IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東京農工大学の特許一覧 ▶ 有限会社ケー・アンド・ダブルの特許一覧

特開2024-86096ナトリウムイオン電池用正極材料及びナトリウムイオン電池
<>
  • 特開-ナトリウムイオン電池用正極材料及びナトリウムイオン電池 図1
  • 特開-ナトリウムイオン電池用正極材料及びナトリウムイオン電池 図2
  • 特開-ナトリウムイオン電池用正極材料及びナトリウムイオン電池 図3
  • 特開-ナトリウムイオン電池用正極材料及びナトリウムイオン電池 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086096
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池用正極材料及びナトリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20240620BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240620BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240620BHJP
   C01B 33/32 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 A
H01M10/054
C01B33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201026
(22)【出願日】2022-12-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年11月7日にウェブサイト(https://confit.atlas.jp/guide/event/denchi63/proceedings/list)に掲載
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】504358517
【氏名又は名称】有限会社ケー・アンド・ダブル
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】直井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】沖田 尚久
(72)【発明者】
【氏名】原田 雄太
(72)【発明者】
【氏名】直井 和子
【テーマコード(参考)】
4G073
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G073BA04
4G073BA24
4G073BA30
4G073BA56
4G073BA63
4G073BA70
4G073BA76
4G073BD01
4G073FA30
4G073UA20
4G073UB60
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM07
5H029DJ16
5H029HJ02
5H050AA02
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB09
5H050FA17
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】 ポストリチウムイオン電池としてナトリウムイオン電池が注目されているが、高速な条件で充放電容量が十分な正極材料がなかった。例えば、充放電時間が3.6秒に相当する1000Cといった、より高速な条件での充放電容量が良好なナトリウムイオン電池用正極材料を提供することを目的とする。
【解決手段】 ナトリウムイオン電池用正極材料は、化学式(1):Na3-x+y-z(PO3-x-y-z-w(SO(SiO(WO(BO(x≧0,y≧0,z≧0,w≧0,0<x+y+z+w≦3)で表されるナトリウム化合物を含有する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1):Na3-x+y-z(PO3-x-y-z-w(SO(SiO(WO(BO(x≧0,y≧0,z≧0,w≧0,0<x+y+z+w≦3)で表されるナトリウム化合物を含有することを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項2】
請求項1に記載のナトリウムイオン電池用正極材料において、
x>0であることを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項3】
請求項1に記載のナトリウムイオン電池用正極材料において、
x≧0.05であることを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項4】
請求項1に記載のナトリウムイオン電池用正極材料において、
y、z、w≧0.05であることを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用正極材料が、前記ナトリウム化合物と導電性炭素材料との複合材であることを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項6】
