(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087406
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】粒子検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 15/13 20240101AFI20240624BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01N15/12 A
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202222
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】古川 琴浩
(72)【発明者】
【氏名】片山 晃治
(72)【発明者】
【氏名】清水 啓佑
(57)【要約】
【課題】流路形状の保持性が向上した粒子検出装置を提供する。
【解決手段】液体中に存在する粒子をコールター原理によって検出するための粒子検出装置であって、粒子検出装置が、液体のための流路を有する流路構造体、及び、電気測定器、
を有し、流路構造体が、凹部状の流路パターンを有するパターン基板、及び流路パターンを封止して流路を形成する封止基板を有し、流路が、アパーチャを有し、電気測定器が、アパ-チャを通って流れる液体の電気的特性を計測でき、かつ流路が、前記パターン基板と前記封止基板との間にピラーを有する、粒子検出装置。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に存在する粒子をコールター原理によって検出するための粒子検出装置であって、
前記粒子検出装置が、
前記液体のための流路を有する流路構造体、及び、
電気測定器、
を有し、
前記流路構造体が、凹部状の流路パターンを有するパターン基板、及び前記流路パターンを封止して前記流路を形成する封止基板を有し、
前記流路が、アパーチャを有し、
前記電気測定器が、前記アパーチャを通って流れる前記液体の電気的特性を計測でき、かつ
前記流路が、前記パターン基板と前記封止基板との間にピラーを有する、
粒子検出装置。
【請求項2】
前記アパーチャの下流側に配置されており、前記アパーチャからの距離が前記アパーチャの開口幅の15倍以内である前記ピラーに関して、ピラー間距離が、前記アパーチャの開口幅に対して2.0倍以上である、請求項1に記載の粒子検出装置。
【請求項3】
前記ピラー間距離が、前記アパーチャの開口幅に対して4.0倍以上8.0倍以下である、請求項2に記載の粒子検出装置。
【請求項4】
前記アパーチャの下流側に配置されており、前記アパーチャからの距離が60μm以内である前記ピラーに関して、ピラー間距離が、10.0μm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粒子検出装置。
【請求項5】
前記ピラー間距離が、16.0μm以上35.0μm以下である、請求項4に記載の粒子検出装置。
【請求項6】
前記アパーチャの開口幅が、2.0μm~6.0μmである、請求項1又は2に記載の粒子検出装置。
【請求項7】
前記ピラーが、6.5μm~10μmの直径を有する円筒形状である、請求項1又は2に記載の粒子検出装置。
【請求項8】
前記パターン基板及び前記封止基板の少なくとも一方が樹脂製である、
請求項1又は2に記載の粒子検出装置。
【請求項9】
測定された前記電気的特性の変化に基づいて前記粒子の粒子径を算出するための解析装置を有する、請求項1又は2に記載の粒子検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体中の粒子を検出する技術として電気的検出を用いるコールター法(電気的検知帯法;以下ESZともいう。)が知られている。この手法は、粒子を個々に1つずつ測定することでマイノリティーな粒子群であっても正確に検出可能な技術である。すなわち、各検出手段から得られる情報(シグナル)が、各粒子に対して1対1で対応しているため、個々の粒子の評価を行うことが可能であり、数的に含まれる割合の少ない粒子でも正確に測定することができる。
【0003】
特許文献1は、流体中に存在する粒子を検出する粒子検出装置を開示しており、粒子検出部より下流部に電極を配置した流体排出口を備えることを記載している。
【0004】
特許文献2は、粒子をその粒子径に応じて流体の流れに対して垂直方向への分離を可能にする粒子分離流路と、当該粒子分離流路に分岐して接続された2以上の粒子回収流路とを含む粒子検出装置を開示している。この粒子回収流路は、アパーチャと電気検出器とを含む粒子検出部を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-117050号公報
【特許文献2】国際公開第2018/147462号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コールター法を用いた粒子検出のためのマイクロ流路を形成する際、かつ/又は使用する際に、流路が変形することがあり、特に、流路の上面が下面に近接又は接着してしまうことがあった。このような流路の変形は、流路内における検出対象粒子の滞留を引き起こし、検出精度を低下させるおそれがある。
【0007】
本発明は、流路形状の保持性が向上した粒子検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、下記の本発明に係る態様によって解決することができる。
