方向を示すオリエンテーションフラット(OF)と平行な方向をx軸、OFと垂直な方向をy軸としている。
図15および
図16において、横軸は、n
+型炭化珪素基板中心からの移動量を示し、単位はmmである。縦軸は、不純物濃度を示し、単位は、/cm
3である。
【0010】
図15に示すように、x軸方向では、不純物濃度分布はほぼ一定であるが、
図16に示すように、y軸方向では、不純物濃度分布は中心から離れるに従い大きくなり、移動量により大きく変化している。このように、n
-型炭化珪素エピタキシャル層では、エピタキシャル成長炉の温度分布やガス濃度の分布により、片一方方向に不純物濃度分布にばらつきが生じることがある。
【0011】
これは、ドーパントガス濃度やウェハ温度といった要因の他に、成長表面近傍のC元素とSi元素の比率(C/Si比)によってドーパントの取り込み効率が変わる複雑な要因による。このような不純物濃度分布のn-型炭化珪素エピタキシャル層上に、表面構造を形成した場合、炭化珪素半導体装置の耐圧のばらつきやオン抵抗のばらつきを悪化させてしまうという課題がある。
【0012】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、n-型炭化珪素エピタキシャル層の正味のキャリア濃度分布のばらつきを抑制した炭化珪素半導体基板、炭化珪素半導体基板の製造方法、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体基板は、次の特徴を有する。第1導電型の炭化珪素半導体基板と、前記炭化珪素半導体基板のおもて面に設けられた、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層と、を備える。前記第1半導体層の一部に、第2導電型の不純物を含み、前記第2導電型の不純物は、結晶軸方向を示すオリエンテーションフラットと平行な方向または垂直な方向のいずれかで、不純物濃度差を有する。
【0014】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体基板の製造方法は、次の特徴を有する。まず、第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程を行う。次に、前記第1半導体層の不純物濃度分布を測定する第2工程を行う。次に、前記第1半導体層に第2導電型の不純物を注入する第3工程を行う。前記第3工程では、前記第1半導体層の不純物濃度が低い領域に対して、前記第2導電型の不純物の注入量を低くして、前記第1半導体層の不純物濃度が高い領域に対して、前記第2導電型の不純物の注入量を高くする。
【0015】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体基板の製造方法は、上述した発明において、前記第3工程では、前記炭化珪素半導体基板と前記第1半導体層との界面から所定の領域に対して、前記第2導電型の不純物を注入することを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体基板の製造方法は、上述した発明において、前記第3工程では、前記第1半導体層の、前記炭化珪素半導体基板と反対側の表面から所定の領域に対して、前記第2導電型の不純物を注入することを特徴とする。
【0017】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層が設けられる。前記第1半導体層の前記炭化珪素半導体基板に対して反対側の表面に、第2導電型の第2半導体層が設けられる。前記第2半導体層の表面に、選択的に第1導電型の第1半導体領域が設けられる。前記第2半導体層および前記第1半導体領域を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチが設けられる。前記トレンチ内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられる。前記第1半導体領域および前記第2半導体層に接触する第1電極が設けられる。前記炭化珪素半導体基板の裏面に第2電極が設けられる。前記第1半導体層の一部に、第2導電型の不純物を含み、前記第2導電型の不純物は、結晶軸方向を示すオリエンテーションフラットと平行な方向または垂直な方向のいずれかで、不純物濃度差を有する。
【0018】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面に、前記炭化珪素半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程を行う。次に、前記第1半導体層の不純物濃度分布を測定する第2工程を行う。次に、前記第1半導体層に第2導電型の不純物を注入する第3工程を行う。次に、前記第1半導体層の前記炭化珪素半導体基板に対して反対側の表面に、第2導電型の第2半導体層を形成する第4工程を行う。次に、前記第2半導体層の表面に、選択的に第1導電型の第1半導体領域を形成する第5工程を行う。次に、前記第2半導体層および前記第1半導体領域を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第6工程を行う。次に、前記トレンチ内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する第7工程を行う。次に、前記第1半導体領域および前記第2半導体層に接触する第1電極を形成する第8工程を行う。次に、前記炭化珪素半導体基板の裏面に第2電極を形成する第9工程を行う。前記第3工程では、前記第1半導体層の不純物濃度が低い領域に対して、前記第2導電型の不純物の注入量を低くして、前記第1半導体層の不純物濃度が高い領域に対して、前記第2導電型の不純物の注入量を高くする。
