IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金化学株式会社の特許一覧

特開2024-86287高熱伝導性の繊維強化プラスチック成形材料並びにこれを用いた成形体及び熱伝導部材
<>
  • 特開-高熱伝導性の繊維強化プラスチック成形材料並びにこれを用いた成形体及び熱伝導部材 図1
  • 特開-高熱伝導性の繊維強化プラスチック成形材料並びにこれを用いた成形体及び熱伝導部材 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086287
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】高熱伝導性の繊維強化プラスチック成形材料並びにこれを用いた成形体及び熱伝導部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20240620BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20240620BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20240620BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20240620BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20240620BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20240620BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20240620BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240620BHJP
【FI】
H01L23/36 D
B29B11/16
B29C70/16
B29C70/68
H01L23/36 M
B29K105:10
B29K101:12
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201339
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】村上 信吉
(72)【発明者】
【氏名】木村 圭一
【テーマコード(参考)】
4F072
4F205
5F136
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AB28
4F072AD42
4F072AG03
4F072AJ22
4F072AK14
4F072AL13
4F205AD03
4F205AD12
4F205AD16
4F205AE10
4F205AG18
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA34
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB11
4F205HF05
4F205HK03
4F205HT16
4F205HT26
5F136BC07
5F136FA01
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA14
5F136FA15
5F136FA16
5F136FA25
5F136FA51
(57)【要約】
【課題】従来公知の方法では困難であった厚み方向(Z軸方向)の熱伝導率が高い成形体を得ることができる繊維強化プラスチック成形材料及び繊維強化プラスチック(成形体)を提供する。
【解決手段】強化繊維が面内配向して熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした平板状の繊維強化プラスチック成形材料であって、前記強化繊維の間隙を貫いて該繊維強化プラスチック成形材料の裏面と表面を熱的に接続する個々に独立した複数の熱伝導パスを有しており、かつ、該繊維強化プラスチック成形材料の板厚方向の任意の位置における面方向に沿った平行な断面における単位面積あたりの熱伝導パスの面積割合が0.5%以上であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形材料であり、また、これを用いて得られた繊維強化プラスチックである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面内配向した強化繊維に熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした平板状の繊維強化プラスチック成形材料であって、
前記強化繊維の間隙を貫いて該繊維強化プラスチック成形材料の裏面と表面を熱的に接続する個々に独立した複数の熱伝導パスを有しており、かつ、該繊維強化プラスチック成形材料の板厚方向の任意の位置における面方向に沿った平行な断面における単位面積あたりの熱伝導パスの面積割合が0.5%以上であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形材料。
【請求項2】
面内配向している強化繊維が連続繊維である請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
【請求項3】
