IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人慈恵大学の特許一覧 ▶ 学校法人東京理科大学の特許一覧

特開2024-8720間葉系幹細胞とリンパ内皮細胞を用いたリンパ管網内蔵三次元組織
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008720
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞とリンパ内皮細胞を用いたリンパ管網内蔵三次元組織
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20240112BHJP
   C12M 3/04 20060101ALI20240112BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20240112BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20240112BHJP
【FI】
C12N5/077
C12M3/04 A
C07K14/78
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110815
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村橋 睦了
(72)【発明者】
【氏名】西川 元也
(72)【発明者】
【氏名】草森 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】尾花 柊
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029GB10
4B065AA90X
4B065AC12
4B065AC14
4B065AC20
4B065BC41
4B065BC42
4B065BC46
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA61
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
【課題】リンパ管網内蔵三次元組織の培養物を提供する。
【解決手段】リンパ管網内蔵三次元組織培養物であって、間葉系幹細胞と、リンパ内皮細胞とを含み、前記間葉系幹細胞を含む三次元組織の内部に、前記リンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を内蔵する構造を含み、前記間葉系幹細胞は細胞外マトリクスでコーティングされている、培養物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ管網内蔵三次元組織培養物であって、
間葉系幹細胞と、リンパ内皮細胞とを含み、
前記間葉系幹細胞を含む三次元組織の内部に、前記リンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を内蔵する構造を含み、
前記間葉系幹細胞は細胞外マトリクスでコーティングされている、培養物。
【請求項2】
前記細胞外マトリクスは、ゼラチンおよびフィブロネクチンを含む、請求項1に記載の培養物。
【請求項3】
前記リンパ内皮細胞は、間葉系幹細胞から分化誘導されたリンパ内皮細胞である、請求項1または2に記載の培養物。
【請求項4】
前記リンパ内皮細胞は、生体から採取されたリンパ内皮細胞である、請求項1または2に記載の培養物。
【請求項5】
前記三次元組織に含まれる間葉系幹細胞の細胞数が、1.5×10細胞/cm~6.0×10細胞/cmである、請求項1または2に記載の培養物。
【請求項6】
前記三次元組織に含まれるリンパ内皮細胞の細胞数が、3.0×10細胞/cm~3.0×10細胞/cmである、請求項1または2に記載の培養物。
【請求項7】
リンパ管網内蔵三次元組織培養物の製造方法であって、
間葉系幹細胞を細胞外マトリクスでコーティングする工程と、
前記細胞外マトリクスでコーティングされた間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層を形成する工程と、
前記間葉系幹細胞層上にリンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層を積層する工程と、
前記リンパ内皮細胞層上に新たに間葉系幹細胞層を積層する工程と、を含む、方法。
【請求項8】
前記細胞外マトリクスは、ゼラチンおよびフィブロネクチンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記リンパ内皮細胞は、間葉系幹細胞から分化誘導されたリンパ内皮細胞である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記リンパ内皮細胞は、生体から採取されたリンパ内皮細胞である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
前記間葉系幹細胞層の細胞数は、細胞層1層あたり7.5×10細胞/cm~3.0×10細胞/cmである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項12】
前記リンパ内皮細胞層は、細胞層1層あたり3.0×10細胞/cm~3.0×10細胞/cmである、請求項7または8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞とリンパ内皮細胞を用いたリンパ管網内蔵三次元組織の培養物並びにその製造方法および培養方法に関する。
【0002】
