IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマの特許一覧 ▶ 株式会社SCREENホールディングスの特許一覧

特開2024-86907シリコンエッチング液及び該エッチング液を用いたシリコンデバイスの製造方法
<>
  • 特開-シリコンエッチング液及び該エッチング液を用いたシリコンデバイスの製造方法 図1
  • 特開-シリコンエッチング液及び該エッチング液を用いたシリコンデバイスの製造方法 図2
  • 特開-シリコンエッチング液及び該エッチング液を用いたシリコンデバイスの製造方法 図3
  • 特開-シリコンエッチング液及び該エッチング液を用いたシリコンデバイスの製造方法 図4
  • 特開-シリコンエッチング液及び該エッチング液を用いたシリコンデバイスの製造方法 図5
  • 特開-シリコンエッチング液及び該エッチング液を用いたシリコンデバイスの製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086907
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】シリコンエッチング液及び該エッチング液を用いたシリコンデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
H01L21/308 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066142
(22)【出願日】2024-04-16
(62)【分割の表示】P 2019221269の分割
【原出願日】2019-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019019215
(32)【優先日】2019-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】清家 吉貴
(72)【発明者】
【氏名】東野 誠司
(72)【発明者】
【氏名】根來 世
(72)【発明者】
【氏名】小林 健司
(57)【要約】
【課題】 薬液中の溶存酸素量の影響を抑えることが可能となり、溶存酸素濃度に関係なく一様なエッチング処理が可能となるシリコンエッチング液を提供する。
【解決手段】 水酸化第4級アルキルアンモニウム、水および、特定のエーテル化合物のみから実質的になるシリコンエッチング液。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化第4級アルキルアンモニウム、水および、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、およびジプロピレングリコールジメチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのエーテル化合物のみから実質的になるシリコンエッチング液。
【請求項2】
水酸化第4級アルキルアンモニウムの濃度が0.1~25質量%、前記エーテル化合物の濃度が0.1~20質量%である請求項1に記載のシリコンエッチング液。
【請求項3】
シリコンウェハ、ポリシリコン膜およびアモルファスシリコン膜からなる群から選ばれる少なくとも1つをエッチングする工程を含むシリコンデバイスの製造方法において、エッチングを請求項1又は2に記載のシリコンエッチング液を用いて行うシリコンデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種シリコンデバイスを製造する際の表面加工、エッチング工程で使用されるシリコンエッチング液に関する。また、本発明は該エッチング液を用いたシリコンデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化シリコン膜およびシリコン膜に対する選択性を考慮して、シリコンを用いた半導体の製造プロセスには、アルカリエッチングが用いられることがある。アルカリとしては、毒性が低く取り扱いが容易なNaOH、KOH、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(以下、TMAHともいう。)が単独で使用されている。中でもTMAHは、NaOHやKOHを用いた場合と比較して酸化シリコン膜に対するエッチング速度がほぼ1桁低く、特に、マスク材料としてシリコン窒化膜と比べてより安価な酸化シリコン膜を使用する場合に、好適に使用されている。
【0003】
半導体デバイスにおいて、メモリセルの積層化や、ロジックデバイスの緻密化により、エッチングに対する要求が厳しくなっている。シリコンのエッチングにおいては、シリコンエッチング液中の溶存酸素により、シリコンが酸化され、それに伴いエッチング速度が低下する。溶存酸素濃度によりシリコンの酸化量は異なるので、エッチング速度の低下の程度も溶存酸素濃度により異なることとなる。シリコンエッチング液中の溶存酸素濃度によるエッチング速度の変動は、基板の円周方向、パターンの深さ方向、装置の器差や工場の立地による環境の差、天候などによっても生じ、均一なエッチング処理ができない場合があるという問題点があった。
【0004】
近年、半導体製造工程においてシリコンエッチングを利用した工程が多用されている。その工程の一例として、電荷蓄積型メモリを例にとり説明する。電荷蓄積型メモリは、たとえば図5に示すように、複数のポリシリコン膜P1、P2、P3と複数の酸化シリコン膜O1、O2、O3を含む積層膜91を有する基板Wを含み、その製造プロセスは積層膜91のエッチング工程を含む。エッチングに際しては、基板Wに設けられた凹部92にエッチング液を供給し、ポリシリコン膜P1、P2、P3を選択的にエッチングする。電荷蓄積型メモリは、ポリシリコン膜に電荷を蓄積することでメモリとして作動する。蓄積される電荷量は、ポリシリコン膜の体積に依存する。したがって、設計容量を実現するためには、ポリシリコン膜の体積を厳密に制御する必要がある。しかし、上記のように溶存酸素濃度によりエッチング速度が異なると、ポリシリコン膜を設計どおりの体積となるよう
