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特開2024-88436組成物、リチウムイオン電池電極用バインダ、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088436
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】組成物、リチウムイオン電池電極用バインダ、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   C08L 5/04 20060101AFI20240625BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240625BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240625BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240625BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C08L5/04
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
C08K5/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203601
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋
(72)【発明者】
【氏名】東郷 英一
【テーマコード(参考)】
4J002
5H050
【Fターム(参考)】
4J002AB051
4J002CM012
4J002EN116
4J002EW126
4J002FD202
4J002FD206
4J002GQ00
4J002HA09
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA03
5H050CA04
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA22
5H050GA10
(57)【要約】
【課題】 乾式状態では保存性、運搬性、ハンドリング性に優れることから電極作製時の作業性に優れ、リチウムイオン電池電極用バインダとして用いると水と接触することで容易にイオン結合性の化合物を形成し、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とする組成物、並びにそれを用いたリチウムイオン電池電極用バインダ、それを用いたリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】 水素イオン形アルギン酸及びキレート基含有化合物を含む組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素イオン形アルギン酸及びキレート基含有化合物を含む組成物。
【請求項2】
前記キレート基含有化合物が、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基またはイミノ基からなる群の少なくとも1種の塩基性官能基を含む化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記キレート基含有化合物が、水に溶解させた際の水溶液のpHが3~9を示す化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
さらに活物質を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物を含むリチウムイオン電池電極用バインダ。
【請求項6】
活物質、導電助剤、請求項5に記載のリチウムイオン電池電極用バインダ及び水を含むリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー。
【請求項7】
請求項5に記載のリチウムイオン電池電極用バインダを含むリチウムイオン電池用電極。
【請求項8】
請求項7に記載のリチウムイオン電池用電極を有するリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組成物に関する。詳細には該組成物を含むリチウムイオン電池電極用バインダ、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、近年、電気機器等の電源として幅広く用いられている。さらに、最近は電気自動車の電源としてもその用途を拡大しつつあり、高容量化、高出力化、サイクル寿命の向上といった特性向上とともに、高い安全性が要望されている。
【0003】
リチウムイオン電池の電極は、粉末状の活物質と導電助剤とバインダを主成分とする多孔質体が集電体上に積層・結着した構造を有しており、その性能は、活物質の特性のみならず、バインダの種類によっても大きく影響されることが知られている。
【0004】
従来、正極用バインダとしてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)が主流であったが、電極製造時にN-メチルピロリドン等の有機溶媒を用いるため、スラリー調製工程や電極シート塗布工程で除害設備が必要となる、電極シート乾燥工程で溶媒回収設備が必要になるといった電極製造に係る付帯設備が増加しコストアップを招く、有機溶媒の購入や回収にコストが嵩みランニングコストが増加する、正極活物質に対するPVDFの接着力が低いためバインダ添加量が増えてしまうといった欠点を有していた。
