(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088006
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】組織状植物たん白
(51)【国際特許分類】
A23J 3/22 20060101AFI20240625BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20240625BHJP
A23L 11/00 20210101ALI20240625BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20240625BHJP
A23G 1/44 20060101ALN20240625BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20240625BHJP
【FI】
A23J3/22
A23J3/14
A23L11/00 F
A23L11/00 A
A23J3/16 501
A23G1/44
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202941
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 花奈
(72)【発明者】
【氏名】山本 一葉
【テーマコード(参考)】
4B014
4B020
4B036
【Fターム(参考)】
4B014GB04
4B014GG06
4B014GY04
4B020LB24
4B020LC02
4B020LC04
4B020LG01
4B020LG09
4B020LP08
4B020LP15
4B020LP16
4B036LC01
4B036LF03
4B036LH25
4B036LH26
4B036LP05
4B036LP11
4B036LT03
(57)【要約】
【課題】噛み応えのある食感と、良好な風味を有する組織状植物たん白を提供すること。
【解決手段】以下の(A)、及び(B)の特徴を有する、組織状植物たん白を提供する。
(A)原料粉における、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合が、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19である。
(B)目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合が90質量%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)、及び(B)の特徴を有する、組織状植物たん白。
(A)原料粉における、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合が、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19である。
(B)目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合が90質量%以上である。
【請求項2】
さらに下記の(C)の特徴を有する、請求項1に記載の組織状植物たん白。
(C)テクスチャーアナライザーで測定した硬さが110~200Nである。
【請求項3】
さらに下記の(D)の特徴を有する、請求項1に記載の組織状植物たん白。
(D)ヘキサナールとヘキサノールのピーク面積の合算値と、ノナナールのピーク面積との比率が、9:1~21:1である。
【請求項4】
前記エンドウ豆たん白粉末の粒度が、中位径30~150μmである、請求項1に記載の組織状植物たん白。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の組織状植物たん白が用いられた、加工食品。
【請求項6】
エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末とを、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19の質量割合で混合する混合工程と、
混合物を膨化させる膨化工程と、
膨化物を粉砕して、目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合を90質量%以上とする粉砕工程と、
を含む、組織状植物たん白の製造方法。
【請求項7】
エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合が、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19である膨化物を粉砕して、目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合を90質量%以上とする粉砕工程を含む、組織状植物たん白の食感及び/又は風味改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織状植物たん白に関する。より詳細には、組織状植物たん白が用いられた加工食品、組織状植物たん白の製造方法、組織状植物たん白の食感及び/又は風味改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品分野において、健康志向や畜産資源の持続可能性が注目され、植物由来の原材料で作る肉代替製品の需要が拡大している。例えば、肉代替製品の一つである粒状植物たん白は、原料となる粉末状の大豆たん白等の植物たん白と水やその他の原料を混合、膨化して多孔質の組織とし、これを所望の大きさに成形・乾燥して製造され、そのまま、又は、水分等を吸収させて各種加工食品に用いられる。
