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  • 特開-真空処理装置用のステージ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088251
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】真空処理装置用のステージ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240625BHJP
   C23C 14/50 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H01L21/68 N
C23C14/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203328
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】陳 沛弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 寿充
(72)【発明者】
【氏名】織部 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 有希子
【テーマコード(参考)】
4K029
5F131
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029JA01
5F131AA02
5F131AA03
5F131AA32
5F131AA33
5F131BA03
5F131CA03
5F131CA06
5F131EA10
5F131EB11
5F131EB31
5F131EB63
5F131EB81
5F131EB82
(57)【要約】
【課題】被処理基板の設置面の温度を応答性よく変化できて、被処理基板の温度を可及的速やかに調整できるようにした真空処理装置用のステージを提供する。
【解決手段】真空雰囲気中で被処理基板Swに対して真空処理を施す真空処理装置Vmの真空チャンバ1内に設けられて、被処理基板が設置される本発明の真空処理装置用のステージSTは、一対の絶縁プレート41u,41dを有して一方の絶縁プレートが放熱面または吸熱面、他方の絶縁プレートが吸熱面または放熱面を構成する熱電モジュール4と、一方の絶縁プレートとの熱交換を行う熱交換プレート5とを備え、一方の絶縁プレートと熱交換プレートの一方の面とがメタルボンディング材6を介して接合され、他方の絶縁プレートが、被処理基板が面接触した状態で設置される基板設置面を構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気中で被処理基板に対して真空処理を施す真空処理装置の真空チャンバ内に設けられて、被処理基板が設置される真空処理装置用のステージであって、
一対の絶縁プレートを有して一方の絶縁プレートが放熱面または吸熱面、他方の絶縁プレートが吸熱面または放熱面を構成する熱電モジュールと、一方の絶縁プレートとの熱交換を行う熱交換プレートとを備えるものにおいて、
一方の絶縁プレートと熱交換プレートの一方の面とがメタルボンディング材を介して接合され、他方の絶縁プレートが、被処理基板が面接触した状態で設置される基板設置面を構成することを特徴とする真空処理装置用のステージ。
【請求項2】
前記基板設置面に弾性層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の真空処理装置用のステージ。
【請求項3】
前記熱交換プレートに、前記熱電モジュールの外縁部を囲うように周壁部が立設されることを特徴とする請求項1または2記載の真空処理装置用のステージ。
【請求項4】
前記熱交換プレートの一方の面に同心円状の溝が複数形成されていることを特徴とする請求項3記載の真空処理装置用のステージ。
【請求項5】
前記熱電モジュールを複数備え、前記熱交換プレートに複数の熱電モジュールがアレイ状に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の真空処理装置用のステージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置用のステージに関し、より詳しくは、被処理基板の設置面の温度を応答性よく変化できて、被処理基板の温度を可及的速やかに調整できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子や半導体素子等の製造工程においては、ガラス基板やシリコンウエハといった被処理基板(以下、単に「基板」ともいう)に対し、真空雰囲気中で成膜処理、熱処理やエッチング処理といった各種の真空処理を施す真空処理装置が広く用いられている。例えば、有機EL素子の製造工程では、真空チャンバと、真空チャンバ内に設置される蒸着源と、基板が設置されるステージとを備える真空蒸着装置を用い、真空雰囲気の真空チャンバ内にて有機材料(蒸着物質)を気化させ、この気化した有機材料をステージに設置された基板表面に付着、堆積させて所定の有機膜が成膜される。ここで、有機膜の成膜時、基板の温度によって有機材料(有機分子)の配向が変化することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。このため、素子特性を決める所望の配向性を有する有機膜を成膜するには、例えば蒸着源からの入熱がある基板の温度を可及的速やかに調整することが求められ、これには、ステージ(その基板設置面)の温度を応答性よく変化させることが重要となる。