【0009】
<態様1>
液体中に存在する粒子をコールター原理によって検出するための粒子検出装置であって、
前記粒子検出装置が、
前記液体のための流路を有する流路構造体、及び、
電気測定器、
を有し、
前記流路構造体が、凹部状の流路パターンを有するパターン基板、及び前記流路パターンを封止して前記流路を形成する封止基板を有し、
前記流路が、アパーチャを有し、
前記電気測定器が、前記アパーチャを通って流れる前記液体の電気的特性を計測でき、かつ
前記流路が、前記パターン基板と前記封止基板との間にピラーを有する、
粒子検出装置。
<態様2>
前記アパーチャの下流側に配置されており、前記アパーチャからの距離が前記アパーチャの開口幅の15倍以内である前記ピラーに関して、ピラー間距離が、前記アパーチャの開口幅に対して2.0倍以上である、態様1に記載の粒子検出装置。
<態様3>
前記ピラー間距離が、前記アパーチャの開口幅に対して4.0倍以上8.0倍以下である、態様2に記載の粒子検出装置。
<態様4>
前記アパーチャの下流側に配置されており、前記アパーチャからの距離が60μm以内である前記ピラーに関して、ピラー間距離が、10.0μm以上である、態様1~3のいずれかに記載の粒子検出装置。
<態様5>
前記ピラー間距離が、16.0μm以上35.0μm以下である、態様4に記載の粒子検出装置。
<態様6>
前記アパーチャの開口幅が、2.0μm~6.0μmである、態様1~5のいずれかに記載の粒子検出装置。
<態様7>
前記ピラーが、6.5μm~10μmの直径を有する円筒形状である、態様1~6のいずれか一項に記載の粒子検出装置。
<態様8>
前記パターン基板及び前記封止基板の少なくとも一方が樹脂製である、
態様1~7のいずれかに記載の粒子検出装置。
<態様9>
測定された前記電気的特性の変化に基づいて前記粒子の粒子径を算出するための解析装置を有する、態様1~8のいずれかに記載の粒子検出装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流路形状の保持性が向上した粒子検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、本開示の1つの実施態様に係る粒子検出装置の流路構造を示す平面概略図である。
【
図1B】
図1Bは、本開示の1つの実施態様に係る粒子検出装置の一部を示す平面概念図である。
【
図2】
図2は、
図1Bの粒子検出装置100を構成する流路構造体の断面概略図を示す。
【
図3】
図3は、ピラー間距離を決定する方法を説明する概略図である。
【
図4】
図4は、本開示の1つの実施態様に係る粒子検出装置の流路構造の一部を示す平面概略図である。
【
図5】
図5は、本開示の好ましい別の実施態様に係る粒子検出装置の流路構造の一部を示す平面概略図である。
【
図6A】
図6Aは、実施例1に係る流路の一部の平面図である。
【
図6B】
図6Bは、実施例1に係る粒子検出処理の結果を表すグラフである。
【
図7A】
図7Aは、実施例2に係る流路の一部の平面図である。
【
図7B】
図7Bは、実施例2に係る粒子検出処理の結果を表すグラフである。
【
図8A】
図8Aは、実施例3に係る流路の一部の平面図である。
【
図8B】
図8Bは、実施例3に係る粒子検出処理の結果を表すグラフである。
【
図9A】
図9Aは、実施例4に係る流路の一部の平面図である。
【
図9B】
図9Bは、実施例4に係る粒子検出処理の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪粒子検出装置≫
本開示に係る粒子検出装置は、
液体中に存在する粒子をコールター原理によって検出するための粒子検出装置であって、
この粒子検出装置は、
液体のための流路を有する流路構造体、及び、電気測定器、
を有し、
流路構造体が、凹部状の流路パターンを有するパターン基板、及び流路パターンを封止して流路を形成する封止基板を有し、
流路が、アパーチャを有し、
電気測定器が、電気的特性(特にはアパ-チャを通って流れる液体を通る電流量、及び/又はアパ-チャを通って流れる液体の電気抵抗)を計測でき、かつ
流路が、パターン基板と封止基板との間にピラーを有する。
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、図面等を用いて詳細に説明する。本発明は下記とは異なる形態による実施が可能であり、下記に示す実施形態、実施例、及び図面の例示にのみ限定されるものではない。なお、別段の記載がない限り、図面において、Lは長さ方向を示し、Wは幅方向を示し、Hは高さ方向を示す。
【0014】
(装置の基本構造)
図1Aは、本開示の1つの実施態様に係る粒子検出装置の流路構造を示す平面概略図である。
図1Aでは、説明の簡潔性のために、ピラー及びアパーチャ等を省略している。粒子検出装置の流路構造体10が、流路に液体を導入するための導入ウェル12、流路14、及び排出ウェル15a、15bを有する。流路は、上流側流路140、並びに2つの下流側流路142a及び142bから構成されている。導入ウェル12が、上流側流路140に流通しており、上流側流路140が、その下流側で、2つの下流側流路142a及び142bそれぞれに流通している。2つの下流側流路142a及び142bは、それぞれ、それらの下流側に、別個の排出ウェル15a及び15bを有している。
【0015】
