(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088054
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ワイヤレス送電システム及び送電コイル
(51)【国際特許分類】
H02J 50/10 20160101AFI20240625BHJP
H02J 50/40 20160101ALI20240625BHJP
H02J 50/70 20160101ALI20240625BHJP
H01F 38/14 20060101ALI20240625BHJP
B60L 50/53 20190101ALI20240625BHJP
B60M 7/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H02J50/10
H02J50/40
H02J50/70
H01F38/14
B60L50/53
B60M7/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203024
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】居村 岳広
(72)【発明者】
【氏名】山田 悠人
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC04
5H125BE01
5H125FF30
(57)【要約】
【課題】導入コストを低下し、コイルの機械的強度を低下させずに漏洩磁界を低減させるワイヤレス送電システムを提供する。
【解決手段】ワイヤレス送電システムは、導線が巻回され、磁界の発生による電力の送電を行うコイルと、前記導線に電流を流すリード線と、を備える少なくとも2つの送電コイルと、各前記リード線に送電する送電装置と、を備え、各前記送電コイルは、各前記コイルが所定の間隔を有するよう所定の方向に沿って配置され、前記リード線は、接続されている前記コイル及び隣接して配置される少なくとも1つの他の前記コイルの周囲を取り囲む形状を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線が巻回され、磁界の発生による電力の送電を行うコイルと、
前記導線に電流を流すリード線と、
を備える少なくとも2つの送電コイルと、
各前記リード線に送電する送電装置と、
を備え、
各前記送電コイルは、各前記コイルが所定の間隔を有するよう所定の方向に沿って配置され、
前記リード線は、接続されている前記コイル及び隣接して配置される少なくとも1つの他の前記コイルの周囲を取り囲む形状を有する、ワイヤレス送電システム。
【請求項2】
前記コイルは、前記導線が矩形状に巻回されている、請求項1に記載のワイヤレス送電システム。
【請求項3】
前記コイルは、前記導線が矩形状に巻回されている構成を複数有する、請求項1に記載のワイヤレス送電システム。
【請求項4】
前記コイルは、前記導線が円状に巻回されている、請求項1に記載のワイヤレス送電システム。
【請求項5】
前記リード線と前記コイルとの距離は、前記コイルが磁界を発生させた際に当該コイルから所定の距離で測定した漏洩磁界が所定の閾値以下である、請求項1に記載のワイヤレス送電システム。
【請求項6】
各前記コイルは、前記送電装置からの送電により発生させた磁界を用いて、電気で駆動する移動体へ電力を送電する、請求項1に記載のワイヤレス送電システム。
【請求項7】
各前記送電コイルの各前記コイルは、前記移動体の走行方向に沿って所定の間隔を置いて配置される、請求項6に記載のワイヤレス送電システム。
【請求項8】
前記移動体は、電気で駆動する電気自動車である、請求項6又は請求項7に記載のワイヤレス送電システム。
【請求項9】
各前記送電コイルは、道路に埋設されている、請求項6又は請求項7に記載のワイヤレス送電システム。
【請求項10】
前記送電装置がある前記送電コイルへ送電している際に前記リード線から発生する磁界に応じて他の前記送電コイルが電流を発生したことにより前記移動体の接近を検出する移動体検出部をさらに備える、請求項6又は請求項7に記載のワイヤレス送電システム。
【請求項11】
前記送電装置は、他の前記送電コイルが発生させた電流により当該送電コイルへ送電するよう切り替える、請求項10に記載のワイヤレス送電システム。
【請求項12】
前記リード線に流れる電流の位相を、前記コイルに流れる電流の位相からシフトさせる移相回路をさらに備える、請求項1に記載のワイヤレス送電システム。
【請求項13】
導線が巻回され、磁界の発生による電力の送電を行うコイルと、
前記導線に電流を流すリード線と、
を備え、
前記リード線は、前記コイル及び所定の間隔を有するよう所定の方向に沿って配置される少なくとも1つの他のコイルの周囲を取り囲む形状を有する、送電コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤレス送電システム及び送電コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の電気自動車へ無線で電力伝送を行う、走行中ワイヤレス給電に関する技術が提案されている。走行中ワイヤレス給電においては、周囲への漏洩磁界が発生する。人体防護又は周辺機器の安全面から、漏洩磁界には電波法、CISPR(国際無線障害特別委員会)等で規制値が定められており、規制値以下でないと走行中ワイヤレス給電の実用化はかなわない。そのため、漏洩磁界を低減させるための技術が開示されている。
【0003】
非特許文献1は、メインの送電コイルに対し、キャンセルコイルを新たに設置し、メインコイルからの漏洩磁界を抑制する技術を開示している。非特許文献1の技術は、メインの送電コイルに対し、キャンセルコイルを設置することで、漏洩磁界の高いキャンセル効果をもたらすことが可能となる。
【0004】
非特許文献2は、電力伝送を行うコイルの周りにシールド用のコイルを巻く技術を開示している。非特許文献2の技術は、コイルの周りにシールド用のコイルを巻くことで漏洩磁界のキャンセルを行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Hasegawa and T. Imura, “Basic Research on a Leakage Far Magnetic Field Suppression Method Using the Adjacent Cancel Coil for Dynamic Wireless Power Transfer”, IEE-Japan Industry Applications Society Conference, Aug 2021, Japanese.