【0003】
このような真空処置装置用のステージとして、ペルチェ素子等の熱電素子を利用したものが従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。このものは、一対の絶縁プレートを有して一方の絶縁プレートが放熱面または吸熱面、他方の絶縁プレートが吸熱面または放熱面を構成する熱電モジュール(加熱冷却熱電素子)と、一方の絶縁プレートとの熱交換を行う熱交換プレート(特許文献1では「電極」とも記載)とを備える。また、熱電モジュールを熱交換プレートとの間で挟持するとともに、その一方の面(基板設置面)に基板が面接触する金属製の温度制御プレート(ペデスタル)が設けられて、この温度制御プレートによって、熱電モジュールと熱交換プレートとの間に充填されたグリスや樹脂充填材等の熱伝導材が封止される。このものでは、熱電モジュールからの出力(熱量)によって温度制御プレートが冷却・加熱され、冷却・加熱された温度制御プレートからの伝熱によって基板が冷却・加熱される。このため、基板を所定の温度まで冷却・加熱するには、基板設置面を含め温度制御プレート全体を、所定の冷却温度以下または加熱温度以上に冷却または加熱する必要がある。
【0004】
ここで、温度制御プレートは数十mmの厚さの金属材料で構成され、絶縁材料で構成されるが0.数mmと薄い基板や熱電モジュールの絶縁プレートに比べて、熱容量が非常に大きい。このため、熱電モジュールからの出力(熱量)の殆どは、温度制御プレートの冷却または加熱、即ち温度制御プレートの温度変化に消費されてしまうため、熱電モジュールからの熱量を迅速に基板に伝達できず、ステージの基板設置面の温度を応答性よく変化させることが困難となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Daisuke Yokoyama、他4名、「Orientation Control of Linear-Shaped Molecules in Vacuum-Deposited Organic Amorphous Films and Its Effect on Carrier Mobilities」、Advanced Functional Materials、Volume 20, Issue 3, Pages 386-391、2010年2月8日
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09-049071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、被処理基板の設置面の温度を応答性よく変化できて、被処理基板の温度を可及的速やかに調整できるようにした真空処理装置用のステージを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、真空雰囲気中で被処理基板に対して真空処理を施す真空処理装置の真空チャンバ内に設けられて、被処理基板が設置される本発明の真空処理装置用のステージは、一対の絶縁プレートを有して一方の絶縁プレートが放熱面または吸熱面、他方の絶縁プレートが吸熱面または放熱面を構成する熱電モジュールと、一方の絶縁プレートとの熱交換を行う熱交換プレートとを備え、一方の絶縁プレートと熱交換プレートの一方の面とがメタルボンディング材を介して接合され、他方の絶縁プレートが、被処理基板が面接触した状態で設置される基板設置面を構成することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、接着強度と剛性が高く、温度変化や外力によって流動・変形し難い特性を有し、グリスや樹脂充填材等の熱伝導材に比べて、熱伝達性に優れた特性を有するメタルボンディング材に着目し、メタルボンディング材で熱交換プレートに熱電モジュールを直接保持させる構成を採用したため、上記従来例のように熱交換プレートとの間で熱電モジュールを挟持する保持板(温度制御プレート)を省略することができる。これにより、被処理基板が他方の絶縁プレートに直接接触することで、温度制御プレートを備える上記従来例と比べて、被処理基板と熱電モジュールとの間の伝熱界面が減少し、熱容量及び熱抵抗が低減される。しかも、熱電モジュールの一方の絶縁プレートの熱を可及的速やかに熱交換プレートに伝熱できるため、熱電モジュールの熱運搬効率(COP)を高く維持することができ、その上、部品点数を削減して低コスト化を図ることもできる。その結果、被処理基板を広い動作温度帯で且つ可及的速やかに温度調整でき、被処理基板の温度変化に要する時間が大幅に短縮、言い換えると、被処理基板の設置面の温度を応答性よく変化させることができる。
