(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086843
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ヒスタミン測定法及びキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/32 20060101AFI20240621BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240621BHJP
C12N 9/06 20060101ALN20240621BHJP
【FI】
C12Q1/32
G01N33/50 B
C12N9/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024062918
(22)【出願日】2024-04-09
(62)【分割の表示】P 2020538392の分割
【原出願日】2019-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2018153916
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一柳 悠子
(57)【要約】
【課題】本発明は、ヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いてヒスタミンを測定する方法における、酵素反応に由来しない誤反応を低減することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、及び/又は(ii-b)アルキル硫酸塩を含む、ヒスタミンを検出するためのキット、又はヒスタミンの酸化を検出可能な電気化学センサーを提供する。また、本発明は、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、又は(ii-b)ラウリル硫酸ナトリウム又はこれらを含むヒスタミンの酸化を検出可能な電気化学センサーを使用する、ヒスタミンを検出するための方法を提供する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒスタミンを検出するためのキットであって、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び
(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
【化1】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を含む、前記キット。
【請求項2】
ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化を検出可能な電気化学センサーであって、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び
(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
【化2】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を含む、前記センサー。
【請求項3】
メディエーターをさらに含む、請求項1に記載のキット又は請求項2に記載のセンサー。
【請求項4】
メディエーターが、1-メトキシPMS(1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート)、PMS(フェナジニウムメチルサルフェート)、PES(フェナジニウムエチルサルフェート)及び1-メトキシPES(1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート)からなる群から選択される、請求項3に記載のキット又はセンサー。
【請求項5】
ヒスタミンがヒスタミンデヒドロゲナーゼにより酸化された際に発色する発色試薬をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のキット又はセンサー。
【請求項6】
発色試薬が、テトラゾリウム塩である、請求項5に記載のキット又はセンサー。
【請求項7】
双性イオンを有し、カルボキシ基を有さない化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、Bis-Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)又は炭酸緩衝液をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のキット又はセンサー。
【請求項8】
緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有する化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液である、請求項7に記載のキット又はセンサー。
【請求項9】
緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有し、かつ2位にヒドロキシ基を有する化合物を含む緩衝液であって、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びMOPSOからなる群から選択される緩衝液である、請求項8に記載のキット又はセンサー。
【請求項10】
ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩を、測定時の終濃度が120mM以下となるように含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のキット又はセンサー。
【請求項11】
アルキル硫酸塩がラウリル硫酸ナトリウムである、請求項1~10のいずれか一項に記載のキット又はセンサー。
【請求項12】
試料採取部、及び反応部を含み、
前記反応部が前記ヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び前記ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のキット又はセンサー。
【請求項13】
ヒスタミンを検出するための方法であって、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
【化3】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、又は置換された若しくは置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を使用する、前記方法。
【請求項14】
ヒスタミンを検出するための方法であって、
ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化を検出可能な電気化学センサーを使用し、前記センサーが、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び
(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
【化4】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、又は置換された若しくは置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を含む、前記方法。
【請求項15】
メディエーターをさらに使用する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
メディエーターが、1-メトキシPMS、PMS、PES及び1-メトキシPESからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ヒスタミンがヒスタミンデヒドロゲナーゼにより酸化された際に発色する発色試薬をさらに使用する、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
発色試薬が、テトラゾリウム塩である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
