(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008597
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】工作物加工面の表面粗さ推定装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20240112BHJP
B23Q 17/20 20060101ALI20240112BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20240112BHJP
G01B 11/30 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B23Q17/09 A
B23Q17/20 Z
B24B49/12
G01B11/30 102Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110591
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若園 賀生
(72)【発明者】
【氏名】小倉 一朗
(72)【発明者】
【氏名】岩井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】安藤 善昭
【テーマコード(参考)】
2F065
3C029
3C034
【Fターム(参考)】
2F065AA50
2F065BB01
2F065BB05
2F065DD03
2F065DD06
2F065FF04
2F065HH13
2F065JJ03
2F065JJ09
2F065JJ26
2F065PP01
2F065PP11
2F065QQ04
2F065QQ31
2F065QQ33
3C029BB01
3C029CC10
3C034AA01
3C034BB93
3C034CA05
3C034CA22
3C034CB20
3C034DD20
(57)【要約】
【課題】工作物加工面の表面粗さの推定精度の優れた工作物加工面の表面粗さ推定装置を提供する。
【解決手段】工作物加工面の表面粗さ推定装置1は、工作物に機械加工を施して形成される加工面の画像情報を取得する画像情報取得部13と、画像情報取得部13が取得した画像情報に基づいて、工作物加工面に形成された加工痕に関わる加工痕情報を抽出する加工痕情報抽出部26と、加工痕情報抽出部26により抽出された加工痕情報に基づいて、工作物加工面の表面粗さを推定する表面粗さ推定部27と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械により工作物に機械加工を施して形成される加工面の表面粗さを推定する表面粗さ推定装置であって、
上記加工面の画像情報を取得する画像情報取得部と、
上記画像情報に基づいて、上記加工面に形成された加工痕に関わる加工痕情報を抽出する加工痕情報抽出部と、
上記加工痕情報に基づいて、上記加工面の表面粗さを推定する表面粗さ推定部と、
を含む、工作物加工面の表面粗さ推定装置。
【請求項2】
上記画像情報取得部が取得した上記画像情報において上記加工痕を明瞭化する第1画像処理を行う第1画像処理部を備え、
上記加工痕情報抽出部は、上記第1画像処理後の上記画像情報に基づいて、上記加工痕情報を抽出する、請求項1に記載の工作物加工面の表面粗さ推定装置。
【請求項3】
上記第1画像処理は、ソーベルフィルタ処理を含む、請求項2に記載の工作物加工面の表面粗さ推定装置。
【請求項4】
上記第1画像処理後の上記画像情報を白と黒の2値に2値化する第2画像処理部と、
上記第2画像処理後の上記画像情報における白い画素の領域の総面積又は該白い画素が所定方向に連続する総長さを計測する第1計測部と、
をさらに備え、
上記加工痕情報抽出部は、上記加工痕情報として、上記第1計測部の計測結果を抽出する、請求項2又は3に記載の工作物加工面の表面粗さ推定装置。
【請求項5】
上記第2画像処理後の上記画像情報における白い画素が連続してなる領域を一つの上記加工痕とし、上記画像情報に存在する上記加工痕の数を加工痕数として計測する第2計測部をさらに備え、
上記加工痕情報抽出部は、上記加工痕情報として、上記第1計測部の計測結果と上記第2計測部の計測結果に基づいて、上記画像情報における上記加工痕1つ当たりの平均面積又は上記加工痕1つ当たりの上記所定方向における平均長さを抽出する、請求項4に記載の工作物加工面の表面粗さ推定装置。
【請求項6】
