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特開2024-86280繊維強化プラスチック成形材料及びこれに用いられる強化繊維基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086280
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック成形材料及びこれに用いられる強化繊維基材
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/12 20060101AFI20240620BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20240620BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20240620BHJP
   D03D 15/25 20210101ALI20240620BHJP
   D03D 15/573 20210101ALI20240620BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20240620BHJP
   D03D 15/44 20210101ALI20240620BHJP
   B29K 105/14 20060101ALN20240620BHJP
【FI】
B29B15/12
D03D1/00 A
D03D11/00 Z
D03D15/25
D03D15/573
D03D15/47
D03D15/44
B29K105:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201325
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508098442
【氏名又は名称】北陸ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】村上 信吉
(72)【発明者】
【氏名】木村 圭一
(72)【発明者】
【氏名】北村 雅之
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直之
【テーマコード(参考)】
4F072
4L048
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AB06
4F072AB09
4F072AB11
4F072AB15
4F072AB17
4F072AB28
4F072AB29
4F072AB33
4F072AD24
4F072AH24
4F072AL11
4L048AA03
4L048AA04
4L048AA25
4L048AA34
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB18
4L048AB19
4L048BA01
4L048BA09
4L048CA01
4L048DA41
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸した繊維強化プラスチック成形材料について、それを用いた繊維強化プラスチックが厚み方向に高い熱伝導性を発現することができる繊維強化プラスチック成形体を提供する。
【解決手段】強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸した繊維強化プラスチック成形材料であって、前記強化繊維基材は、強化繊維と、金属線又は金属繊維からなる金属線材とを用いて形成され、かつ、該強化繊維基材の表面における単位面積あたりの金属線材の質量が100g/m以上であると共に、該強化繊維基材の表面に現れる金属線材の屈曲点が500個/25mm角以上の繊維強化プラスチック成形材料である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸した繊維強化プラスチック成形材料であって、
前記強化繊維基材は、強化繊維と、金属線又は金属繊維からなる金属線材とを用いて形成されており、(a)前記強化繊維を経糸及び緯糸に用いた多層構造織を有するものであるか、又は(b)前記強化繊維を一方向繊維層として用いたノンクリンプファブリックからなり、
該強化繊維基材の単位面積あたりの金属線材の質量が100g/m以上であると共に、該強化繊維基材の表面に現れる金属線材の屈曲点が500個/25mm角以上であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形材料。
【請求項2】
前記強化繊維基材の厚み中心線を通る断面における単位面積当たりの金属線材の断面積の割合が3%以上である請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
【請求項3】
前記強化繊維基材が、前記強化繊維からなる経糸の上下を前記強化繊維からなる緯糸で挟み込んだ強化繊維集合体を前記金属線材からなる留め糸で前記経糸の方向に沿うようにして織り込んだ多層構造織を有するものである請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