双性イオンを有し、カルボキシ基を有さない化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、Bis-Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、Tris又は炭酸緩衝液をさらに含む、請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有する化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有し、かつ2位にヒドロキシ基を有する化合物を含む緩衝液であって、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びMOPSOからなる群から選択される緩衝液である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩を、測定時の終濃度120mM以下で使用する、請求項13~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
アルキル硫酸塩がラウリル硫酸ナトリウムである、請求項13~22のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒスタミンを検出するためのキット、ヒスタミンを検出可能なセンサー、及びヒスタミンを検出するための方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスタミンは体内で起こるアレルギー反応の化学伝達物質であるため、ヒスタミンを多量に蓄積した食品を摂取するとアレルギー様中毒が起こる。ヒスタミンによるアレルギー反応の具体的な症状としては、食後数分から数時間で顔面などに発赤が生じ、続いてかゆみ、じん麻疹や湿疹が出、ひどい場合はじん麻疹が全身に広がり気管支炎や血圧降下を起こす場合もある。これに対応して、食品加工工場や食品衛生監視機関、臨床検査室などにおいてヒスタミン量を簡易且つ迅速に測定することができるヒスタミンの測定法が強く求められていた。
【0003】
ヒスタミン量の測定法としては、蛍光分析法、薄層クロマトグラフィーやペーパークロマトグラフィーを用いるクロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法、抗原抗体反応法、及び酵素法等が知られている。本願出願人は、簡便であり、高精度であることから酵素法に着目し、これまでにヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いてヒスタミンを測定する方法を開発している(特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-157597号公報(特許第3926071号)
【特許文献2】特開2004-129597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、ヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いてヒスタミンを測定する方法において、酵素反応に由来しない発色(以下、本明細書では「誤反応」又は「誤発色」とも記載する)が生じることがあり、この発色が特に低濃度域におけるヒスタミンの検出を妨げ得ることを見出した。したがって、本発明は、この誤反応を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、及び/又はアルキル硫酸塩が上記誤反応を低減し得ることを見出し、本願発明を完成させた。したがって、本発明は以下の態様を包含する。
(1)ヒスタミンを検出するためのキットであって、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び
(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
【化1】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を含む、前記キット。
(2)ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化を検出可能な電気化学センサーであって、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び
(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
【化2】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を含む、前記センサー。
(3)メディエーターをさらに含む、(1)に記載のキット又は(2)に記載のセンサー。
(4)メディエーターが、1-メトキシPMS(1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェート)、PMS(フェナジニウムメチルサルフェート)、PES(フェナジニウムエチルサルフェート)及び1-メトキシPES(1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート)からなる群から選択される、(3)に記載のキット又はセンサー。
(5)ヒスタミンがヒスタミンデヒドロゲナーゼにより酸化された際に発色する発色試薬をさらに含む、(1)~(4)のいずれかに記載のキット又はセンサー。
(6)発色試薬が、テトラゾリウム塩である、(5)に記載のキット又はセンサー。
(7)双性イオンを有し、カルボキシ基を有さない化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、Bis-Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)又は炭酸緩衝液をさらに含む、(1)~(6)のいずれかに記載のキット又はセンサー。
(8)緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有する化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液である、(7)に記載のキット又はセンサー。
(9)緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有し、かつ2位にヒドロキシ基を有する化合物を含む緩衝液であって、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びMOPSOからなる群から選択される緩衝液である、(8)に記載のキット又はセンサー。
(10)ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩を、測定時の終濃度が120mM以下となるように含む、(1)~(9)のいずれかに記載のキット又はセンサー。
(11)アルキル硫酸塩がラウリル硫酸ナトリウムである、(1)~(10)のいずれかに記載のキット又はセンサー。
(12)試料採取部、及び反応部を含み、
前記反応部が前記ヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び前記ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩を含む、(1)~(11)のいずれかに記載のキット又はセンサー。
【0007】
(13)ヒスタミンを検出するための方法であって、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
【化3】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、又は置換された若しくは置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を使用する、前記方法。
(14)ヒスタミンを検出するための方法であって、
ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化を検出可能な電気化学センサーを使用し、前記センサーが、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び
(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
【化4】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、又は置換された若しくは置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を含む、前記方法。
(15)メディエーターをさらに使用する、(13)又は(14)に記載の方法。
(16)メディエーターが、1-メトキシPMS、PMS、PES及び1-メトキシPESからなる群から選択される、(15)に記載の方法。
(17)ヒスタミンがヒスタミンデヒドロゲナーゼにより酸化された際に発色する発色試薬をさらに使用する、(13)~(16)のいずれかに記載の方法。
(18)発色試薬が、テトラゾリウム塩である、(17)に記載の方法。