前記熱伝導パスが融点200℃未満の低融点金属からなる請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形材料を用いた成形体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形材料を用いた熱伝導部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維が面内配向している繊維強化プラスチック成形材料、並びにこれを用いて得られる成形体、及び熱伝導部材に関し、詳しくは、それを用いて得られた成形体が厚み方向(Z軸方向)に高い熱伝導性を発現させることができる繊維強化プラスチック成形材料、並びにこれを用いて得られる成形体、及び熱伝導部材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維からなる強化繊維基材にマトリックス樹脂が含浸されて成形されてなる繊維強化プラスチック(FRP)は、金属材料よりも軽量かつ高強度であるために航空・宇宙分野から、スポーツ・レジャー分野に至るまで構造用部材として広く用いられている。
【0003】
特に、強化繊維に炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽量かつ高強度という特徴だけではなく、炭素繊維の高熱伝導性に着目した熱伝導部材としての利用も行われている。
【0004】
しかしながら、炭素繊維は繊維軸方向への熱伝導性は良好であるが、繊維軸方向に対して垂直な方向の熱伝導性が非常に低く、CFRPとしたときに平面方向と厚み方向で大きな熱伝導率の異方性を生じるため、CFRPの厚み方向に熱伝導パスを形成する方法が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、ニードルパンチ法や水流交絡法で不織布とすることにより、繊維同士を相互に交絡して基材の厚み方向に繊維の配向を進めることで、厚み方向への熱伝導率を高めた強化繊維基材とそれを用いた高熱伝導性CFRPを開示するが、この方法は短繊維基材にしか適用できない。
【0006】
また、特許文献2のように、補強繊維からなる複数枚の織物からなる積層体に繊維強化樹脂や繊維強化金属からなる棒体を貫通させて熱伝導パスを形成する方法も考えられる。しかしながら、本方法では挿入した棒体が加圧成形時にスペーサーとして働いてしまうため、上記積層体を成形した成形体内部にボイドが発生したり、層間の接着強度の低下を招くほか、賦形性が低下してしまうおそれがある。
【0007】
その他として、面内方向に加えて厚み方向にも繊維を織り込んだ三次元織物を強化繊維基材として用いることも考えられる。例えば、非特許文献1では、ピッチ系炭素繊維を用いた多重織物を強化繊維基材にすることで、CFRPの厚み方向の熱伝導性が大きく改善されることを報告している。しかしながら、三次元織物は大面積化が難しく、高コストであり、賦形性に劣ってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許6089447号
【特許文献2】実公平3-24356号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】諏訪浩史,石川信之,小島昭,太田道也 多重織物によるCFRPの熱伝導性改善 SEN‘I GAKKAISHI Vol.61,No.10(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来公知の方法では困難であった厚み方向(Z軸方向)の熱伝導率が高い成形体を得ることができる繊維強化プラスチック成形材料及び繊維強化プラスチック(成形体)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)面内配向した強化繊維に熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした平板状の繊維強化プラスチック成形材料であって、
前記強化繊維の間隙を貫いて該繊維強化プラスチック成形材料の裏面と表面を熱的に接続する個々に独立した複数の熱伝導パスを有しており、かつ、該繊維強化プラスチック成形材料の板厚方向の任意の位置における面方向に沿った平行な断面における単位面積あたりの熱伝導パスの面積割合が0.5%以上であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形材料。
(2)面内配向している強化繊維が連続繊維である(1)に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
(3)前記熱伝導パスが融点200℃未満の低融点金属からなる(1)に記載の繊維強化プラスチック成形材料。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形材料を用いた成形体。
(5)(1)~(3)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形材料を用いた熱伝導部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、厚み方向(Z軸方向)の熱伝導率が高い成形体、及びこれに用いられる繊維強化プラスチックを得ることができる。さらに、本発明における繊維強化プラスチック成形材料は、特殊な織機などが必要ではなく、容易に作製できるために低コストであり、2次加工での成形も可能な賦形性を有するため、熱伝導部材以外の用途でも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、繊維強化プラスチック成形材料を説明するための斜視模式図である。