【0010】
本発明においては、前記基板設置面に弾性層が形成されていることが好ましい。これによれば、基板設置面と被処理基板との密着性が向上することで、他方の絶縁プレートの熱量をより効率よく被処理基板に伝熱でき、有利である。
【0011】
また、本発明において、前記熱交換プレートに、前記熱電モジュールの外縁部を囲うように周壁部が立設されることが好ましい。これによれば、外縁部が防着板の機能を担うことで、被処理基板の表面に付着、堆積する気化した有機材料の熱電モジュールへの意図しない着膜を防止することができる。その結果、有機材料の着膜による熱電モジュールの短絡や劣化を防止することができる。
【0012】
更に、本発明において、前記熱交換プレートの一方の面に同心円状の溝が複数形成されていることが好ましい。これによれば、熱交換プレートの一方の面に形成された各溝にメタルボンディング材が充填されることで、熱交換プレートの加工時やボンディング処理後の残留応力や、ステージの温度変化時の熱交換プレートと熱電モジュールの絶縁プレートとの熱膨張差による応力が吸収される。その結果、応力による絶縁プレートや基板設置面に形成される弾性層の反りが抑制され、被処理基板との密着性を広い動作温度帯で維持することができる。
【0013】
なお、本発明において、前記熱電モジュールを複数備え、前記熱交換プレートに複数の熱電モジュールがアレイ状に配置されるよう構成することもできる。この場合、各熱電モジュールに夫々通電される電流を適宜制御すれば、被処理基板の面内温度均一性を向上させることができ、また被処理基板の面内で温度勾配を作ることもできる。また、複数の被処理基板の温度を同時に調整することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態のステージを有する真空蒸着装置を模式的に示す断面図。
図2図1に示すステージの熱交換プレートを取り外した状態で示す底面図。
図3】(a)は本発明の第2実施形態のステージの底面図、(b)は図3(a)のIIIb-IIIb線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、被処理基板をシリコンウエハ(以下、「基板Sw」という)、真空処理装置を基板Swの一方の面(成膜面Sw1)に真空蒸着法により所定の有機膜を蒸着する真空蒸着装置Vm、熱電モジュールをペルチェモジュールとし、本発明の真空蒸着装置Vm用のステージの実施形態を説明する。以下において、上、下といった方向を示す用語は、真空蒸着装置Vmの設置姿勢である図1を基準にする。
【0016】
図1を参照して、真空蒸着装置Vmは、真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力に真空排気して真空雰囲気(成膜開始前の到達圧力が1×10-5Pa程度)を形成することができる。真空チャンバ1内の底板内側には、蒸着源2が設けられている。蒸着源2は、蒸着物質として固体の有機材料21を収容する坩堝22を有する。有機材料21は、基板Swに成膜しようとする有機膜に応じて適宜選択される。坩堝22は、鉛直方向上面を開口した有底筒状の輪郭を有し、モリブデン、チタン、ステンレスやカーボン等の熱伝導性が良く、高融点の材料から形成され、上面の開口から有機材料21を充填できるようになっている。坩堝22の周囲には、シースヒータやランプヒータ等の公知のものからなる加熱手段23が設けられ、坩堝22に収容された有機材料21を加熱して気化させることができる(成膜時の圧力は、通常1×10-4Pa~1×10-2Paの圧力となる)。なお、蒸着源2としては、所謂リニアソース等を含め、公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。
【0017】
真空チャンバ1の天板には、当該真空チャンバ1内に突出させて複数本の駆動ロッド31が気密保持した状態で配置されている。各駆動ロッド31の上端は、天板上に設置される直動モータやエアシリンダ等の駆動源32に接続され、各駆動ロッド31の下端には、基板Swの外周縁部に面接触して当該基板Swを支持する環状のクランプ部材33が設けられている。そして、駆動源32によって各駆動ロッド31を同期して上下動させると、真空チャンバ1内でクランプ部材33が上下動し、後述するように基板Swの外周縁部に面圧を付与して、基板Swの成膜面Sw1と背向する側の面を絶縁プレート41dの下面に、面接触させた状態とすることができる。クランプ部材33で支持される基板Swに対向させて、真空チャンバ1内には本実施形態のステージSTが設けられている。
【0018】