国内の乳癌および子宮癌根治術におけるリンパ節郭清に続発する、二次性リンパ浮腫によって苦しむ患者数は推定10万人であり、さらに年間1万人の増加が予想されている(非特許文献1)。2019年8月の国立がんセンターのリリースでは、上記がんの全病期3年生存率は以下の通りであり(乳癌92.7%; 子宮頸癌 78.0%; 子宮内膜癌 84.0%)、今後サバイバーの増加により合併症としての二次性リンパ浮腫患者増加は容易に予測されるところである。本疾患は、2008年の診療報酬改定で,初めてリンパ浮腫指導管理料が保険適用となり、社会的認知度も高まってきた。リンパ液うっ滞により変性したリンパ管の再建や郭清されたリンパ節の再建がない限り進行性であるこの疾患は、皮膚の硬化および浮腫の進行による関節の拘縮をきたし、繰り返す蜂窩織炎の合併など日常生活の制限をきたすものである。そのQOL低下の深刻さと患者数の多さに、この疾患に対する取り組みを期待する社会的要請が明らかになりつつある。
【0003】
リンパ浮腫の治療は大きく保存療法と外科療法に分けられる。前者として理学療法である用手的リンパドレナージや弾性着衣が以前からその主体であり、後者としてリンパ管静脈吻合術(lymphatic venous anastomosis: LVA)が近年盛んに行われている。リンパ管と静脈を吻合してリンパをドレナージするこのLVAは、保存療法が奏功しないリンパ浮腫進行例に有効であることが報告されているが、その限界も明らかになりつつある(非特許文献2)。下肢リンパ浮腫では、多くの場合、術後に弾性着衣は外せず保存療法の継続が必要なため、必ずしも根治が望めない(非特許文献3)。
【0004】
ヒト線維芽細胞とヒトリンパ管内皮細胞で作製した人工三次元脈管組織が、ヌードマウス筋膜上に移植したとき移植グラフトとして生着、機能しうることが報告されている(非特許文献4)。また、リンパ浮腫を再生医療によって解決しようとする試みとして脂肪組織由来間葉系幹細胞(adipose-derived stem cell: ADSC)の注入が行われているが、ヒトではリンパ管再生に至るエビデンスは明らかでなく、臨床成績の向上につながっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小川佳宏、新薬と臨床、68(2):221-228、2019
【非特許文献2】Koshima I, et al. J Reconstr Microsurg. 19(4):209-15. 2003
【非特許文献3】Maegawa J, et al. Eur J Vasc Endvasc Surg. 43(5):602-8. 2012
【非特許文献4】Asano Y, et al. J Tissue Eng Regen Med. 12(3):e1501-e1510. 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リンパ管網内蔵三次元組織の培養物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層と、リンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層とを積層して得られる培養物がリン
パ管網内蔵三次元組織を形成することを見出し、本発明を完成させた。本発明は以下の態様を含む。
【0008】
[1]
リンパ管網内蔵三次元組織培養物であって、
間葉系幹細胞と、リンパ内皮細胞とを含み、
前記間葉系幹細胞を含む三次元組織の内部に、前記リンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を内蔵する構造を含み、
前記間葉系幹細胞は細胞外マトリクスでコーティングされている、培養物。
[2]
前記細胞外マトリクスは、ゼラチンおよびフィブロネクチンを含む、[1]に記載の培養物。
[3]
前記リンパ内皮細胞は、間葉系幹細胞から分化誘導されたリンパ内皮細胞である、[1]または[2]に記載の培養物。
[4]
前記リンパ内皮細胞は、生体から採取されたリンパ内皮細胞である、[1]または[2]に記載の培養物。
[5]
前記三次元組織に含まれる間葉系幹細胞層の細胞数が、1.5×10細胞/cm~6.0×10細胞/cmである、[1]~[4]のいずれかに記載の培養物。
[6]
前記三次元組織に含まれるリンパ内皮細胞の細胞数が、3.0×10細胞/cm~3.0×10細胞/cmである、[1]~[5]のいずれかに記載の培養物。
[7]
リンパ管網内蔵三次元組織培養物の製造方法であって、
間葉系幹細胞を細胞外マトリクスでコーティングする工程と、
前記細胞外マトリクスでコーティングされた間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層を形成する工程と、
前記間葉系幹細胞層上にリンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層を積層する工程と、
前記リンパ内皮細胞層上に新たに間葉系幹細胞層を積層する工程と、を含む、方法。
[8]
前記細胞外マトリクスは、ゼラチンおよびフィブロネクチンを含む、[7]に記載の方法。
[9]
前記リンパ内皮細胞は、間葉系幹細胞から分化誘導されたリンパ内皮細胞である、[7]または[8]に記載の方法。
[10]
前記リンパ内皮細胞は、生体から採取されたリンパ内皮細胞である、[7]または[8]に記載の方法。
[11]
前記間葉系幹細胞層の細胞数は、細胞層1層あたり7.5×10細胞/cm~3.0×10細胞/cmである、[7]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]
前記リンパ内皮細胞層は、細胞層1層あたり3.0×10細胞/cm~3.0×10細胞/cmである、[7]~[11]のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1-1】C3H10T1/2由来リンパ内皮細胞(LEC)およびマウス間葉系幹細胞C3H10T1/2を、Prox-1、LYVE-1、およびCD31について免疫染色した写真(図面代用写真)。
図1-2】外側細胞としてフィブロネクチンおよびゼラチン(FN-G)コーティングしたC3H10T1/2、内側細胞としてFN-GコーティングしたLECを用いて作製した三次元組織の培養1日目および培養5日目の写真(図面代用写真)。
図1-3】外側細胞としてFN-GコーティングしたC3H10T1/2、内側細胞としてFN-GコーティングしたLECを用いて作製した三次元組織の培養5日目の、パラフィン切片の写真(図面代用写真)。