【非特許文献2】M. Mi, Q. Yang, Y. Li, P. Zhang and W. Zhang, "Multi-Objective Active Shielding Coil Design for Wireless Electric Vehicle Charging System," in IEEE Transactions on Magnetics, vol. 58, no. 2, pp. 1-5, Feb. 2022, Art no. 8700505, doi: 10.1109/TMAG.2021.3094721.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし従来技術のように、送電に用いるコイルの他に、漏洩磁界を低減させるため、キャンセルコイルを新たに埋設したり、複雑なシールドをコイルに搭載したりすると、初期投資コストの大幅な増加、コイル厚上昇に伴うコイルの機械的強度の低下などを招く。
【0007】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたものであり、従来技術と比較して導入コストを低下し、コイルの機械的強度を低下させずにコイルからの漏洩磁界を低減させるワイヤレス送電システム及び送電コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様に係るワイヤレス送電システムは、導線が巻回され、磁界の発生による電力の送電を行うコイルと、前記導線に電流を流すリード線と、を備える少なくとも2つの送電コイルと、各前記リード線に送電する送電装置と、を備え、各前記送電コイルは、各前記コイルが所定の間隔を有するよう所定の方向に沿って配置され、前記リード線は、接続されている前記コイル及び隣接して配置される少なくとも1つの他の前記コイルの周囲を取り囲む形状を有する。
【0009】
本開示の第2態様に係るワイヤレス送電システムは、第1態様に係るワイヤレス送電システムであって、前記コイルは、前記導線が矩形状に巻回されている。
【0010】
本開示の第3態様に係るワイヤレス送電システムは、第1態様に係るワイヤレス送電システムであって、前記コイルは、前記導線が矩形状に巻回されている構成を複数有する。
【0011】
本開示の第4態様に係るワイヤレス送電システムは、第1態様に係るワイヤレス送電システムであって、前記コイルは、前記導線が円状に巻回されている。
【0012】
本開示の第5態様に係るワイヤレス送電システムは、第1態様に係るワイヤレス送電システムであって、前記リード線と前記コイルとの距離は、前記コイルが磁界を発生させた際に当該コイルから所定の距離で測定した漏洩磁界が所定の閾値以下である。
【0013】
本開示の第6態様に係るワイヤレス送電システムは、第1態様に係るワイヤレス送電システムであって、各前記コイルは、前記送電装置からの送電により発生させた磁界を用いて、電気で駆動する移動体へ電力を送電する。
【0014】
本開示の第7態様に係るワイヤレス送電システムは、第6態様に係るワイヤレス送電システムであって、各前記送電コイルの各前記コイルは、前記移動体の走行方向に沿って所定の間隔を置いて配置される。
【0015】
本開示の第8態様に係るワイヤレス送電システムは、第6態様又は第7態様に係るワイヤレス送電システムであって、前記移動体は、電気で駆動する電気自動車である。
【0016】
本開示の第9態様に係るワイヤレス送電システムは、第6態様又は第7態様に係るワイヤレス送電システムであって、各前記送電コイルは、道路に埋設されている。
【0017】
本開示の第10態様に係るワイヤレス送電システムは、第6態様又は第7態様に係るワイヤレス送電システムであって、前記送電装置がある前記送電コイルへ送電している際に前記リード線から発生する磁界に応じて他の前記送電コイルが電流を発生したことにより前記移動体の接近を検出する移動体検出部をさらに備える。
【0018】
本開示の第11態様に係るワイヤレス送電システムは、第10態様に係るワイヤレス送電システムであって、前記送電装置は、他の前記送電コイルが発生させた電流により当該送電コイルへ送電するよう切り替える。
【0019】
本開示の第12態様に係るワイヤレス送電システムは、第1態様に係るワイヤレス送電システムであって、前記リード線に流れる電流の位相を、前記コイルに流れる電流の位相からシフトさせる移相回路をさらに備える。
【0020】