上記加工痕情報の抽出を行う前処理として、上記画像情報における輝度平均値及び輝度標準偏差が所定の範囲内となるように上記画像情報における輝度分布を変換して正規化する前処理部を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の工作物加工面の表面粗さ推定装置。
【請求項7】
上記工作機械は、研削盤又は切削機である、請求項1~3のいずれか一項に記載の工作物加工面の表面粗さ推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物加工面の表面粗さ推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工作機械の工具を用いて工作物を加工する場合、工具の劣化が生じて加工精度の低下が生じる虞がある。従って、工具の劣化を管理し、工具の修正を適宜行うことにより、工作物の加工精度を維持することは極めて肝要である。そして、工作物の加工精度を評価する技術として、工作物の加工面における画像を取得し、工具によって加工される工作物加工面の表面粗さを推定する技術がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、工作物加工面の画像情報と工作物の表面粗さとに基づいてニューラルネットワークによる学習済みモデルを予め作成しておき、加工後の工作物から外観画像情報を取得して当該学習済みモデルを用いて工作物加工面の表面粗さを推定する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の構成では、工作物加工面の画像情報の取得条件(例えば、カメラ配置、周囲の光源、カメラ自体の撮影誤差)が変化すると、取得される画像情報も変化するために表面粗さの推定精度が低下するおそれがある。例えば、工作物加工面に照射する照明光の入射角度が大きい場合、カメラに入射する光における散乱光の割合が比較的大きくなることから、取得された画像情報における輝度コントラストが下がってしまう。そのため、輝度の解像度が低くなり、表面粗さの推定精度が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、工作物加工面の表面粗さの推定精度の優れた工作物加工面の表面粗さ推定装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、工作機械により工作物に機械加工を施して形成される加工面の表面粗さを推定する表面粗さ推定装置であって、
上記加工面の画像情報を取得する画像情報取得部と、
上記画像情報に基づいて、上記加工面に形成された加工痕に関わる加工痕情報を抽出する抽出部と、
上記加工痕情報に基づいて、上記加工面の表面粗さを推定する表面粗さ推定部と、
を含む、工作物加工面の表面粗さ推定装置にある。
【発明の効果】
【0008】
本願発明者らは、工作機械により工作物を加工したときに加工面に形成された加工痕と、加工面の表面粗さとが相関関係を有するとの新たな知見を得た。本発明は当該新たな知見に基づいてなされたものであって、上記工作物加工面の表面粗さ推定装置においては、取得した加工面の画像情報から加工面に形成された加工痕に関わる加工痕情報を抽出し、当該加工痕情報に基づいて加工面の表面粗さを推定する。そして、加工痕に関わる加工痕情報は、加工面全体の画像情報と比べると、工作物の外観画像の取得条件の変化の影響を受けにくい。そのため、上記加工痕情報に基づいて加工面の表面粗さを推定することにより、推定精度の向上を図ることができる。
【0009】
以上のごとく、上記態様によれば、工作物加工面の表面粗さの推定精度の優れた工作物加工面の表面粗さ推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1における、工作機械の構成を示す概念図。
【
図2】実施形態1における、工作物加工面の表面粗さ推定装置のブロック図。
【
図3】実施形態1における、前処理における(a)及び(b)輝度分布変換前の状態を示す概念図、(c)輝度分布変換後の状態を示す概念図。
【
図4】実施形態1における工作物加工面の画像に対して、(a)グレースケール処理後の画像の例を示す図、(b)第1画像処理後の画像の例を示す図、(c)第2画像処理後の画像の例を示す図。
【
図5】実施形態1における、加工痕情報と表面粗さとの対応関係の例を示す概念図。
【
図6】実施形態1における、工作物加工面の表面粗さを推定するためのフロー図。
【