図2】2.0×10細胞、1.5×10細胞、1.0×10細胞、および5×10細胞のそれぞれの総細胞数で作製したC3H10T1/2三次元組織パラフィン切片の写真(図面代用写真)。
図3】外側細胞としてFN-GコーティングしたC3H10T1/2、内側細胞としてFN-GコーティングしたLECを用いて作製した三次元組織を固定し、CD31抗体で免疫染色した後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した写真(図面代用写真)。
図4-1】C3H10T1/2-Nlucを2×10細胞、PBSに懸濁した細胞懸濁液をマウスの皮下に移植し、1日目、2日目および3日目にin vivoイメージングした写真(図面代用写真)。
図4-2】FN-Gコーティングしたマウス線維芽細胞NIH3T3を外側細胞とし、FN-GコーティングしたC3H10T1/2-Nlucを内側細胞として作製した三次元組織をマウスに移植して、1日目、4日目および5日目にin vivoイメージングした写真(図面代用写真)。
図4-3】FN-GコーティングしたC3H10T1/2-GFPを7.5×10細胞用いて外側細胞とし、FN-GコーティングしたC3H10T1/2-flucを2×10細胞用いて内側細胞として作製した三次元組織をマウスに移植して、1日目、7日目、14日目および21日目にin vivoイメージングした写真(図面代用写真)。
図4-4】FN-GコーティングしたC3H10T1/2を外側細胞とし、FN-GコーティングしたC3H10T1/2-Nlucを内側細胞として作製した三次元組織(C3H10T1/2-Nluc内蔵組織)またはFN-GコーティングしたLEC-Nlucを内側細胞として作製した三次元組織(LEC-Nluc内蔵組織)をマウスに移植して、3日目および7日目にin vivoイメージングした写真(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<1>本発明の方法
本発明の方法の一態様は、
間葉系幹細胞をコーティングする工程と、
前記間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層を形成する工程と、
前記間葉系幹細胞層上にリンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層を積層する工程と、
前記リンパ内皮細胞層上に新たに間葉系幹細胞層を積層する工程とを含む、培養物の製造方法である。
【0011】
本発明の方法により製造される培養物は、組織培養物であってよく、前記積層する工程により積層された細胞培養物、すなわち細胞培養物の積層体であってよく、リンパ管網内蔵三次元組織培養物であってよい。本発明の方法により製造される培養物は、具体的には、後述する本発明の培養物であってよく、より具体的には、後述する本発明のリンパ管網内蔵三次元組織培養物または本発明の細胞培養物の積層体であってもよい。
【0012】
本発明の「細胞」の由来は、本発明の効果が得られるならば特に限定されないが、哺乳類であることが好ましく、ヒトなどの霊長類、マウスもしくはラットなどのげっ歯類、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、またはブタであることがより好ましく、ヒトまたはマウスであることがさらにより好ましい。
【0013】
「間葉系幹細胞」とは、骨髄や脂肪組織などに存在する体性幹細胞であり、骨や軟骨、血管、心筋細胞などに分化できる能力が報告されている細胞である。また、間葉系幹細胞は、細胞表面マーカーCD73、CD90、および/もしくはCD105の陽性ならびに/またはCD11bもしくはCD14、CD19もしくはCD79α、CD34、CD45、および/もしくはHLA-DRの陰性によって特徴づけられてもよく、骨芽細胞、軟骨細胞、および脂肪細胞への分化能を有することによって特徴づけられてもよい。
【0014】
本発明において、間葉系幹細胞は生体に由来してもよく、多能性幹細胞から分化誘導することで得られてもよい。生体に由来する間葉系幹細胞は、例えば、骨髄、臍帯、臍帯血、脂肪組織、または胚に由来してもよい。多能性幹細胞から間葉系幹細胞を分化誘導する方法は、任意の既知の方法を用いることができ、特に限定されない。そのような方法として、例えば、Kim Hynes, et al. Stem Cells Dev. 23(10):1084-96. 2014またはDmitriy Sheyn, et al. Stem Cells Transl Med. 5(11):1447-1460. 2016に記載の方法が挙げられる。なお、「多能性幹細胞」とは、生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞を指す。多能性幹細胞は、特に限定されないが、例えば胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(GS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。
【0015】
「リンパ内皮細胞」とは、リンパ管を構成する内皮細胞である。リンパ内皮細胞は、例えば、リンパ内皮細胞マーカーであるProx-1およびLYVE-1、内皮細胞マーカーであるCD31などの発現により特徴づけられてよい。本発明において、リンパ内皮細胞は生体に由来してもよく、未分化細胞から分化誘導することで得られてもよい。生体に由来するリンパ内皮細胞は、例えば、リンパ管に由来してもよい。リンパ内皮細胞を分化誘導し得る未分化細胞としては、例えば、間葉系幹細胞が挙げられる。本発明において、リンパ内皮細胞は、好ましくは、リンパ管に由来する、または間葉系幹細胞から分化誘導することで得られる。
【0016】
間葉系幹細胞からリンパ内皮細胞を分化誘導する方法は、任意の既知の方法を用いることができ、そのような方法としては、例えば、Luwan Wei, et al. Lymphology. 45(4):177-87. 2012またはYi Yang, et al. Cell Reprogram. Feb;17(1):69-76. 2015に記載の方