【0005】
一方、有機溶媒を用いず、水に分散・溶解可能な水系バインダとして、アルギン酸やアルギン酸誘導体を用いること(例えば、特許文献1~5参照)が開示されている。水系バインダは電極シート製造時の除害設備が不要であり、作業環境も良好になるため好ましいが、活物質とバインダの組み合わせによっては活物質との接着力が低下する、集電体が腐食するといった問題が生じる場合もあった。例えば、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05等のニッケル含有量の高い正極活物質を用いた場合、水系で電極合材層形成用スラリーを作製すると活物質が水と反応してpHが強アルカリ性となり、集電体の腐食を引き起こすことがあった(例えば、特許文献6参照)。
【0006】
また、正極活物質にはLiMn、LiNi0.5Mn1.5、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05等のリチウム複合酸化物が用いられることが多いが、これらリチウム複合酸化物は充放電時に活物質中のマンガンやニッケルが溶解・イオン化し、負極上に析出・堆積してサイクル特性やレート特性の低下を招くことが知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-92415号公報
【特許文献2】特開2001-15114号公報
【特許文献3】特開2014-96238号公報
【特許文献4】特開2014-195018号公報
【特許文献5】特開2015-191862号公報
【特許文献6】国際公開第2016/052715号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、乾式状態では保存性、運搬性、ハンドリング性に優れることから電極作製時の作業性に優れ、リチウムイオン電池電極用バインダとして用いると水と接触することで容易にイオン結合性の化合物を形成し、充放電特性に優れ、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とする組成物、並びにそれを用いたリチウムイオン電池電極用バインダ、それを用いたリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、水溶性高分子とキレート基含有化合物の混合物をバインダに用いることで上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の各態様は、以下に示す[1]~[8]である。
【0011】
[1]水素イオン形アルギン酸及びキレート基含有化合物を含む組成物。
[2]上記キレート基含有化合物が、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基またはイミノ基からなる群の少なくとも1種の塩基性官能基を含む化合物である上記[1]または[2]に記載の組成物。
[3]上記キレート基含有化合物が、水に溶解させた際の水溶液のpHが3~9を示す化合物である上記[1]に記載の組成物。
[4]さらに活物質を含む上記[1]乃至[3]いずれかに記載の組成物。
[5]上記[1]乃至[3]いずれかに記載の組成物を含むリチウムイオン電池電極用バインダ。
[6]活物質、導電助剤、上記[5]に記載のバインダ及び水を含むリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー。
[7]上記[5]に記載のバインダを含むリチウムイオン電池用電極。
[8]上記[7]に記載のリチウムイオン電池用電極を有するリチウムイオン電池。
【0012】
なお、本発明の組成物によって上記目的が達成される理由に関し、本発明者らは以下のように推察する。
【0013】
すなわち、本発明の水素イオン形アルギン酸とキレート基含有化合物を含む組成物をリチウムイオン電池電極用バインダに用いると、リチウムイオン電池電極合材層形成用水系スラリーを調製する際に、当該水系スラリーの系内で水素イオン形アルギン酸とキレート基含有化合物とがイオン結合を形成し、バインダが正極活物質を被覆するとともにバインダ中にイオン結合を介して導入されたキレート基含有化合物が、正極活物質から溶出するマンガンイオンやニッケルイオンを正極及び/または負極近傍で効率良く捕捉するため、マンガンやニッケルの負極活物質への析出・堆積が抑制され、優れた充放電特性とサイクル寿命の長寿命化が達成できたと考えられる。特に、キレート基含有化合物がアミノ基を有するキレート基含有化合物である場合、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーを作製するために両者を水に溶解させると、水中で両者が反応してイオン結合を形成し、高分子化合物にイオン結合を介してキレート基含有化合物が導入された化合物が系内で生成しバインダとして作用するため、正極活物質から溶出するマンガンイオンやニッケルイオンを正極及び/または負極近傍で効率良く捕捉できる。また、キレート基含有化合物がイオン結合を介して高分子化合物に固定化されているため、キレート基含有化合物の負極での分解とそれに伴うガス発生を抑制することができる。