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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087332
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】鼻腔粘膜適用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/534 20060101AFI20240624BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 36/53 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240624BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240624BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20240624BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20240624BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240624BHJP
【FI】
A61K36/534
A61P25/20
A61K9/08
A61K36/53
A61K36/752
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/08
A61K47/06
A61P11/02
A61K47/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202096
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】大森 広太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 貴史
【テーマコード(参考)】
4C076
4C088
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB25
4C076CC01
4C076DD09
4C076DD09E
4C076DD09F
4C076DD23
4C076DD34T
4C076DD36T
4C076DD37T
4C076DD38
4C076DD44T
4C076DD45T
4C076EE53T
4C076FF11
4C076FF52
4C076FF68
4C088AB38
4C088AB62
4C088AC02
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA02
4C088MA17
4C088MA59
4C088NA14
4C088ZA05
4C088ZA59
(57)【要約】
【課題】本発明は、睡眠障害を改善できる新たな非薬物療法的手段を提供することを目的とする。
【解決手段】使用時に35~43℃の温度に調整されて用いられる鼻腔粘膜適用組成物は、睡眠障害の予防及び/又は改善に有効である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に35~43℃の温度に調整され、睡眠障害の予防及び/又は改善に用いられる、鼻腔粘膜適用組成物。
【請求項2】
使用時に加温した水で希釈又は溶解される、請求項1に記載の鼻腔粘膜適用組成物。
【請求項3】
ハッカ属植物の抽出物、ラヴァンドラ属植物の抽出物、及びミカン属植物の抽出物からなる群より選択される植物の抽出物を含む、請求項1に記載の鼻腔粘膜適用組成物。
【請求項4】
前記ハッカ属植物が、ペパーミント、スペアミント、ラベンダーミント、ベルガモットミント、及び薄荷からなる群より選択される、請求項3に記載の鼻腔粘膜適用組成物。
【請求項5】
ラヴァンドラ属植物がラベンダーである、請求項3に記載の鼻腔粘膜適用組成物。
【請求項6】
ミカン属植物が、オレンジ、グレープフルーツ、ミカン、レモン、ユズ、ライム、及びベルガモットからなる群より選択される、請求項3に記載の鼻腔粘膜適用組成物。
【請求項7】
メントール、メントン、メントフラン、リモネン、ピネン、カルボン、ジヒドロカルボン、酢酸テルピニル、シネオール、酢酸リナリル、リナロール、カンフル、フェンコン、カレン、ベルガプテン、及びベルガモテンからなる群より選択される成分を含む、請求項1に記載の鼻腔粘膜適用組成物。
【請求項8】
非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の鼻腔粘膜適用組成物。
【請求項9】