にエッチングすることができず、デバイスの製造が困難になる。特に、近年、電荷蓄積型メモリは多層化されており、パターンの深さが数マイクロメートルにも及ぶ。そのため、ウエハ表面近傍の層と下層付近ではシリコンエッチング液中の溶存酸素濃度が異なり、深さ方向に対して設計通りにエッチングすることが困難である。
【0005】
そこで、酸素の影響を受けるエッチングの工程では、処理雰囲気濃度を制御した処理装置などで酸素濃度を調整された環境でエッチング処理が実施されている。
【0006】
また、ポリマー(レジスト残渣)除去の工程では、ポリマー除去液中の溶存酸素により基板上の金属膜が酸化されてしまい、生じた金属酸化膜がポリマー除去液でエッチングされることを防止するために、薬液中の溶存酸素量を調整する処理装置を用いて溶存した酸素量を低減した薬液を使用して処理が実施されている(特許文献1)。
【0007】
特許文献2には、水酸化アルカリ、水およびポリアルキレンオキサイドアルキルエーテルを含む、太陽電池用シリコン基板のエッチング液が開示されている。特許文献3には、アルカリ化合物、有機溶剤、界面活性剤および水を含む太陽電池用シリコン基板のエッチング液が開示されている。特許文献3ではアルカリ化合物の一例として、TMAHが例示され、有機溶剤としてポリアルキレンオキサイドアルキルエーテルが例示されているが、現実に使用されているアルカリ化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
【0008】
特許文献4には、水酸化第4級アルキルアンモニウム、ノニオン界面活性剤および水を含む現像液が開示されている。ノニオン界面活性剤としてポリアルキレンオキサイドアルキルエーテルの例示はあるが、実際にはアセチレングリコール系のサーフィノール(商品名)などの界面活性能の高いノニオン界面活性剤が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-269668号公報
【特許文献2】特開2010-141139号公報
【特許文献3】特開2012-227304号公報
【特許文献4】WO2017/169834
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1の処理装置では、均一なエッチング処理を実施するために処理雰囲気の酸素濃度と薬液の溶存酸素濃度を緻密に制御する必要がある。そのため、エッチング処理を実施するのに処理装置の緻密な調整やそのための技術が必要となる。
【0011】
また、特許文献2、特許文献3のエッチング液では、アルカリ化合物としてNaOH、KOHが使用されているため、酸化シリコン膜に対するエッチング速度が高い。このため、マスク材料、およびパターン構造の一部である酸化シリコン膜もエッチングされてしまい、ポリシリコン膜のみを選択的にエッチングすることはできない。特許文献4の現像液は、シリコンの精密エッチングを目的としたものではなく、したがって溶存酸素のエッチング液に対する影響は何ら考慮されていない。また、実際に使用されているノニオン界面活性剤はサーフィノールなどであり、高い界面活性能を有し、ポリシリコン膜の表面を覆い、ポリシリコンのエッチングをむしろ損ない、ポリシリコン膜を高い精度でエッチングすることはできない。
【0012】
そこで、本発明は、薬液中の溶存酸素量の影響を抑えることが可能となり、溶存酸素濃度に関係なく一様なエッチング処理が可能となるシリコンエッチング液を提供することを
目的とする。また、本発明の好ましい態様では、シリコンエッチング液の組成比を調整することにより、シリコンエッチング液の溶存酸素濃度によるエッチング速度に対する影響を受ける程度を調整する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意努力の末、水酸化第4級アルキルアンモニウムと水を含むシリコンエッチング液に式(1)で示される化合物を含有させることにより、上記の課題が解決できることを見出した。
【0014】
すなわち、第一の本発明は、
水酸化第4級アルキルアンモニウム、水を含む混合液であって、
下記式(1)で示される化合物
1O-(Cm2mO)n-R2(1)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基、R2は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基、mは2~6の整数、nは1又は2である。)
を含むシリコンエッチング液である。
【0015】
第一の本発明において、水酸化第4級アルキルアンモニウムの濃度が0.1~25質量%、式(1)で示される化合物の濃度が0.1~20質量%であることが好ましい。
【0016】
第一の本発明において、水酸化第4級アルキルアンモニウムの濃度が0.5~25質量%、式(1)で示される化合物の濃度が0.1~20質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
また、第一の本発明のシリコンエッチング液はエッチング速度比が0.5~1.5であることが好ましい。
【0018】
第二の本発明は、シリコンウェハ、ポリシリコン膜、アモルファスシリコン膜をエッチングする工程を含むシリコンデバイスの製造方法において、エッチングを第一の本発明のシリコンエッチング液を用いて行うシリコンデバイスの製造方法である。
【0019】
本発明においてエッチング速度比は、エッチング液の成分組成は同一であり、溶存酸素濃度が異なるエッチング液のポリシリコンに対するエッチング速度の比であり、低溶存酸素濃度のエッチング液のエッチング速度と高溶存酸素濃度のエッチング液のエッチング速度との比(低溶存酸素濃度でのエッチング速度/高溶存酸素濃度でのエッチング速度)である。エッチング速度比が1に近いと、エッチング速度が溶存酸素濃度の影響を受けにくいということを意味している。
【0020】