【請求項4】
前記強化繊維基材が、前記強化繊維を前記金属線材でカバーリングしたハイブリッドカバーリング糸を用いて形成した一方向繊維層を有するノンクリンプファブリックである請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
【請求項5】
前記マトリックス樹脂がフェノキシ樹脂である請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
【請求項6】
請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形材料を用いた繊維強化プラスチック。
【請求項7】
マトリックス樹脂を含浸させて繊維強化プラスチック成形材料を得るための強化繊維基材であって、
強化繊維と、金属線又は金属繊維からなる金属線材とを用いて形成されており、(a)前記強化繊維を経糸及び緯糸に用いた多層構造織を有するものであるか、又は(b)前記強化繊維を一方向繊維層として用いたノンクリンプファブリックからなり、
該強化繊維基材の単位面積あたりの金属線材の質量が100g/m以上であると共に、該強化繊維基材の表面に現れる金属線材の屈曲点が500個/25mm角以上であることを特徴とする強化繊維基材。
【請求項8】
前記強化繊維基材の厚み中心線を通る断面における単位面積当たりの金属線材の断面積の割合が3%以上である請求項7に記載の強化繊維基材。
【請求項9】
前記強化繊維からなる経糸の上下を前記強化繊維からなる緯糸で挟み込んだ強化繊維集合体を前記金属線材からなる留め糸で前記経糸の方向に沿うようにして織り込んだ多層構造織を有するものである請求項7に記載の強化繊維基材。
【請求項10】
前記強化繊維を前記金属線材でカバーリングしたハイブリッドカバーリング糸を用いて形成した一方向繊維層を有するノンクリンプファブリックである請求項7に記載の強化繊維基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸した繊維強化プラスチック成形材料、及びこれに用いられる強化繊維基材に関し、詳しくは、該繊維強化プラスチック成形材料を用いて得られる(成形して得られる)繊維強化プラスチックがその厚み方向(Z軸方向)に高い熱伝導性を発現させることができる繊維強化プラスチック成形材料、及びこれに用いられる強化繊維基材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を樹脂で固めた繊維強化プラスチック(FRP)は、軽量でありながら、高い強度を示すため、航空機や人工衛星等の航空分野をはじめ、自動車や鉄道車両等の輸送機、ノートパソコン等の筐体、ゴルフシャフトやテニスラケット等のスポーツ・レジャー用品に至るまで、幅広く用いられている。
【0003】
繊維強化プラスチックが各種用途で使用されているのは、軽量、かつ高強度であるという理由だけではなく、例えば、その振動減衰性を利用したロボットハンドであったり、低熱膨張性を利用した太陽電池パネルなど、その特長を活かした様々な開発が進められている。
【0004】
一方で、繊維強化プラスチックは、金属材料に比べて導電性が劣る。そのため、例えば、航空機部材として使用して飛行中に落雷があったときに、その部分の損傷が大きいという問題がある。
【0005】
そこで、この問題に対応するために、繊維強化プラスチックを得る際に使用する、樹脂(マトリックス樹脂)を含浸させる強化繊維基材として、金属線を挿入した導電性織物を用いる方法が知られている。
【0006】
すなわち、たて方向及びよこ方向に炭素繊維糸条を配列し、銅線のような金属線をこれらの炭素繊維糸条と並行に配列させて、しかも、たて方向の金属線と横方向の金属線とが所定の割合で交錯されるようにした導電性織物が開示されている(特許文献1参照)。このような導電性織物を用いることで、たとえ落雷があっても、金属線に優先的に電流が流れて、繊維強化プラスチックの表面に沿って広い面積に電気を拡散させるようにして、部材の損傷を抑えることができるとする。
【0007】
また、導電性の付与以外でも、金属線や金属繊維等からなる金属線材を炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維と共に用いるものとして、例えば、アラミド繊維やナイロン系繊維等の化学繊維を芯糸として、タングステン線のような金属線でカバーリングしたハイブリッドカバーリング糸が知られている(特許文献2参照)。これによれば、金属線に由来する硬い材料で耐切創用途の繊維製品が得られたり、原子量の大きい金属材料を用いることで、放射線を遮蔽する用途の繊維製品を製造することができるなど、所望の機能を付与することができるとしている。
【0008】
更には、プリント配線板を得るためのプリプレグの例ではあるが、ガラス繊維に銅やニッケル等の金属繊維をより合わせたり、ガラス糸と金属繊維を集合した金属糸とを交互に用いて織り込んだガラス織物を用いることが知られている(特許文献3参照)。これによれば、その後に設けるメッキ層を短時間でかつ均一に形成することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4635674号
