(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008831
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】実装基板、ブランキングアパーチャアレイチップ、ブランキングアパーチャアレイシステム及びマルチ荷電粒子ビーム照射装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240112BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20240112BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20240112BHJP
H01J 37/30 20060101ALI20240112BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H01L21/30 541W
H01L21/30 541B
H01J37/09 Z
H01J37/147 C
H01J37/30 A
H01J37/305 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070231
(22)【出願日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2022109860
(32)【優先日】2022-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】木村 駿生
(72)【発明者】
【氏名】森田 博文
(72)【発明者】
【氏名】東矢 高尚
(72)【発明者】
【氏名】木村 隼人
(72)【発明者】
【氏名】千葉 一浩
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101AA27
5C101EE03
5C101EE23
5C101EE57
5C101EE66
5C101EE68
5C101EE69
5C101EE76
5C101FF02
5C101HH23
5C101HH68
5F056AA07
5F056CB05
5F056EA03
(57)【要約】
【課題】制御回路を流れる電流による磁場がビームに与える影響を抑制する。
【解決手段】本発明の一態様による実装基板は、マルチ荷電粒子ビーム照射装置に搭載され、マルチ荷電粒子ビームの各ビームのブランキング偏向を行うブランキング電極が設けられたブランキングアパーチャアレイチップを実装する。この実装基板は、前記マルチ荷電粒子ビームが通過する開口と、前記ブランキングアパーチャアレイチップを複数の領域に分割し、分割された領域毎に、前記ブランキング電極に制御信号を供給する複数の制御回路と、前記複数の制御回路毎に設けられ、対応する制御回路にグランド電位を供給するグランドと、を備え、各制御回路に対応するグランドが互いに電気的に分離されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ荷電粒子ビーム照射装置に搭載され、マルチ荷電粒子ビームの各ビームのブランキング偏向を行うブランキング電極が設けられたブランキングアパーチャアレイチップを実装する実装基板であって、
前記マルチ荷電粒子ビームが通過する開口と、
前記ブランキングアパーチャアレイチップを複数の領域に分割し、分割された領域毎に、前記ブランキング電極に制御信号を供給する複数の制御回路と、
前記複数の制御回路毎に設けられ、対応する制御回路にグランド電位を供給するグランドと、
を備え、
各制御回路に対応するグランドが互いに電気的に分離されている、実装基板。
【請求項2】
前記実装基板の表面に、前記複数の制御回路に対応するグランドが互いに離隔して配置されており、前記グランドが離隔した部分は、前記実装基板の表面が露出した絶縁部になっている、請求項1に記載の実装基板。
【請求項3】
前記複数の制御回路及び前記絶縁部は、前記開口の中心を通り、前記実装基板の主面に対し垂直となる軸の回りに90°又は180°の回転対称性を有して配置される、請求項2に記載の実装基板。
【請求項4】
前記絶縁部は、
前記開口を囲む枠状の第1絶縁部と、
前記第1絶縁部から前記実装基板の外周部に向かって放射状に延びる複数の直線状の第2絶縁部と、
を有する、請求項2に記載の実装基板。
【請求項5】
前記複数の制御回路は、前記グランドを流れるリターン電流の方向と平行になるように配置された配線を有する、請求項1に記載の実装基板。