更に、水に溶解させた際の水溶液のpHが3~9を示すキレート基含有化合物を用いて組成物を調製し、バインダとして用いると、ニッケル含有量の高い正極活物質を用いた水系電極合材層形成用スラリーのpHが強アルカリ性になることを抑制でき、集電体の腐食が防止できるため好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電極作製時の作業性に優れ、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とする組成物、リチウムイオン電池電極用バインダ及びリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーを提供することが可能となり、さらに、それを用いることにより、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長されたリチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
本明細書において「下限値~上限値」を用いて表される数値範囲は、とくに断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0017】
以下、本発明の一態様である組成物を詳細に説明する。
【0018】
本発明の組成物は、水素イオン形アルギン酸及びキレート基含有化合物を含む組成物である。これにより、水の存在下、水素イオン形アルギン酸とキレート基含有化合物とが水中でイオン結合を形成する。当該組成物の構成成分間でイオン結合を形成するためには、キレート基含有化合物に少なくとも塩基性官能基が導入されている必要がある。
【0019】
本発明におけるキレート基含有化合物は、キレート基を有する低分子化合物である。ここでキレート基とは、複数の配位座を有する配位子を指し、多価金属イオンとの間でキレートを形成できる官能基である。更に、キレート基含有化合物が、アミノ基等の塩基性官能基を有する化合物であることが好ましい。ここで言う塩基性官能基とは、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、イミノ基等が挙げられる。キレート基としては、アミノカルボン酸系のキレート基やアミノホスホン酸系のキレート基、ポリアミン系のキレート基が好適に用いられる。アミノカルボン酸系キレート官能基の若干の例としては、イミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン基、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基、1,2‐ビス(2‐アミノフェノキシ)エタン四酢酸基、1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸基、ジエチレントリアミン五酢酸基、(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸基、ビス(2-アミノエチル)エチレングリコール四酢酸基、トリエチレントリアミン六酢酸基等が挙げられる。アミノホスホン酸系キレート基の若干の例としては、アミノメチルホスホン酸基、ニトリロトリス(メチルホスホン酸)等が挙げられる。ポリアミン系キレート基の若干の例としては、ポリエチレンイミン基、ポリアミドアミンデンドリマー基、テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン基等が挙げられる。キレート基がカルボン酸やホスホン酸を含む場合、それらの酸性官能基はプロトン形よりもアルカリ金属塩やアンモニウム塩などの一価の塩形である方が、重金属イオンとイオン交換しやすいため好ましい。
【0020】
本発明におけるキレート基含有化合物は水溶性化合物であることが好ましい。ここで言う「水溶性」とは、キレート基含有化合物が水に1重量%以上溶解することを指す。
【0021】
本発明におけるキレート基含有化合物の分子量は10,000以下であることが好ましく、さらに好ましくは1,000以下である。
【0022】
本発明におけるキレート基含有化合物は、上記のキレート基を有していれば他に制限はない。また、本発明のキレート基含有化合物の具体例としては、ギ酸、クエン酸、ポルフィリン、ポリエチレンイミン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、N,N‐ビス(2‐ヒドロキシエチル)グリシン、1,2‐ジアミノシクロヘキサン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N‐(2‐ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸、ビス(2‐アミノエチル)エチレングリコール四酢酸、ビス(2‐アミノフェニル)エチレングリコール四酢酸、N‐(2‐ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、テトラキス(2‐ピリジルメチル)エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン六酢酸、アミノメチルホスホン酸、アミノエチルホスホン酸、アミノプロピルホスホン酸、ニトリロトリスメチルホスホン酸及びそれらの塩が挙げられる。上記キレート基含有化合物の中で、アミノ基やイミノ基等の塩基性官能基を有するキレート基含有化合物は、水素イオン形アルギン酸と組み合わせることで、水中でイオン結合を介してキレート基含有化合物が導入された化合物を生成させることができるため、好ましい。
【0023】
