(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088231
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】酸素欠損型ペロブスカイト金属酸化物、酸素吸脱着装置、酸素吸脱着方法、酸素濃縮装置、及び酸素濃縮方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20240625BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20240625BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240625BHJP
B01D 53/047 20060101ALI20240625BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C01G49/00 C
B01J20/06 C
B01J20/34 E
B01J20/34 H
B01D53/047
B01D53/04 220
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203302
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 怜
(72)【発明者】
【氏名】山原 圭二
(72)【発明者】
【氏名】本橋 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 哲志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 美和
(72)【発明者】
【氏名】田村 紗也佳
【テーマコード(参考)】
4D012
4G002
4G066
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012CA05
4D012CB11
4D012CD07
4D012CD10
4D012CE03
4D012CF10
4D012CG01
4G002AA08
4G002AB02
4G002AB06
4G002AB07
4G002AE05
4G066AA13B
4G066AA16B
4G066AA17B
4G066AA23B
4G066AA24B
4G066AA26B
4G066AA37B
4G066AA39B
4G066BA36
4G066CA37
4G066DA03
4G066GA14
4G066GA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高価な金属元素を含有せずとも、比較的低温領域で酸素の吸脱着が可能であり、かつ、酸素吸脱着速度及び最大酸素吸着量に優れた金属酸化物を提供すること。
【解決手段】下記式(I)で表される、酸素欠損型ペロブスカイト型金属酸化物。
(Ba
8-x-yCa
xFe
y)
(8-z)/8M
zO
9.5+δ(I)
(上記式(I)において、Mは、アルカリ金属、Ba及びCa以外のアルカリ土類金属、希土類金属、並びにFe以外の遷移金属からなる群より選択される1種以上の元素を表し;x、y、z、及びδはそれぞれ下記式を満たす値である。1<x≦2.751.25≦y<30≦z≦1.5―1.3≦δ≦3.5)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される、酸素欠損型ペロブスカイト型金属酸化物。
(Ba8-x-yCaxFey)(8-z)/8 MzO9.5+δ (I)
(上記式(I)において、Mは、アルカリ金属、Ba及びCa以外のアルカリ土類金属、希土類金属、並びにFe以外の遷移金属からなる群より選択される1種以上の元素を表し;
x、y、z、及びδはそれぞれ下記式を満たす値である。
1<x≦2.75
1.25≦y<3
0≦z≦1.5
―1.3≦δ≦3.5)
【請求項2】
酸素濃度21%雰囲気下での温度スイング吸脱着(TSA)測定から求められる相転移温度が500℃以下である、
請求項1に記載の、酸素欠損型ペロブスカイト型金属酸化物。
【請求項3】
Mが、Na、K、Sr、Ti、Mn、Co、Ni、Nb、Ta、及びLaからなる群より選択される1種以上の元素である、
請求項1に記載の、酸素欠損型ペロブスカイト型金属酸化物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属酸化物を含む、酸素吸蔵材。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属酸化物を備える、酸素吸脱着装置。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属酸化物を備える、酸素濃縮装置。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属酸化物と酸素含有ガスとを酸素吸着が生じる温度以下で接触させることにより、前記金属酸化物に酸素を吸着させる酸素吸着工程、及び前記酸素吸着工程において酸素を吸着させた前記金属酸化物を酸素脱着が生じる温度以上700℃以下の温度で加熱することにより、前記金属酸化物から酸素を脱着させる酸素脱着工程を含む、酸素吸脱着方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属酸化物と酸素分圧が0kPa超100kPa以下である酸素含有ガスとを接触させることにより、前記金属酸化物に酸素を吸着させる酸素吸着工程、及び前記酸素吸着工程において酸素を吸着させた前記金属酸化物を前記酸素含有ガスより酸素分圧が低い雰囲気下に置くことで前記金属酸化物から酸素を脱着させる酸素脱着工程を含む、酸素吸脱着方法。