【0019】
上述した発明によれば、第1導電型の第1半導体層の不純物濃度が低い領域に対して、ドーズ量を低くして、第1導電型の第1半導体層不純物濃度が高い領域に対して、ドーズ量を高くして、p型のイオン注入によるカウンタードーピングを行い、第1半導体層の正味のキャリア濃度分布を改善している。これにより、MOSFETの耐圧、オン抵抗のばらつきを改善することができる。また、イオン注入により生じた欠陥により、ドリフト層へのホール注入を抑制させることで、ボディダイオードへ通電した際にも積層欠陥の拡大を抑止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる炭化珪素半導体基板、炭化珪素半導体基板の製造方法、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、n-型炭化珪素エピタキシャル層の正味のキャリア濃度分布のばらつきを5%以下に抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の構造を示す断面図である。
【
図2】実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その1)。
【
図3】実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その2)。
【
図4】実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板のイオン注入方法を示す上面図である。
【
図5】実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の他の構造を示す断面図である(その1)。
【
図6】実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の他の構造を示す断面図である(その2)。
【
図7】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図8】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その1)。
【
図9】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その2)。
【
図10】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その3)。
【
図11】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その4)。
【
図12】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その5)。
【
図13】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その6)。
【
図14】従来の炭化珪素半導体基板を示す上面図である。
【
図15】従来の炭化珪素半導体基板のx軸方向の不純物濃度分布を示すグラフである。
【
図16】従来の炭化珪素半導体基板のy軸方向の不純物濃度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。+および-を含めたnやpの表記が同じ場合は近い濃度であることを示し濃度が同等とは限らない。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。そして、同じまたは同等との記載は製造におけるばらつきを考慮して5%以内まで含むとするのがよい。
【0023】
(実施の形態)
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の構造を示す断面図である。炭化珪素半導体基板60は、n
+型炭化珪素基板(第1導電型の半導体基板)1のおもて面にドリフト層として、n
-型炭化珪素エピタキシャル層(第1導電型の第1半導体層)2が堆積されている。例えば、5×10
18/cm
3程度にN(窒素)がドープされたn
+型炭化珪素基板1上に、ドープ濃度1×10
16/cm
3、厚み10μm程度のn
-型炭化珪素エピタキシャル層2が熱CVD装置を用いて成膜されている。
【0024】
n
-型炭化珪素エピタキシャル層2は、詳細は後述するように、正味のキャリア濃度分布のばらつきを、導電型が反対のp型ドーパントをイオン注入することによって補償し、改善している。このため、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2の一部ないし全てに、p型の不純物が含まれている。n
-型炭化珪素エピタキシャル層2のx軸方向(OFと平行な方向、