【0003】
このような背景のもと、粒状植物たん白等の組織化された植物たん白(組織状植物たん白)の品質を向上させるための技術が提案されている。例えば、特許文献1では、タンニンと、炭水化物と、タンパク質主成分としてエンドウタンパク質と、を含み、前記タンニンの含有量と、エンドウタンパク質の含有量の比を、0.01~0.03とすることで、風味に優れ、かつ結着力に優れた、エンドウタンパク質を含むタンパク質含有造粒物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、タンパク質源と炭水化物源とを押出機中で混合し、タンパク質源と炭水化物源との混合物を低水分押出に供して、タンパク質-炭水化物複合物を生成する工程を含む、タンパク質-炭水化物複合食品材料を調製するためのプロセスが開示されており、このプロセスを用いて製造されたタンパク質-炭水化物複合食品材料を用いれば、動物由来製品に近い肉模倣食品製品が得ることができる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-065134号公報
【特許文献2】特表2021-534819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、組織状植物たん白の品質を向上させる技術について、様々な開発が進められているが、様々な食品への適用を可能とするために、これまでの組織状植物たん白にはない食感や、風味の更なる向上が期待されている。
【0007】
そこで、本技術では、良好な風味を有し、乾燥状態で喫食される場合においてはサクミのある食感を有し、かつ、湿潤状態で喫食される場合においては噛み応えのある食感を有する組織状植物たん白を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術では、まず、以下の(A)、及び(B)の特徴を有する、組織状植物たん白を提供する。
(A)原料粉における、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合が、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19である。
(B)目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合が90質量%以上である。
本技術に係る組織状植物たん白は、さらに下記の(C)や(D)の特徴を有していてもよい。
(C)テクスチャーアナライザーで測定した硬さが110~200Nである。
(D)ヘキサナールとヘキサノールのピーク面積の合算値と、ノナナールのピーク面積との比率が、9:1~21:1である。
本技術に係る組織状植物たん白に用いるエンドウ豆たん白粉末は、その粒度を、中位径30~150μmとすることができる。
【0009】
本技術では、次に、本技術に係る組織状植物たん白が用いられた、加工食品を提供する。
【0010】
本技術では、更に、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末とを、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19の質量割合で混合する混合工程と、
混合物を膨化させる膨化工程と、
膨化物を粉砕して、目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合を90質量%以上とする粉砕工程と、
を含む、組織状植物たん白の製造方法を提供する。
【0011】
本技術では、加えて、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合が、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19である膨化物を粉砕して、目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合を90質量%以上とする粉砕工程を含む、組織状植物たん白の食感及び/又は風味改質方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本技術の組織状植物たん白の内部構造を示す顕微鏡写真である。
【
図2】従来技術の組織状植物たん白の内部構造を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
1.組織状植物たん白
本技術に係る組織状植物たん白とは、豆類や穀類から得られる植物性のたん白素材を組織化したものである。組織状植物たん白は、粒状、フレーク状、繊維状等の形状であってよく、粒状であることが好ましい。本技術に係る組織状植物たん白は、以下の(A)、及び(B)の特徴を有する。
(A)原料粉における、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合が、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19である。