【特許文献2】特開2018-80413号公報
【特許文献3】特開平4-352845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、繊維強化プラスチック(FRP)は、その特長を活かして、現在、様々な分野で使用されている。また、一方では、更なる特性を付与することで、これまでにない用途や新たな分野への展開が可能になる。
【0011】
そのひとつとして、本発明者らは、繊維強化プラスチックが、その厚み方向(Z軸方向)の熱伝導性に劣ることに着目した。すなわち、例えば、ノートパソコンの筐体に使用する場合、繊維強化プラスチックが厚み方向に高い熱伝導率を有すれば、ノートパソコン内部で発生した熱を外部に逃がす(放熱する)ことができるようになる。
【0012】
ところが、繊維強化プラスチックは、一般に、面内方向(X/Y軸方向)については、強化繊維の種類やその量、織り方や積層方法等を種々選択することによって高熱伝導化が可能であるものの、繊維強化プラスチックの厚み方向(Z軸方向)については、マトリックス樹脂の特性に支配されてしまうため、熱伝導性は劣ってしまう。先に述べた特許文献1~3にあるような導電性織物の場合でも、繊維強化プラスチックの面内方向での熱伝導率が高まることはあっても、厚み方向における熱伝導率の向上には不十分である。
【0013】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、金属線材を用いて所定の構造を有する強化繊維基材を得るようにして、それにマトリックス樹脂を含浸して得られた繊維強化プラスチックが、その厚み方向(Z軸方向)における熱伝導率を効果的に向上させることができるようになることから、本発明を完成させた。
【0014】
したがって、本発明の目的は、強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸した繊維強化プラスチック成形材料について、それを用いて得られる(成形して得られる)繊維強化プラスチックが厚み方向に高い熱伝導性を発現することができる繊維強化プラスチック成形材料を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、上記繊維強化プラスチック成形材料に用いられる強化繊維基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸した繊維強化プラスチック成形材料であって、
前記強化繊維基材は、強化繊維と、金属線又は金属繊維からなる金属線材とを用いて形成されており、(a)前記強化繊維を経糸及び緯糸に用いた多層構造織を有するものであるか、又は(b)前記強化繊維を一方向繊維層として用いたノンクリンプファブリックからなり、
該強化繊維基材の単位面積あたりの金属線材の質量が100g/m以上であると共に、該強化繊維基材の表面に現れる金属線材の屈曲点が500個/25mm角以上であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形材料。
(2)前記強化繊維基材の厚み中心線を通る断面における単位面積当たりの金属線材の断面積の割合が3%以上である(1)に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
(3)前記強化繊維基材が、前記強化繊維からなる経糸の上下を前記強化繊維からなる緯糸で挟み込んだ強化繊維集合体を前記金属線材からなる留め糸で前記経糸の方向に沿うようにして織り込んだ多層構造織を有するものである(1)に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
(4)前記強化繊維基材が、前記強化繊維を前記金属線材でカバーリングしたハイブリッドカバーリング糸を用いて形成した一方向繊維層を有するノンクリンプファブリックである(1)に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
(5)前記マトリックス樹脂がフェノキシ樹脂である(1)に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
(6)(1)に記載の繊維強化プラスチック成形材料を用いた繊維強化プラスチック。
(7)マトリックス樹脂を含浸させて繊維強化プラスチック成形材料を得るための強化繊維基材であって、
強化繊維と、金属線又は金属繊維からなる金属線材とを用いて形成されており、(a)前記強化繊維を経糸及び緯糸に用いた多層構造織を有するものであるか、又は(b)前記強化繊維を一方向繊維層として用いたノンクリンプファブリックからなり、
該強化繊維基材の単位面積あたりの金属線材の質量が100g/m以上であると共に、該強化繊維基材の表面に現れる金属線材の屈曲点が500個/25mm角以上であることを特徴とする強化繊維基材。
