(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087131
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】電解めっき装置および電解めっき装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
C25D 17/08 20060101AFI20240624BHJP
C25D 21/12 20060101ALI20240624BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C25D17/08 J
C25D21/12 G
C25D7/06 E
C25D7/06 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201750
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 潤一
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024CB24
4K024EA04
(57)【要約】
【課題】挟持片を固定するボルトが脱落してもめっき処理を継続できる電解めっき装置を提供する。
【解決手段】電解めっき装置は、基材Fを把持して電解めっき装置内を搬送する複数のクランプ20と、脱落検知装置50とを有する。クランプ20は、ヒンジ21を介して連結された一対のアーム22A、22Bと、アーム22Aの先端に2本のボルトで固定された挟持片30Aと、挟持片30Aをアーム22Aに対して回り止めする係止部とを有する。脱落検知装置50は挟持片30Aを固定するボルトの脱落を検知する。挟持片30Aを固定する2本のボルトのうち1本が脱落しても係止部により挟持片30Aの傾きが抑制されるため、基材Fを正常に把持でき、めっき処理を継続できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の基材に対して電解めっきを行う電解めっき装置であって、
前記基材を把持して前記電解めっき装置内を搬送する複数のクランプと、
脱落検知装置と、を備え、
前記クランプは、
ヒンジを介して連結された一対のアームと、
前記アームの先端に2本のボルトで固定された挟持片と、
前記挟持片を前記アームに対して回り止めする係止部と、を備え、
前記脱落検知装置は、前記挟持片を固定する前記ボルトの脱落を検知する
ことを特徴とする電解めっき装置。
【請求項2】
前記係止部は、前記挟持片の幅方向に沿った突条であり、前記挟持片における前記アームの先端縁に係止する位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の電解めっき装置。
【請求項3】
前記係止部は、前記アームの幅方向に沿った突条であり、前記アームにおける前記挟持片の基端縁に係止する位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の電解めっき装置。
【請求項4】
前記脱落検知装置は、前記挟持片の前記アームに対する傾きに基づき、前記ボルトの脱落を検知する
ことを特徴とする請求項1記載の電解めっき装置。
【請求項5】
前記脱落検知装置は、
前記アームを検知するアームセンサと、
前記挟持片を検知する挟持片センサと、
前記アームセンサおよび前記挟持片センサの検知位置のずれ量に基づき前記挟持片が傾いているか否かを判断する判断部と、を備える
ことを特徴とする請求項4記載の電解めっき装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の電解めっき装置の運転方法であって、
ロールツーロールにより前記基材を搬送しつつめっき被膜を成膜するとともに、前記脱落検知装置で前記ボルトの脱落を検知する電解めっき工程を備え、
前記脱落検知装置が前記ボルトの脱落を検知した場合に、1ロールの前記基材に対するめっき処理が終了するまで前記電解めっき装置の運転を継続し、前記めっき処理の終了後に前記電解めっき装置を停止して前記ボルトの脱落を解消する