図2図2は、熱伝導パス形成方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の詳細について説明する。
厚み方向(Z軸方向)に高熱伝導性を示す繊維強化プラスチックを得ることが可能な本発明に係る繊維強化プラスチック成形材料は、面内配向した強化繊維とマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂とを有したものであり、前記強化繊維の間隙を貫いて該繊維強化プラスチック成形材料の裏面と表面とを熱的に接続する個々に独立した複数の熱伝導パスを備える。
なお、本発明における「繊維強化プラスチック成形材料」とは、プリプレグや2次加工での賦形可能な中間材料(プリプレグの積層体やプリフォームなど)を指し、「平板状」とは、厚みが0.2mm以上、1mm未満のシート状のものまで含まれるものとする。
【0015】
本発明において、マトリックス樹脂は熱可塑性樹脂であれば特に制限はなく、公知のものを用いることができる。このようなマトリックス樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリオレフィンおよびその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等の熱可塑性樹脂を1種以上使用することができる。これらの中でも、フェノキシ樹脂、ポリアミドは現場重合が可能であり、熱可塑性樹脂でありながら含浸が容易であることから好ましく使用される。
【0016】
また、強化繊維についても特に制限はなく、例えば、炭素繊維やガラス繊維、アルミナ繊維などのセラミックス系の無機繊維や、アラミドやビニロン、PBO繊維、超高分子量ポリエチレン樹脂、高強力ポリアリレート樹脂などの有機繊維、セルロースなどの天然繊維を用いることができ、これらの1種以上を使用することができるが、熱伝導性の観点から炭素繊維やガラス繊維、無機繊維が好ましく、炭素繊維が最も好ましい。なお、炭素繊維にはPAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維の2種類があるが、本発明においてはそのどちらも使用可能である。
【0017】
本発明の繊維強化プラスチック成形材料は、該繊維強化プラスチック成形材料に含まれる強化繊維が面内配向していることを特徴とする。ここで、面内配向とは、例えば、平板状の繊維強化プラスチック成形材料の長さ方向と幅方向をそれぞれX軸方向とY軸方向とし、厚み方向をZ軸方向としたとき、強化繊維の繊維軸がX軸とY軸によって形成される平面に対してほぼ平行になっていることを言う。
【0018】
本発明においては、強化繊維が少なくともその総数の6割以上が面内配向していれば、その配向角や強化繊維の連続・非連続については特に制限されることはないが、得られる成形体の強度が確保できる観点から強化繊維は連続繊維であることが好ましい。連続繊維が面内配向している繊維強化プラスチック成形材料の具体例としては、一方向繊維を強化繊維とした一方向強化材や連続繊維を平織りまたは綾織りしたクロス材を用いたプリプレグやその積層体などが挙げられる。また、短繊維が面内配向している繊維強化プラスチック成形材料の具体例としては、抄造法によって作製された短繊維強化プラスチック材料や短冊状などにカットされた一方向強化繊維を堆積させたランダムマット材のプリフォームなどが挙げられる。
【0019】
本発明の繊維強化プラスチック成形材料は、強化繊維の間隙を貫いて該繊維強化プラスチック成形材料の裏面と表面とを熱的に接続する複数の熱伝導パスを有する。この熱伝導パスは、少なくとも強化繊維の繊維軸方向に対する垂直方向への熱伝導率よりも高い材質により形成されていればよいが、好ましくは熱伝導率が0.5W/m・K以上であるのがよく、1.0W/m・K以上であることがより好ましい。このような熱伝導パスを形成可能なものとしては、金属材料や炭素材料、シリカやアルミナなどの無機材料が例示されるが、剛体であると賦形が出来なかったり、賦形時に強化繊維を破損してしまう恐れがあるので、成形加工条件で容易な変形が可能であるものであることが好ましい。
【0020】
熱伝導パスについて、より具体的には、金属材料として、はんだのように融点が200℃未満の低融点金属のほか、銅やアルミの細線や球状粒子、銅やアルミ、銀粉を熱可塑性樹脂に配合した金属ペースト等が挙げられる。また、炭素材料としては、炭素繊維やトウプリプレグのチョップド品、炭素繊維のミルド品を用いたペースト材料等が挙げられる。更に、無機材料としては、アルミナや窒化アルミ、窒化ホウ素などの高熱伝導フィラーを熱可塑性樹脂に配合したペースト材料等が挙げられる。熱伝導パスにペースト材料を用いる場合は、賦形の際の変形に追従できるようにペーストの熱可塑性樹脂は繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂とTgが近しいものを使用することが好ましく、同種の樹脂を使用すること、例えば、繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が現場重合型フェノキシ樹脂であれば、上記ペースト材料の熱可塑性樹脂はフェノキシ樹脂を用いることがより好ましい。
【0021】