法が挙げられる。具体的には、例えば、Luwan Wei, et al. Lymphology. 45(4):177-87. 2012に記載のリンパ内皮細胞分化誘導培地を用いて、間葉系幹細胞を10日間培養することでリンパ内皮細胞を分化誘導してもよい。
【0017】
「間葉系幹細胞を細胞外マトリクスでコーティングする工程」は、間葉系幹細胞に細胞外マトリクスでコーティングを行うことで実施される。本発明において「細胞外マトリクスでコーティング」とは、細胞外マトリクスで細胞を被覆することを意味する。「細胞外マトリクス」は、本発明の効果が得られるなら特に限定されないが、好ましくは、フィブロネクチンまたはゼラチンである。フィブロネクチンによるコーティングをフィブロネクチンコーティング、ゼラチンによるコーティングをゼラチンコーティングとも称する。
【0018】
前記コーティングは、任意の既知の方法により実施されてよく、そのような方法としては、例えば、Asano Y, et al. J Tissue Eng Regen Med. 12(3):e1501-e1510. 2018また
はNishiguchi, et al. Adv. Mater. 23(31):3506-10. 2011に記載の方法が挙げられる。
具体的には、例えば、細胞を細胞外基質を含む緩衝液に懸濁し、インキュベートする方法が挙げられる。緩衝液としては、例えば、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)塩酸緩衝液(Tris-HCl)、Tris-エチレンジアミン四酢酸(EDTA)緩衝液(Tris-EDTA)、リン酸緩衝食塩水(PBS)またはこれらの組み合わせなど、任意の緩衝液を用いうる。また、当該方法においてインキュベートする時間は、適
切にコーティングが行われるなら特に限定されないが、例えば、15秒、30秒、1分、1分30秒、2分、3分、5分、または10分であってもよく、好ましくは1分である。
【0019】
前記コーティングは、1回実施されてもよく、複数回実施されてもよく、特に限定されないが、例えば、1回、2回、3回、5回、7回、または9回実施されてもよく、好ましくは、9回実施される。また、前記コーティングは、少なくとも1回はフィブロネクチンコーティングまたはゼラチンコーティングであることが好ましく、このような場合、前記コーティングは、フィブロネクチンコーティングまたはゼラチンコーティングを含む、ともいう。前記コーティングが2回以上実施される場合、前記コーティングは、それぞれ少なくとも1回ずつは、フィブロネクチンコーティングとゼラチンコーティングであることが好ましく、このような場合、前記コーティングは、フィブロネクチンコーティングおよびゼラチンコーティングを含む、ともいう。なお、フィブロネクチンコーティングおよびゼラチンコーティングは、同時に実施されてもよく、本発明のコーティングは、フィブロネクチンコーティング、ゼラチンコーティング、および他の細胞外基質によるコーティングの任意の組み合わせについて、コーティングが同時に実施されることを排除するものではない。
【0020】
前記コーティングが3回以上実施され、かつ、2種類以上の異なるコーティングが実施される場合において、前記コーティングは、当該2種類以上の異なるコーティングが交互に実施されてもよい。具体的には、例えば、前記コーティングがフィブロネクチンコーティングおよびゼラチンコーティングを含む場合において、まずフィブロネクチンコーティングが実施され、次にゼラチンコーティングが実施され、その次はフィブロネクチンコーティングが実施される、を繰り返してもよく、まずゼラチンコーティングが実施され、次にフィブロネクチンコーティングが実施され、その次はゼラチンコーティングが実施される、を繰り返してもよい。前記コーティングがフィブロネクチンコーティングおよびゼラチンコーティングを含む場合、好ましくは、フィブロネクチンコーティングとゼラチンコーティングが交互に実施され、この場合において、より好ましくは、最初と最後にフィブロネクチンコーティングが実施される。
【0021】
本発明の方法は、リンパ内皮細胞を細胞外マトリクスでコーティングする工程を含んでもよい。「リンパ内皮細胞を細胞外マトリクスでコーティングする工程」は、リンパ内皮細胞に細胞外マトリクスでコーティングを行うことで実施される。「細胞を細胞外マトリクスでコーティング」および「細胞外マトリクス」については、上述した通りである。
【0022】
「間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層を形成する工程」は、上記のように細胞外マトリクスでコーティングされた間葉系幹細胞を含む細胞を層状に配置することで実施され、具体的には、例えば、間葉系幹細胞を含む細胞を分散し、分散した当該細胞をディッシュなどの平面上に播種して培養することにより、細胞層を形成することで実施されてもよい。前記「ディッシュなどの平面」は、具体的には、例えば細胞培養用のディッシュ、プレートまたはトランズウェルであってよく、好ましくはトランズウェルである。間葉系幹細胞を含む細胞を培養することで細胞層を形成する場合において、培養時の培地は、間葉系幹細胞の培養における任意の既知の培地を用いてよく、特に限定されない。また、間葉系幹細胞を含む細胞を培養することで細胞層を形成する場合において、培養期間は、適切に細胞層が形成されるならば特に限定されないが、例えば、12時間、24時間、2日間、3日間、4日間、5日間、または7日間であってもよい。本発明における「細胞層」とは、任意の場所の垂直方向において、1細胞で構成されるものに限定されず、複数の細胞で構成されてもよい。
【0023】
間葉系幹細胞層は、適切に細胞層を形成する限り任意の細胞数であってよいが、例えば、間葉系幹細胞層1層あたりの細胞数として、5.0×10細胞/cm以上、7.5
×10細胞/cm以上、1.5×10細胞/cm以上、または2.0×10細胞/cm以上であってもよく、5.0×10細胞/cm以下、3.0×10細胞/cm以下、または2.5×10細胞/cm以下であってもよく、それらの矛盾しない任意の組み合わせであってもよい。間葉系幹細胞層の細胞数は、より具体的には、例えば、間葉系幹細胞層1層あたりの細胞数として、5.0×10細胞/cm~5.0×10細胞/cm、7.5×10細胞/cm~3.0×10細胞/cm、1.5×10細胞/cm~3.0×10細胞/cm、2.0×10細胞/cm~3.0×10細胞/cm、または1.5×10細胞/cm~2.5×10細胞/cmであってもよい。