【請求項9】
請求項7に記載の酸素吸脱着方法により前記金属酸化物から脱着した酸素を回収する酸素回収工程を含む、酸素濃縮方法。
【請求項10】
請求項8に記載の酸素吸脱着方法により前記金属酸化物から脱着した酸素を回収する酸素回収工程を含む、酸素濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物、酸素吸脱着装置、酸素吸脱着方法、酸素濃縮装置、及び酸素濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温暖化対策、カーボンニュートラルな産業構造ヘの転換などの観点から、従来法よりも省エネルギーな新規酸素ガス製造法が注目を集めている。その中でも、温度変化や環境中の酸素濃度に応じ、酸素を可逆的に吸収及び放出する酸素吸蔵材が応用上の注目を集め、特にこの酸素吸脱着能を利用した酸素ガス濃縮器、酸素ガス製造システムへ等への応用が期待されている。このような酸素吸蔵材としては、例えばYBaCo4O7+δ(特許文献1~4)、Ca2AlMnO5+β(特許文献5、6)等の種々の金属酸化物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-012619号公報
【特許文献2】特開2016-193815号公報
【特許文献3】特開2018-008871号公報
【特許文献4】特開2019-043833号公報
【特許文献5】特開2013-255911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸素吸蔵材を用いた酸素ガス製造プロセスにおいて、プロセスの実用化のためには、低コストな組成の材料、工場排熱量と装置耐熱の観点から450℃以下の作動温度を有すること、素早い酸素の吸放出が可能なこと、これらをすべて充足する材料が必要となる。従来の報告ではペロブスカイト系の物質でも最適動作温度が600℃付近と高温であること、低温作動型の物質は高価な元素を必要とすること、あるいは吸放出速度が遅いことなどの課題があり、プロセスの実用化には至っていない。
例えば、特許文献1~4に記載の金属酸化物は、構成元素に高価な金属元素であるYやCoを多量に含有するため、原料コストが実用化の障壁となる。一方で、特許文献5に記載の金属酸化物においては、金属元素として比較的安価な金属元素のみを使用できるが、酸素吸放出特性がもっとも高活性となる活性温度が高温となる傾向にあるため、酸素ガス濃縮器等の装置の耐熱性を考慮すると、実用化上問題があった。また、装置の耐熱性の問題を解決できたとしても、排熱を利用して材を活性温度に加熱する場合は、排熱量の確保などの観点から、適用できるプロセスが限られる。
【0005】
本発明の課題は、高価な金属元素を含有せずとも、比較的低温領域で酸素の吸脱着が可能であり、かつ、酸素吸脱着速度及び最大酸素吸着量に優れた金属酸化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高価な金属元素を含有せずとも、Ba、Ca、及びFeを主元素とする特定組成域の酸素欠損型ペロブスカイト金属酸化物では、Feの3価、4価遷移を伴う相変化を利用することで、450℃以下での素早い酸素の吸放出が可能であり、上記課題を解決できることを見出した。ここで、特に構成元素のCaおよびFeの存在比率に応じ
て新規の結晶相が生成し、特性を制御可能であり、同組成域の物質が低温作動化、酸素生成能に優位であることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0007】
[1]
下記式(I)で表される、酸素欠損型ペロブスカイト型金属酸化物。
(Ba8-x-yCaxFey)(8-z)/8 MzO9.5+δ (I)
(上記式(I)において、Mは、アルカリ金属、Ba及びCa以外のアルカリ土類金属、希土類金属、並びにFe以外の遷移金属からなる群より選択される1種以上の元素を表し;
x、y、z、及びδはそれぞれ下記式を満たす値である。
1<x≦2.75
1.25≦y<3
0≦z≦1.5
―1.3≦δ≦3.5)
[2]
酸素濃度21%雰囲気下での温度スイング吸脱着(TSA)測定から求められる相転移温度が500℃以下である、
[1]に記載の、酸素欠損型ペロブスカイト型金属酸化物。
[3]
Mが、Na、K、Sr、Ti、Mn、Co、Ni、Nb、Ta、及びLaからなる群より選択される1種以上の元素である、
[1]または[2]に記載の、酸素欠損型ペロブスカイト型金属酸化物。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の金属酸化物を含む、酸素吸蔵材。
[5]
[1]~[3]のいずれかに記載の金属酸化物を備える、酸素吸脱着装置。
[6]
[1]~[3]のいずれかに記載の金属酸化物を備える、酸素濃縮装置。
[7]
