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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087103
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】多層構造体及びそれを用いた包装材料
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/28 20060101AFI20240624BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B32B27/28 102
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201706
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石内 聡史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健太郎
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB01
3E086BB05
3E086BB51
3E086BB85
3E086DA06
4F100AK01B
4F100AK04D
4F100AK05D
4F100AK62C
4F100AK69A
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100CB00B
4F100EH20
4F100EH46
4F100EJ37D
4F100EJ38D
4F100EJ86
4F100GB15
4F100JA04D
4F100JA06C
4F100JA13C
4F100JD02A
4F100JD03
4F100JD04
4F100JK06
4F100JK10
4F100JL11B
4F100JL12C
4F100JL16
4F100YY00A
4F100YY00C
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】バリア性、機械物性及びリサイクル性に優れる多層構造体の提供。
【解決手段】
層(X)と層(Y)とが積層されており、層(X)が、エチレン単位含有量20~50モル%、けん化度90モル%以上のEVOH(a)を主成分とするバリア層(A)、接着性樹脂(b)を主成分とする接着層(B)及び密度が0.880~0.920g/cmであるエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)を主成分とする熱融着層(C)を有し、融点が200℃以上の樹脂を主成分とする層及び厚み1μm以上の金属層を有さず、層(Y)はポリエチレンを主成分として含み、層(Y)をDSCで-50℃から10℃/分で220℃まで昇温(第一昇温)、-50℃まで降温した後再度220℃まで昇温(第二昇温)した際、第一昇温時及び第二昇温時の0~150℃における全融解熱(H1)及び全融解熱(H2)の比(H1/H2)が、1.01~1.10である、多層構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーラント層(X)と基材層(Y)とを積層した多層構造体であって、
シーラント層(X)が、エチレン単位含有量が20~50モル%であり、けん化度が90モル%以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(a)を主成分として含むバリア層(A)、接着性樹脂(b)を主成分として含む接着層(B)及び密度が0.880~0.920g/cmであるエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)を主成分として含む熱融着層(C)を有し、
融点が200℃以上の樹脂を主成分として含む層及び厚み1μm以上の金属層を有さず、
基材層(Y)はポリエチレンを主成分として含み、
基材層(Y)を示差走査熱量計(DSC)で-50℃から10℃/分で220℃まで昇温(第一昇温)し、次いで10℃/分で-50℃まで降温し、さらに10℃/分で220℃まで昇温(第二昇温)した際、第一昇温時の0~150℃における全融解熱(H1)と、第二昇温時の0~150℃における全融解熱(H2)の比(H1/H2)が、1.01~1.10である、多層構造体。
【請求項2】
基材層(Y)が、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が128℃以上である高密度ポリエチレンを主成分として含む層である、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
シーラント層(X)および基材層(Y)がドライラミネートにより積層されている、請求項1または2に記載の多層構造体。
【請求項4】
基材層(Y)が少なくとも一軸方向に延伸されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項5】
基材層(Y)が機械方向(MD)に一軸延伸されている、請求項4に記載の多層構造体。
【請求項6】
基材層(Y)が二軸方向に延伸されている、請求項4に記載の多層構造体。
【請求項7】
シーラント層(X)が延伸されていない、請求項1~6のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項8】
バリア層(A)がホウ素化合物(g)をホウ素元素換算で50~400ppm含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項9】
バリア層(A)が2,4-ヘキサジエナール(d1)及び2,4,6-オクタトリエナール(d2)からなる群より選ばれる少なくとも1種であるアルデヒド(d)を0.01~7.00ppm含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項10】
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)の、JIS K7210(2014)に準拠して測定されるMFR(190℃、2.16kg荷重下)が、0.5~5.0g/10分である、請求項1~9のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項11】
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)が、エチレンと炭素数6以上のα-オレフィンとを共重合させた直鎖状低密度ポリエチレンである、請求項1~10のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項12】
バリア層(A)が、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の多価金属イオン(e)を10~200ppm含有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項13】
バリア層(A)が、アルカリ金属イオン(f)を10~400ppm含有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項14】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(a)が、エチレン単位含有量が22モル%以上34モル%未満であり、けん化度が99モル%以上であるEVOH(a1)と、エチレン単位含有量が34モル%以上50モル%未満であり、けん化度が99モル%以上であるEVOH(a2)を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項15】
バリア層(A)と基材層(Y)とが接着層を介して積層されている、請求項1~14のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の多層構造体を含む包装材料。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1項に記載の多層構造体の回収物を含む、回収組成物。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか1項に記載の多層構造体を粉砕した後に溶融成形する、多層構造体の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性、機械物性及びリサイクル性に優れる多層構造体並びにそれを用いた包装材料、回収組成物及び回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品を長期保存するための包装材料には、酸素バリア性をはじめとするガスバリア性が要求されることが多い。ガスバリア性の高い包装材料を用いることで、酸素浸入による食品の酸化劣化や微生物の繁殖を抑制できる。ガスバリア性を向上させる層としては、アルミニウム等の金属箔や、酸化ケイ素や酸化アルミニウムといった無機蒸着層が広く使用されている。一方、ビニルアルコール系重合体やポリ塩化ビニリデンといったガスバリア性を有する樹脂層も広く使用されている。ビニルアルコール系重合体は、分子中の水酸基同士が水素結合することによって結晶化、高密度化してガスバリア性を発揮する特徴を有する。中でも、エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」と略記することがある)は、熱安定性に優れることから溶融成形に適しており、共押出技術の発展に伴い、EVOH層を中間層に有する多層構造体が、ガスバリア性包装材料として広く使用されている。
【0003】
また、近年では、環境問題や廃棄物問題が契機となり、市場で消費された包装材料を回収して再資源化する、いわゆるポストコンシューマーリサイクル(以下、単にリサイクルと略記することがある)の要求が世界的に高まっている。リサイクルにおいては、回収された包装材料を裁断し、必要に応じて分別・洗浄した後に、押出機を用いて溶融混合する工程が一般に採用される。この点においては、包装材料はできる限り単一材料で構成されることが求められており(モノマテリアル化)、それによって高純度で高品質な再資源化原料を得ることができる。
【0004】
特許文献1には、突刺強度が40N/mm以上150N/mm以下の硬質層と(1)融点が170℃以上のEVOHと融点が170℃未満のEVOHを有する樹脂組成物層、又は(2)特定の一級水酸基を持つ変性基を含有する変性EVOHを有する樹脂組成物層を有する多層構造体が、ポリアミド層を有していないにもかかわらず、機械強度及び熱成形性に優れ、その回収物を溶融成形する際に、樹脂の劣化(ゲル化)によるブツの発生等が抑制され、リサイクル性にも優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/071513号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、内容物の重量が大きい包装材料として使用される場合には、より高い機械強度が要求される傾向にあり、特許文献1に記載の多層構造体では機械強度が不足する場合があった。また、多層構造体の厚みを増すことで機械強度は向上できるものの、包装材料に使用する樹脂量が増加することから、できる限り厚みを抑えたまま、機械強度を効率的に向上させることが求められている。また、例えば、バリアフィルムをスープなどの食品または洗剤等の液体の包材として用いたり、粉末など吸湿すると固化する物の包材として用いたりする場合には、品質を保つために水分等の透過を抑制する必要があるが、特許文献1に記載の多層構造体では、水蒸気バリア性が不足する場合があった。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、バリア性(酸素バリア性及び水蒸気バリア性)、機械物性及びリサイクル性に優れる多層構造体並びにそれを用いた包装材料、回収組成物及び回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば上記目的は
