(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086598
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】シートプリプレグ用の補強材及びシートプリプレグの製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/17 20060101AFI20240620BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20240620BHJP
D06M 14/36 20060101ALI20240620BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20240620BHJP
D06M 15/285 20060101ALI20240620BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
D06M13/17
C08J5/24 CEZ
C08J5/24 CFC
C08J5/24 CFD
C08J5/24 CFG
D06M14/36
D06M15/55
D06M15/285
D06M15/263
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023196115
(22)【出願日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2022200013
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】池田 勝司
(72)【発明者】
【氏名】辻川 一輝
(72)【発明者】
【氏名】石川 健
(72)【発明者】
【氏名】松井 純
【テーマコード(参考)】
4F072
4L033
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB14
4F072AC08
4F072AD08
4F072AD13
4F072AD27
4F072AD28
4F072AD38
4F072AD45
4F072AF27
4F072AF30
4F072AG03
4F072AH21
4F072AL02
4F072AL11
4F072AL17
4L033AA09
4L033AB01
4L033AB03
4L033AC11
4L033BA14
4L033CA18
4L033CA23
4L033CA48
4L033CA61
(57)【要約】
【課題】曲げ特性に優れたシートプリプレグ及びCFRPを提供することができるシートプリプレグ用の補強材を提供する。
【解決手段】複数の孤立した自己組織化炭素繊維束からなり、嵩密度が0.13g/cm
3以下である、シートプリプレグ用の補強材。ただし、前記嵩密度は次のようにして求める:ポリプロピレン製で目盛り付きの2Lディスポーザブルカップ(開口直径15.5cm、深さ18.5cm)の中に、前記補強材を落下させる。ディスポーザブルカップの目盛りから読み取られる体積が2Lに達したところで、重量を測定する。測定された前記補強材の重量(単位:g)を体積2000(単位:cm
3)で除した値を、嵩密度(単位:g/cm
3)とする。測定は5回行い、その平均値を採用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孤立した自己組織化炭素繊維束からなり、嵩密度が0.13g/cm3以下である、シートプリプレグ用の補強材。ただし、前記嵩密度は次のようにして求める:ポリプロピレン製で目盛り付きの2Lディスポーザブルカップ(開口直径15.5cm、深さ18.5cm)の中に、前記補強材を落下させる。ディスポーザブルカップの目盛りから読み取られる体積が2Lに達したところで、重量を測定する。測定された前記補強材の重量(単位:g)を体積2000(単位:cm3)で除した値を、嵩密度(単位:g/cm3)とする。測定は5回行い、その平均値を採用する。
【請求項2】
前記嵩密度が0.01g/cm3以上である、請求項1に記載の補強材。
【請求項3】
前記孤立した自己組織化炭素繊維束が複数の炭素繊維と有機バインダーとからなり、前記複数の炭素繊維の繊維長が60mm以下である、請求項1に記載の補強材。
【請求項4】
前記複数の炭素繊維の少なくとも一部が5mm以上の繊維長を有する、請求項3に記載の補強材。
【請求項5】
前記複数の炭素繊維の少なくとも一部が10mm以上の繊維長を有する、請求項4に記載の補強材。
【請求項6】
前記シートプリプレグは、前記補強材よりなる炭素繊維マットと熱硬化性樹脂組成物とからなり、前記炭素繊維マットが前記熱硬化性樹脂組成物で含浸されたシートプリプレグである、請求項1に記載の補強材。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の補強材と熱硬化性樹脂組成物とからなるシートプリプレグ。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の補強材よりなる炭素繊維マットと熱硬化性樹脂組成物とからなり、前記炭素繊維マットが前記熱硬化性樹脂組成物で含浸されたシートプリプレグ。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の補強材を熱硬化性樹脂組成物で含浸させることを含む、シートプリプレグの製造方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の補強材を用いて炭素繊維マットを形成することと、前記炭素繊維マットを熱硬化性樹脂組成物で含浸させることを含む、シートプリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、シートプリプレグ用の補強材として用いるのに適した、複数の孤立した自己組織化炭素繊維束(Self-Assembled Carbon Fiber Bundle;以下、「SACFB」と略称する場合がある。)の集まりである炭素繊維束集合体と、それを用いたシートプリプレグ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維で補強された繊維強化プラスチックであるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、自動車、船舶、鉄道車両、有人航空機、無人航空機その他の輸送機器の部品に適した、軽量かつ力学特性に優れた材料であり、近年その重要度はますます高くなっている。
【0003】
CFRP製品を効率的に製造する方法として、例えばシートモールディングコンパウンド(SMC)のようなシートプリプレグを用いる方法が知られている。シートプリプレグは、未硬化の熱硬化性樹脂組成物からなるマトリックスでシート状の繊維補強材(単に補強材ともいう。)を予め含浸させてなる中間材料である。
CF-SMCで用いられる繊維補強材は、連続炭素繊維束を切断してチョップド炭素繊維束とし、これをキャリアフィルム上に散布することで形成される炭素繊維マットである(例えば、特許文献1)。
連続炭素繊維束は、機械的に束ねられた繊維フィラメントからなるアクリル繊維束を焼成する方法で製造され、炭素繊維が束ねられた状態を保持するためにサイジングされている。
【0004】
ラージトウと呼ばれる例えば48Kといった大きな束サイズを有する連続炭素繊維束は生産効率が高いが、一方で、CF-SMCを含むいくつかの用途では例えば6K以下という小さな束サイズを有する炭素繊維束が要求される。かかる事情から、ラージトウを複数のトウに分割する技術が開発されている(特許文献2)。
【0005】
湿った炭素繊維束を切断してサイジング剤の溶液または懸濁液と混合し、回転式ディスクペレタイザーを用いてペレット化した後、乾燥させる方法によって、繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP)の製造に用いる炭素繊維ペレットを製造することが提案されている(特許文献3)。
【0006】
長さ3~5mmの短い炭素繊維を分散させた水に、少量のクロロホルムを加えて勢いよく振ると、その短い炭素繊維が凝集し、自己組織化によって針状の束を形成する現象が報告されている。この報告を行ったグループは、廃棄物からリサイクルされる炭素繊維を、この現象を利用してバンドル化することで、再び高機能材料の原料に利用できると述べている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1-163218号公報
【特許文献2】米国特許第6385828号明細書
【特許文献3】特表平10-503812号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. R. Baxter, G. R. Palmese, N. J. Alvarez, Applied Materials Today, 20 (2020) 100786
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明のひとつの目的は、シートプリプレグ用の補強材に適した炭素繊維束集合体と、かかる炭素繊維束集合体を補強材として用いたシートプリプレグ及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、炭素繊維束集合体の製造方法の改良を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、複数の孤立した自己組織化炭素繊維束からなり、嵩密度が0.13g/cm3以下である、炭素繊維束集合体が提供される。ただし、前記嵩密度は次のようにして求める:ポリプロピレン製で目盛り付きの2Lディスポーザブルカップ(開口直径15.5cm、深さ18.5cm)の中に、前記炭素繊維束集合体を落下させる。ディスポーザブルカップの目盛りから読み取られる体積が2Lに達したところで、重量を測定する。測定された前記炭素繊維束集合体の重量(単位:g)を体積2000(単位:cm3)で除した値を、嵩密度(単位:g/cm3)とする。測定は5回行い、その平均値を採用する。
