(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088117
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】真空成形用シート、車両外装材、及び真空成形用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/06 20060101AFI20240625BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20240625BHJP
【FI】
B32B27/06
B32B7/022
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203134
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】内海 潤
(72)【発明者】
【氏名】高山 浩之
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK03B
4F100AK04A
4F100AK07A
4F100AK12A
4F100AK25
4F100AK51
4F100AK53B
4F100AK69B
4F100AK71B
4F100AL02A
4F100AL07B
4F100AL09A
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA23A
4F100CC01
4F100EH20A
4F100EH20B
4F100GB32
4F100JA13A
4F100JK06B
4F100JK07A
4F100JL01
4F100JL11B
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】良好な塗装付着性を示し、塗装中における揮発性有機化合物の排出を抑制可能な真空成形用シート、車両外装材、及び真空成形用シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】
真空成形用シートは、ベースシートと、ベースシートの表面上に位置し、極性高分子化合物を含有する表面シートと、を備え、表面シートに付着するアクリルウレタン系塗料の塗布乾燥体であるコーティング層に対して、10×10の2mm角のマス目を区画するグリッド状の溝を形成し、少なくとも全てのマス目にセロハンテープを貼り付けた後、斜め上45~60度方向に向けてセロハンテープを引き剥がしたとき、表面シートは、全てのマス目の付着を維持する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースシートと、
前記ベースシートの表面上に位置し、極性高分子化合物を含有する表面シートと、
を備え、
前記表面シートに付着するアクリルウレタン系塗料の塗布乾燥体であるコーティング層に対して、10×10の2mm角のマス目を区画するグリッド状の溝を形成し、少なくとも全ての前記マス目にセロハンテープを貼り付けた後、前記ベースシートを水平台上に固定した状態にて斜め上45~60度方向に向けて前記セロハンテープを引き剥がしたとき、前記表面シートは、全ての前記マス目の付着を維持する、
真空成形用シート。
【請求項2】
前記極性高分子化合物は、マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレン-メチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、オレフィン-エポキシ共重合体、ポリオレフィンアイオノマー、脂肪酸エステル、及び脂肪酸アミドからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の真空成形用シート。
【請求項3】
前記ベースシートと、前記表面シートとは、共押出シートである、請求項1または2に記載の真空成形用シート。
【請求項4】
前記ベースシートの裏面上に位置し、極性高分子化合物を含有する裏面シートをさらに備える、請求項1または2に記載の真空成形用シート。
【請求項5】
前記ベースシートと、前記表面シートと、前記裏面シートとは、共押出シートである、請求項4に記載の真空成形用シート。
【請求項6】
常温下において、前記ベースシートの曲げ弾性率が1300MPa以上2500MPa以下であると共に、前記ベースシートの比重は1.05以下である、請求項1または2に記載の真空成形用シート。
【請求項7】
請求項1または2に記載の真空成形用シートの真空成形体である、車両外装材。
【請求項8】
ベースシート、及び、前記ベースシートの表面上に位置すると共に極性高分子化合物を含有する表面シートを形成するシート形成工程を備える真空成形用シートの製造方法であって、
前記シート形成工程後であって、前記表面シートに付着するアクリルウレタン系塗料の塗布乾燥体であるコーティング層に対して、10×10の2mm角のマス目を区画するグリッド状の溝を形成し、少なくとも全ての前記マス目にセロハンテープを貼り付けた後、前記ベースシートを水平台上に固定した状態にて斜め上45~60度方向に向けて前記セロハンテープを引き剥がしたとき、前記表面シートは、全ての前記マス目の付着を維持する、
真空成形用シートの製造方法。
【請求項9】
前記シート形成工程は、前記ベースシートを形成する第1工程と、前記第1工程後に前記表面シートを前記ベースシートの前記表面上に設ける第2工程とを有する、請求項8に記載の真空成形用シートの製造方法。
【請求項10】
前記シート形成工程では、前記ベースシートと、前記表面シートとを共押出により形成する、請求項8に記載の真空成形用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、真空成形用シート、車両外装材、及び真空成形用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1には、ポリプロピレン、アルキルフェノール樹脂、エポキシ基含有エチレン共重合体およびラジカル発生剤を含むポリプロピレン系樹脂組成物が開示される。この樹脂組成物は、比較的安価に形成できることから、例えば、電気・電子部品、電化製品、ハウジング、包装材料、自動車部品などの成形材料として幅広く用いられる。
【0003】
例えば、下記特許文献2には、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂)と、1,2-ブタジエンゴムとを含む材料により成形されるブロー成形品が開示される。このようなブロー成形品は、例えば自動車の車両外装品などに用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-140641号公報
【特許文献2】特開2015-196763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載される樹脂組成物の成形体、上記特許文献2に記載されるブロー成形品などに対して塗装を施すことがある。この場合、剥がれにくい塗装を実施するため、まず、下地層として機能するプライマーが上述したような成形体に塗布される。そして、下地層上に塗料が塗布される。このような塗装の際には揮発性有機化合物(VOC)が多量に使用される。ここで、大気汚染対策などの観点から、揮発性有機化合物の使用量の低減が望まれている。