[1]シーラント層(X)と基材層(Y)とを積層した多層構造体であって、シーラント層(X)が、エチレン単位含有量が20~50モル%であり、けん化度が90モル%以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(a)(以下「EVOH(a)」と略記する場合がある)を主成分として含むバリア層(A)(以下単に「バリア層(A)」と記載する場合がある)、接着性樹脂(b)を主成分として含む接着層(B)(以下単に「接着層(B)」と記載する場合がある)及び密度が0.880~0.920g/cmであるエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)(以下「エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)」と略記する場合がある)を主成分として含む熱融着層(C)(以下単に「熱融着層(C)」と記載する場合がある)を有し、融点が200℃以上の樹脂を主成分として含む層及び厚み1μm以上の金属層を有さず、基材層(Y)はポリエチレンを主成分として含み、基材層(Y)を示差走査熱量計(DSC)で-50℃から10℃/分で220℃まで昇温(第一昇温)し、次いで10℃/分で-50℃まで降温し、さらに10℃/分で220℃まで昇温(第二昇温)した際、第一昇温時の0~150℃における全融解熱(H1)と、第二昇温時の0~150℃における全融解熱(H2)の比(H1/H2)が、1.01~1.10である、多層構造体;
[2]基材層(Y)が、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が128℃以上である高密度ポリエチレンを主成分として含む層である、[1]の多層構造体;
[3]シーラント層(X)および基材層(Y)がドライラミネートにより積層されている、[1]または[2]の多層構造体;
[4]基材層(Y)が少なくとも一軸方向に延伸されている、[1]~[3]のいずれかの多層構造体;
[5]基材層(Y)が機械方向(MD)に一軸延伸されている、[4]の多層構造体;
[6]基材層(Y)が二軸方向に延伸されている、[4]の多層構造体;
[7]シーラント層(X)が延伸されていない、[1]~[6]のいずれかの多層構造体;
[8]バリア層(A)がホウ素化合物(g)をホウ素元素換算で50~400ppm含む、[1]~[7]のいずれかの多層構造体;
[9]バリア層(A)が2,4-ヘキサジエナール(d1)及び2,4,6-オクタトリエナール(d2)からなる群より選ばれる少なくとも1種であるアルデヒド(d)を0.01~7.00ppm含む、[1]~[8]のいずれかの多層構造体;
[10]エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)の、JIS K7210(2014)に準拠して測定されるMFR(190℃、2.16kg荷重下)が、0.5~5.0g/10分である、[1]~[9]のいずれかの多層構造体;
[11]エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)が、エチレンと炭素数6以上のα-オレフィンとを共重合させた直鎖状低密度ポリエチレンである、[1]~[10]のいずれかの多層構造体;
[12]バリア層(A)が、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の多価金属イオン(e)を10~200ppm含有する、[1]~[11]のいずれかの多層構造体;
[13]バリア層(A)が、アルカリ金属イオン(f)を10~400ppm含有する、[1]~[12]のいずれかの多層構造体;
[14]エチレン-ビニルアルコール共重合体(a)が、エチレン単位含有量が22モル%以上34モル%未満であり、けん化度が99モル%以上であるEVOH(a1)と、エチレン単位含有量が34モル%以上50モル%未満であり、けん化度が99モル%以上であるEVOH(a2)を含む、[1]~[13]のいずれかの多層構造体;
[15]バリア層(A)と基材層(Y)とが接着層を介して積層されている、[1]~[14]のいずれかの多層構造体;
[16][1]~[15]のいずれかの多層構造体を含む包装材料;
[17][1]~[15]のいずれかの多層構造体の回収物を含む、回収組成物;
[18][1]~[15]のいずれかの多層構造体を粉砕した後に溶融成形する、多層構造体の回収方法;
を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層構造体及びそれを用いた包装材料は、バリア性、機械物性及びリサイクル性に優れる。また、本発明の多層構造体及びそれを用いた包装材料はリサイクル性に優れるため、多層構造体を溶融混練して得られる回収組成物及びその回収方法も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現するものとして具体的な材料(化合物等)を例示する場合があるが、本発明はこのような材料を使用した態様に限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0011】
本願明細書において、「ポリエチレン」とは、エチレンの単独重合体、80モル%以上のエチレンと20モル%以下のα-オレフィンモノマーとの共重合体、並びに90モル%以上のエチレンと官能基に炭素原子、酸素原子及び水素原子以外の原子を含まない10モル%未満の非オレフィンモノマーとの共重合体をいう。「ポリエチレン系樹脂」とは、ポリエチレン及び酸変性ポリエチレンをいう。「酸変性ポリエチレン」とは、ポリエチレンを酸により変性して得られるポリマーをいう。酸変性ポリエチレンは、ポリエチレンに対して、酸性基及び酸無水物基の少なくとも一方が導入されたポリマーであってよい。
【0012】
本発明の多層構造体は、シーラント層(X)と基材層(Y)とを積層した多層構造体であって、シーラント層(X)が、エチレン単位含有量が20~50モル%であり、けん化度が90モル%以上であるEVOH(a)を主成分として含むバリア層(A)、接着性樹脂(b)を主成分として含む接着層(B)及び密度が0.880~0.920g/cmであるエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)を主成分として含む熱融着層(C)を有し、融点が200℃以上の樹脂を主成分として含む層及び厚み1μm以上の金属層を有さず、基材層(Y)はポリエチレンを主成分として含み、基材層(Y)を示差走査熱量計(DSC)で-50℃から10℃/分で220℃まで昇温(第一昇温)し、次いで10℃/分で-50℃まで降温し、さらに10℃/分で220℃まで昇温(第二昇温)した際、第一昇温時の0~150℃における全融解熱(H1)と、第二昇温時の0~150℃における全融解熱(H2)の比(H1/H2)が、1.01~1.10である。ここで、「主成分として含む」とは50質量%超含むことを意味するが、70質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上、97質量%以上または99質量%以上であってもよい。本発明の多層構造体は、バリア層(A)を備えることでリサイクル性を維持しつつガスバリア性を高めることができる傾向となる。また、接着層(B)を備えることで機械強度及びリサイクル性を高めることができる傾向となる。また、熱融着層(C)の主成分が、密度が0.880~0.920g/cmであるエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)であることで、優れた機械強度を実現できる傾向となる。また、本発明の多層構造体が、融点が200℃以上の樹脂を主成分として含む層及び厚み1μm以上の金属層を有さないことによって、良好なリサイクル性を示すことができる。さらに、本発明の多層構造体の基材層(Y)の上記融解熱の比(H1/H2)を1.01~1.10とすることによって、多層構造体の厚みが薄かったとしても(例えば200μm以下)、水蒸気バリア性を効率的に向上できる。本明細書におけるリサイクル性は、多層構造体の破砕物を溶融混練して得られる溶融成形物における、ブツ及び着色の評価並びに多層構造体の破砕物の溶融混練時の溶融粘度安定性により評価することができ、具体的には実施例記載の方法により評価できる。本明細書における機械強度は、突刺破断強伸度及び落下破袋耐性評価により評価することができ、具体的には実施例記載の方法により評価できる。本明細書において「バリア性」とは酸素バリア性及び水蒸気バリア性のことを意味し、「ガスバリア性」とは酸素バリア性のことを意味する。
【0013】
<バリア層(A)>
本発明の多層構造体は、EVOH(a)を主成分として含むバリア層(A)を有する。EVOH(a)はガスバリア性に優れることから、EVOH(a)を主成分として含む層を有する多層構造体は、内容物保存性の高い包装材料として好ましく用いられる。また、EVOH(a)はポリエチレン系の樹脂と容易に溶融混合できるため、リサイクル性に優れた包装材料を提供できる。
【0014】
EVOH(a)は、通常、エチレンとビニルエステルとを重合して得られるエチレン-ビニルエステル共重合体をけん化することにより得られる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等)も使用できる。
【0015】
EVOH(a)のエチレン単位含有量は20~50モル%である。エチレン単位含有量が20モル%以上であると、EVOH(a)及びEVOH(a)を含む多層構造体の粉砕物の溶融成形性が向上する。エチレン単位含有量は、23モル%以上が好ましく、26モル%以上がより好ましく、29モル%以上であってもよい。一方、エチレン単位含有量が50モル%以下であると、本発明の多層構造体のガスバリア性が向上する。エチレン単位含有量は、46モル%以下が好ましく、42モル%以下がより好ましく、38モル%以下であってもよい。また、EVOH(a)のけん化度は90モル%以上である。けん化度とは、EVOH(a)中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合を意味する。けん化度が90モル%以上であると、本発明の多層構造体のガスバリア性が向上する。けん化度は95モル%以上が好ましく、99モル%以上がより好ましく、99.9モル%以上がさらに好ましい。けん化度は100モル%以下であってもよい。EVOH(a)のエチレン単位含有量及びけん化度は、H-NMR測定で求められる。
【0016】
EVOH(a)は、エチレン単位含有量の異なる2種類以上のEVOHの混合物であってもよい。この場合、エチレン単位含有量が最も離れたEVOH同士のエチレン単位含有量の差が、30モル%以下が好ましく、25モル%以下がより好ましく、20モル%以下がさらに好ましく、3モル%以上であってもよい。同様に、EVOH(a)は、けん化度の異なる2種類以上のEVOHの混合物であってもよい。この場合、最も離れたEVOH同士のけん化度の差は7モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、0.5モル%以上であってもよい。熱成形性及びガスバリア性をより高いレベルで両立させたい場合は、エチレン単位含有量が22モル%以上34モル%未満であり、けん化度が99モル%以上であるEVOH(a1)と、エチレン単位含有量が34モル%以上50モル%未満であり、けん化度が99モル%以上であるEVOH(a2)とを、配合質量比(a1/a2)が60/40~90/10となるように混合し、EVOH(a)として使用することが好ましい。
【0017】
EVOH(a)は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、エチレン、ビニルエステル及びビニルアルコール以外の他の単量体単位を含有していてもよい。特に、特定の構造を有する一級水酸基を含む変性基を導入することで、EVOH(a)のガスバリア性と成型加工性を高いレベルで両立できる場合がある。他の単量体単位の含有量は10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましく、実質的に含有されていないことが特に好ましい。このような他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基含有アルケンまたはそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸またはその無水物、塩、またはモノもしくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸またはその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0018】
