(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000885
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】放射線画像処理装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20240101AFI20231226BHJP
【FI】
A61B6/00 333
A61B6/00 350S
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099859
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧 伴子
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA01
4C093CA07
4C093CA34
4C093DA10
4C093EA07
4C093EB05
4C093EB13
4C093FC24
4C093FF09
4C093FF15
4C093FF25
4C093FF34
(57)【要約】
【課題】放射線画像処理装置、方法およびプログラムにおいて、エネルギーサブトラクション処理により導出された画像の画質を安定させる。
【解決手段】エネルギー分布が異なる放射線によって被写体を撮影することにより取得された複数の放射線画像を重み付け減算することにより導出され、かつあらかじめ定められた画像処理が施された、被写体内の特定の組織が抽出されたサブトラクション画像を導出するに際し、放射線画像を取得する放射線検出器へ直接到達する放射線量である到達線量を取得し、到達線量に基づいて画像処理を行うことによりサブトラクション画像を導出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー分布が異なる放射線によって被写体を撮影することにより取得された複数の放射線画像を重み付け減算することにより導出され、かつあらかじめ定められた画像処理が施された、前記被写体内の特定の組織が抽出されたサブトラクション画像を導出する放射線画像処理装置であって、
少なくとも1つのプロセッサを備え、
前記プロセッサは、
前記放射線画像を取得する放射線検出器へ直接到達する放射線量である到達線量を取得し、
前記到達線量に基づいて前記画像処理を行うことにより前記サブトラクション画像を導出する放射線画像処理装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記複数の放射線画像を取得し、
前記到達線量、前記複数の放射線画像のいずれか、および前記複数の放射線画像を取得した際の撮影条件に基づいて前記被写体の体厚分布を導出し、
前記体厚分布および前記撮影条件に基づいて前記複数の放射線画像から前記被写体により散乱された放射線の散乱線成分を除去し、
前記散乱線成分が除去された複数の放射線画像を重み付け減算することにより、前記被写体の骨部が抽出された骨部画像を導出し、
前記体厚分布および前記撮影条件に基づいて前記骨部画像の画素値を補正する補正係数を導出し、
前記補正係数により前記骨部画像を補正することにより前記サブトラクション画像を導出する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記複数の放射線画像を取得し、
前記到達線量、前記複数の放射線画像のいずれか、および前記複数の放射線画像を取得した際の撮影条件に基づいて前記被写体の体厚分布を導出し、
前記体厚分布および前記撮影条件に基づいて前記複数の放射線画像から前記被写体により散乱された放射線の散乱線成分を除去し、
前記散乱線成分が除去された複数の放射線画像を重み付け減算することにより前記サブトラクション画像を導出する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記複数の放射線画像を取得し、
前記到達線量、前記複数の放射線画像のいずれか、および前記複数の放射線画像を取得した際の撮影条件に基づいて前記被写体の体厚分布を導出し、
前記複数の放射線画像を重み付け減算することにより、前記被写体の骨部が抽出された骨部画像を導出し、
前記体厚分布および前記撮影条件に基づいて前記骨部画像の画素値を補正する補正係数を導出し、
前記補正係数により前記骨部画像を補正することにより前記サブトラクション画像を導出する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記放射線を出射する放射線源に印加される管電圧を計測する管電圧センサが出力した管電圧を前記撮影条件の1つとして取得する請求項2から4のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記放射線検出器において前記放射線が直接到達する直接放射線領域にある画像センサが出力した信号値を前記到達線量として取得する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記放射線検出器において前記放射線が直接到達する直接放射線領域に設置された線量センサが出力した信号値を前記到達線量として取得する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項8】