図14参照)、y軸方向(OFと垂直な方向、
図14参照)のいずれかで、不純物濃度分布のばらつきがあり、このばらつきをp型の不純物によるカウンタードーピングで補償し、正味のキャリア濃度分布を改善しているため、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2のx軸方向、y軸方向のいずれかで、p型の不純物の濃度に変化が生じ、不純物濃度差を有している。不純物濃度差とは、x軸方向またはy軸方向において、導電型が反対のドーパントの濃度分布が10%以上あることである。例えば、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2にNがドープされている場合、一部に、Alが注入され、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2のx軸方向、y軸方向のいずれかで、Alの濃度に変化が生じ、不純物濃度差を有している。
【0025】
上記の変形例として、n-型炭化珪素エピタキシャル層2は、p型の不純物、例えばAlをドープして、形成し、n型の不純物、例えばNをイオン注入して、n型に反転させることで形成してもよい。この場合、n-型炭化珪素エピタキシャル層2の全てに、n型の不純物が含まれ、n-型炭化珪素エピタキシャル層2のx軸方向、y軸方向のいずれかで、n型の不純物の濃度に変化が生じている。
【0026】
このように、n-型炭化珪素エピタキシャル層2は、x軸方向、y軸方向の両方の方向において、正味のキャリア濃度分布のばらつきが抑制され、改善されている。これにより、炭化珪素半導体基板60を用いてMOSFETを作製した場合、MOSFETの耐圧、オン抵抗のばらつきを改善することができる。また、イオン注入により生じた欠陥により、ドリフト層へのホール注入を抑制させることで、ボディダイオードへ通電した際にも積層欠陥の拡大を抑止することができる。
【0027】
(実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の製造方法)
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の製造方法について説明する。
図2および
図3は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
【0028】
まず、
図2に示すように、n型の炭化珪素でできたn
+型炭化珪素基板1を用意する。そして、このn
+型炭化珪素基板1の第1主面上に、n型の不純物、例えば窒素原子をドーピングしながら炭化珪素でできたn
-型炭化珪素エピタキシャル層2を、エピタキシャル成長させる。ここで形成されたn
-型炭化珪素エピタキシャル層2は、不純物濃度にばらつきがあり、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2は、低不純物濃度のn
-型炭化珪素エピタキシャル層低濃度領域21および高不純物濃度のn
-型炭化珪素エピタキシャル層高濃度領域22から構成されている。ここまでの状態が
図2に示されている。
【0029】
次に、Nがドープされたn-型炭化珪素エピタキシャル層2の不純物濃度分布をCV(Capacitance Voltage)測定により取得する。これにより、n-型炭化珪素エピタキシャル層低濃度領域21およびn-型炭化珪素エピタキシャル層高濃度領域22の位置を特定することができる。
【0030】
次に、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2にp型のドーパントをイオン注入する。ウェハ面内でドーズ量(不純物の注入量)を変化させることにより、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2の正味のキャリア濃度分布を改善する。例えば、n
-型炭化珪素エピタキシャル層低濃度領域21はドーズ量を低くして、n
-型炭化珪素エピタキシャル層高濃度領域22はドーズ量を高くすることで、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2の正味のキャリア濃度分布を改善することができる。ここまでの状態が
図3に示されている。
【0031】
このようにして、実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の製造方法では、n-型炭化珪素エピタキシャル層2の不純物濃度が低い領域に対して、p型のイオン注入のドーズ量を低くして、不純物濃度が高い領域に対して、p型のイオン注入のドーズ量を高くすることで、n-型炭化珪素エピタキシャル層2の正味のキャリア濃度分布を改善することができる。
【0032】
また、n-型炭化珪素エピタキシャル層2の不純物濃度が低い領域に対して、n型のイオン注入のドーズ量を高くして、不純物濃度が低い領域に対して、n型のイオン注入のドーズ量を低くすることで、n-型炭化珪素エピタキシャル層2の濃度分布を改善することもできる。p型のAlイオン注入の場合、n型のNイオン注入よりも質量が大きいのでn-型炭化珪素エピタキシャル層2の結晶構造にダメージを増やすことができ、ダメージによって発生した結晶欠陥によりドリフト層へのホール注入をより抑制させることができる。
【0033】