【0024】
「間葉系幹細胞層上にリンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層を積層する工程」は、間葉系幹細胞層上に、リンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層を形成する工程により実施されてもよい。「リンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層を形成する工程」は、リンパ内皮細胞を含む細胞を層状に配置することで実施される。よって、「間葉系幹細胞層上にリンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層を積層する工程」は、リンパ内皮細胞を含む細胞を、間葉系幹細胞層上に層状に配置することで実施されてもよく、具体的には、例えば、リンパ内皮細胞を含む細胞を分散し、分散した当該細胞を間葉系幹細胞層上に播種して培養することにより、細胞層を形成することで実施されてもよい。なお、リンパ内皮細胞は細胞外マトリクスによってコーティングされたのち、間葉系幹細胞層上に積層されてよい。当該工程における「間葉系幹細胞層」とは、上述した間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層を形成する工程により形成される間葉系幹細胞層であってよい。リンパ内皮細胞を含む細胞を培養することで細胞層を形成する場合において、培養時の培地は、リンパ内皮細胞の培養における任意の既知の培地を用いてよく、特に限定されない。また、リンパ内皮細胞を含む細胞を培養することで細胞層を形成する場合において、培養期間は、適切に細胞層が形成されるならば特に限定されないが、例えば、12時間、24時間、2日間、3日間、4日間、5日間、または7日間であってもよい。「細胞層」とは、上述した通りである。
【0025】
リンパ内皮細胞層は、適切に細胞層を形成する限り任意の細胞数であってよいが、例えば、リンパ内皮細胞層1層あたりの細胞数として、1.5×10細胞/cm以上、3
.0×10細胞/cm以上、4.0×10細胞/cm以上、5.0×10細胞/cm以上、または6.0×10細胞/cm以上であってもよく、3.0×10細胞/cm以下、1.5×10細胞/cm以下、1.0×10細胞/cm以下、8.0×10細胞/cm以下、または7.0×10細胞/cm以下であってもよく、それらの矛盾しない任意の組み合わせであってもよい。本発明のリンパ内皮細胞層の細胞数は、具体的には、例えば、リンパ内皮細胞層1層あたり1.5×10細胞/c
~3.0×10細胞/cm、3.0×10細胞/cm~3.0×10細胞/cm、3.0×10細胞/cm~1.5×10細胞/cm、4.0×10細胞/cm~8.0×10細胞/cm、5.0×10細胞/cm~7.0×10細胞/cm、または6.0×10細胞/cm~7.0×10細胞/cmであってもよい。
【0026】
「リンパ内皮細胞層上に新たに間葉系幹細胞層を積層する工程」は、間葉系幹細胞層上に積層されたリンパ内皮細胞層上に、新たに別の間葉系幹細胞層を形成することで実施されてよい。間葉系幹細胞層を形成する工程は、既に間葉系幹細胞層上に積層されたリンパ内皮細胞層上に、当該間葉系幹細胞層を形成する点を除き、「間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層を形成する工程」の記載を援用する。
【0027】
本発明の方法は、さらに、前記「間葉系幹細胞層上にリンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層を積層する工程」と、当該工程に続く前記「リンパ内皮細胞層上に新たに間葉系幹細胞層を積層する工程」とを、任意の回数繰り返してもよい。
【0028】
本発明の方法は、さらに、リンパ内皮細胞層上に新たに間葉系幹細胞層を積層する工程の後に、一定期間培養する工程を含んでもよい。当該工程において、「一定期間」とは、例えば、12時間以上、24時間以上、48時間以上、3日間以上、または5日間以上であってよく、30日間以下、20日以下、10日間以下、または7日間以下であってもよく、それらの矛盾しない任意の組み合わせであってもよい。
【0029】
<2>本発明の培養物
本発明の培養物の一態様は、
間葉系幹細胞と、リンパ内皮細胞とを含み、
前記間葉系幹細胞を含む三次元組織の内部に、前記リンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を内蔵する構造を含み、
前記間葉系幹細胞は細胞外マトリクスでコーティングされている、リンパ管網内蔵三次元組織培養物、である。
【0030】
本発明の「リンパ管網内蔵三次元組織培養物」は、三次元組織の内部に、リンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を含む培養物であり、好ましくはシート状である。「三次元組織」とは、平面方向だけでなく三次元に立体的に形成された組織であり、例えば、二層以上の細胞層の構造を含む組織であってよい。「リンパ管網様の構造」とは、リンパ内皮細胞により構成される管状の構造を含む、毛細リンパ管網に似た構造を意味する。
本発明のリンパ管網内蔵三次元組織培養物を製造する方法は特に限定されないが、上記本発明の方法で製造されてもよい。本発明の方法で製造された細胞培養物の積層体、または後述する細胞培養物の積層体におけるリンパ内皮細胞層に含まれるリンパ内皮細胞は、培養時に自発的にリンパ管網様の構造をとり得ると考えられる。よって、本発明のリンパ管網内蔵三次元組織培養物は、本発明の方法で製造された培養物、または後述する細胞培養物の積層体をさらに培養することで製造されてもよい。
【0031】