(19)双性イオンを有し、カルボキシ基を有さない化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、Bis-Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、Tris又は炭酸緩衝液をさらに含む、(13)~(18)のいずれかに記載の方法。
(20)緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有する化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液である、(19)に記載の方法。
(21)緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有し、かつ2位にヒドロキシ基を有する化合物を含む緩衝液であって、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びMOPSOからなる群から選択される緩衝液である、(20)に記載の方法。
(22)ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩を、測定時の終濃度120mM以下で使用する、(13)~(21)のいずれかに記載の方法。
(23)アルキル硫酸塩がラウリル硫酸ナトリウムである、(13)~(22)のいずれかに記載の方法。
【0008】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-153916号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いてヒスタミンを測定する方法において、酵素反応に由来しない誤反応を低減することが可能となる。これにより、特に低濃度域においてもヒスタミンを検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1-1】
図1-1は、様々な発色試薬を用いた場合のヒスタミン量の測定結果を示す。AはWST-4を、BはWST-5を、CはWST-8を、DはINTを、EはNBTを、FはXTTを発色試薬として用いた場合の結果を示す。
【
図1-2】
図1-2は、ヒスタミン及びヒスタミンデヒドロゲナーゼを含まない系で、EDTA(2Na)を用いた場合の誤反応の程度を示す。
【
図2】
図2は、様々なバッファーを用いた場合の誤反応の程度を示す。1はEDTA(2Na)、2はBES、3はMOPS、4はTES、5はHEPES、6はTAPSO、7はPOPSO、8はHEPPSO、9はEPPS、10はTricine、11はBicine、12はTAPS、13はCHES、及び14はCAPSを用いた場合の結果を示す。
【
図3】
図3は、様々なバッファーを用いた場合の誤反応の程度を示す。1はEDTA(2Na)、2は炭酸、3はホウ酸、4はTrisを用いた場合の結果を示す。
【
図4】
図4は、HEPPSOバッファー(A)、又はHEPPSOバッファー及びホウ酸を含む溶液(B)における誤反応の程度を示す。
【
図5】
図5は、様々なボロン酸を用いた場合の誤反応の程度を示す。1はボロン酸添加なしの対照、2はフェニルボロン酸、3は4-クロロフェニルボロン酸、4は4-フルオロフェニルボロン酸、5はブチルボロン酸、6は3-[(tert-ブトキシカルボニル)アミノ]フェニルボロン酸を用いた場合の結果を示す。
【
図6】
図6は、0mM~100mMの各濃度のホウ酸を用いた場合の誤反応の程度を示す。
【
図7】
図7は、0%~1%の各濃度のSDSを用いた場合の誤反応の程度を示す。
【
図8】
図8は、25mM又は100mMのホウ酸を用いた場合のヒスタミン濃度の測定結果を示す。
【
図9】
図9は、ホウ酸溶液又はEDTA溶液を用いた場合の、サイクリックボルタンメトリーによって得られたヒスタミン検量線を示す。
【
図10】
図10は、0.1M HEPPSO溶液(pH8.5)又は0.1M HEPPSO/0.1M ホウ酸溶液(pH8.5)を用いた場合の、クロノアンペロメトリーによって得られたヒスタミン検量線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.ヒスタミンを検出するためのキット又はセンサー
一態様において、本発明は、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、及び/又は(ii-b)アルキル硫酸塩を含む、ヒスタミンを検出するためのキットに関する。本明細書におけるヒスタミンには、その塩も含まれる。
【0012】
一実施形態において、本発明のキットは、ヒスタミンを含む可能性がある試料におけるヒスタミンの検出に用いられる。ヒスタミンを含む可能性がある試料の例として、例えば液状及び固形状の食品(例えば魚肉、畜肉、チーズ、醤油、魚醤及びワイン等)、尿及び血漿等の体液、生体物質、及び生体組織等が挙げられる。
【0013】
本明細書において、「ヒスタミンデヒドロゲナーゼ」とは、酸化還元酵素に分類され、以下の反応:
【化5】
によるヒスタミンの酸化を触媒する酵素である。上記反応式において、式(III)の化合物はヒスタミンであり、式(IV)の化合物は4-イミダゾリルアセトアルデヒドである。一実施形態において、メディエーターは、本明細書に記載のメディエーター、例えばPMS(フェナジニウムメチルサルフェート)であり、この場合還元型メディエーターは還元型PMS(PMSH
2)である。
【0014】
測定精度の点から、ヒスタミンデヒドロゲナーゼは、好ましくはヒスタミンに特異的に作用する、すなわち、ヒスタミンに特異的に作用するが他のアミンに対しては全く作用しないか、又は弱く作用することが好ましい。特に、ヒスタミンデヒドロゲナーゼは、ヒスタミンには作用するが、カダベリン及びプトレシンには作用しないことが好ましい。ヒスタミンデヒドロゲナーゼは、細菌由来、例えばリゾビウム(Rhizobium)属に属する細菌に由来するものであることが好ましい。ヒスタミンデヒドロゲナーゼは、天然に由来するものを抽出及び/又は精製して得てもよいし、生物の遺伝子情報に基づき、公知の遺伝子工学的な手法により生産されたものであってもよい。ヒスタミンデヒドロゲナーゼを生産する具体的な方法は当業者には知られており、例えば、特開2001-157597号公報に記載の方法を使用することができる。また、本発明において使用できる具体的なヒスタミンデヒドロゲナーゼとしては、特開2001-157597号公報に記載のヒスタミンデヒドロゲナーゼが挙げられる。一実施形態において、本発明のキットにおいて、ヒスタミンデヒドロゲナーゼの測定時又は保管時、好ましくは測定時の終濃度は、限定するものではないが、1mU/assay~20U/assay、好ましくは、5mU/assay~2U/assay、より好ましくは10mU/assay~0.5U/assay、さらに好ましくは25mU/assay~0.25U/assayであってよい(但し、1Uは37℃pH9.0において1分間に1μmolの4-イミダゾリルアセトアルデヒドを生成する酵素量として定義される)。上記ヒスタミンデヒドロゲナーゼの濃度は例示であり、反応時間に応じて適宜調整することができる。
【0015】
本明細書において「ホウ酸」とは、化学式B(OH)
3で表わされるホウ素のオキソ酸を意味する。また、本明細書において、「ボロン酸」とは、ホウ酸のヒドロキシ基を置換したものであり、以下の式(I)又は(II)で表される化合物を意味し得る:
【化6】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された又は置換されていないC
1~C
10(例えばC
1~C
8、C
1~C
6、又はC
1~C
4)アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10(例えばC
1~C
8、C
1~C
6、又はC
1~C
4)アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)。式(I)の化合物中、R
1~R
5の少なくとも一つはハロゲン基、好ましくはフッ素又は塩素、又は、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基である。本明細書におけるボロン酸の例として、限定するものではないが、ブチルボロン酸、4-クロロフェニルボロン酸、4-フルオロフェニルボロン酸、及び3-[(tert-ブトキシカルボニル)アミノ]フェニルボロン酸が挙げられる。
【0016】
本明細書において、「塩」とは、ある化合物の特定の置換基(例えば、ヒドロキシ基)に基づいて、塩基又は酸を用いて調製された活性化合物の塩をいう。塩は、使用した塩基又は酸により塩基性付加塩と酸付加塩とに分類できる。
【0017】
