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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086468
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】回転伝達装置、および移送装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/04 20060101AFI20240620BHJP
   F16D 7/10 20060101ALI20240620BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
F16D7/04
F16D7/04 A
F16D7/10
G01N1/00 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201608
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】湯川 龍
(72)【発明者】
【氏名】坂本 一之
(72)【発明者】
【氏名】板谷 亮太
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD52
2G052BA27
2G052CA05
2G052CA08
2G052CA46
2G052CA48
2G052HA12
2G052HC04
2G052HC15
2G052HC32
2G052JA06
2G052JA07
2G052JA22
(57)【要約】
【課題】トランスファーロッドの回転によるサンプルホルダーの破損を防止する、サンプルホルダーの搬送に適した回転伝達装置を提供する。
【解決手段】回転伝達装置(1)は、トランスファーロッド(5)に対して固定される第1部材(10)と、第1部材に対して所定角度毎に回転角度が固定され、所定値以上のトルクが掛かると第1部材に対して回転する第2部材(20)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスファーロッドに対して固定される第1部材と、
前記第1部材に対して所定角度毎に回転角度が固定され、所定値以上のトルクが掛かると前記第1部材に対して回転する第2部材と、を備える回転伝達装置。
【請求項2】
潤滑剤として20℃における蒸気圧が1×10-2Pa以上のオイルおよびグリースを含まない、請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
部品として融点が200℃未満の樹脂を含まない、請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
融点が200℃以上の材料のみで構成されている、請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項5】
前記第2部材は、前記第1部材に対する回転角度が、90°以下である前記所定角度毎に固定される、請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項6】
前記第2部材は、前記第1部材に対して固定される複数の回転角度に対応した複数の規制面を有し、
前記第1部材は、回転規制部材と、前記回転規制部材を前記規制面に押しつけるばね部材とを有する、請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項7】
前記回転規制部材は、前記ばね部材より硬く、前記規制面と接触する凸曲面を有する、請求項6に記載の回転伝達装置。
【請求項8】
前記第2部材は、第1回転方向、および、前記第1回転方向とは逆の第2回転方向の両方において、前記所定値以上のトルクが掛かると前記第1部材に対して回転する、請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の回転伝達装置と、
前記第2部材に固定され、サンプルホルダーを固定するためのホルダー固定部と、
前記トランスファーロッドと、を備える、移送装置。
【請求項10】
前記ホルダー固定部は、
サンプルホルダーの一部が挿入されるスリットを有し、
