(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086258
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】演算デバイス、並びに、それを学習させる学習方法及び学習装置
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20240620BHJP
【FI】
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201293
(22)【出願日】2022-12-16
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 雄生
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓文
(72)【発明者】
【氏名】箱嶋 将弥
(72)【発明者】
【氏名】琴岡 匠
(57)【要約】
【課題】機能材料によって構成されたリザバ層と、出力層とを具備する演算デバイスを対象に学習精度の向上が図れる演算デバイスの学習方法及び学習装置を提供する。
【解決手段】機能材料によって構成され、与えられる入力信号Siを変換して中間信号Scを生成するリザバ層11と、中間信号Scを基に出力信号Soを導出する出力層12とを備える演算デバイス10の学習方法は、学習用の例題信号Sbに学習用の例題信号Sbの大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズSnを与えて学習用の入力信号Si’を生成する第1工程と、リザバ層11に学習用の入力信号Si’を与えて出力層12に出力信号Soを導出させる第2工程と、中間信号Scから出力信号Soを導出する出力層12の算出アルゴリズムを、第2工程で出力層12が実際に導出した出力信号Soと学習用の例題信号Sbに対応する教師信号Srとの比較によって更新する第3工程とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスを学習させる学習方法であって、
学習用の例題信号に該学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズを与えて学習用の前記入力信号を生成する第1工程と、
前記リザバ層に前記学習用の入力信号を与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる第2工程と、
前記中間信号から前記出力信号を導出する前記出力層の算出アルゴリズムを、前記第2工程で前記出力層が実際に導出した前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号との比較によって更新する第3工程とを有することを特徴とする演算デバイスの学習方法。
【請求項2】
機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスを学習させる学習方法であって、
前記リザバ層に前記入力信号として学習用の例題信号を与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる第1工程と、
前記中間信号から前記出力信号を導出する前記出力層の算出アルゴリズムを、前記第1工程で前記出力層が実際に導出した前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号との比較によって更新する第2工程とを有し、
前記第1工程で前記リザバ層にエネルギーを与えて該リザバ層内に前記学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズを生じさせることを特徴とする演算デバイスの学習方法。
【請求項3】
請求項2記載の演算デバイスの学習方法において、前記エネルギーの前記リザバ層への付与は、該リザバ層への光の照射、該レザバ層への熱の付与及び該リザバ層の振動のいずれか一つ又は複数の組み合わせによりなされることを特徴とする演算デバイスの学習方法。
【請求項4】
機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスを学習させる学習装置であって、
学習用の例題信号に該学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズを与えて学習用の前記入力信号を生成する信号生成部と、
前記リザバ層に前記学習用の入力信号を与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる入力部と、