前記プロセッサは、前記放射線検出器における前記放射線を検出する領域外に設置された線量センサが出力した信号値を前記到達線量として取得する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項9】
エネルギー分布が異なる放射線によって被写体を撮影することにより取得された複数の放射線画像を重み付け減算することにより導出され、かつあらかじめ定められた画像処理が施された、前記被写体内の特定の組織が抽出されたサブトラクション画像を導出する放射線画像処理方法であって、
前記放射線画像を取得する放射線検出器へ直接到達する放射線量である到達線量を取得し、
前記到達線量に基づいて前記画像処理を行うことにより前記サブトラクション画像を導出する放射線画像処理方法。
【請求項10】
エネルギー分布が異なる放射線によって被写体を撮影することにより取得された複数の放射線画像を重み付け減算することにより導出され、かつあらかじめ定められた画像処理が施された、前記被写体内の特定の組織が抽出されたサブトラクション画像を導出する手順をコンピュータに実行させる放射線画像処理プログラムであって、
前記放射線画像を取得する放射線検出器へ直接到達する放射線量である到達線量を取得する手順と、
前記到達線量に基づいて前記画像処理を行うことにより前記サブトラクション画像を導出する手順とをコンピュータに実行させる放射線画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線画像処理装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被写体を構成する物質によって透過した放射線の減衰量が異なることを利用して、エネルギー分布が異なる2種類の放射線を被写体に照射して得られた2枚の放射線画像を用いたエネルギーサブトラクション処理が知られている。エネルギーサブトラクション処理とは、上記のようにして得られた2つの放射線画像の各画素を対応させて、画素間で適当な重み係数を乗算した上で減算(サブトラクト)を行って、放射線画像に含まれる特定の構造物を抽出した画像を取得する方法である。
【0003】
また、エネルギーサブトラクション処理により取得された被写体の骨部を表す骨部画像を、被写体の体厚および管電圧に基づいて設定される補正係数を用いて補正することにより、被写体の骨密度を推定する手法が提案されている(特許文献1参照)。また、放射線画像の画質を向上させるために、被写体の体厚を用いて放射線画像に含まれる放射線の散乱線成分を除去するための手法も提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
ここで、上記特許文献1,2に記載された手法において骨部画像の補正および散乱線除去に使用する被写体の体厚は、放射線検出器に直接届いた到達線量および被写体を透過して届いた到達線量に基づいて導出される。放射線検出器に直接届いた到達線量は、管電圧(kV)、線量(mAs)および放射線源と放射線検出器との間の距離(SID(Source-to-Image receptor Distance))といった撮影条件に基づいて算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-043959号公報
【特許文献2】特開2018-015453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、放射線撮影装置において使用されている放射線の管球および被写体を透過した放射線を検出して放射線画像を生成する放射線検出器の感度は、経時により劣化する。管球および放射線検出器が劣化すると、放射線撮影装置に設定した撮影条件が設定値からずれてしまう。撮影条件が設定値からずれると、特許文献1に記載された手法においては管電圧および体厚が変化するため補正係数が変化し、その結果、骨密度を精度よく推定することができなくなる。また、特許文献2に記載された手法においては、散乱線成分を精度よく除去できなくなる。このように、骨密度を精度よく推定できなかったり、散乱線成分を精度よく除去できなかったりすると、取得される画像の画質が安定しなくなる。
【0007】
本開示は上記事情に鑑みなされたものであり、エネルギーサブトラクション処理により導出された画像の画質を安定させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の放射線画像処理装置は、エネルギー分布が異なる放射線によって被写体を撮影することにより取得された複数の放射線画像を重み付け減算することにより導出され、かつあらかじめ定められた画像処理が施された、被写体内の特定の組織が抽出されたサブトラクション画像を導出する放射線画像処理装置であって、
少なくとも1つのプロセッサを備え、プロセッサは、放射線画像を取得する放射線検出器へ直接到達する放射線量である到達線量を取得し、
到達線量に基づいて画像処理を行うことによりサブトラクション画像を導出する。
【0009】
なお、本開示の放射線画像処理装置において、プロセッサは、複数の放射線画像を取得し、
到達線量、複数の放射線画像のいずれか、および複数の放射線画像を取得した際の撮影条件に基づいて被写体の体厚分布を導出し、