(8)前記強化繊維基材の厚み中心線を通る断面における単位面積当たりの金属線材の断面積の割合が3%以上である(7)に記載の強化繊維基材。
(9)前記強化繊維からなる経糸の上下を前記強化繊維からなる緯糸で挟み込んだ強化繊維集合体を前記金属線材からなる留め糸で前記経糸の方向に沿うようにして織り込んだ多層構造織を有するものである(7)に記載の強化繊維基材。
(10)前記強化繊維を前記金属線材でカバーリングしたハイブリッドカバーリング糸を用いて形成した一方向繊維層を有するノンクリンプファブリックである(7)に記載の強化繊維基材。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、繊維強化プラスチック成形材料を用いて得られた繊維強化プラスチックが、成形加工性を維持しながらその厚み方向(Z軸方向)に高い熱伝導率を示すことができるようになる。そのため、例えば、ノートパソコン等の電子機器の筐体に用いたときに、内部で発生した熱を外部に逃がす(放熱する)ことができ、繊維強化プラスチックに新たな機能を加え、繊維強化プラスチックの用途を更に増やすことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係る強化繊維基材の一実施形態である多層構造織を有した強化繊維基材を示す説明図である。
図2図2は、多層構造織を有する強化繊維基材を製造するための織機を説明する模式図である。
図3図3は、多層構造織を有する強化繊維基材を説明するための写真(拡大画像)である。
図4図4は、本発明に係る強化繊維基材の他の一実施形態であるノンクリンプファブリックを得る際に用いるハイブリッドカバーリング糸の一例を示す説明図である。
図5図5は、実施例1の多層構造織を有する強化繊維基材の写真(拡大画像)である。
図6図6は、実施例2の多層構造織を有する強化繊維基材の写真(拡大画像)である。
図7図7は、実施例3の銅線を用いたハイブリッドカバーリング糸を用いて形成した一方向繊維層を有するノンクリンプファブリックの写真(拡大図)である。
図8図8は、比較例1の強化繊維基材の写真(拡大画像)である。
図9図9は、比較例2の強化繊維基材の写真(拡大画像)である。
図10図10は、単位面積あたりの金属線材の質量を算出するにあたり使用するクリンプ率について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明においては、強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸した繊維強化プラスチック成形材料について、それを用いて得られた(成形して得られた)繊維強化プラスチックが厚み方向(Z軸方向)に高い熱伝導性を発現するようにする。そのため、本発明では、強化繊維基材が、強化繊維と、金属線又は金属繊維からなる金属線材とを用いて形成される。
【0019】
強化繊維については特に制限されないが、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、無機繊維、及び有機繊維からなる群から選ばれる1以上のものである。ここで、無機繊維としては、バサルト繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維等が挙げられる。また、有機繊維としては、ポリエステル、ナイロン、ビニロン、アラミド、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリパラフェニレン・ベンゾビス・オキサゾール等が挙げられる。
【0020】
金属線材については、銅線、アルミ線、鋼線、ステンレス線等の金属線のほか、金や銀ワイヤやタングステン線、金や銅メッキワイヤのような金属繊維を用いるようにしてもよい。なお、本発明における金属線又は金属繊維からなる金属線材とは、糸状であれば、多数の微細な金属製のフィラメントを集束したトウや、フィラメントを合わせたヤーンであっても、所謂針金のようなモノフィラメントからなる金属線と同じ一本の金属線材と見なす。
【0021】
本発明の繊維強化プラスチック成形材料に用いられる強化繊維基材は、(a)前記強化繊維を経糸及び緯糸に用いた多層構造織を有するものであるか、又は、(b)前記強化繊維を一方向繊維層として用いたノンクリンプファブリックからなる。すなわち、強化繊維は強化繊維基材の主に面方向に配置され、金属線材は強化繊維基材の厚み方向に主に配置される構造となる。加えて、(i)該強化繊維基材単位面積あたりの金属線材の質量が100g/m以上であると共に、(ii)該強化繊維基材の表面に現れる金属線材の屈曲点が500個/25mm角以上であるようにする。
【0022】