ことを特徴とする電解めっき装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解めっき装置および電解めっき装置の運転方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、基材に対して電解めっきを行う電解めっき装置およびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は樹脂フィルムに銅箔を積層した銅張積層板から製造される。
【0003】
銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行われる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を成膜する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を成膜する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を成膜する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接導体層が形成された、いわゆる2層基板と称されるタイプの銅張積層板が得られる。
【0004】
銅めっき被膜は電解めっき装置を用いて成膜される。電解めっき装置として、ロールツーロールにより長尺帯状の基材を搬送しつつ、基材に対して電解めっきを行う装置が知られている(例えば、特許文献1)。この種の電解めっき装置は複数のクランプが設けられた上下一対のエンドレスベルトを有する。基材はその幅方向が鉛直方向に沿う懸垂姿勢となり、両縁が上下のクランプに把持される。エンドレスベルトの動作により基材はめっき槽内を搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基材を把持するクランプはヒンジを介して連結された一対のアームを有する。両アームそれぞれの先端には挟持片が固定されている。2つの挟持片が基材を表裏から挟むことで基材を把持でき、また、基材の表裏両面に給電できる。
【0007】
挟持片はアームに対してボルトで固定される。電解めっき装置の操業を継続すると、クランプの開閉動作が繰り返され、その振動により挟持片を固定するボルトが緩み脱落することがある。挟持片を2本のボルトで固定した場合、1本のボルトが脱落しても挟持片の脱落は免れる。しかし、挟持片は残る1本のボルトを中心に回転して傾く。そうすると、表裏の挟持片が噛み合わなくなり基材を把持できなくなる。ひどい場合には基材が破損する。また、基材の表裏両面に均一に給電できなくなる。さらに、傾いた挟持片が電解めっき装置の他の構成部材と接触し、その部材が損傷することがある。
【0008】
挟持片を固定するボルトが脱落した場合に、電解めっき装置を停止することも考えられる。しかし、長尺帯状の基材に対してめっき処理している途中で装置を停止すると、その基材の全てが不良品となるため、生産性が大幅に低下する。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、挟持片を固定するボルトが脱落してもめっき処理を継続できる電解めっき装置、およびその電解めっき装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電解めっき装置は、長尺帯状の基材に対して電解めっきを行う電解めっき装置であって、前記基材を把持して前記電解めっき装置内を搬送する複数のクランプと、脱落検知装置と、を備え、前記クランプは、ヒンジを介して連結された一対のアームと、前記アームの先端に2本のボルトで固定された挟持片と、前記挟持片を前記アームに対して回り止めする係止部と、を備え、前記脱落検知装置は、前記挟持片を固定する前記ボルトの脱落を検知することを特徴とする。
本発明の電解めっき装置の運転方法は、ロールツーロールにより前記基材を搬送しつつめっき被膜を成膜するとともに、前記脱落検知装置で前記ボルトの脱落を検知する電解めっき工程を備え、前記脱落検知装置が前記ボルトの脱落を検知した場合に、1ロールの前記基材に対するめっき処理が終了するまで前記電解めっき装置の運転を継続し、前記めっき処理の終了後に前記電解めっき装置を停止して前記ボルトの脱落を解消することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電解めっき装置によれば、挟持片を固定する2本のボルトのうち1本が脱落しても係止部により挟持片の傾きが抑制されるため、基材を正常に把持できる。そのため、めっき処理を継続できる。