前記入力部による前記リザバ層への前記学習用の入力信号の付与により前記出力層が導出する前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号とを比較して、前記中間信号から前記出力信号を導出する該出力層の算出アルゴリズムを更新するアルゴリズム更新部とを備えることを特徴とする演算デバイスの学習装置。
【請求項5】
機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスを学習させる学習装置であって、
学習用の例題信号を作成する信号生成部と、
前記学習用の例題信号を前記入力信号として前記リザバ層に与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる入力部と、
前記入力部による前記リザバ層への前記学習用の例題信号の付与により前記出力層が導出する前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号とを比較して、前記中間信号から前記出力信号を導出する前記出力層の算出アルゴリズムを更新するアルゴリズム更新部と、
前記学習用の例題信号が与えられている前記リザバ層にエネルギーを与えて該リザバ層内に前記学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下のノイズを生じさせるノイズ生成部とを備えることを特徴とする演算デバイスの学習装置。
【請求項6】
請求項5記載の演算デバイスの学習装置において、前記ノイズ生成部は、前記リザバ層への光の照射、該レザバ層への熱の付与及び該リザバ層の振動のいずれか一つ又は複数を行って前記ノイズを生じさせることを特徴とする演算デバイスの学習装置。
【請求項7】
機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスであって、
学習用の例題信号に該学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズを与えて生成した学習用の前記入力信号を前記リザバ層に与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる第1工程と、
前記中間信号から前記出力信号を導出する前記出力層の算出アルゴリズムを、前記第1工程で前記出力層が実際に導出した前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号との比較によって更新する第2工程とを有する学習方法を経て、製造されたことを特徴とする演算デバイス。
【請求項8】
機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスであって、
エネルギーを与えられて学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズが生じた状態の前記リザバ層に前記学習用の例題信号を与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる第1工程と、
前記中間信号から前記出力信号を導出する前記出力層の算出アルゴリズムを、前記第1工程で導出した前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号との比較によって更新する第2工程とを有する学習方法を経て、製造されたことを特徴とする演算デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、与えられた入力信号に対応する出力信号を導出する演算デバイス、並びに、それを学習させる学習方法及び学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューラルネットワークの中で、時系列予測などに高い性能を発揮するリザバ計算モデルが注目されている(特許文献1、2参照)。リザバ計算モデルは、入力層と、入力層から与えられる入力信号を変換した信号(以下、「中間信号」とも言う)を出力するリザバ層と、中間信号を基に入力信号に対応する出力信号を算出する出力層を備えている。リザバ層は電子回路やマテリアル(有機材料や無機材料等の材料)等によって構成することができる(特許文献3、4参照)。
【0003】
マテリアルによりリザバ層を構成するには、マテリアルに、導電性に加えて、非線形な電気特性等が求められる。これは、非線形な電気特性を有するマテリアルが、ニューラルネットワークにおいて、与えられた値を活性化関数により変換し異なる値として出力するニューラル素子としての役割を担うことや、目的変数を求めるために非線形回帰や分類を行うことが可能となるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-201557号公報
【特許文献2】特開2020-071755号公報
【特許文献3】特開2009-157600号公報