すなわち、本発明における強化繊維基材は、(i)単位面積あたりの金属線材の質量が100g/m以上である。この単位面積あたりの金属線材量は、マトリックス樹脂を含浸させる強化繊維基材の表面において単位面積当たりに含まれる金属線材の質量である。使用する金属線材の種類(比重)にもよるが、例えば後述するアルミ線(比重2.68)を考慮して、この値が100g/m以上であれば、強化繊維基材に使用される金属線材量が多くなることから、Z軸方向の熱伝導率を高めることが可能になる。単位面積当たりの金属線材の質量は、好ましくは250g/m以上、より好ましくは400g/m以上、最も好ましくは910g/m以上である。一方で、単位面積あたりの金属線材量が多くなればなるほど、繊維強化プラスチック成形材料を用いて得られる繊維強化プラスチックの厚み方向(Z軸方向)における熱伝導性をより高める可能性が上がるが、基材質量が増加してしまうことや、賦形性の低下を招くことなどから、例えば銅線(比重8.96)を考慮して、この単位面積あたりの金属線材の質量は1600g/m以下であるのがよく、この値が実質的な上限値になる。
【0023】
また、本発明の強化繊維基材の厚み方向(Z軸方向)の熱伝導率は、主に、強化繊維と併用される金属線材に影響される。そのため、本発明では、上記(i)強化繊維基材の単位面積あたりの金属線材の量に加えて、(ii)金属線材が強化繊維基材の表面に現れる金属線材の屈曲点の数について規定する。
【0024】
(ii)の屈曲点とは、金属線材が強化繊維基材の一方の面から他方の面に貫通して露出し、再度その面から反対の面に向けて貫通させる際に金属線材を屈曲させるための屈曲数を表す。すなわち、強化繊維基材の一方の面から他方の面に貫通して露出した金属線材を折り返して(屈曲させて)再度反対の面に向けて貫通させた場合、強化繊維基材の表面(どちらか一つの面)に現れる金属線材の屈曲点の数を「1」とする。この屈曲点は、強化繊維基材の表面における25mm×25mmサイズ〔(25mm)2〕あたりの数で500個/25mm角以上であり、好ましくは700個/25mm角以上である。屈曲点の数は、多くなればなるほど厚み方向の熱伝導性をより高めることができるが、強化繊維基材としての賦形性の低下や基材の質量増加、製造の難易度が上がることなどを考慮すると、25mm×25mmサイズあたりの数で2000個/25mm角以下であるのがよく、この値が実質的な上限値になる。
【0025】
また、本発明において、好ましくは、(iii)該強化繊維基材の厚み中心線を通る断面における単位面積当たりの金属線材の断面積の割合が3%以上であるのがよい。この(iii)の金属線材の断面積の割合は、強化繊維基材の厚み中心線を通る断面における単位面積当たりでの金属線材の断面積が占める割合である。この金属線材の断面積の割合が大きければ、厚み方向に熱を通す面積が増えて熱伝導率が大きくなる。強化繊維基材の厚み中心線を通る断面における単位面積当たりの金属線材の断面積の割合が3%以上であり、好ましくは5%以上である。金属線材の断面積の割合が多くなれば厚み方向での熱伝導率が大きくなるため好都合であるが、金属線材の断面関の割合が高くなるということは、強化繊維基材に含まれる金属線材量が多くなることとなり、経糸と緯糸の留め糸でもある金属線材が密に織られることとなるために賦形性の低下が懸念されるほか、基材の質量の増加などを考慮すると、この金属線材の断面積の割合は20%以下であるのがよく、この値が実質的な上限値になる。なお、強化繊維基材の厚み中心線を通る断面は、該強化繊維基材の表面と平行に切ったときの断面である。
【0026】
上記(i)~(iii)について、これらに関する条件を満足するようにするために、本発明では、好ましくは、前述したようなガラス繊維、炭素繊維、無機繊維、及び有機繊維からなる群から選ばれる少なくとも1つの強化繊維と、金属線又は金属繊維からなる金属線材とを用いて強化繊維基材を形成する。このような強化繊維基材を得る方法について、具体的には、次のような2つの実施形態を示すことができる。
【0027】
先ず、第1の実施形態として挙げられるのが、(a)強化繊維を経糸及び緯糸に用いた多層構造織を有する強化繊維基材である。この多層構造織を有する強化繊維基材では、前述の金属線材を留め糸にして織り込むようにして、所定の単位面積あたりの金属線材量、及び金属線材の面積割合を満たすようにする。具体的には、図1に示したように、強化繊維からなる経糸1aの上下を同じく強化繊維からなる緯糸1bで挟み込んだ強化繊維集合体2について、それを金属線材からなる留め糸3で経糸1bの方向に沿うようにしながら織り込むことで、多層構造織を形成する。
【0028】
図1に示した多層構造織を有する強化繊維基材では、その多層構造織の断面中央位置に経糸1aが複数並び、その上下に緯糸1bが複数並んで、これらの経糸1a及び緯糸1bは、それぞれの交差部においていずれもクリンプせずに重なるように配列されて、強化繊維集合体2を形成する。そして、金属線材からなる留め糸3によるクリンプを利用して、この強化繊維集合体2を上下から挟んで織り込むようにしている。
【0029】
本実施形態において、強化繊維基材の厚み方向(Z軸方向)の熱伝導率を高めるには、金属線材の量を多くするか、屈曲点4の数が多くなるようにして金属線材の断面積の割合を多くすればよい。ところが、金属線材の量を増やすことは基材重量の増加を招くこともあり、望ましくは屈曲点4を増やすことが好ましい。屈曲点4の数を多くするためには、図1に示す強化繊維基材を形成する強化繊維集合体2の緯糸1bの打込みを高密度にする必要がある。このため、緯糸の糸密度は30本/25mm以上、好ましくは60本/25mm以上あることがよい。但し、緯糸の糸密度の増加は、強化繊維基材としての賦形性の低下や基材の質量増加、製造難易度の上昇を考慮すると120本/25mmであるのがよく、この値が実質的な上限値になる。