「塩基性付加塩」としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン塩、エタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩、N,N-ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩、ピリジン塩等の複素環芳香族アミン塩、アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。
【0018】
「酸付加塩」としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩、メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等が挙げられる。
【0019】
本発明のキットにおいて、ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩の濃度は、ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化に由来しない誤反応(本明細書では、単に「誤反応」とも記載する)を低減し得るものであれば限定しない。そのような濃度は、本願明細書の記載を参照して当業者であれば容易に決定することができる。ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩の例として、測定時又は保管時、好ましくは測定時の終濃度として、5mM以上、10mM以上、20mM以上、25mM以上、50mM以上、80mM以上、又は100mM以上であってよく、また1000mM以下、500mM以下、400mM以下、300mM以下、200mM以下、150mM以下、又は120mM以下となるような濃度が挙げられる。例えば、測定時又は保管時の終濃度は、5mM~1000mM、25mM~300mM、又は50mM~200mMであってよい。
【0020】
本発明のキットにおいて、アルキル硫酸塩の種類は誤反応を低減し得るものであれば限定しないが、例えばラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩;及びラウレス硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸トリエタノールアミン等のポリオキシエチレンアルキル硫酸塩からなる群から選択される一種以上であってよい。アルキル硫酸塩は、例えばラウリル硫酸ナトリウムである。
【0021】
本発明のキットにおいて、アルキル硫酸塩の濃度は、誤反応を低減し得るものであれば限定しない。そのような濃度は、本願明細書の記載を参照して当業者であれば容易に決定することができる。アルキル硫酸塩の例として、測定時又は保管時、好ましくは測定時の終濃度として、0.01%以上、0.05%以上、好ましくは0.1%以上、0.5%以上、又は1%以上が挙げられ、また10%以下、5%以下、又は2%以下が挙げられ、例えば約0.05%~2%又は約0.1~1%となるような濃度が挙げられる。
【0022】
誤反応の程度は、上記ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、及び/又はアルキル硫酸塩等の有効成分に加えて、用いるサンプルの種類等の条件によっても影響され得る。有効成分を含まない対照サンプルを試験系に加え、これと比較することによって、誤反応の低減の程度をより正確に評価することができる。誤反応の低減の程度は、例えば実施例で記載した様な目視確認又はIllustrator CS2(Adobe社製)等のソフトウェアを用いて数値化された色調を比較することによって評価することができる。
【0023】
一実施形態において、本発明のキットは、メディエーターをさらに含む。本明細書において、「メディエーター」とは、ヒスタミンデヒドロゲナーゼによって触媒される酸化還元反応を、例えば、補因子として作用することによって、容易にする分子を指す。メディエーターは、好ましくは基質から発色試薬、又は電極への電子の移行を促す物質である。反応系における適切なメディエーターは、当業者であれば容易に選択することができ、メディエーターの例として、限定するものではないが、1-メトキシPMS(1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェート)、PMS(フェナジニウムメチルサルフェート)、PES(フェナジニウムエチルサルフェート)及び1-メトキシPES(1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート)、ベンゾキノン及びその誘導体、フェリシアン化物(カリウム若しくはナトリウム塩)、フェロセン及びその誘導体、ジクロロフェノールインドフェノール、ナフトキノン及びその誘導体、フェナントロリンキノン及びその誘導体、フェナントレンキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、ルテニウム塩、ルテニウム錯体等が挙げられ、好ましくは1-メトキシPMS、PMS、PES及び1-メトキシPESであり、さらに好ましくは1-メトキシPMSである。一実施形態において、本発明のキットは、測定時又は保管時の終濃度として、1μM以上、10μM以上、20μM以上、25μM以上、30μM以上、又は35μM以上、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、45μM以下、例えば1μM~80μM、35μM~45μM又は約42μMのメディエーターを含む。
【0024】
一実施形態において、本発明のキットは、発色試薬をさらに含む。発色試薬は、ヒスタミンデヒドロゲナーゼによってヒスタミンが酸化された際に発色するものであることが好ましく、このような発色を観察することによって、簡便にヒスタミンの存在を検出することができる。発色試薬の例として、テトラゾリウム塩、例えばWST-4(2-ベンゾチアゾリル-3-(4-カルボキシ-2-メトキシフェニル)-5-[4-(2-スルホエチルカルバモイル)フェニル]-2H-テトラゾリウム)、WST-5(2,2'-ジベンゾチアゾリル-5,5'-ビス[4-ジ(2-スルホエチル)カルバモイルフェニル]-3,3'-(3,3'-ジメトキシ-4,4'-ビフェニレン)ジテトラゾリウム、二ナトリウム塩)、WST-8(2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム)、NBT(3,3'-[3,3'-ジメトキシ-(1,1'-ビフェニル)-4,4'-ジイル]-ビス[2-(4-ニトロフェニル)-5-フェニル-2H-テトラゾリウムクロリド])、INT(2-(4-ヨードフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-フェニル-2H-テトラゾリウムクロリド)、及びXTT(2,3-ビス(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルフォフェニル)-5-[(フェニルアミノ)カルボニル]-2H-テトラゾリウム水酸化物)が挙げられる。WST-4、WST-5、WST-8、NBT、INT、及びXTT等のテトラゾリウム塩は、還元されるとホルマザン色素を生じる。この色素を検出することによりヒスタミンを検出することが可能となる。一実施形態において、ヒスタミンが酸化される際の発色試薬の発色反応は、前記メディエーターを介して促進される。一実施形態において、本発明のキットは、測定時又は保管時の終濃度として、0.1mM以上、0.2mM以上、0.3mM以上、0.4mM以上、又は0.5mM以上、10mM以下、5mM以下、又は2mM以下、例えば0.1mM~10mM、0.5mM~2mM又は1.1mMの発色試薬を含む。
【0025】
一実施形態において、本発明のキットは、バッファーをさらに含む。バッファーとしては、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、Bis-Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される双性イオンを有し、カルボキシ基を有さない化合物を含む緩衝液、Tris又は炭酸緩衝液が挙げられる。双性イオンを有し、カルボキシ基を有さない化合物を含む緩衝液は、好ましくはBES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、及びHEPPSOからなる群から選択され、さらに好ましくは、HEPES、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びEPPSからなる群より選択される。一実施形態において、緩衝液は、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群、好ましくはBES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、及びHEPPSOからなる群から選択される双性イオンを有し、スルホ基を有する化合物を含む緩衝液、Tris又は炭酸緩衝液である。一実施形態において、緩衝液は、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びMOPSOからなる群、好ましくはTAPSO、POPSO、及びHEPPSOからなる群から選択される双性イオンを有し、スルホ基を有し、かつ2位にヒドロキシ基を有する化合物を含む緩衝液、Tris又は炭酸緩衝液である。バッファーのpHとしては6.0~11.0程度が好ましく、より好ましくは7.0以上、8.0以上又は8.5以上であってよく、また10.0以下又は9.5以下であってよく、例えば約8.5~9.5であってよい。バッファーの濃度としては、測定時又は保管時、好ましくは測定時の終濃度として、例えば1mM以上、10mM以上、又は50mM以上であってよく、300mM以下、200mM以下、又は150mM以下、例えば1mM~300mM、50mM~150mM、又は約100mMであってよい。
