IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-銅粉 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008681
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】銅粉
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240112BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240112BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/05
C22C9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110736
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】土橋 礼奈
(72)【発明者】
【氏名】折笠 広典
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA02
4K018BB04
4K018BD04
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】優れた低温焼結性を有する銅粉を提供する。
【解決手段】BET比表面積(m2/g)に対する炭素含有量C(質量%)の比(C/SSA)が0.07以下であり、X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、284eV~285eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A1に対する、288eV~289.2eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A2のピーク面積比(A2/A1)が、0.5以上である銅粉である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積(m2/g)に対する炭素含有量C(質量%)の比(C/SSA)が0.07以下であり、
X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、284eV~285eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A1に対する、288eV~289.2eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A2のピーク面積比(A2/A1)が、0.5以上である銅粉。
【請求項2】
X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、284eV~285eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A1に対する、286eV~288eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A3のピーク面積比(A3/A1)が、0.3以上である請求項1に記載の銅粉。
【請求項3】
前記ピーク面積比(A2/A1)が1.0以下である請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項4】
BET比表面積が0.5m2/g~10.0m2/gである請求項1又は2のいずれか一項に記載の銅粉。
【請求項5】
BET比表面積から算出される平均粒径が0.05μm~2.00μmである請求項1又は2に記載の銅粉。
【請求項6】
BET比表面積(m2/g)に対する酸素含有量O(質量%)の比(O/SSA)が0.15よりも大きい請求項1又は2に記載の銅粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、銅粉に関する技術を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
銅粉を含み、印刷による基材上での回路形成や半導体素子と基材との接合等に用いられる導電性ペーストには、使用に際し、当該ペーストに含まれる銅粉を加熱により焼結させる焼結型のものがある。
【0003】
焼結型の導電性ペーストは、比較的低温の加熱で銅粉が焼結することが求められる。これはすなわち、加熱時の温度が高い場合、その熱が基材や半導体素子に影響を及ぼすおそれがあるからである。また、高温で加熱時及び加熱後の冷却時に基材ないし半導体素子に大きな熱応力が生じ、このことが回路や半導体素子の電気的特性を変化させる懸念もある。
【0004】
