(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088104
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、及び粘着層
(51)【国際特許分類】
C09J 133/00 20060101AFI20240625BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240625BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240625BHJP
【FI】
C09J133/00
C09J11/06
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203103
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】綱島 啓次
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 優紀
(72)【発明者】
【氏名】唐沢 久美子
(72)【発明者】
【氏名】辻川 敦子
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004BA02
4J004FA05
4J040DF001
4J040GA05
4J040GA07
4J040JA09
4J040JB09
4J040KA16
4J040KA23
4J040KA26
4J040LA01
4J040NA12
4J040NA15
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】アクリル系で、高いバイオマス度を有しながら、優れた接着力を発現する粘着層が得られる粘着剤組成物を提供することである。
【解決手段】アクリル重合体(A)と、植物由来の粘着付与樹脂(B)と、溶媒(C)と、架橋剤(D)とを含有する粘着剤組成物であって、得られる粘着層のバイオマス度が5~50%であることを特徴とする粘着剤組成物、好ましくは、アクリル重合体(A)100質量部に対して、前記植物由来の粘着付与樹脂(B)の含有量が5~80質量部である粘着剤組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル重合体(A)と、植物由来の粘着付与樹脂(B)と、溶媒(C)と、架橋剤(D)とを含有する粘着剤組成物であって、得られる粘着層のバイオマス度が5~50%であることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
前記アクリル重合体(A)100質量部に対して、前記植物由来の粘着付与樹脂(B)の含有量が5~80質量部である請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粘着剤組成物から形成される粘着層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物、及び粘着層に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤は、自動車、建築、電子機器等の様々な分野で使用されており、各用途に適した接着力の発現が求められている。
【0003】
一方、近年、世界的なカーボンニュートラルに対する取り組みが進んでおり、従来の石油由来の材料に代替するものとして、植物由来の材料を使用することが社会的に強く要求されてきている。
【0004】
このような状況下、バイオマス由来のポリオールを使用したウレタン系粘着剤組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、アクリル系組成物においては、バイオマス由来の原料を使用した粘着剤組成物で高い接着力を発現する技術が不充分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、アクリル系で、高いバイオマス度を有しながら、優れた接着力を発現する粘着層が得られる粘着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するため鋭意研究した結果、アクリル重合体と、植物由来の粘着付与樹脂と、溶媒と、架橋剤とを含有する特定の粘着剤組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、アクリル重合体(A)と、植物由来の粘着付与樹脂(B)と、溶媒(C)と、架橋剤(D)とを含有する粘着剤組成物であって、得られる粘着層のバイオマス度が5~50%であることを特徴とする粘着剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粘着剤組成物は、バイオマス原料を用いて得られ、高接着力を有する粘着層を形成することから、自動車、建築、電子機器等に利用される粘着剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の粘着剤組成物は、アクリル重合体(A)と、植物由来の粘着付与樹脂(B)と、溶媒(C)と、架橋剤(D)とを含有する粘着剤組成物であって、得られる粘着層のバイオマス度が5~50%であるものである。
【0011】
前記粘着剤層のバイオマス度は、主に粘着付与樹脂(B)の含有量に由来し、柔軟性と凝集力をバランス良く付与できることから、5~50%が好ましく、10~45%がより好ましく、12~42%が最も好ましい。
【0012】
前記アクリル重合体(A)は前記架橋剤(C)の有する官能基と反応し得る官能基を有するものである。
【0013】
前記アクリル重合体(A)は、前記架橋剤(C)により容易に架橋構造を形成できることから、水酸基及び/又はカルボキシル基を有する単量体を含有することが好ましい。