図2および
図3では、不純物濃度が低い領域と不純物濃度が高い領域の2つの領域に分けたが、さらに多くの領域に分けてもよい。
図4は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板のイオン注入方法を示す上面図である。
図4では、x軸方向に不純物濃度のばらつきが小さく、y軸方向に不純物濃度のばらつきが大きい場合である。ここでは、イオン注入のビームスキャン幅ごとに、キャリア濃度分布をCV測定により取得して、不純物濃度が低い領域、高い領域に分けている。
【0034】
図4では、不純物濃度のばらつきが大きい方向(y軸方向)についてAlイオンの注入ドーズ量をビームスキャン幅ごとに変化させながら、イオン注入する。例えば、不純物濃度分布の最小値を調べ、その値にそろえるように各y軸位置のイオン注入のドーズ量を決めてもよい。また、全点でイオン注入ダメージを与えるために、最小値よりも低い値にそろうようにイオン注入のドーズ量を決めてもよい。この際、y軸方向は、メカニカルスキャン方式で走査してイオン注入する。一方、不純物濃度のばらつきが小さいx軸方向は注入ドーズ量を固定し、ビームスキャン方式で走査すると効率的である。
【0035】
図5および
図6は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の他の構造を示す断面図である。
図5のように、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2とn
+型炭化珪素基板1との界面から所定の領域のみにAlイオン注入を行ってもよい。また、
図6のように、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2の、n
+型炭化珪素基板1と反対側の表面の3.3μm分のみにAlイオン注入を行ってもよい。このように、ドリフト層の深さの一部のみに適用することでも、一定の改善効果を得ることができる。
【0036】
例えば、耐圧1.2kVクラスのMOSFETのドリフト層に実施の形態のn-型炭化珪素エピタキシャル層2を適用する場合、深さ3.3μmのAlイオン注入とエピタキシャル成長を複数回、例えば3回繰り返してもよい。つまり、n-型炭化珪素エピタキシャル層2を複数層、例えば3層にして形成してもよい。
【0037】
また、n-型炭化珪素エピタキシャル層2は、p型の不純物、例えばAlをドープして、エピタキシャル成長で形成し、n型の不純物、例えばNをイオン注入して、n型に反転させることで形成してもよい。高加速エネルギーでの深いイオン注入の場合、Alに比べて、Nの方がイオン注入飛程が深いためより望ましい。
【0038】
図16の従来のn
-型炭化珪素エピタキシャル層では、n
+型炭化珪素基板中心から離れるにつれて、キャリア濃度は大きくなっているが、実施の形態のn
-型炭化珪素エピタキシャル層2では、正味のキャリア濃度に濃度差がなく、キャリア濃度のばらつきが小さくなることが期待できる。つまり、Ntg=N0(Y)―Nadd(Y)によりキャリア濃度の分布が補償される。ここでNtgは目標とするキャリア濃度、N0(Y)は補償前のN濃度の分布(
図16)、Nadd(Y)はイオン注入するAl濃度の分布である。仮にNtg=8.0×10
15/cm
3としたとき、
図16からY=-37.5mmではN0=9.8×10
15/cm
3なので、Nadd=1.8×10
15/cm
3とすればよい。また、Y=0mmではN0=8.5×10
15/cm
3なのでNadd=0.5×10
15/cm
3とすればよい。他のY位置でも同様に補償が行われる。なお、この説明では添加した不純物はすべて活性化してキャリアとして働くものと近似している。
【0039】
(実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置)
本発明にかかる半導体装置は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成される。実施の形態においては、ワイドバンドギャップ半導体として例えば炭化珪素(SiC)を用いて作製された炭化珪素半導体装置について、MOSFETを例に説明する。
図7は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図7は、トレンチ型MOSFET50の例を示す。
【0040】
図7に示すように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、n
+型炭化珪素基板(第1導電型の半導体基板)1の第1主面(おもて面)、例えば(0001)面(Si面)に、n
-型炭化珪素エピタキシャル層(第1導電型の第1半導体層)2が堆積されている。
【0041】
n+型炭化珪素基板1は、炭化珪素単結晶基板である。n-型炭化珪素エピタキシャル層2は、n+型炭化珪素基板1よりも低い不純物濃度で、例えば低濃度n型ドリフト層である。ここで、n-型炭化珪素エピタキシャル層2は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体基板の製造方法で作製され、n-型炭化珪素エピタキシャル層2の正味のキャリア濃度分布のばらつきが、反対の導電型のドーパントのイオン注入によって補償し、改善している。