【特許文献4】特開2015-050248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、IOT等で収集されたビックデータを扱うことが求められる機会が増している。その結果、リザバ計算モデルによる情報処理においては効率的な処理や学習精度の向上が期待されている。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、機能材料によって構成されたリザバ層と出力層とを具備する演算デバイス、並びに、演算デバイスを対象に、学習精度の向上が図れる演算デバイスの学習方法及びそれを行う学習装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る演算デバイスの学習方法は、機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスを学習させる学習方法であって、学習用の例題信号に該学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズを与えて学習用の前記入力信号を生成する第1工程と、前記リザバ層に前記学習用の入力信号を与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる第2工程と、前記中間信号から前記出力信号を導出する前記出力層の算出アルゴリズムを、前記第2工程で前記出力層が実際に導出した前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号との比較によって更新する第3工程とを有する。
【0007】
前記目的に沿う第2の発明に係る演算デバイスの学習方法は、機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスを学習させる学習方法であって、前記リザバ層に前記入力信号として学習用の例題信号を与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる第1工程と、前記中間信号から前記出力信号を導出する前記出力層の算出アルゴリズムを、前記第1工程で前記出力層が実際に導出した前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号との比較によって更新する第2工程とを有し、前記第1工程で前記リザバ層にエネルギーを与えて該リザバ層内に前記学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズを生じさせる。
【0008】
前記目的に沿う第3の発明に係る演算デバイスの学習装置は、機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスを学習させる学習装置であって、学習用の例題信号に該学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズを与えて学習用の前記入力信号を生成する信号生成部と、前記リザバ層に前記学習用の入力信号を与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる入力部と、前記入力部による前記リザバ層への前記学習用の入力信号の付与により前記出力層が導出する前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号とを比較して、前記中間信号から前記出力信号を導出する該出力層の算出アルゴリズムを更新するアルゴリズム更新部とを備える。
【0009】
前記目的に沿う第4の発明に係る演算デバイスの学習装置は、機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスを学習させる学習装置であって、学習用の例題信号を作成する信号生成部と、前記学習用の例題信号を前記入力信号として前記リザバ層に与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる入力部と、前記入力部による前記リザバ層への前記学習用の例題信号の付与により前記出力層が導出する前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号とを比較して、前記中間信号から前記出力信号を導出する前記出力層の算出アルゴリズムを更新するアルゴリズム更新部と、前記学習用の例題信号が与えられている前記リザバ層にエネルギーを与えて該リザバ層内に前記学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下のノイズを生じさせるノイズ生成部とを備える。
【0010】