(B)目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合が90質量%以上である。
【0015】
また、本技術に係る組織状植物たん白は、さらに下記の(C)や(D)の特徴を有していてもよい。
(C)テクスチャーアナライザーで測定した硬さが110~200Nである。
(D)ヘキサナールとヘキサノールのピーク面積の合算値と、ノナナールのピーク面積との比率が、9:1~21:1である。
以下、本技術に係る組織状植物たん白の詳細を説明する。
【0016】
(1)原料粉
本技術に係る組織状植物たん白は、少なくとも、エンドウ豆たん白粉末、及び大豆粉末を原料粉に含む。原料粉とは、エンドウ豆たん白粉末、及び大豆粉末に加え、必要に応じて、後述するその他の材料のうち、粉体であるものを混合した状態である。この原料粉に水を添加したものを、エクストルーダー等の押出機等で加圧加熱を行い、常圧下に押し出す方法によって、原材料の組成物を膨化させ、組織化した食品である。
【0017】
原料粉における、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合は、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19であり、好ましくは1:1.2~15、より好ましくは1:1.8~12、更に好ましくは1:2~10である。エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合を、この範囲とすることで、サクミや噛み応えのある食感と風味を向上させることができる。
【0018】
本技術に係る組織状植物たん白において、原料粉中のエンドウ豆たん白粉末の割合は、大豆粉末との質量割合が前記の範囲であって、本技術の目的や作用効果を損なわない限り、特に限定されない。例えば、原料粉中のエンドウ豆たん白粉末の割合は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上が更に好ましい。また、原料粉中のエンドウ豆たん白粉末の割合は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、35質量%以下が更に好ましい。原料粉中のエンドウ豆たん白粉末の割合を、この範囲とすることで、サクミと噛み応えのある食感と風味を向上させることができる。
【0019】
本技術に用いることができるエンドウ豆たん白粉末は、エンドウ豆を脱皮、粉砕した粉砕物を水に懸濁し、必要に応じてpHを調整して蛋白質を抽出し、遠心分離して不溶成分を除去し、必要に応じて殺菌、濃縮等を行った後、乾燥することで得られる。エンドウ豆蛋白の蛋白質含量は70質量%以上であり、80質量%、90質量%以上でもよい。
【0020】
本技術に用いることができるエンドウ豆たん白粉末の粒度は、本技術の目的や作用効果を損なわない限り、特に限定されない。例えば、エンドウ豆たん白粉末の粒度は、中位径20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることが更に好ましい。また、エンドウ豆たん白粉末の粒度は、中位径150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることが更に好ましい。エンドウ豆たん白粉末の粒度をこの範囲とすることで、噛み応えのある食感とすることができる。
【0021】
ここで、エンドウ豆たん白粉末の中位径は(累積50%粒径)は、レーザー回折式粒度測定装置を用いて測定した。具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置(HELOS&RODOS、日本レーザー製)を用い、フラウンホーファー回折によって体積基準分布(頻度分布)から累積50%粒径を求めた。
【0022】
本技術に係る組織状植物たん白において、原料粉中の大豆粉末の割合は、エンドウ豆たん白粉末との質量割合が前記の範囲であって、本技術の目的や作用効果を損なわない限り、特に限定されない。例えば、原料粉中の大豆粉末の割合は、45質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、65質量%以上が更に好ましい。また、原料粉中の大豆粉末の割合は、97質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、93質量%以下が更に好ましい。原料粉中の大豆粉末の割合を、この範囲とすることで、サクミと噛み応えのある食感と風味を向上させることができる。
【0023】
本技術に用いることができる大豆粉末は、大豆由来の粉末であればよく、例えば、乾燥した大豆をそのまま粉砕したもの(大豆全粒粉)、脱皮処理又は脱皮脱胚芽処理、任意に、加熱脱臭した後、粉砕したもの(全脂大豆粉(含脂大豆粉ともいう))、大豆を焙煎した後粉砕したもの(きな粉)、任意に脱皮処理、脱胚芽処理、加熱処理をした後、脱脂し、粉砕したもの(脱脂大豆粉、低脂肪大豆粉)、上記のように粉砕したものを焙煎したもの、大豆からたん白質を抽出したもの(分離大豆たん白、濃縮大豆たん白)等が挙げられ、上記の大豆由来の粉末を複数種混合したものでもよい。好ましくは、脱脂大豆粉、分離大豆たん白、濃縮大豆たん白であり、より好ましくは脱脂大豆粉である。大豆粉末は、粉砕前又は粉砕後の加熱処理等により酵素失活処理等されていてもよい。