本発明におけるキレート基含有化合物は、水に溶解させた際の水溶液のpHが3~9を示す化合物ことが好ましい。水溶液のpHが3~9を示すキレート基含有化合物をバインダの一成分に用いると、リチウムイオン電池用電極を作成する際にニッケル含有量の高い正極活物質を含む水系電極合材層形成用スラリーのpHが強アルカリ性になることを抑制でき、集電体の腐食が防止できるため好ましい。ここで、上記pHは、キレート基含有化合物の水溶液濃度が1.0mol/Lで測定した場合の値である。
【0024】
上記pHが3~9を示すキレート基含有化合物の若干の例としては、ニトリロ三酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸二アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸一カルシウム、エチレンジアミン四酢酸一マグネシウム、O,O‘-ビス(2-アミノフェニル)エチレングリコール-N,N,N’,N‘-四酢酸四カリウム、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン、ジエチレントリアミン五酢酸三ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、ニトリロトリスメチルホスホン酸三ナトリウム、ヒドロキシエチリデン二ホスホン酸二ナトリウム等が挙げられる。
【0025】
本発明における水素イオン形アルギン酸の分子量は、重量平均分子量で10,000~2,000,000であることが好ましく、500,000~1,500,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量がこの範囲にあると、リチウムイオン電池電極用バインダとして使用した際に電極に十分な機械的強度が確保でき、電極塗工時の粘性も問題のない範囲に調整できるため好ましい。
【0026】
本発明における高分子量水素イオン形アルギン酸の重量平均分子量は、pH=8程度の緩衝液を用いてアルギン酸を溶解させ、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定によりPEO換算して算出することができる。
【0027】
また、本発明における高分子量水素イオン形アルギン酸は、水素イオン置換率が80~99%である。ここで言う水素イオン置換率とは、アルギン酸の構成成分であるウロン酸中のカルボキシル基の対イオンが水素イオンである割合を指す。上記水素イオン置換率は、高分子量水素イオン形アルギン酸中のアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン等の無機イオンやテトラメチルアンモニウムイオン等の有機イオンを定量して算出する。水素イオン置換率が上記範囲にあると、アルギン酸は大部分が水素イオン形になっていることを意味しため、上記アルギン酸をバインダ原料として用いた際に、キレート基含有化合物と相互作用しやすくなり、好ましい結果を与える。
【0028】
本発明の組成物において、水素イオン形アルギン酸とキレート基含有化合物のブレンド比率は、好ましくは、水素イオン形アルギン酸の酸系官能基とキレート基含有化合物の塩基性官能基が等量となるようにブレンドすることが好ましい。
【0029】
本発明の組成物において、上記キレート基含有化合物は、高分子量水素イオン形アルギン酸中のカルボキシル基1モルに対し、0.1~1.1モルの範囲で配合することが好ましい。
【0030】
水素イオン形アルギン酸とキレート基含有化合物との物理的な混合方法についても特に制約はなく、粉末状の両者を単に混合する方法や、粉末状の両者を粉砕しつつ混合する方法や、両者を貧溶媒に分散させ均一に混合した後、溶媒を除去し粉末を得るなどの方法を採用することができる。
【0031】
本発明の組成物は、水素イオン形アルギン酸とキレート基含有化合物のみを含んでいても良いが、他の高分子化合物を含むこともできる。この場合は、上記水素イオン形アルギン酸と上記キレート基含有化合物の含有量が組成物の総量に対して10質量%以上であることが好ましい。
【0032】
上記水素イオン形アルギン酸とは異なる高分子化合物としては、正極に用いるのであればポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテル‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂を使用することができる。負極に用いるのであればポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテル‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂や、スチレン‐ブタジエン共重合体、エチレン‐プロピレン共重合体等の炭化水素系エラストマーや、ポリイミド等を用いることができる。
【0033】
本発明の組成物は、水素イオン形アルギン酸とキレート基含有化合物のみを含んでいても良いが、さらにリチウムイオン電池の活物質として作用する物質を含むこともできる。当該活物質としては、後述する活物質と同じものを例示することができる。
【0034】
次に、本発明の一態様であるリチウムイオン電池電極用バインダについて説明する。
【0035】
本発明の組成物はリチウムイオン電池電極用バインダ(以下、「本発明のバインダ」という)として好適に用いることができる。より具体的には、当該バインダ中にキレート基含有化合物も含むことで、上記水素イオン形アルギン酸は、当該キレート基含有化合物と化合物を形成するため、活物質と導電助剤と集電体とを結着させるリチウムイオン電池電極用バインダとして好適に用いられる。当該化合物は、靭性が高く機械的強度に優れ、活物質や導電助剤や集電体との結着性も高いため、クラックや剥離・剥落のないリチウムイオン電池用電極を作成できる。
