(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088459
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ニッケル基耐熱合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/05 20230101AFI20240625BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240625BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240625BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240625BHJP
B22F 1/10 20220101ALI20240625BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20240625BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20240625BHJP
C22C 47/14 20060101ALI20240625BHJP
C22C 32/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C22C1/05 D
B22F1/00 M
B22F1/14 500
B22F1/05
B22F1/10
B22F3/10 C
B22F3/14 101C
C22C47/14
C22C32/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203647
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116861
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 義博
(72)【発明者】
【氏名】伊達 賢治
(72)【発明者】
【氏名】北川 裕之
【テーマコード(参考)】
4K018
4K020
【Fターム(参考)】
4K018AA08
4K018AB03
4K018AC01
4K018BA20
4K018BB02
4K018BB04
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA09
4K018DA03
4K018EA21
4K018KA12
4K018KA63
4K020AA02
4K020AA05
4K020AC06
4K020BB29
(57)【要約】
【課題】引張強度その他の機械的強度を向上させるニッケル基耐熱合金の製造技術を提供することを目的とする。また、熱伝導性も高めるニッケル基耐熱合金の製造技術を提供することを目的とする。
【解決手段】 ニッケル基耐熱合金とAlNとの粉末原料にバインダーを添加して混合もしくは混練したあと成形し、溶媒によりバインダーを除去する溶媒脱脂工程と、その後におこなう仮焼結による加熱脱脂工程とを経て、仮焼結体を得、続いて放電プラズマ焼結をおこない、AlNが粉末形状のまま分散したニッケル基耐熱合金を得ることを特徴とする合金製造方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル基耐熱合金とAlNとの粉末原料にバインダーを添加して混合もしくは混練したあと成形し、
溶媒によりバインダーを除去する溶媒脱脂工程と、その後におこなう仮焼結による加熱脱脂工程とを経て、仮焼結体を得、
続いて放電プラズマ焼結をおこない、AlNが粉末形状のまま分散したニッケル基耐熱合金を得ることを特徴とする合金製造方法。
【請求項2】
AlNの粉末原料としてAlNウィスカーを用い、AlNがウィスカーのまま分散したニッケル基耐熱合金を得ることを特徴とする請求項1に記載の合金製造方法。
【請求項3】
原料として、粒径が50μm以下のニッケル基耐熱合金の粉末、長径が50μm以下のAlNウィスカーを用いることを特徴とする請求項2に記載の合金製造方法。
【請求項4】
粉末原料中、AlNが1vol%~30vol%であることを特徴とする請求項1に記載の合金製造方法。
【請求項5】
ニッケル基耐熱合金としてインコネルを用いることを特徴とする請求項1に記載の合金製造方法。
【請求項6】