[1]~[3]のいずれかに記載の金属酸化物と酸素含有ガスとを酸素吸着が生じる温度以下で接触させることにより、前記金属酸化物に酸素を吸着させる酸素吸着工程、及び前記酸素吸着工程において酸素を吸着させた前記金属酸化物を酸素脱着が生じる温度以上700℃以下の温度で加熱することにより、前記金属酸化物から酸素を脱着させる酸素脱着工程を含む、酸素吸脱着方法。
[8]
[1]~[3]のいずれかに記載の金属酸化物と酸素分圧が0kPa超100kPa以下である酸素含有ガスとを接触させることにより、前記金属酸化物に酸素を吸着させる酸素吸着工程、及び前記酸素吸着工程において酸素を吸着させた前記金属酸化物を前記酸素含有ガスより酸素分圧が低い雰囲気下に置くことで前記金属酸化物から酸素を脱着させる酸素脱着工程を含む、酸素吸脱着方法。
[9]
[7]または[8]に記載の酸素吸脱着方法により前記金属酸化物から脱着した酸素を回収する酸素回収工程を含む、酸素濃縮方法。
【発明の効果】
【0008】
以上より、本発明によれば、高価な金属元素を含有せずとも比較的低温領域で酸素の吸脱着が可能であり、かつ、酸素吸脱着速度及び最大酸素吸着量に優れた金属酸化物を提供することができる。
この金属酸化物は、酸素吸蔵材として用いることができ、実用的な運転条件で酸素吸脱
着装置や酸素濃縮装置に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で得た金属酸化物の空気気流下での雰囲気温度スイングによる酸素吸脱着挙動を示す図である。
【
図2】比較例1で得た金属酸化物の空気気流下での雰囲気温度スイングによる酸素吸脱着挙動を示す図である。
【
図3】比較例2で得た金属酸化物の空気気流下での雰囲気温度スイングによる酸素吸脱着挙動を示す図である。
【
図4】実施例1、比較例1、および比較例2の製造直後の酸素放出相の状態にある金属酸化物の粉末XRD測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
なお本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値および上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0011】
<1.金属酸化物>
本発明の第一の実施形態は、下記式(I)で表される、酸素欠損型ペロブスカイト型金属酸化物である。
(Ba8-x-yCaxFey)(8-z)/8 MzO9.5+δ (I)
(上記式(I)において、Mは、アルカリ金属、Ba及びCa以外のアルカリ土類金属、希土類金属、並びにFe以外の遷移金属からなる群より選択される1種以上の元素を表し;
x、y、zはそれぞれ下記式を満たす値であり、
1<x≦2.75
1.25≦y<3
0≦z≦1.5
―1.3≦δ≦3.5)
【0012】
式(I)中、δは、酸素不定比量を示し、カチオンの価数状態によって変化し、雰囲気や温度等の外部環境に応じて連続的に変化する。
Mは、Feサイト、Baサイト、及びCaサイトから選択されるサイトの置換元素であり、本発明の効果を損なわない範囲で適宜それぞれのサイト、あるいは2種以上のサイトに含有させることができる。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、式(I)の金属酸化物は他の元素を含んでいてもよく、例えば、不可避不純物元素等の他の元素を含んでいてもよい。
さらに、Ba、Ca及びFeから選択される金属元素が他のサイトに置換していてもよい。
【0013】
xは、不純物相生成抑制の観点から、好ましくは1.05≦x≦2.0、より好ましくは1.1≦x≦1.5、さらに好ましくは1.2≦x≦1.4である。
yは、不純物相生成抑制の観点から、好ましくは1.5≦y≦2.95、より好ましくは2.0≦y≦2.9、さらに好ましくは2.5≦y≦2.8である。
zは、不純物相生成抑制の観点から、好ましくは0≦z≦1.4、より好ましくは0≦z≦1.3、さらに好ましくは0≦z≦1.1、特に好ましくは0≦z≦1.0である。
【0014】
上記好ましい金属組成としては、例えばBa:Ca:Fe=4:1.3:2.7が挙げ
られる。
【0015】
また、Mは、相転移温度や酸素吸着量の制御の観点から、Na、K、Sr、Ti、Mn、Co、Ni、Nb、Ta、及びLaからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましい。
【0016】
本実施形態の金属酸化物は、酸素吸着により酸素放出相から酸素吸蔵相に相転移し、酸素脱着(放出)により前記酸素吸蔵相から前記酸素放出相に相転移する金属酸化物であって、Feを含有する。この金属酸化物は、酸素欠損型ペロブスカイト型金属酸化物であり、前記酸素放出相及び前記酸素吸蔵相の両状態でFeの価数や酸素配位数が変化し、その結果結晶構造が変化する。また、これらの金属酸化物は、さらに希土類金属、遷移金属元素、アルカリ金属元素、及びアルカリ土類金属元素から選択される1種以上の元素を含有していてもよく、また、これらの金属酸化物は、前記酸素吸蔵相の状態で前記Feの平均価数が3価より大きいことが好ましい。
【0017】
ここで、Feの価数状態に関してはTG測定や酸素滴定測定、またはメスバウワースペクトル測定により特定することができる。酸素配位数や結晶構造は、X線回折(XRD)測定とその解析により特定することができる。
【0018】