【0036】
本発明のバインダの配合量は、活物質、バインダ、導電助剤の合計量に対して1~20質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましい。
【0037】
本発明のバインダは柔軟性に富むため、充放電時の電極の体積変化に追従可能であり、体積変化に伴う電極の割れやそれに伴う活物質の剥離・脱落や導電チャンネルの破壊を防止できる。また、本発明のバインダは親水性官能基を多く含むため、活物質との親和性が高く活物質への被覆性に優れている。更に、本発明のバインダは、電解液との親和性に優れるためイオン伝導性にも優れている点や、耐酸化性や耐還元性に優れ電極の安定性を確保できる等、リチウムイオン電池電極用バインダとして卓越した性能を有している。
【0038】
更に、本発明のバインダはキレート基が存在するため、このキレート基によって正極活物質から溶出するマンガンイオン等は正極及び/または負極近傍で捕捉され、負極活物質表面への析出・堆積が抑制されるため、優れた充放電特性とサイクル寿命の長寿命化が達成できる。
【0039】
次に、本発明の一態様であるリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーについて説明する。
【0040】
本発明のリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーは、上記バインダ、活物質、導電助剤及び水を含む。当該スラリーには、必要に応じてカルボキシメチルセルロース等の粘度調節剤や、酸、アルカリ等のpH調節剤を含んでいても良い。上記スラリーの固形分濃度は、特に限定されないが、スラリーの粘度、固形分の分散性、乾燥工程への負荷等を考慮して20~80質量%が好ましい。また、上記スラリー中の固形分の比率は、質量比で、活物質:導電助剤:バインダ=70~98:1~30:1~20が好ましい。上記スラリーの製造方法についても特に制限はなく、バインダ、活物質、導電助剤を一括で水に混合・分散・溶解させ、スラリーを作製する方法や、最初にバインダを水に溶解させ、次いで活物質と導電助剤をバインダ水溶液に添加し、混合してスラリーを作製する方法や、最初に活物質と導電助剤を混合し、次いでバインダ水溶液と混合する方法等が挙げられる。また、スラリー作製に用いるミキサーにも特に制約はなく、乳鉢、ロールミル、ボールミル、スクリューミル、振動ミル、ホモジナイザー、遊星式ミキサー等が用いられる。
【0041】
本発明において用いられる活物質は、正極用の電極であれば、活物質として正極活物質を使用する。負極用の電極であれば、活物質として負極活物質を使用する。
【0042】
本発明において、正極活物質は、リチウムイオンの挿入及び/または脱離が可能であれば特に制限はなく、例えば、CuO、CuO、MnO、MoO、V、CrO、Fe、Ni、CoO等の遷移金属酸化物や、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiNiCo(1-X)、LiNiMn(2-X)、LiMnNiCo(a+b+c=1)、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiFePO、LiMnFe(1-X)PO等のリチウム複合酸化物が挙げられる。これの中で、Co、Ni、Mn等の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の遷移金属とリチウムの複合酸化物が好ましく、具体例としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiNiCo(1-X)、LiNiMn(2-X)、LiMnNiCo(a+b+c=1)、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiMnFe(1-X)POが挙げられる。これらのリチウム複合酸化物には、少量のフッ素、ホウ素、Al、Cr、Zr、Mo、Fe等の元素をドープしても良いし、リチウム複合酸化物の粒子表面を炭素、MgO、Al、SiO等で表面処理しても良い。
【0043】
本発明において、負極活物質は、リチウムイオンの挿入及び/または脱離が可能であれば特に制限はなく、例えば、リチウム金属、天然黒鉛、人造黒鉛、グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、スズ及び/又はスズ合金、スズ酸化物、ケイ素及び/又はケイ素合金、ケイ素酸化物などが挙げられる。なお、負極活物質が合金である場合、その負極活物質には、リチウムと合金化する材料が含まれていてもよい。なお、ここで、リチウムと合金化する材料としては、例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびこれらの合金などが挙げられる。
【0044】
これら活物質が粒子状である場合、その平均粒子径は特に限定されるものではないが、5μm以上20μm以下であることが好ましい。これら活物質の配合量は、活物質、バインダ、導電助剤の合計量に対して70~98質量%であることが好ましい。
【0045】