【0026】
一実施形態において、本発明のキットは、ヒスタミンを含む可能性がある試料からヒスタミンを抽出するための抽出液をさらに含む。抽出液は公知のものを用いればよく、例えばトリクロロ酢酸、メタノール、又は中性リン酸緩衝液(特開2001-099803号)、又はキレート剤を含む抽出液(特開2004-129597号)を使用することができ、水又は各種緩衝液を使用することもできる。また、本発明のキットは、さらなる成分(例えば、糖(ラクトース、マルトース、ガラクトース、スクロース、グルコース、トレハロースほか)、澱粉(可溶性澱粉を含む)、デキストリン(分岐デキストリン、シクロデキストリン、高度分岐環状デキストリン(クラスターデキストリン)を含む))及び/又は使用説明書を含んでもよい。
【0027】
一実施形態において、本発明のキットは、試料採取部、及び反応部を含む。試料採取部は、ヒスタミンを含む可能性がある試料を採取可能なものであれば特に限定しないが、例えば、綿棒、スポンジ、多孔性プラスティック、濾紙、不織布、スポイトが挙げられる。試料採取部は、試料採取の際の簡便性の点から、例えば棒状であることが好ましく、特に好ましくは、繊維状やスポンジ状のふき取り部分を備えた棒状の形状、例えば綿棒のような形状である。
【0028】
反応部は、試料採取部によって採取された試料にヒスタミンが存在する場合に、反応が生ずる部位である。一実施形態において、本明細書に記載のヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び前記ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、及び/又はアルキル硫酸塩は、上記緩衝液等の溶液中に含まれる形で、又は凍結乾燥物として含まれる形で、本発明のキット中の試料採取部又は反応部に含まれる。反応部は、好ましくは透明の容器であり、これにより目視により発色の有無を観察し、ヒスタミンを検出することができる。
【0029】
一実施形態において、本発明のキットは、試料採取部、及び反応部に加えて抽出部を含む。抽出部は、試料採取部によって採取された試料にヒスタミンが存在する場合に、このヒスタミンを抽出液中に抽出する部位である。本明細書に記載のヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び前記ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、及び/又はアルキル硫酸塩は、上記緩衝液等の溶液中に含まれる形で、又は凍結乾燥物として含まれる形で、本発明のキット中の抽出部に含まれてもよい。抽出部で抽出されたヒスタミンを含む試料を反応部に移し、反応を行うことができる。
【0030】
本明細書における、ヒスタミンの「検出」には、ヒスタミンの有無の検出に加えて、ヒスタミンの定量も含む。定量は、発色基質を用いる場合には発色の程度に基づいて、電気化学センサーを用いる場合には信号(電流値)に基づいて行うことができる。例えば、既知濃度のヒスタミンを含むサンプルを複数、例えば2以上、好ましくは3以上、4以上、5以上用いて、これらとの比較により、好ましくは検量線に基づいて定量を行うことができる。
【0031】
一実施形態において、本発明のキットは、ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化を検出可能な電気化学センサーをさらに含む。この実施形態において、本発明のキットは、発色試薬を含まないものであり得る。
【0032】
電気化学センサーは、基本的には電極と回路系を含む。電極は、三電極系(作用電極、参照電極及び対極)であってもあってもよいが、二電極(作用電極及び参照電極)で行うことが好ましい。電極の種類も限定されず、例えば、作用電極としては、白金、金、銀、グラッシーカーボン等のカーボンを用いることができる。参照電極としては、水素電極、飽和カロメル電極、銀-塩化銀、銀電極、及びパラジウム・水素電極を用いることができる。
【0033】
電気化学センサーは、ヒスタミンが、ヒスタミンデヒドロゲナーゼによる触媒作用によって酸化され、4-イミダゾリルアセトアルデヒドを生成する際の酸化還元反応により生じる電流の変化を測定し得る。この際、キット中に電極への電子の移行を促すメディエーターが含まれることが好ましい。
【0034】
一実施形態において、ヒスタミンデヒドロゲナーゼは電気化学センサーの作用電極上に、好ましくは共有結合を介して固定されている。
【0035】
電気化学センサーによる検出の方法は限定せず、例えばサイクリックボルタンメトリー法又はクロノアンペロメトリー法であってよく、例えば実施例に記載の通りに行うことができる。
【0036】
電気化学センサーとしては、市販のものを使用することもでき、例えば電極としてはSCREEN-PRINTEDELECTRODES(Drop Sense社製、DRP-110)を用いることができ、回路としては専用コネクター(Drop Sense社製、DRP-CAC)を用いることができ、電流の変化の測定にはALS電気化学アナライザー814D(BAS社製)を用いることができる。
【0037】
一実施形態において、本発明のキットは、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、メディエーター、及び発色試薬を含む。別の実施形態において、本発明のキットは、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、メディエーター、及び電気化学センサーを含む。
【0038】
一態様において、本発明は、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、及び/又は(ii-b)アルキル硫酸塩を含む、ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化を検出可能な電気化学センサーに関する。電気化学センサーの構成は上記の通りである。また、本態様における電気化学センサーにおいて、ヒスタミン、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、ホウ酸、ボロン酸、アルキル硫酸塩に関する詳細は、上記キットにおいて記載したのと同様である。また、一実施形態において、本発明の電気化学センサーは、さらに、メディエーター、バッファー及び抽出液のうち一つ以上、好ましくは全て含むが、これらについても、上記キットにおいて記載したのと同様である。
【0039】
2.ヒスタミンを検出するための方法
一態様において、本発明は、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、及び/又は(ii-b)アルキル硫酸塩を使用する、ヒスタミンを検出するための方法に関する。本方法は、上記「1.ヒスタミンを検出するためのキット又はセンサー」に記載のキットを用いて行ってもよい。別の態様において、本発明は、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩、及び/又は(ii-b)アルキル硫酸塩を含む、ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化を検出可能な電気化学センサーを使用する、ヒスタミンを検出するための方法に関する。本方法は、上記「1.ヒスタミンを検出するためのキット又はセンサー」に記載のセンサーを用いて行ってもよい。
【0040】
本発明のヒスタミンを検出するための方法は、ヒスタミンをヒスタミンデヒドロゲナーゼにより酸化する工程(以下、「酸化工程」とも記載する)、及びヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化を検出する工程(以下、「検出工程」とも記載する)を含む。
