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特開2024-86451液体吐出ヘッド、液体吐出ユニットおよび液体吐出装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086451
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニットおよび液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20240620BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20240620BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240620BHJP
   B41J 2/04 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05C11/10
B41J2/14
B41J2/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201583
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】大島 久慶
【テーマコード(参考)】
2C057
4F041
4F042
【Fターム(参考)】
2C057AG17
2C057AG44
2C057AG51
2C057BA08
2C057DB01
4F041AA02
4F041AA05
4F041AA07
4F041AA12
4F041AB01
4F041BA01
4F041BA10
4F041BA13
4F041BA22
4F041BA36
4F041BA38
4F042AA02
4F042AA06
4F042AA09
4F042AA22
4F042BA08
4F042BA12
4F042CA01
4F042CB03
4F042CB08
4F042CB19
4F042DB02
4F042DB17
4F042DF23
(57)【要約】
【課題】ノズル孔に対するニードル弁の位置ずれや傾きが低減され、液体の安定した吐出状態を得る。
【解決手段】液体を収容する液室と、前記液室に連通し前記液体を吐出するノズル孔と、前記ノズル孔に対して離接移動し前記ノズル孔を開閉するニードル弁と、前記ニードル弁を離接移動させる駆動手段と、前記液室と、前記ニードル弁および前記駆動手段を収容する収容室とを有するハウジングと、を備える液体吐出ヘッドであって、前記ニードル弁は、該ニードル弁の前記離接移動の方向と直交する方向における前記ニードル弁の位置を規制する位置規制部材を介して前記収容室に支持され、前記位置規制部材は、前記ニードル弁の前記離接移動の方向に可撓性を有するシート状を成し、前記ニードル弁の外周部と嵌合する内周部と、前記ハウジングに固定される外縁部と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する液室と、
前記液室に連通し前記液体を吐出するノズル孔と、
前記ノズル孔に対して離接移動し前記ノズル孔を開閉するニードル弁と、
前記ニードル弁を離接移動させる駆動手段と、
前記液室と、前記ニードル弁および前記駆動手段を収容する収容室とを有するハウジングと、
を備える液体吐出ヘッドであって、
前記ニードル弁は、
該ニードル弁の前記離接移動の方向と直交する方向における前記ニードル弁の位置を規制する位置規制部材を介して前記収容室に支持され、
前記位置規制部材は、
前記ニードル弁の前記離接移動の方向に可撓性を有するシート状を成し、
前記ニードル弁の外周部と嵌合する内周部と、
前記ハウジングに固定される外縁部と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記位置規制部材は、前記液室から前記収容室への前記液体の浸入を防ぐシール性を有することを特徴とする請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記位置規制部材を第1の位置規制部材としたとき、前記ニードル弁の前記離接移動の方向において前記第1の位置規制部材に対し前記液室と反対側へ離れた位置に、前記ニードル弁の前記離接移動の方向と直交する方向における前記ニードル弁の位置を規制する第2の位置規制部材を備えることを特徴とする請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第2の位置規制部材は、前記ニードル弁が前記ノズル孔を閉鎖する位置にある場合に、前記離接方向に垂直な方向の位置ずれを吸収することを特徴とする請求項3記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記液室と前記位置規制部材との間に、
前記ニードル弁の前記離接移動の方向に可撓性を有し、前記液室から前記収容室への前記液体の浸入を防ぐシール部材を設け、
前記シール部材は、
前記ニードル弁の外周部と嵌合する内周部と、
前記ハウジングに固定される外縁部と、
を有することを特徴とする請求項1または3記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記シール部材の前記液室に対面する部分の面積は、前記位置規制部材の可撓部分の面積よりも小さいことを特徴とする請求項5記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記位置規制部材は、前記内周部から前記外縁部に向かう断面形状が、波型に形成されていることを特徴とする請求項2記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記シール部材は、前記内周部から前記外縁部に向かう断面形状が、波型に形成されていることを特徴とする請求項5記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記位置規制部材は、繊維層と、樹脂および/またはゴムを含む樹脂層とを有することを特徴とする請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記位置規制部材は、金属層と、樹脂および/またはゴムを含む樹脂層とを有し、前記金属層には、前記内周部と前記外縁部とを部分的に接続する梁部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記位置規制部材は、樹脂および/またはゴムを含む複数の樹脂層を有し、そのうち1つの樹脂層には、前記内周部と前記外縁部とを部分的に接続する梁部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記第2の位置規制部材は、
前記ニードル弁の前記離接移動の方向に可撓性を有するシート状を成し、
前記ニードル弁の外周部と嵌合する内周部と、
前記ハウジングに固定される外縁部と、
を有し、
前記内周部と前記外縁部とを部分的に接続する梁部を備えることを特徴とする請求項3記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
液体を収容する液室と、
前記液室に連通し前記液体を吐出する複数のノズル孔と、
前記ノズル孔に対して離接移動し前記ノズル孔を開閉する複数のニードル弁と、
前記ニードル弁を離接移動させる複数の駆動手段と、
前記液室と、前記ニードル弁および前記駆動手段を収容する複数の収容室とを有するハウジングと、
を備える液体吐出ヘッドであって、
前記複数のニードル弁は、
該ニードル弁の前記離接移動の方向と直交する方向における前記ニードル弁の位置を規制する位置規制部材を介して前記収容室にそれぞれ支持され、
前記位置規制部材は、
前記ニードル弁の前記離接移動の方向に可撓性を有するシート状を成し、
前記ニードル弁の外周部と嵌合する内周部と、
前記ハウジングに固定される外縁部と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項14】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドと、
前記駆動手段の駆動を制御する駆動制御部と、
を備えることを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項15】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドを備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項16】
請求項14に記載の液体吐出ユニットを備えることを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニットおよび液体吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スライド可能なバルブニードルによってノズルを開閉してノズルチャンバ内のコーティング剤の液滴を吐出するアプリケータに関して、バルブニードルを変位させるアクチュエータを収容するアクチュエータチャンバと、コーティング剤を収容するノズルチャンバとを流体的に分離する封止部材を備えるとともに、封止部材を連続の膜状の封止膜として構成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2020-535005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されたような封止膜では、ノズル孔に対するニードル弁の位置や姿勢を維持することが難しく、ノズル孔からの液体の吐出状態が安定しないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、液体を収容する液室と、前記液室に連通し前記液体を吐出するノズル孔と、前記ノズル孔に対して離接移動し前記ノズル孔を開閉するニードル弁と、前記ニードル弁を離接移動させる駆動手段と、前記液室と、前記ニードル弁および前記駆動手段を収容する収容室とを有するハウジングと、を備える液体吐出ヘッドであって、前記ニードル弁は、該ニードル弁の前記離接移動の方向と直交する方向における前記ニードル弁の位置を規制する位置規制部材を介して前記収容室に支持され、前記位置規制部材は、前記ニードル弁の前記離接移動の方向に可撓性を有するシート状を成し、前記ニードル弁の外周部と嵌合する内周部と、前記ハウジングに固定される外縁部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ノズル孔に対するニードル弁の位置ずれや傾きが低減され、液体の安定した吐出状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係るヘッドユニットの一例を示す概略断面図。
図2】保持部材の一例を示す概略構成図。
図3】第1の実施形態を示す要部概略断面図。
図4】位置規制部材の固定方法の変形例を示す要部概略断面図。
図5】加圧供給機構およびヘッド移動機構の一例を示す説明図。
図6】ヘッドユニット、加圧供給機構、ヘッド移動機構および排出バルブの制御系の一例を示すブロック図。
図7】制御部のハードウエア構成の一例を示す説明図。
図8】ヘッドの動作を説明する図。
図9】比較例のヘッド構成を示す概略断面図。
図10】第2の実施形態を示す要部概略断面図。
図11】第3の実施形態を示す要部概略断面図。
図12】シール・位置規制膜およびシール膜の変形例を示す説明図。
図13】シール・位置規制膜の変形例を示す説明図。
図14】シール・位置規制膜の変形例を示す説明図。
図15】位置規制膜の梁構造のパターン例を示す平面図。