【0042】
n-型炭化珪素エピタキシャル層2の、n+型炭化珪素基板1側に対して反対側の表面には、n型高濃度領域6が設けられていてもよい。n型高濃度領域6は、n+型炭化珪素基板1よりも低くn-型炭化珪素エピタキシャル層2よりも高い不純物濃度の高濃度n型ドリフト層である。
【0043】
n型高濃度領域6(n型高濃度領域6が設けられていない場合はn-型炭化珪素エピタキシャル層2、以下(2)と省略する)の、n+型炭化珪素基板1側に対して反対側の表面側には、p型ベース層(第2導電型の第2半導体層)3が設けられている。以下、n+型炭化珪素基板1とn-型炭化珪素エピタキシャル層2とp型ベース層3とを併せて炭化珪素半導体基体とする。
【0044】
n+型炭化珪素基板1の第2主面(裏面、すなわち炭化珪素半導体基体の裏面)には、裏面電極13となるドレイン電極が設けられている。ドレイン電極13の表面には、ドレイン電極パッド15が設けられている。
【0045】
炭化珪素半導体基体の第1主面側(p型ベース層3側)には、トレンチ構造が形成されている。具体的には、トレンチ16は、p型ベース層3のn+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面からp型ベース層3を貫通してn型高濃度領域6(2)に達する。また、トレンチ16は、ストライプ状に設けられる。トレンチ16の内壁に沿って、トレンチ16の底部および側壁にゲート絶縁膜9が形成されており、トレンチ16内のゲート絶縁膜9の内側にゲート電極10が形成されている。ゲート絶縁膜9によりゲート電極10が、n型高濃度領域6(2)およびp型ベース層3と絶縁されている。ゲート電極10の一部は、トレンチ16の上方(後述するソース電極パッド14が設けられている側)からソース電極パッド14側に突出していてもよい。
【0046】
n型高濃度領域6(2)のn+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面層には、第1p+型ベース領域4が選択的に設けられている。第1p+型ベース領域4は、トレンチ16と離して、かつトレンチ16の底部よりもドレイン側に深い位置にまで達している。
【0047】
トレンチ16の底部と深さ方向に対向する位置に第2p
+型ベース領域5が設けられる。第2p
+型ベース領域5の幅は、トレンチ16の幅と同じかそれよりも広い。トレンチ16の底部は、第2p
+型ベース領域5に達してもよいし、p型ベース層3と第2p
+型ベース領域5に挟まれたn型高濃度領域6(2)内に位置していてもよい。第1p
+型ベース領域4と第2p
+型ベース領域5は、例えばアルミニウム(Al)がドーピングされている。第1p
+型ベース領域4の一部をトレンチ側に延在させることで第2p
+型ベース領域5に接続した構造となっていてもよい。その理由は、第2p
+型ベース領域5とn型高濃度領域6(2)の接合部分でアバランシェ降伏が起こったときに発生するホールを効率よくソース電極12に退避させることでゲート絶縁膜9への負担を軽減し信頼性をあげるためである。
図7には、第1p
+型ベース領域4と第2p
+型ベース領域5とを離して配置した場合を図示する。
【0048】
p型ベース層3は、第1p+型ベース領域4に接する。p型ベース層3の内部には、基体第1主面側にn+型ソース領域(第1導電型の第1半導体領域)7が設けられている。また、p++型コンタクト領域8が選択的に設けられていてもよい。この場合、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8は互いに接する。
【0049】
n-型炭化珪素エピタキシャル層2の基体第1主面側の表面層の第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5に挟まれた領域と、p型ベース層3と第2p+型ベース領域5に挟まれた領域にn型高濃度領域6が設けられてもよく、このn型高濃度領域6は、第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5よりも深い位置まで形成されている。このため、n型高濃度領域6の深さ(厚さ)は、第1p+型ベース領域4の深さ(厚さ)と第2p+型ベース領域5の深さ(厚さ)より大きい。また、第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5は、同じ深さの位置まで形成されていてもよい。また、n型高濃度領域6は、第1p+型ベース領域4および第2p+型ベース領域5のドレイン側に、第1p+型ベース領域4および第2p+型ベース領域5を囲むように設けられていてもよい。
【0050】
図7では、2つのトレンチMOS構造のみを図示しているが、さらに多くのトレンチ構造のMOSゲート(金属-酸化膜-半導体からなる絶縁ゲート)構造が並列に配置されていてもよい。
【0051】
炭化珪素半導体基体の第1主面側の全面に、トレンチに埋め込まれたゲート電極10を覆うように層間絶縁膜11が設けられている。層間絶縁膜11に開口されたコンタクトホールを介して、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8に接するソース電極(第1電極)12が設けられる。ソース電極12は、層間絶縁膜11によって、ゲート電極10と電気的に絶縁されている。ソース電極12上には、ソース電極パッド14が設けられている。