【0014】
前記アクリル重合体(A)の官能基を有する単量体の含有量は、粘着層の凝集力と柔軟性をバランス良く制御できることから、0.01~20質量部が好ましく、0.02~10質量部であることがより好ましい。
【0015】
前記アクリル重合体(A)の重量平均分子量は、30万~120万が好ましい。ここで、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する。)測定に基づきポリスチレン換算した値である。
【0016】
前記アクリル重合体(A)は、水酸基、カルボキシル基等の官能基を有する単量体、及びその他の単量体を単量体原料として、公知の重合方法により得られるが、溶液ラジカル重合法が簡便であることから好ましい。
【0017】
前記アクリル重合体(A)の含有量は、粘着剤組成物の不揮発分中、30~98質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましい。
【0018】
植物由来の粘着付与樹脂(B)としては、例えば、未変性ロジン、変性ロジン、ロジン誘導体等のロジン系樹脂;変性テルペン、芳香族変性テルペン、水添テルペン、テルペンフェノール等のテルペン系樹脂などが挙げられる。なお、これらの粘着付与樹脂(B)は単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
【0019】
前記未変性ロジンとしては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等が挙げられる。
【0020】
前記変性ロジンとしては、例えば、不均化ロジン、重合ロジン、水添ロジン等が挙げられる。
【0021】
前記ロジン誘導体としては、例えば、前記未変性ロジン又は前記変性ロジンをエステル化したロジンエステル;前記未変性ロジン又は変性ロジンを不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン;前記ロジンエステルを不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル;前記不飽和脂肪酸変性ロジン又は前記不飽和脂肪酸変性ロジンエステルに含まれるカルボキシル基を還元したロジンアルコール;未変性ロジン、変性ロジン、ロジンエステル、不飽和脂肪酸変性ロジン、不飽和脂肪酸変性ロジンエステル又はロジンアルコールの金属塩等のロジン金属塩;ロジンフェノール等が挙げられる。
【0022】
前記未変性テルペンとしては、例えば、α-ピネン、β-ピネン、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物の重合体が挙げられる。
【0023】
前記芳香族変性テルペンとしては、例えば、前記未変性テルペンのフェノール変性物又はスチレン変性物が挙げられる。
【0024】
前記テルペンフェノールとしては、例えば、テルペンとフェノールを共重合させた樹脂等が挙げられる。
【0025】
前記粘着付与樹脂(B)の軟化温度は、50~180℃が好ましく、80~150℃がより好ましい。
【0026】
前記粘着付与樹脂(B)の含有量は、アクリル重合体(A)100質量部に対して、植物由来の粘着付与樹脂(B)の含有量が、バイオマス度と接着力をバランス良く付与できるため、5~80質量部が好ましく、10~70質量部がより好ましく、15~60質量部が最も好ましい。
【0027】
前記溶剤(C)としては、例えば、有機溶剤、水等が挙げられるが、前記アクリル重合体(A)の製造時に使用した溶剤をそのまま使用することが好ましい。なお、これらの溶剤(C)は、単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
【0028】
前記有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤等が挙げられる。これらの中でも、エステル溶剤を含むことが好ましい。
【0029】
前記溶剤(C)の含有量は、粘着剤組成物中、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。
【0030】
前記架橋剤(D)は、例えば、イソシアネート架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤、多価金属塩架橋剤、金属キレート架橋剤、ケト・ヒドラジド架橋剤、オキサゾリン架橋剤、カルボジイミド架橋剤、シラン架橋剤等が挙げられるが、イソシアネート架橋剤が好ましい。
【0031】
前記架橋剤(D)の含有量は、粘着剤組成物の不揮発分中、0.1~10質量%が好ましく、0.2~3質量%がより好ましい。
【0032】
本発明の粘着剤組成物には、添加剤として、pHを調整するための塩基(アンモニア水など)や酸;発泡剤;可塑剤;軟化剤;酸化防止剤;ガラスやプラスチック製の繊維・バルーン・ビーズ・金属粉末等の充填剤;顔料・染料等の着色剤;pH調整剤;皮膜形成補助剤;レベリング剤;増粘剤;撥水剤;消泡剤;酸触媒;酸発生剤、シランカップリング剤等を含んでいてもよい。
【0033】
前記粘着剤組成物を支持体上に塗布し、乾燥させることによって、粘着層を形成することができる。前記支持体は、剥離シート及び粘着シート等の基材のいずれであってもよい。
【0034】
前記塗工方法としては、ナイフコーター、リバースコーター、ダイコーター、リップダイコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等の方法を用いることができる。
【0035】
前記粘着層の厚さは、1~100μmが好ましい。
【実施例0036】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。なお、アクリル重合体の重量平均分子量は、下記の方法で測定したものである。