本発明の電解めっき装置の運転方法によれば、挟持片を固定するボルトが脱落しても1ロールの基材に対するめっき処理が終了するまで電解めっき装置の運転を継続するため、基材が不良品とならず、生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電解めっき装置の斜視図である。
【
図4】図(A)は挟持片の正面図である。図(B)は挟持片の側面図である。
【
図5】図(A)は挟持片の変形例の正面図である。図(B)は挟持片の変形例の側面図である。
【
図6】図(A)はボルトが脱落していない場合における脱落検知装置の検知状態の説明図である。図(B)はボルトが脱落している場合における脱落検知装置の検知状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
〔電解めっき装置〕
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電解めっき装置AAは、ロールツーロールにより長尺帯状の基材Fを搬送しつつ、基材Fに対して電解めっきを行う装置である。基材Fは薄膜状であり、その両面または片面にめっき被膜が成膜される。
【0014】
電解めっき装置AAはロール状に巻回された基材Fを繰り出す供給装置11と、めっき後の製品をロール状に巻き取る巻取装置12とを有する。また、電解めっき装置AAは基材Fを搬送する上下一対のエンドレスベルト13(下側のエンドレスベルト13は図示省略)を有する。エンドレスベルト13は各種のローラで画定された経路を周回する。エンドレスベルト13には基材Fを把持する複数のクランプ20が設けられている。供給装置11から繰り出された基材Fは、その幅方向が鉛直方向に沿う懸垂姿勢となり、両縁が上下のクランプ20に把持される。基材Fはエンドレスベルト13の動作により電解めっき装置AA内を周回した後、クランプ20から開放され、巻取装置12で巻き取られる。
【0015】
基材Fの搬送経路には、前処理槽14、めっき槽15、および後処理槽16が配置されている。基材Fは、前処理槽14、めっき槽15、および後処理槽16の内部をこの順に通過する。
【0016】
前処理槽14は、基材Fの表面を清浄化したり、濡れ性を高めたりする前処理を行う槽である。
【0017】
めっき槽15は基材Fの搬送方向に沿った横長の槽である。めっき槽15にはめっき液が貯留されている。めっき槽15内を搬送される基材Fは、その全体がめっき液に浸漬されている。めっき槽15の内部には、基材Fの搬送方向に沿ってアノードが配置されている。また、後述のごとく、上側のエンドレスベルト13に設けられたクランプ20は基材Fに電流を供給する給電端子としての機能も有する。基材Fとアノードとの間に電流を流すことで、基材Fの表面にめっき被膜を成膜できる。
【0018】
後処理槽16は、めっき被膜が成膜された基材Fの洗浄などの後処理を行う槽である。
【0019】
図2に示すように、クランプ20は所謂バネクランプである。クランプ20はヒンジ21を介して連結された一対のアーム22A、22Bを有する。一対のアーム22A、22Bのうちの一方は可動アーム22Aであり、他方は固定アーム22Bである。可動アーム22Aはヒンジ21を中心として固定アーム22Bに対して回動可能である。また、各アーム22A、22Bの先端(
図2における下端)には挟持片30A、30Bが固定されている。可動アーム22Aが固定アーム22Bに対して回動することにより、2つの挟持片30A、30Bの間が開閉する。
【0020】
ヒンジ21はアーム22A、22Bのそれぞれに設けられたブラケットと、両ブラケットを連結するピンとからなる。また、ピンにはねじりコイルバネ23が介装されている。ねじりコイルバネ23は2つの挟持片30A、30Bの間が閉じる方向にアーム22A、22Bを付勢している。
【0021】
挟持片30Aの先端部と挟持片30Bの先端部との間に基材Fの上縁が把持される。ねじりコイルバネ23の付勢力により2つの挟持片30A、30Bの間を閉じることで、基材Fを把持できる。また、2つの挟持片30A、30Bの間を開くことで、把持していた基材Fを開放できる。
【0022】
固定アーム22Bの上部には表裏両面にローラ24が軸支されている。ローラ24は電解めっき装置AA内の固定部材であるレール25上を転動する。また、固定アーム22Bにはエンドレスベルト13(
図2において図示省略)が結合されている。そのため、エンドレスベルト13が移動すると、クランプ20が一定の高さを保ちつつ移動する。