EVOH(a)は、必要に応じてウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等することにより変性されていてもよい。オキシアルキレン化はエポキシ化合物を用いて行うことができ、例えば、エポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、3-メチル-1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシペンタン、3-メチル-1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、2,3-エポキシヘキサン、3,4-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘプタン、4-メチル-1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシオクタン、2,3-エポキシオクタン、1,2-エポキシノナン、2,3-エポキシノナン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1-フェニル-1,2-プロパン、3-フェニル-1,2-エポキシプロパン、各種アルキルグリシジルエーテル、各種アルキレングリコールモノグリシジルエーテル、各種アルケニルグリシジルエーテル、グリシドール等の各種エポキシアルカノール、各種エポキシシクロアルカン、各種エポキシシクロアルケン等が挙げられる。中でも、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタンまたはグリシドールが好ましく、エポキシプロパンまたはグリシドールがより好ましい。
【0019】
EVOH(a)のJIS K7210(2014)に準拠して測定されるMFR(190℃、2.16kg荷重下)は0.2~20g/10分が好ましい。EVOH(a)のMFRは0.5g/10分以上がより好ましく、0.8g/10分以上がさらに好ましい。一方、EVOH(a)のMFRは15g/10分以下がより好ましく、10g/10分以下がさらに好ましく、5g/10分以下がよりさらに好ましく、3g/10分以下が特に好ましい。EVOH(a)のMFRが上記範囲であると、EVOH(a)及びEVOH(a)を含む多層構造体(本発明の多層構造体)の粉砕物の溶融成形性が向上する。
【0020】
バリア層(A)は、2,4-ヘキサジエナール(d1)及び2,4,6-オクタトリエナール(d2)からなる群より選ばれる少なくとも1種である脂肪族アルデヒド(d)を0.01ppm以上、7.00ppm以下含むことが好ましい。バリア層(A)における脂肪族アルデヒド(d)の含有量の下限は0.01ppmが好ましく、0.02ppmがより好ましく、0.04ppmがさらに好ましく、0.10ppmが特に好ましい。バリア層(A)における脂肪族アルデヒド(d)の含有量の上限は7.00ppmが好ましく、4.00ppmがより好ましく、3.00ppmがさらに好ましく、2.50ppmがよりさらに好ましく、0.50ppmが特に好ましい。脂肪族アルデヒド(d)の含有量がこの範囲内であると、EVOH(a)及び多層構造体の粉砕物の溶融成形物をフィルム成形した際のブツが低減される。
【0021】
バリア層(A)は、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の多価金属イオン(e)を10~200ppm含有することが好ましい。多価金属イオン(e)を一定量含有することで、EVOH(a)及びEVOH(a)を含む多層構造体の粉砕物を溶融成形する際の増粘、ゲル化やスクリューへの樹脂付着が抑制される。バリア層(A)は、多価金属イオン(e)として、マグネシウムイオン又はカルシウムイオンを含有することがより好ましく、マグネシウムイオンを含有することがさらに好ましい。また、多価金属イオン(e)をカルボン酸塩として含有することが好ましい。このときのカルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸のいずれであってもよいが、脂肪族カルボン酸が好ましい。脂肪族カルボン酸としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられ、炭素数10~25の高級脂肪酸がより好ましい。また、溶融成型時の着色を抑制する点からは、多価金属イオン(e)は、後述する多価カルボン酸の塩として含有することも好ましい。
【0022】
バリア層(A)中の多価金属イオン(e)の含有量は金属原子換算で10~200ppmが好ましい。当該含有量が10ppm以上であると、EVOH(a)及びEVOH(a)を含む多層構造体の粉砕物の粘度安定性が良好となり、樹脂のゲル化や押出機スクリューへの樹脂の付着が抑制される。多価金属イオン(e)の含有量の下限は20ppmがより好ましい。一方、多価金属イオン(e)の含有量が200ppm以下であると、EVOH(a)を含む多層構造体の粉砕物の過剰な分解が抑制され、回収組成物の色相が良好となる。多価金属イオン(e)の含有量の上限は160ppmがより好ましく、120ppmがさらに好ましい。
【0023】
バリア層(A)は、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、EVOH(a)及び多価金属イオン(e)以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えばアルカリ金属イオン(f)、多価金属イオン(e)以外の多価金属イオン、カルボン酸、リン酸化合物、ホウ素化合物、酸化促進剤、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤(溶融安定剤)、光開始剤、脱臭剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、乾燥剤、充填剤、顔料、染料、加工助剤、難燃剤、及び防曇剤等が挙げられる。特に、EVOH(a)を含む積層体の層間接着性や溶融成形性を改善する観点からは、アルカリ金属イオンを含むことが好ましい。また、EVOH(a)及びEVOH(a)を含むリサイクル樹脂を溶融成形する際に着色が抑制できる観点からは、カルボン酸及び/又はリン酸化合物を含むことが好ましい。さらに、ホウ素化合物を含むことで、EVOH(a)及びEVOH(a)を含むリサイクル樹脂の溶融粘度を制御できるとともに、本発明の多層構造体の機械強度を向上できる場合がある。バリア層(A)中の他の成分の含有量は、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0024】
バリア層(A)は、アルカリ金属イオン(f)を10~400ppm含有することが好ましい。アルカリ金属イオン(f)の含有量の下限は100ppmがより好ましく、150ppmがさらに好ましい。一方、アルカリ金属イオン(f)の含有量の上限は350ppmがより好ましく、250ppmであってもよい。アルカリ金属イオン(f)の含有量が10ppm以上であると、EVOH(a)を成形して得られる層を含む本発明の多層構造体における層間接着性が良好となる。一方、アルカリ金属イオン(f)の含有量が400ppm以下であると、着色を抑制できる傾向となる。また、アルカリ金属イオン(f)と、後述するカルボン酸との含有比率を制御することで、溶融成形性や着色耐性をさらに改善できる。
【0025】
アルカリ金属イオン(f)としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムのイオンが挙げられるが、工業的入手の点からはナトリウム又はカリウムのイオンが好ましい。特に、ナトリウムイオンを使用することで、色相及び接着層(B)との層間接着性を高いレベルで両立できる場合がある。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
アルカリ金属イオン(f)を与えるアルカリ金属塩としては、例えばナトリウムやカリウム等のアルカリ金属の脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、金属錯体が挙げられる。中でも、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが、入手容易である点からより好ましい。
【0027】
バリア層(A)は、ホウ素化合物(g)をさらに含有することが好ましい。ホウ素化合物(g)の含有量の下限は、ホウ素元素換算で50ppmが好ましく、100ppmがより好ましい。一方、ホウ素化合物の含有量の上限は、ホウ素元素換算で400ppmが好ましく、200ppmがより好ましい。この範囲でホウ素化合物(g)を含有することにより、多層構造体の機械物性が向上する。さらに、EVOH(a)及び多層構造体の粉砕物の溶融成形時の熱安定性が向上し、ゲル及びブツの発生が抑制される場合がある。また、耐ドローダウン性や製膜する際の耐ネックイン性が改善される場合がある。これらの効果は、EVOH(a)とホウ素化合物との間にキレート相互作用が発生することに起因すると推測される。
【0028】
ホウ素化合物(g)としては、例えばホウ酸、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素が挙げられる。具体的には、オルトホウ酸(H3BO3)、メタホウ酸、四ホウ酸等のホウ酸;ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル等のホウ酸エステル;前記ホウ酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、ホウ砂等のホウ酸塩等が挙げられる。中でもオルトホウ酸が好ましい。
【0029】
バリア層(A)はカルボン酸を含有することが好ましい。カルボン酸の含有量の下限は50ppmが好ましく、100ppmがより好ましい。一方、カルボン酸の含有量の上限は400ppmが好ましく、350ppmがより好ましい。カルボン酸の含有量が上記範囲であると、色相の悪化を抑制できる傾向となる。カルボン酸の含有量は、バリア層(A)を構成する樹脂組成物10gを純水50mlで95℃、8時間抽出した後、得られる抽出液を滴定することで求められる。なお、樹脂組成物中のカルボン酸の含有量として、前記抽出液中に塩として存在するカルボン酸は考慮しない。また、樹脂組成物が、カルボン酸以外の酸性化合物を含有する場合には、滴定による測定値からそれらの酸性化合物の寄与分を差し引くことで樹脂組成物中のカルボン酸の含有量を求めることができる。
【0030】
カルボン酸のpKaは3.5~5.5が好ましい。カルボン酸のpKaが上記範囲であると、弱酸性の範囲におけるpH緩衝能力が高まり、溶融成形性をさらに改善するとともに、酸性物質や塩基性物質による着色影響をさらに軽減できる。
【0031】
カルボン酸は、1価カルボン酸であってもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。1価カルボン酸とは、分子内に1つのカルボキシル基を有する化合物である。pKaが3.5~5.5の範囲にある1価カルボン酸としては、特に限定されず、例えばギ酸(pKa=3.77)、酢酸(pKa=4.76)、プロピオン酸(pKa=4.85)、アクリル酸(pKa=4.25)等が挙げられる。これらのカルボン酸は水酸基、アミノ基、ハロゲン原子等の置換基をさらに有していてもよい。中でも、安全性が高く、入手及び取扱いが容易であることから酢酸が好ましい。
【0032】
カルボン酸は、多価カルボン酸であってもよい。カルボン酸が多価カルボン酸であると、EVOH(a)の高温下での着色耐性や、EVOH(a)を含む多層構造体の破砕物の溶融成形物の着色耐性をさらに改善できる場合がある。また、多価カルボン酸化合物は、3個以上のカルボキシル基を有することも好ましい。この場合、着色耐性をより効果的に向上できる場合がある。多価カルボン酸とは、分子内に2つ以上のカルボキシル基を有する化合物である。この場合、少なくとも1つのカルボキシル基のpKaが3.5~5.5の範囲にあることが好ましく、例えば、シュウ酸(pKa2=4.27)、コハク酸(pKa1=4.20)、フマル酸(pKa2=4.44)、リンゴ酸(pKa2=5.13)、グルタル酸(pKa1=4.30、pKa2=5.40)、アジピン酸(pKa1=4.43、pKa2=5.41)、ピメリン酸(pKa1=4.71)、フタル酸(pKa2=5.41)、イソフタル酸(pKa2=4.46)、テレフタル酸(pKa1=3.51、pKa2=4.82)、クエン酸(pKa2=4.75)、酒石酸(pKa2=4.40)、グルタミン酸(pKa2=4.07)、アスパラギン酸(pKa=3.90)等が挙げられる。