前記目的に沿う第5の発明に係る演算デバイスは、機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスであって、学習用の例題信号に該学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズを与えて生成した学習用の前記入力信号を前記リザバ層に与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる第1工程と、
前記中間信号から前記出力信号を導出する前記出力層の算出アルゴリズムを、前記第1工程で前記出力層が実際に導出した前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号との比較によって更新する第2工程とを有する学習方法を経て、製造された。
【0011】
前記目的に沿う第6の発明に係る演算デバイスは、機能材料によって構成され、与えられる入力信号を変換して中間信号を生成するリザバ層と、前記中間信号を基に出力信号を導出する出力層とを備える演算デバイスであって、エネルギーを与えられて学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズが生じた状態の前記リザバ層に前記学習用の例題信号を与えて前記出力層に前記出力信号を導出させる第1工程と、前記中間信号から前記出力信号を導出する前記出力層の算出アルゴリズムを、前記第1工程で導出した前記出力信号と前記学習用の例題信号に対応する教師信号との比較によって更新する第2工程とを有する学習方法を経て、製造された。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明に係る演算デバイスの学習方法は、学習用の例題信号に学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズを与えて学習用の入力信号を生成する第1工程と、リザバ層に学習用の入力信号を与えて出力層に出力信号を導出させる第2工程と、中間信号から出力信号を導出する出力層の算出アルゴリズムを、第2工程で出力層が実際に導出した出力信号と学習用の例題信号に対応する教師信号との比較によって更新する第3工程とを有するので、演算デバイスの学習精度の向上を図ることが可能である。
【0013】
第2の発明に係る演算デバイスの学習方法は、リザバ層に学習用の例題信号を与えて出力層に出力信号を導出させる第1工程と、中間信号から出力信号を導出する出力層の算出アルゴリズムを、第1工程で出力層が実際に導出した出力信号と学習用の例題信号に対応する教師信号との比較によって更新する第2工程とを有し、第1工程でリザバ層にエネルギーを与えてリザバ層内に学習用の例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズを生じさせるので、演算デバイスの学習精度の向上を図ることが可能である。
【0014】
上記第1の発明に係る演算デバイスの学習方法及び上記第2の発明に係る演算デバイスの学習方法が、学習用の例題信号をノイズの発生がないリザバ層に与えて演算デバイスを学習させる学習方法に比べて、学習精度が高くなることを実験により確認している。
【0015】
また、第3の発明に係る演算デバイスの学習装置及び第5の発明に係る演算デバイスは第1の発明に係る演算デバイスの学習方法に対応し、第4の発明に係る演算デバイスの学習装置及び第6の発明に係る演算デバイスは第2の発明に係る演算デバイスの学習方法に対応することから、第3の発明に係る演算デバイスの学習装置及び第4の発明に係る演算デバイスの学習装置も演算デバイスの学習精度の向上を図ることができ、第5の発明に係る演算デバイス及び第6の発明に係る演算デバイスは学習精度の向上が図られた学習を経て製造されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る演算デバイスの学習方法を示す説明図である。
【
図2】変形例に係る演算デバイスの学習方法を示す説明図である。
【
図3】第1の実験による電圧及び電流の計測結果を示す説明図である。
【
図4】第2の実験で作成されたリサージュ曲線を示す説明図である。
【
図5】第3の実験によるFFT解析の結果を示す説明図である。
【
図6】第4の実験で調べたノイズの大きさに対する学習精度の関係を示す説明図である。
【
図7】第5の実験で作成された光が照射されなかった場合のリサージュ曲線を示す説明図である。
【
図8】同実験で作成された光が照射された場合のリサージュ曲線を示す説明図である。
【
図9】(A)、(B)はそれぞれ、第6の実験で光を照射しなかった場合の学習精度を計測した結果を示す説明図及び同実験で光を照射した場合の学習精度を計測した結果を示す説明図である。
【
図10】第7の実験で調べたノイズの有無と学習精度の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る演算デバイス10は、機能材料によって構成され、与えられる入力信号Siを変換して中間信号Scを生成するリザバ層11と、中間信号Scを基に出力信号Soを導出する出力層12とを備えるデバイスである。以下、詳細に説明する。