相対密度が97%以上の合金となるように、放電プラズマ焼結をおこなうことを特徴とする請求項1に記載の合金製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度のニッケル基耐熱合金の製造方法に関し、特に、AlNを分散させたニッケル基耐熱合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジェットエンジン回転羽やガスタービン翼に、ニッケル基耐熱合金が用いられているものがある。ニッケル基耐熱合金はその名の通り耐熱性を有し、たとえば、雰囲気温度が800℃~900℃であっても強度を維持できる合金である。
【0003】
特に、上記のジェットエンジン回転羽やガスタービン翼は、回転力もかかる過酷な使用環境にあるので、潜在的に引張強度等がより大きな素材が望まれる。
また、耐熱合金は、一般的に熱伝導性が高くなく、熱伝導性が高ければ冷却機構の効果的な利用も可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表00/014396
【特許文献2】特開2016-160108
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、引張強度その他の機械的強度を向上させるニッケル基耐熱合金の製造技術を提供することを目的とする。また、熱伝導性も高めるニッケル基耐熱合金の製造技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明である合金製造方法は、ニッケル基耐熱合金とAlNとの粉末原料にバインダーを添加して混合もしくは混練したあと成形し、溶媒によりバインダーを除去する溶媒脱脂工程と、その後におこなう仮焼結による加熱脱脂工程とを経て、仮焼結体を得、続いて放電プラズマ焼結をおこない、AlNが粉末形状のまま分散したニッケル基耐熱合金を得ることを特徴とする。
【0007】
すなわち、第1の発明は、バインダーを介して混ぜあわせた複合材料の仮焼結体に、真空焼結に比べ低温短時間の本焼結をおこない、AlNが散逸したり成分置換が生じたりせず粉末形状のまま均質に分散した状態のニッケル基耐熱合金を得ることができる。AlNは物性的に原料のニッケル基耐熱合金よりも高強度で熱伝導性も高いため、製造されるニッケル基耐熱合金の高強度化が可能であり、熱伝導性向上も可能である。
製造されるニッケル基耐熱合金は、高強度化ニッケル基耐熱合金、複合化ニッケル基耐熱合金、改良ニッケル基耐熱合金と適宜称することができる。
【0008】
粉末とは広義であって、例えばAlNについては請求項2にいうように、ウィスカーのような細長い形状も含まれるものとする。粒径ないし長径は、たとえば、平均が100nm以下の例を挙げることができる。なお、改質等、仕様の態様により他の粉末を含むことを妨げない。
バインダーは、原料粉末を均質に分散し、脱脂工程により除去できるものであれば特に限定されないが、たとえば、パラフィンとポリプロピレンを主成分とするバインダーを挙げることができる。温度により混合物、混練物を半流動体にも固体にも変質させることができ、操作性、取扱性に優れる。
成形に際しては射出成形を採用することができる。また、混合もしくは混練後に、一度粉砕工程を経てからその粉砕物を用いて射出成形してもよい。
溶媒は、用いるバインダーの全部または一部を溶解できれば特に限定されない。バインダーの除去に際しては総ての組成を除去できない場合もあるため、溶媒の種類をかえて複数回のバインダー除去工程(脱脂工程)を経るようにしてもよい。
仮焼結の温度は、バインダーや溶媒が仮焼結体から無くなる温度であって、AlNが散逸してしまわない温度とし、たとえば、750℃~1050℃とすることができる。加熱脱脂工程は仮焼結工程であり、ここでは、加熱により十全にバインダーや溶媒が除去されることに鑑みて加熱脱脂工程と表現している。
粉末形状のままとは、AlやNが散逸したり、他の成分に置換されてしまったりしないことをいう。また、放電プラズマ焼結の前後で、全くの同一形状が維持されることまでは意味せず、例えば、表面反応が生じて、粉末形状が若干異なる態様も当然に含まれる。逆に放電プラズマ焼結は、AlNが粉末形状のままとなる条件で処理するものとする(したがって、「続いて放電プラズマ焼結をおこない、AlNが粉末形状のまま分散したニッケル基耐熱合金を得ることを特徴とする合金製造方法」部分は、「続いて、AlNが粉末形状のまま分散したニッケル基耐熱合金となるように放電プラズマ焼結をおこなうことを特徴とする合金製造方法」と表現することもできる)。加圧は20MPa~100MPaの範囲、型温度は900℃~1200℃の範囲、処理時間は5分~60分の範囲とすることができる。なお、放電プラズマ焼結法は、パルス通電法、パルス通電加圧焼結法、プラズマ活性化焼結法、通電加熱焼結法とも呼ばれ、総じて、通電焼結法またはSPSと称することができる。
【0009】
第2の発明である合金製造方法は、第1の発明である合金製造方法において、AlNの粉末原料としてAlNウィスカーを用い、AlNがウィスカーのまま分散したニッケル基耐熱合金を得ることを特徴とする。