【0033】
バリア層(A)は、リン酸化合物をさらに含有してもよい。リン酸化合物の含有量の下限は、リン酸根換算で5ppmが好ましい。一方、リン酸化合物の含有量の上限は、リン酸根換算で100ppmが好ましい。この範囲でリン酸化合物を含有することにより、EVOH(a)及び多層構造体の粉砕物の溶融成形物の着色が抑制され、熱安定性が改善される場合がある。
【0034】
リン酸化合物としては、例えばリン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等が用いられる。リン酸塩は第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれであってもよい。リン酸塩のカチオン種も特に限定されないが、カチオン種はアルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましい。中でも、リン酸化合物として、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、及びリン酸水素二カリウムが好ましい。
【0035】
バリア層(A)は、酸化防止剤として、例えば、エステル結合又はアミド結合を有するヒンダードフェノール系化合物をさらに含有してもよい。ヒンダードフェノール系化合物の含有量は1000~10000ppmが好ましい。当該含有量が1000ppm以上であると、多層構造体の粉砕物を溶融成形する際に樹脂の着色、増粘及びゲル化を抑制できる。ヒンダードフェノール系化合物の含有量は2000ppm以上がより好ましい。一方、ヒンダードフェノール系化合物の含有量が10000ppm以下であると、ヒンダードフェノール系化合物に由来する着色やブリードアウトを抑制できる。ヒンダードフェノール系化合物の含有量は8000ppm以下がより好ましい。
【0036】
ヒンダードフェノール系化合物は、少なくとも1つのヒンダードフェノール基を有する。ヒンダードフェノール基とは、フェノールのヒドロキシル基が結合した炭素に隣接する炭素の少なくとも1つに嵩高い置換基が結合したものをいう。嵩高い置換基としては、炭素原子1~10のアルキル基が好ましく、t-ブチル基がより好ましい。
【0037】
ヒンダードフェノール系化合物は室温付近において固体状態であることが好ましい。該化合物のブリードアウトを抑制する観点から、ヒンダードフェノール系化合物の融点又は軟化温度は50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。また、ブリードアウトを抑制する観点から、ヒンダードフェノール系化合物の分子量は200以上が好ましく、400以上がより好ましく、600以上がさらに好ましい。一方、該分子量は、通常、2000以下である。また、EVOH(a)との混合を容易にする観点から、ヒンダードフェノール系化合物の融点又は軟化温度は200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましく、180℃以下がさらに好ましい。
【0038】
ヒンダードフェノール系化合物はエステル結合又はアミド結合を有する。エステル結合を有するヒンダードフェノール系化合物としては、ヒンダードフェノール基を有する脂肪族カルボン酸と脂肪族アルコールとのエステルが挙げられ、アミド結合を有するヒンダードフェノール系化合物としては、ヒンダードフェノール基を有する脂肪族カルボン酸と脂肪族アミンとのアミドが挙げられる。中でも、EVOH(a)との混合を容易にする観点から、ヒンダードフェノール系化合物がアミド結合を有することが好ましい。
【0039】
ヒンダードフェノール系化合物の具体的な構造としては、BASF社からイルガノックス1010として市販されているペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、イルガノックス1076として市販されている3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、イルガノックス1035として市販されている2,2’-チオジエチルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、イルガノックス1135として市販されている3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸オクタデシル、イルガノックス245として市販されているビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン)、イルガノックス259として市販されている1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、イルガノックス1098として市販されているN,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド]が挙げられる。中でも、イルガノックス1098として市販されているN,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド]、及びイルガノックス1010として市販されているペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]が好ましく、イルガノックス1098がより好ましい。
【0040】
バリア層(A)は、EVOH(a)以外の熱可塑性樹脂をさらに含有してもよい。EVOH(a)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば各種ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体、ポリオレフィンと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-ビニルエステル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、又はこれらを不飽和カルボン酸もしくはその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィン等)、各種ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6/6、ナイロン6/66共重合体、ナイロン11、ナイロン12、ポリメタキシリレンアジパミド等)、各種ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアクリレート及び変性ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。バリア層(A)中の前記熱可塑性樹脂の含有量は50質量%未満であり、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下であってもよい。
【0041】
バリア層(A)を構成する樹脂としてEVOH(a)が占める割合は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上であってもよく、バリア層(A)を構成する樹脂がEVOH(a)のみからなってもよい。また、バリア層(A)をEVOH(a)が占める割合は、50質量%超であり、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上であってもよく、バリア層(A)は実質的にEVOH(a)のみから構成されていてもよい。
【0042】
バリア層(A)がEVOH(a)以外の成分を含む場合、バリア層(A)を構成する樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、EVOH(a)及び必要に応じてその他の添加剤(多価金属イオン(e)等)を溶融混練することにより製造できる。その他の添加材は、粉末等固体状態のまま、又は溶融物として配合してもよく、溶液に含まれる溶質又は分散液に含まれる分散質として配合してもよい。溶液及び分散液としては、それぞれ水溶液及び水分散液が好適である。溶融混練は、例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等の既知の混合装置又は混練装置を用いることができる。溶融混練時の温度範囲は、使用するEVOH(a)の融点等に応じて適宜調節でき、通常、150~300℃が採用される。
【0043】
また、別の態様では、EVOH(a)に対しその他の添加剤を高濃度に含有するマスターバッチを溶融混練によって製造し、そのマスターバッチをその他の添加剤を実質的に含有しないEVOH(a)とドライブレンドして多層構造体の製造に使用することができる。また、さらに別の態様では、EVOH(a)及びその他の添加剤は、ドライブレンドによって多層構造体の製造に使用することができる。ドライブレンドとは、粉粒状又はペレット状の形態で機械的に混合することをいう。混合は、タンブラー、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー等の混合装置を用いて行ってもよいし、密閉容器内中で、手動で攪拌、振とう等行うことにより混合してもよい。混合温度としては、室温~EVOH(a)の融点未満で行えばよく、空気雰囲気下又は窒素雰囲気下で混合することができる。また、いくつかの成分をEVOH(a)に予め添加した上で、追加で必要な他の成分を上記のように溶融混練することで製造してもよい。いくつかの成分をEVOH(a)に予め添加する方法としては、添加成分が溶解している溶液にEVOH(a)をペレット又は粉末として浸漬する方法が例示できる。溶液としては、水溶液が好適である。
【0044】
<接着層(B)>
本発明の多層構造体は、接着性樹脂(b)を主成分として含む接着層(B)を有する。接着層(B)は、バリア層(A)と熱融着層(C)とを接着する機能を有する。したがって、接着層(B)は、バリア層(A)と熱融着層(C)との間に備えられていることが好ましく、バリア層(A)及び熱融着層(C)と直接積層していることが好ましい。
【0045】
接着性樹脂(b)としては、例えば不飽和カルボン酸又はその無水物をオレフィン系重合体に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を挙げることができる。不飽和カルボン酸又はその無水物としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられ、中でも、無水マレイン酸が好適に用いられる。具体的には、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体等から選ばれた1種又は2種以上の混合物が好適なものとして挙げられ、中でも無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレンがより好ましい。このような接着性樹脂(b)の酸価は0.5~5mgKOH/gが好ましく、1~4mgKOH/gがより好ましい。接着性樹脂(b)の酸価は、溶剤としてキシレンを用い、JIS K 0070:1992に準拠して測定できる。
【0046】