【0052】
(実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。
図8~
図13は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
【0053】
まず、
図8に示すように、n型の炭化珪素でできたn
+型炭化珪素基板1を用意する。そして、このn
+型炭化珪素基板1の第1主面上に、n型の不純物、例えば窒素原子をドーピングしながら炭化珪素でできた第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aを、例えば30μm程度の厚さまでエピタキシャル成長させる。次に、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aの不純物濃度分布をCV測定により取得する。この際、エピ成膜モニター用にセットした別の炭化珪素半導体基板を用いてHg-CV測定してもよいし、リング/ドット電極を用いて直接Hg-CV測定してもよいし、非接触にて光学的にキャリア濃度を測定してもよい。次に、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aにp型のドーパントをイオン注入する。この際、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aの不純物濃度が低い領域に対して、p型のイオン注入のドーズ量を低くして、不純物濃度が高い領域に対して、p型のイオン注入のドーズ量を高くすることで、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aの正味のキャリア濃度分布を改善することができる。この第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aは、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2となる。ここまでの状態が
図8に示されている。
【0054】
次に、
図9に示すように、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないマスクを、例えば酸化膜で形成する。そして、この酸化膜をマスクとしてイオン注入法によってp型の不純物、例えばアルミニウム原子をイオン注入する。それによって、
図9に示すように、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の第1p
+型領域4aと第2p
+型ベース領域5が、例えば隣り合う第1p
+型領域4aと第2p
+型ベース領域5との間の距離が1.5μm程度となるように形成される。
【0055】
次に、第1p
+型領域4aと第2p
+型ベース領域5を形成するためのイオン注入時に用いたマスクを除去する。そして、イオン注入法によってn型の不純物、例えば窒素原子をイオン注入してもよい。それによって、
図9に示すように、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面層の、第1p
+型領域4aと第2p
+型ベース領域5との間に、第1p
+型領域4aと第2p
+型ベース領域5よりも0.2~0.5μm深い位置まで第1n型領域6aが形成される。なお、n型高濃度領域6を設けない場合には、第1n型領域6aおよび第2n型領域6bは形成しない。ここでは、マスクを用いずに第1n型領域6aを形成するためのイオン注入を行うため、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面層の全体にわたって、第1p
+型領域4aと第2p
+型ベース領域5の下側(n
+型炭化珪素基板1側)を囲むように第1n型領域6aが形成される。第1n型領域6aを形成するためのイオン注入時のドーズ量を、例えば不純物濃度が5×10
16/cm
3程度となるように設定してもよい。ここまでの状態が
図9に示されている。
【0056】
次に、
図10に示すように、第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、n型の不純物、例えば窒素原子をドーピングしながら第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層2bを、例えば0.5μm程度の厚さまでエピタキシャル成長させる。次に、第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層2bの不純物濃度分布をCV測定により取得する。この際、エピ成膜モニター用にセットした別の炭化珪素半導体基板を用いてHg-CV測定してもよいし、リング/ドット電極を用いて直接Hg-CV測定してもよいし、非接触にて光学的にキャリア濃度を測定してもよい。次に、第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層2bにp型のドーパントをイオン注入する。この際、第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層2bの不純物濃度が低い領域に対して、p型のイオン注入のドーズ量を低くして、不純物濃度が高い領域に対して、p型のイオン注入のドーズ量を高くすることで、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2bの正味のキャリア濃度分布を改善することができる。この第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層2bと第1n