図16】ニードル弁に対する位置規制膜の配置の一例を示す説明図。
図17】ニードル弁の位置規制を説明する図。
図18】ニードル弁の傾きがもたらす現象についての説明図。
図19】複数のノズル孔を備える液体吐出ヘッドの一例を示す要部斜視展開図。
図20】複数のノズル孔を備える液体吐出ヘッドの別の例を示す要部斜視展開図。
図21】位置規制膜の平面図。
図22】複数のノズル孔を備える液体吐出ヘッドの別の例を示す要部斜視展開図。
図23】位置規制膜の平面図。
図24】実施形態に係るヘッドユニットの別の構成例を示す概略断面図。
図25】車体塗装システムの一例を示す説明図。
図26】車体塗装システムの使用例を示す説明図。
図27】印刷装置のキャリッジ部分の斜視図。
図28】印刷装置の一例を示す全体斜視図。
図29】電極製造装置の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら発明を実施するための形態を説明する。図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0009】
[ヘッドユニットの概要]
はじめに図1乃至図3を用いてヘッドユニットの概要について説明する。図1は、実施形態に係るヘッドユニットの一例を示す概略断面図であり、ヘッド最小単位(1ノズル)の構成が図示されている。
【0010】
図1に例示されたヘッドユニットは、液体の一例である塗料を吐出するヘッドユニットである。ヘッドユニットHUは、液体吐出ヘッドの一例であるヘッド100と、ヘッド100の駆動を制御するヘッド制御部902とから構成される。ヘッド制御部902は駆動制御部の一例である。
【0011】
ヘッド100は、中空状に形成されたハウジング110と、ハウジング110の一端部に設けられたノズル板101を備える。ノズル板101は、塗料を吐出するノズル孔102が形成された板状の部材である。
【0012】
ハウジング110は、ノズル孔102に近い側面に、塗料が供給される供給口113と、塗料を排出する排出口115を備える。供給口113に供給された塗料は、ハウジング110内の液室114へ送られる。供給口113への塗料の供給と同時に、液室114内に存在する空気や余剰な塗料が、排出口115から外部へ排出される。排出口115は、液室114が塗料で充填された後にバルブ等で閉じられる。液室114は、概略としてノズル板101と、ハウジング110内に設けたシール・位置規制膜137との間に形成される空間によって形成される。
【0013】
液室114内には、ニードル弁131の一部が配置されている。ニードル弁131の支持構造については後述するが、概略として、ニードル弁131は、ノズル孔102と対向する側と反対側の端部(図1では上端部)が保持部材133によって保持され、軸部外周がシール・位置規制膜137と軸受136とで支持されている。シール・位置規制膜137は、ニードル弁131の姿勢(XY方向の傾き)を規制する機能に加え、シール機能を兼ね備えており、液室114の塗料が収容室116へ流入することを防止する。
【0014】
収容室116は、図1においてシール・位置規制膜137を境に液室114と反対側に形成される空間を指し、本実施形態において収容室116は、ニードル弁131、圧電素子132、保持部材133、軸受136等を収容する。
【0015】
駆動手段の一例である圧電素子132は、保持部材133を介して収容室116に設けられる。圧電素子132は、ヘッド制御部902からの駆動信号に応じて、ノズル孔102を開放する位置と、ノズル孔102を閉鎖する位置との間でニードル弁131をノズル板101に対して離接移動させる。ノズル孔102を開放する位置では、ニードル弁131の先端部がノズル板101から離間した状態となり、ノズル孔102を閉鎖する位置では、ニードル弁131の先端部がノズル板101に当接した状態となる。圧電素子132は、ジルコニアセラミックス等を用いて形成されたピエゾ素子であり、圧電素子132の形状等は、ノズル孔102から吐出される液滴の量などに応じて適宜設定される。
【0016】
また、ハウジング110は、保持部材133の上端部と対向する位置に固定軸111を備えている。固定軸111は、保持部材133の上端部に当接するとともに、固定ネジ112によってハウジング110に対して固定されることで、固定点を形成する。つまり、固定点を設けることで、圧電素子132の伸縮に伴うZ方向の変位が、ニードル弁131側に作用するようにしている。
【0017】
ヘッド制御部902は、圧電素子132に対して電気的に接続されており、圧電素子132の駆動を制御する。
【0018】
なお、ハウジング110は、単一のハウジング構造に限らず、ヘッド100の組立性などを考慮し、複数のサブハウジングに分けた分割構造としてもよい。例えば、図1に示されたヘッド100の場合、ハウジング110は、3つのサブハウジング(第一ハウジング110a、第二ハウジング110b、第三ハウジング110c)から構成されている。第一ハウジング110aは主に圧電素子132を収容し、第二ハウジング110bは主にニードル弁131を収容し、第三ハウジング110cは主に塗料の流路を形成するとともに、ノズル板101を支持する。
【0019】
次に、ハウジング110内において圧電素子132を保持する保持部材133の構成について説明する。図2は、保持部材の一例を示す概略構成図である。
【0020】
保持部材133は、全体が板状の部材であり、ニードル弁保持部133a、枠部133b、固定軸当接部133c、伸縮部133d、および空間133eを備える。ニードル弁保持部133aは、図1に示したようにニードル弁131の上端部を保持することが可能な形状になっており、ニードル弁131を保持する。枠部133bは、伸縮部133dを介してニードル弁保持部133aと接続されることにより、内側に空間133eを形成する。固定軸当接部133cは、枠部133bの上端部から外側に向けて形成されており、固定軸当接部133cは、図1に示したように固定軸111と当接し、保持部材133のZ方向への移動を規制する固定点を構成する。
【0021】
伸縮部133dは、ニードル弁保持部133aと枠部133bとを接続するとともに、ニードル弁保持部133aを枠部133b側(Z方向正側)へ付勢するばね性を有する。空間133eは、ニードル弁保持部133aおよび枠部133bの内側に形成され、空間133eには、破線で示すように圧電素子132が設置される。空間133eに設置された圧電素子132は、伸縮部133dが縮もうとするばね力が保持力となり、ニードル弁保持部133aの内側と枠部133bの内側との間で挟まれて保持される。
【0022】
上記の構成により、ニードル弁131と圧電素子132は、保持部材133を介して同軸上、すなわち、液体の吐出方向に直列に配置される。そして、圧電素子132に駆動電圧(開放電圧)が印加され圧電素子132が縮むと、ニードル弁保持部133aも伸縮部133dに引っ張られてZ方向正側へ移動する。このように、保持部材133が圧電素子132の駆動により弾性変形して、圧電素子132の駆動力をニードル弁131に伝える。これにより、ニードル弁131がノズル板101から離間してノズル孔102を開放し、液室114内の塗料はノズル孔102から吐出される。
【0023】
圧電素子132に駆動電圧(閉鎖電圧)が印加され圧電素子132が伸びると、ニードル弁保持部133aも伸縮部133dのばね力に抗してZ方向負側へ移動する。これにより、ニードル弁131がノズル板101に当接してノズル孔102を閉塞し、ノズル孔102からの塗料の吐出が停止される。
【0024】
なお、保持部材133は、ニードル弁保持部133a、枠部133b、固定軸当接部133cおよび伸縮部133dを一体の部材として構成してもよいし、一部の部位を別部材で構成してもよい。例えば、伸縮部133dをばねなどの別部材で構成し、ばねをニードル弁保持部133aと枠部133bに取り付ける構成としてもよい。あるいは、伸縮部133dをニードル弁保持部133aおよび枠部133bと一体成形した構成としてもよい。
【0025】
[第1の実施形態]
次に、図3を用いてニードル弁131の支持構造について説明する。図3は、第1の実施形態を示す要部概略断面図である。
【0026】
第1の実施形態では、ハウジング110は、3つのサブハウジング、すなわち第一ハウジング110a、第二ハウジング110b、および第三ハウジング110cによって構成されている。ニードル弁131は、第二ハウジング110bのZ方向の一端部に設けたシール・位置規制膜137と、第二ハウジング110bのZ方向の他の一端部に設けた軸受136とによって収容室116に支持されている。ここで、シール・位置規制膜137は位置規制部材の一例であり、第1の位置規制部材の一例でもある。また、軸受136は第2の位置規制部材の一例である。
【0027】
シール・位置規制膜137は、ニードル弁131が離接移動する方向(Z方向)に撓むことが可能な単層または複数層からなるシート状の部材であり、ニードル弁131の外周部と嵌合する内周部と、ハウジング110に固定される外縁部とを有する。
【0028】
シール・位置規制膜137の内周部および外縁部については後述するが、概略として、ニードル弁131のXY面での断面形状が円形である場合、シール・位置規制膜137の内周部は、ニードル弁131と嵌合する円形の孔として形成される。また、シール・位置規制膜137の外縁部とは、本実施形態では第二ハウジング110bと第三ハウジング110cによって挟まれた部位を指す。
【0029】
例えば、第二ハウジング110bの、シール・位置規制膜137の外縁部と対向する部位には、シール・位置規制膜137の膜厚よりも小さい深さを有する凹部が形成される。この凹部に置かれたシール・位置規制膜137は、各ハウジング110a,110b,110cの接合に伴い、第二ハウジング110bと第三ハウジング110cとでシール・位置規制膜137の外縁部が押し潰されることでハウジング110に固定される。
【0030】
シール・位置規制膜137の下側に伸びるニードル弁131には押え部材141aが嵌め込まれている。押え部材141aは、シール・位置規制膜137を、例えば、ニードル弁131に設けた段差部に押し当てる。
【0031】
上記のように、ニードル弁131は、ノズル板101に対して離接移動する方向(Z方向)と直交する方向(XY方向)における位置が、軸受136とシール・位置規制膜137とで規制されて収容室116に支持される。シール・位置規制膜137は、膜の張力バランスにより、ニードル弁131のハウジング110に対するXY方向の位置を規制する位置規制機能に加え、液室114に供給された塗料が収容室116に浸入することを防ぐためのシール機能を兼ねている。
【0032】
また、Z方向において、シール・位置規制膜137に対し液室114と反対側へ離れた位置に軸受136を設け、軸受136でもニードル弁131の離接移動の方向と直交する方向(XY方向)におけるニードル弁131の位置を規制するようにしている。これにより、ノズル板101のノズル孔102に対するニードル弁131の位置ずれ(芯ずれ)、ノズル板101に対するニードル弁131の傾きを精度よく規制することが可能になる。
【0033】
シール・位置規制膜137のハウジング110に対する固定方法については、シール・位置規制膜137の外縁部を第二ハウジング110bと第三ハウジング110cとで挟持する方法に限るものではない。例えば図4に示すように、シール・位置規制膜137、押え部材141a、および第二ハウジング110bの液室114から収容室116側へ伸びる開口部を同じ大きさで設けてもよい。この場合、シール・位置規制膜137は、2つのサブハウジング間で挟持されるのではなく、押え部材141aによって第二ハウジング110bへ押し当てられて固定される。
【0034】
[加圧供給機構および移動機構の構成]