本発明の繊維強化プラスチック成形材料の熱伝導パスは、図1に示したように、個々が独立した状態で、強化繊維の間隙を貫いて繊維強化プラスチック成形材料の裏面と表面を熱的に接続するように配置されている。ここで、「個々が独立した状態」とは、少なくとも互いに隣接した熱伝導パスが繊維強化プラスチック成形材料の面内方向に連続していないこと、例えば一本の糸を強化繊維からなる基材に縫い付けたようにひと繋ぎの状態で繋がっていないことを言う。なお、この熱伝導パスについては、繊維強化プラスチック成形材料を得る際に熱伝導パスを形成する材料が軟化、流動して一部が接続するような場合であっても、熱伝導パスが「個々に独立した状態」であればよい。
【0022】
また、「強化繊維の間隙を貫いて」とは、複数の(数多くの)繊維糸からなる強化繊維の繊維糸の間を熱伝導パスが押し広げるような形で繊維強化プラスチック成形材料の表裏を貫くように形成されていることをいうが、熱伝導パスの形成に伴う強化繊維の破断が全く無いということまでは排除しない。例えば、図2に示したように、強化繊維の繊維糸の間を広げ(拡げ)ることによって繊維強化プラスチック成形材料に熱伝導パスが貫通するように形成されるが、繊維間を広げる際に一部の繊維が破断してしまうことは避けらない。
【0023】
繊維強化プラスチックのZ軸方向の熱伝導率を高めるには、その厚み方向を貫く複数の熱伝導パスを設ける必要があるところ、例えばプリント配線板のビアホールや貫通スルーホールなどのように強化繊維を切断してしまうような方法によって熱伝導パスを形成すると複合材料の強度が低下してしまうおそれがある。一方、多軸織物のようにZ軸方向(厚み方向)に金属線を織り込むことによって熱伝導パスを形成することも考えられ、その場合は、強化繊維の破損は無いものの、繊維強化プラスチック成形材料としての柔軟性が低下するために賦形性が低下してしまう。このため、本発明の繊維強化プラスチック成形材料の熱伝導パスは、強化繊維を出来るだけ切断することが無く、かつ強化繊維(強化繊維基材)の柔軟性を維持して成形体として任意の形状に賦形出来るように、熱伝導パスを個々が独立した状態で、強化繊維の間隙を貫いて繊維強化プラスチック成形材料の裏面と表面を熱的に接続するように配置するのである。
【0024】
本発明の繊維強化プラスチック成形材料は、平板状の繊維強化プラスチック成形材料の板厚方向の任意の位置における面方向(X/Y方向)に沿った平行な断面における単位面積あたりの熱伝導パスの面積割合が0.5%以上である。この熱伝導パスの面積割合とは、前記断面の単位面積あたりの熱伝導パスが占める面積割合である。この面積割合が0.5%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であれば、繊維強化プラスチックとしたときの厚み方向(Z軸方向)への熱の伝熱経路数が確保されるために、面方向(X/Y軸方向)への熱の拡散が抑えられZ軸方向への熱伝導を高めることができる。その一方で、熱伝導パスの面積割合が高くなることは、強化繊維の繊維体積含有率(Vf)の低下や強化繊維の蛇行や破損により、得られる成形体の強度低下が懸念されることなどから、これらを考慮すると、熱伝導パスの面積割合は40%未満であるのがよく、この値が実質的な上限値になる。
【0025】
熱伝導パスの配置やその断面形状は特に限定されない。断面形状が円状、正方形や長方形、六角形などの多角形状、不定形状の熱伝導パスを必要に応じて、繊維強化プラスチック成形材料の面方向に例えば千鳥状や並列状のように規則性をもって配置することでき、また、規則性がなくランダムに配置することもできる。また、熱伝導パスの太さ(断面が円の場合は直径、多角形状または不定形状の場合は外接円の直径)については特に制限されないが、熱伝導率の発現と繊維の乱れや樹脂だまりができにくいという観点から0.1mm~2mmの範囲にあることが望ましい。なお、熱伝導パスは加熱プレスや賦形加工時の圧力による繊維の移動は自己の変形、流れ出しなどによって、最小径と最大径の差が最大4倍となるほどの太さの変動が起こり得る。
【0026】
また、繊維強化プラスチック成形材料の面方向における熱伝導パスの間隔(ピッチ)については、熱伝導パスの太さの2.5倍以上であることが好ましい。これは、例えば、熱伝導パスの直径が1mmであれば2.5mmピッチ以上である。ピッチが2.5倍未満であると熱伝導パス形成時に強化繊維を破損させたり、樹脂だまりが形成しやすくなり成形体の機械物性を低下させる恐れが大きくなる。
【0027】
また、熱伝導パスを形成する方法については特に制限されないが、例えば、マトリックス樹脂を含浸させて強化繊維が面内配向したものを一旦加熱してマトリックス樹脂を軟化させたのちに、剣山状のピンを緩やかに挿通することにより強化繊維の間隙を押し広げて孔明け加工を行い、その孔に熱伝導パスを形成する材料を充填する方法が挙げられる。また、アルミ箔などのキャリアにメタルマスクなどを用いて熱伝導パスからなるバンプを印刷法で形成したのち、上記と同様に強化繊維が面内配向したものを一旦加熱してマトリックス樹脂を軟化させた状態で重ね合わせて熱伝導パスを貫通させて、キャリアを剥離して熱伝導パスを残存させる方法を挙げることができる。更には、予め熱伝導パスの形成箇所となる開口部を設けた強化繊維基材を用意し、その開口部に熱伝導パスを配置したのちに、マトリックス樹脂をRTM法などにより含浸させるようにしてもよい。更にまた、マトリックス樹脂を含浸させて強化繊維が面内配向したものに熱伝導パスとなる糸状材料を縫い付け、糸状材料の縫目を有する表面を研磨することによって個々の独立した熱伝導パスを形成するようにしてもよい。なお、熱伝導パスの形成の際、繊維強化プラスチック成形材料は1プライでもよいし、複数プライが積層された状態であってもよい。