本発明の別の一態様によれば、この炭素繊維束集合体と熱硬化性樹脂組成物とからなるシートプリプレグが提供される。
本発明の更に別の一態様によれば、この炭素繊維束集合体からなる炭素繊維マットと熱硬化性樹脂組成物とからなり、前記炭素繊維マットが前記熱硬化性樹脂組成物で含浸された、シートプリプレグが提供される。
本発明の更に別の一態様によれば、このシートプリプレグを硬化させることを含む、炭素繊維強化プラスチック製品の製造方法が提供される。
本発明の更に別の一態様によれば、この前記炭素繊維束集合体を熱硬化性樹脂組成物で含浸させることを含む、シートプリプレグの製造方法が提供される。
本発明の更に別の一態様によれば、前記炭素繊維束集合体を用いて炭素繊維マットを形成することと、前記炭素繊維マットを熱硬化性樹脂組成物で含浸させることを含む、シートプリプレグの製造方法が提供される。
本発明の更に別の一態様によれば、綿状炭素繊維を容器に入れた後に前記容器内にバンドル化液を噴霧することと、前記噴霧の途中および/または前記噴霧の後に前記容器の内容物を撹拌することと、前記撹拌の後に前記容器の内容物を乾燥させることとを含み、前記乾燥は前記容器の内容物を前記容器から取り出した後に行われてもよい、炭素繊維束集合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、シートプリプレグ用の補強材に適した炭素繊維束集合体が提供される。
本発明の他の一態様によれば、かかる炭素繊維束集合体を工業的に有利に製造することができる、炭素繊維束集合体の製造方法の改良が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)~(d)は、それぞれ、SACFBの末端を示す拡大写真である。
【
図2】
図2は、チョップド炭素繊維束の末端を示す拡大写真である。
【
図3】
図3は、SACFBの束長とSACFBを構成する炭素繊維の繊維長との関係を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、シートプリプレグ製造装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
1.自己組織化炭素繊維束(SACFB)
SACFBは、複数の短尺炭素繊維が自ら束をなすように集合する過程を経て形成される。SACFBを形成する前の段階において、複数の短尺炭素繊維は、全部がモノフィラメントであってもよい。つまり、SACFBは、複数の炭素繊維フィラメントが束をなすように凝集することによって形成され得る。他の一例において、SACFBは、それぞれが例えば100本未満という少数のフィラメントからなる複数の微細炭素繊維束が凝集することによって形成されてもよい。更に他の一例において、SACFBは、複数の炭素繊維フィラメントと複数の微細炭素繊維束が凝集することによって形成されてもよい。
【0015】
SACFBの末端では、
図1(a)~(d)に例示するように、束を構成する複数の炭素繊維の先端の位置が不揃いである。これは、連続炭素繊維束を切断することにより得られるチョップド炭素繊維束の末端において、
図2に示すように複数の炭素繊維の先端の位置が揃っているのとは対照的である。
SACFBの束長は、
図3に示すように、SACFBが含有する炭素繊維の平均繊維長よりも長いのが一般的である。
【0016】
1本のSACFBに含まれる炭素繊維の本数(SACFBの束サイズ)は、好ましくは1.5K以上10K未満の範囲内である。
ここで「K」は1000を表す記号である。例えば、1Kは1000を意味する。10Kは10000を意味する。100Kは100000を意味する。
【0017】
繊維長が短い程、炭素繊維が自己組織化によってバンドル化するときに交絡が起こり難く、形成されるSACFBは、樹脂含浸させ容易いものとなる。従って、SACFBを構成する全ての短尺炭素繊維において、繊維長は好ましくは60mm以下、より好ましくは40mm以下、更に好ましくは30mm以下であり、20mm以下であってもよい。
【0018】
一方、繊維長が短過ぎる炭素繊維はCFRPに用いたときに補強材としての効果が低い。このことから、SACFBを構成する炭素繊維の繊維長は好ましくは5mm以上であり、より好ましくは10mm以上である。
含有する炭素繊維の大部分が5mm以上の繊維長を有するSACFBは束長が5mmを超えるのが普通である。含有する炭素繊維の大部分が10mm以上の繊維長を有するSACFBは束長が10mmを超えるのが普通である。
【0019】
一定長に満たない炭素繊維の含有量を制限することで、SACFBをCFRP用の補強材として使用したときの補強効果を高めることができる。例えば、SACFBは繊維長L1(mm)未満の炭素繊維を含まないか、含むとしてもその量がSACFBを構成する炭素繊維の5wt%未満であることが好ましい。ここで、L1は、5、6、7、8、9または10であり得る。L1が大きいSACFBほど、CFRPに用いたときに、より高い補強効果を示す。
【0020】
SACFBは、同等の繊維長を有する炭素繊維のみから構成されてもよいし、互いに異なる繊維長を有する炭素繊維を含有してもよい。例えば、繊維長の異なる2種類のチョップド炭素繊維を原料に用いた場合には、含有する炭素繊維の繊維長分布に2つのピークを有するSACFBを得ることができる。
【0021】
SACFBを構成する炭素繊維のフィラメント直径に特に制限はなく、PAN系炭素繊維が通常有するフィラメント直径の範囲内、例えば5μm~15μmの範囲内であればよい。
【0022】
SACFBは、短尺炭素繊維同士を互いに結着させる有機バインダーを含有する。有機バインダーの材料の好適例は、市販されている一般的な炭素繊維束でサイジングに使用されている樹脂である。言い換えれば、サイジング剤の成分樹脂といってもよい。かかる樹脂の例としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂(エポキシアクリレート樹脂ともいう)、ポリウレタン樹脂およびポリアミド樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの樹脂は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機バインダーには上記の樹脂に加えて、界面活性剤が配合されてもよい。有機バインダーは、一般的な炭素繊維束で使用されているサイジング剤そのものであってもよい。
【0023】
SACFBの有機バインダー含有量は、0.5wt%以上1.5wt%未満、1.5wt%以上3wt%未満、3wt%以上5wt%未満、5wt%以上7wt%未満または7wt%以上10wt%未満であり得る。
【0024】
SACFBを構成する炭素繊維は、全てが熱劣化していない炭素繊維であってもよいし、一部が熱劣化していない炭素繊維で残部が熱劣化した炭素繊維であってもよい。SACFBを構成する炭素繊維は、全てが熱劣化した炭素繊維であってもよい。
熱劣化していない炭素繊維とは、典型的には、バージン炭素繊維である。
熱劣化した炭素繊維とは、典型的には、CFRPの廃材から回収されたリサイクル炭素繊維であり、マトリックス樹脂を熱分解させて除去する過程で熱劣化したものである。
【0025】
SACFBは繊維成分として炭素繊維のみを含有することが好ましいが、特に支障がなければ、炭素繊維以外の繊維を含有することが許容される。例えば、ガラス繊維が混入したリサイクル炭素繊維は、可能な限りにおいて、ガラス繊維を含んだままSACFBの原料として使用することが、環境への負荷を軽減する観点から望ましい。
SACFBの品質を安定させる観点から、SACFBが含み得る炭素繊維以外の繊維の含有量は、繊維成分全体の10wt%未満であることが好ましく、5wt%未満であることがより好ましく、1wt%未満であることが更に好ましい。
炭素繊維以外の繊維は、含有量が上記の好ましい範囲内であれば、複数のSACFBが集まったときの嵩密度に対し実質的に影響を与えない。
【0026】
2.自己組織化炭素繊維束(SACFB)の製造方法
SACFBの製造方法について、原料にバージン炭素繊維を用いる態様と、リサイクル炭素繊維を用いる態様とをそれぞれ説明する。
【0027】
2.1.バージン炭素繊維を原料に用いる態様
バージン炭素繊維よりなるSACFBは、例えば、次の(i)~(iii)の工程を経て製造することができる。
(i)チョップ工程
(ii)解束工程
(iii)バンドル化工程
各工程の詳細を以下に説明する。
【0028】
(i)チョップ工程
チョップ工程では、バージン炭素繊維からなる連続炭素繊維束、つまり新品の連続炭素繊維束を、例えばロータリーカッターを用いて所定の長さに切断してチョップド炭素繊維束とする。
【0029】
連続炭素繊維束の束サイズ(束を構成する炭素繊維フィラメントの数)は、例えば10K以上であり、12K以上、15K以上、24K以上、36K以上、48K以上、または50K以上であってもよい。上限は特にないが、例えば100K以下である。
【0030】
連続炭素繊維束の束サイズが大きい程、1片のチョップド炭素繊維束から得られるSACFBの数が多いので、生産効率が高い。加えて連続炭素繊維束の生産コストも、束サイズが大きい程、低くなる。従って、連続炭素繊維束の束サイズは、好ましくは24K以上、より好ましくは36K以上、更に好ましくは48K以上である。
【0031】