次に、図5乃至図7を用いて、ヘッド100に塗料を加圧供給する加圧供給機構、およびヘッド100を移動させる移動機構について説明する。図5は、加圧供給機構および移動機構の一例を示す説明図である。
【0035】
図5において、ヘッド100から吐出する塗料10は、密閉された塗料タンク202に収容されている。塗料タンク202とヘッド100の供給口113は、塗料供給路201によって接続されている。
【0036】
一方、塗料タンク202は、エアレギュレータ204を含む加圧エア供給路203を介してコンプレッサ205と接続されている。エアレギュレータ204は、コンプレッサ205で作成した圧縮空気の圧力を、必要とするエア圧力に調節し、コンプレッサ205からの加圧空気を塗料タンク202へ供給する。これにより、ヘッド100の供給口113には、加圧された塗料10が供給され、ニードル弁131の開閉に応じてノズル孔102から塗料10が吐出される。ここで、塗料供給路201、塗料タンク202、加圧エア供給路203、エアレギュレータ204およびコンプレッサ205は、加圧供給手段の一例であり、ヘッド100の液室114に対して加圧した塗料10を供給するための加圧供給機構200として機能する。
【0037】
また、図5において、ヘッド100のハウジング110の一部(図5では上部)は、保持部の一例であるヘッド保持部材301に取り付けられている。ヘッド保持部材301は、駆動装置302を備え、駆動装置302を駆動させることでヘッド保持部材301がレール部材303に沿ってX方向正側およびX方向負側へ移動可能に設けられている。これにより、ヘッド保持部材301に取り付けられたヘッド100も、レール部材303に沿ってX方向正側およびX方向負側へ移動する。ここで、ヘッド保持部材301、駆動装置302およびレール部材303は移動手段の一例であり、ヘッド100を被塗布物に対して移動させるためのヘッド移動機構300として機能する。
【0038】
なお、ヘッド移動機構300において、駆動装置302およびレール部材303の部位には、例えば、ボールネジを用いた送りネジ機構、ラック&ピニオンによる送り機構、動力伝達ベルトとプーリを用いた送り機構等、周知の機構を用いることができる。また、ヘッド移動機構300は、上記の構成に限るものではない。例えば、ヘッド保持部材301を多関節ロボットのロボットアームに装着し、被塗布物に対してヘッド100を自由に移動できる構成としてもよい。
【0039】
ヘッド100の排出口115には、排出口115から排出される塗料10を外部へ送り出す塗料排出路401が接続されており、塗料排出路401には、塗料排出路401内の塗料10の流量を規制する排出バルブ402が設けられる。排出バルブ402は、例えば、ヘッド100に塗料10を充填する際、始めのうちは塗料供給路201内および液室114内に空気が存在することがあるため、塗料10の充填開始から所定時間は開いた状態とする。塗料供給路201内および液室114内の空気を抜くための所定時間が経過したならば、排出バルブ402は閉じられ、その後、塗料10の吐出動作が開始される。これにより塗料吐出動作中は、加圧供給機構200によって付与される圧力が外部へ逃げにくくなり、加圧供給機構200の負担を低減できる。
【0040】
なお、塗料10の経路は、排出口115から排出された塗料10を再び供給口113へ戻し、液室114に対して塗料10を循環供給するように構成してもよい。このような塗料循環しながら吐出動作を行う、いわゆるフロースルー方式のヘッド構成の場合は、上記所定時間の経過後に必ずしも排出バルブ402を閉じる必要はなく、また、排出バルブ402を備えない構成としてもよい。
【0041】
また、本実施形態においては、1つのヘッド100に対して1つの塗料タンク202が接続された構成を示したが、1つのヘッド100に対して複数のタンクを接続し、1つのヘッド100で複数種の塗料を用いる構成としてもよい。その場合は、例えば、異なる色の塗料を収容した各塗料タンクおよび洗浄液を収容した洗浄液タンクを塗料供給路201に接続するとともに、塗料供給路201には、排出バルブ402と同様の構成を有したバルブが設けられる。当該バルブは、使用する塗料を変更する度に、液室114に洗浄液を送り込み、洗浄液によって塗料供給路201、液室114、および塗料排出路401が洗浄された後、使用する塗料を液室114へ送り込むように各塗料タンクおよび洗浄液タンクを切り替える。
【0042】
図6は、ヘッドユニット、加圧供給機構、ヘッド移動機構および排出バルブの制御系の一例を示すブロック図である。
【0043】
ヘッドユニットHU、加圧供給機構200、ヘッド移動機構300および排出バルブ402は、全体制御部900に電気的に接続されている。
【0044】
全体制御部900は、後述する液体吐出装置の全体動作を制御するものであってもよく、図6に示した構成要素以外にも、必要に応じて構成要素が追加されてもよい。全体制御部900は、例えば、画像データに基づいて塗料を吐出させるための吐出周期信号をヘッド制御部902に対して送信する。全体制御部900は、ヘッド100の動作状態に関する情報等をヘッド制御部902を介して受信する。また、全体制御部900は、加圧供給機構200に対して加圧エアの供給量を切り替えるための切替信号を送信する。また、全体制御部900は、ヘッド移動機構300に対してヘッド100を移動させるための移動信号を送信する。さらに、全体制御部900は、排出バルブ402に対して塗料の排出を規制するための排出バルブ開閉信号を送信する。
【0045】
ヘッドユニットHUは、ヘッド100とヘッド制御部902から構成される。ヘッド制御部902は、入力部9021、駆動電圧生成部9022、増幅部9023および出力部9024を備え、必要に応じて記憶部9025を備えてもよい。これらの機能は電気回路で実現される他、これらの機能の一部をソフトウェア(CPU:Central Processing Unit)によって実現することもできる。また複数の回路または複数のソフトウェアによってこれらの機能が実現されてもよい。
【0046】
入力部9021は、画像データに基づいて塗料を吐出させるための吐出周期信号等を全体制御部900から受信する。
【0047】
駆動電圧生成部9022は、入力部9021が受信した塗料吐出周期信号等の情報に応じて、ヘッド100の圧電素子132を駆動させるための駆動電圧(駆動波形)を生成する。
【0048】
増幅部9023は、駆動電圧生成部9022により生成された駆動電圧を増幅し、増幅後の信号を出力部9024に出力する。
【0049】
出力部9024は、増幅部9023により増幅された信号に基づき、ヘッド100(圧電素子132)に対して駆動電圧を印加する。
【0050】
記憶部9025は、ニードル弁131の開放電圧の情報、塗料の吐出速度や吐出量の情報等を格納する。例えば、ヘッド100に対して種類の異なる複数の塗料を切り替えながら吐出動作が実施される構成とした場合は、記憶部9025には、ニードル弁131の開放電圧の情報、塗料の吐出速度や吐出量の情報等が塗料の種類毎に格納される。
【0051】
ヘッド制御部902は、記憶部9025に、各種データを記憶したり、記憶部9025から各種データを読み出す。なお、記憶部9025は、ヘッド制御部902の中に設ける構成としてもよいし、あるいは、図中に破線で示されるように全体制御部900に接続する構成、または全体制御部900の中に設ける構成としてもよい。
【0052】
全体制御部900には、PC(Personal Computer)等の端末装置901が接続される。端末装置901は、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力装置よりユーザが入力した指示を受け付け、受け付けた指示に応じた信号を全体制御部900へ送信する。また、端末装置901は、ヘッドユニットHU、加圧供給機構200、ヘッド移動機構300および排出バルブ402の動作状態等を示す各種信号を全体制御部900から受信し、受信信号に応じた情報をディスプレイ、タッチパネル等の出力装置に表示する。
【0053】
以上のようにヘッド制御部902は、全体制御部900から受信する塗料吐出周期信号に基づき、駆動電圧(駆動波形)を生成し、生成した駆動電圧を用いてヘッド100を駆動する。ヘッド100は、ヘッド制御部902からの駆動電圧に応じてノズル孔102を開閉し、塗料を吐出する。
【0054】
加圧供給機構200は、全体制御部900から受信する切替信号に基づき、例えば、エアレギュレータ204のオン・オフ切替を行い、塗料タンク202内の塗料に対して加圧状態と非加圧状態とを切り替える。
【0055】
ヘッド移動機構300は、全体制御部900から受信する移動信号に基づき、駆動装置302を所定の方向へ所定の距離だけ駆動し、ヘッド保持部材301を介してヘッド100を所望の位置へ移動させる。
【0056】
排出バルブ402は、全体制御部900から受信する排出バルブ開閉信号に基づき開閉し、排出バルブ402が開かれたときに塗料排出路401から塗料を外部に排出するよう、塗料の排出を規制する。
【0057】
次に、図7を用いて全体制御部900およびヘッド制御部902のハードウエア構成について説明する。図7は、制御部のハードウエア構成の一例を示す説明図である。なお、図7に示されているハードウエア構成は、必要に応じて構成要素が追加または削除されてもよい。
【0058】
全体制御部900およびヘッド制御部902は、CPU(Central Processing Unit)9001、ROM(Read Only Memory)9002、RAM(Random Access Memory)9003、HDD(Hard Disk Drive)/SSD(Solid State Drive)9004、I/O(Input/Output)インターフェース9005、通信インターフェース9006、およびバスライン9007を備える。
【0059】
CPU9001は、ROM9002に格納されたプログラムもしくはデータをRAM9003上に読み出し、処理を実行することで、対象とする装置または対象とするユニットの各機能を実現する演算装置である。
【0060】
ROM9002は、電源を切ってもプログラムまたはデータを保持することができる不揮発性のメモリである。
【0061】
RAM9003は、CPU9001のワークエリア等として用いられる揮発性のメモリである。
【0062】
HDD/SSD9004は、CPU9001の制御にしたがって各種データの読み出し、または書き込みを制御する。なお、上述の記憶部9025の機能は、HDD/SSD9004によって実現される。
【0063】
I/Oインターフェース9005は、ヘッドユニットHU(ヘッド100)、加圧供給機構200、ヘッド移動機構300、排出バルブ402等の機器との間で入出力するためのインターフェースである。
【0064】
通信インターフェース9006は、通信ネットワークを経由して端末装置901などのデータ処理を行う機器との通信(接続)を行うインターフェースである。
【0065】
バスライン9007は、上記各構成要素を電気的に接続するためのアドレスバスやデータバス等であり、アドレス信号、データ信号、および各種制御信号等を伝送する。CPU9001、ROM9002、RAM9003、HDD/SSD9004、I/Oインターフェース9005、および通信インターフェース9006は、バスライン9007を介して相互に接続されている。
【0066】
[ヘッドの動作について]
次に、ヘッドの動作について図8を用いて説明する。
【0067】
ヘッド制御部902から圧電素子132に対して駆動電圧が印加された場合、圧電素子132に閉鎖電圧が印加された状態では図8(a)に示すように、ニードル弁131はノズル板101に当接した位置にある。この場合、ニードル弁131はノズル孔102を閉鎖するため、液室114内の塗料はノズル孔102から吐出されない。