【0018】
演算デバイス10は、
図1に示すように、リザバ層11に与えられる入力信号Siの基となる学習用の例題信号Sbを生成する入力層13と組み合わされることによってリザバ計算モデルを構成する。
リザバ層11はリザバ層11に電気的に接続された複数(本実施の形態では、16個)の端子14と共に矩形の基板15上に設けられている。
【0019】
本実施の形態では、リザバ層11が一種類の機能材料(具体的には、Ag2Seナノワイヤ)又は複数種の機能材料(具体的には、α-Fe2O3及びTi-Bi-O)によって構成された矩形状の板状物である。また、機能材料として、有機材料や無機材料又はそれらの複合材を用いることが可能である。リザバ層11は、1)非線形電気特性を有すること、2)入力信号Siと中間信号Sc間に位相差を設けることができること、3)高次高調波性を有することが求められる。そのため、リザバ層11を1種類の機能材料で構成する場合、当該機能材料単独で上記1)、2)、3)を満たす必要があり、リザバ層11を複数種の機能材料で構成する場合、当該複数種の機能材料を組み合わせることで上記1)、2)、3)を満たす必要がある。
【0020】
各端子14は金属板(例えば、Auの板状物やCuの板状物)であり、複数の端子14全体でリザバ層11を取り囲むように各端子14が配置されている。各端子14は入力層13に電気的に接続された入力端子又は出力層12に電気的に接続された出力端子のいずれかとして利用することができ、本実施の形態では、16個の端子14のうち1つが入力端子として利用され、残りの15個の端子14が出力端子として利用されている。
なお、リザバ層11を取り囲むように複数の端子14を配置する必要や、各端子14を金属板とする必要がない(各端子14は導電性を有すればよい)ことは言うまでもない。
【0021】
入力層13から入力端子としての端子14に入力信号(本実施の形態では電気信号)Siが与えられると、リザバ層11には当該端子14経由で入力信号Siが入力され、その入力信号Siはリザバ層11内を変換されながら進行し、出力端子として用いられている各端子14に接続された部分(以下、「出力部」とも言う)に到達する。
【0022】
各出力部に到達した信号は各出力部に接続された(対応する)出力端子としての端子14経由で出力層12に送られる中間信号Scであり、通常、それぞれの出力部から端子14経由で出力層12に送られる中間信号Sc(出力部に生成される中間信号Sc)は異なる。
出力層12はリザバ層11から与えられた各中間信号Scを説明変数として目的変数を算出し、目的変数を出力信号Soとして出力する。
【0023】
図1の出力層12に記載された数式が説明変数(x
i)から目的変数を算出する演算式であり、これが中間信号Scから出力信号Soを導出する算出アルゴリズムに相当する。当該数式中のW
iは各説明変数に重み付けするための重みであり、演算デバイス10に対する学習によって各重みの大きさが決定される。
【0024】
次に、演算デバイス10の学習方法について説明する。
演算デバイス10の学習方法は、以下に記す第1工程、第2工程及び第3工程を有する。
【0025】
第1工程:
図1に示すように、学習用の例題信号Sbにその学習用の例題信号Sbの大きさの0.1%以上1.0%以下(好ましくは0.2%以上0.7%以下、より好ましくは0.3%以上0.5%以下)の大きさのノイズSnを与えて学習用の入力信号Si’を生成する。ここで、学習用の例題信号Sbの大きさとは、学習用の例題信号Sbの値の最大値と最小値の差分を意味し、例えば、例題信号Sbが正弦波の場合、正弦波の振幅(ピークピーク値)が学習用の例題信号Sbの大きさとなる。
第2工程:リザバ層11に学習用の入力信号Si’を与えて出力層12に出力信号Soを導出させる。
第3工程:算出アルゴリズムを、第2工程で出力層12が実際に導出した出力信号Soと学習用の例題信号Sbに対応する教師信号Srとの比較によって更新するフィードバック処理を行う。
【0026】
演算デバイス10に正弦波の電気信号が入力信号Siとして与えられた際に矩形波の電気信号を出力信号Soとして出力するように演算デバイス10を学習させる場合、正弦波の電気信号を学習用の例題信号Sbとし、矩形波の電気信号を教師信号Srとして、第1工程、第2工程及び第3工程を順次行う処理を繰り返し、出力層12から出力される出力信号Soが矩形波の電気信号に近づくようにする。
【0027】
ここで、学習用の例題信号Sbの大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズSnを与えて生成した電気信号を学習用の入力信号Si’ としているのは、種々の検証の結果、学習用の例題信号Sbを学習用の入力信号Si’としてリザバ層11に与える場合に比べて、学習精度が高くなること、即ち、出力信号Soの教師信号Srに対する適合率が高まることを確認したためである。