接着性樹脂(b)は、未変性樹脂(bx)と酸変性樹脂(by)の混合物であってもよい。この場合、機械強度をより高める観点から、未変性樹脂(bx)が、後述するエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)を含むことが好ましく、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)であることがより好ましい。ここで、未変性樹脂(bx)がエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)を含む場合、接着層(B)に含まれるエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)と熱融着層(C)に含まれるエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)とは、同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。また、接着性樹脂(b)における、未変性樹脂(bx)と酸変性樹脂(by)の比率(bx/by)は55/45~95/5が好ましく、65/35~90/10が好ましい。この場合、酸変性樹脂(by)としては、酸変性度の比較的高い樹脂を好ましく使用でき、その酸価は5~30mgKOH/gが好ましく、8~20mgKOH/gがより好ましい。こうすることで、必要な層間接着強度を保持しながら、得られる多層構造体の機械強度をさらに向上できる場合がある。本発明の接着性樹脂(b)が、未変性樹脂(bx)と酸変性樹脂(by)の混合物である場合、未変性樹脂(bx)と酸変性樹脂(by)をあらかじめ溶融混練したものを使用してもよいし、未変性樹脂(bx)と酸変性樹脂(by)のそれぞれをドライブレンドしたものを使用してもよい。溶融混練は、例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等の既知の混合装置又は混練装置を用いることができる。溶融混練時の温度範囲は、使用する未変性樹脂(bx)と酸変性樹脂(by)の融点等に応じて適宜調節でき、通常、150~300℃が採用される。ドライブレンドとは、粉粒状又はペレット状の形態で機械的に混合することをいう。混合は、タンブラー、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー等の混合装置を用いて行ってもよいし、密閉容器内中で、手動で攪拌、振とう等行うことにより混合してもよい。混合温度としては、室温~未変性樹脂(bx)と酸変性樹脂(by)の融点未満で行えばよく、空気雰囲気下又は窒素雰囲気下で混合することができる。
【0047】
接着層(B)は、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、接着性樹脂(b)以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えばアルカリ金属イオン、多価金属イオン、カルボン酸、リン酸化合物、ホウ素化合物、酸化促進剤、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤(溶融安定剤)、光開始剤、脱臭剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、乾燥剤、充填剤、顔料、染料、加工助剤、難燃剤、及び防曇剤等が挙げられる。接着層(B)中の他の成分の含有量は、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。また、接着層(B)は、接着性樹脂(b)以外の熱可塑性樹脂をさらに含有してもよい。熱可塑性樹脂としてはバリア層(A)に含まれていてもよい熱可塑性樹脂として例示した上記各樹脂を使用することができる。接着層(B)中の前記熱可塑性樹脂の含有量は50質量%未満であり、30質量%未満が好ましく、10質量%未満がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下であってもよい。
【0048】
接着層(B)を構成する樹脂として接着性樹脂(b)が占める割合は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上であってもよく、接着層(B)を構成する樹脂が接着性樹脂(b)のみからなってもよい。また、接着層(B)を接着性樹脂(b)が占める割合は、50質量%超であり、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上であってもよく、接着層(B)は実質的に接着性樹脂(b)のみから構成されていてもよい。
【0049】
本発明の多層構造体は、密度が0.880~0.920g/cmであるエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)を主成分として含む熱融着層(C)を有する。熱融着層(C)は包装材料を形成する際のシール層としての機能に加え、突刺強伸度や引張強伸度といった種々の機械強度を高める機能を有し、特に突刺破断伸度を高めることができる。
【0050】
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)の密度は0.880~0.920g/cmである。密度が上記範囲であると、得られる多層構造体は柔軟でハンドリング性に優れ、突刺強伸度や引張強伸度といった種々の機械強度が向上する。密度の下限は0.885g/cmが好ましく、0.890g/cmがより好ましく、0.895g/cmがさらに好ましい。密度の上限は0.917g/cmが好ましい。
【0051】
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)のMFR(190℃、2.16kg荷重下)は0.5~5.0g/10分が好ましい。MFRが上記範囲であると、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)は溶融加工性に優れ、得られる多層構造体の突刺強伸度や引張強伸度といった種々の機械強度が向上する。MFRの下限は0.7g/10分がより好ましい。MFRの上限は4.0g/10分がより好ましく、2.0g/10分がさらに好ましい。MFRは、JIS K 7210(2014)に準拠して190℃、2.16kg荷重下により測定される。
【0052】
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)は、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとを重合させた樹脂である。炭素数3以上のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテンなどが挙げられる。エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)は、エチレンと炭素数6以上のα-オレフィンとを重合させた直鎖状低密度ポリエチレンであることが好ましく、エチレンと炭素数8以上のα-オレフィンとを重合させた直鎖状低密度ポリエチレンであることがより好ましい。エチレンと共重合されるα-オレフィンの炭素数が比較的大きい場合に、突刺強伸度や引張強伸度といった種々の機械強度が特に向上する場合がある。
【0053】
また、重合触媒としては、メタロセン触媒を用いることが好ましい。メタロセン触媒を用いて重合された直鎖状低密度ポリエチレンは、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を少なくとも1個以上有する、周期律表4族の遷移金属、好ましくはジルコニウムの化合物、有機アルミニウムオキシ化合物及び必要により添加される各種成分から形成される触媒の存在下に、エチレンとα-オレフィンとを共重合することによって製造されるものである。メタロセン触媒を用いて重合された直鎖状低密度ポリエチレンは溶融成型性に優れ、得られる多層構造体は耐熱性、柔軟性、機械強度のバランスに優れたものとなる。
【0054】
エチレンと炭素数6以上のα-オレフィンとをメタロセン触媒を用いて重合させた直鎖状低密度ポリエチレンは、工業的に製造されたものが市販されており、「エボリュー(商標)」(株式会社プライムポリマー製)、「スミカセン(商標)」(住友化学株式会社製)、「ユメリット(商標)」(宇部丸善ポリエチレン株式会社製)、「エリート(商標)」(ダウケミカル社製)等が挙げられる。
【0055】
熱融着層(C)は、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えばアルカリ金属イオン、多価金属イオン、カルボン酸、リン酸化合物、ホウ素化合物、酸化促進剤、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤(溶融安定剤)、光開始剤、脱臭剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、乾燥剤、充填剤、顔料、染料、加工助剤、難燃剤、及び防曇剤等が挙げられる。熱融着層(C)中の他の成分の含有量は、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。また、熱融着層(C)は、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)以外の熱可塑性樹脂をさらに含有してもよい。熱可塑性樹脂としてはバリア層(A)に含まれていてもよい熱可塑性樹脂として例示した上記各樹脂を使用することができる。熱融着層(C)中の前記熱可塑性樹脂の含有量は50質量%未満であり、30質量%未満が好ましく、10質量%未満がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下であってもよい。
【0056】
熱融着層(C)を構成する樹脂としてエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)が占める割合は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上であってもよく、熱融着層(C)を構成する樹脂がエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)のみからなってもよい。また、熱融着層(C)をエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)が占める割合は、50質量%超であり、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上であってもよく、熱融着層(C)は実質的にエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)のみから構成されていてもよい。
【0057】
熱融着層(C)を構成する樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)、及び必要に応じてその他の添加剤を溶融混練することにより製造できる。溶融混練は、例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等の既知の混合装置又は混練装置を用いることができる。溶融混練時の温度範囲は、使用するエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)の融点等に応じて適宜調節でき、通常、150~300℃が採用される。
【0058】
また、別の態様では、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)に対して、必要に応じてその他の添加剤を高濃度に含有するマスターバッチを溶融混練によって製造し、そのマスターバッチをその他の添加剤を実質的に含有しないエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)とドライブレンドして多層構造体の製造に使用することができる。また、さらに別の態様では、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)、及びその他の添加剤はドライブレンドによって熱融着層(C)の製造に使用することができる。ドライブレンドとは、粉粒状又はペレット状の形態で機械的に混合することをいう。混合は、タンブラー、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー等の混合装置を用いて行ってもよいし、密閉容器内中で、手動で攪拌、振とう等行うことにより混合してもよい。混合温度としては、室温~エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)の融点未満で行えばよく、空気雰囲気下又は窒素雰囲気下で混合することができる。
【0059】
本発明のシーラント層(X)は、バリア層(A)、接着層(B)及び熱融着層(C)を有する。また、少なくとも1組のバリア層(A)と接着層(B)は隣接して積層していることが好ましい。こうすることで、ガスバリア性及びリサイクル性が高く、機械強度とその安定性にも優れる多層構造体を得ることができる。
【0060】
上記シーラント層(X)を製造するための積層方法としては、それぞれの樹脂を別々のダイ又は共通のダイから押出して積層する従来の共押出法が使用できる。ダイとしては、環状ダイ又はTダイのいずれかを使用できる。溶融成形時の成形温度は、使用する樹脂の融点や溶融粘度をもとに適宜調整すればよく、150~300℃の範囲から選ぶことが多い。なお、本発明の多層構造体を軟包材用途に成形する際のヒートシール強度を保つ観点から、シーラント層(X)は無延伸層であることが好ましい。