本発明者らの検討により、水酸化第4級アルキルアンモニウムと水を含む従来のシリコンエッチング液に式(1)で示される化合物を含有させるとシリコンのエッチング速度が低下するが、式(1)で示される化合物を含まないシリコンエッチング液と比較して、シリコンエッチング液中の溶存酸素濃度の違いによるエッチング速度の変動の程度が低減することが分かった。溶存酸素濃度が高い場合、エッチング速度は遅く、式(1)で示される化合物を含有させることによりエッチング速度が低下していく。一方、溶存酸素濃度が低い場合、エッチング速度は溶存酸素濃度が高い場合より速いが、式(1)で示される化合物を含有させることによりエッチング速度は大きく低下する。式(1)で示される化合物を溶存酸素濃度が高いエッチング液に添加した際のエッチング速度の低下の割合は、溶存酸素濃度が低い場合と比較して小さい。すなわち、エッチング速度比は、式(1)で示される化合物の添加により低下する。
【0021】
よって、式(1)で示される化合物の含有量を調整することにより、シリコンエッチング液中の溶存酸素濃度が高い場合であっても、また低い場合であっても、エッチング速度の変動を少なくすることができ(エッチング速度比が1近傍)、シリコンエッチング液中の溶存酸素濃度の変動によるエッチング速度の変動が抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のシリコンエッチング液のエッチング速度は、溶存酸素濃度の影響を受け難く、シリコンエッチング液中の溶存酸素濃度に関係なく一様なエッチング処理が可能となる。そのため、処理雰囲気の酸素濃度や薬液の溶存酸素濃度を調整する処理装置で緻密な調整を実施する必要性が下がる。更に、基板の円周方向、パターンの深さ方向、装置の器差や工場の立地による環境の差、天候などによってシリコンエッチング液中の溶存酸素濃度の変動が生じてもエッチング速度の変動が生じず、一様なエッチング処理が可能となる。
【0023】
また、シリコンエッチング液の組成比を調整することにより、シリコンエッチング液のエッチング速度に対する溶存酸素濃度による影響を受ける程度を調整することができ、所望のエッチング速度比のシリコンエッチング液を調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】溶存酸素濃度とエッチング速度との関係に対する、式(1)で示される化合物を含有させた効果を示す図である。
図2】式(1)で示される化合物の含有量の違いによる溶存酸素量とエッチング速度の関係を示す図である。
図3】基板処理装置の概略上面図である。
図4】基板処理ユニットの概略断面図である。
図5】エッチング対象となる基板を示す概略断面図である。
図6】エッチングの処理フローの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のシリコンエッチング液は、水酸化第4級アルキルアンモニウム、水を含む混合液であって、下記式(1)で示される化合物
1O-(Cm2mO)n-R2(1)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基、R2は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基、mは2~6の整数、nは1又は2である。)
を含む。
【0026】
水酸化第4級アルキルアンモニウムとしては、従来の水酸化第4級アルキルアンモニウム水溶液からなるシリコンエッチング液で使用されているテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド(TEAH)、エチルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド(ETMAH)、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、又は、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイドが特に制限なく使用できる。これら水酸化第4級アルキルアンモニウムの中でも、アルキル基の炭素数が1~4であり、すべてのアルキル基が同一の水酸化第4級アルキルアンモニウムが好ましい。特に、シリコンのエッチング速度が高いという理由からTMAHを使用するのが最も好適である。また、水酸化第4級アルキルアンモニウムの濃度も従来のシリコンエッチング液と特に変わる点は無く、0.1~25質量%の範囲であると、結晶の析出を生じることなく、すぐれたエッチング効果が得られ、好ましい。さらに、水酸化第4級アルキルアンモニウムの濃度は、0.5~25質量%の範囲であることがより好ましい。
【0027】
本発明のシリコンエッチング液は、下記式(1)で示される化合物を含むことを特徴と
する。
1O-(Cm2mO)n-R2(1)
上記式(1)において、R1は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基、R2は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基、mは2~6の整数、nは1又は2である。
【0028】
1としては、水素原子又はメチル基が好ましく、R2としては、プロピル基又はブチル基が好ましく、mは2又は3であることが好ましい。
【0029】
本発明において特に好適に使用される上記式(1)で示される化合物を具体的に示せば、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルを挙げることができる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、種類の異なるものを複数混合して使用してもよい。
【0030】
式(1)で示される化合物を含むことにより、シリコンエッチング液中の溶存酸素濃度の影響を抑えることが可能となり、溶存酸素濃度に関係なく、溶存酸素濃度が低い場合も高い場合も一様なエッチング処理が可能となる。また、式(1)で示される化合物の含有量を調整することにより、所望の溶存酸素濃度による影響の受け方を有するシリコンエッチング液とすることもできる。