なお、特許文献1では、「導電性塗膜の製造において、パラジウム等の高価な触媒を用いることなく、無電解金属めっきを施すことのできる銅粉末含有塗膜用の銅粉末及び銅ペーストと、該銅ペーストを用いて形成される銅粉末含有塗膜への無電解金属めっきにより導電性塗膜を効率よく形成する製造方法を提供すること」を課題とし、「SEM観察による平均粒子径が0.05~2μmの銅粉末であり、該銅粉末のBET比表面積値(SSA)(m2/g)と炭素含量(C)(重量%)が下記式[1]の関係にある銅粉末。C/SSA≦7×10-2・・・・[1]」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2012/157704号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
銅粉の低温焼結については様々な研究開発が進められているものの、より一層低温で焼結することが求められる場合がある。
【0007】
この明細書では、優れた低温焼結性を有する銅粉を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この明細書で開示する銅粉は、BET比表面積(m2/g)に対する炭素含有量C(質量%)の比(C/SSA)が0.07以下であり、X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、284eV~285eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A1に対する、288eV~289.2eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A2のピーク面積比(A2/A1)が、0.5以上であるというものである。
【発明の効果】
【0009】
上記の銅粉は、優れた低温焼結性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】発明例5のXPSによるC1sスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、上述した銅粉の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態の銅粉は、BET比表面積(m2/g)に対する炭素含有量C(質量%)の比(C/SSA)が0.07以下であり、X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、284eV~285eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A1に対する、288eV~289.2eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A2のピーク面積比(A2/A1)が、0.5以上であるというものである。
【0012】
このような銅粉は、詳細については後述するが、BET比表面積(m2/g)に対する炭素含有量C(質量%)の比(C/SSA)が小さいことにより、比較的低温で焼結しやすくなる。また、上記の銅粉では、XPSでのC1sスペクトルにおける所定のピーク面積比(A2/A1)が大きい。ここで、284eV~285eVの範囲にピークトップを有するピークは、炭素原子と結合した炭素に対応し、それよりも高エネルギー側の288eV~289.2eVの範囲にピークトップを有するピークは、酸素と二重結合した炭素に対応する。それらのピーク面積比(A2/A1)が大きい銅粉は、酸素含有率の高い有機物を含むものであると認められる。酸素含有率の高い有機物は、数百度以上に加熱すると熱分解によりCOやCO2が生じやすく、熱分解残渣として固体の炭素が残存しにくい。そのため、酸素含有率の高い有機物で被覆された銅粉は比較的低温で焼結が進みやすいと考えられる。但し、このような理論には限定されない。
【0013】
(BET比表面積)
銅粉のBET比表面積は、0.5m2/g以上であること、10.0m2/g以下であることが好ましい。BET比表面積が10.0m2/gを超える場合は、耐酸化性を担保することが難しく、また吸湿や凝集などにより、ペースト特性に問題が生じることが懸念される。一方、BET比表面積が小さすぎる場合は、銅粉の粒径が大きく、低温で焼結しないことやペーストを印刷した回路や接合面の平滑性が充分ではないことが懸念される。この観点から、銅粉のBET比表面積は、0.5m2/g~10.0m2/gであることが好ましく、さらに2.0m2/g~6.0m2/gであることがより一層好ましい。
【0014】
銅粉のBET比表面積の測定は、JIS Z8830:2013に準拠し、たとえば銅粉を真空中にて70℃の温度で5時間にわたって脱気した後、マイクロトラック・ベル社のBELSORP-mini IIを用いて実施することができる。