前記サンプルホルダーの一部が前記スリットに挿入された状態で回転することで、前記サンプルホルダーを固定する、請求項9に記載の移送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転伝達装置、および移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料等を真空装置間で搬送するとき、または、真空装置側と大気側との間で試料等を搬送するとき、トランスファーロッドが広く用いられている。このとき試料等を載置したサンプルホルダーを、トランスファーロッドの先端に取付けて搬送し、試料等の搬送が終わると、サンプルホルダーをトランスファーロッドから取外している。サンプルホルダーのトランスファーロッドへの着脱は、通常、トランスファーロッドを回転することによって行われている。
【0003】
しかしながら、真空装置の内部は、構造上視認しづらく、トランスファーロッドが可動できる領域も狭いため、サンプルホルダーの着脱の際、サンプルホルダーを破損してしまうという問題が生じている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、トランスファーロッドと、トランスファーロッド先端に取付けたホルダー支持具との間に、十字ばねを設けることにより、取付け時の部品の破損を防ぐ第1の構造が開示されている。また、ホルダー支持具を、円筒体を介してホルダー固定部に取付けることにより、所定のトルク以上のトルクが掛かると、ホルダー支持具がホルダー固定部に対して回転し、部品の破損を防ぐ第2の構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-78902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載された第1の構造では、十字ばねのみでホルダー支持具を支えている。そのため、ホルダー支持具にトルクが加わった時に、ホルダー支持具の向きが予期せぬ向きになる可能性がある。また、第2の構造では、トルクによってホルダー固定体が任意の角度回転してしまうため、向きが重要なサンプルホルダーの搬送には不向きである。
【0007】
本発明の一態様は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、トランスファーロッドの回転によるサンプルホルダーの破損を防止する、サンプルホルダーの搬送に適した回転伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る回転伝達装置は、トランスファーロッドに対して固定される第1部材と、前記第1部材に対して所定角度毎に回転角度が固定され、所定値以上のトルクが掛かると前記第1部材に対して回転する第2部材と、を備える。
【0009】
上記の構成によれば、所定値以上のトルクが掛かると第2部材が第1部材に対して回転するため、例えばサンプルホルダーの破損を防止することができる。また、第2部材が回転した場合でも、第2部材は所定角度毎に回転角度が固定される。そのため、第2部材の回転角度を把握しやすく、第2部材が第1部材に対して回転した場合でも、サンプルホルダーに対する向き合わせを容易に行うことができる。
【0010】
前記回転伝達装置は、潤滑剤として20℃における蒸気圧が1×10-2Pa以上のオイルおよびグリースを含まない構成であってもよい。
【0011】
一般的な回転構造では潤滑油が必要になるが、上記の構成ではオイルおよびグリースを含まない。そのため、前記回転伝達装置は、真空環境で使用されるトランスファーロッドに好適に用いることができる。
【0012】
前記回転伝達装置は、部品として融点が200℃未満の樹脂を含まなくてもよい。
【0013】
前記回転伝達装置は、融点が200℃以上の材料のみで構成されていてもよい。
【0014】
前記回転伝達装置では、前記第2部材は、前記第1部材に対する回転角度が、90°以下である前記所定角度毎に固定される構成であってもよい。
【0015】
前記回転伝達装置では、前記第2部材は、前記第1部材に対して固定される複数の回転角度に対応した複数の規制面を有し、前記第1部材は、回転規制部材と、前記回転規制部材を前記規制面に押しつけるばね部材とを有する、構成であってもよい。
【0016】
前記回転伝達装置では、前記回転規制部材は、前記ばね部材より硬く、前記規制面と接触する凸曲面を有する構成であってもよい。
【0017】
前記回転伝達装置では、前記第2部材は、第1回転方向、および、前記第1回転方向とは逆の第2回転方向の両方において、前記所定値以上のトルクが掛かると前記第1部材に対して回転する構成であってもよい。
【0018】
本発明の一態様に係る移送装置は、前記回転伝達装置と、前記第2部材に固定され、サンプルホルダーを固定するためのホルダー固定部と、前記トランスファーロッドと、を備える。
【0019】