【0031】
上記式(1)で示される化合物の濃度は、エッチング液全体の質量を基準として20質量%以下であることが好ましく、15質量%未満であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。また、上記式(1)で示される化合物の濃度は0.1質量%以上であることが好ましい。上記式(1)で示される化合物の濃度が上記範囲であると、溶存酸素濃度の影響によるエッチング速度の差が小さくなるため、基板の円周方向、パターンの深さ方向、装置の器差や工場の立地による環境の差、天候などに左右され難くなり一様なエッチング処理が可能となる。
【0032】
水酸化第4級アルキルアンモニウムと式(1)で示される化合物との合計濃度は、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましく、また下限値は0.2質量%以上であることが好ましく1.0質量%以上であることがさらに好ましい。シリコンエッチング液には、本発明の目的を損なわない範囲で、水酸化第4級アルキルアンモニウムと式(1)で示される化合物以外にも、界面活性剤等が添加されていてもよいが、これらはエッチング性に影響を及ぼすことがあるため、1質量%以下とすることが好ましく、含まれていないことがより好ましい。したがって、シリコンエッチング液の、水酸化第4級アルキルアンモニウムと式(1)で示される化合物以外の残部の全量が水であることが好ましい。
【0033】
上記式(1)で示される化合物に添加により、シリコンエッチング液中の溶存酸素濃度の影響を低減できるメカニズムは必ずしも明らかではない。しかし、本発明者らは以下のように考察している。上記式(1)で示される化合物は、比較的界面活性能が低い、ノニオン界面活性剤と考えることができる。シリコンエッチング液中の溶存酸素は、ポリシリコン表面と反応し、シリコン表面に酸化膜を形成する。この酸化膜はマスク材料として機能する結果、ポリシリコンに対するエッチング速度の低下を招く。一方、式(1)で示さ
れる化合物は界面活性能を有し、ポリシリコン表面に付着し、これを一時的に保護する。この結果、溶存酸素とポリシリコン表面との接触が阻害され、酸化膜の生成が抑制される。しかし、式(1)で示される化合物の界面活性能は比較的低いため、ポリシリコン表面から遊離する。この結果、シリコンエッチング液がポリシリコン表面に接触して、エッチングが行われる。式(1)で示される化合物のポリシリコン表面への付着、遊離は、繰り返され、この間に緩やかにエッチングが進行する。この結果、エッチング速度は遅くなるが、溶存酸素の影響は低減されると考えられる。
【0034】
一方、式(1)で示される化合物に代えて、界面活性能の高いノニオン界面活性剤を使用すると、界面活性剤がポリシリコン表面に強固に付着し、ポリシリコン表面とエッチング液との接触が阻害され、エッチングが進行し難くなる。
【0035】
したがって、式(1)で示される化合物は、適度な親水性と疎水性を有することが好ましい。たとえば、式(1)においてmが4以上では該化合物は疎水性となる傾向にある。この場合、疎水性と親水性とのバランスのため、R1およびR2はともに水素であることが好ましい。
【0036】
また、シリコンエッチング液中の水酸化第4級アルキルアンモニウムの濃度、シリコンエッチング液の温度によって、式(1)で示される化合物の好ましい濃度が異なる。例えば、水酸化第4級アルキルアンモニウムがTMAH、式(1)で示される化合物がプロピレングリコールモノプロピルエーテル、液温度40℃、TMAH濃度が5質量%であって、エッチング対象基板がドープされていないポリシリコン基板の場合、プロピレングリコールモノプロピルエーテル1~5質量%であることが好ましく、TMAH濃度が10質量%の場合、プロピレングリコールモノプロピルエーテル4~10質量%であることが好ましい。
【0037】
本発明のシリコンエッチング液のエッチング速度比は0.5~1.5であることが好ましく、0.65~1.35であることがより好ましく、さらに好ましくは0.75~1.30である。エッチング速度比が上記範囲にあることにより、シリコンエッチング液の溶存酸素濃度のエッチング速度に対する影響を抑えることが可能となり、基板の円周方向、パターンの深さ方向、装置の器差や工場の立地による環境の差、天候などに起因する溶存酸素濃度の変動に関係なく、シリコンのエッチング速度がほぼ一定であり、一様なエッチングが可能となる。
【0038】
エッチング速度比は、成分組成が同一であり、液中の溶存酸素濃度のみが異なるシリコンエッチング液のエッチング時の液温において、溶存酸素濃度が低いシリコンエッチング液のエッチング速度と溶存酸素濃度が高いシリコンエッチング液のエッチング速度との比(溶存酸素濃度が低いシリコンエッチング液のエッチング速度/溶存酸素濃度が高いシリコンエッチング液のエッチング速度)である。
【0039】
エッチング速度比は、N2通気による溶存酸素の脱気後の溶存酸素濃度(溶存酸素濃度が低い)でのエッチング速度(RN)と、空気通気後の飽和溶存酸素濃度(溶存酸素濃度が高い)でのエッチング速度(RA)との比(RN/RA)が上記範囲にあることが好ましい。
【0040】
2通気による溶存酸素の脱気後の溶存酸素濃度でのエッチング速度(RN)と空気通気後の飽和溶存酸素濃度でのエッチング速度(RA)との比(RN/RA)を求めるための好ましい条件は以下のとおりである。
エッチング時の温度は、実際にエッチングするときの温度である。
シリコンエッチング液へのN2の通気条件は、溶存酸素濃度が低下して一定濃度値とな
るよう、シリコンエッチング液の量に対してN2の流量、通気時間が定められたデータテーブルが準備され、データテーブルに基づきN2を通気して調整する。これにより溶存酸素を実質的に含まないエッチング液を得る。
シリコンエッチング液への空気の飽和条件は、溶存酸素濃度が増加して一定濃度値となるよう、シリコンエッチング液の量に対して空気の流量、通気時間が定められたデータテーブルが準備され、データテーブルに基づいてシリコンエッチング液に空気を通気する。これにより、酸素濃度が飽和したエッチング液を得る。
