(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086296
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】核酸増幅用チップ、核酸増幅装置、および核酸増幅方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240620BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20240620BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/6844 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201356
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀典
(72)【発明者】
【氏名】古谷 俊介
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029DD06
4B029DG10
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS24
4B063QS25
4B063QS32
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】蛍光検出による溶液移動の測定を行わず、より簡便に溶液の高速移動を可能とし、また気泡の生成を抑制する核酸増幅チップを提供する。
【解決手段】第1の開口を有する第1連結管と第2の開口を有する第2連結管との間に、前記第1連結管と連通する第1の方向に凸状の第1凸状管と、前記第2連結管と連通する第1の方向に凸状の第2凸状管と、前記第1凸状管と前記第2凸状管とを流体連通する管状のブリッジ部と、とを有する流路を有する核酸増幅用チップを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の開口を有する第1連結管と第2の開口を有する第2連結管との間に
前記第1連結管と連通する第1の方向に凸状の第1凸状管と、
前記第2連結管と連通する第1の方向に凸状の第2凸状管と、
前記第1凸状管と前記第2凸状管とを流体連通する管状のブリッジ部と、
とを有する流路を有する核酸増幅用チップ。
【請求項2】
前記ブリッジ部は、前記第1凸状管および前記第2凸状管から前記第1の方向と反対方向に離れて配置される請求項1に記載の核酸増幅用チップ。
【請求項3】
前記第1連結管、前記第1凸状管、前記第2連結管、第2凸状管、および前記ブリッジ部は前記流路の中心軸に垂直な内腔断面が同一形状である請求項1または2に記載の核酸増幅用チップ。
【請求項4】
前記連通する一組の管の接続角度は、90°以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸増幅用チップ。
【請求項5】
前記流路は前記内腔断面の外周上の2点を結んだ長さの最大値が0.5mm以上である請求項3または4に記載の核酸増幅用チップ。
【請求項6】
前記流路は前記最大値が1mm以下である請求項5に記載の核酸増幅用チップ。
【請求項7】
前記ブリッジ部は前記第1の方向と反対方向に凸状である請求項1~6のいずれか一項に記載の核酸増幅用チップ。
【請求項8】
核酸増幅用装置に設置された請求項1~6のいずれか一項に記載の核酸増幅用チップであって、前記第1の方向が重力方向であり、前記流路内の第1の方向への移動速度が5mm/s以上である請求項1~7のいずれか一項に記載の核酸増幅用チップ。
【請求項9】
第3凸状管および第2ブリッジ部をさらに備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の核酸増幅用チップ。
【請求項10】
核酸増幅装置であって、
請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸増幅用チップと
第1のヒータと、
第2のヒータと、
気体移送装置と、を備え、
前記第1のヒータは前記第1凸状管を第1の温度で加熱し、
前記第2のヒータは前記第2凸状管を前記第1の温度とは異なる第2の温度で加熱し、
前記気体移送装置は、前記流路内の気体を移送する、核酸増幅装置。
【請求項11】
前記気体移送装置がマイクロディスペンサまたはマイクロブロアである請求項10に記載の核酸増幅装置。
【請求項12】
前記核酸増幅用チップは、前記第1の方向が重力方向である請求項10または11に記載の核酸増幅装置。
【請求項13】
核酸増幅装置であって、
請求項9に記載の核酸増幅用チップと
第1のヒータと、
第2のヒータと、
第3のヒータと、
気体移送装置と、を備え、
前記第1のヒータは前記第1凸状管を第1の温度で加熱し、
前記第2のヒータは前記第2凸状管を前記第1の温度とは異なる第2の温度で加熱し、