【0024】
(2)サイズ
本技術に係る組織状植物たん白は、目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合が90質量%以上であることを特徴とする。本技術に係る組織状植物たん白のサイズをこの範囲とすることで、噛み応えのある食感を向上させることができる。
【0025】
本技術に係る組織状植物たん白のサイズは、目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合が90質量%以上であれば、本技術の作用効果を実現することができるが、目開き6.7mmの篩を通過するものの質量割合が60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。また、目開き2.8mmの篩を通過しないものの割合が、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。組織状植物たん白のサイズは、下記の方法で測定することができる。すなわち、組織状植物たん白100gを、目開き9.5mm、6.7mm、2.8mm、0.85mmの篩で1分間ふるい、各篩上に残った組織状植物たん白の合計質量を100として、各篩上に残った組織状植物たん白の質量割合を算出する。
【0026】
(3)硬さ
本技術に係る組織状植物たん白の硬さは、本技術の目的や作用効果を損なわない限り、特に限定されない。例えば、組織状植物たん白に2倍重量の水を吸水させたものをテクスチャーアナライザーで測定した硬さが、110N以上であることが好ましく、115N以上であることがより好ましく、120N以上であることが更に好ましい。組織状植物たん白の硬さをこの範囲とすることにより、サクミや噛み応えのある食感を向上させることができる。特に、水戻ししてレトルト調理に用いた場合においても、調理後にべちゃつきのない、良好な食感とすることができる。
【0027】
また、組織状植物たん白に2倍重量の水を吸水させたものをテクスチャーアナライザーで測定した硬さが、200N以下であることが好ましく、180N以下であることがより好ましく、160N以下であることが更に好ましい。組織状植物たん白の硬さをこの範囲とすることにより、硬すぎて噛みにくくなるのを防止することができる。
【0028】
(4)揮発性成分
本技術に係る組織状植物たん白には、本技術の目的や作用効果を損なわない限り、ヘキサナール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、ノナナール等の揮発性成分を含有していてもよい。本技術に係る組織状植物たん白に含まれる揮発性成分のうち、ヘキサナールとヘキサノールのピーク面積の合算値と、ノナナールのピーク面積との比率が、特定の割合になっていることが好ましい。具体的には、ヘキサナールとヘキサノールの合算値:ノナナールが、9:1~21:1であることが好ましく、10:1~19:1であることがより好ましく、12:1~18:1であることが更に好ましい。本技術に係る組織状植物たん白におけるヘキサナールとヘキサノールとの合算値と、ノナナールのピーク面積の比率をこの範囲とすることで、エンドウ豆や大豆由来の青臭さの発生をバランスよく抑制することができ、風味をより向上させることができる。
【0029】
(5)その他の材料
本技術に係る組織状植物たん白には、エンドウ豆たん白粉末、及び大豆粉末の他に、本技術の目的や作用効果を損なわない範囲で、組織状植物たん白に用いることができる材料を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。その他の材料としては、小麦粉、米粉、そば粉等の穀粉;小麦たん白、乳たん白、卵たん白、ソラマメたん白、ヒヨコ豆たん白、緑豆たん白等の他のたん白材料;澱粉;加工澱粉;食用油脂;食物繊維;調味料;無機塩類、ビタミン類、乳化剤、酸化防止剤、pH調整剤、保存料、増粘剤、色素、香料等の添加剤等が挙げられる。これらは、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末と混合して用いてもよく、また、後述するとおり、混合工程で添加する水に混合しておいてもよい。
【0030】
2.加工食品
本技術に係る組織状植物たん白は、サクミや噛み応えのある食感と、良好な風味を有するといった特徴を生かして、様々な加工食品に用いることができる。加工食品としては、例えば、フードバー、シリアル食品等の固形食品、ハム、ソーセージ、ハンバーグ、メンチカツ、コロッケ、肉団子、つくね、そぼろ、ミートソース、麻婆豆腐、餃子、焼売等の畜肉加工食品、及び、練り製品(例えば、かまぼこ、ちくわ、つみれ等)、ツナフレーク、鮭フレーク、カツオフレーク等の水産加工食品、カレー、シチュー、パスタソース、トマトソース、デミグラスソース、ホワイトソース等のソース状食品の具材、ミネストローネ、コーンポタージュスープ、コンソメスープ、中華風スープ、味噌汁等の液状食品の具材、たれ等の調味料類の具材、調味液等に浸漬したウェットタイプの食品素材等が挙げられる。
【0031】