【0006】
本開示の一側面の目的は、加熱後においても良好な塗装付着性を示し、塗装中における揮発性有機化合物の排出を抑制可能な真空成形用シート、車両外装材、及び真空成形用シートの製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、いくつかの側面において、下記の[1]~[10]等に関する。
[1] ベースシートと、前記ベースシートの表面上に位置し、極性高分子化合物を含有する表面シートと、を備え、前記表面シートに付着するアクリルウレタン系塗料の塗布乾燥体であるコーティング層に対して、10×10の2mm角のマス目を区画するグリッド状の溝を形成し、少なくとも全ての前記マス目にセロハンテープを貼り付けた後、前記ベースシートを水平台上に固定した状態にて斜め上45~60度方向に向けて前記セロハンテープを引き剥がしたとき、前記表面シートは、全ての前記マス目の付着を維持する、真空成形用シート。
[2] 前記極性高分子化合物は、マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレン-メチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、オレフィン-エポキシ共重合体、ポリオレフィンアイオノマー、脂肪酸エステル、及び脂肪酸アミドからなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]に記載の真空成形用シート。
[3] 前記ベースシートと、前記表面シートとは、共押出シートである、[1]または[2]に記載の真空成形用シート。
[4] 前記ベースシートの裏面上に位置し、極性高分子化合物を含有する裏面シートをさらに備える、[1]~[3]のいずれかに記載の真空成形用シート。
[5] 前記ベースシートと、前記表面シートと、前記裏面シートとは、共押出シートである、[4]に記載の真空成形用シート。
[6] 常温下において、前記ベースシートの曲げ弾性率が1300MPa以上2500MPa以下であると共に、前記ベースシートの比重は1.05以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の真空成形用シート。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の真空成形用シートの真空成形体である、車両外装材。
[8] ベースシート、及び、前記ベースシートの表面上に位置すると共に極性高分子化合物を含有する表面シートを形成するシート形成工程を備える真空成形用シートの製造方法であって、前記シート形成工程後であって、前記表面シートに付着するアクリルウレタン系塗料の塗布乾燥体であるコーティング層に対して、10×10の2mm角のマス目を区画するグリッド状の溝を形成し、少なくとも全ての前記マス目にセロハンテープを貼り付けた後、前記ベースシートを水平台上に固定した状態にて斜め上45~60度方向に向けて前記セロハンテープを引き剥がしたとき、前記表面シートは、全ての前記マス目の付着を維持する、真空成形用シートの製造方法。
[9] 前記シート形成工程は、前記ベースシートを形成する第1工程と、前記第1工程後に前記表面シートを前記ベースシートの前記表面上に設ける第2工程とを有する、[8]に記載の真空成形用シートの製造方法。
[10] 前記シート形成工程では、前記ベースシートと、前記表面シートとを共押出により形成する、[8]に記載の真空成形用シートの製造方法。
【0008】
上述した真空成形用シートは、ベースシートに加えて、極性高分子化合物を含む表面シートを有する。また、上述するように、表面シートは、少なくともアクリルウレタン系塗料に対して良好な塗装付着性を示す。これによって、上記真空成形用シートに対しては、プライマーを塗装することなく、少なくともアクリルウレタン系塗料を良好に塗装できる。換言すると、上記真空成形用シートに対しては、プライマー塗装工程を省略できる。加えて、プライマー塗装工程を省略したとしても、上記真空成形用シートは、真空成形後(特に、加熱後)においても良好な塗装付着性を示す。よって、上記真空成形用シートを利用することによって、塗装中における揮発性有機化合物の排出を抑制可能である。
【0009】
上述した真空成形用シートの製造方法では、ベースシートに加えて、極性高分子化合物を含む表面シートが形成される。また、上述するように、表面シートは、少なくともアクリルウレタン系塗料に対して良好な塗装付着性を示す。これによって、上記製造方法によって製造される真空成形用シートに対しては、プライマーを塗装することなく、少なくともアクリルウレタン系塗料を良好に塗装できる。換言すると、上記真空成形用シートに対しては、プライマー塗装工程を省略できる。加えて、プライマー塗装工程を省略したとしても、上記真空成形用シートは、真空成形後(特に、加熱後)においても良好な塗装付着性を示す。よって、上記製造方法を利用することによって、加熱後においても良好な塗装付着性を示し、塗装中における揮発性有機化合物の排出を抑制可能な真空成形用シートを製造できる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一側面によれば、加熱後においても良好な塗装付着性を示し、塗装中における揮発性有機化合物の排出を抑制可能な真空成形用シート、車両外装材、及び真空成形用シートの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る成形シートの模式断面図である。
【
図2】
図2は、成形シートの製造方法の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、成形シートの成形方法の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4(a),(b)は、成形シートの成形方法の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、成形シートの製造方法の別例を示す概略斜視図である。
【
図6】
図6は、成形シートの別例の模式断面図である。
【
図7】
図7は、グリッド状の溝が形成されるコーティング層の要部模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本開示の一側面の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0013】
(成形シート)
図1は、実施形態に係る成形シートを示す模式断面図である。一実施形態では、シート部材1は、真空成形によって所望の形状に変形するシート状の部材(真空成形用シート)である。変形後のシート部材1である成形体(真空成形体)は、例えば、カバー、ハウジング、内装材、自動車等の車両装部材などである。車両装部材は、例えば、スポイラー、バンパーなどの車両外装材でもよいし、ダッシュボードなどの車両内装材でもよい。上記成形体は、例えば自動車部品等の立体物に貼り付けられてもよい。この場合、上記成形体の形状は、上記立体物に沿った形状を有し得る。