体厚分布および撮影条件に基づいて複数の放射線画像から被写体により散乱された放射線の散乱線成分を除去し、
散乱線成分が除去された複数の放射線画像を重み付け減算することにより、被写体の骨部が抽出された骨部画像を導出し、
体厚分布および撮影条件に基づいて骨部画像の画素値を補正する補正係数を導出し、
補正係数により骨部画像を補正することによりサブトラクション画像を導出するものであってもよい。
【0010】
また、本開示の放射線画像処理装置において、プロセッサは、複数の放射線画像を取得し、
到達線量、複数の放射線画像のいずれか、および複数の放射線画像を取得した際の撮影条件に基づいて被写体の体厚分布を導出し、
体厚分布および撮影条件に基づいて複数の放射線画像から被写体により散乱された放射線の散乱線成分を除去し、
散乱線成分が除去された複数の放射線画像を重み付け減算することによりサブトラクション画像を導出するものであってもよい。
【0011】
また、本開示の放射線画像処理装置において、プロセッサは、複数の放射線画像を取得し、
到達線量、複数の放射線画像のいずれか、および複数の放射線画像を取得した際の撮影条件に基づいて被写体の体厚分布を導出し、
複数の放射線画像を重み付け減算することにより、被写体の骨部が抽出された骨部画像を導出し、
体厚分布および撮影条件に基づいて骨部画像の画素値を補正する補正係数を導出し、
補正係数により骨部画像を補正することによりサブトラクション画像を導出するものであってもよい。
【0012】
また、本開示の放射線画像処理装置において、プロセッサは、放射線を出射する放射線源に印加される管電圧を計測する管電圧センサが出力した管電圧を撮影条件の1つとして取得するものであってもよい。
【0013】
また、本開示の放射線画像処理装置において、プロセッサは、放射線検出器において放射線が直接到達する直接放射線領域にある画像センサが出力した信号値を到達線量として取得するものであってもよい。
【0014】
また、本開示の放射線画像処理装置において、プロセッサは、放射線検出器において放射線が直接到達する直接放射線領域に設置された線量センサが出力した信号値を到達線量として取得するものであってもよい。
【0015】
また、本開示の放射線画像処理装置において、プロセッサは、放射線検出器における放射線を検出する領域外に設置された線量センサが出力した信号値を到達線量として取得するものであってもよい。
【0016】
本開示による放射線画像処理方法は、エネルギー分布が異なる放射線によって被写体を撮影することにより取得された複数の放射線画像を重み付け減算することにより導出され、かつあらかじめ定められた画像処理が施された、被写体内の特定の組織が抽出されたサブトラクション画像を導出する放射線画像処理方法であって、
放射線画像を取得する放射線検出器へ直接到達する放射線量である到達線量を取得し、
到達線量に基づいて画像処理を行うことによりサブトラクション画像を導出する。
【0017】
本開示による放射線画像処理プログラムは、エネルギー分布が異なる放射線によって被写体を撮影することにより取得された複数の放射線画像を重み付け減算することにより導出され、かつあらかじめ定められた画像処理が施された、被写体内の特定の組織が抽出されたサブトラクション画像を導出する手順をコンピュータに実行させる放射線画像処理プログラムであって、
放射線画像を取得する放射線検出器へ直接到達する放射線量である到達線量を取得する手順と、
到達線量に基づいて画像処理を行うことによりサブトラクション画像を導出する手順とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、エネルギーサブトラクション処理により導出された画像の画質を安定させることができる
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示の第1の実施形態による放射線画像処理装置を適用した放射線画像撮影システムの構成を示す概略ブロック図
【
図2】第1の実施形態による放射線画像処理装置の概略構成を示す図
【
図3】第1の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を示す図
【
図5】一部の画像センサが線量センサと置換された放射線検出器を示す図
【
図7】体厚に対する骨部と軟部とのコントラストの関係を示す図
【
図8】補正係数を取得するためのルックアップテーブルを示す図
【
図10】第1の実施形態において行われる処理を示すフローチャート
【
図11】第2の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を示す図
【
図12】第2の実施形態において行われる処理を示すフローチャート
【
図13】第3の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を示す図
【
図14】第3の実施形態において行われる処理を示すフローチャート
【
図15】一部の画像センサが線量センサと置換された放射線検出器の他の例を示す図
【
図16】画像センサが設置された領域外に線量センサが設置された放射線検出器を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。
図1は本開示の第1の実施形態による放射線画像処理装置を適用した放射線画像撮影システムの構成を示す概略ブロック図である。
