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特開2024-87894タンパク質付着抑制剤、タンパク質付着抑制用塗料組成物、タンパク質付着抑制用塗膜、物品、及びタンパク質付着抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087894
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】タンパク質付着抑制剤、タンパク質付着抑制用塗料組成物、タンパク質付着抑制用塗膜、物品、及びタンパク質付着抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/44 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
C08G18/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202791
(22)【出願日】2022-12-20
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】白井 一彰
(72)【発明者】
【氏名】福家 良美
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB07
4J034DF02
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA42
4J034KA01
4J034KB02
4J034KC17
4J034KD02
4J034KE02
4J034QB14
4J034QB17
4J034QB19
4J034RA02
4J034RA03
4J034RA09
4J034RA10
4J034RA12
(57)【要約】
【課題】得られる塗膜や該塗膜を有する物品に、優れたタンパク質低付着性、機械的特性、及び耐薬品性を付与することが可能な、タンパク質付着抑制剤、及び、該タンパク質付着抑制剤を含むタンパク質付着抑制用塗料組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位(A)、及びイソシアネート化合物(B)に由来する構造単位(B)を含むポリウレタンを含有するタンパク質付着抑制剤において、前記ポリカーボネートジオール(A)が、イソソルビド、イソマンニド及びイソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールに由来する構造単位(II)を有する、タンパク質付着抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位(A)、及びイソシアネート化合物(B)に由来する構造単位(B)を含むポリウレタンを含有するタンパク質付着抑制剤において、
前記ポリカーボネートジオール(A)が、イソソルビド、イソマンニド及びイソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールに由来する構造単位(II)を有する、タンパク質付着抑制剤。
【請求項2】
ポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位(A)、及びイソシアネート化合物(B)に由来する構造単位(B)を含むポリウレタンを含有するタンパク質付着抑制剤において、
前記タンパク質付着抑制剤を用いて形成した厚さ50μmのフィルムについて、以下のタンパク質吸着試験方法を用いて測定されるタンパク質吸着密度が0.25μg/cm以下である、タンパク質付着抑制剤。
<タンパク質吸着試験方法>
タンパク質としてアルブミン(ウシ由来,BSA)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にアルブミン濃度が1mg/mLとなるように溶解した、アルブミン試験液を調製する。
前記フィルムを試験片として、アルブミン試験液に、37℃2時間浸漬させた後、PBSで洗浄し、次いでドデシル硫酸ナトリウム水溶液に浸して超音波洗浄する。
次いで、超音波洗浄後の溶液に、BCA(Bicinchronic Acid)試薬キットのタンパク質定量試薬を入れて、37℃で2時間保持する。
2時間保持した後、前記溶液の波長562nmにおける吸光度を測定する。次いで、濃度既知のアルブミン溶液を用いて予め作成した検量線と、波長562nmにおける吸光度の測定値から、前記試験片へのアルブミンの吸着量(単位:μg)を算出し、試料片の単位面積当たりのアルブミン吸着量(単位:μg/cm)を求め、これをタンパク質吸着密度(単位:μg/cm)とする。
【請求項3】
前記ポリカーボネートジオール(A)が、イソソルビド、イソマンニド、及び、イソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールに由来する構造単位(II)を有する、請求項2に記載のタンパク質付着抑制剤。
【請求項4】
前記ポリカーボネートジオール(A)が、下記式(1)で表される化合物に由来する構造単位(I)を有する、請求項1又は3に記載のタンパク質付着抑制剤。
HO-R-OH …(1)
(上記式(1)において、Rは置換若しくは無置換の炭素数3~10のアルキレン基であって、Rのアルキレン基中の炭素原子は1~3級の炭素原子である。)
【請求項5】
前記式(1)におけるRが、置換若しくは無置換の炭素数4~6のアルキレン基である、請求項4に記載のタンパク質付着抑制剤。
【請求項6】
前記ポリカーボネートジオール(A)おいて、前記構造単位(II)に対する前記構造単位(I)のモル比((I)/(II))が、45/55以上75/25以下の範囲内である、請求項4に記載のタンパク質付着抑制剤。
【請求項7】
前記ポリカーボネートジオール(A)の水酸基価から求めた数平均分子量が500以上3000以下である、請求項1又は2に記載のタンパク質付着抑制剤。
【請求項8】
前記構造単位(B)に対する前記構造単位(A)のモル比((A)/(B))が、1.0/5.0以上1.0/0.5以下の範囲内である、請求項1又は2に記載のタンパク質付着抑制剤。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のタンパク質付着抑制剤を含むタンパク質付着抑制用塗料組成物。
【請求項10】
生体適合材料の製造原料に用いるための、請求項9に記載のタンパク質付着抑制用塗料組成物。
【請求項11】
前記生体適合材料が、人工歯根、人工臓器、及び人工骨からなる群より選ばれるいずれかである、請求項10に記載のタンパク質付着抑制用塗料組成物。
【請求項12】
請求項9に記載のタンパク質付着抑制用塗料組成物を用いて形成された、タンパク質付着抑制用塗膜。
【請求項13】
タンパク質と接触する物品であって、タンパク質と接触する面に、請求項12に記載のタンパク質付着抑制用塗膜を有する物品。
【請求項14】
前記塗膜を有する物品が、タンパク質と接触する面に前記タンパク質付着抑制用塗膜を有する、家具用部材、建築内装用部材、車両用内装部材、衣料用部材、及び装飾用部材、並びに、医療用器具、生化学用器具、及び細胞治療用器具からなる群より選ばれるいずれかである、請求項13に記載の塗膜を有する物品。
【請求項15】
タンパク質と接触する物品のタンパク質と接触する面に、請求項9に記載のタンパク質付着抑制用塗料組成物を用いてタンパク質付着抑制用塗膜を形成することによる、該物品へのタンパク質付着抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質付着抑制剤、タンパク質付着抑制用塗料組成物、タンパク質付着抑制用塗膜、物品、及びタンパク質付着抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体適合材料の分野では、再生セルロース、ポリアクリルニトリル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、テフロン等のポリマー材料が、人工歯根、人工臓器(例えば、人工血管、人工肝臓、人工心臓等)、及び人工骨等に使用されている。また、医療器具、生化学分析やタンパクの分離精製の分野では、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ナイロン等のポリマー材料や、ガラス、又はステンレス等の金属が、各種反応容器、遠心管、チューブ、シリンジ、ピペット、フィルター、分離用カラム等の種々の部品、容器等に使用されている。
【0003】
しかし、いずれの材料においてもタンパク質の付着がおきるために、生体適合材料の使途ではその表面にタンパク質が付着又は堆積して汚れの原因となる。また、医療器具、生化学分析やタンパクの分離精製の使途では、タンパク質の付着のために、検出感度の低下や再現性の低下、精製不良を引き起こす。すなわち、上述した使途・分野に使用される材料には、タンパク質低付着性を有することが要求されている
【0004】
一方、工業規模で生産されているポリウレタンとして、ソフトセグメント部の原料にポリカーボネートジオールを用いた、ポリカーボネートタイプのポリウレタンが提案されている(特許文献1)。さらには近年、このポリカーボネートタイプのポリウレタンを用いた、耐薬品性の高い塗料組成物が提案されている(特許文献2)。
【0005】
ポリウレタンを用いた塗料やコーティング剤(以下、「塗料組成物」という。)は、ソファー等の外装材や保護カバー等の家具用部材;壁紙や化粧板等の建築内装用部材;自動車等のシートカバーやハンドルカバー等の車両用内装部材;革靴やジャンバー、ベルト等の衣料用部材;カバンやバック、腕時計のベルト、財布等の装飾用部材等の表面に塗布又はコーティングされて、コーティング層又は塗膜(以下、単に「塗膜」という。)を形成して、前記部材に所望の機能を付与するために利用されている。
近年、上記部材が用いられる製品には、清潔性維持が強く求められている。清潔性と関連のある製品の外観については、タンパク質の付着又は堆積が、汚れや黄ばみ、黒ずみ等の外観低下を起こす第一歩となることから、これらの使途・用途に使用されるポリウレタンには、タンパク質が付着し難いこと、即ちタンパク質低付着性を有することが要望されている。
【0006】