【請求項6】
前記複数の制御回路として、第1制御回路及び第2制御回路を有し、
基板表面が露出した絶縁部により前記第1制御回路のグランドと前記第2制御回路のグランドとが電気的に分離され、
前記開口の側面には、前記絶縁部の端面を覆う50Ω~1MΩの高抵抗膜が設けられている、請求項1に記載の実装基板。
【請求項7】
前記複数の制御回路として、第1制御回路及び第2制御回路を有し、
前記第1制御回路に対応する第1グランドと、前記第2制御回路に対応する第2グランドとが電気的に分離されており、
前記第1グランドは積層された複数の第1グランド層を含み、前記複数の第1グランド層同士は第1ビアを介して接続され、
前記第2グランドは積層された複数の第2グランド層を含み、前記複数の第2グランド層同士は第2ビアを介して接続され、
前記複数の第1グランド層と前記複数の第2グランド層とは離隔して配置されている、請求項1に記載の実装基板。
【請求項8】
前記実装基板の一方の面には、前記第1グランド及び前記第2グランドと電気的に分離された第3グランド層が設けられている、請求項7に記載の実装基板。
【請求項9】
前記実装基板の他方の面には、前記第1グランド層と前記第2グランド層を接続する抵抗部品が設けられている、請求項8に記載の実装基板。
【請求項10】
前記第1グランドと前記第2グランドとの間に、前記第1グランド及び前記第2グランドと電気的に分離された第3グランドが設けられており、
前記第3グランドは積層された複数の第3グランド層を含み、前記複数の第3グランド層同士は第3ビアを介して接続されている、請求項7に記載の実装基板。
【請求項11】
前記実装基板の一方の面には、前記第1グランド層と前記第2グランド層との間に前記第3グランド層が設けられており、
前記実装基板の他方の面には、前記第3グランド層が設けられており、前記第1グランド層及び前記第2グランド層は設けられていない、請求項10に記載の実装基板。
【請求項12】
前記実装基板の前記一方の面には、前記第1グランド層と前記第3グランド層を接続する第1抵抗部品、及び前記第2グランド層と前記第3グランド層を接続する第2抵抗部品が設けられている、請求項11に記載の実装基板。
【請求項13】
マルチ荷電粒子ビーム照射装置に搭載されるブランキングアパーチャアレイチップであって、
マルチ荷電粒子ビームの各ビームが通過するアパーチャ毎に設けられ、前記各ビームのブランキング偏向を行うブランキング電極と、
前記ブランキング電極に制御信号を供給する複数の制御回路と、
前記制御回路にグランド電位を供給する複数のグランドと、
を備え、
各制御回路に対応するグランドが互いに電気的に分離されている、ブランキングアパーチャアレイチップ。
【請求項14】
マルチ荷電粒子ビーム照射装置に搭載されるブランキングアパーチャアレイシステムであって、
マルチ荷電粒子ビームの各ビームが通過するアパーチャ毎に、前記各ビームのブランキング偏向を行うブランキング電極が設けられたブランキングアパーチャアレイチップと、
前記ブランキングアパーチャアレイチップを実装し、前記マルチ荷電粒子ビームが通過する開口が設けられた実装基板と、
を備え、
前記ブランキングアパーチャアレイチップ及び前記実装基板には、前記ブランキング電極に制御信号を供給する複数の制御回路がそれぞれ設けられており、
前記ブランキングアパーチャアレイチップ及び前記実装基板では、それぞれ、各制御回路に対応するグランドが互いに電気的に分離されている、ブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項15】
マルチ荷電粒子ビームを形成するビーム形成機構と、
前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームが通過するアパーチャ毎に、前記各ビームのブランキング偏向を行うブランキング電極が設けられたブランキングアパーチャアレイチップと、
前記ブランキングアパーチャアレイチップを実装する請求項1に記載の実装基板と、
を備えるマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項16】
前記ビーム形成機構、前記ブランキングアパーチャアレイチップ及び前記実装基板は電子鏡筒内に配置され、
前記実装基板は、金属製の固定部品により前記電子鏡筒に取り付けられ、