【0010】
すなわち、第2の発明は、AlNはニッケル基耐熱合金より高強度であって、ウィスカーであれば様々な方向を向いて分散した状態の合金となるため、構造的な観点から、機械的特性、特に引張強度を効果的に向上させることが可能となる。また、効果的に熱伝導性を高めることも可能となる。
なお、特性に配向性を持たせる必要がある場合には、ニッケル基耐熱合金粉末およびウィスカーの性状、金型構造および成形条件によってウィスカーの方向をそろえた状態にすることも可能である。
【0011】
第3の発明である合金製造方法は、第2の発明である合金製造方法において、原料として、粒径が50μm以下のニッケル基耐熱合金の粉末、長径が50μm以下のAlNウィスカーを用いることを特徴とする。
【0012】
すなわち、第3の発明は、均質な分散性を好適に実現して強度および熱伝導性を高めることが可能となる。
【0013】
第4の発明である合金製造方法は、第1、第2または第3の発明である合金製造方法において、粉末原料中、AlNが1vol%~30vol%であることを特徴とする。
【0014】
すなわち、第4の発明は、強度や熱伝導性を設計することができる。
【0015】
1vol%未満であると添加効果が発揮されず、また30volを超えると、混練性や射出成形における成形性に影響が出始める。AlNは、好ましくは2vol%~20vol%、更に好ましくは5vol%~15vol%である。また、原料に他の粉末を含ませることもあり得るため、ここでいう粉末原料中のvol%とは、ニッケル基耐熱合金とAlNとの合計量に対するAlNのvol%である。
【0016】
第5の発明である合金製造方法は、第1~第4のいずれか一つの発明である合金製造方法において、ニッケル基耐熱合金としてインコネルを用いることを特徴とする。
【0017】
すなわち、第5の発明は、品質に信頼性のあるインコネルを用いて強度(引張強度)を向上させることを可能とする。熱伝導性の向上も可能とする。
【0018】
インコネルとしては、たとえば、713合金、718合金を用いることができる。なお、インコネルは、ハンティントン・アロイズ・コーポレイションの登録商標である。
【0019】
第6の発明である合金製造方法は、第1~第5のいずれか一つの発明である合金製造方法において、相対密度が97%以上の合金となるように、放電プラズマ焼結をおこなうことを特徴とする。
【0020】
すなわち、請求項6の発明は、強度を維持向上し、熱伝導性も高めたニッケル基耐熱合金を製造することができる。
【0021】
なお、印加圧力を高めて、98%以上、99%以上、そして事実上100%とすることもできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、引張強度その他の機械的強度や熱伝導性を高めうるニッケル基耐熱合金の製造技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のニッケル基耐熱合金製造方法のフローを示した説明図である。
【
図2】AlNウィスカーの添加率を5vol%、2vol%としたときの仮焼結体破断面のSEM写真である。
【
図3】本発明により得られた改良ニッケル基耐熱合金のSEM写真とEDS写真である。
【
図4】本発明の一部であるSPSを真空焼結に変えて得られた合金のSEM写真とEDS写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明は、ニッケル基耐熱合金を原料とし、これにAlNが粉末姿のまま分散した状態の合金を製造する方法である。製造される合金は、AlNが物性的にニッケル基耐熱合金よりも高強度であって(また熱伝導率が高くもある)、ウィスカーであれば構造的にも高強度化に資することとなるため、本実施の形態では、これを改良ニッケル基耐熱合金と適宜称することとする。
図1は、本発明である改良ニッケル基耐熱合金の製造方法のフローを示した説明図である。本発明は、大きく、MIM(Metal Injection Molding:金属粉末射出成形)とSPS(Spark Plasma Sintering:放電プラズマ焼結法)とを組み合わせた方法である。
【0025】
詳細には、次のとおりである。
まず、ニッケル基耐熱合金とAlNの粉末原料を準備し、これにバインダーを添加して混合もしくは混練する(ステップS1)。
ニッケル基耐熱合金は、ニッケルに、チタン、アルミニウム、ニオブ、クロム、モリブデン等が加わった耐熱性のある(すなわち、高温で強度が維持される)合金であるが、インコネルが好ましく、ここでは、インコネル713LCの粉末を用いている。性状は、粒径数ミクロンから40ミクロン程度の球形微粉末である。