さらに、上記の家具用部材、建築内装用部材、車両用内装部材、衣料用部材、及び装飾用部材が用いられる製品は、人体の体重や外部抗力等の加重又は荷重が加わる状態で使用されるため、塗膜には機械的特性に優れていることが要望されている。すなわち、塗膜に使用されるポリウレタンには、引張強度のような機械的特性に優れていることが要求されている。
【0007】
また、上記の家具用部材、建築内装用部材、車両用内装部材、衣料用部材、及び装飾用部材が用いられる製品は、エタノールやイソプロパノールを用いて洗浄又は消毒するため、塗膜には耐薬品性に優れていることが要望されている。すなわち、塗膜に使用されるポリウレタンには、耐薬品性に優れていることが要求されている。
【0008】
なお、タンパク質低付着性を付与する方法として、プロテオグリカンを含有するタンパク質付着抑制剤(特許文献3)や、特定の側鎖構造を有するタンパク質付着抑制用共重合体(特許文献4)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-108196号公報
【特許文献2】特開2022-070792号公報
【特許文献3】特開2021-051151号公報
【特許文献4】国際公開公報第2020/066685号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した使途・用途に使用される材料、例えばポリウレタン材料には、特に機械的特性と耐薬品性に優れ、さらにタンパク質低付着性にも優れることが望まれている。
しかしながら、特許文献1,2に開示されているポリウレタンは、タンパク質低付着性、機械的特性及び耐薬品性という3つの特性を並立することは困難であり、特にタンパク質低付着性が不十分であった。特許文献1~2は、タンパク質が付着し難いポリウレタンの構造や組成に関して何ら言及していない。
また、特許文献3に開示されているタンパク質付着抑制剤や、特許文献4に開示されているタンパク質付着抑制用共重合体は、高価であったり、使用できる材料や発現できる物性に制限があることから、汎用性に欠けるものであった。
【0011】
本発明は、上述した従来技術の問題を解決し、得られる塗膜や該塗膜を有する物品に、優れたタンパク質低付着性、機械的特性、及び耐薬品性を付与することが可能な、タンパク質付着抑制剤、及び、該タンパク質付着抑制剤を含むタンパク質付着抑制用塗料組成物を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、優れたタンパク質低付着性、機械的特性、及び耐薬品性を有する、前記タンパク質付着抑制用塗料組成物を用いて製造されたタンパク質付着抑制用塗膜及び前記タンパク質付着抑制用塗膜を有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定構造を有するポリカーボネートジオールに由来する構造単位を含むポリウレタンをタンパク質付着抑制剤として使用することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0013】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0014】
[1] ポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位(A)、及びイソシアネート化合物(B)に由来する構造単位(B)を含むポリウレタンを含有するタンパク質付着抑制剤において、
前記ポリカーボネートジオール(A)が、イソソルビド、イソマンニド及びイソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールに由来する構造単位(II)を有する、タンパク質付着抑制剤。
【0015】
[2] ポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位(A)、及びイソシアネート化合物(B)に由来する構造単位(B)を含むポリウレタンを含有するタンパク質付着抑制剤において、
前記タンパク質付着抑制剤を用いて形成した厚さ50μmのフィルムについて、以下のタンパク質吸着試験方法を用いて測定されるタンパク質吸着密度が0.25μg/cm以下である、タンパク質付着抑制剤。
<タンパク質吸着試験方法>
タンパク質としてアルブミン(ウシ由来,BSA)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にアルブミン濃度が1mg/mLとなるように溶解した、アルブミン試験液を調製する。
前記フィルムを試験片として、アルブミン試験液に、37℃2時間浸漬させた後、PBSで洗浄し、次いでドデシル硫酸ナトリウム水溶液に浸して超音波洗浄する。
次いで、超音波洗浄後の溶液に、BCA(Bicinchronic Acid)試薬キットのタンパク質定量試薬を入れて、37℃で2時間保持する。
2時間保持した後、前記溶液の波長562nmにおける吸光度を測定する。次いで、濃度既知のアルブミン溶液を用いて予め作成した検量線と、波長562nmにおける吸光度の測定値から、前記試験片へのアルブミンの吸着量(単位:μg)を算出し、試料片の単位面積当たりのアルブミン吸着量(単位:μg/cm)を求め、これをタンパク質吸着密度(単位:μg/cm)とする。
【0016】
[3] 前記ポリカーボネートジオール(A)が、イソソルビド、イソマンニド、及び、イソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールに由来する構造単位(II)を有する、[2]に記載のタンパク質付着抑制剤。
【0017】
[4] 前記ポリカーボネートジオール(A)が、下記式(1)で表される化合物に由来する構造単位(I)を有する、[1]~[3]のいずれかに記載のタンパク質付着抑制剤。
HO-R-OH …(1)
(上記式(1)において、Rは置換若しくは無置換の炭素数3~10のアルキレン基であって、Rのアルキレン基中の炭素原子は1~3級の炭素原子である。)
【0018】
[5] 前記式(1)におけるRが、置換若しくは無置換の炭素数4~6のアルキレン基である、[4]に記載のタンパク質付着抑制剤。
【0019】
[6] 前記ポリカーボネートジオール(A)おいて、前記構造単位(II)に対する前記構造単位(I)のモル比((I)/(II))が、45/55以上75/25以下の範囲内である、[4]又は[5]に記載のタンパク質付着抑制剤。
【0020】
[7] 前記ポリカーボネートジオール(A)の水酸基価から求めた数平均分子量が500以上3000以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のタンパク質付着抑制剤。
【0021】
[8] 前記構造単位(B)に対する前記構造単位(A)のモル比((A)/(B))が、1.0/5.0以上1.0/0.5以下の範囲内である、[1]~[7]のいずれかに記載のタンパク質付着抑制剤。
【0022】
[9] [1]~[8]のいずれかに記載のタンパク質付着抑制剤を含むタンパク質付着抑制用塗料組成物。
【0023】
[10] 生体適合材料の製造原料に用いるための、[9]に記載のタンパク質付着抑制用塗料組成物。
【0024】
[11] 前記生体適合材料が、人工歯根、人工臓器、及び人工骨からなる群より選ばれるいずれかである、[10]に記載のタンパク質付着抑制用塗料組成物。
【0025】
[12] [9]~[11]のいずれかに記載のタンパク質付着抑制用塗料組成物を用いて形成された、タンパク質付着抑制用塗膜。
【0026】
[13] タンパク質と接触する物品であって、タンパク質と接触する面に、[12]に記載のタンパク質付着抑制用塗膜を有する物品。
【0027】
[14] 前記塗膜を有する物品が、タンパク質と接触する面に前記タンパク質付着抑制用塗膜を有する、家具用部材、建築内装用部材、車両用内装部材、衣料用部材、及び装飾用部材、並びに、医療用器具、生化学用器具、及び細胞治療用器具からなる群より選ばれるいずれかである、[13]に記載の塗膜を有する物品。
【0028】
[15] タンパク質と接触する物品のタンパク質と接触する面に、[9]~[11]のいずれかに記載のタンパク質付着抑制用塗料組成物を用いてタンパク質付着抑制用塗膜を形成することによる、該物品へのタンパク質付着抑制方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、特定構造を有するポリカーボネートジオールに由来する構造単位を含むポリウレタンをタンパク質付着抑制剤として使用することで、タンパク質低付着性、機械的特性、及び耐薬品性が優れた塗膜を形成し得るタンパク質付着抑制用塗料組成物と、この塗料組成物を用いたタンパク質付着抑制用塗膜、及びタンパク質の付着が抑制された物品を提供することができる。
【0030】
さらに、本発明によれば、高価であったり、使用できる材料や発現できる物性に制限がある材料を用いることなく、安価で汎用的な材料を用いることにより、塗膜及び前記塗膜を含む物品に、優れたタンパク質低付着性を付与することできるので、製品コストの削減においても効果的である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0032】
本明細書において、「構造単位」とは、ポリウレタンの製造に用いた原料化合物が重合することにより形成された、前記原料化合物に由来する単位であって、得られた重合体において任意の連結基に挟まれた部分構造を示すものであり、重合体の末端部分で一方が連結基で、もう一方が重合反応性基である部分構造も含む。構造単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、得られた重合体を処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換されたものであってもよい。
本明細書において、「繰り返し単位」とは、「構造単位」と同義である。
【0033】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、特に断らない限り、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0034】
本明細書において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる所定の成分の含有割合を示す。