「間葉系幹細胞」は、上述した通りである。本発明のリンパ管網内蔵三次元組織培養物における三次元組織に含まれる間葉系幹細胞の細胞数は、特に限定されないが、例えば、1.0×10細胞/cm以上、1.5×10細胞/cm以上、3.0×10細胞/cm以上、または4.0×10細胞/cm以上であってもよく、1.0×10細胞/cm以下、6.0×10細胞/cm以下、または5.0×10細胞/cm以下であってもよく、それらの矛盾しない任意の組み合わせであってもよい。三次元組織における間葉系幹細胞の細胞数は、より具体的には、例えば、1.0×10細胞/cm~1.0×10細胞/cm、1.5×10細胞/cm~6.0×10細胞/cm、3.0×10細胞/cm~6.0×10細胞/cm、4.0×10細胞/cm~6.0×10細胞/cm、または3.0×10細胞/cm~5.0×10細胞/cmであってもよい。
【0032】
「リンパ内皮細胞」は、上述した通りである。本発明のリンパ管網内蔵三次元組織培養物におけるリンパ管網様の構造に含まれるリンパ内皮細胞の細胞数は、特に限定されないが、例えば、1.5×10細胞/cm以上、3.0×10細胞/cm以上、4.0×10細胞/cm以上、5.0×10細胞/cm以上、または6.0×10細胞/cm以上であってもよく、3.0×10細胞/cm以下、1.5×10細胞/cm以下、1.0×10細胞/cm以下、8.0×10細胞/cm以下、または7.0×10細胞/cm以下であってもよく、それらの矛盾しない任意の組み合わせであってもよい。本発明のリンパ管網内蔵三次元組織培養物におけるリンパ管網様の構造に含まれるリンパ内皮細胞の細胞数は、より具体的には、例えば、1.5×10細胞/cm~3.0×10細胞/cm、3.0×10細胞/cm~3.0×10細胞/cm、3.0×10細胞/cm~1.5×10細胞/cm、4.0
×10細胞/cm~8.0×10細胞/cm、5.0×10細胞/cm~7.0×10細胞/cm、または6.0×10細胞/cm~7.0×10細胞/cmであってもよい。
【0033】
本発明のリンパ管網内蔵三次元組織培養物における三次元組織に含まれる間葉系幹細胞の細胞数とリンパ内皮細胞の細胞数との比率は、特に限定されないが、例えば、3:1~15:1であってよく、好ましくは6:1~13:1であり、より好ましくは8:1~12:1であり、さらにより好ましくは9:1~11:1である。
【0034】
「間葉系幹細胞は細胞外マトリクスでコーティングされている」とは、間葉系幹細胞が細胞外マトリクスで被覆されていることを意味する。
前記細胞外マトリクスは、本発明の効果が得られるなら特に限定されないが、例えば、フィブロネクチンまたはゼラチンのいずれか1種類以上を含んでもよく、好ましくは、フィブロネクチンおよびゼラチンを含む。
前記細胞外マトリクスがフィブロネクチンおよびゼラチンを含む場合、前記間葉系幹細胞はフィブロネクチンコーティングとゼラチンコーティングにより交互にコーティングされていることが好ましく、この場合において、もっとも内側ともっとも外側がフィブロネクチンコーティングであることがより好ましい。
【0035】
本発明の培養物における間葉系幹細胞を細胞外マトリクスでコーティングする方法は、特に限定されないが、例えば、上述した「間葉系幹細胞を細胞外マトリクスでコーティングする工程」の方法で実施されてもよい。
【0036】
さらに、本発明の培養物におけるリンパ内皮細胞も、細胞外マトリクスでコーティングされていてもよい。リンパ内皮細胞が細胞外マトリクスでコーティングされている場合、上述した間葉系幹細胞における記載を援用する。
【0037】
本発明の培養物の他の態様は、
間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層と、リンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層とを含み、
少なくとも、第一の間葉系幹細胞層、リンパ内皮細胞層、および第二の間葉系幹細胞層がこの順で積層された、三層の積層構造を含み、
前記間葉系幹細胞は細胞外マトリクスでコーティングされている、細胞培養物の積層体であってよい。
【0038】
「間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層」とは、間葉系幹細胞を含む細胞が層状に配置された細胞層を意味する。間葉系幹細胞層の細胞数は、上述した通りであってよい。間葉系幹細胞層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、上述した「間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層を形成する工程」により形成されてもよい。
【0039】
「リンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層」とは、リンパ内皮細胞を含む細胞が層状に配置された細胞層を意味する。リンパ内皮細胞層の細胞数は、上述した通りであってよい。リンパ内皮細胞層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、上述した「リンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層を形成する工程」により形成されてもよい。
【0040】
本発明における「細胞培養物の積層体」とは、複数の細胞層を含む、細胞培養物を積層した構造体を意味する。本発明の細胞培養物の積層体を製造する方法は特に限定されないが、本発明の方法で製造されてもよい。
【0041】
本発明の細胞培養物の積層体は、少なくとも、第一の間葉系幹細胞層、リンパ内皮細胞
層、および第二の間葉系幹細胞層がこの順で積層された、三層の積層構造を含んでよい。第一の間葉系幹細胞層、リンパ内皮細胞層、および第二の間葉系幹細胞層がこの順で積層する方法は、特に限定されないが、例えば、上述した「間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層を形成する工程」、「間葉系幹細胞層上にリンパ内皮細胞を含むリンパ内皮細胞層を積層する工程」、および「リンパ内皮細胞層上に新たに間葉系幹細胞層を積層する工程」をこの順番で実施することであってもよい。
【0042】