図1Bは、本開示の1つの実施態様に係る粒子検出装置の基本構造を説明するための平面概念図である。粒子検出装置100は、液体中に存在する粒子をコールター原理によって検出するための粒子検出装置である。粒子検出装置100は、液体のための流路14´を有する流路構造体、及び電気測定器(ここでは電流測定器)120を有する。流路構造体の流路14´は、
図1Aで上述した流路14と同様の構成を有しており、上流側流路(
図1の下方の流路)から分岐した2つの下流側流路(
図1の上方向及び左方向にそれぞれ延びる流路)が、それぞれ、別個の排出ウェル15a´及び15b´を有している。
【0016】
流路14´の2つの下流側流路が、それぞれ、アパーチャ130a及び130bを有している。アパーチャは、粒子が通過しうるように形成された流路内の穴部であり、そのサイズは、計測対象となる粒子のサイズに合わせて設定することができる。なお、アパーチャは、上流側流路とそれぞれの下流側流路との間に配置することもできる。
【0017】
排出ウェル15a´、15b´には、それぞれ、電気測定装置を構成する電極122a、122bが配置されている。電極122a、122bは、導線を介して電流測定器120、電源124に接続されている。電源124は、所望の値の電流を流すことができる。
【0018】
電流測定器120は、これらのアパ-チャを通って流れる液体を通る電流量を計測することができる。液体中に存在する粒子が(図中において直線矢印で示される)液体の流れに従って移動してアパーチャ130a又は130bを通過する際に、電気測定器120によって測定される電流量が変化する。したがって、適切な解析装置を用いることによって、例えば測定された電流量の変化に基づいて、粒子の粒子径を算出することができる。液体は、例えば、電解質を含む溶液である。
【0019】
この装置を用いた実際の粒子検出処理について例示的に説明すると、図示されていない流体導入口から導入された粒子を含む液体は、送液装置によって流路の下流へと送液され、1つの上流側流路、及びこれに流通している2つの下流側流路、そして、それぞれの下流側流路に設けられているアパーチャ130(130a、130b)を通って、流体排出口(排出ウェル15a´及び15b´)へ流出する。
【0020】
流路中を送液された液体が排出ウェルの電極に達すると、アパーチャ130a及び130bを介した閉回路が形成される。すなわち、2つの電極122a及び122bの先端が、排出ウェル内の電解質を含む液体中に浸漬しており、電源124から供給された電流が、一方の電極から、アパーチャを通過し、分岐部を通り、もう一方のアパーチャを通過し、そして、他方の電極へと流れる。電流測定器120は、解析部に接続されてよい。測定器120から得られた検出シグナルをこの解析部で計算し、例えば、粒子径分布を作成することができる。
【0021】
図1Bで見られるとおり、本開示に係る粒子検出装置100の流路14´(上流側流路及び下流側流路)は、ピラー150を有する。
【0022】
図2は、
図1Bの粒子検出装置100を構成する流路構造体200の断面概略図を示す。流路構造体200は、パターン基板210、及び封止基板220を有している。パターン基板210が、凹部状の流路パターンを有しており、封止基板220によって流路パターン210を封止することによって、流路14´が形成されている。複数のピラー150が、流路14´中で、パターン基板210と封止基板220との間に存在している。より具体的には、
図2では、ピラー150が、パターン基板210と封止基板220との間で鉛直方向に延在しており、それにより、流路14´において、パターン基板210と封止基板220との間隔が保持されるようになっている。
【0023】
流路がパターン基板と封止基板との間にピラーを有していることによって、流路を形成する際及び/又は送液のために加圧する際などに、流路形状を保持することができる。したがって、本発明によれば、流路内での粒子の滞留が回避又は抑制されるので、粒子の検出精度を向上させることができる。
【0024】
以下、本発明の構成要素について、さらに詳細に説明する。
【0025】
<ピラー>
ピラーは、流路構造体の流路において、パターン基板と封止基板との間に配置され、特には、パターン基板と封止基板との間で鉛直方向に延在し、それにより、パターン基板と封止基板との間の間隔(すなわち流路高さ)を保持する。流路におけるピラーの本数、形状、及び寸法は、ピラーによる流路形状の保持性、及び、流路内における液体及び粒子の流れへの影響を考慮して、適宜決定することができる。
【0026】
また、流路におけるピラーの分布も、ピラーによる流路形状の保持性、及び、流路内における液体及び粒子の流れへの影響を考慮して、適宜決定することができる。例えば、ピラーを、流路全体にわたって規則的に配置してもよく、又は、粒子検出処理に伴って流路に及ぼされる圧力に応じて、流路中におけるピラー密度(単位面積当たりのピラーの数)を部位特異的に変化させてもよい。
【0027】
<ピラーの本数>
流路におけるピラーの本数は特に限定されない。流路形状を保持する目的においては、好ましくは、流路全体に一様にピラーを分布させる。一方で、ピラーによって、液体及び粒子の流れ、検出信号、その他目的操作に意図しない変化が生じる場合においては、適宜ピラーの本数を調節するとよい。
【0028】
<ピラーの形状>
流路におけるピラーの形状は特に限定されないが、好ましくは、鉛直方向に延在する円筒形状である。流路形状を保持する目的においては、ピラーの断面積が鉛直方向で一様であることが好ましく、例えば円錐形状を取っていないとよい。
【0029】
<ピラーの寸法>
流路におけるピラーの寸法は特に限定されない。ピラーによって、液体及び粒子の流れ、検出信号、その他目的操作に意図しない変化が生じる場合においては、適宜ピラーの寸法を調節するとよい。