本明細書において“質量%”と“重量%”、“質量ppm”と“重量ppm”、及び“質量部”と“重量部”とは、それぞれ同義である。また、単に“ppm”と記載した場合は、“重量ppm”のことを示す。
【0035】
[タンパク質付着抑制剤]
本発明の第1の実施形態のタンパク質付着抑制剤は、後述するポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位(A)、及び、後述するイソシアネート化合物(B)に由来する構造単位(B)を含むポリウレタンを含有するタンパク質付着抑制剤において、前記ポリカーボネートジオール(A)が、イソソルビド、イソマンニド及びイソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールに由来する構造単位(II)を有する、タンパク質付着抑制剤である。
【0036】
本発明の第1の実施形態のタンパク質付着抑制剤は、前記ポリウレタンが前記構造単位(II)を有することにより、優れたタンパク質付着抑制機能を有し、さらに得られたタンパク質付着抑制用塗膜や該塗膜を有する物品に、優れたタンパク質低付着性を付与できる。具体的には、前記タンパク質付着抑制剤を用いて形成した厚さ50μmのフィルムについて、以下のタンパク質吸着試験方法を用いて測定されるタンパク質吸着密度として0.25μg/cm以下を達成できる。
【0037】
本発明の第2の実施形態のタンパク質付着抑制剤は、後述するポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位(A)、及び、後述するイソシアネート化合物(B)に由来する構造単位(B)を含むポリウレタンを含有するタンパク質付着抑制剤において、前記タンパク質付着抑制剤を用いて形成した厚さ50μmのフィルムについて、以下のタンパク質吸着試験で測定されるタンパク質吸着密度が0.25μg/cm以下である、タンパク質付着抑制剤である。前記タンパク質吸着密度は、0.15μg/cm以下が好ましく、0.10μg/cm以下がより好ましい。
<タンパク質吸着試験方法>
タンパク質としてアルブミン(ウシ由来,BSA)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にアルブミン濃度が1mg/mLとなるように溶解した、アルブミン試験液を調製する。
前記フィルムを試験片として、アルブミン試験液に、37℃2時間浸漬させた後、PBSで洗浄し、次いでドデシル硫酸ナトリウム水溶液に浸して超音波洗浄する。
次いで、超音波洗浄後の溶液に、BCA(Bicinchronic Acid)試薬キットのタンパク質定量試薬を入れて、37℃で2時間保持する。
2時間保持した後、前記溶液の波長562nmにおける吸光度を測定する。次いで、濃度既知のアルブミン溶液を用いて予め作成した検量線と、波長562nmにおける吸光度の測定値から、前記試験片へのアルブミンの吸着量(単位:μg)を算出し、試料片の単位面積当たりのアルブミン吸着量(単位:μg/cm)を求め、これをタンパク質吸着密度(単位:μg/cm)とする。
【0038】
本発明の第2の実施形態のタンパク質付着抑制剤は、前記タンパク質吸着密度が0.25μg/cm以下であるため、優れたタンパク質付着抑制機能を有し、さらに得られたタンパク質付着抑制用塗膜や該塗膜を有する物品に、優れたタンパク質低付着性を付与できる。
なお、タンパク質吸着試験の具体的な方法は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
【0039】
前記タンパク質吸着密度を制御するには、前記ポリウレタン中の前記構造単位(A)において、該構造単位(A)を構成する、イソソルビド、イソマンニド、及び、イソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールに由来する構造単位(II)の種類や含有割合を調整する方法が挙げられる。
【0040】
さらに、本発明の第2の実施形態のタンパク質付着抑制剤は、より優れたタンパク質付着抑制機能を有する観点から、前記ポリカーボネートジオール(A)が、イソソルビド、イソマンニド、及び、イソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールに由来する構造単位(II)を有することが好ましい。
【0041】
以下において、本発明の第1の実施形態のタンパク質付着抑制剤、本発明の第2の実施形態のタンパク質付着抑制剤を「本発明のタンパク質付着抑制剤」と総称する。
また、本発明の第1の実施形態及び本発明の第2の実施形態のタンパク質付着抑制剤に含まれるポリウレタンを「本発明におけるポリウレタン」と称す場合がある。
また、本発明のタンパク質付着抑制剤や該タンパク質付着抑制剤を含むタンパク質付着抑制用塗料組成物を、「本発明のタンパク質付着抑制剤又は塗料組成物」と称す場合がある。
【0042】
本発明におけるポリウレタンは、後述するポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位(A)と後述するイソシアネート化合物(B)に由来する構造単位(B)とを含むポリウレタンである。
特に、前記ポリカーボネートジオール(A)が、イソソルビド、イソマンニド及びイソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールに由来する構造単位(II)を有することにより、本発明のタンパク質付着抑制剤又は塗料組成物を用いて形成された塗膜においては、タンパク質低付着性が優れたものとなる。
【0043】
本発明のタンパク質付着抑制剤において、本発明におけるポリウレタンの含有割合の下限は、特に限定されるものではないが、得られた塗膜のタンパク質低吸着性が優れる観点から、該タンパク質付着抑制剤100質量%に対して、30質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましい。一方、前記ポリウレタンの含有割合の上限については、特に制限はなく、該タンパク質付着抑制剤100質量%に対して、100質量%であってもよい。
【0044】
本発明におけるポリウレタンは、製造原料として少なくとも後述するポリカーボネートジオール(A)と後述するイソシアネート化合物(B)とを用いて、後述する常法に従って製造することができる。
【0045】
<タンパク質低付着性のメカニズム>
本発明のタンパク質付着抑制剤又は塗料組成物を用いて形成された塗膜において、タンパク質低付着性が優れたものとなる理由は定かでないが、本発明におけるポリウレタン中の、ポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位(A)において、前記ポリカーボネートジオール(A)が有する、イソソルビド、イソマンニド及びイソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールに由来する構造単位(II)が親水性を示すため、塗膜表面に水分子の層を形成しタンパク質を付着しづらくさせる、または、タンパク質が付着しても水洗い等で表面から容易に剥離しやすくなるため、塗膜表面にタンパク質が付着し難くなることによると推察される。
【0046】
このようなメカニズムにより、本発明のタンパク質付着抑制剤又は塗料組成物を用いて形成した厚さ50μmのフィルムについて、後述するタンパク質低付着性試験を用いて測定した、タンパク質吸着密度が0.25μg/cm以下というような、優れたタンパク質低付着性を示すものとなる。
なお、前記タンパク質吸着密度の具体的な測定方法は、後述の実施例の項において詳細に説明する。
【0047】
<ポリウレタン>
本発明におけるポリウレタンは、本発明のタンパク質付着抑制剤又は塗料組成物の構成成分であり、後述するポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位(A)、及び、後述するイソシアネート化合物(B)に由来する構造単位(B)を含む。
【0048】
<構造単位(B)に対する構造単位(A)のモル比((A)/(B))>
本発明におけるポリウレタンにおいて、前記構造単位(B)に対する前記構造単位(A)のモル比((A)/(B))の下限は、最終的に得られる塗膜や該塗膜を含む物品の外観を良好に維持する観点から、1.0/5.0以上が好ましく、1.0/4.0以上がより好ましく、1.0/3.0以上がさらに好ましい。一方、前記モル比((A)/(B))の上限は、得られるポリウレタンの強度の観点から、1.0/0.5以下が好ましく、1.0/1.0以下がより好ましく、1.0/1.5以下がさらに好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明におけるポリウレタンにおいて、前記構造単位(B)に対する前記構造単位(A)のモル比((A)/(B))は、特に限定されるものではないが、1.0/5.0以上1.0/0.5以下が好ましく、1.0/4.0以上1.0/1.0以下がより好ましく、1.0/3.0以上1.0/1.5以下がさらに好ましい。
【0049】
なお、前記構造単位(B)に対する前記構造単位(A)のモル比((A)/(B))の値は、本発明におけるポリウレタンを合成する際のポリカーボネートジオール(A)及びイソシアネート化合物(B)の配合比から計算することができる。前記配合比が、最終的に得られた本発明におけるポリウレタンの前記構造単位(A)及び前記構造単位(B)の構成比と実質的に同一になるためである。
【0050】
本発明におけるポリウレタンの分子量は、用途に応じて適宜調整され、特に制限はないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として5万~50万であることが好ましく、10万~30万であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)が上記下限よりも小さいと十分な強度や硬度が得られない場合があり、上記上限よりも大きいと加工性などハンドリング性を損なう傾向がある。
【0051】
<ポリカーボネートジオール(A)>
本発明におけるポリカーボネートジオール(A)は、本発明におけるポリウレタンを構成する構造単位(A)を形成するための原料である。