本発明の細胞培養物の積層体において、リンパ内皮細胞層は、リンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を形成していてもよい。本発明の細胞培養物の積層体におけるリンパ内皮細胞層は、培養時に自発的にリンパ管網様の構造をとり得ると考えられる。リンパ管網様の構造を形成させる方法は特に限定されないが、例えば、培養を継続することでリンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を形成してもよく、この場合、培養期間はリンパ管網様の構造を形成するなら特に限定されないが、例えば、5日間であってよい。
【0043】
本発明の細胞培養物の積層体における前記「三層の構造」は、言い換えれば、間葉系幹細胞層の内部にリンパ内皮細胞層を含む。すなわち、間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層で構成される三次元組織の内部に、リンパ内皮細胞層を含む、ともいえる。すなわち、リンパ内皮細胞層がリンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を形成している場合、間葉系幹細胞を含む間葉系幹細胞層で構成される三次元組織の内部に、リンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を含む、ともいえる。よって、本発明の細胞培養物の積層体は、間葉系幹細胞を含む三次元組織の内部に、リンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を内蔵する構造を含んでもよい。このような本発明の細胞培養物の積層体は、本発明のリンパ管網内蔵三次元組織培養物であってよい。
【0044】
従って、本発明のリンパ管網内蔵三次元組織培養物は、一態様においては、リンパ内皮細胞層がリンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を形成した本発明の細胞培養物の積層体であってもよく、本発明の細胞培養物の積層体をリンパ内皮細胞層がリンパ内皮細胞を含むリンパ管網様の構造を形成するまで培養したものであってもよい。培養期間は、上述した通りである。
【0045】
本発明の培養物は、治療に用いられてもよい。本発明の培養物は、具体的には、リンパ浮腫の治療に用いられてもよく、当該リンパ浮腫は、リンパ節郭清に続発する二次性リンパ浮腫であってもよい。よって、本発明の培養物は、リンパ浮腫の治療のための培養物であってよく、リンパ節郭清に続発する二次性リンパ浮腫の治療のための培養物であってよい。
【0046】
本発明の培養物を病変部位へ移植することにより、有効なリンパ管ドレナージが回復することが期待される。唯一の介入治療として有効であるLVAは、既存のリンパ管を使用するため、リンパ浮腫進行例ではリンパ管機能に限界があり、吻合部の長期開存が期待できないため、多くの症例では術後に弾性着衣を外せない。しかし、本発明によって、移植可能な再生リンパ管を製造でき、その移植によって弾性着衣が不要となる症例が期待できる。
【実施例0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施態様には限定されない。
【0048】
細胞の準備
マウス由来の間葉系幹細胞として、C3H10T1/2細胞を用いた。
マウスリンパ内皮細胞は、Luwan Wei, et al. Lymphology. 45(4):177-87. 2012に記載
のリンパ内皮細胞分化誘導培地を用いてC3H10T1/2細胞を10日間培養することで、分化誘導して得た。C3H10T1/2細胞から分化誘導した当該リンパ内皮細胞を、LECと名付けた。
細胞を標識可能とするために、GFP、Nano-luciferase(Nluc)、またはホタルluciferase(fluc)の導入を行った。GFPを導入したC3H10T1/2をC3H10T1/2-GFP、Nlucを導入したC3H10T1/2をC3H10T1/2-Nluc、flucを導入したC3H10T1/2をC3H10T1/2-flucとした。さらに、C3H10T1/2-Nlucから分化誘導したリンパ内皮細胞をLEC-Nlucとした。
また、マウス線維芽細胞にはNIH3T3株を用いた。
【0049】
細胞のコーティング
Asano Y, et al. J Tissue Eng Regen Med. 12(3):e1501-e1510. 2018またはNishiguchi, et al. Adv. Mater. 23(31):3506-10. 2011に記載の方法を参考に、以下の方法で細胞のコーティングを行った。
1. 2×10の細胞を、0.04mg/mlのフィブロネクチンを含有する50mM
Tris-HClで懸濁した。
2. 転倒混和した後、緩やかに回転させながら1分間インキュベートした。
3. 1450Gで2分間遠心分離し、上清を除いて50mM Tris-HClで洗浄した。
4. 細胞を0.04mg/mlのゼラチンを含有する50mM Tris-HClで懸濁した。
5. 転倒混和した後、緩やかに回転させながら1分間インキュベートした。
6. 1450Gで2分間遠心分離し、上清を除いて50mM Tris-HClで洗浄した。
1~6を4回繰り返し、最後に1~3をもう一度実施した。当該コーティングを、FN-Gコーティングとも称する。
【0050】
三次元組織の作製
以下の方法で、三次元組織を作製した。
1. FN-Gコーティングした外側細胞(間葉系幹細胞)を1×10、24wellトランズウェル(直径6.5mm、面積0.33cm、ポアサイズ0.4μm)に播種した。培地として、15%ウシ胎仔血清(FBS)含有DMEMを用いた。
2. 翌日、FN-Gコーティングした内側細胞(リンパ内皮細胞)を2×10細胞、前記外側細胞の上から播種した。
3. さらに翌日、FN-Gコーティングした外側細胞(間葉系幹細胞)を1×10細胞、前記内側細胞の上から播種した。
4. 1~3により積層した細胞を、2日おきに培地交換しながら5日間培養した。
なお、外側細胞または内側細胞として用いた細胞は、下記の結果に記載されている通りに適宜変更した。また、線維芽細胞を用いた場合には培地として15%FBS含有DMEMの代わりに10%FBS含有DMEMを用いた。