【0023】
可動アーム22Aの上端にはブラケットを介してローラ26が回転自在に設けられている。ローラ26を押し上げると2つの挟持片30A、30Bの間が開く。基材Fの搬送経路のうち、前処理槽14の直前および後処理槽16の直後には、ローラ26を押し上げるレールが配置されている。前処理槽14の直前でローラ26を押し上げ、開いた挟持片30A、30Bの間に基材Fを挿入した後、挟持片30A、30Bを閉じることで基材Fを把持できる。また、後処理槽16の直後にローラ26を押し上げ挟持片30A、30Bを開くことで基材Fを開放できる。
【0024】
固定アーム22Bの上端には略水平に配置された板状の接触板27が設けられている。接触板27は給電装置40と接触し、給電装置40から電流の供給を受ける。アーム22A、22Bおよび挟持片30A、30Bは金属などの導電体で形成されている。また、固定アーム22Bと可動アーム22Aとはヒンジ21で接触しており、導通している。給電装置40から供給された電流は、アーム22A、22Bおよび挟持片30A、30Bを流れて、基材Fに供給される。この際、基材Fの一方の主面には可動アーム22A側の挟持片30Aが接触し、挟持片30Aから給電される。また、基材Fの他方の主面には固定アーム22B側の挟持片30Bが接触し、挟持片30Bから給電される。
【0025】
図3に示すように、エンドレスベルト13(
図3において図示省略)には、上記構成のクランプ20が複数並んで設けられている。めっき槽15の上方には給電装置40が設けられている。給電装置40は基材Fの搬送経路に沿って略水平に設けられたブスバー41を有する。ブスバー41は図示しない整流器に接続されている。ブスバー41の下方には複数の給電ブラシ42が並べて配置されている。各給電ブラシ42は圧縮バネ43を介してブスバー41に取り付けられている。圧縮バネ43の付勢により給電ブラシ42は固定アーム22Bの接触板27に押し付けられている。
【0026】
エンドレスベルト13の動作にともない、複数のクランプ20は略水平方向に移動する。この際、クランプ20の接触板27は給電装置40の給電ブラシ42に順次接触する。整流器から供給された電流は、ブスバー41および給電ブラシ42を介して各クランプ20に供給される。また、各クランプ20から基材Fに電流が供給される。このように、給電装置40はクランプ20を介して基材Fに給電する。
【0027】
図4(A)および
図4(B)に示すように、挟持片30Aはアーム22Aの先端に2本のボルト31、31で固定されている。挟持片30Aは基材Fへの給電を継続すると劣化するため、定期的にまたは不定期で交換する必要がある。挟持片30Aを交換可能とするため、挟持片30Aはアーム22Aに一体形成されておらず、別部材としてボルト31で固定されている。
【0028】
2本のボルト31、32は、いずれも、挟持片30Aが正常な姿勢でアーム22Aに取り付けられている場合において、挟持片30Aの重心Gを通る鉛直線上以外の位置に設けられている。例えば、2本のボルト31、32は挟持片30Aの左右に設けられている。したがって、いずれか1本のボルト31が脱落すると、挟持片30Aは残る1本のボルト31を中心に回転して傾く。
【0029】
挟持片30Aにはこの傾きを抑制する係止部32が設けられている。係止部32は挟持片30Aをアーム22Aに対して回り止めする部材であればよく、種々の構成を採用できる。図示の例では、係止部32は挟持片30Aの幅方向に沿った突条である。係止部32(突条)は挟持片30Aの裏面であって、アーム22Aの先端縁22eに係止する位置に設けられている。係止部32がアーム22Aの先端縁22eに係止することで、挟持片30Aの傾きが抑制される。
【0030】
もう一方の挟持片30Bも同様の構成である。すなわち、挟持片30Bはアーム22Bの先端に2本のボルト31、31で固定されている。また、挟持片30Bに係止部32が設けられている。係止部32がアーム22Bの先端縁22eに係止することで、挟持片30Bの傾きが抑制される。
【0031】
図5(A)および
図5(B)に示すように、係止部32をアーム22Aに設けてもよい。すなわち、係止部32はアーム22Aの幅方向に沿った突条である。係止部32(突条)はアーム22Aの表面であって、挟持片30Aの基端縁30eに係止する位置に設けられている。係止部32が挟持片30Aの基端縁30eに係止することで、挟持片30Aの傾きが抑制される。