目覚めを改善するために用いられる、請求項1に記載の鼻腔粘膜組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠障害の予防及び/又は改善に用いられる鼻腔粘膜適用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本人の5人に1人が何らかの睡眠障害を抱え、60歳以上では約3人に1人に及ぶといわれており、睡眠障害はもはや国民病ともいえる問題となっている。
【0003】
睡眠障害に対しては、一般的に薬物療法が選択される。薬物療法は、医師の処方の元で慎重に適用される必要があるためハードルが高く、また、副作用の懸念のため長期の使用を忌避する傾向もある。
【0004】
そこで、天然物由来成分による睡眠障害の改善が検討されてきた。特に、酢酸リナリルを主成分とするラベンダーの睡眠改善への活用に関する報告が多い(例えば、非特許文献1、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】芳香温浴が睡眠中の心臓自律神経活動に及ぼす影響,日本温泉気候物理医学会雑誌,64(2), 87-92(2001)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-051970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ラベンダー香料の成分の睡眠への効能は広く受け入れられている。一方で、そのような香料の作用だけでは効果的に睡眠への改善作用が得られない場合もある。このため、睡眠障害の改善に用いられる非薬物療法的手段として、さらなる選択肢が望まれる。
【0008】
そこで、本発明は、睡眠障害を改善できる新たな非薬物療法的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討の結果、35~43℃の温度に調整された液剤を鼻腔粘膜に適用することによって、予想外にも、睡眠障害を改善する効果があることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 使用時に35~43℃の温度に調整され、睡眠障害の予防及び/又は改善に用いられる、鼻腔粘膜適用組成物。
項2. 使用時に加温した水で希釈又は溶解される、項1に記載の鼻腔粘膜適用組成物。
項3. ハッカ属植物の抽出物、ラヴァンドラ属植物の抽出物、及びミカン属植物の抽出物からなる群より選択される植物抽出物を含む、項1又は2に記載の鼻腔粘膜適用組成物。
項4. 前記ハッカ属植物が、ペパーミント、スペアミント、ラベンダーミント、ベルガモットミント、及び薄荷からなる群より選択される、項3に記載の鼻腔粘膜適用組成物。
項5. ラヴァンドラ属植物がラベンダーである、項3又は4に記載の鼻腔粘膜適用組成物。
項6. ミカン属植物が、オレンジ、グレープフルーツ、ミカン、レモン、ユズ、ライム、及びベルガモットからなる群より選択される、項3~5のいずれかに記載の鼻腔粘膜適用組成物。
項7. メントール、メントン、メントフラン、リモネン、ピネン、カルボン、ジヒドロカルボン、酢酸テルピニル、シネオール、酢酸リナリル、リナロール、カンフル、フェンコン、カレン、ベルガプテン、及びベルガモテンからなる群より選択される成分を含む、項1~6のいずれかに記載の鼻腔粘膜適用組成物。
項8. 非イオン性界面活性剤をさらに含む、項1~7のいずれかに記載の鼻腔粘膜適用組成物。
項9. 目覚めを改善するために用いられる、項1~8のいずれかに記載の鼻腔粘膜組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、睡眠障害を改善できる新たな非薬物療法的手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の鼻腔粘膜適用組成物は、使用時に35~43℃の温度に調整され、睡眠障害の予防及び/又は改善に用いられることを特徴とする。以下、本発明の鼻腔粘膜適用組成物について詳述する。なお、本明細書において、2つの数値と「~」とにより示される数値範囲は、当該2つの数値を下限値及び上限値として含むものとする。例えば、2~15重量%との表記は、2重量%以上15重量%以下を意味する。
【0013】
基本組成
本開示の鼻腔粘膜適用組成物の基本組成としては、そのままで、若しくは希釈又は溶解して鼻腔内に適用できることを限度として、特に限定されない。通常、本開示の鼻腔粘膜適用組成物は、使用時において生理食塩水と実質的に等張となるように、具体的には、本開示の鼻腔粘膜適用組成物の使用時における浸透圧比(つまり、生理食塩水の浸透圧を1とした場合の浸透圧の相対値)が1又はその付近、より具体的には0.7~1.3となる組成で設計される。
【0014】