図7】実施形態2における、工作機械の構成を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
(1.表面粗さ推定装置1の適用対象の工作機械)
本実施形態1における工作物加工面の表面粗さ推定装置1は、工作機械によって加工された工作物の加工面の表面粗さを推定する。工作物を加工する工作機械としては、研削加工を行う各種研削装置(例えば、円筒研削盤やカム研削盤、平面研削盤等)、切削加工を行う各種切削装置(例えば、歯車加工装置やマシニングセンタ等)、研磨加工を行う研磨装置を挙げることができる。
【0012】
本実施形態では、工作機械は、粗研削、精研削、微研削、スパークアウト等の研削加工を経て工作物を研削する研削盤10である。研削盤10によって研削加工される工作物としては、例えば、単純軸状部材や、クランクシャフト、カムシャフト、平板等を挙げることができる。なお、本実施形態の工作物としては、後述するように、断面円形の単純軸状部材がプランジ研削加工される場合を例示する。
【0013】
工作機械に設けられた工具によって工作物を加工することにより、工作物の加工面には加工痕が形成される。加工痕は、加工時において工具が工作物に接触した状態で相対的に移動した軌跡に沿って形成されることとなる。加工痕の具体的な形状は、工具の種類や工作機械の構成、工作物の形状等によって種々の形状となりうる。後述する円筒研削盤によって断面円形の単純軸状部材が研削加工される場合には、加工痕は砥石車の回転方向に平行に延びる線状に形成されることから、当該加工痕を研削条痕ともいう。
【0014】
図1に示すように、研削盤10は、工具としての砥石車56を用いて工作物Wの加工面W1の研削加工を行う。研削盤10には、研削盤10の制御を行う制御装置12が接続されている。また、研削盤10には、後述する画像情報取得部13が取り付けられている。
【0015】
本実施形態1では、研削盤10は、
図1に示すように、砥石台トラバース型の円筒研削盤であって、軸状部材である工作物Wの外周面即ち加工面W1を研削するように構成されている。なお、研削盤10として、テーブルトラバース型を用いることもできる。本実施形態1では研削盤10は、
図1に示すように、主としてベッド51、主軸台52、心押台53、トラバースベース54、砥石台55、砥石車56、定寸装置57、及び、砥石車修正装置58を備える。
【0016】
ベッド51は、研削盤10の設置面上に固定されている。主軸台52は、ベッド51の上面において、X軸方向の手前側(
図1の下側)且つZ軸方向の一端側(
図1の左側)に設けられている。主軸台52は、工作物WをZ軸回りに回転可能に支持する。工作物Wは、主軸台52に設けられたモータ52aの駆動により回転される。
【0017】
心押台53は、ベッド51の上面において、主軸台52に対してZ軸方向に対向する位置、即ち、X軸方向の手前側(
図1の下側)且つZ軸方向の他端側(
図1の右側)に設けられている。これにより、工作物Wは、主軸台52及び心押台53によって回転可能に両端支持される。
【0018】
トラバースベース54は、ベッド51の上面において、Z軸方向に移動可能に設けられている。トラバースベース54は、ベッド51に設けられたモータ54aの駆動により移動する。砥石台55は、トラバースベース54の上面において、X軸方向に移動可能に設けられている。砥石台55は、トラバースベース54に設けられたモータ55aの駆動により移動する
【0019】
砥石車56は、円盤状に形成されて砥石台55に回転可能に支持されている。砥石車56は、砥石台55に設けられたモータ56aの駆動により回転する。砥石車56は、工作物Wの外周面を研削するために用いられる。なお、工作物Wが筒状部材である場合は、工作物Wの内周面を研削することもできる。砥石車56は、複数の砥粒を結合剤により固定されて構成されている。砥粒には、アルミナや炭化ケイ素などのセラミックス質の材料などにより形成される一般砥粒、ダイヤモンドやCBNなどの超砥粒などが適用される。
【0020】
結合剤には、ビトリファイド(V)、レジノイド(B)、ラバー(R)、シリケート(S)、シェラック(E)、メタル(M)、電着(P)、マグネシアセメント(Mg)などが存在する。さらに、砥石車56は、気孔を有する構成と、気孔を有しない構成とがある。砥石車56は、結合剤の種類や気孔の有無によって、弾性変形可能な構成である場合と、ほぼ弾性変形しない構成である場合とが存在する。弾性変形可能な砥石車56において、結合剤の種類、気孔の有無、気孔率などによって、弾性率が異なる。