チョップド炭素繊維束の繊維長は、製造すべきSACFBの束長に応じて設定すればよく、特に限定はされないが、好ましくは5mm以上であり、6mm以上、7mm以上、8mm以上、9mm以上または10mm以上であってもよく、また、好ましくは60mm以下、より好ましくは40mm以下、更に好ましくは30mm以下であり、20mm以下であってもよい。チョップド炭素繊維束に含まれる炭素繊維の多くは、その長さを保ったままSACFBの形成に与る。
【0032】
殆どが同じ繊維長を有する複数の短尺炭素繊維から形成されるSACFBの束長は、短尺炭素繊維の繊維長とほぼ同じとなるか、それよりも長くなる。SACFBが含む短尺炭素繊維の実質的に全てがL2(mm)という繊維長を有するとき、SACFBの束長はL2+1(mm)からL2×1.4(mm)の範囲内であることが多い。ただし、例外もある。
一例では、異なる繊維長を有するチョップド炭素繊維束を混合して用いてもよい。しかし、製造ロット間でのSACFBの品質のバラツキを抑えるには、同等の繊維長を有するチョップド炭素繊維束のみを用いることが好ましい。
【0033】
(ii)解束工程
解束工程では、チョップ工程で得られたチョップド炭素束をほぐすことにより、綿状炭素繊維を得る。
綿状炭素繊維は、モノフィラメントのみからなっていてもよいし、例えば100本未満という少ない本数のフィラメントからなる微細炭素繊維束を含んでもよい。
【0034】
チョップド炭素繊維束の解束は、例えばヘンシェルミキサーのような撹拌混合機にチョップド炭素繊維束のみを投入し、ドライ状態で撹拌することにより行い得る。この場合には、生成する綿状炭素繊維を撹拌混合機から取り出すことなく、次のバンドル化工程に用いることができる。
【0035】
例えばアセトンのような、チョップド炭素繊維束が含有するサイジング剤を溶解させ得る有機溶剤にチョップド炭素繊維束を浸漬し、超音波照射する方法でも解束することができる。サイジング剤を洗い流した後には、綿状になった炭素繊維が残る。この方法ではチョップド炭素繊維束に含まれていたサイジング剤の少なくとも一部が失われることから、後のバンドル化工程で有機バインダーを補うことが望ましい。
【0036】
(iii)バンドル化工程
バンドル化工程では、解束工程で得た綿状炭素繊維を、バンドル化液と混合することにより、短尺炭素繊維を自発的にバンドル化させる。バンドル化の後、バンドル化液中の液体成分は蒸発させて除去する。
【0037】
バンドル化液が含有する好ましい液体成分は水である。水の強い表面張力は、毛細管効果による短尺炭素繊維のバンドル化を強く促進させる。また、水は不燃性なので、防爆仕様の撹拌装置が必要ない点においても好ましい。
【0038】
一例では、バンドル化液に表面張力を低下させる添加剤を加えることにより、形成される自己組織化炭素繊維束の束サイズを小さくすることができる。水ベースのバンドル化液の場合、表面張力を低下させる添加剤として界面活性剤および水溶性ポリマーが例示される。
【0039】
好ましい界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンアルキルエーテルおよびポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルを含むポリオキシアルキレンアルキルエーテルのような非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0040】
水溶性ポリマーとしては、高分子凝集剤として市販されているアニオン系、カチオン系または非イオン系の様々な水溶性ポリマーを用いることができ、その一例には、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムの共重合物が含まれる。
【0041】
実施形態に係る炭素繊維束集合体においては、構成要素である自己組織化炭素繊維束の束サイズが小さい方が、嵩密度が小さくなる傾向がある。
【0042】
バンドル化液の量は、短尺炭素繊維100重量部に対し、例えば20~80重量部であり、好ましくは60重量部以下、より好ましくは50重量部以下である。他の条件が同じであれば、綿状炭素繊維に対するバンドル化液の重量比が小さい方が、形成される自己組織化炭素繊維束の束サイズが小さくなり、ひいては、その集合体の嵩密度が小さくなる傾向がある。
【0043】
バンドル化液には、有機バインダーが分散質または溶質として添加され得る。水を主成分とするバンドル化液に有機バインダーを分散させるときには、分散助剤として有機溶媒を用いてもよい。
【0044】
有機バインダーの量が十分であるとき、形成されるSACFB間の束サイズ分布が狭くなる傾向がある。これは、10K未満という比較的小さな束サイズを持つSACFBの形成が促進されることによる。
【0045】
バンドル化液に添加する有機バインダーの量を設定するときは、原料のバージン炭素繊維束が含有するサイジング剤の量についても考慮することが望ましい。なぜならば、このサイジング剤は有機バインダーとしての能力を保持したまま、最終産物であるSACFBに残留するからである。
【0046】
綿状炭素繊維とバンドル化液を混ぜ合わせる方法に限定はない。短時間で効率的に混合するためには撹拌することが好ましい。
撹拌には、ヘンシェルミキサーとして知られる粉体用の撹拌混合機を好ましく使用することができる。撹拌混合機はアジテーターブレード(撹拌翼)のみを備えるタイプであってもよいし、チョッパーが付属したものであってもよい。
例えば、混合槽の容量が25Lの撹拌混合機を用いる場合、アジテーターブレードの回転速度を100~500rpmの範囲内、チョッパーの回転速度を500~5000rpmの範囲内で調整することが好ましい。
【0047】
綿状炭素繊維とバンドル化液を一様に混合するために、好適例においては、バンドル化液が綿状炭素繊維の入った容器内に噴霧により添加される。好ましくは、容器内の綿状炭素繊維をかき混ぜながら、バンドル化液の噴霧を行う。
容器内へのバンドル化液の添加とその後の撹拌は、複数回繰り返され得る。その場合、バンドル化液の組成は毎回同じであってもよいし、あるいは、ある回では他の回とは異なる組成のバンドル化液が容器内に添加されてもよい。
【0048】
一例では、綿状炭素繊維をバンドル化液と撹拌混合することで生じた炭素繊維束を、バンドル化液中の液体成分を除去する前に転動造粒機で処理することによって改質することができる。
【0049】
本発明の一実施形態において、本発明の炭素繊維束集合体を構成するSACFBの製造方法は、綿状炭素繊維を容器に入れた後に前記容器内にバンドル化液を噴霧することと、前記噴霧の途中および/または前記噴霧の後に前記容器の内容物を撹拌することと、前記撹拌の後に前記容器の内容物を乾燥させることとを含み、前記乾燥は前記容器の内容物を前記容器から取り出した後に行われてもよい。
【0050】
上記の綿状炭素繊維およびバンドル化液の少なくとも一方が有機バインダーを含有してもよい。
噴霧および撹拌はN回繰り返されてもよい。ただし、Nは2以上の整数であり、5以上であってもよく、通常20以下、または10以下である。この場合において、N回の噴霧のうちn回で、前記容器内に添加される前記バンドル化液が有機バインダーを含有してもよい。ただし、nは0以上N以下の整数である。
【0051】
前記綿状炭素繊維は有機バインダーを含有してもよく、該有機バインダーとしては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。
【0052】
前記綿状炭素繊維に含まれる全ての炭素繊維の繊維長は60mm以下、40mm以下、30mm以下または20mm以下であってもよい。また、前記綿状炭素繊維に含まれる炭素繊維の少なくとも一部が5mm以上の繊維長を有し、前綿状記炭素繊維が繊維長5mm未満の炭素繊維を含有しないか、5wt%未満の含有量で含有してもよい。
好ましくは、前記綿状炭素繊維に含まれる炭素繊維の少なくとも一部が10mm以上の繊維長を有し、この場合において、前記綿状炭素繊維が繊維長10mm未満の炭素繊維を含有しないか、5wt%未満の含有量で含有してもよい。
前記綿状炭素繊維に含まれる炭素繊維の一部と他の一部が互いに異なる繊維長を有してもよい。
【0053】
2.2.リサイクル炭素繊維を用いる態様
前記2.1.に述べたSACFBの製造方法において、原料のバージン炭素繊維の全部または一部を、リサイクル炭素繊維に置き換えることができる。
【0054】
リサイクル炭素繊維の好適例は、SMCから成形された製品から生じるCFRPの廃材またはSMCの端材から回収される炭素繊維である。例えば、上記の廃材または端材を好ましくは600℃以上の温度で乾留し、更に、酸化性雰囲気下で例えば550℃以上、好ましくは600℃以上に加熱することによって、マトリックス樹脂を完全に熱分解させる。これにより、60mm以下の繊維長を有する綿状のリサイクル炭素繊維が残る。
マトリックス樹脂を熱分解させる方法で回収されるリサイクル炭素繊維は熱劣化しており、バージン炭素繊維と比べると強度が低いが、FRP用の補強材として使用するには十分な強度を有する。
【0055】
CFRPの廃材から炭素繊維を回収する他の方法として、亜臨界流体または超臨界流体を用いてマトリックス樹脂を分解させる方法が挙げられる。綿状のリサイクル炭素繊維が得られるように、マトリックス樹脂は完全に除去される。この方法で除去し切れない樹脂残渣は、酸化性雰囲気下で熱処理することにより除去してもよい。この亜臨界流体または超臨界流体を用いる方法で得られるリサイクル炭素繊維も、熱劣化しているために、バージン炭素繊維と比べると強度が低い。
CFRPの廃材から炭素繊維を回収する更に他の方法として、マイクロ波加熱によってマトリックス樹脂を分解させる方法も使用可能である。
【0056】
SMCの端材から炭素繊維を回収する他の方法として、亜臨界流体または超臨界流体であってもよい溶剤を用いて未硬化のマトリックス樹脂を洗い出す方法が挙げられる。この方法によれば、バージン炭素繊維と同等の強度を有する、熱劣化していないリサイクル炭素繊維を得ることができる。