本開示の第13態様に係る送電コイルは、導線が巻回され、磁界の発生による電力の送電を行うコイルと、前記導線に電流を流すリード線と、を備え、前記リード線は、前記コイル及び所定の間隔を有するよう所定の方向に沿って配置される少なくとも1つの他のコイルの周囲を取り囲む形状を有する。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、従来技術と比較して導入コストを低下し、コイルの機械的強度を低下させずに漏洩磁界を低減させるワイヤレス送電システム及び送電コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本開示の実施形態に係る送電コイルの概略構成を示す図である。
【
図2A】送電コイルの平面を模式的に示した図である。
【
図2B】送電コイルの平面を模式的に示した図である。
【
図3】複数の送電コイルが配置されている様子を示す平面図である。
【
図4】実施形態に係る送電コイルによる漏洩磁界の低減効果を示すグラフである。
【
図5】実施形態に係る送電コイルによる漏洩磁界の低減効果を示すグラフである。
【
図6】実施形態に係るワイヤレス送電システムの構成例を示す図である。
【
図7】実施形態に係るワイヤレス送電システムの構成例を示す図である。
【
図8】実施形態に係るワイヤレス送電システムの構成例を示す図である。
【
図9】実施形態に係るワイヤレス送電システムの構成例を示す図である。
【
図10】実施形態に係るワイヤレス送電システムの構成例を示す図である。
【
図11】送電コイルのコイルとリード線との間に移相回路が挟み込まれている様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0024】
図1は、本開示の実施形態に係る送電コイルの概略構成を示す図である。本実施形態に係る送電コイル10は、導線が巻回され、磁界の発生による電力の送電を行うコイル11と、図示しない電源装置からの電流を導線に流すリード線12と、を有している。コイル11は、車両(図示せず)に搭載される受電コイル20へ、電磁誘導により非接触で送電を行う。
【0025】
本実施形態に係る送電コイル10は、
図1に示すようにリード線12が複数の送電コイル10のコイル11の部分を取り囲めるような形状を有している。なお、本実施形態では、本実施形態に係る送電コイル10のコイル11の形状は導線が矩形状に巻回された形状を有しているが、本開示は係る例に限定されない。例えば、1つの送電コイル10につき、導線が矩形状に巻回されたコイル11が複数形成されてもよい。また、コイル11の形状は矩形状でもよく、円状でもよい。円状に形成される場合、コイル11の形状は正円形であってもよく、楕円形であってもよい。
【0026】
図2A、2Bは、送電コイル10の平面を模式的に示した図である。
図2A、2Bにそれぞれ示した送電コイル10は、コイル11の巻回の方向が異なっている。
図2A、2Bには、コイル11に流れる電流の向きと、リード線12に流れる電流の向きとを矢印で示している。
図2A、2Bに示したように、コイル11に流れる電流の向きと、リード線12に流れる電流の向きとが逆向きになっている。
【0027】
送電コイル10から非接触で受電コイル20へ送電する際に、コイル11には一定の方向に交流の正弦波電流が流れている。この正弦波電流が周囲に磁界を発生させるが、電流の方向を逆にすると、その磁界をキャンセルすることができる。
【0028】
図2A、2Bに示したように、コイル11に流れる電流の向きと、リード線12に流れる電流の向きとが逆向きになっていることで、コイル11に電流が流れることで発生する漏洩磁界を、リード線12に流れる電流により発生する磁界で減衰させることができる。なお、漏洩磁界は、例えば
図1に示した、コイル11の中心からX軸方向に所定の距離離れた点Aで測定した値であり、点Aでの漏洩磁界が所定の規制値以下となる必要がある。所定の距離は、例えば10メートルである。
【0029】
従って、コイル11とリード線12との距離は、コイル11が磁界を発生させた際に、コイル11から所定の距離(例えば
図1の点A)で測定した漏洩磁界が所定の閾値以下となるような距離であることが望ましい。
【0030】