酸素放出相及び酸素吸蔵相の両状態で結晶構造が変化することから、温度及び/又は雰囲気に誘起される明確な可逆的相転移を示すため、この相転移を利用した酸素吸脱着、酸素濃縮等への応用が可能となる。
【0019】
また、本実施形態の金属酸化物の酸素放出相から酸素吸蔵相への相転移においては、酸素放出相におけるカチオン-酸素イオンの結合関係が維持されたまま、吸着した酸素のイオンとカチオンとの結合が形成され、かつ、アニオンサイトの一部又は全てが前記吸着した酸素のイオンで占有されて金属の配位数が増加することが好ましい。したがって、酸素放出相と酸素吸蔵相は異なる秩序化状態であり、空間群が変化することが好ましい。ここで、「空間群が変化する」とは、XRDパターンのメインピーク強度に対して10%以上の強度のピーク数が、両状態で変化することを意味する。
【0020】
本実施形態の金属酸化物は、本発明の効果を損なわない範囲、特にカチオンサイト及びアニオンサイトの秩序を維持できる範囲で、ドーパントとしての微量元素を含有してもよく、ドーパントを含有していなくてもよい。ドーパントとしては、酸素吸脱着速度向上や酸素吸脱着温度制御の観点から、例えば遷移金属元素が挙げられる。これらのうち、ドーパントとしては、Ru、Rh、Pd、Ag、Re、Ir、Pt及びAuからなる貴金属元素群より選択される1種以上の元素が好ましい。
【0021】
ドーパントの含有量を調整することによっても、酸素吸脱着速度や酸素の吸脱着温度を制御することができる。ドーパントの含有量は、カチオンサイト及びアニオンサイトの秩序を維持する観点から、ドーパントを含む全カチオン量に対し5mol%以下であることが好ましく、2.5mol%以下であることがより好ましく、1mol%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
本実施形態の金属酸化物は、酸素吸蔵相の状態でFeの平均価数が、好ましくは3超、より好ましくは3.1以上、また、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下である。
Feの価数遷移域を上記範囲内とすることで、安価な金属の酸化物であっても、比較的低温での酸素吸脱着を可能とすることができる。
【0023】
<2.金属酸化物の形態>
<2-1.平均一次粒子径>
本実施形態の金属酸化物の平均一次粒子径は、特に制限されないが、酸素吸脱着速度(酸素吸放出速度)の観点から、体積基準の平均一次粒子径で、100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。一方、粒子径の減少により比表面積が増加し、酸素の吸脱着速度が向上するため、平均一次粒子径の下限を設けることは要しないが、取り扱い性の観点から、通常5nm以上である。
【0024】
平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、粒子が確認できる倍率、例えば5000~100000倍の倍率のSEM写真、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0025】
<2-2.比表面積>
本実施形態の金属酸化物の比表面積は、特に制限されないが、酸素吸脱着速度の観点から、0.1m2/g以上であることが好ましく、1m2/g以上であることがより好ましく、10m2/g以上であることが特に好ましい。一方、比表面積が高いほど酸素吸脱着速度が向上するため、比表面積の上限を設けることは要しないが、通常100m2/g以下である。
【0026】
比表面積はBET法により測定でき、例えば、マイクロトラックベル社製 BELLSORP MAXIIを用いて測定することができる。具体的には、金属酸化物を150℃で1時間減圧乾燥した後、窒素ガス吸着によるBET多点法(相対圧0.05~0.30の範囲において5点)により測定することができる。
【0027】
<2-3.形状>
本実施形態の金属酸化物は、その取扱い性を向上させたり、装置への充填時の強度や、ガスの流通しやすさを考えて、造粒したり、あるいは適当な形状に成形したりして用いてもよい。
【0028】
<3.金属酸化物の評価>
<3-1.金属酸化物の組成分析>
本実施形態の金属酸化物の組成は、以下の方法で金属酸化物中の各元素の含有量を測定することにより、分析することができる。
【0029】
<3-1-1.金属元素の分析>
本実施形態の金属酸化物中の金属元素の組成は、以下の手順で誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析(ICP分析)により測定することができる。
ICP分析の測定条件は特段制限されないが、例えば、アジレント・テクノロジー社製
Agilent 8900、トリプル四重極ICP-MSを用い、測定対象元素の標準溶液から3水準の金属濃度の水溶液を調製して検量線を作成したうえで、粉末試料50mg程度を塩酸水溶液に溶解し、溶液中の各元素の存在量を求めることで測定できる。
【0030】
<3-1-2.酸素元素の分析>
本実施形態の金属酸化物中の酸素元素量は、後述する3-5に記載の方法で金属元素の平均価数を測定し、全金属元素の価数の和を2で割ったものと定義する。
【0031】
<3-2.粉末X線回折測定>
粉末X線回折(XRD)測定により、本実施形態の金属酸化物の結晶構造を評価することができる。当該測定の方法は特段制限されないが、例えば、X’Pert Pro MPD(PANalytical社製)を用い、下記の条件で測定することができる。