【0057】
SMCから成形されたCFRPまたはSMCから回収されるリサイクル炭素繊維は、60mm以下の繊維長を有する短繊維であり、SACFBの製造に用いるにあたり更なる切断を要さない。このリサイクル炭素繊維をサイジング剤が除去された状態のまま原料として用いるときは(ii)解束工程も不要であり、前述の(iii)バンドル化工程のみを行えばよい。バンドル化液には有機バインダーを添加することが必要である。
【0058】
リサイクル炭素繊維はSMCに由来するものに限定されない。UDプリプレグ、ファブリックプリプレグおよびトウプリプレグを含む各種プリプレグを用いて成形されたCFRP製品から回収されるリサイクル炭素繊維や、RTM法、VaRTM法、フィラメントワインディング法、およびプルトルージョン法を含む、プリプレグを使用しない方法で製造されたCFRP製品から回収されるリサイクル炭素繊維も、回収プロセス前、回収プロセス中または回収プロセス後に長さが60mm以下となるよう切断することにより、自己組織化炭素繊維束の製造に用いることができる。
【0059】
リサイクル炭素繊維を回収プロセス前に切断する方法の一例では、マトリックス樹脂を除去する前のCFRP製品が、例えば一軸破砕機、二軸破砕機および四軸破砕機のような任意の破砕機を用いて破砕され、その後でマトリックスの除去が行われる。CFRP製品に含まれる炭素繊維は、破砕と同時に切断される。破砕により生じる破砕片の寸法がどの方向についても60mm以下であれば、その破砕片に含まれる炭素繊維は略全てが長さ60mm以下に切断されている。また、破砕片のうち、寸法がどの方向についても5mm未満のものを篩別により除去してから、マトリックスを除去するようにすれば、長さ5mm未満の炭素繊維の含有量が低減されたリサイクル炭素繊維を得ることができる。
【0060】
3.炭素繊維束集合体
実施形態に係る炭素繊維束集合体は、複数の孤立したSACFBの集まりである。この材料は、シートプリプレグ用の補強材として好ましく用いることができる。
実施形態に係る炭素繊維束集合体の嵩密度は好ましくは0.13g/cm3以下、より好ましくは0.10g/cm3以下、特に好ましくは0.06g/cm3以下である。嵩密度が上記の好ましい範囲内にあるとき、この材料を用いたシートプリプレグを硬化させて得られる炭素繊維強化プラスチックは比較的良好な力学特性を示す。
【0061】
実施形態に係る炭素繊維束集合体の嵩密度は、有利には0.01g/cm3以上、より有利には0.03g/cm3以上、更に有利には0.05g/cm3以上である。理由は、該炭素繊維束集合体で形成した炭素繊維マットをマトリックス樹脂で含浸させることがより容易となるからである。
【0062】
実施形態に係る炭素繊維束集合体の嵩密度は、次のようにして求める。
ポリプロピレン製で目盛り付きの2Lディスポーザブルカップ(開口直径15.5cm、深さ18.5cm)の中に、炭素繊維束集合体を落下させる。ディスポーザブルカップの目盛りから読み取られる体積が2Lに達したところで、重量を測定する。測定された炭素繊維束集合体の重量(単位:g)を体積2000(単位:cm3)で除した値を、嵩密度(単位:g/cm3)とする。測定は5回行い、その平均値を採用する。
【0063】
4.シートプリプレグ
実施形態に係る炭素繊維束集合体を熱硬化性樹脂組成物で含浸させることによって、シートプリプレグを製造することができる。
シートプリプレグの繊維含有率は、20wt%以上30wt%未満、30wt%以上40wt%未満、40wt%以上50wt%未満、50wt%以上60wt%未満、60wt%以上70wt%未満、70wt%以上80wt%未満、または、80wt%以上90wt%未満であり得る。
【0064】
繊維含有率が高い程、シートプリプレグの硬化により得られるCFRPの力学特性が良好となる。繊維含有率が低い程、加圧成形時に流動し易くなるので、シートプリプレグから成形されるCFRP製品の形状設計の自由度が高くなる。
【0065】
熱硬化性樹脂組成物のベース樹脂の例は、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂およびフェノール樹脂を含むが、これらに限定されない。熱硬化性樹脂組成物に配合される熱硬化性樹脂は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0066】
熱硬化性樹脂組成物には、通常、ベース樹脂に加えて硬化剤が配合される。その他、熱硬化性樹脂組成物には必要に応じて重合禁止剤、増粘剤、反応性希釈剤、低収縮剤、酸化防止剤、内部離型剤、着色剤、改質剤(例えば、ゴム、エラストマーまたは熱可塑性樹脂)、難燃剤、抗菌剤などが配合され得る。
【0067】
熱硬化性樹脂組成物がペーストである場合には、無溶剤であること、言い換えればワニスではないことが好ましい。ワニスであると、炭素繊維束集合体を含浸させた後で、溶剤を蒸発させて除去する工程が必要となる。反応性希釈剤は、ここでいう溶剤には含まれない。
【0068】
ワニスではない熱硬化性樹脂組成物ペーストの好適例のひとつは、ビニルエステル樹脂ベースの組成物であり、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エチレン性不飽和モノマー、増粘剤、重合開始剤および重合禁止剤が配合される。
【0069】
ビニルエステル樹脂の好適例は、ビスフェノールA型エポキシ系ビニルエステル樹脂とノボラックビニルエステル樹脂である。これらはいずれか一方が配合されてもよいし、両方が配合されてもよい。配合されるビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の重量比は、1:9~9:1、1:7~7:1、1:4~4:1、1:2~2:1などであり得る。
【0070】
エチレン性不飽和モノマーは反応性希釈剤として配合されるものである。少なくとも一種の単官能エチレン性不飽和モノマー、少なくとも一種の多官能エチレン性不飽和モノマー、または、これらの両方が配合され得る。
単官能エチレン性不飽和モノマーの好適例はスチレンである。他には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メチルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート、フェニルフェノキシエチルアクリレート、フェニルベンジル(メタ)アクリレート、フェニルメタクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート等の単官能(メタ)アクリレートが例示されるが、これらに限定されない。
多官能エチレン性不飽和モノマーの例には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレートが含まれるが、これらに限定されない。
【0071】
増粘剤はポリイソシアネートである。ポリイソシアネートとは、分子当たり2個以上のイソシアネート基(-NCO)を有する有機化合物である。ポリイソシアネートの好適例は、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびヘキサメチレンジイソシアネートのようなジイソシアネートである。
【0072】
重合開始剤は、ビニルエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂の硬化剤として通常使用されている有機過酸化物を含む。有機過酸化物は、例えば、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、アルキルパーエステル、パーカーボネートなどを含む。
【0073】
重合禁止剤は、一般に重合禁止剤として知られている各種の化合物のなかから適宜選択することができる。好適例としては、カテコール、ハイドロキノン、ベンゾキノンなどが挙げられる。
【0074】
ワニスではない熱硬化性樹脂組成物ペーストの別の好適例は、エポキシ樹脂ベースの組成物であり、エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤が配合され、必要に応じて更に増粘剤が配合される。
【0075】
エポキシ樹脂の種類に限定はなく、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、オキサゾリドン環構造を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂を含む、様々な種類のエポキシ樹脂を使用することができる。
【0076】
好適例では、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂のようなビスフェノール型エポキシ樹脂が配合される。市販のビスフェノール型液状エポキシ樹脂の中には、25℃において5Pa・s以下の低い粘度を有する品種がある。配合されるエポキシ樹脂全体の50wt%以上、60wt%以上、65wt%以上、70wt%または75wt%以上がビスフェノール型エポキシ樹脂であってもよい。
【0077】
エポキシ硬化剤としては、潜在性硬化剤を使用することが好ましい。潜在性硬化剤は、常温ではエポキシ樹脂に対する溶解性が低い固体だが、加熱されると融解またはエポキシ樹脂に溶解して硬化剤としての機能を発現させる。
各種のイミダゾール類、ジシアンジアミドおよび三フッ化ホウ素-アミン錯体は、潜在性硬化剤の典型例である。
イミダゾール類とはイミダゾール環を有する化合物であり、イミダゾールの水素原子が置換基で置換された置換イミダゾールの他、イミダゾリウム塩、イミダゾール錯体などもイミダゾール類に含まれる。
【0078】