使用時における浸透圧比を上記所定の範囲内となるように調整するため、本開示の鼻腔粘膜適用組成物は、具体的な浸透圧調節剤としては、水溶性のものであれば特に限定されず、例えば、糖(グルコース、フルクトース、マルトース等)、多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール等)、糖アルコール(ソルビトール、マンニトール、キシリトール等)、無機塩(塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム等)等が挙げられる。これらの浸透圧調節剤は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、好ましい浸透圧調節剤として、多価アルコール及び無機塩が挙げられ、より好ましくは、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウムが挙げられる。
【0015】
これらの浸透圧調節剤の配合量については、本開示の鼻腔粘膜適用組成物の使用時における浸透圧比に応じて適宜設定される。例えば、多価アルコールの含有量としては、0.1~0.6重量%、好ましくは0.18~0.58重量%、より好ましくは0.3~0.56重量%、0.4~0.54重量%又は0.45~0.52重量%が挙げられる。また、無機塩の含有量としては、0.5~0.9重量%、好ましくは0.55~0.8重量%、より好ましくは0.58~0.8重量%又は0.58~0.7重量%が挙げられる。
【0016】
所定の植物の抽出物
本開示の鼻腔粘膜適用組成物は、睡眠障害の予防及び/又は改善効果を向上させる観点から、好ましくは所定の植物抽出物を含む。また、本開示の鼻腔粘膜適用組成物が非イオン性界面活性剤を含む場合において、鼻腔粘膜への刺激を低減する観点でも、所定の植物抽出物を配合することが好ましい。
【0017】
所定の植物抽出物は、ハッカ属植物の抽出物、ラヴァンドラ属植物の抽出物、及びミカン属植物の抽出物からなる群より選択される。
【0018】
ハッカ属植物としては、例えば、ペパーミント、スペアミント、ラベンダーミント、ベルガモットミント、及び薄荷等が挙げられる。これらのハッカ属植物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらのハッカ属植物の中でも、睡眠障害の予防及び/又は改善効果を向上させる観点から、好ましくはペパーミントが挙げられる。
【0019】
ラヴァンドラ属植物としては、例えば、ラベンダーが挙げられる。ミカン属植物としては、例えば、オレンジ、グレープフルーツ、ミカン、レモン、ユズ、ライム、及びベルガモット等が挙げられる。これらのミカン属植物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらのミカン属植物の中でも、睡眠障害の予防及び/又は改善効果を向上させる観点から、好ましくはベルガモットが挙げられる。
【0020】
所定の植物抽出物は、上記植物を原料とし、水蒸気蒸留又は溶剤抽出することにより得ることができる。水蒸気蒸留による抽出物の場合、加熱によって発生する高温水蒸気(気体)を原料に当て、必要とする高沸点物質の沸点を下げて留出させることで得られる抽出(精油)が挙げられる。溶剤抽出による抽出物の場合、例えば、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、リグロイン、メチレンクロライド、エチレンジクロライド、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等の低級一価アルコール;アセトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒等の抽出溶媒を用いて抽出処理し、溶媒を除去することで得られる抽出物が挙げられる。これらの抽出物の中でも、睡眠障害の予防及び/又は改善効果を向上させる観点から、所定の植物抽出物は、水蒸気蒸留により得られる抽出物(精油)であることが好ましい。
【0021】
所定の植物抽出物は、上記の植物に由来する成分を特に制限なく含んでよい。当該成分の具体例としては、メントール、メントン、メントフラン、リモネン、ピネン、カルボン、ジヒドロカルボン、酢酸テルピニル、シネオール、酢酸リナリル、リナロール、カンフル、フェンコン、カレン、ベルガプテン、及びベルガモテン等の香料成分が挙げられる。これらの成分は1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本開示の鼻腔粘膜適用組成物が所定の植物抽出物を含む場合、所定の植物抽出物の使用時の含有量については特に限定されないが、例えば、0.0005~0.3重量%、好ましくは0.001~0.1重量%、より好ましくは0.003~0.05重量%、さらに好ましくは0.003~0.04重量%、0.004~0.03重量%、又は0.004~0.025重量%が挙げられる。
【0023】
また、各種植物抽出物の含有量としては、以下が挙げられる。