【0030】
ピラーが円筒形状である場合、5.0~12μm、6.0~11μm、6.5~10μm、又はさらには7.0~9.0μmの直径を有することが好ましい。
【0031】
ピラーの高さは、通常、流路の高さに一致する。なお、「高さ」は、特には、鉛直方向における長さを意味する。
【0032】
<ピラー間距離>
ピラー間距離は、互いに隣接するピラーの間の距離(水平方向における距離)である。原則として、ピラー間距離は、流路における液体及び粒子の通過性、流路形状の保持性などを考慮して設計することができる。なお、後述するとおり、ピラー間距離を最適化することによって、ゴーストピークの発生を抑制することができる。
【0033】
図3は、円筒形状のピラーを例としてピラー間距離の定義を説明する。
図3は、流路内に存在するピラーを模式的に示す水平平面方向の断面図であり、円筒形状のピラー351及び352が、互いに隣接して存在している。
図3において、隣接するピラー351の表面とピラー352の表面との間の最短距離Dpがピラー間距離である。
【0034】
あるいは、ピラーの寸法及びピラーの間隔が既知である場合には、これらの値からピラー間距離を算出することもできる。例えば、ピラーの半径R1及びピラーの中心C1の中心間距離Dcが既知である場合には、DcからR1+R1を差分することによって、ピラー間距離を算出することができる。
【0035】
<ゴーストピークを考慮したピラー間距離の選択>
本開示に係る好ましい実施態様では、ピラー間距離が最適化されており、それにより、ピラーに伴うゴーストピークの発生が低減されている。
【0036】
本件発明者らは、ピラーに起因して、ゴーストピークが発生する場合があることを見出した。
図4は、本開示の1つの実施態様に係る粒子検出装置のアパーチャ(430a及び430b)付近を拡大した平面概略図である。
図4の態様では、アパーチャ下流側近傍に位置するピラー450のピラー間距離が、アパーチャの幅と同等の大きさを有している。このような流路を用いて粒子検出処理を行った場合に、ゴーストピークが発生することがあった。なお、図中の直線矢印は、粒子の流れ方向を例示している。
【0037】
理論によって限定する意図はないが、アパーチャ近傍においてピラー間距離が比較的狭い場合には、ピラー間に形成される隙間が擬似的なアパーチャとして働くと考えられる。すなわち、粒子がアパーチャを通過したときだけでなく、ピラー間に形成される隙間を粒子が通過したときにも、電荷の流れが阻害され、ゴーストピーク(すなわち電気測定器等で検出される電流量の減少等)が生じると考えられる。
【0038】
これに対して、本発明に係る好ましい実施態様では、ピラー間距離が最適化されており、それにより、ピラーに伴うゴーストピークの発生が低減されるようになっている。
図5は、本開示の好ましい実施態様に係る粒子検出装置のアパーチャ(530a及び530b)付近を拡大した概略平面図である。
図5の態様では、アパーチャの下流側の流路において、ピラー間距離が、アパーチャの幅よりも大きくなっている。このような場合には、ピラー間に形成される隙間を粒子が通過した際に電荷の流れが阻害されず、又は電荷の流れが阻害されにくいので、ゴーストピークの発生が抑制又は回避されると考えられる。
【0039】
本開示に係る好ましい実施態様では、アパーチャの下流側に配置されており、かつアパーチャからの距離がアパーチャの開口幅の15倍以内(より好ましくは20倍以内、40倍以内、60倍以内、80倍以内、90倍以内、100倍以内、又は120倍以内)であるピラーに関して、ピラー間距離が、アパーチャの開口幅に対して2.0倍以上である。このピラー間距離は、より好ましくは、アパーチャの開口幅に対して、2.2倍以上、2.4倍以上、2.6倍以上、2.8倍以上、3.0倍以上、4.0倍以上、5.0倍以上、又は6.0倍以上である。このピラー間距離の上限は、特に限定されないが、このピラー間距離は、アパーチャの開口幅に対して、15.0倍以下、12.0倍以下、10.0倍以下、9.0倍以下、又は8.0倍以下であってよい。また、本開示に係る特に好ましい実施態様では、このピラー間距離が、アパーチャの開口幅に対して4.0倍~8.0倍であり、より好ましくは5.0倍~7.5倍、更に好ましくは6.0倍~7.5倍である。
【0040】
このような態様によれば、アパーチャの下流側近傍に位置するピラーに関して、ピラー間距離が比較的広く設定されているので、ゴーストピークの発生を特に効果的に抑制又は回避することができる。
【0041】
本開示に係る好ましい別の実施態様では、アパーチャの下流側に配置されており、かつアパーチャからの距離が60μm以内(より好ましくは100μm以内、200μm以内、300μm以内、380μm以内、400μm以内、又は500μm以内)であるピラーに関して、ピラー間距離が、10.0μm以上である。このピラー間距離は、より好ましくは、12.0μm以上、14.0μm以上、16.0μm以上、17.0μm以上、18.0μm以上、20.0μm以上、22.0μm以上、24.0μm以上、又は26.0μm以上である。このピラー間距離の上限は、特に限定されないが、40.0μm以下、35.0μm以下、32.0μm以下、又は30.0μm以下であってよい。また、本開示に係る特に好ましい実施態様では、このピラー間距離が、16μm~40μm、又はさらには16.0μm~35.0μmであり、より好ましくは20μm~35μm、更に好ましくは25μm~30μmである。
【0042】