前記移送装置では、前記ホルダー固定部は、サンプルホルダーの一部が挿入されるスリットを有し、前記サンプルホルダーの一部が前記スリットに挿入された状態で回転することで、前記サンプルホルダーを固定する構成であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、トランスファーロッドの回転によるサンプルホルダーの破損を防止し、サンプルホルダーの搬送に適した回転伝達装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態1に係る回転伝達装置の一例を含む断面図である。
図2図1に示す回転伝達装置の分解斜視図である。
図3】第1部材の正面図、平面図、および側面図である。
図4】第2部材の正面図、平面図、および側面図である。
図5図1に示す回転伝達装置を含む移送装置の一例を示す模式図である。
図6】サンプルホルダーをホルダー固定部に取付ける方法の一例を説明する図である。
図7】第1部材および第2部材の動作を説明する模式図である。
図8】本発明の実施形態2に係る回転伝達装置の一例を含む断面図である。
図9】本発明の実施形態3に係る回転伝達装置の一例を含む断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、図面を参照して説明する。近年、超高真空等の真空環境下において、例えば、STM(Scanning Tunneling Microscope:走査型トンネル顕微鏡)、AFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)、ARPES(Angle-resolved photoemission spectroscopy:角度分解光電子分光)測定装置等を使用することがよく行われている。この場合、真空装置間での試料等の搬送、または真空装置側と大気側との間の試料等の搬送の際に、トランスファーロッド5を含む移送装置4が使用されている。
【0023】
以下では、本発明に係る回転伝達装置1および移送装置4を、上述した各装置での試料等の搬送に使用する例について説明する。しかし、これに限らず、STM測定で使用する端子、サンプルホルダー加熱用ステージ、または真空中でねじ止めする機構のように、真空環境下において回転移動する機器についても適用することができる。
【0024】
<移送装置4の概略>
図5は、本発明の実施形態1に係る回転伝達装置1を含む移送装置4の一例を示す模式図である。移送装置4は、真空装置間での試料等の搬送、または真空装置側と大気側との間の試料等の搬送の際に使用される装置である。図5に示すように、移送装置4は、回転伝達装置1、トランスファーロッド5、およびホルダー固定部6を備えている。
【0025】
ホルダー固定部6は、試料等を載置するサンプルホルダー7を固定する部材であり、後述する回転伝達装置1の第2部材20に固定されている。
【0026】
トランスファーロッド5は、ホルダー固定部6を介してサンプルホルダー7を保持し、軸方向に直線移動または軸を中心に回転移動等を行い、試料等を搬送する棒状の部材である。
【0027】
回転伝達装置1は、トランスファーロッド5とホルダー固定部6との間に配置され、所定値以上のトルクが掛かると、空回りすることで、ホルダー固定部6の回転を抑制する。詳しくは後述するが、これにより回転伝達装置1は、ホルダー固定部6が保持するサンプルホルダー7の破損を防止することができる。
【0028】
(サンプルホルダー7の取付け)
図6は、サンプルホルダー7をホルダー固定部6に取付ける方法の一例を説明する図である。図5および図6を参照して、ホルダー固定部6にサンプルホルダー7を取付ける方法について説明する。ここで、トランスファーロッド5の軸方向をZ方向、Z方向と直交する方向(水平方向)をX方向とする。
【0029】
ホルダー固定部6は、サンプルホルダー7の係止部71が挿入されるスリット62を有し、係止部71がスリット62に挿入された状態で、ホルダー固定部6を回転させることで、サンプルホルダー7を固定する。
【0030】
以下、詳細に説明する。図5および図6に示すように、サンプルホルダー7は、一例として、係止部71、首部72、肩部73、および試料等を載置する載置部74を備える。
【0031】
係止部71は、上述したように、ホルダー固定部6のスリット62に挿入される部分である。係止部71は肩部73よりX方向の幅が小さく形成され、首部72は、係止部71よりさらにX方向の幅が小さく形成されている。
【0032】
ホルダー固定部6は、回転伝達装置1を介してトランスファーロッド5に固定されている。ホルダー固定部6は、一例として、一方の端面61、スリット62、挿入空間63、保持板64、およびコイルばね65を備えている。
【0033】