潜在性硬化剤として働く置換イミダゾールの好適例には、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-パラトルイル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-パラトルイル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-メタトルイル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-メタトルイル-4
,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールおよび1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾールのような、分子中にヘテロ芳香族環であってもよい芳香族環を有する置換イミダゾールが含まれる。
【0079】
1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイトおよび1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイトのようなイミダゾリウム塩も、イミダゾール系潜在性硬化剤の好適例である。
2-フェニルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールおよび2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールのような各種の置換イミダゾールのイソシアヌル酸付加物、とりわけ、2,4-ジアミノ-6-(2’-メチルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン、1-(4,6-ジアミノ-s-トリアジン-2-イル)エチル-2-ウンデシルイミダゾールおよび2,4-ジアミノ-6-[2-(2-エチル-4-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-s-トリアジンのようなトリアジン環を有する置換イミダゾールのイソシアヌル酸付加物は、特に好ましいイミダゾール系潜在性硬化剤である。
アミンアダクトも、潜在性硬化剤の好適例のひとつである。アミンアダクトは、イミダゾールおよび/または3級アミンをエポキシ樹脂および/またはイソシアネートと反応させて高分子量化したもので、エポキシ樹脂への溶解性が比較的低い。
【0080】
潜在性硬化剤は、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。潜在性硬化剤としてジシアンジアミドを用いるときには、4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)および2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体を硬化促進剤として好ましく用いることができる。
潜在性硬化剤に加えて、あるいは潜在性硬化剤に代えて、カルボン酸無水物、芳香族アミンおよびフェノール樹脂のような、潜在性硬化剤以外のエポキシ硬化剤も使用可能である。
【0081】
カルボン酸無水物の中でも、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびメチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸)は、いずれも25℃における粘度が0.5Pa・s未満であることから、組成物を低粘度化させる目的で使用してもよい。
カルボン酸無水物は、グリシジルアミンであってもよい3級アミンの触媒作用によって、低温でエポキシ化合物と反応し、結合を形成することが知られている。従って、液状のエポキシ化合物100重量部に対し20重量部以下のカルボン酸無水物を3級アミンと共に配合すると、増粘剤として作用する。
【0082】
アミン化合物も、エポキシ基当たり活性水素が0.1~0.5当量となる程度の量を配合すると、増粘剤として作用する。増粘剤として好ましく使用し得るアミン化合物の例は、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンおよび1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを含むが、これらに限定されない。
【0083】
ジイソシアネートであってもよいポリイソシアネート、特に、ビス(4-イソシアナトフェニル)メタンやトルエンジイソシアネートのような、分子構造中に芳香族環を有するジイソシアネートは、増粘剤の好適例である。
ポリイソシアネートは、好ましくはポリオールと共に配合されることで、より高い増粘作用を示す。ポリオールの例は、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、イソソルビド、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオールおよび1,6-ヘキサンジオールを含むが、これらに限定されない。
【0084】
熱硬化性樹脂組成物に配合し得る難燃剤について説明すると、次の通りである。
好ましい難燃剤としては、リン含有難燃剤が挙げられる。
リン含有難燃剤の例として、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、芳香族ポリホスフェートのような非ハロゲンリン酸エステルが挙げられる。
【0085】
リン含有難燃剤の他の例として、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3-ジブロモプロピル)2,3-ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(クロロプロピル)オクチルホスフェート、ハロゲン化アルキルポリホスフェート、ハロゲン化アルキルポリホスフォネートのようなハロゲン化リン酸エステルが挙げられる。
【0086】
リン含有難燃剤の更に他の例としてホスフィン酸金属塩が挙げられる。ここでいうホスフィン酸金属塩には、有機基を有さないホスフィン酸の金属塩だけでなく、ジフェニルホスフィン酸、モノフェニルホスフィン酸、ジアルキルホスフィン酸、モノアルキルホスフィン酸、アルキルフェニルホスフィン酸のような有機ホスフィン酸の金属塩が含まれる他、メタン(ジメチルホスフィン酸)、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)のようなジホスフィン酸の金属塩が含まれる。
ジアルキルホスフィン酸の例として、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル-n-プロピルホスフィン酸が挙げられる。
モノアルキルホスフィン酸の例として、メチルホスフィン酸、エチルホスフィン酸、n-プロピルホスフィン酸が挙げられる。
アルキルフェニルホスフィン酸の例として、メチルフェニルホスフィン酸が挙げられる。
ホスフィン酸金属塩は、ホスフィン酸アルミニウム塩、ホスフィン酸亜鉛塩、ホスフィン酸カルシウム塩、ホスフィン酸マグネシウム塩などであり得るが、限定されるものではない。
リン含有難燃剤の更に他の例として、赤リン、ポリリン酸アンモン、リン酸メラミン、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素などが挙げられる。
【0087】
熱硬化性樹脂組成物には、リン含有難燃剤に加えて、リンを含有しない難燃剤を配合することができる。リンを含有しない難燃剤として、メラミンシアヌレートなどのメラミン化合物、トリアジン化合物、グアニジン化合物、リン酸アンモン、炭酸アンモンといった窒素系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムのような水和金属、フェロセンやアセチルアセトン金属錯体のような有機金属塩系難燃剤が例示される。
好適例では、難燃剤を含めた、熱硬化性樹脂組成物に配合される全ての材料に、ハロゲンを含有しないものが選択される。それによってハロゲンフリーの難燃性プリプレグが得られる。
【0088】
好適例では、次の第一ステップ~第四ステップを経てシートプリプレグを製造することができる。
【0089】
第一ステップ:第一保護フィルムと第二保護フィルムのそれぞれの表面に熱硬化性樹脂組成物からなるペーストを塗布するステップ。
第二ステップ:第一保護フィルムの前記ペーストが塗布された表面の上に、実施形態に係る炭素繊維束集合体を散布して炭素繊維マットを形成するステップ。
第三ステップ:第二保護フィルムを、前記炭素繊維マットを間に挟んで、前記ペーストが塗布された面同士が互いに向き合うように第一保護フィルムに貼り合わせて積層体を形成するステップ。
第四ステップ:前記積層体を加圧することによって前記炭素繊維マットを前記ペーストで含浸させ、シートプリプレグを得るステップ。
【0090】
第一保護フィルムと第二保護フィルムは合成樹脂フィルムであり、その材料は、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル樹脂、ポリアミド等から適宜選択することができる。第一保護フィルムと第二保護フィルムは多層フィルムであってもよい。第一保護フィルムと第二保護フィルムの仕様は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0091】
第二ステップでは、第一保護フィルムのペーストが塗布された表面上に、実施形態に係る炭素繊維束集合体を散布することによって、炭素繊維マットを形成する。
【0092】
第一ステップで第一保護フィルム及び第二保護フィルムに塗布するペーストの量と、第二ステップで第一保護フィルム上に形成する炭素繊維マットの目付は、製造すべきシートプリプレグの目付と繊維含有率を考慮して調整する。