【0061】
本発明のシーラント層(X)の合計厚みは15~300μmが好ましく、25~250μmがより好ましく、35~200μmがさらに好ましく、45~150μmが特に好ましい。合計厚みが上記範囲であることで、本発明のシーラント層(X)は軽量かつ柔軟性を有するため、軟包装の用途に好ましく用いられる。また、シーラント層(X)に使用される樹脂量が少なく、環境負荷が抑制される。
【0062】
バリア層(A)の厚みの下限は1μmが好ましく、2μmがより好ましい。バリア層(A)の厚みの下限が上記範囲であると、多層フィルムが十分なガスバリア性を発現する。バリア層(A)の厚みの上限は30μmが好ましく、25μmがより好ましく、20μmがさらに好ましく、15μmが特に好ましい。バリア層(A)の厚みの上限が上記範囲であると、シーラント層(X)または多層構造体を回収再利用した場合のリサイクル性が向上する。
【0063】
接着層(B)の厚みは、1~20μmが好ましく、2~10μmがより好ましい。接着層(B)の厚みが上記範囲であると、バリア層(A)と熱融着層(C)の層間接着性が高くなるとともに、シーラント層(X)または多層構造体を回収再利用した場合のリサイクル性が向上する。
【0064】
熱融着層(C)の厚みは、15~300μmが好ましく、30~200μmがより好ましく、40~150μmがさらに好ましい。熱融着層(C)の厚みが上記範囲であると、リサイクル性、機械強度および水蒸気バリア性が向上する。
【0065】
本発明のシーラント層(X)における、全層の合計厚みに対する、バリア層(A)の厚みの比は0.10以下が好ましい。この比が上記範囲であると、リサイクル性及び機械的強度が向上する。全層の合計厚みに対する、バリア層(A)の厚みの比の上限は0.08がより好ましく、0.05がさらに好ましく、0.04が特に好ましい。全層の合計厚みに対する、バリア層(A)の厚みの比の下限は特に限定されないが、十分なガスバリア性を発現するため、0.005が好ましい。一方、本発明の多層構造体における、全層の合計厚みに対する、熱融着層(C)の厚みの比は0.60以上が好ましく、0.70以上がより好ましく、0.80以上がさらに好ましく、0.99以下であってもよい。この比が上記範囲であると、リサイクル性、機械強度および水蒸気バリア性が向上する。
【0066】
本発明のシーラント層(X)の層構成は、バリア層(A)、接着層(B)及び熱融着層(C)を有していれば特に限定されず、熱融着層(C)を(C)、接着性樹脂層(B)を(B)、バリア層(A)を(A)と表現し、「/」が直接積層を示しているとすると、例えば(C)/(B)/(A)/(B)/(C)、(C)/(B)/(A)等の層構成が挙げられる。シーラント層(X)は熱融着層(C)が表出していることが好ましい。そのため、後述する基材層(Y)とシーラント層(X)とを積層させる際には、シーラント層(X)の熱融着層(C)が表出するように積層することが好ましい。上記層構成の他にさらに別の層を有していてもよく、別の層は上記シーラント層(X)の最表層に存在していても、各層間に存在していてもよい。また、バリア層(A)、接着層(B)、及び熱融着層(C)のいずれかが複数用いられる場合、それぞれ異なった種類の樹脂を用いることもできる。
【0067】
<基材層(Y)>
本発明の多層構造体は、ポリエチレンを主成分として含み、示差走査熱量計(DSC)で-50℃から10℃/分で220℃まで昇温(第一昇温)し、次いで10℃/分で-50℃まで降温し、さらに10℃/分で220℃まで昇温(第二昇温)した際、第一昇温時の0~150℃における全融解熱(H1)と、第二昇温時の0~150℃における全融解熱(H2)の比(H1/H2)が、1.01~1.10である基材層(Y)を有する。上記融解熱の比(H1/H2)を上記範囲とすることによって、総厚みを抑えたまま、機械強度と水蒸気バリア性を高いレベルで両立させることができる。上記融解熱の比(H1/H2)は、基材層(Y)の結晶化度が、同様の樹脂を単に溶融成形して得られた樹脂と比べて少し高いことを意味する。機械強度をさらに向上させる点からは、上記融解熱の比(H1/H2)の上限は1.08が好ましく、1.05がより好ましい。一方、多層構造体の水蒸気バリア性を向上する点から、上記融解熱の比(H1/H2)の下限は1.02が好ましく、1.03がより好ましい。ここで、0~150℃における全融解熱とは、基材層(Y)中において0~150℃に融点を持つ樹脂の全融解熱を意味しており、本発明の一態様においては、例えば、ポリエチレンの全融解熱を意味している。上記融解熱の比(H1/H2)は、基材層(Y)を製造する際の押出機及びダイの設定温度、ダイから吐出された後の冷却速度、延伸工程の有無、延伸温度、延伸倍率並びに熱処理温度によって制御できる。
【0068】
本発明の基材層(Y)は、ポリエチレンを主成分として含む少なくとも1層の樹脂層により構成されることが好ましい。ポリエチレンとしては直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどが挙げられる。中でも、水蒸気バリア性の観点から、高密度ポリエチレン(HDPE)が好ましい。
【0069】
基材層(Y)を構成する樹脂におけるポリエチレンが占める割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、97質量%以上であっても、99質量%以上であってもよく、基材層(Y)を構成する樹脂はポリエチレンのみからなっていてもよい。基材層(Y)におけるポリエチレンの含有量は50質量%超である必要があり、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、97質量%以上、99質量%以上であってもよく、基材層(Y)は実質的に熱可塑性樹脂のみから構成されていてもよい。
【0070】
基材層(Y)における熱可塑性樹脂の、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点の下限は128℃であることが好ましい。融点が上記範囲であると工程通過性が向上する。一方、リサイクル性の観点から、基材層(Y)における熱可塑性樹脂の、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点の上限は140℃であることが好ましい。
【0071】
本発明の基材層(Y)は、少なくとも一軸方向に延伸されていることが好ましく、機械方向(MD)に一軸延伸されていることがより好ましい場合があり、二軸方向に延伸されていることが好ましい場合もある。基材層(Y)が少なくとも一軸方向に延伸されていることで、多層構造体の機械強度および水蒸気バリア性が向上する。特に機械強度を向上する観点からは二軸延伸層であることが好ましい。
【0072】
基材層(Y)の製膜方法は特に限定されないが、一般に押出機により溶融押出することで製膜される。ダイとしては、環状ダイ又はTダイのいずれかを使用できる。一軸方向又は二軸方向に延伸する方法も特に限定されず、ロール式一軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸等の従来公知の延伸法によって、フィルムの流れ方向及び/又は該流れ方向に直角な方向、すなわち幅方向に延伸処理することにより製造することができる。延伸倍率は、得られる層の厚みの均一性及び機械的強度の観点から面積倍率を8~60倍とすることが好ましい。面積倍率は55倍以下がより好ましく、50倍以下がさらに好ましい。また、面積倍率は9倍以上がより好ましい。面積倍率が8倍未満であると、延伸斑が残る場合があり、また60倍を超えると、延伸時に層の破断が生じやすくなる場合がある。
【0073】
基材層(Y)の厚みは、工業的な生産性の観点から、10~100μmが好ましい。さらに、多層構造体の機械強度、水蒸気バリア性及び製造コストを両立する観点から、基材層(Y)の厚みは15~75μmであることがより好ましく、30~55μmであることがさらに好ましい。
【0074】
本発明基材層(Y)の層構成は、ポリエチレンを主成分として含んでいれば特に限定されず、単層であっても複層であっても良いが、製造コストの観点から単層であることが好ましい。
【0075】
<多層構造体>
本発明の多層構造体は、シーラント層(X)と基材層(Y)とが積層された多層構造体であり、融点が200℃以上の樹脂を主成分として含む層及び厚み1μm以上の金属層は有さない。すなわち、EVOH(a)接着性樹脂(b)及びエチレン-α-オレフィン共重合体(c)はいずれも融点が200℃未満である。融点が200℃以上の樹脂を主成分として含有する層及び厚み1μm以上の金属層を有さないことで、多層構造体の粉砕物を溶融成形する際に、他の成分との混合が不均一になることを抑制できる。すなわちリサイクル性が向上する。なお、ここで金属層とは、アルミニウム箔等、金属からなる連続及び不連続面を有する層である。また、少なくとも1組のバリア層(A)と接着層(B)は隣接して積層していることが好ましい。こうすることで、ガスバリア性及びリサイクル性が高く、機械強度とその安定性にも優れる多層構造体を得ることができる。
【0076】
また、本発明の多層構造体の合計厚みの上限は300μmが好ましい。合計厚みが上記範囲であることで、本発明の多層構造体は軽量かつ柔軟性を有するため、軟包装の用途に好ましく用いられる。また、多層構造体に使用される樹脂量が少なく、環境負荷が抑制される。本発明の多層構造体の合計厚みの上限は250μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。また、本発明の多層構造体の機械強度および水蒸気バリア性を維持する観点から、合計厚みの下限は30μmが好ましい。本発明の多層構造体の合計厚みの下限は50μmがより好ましく、100μmがさらに好ましく、150μmが特に好ましい。
【0077】
本発明の多層構造体中の各層の厚みは用途に応じて適宜調整すればよいが、粉砕物を溶融成形する際に着色が抑制でき、溶融成形時の熱安定性が向上し、ブツの発生が抑制される観点から、多層構造体の合計厚みに対する、ポリエチレン系樹脂を主成分として含有する層の合計厚みの比は0.80以上が好ましく、0.85以上がより好ましく、0.90以上がさらに好ましく、0.95以上が特に好ましい。なお、ポリエチレン系樹脂を主成分として含有する層としては、基材層(Y)、接着層(B)がポリエチレン系の接着性樹脂を主成分として含む場合、及び熱融着層(C)が該当する。
【0078】
シーラント層(X)に基材層(Y)を積層させる方法は特に限定されず、例えば、押出ラミネート、共押出ラミネート、ドライラミネート等が挙げられるが、ハンドリング性の観点から、ドライラミネートでることが好ましい。多層構造体に基材層(Y)を積層させる際には、接着層を設けてもよい。接着層は、接着層(B)を用いてもよいし、公知の接着剤を塗工し、乾燥することで形成できる。公知の接着剤としては、例えば、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。接着層の厚さは特に限定されないが、1~5μmが好ましく、2~4μmがより好ましい。シーラント層(X)に基材層(Y)を積層させる際には、シーラント層(X)を構成するバリア層(A)と基材層(Y)とが接着層を介して積層されていることが好ましい。すなわち、バリア層(A)/接着層/基材層(Y)という層構成を有することが好ましい。
【0079】
本発明の多層構造体は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記した以外の他の層を有していても良い。他の層としては、EVOH(a)、接着性樹脂(b)及びエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)以外の熱可塑性樹脂を主成分として含む樹脂層等が挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体(炭素数4~20のα-オレフィン)、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独、又はその共重合体、ナイロン6、ナイロン6/6等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。本発明の多層構造体が、前記熱可塑性樹脂を主成分として含む樹脂層を備える場合、前記熱可塑性樹脂はポリプロピレンであることが好ましいが、リサイクル性の観点からは、前記熱可塑性樹脂を主成分として含む樹脂層を含まないことが好ましい。他の層の別の例としては、回収層が挙げられる。特に、後述する本発明の多層構造体の回収物を含む回収組成物を回収層の一部または全部として再使用することが好ましい。他の層の別の例としては、印刷層が挙げられる。印刷層は本発明の多層構造体のいずれの位置に含まれていてもよい。印刷層としては、例えば顔料又は染料、及び必要に応じてバインダー樹脂を含む溶液を塗工し、乾燥して得られる皮膜が挙げられる。印刷層の塗工方法としては、グラビア印刷法の他、ワイヤーバー、スピンコーター、ダイコーター等を用いた各種の塗工方法が挙げられる。印刷層の厚さは特に限定されないが、0.5~10μmが好ましく、1~4μmがより好ましい。