前記第3のヒータは、前記第3凸状管を第3の温度で加熱し、
前記気体移送装置は、前記流路内の気体を移送する、核酸増幅装置。
【請求項14】
請求項10~13のいずれか一項に記載の核酸増幅装置に前記核酸増幅用チップを前記第1の方向が重力方向であるように設置する工程と、
前記第1の開口から核酸増幅溶液を前記第1凸状管内に注入する工程と、
前記第1のヒータにより、前記第1凸状管内の前記核酸増幅溶液を第1の温度に加熱する工程と、
前記気体移送装置により気体を移送し、前記核酸増幅溶液が前記ブリッジ部を越える位置に前記核酸増幅溶液を移送し、前記核酸増幅溶液を前記第2凸状管内に流入させる工程と
前記第2のヒータにより、前記第2凸状管内の前記核酸増幅溶液を第2の温度に加熱する工程と
を含む核酸増幅方法。
【請求項15】
前記気体移送装置により気体を移送し、前記核酸増幅溶液が前記ブリッジ部を越える位置に前記核酸増幅溶液を移送し、前記核酸増幅溶液を前記第1凸状管内に流入させる工程をさらに含む請求項14に記載の核酸増幅方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅用チップ、核酸増幅装置、および核酸増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の検出は、医薬品の研究開発、法医学、臨床検査、農作物や病原性微生物の種類の同定など、様々な分野において中核をなすものである。癌を含む種々の疾患、微生物の感染、分子系統解析に基づいた遺伝子マーカーなどを検出する能力は、疾患および発症リスク診断、マーカーの探索、食品や環境中の安全性評価、犯罪の立証、および他の多くの技術にとって普遍的技術となっている。
【0003】
PCR法は、DNAのある特定領域を選択的に増幅する強力な技術である。PCRを用いると、テンプレートDNAの中の標的とするDNA配列について、単一のテンプレートDNAから数百万コピーのDNA断片を生成することができる。PCRは、サーマルサイクルと呼ばれる三相もしくは二相の温度条件を繰り返すことにより、単一鎖へのDNAの変性、変性されたDNA一本鎖とプライマーのアニーリング、および熱安定性DNAポリメラーゼ酵素によるプライマーの伸長という個々の反応が順次繰り返される。
【0004】
このように、PCR法は、サーマルサイクルにより遺伝子を指数関数的に増幅する強力な手法であるが、PCRに使用される汎用のサーマルサイクラー装置は、ヒータであるアルミブロック部の巨大な熱容量のため温度制御が遅く、30~40サイクルのPCR操作に時間を要するという課題があった。そのため、PCR操作の高速化が望まれており、高速化を実現するために種々の方法が開発されている。
【0005】
例えば、微小流路が形成されたチップ上でPCR操作を行うことは、試料量の低減により熱容量が小さくなり、サーマルサイクルの高速化を図ることができるとして、種々の検討がなされてきた。しかし、微細流路を用いた場合、ヒータなどが設置された所定の温度領域に正確に所望の量の溶液を移送しないと、不十分な加熱や、反対に加熱しすぎる原因となる。
【0006】
本出願人は、微小流路を有するチップにマイクロブロアを用いた送液機構を設け、蛍光検出により溶液の移動を検出しながらリアルタイムPCRを行うことのできる核酸増幅装置を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、サンガー法など、PCR法の手法によっては、単にDNAの増幅のみが求められ、定量のための蛍光プローブを必要としないため、蛍光検出による溶液の移動を検出することはできない。もし液の移動を蛍光検出で測定しようとすれば、不要な蛍光色素を添加するか、別途、溶液の速度確認用の検出法が必要となる。
また、微細流路では、流体を微細流路に流す際の空気の巻き込みや、加熱時の温度により気泡が発生すると、微細流路内に滞留部が生じ、溶液移動の妨げとなっていた。
【0009】
これらを鑑み、本発明は、蛍光検出による溶液移動の測定を行わず、より簡便に溶液の高速移動を可能とし、また気泡の生成を抑制する核酸増幅用チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の核酸増幅用チップは、第1の開口を有する第1連結管と第2の開口を有する第2連結管との間に、前記第1連結管と連通する第1の方向に凸状の第1凸状管と、前記第2連結管と連通する第1の方向に凸状の第2凸状管と、前記第1凸状管と前記第2凸状管とを流体連通する管状のブリッジ部と、を有する流路を有する。
【0011】
また、本発明に係る他の実施形態では、本発明の一実施形態に係る核酸増幅用チップと第1のヒータと第2のヒータと気体移送装置とを含む核酸増幅装置に関する。
【0012】