-型炭化珪素エピタキシャル層2aを合わせてn
-型炭化珪素エピタキシャル層2となる。第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層2bを形成するためのエピタキシャル成長の条件を、例えば第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層2bの不純物濃度が3×10
15/cm
3程度となるように設定してもよい。
【0057】
次に、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないマスクを、例えば酸化膜で形成する。そして、この酸化膜をマスクとしてイオン注入法によってp型の不純物、例えばアルミニウム原子をイオン注入する。それによって、
図10に示すように、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の第2p
+型領域4bが、例えば第1p
+型領域4aの上部に重なるように形成される。この第2p
+型領域4bと第1p
+型領域4aを合わせて第1p
+型ベース領域4となる。
【0058】
次に、第2p
+型領域4bを形成するためのイオン注入時に用いたマスクを除去する。そして、イオン注入法によってn型の不純物、例えば窒素原子をイオン注入する。それによって、
図10に示すように、第2n
-型炭化珪素エピタキシャル層2bの表面層の一部に、第1p
+型ベース領域4、第2p
+型ベース領域5、第1n型領域6aに接するように、例えば深さ0.5μm程度の第2n型領域6bが形成される。第2n型領域6bを設けるためのイオン注入時のドーズ量を、例えば不純物濃度が5×10
16/cm
3程度となるように設定してもよい。この第2n型領域6bと第1n型領域6aを合わせてn型高濃度領域6となる。ここまでの状態が
図10に示されている。
【0059】
次に、
図11に示すように、n
-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面(すなわち第1p
+型ベース領域4および第2n型領域6bの表面)上に、p型の不純物、例えばアルミニウム原子をドーピングしながらp型ベース層3を、例えば1.3μm程度の厚さまでエピタキシャル成長させる。p型ベース層3を形成するためのエピタキシャル成長の条件を、例えば不純物濃度が第1p
+型ベース領域4の不純物濃度よりも低い4×10
17/cm
3程度となるように設定してもよい。ここまでの工程により、n
+型炭化珪素基板1上にn
-型炭化珪素エピタキシャル層2およびp型ベース層3を積層してなる炭化珪素半導体基体が形成される。ここまでの状態が
図11に示されている。
【0060】
次に、p型ベース層3の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないマスクを例えば酸化膜で形成する。そして、この酸化膜をマスクとしてイオン注入法によってn型の不純物、例えばリン(P)をイオン注入する。それによって、
図12に示すように、p型ベース層3の表面層の一部にn
+型ソース領域7が形成される。ここで、n
+型ソース領域7の幅がp
++型コンタクト領域8の幅より狭くなるように形成する。n
+型ソース領域7を形成するためのイオン注入時のドーズ量を、例えば第1p
+型ベース領域3よりも不純物濃度が高くなるように設定してもよい。
【0061】
次に、n
+型ソース領域7を形成するためのイオン注入時に用いたマスクを除去する。そして、露出したp型ベース層3の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないマスクを例えば酸化膜で形成し、この酸化膜をマスクとしてp型ベース層3の表面上にp型の不純物、例えばアルミニウムをイオン注入する。それによって、p型ベース層3の表面領域の一部にp
++型コンタクト領域8が形成される。p
++型コンタクト領域8を形成するためのイオン注入時のドーズ量を、例えば第2p
+型ベース領域4よりも不純物濃度が高くなるように設定してもよい。n
+型ソース領域7を形成するためのイオン注入と、p
++型コンタクト領域8を形成するためのイオン注入との順序を入れ替えてもよい。ここまでの状態が
図12に示されている。
【0062】
次に、熱処理(アニール)を行って、例えば第1p+型領域4a、第2p+型領域4b、n+型ソース領域7、p++型コンタクト領域8を活性化させる。熱処理の温度は、例えば1700℃程度であってもよい。熱処理の時間は、例えば2分程度であってもよい。なお、上述したように1回の熱処理によって各イオン注入領域をまとめて活性化させてもよいし、イオン注入を行うたびに熱処理を行って活性化させてもよい。
【0063】
次に、
図13に示すように、p型ベース層3の表面(すなわちn