【0015】
(平均粒径)
銅粉の平均粒径は、好ましくは0.05μm~2.00μm、より好ましくは0.05μm~1.50μm、特に好ましくは0.1μm~0.5μmである。銅粉の平均粒径が大きすぎると低温で焼結しないことや、ペーストを印刷した回路や接合面の平滑性が充分ではないことが懸念される。また、銅粉の平均粒径が小さすぎると、耐酸化性を担保することが難しく、また吸湿や凝集などにより、ペースト特性に問題が生じることが懸念される。
【0016】
銅粉の平均粒径はBET比表面積の値から次式を用いて計算することができる。
D=6/(ρ×SSA)
ここで、Dは平均粒径、ρは銅の真密度、SSAはBET比表面積である。
【0017】
(C/SSA)
銅粉は、その製造の過程において有機物還元剤や分散剤を用いるために、炭素を含有していることが一般的である。銅粉のBET比表面積(m2/g)を「SSA」とし、銅粉の炭素含有量(質量%)を「C」としたとき、実施形態の銅粉は、それらの比(C/SSA)が0.07以下になる。この比(C/SSA)が0.07よりも大きい場合は、BET比表面積に対して炭素含有量が多すぎることにより、優れた保管性や分散性が得られるも、焼結プロセスにおいて、有機物還元剤や分散剤の熱分解残渣として炭素が銅粉の表面に残存し、銅粉の焼結が進みにくくなる。すなわち、低温焼結性が損なわれる。このことから、上記の比は0.07以下、より好ましくは0.05以下である。
【0018】
この一方で、BET比表面積(m2/g)に対する炭素含有量C(質量%)の比(C/SSA)が小さいと、耐酸化性が損なわれたり、有機溶媒との馴染みが悪く、分散性に優れたペーストとならないおそれがある。したがって、この比(C/SSA)は、0.01以上、さらに0.02以上であることが好ましい。
【0019】
BET比表面積(m2/g)に対する炭素含有量C(質量%)の比(C/SSA)の算出に用いる銅粉の炭素含有量は、高周波誘導加熱炉燃焼-赤外線吸収法により測定する。具体的には、LECO製CS844型等の炭素硫黄分析装置を用いて、助燃剤をLECO製LECOCEL II及びFeチップ等とし、検量線にスチールピンを使用して、銅粉の炭素含有量を測定することができる。
【0020】
(O/SSA)
銅粉に含まれる有機物が、焼結プロセスにおいて熱分解によりCOやCO2として消失するためには、銅粉に酸素が含まれることが必要である。銅粉のBET比表面積(m2/g)を「SSA」とし、銅粉の酸素含有量(質量%)を「O」としたとき、実施形態の銅粉は、それらの比(O/SSA)が0.15よりも大きい。この比(O/SSA)が0.15よりも大きいと、銅粉に含まれる有機物が、焼結プロセスにおいて容易にCOやCO2へと変換され、低温焼結性に優れた銅粉となる。上記の比(O/SSA)は、0.15よりも大きい値であることが好ましく、さらに0.17以上であることが好適である。
【0021】
BET比表面積(m2/g)に対する酸素含有量O(質量%)の比(O/SSA)は、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下である。この比(O/SSA)が大きすぎることは、酸素が有機物由来のものだけではなく、銅粉の表面が著しく酸化していることを意味しており、本銅粉を用いて調整されたペーストの特性が安定しないなどの影響があるためである。
【0022】
BET比表面積(m2/g)に対する酸素含有量O(質量%)の比(O/SSA)を求める際に使用する銅粉の酸素含有量は、不活性ガス融解-赤外線吸収法にて測定する。ここでは、酸素窒素分析装置としてLECO製TC600型を使用し、検量線にスチールピンを用いて、銅粉をニッケルカプセルに入れて測定した。
【0023】
(XPSピーク面積比)
銅粉をX線光電子分光法により分析したとき、その分析結果として、Cの1s軌道のスペクトルであるC1sスペクトルが得られる。このC1sスペクトルにて、284eV~285eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A1に対する、288eV~289.2eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A2の比としてのピーク面積比(A2/A1)は、0.5以上である。
【0024】
ここで、284eV~285eVのピークは、酸素などの極性の高い原子と結合していない炭素の1s軌道の電子に対応する。ここではC-C結合を有する炭素に対応すると同定される。一方、高エネルギー側である288eV~289.2eVのピークは、酸素などの極性の高い原子と結合した炭素の1s軌道の電子に対応し、ここではC-O二重結合を有する炭素に対応すると同定される。銅粉が酸素の多い有機物を含む場合、前者のピーク強度と比較して後者のピーク強度が相対的に高くなり、ピーク面積比(A2/A1)が大きくなる。ピーク面積比(A2/A1)が0.5以上である場合は、銅粉を加熱したときに、有機物の熱分解生成物としてCOやCO2が生じやすく、熱分解残渣としての炭素が銅粉の表面に残存しにくい。このことから銅粉の焼結が比較的低温で進みやすくなると考えられる。このような観点から、ピーク面積比(A2/A1)は0.6以上であることがより好ましい。一方、ピーク面積比(A2/A1)は、通常10を超えることはなく、1.0以下となる場合がある。