請求項5に記載のナトリウムイオン電池用正極材料において、
前記導電性炭素材料が多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー又はケッチェンブラックであることを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用正極材料を正極に用いることを特徴とするナトリウムイオン電池。
【請求項8】
請求項5に記載のナトリウムイオン電池用正極材料を正極に用いることを特徴とするナトリウムイオン電池。
【請求項9】
請求項6に記載のナトリウムイオン電池用正極材料を正極に用いることを特徴とするナトリウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ナトリウムイオン電池用正極材料及びナトリウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や携帯電子機器等に用いられる二次電池として、現在は高い出力特性や良好なサイクル特性を有するリチウムイオン電池が広く用いられている。しかし、原料のリチウムは、資源量が限定的で産地が偏在するため高価であり、供給の安定性にも不安がある。そこで、資源量が豊富で産地が偏在しないナトリウムを用いたナトリウムイオン電池が着目され、種々の正極材料が提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1は、化学式:Na3+x(PO3-x(SiO(0≦x≦0.5)で表されるナトリウム化合物を含有するナトリウムイオン電池用正極材料が初期放電容量として107mAhg-1、140サイクル後の放電容量として96mAhg-1(容量維持率:90%)を示すことを開示する。非特許文献2は、化学式:Na1.9Ti0.1(PO@Cで表されるナトリウム化合物を含有するナトリウムイオン電池用正極材料が初期放電容量として1Cで116.6mAhg-1、400Cで93.4mAhg-1(容量維持率:80%)を示すことを開示する。非特許文献3は、化学式:Na3.1(PO2.9(SiO0.1@/C@rGOで表されるナトリウム化合物を含有するナトリウムイオン電池用正極材料が初期放電容量として113.6mAhg-1、1Cで1000サイクル後に容量維持率:70%(79.5mAhg-1)を示すことを開示する。なお、「rGO」は導電性還元型グラフェン酸化物(conducting redued graphene oxide)である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Aragon,M.J.et al.,ChemElectroChem,5,2,367-374(2018)
【非特許文献2】Zhao,L.et al.,ACS Appl.Mater.Interfaces,10,35963-35971(2018)
【非特許文献3】Chen,Y.et al.,Ceramics International,46,27660-27669(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のナトリウムイオン電池用正極材料は、例えば、充放電時間が3.6秒に相当する、1000Cといった、より高速な条件での充放電容量が十分ではない。
【0006】
本開示は上記実状を鑑みてなされたものであり、本開示の目的は、より高速な条件での充放電容量が良好なナトリウムイオン電池用正極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様は、
化学式(1):Na3-x+y-z(PO3-x-y-z-w(SO(SiO(WO(BO(x≧0,y≧0,z≧0,w≧0,0<x+y+z+w≦3)
で表されるナトリウム化合物を含有することを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料に関する。化学式(1)で表されるナトリウム化合物を含有することにより、より高速な条件での充放電容量が良好なナトリウムイオン電池用正極材料を提供することができる。
【0008】
本開示の一の態様では、x>0が好ましく、x≧0.05がより好ましい。高速な条件での充放電容量がより良好なナトリウムイオン電池用正極材料を提供することができる。
【0009】
本開示の一の態様では、y、z、w≧0が好ましく、y、z、w≧0.05がより好ましい。高速な条件での充放電容量がより良好なナトリウムイオン電池用正極材料を提供することができる。
【0010】
本開示の一の態様は、前記ナトリウム化合物と導電性炭素材料との複合材であることが好ましく、前記導電性炭素材料は多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー又はケッチェンブラックであることがさらに好ましい。高速な条件での充放電容量がさらに良好なナトリウムイオン電池用正極材料を提供することができる。
【0011】