ホルダー固定部6は、一方の端面61に、サンプルホルダー7の係止部71を挿入するスリット62を備えている。スリット62は、係止部71と略同一の形状を有し、Z方向に長軸を有する長方形の開口である。スリット62は、係止部71を挿入できるように、係止部71よりわずかに大きい。
【0034】
係止部71は、トランスファーロッド5を、サンプルホルダー7に近接する方向(-Z方向)に直線移動させることで、スリット62内に挿入される。
【0035】
挿入空間63は、スリット62の奥に形成されているスリット62と連通する空間である。例えば、サンプルホルダー7の肩部73が端面61に当接するまで、係止部71をスリット62に挿入すると、係止部71はスリット62を通過し、挿入空間63まで到達する。挿入空間63は、スリット62より大きく、挿入された係止部71を、約90度回転させることができる広さを有している。
【0036】
係止部71がスリット62を通過し、挿入空間63まで到達した状態で、トランスファーロッド5を約90度回転させると、係止部71は、ホルダー固定部6に対して相対的に約90度回転する。これにより、係止部71の向きとスリット62の向きとが相違することになり、トランスファーロッド5をサンプルホルダー7から離反する方向へ直線移動させても、係止部71がスリット62に引っ掛かって、サンプルホルダー7をホルダー固定部6から引き抜くことができなくなる。
【0037】
さらに、係止部71は、挿入空間63内で、コイルばね65によって端面61側に付勢された保持板64により、端面61側に押圧され保持される。これによって、サンプルホルダー7は、ホルダー固定部6に保持され、固定される。
【0038】
サンプルホルダー7を取外すときは、トランスファーロッド5を逆方向に約90度回転させ、係止部71とスリット62の向きを同一にしてから、トランスファーロッド5をサンプルホルダー7から離反する方向に直線移動させる。
【0039】
このように、トランスファーロッド5を約90度回転させることによって、スリット62を回転させ、サンプルホルダー7の着脱を行うことができる。
【0040】
なお、真空装置内で作業をする際は、小さな観察窓を通して作業をする必要があるため、真空装置内を視認し難い構造となっている。また、トランスファーロッド5の可動領域が狭く、トランスファーロッド5をうまく操作できない場合も多い。このため、サンプルホルダー7の着脱時に、スリット62の現時点の角度、スリット62および係止部71の位置、係止部71の挿入角度等を確認して、係止部71をスリット62に正確に挿入することは容易ではない。さらに、サンプルホルダー7は、サイズが小さく、強度も不充分である場合が多い。
【0041】
また、大気側でユーザが把持して回すトランスファーロッド5の操作部は、一般的に径が大きく構成される一方、真空内のサンプルホルダー7は操作部の径より小さい。そのため、ユーザの想定以上に大きなトルクがサンプルホルダー7側に掛かり、サンプルホルダー7が破損しやすい。
【0042】
このため、係止部71がスリット62内にあるにも関わらず、ユーザは、係止部71が挿入空間63に到達したと誤認し、トランスファーロッド5を回転させてしまう場合がある。この場合、仮に、移送装置4が回転伝達装置1を備えないと仮定した場合、サンプルホルダー7の首部72に過剰なトルクがかかり、首部72がねじ切れる等、サンプルホルダー7を破損してしまう可能性がある。
【0043】
本発明の移送装置4は、所定値以上のトルクが掛かった場合、ホルダー固定部6とトランスファーロッド5との間に配置される回転伝達装置1によって、トランスファーロッド5からホルダー固定部6に伝わるトルクが抑制される。これにより、回転伝達装置1は、サンプルホルダー7の破損を防止することができる。
【0044】
<回転伝達装置1の構成>
次に、本発明に係る回転伝達装置1について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る回転伝達装置1の一例を含む模式的な断面図である。図1において、第2部材20については断面ではなく外形を描いている。図2は、回転伝達装置1の分解斜視図である。図3は、第1部材10の本体部11の平面図および正面図である。図4は、第2部材20の正面図および側面図である。
【0045】
回転伝達装置1は、トランスファーロッド5に対して固定される第1部材10と、第1部材10に対して所定角度毎に回転角度が固定され、所定値以上のトルクが掛かると、第1部材10に対して回転する第2部材20とを備える。
【0046】
第1部材10は、トランスファーロッド5の先端に固定されてもよいし、先端以外の箇所に固定されてもよい。また、第1部材10は、トランスファーロッド5と一体的に構成されてもよい。この場合、トランスファーロッド5の先端部を第1部材10とみなす。
