(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087386
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】茹で麺類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20240624BHJP
【FI】
A23L7/109 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202186
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 多恵
(72)【発明者】
【氏名】長井 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】津田 恭征
(72)【発明者】
【氏名】豊田 肇
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA02
4B046LC01
4B046LG16
4B046LG29
4B046LP03
4B046LP10
4B046LP15
4B046LP44
4B046LP69
4B046LP80
(57)【要約】
【課題】食感のより向上した茹で麺類の提供。
【解決手段】茹で麺類の製造方法であって、(A)90℃を超える温度で麺を茹でる工程であって、100℃を超える加圧環境下で麺を茹でる工程を含む、工程;及び、(B)該(A)で得られた茹で麺類を70~87℃の水中で保持する工程であって、該保持の時間が、該100℃を超える加圧環境下での茹で時間に対して20~150%である、工程、を含む方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茹で麺類の製造方法であって、
(A)90℃を超える温度で麺を茹でる工程であって、100℃を超える加圧環境下で麺を茹でる工程を含む、工程;及び、
(B)該(A)で得られた茹で麺類を70~87℃の水中で保持する工程であって、該保持の時間が、該100℃を超える加圧環境下での茹で時間に対して20~150%である、工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記100℃を超える加圧環境下での茹で時間が、前記(A)での総茹で時間のうち40%以上を占める、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記100℃を超える加圧環境下での茹で時間が4分間以上である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記保持の時間が2分30秒~8分間である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記麺類がうどんである、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茹で麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茹で麺類の調理に関して、従来、麺類を加圧下にて100℃以上で茹でると茹で麺類のα化が促進され、粘弾性が高まることが知られている。
【0003】
前記のような加圧下で茹でた麺類の品質をさらに改良することが試みられている。
特許文献1には、生麺類を、加圧環境下で、かつ100℃より上の温度で茹で上げる方法において、茹で上げたときの麺の水分含量を55~68重量%とすることを特徴とした茹で麺類の製造方法、及び該方法により、肌荒がほとんどなく弾力のある茹で麺類を製造できることが記載されている。
特許文献2には、生麺類を熱水中に投入して麺をほぐすほぐし茹工程と、加圧下、100℃を超える熱水で麺を茹でる加圧茹工程と、冷却水で100℃を超える熱水を冷却する冷却工程とを備えた茹麺類の製造方法であって、前記加圧茹工程が、密閉状態で100℃を超える所定温度まで加熱する加熱昇温工程と、該100℃を超える所定温度でさらに加圧して熱水の沸騰を抑制し麺を沈降させて茹でる沸騰抑制茹工程とを有することを特徴とする茹で麺類の製造方法、及び該方法により、麺の表面のダメージを防止して品質上のバラツキの少ない茹で麺類を製造できることが記載されている。
特許文献3には、茹で麺に粘弾性を付与することができ、工場での量産に適した方法として、麺線を大気圧下90℃以上の茹水で茹で、次いで100℃を越える加圧環境下の茹水で茹上げ、続いて茹上げた麺線を冷却することを含み、90℃以上の茹水に浸漬されている総茹時間が4分以上であり、大気圧下における茹時間が前記総茹時間の90~50%であり、加圧環境下における茹上げ時間が前記総茹時間の10~50%であり、加圧環境下の茹水の最高温度が110~140℃である、茹で麺類の製造方法が記載されている。