【0068】
圧電素子132に開放電圧が印加された状態では図8(b)に示すように、圧電素子132はZ方向正側に収縮し、圧電素子132はニードル弁131を図において上方へ動かす。つまりニードル弁131はノズル板101から離間する位置に移動し、ニードル弁131の先端部とノズル孔102との間に隙間Gが形成される。このとき、シール・位置規制膜137は、ニードル弁131のZ方向正側への移動とともに、ニードル弁131に嵌合している内周部が変位し、シール・位置規制膜137もZ方向正側に撓む。
【0069】
液室114内の塗料は、加圧供給機構200からの加圧エアによって所定の圧力で加圧供給されているため、隙間Gの形成とともに液室114内の塗料はノズル孔102から液滴10´となって吐出される。
【0070】
このようにして、ニードル弁131は、ヘッド制御部902から圧電素子132に対して駆動電圧(閉鎖電圧、開放電圧)が印加された場合、ノズル板101に当接する位置と離間する位置との間で移動し、ニードル弁131はノズル孔102を開閉する。
【0071】
上述のように本実施形態は、塗料10を収容する液室114と、液室114に連通し塗料10を吐出するノズル孔102と、ノズル孔102に対して離接移動しノズル孔102を開閉するニードル弁131と、ニードル弁131を離接移動させる圧電素子132と、液室114と、ニードル弁131および圧電素子132を収容する収容室116とを有するハウジング110と、を備えるヘッド100であって、ニードル弁131は、ニードル弁131の離接移動の方向(Z方向)と直交する方向(XY方向)におけるニードル弁131の位置を規制するシール・位置規制膜137を介して収容室116に支持され、シール・位置規制膜137は、ニードル弁131の離接移動の方向に可撓性を有するシート状を成し、ニードル弁131の外周部と嵌合する内周部と、ハウジング110に固定される外縁部と、を有する。
【0072】
また、上述のように、シール・位置規制膜137は、液室114から収容室116への塗料10の浸入を防ぐシール性を有する。
【0073】
また、上述のように、シール・位置規制膜137を第1の位置規制部材としたとき、ニードル弁131の離接移動の方向において第1の位置規制部材に対し液室114と反対側へ離れた位置に、ニードル弁131の離接移動の方向と直交する方向におけるニードル弁131の位置を規制する第2の位置規制部材(第1の実施形態の軸受136)を備える。
【0074】
これらにより、ノズル孔102に対するニードル弁131の位置および姿勢が維持され、塗料の安定した吐出状態を得ることができる。また、シール・位置規制膜137によって液室114から収容室116への塗料10の浸入も防止できるため、シール機能におけるニードル弁131への摺動抵抗が低減され、低い抵抗でニードル弁131を駆動することができる。
【0075】
[比較例]
ここで、比較例の構成について説明する。図9は、比較例のヘッド構成を示す概略断面図である。
【0076】
比較例は、第1の実施形態に示されたヘッド構成に対して、ニードル弁131の支持構造が異なっている。比較例において、ニードル弁131は、ハウジング110内に設けた2つの軸受(滑り軸受)136によって支持されており、この2つの軸受136によってニードル弁131の姿勢(XY方向の傾き)を規制している。また、ニードル弁131には、例えば、Oリング、Dリング、Xリング等の接触型シール材を用いた封止部材135が設けられ、この封止部材135によって液室114の塗料が収容室116へ流入することを防止している。
【0077】
この種の弁開閉式液体吐出ヘッドにおいて、ノズル孔102(ノズル板101)に対するニードル弁131の位置ずれ(芯ずれ)が発生すると、ノズル孔102から塗料を狙いの方向へ吐出することができなくなる。また、ノズル孔102(ノズル板101)に対してニードル弁131が傾くと、吐出の開閉がしづらくなったり、開閉に必要なニードル弁131のストロークがより多く必要になるなど、吐出性能に影響をおよぼす。
【0078】
そこで比較例では、軸受136によってニードル弁131のXY方向の位置ずれ(芯ずれ)を規制するとともに、Z方向に長い(厚い)軸受を用いたり、図示のようにZ方向に間隔を空けて複数の軸受136を配置し、ニードル弁131の傾きを規制している。
【0079】
しかし、比較例の構成では封止部材135の摺動抵抗がばらついたり、経時的な封止部材135の汚れや摩耗により摺動抵抗が変化する。また、ニードル弁131と軸受136の位置関係により、摺動抵抗がばらついたり、摩耗等の経時劣化により摺動抵抗が変化する。この摺動抵抗の変化は、吐出性能に影響をおよぼし、吐出量の変化、吐出の応答性、ノズル孔102からの染み出しなどにも影響をおよぼす。
【0080】
本発明では、内周部がニードル弁131の外周部と嵌合し、外縁部がハウジング110に固定されるシート状の部材を用いてニードル弁131のノズル板101に対する位置を規制し、低い抵抗でニードル弁131の駆動を可能にしている。
【0081】
[第2の実施形態]
次に、図10を用いて第2の実施形態について説明する。図10は、第2の実施形態を示す要部概略断面図である。
【0082】
ハウジング110は、第1の実施形態と同様に3つのサブハウジング(第一ハウジング110a、第二ハウジング110b、第三ハウジング110c)によって構成されている。ニードル弁131は、第二ハウジング110bのZ方向の一端部に設けたシール・位置規制膜137と、第二ハウジング110bのZ方向の他の一端部に設けた位置規制膜140とによって収容室116に支持されている。ここで、シール・位置規制膜137は位置規制部材の一例であり、第1の位置規制部材の一例でもある。また、位置規制膜140は第2の位置規制部材の一例である。シール・位置規制膜137によるニードル弁131の支持構造は、第1の実施形態と同等の構成であるため、ここでの説明は省略する。
【0083】
位置規制膜140は、ニードル弁131が離接移動する方向(Z方向)に撓むことが可能な、単層または複数層からなるシート状の部材であり、ニードル弁131の外周部と嵌合する内周部と、ハウジング110に固定される外縁部とを有する。
【0084】
位置規制膜140の内周部および外縁部については後述するが、概略として、ニードル弁131のXY面での断面形状が円形である場合、位置規制膜140の内周部は、ニードル弁131と嵌合する円形の孔として形成される。また、位置規制膜140の外縁部とは、本実施形態では第一ハウジング110aと第二ハウジング110bによって挟まれた部位を指す。
【0085】
例えば、第一ハウジング110aの、位置規制膜140の外縁部と対向する部位には、位置規制膜140の膜厚よりも小さい深さを有する凹部が形成されている。この凹部に置かれた位置規制膜140は、各ハウジング110a,110b,110cの接合に伴い、第一ハウジング110aと第二ハウジング110bとで位置規制膜140の外縁部が押し潰されて、ハウジング110に固定される。
【0086】
位置規制膜140の下側に伸びるニードル弁131には押え部材141dが嵌め込まれている。押え部材141dは、位置規制膜140を、例えば、ニードル弁131に設けた段差部に押し当てる。
【0087】
上記のように、ニードル弁131は、ノズル板101に対して離接移動する方向(Z方向)と直交する方向(XY方向)における位置が、シール・位置規制膜137と位置規制膜140とで規制されて収容室116に支持される。シール・位置規制膜137および位置規制膜140は、膜の張力バランスにより、ニードル弁131のハウジング110に対するXY方向の位置を規制する位置規制機能を有する。このうち、シール・位置規制膜137は位置規制機能に加え、液室114に供給された塗料が収容室116に浸入することを防ぐためのシール機能を兼ねている。
【0088】
上述のように本実施形態は、シール・位置規制膜137を第1の位置規制部材としたとき、ニードル弁131の離接移動の方向(Z方向)において第1の位置規制部材に対し液室114と反対側へ離れた位置に、ニードル弁131の離接移動の方向と直交する方向(XY方向)におけるニードル弁131の位置を規制する第2の位置規制部材(第2の実施形態では位置規制膜140)を備える。
【0089】
第2の実施形態によれば、ニードル弁131の支持に軸受136を用いないため、摺動抵抗が発生せず、ノズル孔102に対するニードル弁131の位置ずれ(芯ずれ)や、ノズル板101に対するニードル弁131の傾きを精度よく規制することができる。その結果、ニードル弁131を小さい駆動力でZ方向に駆動させることができるようになる。また、駆動力の個体ばらつき、経時的な変化を低減することができ、吐出性能をより安定させることができる。
【0090】
[第3の実施形態]
次に、図11を用いて第3の実施形態について説明する。図11は、第3の実施形態を示す要部概略断面図である。
【0091】
第3の実施形態では、ハウジング110は、4つのサブハウジング(第一ハウジング110a、第二ハウジング110b、第三ハウジング110c、第四ハウジング110d)によって構成されている。ニードル弁131は、第二ハウジング110bのZ方向の一端部に設けた位置規制膜139と、第二ハウジング110bのZ方向の他の一端部に設けた位置規制膜140とによって収容室116に支持されている。ここで、位置規制膜139は位置規制部材の一例であり、第1の位置規制部材の一例でもある。位置規制膜140は第2の位置規制部材の一例である。位置規制膜139によるニードル弁131の支持構造は、第1および第2の実施形態と同等の構成であり、位置規制膜140によるニードル弁131の支持構造は、第2の実施形態と同等の構成であるため、ここでの説明は省略する。
【0092】
第3の実施形態では、シール・位置規制膜137が備えていたシール機能と位置規制機能とを別々の膜状部材に分離した点が異なる。つまり、第3の実施形態では、第三ハウジング110cのZ方向の一端部に設けたシール膜138がシール機能を有し、位置規制膜139がニードル弁131の位置規制機能を有する。ここで、シール膜138はシール部材の一例である。
【0093】
位置規制膜139の下側に伸びるニードル弁131には押え部材141cが嵌め込まれており、押え部材141cは、位置規制膜139を、例えば、ニードル弁131に設けた段差部に押し当てる。なお、押え部材141cのZ方向の長さは、位置規制膜139とシール膜138とのZ方向の間隔に合わせて形成してもよい。それにより、押え部材141cはスペーサとして機能し、位置規制膜139とシール膜138とのZ方向の間隔を保持することが可能になる。
【0094】
シール膜138もニードル弁131が離接移動する方向に撓むことが可能な単層または複数層からなるシート状の部材であり、位置規制膜139,140と同様にニードル弁131の外周部と嵌合する内周部と、ハウジング110に固定される外縁部とを有する。
【0095】
シール膜138の内周部および外縁部については後述するが、概略として、ニードル弁131のXY面での断面形状が円形である場合、シール膜138の内周部は、ニードル弁131と嵌合する円形の孔として形成される。また、シール膜138の外縁部とは、本実施形態では第三ハウジング110cと第四ハウジング110dによって挟まれた部位を指す。
【0096】
例えば、第三ハウジング110cの、シール膜138の外縁部と対向する部位には、シール膜138の膜厚よりも小さい深さを有する凹部が形成されている。この凹部に置かれたシール膜138は、各ハウジング110a,110b,110cの接合に伴い、第三ハウジング110cと第四ハウジング110dとでシール膜138の外縁部が押し潰されて、ハウジング110に固定される。
【0097】