さらに本発明の他の実施形態では、本発明の一実施形態に係る核酸増幅装置を用いた核酸増幅方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は蛍光検出による溶液移動の測定を行わず、より簡便に溶液の高速移動を可能とし、また気泡の生成を抑制する核酸増幅用チップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る核酸増幅装置の模式図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る核酸増幅装置を用いて、核酸増幅を行っている図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明するが、本発明はこれらに限られない。
【0016】
(核酸増幅装置)
図1は、本発明の一実施形態に係る核酸増幅装置1000の模式図である。
図1に示されるように、核酸増幅装置1000は、核酸増幅用チップ100と、第1のヒータ14と、第2のヒータ24と、気体移送装置(不図示)とを備える。核酸増幅用チップ100は、第1の開口11を有する第1連結管12と、第1の方向に凸状の第1凸状管(単に「第1凸状管」ともいう)13と、第2の開口21を有する第2連結管22と、第1の方向に凸状の第2凸状管(単に「第2凸状管」ともいう)23と、ブリッジ部30とを備える流路200を備える。核酸増幅装置1000において、核酸増幅用チップ100の当該第1の方向は、重力方向に一致する。以下、
図1の核酸増幅装置1000を参照し、各構成について詳細に説明する。
【0017】
(核酸増幅用チップ)
核酸増幅用チップ100は、増幅したい遺伝子を含むPCR溶液を流路200内に保持し、サーマルサイクルを繰り返すことで指数関数的に遺伝子を増幅させるチップである。
【0018】
核酸増幅用チップ100は、第1の開口11を有する第1連結管12と、第1の方向に凸状の第1凸状管13と、第2の開口21を有する第2連結管22と、第1の方向に凸状の第2凸状管23と、ブリッジ部30とを備える流路200を備える。
【0019】
第1連結管12は、第1の開口11を有し、第1凸状管13の一端と連通する。
【0020】
第1の開口11は第1連結管12に設けられ、流路200を核酸増幅用チップ100外部に開放する。第1の開口11から、後述する気体移送装置やディスペンサ等を用いて気体やPCR溶液などの液体を流路200内に注入することができる。また反対に第1の開口11から、流路200内の気体や液体を排出することができる。
【0021】
第1連結管12と第1凸状管13の接続角度R1は、好ましくは90°以上である。また、第1連結管12は、好ましくは第1の方向に平行に延在する。そのような構造により、第1の方向が重力方向であるように核酸増幅装置1000に核酸増幅用チップ100が設置された際、第1連結管12に注入された液体は重力方向に沿って第1凸状管13に流入する。さらに流路200内に気体がある場合には、気泡は第1連結管12を通って第1の開口11に到達し、排出される。
【0022】
第1の方向に凸状の第1凸状管13はPCR溶液を保持し、後述する第1のヒータ14により第1の温度帯に加熱され、第1のPCR反応を行う部分である。
【0023】
第1凸状管13は、第1の方向に凸状となる部分(凸状部)を設けるように形成され、第1連結管12から注入されたPCR溶液が当該凸状部に滞留することができる。当該凸状部は、例えばU字型やV字型であってもよい。
【0024】
第1凸状管13にPCR溶液が滞留し、加熱されて反応を行うため、第1凸状管13の大きさは所望のPCR反応を行うのに要する溶液を保持することのできる大きさであることが好ましい。
【0025】
第2の開口21、第2連結管22、第2凸状管23は、第2凸状管23で行われるPCR反応の温度が第1の温度帯とは異なる点を除き、それぞれ第1の開口11、第1連結管12、第1凸状管13と同様である。第2の開口21、第2連結管22、および第2凸状管23と、第1の開口11、第1連結管12、第1凸状管13とは対称的な形状であってもよく、また、それぞれ異なる形状であってもよい。後述するように、PCR溶液は第1凸状管13と第2凸状管23との間を交互に繰り返し移送されるため、第1の方向が重力方向である場合、第1凸状管13と第2凸状管23の重力方向高さは同じであることが好ましい。
【0026】
ブリッジ部30は管状であり、第1凸状管13と第2凸状管23とを流体連通する。ブリッジ部30は、前記第1凸状管および前記第2凸状管から前記第1の方向と反対方向に離れて配置される。第1の方向が重力方向であるように核酸増幅用チップ100が設置された場合には、隣り合う第1凸状管13および第2凸状管23に挟まれたブリッジ部30が、これら二つの凸状管よりも重力方向高さが高く配置されることとなる。そのため、PCR溶液が、一方の凸状管から移送され、ブリッジ部30を超えると、重力に沿って他方の凸状管に流入することができる。
【0027】
ブリッジ部30は、第1の方向に垂直方向に延在する橋梁形状であってもよく(
図2および
図3)、また第1の方向に反対方向に凸状の形状であってもよい(