線源:CuKα
測定範囲:2θが5°から90°の角度
測定間隔:0.02°
電圧:45kV
電流:30mA
【0032】
<3-3.SEM観察及びSEM-EDX>
上述したように、SEMを用いることにより、本実施形態の金属酸化物の平均粒子径を評価することができる。
また、本実施形態の金属酸化物が置換元素やドーパントを含有する場合は、SEM-EDXを用いることにより、金属酸化物中のドーパントの分布状態を評価することができる。SEM-EDXの測定条件は特段制限されないが、例えば、装置としてEMAX X-act(HORIBA製)を用い、加圧電圧15kVにおいて、含有元素についてのマッピングを行うことで測定できる。
【0033】
<3-4.熱重量分析(TG)>
TG装置を用いることにより、本実施形態の金属酸化物の酸素吸着挙動の観察、並びに酸素吸着量及び相転移温度の測定を行うことができる。
【0034】
TGの測定条件は特段制限されないが、例えば、温度スイングによる酸素吸脱着挙動は、TG装置としてThermo Plus 8120(Rigaku社製)を用い、窒素気流下、1000℃でリフレッシュ処理することで、金属酸化物に吸着した酸素や水分等を除去した後、空気気流下(酸素分圧20.9kPa、流量400mL/min)、100℃から1000℃まで昇温速度5℃/minで昇温し、次いで1000℃から100℃まで降温速度5℃/minで降温させ、その間の重量変化を計測することにより観察することができる。
【0035】
また、例えば、酸素分圧スイングによる酸素吸脱着挙動は、TG装置としてThermo Plus 8120(Rigaku社製)を用い、窒素気流下(酸素分圧0.002kPa以下、流量400mL/min)で特定温度まで昇温し、フローするガスを空気(酸素分圧20.9kPa、流量400mL/min)へ切り替え、その後、フローするガスを窒素(酸素分圧0.002kPa以下、流量400mL/min)へ切り換え、その間の重量変化を計測することにより観察することができる。
【0036】
本実施形態の金属酸化物は、酸素濃度21%雰囲気下での温度スイング吸脱着(TSA)測定から求められる相転移温度が500℃以下であることが好ましい。
上記相転移温度は、450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。
金属酸化物の酸素濃度21%雰囲気下での温度スイング吸脱着(TSA)測定から求められる相転移温度は、以下の手順で測定することができる。
TG装置としてThermo Plus 8120(Rigaku社製)を用い、窒素気流下、1000℃で加熱しリフレッシュ処理することで、金属酸化物に吸着した酸素や水分等を除去した後、空気気流下(酸素分圧21kPa)、100℃から1000℃まで昇温速度5℃/minで昇温し、次いで1000℃から100℃まで降温速度5℃/minで降温させ、その間の重量変化を温度変化で微分し、昇温過程の微分値が最小となる温度と降温過程の微分値が最大となる温度の和を2で割った値を、金属酸化物の相転移温度と定義する。
【0037】
<3-5.平均価数の測定>
金属酸化物のFe平均価数は、TG測定による酸素吸蔵時の重量変化量から算出することができる。TG測定時の酸素吸着に伴う重量増加量より、酸素放出相から酸素吸蔵相へ相転移する過程で吸着した酸素原子のモル量を求める。この酸素原子(アニオン)の増加に対して、電気的中性を維持するようにFeの価数遷移(価数増加)が生じるとし、酸素吸蔵相中のFe平均価数を算出する。
その他、メスバウワースペクトル測定から評価することができる。
【0038】
また、ヨウ素滴定により、金属酸化物中の含有酸素量を測定することによっても金属酸化物のFe平均価数を求めることができる。滴定装置としては、例えば電位差自動滴定装置(Automatic Potentiometric Titrator,AT-710,京都電子工業製)を用いることができる。より具体的には、金属酸化物に、純水、ヨウ化カリウム、及び3mol/L塩酸を加え、5分間以上加熱撹拌し金属酸化物を溶解させる。その後、チオ硫酸ナトリウム用いて反応により遊離したヨウ素を滴定し、Feの還元に用いられたヨウ化ナトリウムを求め、Fe元素量からFeの価数を算出する。
【0039】
<4.金属酸化物の製造方法>
本実施形態に係る金属酸化物の製造方法は、特段制限されず、公知の金属酸化物の製造方法に準じて製造することができる。公知の金属酸化物の製造方法としては、例えば、特開2011-121829号公報に記載の方法が挙げられる。
【0040】
出発原料として、鉄含有化合物、アルカリ金属含有化合物、アルカリ土類金属含有化合物、置換元素含有化合物等の金属酸化物に含まれる各金属の化合物、及び必要に応じてドーパント元素含有化合物を純水に溶解して硝酸塩水溶液(水溶液A)を調製する。また、クエン酸を純水に溶解して、クエン酸水溶液(水溶液B)を別途調製する。
【0041】
次いで、撹拌下の水溶液Aに、水溶液Bを加え、得られた混合溶液を加熱(一次焼成)し、金属クエン酸錯体を前駆体として得る。この得られた前駆体を加熱(二次焼成)し、有機物を燃焼させた粉末を得る。得られた粉末を粉砕した後、より高温での加熱(三次焼成)を行うことで、本発明の実施形態に係る金属酸化物が得られる。