エッチング速度の測定に先立ち、自然酸化膜を除去した対象基板を準備し、この対象基板をエッチング液に浸漬し、処理前後の膜厚差から算出したエッチング速度を算出する。
実施例からわかるように、シリコンエッチング液のN2通気後の溶存酸素濃度でのエッチング速度(RN)と空気通気後の飽和溶存酸素濃度でのエッチング速度(RA)との比(RN/RA)が0.5~1.5であることが好ましい。
【0041】
本発明のシリコンエッチング液は、所定濃度の水酸化第4級アルキルアンモニウム水溶液に所定量の式(1)で示される化合物を混合し、溶解させることにより容易に調製することができる。このとき式(1)で示される化合物を直接混合せずに、予め所定濃度の式(1)で示される化合物の水溶液を調整しておき、これを混合してもよい。
【0042】
本発明のシリコンエッチング液は、水酸化第4級アルキルアンモニウム水溶液系シリコンエッチング液の特長、即ち毒性が低く取り扱いが容易で且つ、マスク材料として安価な酸化シリコン膜を使用することができるという利点を有する。また、従来の水酸化第4級アルキルアンモニウム水溶液系シリコンエッチング液と比べて、液中の溶存酸素濃度が変動しても、シリコンに対するエッチング速度の変動が少ない。より詳しくは、同一条件下でエッチング処理を実施した際に、ウエハ円周方向、パターン深さ方向や装置、天候等に由来するエッチング液中の溶存酸素濃度の変動の影響を抑えることができるという特徴を有する。このため、本発明のシリコンエッチング液は、シリコンの湿式エッチング技術により、バルブ、ノズル、プリンタ用ヘッド、並びに流量、圧力及び加速度等の各種物理量を検知するための半導体センサ(例えば半導体圧力センサのダイヤフラムや半導体加速度センサのカンチレバーなど)の加工、及び金属配線の一部、ゲート電極等の材料として種々のデバイスに応用されているポリシリコン膜、アモルファスシリコン膜のエッチング等、種々のシリコンデバイスを製造する際のエッチング液として好適に使用することができる。
【0043】
本発明のシリコンエッチング液を用いてシリコンデバイスを製造する場合には、常法に従いシリコンのウェットエッチングを行えばよい。このときの方法は、従来のシリコンエッチング液を用いた場合と特に変わる点は無く、例えばシリコンエッチング液が導入されたエッチング槽に被エッチング物として“シリコンウェハの必要部分を酸化シリコン膜やシリコン窒化膜などでマスクしたシリコンウェハ”を投入し、シリコンエッチング液との化学反応を利用してシリコンウェハの不要部分を溶解させることにより好適に行うことができる。
【0044】
本発明の好ましい実施形態では、シリコンエッチング液は、ポリシリコン膜と酸化シリコン膜とが交互に積層され、複数の膜を貫通する凹部もしくは貫通孔を有する積層体をエッチングする際に、前記凹部もしくは貫通孔にシリコンエッチング液を供給して、ポリシリコン膜を選択的にエッチングする工程を含むシリコンデバイスの製造に用いる。
【0045】
エッチングの際のシリコンエッチング液の温度は、所望のエッチング速度、エッチング後のシリコンの形状や表面状態、生産性などを考慮して20~95℃の範囲から適宜決定すればよいが30~60℃の範囲とするのが好適である。
【0046】
シリコンのウェットエッチングは、被エッチング物をシリコンエッチング液に浸漬するだけでも良いが、被エッチング物に一定の電位を印加する電気化学エッチング法を採用することもできる。
【0047】
本発明におけるエッチング処理の対象物としては、シリコン単結晶や、ポリシリコン、アモルファスシリコンが挙げられ、対象物中にエッチング処理の対象ではない非対象物の酸化シリコン膜やシリコン窒化膜等、アルミニウムなどの金属が含まれていてもよい。例えば、シリコン単結晶上にシリコン酸化膜や、シリコン窒化膜、さらには金属膜を積層しパターン形状を作成したものや、さらにはその上にポリシリコンやレジストを成膜、塗布したもの、アルミニウムなどの金属部分が保護膜で覆われ、シリコンがパターン形成された構造体などが挙げられる。
【0048】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0049】
図3は、本発明の実施形態に係る基板処理装置1を上から見た模式図である。
【0050】
図3に示すように、基板処理装置1は、半導体ウエハなどの円板状の基板Wを1枚ずつ処理する枚葉式の装置である。基板処理装置1は、基板Wを収容するキャリアCを保持するロードポートLPと、ロードポートLP上のキャリアCから搬送された基板Wを処理する複数の処理ユニット2と、ロードポートLP上のキャリアCと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する搬送ロボットと、基板処理装置1を制御する制御装置3とを備えている。
【0051】
搬送ロボットは、ロードポートLP上のキャリアCに対して基板Wの搬入および搬出を行うインデクサロボットIRと、複数の処理ユニット2に対して基板Wの搬入および搬出を行うセンターロボットCRとを含む。インデクサロボットIRは、ロードポートLPとセンターロボットCRとの間で基板Wを搬送し、センターロボットCRは、インデクサロボットIRと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する。センターロボットCRは、基板Wを支持するハンドH1を含み、インデクサロボットIRは、基板Wを支持するハンドH2を含む。
【0052】
複数の処理ユニット2は、平面視でセンターロボットCRのまわりに配置された複数のタワーTWを形成している。各タワーTWは、上下に積層された複数(たとえば3つ)の処理ユニット2を含む。図3は、4つのタワーTWが形成されている例を示している。センターロボットCRは、いずれのタワーTWにもアクセス可能である。
【0053】
図4は、基板処理装置1に備えられた処理ユニット2の内部を水平に見た模式図である。
【0054】