シール膜138の下側に伸びるニードル弁131には押え部材141bが嵌め込まれている。押え部材141bは、シール膜138を、例えば、押え部材141cの端面と、ニードル弁131の外周面とが形成する段差部に押し当てる。
【0098】
上記のように、ニードル弁131は、ノズル板101に対して離接移動する方向(Z方向)と直交する方向(XY方向)における位置が、位置規制膜139と位置規制膜140とで規制されて収容室116に支持される。位置規制膜139,140は、膜の張力バランスにより、ニードル弁131のハウジング110に対するXY方向の位置を規制する位置規制機能を有する。
【0099】
第3の実施形態では、シール機能をシール膜138へ、位置規制機能を位置規制膜139へと別々の膜状部材に分離したので、それぞれの材質を選定する際に、シール機能と位置規制機能の両立を考える必要がなくなり、材質を柔軟に選定できる。
【0100】
また、シール膜138の液室114に対面する部分の面積は、位置規制膜139の可撓部分(第三ハウジング110cと第四ハウジング110dに挟まれていない、撓むことができる部分)の面積よりも小さくすることが好ましい。シール膜138の液室114に対面する部分の面積を小さくすることで、液室114に加圧供給される塗料からの圧力が掛かる面積(受圧面積)が減り、シール膜138に対する塗料の圧力依存を小さくすることができる。
【0101】
一方で、位置規制膜139の面積は大きくすることで、Z方向に変形しやすくなるだけでなく、XY方向の位置を精度よく規制し、且つZ方向に変形しやすい位置規制膜の形状、材質を選択しやすくなり、設計自由度を高めることができる。
【0102】
上述のように本実施形態は、液室114と位置規制膜139との間に、ニードル弁131の離接移動の方向(Z方向)に可撓性を有し、液室114から収容室116への塗料の浸入を防ぐシール膜138を設け、シール膜138は、ニードル弁131の外周部と嵌合する内周部と、ハウジング110に固定される外縁部と、を有する。
【0103】
これにより、シール膜138、位置規制膜139それぞれの材質を選定する際に、シール機能と位置規制機能の両立を考える必要がなくなり、材質を柔軟に選定することができるようになる。
【0104】
また、上述のように、シール膜138の液室114に対面する部分の面積は、位置規制膜139の可撓部分の面積よりも小さい。
【0105】
これにより、シール膜138に対する塗料の圧力依存の影響を小さくすることができる。
【0106】
[変形例]
次に、図12乃至図15を用いて位置規制膜およびシール膜の変形例について説明する。図12は、シール・位置規制膜およびシール膜の変形例を示す説明図であり、図12(a)はシール・位置規制膜137またはシール膜138の斜視図、図12(b)は図11(a)のA-A線矢視断面図である。図12(c)は図12(b)の構成に対する更なる変形例を示した断面図である。
【0107】
第1の実施形態で用いたシール・位置規制膜137、および第3の実施形態で用いたシール膜138の断面形状は、平面に限るものではない。例えば、図12(a)および図12(b)に示すように、断面形状が波型になるようにしてもよい。つまり、ニードル弁131の外周部と嵌合するニードル弁嵌合孔137a(138a)から、ハウジング110によって固定される外縁部137b(138b)に向かう途中に、Z方向正側に突出する凸形状部137c(138c)を設けて断面形状を波型にする。
【0108】
または、図12(c)に示すように、Z方向正側に突出する凸形状部137c(138c)と、Z方向負側に突出することで形成される凹形状部137d(138d)とを設け、断面形状が波型になるようにしてもよい。ここで、シール・位置規制膜137の中央に形成されるニードル弁嵌合孔137aは、内周部の一例である。また、シール膜138の中央に形成されるニードル弁嵌合孔138aは内周部の一例である。
【0109】
上記のように、内周部(ニードル弁嵌合孔)137a,138aから外縁部137b,138bに向かう断面形状が、波型に形成されたシール・位置規制膜137およびシール膜138は、Z方向に変形しやすくなる。そのため、ニードル弁131を駆動させる圧電素子132の負担も軽減することができる。
【0110】
本変形例の場合、材質はステンレスなどの金属薄板、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの薄膜樹脂シート、ゴム材料等を用いることができる。例えば、金属薄板に対してはプレス成形、薄膜樹脂シートに対してはホットプレス成形、ゴム材料に対しては型成形を行うことで、波型の断面形状を有したシール・位置規制膜137およびシール膜138を製作することができる。
【0111】
図13は、シール・位置規制膜の変形例を示す説明図であり、図13(a)は2層構造の例を示した断面図、図13(b)は3層構造の例を示した断面図である。
【0112】
第1の実施形態で用いたシール・位置規制膜137は、単層構造に限るものではない。例えば図13(a)に示されるようにシール・位置規制膜137は、繊維層137-1と樹脂層137-2とからなる2層構造の複合シートであってもよい。また、図13(b)に示されるようにシール・位置規制膜137は、繊維層137-1の表裏に樹脂層137-2を設けた3層構造の複合シートであってもよい。樹脂層137-2は、樹脂またはゴムの少なくとも一方を含んで形成される。
【0113】
上記のように、繊維層137-1と、樹脂および/またはゴムを含む樹脂層137-2とを有するシール・位置規制膜137は、樹脂層137-2が繊維層137-1の繊維によって補強されるため、ニードル弁131のXY方向の位置を精度よく規制することができる。一方で、薄膜材としての柔軟性も兼ね備えているためZ方向へのスムーズな変形も確保することができる。
【0114】
本変形例の場合の材質は、繊維層137-1にはメッシュや繊維が用いられ、樹脂層137-2にはゴムや樹脂材料が用いられる。繊維層137-1と樹脂層137-2は、互いを接着して複合シート化させる方法の他に、例えば、引布などの手法により布に樹脂をコーティングして製作することもできる。
【0115】
図14は、シール・位置規制膜の変形例を示す説明図であり、図14(a)はシール・位置規制膜137の斜視分解図、図14(b)はシール・位置規制膜137の断面図である。
【0116】
第1の実施形態で用いたシール・位置規制膜137は、樹脂層137-2と金属層137-3とを有する2層構造の複合シートであってもよい。樹脂層137-2は、樹脂またはゴムの少なくとも一方を含んで形成される。このうち、金属層137-3には、内周部(ニードル弁嵌合孔137a)と、外縁部137bとを部分的に接続(本例では4箇所で接続)する梁部137eが形成されている。
【0117】
樹脂層137-2と、複数の梁部137eが形成された金属層137-3とを有するシール・位置規制膜137は、樹脂層137-2で塗料の浸入を防ぎ、金属層137-3でその張力バランスによりニードル弁131のXY方向の位置を精度よく規制できる。また、内周部(ニードル弁嵌合孔137a)と外縁部137bとを梁部137eでつなぐことで金属層137-3が軽量化され、Z方向への変形をしやすくすることができる。
【0118】
なお、本変形例においては、金属層137-3を樹脂層に置き換えてもよい。つまり、シール・位置規制膜137を2つの樹脂層137-2,137-3で構成し、そのうち1つの樹脂層137-3に、内周部(ニードル弁嵌合孔137a)と外縁部137bとを部分的に接続する梁部137eが形成される構成としてもよい。
【0119】
本変形例の場合の材質は、樹脂層137-2にはゴムや樹脂材料が用いられ、金属層137-3にはステンレスが用いられる。樹脂層137-2は、ゴムの場合は耐溶剤性に優れた膜厚0.5mm以下のFFKM(パーフルオロエラストマ)の膜、樹脂の場合は膜厚50~200μm程度のPTFEの薄膜が考えられる。金属層137-3は、板厚20~100μm程度のステンレス板のエッチング品が考えられる。
【0120】
また、金属層137-3を樹脂層に置き換えた場合の樹脂層137-3には、板厚0.1~0.5mm程度のPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などの樹脂板の打ち抜き品が考えられる。樹脂層137-2と金属層137-3は、互いを接着して複合シート化させる方法の他に、例えば、インサート成形等の射出成形により一体に成形(複合成形)することも可能である。
【0121】
次に、図15を用いて位置規制膜に形成される梁構造の変形例について説明する。図15は、位置規制膜の梁構造のパターン例を示す平面図である。
【0122】
上述のシール・位置規制膜137の金属層137-3と同じように、第2の位置規制部材(第2の実施形態で用いた位置規制膜140、および第3の実施形態で用いた位置規制膜139,140)が梁構造を有してもよい。梁構造のパターンは、図15(a)~図15(g)に示されるように種々パターンが考えられる。
【0123】
図15(a)を例に説明すると、位置規制膜139(140)は、ニードル弁131の離接移動の方向(Z方向)に可撓性を有するシート状を成し、ニードル弁131の外周部と嵌合するニードル弁嵌合孔139a(140a)と、ハウジング110に固定される外縁部139b(140b)とを有する。ここで、ニードル弁嵌合孔139a(140a)は内周部の一例である。また、ニードル弁嵌合孔139a(140a)と外縁部139b(140b)とは3箇所に設けられた梁部139e(140e)によって部分的に接続されている。
【0124】
上記のように梁構造を備えた位置規制膜139,140は、金属または樹脂からなり、薄膜材の柔軟性でZ方向に変形しやすい状態を維持しつつ、位置規制膜139,140の張力バランスで、ニードル弁131のXY方向の位置を精度よく規制することができる。
【0125】
また、図15(b)および図15(c)のパターンのように、外縁部から内周部(ニードル弁嵌合孔)までを結ぶ梁の長さが長くなるようにレイアウトすることで、Z方向の変形がよりしやすくなる。また、図15(d)、図15(e)および図15(f)のパターンのように、X方向に縮めたレイアウトにすることで、ニードル弁131の実装ピッチを短くすることができ、ヘッド100の小型化等が可能になる。また、図15(c)や図15(g)のようなパターンでは、XY方向の微小な変位を吸収しやすくなり、ニードル弁131の微小な傾きをノズル板101に倣わせることが可能になる。
【0126】
[ニードル弁の位置規制の一例]
次に、図16乃至図18を用いて、ニードル弁131の傾きがもたらす現象等について説明する。図16は、ニードル弁に対する位置規制膜の配置の一例を示す説明図である。図17は、ニードル弁の位置規制を説明する図であり、図17(a)はニードル弁の支持構造周りの説明図、図17(b)はニードル弁先端部の拡大図である。
【0127】
図16において、ニードル弁131の中心を通る一点鎖線は、ノズル板101に形成されたノズル孔102中心からの垂線を表している。この垂線からのずれ量をE(mm)で表すこととする。ここで、ずれ量Eは、第1の位置規制部材の一例であるシール・位置規制膜137の位置におけるニードル弁131の中心位置と、第2の位置規制部材の一例である位置規制膜140の位置におけるニードル弁131の中心位置との差ともいえる。長さL(mm)は、シール・位置規制膜137と位置規制膜140との間隔であり、長さD(mm)は、ニードル弁131の先端部の直径である。
【0128】
上記の関係において、ずれ量Eが生じた場合、ニードル弁131は図17に示されるように、角度θ(rad)(θ=arctan(E/L))で傾く。この傾きに伴いニードル弁131先端部(ノズル孔102を閉鎖する先端面)に生じる隙間は、D・tanθ=D・E/L(mm)=D・E×1000/L(μm)となる。