図1および
図4)。例えば、第1の方向に反対方向に凸状の山形状であってもよく(
図1)、また第1の方向に反対方向に凸状の半円形状を有してもよい(
図4)。ブリッジ部30が第1の方向に反対方向に凸状の形状の場合、ブリッジ部30の中間地点(凸状部分の変曲点)まで溶液を移送すれば他方の凸状管に自動的に移送されるため、好ましい。
また、隣り合う凸状管の間にブリッジ部を備える形状であれば、第1連結管12および第2連結管22の間に、凸状管を3つ以上設けてもよい。
図5では、第1連結管12および第2連結管22の間に、第1凸状管13と、ブリッジ部30と、第2凸状管23と、第2ブリッジ部40と、第3凸状管63と、が順に設けられている。隣り合う凸状管はそれぞれ異なる温度帯で加熱され、それぞれPCR反応を行うことができる。隣り合わない凸状管、例えば、第1凸状管13と第3凸状管63とは、異なる温度帯で加熱されてもよく、また同じ温度帯で加熱されてもよい。
【0028】
ブリッジ部30と第1凸状管13および第2凸状管23、ならびに第2ブリッジ部40と第2凸状管23および第3凸状管63のそれぞれとの接続角度は好ましくは90°以上である。そのような角度にすることで、接続部分に気泡がたまることなく、溶液内から除去することができる。
【0029】
核酸増幅用チップ100の流路200は、好ましくは第1の方向に平行な平面に形成される。それにより、第1の方向が重力方向である場合に、流路200内の溶液が重力に沿って移動することができる。
【0030】
核酸増幅用チップ100の流路200は、中心軸に垂直な内腔断面の形状(以下、単に「断面形状」という)が円状または楕円状の円筒形であってもよく、当該断面形状が多角形状の管であってもよい。また、流路200は、当該断面形状において、曲線部と多角形部とが組み合わさった形状であってもよい。流路200は、好ましくは断面形状が流路内で一律である。
【0031】
流路200は、好ましくは微小流路である。流路200の断面形状の外周上の2点を結んだ長さの最大値が0.5mm以上であることが好ましい。例えば、断面形状が円状であった場合、その直径が0.5mm以上であることが好ましい。また、断面形状が楕円状であった場合、その長軸半径が0.25mm以上であることが好ましい。断面形状が多角形状の場合、対角線長さの最大値が0.5mm以上であることが好ましい。このような大きさを有することにより、溶液と流路内壁との摩擦力よりも重力効果のほうが大きくなり、溶液が重力に従って所望の位置に移動することができる。流路200内の重力方向への移動速度は5mm/s以上であることが好ましい。
【0032】
さらに、流路200内でプラグ状で溶液を維持できる微小流路のサイズであることが好ましい。流路200の断面形状の外周上の2点を結んだ長さの最大値が1mm以下であることが好ましい。例えば、断面形状が円状であった場合、その直径が1mm以下であることが好ましい。また、断面形状が楕円状であった場合、その長軸半径が0.5mm以下であることが好ましい。断面形状が多角形状の場合、対角線長さの最大値が1mm以下であることが好ましい。
【0033】
核酸増幅用チップ100に用いられる材料は、熱伝導性が比較的高く、PCRに必要な温度範囲において安定で、電解質溶液や有機溶媒に浸食されにくく、かつ核酸やタンパク質を吸着しない材料であることが好ましい。例えば、材料として、ガラス、石英、シリコン、樹脂、および金属を用いることができる。好ましくはポリメチルメタクリレート(PMMA)や、シクロオレフィンポリマー(COP)などの樹脂である。
【0034】
核酸増幅用チップ100は、射出成型や、MEMS加工により形成することができる。
【0035】
(ヒータ)
ヒータは凸状管内の溶液を特定の温度帯に加熱する。
図1の核酸増幅装置1000は、第1のヒータ14および第2のヒータ24を備える。
【0036】
第1のヒータ14は、第1凸状管13内の溶液を第1の温度帯に加熱するヒータである。第1凸状管13を加熱するため、第1のヒータ14は、核酸増幅用チップ100の第1凸状管13の背面を覆うように設置される。
【0037】
第2のヒータ24は、第2凸状管23内の溶液を、第1の温度とは異なる第2の温度帯に加熱するヒータである。第2凸状管23を加熱するため、第2のヒータ24は、核酸増幅用チップ100の第2凸状管23の背面を覆うように設置される。
【0038】
第1の温度および第2の温度はそれぞれPCR反応のサーマルサイクル(変性温度帯と伸長・アニーリング温度帯)によって決定される。
図5のようにヒータが3つ以上ある場合には、隣り合うヒータは異なる温度帯に設定される。隣り合わないヒータ、例えば、第1のヒータ14と第3のヒータ64とは、異なる温度帯で加熱されてもよく、また同じ温度帯で加熱されてもよい。
【0039】
(気体移送装置)