処理ユニット2は、内部空間を有する箱型のチャンバー4と、チャンバー4内で1枚の基板Wを水平に保持しながら基板Wの中央部を通る鉛直な回転軸線まわりに回転させるスピンチャック10と、回転軸線まわりにスピンチャック10を取り囲む筒状の処理カップ20とを含む。
【0055】
チャンバー4は、基板Wが通過する搬入搬出口6が設けられた箱型の隔壁5と、搬入搬出口6を開閉するシャッター7とを含む。
【0056】
スピンチャック10は、水平な姿勢で保持された円板状のスピンベース12と、スピンベース12の上方で基板Wを水平な姿勢で保持する複数のチャックピン11と、スピンベース12の中央部から下方に延びるスピン軸と、スピン軸を回転させることによりスピン
ベース12および複数のチャックピン11を回転させるスピンモータ13とを含む。スピンチャック10は、複数のチャックピン11を基板Wの外周面に接触させる挟持式のチャックに限らず、非デバイス形成面である基板Wの裏面(下面)をスピンベース12の上面に吸着させることにより基板Wを水平に保持するバキューム式のチャックであってもよい。
【0057】
処理カップ20は、基板Wから外方に排出された液体を受け止める複数のガード21と、複数のガード21によって下方に案内された液体を受け止める複数のカップ22とを含む。図4は、2つのガード21と2つのカップ22とが設けられている例を示している。
【0058】
処理ユニット2は、複数のガード21を個別に昇降させるガード昇降ユニットを含む。ガード昇降ユニットは、上位置から下位置までの任意の位置にガード21を位置させる。ガード昇降ユニットは制御装置3により制御される。上位置は、ガード21の上端がスピンチャック10に保持されている基板Wが配置される保持位置よりも上方に配置される位置である。下位置は、ガード21の上端が保持位置よりも下方に配置される位置である。ガード天井部の円環状の上端は、ガード21の上端に相当する。ガード21の上端は、平面視で基板Wおよびスピンベース12を取り囲んでいる。
【0059】
スピンチャック10が基板Wを回転させている状態で、処理液が基板Wに供給されると、基板Wに供給された処理液が基板Wから振り切られる。処理液が基板Wに供給されるとき、少なくとも一つのガード21の上端が、基板Wよりも上方に配置される。したがって、基板Wから排出された薬液やリンス液などの処理液は、いずれかのガード21に受け止められ、このガード21に対応するカップ22に案内される。
【0060】
複数の液吐出部は、第1薬液を吐出する第1薬液吐出部41と、第2薬液を吐出する第2薬液吐出部42と、リンス液を吐出するリンス液吐出部43とを含む。さらに、複数の不活性ガスを吐出するガス吐出部が備えられていてもよい。複数の液吐出部はそれぞれに液吐出を制御するバルブを有しており、液吐出の開始と停止を行うことができる。複数の液吐出部はそれぞれ駆動機構を有しており、基板上に液を吐出する処理位置と、基板より外側にある待機位置との間を駆動することができる。バルブ、駆動機構は制御装置3により制御される。
【0061】
第1薬液は、基板の自然酸化膜を除去可能な薬液(たとえば、フッ酸、バッファードフッ酸、アンモニア水など)、のうちの少なくとも1つを含む液である。図4ではDHFと表記している。
【0062】
第2薬液は、本発明のシリコンエッチング液である。図4ではTMAHCOMPOUNDと表記している。
【0063】
リンス液吐出部43に供給されるリンス液は純水(脱イオン水)である。リンス液吐出部43に供給されるリンス液は、純水以外のリンス液であってもよい。図4ではDIWと表記している。
【0064】
図5は、図6に示す処理が行われる前後の基板Wの断面の一例を示す模式図である。
【0065】
図5の左側は、図6に示す処理(エッチング)が行われる前の基板Wの断面を示しており、図5の右側は、図6に示す処理(エッチング)が行われた後の基板Wの断面を示している。図5の右側に示すように、基板Wがエッチングされると、基板Wの面方向(基板Wの厚み方向Dtに直交する方向)に凹んだ複数のリセスR1が凹部92の側面92sに形成される。
【0066】
図5に示すように、基板Wは、シリコンウエハなどの母材の上に形成された積層膜91と、基板Wの最表面Wsから基板Wの厚み方向Dt(基板Wの母材の表面に直交する方向)に凹んだ凹部92とを含む。積層膜91は、複数のポリシリコン膜P1、P2、P3と複数の酸化シリコン膜O1、O2、O3とを含む。ポリシリコン膜P1~P3は、エッチング対象物の一例であり、酸化シリコン膜O1~O3は、非エッチング対象物の一例である。酸化シリコンは、第4級アンモニウム水酸化物を含むアルカリ性のエッチング液に溶解しないもしくは殆ど溶解しない物質である。
【0067】
複数のポリシリコン膜P1~P3および複数の酸化シリコン膜O1~O3は、ポリシリコン膜と酸化シリコン膜とが交互に入れ替わるように基板Wの厚み方向Dtに積層されている。ポリシリコン膜P1~P3は、基板W上にポリシリコンを堆積させる堆積工程と、堆積したポリシリコンを加熱する熱処理工程と、が行われた薄膜である(図6参照)。ポリシリコン膜P1~P3は、熱処理工程が行われていない薄膜であってもよい。
【0068】
図5に示すように、凹部92は、複数のポリシリコン膜P1~P3および複数の酸化シリコン膜O1~O3を基板Wの厚み方向Dtに貫通している。ポリシリコン膜P1~P3および酸化シリコン膜O1~O3の側面は、凹部92の側面92sで露出している。凹部92は、トレンチ、ビアホール、およびコンタクトホールのいずれかであってもよいし、これら以外であってもよい。
【0069】
図6に示す処理(エッチング)が開始される前は、ポリシリコン膜P1~P3および酸化シリコン膜O1~O3の表層に自然酸化膜が形成されている。図5の左側の二点鎖線は、自然酸化膜の輪郭を示している。以下では、酸化膜除去液の一例であるDHFの供給によってポリシリコン膜P1~P3および酸化シリコン膜O1~O3の自然酸化膜を除去し、その後、エッチング液の供給によってポリシリコン膜P1~P3を選択的にエッチングする処理について説明する。
【0070】