【0021】
定寸装置57は、工作物Wの寸法(径)を測定する。定寸装置57は、ベッド51の上面において、Z軸方向に移動可能に設けられている。定寸装置57は、ベッド51に設けられた送り機構57aによりZ軸方向の位置が制御される。
【0022】
砥石車修正装置58は、砥石車56の形状を修正する。即ち、砥石車修正装置58は、砥石車56のツルーイングやドレッシングを行う装置である。ここで、ツルーイングは、形直し作業であり、研削加工によって砥石車56に劣化、例えば、摩耗や摩滅、砥粒の脱落、或いは、砥粒の破砕等が生じた場合に工作物Wの形状に合わせて砥石車56を成形する作業、偏摩耗による砥石車56の振れを取り除く作業である。ドレッシングは、砥石車56の目直し(目立て)作業であり、砥粒の突き出し量を調整する作業、砥粒の切れ刃を創成する作業である。つまり、ドレッシングは、目つぶれや、目詰まり、目こぼれ等を修正する作業であり、通常、ツルーイング後に行われる。
【0023】
制御装置12は、CNC装置及びPLC装置等を含み、
図1に示すように、本実施形態では研削盤10に接続されている。制御装置12は、工作物Wの形状、加工条件、砥石車56の形状、クーラントの供給タイミング情報等の作動指令データに基づいて生成されたNCプログラムに従い、研削盤10における各モータ52a、54a、55a、56a等を制御する。即ち、制御装置12は、動作指令データが入力されることにより、動作指令データに基づいてNCプログラムを生成する。
【0024】
これにより、制御装置12は、研削盤10の作動を制御して、工作物Wの加工面W1の研削加工を行う。ここで、制御装置12は、定寸装置57により測定される工作物Wの寸法(径)に基づいて、工作物Wの加工面W1が仕上形状となるまで研削加工を行う。このため、制御装置12が生成するNCプログラムは、研削加工内容、即ち、粗研削、精研削、微研削及びスパークアウト等に応じて生成される。
【0025】
また、制御装置12は、
図1に示すように、演算装置20と信号の送受信が可能とされている。これにより、制御装置12は、砥石車56を修正するタイミングとして、演算装置20から出力される修正信号を取得したタイミングにおいて、各モータ52a、54a、55a、56a及び砥石車修正装置58等を制御することにより、砥石車56の修正(ツルーイング又は/及びドレッシング)を行う。ここで、本実施形態の演算装置20は、後述するように、推定した加工面W1の表面粗さに基づいて修正信号を制御装置12に出力する。
【0026】
(2.表面粗さ推定装置1の構成)
次に、表面粗さ推定装置1の構成について、
図1を参照して説明する。表面粗さ推定装置1は、画像情報取得部13、演算装置20により構成される。
【0027】
画像情報取得部13は、上述の通り、研削盤10に設けられている。画像情報取得部13は、研削盤10により研削加工される工作物Wの加工面W1を撮像するカメラにより構成することができる。画像情報取得部13を取り付ける位置は限定されず、本実施形態1では、
図1に示すように、トラバースベース54に取り付けたが、これに替えて砥石台55に取り付けてもよい。本実施形態1では、画像情報取得部13には、図示しないが照明装置13aが設けられており、画像情報取得部13は工作物Wの加工面W1に照明装置13aの光が照射された状態で加工面W1を撮像する。
【0028】
画像情報取得部13は、工作物Wに対する研削加工毎の加工面W1の全体又は所定範囲を撮像して得られた画像情報を後述の演算装置20に出力する。なお、画像情報取得部13により取得される画像情報は、複数のカラーチャンネルを有していてもよいし、単一のカラーチャンネルを有するものであってもよい。
【0029】
演算装置20は、所定のプログラムを実行可能なコンピュータと記憶装置により構成され、
図2に示すように、前処理部21、第1画像処理部22、第2画像処理部23、第1計測部24、第2計測部25、加工痕情報抽出部26、表面粗さ推定部27、計測結果記憶部28、加工痕情報記憶部29、対応関係記憶部30、出力部31を備える。
【0030】
前処理部21は、画像情報取得部13により取得された画像情報の前処理を行う。本実施形態1では、前処理部21は、画像情報が複数のカラーチャンネルを有する場合に、当該画像情報にグレースケール処理を行い、画像情報のカラー情報を破棄してグレースケール化された画像情報に変換する。当該変換後の画像情報の例を