図1に示すように、第1の実施形態による放射線画像撮影システムは、撮影装置1と、第1の実施形態による放射線画像処理装置10とを備える。
【0021】
撮影装置1は、第1の放射線検出器5および第2の放射線検出器6に、放射線源3から発せられ、被写体Hを透過したX線等の放射線を、それぞれエネルギーを変えて照射するいわゆる1ショット法によるエネルギーサブトラクションを行うための撮影装置である。撮影時においては、
図1に示すように、放射線源3に近い側から順に、第1の放射線検出器5、銅板等からなる放射線エネルギー変換フィルタ7、および第2の放射線検出器6を配置して、放射線源3を駆動させる。なお、第1および第2の放射線検出器5,6と放射線エネルギー変換フィルタ7とは密着されている。
【0022】
これにより、第1の放射線検出器5においては、いわゆる軟線も含む低エネルギーの放射線による被写体Hの第1の放射線画像G1が取得される。また、第2の放射線検出器6においては、軟線が除かれた高エネルギーの放射線による被写体Hの第2の放射線画像G2が取得される。第1および第2の放射線画像G1,G2は、放射線画像処理装置10に入力される。
【0023】
第1および第2の放射線検出器5,6は、多数の画像センサが配置されることにより構成されている。第1および第2の放射線検出器5,6は、放射線画像の記録および読み出しを繰り返して行うことができるものであり、放射線の照射を直接受けて電荷を発生する、いわゆる直接型の放射線検出器を用いてもよいし、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷信号に変換する、いわゆる間接型の放射線検出器を用いるようにしてもよい。また、放射線画像信号の読出方式としては、TFT(thin film transistor)スイッチをオン・オフさせることによって放射線画像信号が読み出される、いわゆるTFT読出方式のもの、または読取り光を照射することによって放射線画像信号が読み出される、いわゆる光読出方式のものを用いることが望ましいが、これに限らずその他のものを用いるようにしてもよい。
【0024】
なお、第1の実施形態においては、後述するように放射線検出器5,6の画像センサの一部が線量センサに置換されている。
【0025】
撮影装置1においては、第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2の取得に際して、管電圧、撮影線量、線質、放射線源3と第1および第2の放射線検出器5,6の表面との距離であるSID(Source Image receptor Distance)、放射線源3と被写体Hの表面との距離であるSOD(Source Object Distance)、並びに散乱線除去グリッドの有無等の撮影条件が設定される。
【0026】
SODおよびSIDは、後述するように体厚分布の算出に用いられる。SODについては、例えば、TOF(Time Of Flight)カメラで取得することが好ましい。SIDについては、例えば、ポテンショメーター、超音波距離計およびレーザー距離計等で取得することが好ましい。
【0027】
撮影条件は、撮影装置1に対する設定値と実際の出力とが一致するようにあらかじめキャリブレーションがなされている。例えば、撮影線量および管電圧について撮影装置1に設定した設定値に相当する出力が得られるようにキャリブレーションがなされている。また、放射線検出器5,6についても、設定された線量の放射線が照射されると設定された信号値が出力されるようにキャリブレーションがなされている。撮影条件の設定は、操作者による入力デバイス15からの入力により行われる。
【0028】
また、第1の実施形態においては、撮影装置1には放射線源3に印加される管電圧を計測するための管電圧センサ9が設けられている。管電圧センサが出力した信号は放射線画像処理装置10に入力される。
【0029】
次いで、第1の実施形態による放射線画像処理装置について説明する。まず、
図2を参照して、第1の実施形態による放射線画像処理装置のハードウェア構成を説明する。
図2に示すように、放射線画像処理装置10は、ワークステーション、サーバコンピュータおよびパーソナルコンピュータ等のコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)11、不揮発性のストレージ13、および一時記憶領域としてのメモリ16を備える。また、放射線画像処理装置10は、液晶ディスプレイ等のディスプレイ14、キーボードおよびマウス等の入力デバイス15、並びに不図示のネットワークに接続されるネットワークI/F(InterFace)17を備える。CPU11、ストレージ13、ディスプレイ14、入力デバイス15、メモリ16およびネットワークI/F17は、バス18に接続される。なお、CPU11は、本開示におけるプロセッサの一例である。
【0030】
ストレージ13は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、およびフラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としてのストレージ13には、放射線画像処理装置10にインストールされた放射線画像処理プログラム12が記憶される。CPU11は、ストレージ13から放射線画像処理プログラム12を読み出してメモリ16に展開し、展開した放射線画像処理プログラム12を実行する。