【0032】
もう一方のアーム22Bも同様の構成である。すなわち、アーム22Bに係止部32が設けられている。係止部32が挟持片30Bの基端縁30eに係止することで、挟持片30Bの傾きが抑制される。
【0033】
以上のように、クランプ20は係止部32を有するため、挟持片30Aまたは30Bを固定する2本のボルト31、31のうち1本が脱落しても係止部32により挟持片30A、30Bの傾きが抑制される。そのため、表裏の挟持片30A、30Bが噛み合う状態を維持でき、基材Fを正常に把持できる。換言すれば、係止部32は挟持片30A、30Bが噛み合う状態を維持できる程度に挟持片30A、30Bの傾きを抑制できればよい。挟持片30A、30Bの形状にもよるが、傾きを3°以下、好ましくは2°以下に抑制できればよい。ボルト31が脱落しても基材Fを正常に把持できることから、めっき処理を継続しても基材Fの破損、不均一な給電、部材の損傷などの問題が生じることがない。
【0034】
また、係止部32があれば、挟持片30A、30Bをアーム22A、22Bに取り付ける際に挟持片30A、30Bを位置決めできる。そのため、取付作業が容易になり作業時間を短縮できる。
【0035】
図2に示すように、本実施形態の電解めっき装置AAは、挟持片30Aを固定するボルト31の脱落を検知する脱落検知装置50を有する。脱落検知装置50はボルト31の脱落を直接的または間接的に検知できればよく、どのような構成でもよい。図示の例では、脱落検知装置50は、アーム22Bに対する挟持片30Aの傾きに基づき、間接的にボルト31の脱落を検知する構成である。
【0036】
脱落検知装置50は、アーム22Bを検知するアームセンサ51と、挟持片30A、30Bを検知する挟持片センサ52とを有する。アームセンサ51および挟持片センサ52として光電センサ、超音波センサなどの非接触式センサが好適に用いられる。非接触式センサは検知軸上の物体との距離を測定する。アームセンサ51の検知軸は固定アーム22Bが通過する位置に設定される。挟持片センサ52の検知軸は挟持片30A、30Bが通過する位置に設定される。
【0037】
アームセンサ51および挟持片センサ52は、クランプ20の移動経路のいずれかの位置に固定される。アームセンサ51および挟持片センサ52の配置は特に限定されないが、他の部材との干渉を避けるため、前処理槽14、めっき槽15、および後処理槽16の外部であることが好ましい。
【0038】
クランプ20はエンドレスベルト13の動作により移動するため、アームセンサ51および挟持片センサ52をいずれかの位置に固定しておけば、全てのクランプ20に対して、アーム22Bおよび挟持片30A、30Bを検知できる。
【0039】
アームセンサ51および挟持片センサ52の検知結果は判断部53に入力されている。判断部53としてコンピュータ、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)などを用いることができる。判断部53はアームセンサ51および挟持片センサ52の検知位置のずれ量に基づき挟持片30A、30Bが傾いているか否かを判断する機能を有する。
【0040】
図6(A)は、挟持片30A、30Bを固定するボルト31がいずれも脱落していない正常な状態を示す。アームセンサ51は検知軸上においてアーム22Bが存在する範囲、すなわちアーム22Bの幅L1を検知する。また、挟持片センサ52は検知軸上において挟持片30A、30Bが存在する範囲、すなわち挟持片30Aと挟持片30Bとを合わせた幅L2を検知する。
【0041】
判断部53はアームセンサ51の検知結果からアーム22Bの中心位置C1を特定する。また、判断部53は挟持片センサ52の検知結果から挟持片30A、30Bの中心位置C2を特定する。挟持片30Aおよび挟持片30Bのいずれも傾いていない状態では、アーム22Bの中心位置C1と挟持片30A、30Bの中心位置C2とが一致するはずである。したがって、判断部53はアーム22Bの中心位置C1と挟持片30A、30Bの中心位置C2とのずれ量が閾値未満の場合に、挟持片30Aおよび挟持片30Bのいずれも傾いていないと判断する。
【0042】
図6(B)は、挟持片30Aを固定する2本のボルト31、31のうちの片方が脱落して挟持片30Aが傾いた状態を示す。なお、