【0028】
学習用の例題信号Sbに与えるノイズSnを発生させるノイズ生成手段として、ノイズ発生回路やファンクションジェネレータ等を採用可能である。ノイズ生成手段は、入力層13内で学習用の例題信号SbにノイズSnを与えられるように、又は、入力層13とリザバ層11の間で入力層13から出力された学習用の例題信号SbにノイズSnを与えられるように設計される。
【0029】
また、学習用の例題信号SbにノイズSnを与えた信号を学習用の入力信号Si’とする代わりに、
図2に示すように、学習用の例題信号Sbが端子14経由で入力されたリザバ層11にエネルギーEを与えてリザバ層11内でノイズSnを発生させて演算デバイス10を学習させることもできる。具体的には、当該演算デバイス10の学習方法が、以下に記す第1工程及び第2工程を有することとなる。なお、
図2では、ノイズSnの記載を省略している。
【0030】
第1工程:リザバ層11に学習用の例題信号Sbを与えて出力層12に出力信号Soを導出させる。
第2工程:中間信号Scから出力信号Soを導出する出力層12の算出アルゴリズムを、第1工程で出力層12が実際に導出した出力信号Soと学習用の例題信号Sbに対応する教師信号Srとの比較によって更新する。
【0031】
ここで、第1工程でリザバ層11にエネルギーEを与えてリザバ層11内に学習用の例題信号Sbの大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズSnを生じさせる。リザバ層11内で発生したノイズSnは、入力端子としての端子14からリザバ層11に与えられた学習用の例題信号Sbがリザバ層11内を進行しながら変換された信号に与えられ(加えられ)、ノイズSnを与えられた信号が出力端子としての端子14経由で出力層12に与えられる。
【0032】
リザバ層11に与えられるエネルギーEとして、例えば、光エネルギー、熱エネルギー及びリザバ層11を振動させる運動エネルギーや、それらを組み合わせたエネルギーが挙げられる。よって、エネルギーEのリザバ層11への付与は、リザバ層11への光の照射、レザバ層11への熱の付与及びリザバ層11の振動のいずれか一つ又は複数の組み合わせによりなされる。ここで、リザバ層11内に学習用の例題信号Sbの大きさの0.1%以上の大きさのノイズSnを安定して生じさせるためには、エネルギーEが光エネルギーの場合、0.1mW/cm2以上の大きさが好ましく、エネルギーEが熱エネルギーの場合、0.1mJ以上の大きさが好ましく(上限としては、機能材料が熱変形や酸化をしない程度の大きさが好ましい)、エネルギーEが運動エネルギーの場合、リザバ層11の振動の周波数及び振幅の乗算値が0.05m/s以上にできる大きさの運動エネルギーが好ましい。
【0033】
光エネルギーをリザバ層11に与えて、リザバ層11内にノイズSnを発生させる場合、リザバ層11を構成する機能材料(複数種の機能材料によってリザバ層11を構成する場合は、少なくとも一種類の機能材料)に光応答性を有する材料(例えば、Ti-Bi-O)を選択する必要がある。熱エネルギーをリザバ層11に与える場合やリザバ層11を振動させる場合は、これらによるリザバ層内の個々の機能材料の接続状態や電気特性等が変わることによりリザバ層11にノイズSnが生じる。また、熱エネルギーをリザバ層11に与える場合、熱応答性を有する材料(例えば、酸化バナジウム)を有してリザバ層11を構成し、りザバ層11内にノイズSnを発生させるようにしてもよい。
【0034】
また、演算デバイス10は、1)学習用の例題信号Sbに学習用の例題信号Sbの大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズSnを与えて生成した学習用の入力信号Si’をリザバ層11に与えて出力層12に出力信号Soを導出させる第1工程と、中間信号Scから出力信号Soを導出する出力層12の算出アルゴリズムを、第1工程で出力層12が実際に導出した出力信号Soと学習用の例題信号Sbに対応する教師信号Srとの比較によって更新する第2工程とを有する学習方法を経て、あるいは、2)エネルギーEを与えられて学習用の例題信号Sbの大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズSnが生じた状態のリザバ層11に学習用の例題信号Sbを与えて出力層12に出力信号Soを導出させる第1工程と、中間信号Scから出力信号Soを導出する出力層12の算出アルゴリズムを、第1工程で導出した出力信号Soと学習用の例題信号Sbに対応する教師信号Srとの比較によって更新する第2工程とを有する学習方法を経て、製造されたものである。
【0035】