【0042】
なお、上記のように、原料を溶液に溶解させる方法を採用する場合、前述した金属の化合物及びドーパント元素含有化合物としては、塩化物、酸化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、サリチル酸塩、酢酸塩、炭酸塩、水酸化物等が挙げられ、生成物の組成制御の観点から、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩であることが好ましく、特に硝酸塩であることが好ましい。上記出発原料がこれら塩である場合、金属酸化物の製造に伴う副生成物は、窒素、酸素、塩素、炭素、硫黄等を含有するガス又は水であり、容易に系外に排除できるからである。
【0043】
上記のように溶液法で合成した前駆体に対し焼成処理を行う方法以外に、出発原料として、鉄含有化合物、アルカリ金属含有化合物、アルカリ土類金属含有化合物、置換元素含有化合物等の金属酸化物に含まれる各金属の化合物、及び必要に応じてドーパント元素含有化合物の粉末を混合し、焼成処理を行う、固相法によって合成することも可能である。
一般的に、固相法で合成する場合は溶液法よりも前駆体の段階、及び焼成後の段階で各元素の組成分布の偏りが生じやすいため、原料粉末の粒度制御、及び粉体の均一混合を行うことが重要である。例えば、小粒子径かつ凝集の少ない原料粉を使用すること、ボールミル等により混合すること等が有効である。
【0044】
上記の製造方法のように、焼成を行う方法を採用する場合、焼成温度及び焼成時間は特段制限されないが、不純物相低減の観点から、目的相が主相又は単一相として生成する焼
成温度及び焼成時間であることが好ましい。目的相が主相又は単一相であることにより、金属酸化物は、酸素放出相及び酸素吸蔵相の両状態でカチオンサイト及びアニオンサイトが秩序化しやすいと考えられるから、また、金属酸化物の単位重量当たりの最大酸素吸着量が増加するからである。なお、目的相が主相又は単一相であるか否かは、XRD測定により判断される。
一方で、焼結による比表面積の低下抑制及びるつぼとの副反応低減の観点から、目的相の融点以下での処理が好ましい。
【0045】
また、上記の製造方法のように、焼成を行う方法を採用する場合、その焼成雰囲気は特段制限されず、目的の金属酸化物に応じて適宜選択することができる。最終的な焼成雰囲気は、例えば、酸素-不活性ガス混合雰囲気であってもよく、不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0046】
<5.金属酸化物の用途>
第一の実施形態に係る金属酸化物は、省エネルギーな新規酸素ガス製造や、エネルギーに関わる分野、環境保護に関わる分野で用いることができ、例えば、酸素吸蔵材、酸素ガスを濃縮する際の触媒、燃料電池の正極材料、酸素吸脱着装置、酸素濃縮装置等の用途に利用することができる。以下に、本発明の他の実施形態として、第一の実施形態に係る金属酸化物を用いた酸素吸脱着装置及び酸素吸脱着方法、並びに酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法について詳細に説明する。
【0047】
<6-1.酸素吸脱着装置及び酸素吸脱着方法>
本発明の第二の実施形態に係る酸素吸脱着装置は、本発明の第一の実施形態に係る金属酸化物を備えた酸素吸脱着装置である。また、本発明の第三の実施形態に係る酸素吸脱着方法は、本発明の第一の実施形態に係る金属酸化物を用いた酸素吸脱着方法である。
【0048】
本発明の第三の実施形態に係る酸素吸脱着方法としては、酸素含有ガスを酸素吸着が生じる温度以下で金属酸化物に接触させることで、金属酸化物に酸素を吸着させる酸素吸着工程、及び酸素吸着工程において酸素を吸着させた金属酸化物を酸素脱着(放出)が生じる温度以上700℃以下の温度で加熱することにより、金属酸化物から酸素を脱着させる酸素脱着工程を含む方法(温度スイング吸着法)を挙げることができる。ここで用いられる酸素含有ガスは特に限定されるものではないが、例えば空気、酸素等を挙げることができる。酸素吸着温度及び酸素脱着温度は使用する金属酸化物の相転移温度によって選択される。相転移温度は、金属酸化物の組成、酸素含有ガス中の酸素濃度等により変動するが、酸素吸着温度及び酸素脱着温度の好ましい範囲は、具体的には次の通りである。酸素吸着温度は、酸素脱着温度より低温の範囲で、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。酸素脱着温度は、運転温度低下の観点及び装置寿命の長期化等の観点から、酸素吸着温度より高温の範囲で、700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましく、500℃以下であることがさらに好ましい。また、金属酸化物を酸素吸着温度に降温する時間、酸素脱着温度に昇温する時間を短縮するために、また熱交換に要する負荷を低減させるために、酸素吸着温度と酸素脱着温度の温度差は、小さいほど好ましい。具体的には、当該温度差は、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましい。
【0049】