【0052】
本発明におけるポリカーボネートジオール(A)は、具体的には、分子内に2個の末端水酸基を有するポリカーボネートであり、例えば、少なくとも、後述する下記式(1)で表される化合物、並びに、イソソルビド、イソマンニド及びイソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールと炭酸エステルを原料として、エステル交換触媒の存在下にエステル交換、重縮合を行うことにより製造することができる。
【0053】
前記炭酸エステルとしては、例えば、アルキルカーボネート、アリールカーボネート、アルキレンカーボネートが挙げられ、より具体的には、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、ジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0054】
本発明におけるポリカーボネートジオール(A)は、好ましくは、下記式(1)で表される化合物に由来する構造単位(I)、並びに、イソソルビド、イソマンニド及びイソイジドから選ばれる少なくとも一種のジオールに由来する構造単位(II)を有する。
HO-R-OH …(1)
(式(1)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数3~10のアルキレン基であって、Rのアルキレン基中の炭素原子は1~3級の炭素原子である。)
【0055】
式(1)におけるRのアルキレン基が置換基を有する場合、該置換基としては、エーテル基、チオエーテル基、アルキル基置換アミノ基が挙げられる。
【0056】
前記式(1)におけるRは、得られるポリウレタンの強度や、タンパク質低付着性の観点から、置換若しくは無置換の炭素数4~6のアルキレン基であることが好ましい。
【0057】
式(1)で表される化合物としては、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオールなどのジオールが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
これらの中でも、得られるポリウレタンの曲げ強度と耐熱性等の観点から、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
【0058】
構成単位(II)を与えるジオールとしては、得られたポリウレタンにおいてタンパク質成分が吸着し難く、工業的に安価に多量に入手可能な観点から、イソソルビド、イソマンニド及びイソイジドから選ばれる少なくとも1種が用いられ、中でも、得られたポリウレタンにおいてタンパク質成分が特に吸着し難い観点からイソソルビドが好ましい。
【0059】
本発明におけるポリカーボネートジオール(A)は、前記構造単位(II)に対する前記構造単位(I)のモル比((I)/(II))の下限が、得られるポリウレタンの強度と耐薬品性、及び、ポリオールのハンドリングや最終的に得られる塗膜や該塗膜を含む物品の外観を良好に維持する観点から、45/55以上であることが好ましく、50/50以上がより好ましく、55/45以上がさらに好ましい。一方、前記モル比((I)/(II))の上限は、得られるポリウレタンのタンパク質低付着性や強度に優れる観点から、75/25以下であることが好ましく、70/30以下がより好ましく、65/35以下がさらに好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明におけるポリカーボネートジオール(A)において、前記構造単位(II)に対する前記構造単位(I)のモル比((I)/(II))は、45/55以上75/25以下であることが好ましく、50/50以上70/30以下がより好ましく、55/45以上65/35以下がさらに好ましい。
なお、前記構造単位(II)に対する前記構造単位(I)のモル比((I)/(II))の具体的な測定方法は、後述の実施例の項において詳細に説明する。
【0060】
本発明におけるポリカーボネートジオール(A)の水酸基価の下限は、特に限定されるものではないが、ポリカーボネートジオール(A)の粘度が高くなりすぎず、取扱い性を良好に維持できる観点から、37mgKOH/g以上が好ましく、44mgKOH/g以上がより好ましく、56mgKOH/g以上がさらに好ましい。一方、前記水酸基価の上限は、特に限定されるものではないが、最終的に得られるポリウレタンの柔軟性や低温特性を良好に維持できる観点から、225mgKOH/g以下が好ましく、187mgKOH/g以下がより好ましく、161mgKOH/g以下がさらに好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明におけるポリカーボネートジオール(A)の水酸基価は、特に限定されるものではないが、37mgKOH/g以上225mgKOH/g以下が好ましく、44mgKOH/g以上187mgKOH/g以下がより好ましく、56mgKOH/g以上161mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0061】
本発明におけるポリカーボネートジオール(A)の水酸基価から求めた数平均分子量の下限は、特に限定されるものではないが、最終的に得られるポリウレタンの風合いの観点から、500以上が好ましく、600以上がより好ましく、700以上がさらに好ましい。一方、前記数平均分子量の上限は、特に限定されるものではないが、ポリカーボネートジオール(A)のハンドリングや、得られるポリウレタンの強度の観点から、3000以下が好ましく、2500以下がより好ましく、2000以下がさらに好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明におけるポリカーボネートジオール(A)の水酸基価から求めた数平均分子量は、特に限定されるものではないが、500以上3000以下が好ましく、600以上2500以下がより好ましく、700以上2000以下がさらに好ましい。
【0062】
なお、前記水酸基価及び数平均分子量の具体的な測定方法は、後述の実施例の項において詳細に説明する。
【0063】
本発明におけるポリウレタンの製造原料としてのポリカーボネートジオール(A)は、1種のみを用いてもよく、繰り返し単位やそのモル比、物性等の異なるものを2種以上用いてもよい。
【0064】
<イソシアネート化合物(B)>
本発明におけるポリウレタンの製造原料として使用されるイソシアネート化合物(B)は、イソシアネート基を2以上有するものであればよく、芳香族又は脂肪族、脂環族の各種公知のイソシアネート化合物が挙げられる。
【0065】
例えば、キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート)、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、フェニレンジイソシアネート及びm-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート化合物;テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート及びダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1-メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1-メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及び1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,5-ペンタメチレンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート化合物等が挙げられる。これらは適宜イソシアヌレート体となっていてもよい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
これらの中でも得られるポリウレタンの物性のバランスに優れ、工業的に安価に多量に入手可能な観点から、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート)が好ましく、中でも4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。或いは又、得られるポリウレタンの耐候性に優れる観点から、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートが挙げられる。なおこれらはイソシアヌレート体であってもよい。
【0067】
<ポリカーボネートジオール(A)以外のポリオール>
本発明におけるポリウレタンを製造する際のポリウレタン形成反応においては、本発明におけるポリカーボネートジオール(A)以外のポリオールを、物性に影響の無い範囲で併用してもよい。
ここで、本発明におけるポリカーボネートジオール(A)以外のポリオールとは、通常のポリウレタン製造の際に用いるものであれば特に限定されず、例えばポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリアルキレンエーテルグリコール、ポリカーボネートジオール(A)以外のポリカーボネートポリオールが挙げられる。本発明におけるポリウレタンの製造に当たり、ポリオール成分として、ポリカーボネートジオール(A)以外のポリオールを用いる場合、全ポリオール成分中のポリカーボネートジオール(A)の質量割合は、ポリカーボネートジオール(A)を用いることによる効果を有効に得る観点から、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上である。
【0068】
<鎖延長剤>
本発明におけるポリウレタンを製造する際のポリウレタン形成反応においては、鎖延長剤を用いてもよい。
鎖延長剤は、イソシアネート基と反応する活性水素を少なくとも2個有する低分子量化合物であり、ポリオール及びポリアミンからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物から選ばれる。
【0069】