このような態様によれば、アパーチャの下流側近傍に位置するピラーに関して、ピラー間距離が比較的広く設定されているので、ゴーストピークの発生を特に効果的に抑制又は回避することができる。
【0043】
なお、アパーチャの「下流側」とは、通常、流路中を流れる液体の流れ方向における下流側を意味する。例えば、
図1Bの態様では、液体の流れ方向は矢印で示されているとおりであり、アパーチャの下流側にあるピラーは、図中でアパーチャ130aの左側に位置しているピラー、及び、アパーチャ130bの上側に位置しているピラーである。
【0044】
<流路構造体>
本開示に係る粒子検出装置を構成する流路構造体は、凹部状の流路パターンを有するパターン基板、及び、流路パターンを封止して流路を形成する封止基板を有する。パターン基材の凹部状の流路パターンを封止基板で封止することによって、流路を形成することができる。
【0045】
好ましくは、パターン基板及び封止基板の少なくとも一方が、樹脂製である。この場合には、流路の特に良好な加工性などがもたらされる。
<パターン基板>
パターン基板は、凹部状の流路パターンを有する。パターン基板は、樹脂でできていてよい。樹脂としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコーン、アクリル、シクロオレフィンポリマー、PTFEななどが挙げられる。樹脂としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が好ましい。
【0046】
(導入ウェル)
パターン基板は、流路に液体を導入するための導入ウェルを有することができる。導入ウェルは、流路に流通する。導入ウェルは、液体を保持できる構造であればよく、凹型構造であることが好ましい。導入ウェルは、例えば、パターン基板に形成された穴部であってよく、特には鉛直方向に延在する穴部であってよい。例えば、この導入ウェルに外部装置の配管を接続し、それにより、外部装置の配管を介して液体を導入することができ、かつ/又は、外部装置から印加される圧力によって、流路中で液体を送液することができる。
【0047】
(排出ウェル)
また、パターン基板は、流路中を通過した液体を保持するための排出ウェルを有することができる。排出ウェルは、流路に流通する。排出ウェルは、液体を保持できる構造であればよく、凹型構造であることが好ましい。排出ウェルは、例えば、パターン基板に形成された穴部であってよく、特には鉛直方向に延在する穴部であってよい。この排出ウェルは、検出処理を経た液体を溜めておく役割を有することができ、かつ/又は検出処理のための電極を収容する役割を有することができる。
【0048】
導入ウェル及び排出ウェルの容積は特に限定されないが、それぞれ、1μL~100μL、又はさらには5μL~50μLであってよい。また、導入ウェル及び排出ウェルの幅(特には直径)も特に限定されないが、それぞれ、0.5mm~5mmであってよい。
【0049】
(パターン基板の製造)
パターン基板を作成する際に用いる技術としては、例えば、モールディングやエンボッシングといった鋳型を用いる方法が挙げられる。これらの方法は、流路構造を正確かつ容易に作成可能であるという点で好ましい。しかしながら、その他にも、ウェットエッチング、ドライエッチング、ナノインプリンティング、レーザー加工、電子線直接描画、機械加工などの作成技術を用いることも可能である。
【0050】
凹部状の流路パターンを有するパターン基板は、例えば下記の工程を含む方法によって製造することができる:
流路パターンに対応する凸部を有する金型を用意すること、
未硬化の硬化性樹脂を金型に流し込むこと、
上記硬化性樹脂を硬化させて、パターン基板前駆体を形成すること、並びに
パターン基板前駆体に、導入ウェル及び排出ウェルに対応する穴部を形成して、凹部状の流路パターンを有するパターン基板を形成すること。
【0051】
<液体>
本開示に係る液体は、導電性の流体であり、好ましくは電解質を含む水溶液である。液体として、電解質を含む有機溶媒、導電性の油を用いることもできる。また、水溶液中に界面活性剤などの添加物を加えてもよい。
【0052】
(粒子)
液体に含まれる粒子の粒径は、1nm~100μmであってよく、好ましくは10nm~10μmの範囲にある。粒子としては、例えば、核酸、タンパク質、小胞、細胞外小胞、無機粉末、金属コロイド、高分子粒子、ウイルス、細胞、細胞塊、タンパク質凝集体などが挙げられる。
【0053】
<封止基板>
封止基板は、流路パターンを封止して、流路を形成する。
【0054】
封止基板の材質は特に限定されないが、例えばガラスでできていてよい。封止基板は、フィルム状であってもよい。
【0055】
(流路)
流路は、粒子を含有する液体のための流路である。流路は、粒子を含有する液体を流路に導入するための導入ウェル、及び、流路を通過した液体を保持するための排出ウェルに流通することができる。導入ウェル及び排出ウェルは、それぞれ、流路における液体の流れ方向に対して鉛直方向に延在する穴部であってよい。
【0056】
流路のサイズ及び材料は、用いる液体に応じて適宜選択することができる。流路の断面は、流路構造の作製上の容易さから、矩形であることが望ましいが、円形や楕円形、多角形などの断面であってもよく、また部分的に矩形以外の形状であってもよい。また、流路高さは作製の容易さから均一であることが好ましいが、部分的に深さが異なっていてもよい。1つの実施態様では、流路高さは、例えば、1~100μm、1~50μm、又は1~10μmであってよい。
【0057】
(上流側流路及び下流側流路)
流路は、上流側流路及び下流側流路を有することができる。