また、本発明の第一の実施形態に係る金属酸化物を用いた酸素吸脱着方法としては、上記のように温度の上下動を利用した方法のみでなく、酸素分圧の上下動による酸素吸脱着を利用した方法(圧力スイング吸着法)、例えば、200℃以上700℃以下において、酸素分圧が0kPaより大きく100kPa以下となる範囲で、空気等の酸素含有ガスを
前記金属酸化物に接触させることにより、前記金属酸化物に酸素を吸着させる酸素吸着工程、及び酸素分圧が100kPa未満かつ前記酸素含有ガスより低い雰囲気下で酸素吸着工程において酸素を吸着させた前記金属酸化物から酸素を脱着させる酸素脱着工程を含む方法を挙げることができる。この場合、酸素吸着量の観点から、酸素吸着工程における酸素分圧は、5kPa以上であることが好ましく、10kPa以上であることがより好ましく、15kPa以上であることが特に好ましい。また、酸素脱着工程における酸素分圧は、通常0kPa以上であり、酸素脱着量の観点から吸着時の酸素分圧との差が大きいほど好ましい。
【0050】
<6-2.酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法>
本発明の第四の実施形態に係る酸素濃縮装置は、本発明の第一の実施形態に係る金属酸化物を備えた酸素濃縮装置である。また、本発明の第五の実施形態に係る酸素濃縮方法は、本発明の第一の実施形態に係る金属酸化物を用いた酸素濃縮方法であって、より詳細には、本発明の第三の実施形態に係る酸素吸脱着方法により金属酸化物から脱着した酸素を回収する酸素回収工程を含む酸素濃縮方法である。
【0051】
酸素濃縮方法としては、酸素含有ガスを酸素吸着が生じる温度以下で金属酸化物に接触させることにより、金属酸化物に酸素を吸着させる酸素吸着工程、酸素吸着工程において酸素を吸着させた金属酸化物を酸素脱着(放出)が生じる温度以上700℃以下の温度で加熱することにより、金属酸化物から酸素を脱着させる酸素脱着工程、及び酸素脱着工程において金属酸化物から脱着した酸素を選択的に回収する酸素回収工程により酸素を濃縮する方法(温度スイング吸着法)を挙げることができる。ここで用いられる酸素含有ガスは特に限定されるものではないが、例えば空気、酸素等を挙げることができる。酸素吸着温度及び酸素脱着温度は使用する金属酸化物の相転移温度によって選択される。相転移温度は、金属酸化物の組成、酸素含有ガス中の酸素濃度等により変動するが、酸素吸着温度及び酸素脱着温度の好ましい範囲は、具体的には次の通りである。酸素吸着温度は、酸素脱着温度より低温の範囲で、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。酸素脱着温度は、運転温度低下の観点及び装置寿命の長期化等の観点から、酸素吸着温度より高温の範囲で、700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましく、500℃以下であることがさらに好ましい。
【0052】
また、本発明の第一の実施形態に係る金属酸化物を用いた酸素濃縮方法としては、上記のように温度の上下動を利用した方法のみでなく、酸素分圧の上下動による酸素吸脱着を利用した方法(圧力スイング吸着法)、例えば、200℃以上700℃以下において、酸素分圧が0kPaより大きく100kPa以下となる範囲で、空気等の酸素含有ガスを前記金属酸化物に接触させることにより、前記金属酸化物に酸素を吸着させる酸素吸着工程、及び酸素分圧が100kPa未満かつ前記酸素含有ガスより低い雰囲気下で酸素吸着工程において酸素を吸着させた前記金属酸化物から酸素を脱着させる酸素脱着工程、及び酸素脱着工程において前記金属酸化物から脱着した酸素を選択的に回収する酸素回収工程を含む方法を挙げることができる。この場合、酸素吸着量の観点から、酸素吸着工程における酸素分圧は、5kPa以上であることが好ましく、10kPa以上であることがより好ましく、15kPa以上であることが特に好ましい。また、酸素脱着工程における酸素分圧は、通常0kPa以上であり、酸素脱着量の観点から吸着時の酸素分圧との差が大きいほど好ましい。
【実施例0053】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例で得た金属酸化物の組成は、原料仕込み比から求めたものであ
る。
【0054】
[実施例1]
出発原料として、硝酸バリウム(Ba(NO3)2)、硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO3)2・4H2O)及び硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO3)3・9H2O)を、Ba:Ca:Fe=4:1.3:2.7のモル比となるように秤量し、純水に溶解して、硝酸塩水溶液を調製した(水溶液A)。総金属モル量の5倍モルのクエン酸一水和物を秤量し、純水に溶解して、クエン酸水溶液を調製した(水溶液B)。撹拌下の水溶液Aに、水溶液Bを全量添加し、その後攪拌を継続した。得られた混合溶液を120℃で熱処理し、金属クエン酸錯体ゲルを得た。得られたゲルを大気雰囲気下450℃で1時間加熱(一次焼成)することにより、有機物を燃焼させ粉末を得た。得られた粉末を乳鉢と乳棒で粉砕した後、アルミナ製坩堝へ移し、大気雰囲気下のマッフル炉中、800℃で5時間焼成(二次焼成)した。続いて、気密性の高い電気炉中、窒素雰囲気下、1000℃で5時間焼成(三次焼成)した。その後、雰囲気を窒素に保ったまま室温まで冷却し、電気炉から処理物を取り出して乳鉢と乳棒で粉砕することで、金属酸化物(Ba4Ca1.3F