その具体例としては、ポリオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖ジオール類;2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ヘプタンジオール、1,4-ジメチロールヘキサン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、ダイマージオール等の分岐鎖を有するジオール類;ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のエーテル基を有するジオール類;1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジヒドロキシエチルシクロヘキサン等の脂環構造を有するジオール類、キシリレングリコール、1,4-ジヒドロキシエチルベンゼン、4,4’-メチレンビス(ヒドロキシエチルベンゼン)等の芳香族基を有するジオール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類;等が挙げられる。
ポリアミンとしては、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン等のヒドロキシアミン類;エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、4,4’-ジフェニルメタンジアミン、メチレンビス(o-クロロアニリン)、キシリレンジアミン、ジフェニルジアミン、トリレンジアミン、ヒドラジン、ピペラジン、N,N’-ジアミノピペラジン等のポリアミン類;等が挙げられる。
【0070】
これらの鎖延長剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
これらの中でも得られるポリウレタンのソフトセグメントとハードセグメントの相分離性に優れることによる柔軟性と応力緩和性に優れ、工業的に安価に多量に入手可能な観点から、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の直鎖ジオールが好ましい。側鎖を有するジオールを用いるとポリウレタンのハードセグメントの凝集力が低下して機械物性等の諸物性が低下することもある。これらの直鎖ジオールの中では物性のバランスに優れる観点から1,4-ブタンジオールが最も好ましい。
【0072】
<鎖停止剤>
本発明におけるポリウレタンを製造する際のポリウレタン形成反応においては、得られるポリウレタンの分子量を制御する目的で、必要に応じて1個の活性水素基を持つ鎖停止剤を少量添加使用することもできる。
これらの鎖停止剤としては、一個の水酸基を有するメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族モノオール類が例示される。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
<触媒>
本発明におけるポリウレタンを製造する際のポリウレタン形成反応においては、ウレタン化反応のためにウレタン化反応触媒を使用してもよい。ウレタン化反応触媒としては、例えば、有機スズ系化合物、有機亜鉛系化合物、有機ビスマス系化合物、有機チタン系化合物、有機ジルコニウム系化合物、アミン系化合物等を挙げることができる。ウレタン化反応触媒は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ウレタン化反応触媒を使用する場合、該触媒の配合量は、特定に限定されるものではないが、通常は、製造されるポリウレタンの質量に対して、0.1~100質量ppmの範囲内でその使用量を調整することができる。
【0074】
前記ウレタン化反応触媒の中でも、有機スズ系化合物が好ましい。有機スズ系化合物としては、例えば、スズ含有アシレート化合物、スズ含有メルカプトカルボン酸塩等が挙げられ、具体的には、オクチル酸スズ、モノメチルスズメルカプト酢酸塩、モノブチルスズトリアセテート、モノブチルスズモノオクチレート、モノブチルスズモノアセテート、モノブチルスズマレイン酸塩等の、国際公開第2020/218507号に開示されている化合物が挙げられる。
【0075】
脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物をイソシアネート化合物(B)原料として使用する場合は、芳香族イソシアネート化合物より反応性が低いため、スズ系等の触媒を使用するのが好ましく、特に反応性の低い4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いる場合は触媒を使用することがさらに好ましい。
【0076】
特に反応性の低い4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いる場合は触媒を使用した場合でも、重合後の硬化発現が遅いので、20~120℃の温度で10時間以上熟成させるのが好ましく、100~120℃で10時間以上熟成させるのがさらに好ましい。熟成を十分に実施しないとポリウレタンの重合度が十分に上がらず、諸物性が悪化することがある。
【0077】
<本発明におけるポリウレタンの製造方法>
本発明におけるポリウレタンを製造する方法としては、一般的に実験ないし工業的に用いられる製造方法が使用でき、具体的には、後述する一段法又は後述する二段法が挙げられる。
【0078】
本発明におけるポリウレタンの製造に当たり、溶媒を用いてもよいし、用いなくてもよい。しかしながら、成形時に溶媒を除去する工程が必要となるため、溶媒を用いることは工業的に有利ではない。また溶媒は環境への負荷が大きいため、反応は無溶媒(溶媒の不存在下)で行うことがより好ましい。
【0079】
ポリウレタンの製造方法の一例として、例えば国際公開公報第2018/088575号に開示されるように、ポリカーボネートジオール(A)を含むポリオール成分と、イソシアネート化合物(B)とをワンショット法で連続的に反応(一段法)させることにより、本発明におけるポリウレタンを効率よく製造することができる。
また、製造方法の別の一例として、例えば国際公開公報第2018/088575号に開示されるように、ポリカーボネートジオール(A)を含むポリオール成分と、過剰のイソシアネート化合物(B)とをまず反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを製造し、さらに鎖延長剤と反応させて(二段法)重合度を上げて、本発明におけるポリウレタンを製造することもできる。
【0080】
<一段法>
本発明におけるポリウレタンの製造における一段法は、ワンショット法ともよばれ、工業的な製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば単軸又は多軸スクリュー型押出機、あるいはスタティックミキサーに、ポリウレタン原料として、ポリカーボネートジオール(A)及びイソシアネート化合物(B)、並びに必要に応じて他の成分を、同時又はほぼ同時に連続的に供給して40~300℃の範囲内、好ましくは80~220℃の範囲内で連続溶融重合させて、ポリウレタンを製造する方法が挙げられる。
また、ポリカーボネートジオール(A)及びイソシアネート化合物(B)、並びに、必要に応じて他の成分を混ぜておき、その混合物を剥離シートにキャストして加熱により硬化させる方法が挙げられる。
【0081】
本発明におけるポリウレタンを製造する際にポリカーボネートジオール(A)とイソシアネート化合物(B)を溶媒系で急速攪拌して十分に混合した後、前記の単軸又は多軸スクリュー型押出機、あるいはスタティックミキサーに連続的に供給してポリウレタンを連続的に製造する方法は、反応性の低い脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物の場合は有効である。
【0082】
前記一段法は、押出機に反応成分のすべてを同時又はほぼ同時に供給するだけで、極めて簡単に目的とするポリウレタンを連続して製造することができるので好ましい。
【0083】
<二段法>
本発明におけるポリウレタンの製造における二段法は、プレポリマー法ともよばれ、工業的な製造方法としては、特に限定されるものではないが、以下の方法が挙げられる。
(a) ポリウレタン原料として、予めポリカーボネートジオール(A)と、過剰のイソシアネート化合物(B)とを、イソシアネート化合物(B)/ポリカーボネートジオール(A)の反応当量比が1を超える量から10.0以下で反応させて、分子鎖末端がイソシアネート基であるプレポリマーを製造し、次いでこれに、後述する公知の鎖延長剤を加えることによりポリウレタンを製造する方法。
(b) ポリウレタン原料として、予めイソシアネート化合物(B)と、過剰のポリカーボネートジオール(A)とを、イソシアネート化合物(B)/ポリカーボネートジオール(A)の反応当量比が0.1以上から1.0未満で反応させて分子鎖末端が水酸基であるプレポリマーを製造し、次いでこれに鎖延長剤として、末端がイソシアネート基のイソシアネート化合物(B)を反応させてポリウレタンを製造する方法。
【0084】
二段法は無溶媒でも溶媒共存下でも実施することができる。
二段法によるポリウレタンのより具体的な製造方法としては、以下に記載の(1)~(3)のいずれかの方法を用いることができる。
方法(1):溶媒を使用せず、まず直接イソシアネート化合物(B)とポリカーボネートジオール(A)とを反応させてプレポリマーを合成し、そのまま鎖延長反応を行い、ポリウレタンを得る。
方法(2):(1)の方法で合成したプレポリマーを溶媒に溶解し、次いで鎖延長反応を行い、ポリウレタンを得る。
方法(3):溶媒存在下でイソシアネート化合物(B)とポリカーボネートジオール(A)とを反応させ、プレポリマーを合成し、その後、溶媒存在下で鎖延長反応を行い、ポリウレタンを得る。
【0085】
二段法による場合は、上述した方法(2)及び(3)は、鎖延長反応を行うにあたり、後述する公知の鎖延長剤を溶媒に溶かしたり、溶媒に同時にプレポリマー及び鎖延長剤を溶解したりするなどの方法により、ポリウレタンを溶媒と共存する形で得ることができるので、後述の本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物の製造に好適である。