【0028】
本発明の繊維強化プラスチック成形材料は、従来の材料と同様にしてオートクレーブ法や金型を用いた熱プレス法などにより成形加工をすることができる。また、プリフォームとも呼ばれる成形体一歩手前の賦形性が残った状態とし、金型プレス機を用いて任意の形状に後加工(2次加工)することもできる。
【0029】
本発明によって得られる繊維強化プラスチックは、その厚み方向(Z軸方向)に従来の繊維強化材料より高い熱伝導率を示すことができる。そのため、繊維強化プラスチック成形材料を単独で又は複数積層するなどして賦形した成形体(繊維強化プラスチック)は、その厚み方向(Z軸方向)の熱伝導性に優れることから、例えば、スマートフォンやノートPC、タブレットPCといった携帯電子情報機器の筐体をはじめ、大型ディスプレイなどの電気製品の放熱部材、車載電池ボックスの放熱部材など、熱伝導部材として各種の用途に幅広く用いることができる。
【実施例0030】
以下、実施例に基づきながら、本発明について具体的に説明する。
すなわち、本発明の一実施形態として、厚み方向の熱伝導性を向上させるための複数の熱伝導パスを設けた繊維強化プラスチック成形材料(実施例)と、熱伝導パスを有さずに強化繊維のみで形成した参照用繊維強化プラスチック成形材料(比較例)とを準備し、それぞれ加熱プレス機でマトリックス樹脂の重合・硬化と賦形を行ったうえで、得られた成形体の厚み方向における熱伝導率を評価した。なお、これらは本発明の実施形態を何ら限定するものではない。また、この実施例における各種評価については、特に断りのない限り下記の方法で行った。
【0031】
[熱伝導率測定]
ASTM-D5470に準拠した定常法を用いて測定した。測定に際しては厚みを3mm、5mm、7mmの3種類で20mm×20mmのサイズの試験片を複数枚切り出し、これらを1~3枚重ねることによって厚みを変更しながら下記条件により測定を行った。
・メーターバー:SUS304 20×20×30mm
・測定荷重7.5kg/cm、高温側60℃/低温側25℃
・サンプル(試験片)とメーターバーの接触界面に熱伝導グリスを塗布
【0032】
[成形性の評価方法]
スマートフォンのレンズカバーを模した形状(縦20mm×横20mm×深さ3mm)の金型を準備し、各実施例および比較例で作製した厚さ1mmの平板状の繊維強化プラスチック成形材料に、温度180℃、圧力10MPaで成形加工を施し、2次加工性を評価した。評価は目視によって行い、2次加工を行った成形体に割れやシワ、剥離などの欠陥がないものを○とし、2次加工を行った成形体に割れやシワ、剥離などの欠陥を生じたものを×とした。
【0033】
[実施例1]
現場重合型フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂として強化繊維が面内配向してなる厚さ0.2mmの綾織の現場重合型フェノキシ樹脂CFRPプリプレグNS-TEPreg(登録商標、日鉄ケミカル&マテリアル製 Vf:55%)を50mm×50mmのサイズに切り出し、φ1mmの金属製のピン(金属ピン)を2.7mmピッチで49本(縦方向に7本、横方向に7本)備えた孔開け加工用の金型が取り付けられた手動の熱プレス機(治具)に複数枚積層してセットした。次いで、上下の熱板の温度を120℃に加熱したのち、金型を手動でゆっくりと閉じて金属製ピンを積層体に挿入し、5分間ほど保持したのちにゆっくりと金型を開放することにより積層体に孔あけ加工を行った。なお、積層体に形成された孔は、強化繊維の間隙を押し広げた状態で形成されていた。
【0034】
次いで、上記のように加工された積層体の孔内に熱伝導パス形成材料としてφ1mmのハンダ線(Sn60-Pb40共晶ハンダ、融点:190℃)を挿入してはめ込むことで本発明の繊維強化プラスチック成形材料とし、熱プレス機に再度前記積層体をセットして、200℃、10MPaで10分間プレスすることにより、平板状で、その厚み方向を貫通する熱伝導パスが形成された平板状の繊維強化プラスチック(成形体)を作製した。
成形体は、NS-TEPreg(CFRPプリプレグ)の積層枚数を変えることで3種類の厚みとし、先に述べた方法により厚み方向の熱伝導率を測定するとともに、2次加工性の評価を行った。結果を表1に示す。
なお、上記で得られた繊維強化プラスチック成形材料について、その板厚方向の任意の位置における面方向に沿った平行な断面における単位面積あたりの熱伝導パスの面積比率(面積割合)については治具に設けられた金属ピンの配置から計算している。
【0035】
[比較例1]
治具による孔明け加工と熱伝導パス形成を行わないこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導パスが形成されていない平板状の繊維強化プラスチックを作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1の結果に見られるように、ハンダ材料を用いて表裏を熱的に接続する熱伝導パスが形成された実施例1の繊維強化プラスチック成形材料からなる平板状の繊維強化プラスチック(成形体)は、その厚み方向の熱伝導率が熱伝導パスのない繊維強化プラスチックよりも高い結果となったほか、平板の2次加工性についても熱伝導パスのない比較例1と同等の良加工性を示すことが明らかとなり、本発明の有効性は明らかである。
図1
図2