電極中に含まれる導電助剤についても特に制限はなく、電池特性に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば用いることができる。具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボン、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンウィスカー、カーボンナノチューブ、炭素繊維粉末等の炭素材料や、Cu、Fe、Ag、Ni、Pd、Au、Pt、In、W等の金属粉末や金属繊維や、酸化インジウムや酸化スズ等の導電性金属酸化物が挙げられる。これら導電助剤の配合量は、前記活物質に対して1~30質量%が好ましい。
【0046】
以下、本発明の一態様であるリチウムイオン電池用電極について説明する。
【0047】
本発明のリチウムイオン電池用電極は、活物質、導電助剤、上記リチウムイオン電池電極用バインダを含むものである。
【0048】
当該リチウムイオン電池用電極は、上記スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて得られる電極合材層と、当該集電体とから構成される。活物質、バインダ、導電助剤よりなる電極合材層の厚さは、10~200μmが好ましく、この厚みの電極合材層を集電体上に形成させるためには、電極合材層の目付を4~25mg/cmに設定すると良い。
【0049】
上記集電体は、電極合材層と接する面が導電性を示す導電体であればよく、銅、金、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼もしくはそれらの合金等の金属や酸化インジウムや酸化スズ等の導電性金属酸化物や導電性カーボン等の導電性材料で形成された導電体が例示される。集電体の形状については特に制限はなく、フォイル状、フィルム状、シート状、ネット状、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡体等の形状が採用可能である。集電体の厚みについても特に制限がなく、1~100μm程度であることが好ましい。
【0050】
リチウムイオン電池用電極の製造方法には特に制約はなく、上記スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて製造することができる。スラリーの塗布方法についても制約はなく、スリットコート、ダイコート、ロールコート、ディップコート、ブレードコート、ナイフコート、ワイヤーバーコート等の方法を用いることができる。乾燥方法、条件についても特に制約はなく、通常の温風循環型乾燥機や減圧乾燥機、赤外線乾燥機、マイクロ波加熱乾燥機を用いることができる。加熱温度にも制限はなく、50~150℃で加熱し乾燥することができる。更に、乾燥途中や乾燥後に電極を加圧しプレスすることで、多孔構造を均一にすることもできる。
【0051】
以下、本発明の一態様であるリチウムイオン電池について説明する。
【0052】
本発明のリチウムイオン電池は、上記リチウムイオン電池用電極を有することを特徴とする。本発明のリチウムイオン電池は、リチウムイオン一次電池とリチウムイオン二次電池を含む。上記リチウムイオン電池用電極を用いることで、優れた充放電特性とサイクル寿命の長寿命化が達成された高性能なリチウムイオン電池を提供することができる。リチウムイオン電池は、一般的に正極、負極、セパレータ、非水電解液等から構成され、例えばラミネートセル形状を例示することができる。正極は、上記の正極活物質を上記の導電助剤とともにバインダにより正極集電体上に結着させたものであり、正極活物質、バインダ、導電助剤からなる正極合材層が集電体上に形成された構造を有している。負極も正極と類似の構造を有しており、下記の負極活物質と上記の導電助剤をバインダにより負極集電体上に結着させたものである。セパレータはポリオレフィン等の多孔フィルムが一般的に用いられ、電池が熱暴走した際にシャットダウン機能を担うため、正極と負極の中間に挟み込まれる。非水電解液はLiPF等の電解質塩を環状カーボネート等の有機溶媒に溶解させたものである。電池内部は非水電解液で満たされており、リチウムイオンは、充電時には正極から負極に移動し、放電時には負極から正極に移動する。
【0053】
非水電解液も特に制約はなく、公知の材料を用いることができる。非水電解液は電解質塩を有機溶媒に溶解させたものであり、電解質塩としては、CFSOLi、(CFSONLi、(CFSOCLi、LiBF、LiB(C、LiPF、LiClO、LiAsF、LiCl、LiBr等が例示される。電解質塩を溶解させる有機溶媒としては、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2‐ジメトキシエタン、1,2‐ジエトキシエタン、γ‐ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,4‐ジオキサン、アニソール、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。非水電解液中の電解質塩の濃度は、0.1~5mol/L、好ましくは0.5~3mol/Lの範囲で選択できる。
【0054】
セパレータに関しても特に制約はなく、公知のセパレータを用いることができる。セパレータの例としては、ポリエチレン製微多孔膜、ポリプロピレン製微多孔膜、ポリエチレン製微多孔膜とポリプロピレン製微多孔膜との積層膜や、ポリエステル繊維、アラミド繊維、カラス繊維等からなる不織布が挙げられる。
【実施例0055】