・ハッカ属植物の抽出物:例えば、0.0005~0.1重量%、好ましくは0.001~0.05重量%、より好ましくは0.002~0.03重量%、さらに好ましくは0.0035~0.012重量%
・ラヴァンドラ属植物の抽出物:例えば、0.0005~0.05重量%、好ましくは0.001~0.03重量%、より好ましくは0.002~0.015重量%、さらに好ましくは0.003~0.008重量%
・ミカン属植物の抽出物:例えば、0.0003~0.08重量%、好ましくは0.0005~0.05重量%、より好ましくは0.0008~0.03重量%、さらに好ましくは0.001~0.025重量%
【0024】
なお、所定の植物抽出物の含有量とは、所定の植物の由来成分のみの含有量を意味し、当該抽出物に、抽出操作に用いた溶媒等の、所定の植物の由来成分以外の他の成分が含まれる場合、当該他の成分の含有量を除外した量を意味する。
【0025】
また、本開示の粘膜適用組成物が非イオン性界面活性剤を含む場合、非イオン性界面活性剤1重量部に対する所定の植物抽出物の含有量として、例えば0.005~3重量部、好ましくは0.005~2.5重量部、より好ましくは0.01~2重量部、さらに好ましくは0.05~1重量部、0.08~0.5重量部、又は0.1~0.45重量部が挙げられる。
【0026】
また、各種植物抽出物の非イオン性界面活性剤1重量部に対する含有量としては、以下が挙げられる。
・ハッカ属植物の抽出物:例えば、0.01~2重量部、好ましくは0.02~1重量部、より好ましくは0.04~0.6重量部、さらに好ましくは0.07~0.24重量部
・ラヴァンドラ属植物の抽出物:例えば、0.01~1重量部、好ましくは0.02~0.6重量部、より好ましくは0.04~0.3重量部、さらに好ましくは0.06~0.16重量部
・ミカン属植物の抽出物:例えば、0.006~0.4重量部、好ましくは0.01~0.2重量部、より好ましくは0.016~0.8重量部、さらに好ましくは0.02~0.5重量部
【0027】
非イオン性界面活性剤
本開示の鼻腔粘膜適用組成物は、非イオン性界面活性剤を含むことができる。非イオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル又はアラキルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等が挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤は、1種を単独で用いても良いし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの非イオン性界面活性剤の中でも、好ましくはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0028】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。これらのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルにおける酸化エチレン(EO)の平均付加モル数としては特に限定されないが、例えば5~40モル、好ましくは10~30モル、より好ましくは15~25モル、さらに好ましくは18~22モルが挙げられる。これらのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの中でも、好ましくは、酸化エチレン(EO)の付加モル数が18~22モルのモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリオキシエチレン(18~22)ソルビタンモノオレート)が挙げられる。
【0029】
本開示の鼻腔粘膜適用組成物が非イオン性界面活性剤を含む場合、非イオン性界面活性剤の使用時の含有量としては、例えば0.02~0.12重量%、好ましくは0.03~0.09重量%、より好ましくは0.04~0.07重量%が挙げられる。
【0030】
他の成分
本開示の鼻腔粘膜適用組成物には、上記の成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、製剤化等に必要とされる他の基剤及び/又は添加剤が含まれていてもよい。このような基剤及び添加剤については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、水、炭素数1~5の一価低級アルコール、防腐剤、着色剤、粘稠剤、pH調整剤、湿潤剤、防腐剤、安定化剤、酸化防止剤、キレート剤、粘着剤、緩衝剤、溶解補助剤、可溶化剤、保存剤等が挙げられる。
【0031】
これらの基剤及び/又は添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの基剤及び/又は添加剤の含有量は、製剤形態等に応じて適宜設定することができる。
【0032】