【0058】
(上流側流路)
上流側流路は、その上流側で流路に液体を導入するための導入ウェルに流通し、その下流側で下流側流路に接続することができる。導入ウェルに導入された液体は、上流側流路に送られる。
【0059】
(下流側流路)
下流側流路は、その上流側で上流側流路に流通し、その下流側で排出ウェルに流通することができる。流路は、複数の下流側流路を有することができる。この場合、複数の下流側流路は、それぞれに対応する別個の排出ウェルに流通することができる。
図1A及び
図1Bの態様では、上流側流路が、交差部を介して2つの下流側流路に流通し、それぞれの流路が、それぞれに対応する排出ウェルに流通している。
【0060】
本開示に係る好ましい実施態様では、流路が、1つの上流側流路と、この上流側流路に流通する2つの下流側流路(第1下流側流路及び第2下流側流路)を有し、これら2つの下流側流路が、それぞれアパーチャ(第1アパーチャ及び第2アパーチャ)を有するとともに、それぞれ別個の排出ウェル(第1排出ウェル及び第2排出ウェル)に接続しており、これらの排出ウェルに、それぞれ電極が配置されている。
【0061】
(アパーチャ)
流路は、アパーチャを有する。アパーチャは、下流側流路に配置されていてもよく、上流側流路と下流側流路との間に配置されていてもよい。
【0062】
液体中に存在する粒子が、液体の流れに従って移動してアパーチャを通過する際に、電気測定器によって測定される電気的特性(特には電流量及び/又は電気抵抗)が変化する。適切な解析装置を用いることによって、測定された電気的特性の変化に基づいて、粒子の粒子径などを算出することができる。
【0063】
アパーチャは、粒子が通過することができるように形成された流路内の穴部である。アパーチャは、例えば、(特には液体の流れ方向に直交する断面において)、流路の断面積よりも小さい断面積を有する。
【0064】
アパーチャの開口幅は、検出対象の粒子の大きさに従って、適宜設定することができる。好ましくは、アパーチャの開口幅が、2.0μm~6.0μm、2.5μm~5.5μm、又はさらには3.0μm~5.0μmである。
【0065】
アパーチャの開口幅は、流路中の液体の流れ方向に直交する断面において、アパーチャの最大開口幅を意味する。例えば、アパーチャが流路の長さ方向に沿う円筒状の穴部である場合、アパーチャの開口幅は、この円筒形状の直径である。
【0066】
複数のアパーチャの各々の開口面積又は体積が同じ場合、両アパーチャから得られるシグナルは、およそ同一となる。すなわち、両アパーチャへ流れてきた粒子を同様に検出することが可能であり、濃度の定量的な測定という観点で好ましい。
【0067】
アパーチャの形状は、特に限定されない。アパーチャの形状は、その製造工程によって種々の形状をとってもよく、例えば、エッチングやレーザー照射による加工では円、楕円の形状をとり、フォトリソグラフィーとソフトリソグラフィーによるポリジメチルシロキサン(以下PDMS)等の高分子材料による成形の場合は矩形となってよい。アパーチャの開口面積は、測定する粒子よりも大きければよいが、一般にESZで測定可能な粒子径範囲は、アパーチャ断面積の2~60%といわれているため、流入してくると想定される粒子の大きさに応じて設計する必要がある。
【0068】
<電気測定器>
電気測定器(特には電流及び/又は電気抵抗測定器)は、アパーチャを通って流れる液体の電気的特性、特に、アパ-チャを通って流れる液体を通る電流量、及び/又はアパ-チャを通って流れる液体の電気抵抗を計測することができる。
【0069】
電気測定器は、液体の電気的特性を検知するものであればよく、電流測定器、電圧測定器、抵抗測定器、電荷量測定器が挙げられ、ESZの測定においては電流測定器を用いるのが最も好ましい。また、IVアンプを用いて、電流電圧変換後に利得を上げて、微小な電流値変化を検出することが、より微小な粒子を検出する上で好ましい。
【0070】
アパーチャ内を通過した粒子を取りこぼしなく検出するために、電気測定器のサンプリング時間間隔は、粒子がアパーチャを通過するのに要する時間よりも十分短いことが好ましく、1秒間に1万回以上サンプリングすることが好ましく、1秒間に2万回以上サンプリングすることがさらに好ましい。
【0071】
電気測定器は、電源、及び電極、並びにこれらを互いに接続する導線とともに、電気測定装置を構成することができる。
【0072】
(電源)
電気測定装置は、電源を有することができる。電源としては、直流または交流電源が用いられるが、測定の際に比較的ノイズが影響しにくいものを選択する方が好ましく、コスト面からは、例えば乾電池等の安価で低ノイズである直流電源を用いる方が好ましい。
【0073】
(電極)
電気測定装置は、電極を有することができる。例えば、一対の電極を、アパーチャを挟持するようにして流路内に配置することによって、当該アパーチャを通過する粒子に起因する電気的特性(特には電流量及び/又は電気抵抗)の変化を検出することができる。
【0074】
本開示に係る1つの実施態様では、2つの電極が、それぞれ、第1の排出ウェル及び第2の排出ウェルに配置されている(
図1B参照)。この場合には、第1の排出ウェルに配置された電極と、第2の排出ウェルに配置された電極が、一対の電極として機能し、それらの間に配置されるアパーチャを通過する粒子に起因する電気的特性(特には電流量及び/又は電気抵抗)の変化を検出することができる。
【0075】
電極の材料は、電気抵抗が小さい材質であれば制限はなく、金属、無機化合物、有機化合物を用いることができるが、耐久性とコストの面から金属であることが好ましい。電極は、例えば白金電極であってよい。