ステージSTは、熱電モジュールとしてのペルチェモジュール4を有する。ペルチェモジュール4は、放熱面及び吸熱面を夫々構成する上下一対の絶縁プレート41u,41dと、これら絶縁プレート41u,41dの間に配置される熱電素子とで構成される。各絶縁プレート41u,41dは、基板Swに対応する円形の輪郭を有し、電気絶縁性を有するが、熱伝導性の良い材料、例えば、アルミナ製である。また、各絶縁プレート41u,41dの厚さd1は、0.3mm以上2.0mm以下の範囲とすることが好ましい。各絶縁プレート41u,41dの厚さd1が0.3mm未満では、曲げ強度が弱いため、加工残留応力や接触圧力による歪みを防止することが難しく、各絶縁プレート41u,41dが破損する虞がある。他方で、厚さd1が2.0mmを超えると、体積熱抵抗が増加し、熱損失が大きくなるという不具合を生じる。
【0019】
熱電素子は、複数個のP型熱電素子42p及びN型熱電素子42nとで構成される。絶縁プレート41u,41dの互いに向かい合う面には、間隔を置いて複数の電極層43a,43bが夫々形成され、P型熱電素子42pとN型熱電素子42nとが直列接続されている。そして、図外の直流電源から熱電素子42p,42nに通電すると、各絶縁プレート41u,41dが夫々吸熱面と放熱面とになる。以下では、各絶縁プレート41u,41dを夫々吸熱面と放熱面とにするものを例に説明するが、熱電素子42p,42nに通電される電流の向きを逆向きとすることで、各絶縁プレート41u,41dを夫々放熱面と吸熱面とにする、即ち、電流の向きに応じて吸熱面と放熱面とを入れ替えることができる。
【0020】
放熱面を構成する上側の絶縁プレート41uの上面には、メタルボンディング材6を介して熱交換プレート5の下面が接合される。他方、吸熱面を構成する下側の絶縁プレート41dの下面は基板設置面を構成し、基板Swはその成膜面Sw1と背向する側の面が絶縁プレート41dの下面と面接触した状態で設置される。また、絶縁プレート41dの下面には、ポリイミド等の熱伝導性樹脂やAlTiN等の無機材料で構成される弾性層Elが形成される。
【0021】
熱交換プレート5は、上側の絶縁プレート41uより大きい輪郭を有し、絶縁プレート41uと比較して熱伝導率のより高い材料、例えばCuやアルミニウム製の板材で構成される。熱交換プレート5の上面には、真空チャンバ1の天板にその内方に突出させ且つ気密保持した状態で配置される支柱7が連結されている。また、熱交換プレート5内には冷媒通路51が形成され、冷媒通路51の流入口と流出口とが、支柱7内に形成した往き冷媒通路71fと戻り冷媒通路71rとに夫々接続されている。そして、図外のチラーユニットから冷媒通路51に冷媒を循環させて冷却できるようにしている。熱交換プレート5にはまた、ペルチェモジュール4の外縁部を囲うように周壁部52が立設されているとともに、熱交換プレート5の下面には、同心円状の複数(本実施形態では3本)の溝53,53,53が形成されている(図2参照)。
【0022】
メタルボンディング材6としては、インジウム(In)やスズ(Sn)等の低融点金属またはこれらの合金(例えばIn-SnやIn-Sn-Ga等)を用いることができる。また、メタルボンディング材6の厚さd2は、1.0mm以上5.0mm以下の範囲とすることが好ましい。メタルボンディング材6の厚さd2が1.0mm未満では、接合強度が弱く、また接合加工時にボイドや空孔が生じやすくなり、接合強度の均一性が悪くなる。他方で、厚さd2が5.0mmを超えると、体積熱抵抗が増加し、熱損失が大きくなるという不具合を生じる。
【0023】
上記真空蒸着装置Vmにより基板Swの成膜面Sw1に、所定の有機膜を成膜するのに際しては、各駆動ロッド31を下動させた状態で、成膜面Sw1を下方にした基板Swを環状のクランプ部材33に支持させた後、基板Swが絶縁プレート41dの下面に面接触する位置まで各駆動ロッド31を上動させる。そして、クランプ部材33により基板Swの外周縁部に面圧を付与して、絶縁プレート41dの下面に基板Swをその全面に亘って面接触させた状態で保持させる。そして、真空チャンバ1内が所定圧力まで真空排気されると、加熱手段23を作動させて真空雰囲気の真空チャンバ1内にて有機材料21を気化させる。これにより、この気化した有機材料が基板Swの成膜面Sw1に付着、堆積して所定の有機膜が成膜される。ここで、例えば、成膜中、基板Swは蒸着源2からの輻射で入熱がある。このような場合には、例えば真空チャンバ1内に設けた放射温度計(図示せず)により基板Swの表面温度を測定し、この測定値に応じて、絶縁プレート41dが吸熱面となるように直流電源からP型熱電素子42p、N型熱電素子42nに通電して絶縁プレート41dを冷却することで、基板Swが冷却され、基板Swの表面温度が一定に保持される。なお、基板Swを加熱する場合には、絶縁プレート41dが放熱面となるように、逆向きの電流をP型熱電素子42p、N型熱電素子42nに通電して絶縁プレート41dを加熱してもよい。
【0024】
以上の実施形態によれば、メタルボンディング材6で熱交換プレート5がペルチェモジュール4を直接保持する構成としたことで、上記従来例のように熱交換プレート5との間でペルチェモジュール4を挟持する保持板(温度制御プレート)を省略することができる。これにより、基板Swが絶縁プレート41dの吸熱面に直接接触することで、温度制御プレートを備える上記従来例と比べて、基板Swとペルチェモジュール4との間の伝熱界面が減少し、熱容量及び熱抵抗が低減される。しかも、絶縁プレート41uの熱を可及的速やかに熱交換プレート5に伝熱できるため、ペルチェモジュール4の熱運搬効率(COP)を高く維持することができ、その上、部品点数を削減して低コスト化を図ることもできる。その結果、基板Swを広い動作温度帯で且つ可及的速やかに温度調整でき、基板Swの温度変化に要する時間が大幅に短縮され、基板Swの設置面の温度を応答性よく変化させることができる。