前記実装基板と前記固定部品との間に、50Ω~1MΩの高抵抗板が設けられている、請求項15に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実装基板、ブランキングアパーチャアレイチップ、ブランキングアパーチャアレイシステム及びマルチ荷電粒子ビーム照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスの回路線幅はさらに微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ回路パターンを形成するための露光用マスク(ステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)を形成する方法として、優れた解像性を有する電子ビーム描画技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置として、マルチビームを使った描画装置の開発が進められている。マルチビームを用いることで、1本の電子ビームで描画する場合に比べて多くのビームを照射できるので、スループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームを複数の開口を持ったアパーチャ部材に通してマルチビームを形成し、ブランキングアパーチャアレイチップで各ビームのブランキング制御を行い、遮蔽されなかったビームが光学系で縮小され、移動可能なステージ上に載置された基板に照射される。
【0004】
ブランキングアパーチャアレイチップは複数の開口部を有する。各開口部には、各ビームのブランキング制御を行うブランカ(電極対)が設けられており、各ブランカにビームのオンオフを切り替える制御信号が与えられる。そのため、ブランキングアパーチャアレイチップを搭載する実装基板には、電流経路が複雑に配置された制御回路が組み込まれている。
【0005】
従来、制御回路を流れる電流が作る磁場の影響により、電子ビームの位置が変動するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-177274号公報
【特許文献2】特開2006-32595号公報
【特許文献3】特開2001-320137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、制御回路を流れる電流による磁場がビームに与える影響を抑制できる実装基板、ブランキングアパーチャアレイチップ、ブランキングアパーチャアレイシステム及びマルチ荷電粒子ビーム照射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による実装基板は、マルチ荷電粒子ビーム照射装置に搭載され、マルチ荷電粒子ビームの各ビームのブランキング偏向を行うブランキング電極が設けられたブランキングアパーチャアレイチップを実装する実装基板であって、前記マルチ荷電粒子ビームが通過する開口と、前記ブランキングアパーチャアレイチップを複数の領域に分割し、分割された領域毎に、前記ブランキング電極に制御信号を供給する複数の制御回路と、前記複数の制御回路毎に設けられ、対応する制御回路にグランド電位を供給するグランドと、を備え、各制御回路に対応するグランドが互いに電気的に分離されているものである。
【0009】
本発明の一態様によるブランキングアパーチャアレイチップは、マルチ荷電粒子ビーム照射装置に搭載されるブランキングアパーチャアレイチップであって、マルチ荷電粒子ビームの各ビームが通過するアパーチャ毎に設けられ、前記各ビームのブランキング偏向を行うブランキング電極と、前記ブランキング電極に制御信号を供給する複数の制御回路と、前記制御回路にグランド電位を供給する複数のグランドと、を備え、各制御回路に対応するグランドが互いに電気的に分離されているものである。
【0010】
本発明の一態様によるブランキングアパーチャアレイシステムは、マルチ荷電粒子ビーム照射装置に搭載されるブランキングアパーチャアレイシステムであって、マルチ荷電粒子ビームの各ビームが通過するアパーチャ毎に、前記各ビームのブランキング偏向を行うブランキング電極が設けられたブランキングアパーチャアレイチップと、前記ブランキングアパーチャアレイチップを実装し、前記マルチ荷電粒子ビームが通過する開口が設けられた実装基板と、を備え、前記ブランキングアパーチャアレイチップ及び前記実装基板には、前記ブランキング電極に制御信号を供給する複数の制御回路がそれぞれ設けられており、前記ブランキングアパーチャアレイチップ及び前記実装基板では、それぞれ、各制御回路に対応するグランドが互いに電気的に分離されているものである。