【0080】
本発明の多層構造体を製造する際に発生する端部や不良品は回収して再使用することが好ましい。また、市場に流通した多層構造体を回収して再使用することも好適な実施態様である。本発明の多層構造体を粉砕した後に溶融成形する多層構造体の回収方法、及び本発明の多層構造体の回収物を含む回収組成物もまた本発明の好適な実施態様である。ここで、本発明の多層構造体の回収物、とは、本発明の多層構造体を含む包装材料の回収物も包含する。
【0081】
本発明の多層構造体の回収に際して、まず、本発明の多層構造体の回収物を粉砕する。粉砕された回収物を、そのまま溶融成形して回収組成物を得てもよいし、必要に応じてその他の成分とともに溶融成形して回収組成物を得てもよい。回収物に添加する好ましい成分としてはポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリエチレン樹脂がより好ましい。粉砕された回収物を直接多層構造体等の成形品の製造に供してもよいし、粉砕された回収物を溶融ペレタイズして、回収組成物からなるペレットを得た後、当該ペレットを成形品の製造に供してもよい。回収組成物の溶融成形法としては押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形等が可能である。溶融成形時の成形温度は、使用する樹脂の融点や溶融粘度をもとに適宜調整すればよく、150~300℃の範囲から選ぶことが多い。前記回収組成物は未使用の樹脂を含有していても構わないが、当該回収組成物中の回収物の含有量は10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上であってもよい。また、当該回収組成物中のEVOH(a)の含有量は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下であってもよい。
【0082】
本発明の多層構造体は、外観特性、ガスバリア性、機械物性及びリサイクル性に優れることから、食品包装、医薬品包装、工業薬品包装、農薬包装等の各種包装材料として好適に使用できるが、さらに広範囲の用途に使用することが可能であり、これらの用途に限定されない。
【0083】
前記包装材料に内容物を充填してなる包装体が前記包装材料の好適な実施態様である。充填できる内容物としては、飲料ではワイン、フルーツジュース等;食品では果物、ナッツ、野菜、肉製品、幼児食品、コーヒー、ジャム、マヨネーズ、ケチャップ、食用油、ドレッシング、ソース類、佃煮類、乳製品等;その他では医薬品、化粧品、ガソリン等、酸素存在下で劣化を起こしやすい内容物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例0084】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0085】
<使用した材料>
・基材層(Y)
Y-1:Jindal Poly Films Ltd.社製の二軸延伸HDPE「Ethy-Lyte(商標)40HD200」(融点130℃)
Y-2:東京インキ株式会社製のMD方向一軸延伸HDPE「ハイブロン(商標)P25」(融点133℃)
Y-3:東京インキ株式会社製のMD方向一軸延伸HDPE「ハイブロン(商標)FMQK25」(融点1Y-4:Jindal Poly Films Ltd.社製の二軸延伸HDPE「Ethy-Lyte(商標)25HD200」(融点130℃)
Y-4:Jindal Poly Films Ltd.社製の二軸延伸HDPE「Ethy-Lyte(商標)25HD200」(融点130℃)
Y-5:デンカ株式会社製のTD方向一軸延伸HDPE「カラリヤン(商標)Y18」(融点132℃)
Y-6:厚さ40μmの二軸延伸LDPEフィルム(融点125℃)
Y-7:日本ポリエチレン株式会社製の高密度ポリエチレン「ノバテック(商標)HD HY540」(MFR(190℃、2.16kg荷重)1.0g/10分、密度0.960g/cm)を原料として下記条件でTダイ単層製膜により作製した厚さ40μmの無延伸HDPEフィルム
押出機:株式会社東洋精機製作所社製単軸押出機
スクリュー径:20mmφ(L/D=20、圧縮比=3.5、フルフライト型)
押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=180/220/220/220℃
引取ロール温度:50℃
引取速度:1.5m/分
Y-8:日本ポリエチレン株式会社製の高密度ポリエチレン「ノバテック(商標)HD HY540」(MFR(190℃、2.16kg荷重)1.0g/10分、密度0.960g/cm)を原料として下記条件でTダイ単層製膜により作製した後、温度120℃で5分間熱処理を施すことにより作製した厚さ40μmの無延伸HDPEフィルム
押出機:株式会社東洋精機製作所社製単軸押出機
スクリュー径:20mmφ(L/D=20、圧縮比=3.5、フルフライト型)
押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=180/220/220/220℃
引取ロール温度:50℃
引取速度:1.5m/分
・EVOH(a)
a-1:EVOH、エチレン単位含有量32モル%、けん化度99.9モル%、乾燥後のMFR(190℃、2.16kg荷重)1.6g/10分
a-2:EVOH、エチレン単位含有量27モル%、けん化度99.9モル%、乾燥後のMFR(190℃、2.16kg荷重)1.5g/10分
a-3:EVOH、エチレン単位含有量44モル%、けん化度99.9モル%、乾燥後のMFR(190℃、2.16kg荷重)1.7g/10分
・接着性樹脂(b)
b-1:三井化学株式会社製の無水マレイン酸変性ポリエチレン「アドマー(商標)NF518」(MFR(190℃、2.16kg荷重)3.1g/10分、密度0.91g/cm、酸価1.10mgKOH/g)
・エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c)
c-1:株式会社プライムポリマー社製の直鎖状低密度ポリエチレン「エボリュー(商標) SP1510」(エチレンと1-ヘキセンをメタロセン触媒で重合、MFR(190℃、2.16kg荷重)1.0g/10分、密度0.915g/cm
c-2:株式会社プライムポリマー社製の直鎖状低密度ポリエチレン「エボリュー(商標) SP0510」(エチレンと1-ヘキセンをメタロセン触媒で重合、MFR(190℃、2.16kg荷重)1.2g/10分、密度0.903g/cm
c-3:株式会社プライムポリマー社製の直鎖状低密度ポリエチレン「エボリュー(商標) SP1540」(エチレンと1-ヘキセンをメタロセン触媒で重合、MFR(190℃、2.16kg荷重)3.8g/10分、密度0.915g/cm
・多価金属イオン(e)
Mg-St:ステアリン酸マグネシウム
Ca-St:ステアリン酸カルシウム
Zn-St:ステアリン酸亜鉛
MgOAc:酢酸マグネシウム
・アルカリ金属イオン(f)
AcONa:酢酸ナトリウム
AcOK:酢酸カリウム
【0086】
<評価方法>
(1)融解熱量
実施例及び比較例で使用した基材層(Y)について、示差走査熱量分析計DSC(TA Instrument社製「Q2000」)を用いて-50℃から10℃/分で220℃まで昇温(第一昇温)し、次いで10℃/分で-50℃まで降温し、さらに10℃/分で220℃まで昇温(第二昇温)し、第一昇温時の0~150℃における全融解熱(H1)および第一昇温時の0~150℃における全融解熱(H1)と、第二昇温時の0~150℃における全融解熱(H2)の比(H1/H2)を算出した。
【0087】
(2)酸素透過速度
実施例及び比較例で得られた多層構造体を用いて、片方を酸素供給側、他方をキャリアガス側として酸素透過速度を測定した。具体的には、酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX-TRAN2/21」)を用い、JIS K 7126-2(等圧法;2006)に準拠して、温度20℃、酸素供給側の湿度65%RH、キャリアガス側の湿度65%RH、酸素圧1気圧、キャリアガス圧力1気圧の条件下で酸素透過速度(単位:cc/(m・day・atm))を測定した。キャリアガスには2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。
【0088】
(3)水蒸気透過速度
実施例及び比較例で得られた多層構造体を用いて、片方を水蒸気供給側、他方をキャリアガス側として水蒸気透過速度を測定した。具体的には、水蒸気透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON PERMATRAN W3/33」)を用い、JIS K 7129-2(赤外線センサ法;2019)に準拠して、温度40℃、水蒸気供給側の湿度90%RH、キャリアガス側の湿度0%RHの条件下で水蒸気透過速度(単位:g/(m・day))を測定した。キャリアガスには窒素ガスを使用した。水蒸気透過速度が4.0g/(m・day)以上である場合は、水蒸気バリア性が不十分であると判断した。
【0089】
(4)シール強度
実施例及び比較例で得られた多層構造体を15mm幅に2枚切り出した後、シーラント層(X)側を内側にして重ね、ヒートシールした。このフィルムを23℃、50%RH条件下で24時間調湿した後、同条件下、株式会社島津製作所製オートグラフ(引張速度250mm/分)を用いてT型剥離を行い、シール強度を測定した。シール強度が20N/15mm未満である場合、シール強度が不十分であると判断した。
【0090】
(5)突刺破断強伸度
実施例及び比較例で得られた多層構造体を23℃、50%RH条件下で24時間調湿した後、同条件下で、先端直径1mmの針を50mm/minの速度で突き刺した際の破断伸度及び破断強度を測定した。測定は場所を変えながら10回行い、その平均値を測定結果として採用した。突刺破断伸度が3.0mm未満である場合、機械物性が不十分であると判断した。また、突刺破断強度が9.0N未満である場合、機械物性が不十分であると判断した。
【0091】
(6)落下破袋耐性
実施例及び比較例で得られた多層構造体をA4サイズに2枚切り出してシーラント層(X)同士を重ね、3辺を幅5mmでヒートシールした。次いで、開口部から1Lの水を充填してから残る辺をヒートシールし、水充填袋を作成した。この水充填袋を20℃、70%RH条件下で1mの高さから正立方向に自由落下させた。20回落下させ、水の漏れおよび層間の剥離が見られなかったものを合格、漏れまたは層間の剥離が見られたものを不合格とした。同様の試験を5回行い、以下の基準で判定を行った。なお、Dは許容できない基準である。
判定:基準
A:5回とも合格
B:5回中4回合格、1回不合格(層間の剥離が小さい)
C:5回中4回合格、1回不合格(漏れまたは層間の剥離が大きい)
D:不合格が2回以上
【0092】
(7)多層構造体粉砕物の溶融成形物のブツ及び着色
実施例及び比較例で得られた多層構造体を4mm四方以下のサイズに粉砕した。この粉砕物と日本ポリエチレン社製の低密度ポリエチレン樹脂「ノバテックLD LJ400」(MFR(190℃、2.16kg荷重)1.5g/10分、密度0.921g/cm)とを質量比(粉砕物/ポリエチレン樹脂)40/60の割合でブレンドし、下記に示す押出条件にて単層製膜を行うことで、厚み50μmの単層フィルムを得た。単層フィルムの厚みはスクリュー回転数及び引取りロール速度を適宜変えることで調整した。また、対照として、ポリエチレン樹脂のみを用いて、同様に厚み50μmの単層フィルムを得た。
押出機:東洋精機製作所社製単軸押出機