【0076】
(送液)
流路に液体を送液する方法は、特に制限されない。シリンジポンプやペリスタポンプ、圧送ポンプ等の圧力勾配により送液させる方法を用いてもよいし、流路断面における不均一な速度分布を抑制するために電気浸透流ポンプを用いてもよい。この場合、ポンプから接続された配管を、導入ウェルへ直接接続し、導入ウェルに保持されているサンプル(液体)へ圧力を印加することによって送液することができる。
【0077】
また、排出ウェルに対して配管を介してポンプを接続し、陰圧をかけることにより流路内の流体を吸引させ、それによって送液を行ってもよい。
【0078】
さらに、導入ウェルの液面を、排出ウェルの液面よりも高くすることで、液面差によって送液してもよい。この場合、送液のための装置が不要となる。定量性が高い測定のためには、圧力勾配により送液を行うことが好ましく、脈動がより少ない圧送ポンプで送液する態様が最も好ましい。
【0079】
液体の流量は、流路の断面積やアパーチャの断面積により任意の値に設定することができる。例えば、液体の流量は、0.1μL/hourから1mL/hourの間に設定することが好ましい。
【0080】
<解析装置>
本開示に係る1つの実施態様では、粒子検出装置が、測定された電気的特性(特には電流量及び/又は電気抵抗)の変化に基づいて粒子の粒子径を算出するための解析装置を有する。
【0081】
解析装置は、測定結果を演算するための演算装置と、測定結果又はそれに由来する演算結果を記録するための記録媒体とを具備することができる。これらの演算装置及び記録媒体は、電気測定器と一体化していてもよいし、電気測定器に対して接続可能な外付け装置であってもよい。記録媒体に記録されるデータには、サンプリングした電流値と、粒子が通過した際に発生する電流値変化、またその電流値変化から算出される粒子径、粒子数、粒子濃度、検出時間又は測定開始時からの経過時間が含まれる。
【実施例0082】
以下で、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、実施例によって限定されない。
【0083】
≪実施例1~4≫
実施例1~4では、種々の設計に基づくピラーを有する流路構造体を用いて,
コールター原理に基づいて、液体中の粒子の検出を行った。
【0084】
<実施例1>
(粒子検出装置)
【0085】
本発明の実施形態を備えた流路構造体は、一般的なフォトリソグラフィーとソフトリソグラフィー技術を用いて作製した。具体的な作製手順は特許文献1(特開2019-117050号公報)に記載の方法と同様であり、凹部状の流路パターンを有するポリジメチルシロキサン(PDMS)製のパターン基板を用意し、この流路パターンをガラス製の封止基板で封止することによって、流路構造体の流路を形成した。流路構造体は、直径2mmの円筒形状の鉛直方向穴部である導入ウェルを有しており、この導入ウェルにサンプル液体を供給することによって、流路にサンプル液体を導入することができるように構成されていた。粒子検出装置及び流路の構造は
図1A及び
図1Bで説明したものと同様の構成を有していた。流路は、1つの上流側流路、及び2つの下流側流路を有しており、上流側流路とそれぞれの下流側流路との間に、幅4.1μmのアパーチャが設けられていた。アパーチャ近傍における流路の高さは、3.0μmであった。
【0086】
2つの下流側流路は、それぞれ、流路を通過した後の液体を保持するための別個の排出ウェルに流通している。これらの排出ウェルに、それぞれ白金電極が配置されており、一方の電極は導線を介してプログラマブル電流増幅器へ接続され、ADコンバーターを介してPCへと接続され、送信されてきたデジタルの信号を解析した。また粒子検出部電極のもう一方は9Vの乾電池へ導線を介して接続した。それにより、アパ-チャを通って流れる液体の電流値変化を計測できるように構成されている。
【0087】
流路は、流路全体にわたって、パターン基板と封止基板との間で鉛直方向に延在する複数の円筒形状のピラーを有していた。
【0088】
図6Aは、実施例1の流路のうちアパーチャ付近の流路を拡大した平面図である。上流側流路(図の左側)が、図の中央付近に位置している2つのアパーチャを隔てて、2つの下流側流路(図の右側)に流体的に接続されている。図中で円形に見えるピラーは、6.1μmの直径を有する円筒形状のピラーであり、一定間隔で分布している。アパーチャ近傍(少なくともアパーチャから300μmの距離の範囲)に関して、ピラー間距離が、5.1μmであった。
【0089】
(検出操作)
この粒子検出装置を用いて、液体中の粒子の検出操作を行った。検出対象の粒子としてポリスチレン標準粒子(粒子径:2.0μm)を用いた。また、上記粒子を含有する液体として、0.05%(v/v)tween20(tweenは登録商標)含有の1×PBS溶液(リン酸緩衝液)を用いた。なお、0.05%(v/v)tween20(tweenは登録商標)含有の1×PBS溶液は、実験前にポアサイズ0.1μmのシリンジフィルターを用いて異物除去を行ってから用いた。上記の調整サンプル溶液5μLを導入ウェルに供給し、導入ウェルに対してテフロン(登録商標)チューブを介したシリンジポンプによって陽圧を印加して一定の流量で送液を行った。電気測定器を用いて計測した電流値変化の測定結果の一部を、
図6Bに示す。なお、測定シグナルはPCに送られる過程で電圧に変換されており、
図6Bの縦軸は電圧(V)であり、横軸は時間(s)である。
【0090】
図6Bで見られるとおり、粒子に対応するシグナルを検出することができた(