そして、送電コイル10は、リード線12が複数の送電コイル10のコイル11の部分を取り囲めるような形状を有しているため、リード線12で囲まれている領域にコイル11の部分が収まるよう他の送電コイル10を設けることで、漏洩磁界の減衰効果を高めることが可能となる。また、車両検知を行うことができる観点から、送電コイル10のリード線12は他の送電コイル10のコイル11の部分を取り囲む構造をしているが、本開示は係る例に限定されない。他の送電コイル10のコイル11の部分を取り囲むことがなくても、リード線12を長くとることで磁界のキャンセル効果を生じさせることができる。
【0031】
図3は、複数の送電コイル10が配置されている様子を示す平面図である。
図3には、送電コイル10から給電を受ける車両100も併せて示されている。
図3に示した各送電コイル10は、
図2に示した向きに電流が流れるものとする。そして
図3の例では、リード線12が3つの送電コイル10のコイル11の部分を取り囲めるような形状を有している。大型車の場合は、複数の送電コイル10から給電する場合が考えられ、そのような連続した複数の送電コイル10が送電を行っている場合であっても、漏洩磁界の低減効果を継続させることができる。
図3の例では、最大3つのリード線12により、コイル11からの漏洩磁界を減衰させることができる。
【0032】
図4は、本実施形態に係る送電コイル10による漏洩磁界の低減効果を示すグラフである。
図4に示したグラフには、送電コイル10による漏洩磁界と併せて送電コイル10の非接触送電効率を示している。
図4に示したグラフの左の縦軸が非接触送電効率の値であり、右の縦軸が送電コイル10からX軸方向に所定の距離(
図1の点A)で測定した磁界の強度の値である。また横軸は、リード線12が取り囲むコイル11の数である。なお、
図4に示したグラフは、同一の受電コイルで比較し、同一の電力を受け取っている。すなわち受電電力は統一されている。
【0033】
図4のグラフに示したように、リード線12が取り囲むコイル11の数が増加するにつれて、送電コイル10からX軸方向に所定の距離(
図1の点A)で測定した磁界の強度が低下している。従って、送電コイル10のリード線12が、他の送電コイル10のコイル11を取り囲むように設置されることで、送電コイル10から発生する漏洩磁界を低減させることができる。
【0034】
図5は、本実施形態に係る送電コイル10による漏洩磁界の低減効果を示すグラフである。
図5に示したグラフは、コイル11とリード線12との間の最短距離と、送電コイル10の非接触送電効率及び送電コイル10による漏洩磁界との関係をプロットしている。
【0035】
図5のグラフに示したように、コイル11とリード線12との間の最短距離と、送電コイル10による漏洩磁界との関係については、ある距離において最も低くなり、最短距離が長くなるほど、送電コイル10による漏洩磁界も大きくなる。従って、コイル11とリード線12との間の最短距離は、送電コイル10による漏洩磁界が、コイル10の機械的強度、リード線12の配線の制約をクリアした中で、磁界強度の規制値以下となるように決定され得る。
【0036】
また、従来技術のようにキャンセルコイルを新たに埋設したり、複雑なシールドをコイルに搭載したりする必要が無いため、送電コイル10は、導入コストを低下して、コイルの機械的強度を低下させずに漏洩磁界を低減させることができる。
【0037】
続いて、送電コイル10を用いたワイヤレス送電システムの具体的な構成例を説明する。
【0038】
図6は、本開示の実施形態に係るワイヤレス送電システムの構成例を示す図である。
図6には、道路1に埋設された複数の送電コイル10と、送電コイル10の各々に対応して1つずつ設けられる共振回路30と、DC電源(図示せず)から送電線50を通じて供給される直流電流を交流電流に変換して送電コイル10に供給するインバータ40と、を備えたワイヤレス送電システムが示されている。インバータ40は、本開示の送電装置の一例である。
【0039】
なお本実施形態では、共振回路30は1つのコイルと2つのキャパシタとを備えたLCC回路で構成されているが、本開示では共振回路30の構成は係る例に限定されない。
図6の例では、1つの送電コイル10のリード線12は、他の2つの送電コイル10のコイル11を囲むように配置されている。
【0040】
図6の例では、1つのインバータ40は、3つの送電コイル10と接続されており、1つのインバータ40が3つの送電コイル10の各々に対して同時に、又は別々に電流を供給することで、送電コイル10から磁界を発生させて、道路1を走行する、電気で駆動する電気自動車へのワイヤレス送電が行われる。