AlNはセラミックスであって、ここではAlNウィスカー(ひげ結晶)を用いる(U-MAP社製)。大きさは、短径がサブミクロンから数ミクロンであって、長さ(長径)が5ミクロン~20ミクロン程度である。
添加量は、要求物性に応じて適宜設計すれば良いが、ニッケル基耐熱合金とAlNの合計に対して、AlNの添加量を1vol以上30vol%以下とする。
【0026】
バインダーは、成形用に調合したバインダーを用いればよく、パラフィンワックスとポリプロピレン粉末を重量比5:3を目安として混練機(混合器)に投入する。ただし、この重量比は粉末原料の組成比や混練条件等に応じて適宜変更する。混合割合は、体積比でニッケル基耐熱合金とAlNとの混合粉末:バインダー=65:35とした。概ね80:20~50:50であればAlNウィスカーとニッケル基耐熱合金粉末とは均質に混ざりあう。なお、温度は150℃として半流動体性の状態で全体を1時間混練(混合)する。この時間は全体の容量や条件に従って適宜調整すれば良い。なお、混練機(混合機)は汎用品を用いることができる。
【0027】
ステップS1に続き、常温で固形体となっている混合物(混練物)を粉砕し、これを射出成形する(ステップS2)。射出成形機も汎用品を用いればよく、成形温度は160℃とする例を挙げることができる。なお、この温度は、意図しない分離や反応が生じなければ特に制限されない。成形金型は、所望の形状とすれば良いが、ここでは評価用として2×10×60mmの板状に成形する例を説明する。
【0028】
次に、得られた板状成形体(固形体)を溶媒脱脂し(ステップS3)、続いて焼結処理して仮焼結体をえる(ステップS4)。焼結処理の際にはさらに脱脂がなされる(仮焼結体を得る焼結処理が加熱脱脂処理も兼ねることとなる)。
溶媒は、炭化水素系洗浄剤(ENEOSサンエナジー社製 NSクリーン)を用いるが、AlNウィスカーに対する反応性がなく、バインダーを好適に除去するものであれば特に限定されない。
仮焼結温度は1000℃とするが、AlNウィスカーがそのまま維持され、後工程で影響がでない程度に脱脂されるのであれば、焼結温度と焼結時間は適宜調整すればよい。なお、溶媒脱脂工程では比較的多く残存しているポリプロピレンも600℃以下で熱分解して消失する。
得られた焼結体の相対密度は約65%であった。
図2は、AlNウィスカーの添加率を5vol%、2vol%としたときの仮焼結体破断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。図から明らかなように、仮焼結をおこなった段階で、AlNウィスカーがいずれも均一にかつ特定の配向性なくインコネル713粒子に付着していることが確認できる。
【0029】
次に、SPS処理をおこなう(ステップS5)。具体的には、仮焼結体を黒鉛ダイス(10×60mm)内でダイスの上側と下側から嵌め込む黒鉛パンチで挟んで、40MPaの圧力下にてパルス電流をかけ、型温度が1100℃に至ってから10分間温度維持し、その後自然冷却した。
【0030】
得られた改良ニッケル基耐熱合金について相対密度を測定したところ100%であった。
図3は、改良ニッケル基耐熱合金のSEM写真とEDS(エネルギー分散型X線分光)写真である。SEM写真から明らかなように、AlNはウィスカー形状を保っている。また、EDS写真から明らかなように、AlとNが散逸せずそのまま残存していることも確認できる。また、ウィスカー表面は、ニッケル基耐熱合金中のTi,Mo,Zr,Nbの濃度が濃くなっており、表面反応が生じており、AlNウィスカーがニッケル基耐熱合金と結合していることがわかる。
【0031】
なお、仮焼結に続く本焼結として、当該技術分野にて自然に選択すると想定されるところの真空焼結したものを比較することとした。焼結は、1280℃×180分という、一般的な処理温度と処理時間を採用した(この間、圧力は10-3Paとした)。なお、得られた焼結体はHIP処理して相対密度を100%にすることが可能である。
【0032】
図4は、比較品のSEM写真とEDS写真である。
AlNはウィスカー形状を維持しておらず、Alが散逸して、TiやZrに置換していることが確認できる。
【0033】
以上説明したように、一般的に採用される真空焼結では、AlNウィスカーが散逸ないし成分置換が生じてしまい、所期の特性すなわちAlNの素材由来、形状由来の強度向上、また、熱伝導性向上を期待できず、素材検討がそのまま終結してしまうだろうところ、本発明では、SPSを採用したことによりAlNウィスカーがウィスカーのまま分散した改良ニッケル基耐熱合金を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により製造される改良ニッケル基耐熱合金は、航空機ジェットエンジン用タービンブレード等に用いることができる。