【0093】
ペーストに増粘剤が配合されているときは、第四ステップの後で、ペーストの粘度が十分に高くなるまでプリプレグを熟成させる。
【0094】
上記の手順において、第一保護フィルムと第二保護フィルムはロールから巻き出されるキャリアフィルムであってもよい。
好適例では、
図4に概念図を示すシートプリプレグ製造装置を用いて、長尺のシートプリプレグを連続的に製造することができる。
図4に示すシートプリプレグ製造装置は、ロールから巻き出される第一保護フィルムに熱硬化性樹脂組成物からなるペーストを塗布するセクション、実施形態に係る炭素繊維束集合体を散布することによって第一保護フィルム上に炭素繊維マットを形成するセクション、ロールから巻き出される第二保護フィルムに熱硬化性樹脂組成物からなるペーストを塗布するセクション、第一保護フィルムに第二保護フィルムを貼り合わせて積層体とするセクション、積層体を加圧するセクション、積層体を巻き取るセクションを有している。
【0095】
実施形態に係る炭素繊維束集合体を用いたシートプリプレグの目付は、用途に応じて適宜設計することができる。該目付は、例えば、300g/m2以上500g/m2未満、500g/m2以上1000g/m2未満、1000g/m2以上2000g/m2未満、2000g/m2以上4000g/m2未満、4000g/m2以上6000g/m2未満、6000g/m2以上8000g/m2未満、または、8000g/m2以上10000g/m2未満であり得る。
シートプリプレグの厚さは、例えば0.5mm以上1.5mm未満、1.5mm以上3mm未満または3mm以上5mm以下に設計し得るが、限定されるものではない。
【0096】
実施形態に係る炭素繊維束集合体を用いたシートプリプレグからCFRP製品を製造するときの成形方法としては、プレス成形法を好ましく用いることができるが、限定するものではない。例えばオートクレーブ成形法のような、プレス成形法以外の成形方法を用いることもできる。
【0097】
5.実験結果
以下に記すのは、本発明者等が行った実験の結果である。
【0098】
(嵩密度)
作製した炭素繊維束集合体の嵩密度は、次のようにして測定した。
ポリプロピレン製で目盛り付きの2Lディスポーザブルカップ(アズワン社製V2000C;開口直径15.5cm、深さ18.5cm)の中に、炭素繊維束集合体を落下させた。このとき、SACFB以外の異物(具体的には、炭素繊維が、孤立した束を形成しないで、互いに絡まった状態となった凝集物)があった場合には取り除いた。ディスポーザブルカップの目盛りから読み取られる体積が2Lに達したところで、重量を測定した。測定された炭素繊維束集合体の重量(単位:g)を体積2000(単位:cm3)で除した値を、嵩密度(単位:g/cm3)とした。測定は5回行い、その平均値を採用した。
【0099】
(SACFBの平均重量)
作製した炭素繊維束集合体を構成するSACFBの平均重量は、次のようにして得た。
作製した炭素繊維束集合体を、ポリプロピレン製の500mLディスポーザブルカップに入れた後、該ディスポーザブルカップを傾けて、炭素繊維束集合体に含まれるSACFBをテーブル上に敷いた白い紙の上に50~100本取り出した。
次いで、紙の上のSACFBの全てについて重量を1本ずつ測定した。全てのSACFBの重量を測定したら、新たに50~100本のSACFBを前記ディスポーザブルカップから同じ要領で白い紙の上に取出し、その全てついて重量を1本ずつ測定した。
重量測定したSACFBの本数が300本に達したところで測定を終了した。このとき、重量0.3mg以下のSACFBは本数としてカウントしなかった。
このようにして測定した300本のSACFBの重量を平均した値を平均重量として採用した。
【0100】
(曲げ特性)
成形したCFRP板から幅25mm、長さ110mmから5枚の試験片を切り出した。各試験片に対し、万能試験機(インストロン社製、インストロン4465)を用いて、クロスヘッドスピード;5mm/分、スパン間距離:40mm、ノーズR5、サポートR3.2という条件で3点曲げ試験を行い、曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。5枚の試験片で得た測定値から平均値を求めた。
【0101】
(リサイクル炭素繊維)
原料として、綿状のリサイクル炭素繊維を用いた。このリサイクル炭素繊維は、束サイズ15Kで繊維長25mmのチョップド炭素繊維束を用いたシートモールディングコンパウンドを、マトリックス樹脂を焼き飛ばすために、窒素ガス雰囲気下700℃で0.5時間加熱した後、更に、酸素ガス含有雰囲気下600℃で1時間熱処理することによって得た。
【0102】
(サイジング剤および添加剤)
サイジング剤および添加剤として表1に記すものを用いた。
【0103】
【0104】
(実験1)
リサイクル炭素繊維600gに、バンドル化液を混合した。混合比は、リサイクル炭素繊維100重量部に対し、バンドル化液45重量部とした。バンドル化液としては、サイジング剤1を混合した水を用いた。バンドル化液におけるサイジング剤1の配合量を調節することにより、リサイクル炭素繊維100重量部に対するサイジング剤1の固形分の割合を6重量部とした。
【0105】
混合するときは、まず、撹拌混合機((株)ダルトン製SPグラニュレーター SPG-25T)の容量25Lの撹拌槽にリサイクル炭素繊維に入れ、手で軽くかきまぜながら、バンドル化液の全量を撹拌槽内に噴霧した。次いで、撹拌混合機を起動し、アジテーター回転数118rpm、チョッパー回転数1500rpmで1分間の攪拌の後、更に、アジテーター回転数470rpm、チョッパー回転数3000rpmで5分の攪拌を行った。
次いで、撹拌槽の内容物を、縦型乾燥機を用いて120℃で乾燥させることにより、炭素繊維束集合体を得た。得られた炭素繊維束集合体の嵩密度は0.053g/cm3であった。
【0106】
ポリエチレンフィルム3枚(ポリエチレンフィルムA~C)を準備し、そのうち2枚(ポリエチレンフィルムAおよびB)のそれぞれの片面に、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、スチレン、ポリイソシアネートおよびラジカル重合開始剤が配合された熱硬化性樹脂組成物ペーストを塗布した。
【0107】
次いで、ペーストを塗布していない残り1枚のポリエチレンフィルム(ポリエチレンフィルムC)の上に、上記作製した炭素繊維束集合体を散布して炭素繊維マットを形成した。
次いで、炭素繊維マットの上に、片面にペーストを塗布したポリエチレンフィルムの1枚(ポリエチレンフィルムA)を、ペーストを塗布した側を下に向けて被せた。更に、ペーストを塗布していないポリエチレンフィルムCが上となり、ポリエチレンフィルムAが下となるように、上下を反転させ、続いて、片面にペーストを塗布したもう1枚のポリエチレンフィルムBをポリエチレンフィルムCと入れ替えた。そうすることで、炭素繊維マットを間に挟んで、ペーストを塗布した2枚のポリエチレンフィルムAおよびBが、ペーストを塗布した側が向かい合うように貼り合わさった積層体を得た。
【0108】
次いで、ロールを用いてこの積層体を加圧することで、炭素繊維マットにペーストを含浸させた。
その後、23℃で7日間放置して、ペーストを増粘させた。
このようにして、目付2000g/m2、繊維含有率は53wt%のシートプリプレグを得た。
【0109】
作製したシートプリプレグから切り出したプリプレグ片を2枚重ねたもの(重量300g)を金型に入れ、温度140℃、圧力8MPa、加圧時間2分の条件で硬化させることにより、縦横が30cmで厚さが2mmのCFRP板を作製した。
このCFRP板から試験片を切り出して曲げ特性を評価した。結果を表2に示す。
【0110】
(実験2)
炭素繊維束集合体を作製するときに下記の変更を行ったこと以外は実験1と同様にしてCFRP板を作製し、その曲げ特性を評価したところ、表2に示す結果が得られた。
・サイジング剤1に代えてサイジング剤2を用いた。
・リサイクル炭素繊維100重量部に対するバンドル化液の割合を80重量部とした。
・リサイクル炭素繊維100重量部に対する、サイジング剤2の固形分の割合は6重量部とした。
・撹拌混合機の起動後、最初の1分間の撹拌ではアジテーター回転数118rpm、チョッパー回転数3000rpmとし、その後の5分間の撹拌ではアジテーター回転数392rpm、チョッパー回転数3000rpmとした。
得られた炭素繊維束集合体の嵩密度は0.070g/cm3であった。
【0111】
(実験3)
炭素繊維束集合体を作製するときに下記の変更を行ったこと以外は実験1と同様にしてCFRP板を作製し、その曲げ特性を評価したところ、表2に示す結果が得られた。
・サイジング剤1に代えてサイジング剤2を用いた。
・撹拌混合機を起動する前に、リサイクル炭素繊維100重量部に対しバンドル化液60重量部の割合で、撹拌槽内にバンドル化液を噴霧した。
・撹拌混合機の起動後、最初の1分間の撹拌ではアジテーター回転数118rpm、チョッパー回転数1500rpmとし、その後の5分間の撹拌ではアジテーター回転数392rpm、チョッパー回転数3000rpmとした。
・5分間の撹拌の後、撹拌混合機を一旦停止し、撹拌槽内に噴霧器を用いて更に同じバンドル化液を加えた。追加量は、リサイクル炭素繊維100重量部に対しバンドル化液20重量部の割合とした。その後、再び撹拌混合機を起動し、アジテーター回転数392rpm、チョッパー回転数0rpmにて更に3分間の攪拌を行った。
・リサイクル炭素繊維100重量部に対する、サイジング剤2の固形分の割合は6重量部とした。
得られた炭素繊維束集合体の嵩密度は0.080g/cm3であった。
【0112】
(実験4)
炭素繊維束集合体を作製するときに下記の変更を行ったこと以外は実験1と同様にしてCFRP板を作製し、その曲げ特性を評価したところ、表2に示す結果が得られた。