【0047】
(第1部材10)
図3の符号300Aで示す図は、本体部11の平面図、符号300Bで示す図は、本体部11の正面図である。図1から図3に示すように、第1部材10は、本体部11、複数(ここでは2つ)の金属棒15(回転規制部材)、および、複数(ここでは2つ)の板ばね16(ばね部材)を備えている。
【0048】
本体部11は、略円筒状に構成され、挿入孔12、複数の開口部13、複数の取付面14、および、複数の抜け止めねじ取付孔17、を備えている。
【0049】
挿入孔12は、本体部11の内部に形成された円形の穴である。第1部材10と同軸となるように、後述する第2部材20の軸部22が挿入孔12に挿入される。
【0050】
開口部13は、第1部材10の外側側面に開口する部分であり、各取付面14に形成されている。開口部13からは、本体部11の内部に挿入された、第2部材20の軸部22の一部が露出している。軸部22の一部は、具体的には、後述する第2部材20の規制面23の一部である。
【0051】
取付面14は、略平坦な面であり、第1部材10の外周面上に、互いに対向するように一対形成されている。各取付面14には、金属棒取付部141、および板ばね取付孔142が形成され、それぞれ金属棒15および板ばね15が取付けられる。
【0052】
金属棒15は、円柱形状の棒である。金属棒15は、板ばね16と共に、第2部材20の回転を規制する。金属棒15は、ステンレス、鉄、モリブデン、タングステン、または鋼等の、板ばね16よりビッカース硬度が硬い金属で構成されてもよい。金属棒15は、金属棒15の両端を金属棒取付部141に嵌め込むことにより、開口部13に取付けられている。
【0053】
金属棒取付部141は、金属棒15が配置される凹部であり、開口部121のX方向両端部に一対に形成され、金属棒15よりZ方向の幅がわずかに大きくなるように形成されている。
【0054】
板ばね16は、取付ねじ162によって、取付面14に固定される。取付ねじ162は、板ばね16の取付孔161を貫通し、雌ねじが形成された板ばね取付孔142に挿入される。板ばね16は、第1部材10の径方向内側(中心側)に付勢されており、金属棒15を、開口部13から露出する第2部材20の規制面23に押し付ける。板ばね16は、例えば、りん青銅、またはベリリウム銅等の金属で構成されてもよい。
【0055】
詳しくは後述するが、これにより、第1部材10が回転したとき、第1部材10の回転に連動して第2部材20も回転させることができる。また、トランスファーロッド5を回転させたとき、第1部材10に伝わったトランスファーロッド5の回転を、第2部材20に伝え、さらに第2部材20に固定されたホルダー固定部6に伝えることができる。これにより、ホルダー固定部6を回転させ、ホルダー固定部6にサンプルホルダー7を着脱させることができる。
【0056】
また、規制面23を、摩耗しやすい板ばね16で直接押し付けずに、板ばね16より硬度が硬い金属棒15を介して押し付けることにより、耐久性を向上させることができる。また、板ばね16の摩耗粉で真空環境が劣化するのを防ぐことができる。金属棒15は、第2部材20と同じ材質であってもよい。
【0057】
また、金属棒15を円柱形状にすることにより、平面である規制面23との接触部分が線になり、しっかり回転角度を固定でき、回転中の規制面23の角との接触が点になり、摩擦が小さくなる。これにより、規制面23との滑りがよくなり、回転伝達装置1をスムーズに動作させることができる。
【0058】
また、金属棒15の代わりに、円柱形状ではなく球状の回転規制部材を用いてもよい。回転規制部材は、例えば半円柱または半球のような形状であってもよく、規制面23と接触する凸曲面を少なくとも一部に有している形状であってもよい。これにより、平面である規制面23との接触部分が線または点になることで、規制面23との滑りがよくなる。
【0059】
(第2部材20)
次に、第2部材20について、図1図2および図4を参照して説明する。図4の符号400Aで示す図は、第2部材20の側面図、符号400Bで示す図は、第2部材20の正面図である。
【0060】
図1図2および図4に示すように、第2部材20は、頭部21、軸部22、規制面23、抜け止め溝24、および、ホルダー固定部用取付孔25を備えている。
【0061】
頭部21には、ホルダー固定部6を連結するためのホルダー固定部用取付孔25が複数設けられている。頭部21とホルダー固定部6とを、ねじ等の締結部材で連結することによって、第2部材20は、ホルダー固定部6に固定される。一方、第1部材10は、トランスファーロッド5に固定されている。ホルダー固定部用取付孔25は、ホルダー固定部6に合わせて、後で加工されてもよい。なお、ホルダー固定部6は、第2部材20と一体的に構成されてもよい。