【0041】
図6のように送電コイル10とインバータ40とが接続されている場合、常に全ての送電コイル10に電流を流すと消費電力が増大する。常に電気自動車が全ての送電コイル10の上に存在する訳では無いので、ワイヤレス送電を行う必要が無い送電コイル10には電流を流さない様にすることが望ましい。
【0042】
そこで、本実施形態に係るワイヤレス送電システムは、移動体検出部60をさらに備える。移動体検出部60は、例えばインバータ40との通信機能を備えたコンピュータとして実現できる。移動体検出部60は、移動体として電気で駆動する電気自動車が近接してきたことを検出する。インバータ40は、移動体検出部50による移動体の検出結果に応じて、電流を供給する送電コイル10を切り替える制御を行う。
【0043】
本実施形態に係るワイヤレス送電システムによる移動体の検出手法を説明する。例えば
図3のように3つの送電コイル10が配置されており、移動体が図の右から左に走行する場合を考える。また説明の便宜上、
図3に示した各送電コイル10を、右から順に第1送電コイル、第2送電コイル、第3送電コイルとして説明する。すなわち、
図3の例では車両の走行方向に沿って右から順に第1送電コイル、第2送電コイル、第3送電コイルが配置されている。
【0044】
第1送電コイルに電流が流れている状態では、第1送電コイルのリード線に電流が流れることで発生する磁界が、第2送電コイル及び第3送電コイルの、コイルの中を通過する。磁界がコイルの中を通過すると電磁誘導により電流が発生する。すなわち、第2送電コイル及び第3送電コイルの各コイルが発生させた電流をインバータ40が検知することで、移動体が第2送電コイル及び第3送電コイルに近接していることがわかる。
【0045】
インバータ40は、各送電コイル10が電磁誘導により発生させた電流を検出すると、どの送電コイル10が電磁誘導により電流を発生させたかを移動体検出部60に通知する。移動体検出部60は、インバータ40からの通知に応じて、どの送電コイル10にDC電源からの電流を供給すべきかを決定し、各インバータ40に対して決定した内容を通知する。
【0046】
インバータ40及び移動体検出部60が上述した動作を実行することで、本実施形態に係るワイヤレス送電システムは、別途のセンサ等を設けることなく、移動体の近接を検出することができる。また、共振回路30とインバータ40との間にMOSFET等のパワー半導体に挟むことによって、誘導起電力の検知に応じてパワー半導体によるスイッチングを行い、通電と絶縁とを自動で切り替えるようにしてもよい。パワー半導体によるスイッチングを行い、通電と絶縁とを自動で切り替えることにより、送電を行う送電コイル10の切り替えを、外部からの制御なしに、電気の持つ特性のみを利用して自動で行うことができる。
【0047】
図6の例では、1つのインバータ40は、3つの送電コイル10と接続されており、1つのインバータ40が3つの送電コイル10に電流を供給していたが、本開示は係る例に限定されない。送電コイル10を用いたワイヤレス送電システムの別の構成例を示す。
【0048】
図7は、本開示の実施形態に係るワイヤレス送電システムの構成例を示す図である。
図7の例では、1つの送電コイル10のリード線12は、他の2つの送電コイル10のコイル11を囲むように配置されている。
【0049】
図7の例では、1つのインバータ40は、1つの送電コイル10と接続されており、1つのインバータ40が1つの送電コイル10に電流を供給することで、送電コイル10から磁界を発生させて、道路1を走行する、電気で駆動する電気自動車へのワイヤレス送電が行われる。
【0050】
図8は、本開示の実施形態に係るワイヤレス送電システムの構成例を示す図である。
図8の例では、1つの送電コイル10のリード線12は、他の1つの送電コイル10のコイル11を囲むように配置されている。
【0051】
図8の例では、1つのインバータ40は、3つの送電コイル10と接続されており、1つのインバータ40が3つの送電コイル10に電流を供給することで、送電コイル10から磁界を発生させて、道路1を走行する、電気で駆動する電気自動車へのワイヤレス送電が行われる。
【0052】
図9は、本開示の実施形態に係るワイヤレス送電システムの構成例を示す図である。
図9の例では、1つの送電コイル10のリード線12は、他の1つの送電コイル10のコイル11を囲むように配置されている。