【0086】
二段法による場合は、上述した方法(1)は、溶融成形性及び力学的特性に優れるポリウレタンを製造する観点から、実質的に溶媒の不存在下で溶融重合するものであり、多軸スクリュー型押出機を用いる連続溶融重合法がより好ましい。連続溶融重合法で得られたポリウレタンは、一般に、重合温度40~300℃の範囲内で、固相重合で得られたポリウレタンに比べて、強度の点において優れている。方法(1)で得られたポリウレタンを、溶媒に溶解して、後述の本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物として用いることができる。
【0087】
<反応モル比>
上述した一段法及び二段法のいずれにおいても、本発明におけるポリウレタンを製造する際のウレタン化反応には、イソシアネート化合物(B)に由来する構造単位(B)に対するポリカーボネートジオール(A)に由来する構造単位(A)のモル比((A)/(B))が前述の好適範囲となるようにした上で、ポリカーボネートジオール(A)とイソシアネート化合物(B)のモル比が、得られたポリウレタンのポリカーボネートジオール(A):イソシアネート化合物(B):鎖延長剤としてのジオール=1:2~6:1~5のモル比となるように反応させる。この際、原料のモル比は生成物のモル比に反映される。
【0088】
原料のモル比において、ポリカーボネートジオール(A)のモル量(Ma)と鎖延長剤としてジオールのモル量(Mb)の和(Ma+Mb)に対する前記イソシアネート化合物(B)のモル量(Mc)の比、(Mc)/(Ma+Mb)が0.95~1.10の範囲となるようにこれらを用いることが好ましい。
(Mc)/(Ma+Mb)モル比が上記下限以上であれば得られるポリウレタンの強度が十分なものとなり、上記上限以下であれば得られるポリウレタンの柔軟性が十分なものとなり、好ましい。
【0089】
従って、本発明の塗料組成物は、ポリカーボネートジオール(A)、イソシアネート化合物(B)、及び鎖延長剤を上記のようなモル比で含有することが好ましい。
【0090】
<分子量>
本発明におけるポリウレタンの分子量については、特に制限はないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として5万~50万であることが好ましく、10万~30万であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)が前記下限よりも小さいと十分な強度や硬度が得られない場合があり、前記上限よりも大きいと加工性などハンドリング性を損なう傾向がある。
【0091】
[タンパク質付着抑制用塗料組成物]
本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物(以下、「本発明の塗料組成物」と称す場合がある。)は、本発明のタンパク質付着抑制剤を含む塗料組成物である。
即ち、本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物は、本発明のタンパク質付着抑制剤を含むため、該塗料組成物から形成された塗膜は、優れたタンパク質低付着性、機械的特及び耐薬品性を有する。このため、本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物は、生体適合材料の製造原料に用いるための塗料組成物として好ましく用いられる。当該生体適合材料としては、例えば、人工歯根、人工臓器、人工骨などが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0092】
本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物の形態は、塗布可能であれば、特に限定されるものではなく、例えば、本発明のタンパク質付着抑制剤を後述する有機溶剤に溶解して得ることができる。
【0093】
後述の実施例に示されるように、本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物を用いて形成した塗膜は、前記タンパク質付着抑制剤を含み、タンパク質付着抑制効果を有する。
本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物に含まれる、前記タンパク質付着抑制剤は1種でもよく、2種以上でもよい。
【0094】
本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物において、本発明のタンパク質付着抑制剤の含有割合の下限は、特に限定されるものではないが、得られた塗膜のタンパク質低吸着性が優れる観点から、該タンパク質付着抑制用塗料組成物100質量%に対して、30質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましい。一方、前記タンパク質付着抑制剤の含有割合の上限については、特に制限はなく、該タンパク質付着抑制用塗料組成物100質量%に対して、100質量%であってもよい。
【0095】
本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物において、本発明におけるポリウレタンの含有割合の下限は、特に限定されるものではないが、得られた塗膜のタンパク質低吸着性が優れる観点から、該タンパク質付着抑制用塗料組成物100質量%に対して、30質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましい。一方、前記ポリウレタンの含有割合の上限については、特に制限はなく、該タンパク質付着抑制用塗料組成物100質量%に対して、100質量%であってもよい。
【0096】
<有機溶剤>
本発明の塗料組成物には、本発明の塗料組成物を望ましい粘度に調整するために、必要に応じて有機溶剤を配合することができる。
【0097】
有機溶剤の例として、例えば以下の化合物が挙げられる。
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチル等のエステル系化合物;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系化合物;トルエン、キシレン等の芳香族化合物;ペンタン、ヘキサン、石油ナフサ等の脂肪族化合物;イソプロピルアルコール、イソブタノール、n-ブタノール等のアルコール系化合物;1-メトキシプロパノール、1-メトキシプロパノールアセテート等のプロピレングリコール系化合物等。
これらの有機溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0098】
有機溶剤の使用量は特に制限はないが、通常、有機溶剤は、塗料組成物中の固形分濃度が5~100質量%程度となるように用いられる。ここで、塗料組成物中の固形分濃度とは、塗料組成物中の有機溶剤以外の成分の合計の濃度である。
【0099】
<添加剤>
本発明の塗料組成物には、レベリング剤、消泡剤、沈降防止剤、潤滑剤、研磨剤、防錆剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤などの添加剤を加えてもよい。
【0100】
[タンパク質付着抑制用塗膜]
本発明のタンパク質付着抑制用塗膜は、本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物を用いて形成された塗膜である。
即ち、本発明のタンパク質付着抑制用塗膜は、本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物を用いて形成されるので、優れたタンパク質低付着性、機械的特及び耐薬品性を有する。
【0101】
本発明のタンパク質付着抑制用塗膜において、本発明のタンパク質付着抑制剤の含有割合の下限は、特に限定されるものではないが、得られた塗膜のタンパク質低吸着性が優れる観点から、該タンパク質付着抑制用塗膜100質量%に対して、30質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましい。一方、前記タンパク質付着抑制剤の含有割合の上限については、特に制限はなく、該タンパク質付着抑制用塗膜100質量%に対して、100質量%であってもよい。
【0102】
本発明のタンパク質付着抑制用塗膜において、本発明におけるポリウレタンの含有割合の下限は、特に限定されるものではないが、得られた塗膜のタンパク質低吸着性が優れる観点から、該タンパク質付着抑制用塗膜100質量%に対して、30質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましい。一方、前記ポリウレタンの含有割合の上限については、特に制限はなく、該タンパク質付着抑制用塗膜100質量%に対して、100質量%であってもよい。
【0103】
本発明の塗料組成物により塗膜が形成される成形品としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、PET系樹脂、PBT系樹脂等のポリエステル系樹脂;ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、AES(アクリロニトリルエチレンプロピレンジエンスチレン)樹脂、ナイロン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂等の公知の熱可塑性樹脂又は公知の熱硬化性樹脂;PBT(ポリブチレンレテフタレート)/PET(ポリエチレンテレフタレート)等の公知のアロイ樹脂;鉄、アルミニウム、真鍮、銅、ブリキ、ステンレス鋼、亜鉛メッキ鋼、亜鉛合金(Zn-Al、Zn-Ni、Zn-Fe等)メッキ鋼等の金属材料:ガラス等などを基材として含む各種成形品が挙げられる。その他の基材として、モルタル、コンクリート、木材、窯業系材料等を基材として含む成形品であってもよい。
【0104】
これらの成形品に本発明の塗料組成物を用いて塗膜を形成するには、本発明の塗料組成物を成形品(基材)の表面に塗付し、加熱により乾燥ないしは硬化(加熱硬化)させる方法を用いることができる。
【0105】
塗膜の膜厚は、硬化後の塗膜の厚さで3~500μmの範囲であることが好ましい。