【0025】
また、絶縁プレート41dの下面に弾性層Elを形成したことで、絶縁プレート41dの下面と基板Swとの密着性が向上し、絶縁プレート41dの熱量をより効率よく基板Swに伝熱できる。この場合、弾性層Elの厚さd3は、10μm以上500μm以下の範囲とすることが好ましい。弾性層Elの厚さd3が10μm未満では、弾性層Elの強度が弱く、摩擦による破損が生じやすくなり、また絶縁プレート41dと基板Swとを十分に密着できない虞がある。他方で、厚さd3が500μmを超えると、体積熱抵抗が増加し、熱損失が大きくなるという不具合を生じる。また、絶縁プレート41dの下方のエッジを覆うように弾性層Elを形成することで、弾性層Elが絶縁プレート41dから剥離するのを防止することができる。
【0026】
また、熱交換プレート5に、ペルチェモジュール4の外縁部を囲うように周壁部52を立設したことで、気化した有機材料がペルチェモジュール4に着膜するのを防止して、ペルチェモジュール4の短絡や劣化を防止することができる。この場合、周壁部52の下端と弾性膜Elの表面との隙間G1は、0.1mm以上で絶縁プレート41dの厚さd1以下の範囲とすることが好ましい。隙間G1が0.1mm未満では、メタルボンディング材6、絶縁プレート41u、絶縁プレート41dやペルチェモジュール4の寸法公差により、周壁部52の下端が弾性膜El表面より突出して、周壁部52が基板Swやクランプ部材33と接触する虞がある。他方で、隙間G1が絶縁プレート41dの厚さd1を超えると、気化した有機材料がペルチェモジュール4に着膜する虞がある。また、周壁部52の内壁とペルチェモジュール4の外縁部との隙間G2は、0.3mm以上2.0mm以下の範囲とすることが好ましい。隙間G2が0.3mm未満では、メタルボンディング材6、絶縁プレート41u、絶縁プレート41dやペルチェモジュール4の寸法公差により、ペルチェモジュール4の外縁部と周壁部52の内壁とが接触して、温度調節時の熱応力によりペルチェモジュール4が破損する虞がある。他方で、隙間G2が2.0mmを超えると、気化した有機材料がペルチェモジュール4に着膜する虞がある。
【0027】
また、熱交換プレート5の下面に同心円状の複数の溝53~53を形成したことで、熱交換プレート5の下面に形成された各溝53~53にメタルボンディング材6が充填される。これにより、熱交換プレート5の加工時やボンディング処理後の残留応力や、ステージSTの温度変化時の熱交換プレート5と各絶縁プレート41u,41dとの熱膨張差による応力が吸収されて、応力による絶縁プレート41dや弾性層Elの反りが抑制され、基板Swとの密着性を広い動作温度帯で維持することができる。また、溝53の本数は2本以上であることが好ましい。溝53が2本未満では、上記応力を十分に吸収することができない。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、真空処理装置として真空蒸着装置Vmを例に説明したが、真空処理中に基板Sw温度を所定温度に調整する必要があるものであれば、これに限定されるものではなく、スパッタリング装置、エッチング装置等の他のものにも本発明は適用することができる。
【0029】
また、上記実施形態では、クランプ部材33により基板Swを保持するものを例に説明したが、静電チャックにより基板Swを保持するものにも本発明は適用することができる。また、上記実施形態では、熱電モジュールとしてペルチェモジュール4を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えばトムソン効果を利用したものでも本発明は適用することができる。
【0030】
また、上記実施形態では、1つのペルチェモジュール4を備えるものを例に説明したが、例えば図3に示す第2実施形態のように、複数のペルチェモジュール40(本実施形態では16個)をアレイ状に配置してもよい。この場合、各ペルチェモジュール40に夫々通電される電流を適宜制御して、各ペルチェモジュール40の絶縁プレート41dを同じ温度とすれば、基板Sw面内の温度均一性を向上させることができ、また各絶縁プレート41dを異なる温度とすれば、基板Sw面内で温度勾配を作ることもできる。また、複数の基板Swの温度を同時に調整することもできる。
【符号の説明】
【0031】
El…弾性層、ST…ステージ、Sw…基板(被処理基板)、Vm…真空蒸着装置(真空処理装置)、1…真空チャンバ、4,40…ペルチェモジュール(熱電モジュール)、41u…一方の絶縁プレート、41d…他方の絶縁プレート、5…熱交換プレート、52…周壁部、53~53…溝、6…メタルボンディング材。
図1
図2
図3