図6は、基板処理装置1によって実行される基板Wの処理の一例について説明するための工程図である。
【0071】
以下では、図3図4、および図6を参照して、基板処理装置1によって実行される基板Wの処理の一例について説明する。基板処理装置1では、図6中のスタート以降の工程が実行される。
【0072】
基板処理装置1によって基板Wが処理されるときは、チャンバー4内に基板Wを搬入する搬入工程が行われる(図6のステップS1)。
【0073】
具体的には、全てのガード21が下位置に位置している状態で、センターロボットCRが、基板WをハンドH1で支持しながら、ハンドH1をチャンバー4内に進入させる。そして、センターロボットCRは、基板Wの表面が上に向けられた状態でハンドH1上の基板Wを複数のチャックピン11の上に置く。その後、複数のチャックピン11が基板Wの外周面に押し付けられ、基板Wが把持される。センターロボットCRは、基板Wをスピンチャック10の上に置いた後、ハンドH1をチャンバー4の内部から退避させる。
【0074】
次に、スピンモータ13が駆動され、基板Wの回転が開始される(図6のステップS2)。
【0075】
次に、第1薬液の一例であるDHFを基板Wの上面に供給する第1薬液供給工程が行われる(図6のステップS3)。
【0076】
具体的には、第1薬液吐出部41の第1薬液バルブが開かれ、DHFの吐出を開始する。第1薬液吐出部41から吐出されたDHFは、基板Wの上面中央部に衝突した後、回転している基板Wの上面に沿って外方に流れる。これにより、基板Wの上面全域を覆うDHFの液膜が形成され、基板Wの上面全域にDHFが供給される。第1薬液バルブが開かれてから所定時間が経過すると、第1薬液バルブが閉じられ、DHFの吐出が停止される。
【0077】
次に、リンス液の一例である純水を基板Wの上面に供給する第1リンス液供給工程が行われる(図6のステップS4)。
【0078】
具体的には、リンス液吐出部43のリンス液バルブが開かれ、リンス液吐出部43が純水の吐出を開始する。基板Wの上面中央部に衝突した純水は、回転している基板Wの上面に沿って外方に流れる。基板W上のDHFは、リンス液吐出部43から吐出された純水によって洗い流される。これにより、基板Wの上面全域を覆う純水の液膜が形成される。リンス液バルブが開かれてから所定時間が経過すると、リンス液バルブが閉じられ、純水の吐出が停止される。
【0079】
次に、第2薬液としてシリコンエッチング液を基板Wの上面に供給する第2薬液供給工程が行われる(図6のステップS5)。
【0080】
具体的には、第2薬液吐出部42の第2薬液バルブが開かれ、第2薬液吐出部42がエッチング液の吐出を開始する。エッチング液の吐出が開始される前に、ガード昇降ユニットは、基板Wから排出された液体を受け止めるガード21を切り替えるために、少なくとも一つのガード21を鉛直に移動させてもよい。基板Wの上面中央部に衝突したエッチング液は、回転している基板Wの上面に沿って外方に流れる。基板W上の純水は、第2薬液吐出部42から吐出されたエッチング液に置換される。これにより、基板Wの上面全域を覆うエッチング液の液膜が形成される。第2薬液バルブが開かれてから所定時間が経過すると、第2薬液バルブが閉じられ、エッチング液の吐出が停止される。
【0081】
次に、リンス液の一例である純水を基板Wの上面に供給する第2リンス液供給工程が行われる(図6のステップS6)。
【0082】
具体的には、リンス液吐出部43のリンス液バルブが開かれ、リンス液吐出部43が純水の吐出を開始する。基板Wの上面中央部に衝突した純水は、回転している基板Wの上面に沿って外方に流れる。基板W上のエッチング液は、リンス液吐出部43から吐出された純水によって洗い流される。これにより、基板Wの上面全域を覆う純水の液膜が形成される。リンス液バルブが開かれてから所定時間が経過すると、リンス液バルブが閉じられ、純水の吐出が停止される。
【0083】
次に、基板Wの回転によって基板Wを乾燥させる乾燥工程が行われる(図6のステップS7)。
【0084】
具体的には、スピンモータ13が基板Wを回転方向に加速させ、第1薬液供給工程から第2リンス液供給工程までの期間における基板Wの回転速度よりも大きい高回転速度(たとえば数千rpm)で基板Wを回転させる。これにより、液体が基板Wから除去され、基板Wが乾燥する。基板Wの高速回転が開始されてから所定時間が経過すると、スピンモータ13が回転を停止する。これにより、基板Wの回転が停止される(図6のステップS8)。
【0085】
次に、基板Wをチャンバー4から搬出する搬出工程が行われる(図6のステップS9)。
【0086】
具体的には、ガード昇降ユニットが全てのガード21を下位置まで下降させる。その後、センターロボットCRが、ハンドH1をチャンバー4内に進入させる。センターロボットCRは、複数のチャックピン11が基板Wの把持を解除した後、スピンチャック10上の基板WをハンドH1で支持する。その後、センターロボットCRは、基板WをハンドH1で支持しながら、ハンドH1をチャンバー4の内部から退避させる。これにより、処理済みの基板Wがチャンバー4から搬出される。
【0087】
以上のように本発明の好ましい実施形態では、上記したシリコンエッチング液を、ポリシリコン膜P1~P3(図5参照)とポリシリコン膜P1~P3とは異なる酸化シリコン膜O1~O3(図5参照)とが露出した基板Wに供給する。
【0088】
本実施形態では、酸化膜除去液の一例であるDHFが基板Wに供給され、ポリシリコン膜P1~P3の自然酸化膜がポリシリコン膜P1~P3の表層から除去される。その後、エッチング液が基板Wに供給され、エッチング対象物であるポリシリコン膜P1~P3が選択的にエッチングされる。ポリシリコン膜P1~P3の自然酸化膜は、主として酸化シリコンで構成されている。エッチング液は、酸化シリコンをエッチングせずにもしくは殆どエッチングせずに、ポリシリコン膜P1~P3をエッチングする液体である。これは、水酸化物イオンがケイ素と反応するものの、酸化シリコンとは反応しないもしくは殆ど反応しないからである。したがって、ポリシリコン膜P1~P3の自然酸化膜を予め除去することにより、ポリシリコン膜P1~P3を効率的にエッチングできる。