塗料組成物の塗布方法としては、ハケ塗り、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、フローコート等の方法が用いられる。
【0106】
加熱は、公知の加熱手段により行うことができる。加熱手段としては、例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉等の乾燥炉を使用できる。
加熱を行う場合の加熱温度は、特に制限されるものではないが、50~180℃程度が好ましい。加熱時間は、特に制限されるものではないが、1~60分間程度が好ましい。
【0107】
或いは又、本発明の塗料組成物を成形品(基材)の表面に塗布後、真空条件下及び/又は大気圧下で、30~100℃で1分~20時間時間程度、加熱乾燥することで塗膜を形成することもできる。
【0108】
本発明の塗料組成物の塗装後、加熱を行う前に、塗膜欠陥の発生を防止するために、予備加熱、エアブロー等を行ってもよい。
予備加熱の温度は、30~100℃程度が好ましい。予備加熱の時間は、30秒~15分間程度が好ましい。
エアブローは、通常、塗装面に30~100℃程度の温度に加熱された空気を30秒~15分間程度吹き付けることにより行うことができる。
【0109】
塗膜を乾燥させた後、塗膜の硬度を高めるために、養生(保管)を行うことができる。養生条件は、例えば0~60℃で1~10日間程度とすることができる。
【0110】
[物品]
本発明の物品は、タンパク質と接触する使途又は用途に用いられる物品であって、タンパク質と接触する面に、本発明のタンパク質付着抑制用塗膜を有する物品である。
【0111】
本発明の物品の形状としては、例えば、シート状物及び3次元の成形物が挙げられる。
本発明の物品として、具体的には、ソファー等の外装材や保護カバー等の家具用部材;壁紙や化粧板等の建築内装用部材;自動車等のシートカバーやハンドルカバー等の車両用内装部材;革靴やジャンバー、ベルト等の衣料用部材;カバンやバック、腕時計のベルト、財布等の装飾用部材、並びに、医療用器具、生化学用器具、及び細胞治療用器具からなる群より選ばれるいずれかが、挙げられる。
【0112】
医療用器具としては、例えば、コンタクトレンズ、カニューレ、カテーテル、注射筒、点滴ルート、点滴バック、輸液バッグ、血液バッグ、ステント、内視鏡等が挙げられる。
【0113】
生化学用器具としては、例えば、ピペットチップ、バイオ医薬品用シャーレ、バイオ医薬品用セル、バイオ医薬品用マイクロプレート、バイオ医薬品用プレート、バイオ医薬品用チューブ、バイオ医薬品用バッグ、バイオ医薬品用容器、バイオ医薬品用シリンジ、バイオ医薬品用フラスコ、抗体医薬品用シャーレ、抗体医薬品用セル、抗体医薬品用マイクロプレート、抗体医薬品用プレート、抗体医薬品用チューブ、抗体医薬品用バッグ、抗体医薬品用容器、抗体医薬品用シリンジ、及び抗体医薬品用フラスコ、血液バッグ(全血、血漿、血小板、赤血球)、血液製剤用バイアル、血液製剤用バック等が挙げられる。
【0114】
細胞治療用器具としては、例えば、細胞培養用シャーレ、細胞培養用セル、細胞培養用マイクロプレート、細胞培養用バッグ、細胞培養用プレート、細胞培養用チューブ、細胞培養用フラスコ等や、ミキサー、バイオリアクター、ジャーファーメンター等の細胞治療用機器等が挙げられる。
【0115】
[タンパク質付着抑制方法]
本発明のタンパク質付着抑制方法は、タンパク質と接触する物品のタンパク質と接触する面に、上述した本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物を用いて、上述した本発明のタンパク質付着抑制用塗膜を形成することにより、該物品へのタンパク質付着を抑制する方法である。
本発明のタンパク質付着抑制方法に用いられるタンパク質付着抑制用塗料組成物については、本発明のタンパク質付着抑制用塗料組成物において、上記した通りである。
本発明のタンパク質付着抑制方法において、前記物品のタンパク質と接触する面に、タンパク質付着抑制用塗膜を形成する方法については、本発明のタンパク質付着抑制用塗膜において、上記した通りである。
本発明のタンパク質付着抑制方法において、タンパク質付着抑制用塗膜を形成する物品について、上記した通りである。
【実施例0116】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0117】
[評価方法]
以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0118】
<溶液粘度>
実施例及び比較例で得られたポリウレタン溶液を、25℃にて、E型粘度計(装置名:TV-100EH、コーン:3°×R14、東機産業社製)を用いて測定した。この溶液粘度は、特に限定されるものではないが、製造時にポリウレタン溶液の取扱い性や加工性を良好に維持でき、また得られたポリウレタンが十分な機械物性を発現する傾向がある観点から、10000~500000mPa・sの範囲であることが好ましい。
【0119】
<ポリカーボネートジオールの数平均分子量(Mn)>
実施例及び比較例で使用したポリカーボネートジオールをCDCl(テトラメチルシラン内部標準)に溶解して、核磁気共鳴スペクトル測定装置(装置名:ECZ-400、日本電子株式会社製、共鳴周波数:400MHz)を用い、測定温度30℃、積算回数64回の条件で、H-NMR測定を行った。
【0120】
得られたH-NMR測定結果から、下記のシグナル位置に観察されたピークの積分値a~fを取得した。
δ5.207~4.973ppmに存在するピークの積分値=a
δ4.697~4.599ppmに存在するピークの積分値=b
δ4.599~4.464ppmに存在するピークの積分値=c
δ3.686~3.501ppmに存在するピークの積分値=d
δ2.764~2.717ppmに存在するピークの積分値=e
δ1.493~1.295ppmに存在するピークの積分値=f
【0121】
構造単位(II)を形成するジオールとして、イソソルビド(以下、「ISB」と略する。)に由来するポリカーボネートジオール末端の構造単位は2種存在し、それぞれの構造単位に由来するピークの積分値を「ISBm1」及び「ISBm2」とした。また、ポリカーボネートジオール末端以外のポリカーボネートジオール中のISB由来の構造単位に由来するピークの積分値を「ISB」とした。
同様に、構造単位(I)を形成する前記式(1)で表される化合物として、1,6-ヘキサンジオール(以下、「16HD」と略する。)に由来するポリカーボネートジオール末端の構造単位に由来するピークの積分値を「16HD」とし、ポリカーボネートジオール末端以外のポリカーボネートジオール中の16HD由来の構造単位に由来するピークの積分値を「16HD」とした。
【0122】
下記式を用いて、水酸基に由来するポリカーボネートジオール末端の構造単位ならびに、カーボネート基に由来するポリカーボネートジオールの繰り返しの構造単位のモル比率をそれぞれ求めた。
ISB由来の構造単位及び16HD由来の構造単位のプロトン数に基づいて、下記式を用いて、上述した各構造単位に由来するピークの積分値を算出した。
ISBm1=b-e
ISB=c-ISBm1
ISBm2=a-ISBm1-ISB×2
16HD=(d-e-ISBm1)÷2
16HD=(f-16HD×4)÷4
【0123】
次いで、下記式を用いて、末端の構造単位に対する繰り返し構造単位の割合(ジオールユニット数)から、ポリカーボネートジオールの数平均分子量(Mn)を算出した。
【0124】
【数1】
【0125】
なお、前記式(I)において、モル比率(I)は、得られたH-NMR測定結果から算出したポリカーボネートジオール中の構造単位(I)の含有割合(モル%)、M(16HD)はポリカーボネートジオール末端以外のポリカーボネートジオール中の16HD由来の構造単位の分子量(=100)、M(ISB)はポリカーボネートジオール末端以外のポリカーボネートジオール中のISB由来の構造単位の分子量(=128)、M(カルボニル基)はカルボニル基の分子量(=28)、M(水酸基)は水酸基の分子量(=17)のことをいう。
【0126】
<構造単位(II)に対する構造単位(I)のモル比:(I)/(II)>
上述した「ポリカーボネートジオールの数平均分子量(Mn)」の測定方法で得られたH-NMR測定結果から、下記式(II)を用いて、構造単位(II)に対する構造単位(I)のモル比((I)/(II))を求めた。
【0127】
【数2】
【0128】
<構造単位(B)に対する構造単位(A)のモル比:(A)/(B)>
構造単位(B)に対する構造単位(A)のモル比((A)/(B))は、ポリウレタンの製造に供したポリカーボネートジオール(A)及びイソシアネート化合物(B)の組成比(モル比)から計算した。
【0129】
<ポリウレタンの重量平均分子量(Mw)>
実施例及び比較例で得られたポリウレタンを、臭化リチウムを含むジメチルアセトアミドに濃度が0.14質量%になるように溶解して、これをGPC測定用試料とした。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置(装置名:HPLC-8220GPC、東ソー(株)製)を用いて、下記GPC測定条件により、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定した。
(GPC測定条件)
カラム :TSKgel GMHxL-L
(7.8mmID×300mmL×2本(直列接続))
試料チャージ量:100μL
溶離液 :THF(テトラヒドロフラン)
流速 :0.8mL/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折計)
【0130】
<機械的特性試験>
塗膜の機械的特性の指標として、下記の方法を用いて、ポリウレタンの試験片の引張破断強度を測定した。
実施例及び比較例で得られたポリウレタンの溶液を、クリアランスが500μmのアプリケーターを用いて、厚さ0.1mmのフッ素樹脂シート(商品名:フッ素テープ「ニトフロン900」、日東電工株式会社製)上に塗布し、温度80℃で5時間乾燥して溶剤(DMF)を乾燥除去させた後、更に23℃、55%RHの恒温恒湿下で12時間以上静置して、フッ素樹脂シートの表面にポリウレタン塗膜が形成された積層フィルムを得た。乾燥後のポリウレタン塗膜の厚みは50μmであった。