【0041】
酸化工程は、当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、ヒスタミンを含む可能性がある試料を、本明細書に記載のヒスタミンデヒドロゲナーゼを含む溶液と混合することにより行うことができる。
【0042】
検出工程もまた、当業者に公知の方法により行うことができる。ヒスタミンの酸化の検出は、例えば発色試薬又は電気化学センサーを用いて、任意にメディエーターもさらに用いて行うことができる。酸化工程の有無又は程度に基づいて、ヒスタミンの有無を検出し、又はその存在量を測定することができる。
【0043】
本発明のヒスタミンを検出するための方法は、酸化工程及び検出工程に加えて、任意にサンプル採取工程及び/又はヒスタミン抽出工程を、酸化工程の前に含む。
【0044】
サンプル採取工程では、ヒスタミンを測定しようとする試料から、本発明の方法に適した形でサンプルを採取する。試料採取は、例えば、綿棒、スポンジ、多孔性プラスティック、濾紙、不織布、スポイト等の試料採取部を、特に好ましくは、繊維状やスポンジ状のふき取り部分を備えた棒状の形状、例えば綿棒をヒスタミンを測定しようとする試料に接触させることにより行うことができる。
【0045】
ヒスタミン抽出工程では、前記の採取されたサンプルからヒスタミンを抽出することにより、後の酸化工程及び検出工程を容易にする。ヒスタミン抽出工程は、ヒスタミンを測定しようとする試料(例えば、本発明の方法がサンプル採取工程を含む場合には、上記試料が採取された採取部)を、ヒスタミン抽出液と混合することにより行うことができる。ヒスタミン抽出液は公知のものを用いればよく、例えばトリクロロ酢酸、メタノール、又は中性リン酸緩衝液(特開2001-099803号)、又はキレート剤を含む抽出液(特開2004-129597号)、水又は各種緩衝液を使用することもできる。
【実施例0046】
以下の実施例は、例示のみを意図したものであり、何ら本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。特に断らない限り、試薬は、市販されているか、又は当技術分野で慣用の手法、公知文献の手順に従って入手又は調製する。
【0047】
<実施例1:発色試薬の検討>
トレハロース2%、発色試薬(1.08mM WST-4、WST-5、WST-8、INT、NBT、又はXTT)、41.5μM 1-メトキシPMS、及び0.128U ヒスタミンデヒドロゲナーゼ(特開2001-157597に従って作製)を含むヒスタミン測定試薬を、測定チューブに0.2mLずつ分取し、凍結乾燥した。検量線の作成のために、各種既知濃度のヒスタミン溶液を調製後、0.1mLを綿棒に添加した。また、サンプルについては、柵状のマグロのドリップ0.1mLを綿棒に添加するか、又は柵状のマグロの表面を綿棒にて拭き取った。
【0048】
pHを9.0に調整したEDTA(2Na)0.4mLを抽出液として充填した容器に綿棒を押し込み、さらにこれらを振り落として測定チューブに移し、抽出液とヒスタミン測定試薬を反応させた。
【0049】
結果を
図1-1に示す。
図1-1に示される通り、WST-4、WST-5、WST-8、NBT、INT、及びXTTのうちいずれの発色試薬を用いても目視によりサンプル中に含まれるヒスタミンを検出でき、そのおよその濃度も測定できることがわかった。
【0050】
図1-1に示すような目視における判断を数値データでも確認する目的で、以下の方法により、色調の数値化を行った。
【0051】
発色後の測定試薬チューブの写真を、STYLUS TG-4 Tough(オリンパス社製)にて撮影した。その後、測定チューブの画像の中央付近の色を、CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)に数値変換した。具体的には、Illustrator CS2(Adobe社製)を使用し、ツールウィンドウのスポイトツールにより、撮影された測定チューブ中央付近を選択し、カラーウィンドウにてCMYKカラーコードに変換した数値(%)を確認することで、数値化した。数値化は、すべて「Kの値」を用いた。結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
また、以下の通りヒスタミン及びヒスタミンデヒドロゲナーゼを含まない系で試験を行った。具体的には、EDTA(2Na)を0.1M、pH8.5に調製し、これを0.4mL、トレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1-メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。混合後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。
【0054】
結果を
図1-2に示す。また、
図1-2に示すような目視における判断を数値データでも確認する目的で、上記と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差は27.45であった。以上の通り、ヒスタミン及びヒスタミンデヒドロゲナーゼを含まない系を用いた場合でも多少の発色(誤反応)が認められた。
【0055】
<実施例2:バッファーの検討1>
実施例1において、ヒスタミンを含まないサンプルについても発色が認められたことから、この誤反応を抑制又は低減するためにバッファーの検討を行った。
【0056】
EDTA(2Na)、BES、MOPS、TES、HEPES、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、及びCAPSを、全て0.1M、pH8.5に調製し、これを0.4mL、トレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM1-メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。混合後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。
【0057】
結果を
図2に示す。なお、実験系No.1の結果は、実施例1のものと同一である。また、
図2に示すような目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表2に示す。
【0058】
【0059】
図2及び表2に示される通り、ヒスタミンを含まないサンプルについてみられる誤発色は、HEPES、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びEPPSバッファーを用いた実験系において、顕著に抑制された。また、BES、MOPS、TES、TAPS及びCHESについても、誤反応を抑制する傾向が認められた。
【0060】
<実施例3:バッファーの検討2>
EDTA(2Na)、炭酸水素ナトリウム/炭酸二ナトリウム、ホウ酸、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)全て0.1M、pH9.0となるように調製し、これを0.4mL、トレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1-メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。混合後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。
【0061】
結果を
図3に示す。また、
図3に示すような目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表3に示す。
【0062】
【0063】
図3及び表3に示される通り、炭酸及びホウ酸において誤反応抑制効果が認められた。
【0064】
<実施例4:サンプル存在下での誤反応の抑制1>
包丁を用いて細かくミンチ状にした魚肉サンプル(サバ)1gを、1)0.1M HEPPSO溶液(pH8.5)、2)0.1M HEPPSO溶液(pH9.0)、3)25mMホウ酸入り0.1M HEPPSO溶液(pH8.5)、及び4)25mMホウ酸入り0.1M HEPPSO溶液(pH9.0)のいずれか1mlと混合し、スパーテルにて十分に混合した後、ボルテックスミキサーを用いて10秒間攪拌して抽出を行った。抽出液を綿棒にて採水し、予め0.4mLの上記1)~4)の溶液を入れたポリスチレン製の試験管内で綿棒を懸濁し、全量をトレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1-メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。反応後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。ブランク対照としては、上記試薬を0.1M HEPPSO溶液(pH8.5又はpH9.0)0.4mLに溶解させた。なお、上記魚肉サンプルは、チェックカラーヒスタミン(キッコーマンバイオケミファ社製)を用いて事前にヒスタミン含量を測定し、ヒスタミンが検出されなかったものを用いた。本実験系ではヒスタミンデヒドロゲナーゼを反応系中に含んでおらず、すなわち、魚肉サンプル中にヒスタミンは含まれていない上に、仮に微量のヒスタミンが反応系中に存在したとしても、ヒスタミンデヒドロゲナーゼを含まないため、ヒスタミンが発色をもたらすことはないと考えられる。