【0011】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置は、マルチ荷電粒子ビームを形成するビーム形成機構と、前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームが通過するアパーチャ毎に、前記各ビームのブランキング偏向を行うブランキング電極が設けられたブランキングアパーチャアレイチップと、前記ブランキングアパーチャアレイチップを実装する本発明の一態様による実装基板と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、制御回路を流れる電流による磁場がビームに与える影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
【
図3】実装基板及びブランキングアパーチャアレイチップの概略構成図である。
【
図17】ブランキングアパーチャアレイチップの断面図である。
【
図18】ブランキングアパーチャアレイシステムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。
【0015】
図1は、実施形態に係る描画装置の概略構成図である。
図1に示す描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画装置100は、電子鏡筒102と描画室103とを備えている。電子鏡筒102内には、電子銃111、照明レンズ112、成形アパーチャアレイ基板10、ブランキングアパーチャアレイチップ30、縮小レンズ115、制限アパーチャ部材116、対物レンズ117及び偏向器118が配置されている。
【0016】
ブランキングアパーチャアレイチップ(BAAチップ)30は実装基板40に実装(搭載)され、フリップチップボンディングやワイヤボンディングによりそれらが電気的に接続されている(
図3参照)。実装基板40の中央部には、電子ビーム(マルチビーム130M)が通過するための開口42(
図1、
図3、
図4参照)が形成されている。BAAチップ30は、開口42の上方に位置するように実装される。但し、これに限定されるものではなく、BAAチップ30は開口42の下方に位置するように実装されてもよい。
【0017】
描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。
【0018】
図2に示すように、成形アパーチャアレイ基板10には、縦m列×横n列(m,n≧2)の開口(第1開口)12が所定の配列ピッチで形成されている。各開口12は、例えば共に同じ寸法形状の矩形で形成される。開口12の形状は、円形であっても構わない。これらの複数の開口12を電子ビーム130の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム130Mが形成される。
【0019】
BAAチップ30は、成形アパーチャアレイ基板10の下方に設けられ、成形アパーチャアレイ基板10の各開口12の配置位置に合わせて通過孔32(第2開口、アパーチャ)が形成されている。BAAチップ30には、各通過孔32の近傍に、対となる2つのブランキング電極34(
図3参照)の組からなるブランカが配置される。ブランキング電極34の一方はグラウンド電位で固定されており、他方をグラウンド電位と別の電位とに切り替える。
【0020】
各通過孔32を通過する電子ビームは、ブランカに印加される電圧によってそれぞれ独立に偏向される。このように、複数のブランカが、成形アパーチャアレイ基板10の複数の開口12を通過したマルチビーム130Mのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0021】
描画装置100において、電子銃111(放出部)から放出された電子ビーム130は、照明レンズ112によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板10全体を照明する。電子ビーム130が成形アパーチャアレイ基板10の複数の開口12を通過することによって、複数の電子ビーム(マルチビーム)130Mが形成される。マルチビーム130Mは、BAAチップ30のそれぞれ対応するブランカのブランキング電極34間を通過する。
【0022】
BAAチップ30を通過したマルチビーム130Mは、縮小レンズ115によって、縮小され、制限アパーチャ部材116の中心の穴に向かって進む。ここで、BAAチップ30のブランカによって偏向された電子ビームは、制限アパーチャ部材116の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材116によって遮蔽される。一方、ブランカによって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ部材116の中心の穴を通過する。ブランカのオン/オフによって、ブランキング制御が行われ、ビームのオン/オフが制御される。