【0062】
軸部22の一部は、回転軸を軸とした円柱形状に形成されている。軸部22の円柱形状の部分は、第1部材10の本体部11と嵌り合い、第1部材10によって回転可能に支持される。第2部材20は、第1部材10に対して、回転軸が固定される。軸部22は、上述したように、第1部材10の挿入孔12から、第1部材10の内部に挿入される。第1部材10の内部に挿入された軸部22が、第1部材10の内部から抜けないように、第1部材10の抜け止めねじ取付孔17(図3参照)から、抜け止めねじ(不図示)を挿入し、抜け止め溝24(図4参照)に嵌り、軸部22を固定する。なお、板ばね16の取付ねじ162を、抜け止めねじとして兼用してもよい。
【0063】
軸部22の他の一部の断面は、多角形状に形成され、例えば、8角形状に形成されている。この場合、軸部22は、8個の規制面23を備える。規制面23は、上述したように、板ばね16により金属棒15が押し付けられる面であり、金属棒15が押し付けられることにより、第2部材20の回転を規制する面である。
【0064】
軸部22の一部が多角柱状(断面が多角形状)に形成されることにより、回転伝達装置1に所定値以上のトルクが掛かり、第1部材10に対して第2部材20が回転したときに、所定角度ごとに、第1部材10に対する第2部材20の回転を停止させることができる。例えば、軸部22が8角形状を有する場合、第2部材20は45°毎に回転角度が固定される。なお、軸部22の断面は、8角形状に限らず、例えば4角形状、6角形状、12角形状等に形成されてもよい。第2部材20が、少なくとも90°毎の回転角度(0°、90°、180°、270°)で固定されるためには、「4の倍数」角形状であればよい。例えば、軸部22の断面が4角形以上の正多角形状であれば、第2部材20は、90°以下である所定角度毎に回転角度が固定される。
【0065】
<回転伝達装置1の動作>
図7は、第1部材10および第2部材20の動作を説明する模式図である。図7の符号700Aで示す図は、回転伝達装置1に所定値以下の通常のトルクが掛かっている状態の図であり、符号700Bで示す図は、所定値以上のトルクが掛かった状態の図である。図7の700Bにおいては相対的な回転を描いている。
【0066】
符号700Aの図に示すように、軸部22は8角形状に形成されているため、8つの規制面23を備えている。規制面23のうち、開口部13から露出する規制面231は、板ばね16によって金属棒15が押し付けられている。
【0067】
これにより、第2部材20は、第1部材10が回転するとき、連動して回転する。したがって、第1部材10の回転は、第2部材20に伝達され、さらに第2部材20に固定されたホルダー固定部6に伝達される。これにより、トランスファーロッド5の回転がホルダー固定部6に伝わって、ホルダー固定部6にサンプルホルダー7を着脱させることができる。
【0068】
ここで、ホルダー固定部6(および第2部材20)が回転できない状態でトランスファーロッド5を強く回転させると、回転伝達装置1に、所定値以上のトルクが掛かかる。当該トルクによって、金属棒15および板ばね16が押し上げられ、第2部材20と第1部材10との連動が解除され、第1部材10だけが回転する、いわゆる空回りの状態になる。換言すると、第2部材20は第1部材10に対して相対的に回転するようになる。
【0069】
これにより、トランスファーロッド5からホルダー固定部6に過度なトルクが伝わらなくなり、サンプルホルダー7の破損を防止することができる。
【0070】
符号700Bの図に示すように、第2部材20は第1部材10に対して回転し、第1部材10の開口部13から、角部A、角部B、規制面232が、順に露出する。例えば、第1部材10に掛かるトルクが所定値未満になり、規制面232が再び金属棒15に押圧されると、第2部材20の第1部材10に対する回転は停止する。
【0071】
このように、第2部材20は軸部22を多角形とすることで、第1部材10に対する回転角度を固定することができる。例えば、軸部22が8角形の場合、回転角度は約45°であるため、第2部材20を約45°ごとに停止させることができる。また、第2部材20を2回分(2つの規制面23)回転させた場合は、約90°ごとに第2部材20を停止させることができる。このように、第1部材10に対して所定角度毎に回転角度を固定することができる。
【0072】