図1に示されるように、シート部材1は、ベースシート2と、表面シート3とを有する。
【0014】
(ベースシート2)
ベースシート2は、シート部材1の主要部であるシート状の部材である。一実施形態では、ベースシート2は、押出成形されたシート状部材である。このため、シート部材1の物性(例えば、後述する曲げ弾性率、シャルピー衝撃値、荷重たわみ温度、メルトテンション、耐高速衝撃値、耐寒高速衝撃値など)は、ベースシート2の物性が支配的である。このため、一実施形態では、ベースシート2の曲げ弾性率、シャルピー衝撃値、荷重たわみ温度、メルトテンション、耐高速衝撃値、及び耐寒高速衝撃値は、シート部材1の曲げ弾性率、シャルピー衝撃値、荷重たわみ温度、メルトテンション、耐高速衝撃値、耐寒高速衝撃値とそれぞれ同一もしくは実質的に同一とみなされ得る。ベースシート2は、後述する樹脂組成物から形成される。常温下におけるベースシート2の比重は、当該樹脂組成物の比重と同一または実質的に同一であり、例えば1.05以下である。ベースシート2の厚さは、特に限定されないが、例えば1mm以上5mm以下である。なお、ベースシート2の比重は、例えば液浸法によって測定される。
【0015】
(ベースシート2の原材料)
一実施形態では、ベースシート2の原材料として、以下に説明する樹脂組成物が用いられる。一実施形態に係る樹脂組成物は、ベース樹脂と、エラストマーと、フィラーとの混合物を含む。以下では、上記混合物に含まれる各材料を詳細に説明する。
【0016】
(A)ベース樹脂
ベース樹脂は、混合物の主成分となる材料である。一実施形態では、混合物の全量を基準として、ベース樹脂の含有量は、55質量%以上80質量%以下である。当該含有量は、58質量%以上でもよいし、60質量%以上でもよい。また、上記含有量は、75質量%以下でもよいし、70質量%以下でもよいし、68質量%以下でもよいし、65質量%以下でもよい。ベース樹脂は、ポリプロピレンと、高密度ポリエチレンとを含む。ベース樹脂のメルトフローレート(MFR)は、例えば5g/10分未満である。一実施形態では、ベース樹脂などのMFRは、JIS K7210-1:2014に定められる方法に沿って、測定温度230℃、荷重2.16kgの条件により測定される。ベース樹脂のMFRが低いほど、当該ベース樹脂を含む樹脂組成物は、射出成形法よりも、押出成形法および真空成形法に対して好適になる。MFRの測定器としては、公知の測定器が使用される。ベース樹脂のMFRは、3g/10分以下でもよいし、1g/10分以下でもよいし、0.8g/10分以下でもよいし、0.5g/10分以下でもよい。樹脂組成物が押出成形及び/または真空成形される場合、ベース樹脂のMFRは、1g/10分以下であることが好ましく、0.8g/10分以下であることがより好ましく、0.5g/10分以下であることがさらに好ましい。なお、ベース樹脂などのMFRは、例えばタカラ工業株式会社製のメルトインデクサ(L203)を用いて測定される。
【0017】
ここで、一実施形態に係る樹脂組成物は、ABS樹脂を含まない。これにより、樹脂組成物(および混合物)の比重をABS樹脂よりも小さくできるので、当該樹脂組成物の成形体を軽量化できる。常温下(例えば、23℃)における樹脂組成物(および混合物)の比重は、例えば0.93以上1.05以下である。当該比重の上限値は、1.02でもよいし、1.00でもよいし、0.98でもよい。樹脂組成物の比重は、例えば、JIS K 7112:1999もしくはISO 1183:1987に定められる方法に沿って、電子比重計(例えば、アルファーミラージュ株式会社製、EW-120SG)を用いて測定される。
【0018】
ポリプロピレンは、ベース樹脂の主成分となる重合体である。ベース樹脂の主成分がポリプロピレンであることによって、耐衝撃性等に優れ、かつ、比較的安価な混合物を製造できる。なお、ベース樹脂の全量を基準として、ポリプロピレンの含有量が50質量%より大きい場合、ポリプロピレンは、ベース樹脂の主成分に相当する。一実施形態では、ベース樹脂の全量を基準として、ポリプロピレンの含有量は、60質量%以上90質量%以下である。当該含有量は、65質量%以上でもよいし、70質量%以上でもよい。また、上記含有量は、85質量%以下でもよいし、80質量%以下でもよいし、75質量%以下でもよい。ポリプロピレンが上記範囲内である場合、ベース樹脂がポリプロピレン単体である場合と比較して、より高い耐衝撃性などが得られる。ポリプロピレンのMFRは、例えば5g/10分未満である。ポリプロピレンのMFRは、3g/10分以下でもよいし、1g/10分以下でもよいし、0.8g/10分以下でもよいし、0.5g/10分以下でもよい。
【0019】
ポリプロピレンは、プロピレンの重合体であるが、これに限られない。一実施形態では、ポリプロピレンは、他のモノマーとの共重合体も含む。すなわち、一実施形態のポリプロピレンは、ホモポリプロピレンに限られず、エチレン-プロピレンブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)、エチレン-プロピレンランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)、及び、エチレン及びプロピレン以外のα-オレフィンとプロピレンとの共重合体(プロピレン系共重合体)等も含む。α-オレフィンは、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、イソブチレン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセンである。
【0020】
ポリプロピレンは、酸変性ポリプロピレンであってもよい。酸変性ポリプロピレンは、酸性基をポリプロピレンに導入したものである。例えば、無水マレイン酸、カルボン酸、スルホン酸、それらの誘導体等をポリプロピレンに共重合又はグラフト重合させたものが、酸変性ポリプロピレンに相当し得る。
【0021】
一実施形態においては、ポリプロピレンは、上述したホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、プロピレン系共重合体、及び酸変性ポリプロピレンの少なくとも1種を含む。また、ポリプロピレンは、例えば、互いに異なる複数種類のプロピレン系共重合体等を含んでもよい。
【0022】
高密度ポリエチレン(HDPE)は、例えばJIS K 6922-1:2018により定義されるポリエチレンである。一実施形態の高密度ポリエチレンの密度は、0.942g/cm3以上である。一実施形態では、ベース樹脂の全量を基準として、高密度ポリエチレンの含有量は、10質量%以上40質量%以下である。当該含有量は、15質量%以上でもよいし、20質量%以上でもよいし、25質量%以上でもよい。また、上記含有量は、35質量%以下でもよいし、30質量%以下でもよい。加えて、樹脂組成物の成形体の剛性を向上できる。高密度ポリエチレンのMFRは、例えば5g/10分未満である。高密度ポリエチレンのMFRは、3g/10分以下でもよいし、1g/10分以下でもよいし、0.8g/10分以下でもよいし、0.5g/10分以下でもよいし、0.3g/10分以下でもよい。一実施形態では、ポリプロピレンと高密度ポリエチレンとのそれぞれのMFRは、1g/10分以下であることが好ましく、0.8g/10分以下であることがより好ましく、0.5g/10分以下であることがさらに好ましい。また、ベース樹脂の混練性の観点から、高密度ポリエチレンのMFRは、ポリプロピレンのMFRと同程度値であることが好ましい。