【0023】
このように、制限アパーチャ部材116は、複数のブランカによってビームオフの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームオンになってからビームオフになるまでに形成された、制限アパーチャ部材116を通過したビームにより1回分のショットのビームが形成される。
【0024】
制限アパーチャ部材116を通過したマルチビームは、対物レンズ117により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となる。偏向器118によってマルチビーム全体が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。XYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように偏向器118によって制御される。
【0025】
一度に照射されるマルチビームは、理想的には成形アパーチャアレイ基板10の複数の開口12の配列ピッチに、上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。描画装置100は、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、不要なビームはブランキング制御によりビームオフに制御される。
【0026】
ビームのオン/オフ制御のための制御信号は、実装基板40に設けられた制御回路を介してBAAチップ30の各ブランカに供給される。例えば、実装基板40は矩形状であり、
図4に示すように、中央部の開口42(第3開口)を挟んで一半側(図中左側)の領域に制御回路44Lが設けられ、他半側(図中右側)の領域に制御回路44Rが設けられる。制御回路44L、44Rは、それぞれ多層回路であり、積層された配線層及び電源プレーンを有する。
図4は、実装基板40内の配線層の平面図である。
【0027】
制御回路44Lは、BAAチップ30の左半側のブランカへの制御信号を伝送する配線が設けられる。制御回路44Rは、BAAチップ30の右半側のブランカへの制御信号を伝送する配線が設けられる。各制御回路は、BAAチップ30の所定の領域、例えば左右に分けられた分割領域に配置されたブランカ群に対し制御信号を供給する。
【0028】
制御回路44L、44Rの配線形成領域や電源プレーンの平面視形状は、制御回路が作る磁場に依るビーム位置変動の発生を抑制するため、例えば矩形のようなシンプルな形状で構成することが好ましい。制御回路44L、44R内の配線200L、200Rは、制御回路が作る磁場に依るビーム位置変動の発生を抑制するため、なるべく電流の流れる方向が行きと帰りで平行になるように配置することが好ましい。ここで、「行き」は、配線200L、200Rを流れ、BAAチップ30のブランカ群へ向かう電流に相当する。例えば、実装基板40の左端から中央に向かって配線200Lを電流が流れる。「帰り」は、グランド層を流れるリターン電流に相当する。
【0029】
本実施形態では、ベタ状(面状)のグランド電位供給層(以下、グランド又はグランド層という)が制御回路毎に電気的に分割されている。例えば、
図5に示すように、制御回路44L用のグランドG1と制御回路44R用のグランドG2とに電気的に分割される。グランドG1は実装基板40の一半側に配置され、グランドG2は実装基板40の他半側に配置される。
【0030】
図16は、
図5のXVI-XVI線に沿った実装基板40の断面図である。グランドG1は、複数のグランド層61を有する。各グランド層61はビア71を介して接続されている。グランド層61間には、制御回路44Lを構成する回路部(上述の配線層や電源プレーン)が設けられている。同様に、グランドG2は、複数のグランド層62を有する。各グランド層62はビア72を介して接続されている。グランド層62間には、制御回路44Rを構成する回路部(上述の配線層及び電源プレーン)が設けられている。
【0031】
グランド層61,62のうち、実装基板40の表層に位置するものは、例えば金メッキで形成される。実装基板40の基板表面に金メッキを施すことで、実装基板40が電子ビームによって帯電することを抑制できる。グランド層61,62のうち、実装基板40の内部に位置するものは、例えば銅やタングステンで形成される。