以下に、本発明を更に詳細に実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<高分子化合物とキレート基含有化合物を含む組成物の製造>
(実施例1)水素イオン形アルギン酸とニトリロトリスメチルホスホン酸三ナトリウムとの組成物の製造
エタノール(富士フィルム和光純薬製)440mlにアルギン酸ナトリウム(Shandong Jiejing社製、含水率15%、重量平均分子量1,100,000)250g(単糖ユニットとして1.07mol)を撹拌下少量ずつ添加し、褐色分散液を作製した。次いで、35%塩酸(富士フィルム和光純薬製)192g(1.89mol)を純水188gで希釈した後、上記分散液に添加し、8℃で2時間反応させた。反応中、分散状態は維持されており、スラリー濃度は26%であった。反応終了後、スラリーをろ過し、得られた固形分を純水4Lに再分散させ、1時間撹拌後濾過・単離し、80℃で減圧乾燥させた。得られた水素イオン形アルギン酸の収量は149gであり、重量平均分子量は620,000、ナトリウム含有量は0.91%であり、ナトリウム含有量より求めた水素イオン置換率は93.0%であった。このようにして製造した水素イオン形アルギン酸1.8g(単糖ユニットとして10mmol)とニトリロトリスメチルホスホン酸三ナトリウム(同仁化学研究所製)3.2g(10mmol)とを乳鉢を用いて混合し、組成物を製造した。得られた混合物の窒素含有量は2.8重量%であり、窒素含有量から算出したキレート基含有量は2.0mmol/gであった。なお、ニトリロトリスメチルホスホン酸三ナトリウム水溶液のpHは、4.0であった。
【0057】
(実施例2)水素イオン形アルギン酸とイミノ二酢酸二ナトリウムとの組成物の製造
実施例1で製造した水素イオン形アルギン酸1.8g(単糖ユニットとして10mmol)と、イミノ二酢酸二ナトリウム一水和物(富士フィルム和光純薬製)2.0g(10mmol)とを乳鉢を用いて混合し、組成物を製造した。得られた混合物の窒素含有量は4.0重量%であり、窒素含有量から算出したキレート基含有量は2.8mmol/gであった。なお、イミノ二酢酸二ナトリウム水溶液のpHは、11.0であった。
【0058】
(実施例3)水素イオン形アルギン酸とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムとの組成物の製造
実施例1で製造した水素イオン形アルギン酸1.8g(単糖ユニットとして10mmol)と、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物(同仁化学研究所製)3.7g(10mmol)とを乳鉢を用いて混合し、組成物を製造した。得られた混合物の窒素含有量は5.1重量%であり、窒素含有量から算出したキレート基含有量は1.8mmol/gであった。なお、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液のpHは、4.2であった。
【0059】
<ラミネートセルの製造>
(実施例4)
以下の材料から正極用スラリーを調製し、正極を作製した。
活物質:マンガン酸リチウム(LMO:自社で試作LiMn、結晶相:スピネル) 94重量部
導電助剤:アセチレンブラック(AB:デンカ(株)製Li-400) 3重量部
バインダ:実施例1で製造した水素イオン形アルギン酸とニトリロトリスメチルホスホン酸三ナトリウムとの組成物 3重量部
【0060】
実施例1で製造したバインダ3重量部を水に溶解させ、水溶液を調製した。この水溶液にLMO94重量部とAB3重量部を添加し、水を添加しながら遊星式ミキサーで撹拌して正極用スラリーを製造した。このスラリーをフィルムアプリケーターにてアルミニウム箔上に塗布し、80℃で24時間窒素下常圧乾燥し、更に、120℃4時間減圧乾燥を行い、正極を作製した。目付は1.50mAh/cmであった。
【0061】
次に、以下の材料から負極用スラリーを調製し、負極を作製した。
負極活物質:塊状人造黒鉛(Gr:昭和電工マテリアルズ(株)製MAG‐D) 95重量部
バインダ:ポリフッ化ビニリデン(PVDF:ソルベイ製ソレフ5130) 5重量部
【0062】
上記PVDF5重量部をN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)に溶解させ、この溶液にGr95重量部を添加し、NMPを添加しながら遊星式ミキサーで撹拌して負極用スラリーを調製した。このスラリーをフィルムアプリケーターにて銅箔上に塗布し、80℃で24時間窒素下常圧乾燥し、更に、150℃4時間減圧乾燥を行い、負極を作製した。目付は1.80mAh/cmであり、AC比は1.20であった。
【0063】
このようにして得られた正極、負極を用いて、以下のようにしてラミネートセルを作製した。すなわち、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(1/1)混合溶媒にビニレンカーボネートを1重量%となるように添加し、更に、1mol/Lとなるように六フッ化リン酸リチウムを溶解させて電解液とし、セパレータにはアルミナ片面コートポリエチレン製微多孔膜(Senior製)を用いた。そして、上記正極と負極をセパレータの両側に配置して積層し、電解液を注液してラミネートセルを作製した。
【0064】
(実施例5)
正極用バインダに実施例2で製造した水素イオン形アルギン酸とイミノ二酢酸二ナトリウムとの組成物を用いたことを除いて、実施例4と同様の操作にてラミネートセルを作製した。
【0065】
(実施例6)