第2部材20は、第1部材10に対する回転角度が、90°以下である所定角度毎に固定される。好適には、第2部材20は、第1部材10に対する回転角度が少なくとも約0°および約90°の角度で固定される。この場合、基準となる角度を0°とし、約90°の角度で固定すると、スリット62の向きをサンプルホルダー7の係止部71の向きに合わせやすく、作業が容易になる。多くの場合、ホルダー固定部を約90°回すことにより、サンプルホルダー7を固定/解放する構造となっているためである。
【0073】
また、第2部材20の軸部22は、第1部材10に対して固定される複数の回転角度に対応した複数の規制面23を有している。つまり、軸部22は、回転角度が45°および90°で固定される場合、規制面23を8個有するように形成される。
【0074】
また、軸部22の角部Aおよび角部Bは、開口部13から露出したとき、金属棒15および板ばね16を径方向外側へ押圧するため、操作者に、例えば、カチカチというクリック感を生じさせる。これにより、操作者は、回転伝達装置1が空回りしたこと、および空回りした角度を容易に認識することができ、作業効率を向上させることができる。また、少なくとも約90°回転するときにクリック感が生じる場合、回転位置を調節しやく、また、スリット62の向きを認識しやすくなり、さらに作業効率が向上する。
【0075】
なお、軸部22は、規制面23を約90°ごとに4つ設け、規制面23間が曲面(例えば円柱側面)で接続される構成にしてもよい。これによると、約90°ごとに第2部材20の回転を停止させることができる。
【0076】
また、軸部22は、規制面23を約120°ごとに3つ設け、規制面23間が曲面(例えば円柱側面)で接続される構成にしてもよい。これによると、約120°ごとに第2部材20の回転を停止させることができる。
【0077】
またこれに限らず、軸部22は、規制面23が約90°および約120°以外の任意の角度ごとに複数設けられ、規制面23間が曲面(例えば円柱側面)で接続される構成にしてもよい。
【0078】
また、上述した構成に合わせて、トランスファーロッド5の操作側の表面に、例えば、約90ごとにマークを付し、トランスファーロッド5を回転させた角度を視認できるようにしてもよい。これによりさらに、トランスファーロッド5の回転位置を調節しやく、また、スリット62の向きを認識しやすくなり、作業効率が向上する。
【0079】
また、第2部材20の多角形状の部分は、中心軸を通る平面に対して対称な構造を有する。そのため、第2部材20は、時計回りの方向(第1回転方向)、または反時計回りの方向(第2回転方向)のどちらであっても、回転伝達装置1に同じ所定値以上のトルクが掛かると、第1部材10に対して回転する。
【0080】
また、トルクの閾値、すなわち所定値は、板ばね16の厚さや、幅等の形状を変えることで容易に調整することができる。このため、回転伝達装置1および移送装置4を使用する装置に合わせて、簡単にトルクの閾値を変更することができる。
【0081】
さらに、回転伝達装置1は、すでに使用しているトランスファーロッド5とホルダー固定部6との間に組み込んで取り付けることができるので、装置全体を取り換えることなく、既存の設備に取り付けて使用することができる。
【0082】
また、回転伝達装置1は、その構成中にラチェットを備えていないため、ベアリングを備える必要がない。一般的なトルク制限構造は、潤滑油を必要とし、真空環境での使用に適したものではない。回転伝達装置1は、真空環境を劣化させるオイルおよびグリースを、ベアリング等の潤滑剤として使用する必要がない。回転伝達装置1は、オイルおよびグリースを含まないため、超高真空等の真空環境下においても使用することができる。
【0083】
回転伝達装置が、ベアリング等を部品として含む場合であっても、潤滑剤として20℃における蒸気圧が1×10-2Pa以上のオイルおよびグリースを含まない。20℃における蒸気圧が1×10-2Pa以上、好ましくは1×10-6Pa以上の材料を含むオイルおよびグリースを使用しない。潤滑剤の蒸気圧が1×10-2Pa未満の場合、回転伝達装置を高真空環境(1×10-1~1×10-5Pa)で使用することができる。また、潤滑剤の蒸気圧が1×10-6Pa未満の場合、回転伝達装置を超高真空環境(1×10-5~1×10-8Pa)で使用することができる。なお、保守およびメンテナンスの観点から、回転伝達装置にオイルおよびグリースを使用しないのが好ましい。このため、ベアリングを備えない回転伝達装置1は、好適に超高真空等の真空環境下において使用することができる。
【0084】
また、回転伝達装置1は、部品として融点が200℃未満の樹脂を含まない。樹脂は、真空下において材料表面からガスを発生する。融点が200℃未満の樹脂を含まないことにより、(一般的に100℃~150℃の範囲で行われることが多い)ベーキング処理の際に真空環境を悪化させるガスが放出されるのを防ぐことができる。なお、真空装置内の温度を200℃より高温にする場合には、その想定される温度の範囲内においてガスを発生する材料を用いないようにすることが好ましい。