【0023】
高密度ポリエチレンは、エチレンの重合体であるが、これに限られない。一実施形態では、高密度ポリエチレンは、他のモノマーとの共重合体も含む。すなわち、一実施形態の高密度ポリエチレンは、ホモポリエチレンに限られず、エチレンと、エチレン及びプロピレンを含むα-オレフィンとの共重合体(エチレン系共重合体)等も含む。
【0024】
(B)エラストマー
エラストマーは、弾性を示すポリマー(ゴム)であり、例えば熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーなどである。樹脂組成物にエラストマーが含まれることによって、当該樹脂組成物の成形体の耐衝撃性を向上できる。一実施形態では、混合物の全量を基準として、エラストマーの含有量は、5質量%以上25質量%以下である。この場合、樹脂組成物の成形性を維持しつつ、樹脂組成物の成形体の耐衝撃性を向上できる。エラストマーの含有量は、10質量%以上でもよいし、15質量%以上でよい。エラストマーの含有量は、20質量%以下でもよいし、15質量%以下でよい。エラストマーのMFRは、例えば10g/10分未満である。エラストマーのMFRは、7g/10分以下でもよいし、5g/10分以下でもよいし、3g/10分以下でもよいし、1g/10分以下でもよいし、0.8g/10分以下でもよいし、0.5g/10分以下でもよい。
【0025】
エラストマーは、天然物でもよいし、人工物でもよい。エラストマーは、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、EPR(エチレン-プロピレンゴム)等のゴムでもよい。エラストマーは、熱可塑性エラストマーとして、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン系熱可塑性エラストマー、又は、水素が添加されたスチレン系熱可塑性エラストマー(水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SBES)でもよい。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体が挙げられる。
【0026】
低温下(例えば、-30℃)における耐衝撃性(耐寒衝撃性)の観点から、一実施形態に係るエラストマーのガラス転移点は、例えば-40℃以下である。また、ベース樹脂に対する分散性が高いエラストマーほど、エラストマーの性能が良好に発揮される傾向がある。これらの観点から、一実施形態では、エラストマーとして、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SBES)が用いられてもよい。
【0027】
(C)フィラー
フィラーは、混合物に添加される充填材であり、例えばベース樹脂中に分散する粉末である。一実施形態では、混合物の全量を基準として、フィラーの含有量は、5質量%以上30質量%以下である。当該含有量は、8質量%以上でもよいし、10質量%以上でもよいし、15質量%以上でもよい。また、上記含有量は、25質量%以下でもよいし、20質量%以下でもよいし、18質量%以下でもよいし、15質量%以下でもよい。フィラーは、例えば、ガラス繊維、シリカ、炭酸カルシウム、クレー、タルク、マイカ、酸化チタン、カーボンブラック等の無機材料である。高剛性などの観点から、一実施形態に係るフィラーは、タルクでもよい。フィラーのMFRは、例えば1g/10分未満である。フィラーのMFRは、0.8g/10分以下でもよいし、0.5g/10分以下でもよいし、0.3g/10分以下でもよいし、0.1g/10分以下でもよい。
【0028】
ベース樹脂への分散性などの観点から、フィラーは、上記無機材料と、当該無機材料を被覆する被覆材とを有してもよい。被覆材は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンである。被覆材は、低密度ポリエチレンでもよい。この場合、ベース樹脂に対するフィラーの分散性を向上しつつ、樹脂組成物の比重を抑えられる。フィラーの全量を基準として、被覆材の含有量は、例えば20質量%以上40質量%以下である。当該含有量は、24質量%以上でもよいし、28質量%以上でもよい。また、上記含有量は、36質量%以下でもよいし、32質量%以下でもよい。フィラーが被覆材を含む場合、樹脂組成物における樹脂の含有量は、被覆材の含有量も考慮される。
【0029】
上記(A)~(C)を含む混合物は、例えば溶融混練など公知の方法によって製造される。混合物は、上記(A)~(C)と、添加剤が加えられることによって製造されてもよい。または、上記混合物に添加物が加えられることによって、樹脂組成物が製造されてもよい。あるいは、添加剤が加えられることなく、上記混合物に相当する樹脂組成物が製造されてもよい。添加物は、例えば、可塑剤、粘着付与剤、染料、顔料、酸化防止剤、静電防止剤、接着剤、粘着防止剤、スリップ剤、熱安定剤、光安定剤、発泡剤、着色剤、などを含み得る。
【0030】
一実施形態では、上記混合物を含む樹脂組成物のMFRは、例えば5g/10分未満である。樹脂組成物のMFRは、3g/10分以下でもよいし、1g/10分以下でもよいし、0.8g/10分以下でもよいし、0.5g/10分以下でもよい。樹脂組成物が押出成形及び/または真空成形される場合、樹脂組成物のMFRは、1g/10分以下であることが好ましく、0.8g/10分以下であることがより好ましく、0.5g/10分以下であることがさらに好ましい。なお、射出成形用の樹脂組成物のMFRは、一般には少なくとも5g/10分以上であり、好ましくは10g/10分以上である。
【0031】
(ベースシート2の物性)
一実施形態では、常温下において、ベースシート2の曲げ弾性率は、例えば1300MPa以上である。曲げ弾性率が1300MPa以上であることにより、ベースシート2は、従来のポリプロピレン系樹脂組成物の成形体よりも高い剛性を有し得る。常温下において、ベースシート2の曲げ弾性率は、1400MPa以上でもよいし、1500MPa以上でもよいし、1600MPa以上でもよい。ベースシート2の製造コスト等の観点から、常温下におけるベースシート2の曲げ弾性率は、例えば2500MPa以下、2200MPa以下、2000MPa以下、1900MPa以下、もしくは1850MPa以下である。ベースシート2の曲げ弾性率は、JIS K 7171:2016もしくはISO 178:2010に定められる方法に沿って測定される。
【0032】