得られた積層フィルムからポリウレタン塗膜を剥離した後、短冊状のポリウレタンフィルム(長さ100mm、幅10mm、厚さ50μm)を切り出し、これを引張試験用の試料片とした。
【0131】
この試験片について、JIS K6301(2010)に準じ、万能卓上試験機(株式会社島津製作所製、製品名「万能卓上試験機 AGX-1kNX」)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度500mm/分にて、温度23℃(相対湿度55%)の条件下で引張試験を実施した。試験片が破断した時点の応力(引張破断強度)を測定し、以下の基準に従い判定した。
(判定基準)
◎:45MPa以上
〇:35MPa以上、45MPa未満
×:35MPa未満
【0132】
<耐薬品性試験>
塗膜の耐薬品性の指標として、下記の方法を用いて、ポリウレタンの試験片をオレイン酸又はエタノールに浸漬したときの質量変化率を測定した。
実施例及び比較例で得られたポリウレタンの溶液を、クリアランスが500μmのアプリケーターを用いて、厚さ0.1mmのフッ素樹脂シート(商品名:フッ素テープ「ニトフロン900」、日東電工株式会社製)上に塗布し、温度80℃で5時間乾燥して溶剤(DMF)を乾燥除去することにより、フッ素樹脂シートの表面にポリウレタン塗膜が形成された積層フィルムを得た。乾燥後のポリウレタン塗膜の厚みは50μmであった。
得られた積層フィルムからポリウレタン塗膜を剥離した後、正方形状のポリウレタンフィルム(縦3cm、横3cm、厚さ50μm)を切り出し、これを耐薬品性試験用の試験片とした。
【0133】
(耐オレイン酸性試験)
精密天秤を用いて耐薬品性試験用試験片の質量を測定した後、試験溶媒としてオレイン酸50mLを入れた容量250mLのガラス瓶に該試験片を浸漬して、窒素雰囲気下の恒温槽にて温度80℃で16時間静置した。試験後、試験片を取り出して表裏を紙製ワイパーで軽く拭いた後、精密天秤で質量測定を行い、試験前後の試験片の質量変化から質量変化率(増加率)を算出し、以下の基準に従って判定した。
(判定基準)
◎:質量変化率が10%未満
〇:質量変化率が10%以上20%未満
×:質量変化率が20%以上
【0134】
(耐エタノール性試験)
精密天秤を用いて耐薬品性試験用試験片の重量を測定した後、試験溶媒としてエタノール50mLを入れた内径10cmφのガラス製シャーレに投入して約23℃の室温にて1時間浸漬した。試験後、試験片を取り出して表裏を紙製ワイパーで軽く拭いた後、精密天秤で質量測定を行い、試験前後の試験片の質量変化から質量変化率(増加率)を算出し、以下の基準に従って判定した。
(判定基準)
◎:質量変化率が10%未満
〇:質量変化率が10%以上20%未満
×:質量変化率が20%以上
【0135】
<タンパク質吸着試験>
塗膜のタンパク質付着性の指標として、μBCA法に準じて、下記の手順で、ポリウレタンの試験片をアルブミン(ウシ由来,BSA)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に浸漬したときのタンパク質吸着密度を測定した。
【0136】
(試料片の作成)
下記の方法に従い、タンパク質吸着試験用の試料片を作成した。
実施例及び比較例で得られたポリウレタンの溶液を、クリアランスが500μmのアプリケーターを用いて、厚さ0.1mmのフッ素樹脂シート(商品名:フッ素テープ「ニトフロン900」、日東電工株式会社製)上に塗布し、温度80℃で5時間乾燥して溶剤(DMF)を乾燥除去することにより、フッ素樹脂シートの表面にポリウレタン塗膜が形成された積層フィルムを得た。乾燥後のポリウレタン塗膜の厚みは50μmであった。
得られた積層フィルムからウレタン塗膜を剥離した後、長方形状のフィルム(縦4cm、横1cm、厚さ50μm)を切り出し、これをタンパク質吸着試験用の試料片とした。
【0137】
(アルブミン試験液の調製)
タンパク質としてアルブミン(ウシ由来,BSA)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にアルブミン濃度が1mg/mLとなるように溶解した、アルブミン試験液を調製した。
【0138】
(タンパク質吸着密度の測定)
タンパク質吸着試験用の試料片を、アルブミン試験液に、37℃2時間浸漬させた。
2時間浸漬させた後の試料片を、PBSで洗浄した後、ドデシル硫酸ナトリウム水溶液6mLに浸し、5分間超音波洗浄を行なった。
次いで、超音波洗浄後の溶液を、96ウェルプレートに150μL入れ、市販のBCA(Bicinchronic Acid)試薬キット(Thermo Fisher Scientific社製)のタンパク質定量試薬150μLを、超音波洗浄後の溶液を入れた部分に入れ、37℃で2時間保持した。
2時間保持した後、プレートリーダーを用いて、前記溶液の波長562nmにおける吸光度を測定した。次いで、濃度既知のアルブミン溶液を用いて予め作成した検量線と、波長562nmにおける吸光度の測定値から、試料片へのアルブミンの吸着量(単位:μg)を算出し、試料片(面積8.05cm)の単位面積当たりのアルブミン吸着量(単位:μg/cm)を求め、これをタンパク質吸着密度(単位:μg/cm)とし、以下の基準に従い判定した。
(判定基準)
◎:0.15μg/cm未満
〇:0.15μg/cm以上、0.25μg/cm以下
×:0.25μg/cm
【0139】
[原材料]
実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
PCD1:1,4-ブタンジオール単位とイソソルビド単位を含む共重合ポリカーボネートジオール(数平均分子量763)、水酸基価147.1mgKOH/g、1,6-ヘキサンジオール単位/イソソルビド単位=71/29[モル比])(三菱ケミカル株式会社製)
PCD2:1,4-ブタンジオール単位とイソソルビド単位を含む共重合ポリカーボネートジオール(数平均分子量797)、水酸基価140.8mgKOH/g、1,6-ヘキサンジオール単位/イソソルビド単位=63/37[モル比])(三菱ケミカル株式会社製)
PCD3:1,6-ヘキサンジオール単位とイソソルビド単位を含む共重合ポリカーボネートジオール(数平均分子量816)、水酸基価137.5mgKOH/g、1,6-ヘキサンジオール単位/イソソルビド単位=59/41[モル比])(三菱ケミカル株式会社製)
PCD4:1,6-ヘキサンジオール単位のみを有するポリカーボネートジオール(数平均分子量2025、水酸基価55.4mgKOH/g、1,6-ヘキサンジオール単位/イソソルビド単位=100/0[モル比])(商品名:デュラノールT6002、旭化成株式会社製)
1,4BG:1,4-ブタンジオール(三菱ケミカル株式会社製)
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド(超脱水グレード)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
U-830:ジオクチルスズモノデカネート(商品名:ネオスタンU-830、日東化成株式会社製)
【0140】
[実施例1]
60℃のオイルバス上に、熱電対、冷却管及び撹拌装置を具備したセパラブルフラスコ(反応容器)を設置し、予め80℃に加温したPCD1を54.9g、1,4BGを6.7g、反応溶媒としてDMFを226.9g入れ、次いで、反応容器内部を窒素置換した後、MDIを36.6g添加し、反応容器内を窒素雰囲気下、60rpmで撹拌しながら1時間程度で反応容器内の液温が70℃になるように昇温した。70℃に到達した後、ウレタン化反応触媒としてU-830を0.02g添加し、液温70℃を維持しながらさらに2時間撹拌した。その後、MDIを少量ずつ添加して反応容器内のポリウレタンの重量平均分子量が150000前後となるように調整した。この時、添加したMDIの量は4.1gであった。MDIの添加後、さらに70℃で1時間撹拌し、重量平均分子量168800のポリウレタンを得た。これをポリウレタン溶液「U-1」とした。このポリウレタン溶液の性状及び物性の評価結果を表1に示す。
【0141】
[実施例2~3、比較例1]
実施例1におけるポリカーボネートジオール(A)の種類と配合量、及び、他の原料の配合量を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様の条件を用いて、表1に示す重量平均分子量のポリウレタンを得、それぞれのポリウレタン溶液を「U-2」、「U-3」及び「U-4」とした。得られたポリウレタン溶液の性状及び物性の評価結果を表1に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
表1より次のことが分かる。
実施例1のポリウレタンから形成された塗膜は、機械的特性と耐薬品性に優れ、さらにタンパク質吸着密度が低かった。即ち、本発明におけるポリウレタンを含むタンパク質付着抑制剤は、得られた塗膜や物品などに、優れたタンパク質低付着性、機械的特性及び耐薬品性を付与できる。
一方、比較例1のポリウレタンは、ポリカーボネートジオール(A)が構造単位(II)を含まないため、タンパク質吸着密度が高く、タンパク質低付着性劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明のタンパク質付着抑制剤、該タンパク質付着抑制剤を含むタンパク質付着抑制用塗料組成物は、機械的特性と耐薬品性に優れ、さらに、タンパク質が付着し難いという特徴を有していることから、生体適合材料の製造原料に用いることができる。
前記生体適合材料としては、人工歯根、人工臓器、及び人工骨からなる群より選ばれるいずれかが挙げられる。
【0145】
また、本発明のタンパク質付着抑制剤、該タンパク質付着抑制剤を含むタンパク質付着抑制用塗料組成物、該タンパク質付着抑制用塗料組成物を用いて製造されたタンパク質付着抑制用塗膜、及び、タンパク質付着抑制用塗膜を有する物品は、ソファー等の外装材や保護カバー等の家具用部材;壁紙や化粧板等の建築内装用部材;自動車等のシートカバーやハンドルカバー等の車両用内装部材;革靴やジャンバー、ベルト等の衣料用部材;カバンやバック、腕時計のベルト、財布等の装飾用部材、並びに、医療用器具、生化学用器具、及び細胞治療用器具からなる群より選ばれるいずれかに使用できる。