図4(a)に示す。なお、前処理部21において、グレースケール処理を行うことに替えて、複数のカラーチャンネルの少なくとも一つのカラーチャンネルデータを以降の処理に用いる画像情報としてもよい。
【0031】
本実施形態1では、前処理部21は、さらに、画像情報における輝度平均値及び輝度標準偏差が所定の範囲内となるように当該画像情報における輝度分布を変換して正規化する。当該変換は、変換結果としての画素の輝度の少なくとも一部が輝度範囲(本実施形態1では、0~255の値内)を超えた値となって画像がいわゆる白飛びしたり黒潰れしたりしない範囲内で、画像情報における画素の輝度ができるだけ輝度範囲に広くわたって分布するように行うことが好ましい。
【0032】
例えば、前処理部21における輝度分布の変換は、次のように行うことができる。まず、
図3(a)に示すように、加工開始時の加工面W1の画像情報における輝度分布A0を取得する。なお、取得された輝度分布A0は通常概ね正規分布に近い分布を示す。そして、下記式(1)に示す正規分布の標準化式を変形して得られた式(2)に示す輝度変換式を用いて輝度分布を変換(正規化)し、
図3(c)に示す変換後の輝度分布Asを得る。なお、μを輝度平均値、σを標準偏差とする。
(x
0-μ
0)/σ
0=(x’
0-μ
s)/σ
s (1)
x’
0=σ
s/σ
0*(x
0-μ
0)+μ
s (2)
また、加工開始時の加工面W1の画像情報における輝度分布A0として、
図3(b)に示すものが得られた場合でも、上記輝度変換式を用いて輝度分布を変換(正規化)することにより、
図3(c)に示すものと同様の変換後の輝度分布Asを得ることができる。
【0033】
なお、当該式(2)の変換式は、加工開始時の作成したものを当該工作物Wにおける以降の前処理部21において使用するものとしてもよいし、当該工作物Wにおいて加工面W1の画像情報を取得するごとに前処理部21において上記式(2)の変換式を作成して使用することとしてもよい。
【0034】
第1画像処理部22は、上記前処理後の画像情報に第1画像処理を行う。第1画像処理は、加工面W1に形成された加工痕(本実施形態1では、研削条痕)を明瞭化する処理である。加工痕を明瞭化する第1画像処理として、エッジフィルタ処理やソーベルフィルタ処理などを例示できるが、本実施形態1では、第1画像処理としてソーベルフィルタ処理を採用する。ソーベルフィルタ処理は、画像内のエッジを他の部分よりも低ノイズで強調することができるため、加工面W1に形成された加工痕を明瞭化するのに適している。
【0035】
ソーベルフィルタ処理には横方向のソーベルフィルタ処理と縦方向のソーベルフィルタ処理とが含まれるが、第1画像処理としては、加工痕(研削条痕)の形成方向に応じていずれか一方を使用したり、両方のソーベルフィルタ処理を組み合わせて使用したりすることができる。また、第1画像処理において使用するフィルタの種類に応じて、上述の前処理後の画像情報を所定角度回転させて第1画像処理を行ってもよい。
【0036】
前処理後の画像情報において、加工痕(研削条痕)の形成方向が明確でない場合は、第1画像処理として、横方向及び縦方向の両方のソーベルフィルタ処理を組み合わせることが好ましい。この場合は、画像情報を所定角度ずつ回転させて第1画像処理を行った後、後述する加工痕(研削条痕S1)の長さL1を最も大きくさせる画像回転角での第1画像処理の処理結果を用いて以降の処理を行うようにすることができる。
【0037】
本実施形態1では、
図4(a)に示すように、研削条痕S1の形成方向は画像の上下方向(X方向)であるため、第1画像処理部22における第1画像処理として、当該形成方向に直交する方向である横方向のソーベルフィルタ処理を選択することが好ましい。これにより、研削条痕のエッジがより強調されて、研削条痕を一層明瞭化できる。第1画像処理部22における第1画像処理後の画像情報の例を
図4(b)に示す。なお、第1画像処理は複数回行うこともできる。複数回の第1画像処理を行う場合は、互いに異なるフィルタ処理が含まれていてもよい。
【0038】
第2画像処理部23は、第1画像処理後の画像情報に第2画像処理を行う。当該第2画像処理は、第1画像処理後の画像情報を白と黒の2値に2値化する。第2画像処理における2値化の閾値は限定されず、第1画像処理後の画像情報や加工痕(研削条痕)の状態に応じて適宜変更することができる。第2画像処理部23における第2画像処理後の画像情報の例を
図4(c)に示す。
【0039】