【0129】
ずれ量Eが生じる場合に、第1の位置規制部材の一例であるシール・位置規制膜137は、第2の位置規制部材の一例である位置規制膜140と異なるように構成されてもよい。例えば、シール・位置規制膜137は図12に示す断面形状が波型を有する構成とし、位置規制膜140は図15(c)に示す梁構造を有する構成とする。図15(c)に示す梁構造を有する位置規制膜140は、前述のとおりXY方向(ニードル弁が離接移動する方向に垂直な方向)の微小な変位を吸収することができる。ここで、位置規制膜140は、ずれ量Eを吸収できるように構成してもよい。
【0130】
図17(a)に示すようにニードル弁131の先端部がノズル板101に当接した場合、ニードル弁131は、その先端部がノズル板101との当接面に倣うように図中左回転方向に回転する力が加わる。すなわち、ニードル弁131は、θが小さくなる方向に回転するような力が加わる。位置規制膜140は、ニードル弁131が回転する力に応じてずれ量Eの一部を吸収する。その結果、ニードル弁131がノズル板101に当接した状態では、位置規制膜140がXY方向の変位を吸収するので、ニードル弁131の傾斜角θは小さくなる。それにより、ニードル弁131は、ノズル孔102を封止することができる。
【0131】
前述の例では、第2の位置規制部材の一例である位置規制膜140は、ニードル弁131がノズル孔102を閉鎖する位置にある場合に、XY方向のずれ量Eの一部を吸収するように構成される。それにより、微小なずれ量Eが生じた場合であっても、ニードル弁131はノズル孔102を閉鎖することができる。
【0132】
図18は、ニードル弁の傾きがもたらす現象についての説明図である。ニードル弁131の開閉特性は、横軸をニードルストローク、縦軸をノズル孔102から吐出される流量とした場合、図示のような流量特性になる。ニードル弁131が傾いていない場合(破線)に対して、ニードル弁131が傾いている場合(実線)は、ニードル弁131がノズル孔102を完全に閉鎖(全閉)しきるまでに必要なストロークが多くなる。特に全閉位置の直前は、ニードル弁131の先端がノズル板101に片当たりして変形しながらノズル孔102を閉鎖していくため、ストロークが必要になる。また、ニードル弁131によるノズル孔102の閉鎖に大きな荷重が必要となるため、圧電素子132の負担も増大する。これらの結果、ニードル弁131が傾いてしまうと、ニードル弁131の開閉の応答性、吐出の応答性に影響をおよぼす。
【0133】
具体的には、ニードル弁131が傾いていない場合の全開位置から全閉位置までのニードルストロークは約30μm、圧電素子132のストロークは約50μmである。このストロークの範囲でニードル弁131を全開位置から全閉位置まで動作させるためには、ニードル弁131先端部の傾きによる隙間(D・E×1000/L)を15μm以下、望ましくは5μm以下にすることが求められる。
【0134】
ノズル孔の直径を50~100μm程度、ニードル弁の先端部の直径Dを0.5mmとした場合、位置規制膜によってニードル弁の中心位置を規制できる精度は0.05mm程度、位置規制膜で発生するずれ量Eは最大0.1mm程度と想定している。
【0135】
上記想定の下、ニードル弁の先端部の傾きによる隙間を5μm以下に抑えるには、位置規制膜137と位置規制膜140との間隔Lを10mm以上にする必要がある。例えば、間隔Lを10mmに設定し、ずれ量Eが悪化する場合は、間隔Lをさらに大きくすることでニードル弁の傾きを規制する。なお、上記に挙げた数値は一例であり、各数値は使用するノズル孔102の径、ニードル弁131の外径等に応じて適宜変更されてよい。
【0136】
[応用例]
次に、図19乃至図24を用いて、ヘッドの応用例について説明する。図19は、複数のノズル孔を備える液体吐出ヘッドの一例を示す要部斜視展開図である。
【0137】
上述の実施形態においては、ヘッド最小単位(1ノズル)の構成に基づき説明してきたが、本発明は単一ノズルのヘッド構成に限るものではない。例えば、図19に示されるように、複数(本例では8つ)のニードル弁131を共通のハウジング110a,110b,110c,110dにて支持し、収容する構成としてもよい。各部材の構成および機能については、第3の実施形態と同等であるため、同一符号を付し説明は省略する。
【0138】
複数のニードル弁131を備える場合、位置規制膜139の梁構造パターンが形成されていない部分に対して第二ハウジング110bと第三ハウジング110cが接し、第二ハウジング110bと第三ハウジング110cとで位置規制膜139を支持する。その場合、第二ハウジング110bおよび第三ハウジング110cは、位置規制膜139の周囲だけでなく、矢印Aが指すように、隣り合う梁構造パターンの間も支持している。
【0139】
同様に、位置規制膜140においても、梁構造パターンが形成されていない部分に対しては第一ハウジング110aと第二ハウジング110bが接しており、第一ハウジング110aおよび第二ハウジング110bが位置規制膜140を支持する。この場合も、第一ハウジング110aおよび第二ハウジング110bは、位置規制膜140の周囲だけでなく、隣り合う梁構造パターンの間も支持している。
【0140】
上記のように、位置規制膜139,140は、個々の梁構造パターンが区分けされるようにしてハウジング110に固定され、ニードル弁131の離接移動によって撓む領域以外はハウジング110から浮かないように固定される。これにより、複数のニードル弁131のうちの1つのニードル弁131を駆動させた場合に、その力が位置規制膜139,140内で伝播しにくくなる。そして、力が位置規制膜139,140内で伝播しにくくなることで、隣接する他のニードル弁131にも力が伝わりにくくなり、ニードル弁131の位置ずれや傾き等を低減することが可能になる。
【0141】
図20は、複数のノズル孔を備える液体吐出ヘッドの別の例を示す要部斜視展開図である。
【0142】
図20に示されたヘッドは、位置規制膜139,140の梁構造パターンが、X方向に縮めてレイアウトされている点が、図19に示されたヘッドと異なっている。
【0143】
本例の場合も、位置規制膜139,140は、個々の梁構造パターンが区分けされるようにしてハウジング110に固定される。
【0144】
したがって、複数のニードル弁131のうちの1つのニードル弁131を駆動させた場合、その力が位置規制膜139,140内で伝播しにくくなるので、隣接する他のニードル弁131にも力が伝わりにくくなり、ニードル弁131の位置ずれ等が低減される。位置規制膜139,140の詳細を図21に示す。
【0145】
図21は、位置規制膜の平面図であり、図21(a)は、位置規制膜140の平面図、図21(b)は、位置規制膜139の平面図である。
【0146】
位置規制膜140には、8つのニードル弁131が挿入される8つのニードル弁嵌合孔140aが設けられおり、各ニードル弁嵌合孔140aは各ニードル弁131の外周部と嵌合してニードル弁131を支持する。ニードル弁嵌合孔140aは、その周囲に設けられた複数の梁部140eを介して外縁部140bと部分的に接続されている。上記のような梁構造パターンが、1つの位置規制膜140上にニードル弁131の数の分だけ、X方向に縮めてレイアウトされている。
【0147】
本梁構造パターンにおいては、X方向に縮めてレイアウトしたことで、X方向に形成できる空間の量は制限される。そこで、本例の位置規制膜140においては、X方向における梁部140e以外の部分にスリット140fを入れ、ニードル弁嵌合孔140aと外縁部140bとを切り離している。これにより、X方向に縮めてレイアウトした場合でも、位置規制膜140をZ方向に撓みやすくすることができる。
【0148】
梁構造パターンの周囲には位置決め孔140g,140hおよび複数のネジ孔140iが設けられている。これら位置決め孔およびネジ孔は、位置規制膜139およびハウジング110の対応する同じ位置にも設けられており、位置決め孔を用いて各部材の位置合わせが行われ、ネジ孔を用いて各部材がネジ止めされる。
【0149】
位置規制膜139についても、スリット140fを備えていない点以外は、位置規制膜140と同等の構成であるので、対応関係にある部材に同一のアルファベットを付与し、説明は省略する。
【0150】
上記のように、梁構造パターンをX方向に縮めてレイアウトすることで、ニードル弁131の実装ピッチを短くすることができ、ヘッド100の小型化等が可能になる。
【0151】
図22は、複数のノズル孔を備える液体吐出ヘッドの別の例を示す要部斜視展開図である。
【0152】
図22に示されたヘッドは、位置規制膜139,140の梁構造パターンが、Y方向に複数列でレイアウトされている点が、図20および図21に示されたヘッドと異なる。つまり、図22に示されたヘッドは、ニードル弁131が千鳥状に配列されている。本例の場合も、位置規制膜139,140は、基本的に個々の梁構造パターンで区分けするようにして、ハウジング110に固定される。
【0153】
したがって、複数のニードル弁131のうちの1つのニードル弁131を駆動させた場合、その力が位置規制膜139,140内で伝播しにくくなるので、隣接する他のニードル弁131にも力が伝わりにくくなり、ニードル弁131の位置ずれ等が低減される。位置規制膜139,140の詳細を図23に示す。
【0154】
図23は、図22の位置規制膜の平面図であり、図23(a)は、位置規制膜140の平面図、図23(b)は、位置規制膜139の平面図である。
【0155】
上記のように、梁構造パターンを千鳥状に配列することで、ニードル弁131の実装ピッチを短くすることができるとともに、高解像度のヘッドを小型に構成することが可能になる。なお、実装されるニードル弁131の数や配列は一例であり、X方向に配置されるニードル弁131の数は8つより少なくてもよく、または8つより多くてもよい。また、Y方向の列数についても2列に限らず、3列以上で設けてもよい。
【0156】
次に、図24を用いてヘッドの別の構成について説明する。図24は、実施形態に係るヘッドユニットの別の構成例を示す概略断面図であり、ヘッド最小単位(1ノズル)の構成が図示されている。図24(a)はノズル孔を閉じた状態を示す断面図、図24(b)はノズル孔を開いた状態を示す断面図である。
【0157】
本構成例は、ニードル弁131と圧電素子132との間に逆バネ機構134を備える点が上述のヘッドの構成と異なる。従って、ここでは逆バネ機構134の構成および動作を中心に説明し、上述のヘッドと同等の構成および機能を有する部材には同一符号を付し、説明は省略する。なお、本構成例では、圧電素子132として、開放電圧が印加されるとノズル板101側へ伸長する伸縮特性を有する圧電素子を用いることとする。
【0158】
逆バネ機構134は、適宜に変形可能なゴムや軟質樹脂等または薄い金属板等を成形加工することによって形成された弾性部材である。逆バネ機構134は、変形部134a、固定部134b、ガイド部134cおよび屈曲辺134dを備える。
【0159】
変形部134aは、ニードル弁131の基端側の面(図24(a)ではニードル弁131の上側端面)に当接するようにして形成された断面略台形状を有する。固定部134bは、変形部134aと第一ハウジング110aの内壁面に固定される。ガイド部134cは、固定部134bと圧電素子132とを連結する。屈曲辺134dは、台形状の変形部134aの長辺(台形の下底に相当)と固定部134bとを連結する。
【0160】