【0025】
また、X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、284eV~285eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A1に対する、286eV~288eVの範囲にピークトップを有するピークの面積A3の比であるピーク面積比(A3/A1)は、0.3以上であることが好適である。
なお、288eVの位置にピークトップを有するピークの面積は、面積A2とみなす。
【0026】
286eV~288eVのピークは、酸素と単結合する炭素原子に対応する。ピーク面積比(A3/A1)が0.3以上である銅粉は、その理由は不明であるが低温焼結性に優れた銅粉であった。ピーク面積比(A3/A1)は、好ましくは0.3~0.7であり、より好ましくは0.3~0.5である。
【0027】
上記のピーク面積比(A2/A1)やピーク面積比(A3/A1)を求めるため、X線光電子分光法(XPS)の測定・分析は以下のように行った。
装置:アルバック・ファイ株式会社製PHI 5000 Versa Probe II(中和銃つき)
励起源:単色化AlKα
出力:25.0W
検出面積:100μmΦ
入射角:90度
取り出し角:45度
測定においては、銅粉をペレット状に成型して測定した。
測定後のデータ解析には、データ解析ソフト:アルバック・ファイ株式会社製MultiPakを用いた。データ解析においては、フォークト関数を用いてピーク分割を行い、各ピークの面積を計算した。また、C1sに帰属できるピークのうち、最も結合エネルギーの低いピークの位置を284.8eVと補正した。
【0028】
(低温焼結性)
また、上記の銅粉は、比較的低い温度で焼結することが可能なものである。かかる低温焼結性は、次のようにして確認することができる。約0.3gの銅粉を直径5mmの円柱状の型に充填してから一軸加圧を行い、高さが約3mmの円柱状であって密度が4.7±0.1g/ccである圧粉体ペレットを作製する。その後、熱機械分析装置(TMA)を用いて、水素(H2)を2体積%で含むとともに残部が窒素(N2)である雰囲気の下、上記の圧粉体ペレットを25℃から10℃/minの速度で昇温する。このとき、温度の上昇に伴い、圧粉体ペレットを構成する銅粒子が焼結し、圧粉体の体積は減少して、金属銅の密度(約8.9g/cm3)に近づく。そのような圧粉体ペレットの収縮方向の円柱高さの変化率を線収縮率と称すると、この線収縮率が5%になるときの温度が低い方が、優れた低温焼結性を有する銅粉であると評価することができる。特に、上記の線収縮率が5%になるときの温度が350℃以下であることが好ましい。
【0029】
(製造方法)
以上に述べたような銅粉は、たとえば、化学還元法または不均化法を用いること等により製造することができる。銅粉の製造はそれらに限らないが、化学還元法の詳細については次のとおりである。
【0030】
化学還元法による場合は、たとえば、原料溶液として、銅塩水溶液、アルカリ水溶液及び還元剤水溶液等を用意する工程と、それらの原料溶液を混合、反応させ、銅粒子を含むスラリーを得る工程と、銅粒子を洗浄する工程と、固液分離を行う工程と、乾燥する工程と、必要に応じて粉砕する工程とをこの順序で行う。
より具体的な一例では、硫酸銅水溶液を、適切な反応温度に昇温した後、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水溶液でpHを調整した後、ヒドラジン水溶液を一気に添加して反応を行い、硫酸銅を粒径100nm程度の亜酸化銅粒子へ還元する。亜酸化銅粒子を含むスラリーを反応温度に昇温した後、水酸化ナトリウムとヒドラジンとを含む水溶液を滴下し、さらにその後にヒドラジン水溶液を滴下することで亜酸化銅粒子を銅粒子へ還元させる。反応終了後、得られたスラリーを濾過し、次いで純水及びメタノールで洗浄し、更に乾燥させる。これにより、銅粉が得られる。
【0031】
硫酸銅水溶液に添加するヒドラジン等の還元剤は、2価の銅を1価の銅(亜酸化銅)に還元するためのものである。このとき、還元剤を一気に添加すると、それにより生成される亜酸化銅粒子が上記のように微細になりやすい。比較的微細な亜酸化銅粒子が生成した後は、還元剤を分けて添加することができる。亜酸化銅粒子の生成後、主として、1回目に添加する還元剤は、金属銅の核の生成に利用され、また2回目に添加する還元剤は、その金属銅の核の成長に利用され得る。