・サイジング剤1に代えてサイジング剤2を用いた。
・バンドル化液には、サイジング剤2に加え、添加剤1を混合した。添加剤1の量は、バンドル化液の0.2wt%とした。
・リサイクル炭素繊維100重量部に対するバンドル化液の割合を60重量部とした。
・リサイクル炭素繊維100重量部に対する、サイジング剤2の固形分の割合を6重量部とした。
得られた炭素繊維束集合体の嵩密度は0.085g/cm3であった。
【0113】
(実験5)
炭素繊維束集合体を作製するときに下記の変更を行ったこと以外は実験1と同様にしてCFRP板を作製し、その曲げ特性を評価したところ、表2に示す結果が得られた。
・バンドル化液には、サイジング剤1に加え、添加剤1および添加剤2を混合した。添加剤1の量はバンドル化液の0.1wt%とし、添加剤2の量はバンドル化液の0.2wt%とした。
・撹拌混合機の起動後は、アジテーター回転数118rpm、チョッパー回転数1500rpmで1分間の攪拌の後、更に、アジテーター回転数470rpm、チョッパー回転数3000rpmで10分の攪拌を行った。
得られた炭素繊維束集合体の嵩密度は0.102g/cm3であった。
【0114】
(実験6)
炭素繊維束集合体を作製するときに下記の変更を行ったこと以外は実験1と同様にしてCFRP板を作製し、その曲げ特性を評価したところ、表2に示す結果が得られた。
・リサイクル炭素繊維100重量部に対するバンドル化液の割合を55重量部とした。
得られた炭素繊維束集合体の嵩密度は0.149g/cm3であった。
【0115】
(実験7)
炭素繊維束集合体を作製するときに下記の変更を行ったこと以外は実験1と同様にしてCFRP板を作製し、その曲げ特性を評価したところ、表2に示す結果が得られた。
・リサイクル炭素繊維100重量部に対するバンドル化液の割合を80重量部とした。
・撹拌混合機の起動後、最初の1分間の撹拌ではアジテーター回転数118rpm、チョッパー回転数1500rpmとし、その後の5分間の撹拌ではアジテーター回転数392rpm、チョッパー回転数1500rpmとした。
得られた炭素繊維束集合体の嵩密度は0.144g/cm3であった。
【0116】
(実験8)
炭素繊維束集合体を作製するときに下記の変更を行ったこと以外は実験3と同様にしてCFRP板を作製し、その曲げ特性を評価したところ、表2に示す結果が得られた。
・撹拌混合機を起動する前に、リサイクル炭素繊維100重量部に対しバンドル化液80重量部の割合で、撹拌槽内にバンドル化液を噴霧した。
・撹拌混合機の起動後、最初の1分間の撹拌ではアジテーター回転数118rpm、チョッパー回転数1500rpmとし、その後の5分間の撹拌ではアジテーター回転数392rpm、チョッパー回転数3000rpmとした。
・5分間の撹拌の後、撹拌混合機を一旦停止し、撹拌槽内に噴霧器を用いて更に同じバンドル化液を加えた。追加量は、リサイクル炭素繊維100重量部に対しバンドル化液20重量部の割合とした。その後、再び撹拌混合機を起動し、アジテーター回転数392rpm、チョッパー回転数0rpmにて更に3分間の攪拌を行った。
得られた炭素繊維束集合体の嵩密度は0.132g/cm3であった。
【0117】
【0118】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、発明の効果が奏される範囲内で様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
【0119】
6.実施形態のまとめ
本発明の実施形態には、以下に記すものが含まれる。
<実施形態I~VIII>
[実施形態I] 複数の孤立した自己組織化炭素繊維束からなり、嵩密度が0.13g/cm3以下である、シートプリプレグ用の補強材。ただし、前記嵩密度は次のようにして求める:ポリプロピレン製で目盛り付きの2Lディスポーザブルカップ(開口直径15.5cm、深さ18.5cm)の中に、前記補強材を落下させる。ディスポーザブルカップの目盛りから読み取られる体積が2Lに達したところで、重量を測定する。測定された前記補強材の重量(単位:g)を体積2000(単位:cm3)で除した値を、嵩密度(単位:g/cm3)とする。測定は5回行い、その平均値を採用する。
[実施形態II] 前記嵩密度が0.01g/cm3以上である、実施形態Iに記載の補強材。
[実施形態III] 前記孤立した自己組織化炭素繊維束が複数の炭素繊維と有機バインダーとからなり、前記複数の炭素繊維の繊維長が60mm以下である、実施形態I又はIIに記載の補強材。
[実施形態IV] 前記複数の炭素繊維の少なくとも一部が5mm以上の繊維長を有する、実施形態I~IIIのいずれかに記載の補強材。
[実施形態V] 前記複数の炭素繊維の少なくとも一部が10mm以上の繊維長を有する、実施形態IVに記載の補強材。
[実施形態VI] 前記シートプリプレグは、前記補強材よりなる炭素繊維マットと熱硬化性樹脂組成物とからなり、前記炭素繊維マットが前記熱硬化性樹脂組成物で含浸されたシートプリプレグである、実施形態I~Vのいずれかに記載の補強材。
[実施形態VII] 実施形態I~Vのいずれかに記載の補強材と熱硬化性樹脂組成物とからなるシートプリプレグ。
[実施形態VIII] 実施形態I~Vのいずれに記載の補強材よりなる炭素繊維マットと熱硬化性樹脂組成物とからなり、前記炭素繊維マットが前記熱硬化性樹脂組成物で含浸されたシートプリプレグ。
[実施形態IX] 実施形態I~Vのいずれかに記載の補強材を熱硬化性樹脂組成物で含浸させることを含む、シートプリプレグの製造方法。
[実施形態X] 実施形態I~Vのいずれかに記載の補強材を用いて炭素繊維マットを形成することと、前記炭素繊維マットを熱硬化性樹脂組成物で含浸させることを含む、シートプリプレグの製造方法。
【0120】
<実施形態1~68>
[実施形態1] 複数の孤立した自己組織化炭素繊維束からなり、嵩密度が0.13g/cm3以下、好ましくは0.10g/cm3以下、より好ましくは0.06g/cm3以下である、炭素繊維束集合体。ただし、前記嵩密度は次のようにして求める:ポリプロピレン製で目盛り付きの2Lディスポーザブルカップ(開口直径15.5cm、深さ18.5cm)の中に、炭素繊維束集合体を落下させる。ディスポーザブルカップの目盛りから読み取られる体積が2Lに達したところで、重量を測定する。測定された炭素繊維束集合体の重量(単位:g)を体積2000(単位:cm3)で除した値を、嵩密度(単位:g/cm3)とする。測定は5回行い、その平均値を採用する。
[実施形態2] 前記嵩密度が0.01g/cm3以上、0.03g/cm3以上または0.05g/cm3以上である、実施形態1に係る炭素繊維束集合体。
[実施形態3] 前記孤立した自己組織化炭素繊維束が複数の炭素繊維と有機バインダーとからなり、前記複数の炭素繊維の繊維長が60mm以下、40mm以下、30mm以下または20mm以下である、実施形態1または2に係る炭素繊維束集合体。
[実施形態4] 前記複数の炭素繊維の少なくとも一部が5mm以上の繊維長を有する、実施形態3に係る炭素繊維束集合体。
[実施形態5] 前記複数の炭素繊維の少なくとも一部が10mm以上の繊維長を有する、実施形態4に係る炭素繊維束集合体。
[実施形態6] 前記複数の炭素繊維が繊維長5mm未満の炭素繊維を含有しないか、または、5wt%未満の含有量で含有する、実施形態3~5のいずれかに係る炭素繊維束集合体。
[実施形態7] 前記複数の炭素繊維が繊維長10mm未満の炭素繊維を含有しないか、または、5wt%未満の含有量で含有する、実施形態5に係る炭素繊維束集合体。
[実施形態8] 前記複数の炭素繊維の一部と他の一部が互いに異なる繊維長を有する、実施形態3~7のいずれかに係る炭素繊維束集合体。
[実施形態9] 前記有機バインダーが、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する、実施形態3~8のいずれかに係る炭素繊維束集合体。
[実施形態10] 前記孤立した自己組織化炭素繊維束における前記有機バインダーの含有量が0.5wt%以上1.5wt%未満、1.5wt%以上3wt%未満、3wt%以上5wt%未満、5wt%以上7wt%未満または7wt%以上10wt%未満である、実施形態3~9のいずれかに係る炭素繊維束集合体。
[実施形態11] 前記複数の孤立した自己組織化炭素繊維束の少なくとも一部が、1.5K以上10K未満の範囲内の束サイズを有する、実施形態1~10のいずれかに係る炭素繊維束集合体。
[実施形態12] 熱劣化していない炭素繊維を含む、実施形態1~11のいずれかに係る炭素繊維束集合体。
[実施形態13] 熱劣化した炭素繊維を含む、実施形態1~12のいずれかに係る炭素繊維束集合体。
[実施形態14] 熱劣化していない炭素繊維を含まない、実施形態1~11のいずれかに係る炭素繊維束集合体。
[実施形態15] シートプリプレグ用の補強材料である、実施形態1~14のいずれかに係る炭素繊維束集合体。
[実施形態16] 実施形態1~15のいずれかに係る炭素繊維束集合体と熱硬化性樹脂組成物とからなるシートプリプレグ。
[実施形態17] 実施形態1~15のいずれかに係る炭素繊維束集合体からなる炭素繊維マットと熱硬化性樹脂組成物とからなり、前記炭素繊維マットが前記熱硬化性樹脂組成物で含浸された、シートプリプレグ。
[実施形態18] ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂およびフェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂が前記熱硬化性樹脂組成物に配合された、実施形態16または17に係るシートプリプレグ。
[実施形態19] 難燃剤が前記熱硬化性樹脂組成物に配合された、実施形態16~18のいずれかに係るシートプリプレグ。