特許文献4には、茹で麺線のダメージを防止し、食感改善効果が得られる方法として、生麺線を大気圧下で茹でる低温茹工程と、該茹で麺線を、100℃を越える加圧環境下で茹上げる高温茹工程と、茹上げられた該麺線を、100℃より低い温度下で冷却する冷却工程とを有し、該高温茹工程と該冷却工程を、共通する加圧環境の下で行うことを特徴とする茹で麺類の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-195466号公報
【特許文献2】特開2006-034176号公報
【特許文献3】特開2007-306820号公報
【特許文献4】特開2017-000130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、加圧下で麺類を茹でる工程を含む茹で麺類の製法を改良し、食感のより向上した茹で麺類を製造することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、麺類の茹で工程中において、100℃を超える加圧環境下での茹でを行うこと、及び、得られた茹で麺類を特定温度の水中で保持する工程を行うことにより、表面はより軟らかい食感でありながら中心部に適度な硬さと粘りがある茹で麺類を製造できることを見出した。
【0007】
本発明は、代表的実施形態として、以下を提供する。
〔1〕茹で麺類の製造方法であって、
(A)90℃を超える温度で麺を茹でる工程であって、100℃を超える加圧環境下で麺を茹でる工程を含む、工程;及び、
(B)該(A)で得られた茹で麺類を70~87℃の水中で保持する工程であって、該保持の時間が、該100℃を超える加圧環境下での茹で時間に対して20~140%である、工程、
を含む方法。
〔2〕前記100℃を超える加圧環境下での茹で時間が、前記(A)での総茹で時間のうち40%以上を占める、〔1〕記載の方法。
〔3〕前記100℃を超える加圧環境下での茹で時間が4分間以上である、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕前記保持の時間が2分30秒~8分間である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法。
〔5〕前記麺類がうどんである〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、麺表面はより軟らかい食感でありながら、茹で伸びたような食感はなく、中心部に適度な硬さと粘りがある、優れた食感を有する茹で麺類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、麺類の種類は特に限定されない。該麺類の例としては、うどん、冷麦、素麺、きしめん、そば、中華麺、パスタなどが挙げられ、このうちうどんが好ましい。
【0010】
本発明の茹で麺類の製造方法は、(A)90℃を超える温度で麺類を茹でる工程であって、100℃を超える加圧環境下で麺を茹でる工程を含む、工程(茹で工程);及び、(B)該(A)で得られた茹で麺類を、より低温の水中で保持する工程(保持工程)、を含む。
【0011】
本発明の茹で麺類の製造方法において、前記(A)の茹で工程に供する麺類は、生麺類であっても乾麺類であってもよく、好ましくは生麺類である。該麺類には、一般的な穀粉を主原料とする麺類を使用することができる。
【0012】
前記麺類の原料粉に含まれる穀粉の例としては、小麦粉、そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、ハトムギ粉、ひえ粉、あわ粉等が挙げられ、これらのいずれか1種又はいずれか2種以上を組み合わせて用いることができる。該穀粉は、小麦粉を好ましくは50質量%以上含み、より好ましくは70質量%以上含み、さらに好ましくは、該穀粉は小麦粉である。小麦粉としては、麺類の製造に通常使用される小麦粉、例えば中力粉、準強力粉、強力粉、デュラム小麦粉、及びこれらの全粒粉が挙げられる。これらの小麦粉は、いずれか1種又はいずれか2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