ベースシート2の曲げ弾性率は、上記樹脂組成物から形成される試料の曲げ弾性率、もしくは、ベースシート2を加工した試料の曲げ弾性率に相当する。前者の場合、ベースシート2の形成方法と同様の形成方法にて、上記樹脂組成物から試料が形成されてもよい。後者の場合、ベースシート2の性能変化の防止の観点から、ベースシート2は、冷間加工されてもよい。例えば、ベースシート2から切削されたパーツが、試料に相当する。当該パーツには研磨等がなされてもよい。一方、ベースシート2を溶融する、所望の寸法に成形された構造物の曲げ弾性率は、ベースシート2の曲げ弾性率には相当しない。後述するシャルピー衝撃値、荷重たわみ温度、耐高速衝撃性、耐寒高速衝撃性も同様である。曲げ弾性率の測定のためにJIS K 7171:2016に定められる方法が採用される場合、長辺:60mm、短辺:25mm、厚さ:3mmの寸法を有する試料が用いられてもよい。曲げ弾性率の測定として、例えば、株式会社島津製作所製のオートグラフ(AGS-5KNA)等が用いられてもよい。なお、以下にて説明するベースシート2の特性のうち、後述するシャルピー衝撃値、荷重たわみ温度、耐高速衝撃性、及び耐寒高速衝撃性を測定するときも、上述した方法のいずれかにて準備される試料が用いられる。
【0033】
一実施形態では、常温下において、ベースシート2のシャルピー衝撃値は、35kJ/m2以上である。常温下におけるベースシート2のシャルピー衝撃値が35kJ/m2以上であることにより、シート部材1は、従来のABS系樹脂組成物の成形体よりも高い耐衝撃性を有し得る。常温下において、ベースシート2のシャルピー衝撃値は、40kJ/m2以上でもよいし、50kJ/m2以上でもよいし、60kJ/m2以上でもよい。ベースシート2の製造コスト等の観点から、常温下におけるベースシート2のシャルピー衝撃値は、例えば100kJ/m2以下、90J/m2以下、80kJ/m2以下、もしくは70kJ/m2以下である。なお、ABS系樹脂組成物は、ABS樹脂を主成分とする樹脂組成物である。
【0034】
一実施形態では、低温下において、ベースシート2のシャルピー衝撃値は、10kJ/m2以上である。低温下におけるシャルピー衝撃値が10kJ/m2以上であることにより、ベースシート2は、従来のポリプロピレン系樹脂組成物、ならびに、従来のABS系樹脂組成物の成形体よりも高い耐寒衝撃性を有し得る。低温下において、ベースシート2のシャルピー衝撃値は、15kJ/m2以上でもよいし、20kJ/m2以上でもよいし、25kJ/m2以上でもよいし、30kJ/m2以上でもよい。ベースシート2の製造コスト等の観点から、低温下におけるベースシート2のシャルピー衝撃値は、例えば65kJ/m2以下、50kJ/m2以下、40kJ/m2以下、35kJ/m2以下、もしくは30kJ/m2以下である。
【0035】
常温下及び低温下のいずれにおいても、ベースシート2のシャルピー衝撃値は、JIS K 7111-1:2012に定められる方法に沿って測定される。常温下及び低温下のいずれにおいても、ベースシート2のシャルピー衝撃値は、上記樹脂組成物から形成される試料のシャルピー衝撃値、もしくは、ベースシート2を加工した試料のシャルピー衝撃値に相当する。シャルピー衝撃値の測定のためにJIS K 7111-1:2012に定められる方法が採用される場合、長辺:80mm、短辺:10mm、厚さ:3mmの寸法を有する試料が用いられてもよい。シャルピー衝撃値の測定として、例えば、株式会社東洋精機製作所の衝撃試験機(DG-UB)等が用いられてもよい。
【0036】
一実施形態では、ベースシート2の荷重たわみ温度は、90℃以上である。荷重たわみ温度が90℃以上であることにより、ベースシート2は、従来のポリプロピレン系樹脂組成物、ならびに、従来のABS系樹脂組成物の成形体よりも高い耐熱性を有し得る。また、例えば
図2に示される加熱装置200にてベースシート2を加熱する場合など、ベースシート2は、その自重にて撓みにくくなる。すなわち、加熱されたベースシート2にドローダウンが発生しにくくなる。このため、ベースシート2の一部(特に、中央部分)に樹脂組成物が集まりにくい。よって、ベースシート2の厚さムラが発生しにくくなる。ベースシート2の製造コスト等の観点から、ベースシート2の荷重たわみ温度は、例えば100℃以下、98℃以下、もしくは95℃以下である。
【0037】
ベースシート2の荷重たわみ温度は、上記樹脂組成物から形成される試料の荷重たわみ温度、もしくは、ベースシート2を加工した試料の荷重たわみ温度に相当する。ベースシート2の荷重たわみ温度は、JIS K 7191-2:2015に定められる方法に沿って測定される。例えば、ベースシート2の荷重たわみ温度は、例えば試料に0.45MPaの荷重をかけつつ加熱し、当該試料の撓みが所定値以上になったときの温度とする。荷重たわみ温度の測定においては、長辺:127mm、短辺:12.7mm、厚さ:3mmの寸法を有する試料が用いられてもよい。荷重たわみ温度の測定として、例えば、株式会社安田精機製作所のヒートデストーションテスター(148-HD)等が用いられてもよい。
【0038】
一実施形態では、190℃におけるベースシート2のメルトテンションは、45mN以上である。当該メルトテンションが45mN以上であることにより、真空成形によるベースシート2の製造が良好に実施される。例えば、
図4(a),(b)に示されるようにベースシート2を加工する場合、ベースシート2の全体が均一に伸びる傾向がある。換言すると、ベースシート2のメルトテンションが高いほど、加工後のベースシート2の厚さムラが生じにくくなる。なお、樹脂組成物のメルトフローレートが低いほど、ベースシート2のメルトテンションが高い傾向がある。
【0039】
190℃におけるベースシート2のメルトテンションは、上記樹脂組成物から形成される試料のメルトテンション、もしくは、ベースシート2を加工した試料のメルトテンションに相当する。例えば以下の方法に沿って測定される。まず、ベースシート2を粉砕する。続いて、キャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製、P-C)に含まれる加熱炉にて粉砕物を溶融する。このとき、加熱炉は、190℃に設定される。続いて、加熱炉に取り付けられるオリフィス(オリフィス径:1.0mm、オリフィス長さ:10.0mm)から押し出される糸状の樹脂を、滑車を経由して引き取り装置にて引き取る。当該引き取り装置は、1.57m/分の速度にて糸状の樹脂を引き取る。そして、引き取り装置が糸状の樹脂を引き取るときに滑車にかかる張力の大きさを、ベースシート2のメルトテンションとした。
【0040】
例えば、ベースシート2を含むシート部材1が車両外装材に用いられる場合、飛び石などの高速で移動する物体がシート部材1に衝突することがある。よって、シート部材1が車両外装材に用いられる場合、常温における高速移動物体に対する耐衝撃性(耐高速衝撃性)が考慮されてもよい。加えて、低温下における高速移動物体に対する耐衝撃性(耐寒高速衝撃性)が考慮されてもよい。一実施形態では、ベースシート2の耐高速衝撃値は、例えば25J以上である。また、ベースシート2の耐寒高速衝撃値は、例えば30J以上、又は35J以上である。耐高速衝撃値及び耐寒高速衝撃値が上記範囲内であることにより、ベースシート2は、従来のABS系樹脂組成物の成形体よりも高い耐高速衝撃性を有し得る。ベースシート2の製造コスト等の観点から、常温下におけるベースシート2の耐高速衝撃値は、例えば40J以下である。なお、ベースシート2の耐高速衝撃値及び耐寒高速衝撃値は、ベースシート2を加工した試料の耐高速衝撃値及び耐寒高速衝撃値、もしくは、上記樹脂組成物から形成される試料の耐高速衝撃値及び耐寒高速衝撃値に相当する。