本技術に係る組織状植物たん白と加工食品原材料とを混合して、混合した具材を得、この混合した具材を必要に応じて所定の形状に成形したり、調味して容器に充填したりすることで、加工食品を得ることができる。加工食品は、加熱調理等されていてもよく、また低温下で冷やし固める工程等を経てもよい。得られた加工食品は、常温、冷蔵、チルド、又は冷凍状態で流通させることができる。また、例えば、加熱調理前に冷却又は冷凍し、加熱調理前の状態の加工食品を、冷蔵、チルド、冷凍状態で流通させることもできる。また、混合した具材を容器に入れ、レトルト調理することもできる。本技術に係る組織状植物たん白は、レトルト調理のような高温高圧の加熱条件においても、噛み応えのある食感が維持されるものである。
【0032】
3.組織状植物たん白の製造方法
本技術に係る組織状植物たん白の製造方法は、少なくとも、(1)混合工程と、(2)膨化工程と、(3)粉砕工程と、を行う方法である。以下、各工程について、詳細に説明する。
【0033】
(1)混合工程
混合工程は、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末とを、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19の質量割合で混合する工程である。混合工程では、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末以外に、上述した各種材料に水を加えて混合する。
【0034】
材料に添加する水としては、本技術の目的や作用効果を損なわない範囲で、醤油等の発酵調味料、着色料等を含む水溶液等も用いることができる。水の添加量も、本技術の目的や作用効果を損なわない範囲で、自由に設定することができる。例えば、混合物中の水分が、5~60質量%、好ましくは10~55質量%、より好ましくは20~50質量%になるように調整することができる。
【0035】
(2)膨化工程
膨化工程は、各種材料の混合物を膨化させる工程である。膨化工程では、例えば、エクストルーダー等の押出機等で加圧加熱を行い、常圧下に押し出す方法によって、各種材料の混合物を膨化させることができる。
【0036】
膨化工程における加圧条件は、本技術の目的や作用効果を損なわない範囲で、用いる材料の種類や目的の硬さ等に応じて、自由に設定することができる。例えば、2~6MPaに設定することが好ましく、3~5MPaに設定することが好ましい。
【0037】
膨化工程における加熱条件も、本技術の目的や作用効果を損なわない範囲で、用いる材料の種類や目的の硬さ等に応じて、自由に設定することができる。例えば、先端バレル温度を、120~220℃に設定することが好ましく、140~180℃に設定することが好ましい。また、加熱時間としては、好ましくは10~200秒、より好ましくは30~90秒である。
【0038】
膨化工程に用いる押出機としては、組織状植物たん白の製造に用いることができるものであれば、特に限定されない。一軸押出機又は二軸以上の押出機のいずれでも良いが、二軸押出機が好ましい。押出機は、原材料供給口、バレル内をスクリューにおいて原材料を送り、混合、圧縮、温度調整機構を有し、さらに先端バレルに装着されたダイを有するものであることが好ましい。
【0039】
押出機におけるスクリューの回転数は、本技術の目的や作用効果を損なわない範囲で、加圧加熱条件に応じて適宜調整することができる。例えば、スクリューの回転数を、200~900rpmに設定することが好ましい。
【0040】
(3)粉砕工程
粉砕工程は、膨化物を粉砕して、目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合を90質量%以上とする工程である。粉砕工程で用いることができる粉砕機は特に限定されず、組織状植物たん白の製造に用いることができるものを自由に選択して用いることができる。
【0041】
(4)その他
本技術では、その他の工程として、乾燥工程、冷却工程、整粒工程等を、必要に応じて行うことができる。例えば、保管の観点から、乾燥工程を行って水分含有量を調整しておくことが好ましい。この場合の水分含有量は、10重量%以下に調整することが好ましい。組織状植物たん白の水分含有量を、この範囲に調整することで、輸送や保管が容易となる。
【0042】
得られた組織状植物たん白は、乾燥状態で流通させることが好ましいが、これに限定されない。例えば、液体(例えば、水、調味料等)を吸収させた状態、若しくは吸収後に乾燥させた状態で、包装容器に充填してもよい。この場合の包装容器として、例えば、紙袋、プラスチック袋、レトルトパウチ、ビン、缶、PET容器、プラスチック容器等が挙げられる。包装容器に充填後、適宜、冷蔵・冷凍保存又はレトルト加熱等の加熱殺菌するのが好ましい。
【0043】
4.組織状植物たん白の食感及び/又は風味改質方法
本技術に係る組織状植物たん白の食感及び/又は風味改質方法は、少なくとも、粉砕工程を行う方法である。また、必要に応じて、混合工程、膨化工程、乾燥工程、冷却工程、整粒工程等を行うこともできる。なお、本技術に係る組織状植物たん白の食感及び/又は風味改質方法における各工程の詳細は、前述した本技術に係る組織状植物たん白の製造方法の各工程と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0044】
なお、本技術は、以下のように構成することも可能である。
(1)
以下の(A)、及び(B)の特徴を有する、組織状植物たん白。
(A)原料粉における、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合が、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19である。