また、演算デバイス10を学習させる一の学習装置は、学習用の例題信号Sbに学習用の例題信号Sbの大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズSnを与えて学習用の入力信号Si’を生成する信号生成部と、リザバ層11に学習用の入力信号Si’を与えて出力層12に出力信号Soを導出させる入力部と、入力部によるリザバ層11への学習用の入力信号Si’の付与により出力層12が導出する出力信号Soと学習用の例題信号Sbに対応する教師信号Srとを比較して、中間信号Scから出力信号Soを導出する出力層12の算出アルゴリズムを更新するアルゴリズム更新部とを備えることとなる。
【0036】
演算デバイス10を学習させる他の学習装置は、学習用の例題信号Sbを作成する信号生成部と、学習用の例題信号Sbをリザバ層11に与えて出力層12に出力信号Soを導出させる入力部と、入力部によるリザバ層11への学習用の例題信号Sbの付与により出力層12が導出する出力信号Soと学習用の例題信号Sbに対応する教師信号Srとを比較して、中間信号Scから出力信号Soを導出する出力層12の算出アルゴリズムを更新するアルゴリズム更新部と、学習用の例題信号Sbが与えられているリザバ層11にエネルギーEを与えてリザバ層11内に学習用の例題信号Sbの大きさの0.1%以上1.0%以下のノイズSnを生じさせるノイズ生成部とを備える。
【0037】
信号生成部、入力部及びアルゴリズム更新部は、電子回路やマイクロコンピュータ等を有して構成できる。エネルギーEが光エネルギーの場合、リザバ層11にエネルギーEを与えるノイズ生成部は電灯によって構成でき、エネルギーEが熱エネルギーの場合、当該ノイズ生成部はヒータによって構成でき、エネルギーEが運動エネルギーの場合、当該ノイズ生成部はモータ及びカム等を有してリザバ層11を振動させる機器によって構成できる。
【実施例0038】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
【0039】
<第1の実験>
表面に16個のAuの板状物の端子が形成された基板上にα-Fe2O3及びTi-Bi-Oにより構成されたリザバ層を設け、リザバ層及び各端子を電気的に接続したサンプルS1を作成した。このサンプルS1の1つの端子に-5Vから+5Vまでの範囲の電圧を印加し、別の1つの端子の電圧及び電流を計測した。当該計測は、サンプルS1に対し光を照射しない場合及びサンプルS1に(リザバ層に)向けて100Wのキセノンランプ(以下の実験では、同キセノンランプを単に「キセノンランプ」と言う)で光を照射した場合のそれぞれについて、サンプルS1に印加する電圧を250mV刻みで変えて行った。
【0040】
計測結果を
図3に示す。
図3において、「no light」が光を照射しなかった場合の計測結果を示し、「100W」が光を照射した場合の計測結果を示す。
図3に示す計測結果より、サンプルS1に光を照射しなかった場合及び光を照射した場合のいずれにおいても、サンプルS1(リザバ層)が非線形の電流電圧特性を示した。また、光を照射した場合、光を照射しなかった場合に比べて電流値が1μA程度高くなること、即ち、サンプルS1のリザバ層が光応答性を有することが確認された。
【0041】
<第2の実験>
キセノンランプの光を照射された状態のサンプルS1の1つの端子に振幅が±3V(6Vpp)で周波数が11Hzの正弦波の電気信号(電圧)を入力し、別の1つの端子から出力される電気信号(電圧)を計測し、入力した電気信号及び出力された電気信号を基にリサージュ曲線を作成した。作成したリサージュ曲線を
図4に示す。
図4に示すリサージュ曲線により、リザバ層に入力された電気信号とリザバ層から出力された電気信号の間には位相差があったことが確認された。
【0042】
<第3の実験>
第2の実験で計測したリザバ層(他の端子)から出力された電気信号に対してFFT解析を行った結果を
図5に示す。
図5に示すFFT解析の結果より、リザバ層から出力された電気信号が高次高調波であったことが確認された。
【0043】
<第4の実験>
次に、サンプルS1の15個の端子にAD変換器及び情報処理端末によって構成した出力層を接続してサンプルS2を作成した。このサンプルS2に対し、サンプルS1の残りの1つの端子(出力層に接続されなかった端子)に、振幅が±3Vで周波数が11Hzの正弦波の電気信号(以下、「第1の実験用例題信号」とも言う)にノイズを付与した電気信号を与え、出力層から出力される出力信号が矩形波となるようにサンプルS2をフィードバック処理によって学習させる実験を行った。当該実験は、第1の実験用例題信号に与えるノイズの大きさを、第1の実験用例題信号の大きさの0%(ノイズなしを意味する)、0.3%、0.4%、0.5%及び0.7%として行った。なお、サンプルS1には光を照射しなかった。実験結果を