【0041】
ベースシート2の耐高速衝撃性及び耐寒高速衝撃性は、JIS K 7211-1:2006に定められる方法に沿って測定される。ベースシート2の耐高速衝撃性及び耐寒高速衝撃性は、例えば、以下に示す方法に沿って測定される。まず、所定の寸法を有する試料を準備する。次に、試料を高速衝撃試験機(例えば、株式会社島津製作所製「HTM-1」)の試料台に固定する。試験片固定治具の内径は3/2インチとした。ここで、高速衝撃試験機には、ピストンに連動する鉄製の打ち抜き治具(先端:半球形状、径:1/2インチ)が装着される。次に、上記治具が試料を打ち抜くように、上記高速衝撃試験機のピストンを秒速5mにて駆動させる。ここで、試料が打ち抜かれたときの破壊エネルギーを測定する。以上に説明した破壊エネルギーの測定は、常温下(23℃)と、低温下(-30℃)とのそれぞれにおいて実施される。これにより、ベースシート2の耐高速衝撃性及び耐寒高速衝撃性が得られる。なお、低温下においても、治具に打ち抜かれた試料は、延性破壊される。
【0042】
(表面シート3)
表面シート3は、シート部材1における被塗装部(下地層)であるシート状のカバー部材(カバーシート)であり、ベースシート2の表面2a上に位置する。表面シート3に塗装して得られるコーティング層などは、表面シート3に対して強固に付着し得る。すなわち、表面シート3は、上記コーティング層に対して良好な付着性(塗装付着性)を示す。コーティング層は、表面シート3に塗布される塗料の乾燥体である。塗料は、例えば、ウレタン系塗料、アクリルウレタン系塗料、アクリル系塗料などである。ウレタン系塗料は、ウレタン系樹脂を主成分とした塗料である。アクリルウレタン系塗料は、主成分であるアクリルポリオール樹脂と、ポリイソシアネート樹脂(硬化剤)とを含む塗料である。アクリル塗料は、アクリル樹脂を主成分とする塗料である。
【0043】
一例では、表面シート3に塗装される塗料のコーティング層に対して、JIS K 5600-5-6:1999(ISO 2409:1992)にて示されるクロスカット法を実施すると、全てのマス目が剥離しない結果が得られる付着性を、表面シートが3が示す。別例では、表面シート3に付着する、アクリルウレタン系塗料の塗布乾燥体である上記コーティング層に対して、10×10の2mm角のマス目を区画するグリッド状の溝を形成し、少なくとも全ての当該マス目にセロハンテープを貼り付けた後、ベースシート2を水平台上に固定した状態にて斜め上45~60度方向に向けてセロハンテープを引き剥がしたとき、全ての上記マス目の付着を維持可能な程度の付着性を、表面シート3が示す。グリッド状の溝は、例えばカッターナイフなどの切削部材によって形成される。また、セロハンテープの貼り付けおよび引き剥がしは、例えば、作業者による手作業によって実施されるが、これに限られない。
【0044】
本明細書における全てのマス目の付着を維持するとは、各マス目のいずれも表面シート3上に残存することに相当する。ここで、全100マス目の少なくとも一部のマス目において、セロハンテープの貼り付け前の形状と、セロハンテープの引き剥がし後の形状とは、互いに異なってもよい。このため、セロハンテープの引き剥がし後、所定のマス目の一部(例えば、マス目における溝の近傍部分)が剥離されてもよい。この場合、所定のマス目の他部がセロハンテープに追従する。例えば、セロハンテープの引き剥がし後、所定のマス目の85%以上が表面シート3に付着される場合、当該所定のマス目は、表面シート3上に残存するとみなされてもよい。もしくは、セロハンテープの引き剥がし後における各マス目の形状(コーティング層の形状)が、上記クロスカット法にて用いられる標準図における分類0,1,2のいずれかに該当する場合、全てのマス目の付着が維持されるとみなされてもよい。
【0045】
表面シート3は、ベースシート2の表面2a上に位置する。一実施形態では、表面シート3は、ベースシート2の表面2aに密着する。表面シート3は、例えば、押出成形されたシート状部材である。表面シート3の厚さは、ベースシート2よりも顕著に薄い限り、特に限定されない。一実施形態では、表面シート3の厚さは、50μm以上1mm以下である。一実施形態では、上記付着性の観点から、表面シート3は、後述する極性高分子化合物を含む。表面シート3は、ベースシート2の変形に対して良好に追従可能な性質を有する。この場合、ベースシート2を真空成形したときに、表面シート3に割れ、クラック、層間剥離などが発生しにくい。
【0046】
(表面シート3の原材料)
一実施形態では、表面シート3の原材料として、以下に説明する極性高分子化合物が含まれる。極性高分子化合物は、上記原材料における主成分であり、極性基を有するモノポリマーでもよいし、極性基を有するコポリマーでもよい。極性高分子化合物の原材料であるモノマーは、極性モノマーのみでもよいし、極性モノマーと無極性モノマーとの両方でもよい。極性モノマーは、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、無水マレイン酸、カルボン酸、グリセリンなどの少なくとも一つを含む。極性基は、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、無水マレイン酸基、エステル基、エポキシ基などの少なくとも一つを含む。無極性モノマーは、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、スチレンなどの少なくとも一つを含む。真空成形後、加熱後における付着性の維持の観点から、極性基は、無水マレイン基でもよい。よって、極性高分子化合物は、マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレン-メチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、オレフィン-エポキシ共重合体、ポリオレフィンアイオノマー、脂肪酸エステル、及び脂肪酸アミドからなる群から選択される少なくとも一つを含む。
【0047】
表面シート3の原材料には、添加剤が加えられてもよい。添加物は、上記樹脂組成物に含まれ得る添加剤に列挙される具体例の少なくとも一つを含む。
【0048】
以下では、本実施形態に係るシート部材1の製造方法の一例を、
図2を参照しながら説明する。
図2は、成形用シートの製造方法の一例を示す模式図である。
【0049】
一実施形態では、上記樹脂組成物を押出成形によってベースシート2に加工する。例えば、