上記のような構造を備えた逆バネ機構134は、圧電素子132に所定の開放電圧が印加されて圧電素子132が伸長すると、圧電素子132の伸長により、ガイド部134cがノズル孔102側(図24(b)の矢印a方向)に押される。この押される力に伴い、変形部134aをノズル孔102から遠ざかる方向(図24(b)の矢印b方向)に引き込む。すなわち、逆バネ機構134を備えたヘッドの場合は、駆動電圧の印加極性に対するニードル弁131の開閉動作の方向が、逆バネ機構134を備えないヘッドと逆になり、逆バネ機構134は、圧電素子132の伸びる力を、ニードル弁131を引き込む力に変換した上で、ニードル弁131へ伝達する。
【0161】
本構成例に係るヘッド100は、圧電素子132へ電圧印加することにより、圧電素子132が伸び、それに伴いニードル弁131がノズル孔102を開放し、ノズル孔102から液滴10´を吐出する。
【0162】
このような逆バネ機構134を備えたヘッド100は、逆バネ機構を備えないヘッドに比べて圧電素子132の少ない変位で大きな変位を得ることができる。
【0163】
[液体吐出装置]
以降は、上述の液体吐出ヘッドもしくは液体吐出ユニットを適用した液体吐出装置について説明する。
【0164】
<車体塗装システムへの適用例>
液体吐出装置の一例として、図25および図26を用いて車体塗装システムへの適用例を説明する。図25は、車体塗装システムの一例を示す説明図である。図26は、車体塗装システムの使用例を示す説明図であり、図26(a)は車体塗装システムの被塗布物への配置の第1例を示す図であり、図26(b)は車体塗装システムの被塗布物への配置の第2例を示す図である。
【0165】
車体塗装システム830は、少なくとも1つのヘッド100と、ヘッド100の近傍に配設されたカメラ832と、ヘッド100およびカメラ832をX方向およびY方向へ移動させるX-Yテーブル831と、カメラ832で撮影した画像を編集する画像編集ソフトウェアSと、編集する画像等を表示するモニタ901aと、制御部900等を備える。制御部900は、所定の制御プログラムに基づいて、X-Yテーブル831を動作させるとともに、ヘッド100から液体(例えば塗料)を吐出させる。
【0166】
車体塗装システム830は、ヘッド100から吐出された塗料を被塗布物Uに塗布することができる。
【0167】
ヘッド100は、ノズル孔102から被塗布物Uの被塗布面に向けて塗料を吐出する。ノズル孔102から吐出される塗料はX-Y平面に対して略直交する方向に吐出される。ノズル孔102と被塗布物Uの被塗布面との距離は、例えば20cm程度である。
【0168】
X-Yテーブル831は、直線移動機構を備えて形成されたX軸833と、X軸833を2つのアームで保持しつつX軸833をY方向へ移動するY軸834とを有する。X軸833は、図5のレール部材303に相当し、また、ヘッド100およびカメラ832は、図5のヘッド保持部材301に取り付けられる。Y軸834にはシャフト835が設けられている。このシャフト835をロボットアーム836により保持することで、被塗布物Uに対してヘッド100およびカメラ832を自由に配置できるようになっている。
【0169】
例えば、被塗布物Uが自動車である場合は、図26(a)に示すように被塗布物Uの上部に配置したり、図26(b)に示すように被塗布物Uの横位置に配置したりすることができる。なお、制御部900は、所定のプログラムに基づいて、ロボットアーム836の動作を制御する。
【0170】
カメラ832は、ヘッド100とともにX-Y方向に移動しながら被塗布物Uの被塗布面における所定範囲を一定の微小な間隔により撮影する。カメラ832は例えばデジタルカメラである。カメラ832においては、被塗布面の所定範囲を分割した複数の細分割画像の撮影が可能なレンズの仕様または解像度等の仕様が適宜選択される。カメラ832による被塗布面の複数の細分割画像の撮影は、制御部900に予め設けられたプログラムに従って連続的、且つ自動的に行われる。
【0171】
以上説明したように、車体塗装システム830は、ヘッド100を有することにより、被塗布物Uとノズル孔102との間の距離が長い場合等においても、被塗布物Uの所望の位置に高精度に塗料を塗布することができる。また、ヘッド100は、塗料を安定して吐出できるため、車体塗装システム830は、被塗布物Uに対して塗料を高精度に塗布することができる。
【0172】
<印刷装置への適用例>
液体吐出装置の一例として、図27および図28を用いて印刷装置への適用例を説明する。図27は、印刷装置のキャリッジ部分の斜視図、図28は、図27のキャリッジを搭載した印刷装置の一例を示す全体斜視図である。なお、図27は、図28に示した印刷装置800に搭載したキャリッジ801を被塗布物U側から見たものである。
【0173】
キャリッジ801は、ヘッド保持体80を備える。また、キャリッジ801は、後述する印刷装置800の第1のZ方向駆動部807からの動力によりZ軸レール804に沿ってZ方向(正側および負側)へ移動可能である。
【0174】
ヘッド保持体80は、後述する印刷装置800の第2のZ方向駆動部808からの動力によりキャリッジ801に対してZ方向(正側および負側)へ移動可能である。また、ヘッド保持体80はヘッドモジュール700を取り付けるためのヘッド固定板80aを備える。ここで、キャリッジ801は保持部の一例である。また、図19図20に示した複数のノズル孔を備える液体吐出ヘッドを、本例では便宜上、ヘッドモジュールと呼ぶこととする。
【0175】
本適用例では、図19図20に示した複数のノズル孔を備える液体吐出ヘッド(ヘッドモジュール)を、ヘッド固定板80aに6個取り付けた構成を例示しており、6個のヘッドモジュール700を積層状に並べて設けている。
【0176】
ヘッドモジュール700は、それぞれ複数のノズル孔702を備えている。なお、ヘッドモジュール700で用いる塗料の色の種類や数は、ヘッドモジュール700毎に異なる色としてもよいし、すべて同じ色としてもよい。例えば、印刷装置800が、単色を用いる装置である場合は、各ヘッドモジュール700で用いる塗料は同色でよい。また、ヘッドモジュールの数は6つに限るものではない。6つより多くてもよく、また、6つより少なくてもよい。また、図22に示したような千鳥状の配列とすることで、例えば、ヘッドモジュール6個分のノズル数を、5個以下のヘッドモジュールで実現させてもよい。
【0177】
ヘッドモジュール700は、図示のようにノズル列(8個のノズル孔702がなす列)が水平面(X-Z面)と交差し、かつ複数のノズル孔702の配列方向をX軸に対して傾けた状態でヘッド固定板80aに固定する。この状態でノズル孔702は、重力方向と交差する方向(Z方向正側)に液滴を吐出する。
【0178】
図28に示された印刷装置800は、被塗布物Uに対向させて設置される。印刷装置800は、X軸レール802と、このX軸レール802と交差するY軸レール803と、X軸レール802およびY軸レール803と交差するZ軸レール804を備える。
【0179】
Y軸レール803は、X軸レール802がY方向(正側および負側)に移動可能なように、X軸レール802を保持する。また、X軸レール802は、Z軸レール804がX方向(正側および負側)に移動可能なように、Z軸レール804を保持する。そして、Z軸レール804は、キャリッジ801がZ方向(正側および負側)に移動可能なように、キャリッジ801を保持する。
【0180】
印刷装置800は、キャリッジ801をZ軸レール804に沿ってZ方向へ動かす第1のZ方向駆動部807と、Z軸レール804をX軸レール802に沿ってX方向へ動かすX方向駆動部805とを備える。また、印刷装置800は、X軸レール802をY軸レール803に沿ってY方向へ動かすY方向駆動部806を備える。さらに、印刷装置800は、キャリッジ801に対してヘッド保持体80をZ方向へ動かす第2のZ方向駆動部808を備える。
【0181】
印刷装置800は、キャリッジ801をX方向、Y方向およびZ方向に動かしながら、ヘッド保持体80に設けたヘッドモジュール700から塗料を吐出し、被塗布物Uに印刷を行う。なお、キャリッジ801およびヘッド保持体80のZ方向の移動は、必ずしもZ方向に平行であることを意味するものではなく、少なくともZ方向の成分を含んでいれば斜めの移動であってもよい。
【0182】
また、被塗布物Uの表面形状は、平面で図示されているが、車やトラックの車体、航空機の機体などのように鉛直に近い面、曲率半径の大きい面、もしくは多少の凹凸を有する面であってもよい。
【0183】
<電極製造装置への適用例>
次に、図29を用いて電極製造装置への適用例を説明する。図29は、電極製造装置の一例を示す説明図である。
【0184】
電極製造装置850は、上述のヘッド100を用いて液体組成物を吐出することで電極材料を有する層を有する電極を製造する装置である。
【0185】
ヘッド100からの液体組成物の吐出により、対象物上に液体組成物を付与して、液体組成物層を形成することができる。この場合の対象物としては、電極材料を有する層を形成する対象であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電極基体(集電体)や活物質層、固体電極材料を有する層などが挙げられる。また、対象物への液体組成物の付与は、対象物に対して電極材料を有する層を形成することが可能であれば、直接液体組成物を吐出することで電極材料を有する層を形成する構成であってもよく、間接的に液体組成物を吐出することで電極材料を有する層を形成する構成であってもよい。
【0186】
電極製造装置におけるその他の構成としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱手段などが挙げられる。加熱手段は、ヘッド100により吐出された液体組成物を加熱する手段である。加熱により液体組成物層を乾燥させることができる。図29は、電極製造装置の一例として、電極基体(集電体)上に活物質を含む電極合材層を形成する構成を示している。
【0187】
電極製造装置850は、対象物を有する印刷基材W上に、液体組成物を付与して液体組成物層を形成する工程を含む吐出工程部851と、液体組成物層を加熱して電極合材層を得る加熱工程を含む加熱工程部852を備える。
【0188】
電極製造装置850は、印刷基材Wを搬送する搬送部853,854を備え、搬送部853,854は、吐出工程部851、加熱工程部852の順に印刷基材Wをあらかじめ設定された速度で搬送する。活物質層などの対象物を有する印刷基材Wの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0189】
吐出工程部851は、印刷基材W上に液体組成物を付与する付与工程を実現する印刷装置855と、液体組成物を収容する収容容器856と、収容容器856に貯留された液体組成物を印刷装置855に供給する供給チューブ857を備える。印刷装置855は、上述のヘッド100を少なくとも1つ備えている。
【0190】
収容容器856は、液体組成物10Bを収容し、吐出工程部851は、印刷装置855に備えたヘッド100から液体組成物10Bを吐出して、印刷基材W上に液体組成物10Bを付与して液体組成物層を薄膜状に形成する。なお、収容容器856は、電極製造装置850と一体化した構成であってもよいが、電極製造装置850から取り外し可能な構成であってもよい。また、電極製造装置850と一体化した収容容器856や電極製造装置850から取り外し可能な収容容器856に添加するために用いられる容器であってもよい。収容容器856や供給チューブ857は、液体組成物10Bを安定して貯蔵および供給できるものであれば任意に選択可能である。
【0191】
加熱工程部852は、加熱装置858を備え、液体組成物層に残存する溶媒を、加熱装置858により加熱して乾燥させて除去する溶媒除去工程を含む。これにより電極合材層を形成することができる。加熱工程部852は、溶媒除去工程を減圧下で実施してもよい。
【0192】