【0089】
本実施形態では、シリコンエッチング液中の溶存酸素濃度が高い場合と低い場合とでのエッチング速度をほぼ等しくすることができ(エッチング速度比が1近傍)、シリコンエッチング液中の溶存酸素濃度の変動によるエッチング速度の変動が抑制できる。そのため、処理環境により生じる溶存酸素濃度の変動による影響なく基板に対して均一なエッチング処理ができる。一方、シリコンエッチング液中の溶存酸素濃度の変動によるエッチング速度の変動を抑制できない場合には、ポリシリコン膜のエッチングにより形成されるリセスR1の幅が不均一になり、残留するポリシリコン膜の体積も不均一化する。この結果、設計時の容量が達成されず、所望のデバイスが得られない。
【0090】
本実施形態では、処理ユニット2は、スピンチャック10の上方に配置された遮断部材を備えていてもよい。遮断部材は、スピンチャック10の上方に配置された円板部と、円板部外周部から下方に延びる筒状部とを含む。
【0091】
本実施形態では、基板を1枚ずつ処理する枚葉式の基板処理装置での実施例を示したが、複数枚を一括で処理するバッチ式の基板処理装置でもよい。
【実施例0092】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0093】
実施例1
シリコンエッチング液として、式(1)で示される化合物としてプロピレングリコールモノプロピルエーテルを用い、表1に示す組成のシリコンエッチング液を調製した。
【0094】
調製したシリコンエッチング液を用いて、液温40℃でのエッチングを想定し、液温40℃でのN2通気後のエッチング速度(RN)と空気通気後のエッチング速度(RA)との比(RN/RA)を測定した。なお、いずれの実施例、比較例においても、シリコンエ
ッチング液の、N2通気後の溶存酸素濃度は1ppm以下、空気通気後の飽和溶存酸素濃度は4ppm以上であった。
【0095】
2通気後のエッチング速度(RN)は、液温40℃に加熱したシリコンエッチング液に溶存酸素濃度が低下して一定濃度値となるまでN2ガスをバブリングして通気した後、シリコン基板を通気後のシリコンエッチング液に5~60秒浸漬し、液温40℃でのシリコンのエッチング速度を測定した。シリコンエッチング液の溶存酸素濃度は、溶存酸素濃度計で測定した。対象のシリコン基板は、ポリシリコン膜を製膜したノンドープポリシリコン基板(PolySiTypeA)であって、薬液にて自然酸化膜を除去したものである。エッチング速度は、エリプソメータでエッチング前とエッチング後の膜厚を測定し、処理前後のポリシリコン膜厚差をエッチング時間で除することにより求めた。空気通気後のエッチング速度(RA)は、N2ガスの代わりに空気を用い、溶存酸素濃度が増加して一定濃度値になるまでバブリングしたほかはN2通気後のエッチング速度(RN)の測定と同様にして行った。N2通気後のエッチング速度(RN)と空気通気後のエッチング速度(RA)との比(RN/RA)を算出した。下記評価条件での結果を表1及び図1に示す。
【0096】
実施例2
シリコンエッチング液として、表1に示す組成のシリコンエッチング液を用い、対象のシリコン基板としてポリシリコン膜を製膜したポリシリコン基板(PolySiTypeB)を用いた以外、実施例1と同様にしてエッチング速度比(RN/RA)を算出した。なお、PolySiTypeAとPolySiTypeBとは、製膜時の膜厚、又はアニール条件等の製膜条件が異なる膜である。結果を表1及び図1に示す。
【0097】
実施例3
シリコンエッチング液として、表1に示す組成のシリコンエッチング液を用いた以外、実施例1と同様にしてエッチング速度比(RN/RA)を算出した。結果を表1及び図1に示す。
【0098】
比較例1
シリコンエッチング液として、式(1)で示される化合物を含有しないシリコンエッチング液を用いた以外、実施例1と同様にしてエッチング速度比(RN/RA)を算出した。結果を表1及び図1に示す。
【0099】
実施例4
対象のシリコン基板としてアモルファスシリコン膜を製膜したポリシリコン基板(a-SiTypeC)を用いた以外、実施例2と同様にしてエッチング速度比(RN/RA)を算出した。結果を表1及び図1に示す。
【0100】
比較例2
対象のシリコン基板としてアモルファスシリコン膜を製膜したポリシリコン基板(a-SiTypeC)を用いた以外、比較例1と同様にしてエッチング速度比(RN/RA)を算出した。結果を表1及び図1に示す。
【0101】
実施例5~7、比較例1
シリコンエッチング液として、表2に示す組成のシリコンエッチング液を用いた以外、実施例1と同様にしてエッチング速度比(RN/RA)を算出した。
【0102】
結果を図2に示す。エッチング速度比は、比較例1>1.5>実施例5>実施例6>実施例7>0.5であった。図2中、グレーのエリア内のグラフはエッチング速度比が0.
5~1.5の範囲内である。
【0103】
実施例8~68、比較例3~9
シリコンエッチング液として、表3に示す組成のシリコンエッチング液を用い、対象のシリコン基板として表1に記載のシリコン基板を用いた以外、実施例1と同様にしてエッチング速度比(RN/RA)を算出した。結果を表3に示す。
【0104】
【表1】
【表2】
【表3】
【0105】
なお、表1、表2中、X、Y、Zは、0.1≦X<Y<Z≦20(質量%)を満たし、A、B、Cは、0.1≦A<B<C≦20(質量%)を満たす。
【符号の説明】
【0106】
1基板処理装置
2処理ユニット
3制御装置
4チャンバー
10スピンチャック
11チャックピン
12スピンベース
13スピンモータ
20処理カップ
21ガード
22カップ
41第1薬液吐出部
42第2薬液吐出部
43リンス液吐出部
91積層膜
92凹部
R1リセス
P1、P2、P3ポリシリコン膜
O1、O2、O3酸化シリコン膜
LPロードポート
IRインデクサロボット
CRセンターロボット
H1(H2)ハンド
図1
図2
図3
図4
図5
図6