【0051】
パラフィン切片
三次元組織のパラフィン切片は、以下の方法で作製した。
1. 三次元組織を4%パラホルムアルデヒド(PFA)を用いて固定した。トランズウェルで作製した三次元組織の場合、インサートに500μl、ウェルプレートに1000μlの4%PFAを入れた。
2.株式会社バイオ病理研究所に依頼して、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色とパラフィン切片作成を行った。切片の厚さは5μm。
【0052】
三次元組織の生存期間評価
以下の方法で三次元組織をマウスに移植した。
1. 三次元組織をトランズウェルごと回収した。
2. 麻酔下で、マウスの皮膚に直径1.5cmの切り込みを入れ、筋膜側が三次元組織となるように設置した。
3. 三次元組織を皮下に移植後、Nlucの基質であるフリマジンまたはflucの基質であるルシフェリンを直接注入した。
4. 基質を投与したマウスをin vivoイメージャーに設置し、細胞由来の発光シグナル
を検出した。
また、比較例として、三次元組織の代わりにC3H10T1/2-Nlucの細胞懸濁液を用いた。
【0053】
(結果)
上記の方法で分化誘導したC3H10T1/2由来リンパ内皮細胞(LEC)およびマウス間葉系幹細胞C3H10T1/2を、リンパ内皮細胞マーカーであるProx-1およびLYVE-1、ならびに内皮細胞マーカーであるCD31の抗体を用いてそれぞれ免疫染色し、マーカーの発現を解析した。結果を図1-1に示す。C3H10T1/2はリンパ内皮細胞マーカーおよび内皮細胞マーカーを発現しないが、LECはリンパ内皮細胞マーカーおよび内皮細胞マーカーをいずれも発現しており、リンパ内皮細胞の分化誘導が成功していたことが確認できた。
【0054】
外側細胞としてFN-GコーティングしたC3H10T1/2、内側細胞としてFN-GコーティングしたLECを用いて、上記の方法により三次元組織を作製した(C3H10T1/2+LEC)。BZ-9000蛍光顕微鏡を用いて観察した、培養1日目および5日目の当該三次元組織の外観を図1-2に示す。また、培養5日目の当該三次元組織C3H10T1/2+LECからパラフィン切片を作成し、BZ-9000蛍光顕微鏡を用いて観察した結果を図1-3に示す。外観およびパラフィン切片による断面の観察から、均一な三次元組織が形成されたことを確認できた。
【0055】
C3H10T1/2の播種数を検討するため、総細胞数2.0×10細胞、1.5×10細胞、1.0×10細胞、および5×10細胞のそれぞれについて、まず24wellトランズウェルに総細胞数の半数を播種し、翌日、残りの半数を播種して各総細胞数のC3H10T1/2三次元組織を作製した。各々の三次元組織からパラフィン切片を作成し、BZ-9000蛍光顕微鏡を用いて観察した結果を図2に示す。総細胞数5.0×10細胞(細胞層1層あたり、約7.5×10細胞/cm)では細胞間が疎らな傾向があり、総細胞数1.0×10細胞(細胞層1層あたり、約1.5×10細胞/cm)でも少し疎らな傾向があった。総細胞数2.0×10細胞(細胞層1層あたり、約3.0×10細胞/cm)では、組織上部に一部崩壊が見られた。そのため、上記のどの播種数でも三次元組織の形成は可能ではあるものの、C3H10T1/2の播種数は細胞層1層あたり、7.5×10細胞/cm~3.0×10細胞/cmが好ましく、1.5×10細胞/cm~3.0×10細胞/cmがより好ましいと考えられる。
【0056】
外側細胞としてFN-GコーティングしたC3H10T1/2、内側細胞としてFN-GコーティングしたLECを用いて、上記の方法により三次元組織を作製した。作製した三次元組織を固定し、CD31抗体で免疫染色した後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を図3に示す。三次元組織内部にCD31陽性細胞が見られ、リンパ内皮細胞の存在が確認できた。
【0057】
三次元組織の生存期間評価のために、まず、比較例としてC3H10T1/2-Nlu
cを2×10細胞、PBSに懸濁した細胞懸濁液を用い、マウスの皮下に移植して経日的にin vivoイメージングした。その結果を図4-1に示す。細胞懸濁液として移植した
間葉系幹細胞C3H10T1/2-Nlucは、移植後3日以内に消失した。
次に、FN-Gコーティングしたマウス線維芽細胞NIH3T3を外側細胞とし、FN-GコーティングしたC3H10T1/2-Nlucを内側細胞として用いて、上記の「三次元組織の作製」に従って作製した三次元組織をマウスに移植して、三次元組織の生存期間評価を行った。結果を図4-2に示す。線維芽細胞を用いて作製した三次元組織に内蔵したC3H10T1/2-Nluc細胞は、移植後5日以内に完全に消失した。
【0058】
続いて、FN-GコーティングしたC3H10T1/2-GFPを7.5×10細胞用いて外側細胞とし、FN-GコーティングしたC3H10T1/2-flucを2×10細胞用いて内側細胞として、細胞数以外は上記の「三次元組織の作製」に従って作製した三次元組織をマウスに移植して、三次元組織の生存期間評価を行った。結果を図4-3に示す。間葉系幹細胞を用いて作製した三次元組織に内蔵したC3H10T1/2-fluc細胞は、移植後21日以上生存した。
【0059】
さらに、FN-GコーティングしたC3H10T1/2を外側細胞として、FN-GコーティングしたC3H10T1/2-NlucまたはFN-GコーティングしたLEC-Nlucを内側細胞として、上記の「三次元組織の作製」に従って作製した三次元組織をマウスに移植して、三次元組織の生存期間評価を行った。結果を図4-4に示す。間葉系幹細胞を用いて作製した三次元組織に内蔵されたLECも、7日目時点においてC3H10T1/2-flucおよびC3H10T1/2-Nlucと同等の生存率を示し、間葉系幹細胞を用いて三次元組織を作製することでリンパ内皮細胞が長期にわたって生存し得ることが明らかとなった。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】