【0085】
さらに、回転伝達装置1は、全ての構成部品が例えばステンレス、鉄、鋼、アルミニウム、りん青銅、および/またはベリリウム銅等の金属および/またはセラミックスのみで構成されている。つまり、回転伝達装置1は、融点が200℃以上の材料のみで構成されている。融点が200℃以上の材料のみで構成することにより、ベーキング処理の際の材料の変形および変質を抑制することができる。なお、真空装置内の温度を200℃より高温にする場合には、その想定される温度の範囲内において変形および変質する材料を用いないようにすることが好ましい。
【0086】
そのため、回転伝達装置1は、超高真空にするためのベーキング処理による高温環境にも耐えることができる。回転伝達装置1は、真空環境を劣化させ得る真鍮および亜鉛を含まないことが好ましい。
【0087】
(変形例)
なお、ホルダー固定部として任意のものを用いることができる。トランスファーロッドからホルダー固定部にZ方向の動力を伝える必要がある場合、トランスファーロッド、第1部材、および第2部材の中心を中空とし、内部ロッドを通してもよい。内部ロッドは自由に回転し、ユーザの操作によりZ方向に移動可能であってもよい。内部ロッドによって、ホルダー固定部の動作部分(例えば把持爪)を操作することができる。
【0088】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態2について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。以後の実施形態3についても同様である。
【0089】
図8は、本発明の実施形態2に係る回転伝達装置1Aの一例を含む模式的な断面図である。図8において、第2部材20については断面ではなく外形を描いている。図8に示すように、実施形態2の回転伝達装置1Aは、開口部13から露出する規制面23が、コイルばね16Aによって球体15Aが押し付けられている点で、実施形態1の回転伝達装置1と異なっている。
【0090】
これにより、回転伝達装置1Aの第2部材20は、第1部材10が回転するとき連動して回転する。
【0091】
回転伝達装置1Aは、所定値以上のトルクが掛かると、球体15Aが第2部材20によって押し上げられ、第2部材20と第1部材10との連動が解除され、第2部材20は第1部材10に対して回転する。
【0092】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態3について、以下に説明する。図9は、本発明の実施形態3に係る回転伝達装置1Bの一例を含む模式的な断面図である。図9において、第2部材20については断面ではなく外形を描いている。図9に示すように、実施形態3の回転伝達装置1Bは、軸部22の側面が多角形状ではない点で、実施形態1の回転伝達装置1と異なっている。
【0093】
第2部材20は、トランスファーロッド5側の軸方向端部に、軸の円周方向に並んだ複数の山型形状を有する第1係合部23Bを備える。
【0094】
第1部材10は、さらに、第1係合部23Bと対向する位置に、押圧部材15Bを備えている。押圧部材15Bは、第1係合部23Bの山型形状と係合する、複数の山型形状を有する第2係合部23Cを備えている。第2係合部23Cは、第1係合部23Bに係合した状態で、コイルばね16Bによって、第1係合部23Bに押し付けられている。
【0095】
第1係合部23Bと第2係合部23Cとが係合することにより、回転伝達装置1Bの第2部材20は、第1部材10が回転するとき連動して回転する。
【0096】
回転伝達装置1Bは、所定値以上のトルクが掛かると、第1係合部23Bによって押圧部材15Bが押されて移動し、第2部材20と押圧部材15Bとの連動が解除され、第2部材20は第1部材10に対して回転する。
【0097】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1、1A、1B 回転伝達装置
4 移送装置
5 トランスファーロッド
6 ホルダー固定部
7 サンプルホルダー
10 第1部材
15 金属棒(回転規制部材:円柱形状の棒)
15A 球体(回転規制部材)
16 板ばね(ばね部材)
16A、16B コイルばね
20 第2部材
23 規制面
23B 第1係合部
23C 第2係合部(回転規制部材)
62 スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9