【0032】
実装基板40の表面において、グランドG1とグランドG2は離隔しており、グランドG1とグランドG2との間は、実装基板40の表面が露出した(実装基板材料による)絶縁部46となっており、グランドG1とグランドG2とが電気的に分割される。ここで、電気的に分割とは、電気的に分離、又は電気的に独立ということもできる。以下の実施形態では、「電気的に分割」を単に「分割」と記載する場合もある。実装基板40は、FR4やセラミック(Al2O3)等の公知の絶縁材料からなる。
【0033】
実装基板40の内部においても、グランド層61とグランド層62は平面方向に離隔して配置され、電気的に分割されている。例えば、実装基板40の表面及び内部において、グランド層61の端部(
図16における右端部)とグランド層62の端部(
図16における左端部)との間隔は、0.05mm~30mm程度となっている。
【0034】
従来、BAAチップの左右から電気信号を供給して動作制御を行っており、実装基板には、BAAチップの左側から電気信号を供給する制御回路及びBAAチップの右側から電気信号を供給する制御回路の2つの制御回路が設けられ、グランドを共通にして運用していた。一方の制御回路からBAAチップに供給された電流には、同じ制御回路側からグランド層へ戻る経路や他方の制御回路側からグランド層へ戻る経路など複雑な電流経路があり、複雑な磁場の分布が発生していた。
【0035】
しかし、上述のように、制御回路毎にグランドを分割することで、一方の制御回路の電流が、BAAチップ30を介して他方の制御回路側へ流れることを防止でき、グランドG1,G2には、
図19に示すようなリターン電流RC1,RC2が流れる。そのため、各制御回路を流れる電流による磁場を、各制御回路に対応するグランドを流れるリターン電流による磁場でキャンセルしやすくなり、磁場によるビームへの影響を抑えることができる。
【0036】
絶縁部46によりグランドを実装基板40の中央部で分割すると、
図6(a)に示すように、開口部42の側面に、絶縁部46(実装基板40の絶縁材料)の端面が位置する。この場合、マルチビームが開口部42を通過する際に、絶縁部46が帯電し、ビームの異常偏向が発生し得る。
【0037】
このため、
図6(b)に示すように、絶縁部46を高抵抗膜48で覆うことが好ましい。高抵抗膜48は、帯電を防止すると共に、グランドG1とグランドG2との分割を両立させるものであり、制御回路の配線材料より高抵抗、絶縁部46(実装基板40を構成する材料)より低抵抗であり、例えば、50Ω以上1MΩ以下程度の抵抗値を有することが好ましい。高抵抗膜48の材料は、CrN、AlN、TiN、Pt、Ti等である。
【0038】
グランドは制御回路の数以上に分割されてもよい。
図7はグランドを3つに分割する例を示している。制御回路44Lと開口部42との間と、制御回路44Rと開口部42との間に、実装基板40の短手方向に延びる直線状の絶縁部46(分割パターン)を設けて3つのグランドG1~G3に分割し、制御回路44Lと制御回路44Rとの間でグランドが共通にならないようにする。グランドG1が制御回路44Lに対応し、グランドG2が制御回路44Rに対応する。この構成では、実装基板40の端面が開口部42で露出せず、
図6(b)で示した高抵抗膜48は不要である。
【0039】
また、
図7に示す構成では、2つの絶縁部46は、BAAチップ30が設置される領域よりも外側に位置することが好ましい。言い換えれば、2つの絶縁部46の間の領域にBAAチップ30が設置されることが好ましい。
【0040】
図8、
図9に示すように、絶縁部46を制御回路44L、44Rに近付くように折れ線状にしてもよい。絶縁部46が直線状の場合は
図19の破線で示すような経路のリターン電流が生じ得るが、絶縁部46を折れ線状にすることで、リターン電流の経路を、制御回路の配線方向に対し、より平行に近付けることが可能になり、ビーム位置変動の抑制効果を高めることができる。
【0041】
制御回路の数は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
【0042】
図10は、実装基板40に4つの制御回路44a~44dが設けられる例を示す。制御回路44a~44dは、BAAチップ30を4分割した各分割領域のブランカ群に制御信号を供給する。
【0043】