本発明の鼻腔粘膜適用組成物には、前記成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の薬理成分を含有していてもよい。このような薬理成分としては、例えば、ビタミン類、抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、抗炎症剤、粘膜保護剤、血行促進成分、清涼化剤、ムコ多糖類等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの薬理成分を含有させる場合、その含有量については、使用する薬理成分の種類、期待する効果等に応じて適宜設定すればよい。
【0033】
製剤形態及び製品分類
本開示の鼻腔粘膜適用組成物は、使用時における水での希釈を不要とする非濃縮タイプの製剤形態であってもよいし、使用時における水での希釈を要する濃縮タイプの製剤形態であってもよい。
【0034】
非濃縮タイプの製剤形態は、具体的には、生理食塩水と実質的に等張の液剤である。濃縮タイプの製剤形態としては、例えば、生理食塩水と実質的に等張の浸透圧比を超える液剤又は半固形剤(ゲル剤、ペースト剤)、及び固形剤が挙げられる。固形剤の場合、用時に水に溶解させることが容易な粉末又は顆粒であることが好ましい。
【0035】
本開示の鼻腔粘膜適用組成物が濃縮タイプの液剤又は半固形剤である場合、濃縮倍率としては特に限定されないが、例えば3~50倍、好ましくは5~30倍、より好ましくは6~15倍が挙げられる。
【0036】
本開示の鼻腔粘膜適用組成物の製品分類としては、鼻洗浄液及び鼻うがい液が挙げられる。
【0037】
用途
本開示の鼻腔粘膜適用組成物は、睡眠障害の予防及び/又は改善に用いられる。本発明において、「睡眠障害」とは、ピッツバーグ睡眠質問票の総合得点(PSQIG)が5.5以上である状態を指す。好ましくは、本開示において、睡眠障害は、呼吸器疾患を原因としない睡眠障害、及び/又は、耳鼻科疾患を原因としない睡眠障害である。
【0038】
本開示の鼻腔粘膜適用組成物は睡眠障害の改善効果に優れるため、睡眠障害の程度が大きくても効果的な改善を見込める。このような観点から、本開示における睡眠障害の好適な程度としては、PSQIGが7以上、好ましくは8以上、より好ましくは8.5以上、さらに好ましくは8.8以上が挙げられる。
【0039】
より具体的には、本開示の鼻腔粘膜適用組成物は、睡眠の質の向上、入眠時間(つまり、入眠するまでにかかる時間)の短縮、及び/又は目覚めの改善(つまり、朝の覚醒がスムーズで、寝起き時にすっきりする感覚の増強)に用いることができ、特に好ましくは、目覚めの改善に用いることができる。
【0040】
本開示の鼻腔粘膜適用組成物の使用時の形態は、生理食塩水と実質的に等張の液剤である。使用時における液剤の温度は35℃~43℃であり、睡眠障害の予防及び/又は改善効果をより一層向上させる観点から、好ましくは37~43℃、より好ましくは39~43℃又は39~41℃が挙げられる。
【0041】
本開示の鼻腔粘膜適用組成物が非濃縮タイプである場合は、希釈せず加温して使用でき、本開示の鼻腔粘膜適用組成物が濃縮タイプである場合は、加温した水で希釈して、又は加温した水に溶解させて使用できる。希釈又は溶解のために用いられる加温した水の温度については、本開示の鼻腔粘膜適用組成物の製剤形態及び希釈倍率等を考慮して容易に設定できる。
【0042】
用量・用法
本開示の鼻腔粘膜適用組成物は、鼻腔内に適用して使用される。本開示の鼻腔粘膜適用組成物の具体的な使用方法としては、鼻洗浄の方法を用いることができ、具体的には、鼻腔内に直接流し込んで洗浄する方法が挙げられ、より具体的には、鼻腔粘膜適用組成物を鼻腔に流しこみ口から吐き出す方法、及び鼻腔粘膜適用組成物を一方の鼻腔に流しこみ他方の鼻腔から吐き出す方法等が挙げられる。
【0043】
1回の使用に用いられる本開示の鼻腔粘膜適用組成物の量については、付与すべき睡眠障害の予防及び/又は改善効果の程度、年齢等に応じて適宜設定されるが、使用時の形態での量(つまり、生理食塩水と実質的に等張の35℃~43℃の液剤の量)で、例えば20~300mL、好ましくは50~300mL、より好ましくは100~300mL、さらに好ましくは200~300mL、一層好ましくは230~300mL、230~280mL、又は230~250mLが挙げられる。
【0044】
本開示の鼻腔粘膜適用組成物を鼻腔粘膜に適用するタイミング及び1日当たりの回数については特に制限されず、例えば、起床時、外出前、帰宅時、入浴前、就寝前等に、1日当たり1~3回、好ましくは1~2回、より好ましくは2回の適用が挙げられる。
【0045】
本開示の鼻腔粘膜適用組成物は、睡眠障害の予防及び/又は改善を効果的に得るために、継続的に適用することが好ましい。本開示の鼻腔粘膜適用組成物の具体的な適用期間としては、例えば3日以上、好ましくは4日以上、より好ましくは5日以上が挙げられる。また、本開示の鼻腔粘膜適用組成物は、睡眠障害の予防及び/又は改善効果を早期に得られるため、具体的な適用期間の上限については、例えば4週間以下、3週間以下、2週間以下、又は1週間以下が挙げられる。