【0030】
また、金属線材からなる留め糸3を強化繊維基材の表面で屈曲させる際に、またぐ緯糸の本数が多くなると繊維基材の厚み方向を貫く金属線材が減少することになる。そのため、またぐ緯糸は多くても4本程度とするのが望ましい。なお、繊維基材に打ち込む金属線材ごとにまたぐ緯糸本数を変えるなどしてもよいし、局所的に繊維基材の屈曲点の数が異なるように調整してもよい。
【0031】
図2には、上記のような多層構造織を有する強化繊維基材を製造するための織機が模式的に示されている。これに基づいて、好適な強化繊維基材を製造するための手順を説明すると、先ず、金属線材からなる留め糸3は、4枚の綜絖枠5を用いて糸の制御を行う。つまり、金属線材からなる留め糸3は、経糸1bが4本打込まれるごとに上下に移動して綜絖枠5の2枚が一組として正反対に動くようにし、もう一組の2枚の綜絖枠5は経糸1bを2本分ずらして同様の動きをさせる。そして、金属線材からなる留め糸3の4枚の綜絖枠5の綜絖には1本又は複数本の金属線材からなる留め糸3を順番に通す。また、経糸1aは1枚の綜絖枠5を用いて糸の制御を行い、金属線材からなる留め糸3の綜絖2本ごと又は4本ごとに1本配置するようにする。図3では、このようにして多層構造織を有する強化繊維基材が得られる様子を実際の写真(拡大写真)で示している。但し、図3の写真は、その様子を分かりやすくするために、金属線材からなる留め糸3を粗く製織した状態のものである。
【0032】
次に、第2の実施形態として挙げられるのが、(b)強化繊維を一方向繊維層として用いたノンクリンプファブリックである。このノンクリンプファブリックについて、本発明では、上述したように、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、無機繊維、及び有機繊維からなる群から選ばれる少なくとも1つの強化繊維を芯糸とし、金属線又は金属繊維からなる金属線材を鞘糸として巻き付けた(カバーリングした)ハイブリッドカバーリング糸を用いて一方向繊維層を形成し、これをステッチ糸によって強化繊維基材としたものとする。つまり、このようなハイブリッドカバーリング糸を用いて一方向繊維層にして、所定の単位面積あたりの金属線材量、及び金属線材の面積割合を満たすようにノンクリンプファブリックにする。
【0033】
ハイブリッドカバーリング糸を得る際は、強化繊維からなる芯糸に対して、鞘糸にする金属線材をシングルでカバーリングしてもよく、図4に示したように、2重に(ダブルで)カバーリングするようにしてもよいが、ダブルカバーリングが好ましい。また、ハイブリッドカバーリング糸を用いて形成した一方向繊維層をノンクリンプファブリックにするにあたっては特に制限はなく、一般にノンクリンプファブリックを得る際と同様にすることができる。具体的には、ナイロンやポリエステル繊維等のステッチ糸を用いるようにしてもよいが、金属繊維を単独またはナイロンやポリエステル繊維等のステッチ糸と併用してもよい。また、ハイブリッドカバーリング糸をノンクリンプファブリックとする際には、出来るだけダブルカバーリング糸の交点が基材厚みに対して90°傾いているようにすると、屈曲点が多くなるため好ましい。
【0034】
本実施形態のノンクリンプファブリックに用いられるハイブリッドカバーリング糸は、屈曲点に相当する強化繊維束にカバーリングされる金属線材のターン数が1000T/m以上である。ターン数が1000T/m未満であると基材としたときの屈曲点が少なくなり、厚み方向の熱伝導性が低下する。ターン数は好ましくは1500T/m以上であるが、賦形性を考慮すると上限は2000T/m以下とすることが望ましい。ちなみに、このターン数1000T/mは、芯材とするガラスヤーンや鞘糸にする金属線材の太さによっても変わるが、後述する実施例3で使用するものを用いた場合、ターン数1000T/mは、屈曲数500個/25mm角に相当する。
なお、ダブルカバーリングを行う場合、カバーリング糸それぞれのターン数については同じであっても良いし、異なっていてもよい。
【0035】
本実施形態における強化繊維基材の形成に用いられる強化繊維及び金属線材は、第1実施形態と同様のものが使用でき、ガラス繊維や炭素繊維のほか、無機繊維、有機繊維が用いられる。このうち、無機繊維としてバサルト繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維等が挙げられる。また、有機繊維としては、ポリエステル、ナイロン、ビニロン、アラミド、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリパラフェニレン・ベンゾビス・オキサゾール等が挙げられる。
また、金属線材については、銅線、アルミ線、鋼線、ステンレス線等の金属線のほか、金や銀ワイヤやタングステン線、金や銅メッキワイヤのような金属繊維を用いるようにしてもよい。
【0036】