図2に示されるように、押出成形装置100を用いて、樹脂組成物からシート状のベースシート2を形成する。この場合、最初に押出成形装置100のホッパ101に樹脂組成物Rを投入する。このとき、樹脂組成物R自体を投入してもよいし、上記(A)~(C)を別々または同時に投入してもよい。樹脂組成物R、上記(A)等は、固体でもよいし、液体でもよい。続いて、シリンダ102内にて樹脂組成物を加熱溶融すると共に、スクリュー103にて当該樹脂組成物を混連する。続いて、シリンダ102からダイス104を介して押出成形装置100の外部へ樹脂組成物を押し出す。押し出された樹脂組成物は、冷却ロール110によって冷却されると共にシート状に成形される。これにより、ベースシート2が形成される(第1工程)。第1工程後、形成されたベースシート2の表面上に表面シート3を設ける(第2工程)。第2工程では、ベースシート2の表面に対して、ロール120から引き出された表面シート3をラミネートする。これにより、ベースシート2及び表面シート3を有するシート部材1を形成する(シート形成工程)。
【0050】
次に、
図3及び
図4を参照しながら、シート部材1の成形方法の一例を説明する。
図3及び
図4(a),(b)は、成形シートの成形方法の一例を示す模式図である。まず、
図3に示されるように、シート部材1を加熱装置200に収容する。このとき、シート部材1は、加熱装置200のクランパ201,202によって、水平方向に引っ張られた状態に維持される。続いて、ヒータ203,204によってシート部材1を加熱する。例えば、150℃以上250℃以下にてシート部材1を加熱する。これにより、シート部材1を加工しやすくする。このとき、ベースシート2がシート部材1に含まれるため、シート部材1にドローダウンが発生しにくい。次に、
図4(a)に示されるように、加熱されたシート部材1を真空成形装置300に収容する。そして、真空成形装置300の駆動部301を駆動させることによって、型302をシート部材1に押し付ける。これにより、シート部材1が伸長する。次に、
図4(b)に示されるように、型302とシート部材1との間の空気を吸引する。これにより、シート部材1は、型302の表面に沿った形状に変形する。以上によって、型302の形状に相当するシート部材1が製造される。
【0051】
以上に説明した製造方法によって製造されるシート部材1は、ベースシート2に加えて、極性高分子化合物を含む表面シート3を有する。また、上述するように、表面シート3は、少なくともアクリルウレタン系塗料に対して良好な塗装付着性を示す。これによって、シート部材1に対しては、プライマーを塗装することなく、少なくともアクリルウレタン系塗料を良好に塗装できる。換言すると、シート部材1に対しては、プライマー塗装工程を省略できる。加えて、プライマー塗装工程を省略したとしても、シート部材1は、真空成形後(特に、加熱後)においても良好な塗装付着性を示す。よって、シート部材1を利用することによって、塗装中における揮発性有機化合物の排出を抑制可能である。
【0052】
一実施形態では、常温下において、ベースシート2の比重は1.05以下であり、ベースシート2の曲げ弾性率は、1300Mpa以上2500MPa以下でもよい。この場合、ベースシート2を有するシート部材1は、ABS樹脂を主成分とした成形体と比較して、低比重化を実現しつつ、高い剛性を有することができる。
【0053】
一実施形態では、極性高分子化合物は、マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレン-メチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、オレフィン-エポキシ共重合体、ポリオレフィンアイオノマー、脂肪酸エステル、及び脂肪酸アミドからなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。この場合、表面シート3の塗料に対する付着性が良好に発揮され得る。
【0054】
一実施形態では、常温下において、ベースシート2の曲げ弾性率は1400Mpa以上1900MPa以下でもよい。この場合、ベースシート2は、その成形性を維持しつつ、車両外装材として十分な剛性を示すことができる。
【0055】
一実施形態では、常温下において、ベースシート2のシャルピー衝撃値は35kJ/m2以上100kJ/m2以下でもよい。この場合、例えば単にポリプロピレンを主成分とした成形体、及び、ABS樹脂を主成分とした成形体よりも高い耐衝撃性を有するシート部材1を得ることができる。
【0056】
一実施形態では、低温下において、ベースシート2のシャルピー衝撃値は、10kJ/m2以上65kJ/m2以下でもよい。この場合、例えば単にポリプロピレンを主成分とした成形体、及び、ABS樹脂を主成分とした成形体よりも高い耐寒衝撃性を有するシート部材1を得ることができる。
【0057】
一実施形態では、ベースシート2の荷重たわみ温度は、90℃以上110℃以下でもよい。この場合、従来のポリプロピレン系樹脂組成物、ならびに、従来のABS系樹脂組成物の成形体よりも高い耐熱性を有するシート部材1を得ることができる。
【0058】
一実施形態では、190℃におけるベースシート2のメルトテンションは、45mN以上でもよい。この場合、ベースシート2の成形時にドローダウンが好適に発生しにくくなり、ベースシート2の厚みムラがより発生しにくくなる。
【0059】
一般に、樹脂組成物の成形体として、剛性、重さ、コストなどの特性が求められることがある。従来では、重さ及びコストを重視する場合にはポリプロピレンが主成分として用いられ、剛性を重視する場合にはABS樹脂が主成分として用いられる。ここで、ポリプロピレンを主成分とした樹脂成形体において重さ及びコストに加え剛性を重視する場合、例えば、ホモポリプロピレン又は無機フィラーを上記樹脂成形体に多量に含有させることが挙げられる。この場合、樹脂成形体の耐衝撃性(特に、耐寒高速衝撃性)が顕著に減少する傾向がある。よって、従来においては、重さ及びコストだけでなく、高い剛性と耐衝撃性の両立は困難であった。これに対して、ベースシート2は、主成分であるポリプロピレン、及び高密度ポリチレンを含むベース樹脂と、エラストマーと、フィラーとを含む。このベースシート2において、ベース樹脂の主成分は、ポリプロピレンである。これにより、例えばABS樹脂がベース樹脂の主成分である場合と比較して、ベースシート2を安価に形成できると共に、ベースシート2の低比重化を実現可能である。このため、例えばベースシート2を含むシート部材1が車両用部品等に用いられる場合、車両のコストダウン及び軽量化に寄与できる。加えて、ベース樹脂は、高密度ポリエチレンを含む。このため、ベースシート2の剛性を向上できる。
【0060】
ここで、量産性、量産コスト等の観点から、樹脂組成物の成形方法として、射出成形法が一般的である。このため、射出成形によって成形される成形物の特性が要求値を満たすための樹脂組成物(射出成形用樹脂組成物)の研究開発は多くなされている。これに対して、射出成形法とは異なる成形法に適した樹脂組成物の研究開発は、射出成形用樹脂組成物と比較してさほど盛んではないと言える。ましてや、射出成形法とは異なる成形法に適した樹脂組成物の成形物であって、低コスト及び低比重だけでなく、高い剛性と耐衝撃性とを両立可能な成形物の研究開発は、ほぼなされていない傾向がある。これに対して、一実施形態に係る、ベースシート2用の樹脂組成物のメルトフローレートは、5g/10分未満でもよい。この場合、ベースシート2を有するシート部材1の成形方法として、射出成形法よりもむしろ押出成形法及び真空成形法の方が好適である。にもかかわらず、上述したように、ベースシート2を有するシート部材1は、低コストを実現可能であるとともに低比重でありながら、比較的高い剛性と耐衝撃性とを兼ね揃え得る。換言すると、一実施形態に係るシート部材1は、射出成形にて形成されていないにもかかわらず、樹脂組成物の低コストを実現可能であるとともに低比重でありながら、比較的高い剛性と耐衝撃性とを兼ね揃え得る。