【0065】
結果を
図4に示す。
図4Aに示される通り、ヒスタミン及びヒスタミンデヒドロゲナーゼ非存在下でも着色が認められたことから、HEPPSOにより試薬由来の誤反応を抑えても、さらに反応系中に魚肉などのサンプルを加えた際には、ヒスタミンに由来しない誤反応と思われる発色を完全に抑えることはできなかった。一方、
図4Bに示される通り、HEPPSOにさらにホウ酸を加えることによって、魚肉などのサンプルを加えた場合であっても、ヒスタミンに由来しない誤反応と思われる発色を顕著に抑制することができた。
【0066】
また、
図4に示すような目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表4に示す。
【0067】
【0068】
以上の通り、誤発色は、pH8.5及び9.0いずれにも見られ、多い場合ではヒスタミン標準品を用いて発色を行わせた場合の50ppm程度に相当する発色を示し、誤発色がヒスタミン検出の判断を誤らせうることが示唆された。また、誤発色はホウ酸を添加することによって抑制できることが示唆された。
【0069】
<実施例5:サンプル存在下での誤反応の抑制2>
ミンチ状にした魚肉サンプル(サバ) 1gを、1)対照、又は25mMの以下のボロン酸:2)フェニルボロン酸、3)4-クロロフェニルボロン酸、4)4-フルオロフェニルボロン酸、5)ブチルボロン酸、又は6)3-[(tert-ブトキシカルボニル)アミノ]フェニルボロン酸を含む0.1M HEPPSO(pH8.5)1mLにて抽出した。抽出は、スパーテルにて魚肉と各抽出液を十分に混合した後に、ボルテックスミキサーを用いて10秒間攪拌した。抽出液を綿棒にて採水し、予め0.4mLの上記1)~6)の溶液を入れたポリスチレン製の試験管内で綿棒を懸濁し、全量をトレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1-メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。反応後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。
【0070】
結果を
図5に示す。また、
図5に示すような目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表5に示す。
【0071】
【0072】
図5及び表5に示される通り、ボロン酸を加えることによって、サンプル由来の誤反応を強く抑制することができ、特に3-[(tert-ブトキシカルボニル)アミノ]フェニルボロン酸を加えた場合にその効果は顕著であった。
【0073】
<実施例6:ホウ酸濃度の検討>
ミンチ状にした魚肉サンプル(サバ) 2gを、0mM~100mMの各濃度のホウ酸を含む0.1M HEPPSO(pH8.5)2mLにて実施例5と同様の方法で抽出した。抽出後、0.4mLの各濃度ホウ酸を含む0.1MHEPPSO(pH8.5)に綿棒を懸濁し、全量をトレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1-メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。反応後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。結果を
図6に示す。
【0074】
また、
図6に示すような目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表6に示す。
【0075】
【0076】
以上の通り、ホウ酸は濃度依存的に誤反応を低減した。
【0077】
<実施例7:SDSによる誤反応の抑制>
ミンチ状にした魚肉サンプル(サバ) 2gを、0%~1%の各濃度のSDSを含む0.1M HEPPSO(pH8.0)2mLにて実施例5と同様の方法で抽出した。抽出後、0.4mLの各濃度SDSを含む0.1M HEPPSO(pH8.5)に綿棒を懸濁し、全量をトレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1-メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。反応後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。
【0078】
結果を
図7に示す。また、
図7に示すような目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表7に示す。
【0079】
【0080】
以上の通り、SDSも誤反応を低減することが示された。
【0081】
<実施例8:ホウ酸が呈色反応を阻害しないことの確認>:
ミンチ状にした魚肉サンプル(サバ) 2gを、25mM又は100mMのホウ酸を含む0.1M HEPPSO(pH9.0)2mLにて実施例5と同様の方法で抽出した。抽出後、0.4mLの各濃度ホウ酸を含む0.1M HEPPSO(pH9.0)に0、10、25、50、75、100ppm相当のヒスタミンを添加し、この溶液に綿棒を懸濁し、全量をトレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1-メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。反応後、室温で15分放置し、発色の程度を確認した。
【0082】
結果を
図8に示す。また、
図8に示すような目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、15分放置の前後の色調の差を以下の表8に示す。
【0083】
【0084】
図8及び表8に示す通り、ホウ酸濃度を100mMとしても測定が行えたことから、ホウ酸の添加はヒスタミン由来の発色には悪影響を与えないことが示唆された。
【0085】
<実施例9:サイクリックボルタンメトリーによるヒスタミン検量線の作成(魚肉サンプル無添加系)>
トレハロース2%、1.08mM NBT、41.5μM 1-メトキシPMS及び0.128U ヒスタミンデヒドロゲナーゼを含む試薬0.2mLを凍結乾燥した後、0.1M ホウ酸溶液(pH8.5)を500μL添加して溶解した。比較として、0.1Mホウ酸溶液(pH8.5)の代わりに、チェックカラーヒスタミン(キッコーマンバイオケミファ社製)において抽出用溶液として用いられている0.1M EDTA溶液を用いて同様に調製した。それらをそれぞれ印刷電極に20μL滴下し、サイクリックボルタンメトリーを行った。印刷電極はカーボンの作用電極(12.6mm2)、銀の参照電極が印刷されている、SCREEN-PRINTED ELECTRODES(Drop Sense社製、DRP-110)を用い、専用コネクター(Drop Sense社製、DRP-CAC)を使用して、ALS電気化学アナライザー814D(BAS社製)に接続した。さらに1000ppmヒスタミン溶液を1、2μL添加し、それぞれにおいて同様にサイクリックボルタンメトリーを行った。電位は1秒間に20mV掃引した。-150mV(vs. Ag/Ag+)の酸化電流値をプロットし、ヒスタミン濃度と電流値の関係を求めた。
【0086】
その結果、
図9に示すとおり、ホウ酸溶液及びEDTA溶液の両者ともにヒスタミン検量線の直線性は良好であったが、ホウ酸を溶液に使用した場合、EDTAと比較して、より大きな電流値が得られ、傾きも大きく、S/N比も若干向上した。以上より、ホウ酸溶液を用いることで、サイクリックボルタンメトリーによるヒスタミン検出の精度が向上することが示された。
【0087】
<実施例10:クロノアンペロメトリーによるヒスタミン検量線の作成(魚肉サンプル存在下)>