(B)目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合が90質量%以上である。
(2)
さらに下記の(C)の特徴を有する、(1)に記載の組織状植物たん白。
(C)テクスチャーアナライザーで測定した硬さが110~200Nである。
(3)
さらに下記の(D)の特徴を有する、(1)又は(2)に記載の組織状植物たん白。
(D)
ヘキサナールとヘキサノールのピーク面積の合算値と、ノナナールのピーク面積との比率が、9:1~21:1である。
(4)
前記エンドウ豆たん白粉末の粒度が、中位径30~150μmである、(1)から(3)のいずれかに記載の組織状植物たん白。
(5)
(1)から(4)のいずれかに記載の組織状植物たん白が用いられた、加工食品。
(6)
エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末とを、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19の質量割合で混合する混合工程と、
混合物を膨化させる膨化工程と、
膨化物を粉砕して、目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合を90質量%以上とする粉砕工程と、
を含む、組織状植物たん白の製造方法。
(7)
エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合が、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19である膨化物を粉砕して、目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合を90質量%以上とする粉砕工程を含む、組織状植物たん白の食感及び/又は風味改質方法。
【実施例0045】
以下、実施例に基づいて本技術をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0046】
<実験例1>
実験例1では、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合と組織状植物たん白のサイズの違いによる、加工食品の食感及び風味への影響を調べた。
【0047】
(1)組織状植物たん白の製造
表1に記載の配合で各材料を二軸エクストルーダーに投入し、膨化状況を観察しながら加圧加熱により組織化し、表1に記載の硬さおよびサイズの粒状になるように各サンプルを調製した。具体的には、加水量は約25~40%の間で調整し、組織化に影響のある以下の(a)~(c)について、(a)加熱時の加圧は2~5MPaの範囲内、(b)先端バレル温度は約140~180℃の範囲内及び(c)加熱時間は30~90秒の範囲内になるよう調整してダイから押出し、ダイ出口直後にカッター(回転数は200~1000rpmの範囲内で調整)で切断して組織化物を得た。このときのスクリュー回転数の調整については約200~900rpmの範囲内で行った。次いで、組織化物を粉砕機で粉砕し、乾燥機を用いて、80℃の熱風で組織化物を水分8重量%まで乾燥した。その後、各組織化物を目開き9.5mm、目開き6.7mm、目開き2.8mm、目開き0.85mmの篩でふるい、各篩上に残った画分を適宜混合し、サンプル1~13を調整した。
【0048】
(2)加工食品の製造
<チョコレートバーの製造>
チョコレート70質量部を湯煎で溶かし、各サンプル40質量部を加えて混ぜ合わせた。厚さ2cm程度になるようにバットに流し入れ、冷蔵庫で1時間冷やし固めた。固まったものを、3cm×3cm×2cmに切り分け、チョコレートバーを製造した。
【0049】
<パスタソースの製造>
各サンプル50質量部に150質量部の水を加え、適宜撹拌しながら10分間吸水させた。たまねぎ100質量部、にんじん80質量部、セロリ30質量部をみじん切りにし、吸水させた各サンプルとあわせて炒めた後、小麦粉5質量部を振り入れて混ぜ合わせた。その後、トマトの水煮400質量部、ケチャップ、コンソメ等の調味料を適宜加え、10分間煮込み、パスタソースを製造した。
【0050】
(3)評価
製造した各サンプルをそのまま喫食し、風味を下記の基準にしたがって評価した。また、製造した加工食品について、喫食時の食感を、下記の基準にしたがって評価した。いずれもパネル10名で評価を行い、平均値を算出した。
【0051】
[風味]
3:大豆臭とエンドウ臭が気にならず、非常に良好(合格)
2:大豆臭とエンドウ臭があまり気にならず、良好(合格)
1:大豆臭、又はエンドウ豆臭が強く、不良(不合格)
【0052】
[チョコレートバーにおけるサクミ]
3:適度なサクみがあり、非常に良好(合格)
2:ややサクみがある、またはやや硬いが、良好(合格)
1:サクみがない、または硬すぎて噛みにくく、不良(不合格)
【0053】
[パスタソースにおける噛み応え]
3:適度な肉粒感があり、噛み応えが非常に感じられ、非常に良好(合格)
2:やや肉粒感がある、またはやや硬いが、噛み応えが感じられ、良好(合格)
1:肉粒感がなく、噛み応えが感じられない、または硬すぎて噛みにくく、不良(不合格)
【0054】
(4)結果
結果を下記の表1に示す。
【0055】
【0056】
(5)考察