第2画像処理部23における第2画像処理後の画像情報において、加工痕(研削条痕S1)は白い画素が連続してなる領域として視認することができる。ここで、「白い画素が連続してなる領域」とは、2値化後の画像において、白い画素同士が隣り合って白い画のみが連なった一塊の領域をいう。例えば、
図4(c)に示す第2画像処理(2値化)後の画像情報の例では、一つの研削条痕S1は、白い画素がX方向に連なって一条の白い線として視認することができる。なお、本実施形態1では、
図4(c)に示す2値化後の画像において、それぞれの研削条痕S1のY方向の大きさ、すなわち幅の大きさの差は少なくなっている。
【0040】
第1計測部24は、第2画像処理後の画像情報における白い画素の領域の総面積又は該白い画素が所定方向に連続する総長さを計測する。第2画像処理後の画像情報における白い画素の領域は、加工面Wにおける加工痕(研削条痕S1)に相当する。そして、所定方向に連続する総長さとは、
図4(c)に示すように、全ての研削条痕S1の延びるX方向における研削条痕S1の長さL1の合計、すなわち、全ての白い画素のX方向における長さの合計をいう。なお、本実施形態1のように研削盤10においては、加工痕である研削条痕S1は、研削が繰り返されるにつれてX方向に延びるが、Y方向である幅の大きさの変化は少ない。そのため、本実施形態1では、上述の白い画素の領域の総面積は、研削条痕S1の長さを強く反映したものとなっている。なお、第1計測部24による計測結果は、後述の計測結果記憶部28に格納されて記憶される。
【0041】
第2計測部25は、第2画像処理後の画像情報における白い画素が連続してなる領域を一つの加工痕(研削条痕S1)とし、上記画像情報に存在する研削条痕S1の数を加工痕数(研削条痕数)として計測する。なお、第2計測部25による計測結果は、後述の計測結果記憶部28に格納されて記憶される。
【0042】
加工痕情報抽出部26は、上記画像情報に基づいて、加工面W1に形成された加工痕(研削条痕S1)に関わる加工痕情報を抽出する。当該画像情報は、上記画像情報取得部13が取得した画像情報、前処理部21による前処理後の画像情報、第1画像処理部22による第1画像処理後の画像情報、または第2画像処理部23による第2画像処理後の画像情報のいずれかであってもよい。
【0043】
加工痕情報抽出部26は、好ましくは、加工痕情報として、第1計測部24が上記画像情報に基づいて計測した計測結果を抽出してもよい。より好ましくは、加工痕情報抽出部26は、加工痕情報として、第1計測部24の計測結果と第2計測部25の計測結果とに基づいて、画像情報における加工痕1つ当たりの平均面積又は加工痕1つ当たりの所定方向における平均長さを抽出してもよい。
【0044】
本実施形態1では、加工痕情報抽出部26は、加工痕情報として、第1計測部24によって第2画像処理後の画像情報における白い画素の領域の総面積を計測した計測結果と、第2計測部25の計測結果とに基づいて、画像情報における加工痕(研削条痕S1)1つ当たりの平均面積を抽出する。加工痕情報抽出部26による抽出結果としての加工痕情報は、後述の加工痕情報記憶部29に記憶される。
【0045】
表面粗さ推定部27は、加工痕情報抽出部26により抽出された加工痕情報に基づいて、加工面W1の表面粗さを推定する。表面粗さの推定は、予め作成した加工痕情報と表面粗さとの対応関係に基づいて行うことができる。本実施形態1では、予め作成された当該対応関係を対応関係記憶部30に記憶しておき、当該対応関係を用いて、加工痕情報抽出部26に抽出された加工痕情報に基づいた表面粗さを導出して推定する。そして、本実施形態1では、対応関係記憶部30には、当該対応関係として、
図5に示す研削条痕1つ当たりの平均面積と表面粗さとの対応関係を示す検量線Pが記憶されている。
【0046】
計測結果記憶部28、加工痕情報記憶部29、対応関係記憶部30は書き換え可能な不揮発性メモリからなり、上述の通り各種情報が格納されて記憶される。出力部31は、表面粗さ推定部27の推定結果を出力する。出力部31による出力態様は限定されず、所定の表示器に推定結果を表示するようにしてもよい。また、出力部31は、当該推定結果に基づいて砥石車56のドレッシングやツルーイングを行うことを指示する修正信号を研削盤10の制御装置12に送信するようにしてもよい。
【0047】
(3.表面粗さ推定装置1の表面粗さ推定フロー)
次に、本実施形態1の表面粗さ推定装置1における加工面W1の表面粗さを推定するためのフローについて、
図6を用いて説明する。まず、
図6に示すステップS1において、研削盤10による工作物Wの加工を開始する。
【0048】