本開示の他の態様は、本開示の一の態様のナトリウムイオン電池用正極材料を正極に用いることを特徴とするナトリウムイオン電池に関する。高速な条件での充放電容量が良好なナトリウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】NVP、10%S-NVP、5%S-5%Si-NVP、10%Si-NVP、10%W-NVP、10%B-NVPのXRDの回折パターンと、回折パターンから得られた格子定数と格子体積を示す。
図2】NVP、5%S-NVP、10%S-NVP、20%S-NVP、33%S-NVP、50%S-NVPの回折パターンと、回折パターンから得られた格子定数と格子体積を示す。
図3】NVP、10%S-NVP、5%S-5%Si-NVP、10%W-NVP、10%B-NVPの1Cから1000Cまでのレート試験の結果を示す。
図4】NVP、5%S-NVP、10%S-NVP、33%S-NVPの1Cから1000Cまでのレート試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0014】
<ナトリウムイオン電池用正極材料>
本実施形態のナトリウムイオン電池用正極材料は、化学式(1):Na3-x+y-z(PO3-x-y-z-w(SO(SiO(WO(BO(x≧0,y≧0,z≧0,w≧0,0<x+y+z+w≦3)で表されるナトリウム化合物を含有する。より高速な条件での充放電容量が良好なナトリウムイオン電池用正極材料を提供することができる。
【0015】
本実施形態では、x>0が好ましく、x≧0.05がより好ましい。POが価数の小さいSOに置換されることにより、電荷補償によってNa量が減少する。これにより、分子量が小さくなり、理論容量が向上する。このことに加え、Naの拡散性が向上し、高速な条件での充放電容量が良好となる。
【0016】
本実施形態では、y≧0が好ましく、y≧0.05がより好ましい。POがイオン半径の大きいSiOに置換されることにより、格子体積が膨張する。これにより、Naの拡散性が向上し、高速な条件での充放電容量が良好となる。
【0017】
本実施形態では、z≧0が好ましく、z≧0.05がより好ましい。POが価数の小さいWOに置換されることにより、電荷補償によってNa量が減少する。WOはPOよりも分子量が大きいため、理論容量は減少するものの、Na量の減少により、Naの拡散性が向上し、高速な条件での充放電容量が良好となる。
【0018】
本実施形態では、w≧0が好ましく、w≧0.05がより好ましい。POが分子量の小さいBOに置換されることにより、理論容量が向上する。これにより、高速な条件での充放電容量が良好となる。
【0019】
本実施形態のナトリウムイオン電池用正極材料は、ナトリウム化合物と導電性炭素材料との複合材であることが好ましく、導電性炭素材料は多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー又はケッチェンブラックであることがさらに好ましい。
【0020】
本実施形態のナトリウムイオン電池用正極材料は、ナトリウムイオン電池の正極材料に好適である。
【0021】
<製造方法>
本実施形態のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法は、導電性炭素材料の表面に化学式(1):Na3-x+y-z(PO3-x-y-z-w(SO(SiO(WO(BO(x≧0,y≧0,z≧0,w≧0,0<x+y+z+w≦3)
で表されるナトリウム化合物を結合させる結晶化工程を含む。以下に、第1工程~第3工程を有する結晶化工程を一例として説明する。
【0022】
第1工程では、導電性炭素材料と、リン酸源と、硫黄源、ケイ素源、タングステン源又はホウ素源とを水に加えて1回目のメカノケミカル処理を行う。1回目のメカノケミカル処理に伴う機械的エネルギーによって、導電性炭素材料にリン酸源又はバナジウム源を付着させ、導電性炭素材料の表面上に化学式(1)で表されるナトリウム化合物の基点を生成する。
【0023】
メカノケミカル処理は、旋回する反応容器等を用いてずり応力、遠心力、その他の機械的エネルギーを与える処理であり、例えば、超遠心力処理(Ultra-Centrifugation Treatment(以下、UC処理))が挙げられる。
【0024】
UC処理の反応器は外筒と内筒の同心円筒からなり、旋回可能な内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている。内筒の旋回による遠心力によって内筒内の反応物を内筒の貫通孔を通じて外筒の内壁面に移動させ、外筒の内壁面に反応物を含む薄膜を生成するとともに、この薄膜にずり応力と遠心力を加える。この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと思われる。短時間で反応を進行させるのに必要な機械的エネルギーを発生させるには、1500N(kgms-2)以上の遠心力を発生させることが好ましく、より好ましくは60000N以上である。
【0025】
第2工程では、第1工程で得られたリン酸源と導電性炭素材料等の分散液に対して、ナトリウム源とバナジウム源と複数のカルボキシル基を有する有機化合物を添加し、2回目のメカノケミカル処理を行う。2回目のメカノケミカル処理に伴う機械的エネルギーによって、導電性炭素材料の表面上に生成された化学式(1)で表されるナトリウム化合物の基点に、化学式(1)で表されるナトリウム化合物の前駆体を生成する。