【0061】
一実施形態では、ベース樹脂と、エラストマーと、フィラーとの全量を基準として、ベース樹脂の含有量は、55質量%以上80質量%以下であり、エラストマーの含有量は、5質量%以上25質量%以下であり、フィラーの含有量は、5質量%以上30質量%以下でもよい。このようにベース樹脂、フィラー、ならびに、エラストマーが、上述した含有量の範囲内にて混合されることによって製造される樹脂組成物のベースシート2は、低比重でありながら、比較的高い剛性と耐衝撃性(特に、耐寒高速耐衝撃性)とを兼ね揃え得る。
【0062】
本開示の一側面に係る樹脂組成物、車両外装材、及び車両外装材の製造方法は、上記実施形態に限られない。例えば、上記一実施形態では、成形用シートは、ベースシートの表面に対して表面シートがラミネートされることによって形成されるが、これに限られない。
図5は、成形シートの製造方法の別例を示す概略斜視図である。
図5に示されるように、シート形成工程では、共押出装置500を利用し、ベースシート2と表面シート3とを共押出により、シート部材1を形成してもよい。この場合、ベースシート2と、表面シート3とは、共押出シートである。このようにベースシート2と表面シート3とを共押出する場合、表面シート3の加工工程などを省略できるため、シート部材1の生産性を向上できる。
【0063】
上記一実施形態では、ベースシートの表面のみに表面シートが設けられるが、これに限られない。
図6は、成形シートの別例の模式断面図である。
図6に示されるように、変形例に係るシート部材1Aは、ベースシート2、表面シート3及び裏面シート4を有する。裏面シート4は、表面シート3と同様の機能を発揮し得るシート状の部材であり、ベースシート2の裏面2b上に位置する。すなわち、裏面シート4は、上述したコーティング層に対して良好な付着性(塗装付着性)を示し得る。一例では、裏面シート4は、表面シート3と同様に、上記極性高分子化合物を含む。この場合、裏面シート4は、表面シート3と同様の塗料付着性を発揮し得る。裏面シート4の原材料には、添加剤が加えられてもよい。裏面シート4は、例えば、押出成形にて形成される。このとき、裏面シート4は、ベースシート2及び表面シート3と共押出されることによって形成されてもよい。この場合、ベースシート2と、表面シート3と、裏面シート4とは、共押出シートである。もしくは、裏面シート4は、ベースシート2の裏面2bに対して、ラミネートされてもよい。以上に説明した変形例に係るシート部材1Aにおいても、上記一実施形態と同様の作用効果が発揮される。加えて、プライマー塗装工程を実施することなく、シート部材1Aの全体を良好に塗装できる。
【実施例0064】
本開示を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
まず、サンアロマー株式会社製、型番:VB170Aのポリプロピレン60質量%と、京葉ポリエチレン株式会社製、型番:T4002のポリエチレン10質量%と、クレイトンポリマージャパン株式会社製、型番:G1657のエラストマー(スチレン系ブロック共重合体)8質量%と、竹原化学工業株式会社製、型番:MAX1470Tの無機フィラー22質量%との混合物を準備した。当該混合物を株式会社ジーエムエンジニアリング製の押出成形機(GM50-36V)にて押出成形することによって、厚さ3mmのベースシートを形成した。
【0066】
続いて、上記ベースシートと、厚さ0.1mmのマレイン酸変性フィルム(東洋紡株式会社製、型番:M-300)とを一対の冷却圧延ロールに挿入し、押出ラミネートを実施した。これにより、ベースシート及び表面シートを有する成形用シートを形成した。
【0067】
次に、アクリルウレタン系塗料(株式会社オリジン商事製、一般溶剤型 2液塗料 プラネットPZ、白色)を、プラネットシンナー ♯D260、ポリハード ZP-10(共に株式会社オリジン商事製)を、成形用シートの表面シートに塗装した。このとき、エアブラシ(アネスト岩田株式会社製、HP-CR、ノズル径:0.5mm)及びコンプレッサ(アネスト岩田株式会社製、IS800-J、最高圧力:0.4MPa)を用い、手作業にて、アクリルウレタン系塗料を表面シートに1回塗装した。塗装後、常温にて5分以上、成形用シートを静置した後、60℃にて60分以上、成形用シートを乾燥した。以上により、表面シート上にコーティング層を形成した。
【0068】
(比較例1)
ベースシートの表面に対してコロナ処理(春日電機株式会社製コロナ処理装置:HF403、条件:10~100W・min/m2)を実施した。続いて、コロナ処理後の表面に対して、実施例1と同様の条件にてアクリルウレタン系塗料を塗装した。これにより、ベースシートの表面上にコーティング層を形成した。
【0069】
(比較例2)
ベースシート用の混合物に対して、日本ポリエチレン株式会社製のエチレン系コポリマー(レクスパール(登録商標)ET、ET330H)を25質量%添加した後、押出成形にてベースシートを形成した。続いて、実施例1と同様の条件にてアクリルウレタン系塗料を塗装した。これにより、ベースシートの表面上にコーティング層を形成した。
【0070】
(比較例3)
ベースシート用の混合物に対して、マレイン酸変性ポリプロピレン(理研ビタミン株式会社製、型番:MG-441)を10質量%添加した後、押出成形にてベースシートを形成した。続いて、実施例1と同様の条件にてアクリルウレタン系塗料を塗装した。これにより、ベースシートの表面上にコーティング層を形成した。
【0071】
(付着性評価試験)
図7に示されるように、カッターナイフを利用し、実施例1及び比較例1,2のそれぞれのコーティング層に対して10×10(合計100)のマス目Sを区画するグリッド状の溝Gを形成した。各マス目Sの寸法L1,L2は、いずれも2mmとした。続いて、少なくとも全てのマス目Sにセロハンテープを、手作業にて強固に圧着した。続いて、成形用シートを水平台上に固定した状態にて、セロハンテープの端を作業者が摘まみ、当該端を約45度から約60度方向に向けてセロハンテープを引き剥がした。その後、各マス目Sの状態を目視にて確認することによって、塗料の付着性評価試験を実施した。
【0072】
実施例1及び比較例1においては、全てのマス目Sの表面シートへの付着が維持されていることが確認された。ここで、実施例1の成形用シートと、比較例1の成形用シートとのそれぞれに対して、170℃、5分の加熱処理を実施した。当該加熱処理後、実施例1における各マス目Sは表面シート上に残存していた。一方、比較例1における少なくとも一のマス目Sは、表面シートから剥離していた。一方、比較例2,3においては、上記付着性評価試験後、少なくとも一のマス目Sの表面シートからの剥離が確認された。