ミンチ状にしたサバ2gを2mLの水にて実施例5と同様の方法で抽出した。トレハロース2%、41.5μM 1-メトキシPMS及び0.128U ヒスタミンデヒドロゲナーゼを含む試薬0.2mLを凍結乾燥した後、0.1M HEPPSO溶液(pH8.5)又は0.1M HEPPSO/0.1M ホウ酸溶液(pH8.5)30μL、魚肉抽出液10μL、3M NaCl溶液10μLをそれぞれ印刷電極に滴下し、クロノアンペロメトリーを行った。印刷電極はカーボンの作用電極(12.6mm2)、銀の参照電極が印刷されている、SCREEN-PRINTED ELECTRODES(Drop Sense社製、DRP-110)を用い、専用コネクター(Drop Sense社製、DRP-CAC)を使用して、ALS電気化学アナライザー814D(BAS社製)に接続した。さらに1000ppmヒスタミン溶液を1、2、4μL添加し、同様にクロノアンペロメトリーを行った。測定は、+200mV(vs. Ag/AgCl)の電位を印加した。測定開始から10秒経過後の電流値をプロットし、ヒスタミン濃度と電流値の関係を求めた。
【0088】
その結果、
図10に示すように、魚肉サンプル存在下では、ホウ酸を添加しない場合、ヒスタミン濃度と電流値に相関関係が得られにくい傾向があった(相関係数R
2=0.6994)。ホウ酸を添加することにより、魚肉サンプルの影響が抑えられ、良好な相関関係(相関係数R
2=0.9946)が得られた。以上より、ホウ酸溶液を用いることで、クロノアンペロメトリーによるヒスタミン検出の精度が向上することが示された。
本発明により、ヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いてヒスタミンを測定する方法において、酵素反応に由来しない誤反応を低減することが可能となる。これにより、特に低濃度域においてもヒスタミンを検出することが可能となる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] ヒスタミンを検出するためのキットであって、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び
(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
[化1]
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を含む、前記キット。
[2] ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化を検出可能な電気化学センサーであって、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び
(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
[化2]
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を含む、前記センサー。
[3] メディエーターをさらに含む、請求項1に記載のキット又は請求項2に記載のセンサー。
[4] メディエーターが、1-メトキシPMS(1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート)、PMS(フェナジニウムメチルサルフェート)、PES(フェナジニウムエチルサルフェート)及び1-メトキシPES(1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート)からなる群から選択される、請求項3に記載のキット又はセンサー。
[5] ヒスタミンがヒスタミンデヒドロゲナーゼにより酸化された際に発色する発色試薬をさらに含む、請求項1~4のいずれかに記載のキット又はセンサー。
[6] 発色試薬が、テトラゾリウム塩である、請求項5に記載のキット又はセンサー。
[7] 双性イオンを有し、カルボキシ基を有さない化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、Bis-Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)又は炭酸緩衝液をさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載のキット又はセンサー。
[8] 緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有する化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液である、請求項7に記載のキット又はセンサー。
[9] 緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有し、かつ2位にヒドロキシ基を有する化合物を含む緩衝液であって、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びMOPSOからなる群から選択される緩衝液である、請求項8に記載のキット又はセンサー。
[10] ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩を、測定時の終濃度が120mM以下となるように含む、請求項1~9のいずれかに記載のキット又はセンサー。
[11] アルキル硫酸塩がラウリル硫酸ナトリウムである、請求項1~10のいずれかに記載のキット又はセンサー。
[12] 試料採取部、及び反応部を含み、
前記反応部が前記ヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び前記ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩を含む、請求項1~11のいずれかに記載のキット又はセンサー。
[13] ヒスタミンを検出するための方法であって、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
[化3]
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、又は置換された若しくは置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を使用する、前記方法。
[14] ヒスタミンを検出するための方法であって、
ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化を検出可能な電気化学センサーを使用し、前記センサーが、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び
(ii-a)ホウ酸又はその塩、及び/又は下記式(I)又は(II):
[化4]
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、又は置換された若しくは置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
R
6は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC
1~C
10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、及び/又は
(ii-b)アルキル硫酸塩
を含む、前記方法。
[15] メディエーターをさらに使用する、請求項13又は14に記載の方法。
[16] メディエーターが、1-メトキシPMS、PMS、PES及び1-メトキシPESからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
[17] ヒスタミンがヒスタミンデヒドロゲナーゼにより酸化された際に発色する発色試薬をさらに使用する、請求項13~16のいずれかに記載の方法。
[18] 発色試薬が、テトラゾリウム塩である、請求項17に記載の方法。
[19] 双性イオンを有し、カルボキシ基を有さない化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、Bis-Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、Tris又は炭酸緩衝液をさらに含む、請求項13~18のいずれかに記載の方法。
[20] 緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有する化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液である、請求項19に記載の方法。
[21] 緩衝液が、双性イオンを有し、スルホ基を有し、かつ2位にヒドロキシ基を有する化合物を含む緩衝液であって、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びMOPSOからなる群から選択される緩衝液である、請求項20に記載の方法。
[22] ホウ酸又はその塩、及び/又はボロン酸又はその塩を、測定時の終濃度120mM以下で使用する、請求項13~21のいずれかに記載の方法。
[23] アルキル硫酸塩がラウリル硫酸ナトリウムである、請求項13~22のいずれかに記載の方法。