【実施例0046】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
試験例
表1及び2に示す組成の鼻腔粘膜適用組成物の8倍濃縮物(つまり、水以外の各成分の濃度が表1及び2に示す濃度の8倍である、濃縮タイプの鼻腔粘膜適用組成物)を原液として調製し、原液1体積量に対し、加温した水を加えて8倍体積量となるように希釈することにより、最終的に、表1及び2に示す組成及び温度の鼻腔粘膜適用組成物の液剤(使用時の形態)を鼻洗浄液として調製した。なお、表1及び2において、各成分の詳細は以下の通りである。また、表1及び2において、浸透圧比とは、生理食塩水の浸透圧を1.0とした場合の浸透圧の相対値である。
・ポリソルベート:ポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート)
・ペパーミント香料:メントール、メントン、1.8シネオール、メントフラン、l-カルボン、ジヒドロカルボン、及び酢酸α-テルピニルを含むペパーミント精油
・ラベンダー香料:酢酸リナリル、リナロール、1,8-シネオール、カンフル、ピネン、リモネン、フェンコン、及びδ-3-カレンを含むラベンダー精油
・ベルガモット香料:酢酸リナリル、ベルガプテン、ベルガモテン、リナロール、及びリモネンを含むベルガモット精油
【0048】
睡眠障害症状を自覚し、鼻洗浄を常用しておらず、呼吸器疾患及び耳鼻科疾患に罹患していない被験者14名(ピッツバーグ睡眠質問票の総合スコア(PSQIG)の平均値:9.1)に、表1及び2の鼻腔粘膜適用組成物の液剤(鼻洗浄液)を用い、起床後と就寝前の1日2回の頻度で5日間、両鼻腔に対して鼻洗浄させた。1回当たりの鼻洗浄液の使用量は、精製水で希釈後の鼻洗浄液として250mlとした。5日間の試験終了時において、被験者全員が、睡眠の質(総合評価)、入眠時間(つまり、入眠するまでにかかる時間であり、短いほど満足度が高い。)、及び目覚め(つまり、朝の覚醒がスムーズで、寝起き時にすっきりする感覚が強いほど満足度が高い。)のそれぞれの項目、並びに、鼻洗浄時における鼻腔粘膜への刺激(刺激が弱いほど、満足度が高い。)について、「満足」、「どちらかといえば満足」、「どちらともいえない」、「どちらかといえば不満」、及び「不満」の5段階で評価した。「満足」と回答した被験者及び「どちらかといえば満足」と回答した被験者の合計人数を有効スコアとして得た。比較例1の鼻洗浄液を用いた場合の有効スコアを100とした場合における、他の比較例及び実施例の鼻洗浄液を用いた場合の有効スコアの相対値を、それぞれの項目の評価値として導出した。結果を表1及び2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1及び2に示す通り、25℃で調製された鼻洗浄液(比較例1~4)と対比して、37℃又は40℃で調製された鼻洗浄液(実施例1~8)によれば、睡眠の質の向上、入眠時間の短縮、目覚めの改善の少なくともいずれかが認められ、PSQIGが高い被験者に対する睡眠障害症状が改善した。また、安眠作用があると認識されているラベンダー香料成分又はベルガモット香料成分を用いた場合、25℃で調製された鼻洗浄液(比較例3,4)でも入眠時間の短縮には寄与したものの、目覚め及び総合的な睡眠の質の効果的な改善には至らなかったが、40℃で調製された鼻洗浄液(実施例5,6)によれば、比較例3,4と組成が同じであるにも関わらず、目覚め及び睡眠の質が顕著に改善された。さらに、実施例7について使用後におけるPSQIG平均値は5.4であり、鼻洗浄液の連用期間が僅か5日間であるにもかかわらず優れた効果が認められた。
【0052】
また、同じ組成同士で対比した場合、25℃で調製された鼻腔粘膜適用組成物(比較例1~4)のそれぞれと対比して、37℃又は40℃で調製された鼻腔粘膜適用組成物(実施例2,3,5,6)によれば、浸透圧比が同等であるにもかかわらず、鼻腔粘膜への刺激が低減された。実施例2,3,5,6で認められた刺激低減効果は、他の実施例1,4,7,8においても同様に認められた。
【0053】
なお、上記比較例1~4及び実施例1~8について、濃縮倍率を5倍濃縮又は20倍濃縮に変更した濃縮タイプの鼻腔粘膜適用組成物を調製し、且つ、加温した水の温度及び添加量を適宜変更することで、表1及び2と同じ組成及び温度の鼻腔粘膜適用組成物を用いて追試を行った結果、同様に、実施例1~8により、睡眠障害症状の改善効果及び鼻腔粘膜への刺激低減効果が得られた。
【0054】
さらに、上記実施例1について、希釈後の温度を35℃に変更したことを除いて同様にして試験した結果、実施例1と同等の睡眠障害症状の改善効果及び鼻腔粘膜への刺激低減効果が得られた。