【0031】
なお、放射線画像処理プログラム12は、ネットワークに接続されたサーバコンピュータの記憶装置、あるいはネットワークストレージに、外部からアクセス可能な状態で記憶され、要求に応じて放射線画像処理装置10を構成するコンピュータにダウンロードされ、インストールされる。または、DVD(Digital Versatile Disc)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の記録媒体に記録されて配布され、その記録媒体から放射線画像処理装置10を構成するコンピュータにインストールされる。
【0032】
次いで、第1の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を説明する。
図3は、第1の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を示す図である。
図3に示すように、放射線画像処理装置10は、画像取得部21、到達線量取得部22、散乱線除去部23、骨部画像導出部24、補正部25および表示制御部26を備える。そして、CPU11は、放射線画像処理プログラム12を実行することにより、画像取得部21、到達線量取得部22、散乱線除去部23、骨部画像導出部24、補正部25および表示制御部26として機能する。
【0033】
画像取得部21は、撮影装置1に被写体Hのエネルギーサブトラクション撮影を行わせることにより、第1および第2の放射線検出器5,6から、被写体Hの第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2を取得する。第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2の取得に際しては上述したように撮影条件が設定される。
【0034】
到達線量取得部22は、放射線源3から出射された放射線のうち、被写体Hを透過せず、放射線検出器5に直接到達した放射線の線量である到達線量I0を取得する。到達線量I0の取得に際して、到達線量取得部22は、まず放射線源3に近い側の第1の放射線検出器5において取得された第1の放射線画像G1を用いて、第1の放射線検出器5における放射線が直接照射された直接放射線領域を検出する。
【0035】
図4は直接放射線領域の検出を説明するための図である。
図4に示すように、到達線量取得部22は、第1の放射線画像G1のヒストグラムH1を導出する。ヒストグラムH1の横軸は信号値、縦軸は頻度である。直接放射線領域は第1の放射線画像G1において高濃度の領域として現れる。このため、到達線量取得部22は、ヒストグラムH1においてあらかじめ定められたしきい値Th1以上の信号値A1が取得された放射線検出器5における領域を直接放射線領域として検出する。
【0036】
なお、ヒストグラムH1を用いることに代えて、放射線画像における直接放射線領域を検出するように機械学習がなされた識別器を用いて第1の放射線画像G1における直接放射線領域を検出するようにしてもよい。このような識別器は、直接放射線領域が既知の放射線画像を教師データとして用いて、畳み込みニューラルネットワーク等のニューラルネットワークを機械学習することにより構築される。
【0037】
ここで、第1の実施形態においては、放射線検出器5,6の画像センサの一部が、照射された放射線の線量を検出し、線量を表す信号を出力する線量センサと置換されている。
図5は画像センサの一部が線量センサに置換された放射線検出器を示す図である。
図5に示すように、放射線検出器5,6において直接放射線領域となりうる可能性が高い、検出面の縁部付近の領域の画像センサの一部が線量センサ31に置換されている。本実施形態においては、第1の放射線検出器5における線量センサ31の出力を到達線量I0として用いる。
【0038】
なお、第1の放射線画像G1においては、線量センサ31の位置における画素の画素値が得られない。このため、本実施形態においては、線量センサ31の位置における画素の画素値は、その周囲の画素の画素値を用いた補間演算により導出する。
【0039】
散乱線除去部23は、画像取得部21が取得した第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2のそれぞれから散乱線成分を除去する。散乱線成分を除去する処理が本開示のあらかじめ定められた画像処理の一例である。以下、散乱線成分の除去について説明する。散乱線成分を除去する手法としては、例えば、特開2015-043959号公報等に記載された手法等の任意の手法を用いることができる。以下、特開2015-043959号公報に記載された手法を用いた場合の第1の放射線画像G1に対する散乱線除去処理について説明する。なお、以降の説明において、散乱線成分が除去された第1および第2の放射線画像についても、参照符号としてG1,G2をそれぞれ用いるものとする。
【0040】