また、本発明において、強化繊維基材に含浸させるマトリックス樹脂については特に制限はなく、公知のものを用いることができる。このようなマトリックス樹脂として、代表的には熱可塑性樹脂であり、結晶性、非結晶性などその性状は特に限定されないが、例えば、フェノキシ樹脂、ポリオレフィンおよびその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等の熱可塑性樹脂を1種以上使用することができる。これらの中でも、フェノキシ樹脂、ポリアミドは現場重合も可能であり、熱可塑性樹脂でありながら含浸が容易であることから好ましく使用される。
【0037】
本発明によって得られる繊維強化プラスチック成形材料を用いて成形された繊維強化プラスチックは、その厚み方向(Z軸方向)に高い熱伝導率を示すことができるようになる。そのため、繊維強化プラスチック成形材料を単独又は複数枚積層し、熱プレス機と金型を用いて強化繊維基材とマトリックス樹脂を複合化するとともに、任意の形状となるように賦形された成形体(繊維強化プラスチック)は、その厚み方向(Z軸方向)の熱伝導性に優れることから、例えば、スマートフォンやノートPC、タブレットPCといった携帯電子情報機器の筐体や、大型ディスプレイなどの電気製品の放熱部材、車載電池ボックスの放熱部材など、各種の用途に幅広く用いることができる。
【実施例0038】
以下、実施例に基づきながら、本発明について具体的に説明する。すなわち、本発明の一実施形態として、強化繊維と金属線材とを用いて形成した多層構造織を有する強化繊維基材(実施例1、2)、強化繊維を一方向繊維層として用いたノンクリンプファブリックからなる強化繊維基材(実施例3)、強化繊維のみで形成した強化繊維基材(比較例1、2)をそれぞれ準備し、マトリックス樹脂を含浸して繊維強化プラスチック成形材料(プリプレグ)とした。そして、マトリックス樹脂を硬化させた上で、その厚み方向における熱伝導率を評価した。各強化繊維基材の特性値や繊維強化プラスチックの熱伝導率の測定方法等については、特に断りのない限り、末尾に記載の方法で行った。
なお、これらの内容は本発明の実施形態を何ら限定するものではない。
【0039】
(実施例1~2)
図1に示す構造の多層構造織の強化繊維基材を、タテ糸(経糸)にアラミド繊維(88TEX)、ヨコ糸(緯糸)にガラス繊維(270TEX)を用い、留め糸を銅線(0.3mm)として図2の概略図にて示される織機にて作製した。その際の繊維密度(糸密度)について、実施例1ではタテ糸を8本/25mm、ヨコ糸を100本/25mm、留め糸銅線を64本/25mmとした。実施例2ではタテ糸を8本/25mm、ヨコ糸を60本/25mm、留め糸銅線を64本/25mmとした。
【0040】
上記で得られた強化繊維基材について、実施例1の強化繊維基材の表面における単位面積あたりの銅線の質量は1510g/mであり、強化繊維基材の表面に現れる銅線の屈曲点は1600個/25mm角であり、強化繊維基材の厚み中心線を通る断面における単位面積当たりの貫通銅線の断面積の割合は18.08%である。同じく、実施例2の強化繊維基材の表面における単位面積あたりの銅線の質量は910g/mであり、強化繊維基材の表面に現れる銅線の屈曲点は960個/25mm角であり、強化繊維基材の厚み中心線を通る断面における単位面積当たりの貫通銅線の断面積の割合は10.85%である。得られた強化繊維基材の拡大画像を図5(実施例1)及び図6(実施例2)に示す。
【0041】
次いで、得られた多層構造織の強化繊維基材にマトリックス樹脂として現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂(ナガセケムテックス製、主剤:DENATITE XNR6850V、硬化剤:DENATITE XNH6850V)を含浸して繊維強化プラスチック成形材料(プリプレグ)とした後、加熱プレス機にて180℃、10Pa、5minの条件で加熱加圧成形して繊維強化プラスチック(FRP成形板)を作製した。
表1に強化繊維基材の詳細とFRP成形板の熱伝導率の測定結果を示す。
【0042】
(実施例3)
ガラスヤーン(270TEX)を芯糸として用い、銅線(0.12mm)を鞘糸(カバーリング糸)として2本用いてそれぞれS方向とZ方向に各1500T/mのダブルカバーリングをしてガラス繊維と銅線のハイブリッドカバーリング糸を得た。このハイブリッドカバーリング糸をタテ糸(緯糸)とし、ナイロン糸(ナイロン66、13.5TEX)をヨコ糸(経糸)及びステッチ糸として使用して強化繊維基材(ノンクリンプファブリック)を作製した。
【0043】
上記で得られた強化繊維基材について、実施例3の強化繊維基材の表面における単位面積あたりの銅線の質量は460g/mであり、強化繊維基材の表面に現れる銅線の屈曲点は750個/25mm角であり、強化繊維基材の厚み中心線を通る断面における単位面積当たりの貫通銅線の断面積の割合は5.43%である。なお、ダブルカバーリング糸はその向きによって屈曲点数が異なるため、屈曲点数が最小値となるカバーリング糸の交点が基材表面を向いている状態と仮定して計算している。
得られた強化繊維基材の拡大画像を図7(実施例3)に示す。
【0044】