スクリュー径:20mmφ(L/D=20、圧縮比=3.5、フルフライト型)
押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=180/230/230/230℃
引取ロール温度:80℃
得られた単層フィルムのブツ及び着色状況を下記A~Eの5段階で評価した。なお、Eは許容できない基準である。
ブツの判定基準
A:対照と比べて、ブツの量はほとんど変わらなかった
B:対照と比べて、小さなブツの量がわずかに多かった
C:対照と比べて、小さなブツの量が多かった
D:対照と比べて、大きなブツの量が多かった
E:対照と比べて、大きなブツの量が非常に多かった
着色の判定基準
A:対照と比べて、色相変化の度合いは小さかった
B:対照と比べて、軽度の着色が見られた
C:対象と比べて、中程度の着色が見られた
D:対象と比べて、顕著な着色が見られた
E:対象と比べて、顕著な着色が見られ、ムラも見られた
【0093】
(8)多層構造体粉砕物の溶融成形物の粘度安定性
実施例及び比較例で得られた多層構造体を4mm四方以下のサイズに粉砕した。この粉砕物60gを、ラボプラストミル(二軸異方向)を用いて窒素雰囲気下、230℃、100rpmの条件で混練したときのトルク変化を測定した。混練開始10分後及び90分後のトルク値(それぞれTI及びTF)を算出し、当該値の比率(TF/TI)によって、下記A~Eの5段階で評価した。なお、Eは許容できない基準である。
判定基準
A:80/100以上120/100未満
B:70/100以上80/100未満、又は120/100以上130/100未満
C:60/100以上70/100未満、又は130/100以上140/100未満
D:50/100以上60/100未満、又は140/100以上150/100未満
E:50/100未満、又は150/100以上
【0094】
(実施例)
実施例1
EVOH(a-1)の含水ペレット(含水率55質量%)を、酢酸ナトリウム、リン酸及びホウ酸を含む水溶液に入れ25℃で6時間撹拌しながら浸漬した後、脱液し、熱風乾燥機(ヤマト科学株式会社製「DN6101」)にて80℃で4時間乾燥した後、120℃で40時間乾燥し、乾燥EVOHペレット(含水率0.25%)を得た。なお、酢酸ナトリウム、リン酸及びホウ酸の濃度は、得られる乾燥EVOHペレットにおける含有量が酢酸ナトリウムをナトリウムイオン換算で200ppm、リン酸イオンをリン酸根換算で30ppm、ホウ酸をホウ素元素換算で150ppmとなるように調整した。得られた乾燥EVOHペレットとステアリン酸マグネシウムを、得られる樹脂組成物中のマグネシウムイオンの含有量が50ppmとなるように溶融混練し、バリア層(A)のための樹脂組成物ペレットを得た。溶融混練は、東洋精機製作所社製二軸押出機(D(mm)=25、L/D=30、スクリュー:同方向完全噛合型)を使用し、樹脂温度が220℃となるようにした。
【0095】
上記で得られた樹脂組成物ペレットをバリア層(A)の材料として、無水マレイン酸変性ポリエチレン(b-1)を接着層(B)の材料として、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c-1)を熱可塑性樹脂層(C)の材料として用い、幅300mmの5層共押出キャスト製膜設備を用いて(C)/(B)/(A)/(B)/(C)=51μm/6μm/6μm/6μm/51μmの層厚みと層構成を有する多層フィルム(シーラント層(X-1))を作製した。このときの製膜条件を以下に示す。
バリア層(A)の押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=170/220/220/220℃
接着層(B)の押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=170/220/220/220℃
熱可塑性樹脂層(C)の押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=170/220/220/220℃
冷却ロールの温度:40℃
引取速度:1.5m/分
【0096】
2液反応型ポリウレタン系接着剤(三井化学社製「タケラックA-520」24質量部及び「タケネートA-50」4質量部)を酢酸エチル37質量部と混合し、接着剤溶液を調整した。次いで、基材層(Y-1)上に乾燥後の厚さが2μmとなるように前記接着剤溶液をバーコータによって塗工し、100℃で5分間乾燥させ、上記で得た多層フィルム(シーラント層(X-1))とラミネートして、(Y-1)/接着剤/(C)/(B)/(A)/(B)/(C)=40μm/2μm/51μm/6μm/6μm/6μm/51μmの層厚みと層構成を有する多層構造体を作製した。なお、基材層(Y-1)について、上記評価方法1に記載の方法に従い融解熱量を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
得られた多層構造体について、上記評価方法(2)~(8)の記載の方法に従い、酸素透過速度、水蒸気透過速度、シール強度、突刺破断強伸度、落下破袋耐性、多層構造体の粉砕物の溶融成形物のブツ及び着色、並びに多層構造体の粉砕物の溶融粘度安定性を評価した。結果を表3に示す。なお、表1に記載の延伸状態について二軸延伸の場合はBO、MD方向の一軸延伸の場合はMDO、TD方向の一軸延伸の場合はTDO、無延伸のものはCastと表記する。
【0098】
実施例2~8、10~20、23、24、26、比較例2、3、5)
基材層(Y)の種類、EVOH(a)の種類、多価金属イオン(e)の種類及び含有量、アルカリ金属イオン(f)の種類及び含有量、ホウ素化合物(g)の含有量並びに熱融着層(C)の種類を表1または表2に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で多層構造体を作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表1~表4に示す。
【0099】
実施例9
実施例8で得られたエチレン単位含有量44モル%の乾燥EVOHペレット20質量部と実施例1で得られたエチレン単位含有量32モル%の乾燥EVOHペレット80質量とステアリン酸マグネシウムを、得られる樹脂組成物中のマグネシウムイオンの含有量が50ppmとなるように溶融混練して、バリア層(A)のための樹脂組成物ペレットを作製した以外は、実施例1と同様の方法で多層構造体を作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表1及び表3に示す。
【0100】
実施例21
EVOH(a-1)をバリア層(A)の材料として、三井化学株式会社製無水マレイン酸変性ポリエチレン(b-1)を接着層(B)の材料として、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(c-1)を熱可塑性樹脂層(C)の材料として用い、幅300mmの5層共押出キャスト製膜設備を用いて(C)/(B)/(A)/(B)/(C)=204μm/24μm/24μm/24μm/204μmの層厚みと層構成を有する多層フィルムを作製した。得られた多層フィルムをエトー株式会社製の延伸装置(SDR-506WK)を用い、延伸温度80℃、延伸倍率2×2倍で同時二軸延伸を行い、得られた延伸多層フィルム((C)/(B)/(A)/(B)/(C)=51μm/6μm/6μm/6μm/51μm)をシーラント層(X-2)とした。
【0101】
シーラント層(X-1)の代わりにシーラント層(X-2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で多層構造体を作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表2及び表4に示す。
【0102】
実施例22
幅300mmの5層共押出キャスト製膜設備を用いて(C)/(B)/(A)=108μm/6μm/6μmの層厚みと層構成を有する多層フィルム(シーラント層(X-3))を作製し、多層構造体((Y-1)/接着剤/(A)/(B)/(C)=40μm/2μm/6μm/6μm/108μm)を作製した以外は実施例1と同様の方法で多層構造体を作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表2及び表4に示す。なお、5層共押出キャスト製膜設備の一部の押出機を使用せずに、3層の多層フィルムを作製した。
【0103】
実施例25
実施例1と同様の方法で作製した多層構造体を温度110℃で5分間熱処理を施した以外は、実施例1と同様の方法で多層構造体を作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表2及び表4に示す。
【0104】
比較例1
基材層(Y-1)を積層せずに、シーラント層(X-1)をそのまま多層構造体として用いた以外は、実施例1と同様の方法で各種測定及び評価を行った。結果を表2及び表4に示す。
【0105】
比較例4
シーラント層(X-1)をそのまま多層構造体として用いた以外は、実施例1と同様の方法で各種測定及び評価を行った。結果を表2及び表4に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【0110】
実施例27
ジャケット、撹拌機及び還流冷却器を備えた60L撹拌槽に、公知の方法で得られたEVOHの粗乾燥物2kg、水0.8kg及びMeOH2.2kgを仕込み、60℃で5時間攪拌し完全に溶解させた。得られた溶液に、2,4-ヘキサジエナール及び2,4,6-オクタトリエナールを添加した。この溶液を径4mmの金板を通して-5℃に冷却した水/MeOH=90/10の混合液中に押し出してストランド状に析出させ、このストランドをストランドカッターでペレット状にカットすることでEVOHの含水ペレットを得た。得られたEVOHの含水ペレットの含水率をメトラー社製ハロゲン水分計「HR73」で測定したところ、52質量%であった。
【0111】
得られたEVOHの含水ペレットを1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。脱液後、酢酸水溶液を更新し同様の操作を行った。酢酸水溶液で洗浄してから脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して撹拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して、洗浄液の電気伝導度が、3μS/cm以下(東亜電波工業株式会社の「CM-30ET」で測定)となるまで精製を行い、ケン化反応時の触媒残渣が除去されたEVOH(a-4)(エチレン単位含有量32モル%、けん化度99.9モル%、乾燥時のMFR(190℃、2.16kg荷重)1.6g/10分)の含水ペレットを得た。
【0112】
得られたEVOH(a-4)の含水ペレットを、酢酸ナトリウム、リン酸及びホウ酸を含む水溶液に入れ25℃で6時間撹拌しながら浸漬した後、脱液し、熱風乾燥機(ヤマト科学株式会社製「DN6101」)にて80℃で4時間乾燥した後、120℃で40時間乾燥し、乾燥EVOHペレット(含水率0.25%)を得た。なお、酢酸ナトリウム、リン酸及びホウ酸の濃度は、得られる乾燥EVOHペレットにおける含有量が酢酸ナトリウムをナトリウムイオン換算で200ppm、リン酸イオンをリン酸根換算で30ppm、ホウ酸をホウ素元素換算で150ppm、2,4-ヘキサジエナール(d1)を0.20ppm、2,4,6-オクタトリエナール(d2)を0.06ppmとなるように調整した。得られた乾燥EVOHペレットとステアリン酸マグネシウムを、得られる樹脂組成物中のマグネシウムイオンの含有量が50ppmとなるように溶融混練し、バリア層(A)のための樹脂組成物ペレットを得た。溶融混練は、東洋精機製作所社製二軸押出機(D(mm)=25、L/D=30、スクリュー:同方向完全噛合型)を使用し、樹脂温度が220℃となるようにした。
【0113】
得られた樹脂組成物ペレットをバリア層(A)の材料として用いた以外は、実施例1と同様の方法で多層構造体を作製して評価した。結果を表5に示す。なお、多層フィルム粉砕物の溶融成形物のブツの評価結果は、実施例1と同様にBであったが、実施例1と比べてブツの量は少なかった。
【0114】
実施例28、29
アルデヒド(d)の含有量を表5の通りとなるように変更した以外は、実施例27と同様の方法で乾燥EVOHペレット及び多層構造体を作製して評価した。結果を表5に示す。
【0115】
【表5】