【0026】
メカノケミカル処理は、ナトリウム源、バナジウム源、リン酸源、硫黄源、ケイ素源、タングステン源若しくはホウ素源、並びに、導電性炭素材料の微細化と高分散化処理を兼ねていると考えられる。第1~第2工程のメカノケミカル処理による錯形成反応、加水分解反応、重合反応、縮合反応等により、化学式(1)で表されるナトリウム化合物の前駆体の生成促進、前駆体と導電性炭素材料との結合促進及び前駆体のナノ粒子化が図られる。
【0027】
なお、メカノケミカル処理を2回行う例を説明したが、微粒子化や高分散化をさらに図る観点から、各原料の混合後、さらにメカノケミカル処理を行ってもよい、即ち、メカノケミカル処理を3回以上行う構成としてもよい。また、各原料を一度に混合し、混合液に対してメカノケミカル処理を1回行う構成としてもよい。
【0028】
第3工程では、第2工程で得られた混合液をエバポレーターにより濃縮、乾燥し、80~130℃で真空乾燥した後、空気中で250~300℃、3~5時間の予備焼成を行う。この予備焼成により、導電性炭素材料以外の炭素を除去する。また、複数のカルボキシル基を有する有機化合物を除去する。
【0029】
さらに、窒素雰囲気中で700~900℃、5~120分間の焼成を行う。この焼成で、バナジウムが凝集することなく酸化され、化学式(1)で表されるナトリウム化合物の結晶化が進行する。さらに、化学式(1)で表されるナトリウム化合物のナノ粒子が導電性炭素材料の表面に結合した粉末状複合材の電極材料が得られる。
【0030】
なお、結晶化工程では導電性炭素材料の表面に化学式(1):Na3-x+y-z(PO3-x-y-z-w(SO(SiO(WO(BO(x≧0,y≧0,z≧0,w≧0,0<x+y+z+w≦3)で表されるナトリウム化合物が結合されていればよく、上記に限定されない。即ち、各原料の混合の順番、焼成の回数やタイミングは、適宜変更することができる。
【0031】
導電性炭素材料としては、多層カーボンナノチューブ及び中空シェル状の構造を有する導電性のカーボンブラック(例えば、ケッチェンブラック(登録商標))が好適であるが、カーボンナノファイバー、アセチレンブラック等のカーボンブラック、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭、メソポーラス炭素、ナノポーラス炭素、グラフェン、フラーレン又はこれらの複数の混合物も適用可能である。
【0032】
バナジウム源及びリン酸源としては、金属のアンモニウム塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化合物、及びキレート化剤が挙げられる。具体的には、バナジウム源としては、NHVOを用いることができる。ただし、V、V、金属バナジウム、V、バナジウム(III)アセチルアセトネート及びバナジウム(IV)オキシアセチルアセトナートであってもよい。リン酸源としては、HPOを用いることができる。ただし、NHPO、(NHHPO、P、NaPO、NaHPO及びNaHPO等のPO含有化合物であってもよい。
【0033】
硫黄源としては、NaSOを用いることができる。ただし、HSO、(NHSO、NHHSO、(CSO及びNaであってもよい。
【0034】
ケイ素源としては、TEOS(Si(OC)を用いることができる。ただし、SiOであってもよい。
【0035】
タングステン源としては、NaWOを用いることができる。ただし、HWO、WO及びタングステン酸アンモニウム((NH101241)であってもよい。
【0036】
ホウ素源としては、HBOを用いることができる。ただし、トリメトキシボラン及び((NH)であってもよい。
【0037】
ナトリウム源としては、CHCOONaが挙げられる。ただし、NaNO、NaCO、NaOH、NaCl、NaSO及びNaCであってもよい。
【0038】
複数のカルボキシル基を有する有機化合物としては、トリカルボン酸のクエン酸が挙げられるが、シュウ酸、マロン酸、コハク酸などのジカルボン酸であってもよい。
【実施例0039】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
下記に示す製造手順により、化学式(1):Na3-x+y-z(PO3-x-y-z-w(SO(SiO(WO(BO(x≧0,y≧0,z≧0,w≧0,0<x+y+z+w≦3)で表されるナトリウム化合物と多層カーボンナノチューブ(以後、MWCNTという場合がある)の複合材からなる電極材料を生成した。
【0041】
化学式(1):Na3-x+y-z(PO3-x-y-z-w(SO(SiO(WO(BO(x≧0,y≧0,z≧0,w≧0,0<x+y+z+w≦3)で表されるナトリウム化合物の原料は、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、酢酸ナトリウム(CHCOONa)、リン酸(HPO)、硫酸ナトリウム(NaSO)、TEOS(Si(OC)、タングステン酸ナトリウム二水和物(NaWO・2HO)、ホウ酸(HBO)を用いた。MWCNTの平均繊維径は15~30nmとした。化学式(1):Na3-x+y-z(PO3-x-y-z-w(SO(SiO(WO(BO(x≧0,y≧0,z≧0,w≧0,0<x+y+z+w≦3)で表されるナトリウム化合物の原料とMWCNTの質量比を70:30とした。