次いで、得られた多層構造織の強化繊維基材にマトリックス樹脂として現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂(ナガセケムテックス製、主剤:DENATITE XNR6850V、硬化剤:DENATITE XNH6850V)を含浸して繊維強化プラスチック成形材料(プリプレグ)とした後、加熱プレス機にて180℃、10Pa、5minの条件で加熱加圧成形して繊維強化プラスチック(FRP成形板)を作製した。
表1に強化繊維基材の詳細とFRP成形板の熱伝導率の測定結果を示す。
【0045】
(比較例1)
留め糸を銅線(金属線材)の代わりにガラスヤーン(270TEX)としたこと以外は実施例1~2の多層構造織と同様にして強化繊維基材を作製した。銅線との比較用の留め糸ガラスヤーンについて、得られた強化繊維基材の厚み中心線を通る断面における単位面積当たりのガラスヤーンの断面積の割合は21.68%である。得られた強化繊維基材の拡大画像を図8に示す。
【0046】
次いで、実施例1~2と同様にマトリックス樹脂を含浸して繊維強化プラスチック成形材料(プリプレグ)とした後、加熱プレス機にて180℃、10Pa、5minの条件で加熱加圧成形して繊維強化プラスチック(FRP成形板)を作製した。
表1に強化繊維基材の詳細とFRP成形板の熱伝導率の測定結果を示す。
【0047】
(比較例2)
タテ糸(経糸)にガラスロービング(4800TEX)、ヨコ糸(緯糸)にガラスロービング(280TEX)を用い、ポリエステル製ステッチ糸(8.3TEX)を用いて、銅線によるダブルカバーリングを行わないこと以外は実施例3のノンクリンプファブリックと同様にして強化繊維基材を作製した。実施例3を含めて、ノンクリンプファブリックは厚み方向に貫通する強化繊維が無い繊維強化基材である。得られた強化繊維基材の拡大画像を図9(比較例2)に示す。
【0048】
次いで、実施例3と同様にマトリックス樹脂を含浸して繊維強化プラスチック成形材料(プリプレグ)とした後、加熱プレス機にて180℃、10Pa、5minの条件で加熱加圧成形して繊維強化プラスチック(FRP成形板)を作製した。
表1に強化繊維基材の詳細とFRP成形板の熱伝導率の測定結果を示す。
【0049】
[金属繊維量(金属線材の質量)]
以下の計算式に従って算出した。
ここで、式中のクリンプ率は、図10に示したように、織物長さAを作製するために必要な糸長さBを織物長さAで割った値(B/A)である。例えば、織物長さA=1mを作製するために必要な糸長さB=1.5mの場合、クリンプ率は1.5である。実施例1、2ではクリンプ率1.5としている。
金属繊維量(g/m)=繊度(1m当たりの質量)×糸密度(本/25mm)×40(1000mm/25mm)×クリンプ率(倍率)
なお、比較例1のガラスヤーンの繊維量も同様の計算式で算出した。
【0050】
[屈曲点数]
屈曲点の数については、強化繊維基材の拡大写真を撮影して目視にて屈曲点数を計測し、25mm×25mmサイズにおける屈曲点数に換算した。
【0051】
[熱伝導率測定]
ASTM-D5470に準拠した定常法を用いて測定した。測定に際してはFRP成形板の裏表を横糸の面位置まで研磨を行い、20mm×20mmのサイズの試験片を複数枚切り出し、これらを1~3枚重ねることによって厚みを変更しながら下記条件により測定を行った。
・メーターバー:SUS304 20×20×30mm
・測定荷重7.5kg/cm、高温側60℃/低温側25℃
・サンプルとメーターバーの接触界面に熱伝導グリスを塗布
【0052】
[成形性の評価方法]
スマートフォンの筐体を模した形状(縦135mm×横75mm×高さ5mm)の金型を準備し、各実施例および比較例で作製した平板状の積層体に、温度180℃、圧力10MPaで成形加工を施し、2次加工性(成形加工性)を評価した。評価は目視によって行い、2次加工を行った成形体に割れやシワ、剥離などの欠陥がないものを○とし、2次加工を行った成形体に割れやシワ、剥離などの欠陥を生じたものを×とした。
【0053】
【表1】
【0054】
本発明によれば、強化繊維基材の表裏面を貫く多数の金属線材が存在することから、これにマトリックス樹脂を含浸した繊維強化プラスチック成形材料からなる強化繊維プラスチックは、その厚み方向に非常に高い熱伝導率を発現させることができる。また、金属線材が多く使用されているにもかかわらず、成形加工性も良好である。
【0055】
このため、本発明の繊維強化プラスチック成形材料を用いて得た強化繊維プラスチック(FRP)成形体は、スマートフォンやノートPC、タブレットPCといった携帯電子情報機器の筐体をはじめ、大型ディスプレイなどの電気製品の放熱部材であったり、車載電池ボックスの放熱部材などに対して広く適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1:強化繊維、1a:経糸、1b:緯糸、2:強化繊維集合体、3:留め糸、4:クリンプ、5:綜絖枠、6:ロール、7:前筬、8:後筬、9:ドビー、10:打込ロール、11:織布巻取。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10