前記麺類の原料粉は澱粉類を含有していてもよい。該澱粉類の種類は特に限定されないが、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉等の未加工澱粉、及び、これらを加工(例えば、架橋化、リン酸化、アセチル化、エーテル化、酸化、α化など)した加工澱粉が挙げられる。これらの澱粉類は、いずれか1種又はいずれか2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、該澱粉類はタピオカ澱粉であり、より好ましくは架橋化、アセチル化、エーテル化から選択される1種以上の加工を施した加工タピオカ澱粉である。
【0014】
前記原料粉中における穀粉の含有量は、麺類の種類等により異なるが、該原料粉の全質量中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上であり、100質量%であってもよい。該原料粉中における澱粉類の含有量は、該原料粉の全質量中、好ましくは5~35質量%である。該原料粉中における穀粉と澱粉類との合計含有量は、該原料粉の全質量中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0015】
必要に応じて、前記原料粉は、さらに前記穀粉及び澱粉類以外の他の成分を含んでいてもよい。当該他の成分としては、食塩;かんすい;グルテン、大豆蛋白質、カゼイン等の蛋白類;卵白粉、全卵粉等の卵粉;動植物油脂、乳化油脂、ショートニング等の油脂類;糖類;増粘剤;乳化剤;無機塩類;ビタミン類;ミネラル類;色素;香料;デキストリン;アルコール;保存剤;酵素剤、等が挙げられ、これらのいずれか1種又はいずれか2種以上を組み合わせて用いることができる。該原料粉中における該他の成分の含有量は、20質量%以下であればよく、好ましくは10質量%以下である。
【0016】
該原料粉からの麺類の調製は、麺類の種類、形状等に応じて、常法に従って行うことができる。例えば、常法に従って、該原料粉に練り水を添加し、混捏することで麺生地を調製することができる。練り水としては、水、食塩水、かん水など、通常使用されるものを用いることができる。得られた麺生地を圧延及び切出しや、押出し等の常法により成形して生麺類を製造することができる。さらに、製造した生麺類を乾燥工程に供することで、乾麺類を得ることができる。
【0017】
かくして調製した生麺類又は乾麺類を、本発明による前記(A)の茹で工程に供すればよい。あるいは、前記(A)の茹で工程に供する麺類は、市販の生麺類又は乾麺類であってもよい。該茹で工程に供する麺類の形状は、製造する麺類の種類等に応じて適宜設定できる。好ましくは、該麺類は麺線である。より好ましくは、該麺類は、幅及び厚み2.3~4.2mmの麺線である。本明細書において、麺線の幅及び厚みとは、それぞれ、麺線の長軸方向に直交する切断面における最長の片の長さ、及び最短の片の長さをいう。
【0018】
本発明による前記(A)の茹で工程では、90℃を超える温度で前記麺類を茹でる。その際、該茹での一部又は全部を、100℃を超える加圧環境下で行う。麺類を加圧環境下で茹でることにより、得られる茹で麺類の表面の軟らかさや、中心部の粘りが向上する。該加圧環境下での茹でにおける茹で水の温度は、好ましくは105~140℃であり、より好ましくは108~130℃である。該加圧環境下での茹では、圧力鍋などの加圧加熱調理が可能な調理器で行うことができる。例えば、該調理器で茹で水を常圧下で沸騰させた後、茹で水に麺類を投入し、必要に応じてそのまま茹でた後、該調理器を密閉して茹で水の温度が上記の範囲になるよう加圧し、そのまま温度と圧力を維持しながら当該加圧環境下で麺類を茹でることで、本発明の茹で工程を実施できる。
【0019】
本発明による前記(A)の茹で工程では、前記100℃を超える加圧環境下での茹での前及び/又は後に、90℃を超える温度で、前記加圧環境に処さずに(例えば常圧下での)茹でが行われてもよい。例えば、前記調理器を密閉、加圧する前に常圧下にて沸騰水中で麺類を茹でる工程、又は該密閉、加圧を止めた後の熱水中で麺類を茹でる工程、又はそれら工程の両方が行われてもよい。好ましくは、初めに90℃を超える温度で前記加圧環境に処さずに茹でが行われ、続いて100℃を超える加圧環境下での茹でが行われる。
【0020】
前記(A)の茹で工程における、前記100℃を超える加圧環境下での麺類の茹で時間は、前記90℃を超える温度での総茹で時間のうち、好ましくは40%以上であり、より好ましくは50%以上であり、100%であってもよい。例えば、沸騰水の入った圧力鍋内に麺類を投入するとともに蒸気を導入して加圧することで、加圧環境下での茹で時間を実質100%にすることができる。該90℃を超える温度での総茹で時間は、麺類の種類や形状によって異なり得る。例えば、該茹で工程に供する麺類がうどんの生麺の場合、該加圧環境下での該麺類の茹で時間は、好ましくは4分間以上、より好ましくは4~8分間であり、90℃を超える温度での総茹で時間は、好ましくは7~20分間である。