図6に示す。
【0044】
図6に示す実験結果より、第1の実験用例題信号の大きさの0.3%以上0.7%以下の大きさのノイズが付与された電気信号をサンプルS1(リザバ層)に与えた場合、第1の実験用例題信号をサンプルS1に与えた場合に比べて学習精度が高くなった。また、本実験結果より、第1の実験用例題信号の大きさの0.1%以上1.0%以下の大きさのノイズを付与した電気信号をサンプルS1に与える場合は、第1の実験用例題信号をサンプルS1に与える場合と比較して、学習精度が高くなることが容易に推測される。
【0045】
<第5の実験>
第1の実験用例題信号をサンプルS1の1つの端子に与え、サンプルS1の別の1つの端子から出力される電気信号を計測し、サンプルS1に与えた第1の実験用例題信号の電圧を横軸とし、サンプルS1から出力された電気信号の電圧を縦軸としたリサージュ曲線を作成した。このリサージュ曲線はサンプルS1のリザバ層に光を照射しなかった場合及び同リザバ層にキセノンランプの光を照射した場合でそれぞれ作成した。
【0046】
リザバ層に光を照射しなかった場合のリサージュ曲線及びリザバ層に光を照射した場合のリサージュ曲線をそれぞれ
図7及び
図8に示す。
図7及び
図8にそれぞれ示されたリサージュ曲線から、リザバ層に光を照射することによって、サンプルS1から出力された電気信号にノイズが生じることが確認された。
【0047】
<第6の実験>
サンプルS2に対し、サンプルS1の出力層に接続されていない端子に、第1の実験用例題信号を与え、出力層から出力される出力信号が矩形波となるようにサンプルS2をフィードバック処理によって学習させ、学習後に、第1の実験用例題信号と同じ入力信号をサンプルS2に与えて出力される出力信号を矩形波の電気信号と比較して学習精度を計測する実験を、リザバ層に光を照射しなかった場合、リザバ層に光を照射(リザバ層には2.37W/m2の強さの光を照射)した場合とでそれぞれ行った。
【0048】
リザバ層に光を照射しなかった場合の実験結果及びリザバ層に光を照射した場合の実験結果を、
図9(A)、(B)にそれぞれ示す。各実験結果において、「Target」は矩形波を表し、「Train」は学習時の出力信号を表し、「Test」は学習精度を計測時の出力信号を表している。
図9(A)、(B)に示すように、リザバ層に光を照射しなかった実験で学習精度が90.3%であったのに対し、リザバ層に光を照射した実験では学習精度が90.7%であった。
【0049】
<第7の実験>
表面に16個のAlの板状物の端子が形成された基板上にAg2Seナノワイヤにより構成されたリザバ層を設け、リザバ層及び各端子を電気的に接続し、15個の端子にサンプルS2と同じ出力層を接続したサンプルS3を作成した。このサンプルS3の出力層に接続されていない端子に、振幅が±1Vで周波数が11Hzの正弦波の電気信号(以下、「第2の実験用例題信号」とも言う)を与え、出力層から出力される出力信号が所定の教師信号となるようにフィードバック処理によって学習させる場合の学習精度と、サンプルS3の同じ端子に、第2の実験用例題信号に0.01Vの大きさのノイズを付与した電気信号を与え、出力層から出力される出力信号が所定の教師信号となるようにサンプルS3をフィードバック処理によって学習させる場合の学習精度を比較する実験を、教師信号を三角波の信号及びsin2ωの信号として行った。
【0050】
実験結果を
図10に示す。教師信号を三角波の信号とした実験及び教師信号をsin2ωの信号とした実験のいずれにおいても、第2の実験用例題信号にノイズを付与した電気信号をサンプルS3に与えた場合が第2の実験用例題信号をそのままサンプルS3に与えた場合より学習精度が高くなった。
【0051】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、リザバ層に電気的に接続された入力端子は複数個であってもよいし、リザバ層に電気的に接続された出力端子は1つであってもよい。
また、リザバ層、入力端子及び出力端子を基板上に設けなくてもよい。更に、リザバ層を矩形状の板状物に形成する必要はなく、例えば、リザバ層を立方体形状や球体状に形成してもよい。
【0052】
リザバ層を1種類の機能材料で構成する場合、機能材料にポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール及びそれぞれの誘導体、硫化銀など16族と遷移金属を組み合わせたものを採用してもよい。リザバ層を2種類の機能材料で構成する場合、対となる無機材料としてPEDOT:PSSやカーボンナノチューブ/ポリ酸を採用できる。
10:演算デバイス、11:リザバ層、12:出力層、13:入力層、14:端子、15:基板、E:エネルギー、Sb:学習用の例題信号、Sc:中間信号、Si:入力信号、Si’:学習用の入力信号、Sn:ノイズ、Sr:教師信号、So:出力信号