制御回路44a~44dは、開口部42の一辺と、実装基板40の外周縁の四辺の内の一辺との間に設けられ、制御回路44a~44d間でグランドが共通にならないように絶縁部によって分離される。例えば、開口部42を囲む矩形の枠状の絶縁部46aと、絶縁部46aの角部から実装基板40の4辺と平行に直線状に延びる絶縁部46d、46eとによって、グランドが分離される。
【0044】
絶縁部46dは、絶縁部46aの角部から図中左右方向に延びる。絶縁部46eは、絶縁部46aの角部から図中上下方向に延びる。
【0045】
絶縁部46dと、絶縁部46aの横線部とが同一直線上に位置する。絶縁部46eと、絶縁部46aの縦線部とが同一直線上に位置する。
【0046】
言い換えれば、
図10では、絶縁部が格子状に形成され、制御回路44a~44dの各々に対応するグランドが分離されている。
【0047】
図11に示すように、一部の制御回路(制御回路44a、44b)のサイズが大きく、絶縁部を格子状に形成できない場合は、矩形の枠状の絶縁部46aの4つの角部から斜め方向に外周縁側へ延びる絶縁部46fを形成してもよい。
【0048】
絶縁部46fの一端が絶縁部46aの角部に接続し、絶縁部46fの他端から、絶縁部46d、46eがそれぞれ実装基板40の左右方向の辺、上下方向の辺に平行に延びる。
【0049】
図12に示すように、開口部42を囲む矩形の枠状の絶縁部46aと、絶縁部46aの角部から実装基板40の角部へ向かって斜め方向に直線状に延びる絶縁部46bとによって、グランドが5つに分離される構成としてもよい。
【0050】
図13は、実装基板40に6つの制御回路44a~44fが設けられる例を示す。この例では、
図12に示す構成に、さらに絶縁部46cが設けられている。絶縁部46b、46cは、枠状の絶縁部46aから実装基板40の外周部に向かって放射状に延びる。
【0051】
図10~
図13に示す構成は、実装基板40の平面視形状が長方形であり、複数の制御回路及び絶縁部は、開口部42の中心を通り、実装基板40の主面に対し垂直となる軸の回りに180°の回転対称性を有して配置される。
【0052】
図14(a)(b)に示すように、実装基板40の平面視形状が正方形である場合、複数の制御回路及び絶縁部が、開口部42の中心を通り、実装基板40の主面に対し垂直となる軸の回りに90°の回転対称性を有して配置されるようにしてもよい。
【0053】
実装基板40の制御回路の数が、6、8、10・・・と増加した場合でも、
図10~
図14に示す構成と同様に、開口部42を囲む矩形の枠状の絶縁部、実装基板40の周縁の4辺と平行に延びる絶縁部、斜め方向に延びる絶縁部等を組み合わせて、実装基板40を設計・製造することが好ましい。
【0054】
電子ビーム描画装置では、電子ビームの安定性の観点から、グランドを電子鏡筒102と等電位にすることが求められる。このため、金属の固定用部品を用いて実装基板40を電子鏡筒102に固定し、グランドを電子鏡筒102へ電気的に落とす。ただし、分割したグランド同士が電気的に接続されないように、
図15に示すように、実装基板40と電子鏡筒102への固定用部品50との間に、50Ω~1MΩ程度の抵抗値を有する高抵抗板52を設けることが好ましい。これにより、各グランドは、ある程度の抵抗値を持って電子鏡筒102へ接続される。また、高抵抗板52が介在することで、分割したグランド同士が電気的に接続されて共通グランドになることを抑制できる。
【0055】
高抵抗板52の材料は、例えばSiN又はAlN製の板や、AlNを成膜したTi板を使用することが出来る。
【0056】
このように、本実施形態によれば、実装基板40上の複数の制御回路の各々に対応するグランドを分割することで、一方の制御回路からの電流が、BAAチップを介して他方の制御回路側へ流れることを防止できる。この結果、各制御回路を流れる電流が作る磁場を、対応するグランドを流れるリターン電流による磁場でキャンセルし、電子ビームへの影響を抑えることができる。
【0057】
上記実施形態では、成形アパーチャアレイ基板10の複数の開口12を電子ビーム130の一部がそれぞれ通過することでマルチビーム130Mを形成する構成について説明したが、マルチビームの形成方法はこれに限定されず、例えば、電子ビームを放出する放出部が複数設けられたものであってもよい。
【0058】
上記実施形態では、BAAチップ及び実装基板を有するブランキングアパーチャアレイシステムが搭載される装置の一例として、マルチビーム描画装置について説明したが、これに限るものではない。例えば、パターンの欠陥を検査する検査装置等のマルチビームを照射する装置であれば、同様に搭載することができる。
【0059】
上記実施形態では、実装基板40のグランドを分割する例について説明したが、更にBAAチップ30のグランドを分割してもよい。例えば、