次に、
図6に示すステップS2において、画像情報取得部13により加工面W1の画像情報を取得する。本実施形態1では、当該画像情報はカラーチャンネルを有する。その後、ステップS3において、前処理部21により、画像情報のグレースケール化を行い、カラー情報を破棄する。これにより、
図4(a)に示す画像が作成される。
【0049】
次いで、ステップS4において前処理部21により、輝度分布の変更処理を行う。本実施形態1では、加工開始時に取得した加工面W1の画像情報から輝度平均μ0と輝度標準偏差σ0を算出して上述の変換式(2)を作成して、当該変換式(2)を用いて加工面W1の輝度分布を変更して正規化する処理を行う。これにより、当該画像情報における輝度平均μsと輝度標準偏差σsがそれぞれ変更されて輝度分布が正規化されることにより、変更後の画像情報において白飛びや黒潰れが生じることが防止される。
【0050】
その後、
図6に示すステップS5において、第1画像処理部22により、第1画像処理としてソーベルフィルタ処理を行う。これにより、
図4(b)に示すように、研削条痕S1のエッジが強調されることとなる。
【0051】
そして、
図6に示すステップS6において、第2画像処理部23により、第2画像処理として、適宜設定された閾値に基づいて白黒2値化処理を行う。これにより、2値化処理後の画像情報では、
図4(c)に示すように、研削条痕S1が白い領域として示され、その他の部分が黒い領域として示される。
【0052】
次に、
図6に示すステップS7において、第1計測部24により当該画像情報における研削条痕S1の総面積を計測し、計測結果を計測結果記憶部28に格納する。そして、ステップS8において、第2計測部25により当該画像情報における研削条痕S1の数を計測し、計測結果を計測結果記憶部28に格納する。
【0053】
その後、
図6に示すステップS9において、加工痕情報抽出部26により加工痕情報として、研削条痕1つ当たりの平均面積を算出し、算出結果を加工痕情報記憶部29に格納する。そして、ステップS10において、表面粗さ推定部27により加工痕情報記憶部29に格納された加工痕情報としての研削条痕1つ当たりの平均面積に基づいて、
図5に示す対応関係記憶部30に予め記憶された検量線Pにより加工面W1の表面粗さを推定する。そして、出力部31により推定結果を出力して当該制御フローを終了する。
【0054】
(4.作用効果)
以下に、本願請求項1の表面粗さ推定装置1における作用効果について述べる。本願請求項1の表面粗さ推定装置1によれば、取得した加工面W1の画像情報から加工面W1に形成された加工痕である研削条痕S1に関わる加工痕情報を抽出し、当該加工痕情報に基づいて加工面の表面粗さを推定する。そして、加工痕に関わる加工痕情報は、加工面W1全体の画像情報と比べると、工作物Wの外観画像の取得条件の変化の影響を受けにくい。そのため、当該加工痕情報に基づいて加工面W1の表面粗さを推定することにより、推定精度の向上を図ることができる。
【0055】
また、本実施形態1では、画像情報取得部13が取得した画像情報において加工痕である研削条痕S1を明瞭化する第1画像処理を行う第1画像処理部22を備える。そして、加工痕情報抽出部26は、第1画像処理後の画像情報に基づいて加工痕情報を抽出する。これにより、研削条痕S1が明瞭化された状態で、加工痕情報が抽出されるため、研削条痕S1の検出精度が向上する。
【0056】
また、本実施形態1では、第1画像処理部22における第1画像処理は、ソーベルフィルタ処理を含む。これにより、研削条痕S1のエッジが一層強調されるため、研削条痕S1が一層明瞭化されて、研削条痕S1の検出精度がさらに向上する。
【0057】
また、本実施形態1では、第1画像処理後の画像情報を白と黒の2値に2値化する第2画像処理部23と、第2画像処理後の画像情報における白い画素の領域の総面積又は該白い画素が所定方向に連続する総長さL1を計測する第1計測部24と、第2画像処理後の画像情報における白い画素が連続してなる領域を一つの研削条痕S1とし、画像情報に存在する研削条痕S1の数を加工痕数として計測する第2計測部をさらに備える。そして、加工痕情報抽出部26は、加工痕情報として、第1計測部24の計測結果と第2計測部25の計測結果に基づいて、画像情報における研削条痕1つ当たりの平均面積又は研削条痕1つ当たりのX方向における平均長さを抽出する。これにより、加工痕情報は、高精度に検出された加工痕(研削条痕S1)の情報を含むものとなるため、表面粗さの推定精度を一層向上することができる。