【0021】
前記(A)の茹で工程で得られた茹で麺類は、次いで前記(B)の保持工程に供される。該の保持工程では、該茹で工程で得られた茹で麺類を、より低温の水中で保持する。該保持工程は常圧下で行われる。例えば、該(A)の茹で工程での100℃を超える加圧環境下での茹で後、直ちに茹で麺類を、該加圧環境から該保持工程のための熱水を入れた別の容器に移動させてもよく、又は、該加圧を止めて環境を常圧に戻した後、茹で麺類を該保持工程のための熱水を入れた別の容器に移動させてもよい。
【0022】
前記(B)の保持工程で茹で麺類の保持に使用される水の温度は、好ましくは70~87℃、より好ましくは80~85℃である。該温度の水中での茹で麺類の保持の時間は、前記(A)での100℃を超える加圧環境下での茹で時間に対して、好ましくは20~150%、より好ましくは40~150%、さらに好ましくは40~130%である。また、麺類がうどんの場合、該温度の水中での該茹で麺類の保持の時間は、好ましくは2分30秒~8分間である。
【0023】
前記(B)の保持工程の後、得られた茹で麺類は、好ましくは冷却される(冷却工程)。該冷却工程では、該保持工程で得られた茹で麺類を、必要に応じて湯切りした後、水冷、風冷などの通常の手段で冷却する。
【0024】
以上の手順で得られた茹で麺類は、そのまま喫食用に提供されてもよいが、冷蔵(チルドを含む)又は冷凍状態で保存、流通、又は販売されてもよい。あるいは、上記の手順で得られた茹で麺を、殺菌処理などの所定の処理を施し、常温で保存、流通、又は販売してもよい。該茹で麺類の冷蔵、冷凍、又は殺菌処理は、常法に従って実施することができる。本発明により提供される茹で麺類は、必要に応じて1食又は数食分ずつ包装されて保存、流通、販売、又は殺菌処理されてもよい。
【実施例0025】
本発明を具体的に説明するために、以下に実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0026】
試験1 茹でうどんの製造
表1~2の配合で原料粉に練り水を添加し、減圧(―350mmHg)下で混捏して麺生地を調製した。小麦粉としては中力粉、加工澱粉としてアセチル化タピオカ澱粉を用いた。得られた麺生地を製麺ロールを用いて圧延・複合して麺帯を作製し、切り刃(#9角)により切り出してうどんの生麺線(麺厚3.5mm)を製造した。
【0027】
茹で工程)圧力鍋で常圧下で沸かした沸騰水中に前記生麺線を入れて3分30秒間茹でた後、該鍋内を加圧して圧力、温度を80KPa、115℃に調整し、さらに所定時間麺を茹でた。次いで圧力鍋内を減圧し、茹で麺を鍋から取り出して下記保持工程のための所定温度のお湯に移動させた。ここまでの工程に要した麺の総茹で時間は、表1の澱粉を配合しない麺では11分間、表2の澱粉を配合した麺では10分間であった。また、加圧開始から減圧中を含めた、100℃を超える加圧下での麺の茹で時間は、表1の澱粉を配合しない麺では7分間(総茹で時間の64%)、表2の澱粉を配合した麺では6分間(総茹で時間の60%)であった。対照例では、同じ総茹で時間、加圧なしで麺を茹でた。
保持工程、冷却工程)得られた茹で麺を、表1~2に記載のとおり所定温度のお湯に所定時間浸漬させ、次いで10℃の冷水で水洗(40秒間)した後、5℃の冷水で冷却(40秒間)した。一部の比較例では、圧力鍋から取り出した茹で麺を、お湯への浸漬を行わずに水洗、冷却した。
【0028】
冷却した茹で麺を水切りし、一部を取り出して歩留まりを計った。各製造工程を経て得られた茹で麺は、歩留まりに大きな違いはなかった。残りの茹で麺は速やかに急速冷凍し、5日間冷凍保存した。冷凍保存後の麺をお湯で1分間茹で、冷水で冷却した後、食感を評価した。評価は、10名の訓練されたパネラーにより下記の評価基準に従って行い、10名の評価の平均点を求めた。結果を表1~2に示す。
<評価基準>
(麺表面の軟らかさ)
5点:対照例よりも非常に軟らかい
4点:対照例よりも軟らかい
3点:対照例よりもやや軟らかい
2点:対照例と同等の軟らかさである
1点:対照例よりも硬い
(中心部の粘り)
5点:対照例よりも非常に粘りがある
4点:対照例よりも粘りがある
3点:対照例よりもやや粘りがある
2点:対照例と同等の粘りである
1点:対照例よりも粘りがない
(中心部の硬さ)
5点:対照例よりも硬い
4点:対照例と同等の硬さである
3点:対照例よりもやや軟らかい
2点:対照例よりも軟らかい
1点:対照例よりも非常に軟らかい
【0029】
【0030】