+型ソース領域7およびp
++型コンタクト領域8の表面)上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないマスクを例えば酸化膜で形成する。そして、この酸化膜をマスクとしてドライエッチング等によってn
+型ソース領域7を貫通してn型高濃度領域5(n型高濃度領域6を形成しない場合にはn
-型炭化珪素エピタキシャル層2)に達するトレンチ16を形成する。トレンチ16の底部は、第2p
+型ベース領域5に達してもよいし、p型ベース層3と第2p
+型ベース領域5に挟まれたn型高濃度領域6(n型高濃度領域6を形成しない場合にはn
-型炭化珪素エピタキシャル層2)内に位置していてもよい。続いて、トレンチ16を形成するために用いたマスクを除去する。ここまでの状態が
図13に示されている。
【0064】
次に、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8の表面と、トレンチ16の底部および側壁と、に沿ってゲート絶縁膜9を形成する。このゲート絶縁膜9は、酸素雰囲気中において1000℃程度の温度の熱処理によって熱酸化によって形成してもよい。また、このゲート絶縁膜9は高温酸化(High Temperature Oxide:HTO)等のような化学反応によって堆積する方法で形成してもよい。
【0065】
次に、ゲート絶縁膜9上に、例えばリン原子がドーピングされた多結晶シリコン層を形成する。この多結晶シリコン層はトレンチ16内を埋めるように形成する。この多結晶シリコン層をパターニングして、トレンチ16内部に残すことによって、ゲート電極10が形成される。ゲート電極10の一部は、トレンチ16の上方(ソース電極パッド14側)からソース電極パッド14側に突出していてもよい。
【0066】
次に、ゲート絶縁膜9およびゲート電極10を覆うように、例えばリンガラスを1μm程度の厚さで成膜し、層間絶縁膜11を形成する。層間絶縁膜11およびゲート絶縁膜9をパターニングして選択的に除去することによって、コンタクトホールを形成し、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8を露出させる。その後、熱処理(リフロー)を行って層間絶縁膜11を平坦化する。
【0067】
次に、例えばスパッタ法によって、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8に接するソース電極12を形成する。次に、例えばスパッタ法によって、ソース電極12および層間絶縁膜11を覆うように、例えばアルミニウム膜を、厚さが例えば5μm程度になるように、設ける。その後、アルミニウム膜を選択的に除去して、素子全体の活性部を覆うように残すことによって、ソース電極パッド14を形成する。
【0068】
次に、例えばスパッタ法によって、n
+型炭化珪素基板1の第2主面にドレイン電極13を形成する。次に、ドレイン電極13の表面に、例えばチタン(Ti)、ニッケル(Ni)および金(Au)を順に積層することによって、ドレイン電極パッド15を形成する。以上のようにして、
図7に示す半導体装置が完成する。
【0069】
以上、説明したように、実施の形態によれば、n-型炭化珪素エピタキシャル層の不純物濃度が低い領域に対して、ドーズ量を低くして、n-型炭化珪素エピタキシャル層の不純物濃度が高い領域に対して、ドーズ量を高くして、p型のイオン注入を行い、n-型炭化珪素エピタキシャル層2bの正味のキャリア濃度分布を改善している。これにより、MOSFETの耐圧、オン抵抗のばらつきを改善することができる。また、イオン注入により生じた結晶欠陥により、ドリフト層へのホール注入を抑制させることで、ボディダイオードへ通電した際にも積層欠陥の拡大を抑止することができる。
【0070】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、本発明では、各実施の形態では第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としたが、本発明は第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法は、インバータなどの電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置や電気自動車のインバータなどに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 n+型炭化珪素基板
2 n-型炭化珪素エピタキシャル層
2a 第1n-型炭化珪素エピタキシャル層
2b 第2n-型炭化珪素エピタキシャル層
3 p型ベース層
4 第1p+型ベース領域
4a 第1p+型領域
4b 第2p+型領域
5 第2p+型ベース領域
6 n型高濃度領域
6a 第1n型領域
6b 第2n型領域
7 n+型ソース領域
8 p++型コンタクト領域
9 ゲート絶縁膜
10 ゲート電極
11 層間絶縁膜
12 ソース電極
13 裏面電極
14 ソース電極パッド
15 ドレイン電極パッド
16 トレンチ
21 n-型炭化珪素エピタキシャル層低濃度領域
22 n-型炭化珪素エピタキシャル層高濃度領域
50 トレンチ型MOSFET
60 炭化珪素半導体基板