図17に示すように、シリコン基板等からなるBAAチップ30の一半側には、複数のグランド層81が設けられ、他半側には複数のグランド層82が設けられる。各グランド層81はビア91を介して接続されている。また、各グランド層82はビア92を介して接続されている。
【0060】
複数のグランド層81,82のうち、表層のグランド層は、ブランキング電極34用のグランド層である。グランド層81間、グランド層82間には、電源層が設けられている。
【0061】
グランド層81とグランド層82とは離隔して配置され、電気的に分割されている。例えば、グランド層81は、BAAチップ30の左半側のブランカの制御回路用であり、グランド層82は、BAAチップ30の右半側のブランカの制御回路用である。
【0062】
グランド層81及びグランド層82は、実装基板40の異なるグランドに接続される。例えば、グランド層81は実装基板40のグランドG1に接続され、グランド層82は実装基板40のグランドG2に接続される。
【0063】
BAAチップ30のグランド分割数と、実装基板40のグランド分割数とは同じでもよいし、異なっていてもよい。
図18は、グランドを3分割した実装基板40上に、チップキャリアCを介して、グランドを2分割したBAAチップ30を設置した例を示す。
【0064】
チップキャリアCの下面と、実装基板40の上面とは、導電性接着剤を用いた接着や、Agナノ粒子の焼結接合により固着される。実装基板40の分割されたグランド同士が導電性接着剤により導通することを防止するために、導電性接着剤は、実装基板40のグランド分割部(グランドを離隔している部分)を跨がないように塗布することが好ましい。
【0065】
実装基板40のグランドは分割せず、BAAチップ30のグランドを分割してもよい。
【0066】
図20に示すように、実装基板40の上面及び実装基板40の内部では、グランドG1のグランド層61とグランドG2のグランド層62を離隔して配置し、実装基板40の下面に、グランド層61,62とはビア接続されていない(独立した)グランド層63を設けてもよい。グランド層63は、実装基板40の下面のほぼ全面に設けられている。
【0067】
このような構成にすることで、固定用部品50(
図15参照)とグランド層63との間の高抵抗板52を省略することができる。
【0068】
BAAチップ30を実装基板40の下面側に設置する場合は、グランド層61,62とビア接続されないグランド層63を、実装基板40の上面に配置する。
【0069】
図21に示すように、グランドをグランドG1~G3に3分割し、左右のグランドG1、グランドG2をそれぞれ制御回路44L,44Rに対応させた場合(
図7参照)においても、実装基板40の下面に、グランドG1,G2のグランド層61,62とはビア接続されていないグランド層65を設けてもよい。グランドG3のグランド層64は、グランド層65とビア接続される。グランド層65は、グランドG3を構成する複数のグランド層64のうち、実装基板40の下面に配置されるものということもできる。グランド層65は、実装基板40の下面のほぼ全面に設けられ、グランドG1,G2のグランド層61,62の下方の領域まで延びている。
【0070】
固定用部品50(
図15参照)を、実装基板40の上面のグランド層64及び下面のグランド層65に接触させることで、実装基板40の上下で高抵抗板52を省略することができる。
【0071】
図22に示すように、実装基板40の上面に、グランドG1とグランドG3を接続する抵抗部品54、及びグランドG2とグランドG3を接続する抵抗部品56を配置してもよい。抵抗部品54,56は、グランド間の絶縁部を跨ぐように配置される。抵抗部品54,56は、200Ω~1MΩ程度の抵抗値を有する。抵抗部品54,56を、それぞれ複数個配置してもよい。
【0072】
図20に示すグランド2分割の実装基板に対しても、グランド間を接続する抵抗部品を配置してもよい。例えば、
図23に示すように、実装基板40の上面に、グランドG1とグランドG2を接続する抵抗部品58を、グランド間の絶縁部を跨ぐように配置してもよい。抵抗部品58は、200Ω~1MΩ程度の抵抗値を有する。抵抗部品58を複数個配置してもよい。
【0073】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 成形アパーチャアレイ基板
30 ブランキングアパーチャアレイチップ
40 実装基板
42 開口
44L、44R 制御回路
100 描画装置
102 電子鏡筒