核酸増幅装置1000は、少なくとも1つの気体移送装置を備える。気体移送装置は第1の開口11および第2の開口21の少なくとも一方に連結され、流路200に気体を注入し、または流路200から気体を排出する。気体移送装置により気体を注入または排出することで、流路200内のPCR溶液を移動させることができる。
【0040】
気体移送装置は所望量の気体を流路200に注入または排出できる装置であればよいが、静止中は流路200内の圧力は解放される。例えば、マイクロディスペンサやマイクロブロアを気体移送装置として用いることができる。例えば、マイクロディスペンサとしては、Burkert社製マイクロドージングユニットType-7615、マイクロブロアとしては、村田製作所マイクロブロアMZB100T02などを用いることができる。
【0041】
気体移送装置は第1の開口11または第2の開口21のいずれかに連結されればよく、また両方に連結してもよい。両方の開口に連結した場合には、送液方向に合わせ、気体移送装置が交互に稼働される。両方の開口に連結した場合でも、気体移送装置が静止した際には、流路200内の圧力は解放される。
【0042】
気体移送装置がいずれか一方の開口のみに連結された場合、気体移送装置は流路200内に気体を流入して溶液を移動させることができ、かつ流路200内の気体を吸引して溶液を移動させることができる。いずれの場合も、静止時には圧力が解放され、溶液は重力に沿って流路200内を移動する。
【0043】
(核酸増幅方法)
次に、核酸増幅装置1000を用いた核酸増幅方法について説明する。以下、第1の開口11に気体移送装置を設けた実施形態を用いて説明するが、これに限定されない。
(1)核酸増幅装置1000は、核酸増幅用チップ100の第1の方向が重力方向であるように設置される。
(2)マイクロピペット等を用いて5~25μLのPCR溶液を計量し、第1の開口11から流路200内に注入する。PCR溶液は第1連結管12を経て、第1凸状管13に流入し、保持される(
図5(a))。PCR溶液はサンガー法により増幅できるものであればよく、蛍光色素を有さなくてもよい。また、蛍光色素を有するものであってもよい。PCRの試薬の一例として、タカラバイオ社のSpeedSTAR(登録商標) HS DNA polymeraseを最終濃度0.025 U/μLにて使用し、付属のFAST Buffer I及びdNTP Mixtureをマニュアル通りの濃度で混合し、さらに0.5 μMのプライマーを混合して、PCR用プレミクスチャーとして使用できる。なお、PCR試薬の組成はこれに限定されず、PCR用の試薬組成であれば良い。
(3)第1のヒータ14により、第1凸状管13内のPCR溶液を変性温度(約95℃)に加熱し、二本鎖DNAを1本鎖に解離させる。
(4)反応終了後、気体移送装置により気体を注入し、PCR溶液がブリッジ部30を越えるよう、溶液を移送し、気体移送装置を静止させる。ブリッジ部30を越えた溶液は、流路200内の圧力が解放されると、重力により第2凸状管23内に移動し、保持される(
図5(b))。
(5)第2のヒータ24により、第2凸状管23内のPCR溶液を伸長・アニーリング温度(50~70℃)に加熱し、プライマーを結合させ、一本鎖の鋳型DNAから2種類のプライマー配列に挟まれた領域を二本鎖DNAに複製する。
(6)気体移送装置により流路200内の気体を吸引し、PCR溶液が第2凸状管23からブリッジ部30を越えるよう、溶液を移送し、気体移送装置を静止させる。往路と同様、ブリッジ部30を越えた溶液は、流路200内の圧力が解放されると、重力により第1凸状管13内に移動し、保持される。
【0044】
操作(3)~(6)を繰り返し、温度変化させることで、標的配列のDNAを指数関数的に増幅することができる。
【0045】
本実施形態では、上述した通り、PCR溶液がブリッジ部30を越えると、重力に沿って溶液が移送先の凸状管に流入し、保持することができるため、厳密な溶液送達の調整は必要ない。本実施形態によれば、溶液がブリッジ部30を越える程度の気体を流路200内に注入または吸引することを繰り返すことで、所望の位置に液を移送することができ、サーマルサイクルを行うことができる。
【0046】
また、本実施形態では、核酸増幅用チップ100の第1の方向が重力方向であるように設置されているため、発生した気泡は重力方向と反対方向に移動し、その結果、第1の開口11もしくは第2の開口21、またはブリッジ部30に向かって移動し、流路200内から除去することができる。気泡を除去することで、サーマルサイクルの偶発的なエラーを回避することができる。
【0047】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0048】
また、上述の各実施の形態および変形例の一つもしくは複数を、適宜組合せてもよい。
【符号の説明】
【0049】
11 第1の開口
12 第1連結管
13 第1凸状管
14 第1のヒータ
21 第2の開口
22 第2連結管
23 第2凸状管
24 第2のヒータ
30 ブリッジ部
100 核酸増幅用チップ
200 流路