加熱装置858としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板加熱、IR(赤外線)ヒータ、温風ヒータなどが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。また、加熱温度や時間に関しては、液体組成物10Bに含まれる溶媒の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0193】
上記のようにして形成される電極合材層は、例えば、電気化学素子の構成の一部として、好適に用いることができる。電気化学素子における電極合材層以外の構成としては、特に制限はなく、公知のものを適宜選択することができ、例えば、正極、負極、セパレータなどが挙げられる。
【0194】
[補足]
本発明において、「液体吐出装置」は、液体吐出ヘッドを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出する装置である。液体吐出装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0195】
この「液体吐出装置」は、液体が付着可能なものの供給、搬送、排出に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。例えば、「液体吐出装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0196】
また、「液体吐出装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0197】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0198】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス、アルミニウム箔や銅箔といった集電体、または集電体上に活物質層が形成された電極など、液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0199】
また、「液体」は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、電極材料として用いられる活物質や固体電解質、導電性材料や絶縁性材料を含むインクなどを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどが挙げられる。これらは例えば、塗工用塗料、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液、電極、電気化学素子等の用途で用いることができる。
【0200】
また、「液体吐出装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0201】
また、「液体吐出装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0202】
また、「液体吐出装置」は、定置型の装置に限るものではない。液体吐出装置は、例えば、液体吐出ヘッドが搭載された、遠隔操作や自律走行によって移動が可能なロボットであってもよく、移動可能なロボットにより建物の外壁塗装や道路の路面標示(横断歩道、停止線、速度表示等)の塗装等への適用も可能になる。この場合の建物や道路もまた「液体が付着可能なもの」に含まれる。
【0203】
以上説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
【0204】
[第1態様]
第1態様は、液体を収容する液室(例えば液室114)と、前記液室に連通し前記液体を吐出するノズル孔(例えばノズル孔102)と、前記ノズル孔に対して離接移動し前記ノズル孔を開閉するニードル弁(例えばニードル弁131)と、前記ニードル弁を離接移動させる駆動手段(例えば圧電素子132)と、前記液室と、前記ニードル弁および前記駆動手段を収容する収容室(例えば収容室116)とを有するハウジング(例えばハウジング110)と、を備える液体吐出ヘッド(例えばヘッド100)であって、前記ニードル弁は、該ニードル弁の前記離接移動の方向(例えばZ方向)と直交する方向(例えばXY方向)における前記ニードル弁の位置を規制する位置規制部材(例えばシール・位置規制膜137)を介して前記収容室に支持され、前記位置規制部材は、前記ニードル弁の前記離接移動の方向に可撓性を有するシート状を成し、前記ニードル弁の外周部と嵌合する内周部(例えばニードル弁嵌合孔137a)と、前記ハウジングに固定される外縁部(例えば外縁部137b)と、を有することを特徴とするものである。
【0205】
[第2態様]
第2態様は、第1態様において、前記位置規制部材(例えばシール・位置規制膜137)は、前記液室(例えば液室114)から前記収容室(例えば収容室116)への前記液体の浸入を防ぐシール性を有することを特徴とするものである。
【0206】
[第3態様]
第3態様は、第1態様または第2態様において、前記位置規制部材(例えばシール・位置規制膜137)を第1の位置規制部材としたとき、前記ニードル弁の前記離接移動の方向において前記第1の位置規制部材に対し前記液室と反対側へ離れた位置に、前記ニードル弁の前記離接移動の方向と直交する方向における前記ニードル弁の位置を規制する第2の位置規制部材(例えば軸受136、位置規制膜140)を備えることを特徴とするものである。
【0207】
[第4態様]
第4態様は、第3態様において、前記第2の位置規制部材(例えば位置規制膜140)は、前記ニードル弁が前記ノズル孔を閉鎖する位置にある場合に、前記離接方向に垂直な方向の位置ずれを吸収することを特徴とするものである。
【0208】
[第5態様]
第5態様は、第1態様乃至第3態様のいずれかにおいて、前記液室(例えば液室114)と前記位置規制部材(例えば位置規制膜139)との間に、前記ニードル弁の前記離接移動の方向に可撓性を有し、前記液室から前記収容室への前記液体の浸入を防ぐシール部材(例えばシール膜138)を設け、前記シール部材は、前記ニードル弁の外周部と嵌合する内周部(例えばニードル弁嵌合孔138a)と、前記ハウジングに固定される外縁部(例えば外縁部138b)と、を有することを特徴とするものである。
【0209】
[第6態様]
第6態様は、第5態様において、前記シール部材(例えばシール膜138)の前記液室に対面する部分の面積は、前記位置規制部材(例えば位置規制膜139)の可撓部分の面積よりも小さいことを特徴とするものである。
【0210】
[第7態様]
第7態様は、第2態様において、前記位置規制部材(例えばシール・位置規制膜137)は、前記内周部(例えばニードル弁嵌合孔137a)から前記外縁部(例えば外縁部137b)に向かう断面形状が、波型(例えば凸形状部137c、凹形状部137d)に形成されていることを特徴とするものである。
【0211】
[第8態様]
第8態様は、第5態様において、前記シール部材(例えばシール膜138)は、前記内周部(例えばニードル弁嵌合孔138a)から前記外縁部(例えば外縁部138b)に向かう断面形状が、波型(例えば凸形状部138c、凹形状部138d)に形成されていることを特徴とするものである。
【0212】
[第9態様]
第9態様は、第1態様乃至第8態様のいずれかにおいて、前記位置規制部材(例えばシール・位置規制膜137)は、繊維層(例えば繊維層137-1)と、樹脂および/またはゴムを含む樹脂層(例えば樹脂層137-2)とを有することを特徴とするものである。
【0213】
[第10態様]
第10態様は、第1態様乃至第8態様のいずれかにおいて、前記位置規制部材(例えばシール・位置規制膜137)は、金属層(例えば金属層137-3)と、樹脂および/またはゴムを含む樹脂層(例えば樹脂層137-2)とを有し、前記金属層には、前記内周部(例えばニードル弁嵌合孔137a)と前記外縁部(例えば外縁部137b)とを部分的に接続する梁部(例えば梁部137e)が形成されていることを特徴とするものである。
【0214】
[第11態様]
第11態様は、第1態様乃至第8態様のいずれかにおいて、前記位置規制部材(例えばシール・位置規制膜137)は、樹脂および/またはゴムを含む複数の樹脂層(例えば樹脂層137-2,137-3)を有し、そのうち1つの樹脂層(例えば樹脂層137-3)には、前記内周部(例えばニードル弁嵌合孔137a)と前記外縁部(例えば外縁部137b)とを部分的に接続する梁部(例えば梁部137e)が形成されていることを特徴とするものである。
【0215】
[第12態様]
第12態様は、第3態様において、前記第2の位置規制部材(例えば位置規制膜140)は、前記ニードル弁の前記離接移動の方向に可撓性を有するシート状を成し、前記ニードル弁(例えばニードル弁131)の外周部と嵌合する内周部(例えばニードル弁嵌合孔140a)と、前記ハウジング(例えばハウジング110)に固定される外縁部(例えば外縁部140b)と、を有し、前記内周部と前記外縁部とを部分的に接続する梁部(例えば梁部140e)を備えることを特徴とするものである。
【0216】
[第13態様]
第13態様は、液体を収容する液室と、前記液室に連通し前記液体を吐出する複数のノズル孔と、前記ノズル孔に対して離接移動し前記ノズル孔を開閉する複数のニードル弁と、前記ニードル弁を離接移動させる複数の駆動手段と、前記液室と、前記ニードル弁および前記駆動手段を収容する複数の収容室とを有するハウジングと、を備える液体吐出ヘッドであって、前記複数のニードル弁は、該ニードル弁の前記離接移動の方向と直交する方向における前記ニードル弁の位置を規制する位置規制部材を介して前記収容室にそれぞれ支持され、前記位置規制部材は、前記ニードル弁の前記離接移動の方向に可撓性を有するシート状を成し、前記ニードル弁の外周部と嵌合する内周部と、前記ハウジングに固定される外縁部と、を有することを特徴とするものである。
【0217】
[第14態様]
第14態様は、第1態様乃至第13態様のいずれかの液体吐出ヘッドと、前記駆動手段(例えば圧電素子132)の駆動を制御する駆動制御部(例えばヘッド制御部902)と、を備えることを特徴とする液体吐出ユニットである。
【0218】
[第15態様]
第15態様は、第1態様乃至第13態様のいずれかの液体吐出ヘッドを備えることを特徴とする液体吐出装置である。
【0219】
[第16態様]
第16態様は、第14態様の液体吐出ユニットを備えることを特徴とする液体吐出装置である。
【符号の説明】
【0220】
HU ヘッドユニット(液体吐出ユニット)
100 ヘッド(液体吐出ヘッド)
101 ノズル板
102 ノズル孔
110 ハウジング
110a 第一ハウジング
110b 第二ハウジング
110c 第三ハウジング
110d 第四ハウジング
111 固定軸
112 固定ネジ
113 供給口
114 液室
115 排出口
116 収容室
131 ニードル弁
132 圧電素子(駆動手段)
133 保持部材
134 逆バネ機構
135 封止部材
136 軸受
137 シール・位置規制膜(位置規制部材)
137a ニードル弁嵌合孔(内周部)
137b 外縁部
138 シール膜(シール部材)
138a ニードル弁嵌合孔(内周部)
138b 外縁部
139 位置規制膜(位置規制部材)
139a ニードル弁嵌合孔(内周部)
139b 外縁部
140 位置規制膜(位置規制部材)
140a ニードル弁嵌合孔(内周部)
140b 外縁部
200 加圧供給機構
300 ヘッド移動機構
401 塗料排出路
402 排出バルブ
900 全体制御部
901 端末装置
902 ヘッド制御部(駆動制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
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図28
図29