図6(B)は、説明の便宜のため、挟持片30Aの傾きを誇張している。挟持片30Aが傾くと、挟持片センサ52が検知する挟持片30Aと挟持片30Bとを合わせた幅L2が全体的に横ずれする。したがって、挟持片30A、30Bの中心位置C2はアーム22Bの中心位置C1に対してずれる。判断部53はアーム22Bの中心位置C1と挟持片30A、30Bの中心位置C2とのずれ量が閾値以上の場合に、挟持片30Aまたは挟持片30Bが傾いていると判断する。なお、閾値は挟持片30A、30Bの傾きを検知できる値に設定される。
【0043】
挟持片30Aの傾きの判断は、アーム22Bの中心位置C1と挟持片30A、30Bの中心位置C2とを比較する方法に限定されない。例えば、判断部53はアーム22Bの側部と挟持片30A、30Bの側部との位置関係から挟持片30Aまたは挟持片30Bが傾いているか否かを判断してもよい。また、アームセンサ51はアーム22Aを検知してもよい。この場合、判断部53はアーム22Aと挟持片30A、30Bとの位置関係に基づき挟持片30A、30Bが傾いているか否かを判断する。
【0044】
挟持片センサ52をクランプ20の表裏両側に設けて、表側の挟持片センサ52で表側の挟持片30Aのみを検知し、裏側の挟持片センサ52で裏側の挟持片30Bのみを検知してもよい。そうすれば、挟持片30Aおよび挟持片30Bのいずれのボルト31が脱落したのかを判別できる。
【0045】
〔電解めっき装置の運転方法〕
つぎに、電解めっき装置AAの運転方法を説明する。
図1に示すように、まず、基材Fをロール状に巻回した基材ロールを供給装置11にセットする。例えば、基材Fは絶縁性を有するベースフィルムの両面または片面に金属層が形成されたものである。ベースフィルムとしてポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。金属層はスパッタリングなどの真空成膜法により成膜される。金属層は下地金属層と銅薄膜層とからなる。一般に、下地金属層はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。
【0046】
電解めっき装置AAの運転を開始し、ロールツーロールにより基材Fを搬送しつつ、基材Fの両面または片面にめっき被膜を成膜する(電解めっき工程)。基材Fは供給装置11から繰り出され、前処理槽14、めっき槽15、および後処理槽16の内部をこの順に通過し、巻取装置12で巻き取られる。めっき槽15内において基材Fに対する電解めっきが行われる。基材Fに銅めっき被膜を成膜すれば銅張積層板が得られる。なお、電解めっき装置AAは銅張積層板を製造するのに限定されず、種々の製品を製造するのに用いられる。
【0047】
基材Fに対してめっき処理を行う間、脱落検知装置50で挟持片30A、30Bを固定するボルト31の脱落を検知する。複数のクランプ20はエンドレスベルト13の動作により移動するため、クランプ20の搬送経路上に設けられた一つの脱落検知装置50で全てのクランプ20に対するボルト31の脱落を検知できる。
【0048】
脱落検知装置50がいずれかのクランプ20のボルト31の脱落を検知した場合であっても、供給装置11にセットされている1ロールの基材Fに対するめっき処理が終了するまで電解めっき装置AAの運転を継続することが好ましい。
【0049】
クランプ20は係止部32を有するため、挟持片30Aまたは30Bを固定する2本のボルト31、31のうち1本が脱落しても挟持片30A、30Bの傾きが抑制され、基材Fを正常に把持できる。そのため、ボルト31が脱落してもめっき処理を継続することができる。
【0050】
また、ボルト31の脱落を検知した時点で電解めっき装置AAを停止すると、めっき処理の途中の基材Fの全てが不良品となる。挟持片30A、30Bを固定するボルト31が脱落しても1ロールの基材Fに対するめっき処理が終了するまで電解めっき装置AAの運転を継続すれば、基材Fが不良品とならず、生産性が向上する。
【0051】
供給装置11にセットされている1ロールの基材Fに対するめっき処理の終了後に、電解めっき装置AAを停止してボルト31の脱落を解消する。すなわち、ボルト31の脱落を検知したクランプ20に対して新たなボルト31を締結する。これにより、全てのボルト31が締結された状態で、つぎのロールの基材Fのめっき処理を開始できる。
【符号の説明】
【0052】
AA 電解めっき装置
20 クランプ
21 ヒンジ
22A、22B アーム
30A、30B 挟持片
31 ボルト
32 係止部
50 脱落検知装置
51 アームセンサ
52 挟持片センサ
53 判断部