【0053】
図9の例では、1つのインバータ40は、1つの送電コイル10と接続されており、1つのインバータ40が1つの送電コイル10に電流を供給することで、送電コイル10から磁界を発生させて、道路1を走行する、電気で駆動する電気自動車へのワイヤレス送電が行われる。
【0054】
以上、複数のパターンを挙げて本開示の実施形態に係るワイヤレス送電システムの構成例を示したが、もちろん、送電コイル10の配置パターンは係る例に限定されるものではなく、ある送電コイル10のリード線12が他の送電コイル10のコイル11を囲むように配置されていれば、本開示の実施形態に係るワイヤレス送電システムは、様々な送電コイル10の配置パターンを採り得る。上述したように、他の送電コイル10のコイル11の部分を取り囲むことがなくても、リード線12を長くとることで磁界のキャンセル効果を生じさせることができる。
【0055】
なお、送電コイル10を道路1に埋設するためには道路1に溝を形成することになる。
図10は、本開示の実施形態に係るワイヤレス送電システムの構成例を示す図であり、
図6に示した構成例に加え、送電コイル10を道路1に埋設するために道路1に掘られた溝2の場所を図示したものである。もちろん、溝2の場所、形状は任意にできることは言うまでもない。
【0056】
送電コイル10のコイル11に流れる電流値と、リード線12に流れる電流値は同じであるため、送電コイル10のコイル11が生じる漏洩磁界をキャンセルする働きがある。しかし、コイル11とリード線12との間に移相回路を挟むことで、コイル11へ流れる電流の位相とリード線12に流れる電流の位相とが少しずれるものの、コイル11へ流れる電流の位相が移動体の受電コイルに流れる電流の位相に近づく。送電側のコイルの電流の位相と受電側のコイルの電流の位相とが近づくことで、送電側と受電側の双方向からの磁界強度を考慮したキャンセルに繋がる。
【0057】
図11は、送電コイル10のコイル11とリード線12との間に、リード線12に流れる電流の位相を、コイル11に流れる電流の位相からシフトさせる移相回路13が挟み込まれている様子を示す図である。移相回路13は、例えばキャパシタとコンデンサとからなり、リード線12に流れる電流の位相をずらすために任意の構成を採ることができる。コイル11とリード線12との間に移相回路13を挟むことで、送電コイル10は、送電側と受電側の双方向からの磁界強度を考慮したキャンセルを行うことが可能となる。
【0058】
以上説明したように本開示の実施形態に係る送電コイル10及び送電コイル10を備えたワイヤレス送電システムは、追加の設備又はシステムを必要とせずに漏洩磁界を低減させることができる。本開示の実施形態に係る送電コイル10は、リード線12の長さを調整することで、漏洩磁界の低減効果を調節できる。
【0059】
ワイヤレス送電システムを用いたワイヤレス送電は、道路脇に設置された電源設備で電力を制御し、道路の中心に埋設されたコイルまで交流電流を流すAC配線を伸ばして給電を行う。一般にAC配線は、感電時のリスクや磁界発生の観点から危険性が高く、長距離伸ばすことは好ましくない。本開示の実施形態に係るワイヤレス送電システムは、AC配線を有効活用し、漏洩磁界を低減させるために追加の素子が必要ない。
【0060】
また、本開示の実施形態に係る送電コイル10は、遠方の漏洩磁界だけでなく、近傍磁界の抑制も可能で、送電コイル10から出る高調波にも効果がある。また、本開示の実施形態に係る送電コイル10を備えたワイヤレス送電システムは車両検知についての応用も可能である。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらの変更例または修正例についても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
また、上記実施形態において記載された効果は、説明的又は例示的なものであり、上記実施形態において記載されたものに限定されない。つまり、本開示に係る技術は、上記実施形態において記載された効果とともに、又は上記実施形態において記載された効果に代えて、上記実施形態における記載から、本開示の技術分野における通常の知識を有する者には明らかな他の効果を奏しうる。
【符号の説明】
【0063】
1 道路
2 溝
10 送電コイル
11 コイル
12 リード線
20 受電コイル
30 共振回路
40 インバータ
50 送電線
60 移動体検出部