e2.7O9.5+δ)を得た。
【0055】
[比較例1]
出発原料をBa:Ca:Fe=4:1:3のモル比となるように秤量する以外は、実施例1と同様の操作を行うことで、金属酸化物(Ba4Ca1Fe3O9.5+δ)を得た。
【0056】
[比較例2]
出発原料をBa:Ca:Fe=4:0.8:3.2のモル比となるように秤量する以外は、実施例1と同様の操作を行うことで、金属酸化物(Ba4Ca0.8Fe3.2O9.5+δ)を得た。
【0057】
<雰囲気温度スイングによる酸素吸脱着挙動の観察>
実施例1で得られた金属酸化物(Ba
4Ca
1.3Fe
2.7O
9.5+δ)の雰囲気温度スイングによる酸素吸脱着の挙動を、Thermo Plus 8120(Rigaku社製)を用いた熱重量分析(TG)測定により観察した。
具体的には、まず、実施例1で得られた金属酸化物を、窒素雰囲気下、1000℃で加熱しリフレッシュ処理することで、金属酸化物に吸着した酸素や水分等を除去した。次に、空気気流下(酸素分圧21kPa)、金属酸化物を100℃から1000℃まで昇温速度5℃/minで昇温し、次いで1000℃から100℃まで降温速度5℃/minで降温させ、その間の重量変化を計測した。空気気流下でのTG測定により得られたグラフを、
図1に示す。TG測定により求めた金属酸化物の最大酸素吸着量は、2.3質量%であった。また、TG測定により求めた金属酸化物の酸素濃度21%雰囲気下での相転移温度は347℃であった。
【0058】
図1より、空気気流下の昇温過程で酸素の吸着に起因する重量増加が確認された。一方で、昇温を続けると、やがて重量が減少に転じることが確認された。これは、試料温度の上昇に伴って酸素吸蔵相から酸素放出相への相転移が生じ、吸着していた酸素を放出したためである。1000℃からの降温過程では、再度特定の温度から急激な重量増加が確認され、酸素放出相から酸素吸蔵相への相転移による酸素吸着が生じていることが確認された。
また、実施例1で得られた金属酸化物の最大酸素吸着量が2.3質量%と大きく、高密度に酸素を吸蔵可能なことが示された。
【0059】
さらに、
図1より、得られた金属酸化物は、環境中の酸素分圧に応じて、300℃~400℃付近の低温条件で可逆的な相転移が生じることがわかる。このような低温で相転移
を生じる金属酸化物は、酸素の吸着及び脱着に必要なエネルギーを低減することができるだけでなく、一般的な酸素吸脱着装置、酸素濃縮装置等に使用する場合には、金属酸化物を充填するカラム(例えば、ステンレス管)の耐熱温度未満での酸素の吸脱着が可能であるため、酸素吸蔵材としての実用性が高い。
【0060】
実施例1と同様に、比較例1の金属酸化物についてもTG測定を実施した。その結果を
図2に示す。また、比較例2の金属酸化物についてもTG測定を実施した。その結果を
図3に示す。
比較例1および2の金属酸化物の最大酸素吸着量は、それぞれ2.1質量%、2.5質量%であった。また、TG測定により求めた比較例1の金属酸化物の酸素濃度21%雰囲気下での相転移温度は445℃、比較例2の相転移温度は405℃であった。
【0061】
比較例1の金属酸化物の温度に対する酸素吸放出挙動は、実施例1と比較すると、全温度範囲において緩慢に酸素の吸放出が生じていることが分かる。特定の温度および酸素分圧下で急峻な酸素の吸着および酸素の放出が生じる方が、より短時間で大量の酸素を吸放出可能であるため、実施例1の金属酸化物が、比較例1の金属酸化物よりも高性能かつ実用性が高い物質であることが分かる。
【0062】
比較例2の金属酸化物の温度に対する酸素吸放出挙動は、実施例1と比較すると、特徴的な二段階の重量変化挙動を有していることが分かる。すなわち、400℃以上の高温度域と、300℃付近での少なくとも2つの異なる相転移相を有している。比較例2の金属酸化物を酸素吸蔵材として使用する場合、実効的には400℃、あるいは300℃のいずれかの温度に運転温度を設定する必要があるが、その場合、取り出し酸素量はいずれの温度の場合も実施例1の金属酸化物よりも少なくなる。したがって、実施例1の金属酸化物が、比較例1の金属酸化物よりも酸素取り出し量が多く、かつ低温作動が可能であるため、実用性が高い物質であることが分かる。
【0063】
<粉末X線回折(XRD)測定>
実施例1、比較例1、および比較例2の製造直後の酸素放出相の状態にある金属酸化物について、粉末XRD測定を行った。粉末XRD測定条件は、以下の通りである。得られたXRDパターンを
図4に示す。
【0064】
(粉末XRD測定条件)
装置:X’Pert Pro MPD(PANalytical社製)
線源:CuKα
測定範囲:2θが10°か120°の角度
測定間隔:0.02°
電圧:45kV
電流:30mA
【0065】
図4より、製造直後の金属酸化物のXRDパターンは、実施例1、比較例1、比較例2のいずれにおいてもピーク位置や本数が違い、それぞれ異なる結晶構造を有している結晶多型であることが分かる。以上の点から、実施例および比較例で得た金属酸化物は、それぞれ異なる組成由来の異なる結晶相であることが示された。
【0066】
<Fe平均価数の測定>
ヨウ素滴定より求めた、酸素吸蔵相の状態とした実施例1の金属酸化物のFeの平均価数は、3.8であった。したがって、酸素吸蔵状態でFeは3価よりも高価数な状態であることが確認された。