【0037】
[平均分子量の測定方法]
GPCにより測定した。
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度4mg/mLのテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0038】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0039】
(合成例1:アクリル重合体(A-1)の合成)
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器に、2-エチルヘキシルアクリレート968.5質量部、アクリル酸30質量部、ヒドロキシエチルアクリレート1.5質量部、酢酸エチル1,000重量部を仕込み、攪拌下、窒素を吹き込みながら70℃まで昇温した。昇温後に、予め酢酸エチルにて溶解した2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)溶液10質量部(固形分5%)を添加した。その後、攪拌下70℃にて8時間ホールドした後、内容物を冷却し200メッシュ金網にて濾過し、アクリル重合体(A-1)の50質量%溶液を得た。この溶液の粘度は、15,000mPa・sであり、アクリル重合体(A-1)の重量平均分子量は60万であった。
【0040】
(合成例2~8:アクリル重合体(A-2)~(A-8)の合成)
単量体の組成を、表1及び2の通りに変更した以外は合成例1と同様にして、アクリル重合体(A-2)~(A-8)の50質量%溶液を得た。
【0041】
上記の合成例1~8で合成したアクリル樹脂(A-1)~(A-8)の単量体組成及び性状値を表1及び2に示す。
【0042】
【0043】
【0044】
表中の略号は、以下の通りである。
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
BA:n-ブチルアクリレート
MA:メチルアクリレート
AA:アクリル酸
DMAA:ジメチルアクリルアミド
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
【0045】
(実施例1:粘着剤組成物(1)の調製)
合成例1で得られたアクリル重合体(A-1)の50質量%溶液 100質量部に対して、PEDR-120M(広西梧州日成林産化工股 有限公司製、水添ロジン)5質量部、及びC(荒川化学工業株式会社製、重合ロジンエステル)5質量部を加え、均一になるように攪拌混合した。続いて、イソシアネート系架橋剤(DIC株式会社製「ファインタック硬化剤D-40」)0.5質量部を均一になるように攪拌混合することによって、粘着組成物(1)を得た。なお、本発明におけるバイオマス度とは、ASTM-D6866-18に従った測定によって算出された、全炭素中におけるバイオマス起源の炭素の含有量(質量%)である。
【0046】
[粘着フィルムの作製]
表面に離型処理された厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(離型PET50)の表面に、溶剤乾燥後における膜厚が25μmとなるように実施例1で得られた粘着剤組成物(1)を塗布し、80℃乾燥機中で3分間溶剤を揮発した後、PET25μmフィルムを貼り合せた。
【0047】
[接着力の評価]
前述の方法で作成した粘着フィルムを25mm幅に切ったものを試験片とした。被着体をステンレス(SUS)板とし、2kgロール×2往復で被着体に貼り付けた。貼り付け1時間後に23℃、50%RHの雰囲気下で300mm/minの剥離速度で180度剥離強度を測定し、接着力を評価した。
【0048】
(実施例2~6:粘着剤組成物(2)~(6)の調製)
アクリル重合体の50質量%溶液、粘着付与樹脂、及び架橋剤の配合を表3及び4の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、粘着剤組成物(2)~(6)を得た。
【0049】
(比較例1~2:粘着剤組成物(R1)~(R2)の調製)
アクリル重合体の50質量%溶液、粘着付与樹脂、及び架橋剤の配合を表4の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、粘着剤組成物(R1)~(R2)を得た。
【0050】
上記の実施例1~6で得た粘着剤組成物(1)~(6)及び比較例1~2で得た粘着剤組成物(R1)~(R2)の配合組成及び評価結果を表3及び4に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
表中の略号は、以下の通りである。
PEDR-120M:広西梧州日成林産化工股 有限公司製、重合ロジンエステル
GEDIR-100M:広西梧州日成林産化工股 有限公司製、不均化ロジンエステル
M-HDR:広西梧州日成林産化工股 有限公司製、水添ロジン
D-135:荒川化学工業株式会社製、重合ロジンエステル
C:荒川化学工業株式会社製、重合ロジンエステル
KE-100 :荒川化学工業株式会社製、超淡色ロジンエステル
PX1250 :ヤスハラケミカル株式会社製、テルペン樹脂
TH130: ヤスハラケミカル株式会社製、テルペンフェノール樹脂
T115:ヤスハラケミカル株式会社製、テルペンフェノール樹脂
FTR-6100:三井化学株式会社製、芳香族系炭化水素樹脂
【0054】
実施例1~6の本発明の粘着剤組成物は、バイオマス原料を用いながら、アクリル系で、高いバイオマス度を発現する力を有する粘着層が得られることが確認された。
【0055】
一方、比較例1及び2は植物由来の粘着付与剤を含有しない例であるが、適切な接着力を有するものの、バイオマス度が0%であった。