【0042】
まず、蒸留水0.15gに、MWCNTと、リン酸(HPO)と、硫酸ナトリウム(NaSO)、TEOS(Si(OC)、タングステン酸ナトリウム二水和物(NaWO・2HO)若しくはホウ酸(HBO)とを加えた混合液を作成した。この混合液を80℃の環境下においてUC処理を行った。UC処理では、内筒を回転速度50m/sで回転させ、6600Nの遠心力を300秒間混合液に与えた(第1工程)。
【0043】
得られた混合液に、酢酸ナトリウム(CHCOONa)と、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)と、クエン酸と、蒸留水0.15gを加えた。以上の混合液に対し、第1工程と同じ条件でUC処理を行った(第2工程)。
【0044】
得られた混合液をエバポレーターにより濃縮、乾燥し、80℃で真空乾燥した後、空気中で300℃、5時間の予備焼成を行った。その後、窒素雰囲気中で800℃、30分間の焼成を行った。以上の結晶化工程により、化学式(1):Na3-x+y-z(PO3-x-y-z-w(SO(SiO(WO(BO(x≧0,y≧0,z≧0,w≧0,0<x+y+z+w≦3)で表されるナトリウム化合物がMWCNTの表面に結合された電極材料を得た。(第3工程)
【0045】
第1~第2工程での原料の配合を表1に示す。
【表1】
【0046】
得られた電極材料について、XRD(X線粉末回折法)による回折パターンの測定と、下記試験条件にて2種類のレート試験を行った。
・動作電極 電極材料:ポリフッ化ビニリデン(PVDF)=90:10
・対極 活性炭(AC):ケッチェンブラック(KB):ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)=80:10:10
・電解液 1.0M NaPF in エチレンカルボナート(EC):炭酸ジエチル(DEC)(1:1)
・動作電位 -1.0~0.9V vs. AC
・放電レート 1~1000C(1C=118mAg-1
【0047】
2種類のレート試験の内容を以下に示す。
【0048】
<レート試験1>
第1~第51サイクルを1Cで充放電を行ったときの第49~第51サイクルの放電容量(mAhg-1)を測定した。
【0049】
<レート試験2>
第1~第3サイクルは1C、第4~第6サイクルは10C、第7~第9サイクルは30C、第10~第12サイクルは60C、第13~第15サイクルは100C、第16~第18サイクルは120C、第19~第21サイクルは180C、第22~第24サイクルは240C、第25~第27サイクルは300C、第28~第30サイクルは360C、第31~第33サイクルは420C、第34~第36サイクルは480C、第37~第39は600C、第40~第42サイクルは720C、第43~第45サイクルは850C、第46~48サイクルは1000Cで充放電を行ったときの各サイクルの放電容量(mAhg-1)を測定した。
【0050】
図1にNVP、10%S-NVP、5%S-5%Si-NVP、10%Si-NVP、10%W-NVP、10%B-NVP、図2にNVP、5%S-NVP、10%S-NVP、20%S-NVP、33%S-NVP、50%S-NVPのXRDの回折パターンと、回折パターンから得られた格子定数と格子体積を示す。
【0051】
図1より、格子定数、格子体積ともにNVPに対して変化しており、(SiO4-、(SO2-、(WO2-若しくは(BO3-の固溶を確認できた。また、図2より、20%S-NVPでVの生成が確認され、(SO2-の固溶限界が10-20%S-NVPの間にあることがわかった。
【0052】
図3にNVP、10%S-NVP、5%S-5%Si-NVP、10%W-NVP、10%B-NVP、図4にNVP、5%S-NVP、10%S-NVP、33%S-NVPのレート試験の結果を示す。
【0053】
図3より、レート試験1での1Cに対する1000Cの容量維持率を表2に示す。
【表2】
【0054】
レート試験1での容量維持率はいずれも高く、1Cでのレート試験では大きな差は出なかった。
【0055】
図4より、レート試験2での1Cに対する1000Cの容量維持率を表3に示す。
【表3】
【0056】
1Cに対する1000Cの容量維持率は、NVPが57%であったのに対し、5%S-NVPが78%、10%S-NVPが85%、33%S-NVPが62%と、実施例はいずれも高かった。特に、10%S-NVPは1000Cという高速な条件で非常に良好な充放電容量を示した。本発明の電極材料は、急速充放電が可能なナトリウムイオン電池用正極材料として期待される。
【0057】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、本実施形態の構成も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。
図1
図2
図3
図4