正極用バインダに実施例3で製造した水素イオン形アルギン酸とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムとの組成物を用いたことを除いて、実施例4と同様の操作にてラミネートセルを作製した。
【0066】
(比較例1)
正極用バインダにPVDF(ソルベイ製ソレフ5130)を用いたことと、溶媒にNMPを用いて正極用スラリーを作製したことを除いて、実施例4と同様の操作にてラミネートセルを作製した。
【0067】
(比較例2)
正極用バインダにアルギン酸ナトリウム(Shandong Jiejing社製、含水率15%、重量平均分子量1,100,000)2.3g(単糖ユニットとして10mmol)とイミノ二酢酸二ナトリウム一水和物(富士フィルム和光純薬製)2.0g(10mmol)とを乳鉢を用いて混合して製造した組成物を用いたことを除いて、実施例4と同様の操作にてラミネートセルを作製した。
【0068】
<充放電特性評価>
実施例4、5、6及び比較例1、2で得られたラミネートセルを用いて、下記条件にて充放電特性を評価した。
充電:定電流定電圧(CCCVモード)
放電:定電流(CCモード)
電位範囲:3.0~4.2V
Cレート:1C
温度:60℃
【0069】
上記条件下にて、充放電を100サイクル行った。バインダに、本発明に係る水素イオン形アルギン酸とアミノ基含有キレート基含有化合物との組成物を用いた実施例4、5、6のラミネートセルは、サイクル数が増加しても放電容量の低下は少なく、安定した充放電が可能であったのに対し、バインダにPVDFを用いた比較例1の系では、サイクル数の増加に伴い放電容量の低下が認められた。100サイクル後の放電容量の容量維持率は、実施例4で90.9%、実施例5で89.5%、実施例6で89.3%、比較例1で81.3%であった。
【0070】
一方、バインダがイオン結合を形成しないアルギン酸ナトリウムとイミノ二酢酸二ナトリウムとの組成物をバインダに用いた比較例2では、100サイクル後の放電容量の容量維持率は89.0%と良好であったが、サイクル試験中にガスが発生し、ラミネートセルが大きく膨張した。
【0071】
<集電体の腐食状況の評価>
(実施例7)
活物質として、マンガン酸リチウム(LMO:自社で試作LiMn、結晶相:スピネル)に代えてニッケル・コバルト・マンガン酸リチウムであるNCM523(豊島製作所製)を用いたことを除いて、実施例4と同様の方法で正極用スラリーを製造した。スラリーのpHは9.0であり、ニッケル含有量の高い正極活物質を水系スラリーとしたにもかかわらず、実施例1の組成物をバインダに用いることでスラリーの強アルカリ性化を抑制できた。このスラリーを実施例4と同様の方法でアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させて正極を製造した。室温で7日間放置後、得られた正極の合材層を剥離させ、アルミニウム箔の腐食状態を確認したが、アルミニウム箔の腐食は認められなかった。
【0072】
(実施例8)
活物質として、マンガン酸リチウム(LMO:自社で試作LiMn、結晶相:スピネル)に代えてニッケル・コバルト・マンガン酸リチウムであるNCM523(豊島製作所製)を用いたことと、実施例3の組成物をバインダに用いたことを除いて、実施例4と同様の方法で正極用スラリーを製造した。スラリーのpHは9.4であり、ニッケル含有量の高い正極活物質を水系スラリーとしたにもかかわらず、実施例3の組成物をバインダに用いることでスラリーの強アルカリ性化を抑制できた。このスラリーを実施例4と同様の方法でアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させて正極を製造した。室温で7日間放置後、得られた正極の合材層を剥離させ、アルミニウム箔の腐食状態を確認したが、アルミニウム箔の腐食は認められなかった。
【0073】
(比較例3)
活物質として、マンガン酸リチウム(LMO:自社で試作LiMn、結晶相:スピネル)に代えてニッケル・コバルト・マンガン酸リチウムであるNCM523(豊島製作所製)を用いたことと、バインダとしてアルギン酸ナトリウム(Shandong Jiejing社製、含水率15%、重量平均分子量1,100,000)を用いたことを除いて、実施例4と同様の方法で正極用スラリーを製造した。スラリーのpHはスラリーのpHは11.2であり、ニッケル含有量の高い正極活物質を水系スラリーにすると、スラリーが強アルカリ性となった。このスラリーを実施例4と同様の方法でアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させて正極を製造した。室温で7日間放置後、得られた正極の合材層を剥離させ、アルミニウム箔の腐食状態を確認したところ、アルミニウム箔の腐食が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、電極作製時の作業性に優れ、充放電特性に優れ、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とするリチウムイオン電池電極用バインダ及びリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーを提供することが可能となり、さらに、それを用いることにより、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長されたリチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供することが可能となる。