図6Bの矢印)。なお、
図6Bで見られるとおり、実施例1では、検出された粒子に対応するピークの後に、比較的小さいピークが観察された。理論によって限定する意図はないが、これらのピーク(ゴーストピーク)は、アパーチャを通過した粒子がその後にピラー間を通過したことによる電流値変化を反映していると考えられる。
【0091】
<実施例2>
実施例2では、アパーチャから56.7μm以内の距離にある下流側流路のピラーについて、ピラー間距離を15.4μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、粒子検出操作を行った。
【0092】
実施例2で用いた流路構造体の流路のうちアパーチャ近傍の流路の平面図を
図7Aに示す。また、電気測定器を用いて計測した電流値変化の測定結果の一部を、
図7Bに示す。
図7Bの縦軸は電圧(V)であり、横軸は時間(s)である。
図7Bで見られるとおり、粒子に対応するシグナルを検出することができた(
図7Bの矢印)。また、ゴーストピークが観察されたものの、実施例1の場合よりも発生頻度が比較的低減されていた。
【0093】
<実施例3>
実施例3では、アパーチャから359.8μm以内の距離にある下流側流路のピラーについて、円筒形状であるピラーの直径を7.2μmにしたこと、ピラー間距離を15.3μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、粒子検出操作を行った。
【0094】
実施例3で用いた流路構造体の流路のうちアパーチャ近傍の流路の平面図を
図8Aに示す。また、測定器を用いて計測した電流値変化の測定結果の一部を、
図8Bに示す。
図8Bの縦軸は電圧(V)であり、横軸は時間(s)である。
図8Bで見られるとおり、粒子に対応するシグナルを検出することができた(
図8Bの矢印)。また、ゴーストピークが観察されたものの、実施例1及び2の場合よりも発生頻度が比較的低減されていた。
【0095】
<実施例4>
実施例4では、アパーチャから365.9μm以内の距離にある下流側流路のピラーについて、ピラー直径を7.2μmにしたこと、ピラー間距離を28.6μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、粒子検出操作を行った。
【0096】
実施例4で用いた流路構造体の流路のうちアパーチャ近傍の流路の平面図を
図9Aに示す。また、測定器を用いて計測した電流値変化の測定結果の一部を、
図9Bに示す。
図9Bの縦軸は電圧(V)であり、横軸は時間(s)である。
図9Bで見られるとおり、粒子に対応するシグナルを検出することができた(
図9Bの矢印)。また、ゴーストピークの発生は観察されなかった。
【0097】
<評価>
実施例1~4の測定結果について、下記のとおりにして、流路形状保持性、粒子検出性評価及びゴーストピーク評価を行った。
【0098】
<流路形状保持性>
流路形状の保持性について、下記の基準に従って評価した。
○:粒子検出操作の際に流路構造体の流路の形状が良好に保持されていた。
×:粒子検出操作の際に流路の少なくとも一部において流路上面と流路下面が接着していた。
【0099】
(粒子検出性評価)
粒子検出を良好に行うことができたかどうかについて、下記の基準に従って評価を行った(粒子検出評価)。
○:粒子に対応するピークを検出することができた。
×:粒子に対応するピークを検出することができなかった。
【0100】
(ゴーストピーク評価)
ゴーストピークの発生について、下記の基準に従って評価を行った。
◎:ゴーストピークが観察されなかった。
△:ゴーストピークが観察されたものの、実施例1と比較して発生頻度が低減されていた。
×:ゴーストピークが頻繁に観察された。
【0101】
評価結果を下記の表1に示す。なお、各実施例について、「ピラー疎領域」は、「ピラー密領域」よりもアパーチャに近い領域であり、「ピラー密領域」よりもピラー間距離が大きい領域である。例えば、実施例2では、アパーチャから56.7μm以内の距離(アパーチャ開口部の幅に対する倍率として表した場合13.8倍以内の距離)の範囲が、「ピラー疎領域」であり、それよりも遠い距離にある領域が、「ピラー密領域」である。実施例1では、ピラー疎領域に対応する領域がないため、ピラー密領域のみを記載している。
【0102】
【0103】
表1で見られるとおり、流路がピラーを有していた実施例1~4に係る粒子検出装置では、流路形状が良好に保持されており、粒子の検出操作を良好に行うことができた。
【0104】
また、表1で見られるとおり、アパーチャからの距離が56.7μm以内である領域で15.4μmのピラー間距離を有していた実施例2では、対応する領域において5.1μmのピラー間距離を有していた実施例1と比較して、ゴーストピークの発生頻度が低減されていた。同様に、実施例1よりも広い範囲にわたって比較的大きいピラー間距離を有する実施例3において、ゴーストピークの発生頻度が、実施例1と比較して低減されていた。
【0105】
この結果は、アパーチャ近傍のピラー間距離を一定距離以上に広げることによって、ゴーストピークの発生を抑制できることを示す。
【0106】
また、表1で見られるとおり、実施例2、3よりも大きいピラー間距離を有する実施例4では、ゴーストピークの発生が抑制されていた。
【0107】
これらの結果から、アパーチャ近傍におけるピラーのピラー間距離を最適化することによって、良好な粒子検出処理を行うことができるとともに、ゴーストピークの発生を抑制又は回避することができることがわかる。