上記表1に示す通り、原料粉における、エンドウ豆たん白粉末と大豆粉末の質量割合が、エンドウ豆たん白粉末:大豆粉末=1:1~19であり、目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合が90質量%以上の粒状であるサンプル2~7、10~12の組織状植物たん白は風味が良好であり、かつそれを用いた加工食品は、サクミ、噛み応えのいずれの評価も良好であった。
【0057】
一方、エンドウ豆たん白粉末を用いなかったサンプル1は、風味の評価が劣っていた。エンドウ豆たん白粉末に比べて大豆粉末の質量割合が多いサンプル8は、風味の評価が劣っており、大豆粉末を用いなかったサンプル9は、食感及び風味のいずれの評価も劣っていた。また、目開き9.5mmの篩を通過するものの質量割合が90質量%未満のサンプル13は、サクミ、噛み応えの評価が劣っていた。
【0058】
<実験例2>
実験例2では、組織状植物たん白の硬さの違いによる、食感への影響を調べた。
【0059】
(1)組織状植物たん白の製造
実験例1と同一の方法で、サンプル14及び15を製造した。なお、サンプル14は実験例1のサンプル3と、サンプル15は実験例1のサンプル5と同サイズである。
【0060】
(2)硬さの測定
各サンプルに、2倍重量の水を吸水させ、アルミカップに採取した。テクスチャーアナライザー(TA.XT.plus(Stable Micro Systems社製))を用いて、下記の表2に示す条件で硬度(N)を測定した。3回測定を行い、平均値を算出した。
【0061】
【0062】
(3)加工食品の製造
<チョコレートバー>
実験例1と同様の方法で、チョコレートバーを調製した。
【0063】
<レトルトパスタソース>
各サンプル30質量部に水90質量部を加え、適宜攪拌しながら10分間吸水させた。吸水させた各サンプルに、市販のトマトソース420質量部と水60質量部を加えて混合し、アルミ製レトルトパウチに入れて密封した。レトルト食品用オートクレーブで121℃20分間加熱調理した。調理後、室温で10分間放冷した。
【0064】
(4)評価
製造したチョコレートバーについて、喫食時のサクミを実験例1の基準にしたがって評価した。また、パスタソースの喫食時の噛み応えを実験例1の基準にしたがって、また、べちゃつきを下記の基準にしたがって評価した。パネル10名で評価を行い、平均値を算出した。
【0065】
[べちゃつき]
3:べちゃつきがなく、非常に良好(合格)
2:べちゃつきがややあるが、良好(合格)
1:べちゃつきが強く、不良(不合格)
【0066】
(5)結果
結果を下記の表3に示す。
【0067】
【0068】
(6)考察
上記表3に示す通り、テクスチャーアナライザーで測定した硬さに関わらず、サンプル3、5、14、15を用いた加工食品は、サクミ、噛み応え、べちゃつきのいずれの評価も良好であった。
【0069】
サンプル3と14を用いた加工食品を比べると、硬さが115N未満のサンプル14を用いる加工食品よりも、硬さが115N以上のサンプル3を用いた加工食品の方が、サクミ、噛み応え、べちゃつきのいずれの評価も良好であった。この結果から、硬さは、110N以上であれば十分に本技術の効果を奏することができるが、115N以上であると、本技術の効果であるサクミ及び噛み応えの向上効果、並びにべちゃつきの低減効果を更に向上させることができることが分かった。
【0070】
また、サンプル5とサンプル15を用いた加工食品を比べると、硬さが180Nを超えるサンプル15を用いた加工食品よりも、硬さが180N以下のサンプル5を用いたサンプル5の方が、サクミ、及び噛み応えの評価が良好であった。この結果から、硬さは、200N以下であれば十分に本技術の効果を奏することができるが、180N以下であると、本技術の効果であるサクミ及び噛み応えの向上効果を、更に向上させることができることが分かった。
【0071】
<実験例3>
実験例3では、サンプル2、3、5、6、7について、揮発性成分の分析を行った。
【0072】
(1)揮発性成分の分析方法
各サンプル2.0gをバイアル瓶に入れ、水4mLを添加した。これを60℃の水槽で5分間加温し、気相部分の揮発性成分を固相マイクロ抽出(SPME)法により30分間吸着した。これをGC-MS(島津製作所製、GC-MS-QP2010Ultra)に導入し、ヘキサノール、ヘキサナール、ノナナールのピーク面積を算出した。分析条件は表4のとおりとした。各サンプルを3点ずつ分析し、平均値を算出した。
【0073】
【0074】
(2)結果
揮発性成分の分析結果を下記の表5に示す。また、前記実験例1で行った風味の評価結果も併記した。
【0075】
【0076】
(3)考察
表5に示す通り、揮発性成分の量に関わらず、サンプル2、3、5、6、及び7は、良好な風味を有していた。表5の結果を比較すると、ノナナール1に対して、ヘキサナールとヘキサノールの合算値が10未満のサンプル7に比べて、10以上のサンプル2、3、5、及び6の方が、風味がより良好であった。また、ノナナール1に対して、ヘキサナールとヘキサノールの合算値が19のサンプル2に比べて、19以下のサンプル3、5、及び6の方が、風味がより良好であった。この結果から、ノナナール1に対して、ヘキサナールとヘキサノールの合算値を10以上とすることにより、風味を更に向上でき、また、ヘキサナールとヘキサノールの合算値を18以下とすることにより、風味を更に向上できることが分かった。