[実施形態20] 実施形態16~19のいずれかに係るシートプリプレグを硬化させることを含む、炭素繊維強化プラスチック製品の製造方法。
[実施形態21] 実施形態1~15のいずれかに係る炭素繊維束集合体を熱硬化性樹脂組成物で含浸させることを含む、シートプリプレグの製造方法。
[実施形態22] 実施形態1~15のいずれかに係る炭素繊維束集合体を用いて炭素繊維マットを形成することと、前記炭素繊維マットを熱硬化性樹脂組成物で含浸させることを含む、シートプリプレグの製造方法。
[実施形態23] 第一保護フィルムと第二保護フィルムのそれぞれの表面に前記熱硬化性樹脂組成物からなるペーストを塗布することと、実施形態1~15のいずれかに係る炭素繊維束集合体を用いて前記第一保護フィルムの前記ペーストが塗布された表面の上に炭素繊維マットを形成することと、前記炭素繊維マットを間に挟んで前記ペーストが塗布された面同士が互いに向き合うように前記第一保護フィルムと前記第二保護フィルムを貼り合わせて積層体を形成することと、前記積層体を加圧して前記炭素繊維マットに前記ペーストを浸み込ませることとを含む、シートプリプレグの製造方法。
[実施形態24] 前記ペーストが無溶剤である、実施形態23に係る製造方法。
[実施形態25] 前記熱硬化性樹脂組成物に増粘剤が配合された、実施形態21~24のいずれかに係る製造方法。
[実施形態26] 前記熱硬化性樹脂組成物に、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エチレン性不飽和モノマー、ポリイソシアネート、重合開始剤および重合禁止剤が配合された、実施形態21~24のいずれかに係る製造方法。
[実施形態27] 前記熱硬化性樹脂組成物に、エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤および増粘剤が配合された、実施形態21~24のいずれかに係る製造方法。
[実施形態28] ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂およびフェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂が前記熱硬化性樹脂組成物に配合された、実施形態21~25のいずれかに係る製造方法。
[実施形態29] 難燃剤が前記熱硬化性樹脂組成物に配合された、実施形態21~28のいずれかに係る製造方法。
[実施形態30] 実施形態21~29のいずれかに係る製造方法で製造されたシートプリプレグ。
[実施形態31] 実施形態30に係るシートプリプレグを硬化させることを含む、炭素繊維強化プラスチック製品の製造方法。
[実施形態32] 実施形態21~29のいずれかに係る製造方法でシートプリプレグを製造することと、前記シートプリプレグを硬化させることとを含む、炭素繊維強化プラスチック製品の製造方法。
[実施形態33] 綿状炭素繊維を容器に入れた後に前記容器内にバンドル化液を噴霧することと、前記噴霧の途中および/または前記噴霧の後に前記容器の内容物を撹拌することと、前記撹拌の後に前記容器の内容物を乾燥させることとを含み、前記乾燥は前記容器の内容物を前記容器から取り出した後に行われてもよい、炭素繊維束集合体の製造方法。
[実施形態34] 前記綿状炭素繊維および前記バンドル化液の少なくとも一方が有機バインダーを含有する、実施形態33に係る製造方法。
[実施形態35] 前記噴霧および撹拌がN回繰り返される、実施形態33に係る製造方法(ただし、Nは2以上の整数である)。
[実施形態36] N回の前記噴霧のうちn回で前記容器内に添加される前記バンドル化液が有機バインダーを含有する、実施形態35に係る製造方法(ただし、nは0以上N以下の整数である)。
[実施形態37] 前記綿状炭素繊維が有機バインダーを含有する、実施形態35または36に係る製造方法。
[実施形態38] 前記有機バインダーが、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する、実施形態34、36および37のいずれかに係る製造方法。
[実施形態39] 前記綿状炭素繊維に含まれる全ての炭素繊維の繊維長が60mm以下、40mm以下、30mm以下または20mm以下である、実施形態33~38のいずれかに係る製造方法。
[実施形態40] 前記綿状炭素繊維に含まれる炭素繊維の少なくとも一部が5mm以上の繊維長を有する、実施形態39に係る製造方法。
[実施形態41] 前記綿状炭素繊維に含まれる炭素繊維の少なくとも一部が10mm以上の繊維長を有する、実施形態39に係る製造方法。
[実施形態42] 前綿状記炭素繊維が繊維長5mm未満の炭素繊維を含有しないか、5wt%未満の含有量で含有する、実施形態39~41のいずれかに係る製造方法。
[実施形態43] 前記綿状炭素繊維が繊維長10mm未満の炭素繊維を含有しないか、5wt%未満の含有量で含有する、実施形態39または41に係る製造方法。
[実施形態44] 前記綿状炭素繊維に含まれる炭素繊維の一部と他の一部が互いに異なる繊維長を有する、実施形態39~43のいずれかに係る製造方法。
[実施形態45] 前記バンドル化液が水を含有する、実施形態33~44のいずれかに係る製造方法。
[実施形態46] 前記撹拌の少なくとも一部に撹拌混合機が用いられる、実施形態33~45のいずれかに係る製造方法。
[実施形態47] 前記綿状炭素繊維が熱劣化していない炭素繊維を含む、実施形態33~46のいずれかに係る製造方法。
[実施形態48] 前記熱劣化していない炭素繊維の少なくとも一部がチョップド炭素繊維束を解束することにより作られる、実施形態47に係る製造方法。
[実施形態49] 前記解束に撹拌混合機を用いる、実施形態48に係る製造方法。
[実施形態50] 前記綿状炭素繊維が熱劣化した炭素繊維を含む、実施形態33~49のいずれかに係る製造方法。
[実施形態51] 前記綿状炭素繊維に含まれる炭素繊維の全てが熱劣化した炭素繊維である、実施形態50のいずれかに係る製造方法。
[実施形態52] 複数の孤立した自己組織化炭素繊維束からなり、嵩密度が0.13g/cm3以下、好ましくは0.10g/cm3以下、より好ましくは0.06g/cm3以下である、シートプリプレグ用の補強材。ただし、前記嵩密度は次のようにして求める:ポリプロピレン製で目盛り付きの2Lディスポーザブルカップ(開口直径15.5cm、深さ18.5cm)の中に、炭素繊維束集合体を落下させる。ディスポーザブルカップの目盛りから読み取られる体積が2Lに達したところで、重量を測定する。測定された炭素繊維束集合体の重量(単位:g)を体積2000(単位:cm3)で除した値を、嵩密度(単位:g/cm3)とする。測定は5回行い、その平均値を採用する。
[実施形態53] 前記シートプリプレグは、炭素繊維マットと熱硬化性樹脂組成物とからなり、前記炭素繊維マットが前記熱硬化性樹脂組成物で含浸されたシートプリプレグである、実施形態52に係る補強材。
[実施形態54] 前記嵩密度が0.01g/cm3以上、0.03g/cm3以上または0.05g/cm3以上である、実施形態52または53に係る補強材。
[実施形態55] 前記孤立した自己組織化炭素繊維束が複数の炭素繊維と有機バインダーとからなり、前記複数の炭素繊維の繊維長が60mm以下、40mm以下、30mm以下または20mm以下である、実施形態52~54のいずれかに係る補強材。
[実施形態56] 前記複数の炭素繊維の少なくとも一部が5mm以上の繊維長を有する、実施形態55に係る補強材。
[実施形態57] 前記複数の炭素繊維の少なくとも一部が10mm以上の繊維長を有する、実施形態56に係る補強材。
[実施形態58] 前記複数の炭素繊維が繊維長5mm未満の炭素繊維を含有しないか、または、5wt%未満の含有量で含有する、実施形態55~57のいずれかに係る補強材。
[実施形態59] 前記複数の炭素繊維が繊維長10mm未満の炭素繊維を含有しないか、または、5wt%未満の含有量で含有する、実施形態57に係る補強材。
[実施形態60] 前記複数の炭素繊維の一部と他の一部が互いに異なる繊維長を有する、実施形態55~59のいずれかに係る補強材。
[実施形態61] 前記有機バインダーが、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する、実施形態55~60のいずれかに係る補強材。
[実施形態62] 前記孤立した自己組織化炭素繊維束における前記有機バインダーの含有量が0.5wt%以上1.5wt%未満、1.5wt%以上3wt%未満、3wt%以上5wt%未満、5wt%以上7wt%未満または7wt%以上10wt%未満である、実施形態55~62のいずれかに係る補強材。
[実施形態63] 前記複数の孤立した自己組織化炭素繊維束の少なくとも一部が、1.5K以上10K未満の範囲内の束サイズを有する、実施形態52~62のいずれかに係る補強材。
[実施形態64] 熱劣化していない炭素繊維を含む、実施形態52~63のいずれかに係る補強材。
[実施形態65] 熱劣化した炭素繊維を含む、実施形態52~64のいずれかに係る補強材。
[実施形態66] 熱劣化していない炭素繊維を含まない、実施形態65に係る補強材。
[実施形態67] 実施形態52~66のいずれかに係る補強材を熱硬化性樹脂組成物で含浸させることを含む、シートプリプレグの製造方法。
[実施形態68] 実施形態52~66のいずれかに係る補強材を用いて炭素繊維マットを形成することと、前記炭素繊維マットを熱硬化性樹脂組成物で含浸させることを含む、シートプリプレグの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の炭素繊維束集合体を用いたシートプリプレグは、自動車、自動二輪車、自転車、船舶、鉄道車両、有人航空機、無人航空機その他の輸送用機器、スポーツ用品、レジャー用品、家電製品、農機具、建材などに用いられる各種のCFRP製品を製造するときに好ましく使用することができる。