【0058】
また、本実施形態1では、加工痕情報の抽出を行う前処理として、画像情報における輝度平均値及び輝度標準偏差が所定の範囲内となるように画像情報における輝度分布を変換して正規化する前処理を行う前処理部21を備える。これにより、加工面W1を照射される照射光の変化などにより、画像情報取得部13により画像情報が取得される際の条件が変化した場合でも、その影響が加工痕情報の抽出に及ぶことを抑制することができ、表面粗さの推定精度を一層向上することができる。また、上記前処理を行うことにより、工作物Wの加工面W1がドライの場合に取得した画像情報と、加工面W1がウェットの場合に取得した画像情報とを混在させることができるため、画像情報の取り扱いが容易となる。また、上記前処理を行うことにより加工痕の定量化を図ることもできる。
【0059】
なお、本実施形態1では、加工痕情報抽出部26は第1計測部24の計測結果と第2計測部25の計測結果とを用いて加工痕情報として研削条痕1つ当たりの平均面積を抽出することとしたが、これに替えて、第2計測部25を有さず、加工痕情報抽出部26は、加工痕情報として第1計測部24の計測結果である研削条痕S1の総面積又は研削条痕S1の総長さを抽出するようにしてもよい。この場合には、第2計測部25の計測結果を用いる本実施形態1の場合に比べて表面粗さの推定精度が若干劣る場合があるが、本実施形態1の場合に比べて第2計測部25による計算が不要となるため、計算負荷を軽減でき、推定処理の高速化を図ることができる。これに対して、本実施形態1では、第2計測部25の計測結果を用いることにより、表面粗さの推定精度の一層の向上が図られている。
【0060】
以上のごとく、上記態様によれば、工作物加工面の表面粗さの推定精度の優れた工作物加工面W1の表面粗さ推定装置1を提供することができる。
【0061】
(実施形態2)
上述の実施形態1では工作機械としての研削盤10を用いたが、本実施形態2では、これに替えて、
図7に示す切削機90を用いる。本実施形態2では、切削機90は、工具としてのバイト96を用いて工作物Wの加工面W1の切削加工を行う旋盤である。切削機90には、実施形態1と同様に切削機90を制御する制御装置12が接続されている。本実施形態2では、切削機90は、制御装置12の制御により、工作物Wを回転させ、バイト96を工作物Wに当接させて相対移動させることにより工作物Wを旋削する。これにより、工作物Wの加工面W2には、加工痕としてバイト96による切削条痕が形成される。なお、実施形態2において実施形態1の同等の構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0062】
切削機90は、例えば、ベッド51、主軸台52、心押台53と、トラバースベース54を備える。工具台95は、トラバースベース54の上面において、X軸方向に移動可能に設けられている。工具台95は、トラバースベース54に設けられたモータ55aの駆動により移動する。工具台95には、バイト96が支持されている。さらに、切削機90は、定寸装置57を備える。
【0063】
本実施形態2においても、画像情報取得部13は、切削機90に設けられており、切削機90により切削加工される工作物Wの加工面W2を照明装置13aの光が照射された状態で撮像し、実施形態1と同等の構成を有する演算装置20により画像処理された結果、工作物Wの加工面W2の表面粗さが推定される。
【0064】
なお、実施形態2では、実施形態1における加工痕1つ当たりの平均面積に替えて加工痕間の平均ピッチとし、実施形態1における加工痕1つ当たりの平均長さに替えて加工痕1つ当たりのバイト96の平均送り量とすることができる。そして、実施形態2においても、実施形態1の場合と同等の作用効果を奏する。
【0065】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【0066】
実施形態1では工作機械は研削盤10とし、実施形態2では工作機械は旋盤である切削機90としたが、工作機械はこれらに限定されず、その他の工作機械とすることができ、例えば、フライス盤である切削機とすることもできる。
【符号の説明】
【0067】
1 表面粗さ推定装置
10 研削盤
12 制御装置
13 画像情報取得部
20 演算装置
21 前処理部
22 第1画像処理部
23 第2画像処理部
24 第1計測部
25 第2計測部
26 加工痕情報抽出部
27 表面粗さ推定部
57 定寸装置
58 砥石車修正装置
90 切削機