【0032】
なお、上記の製造では、銅塩水溶液として、硫酸銅もしくは硝酸塩の水溶液を用いることができる。アルカリ水溶液は具体的には、NaOH、KOHもしくはNH4OH等の水溶液とすることがある。還元剤水溶液の還元剤としては、ヒドラジンの他に水素化ホウ素ナトリウムやグルコースなどの有機物を挙げることができる。
【0033】
必要に応じて、銅粉を製造する過程の途中で、錯化剤や分散剤等の有機物を添加してもよい。たとえば、原料溶液を用意する工程から、銅粒子を含むスラリーを得る工程までの間に、ゼラチンやアンモニア、アラビアゴム等を一回以上添加することができる。
【0034】
(用途)
このようにして製造された銅粉は、たとえば、樹脂材料及び分散媒等と混合してペースト状にし、半導体素子と基板との接合や配線形成に使用され得る導電性ペースト等に用いることに特に適している。
【実施例0035】
次に、上述した銅粉を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0036】
(発明例1)
始めに硫酸銅5水和物2400gとクエン酸30gを8.7Lの純水に溶かした水溶液に、水酸化ナトリウム540gとヒドラジン一水和物144gの混合水溶液6.7Lを一気に混合し、亜酸化銅のナノ粒子(平均粒径が約100nm)を含むスラリーを合成した。次いで、この亜酸化銅粒子が懸濁したスラリーを50℃以上に加熱し、ヒドラジン一水和物29gと水酸化ナトリウム252gの混合水溶液4.5Lを滴下し、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを調整した。その後、さらにヒドラジン一水和物115gの水溶液1.3Lを滴下して、亜酸化銅を金属銅へ還元した。反応終了後、デカンテーションを繰り返し水洗し、乾燥・粉砕を行って、銅粉を得た。
【0037】
(発明例2)
亜酸化銅を含むスラリーを合成するまでは発明例1と同様とした。次いで、ヒドラジン一水和物43gと水酸化ナトリウム252gの混合水溶液4.5Lを滴下してから、pHを調整し、さらにヒドラジン一水和物101gの水溶液1.3Lを滴下して亜酸化銅を金属銅へ還元し、同様に水洗・乾燥・粉砕を行った。
【0038】
(発明例3、4、5)
亜酸化銅を含むスラリーを合成するまでは発明例1と同様とした。次いで、ヒドラジン一水和物72gと水酸化ナトリウム252gの混合水溶液4.5Lを滴下してから、pHを調整し、さらにヒドラジン一水和物72gの水溶液1.3Lを滴下して亜酸化銅を金属銅へ還元し、同様に水洗・乾燥・粉砕を行った。
【0039】
(比較例1)
硫酸銅5水和物2400gとクエン酸30gを8.7Lの純水に溶かした水溶液に、水酸化ナトリウム540gとヒドラジン一水和物144gの混合水溶液6.7Lを滴下し、亜酸化銅を合成した。次いで、亜酸化銅が懸濁したスラリーを70℃に調整し、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。その後、ヒドラジン一水和物14gと水酸化ナトリウムを加えて、亜酸化銅の一部の金属銅への還元を開始した。さらに、クエン酸水溶液を添加してからヒドラジン一水和物を加えて、穏やかに還元を数時間行った。反応終了後、水洗・乾燥・粉砕を行って、銅の粉体を得た。この銅の粉体600gに、表面処理を施すため、酸素濃度が高く分子量の小さなマロン酸0.3gを含有する水溶液2Lを加え、室温下にて350rpmで60分攪拌して粒子表面にマロン酸を吸着させ、その後、洗浄・乾燥を行って銅粉を作製した。
【0040】
(比較例2)
市販の銅粉を入手した。
【0041】
(評価)
上述した発明例1~5並びに比較例1及び2の各銅粉について、先に述べた測定方法等を行い、BET比表面積、粒径、炭素含有量、酸素含有量、低温焼結性並びに、各ピーク面積A1、A3及びA2を確認した。その結果を表1に示す。なお参考までに、発明例5のXPSによるC1sスペクトルを図1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すところから、発明例1~5はいずれも、C/SSAが0.07以下であり、ピーク面積比(A2/A1)が0.5以上であることから、TMAによる5%収縮温度の結果から解かるように、低温焼結性に優れたものであった。その中でもピーク面積比(A3/A1)が0.3よりも大きい発明例2~5はTMAによる5%収縮温度が280℃未満であった。
【0044】
一方、比較例1は、C/SSAが0.07より大きかったので、TMAによる5%収縮温度が高くなった。比較例2は、ピーク面積比(A2/A1)が0.5より小さく、TMAによる5%収縮温度が高かった。
【0045】
よって、発明例1~5の銅粉は、低温焼結性に優れたものであるといえる。
図1