まず、散乱線除去部23は、初期体厚分布Ts(x,y)を有する被写体Hの仮想モデルを取得する。仮想モデルは、初期体厚分布Ts(x,y)に従った体厚が、第1の放射線画像G1の各画素の座標位置に対応付けられた、被写体Hを仮想的に表すデータである。なお、初期体厚分布Ts(x,y)を有する被写体Hの仮想モデルは、ストレージ13にあらかじめ記憶されているものとするが、仮想モデルが保存された外部のサーバから取得するようにしてもよい。以下、初期体厚分布Ts(x,y)の導出について説明する。
【0041】
まず、初期体厚分布をTs、初期体厚分布Tsを有する場合の被写体Hの減弱係数をμ(Ts)、散乱線の広がりを考慮しない場合における、初期体厚分布Tsを有する被写体Hを透過後の放射線に含まれる散乱線量と一次線量との比であるScatter-to-Primary RatioをSTPR(Ts)とすると、被写体Hを透過後の線量I1は、下記の式(1)により表される。式(1)における到達線量I0は到達線量取得部22が取得したものである。なお、式(1)においては、初期体厚分布Ts、到達線量I0、および線量I1は、放射線画像G0の画素毎に導出されるが、(x,y)を省略している。また、STPRは体厚のみならず、管電圧(kV)にも依存する非線形関数であるが、式(1)においては、kV表記を省略している。
I1=I0×exp{-μ(Ts)×Ts}×{1+STPR(Ts)} (1)
【0042】
式(1)において、線量I1は放射線画像G1の各画素における画素値である。一方、STPRは非線形な関数であるため、式(1)をTsについて代数的に解くことはできない。このため、散乱線除去部23は、下記の式(2)または式(2-1)に示すエラー関数E1を定義する。そして、エラー関数E1を最小とするか、またはエラー関数E1があらかじめ定められたしきい値Th1未満となるTsを初期体厚分布として導出する。この際、散乱線除去部23は、最急降下法および共役勾配法等の最適化アルゴリズムを用いて、初期体厚分布Tsを導出する。
E1=[I1-I0×exp{-μ(Ts)×Ts}×{1+STPR(Ts)}]2 (2)
E1=|I1-I0×exp{-μ(Ts)×Ts}×{1+STPR(Ts)}| (2-1)
【0043】
散乱線除去部23は、下記の式(3)、(4)に示すように、仮想モデルに基づいて、仮想モデルの撮影により得られる一次線画像を推定した推定一次線画像Ip(x,y)と、仮想モデルの撮影により得られる散乱線画像を推定した推定散乱線画像Is(x,y)とを導出する。さらに、散乱線除去部23は、下記の式(5)に示すように、推定一次線画像Ip(x,y)と推定散乱線画像Is(x,y)とを合成した画像を、被写体Hの撮影により得られた第1の放射線画像G1を推定した推定画像Im(x,y)として導出する
Ip(x,y) = Io(x,y)×exp(-μSoftT(x,y))×T(x,y)) (3)
Is(x,y) = Ip(x,y)×STPR(T(x,y))*PSF(T(x,y)) (4)
Im(x,y) = Is(x,y)+Ip(x,y) (5)
【0044】
ここで、(x,y)は第1の放射線画像G1の画素位置の座標、Io(x,y)は画素位置(x,y)において被写体Hが存在しないと仮定した際に放射線が放射線検出器5で検出される線量であって、到達線量取得部22が取得した到達線量、Ip(x,y)は画素位置(x,y)における一次線成分、Is(x,y)は画素位置(x,y)における散乱線成分である。なお、1回目の推定画像Im(x,y)の導出の際には、式(3)、(4)における体厚分布T(x,y)として、初期体厚分布Ts(x,y)を用いる。
【0045】
また、式(3)におけるμSoft(T(x,y))は、画素位置(x,y)における人体の軟部組織の体厚分布(x,y)に応じた減弱係数である。μSoft(T(x,y))はあらかじめ実験的にあるいはシミュレーションにより求めておき、ストレージ13に保存しておけばよい。なお、本実施形態においては、減弱係数μSoft(T(x,y))は、後述する標準軟部の減弱係数を用いる。
【0046】
また、式(4)におけるPSF(T(x,y))は、体厚分布T(x,y)に応じて1つの画素から広がる散乱線の分布を表す点拡散関数(Point Spread Function)であり、放射線のエネルギー特性に応じて定義される。また、*は畳み込み演算を示す演算子である。PSFは、撮影装置1における照射野の分布、被写体Hの組成の分布、撮影時の照射線量、管電圧、撮影距離、および放射線検出器5,6の特性等によっても変化する。このため、PSFは照射野情報、被写体情報および撮影条件等に応じて、撮影装置1が使用する放射線のエネルギー特性毎にあらかじめ実験的に求めておき、ストレージ13に保存しておけばよい。
【0047】
次に、散乱線除去部23は、推定画像Imと第1の放射線画像G1との違いが小さくなるように仮想モデルの初期体厚分布Ts(x,y)を修正する。散乱線除去部23は、推定画像Imと第1の放射線画像G1との違いがあらかじめ定められた終了条件を満たすまで、体厚分布T(x,y)、散乱線成分Is(x,y)および一次線成分Ip(x,y)の導出を繰り返すことにより、体厚分布T(x,y)、散乱線成分Is(x,y)および一次線成分Ip(x,y)を更新する。散乱線除去部23は、終了条件を満たした際に式(5)により導出される散乱線成分Is(x,y)を第1の放射線画像G1から減算する。これにより、第1の放射線画像G1に含まれる散乱線成分が除去される。なお、終了条件を満たした際に導出された体厚分布T(x,y)が、後述する骨密度を導出する際に使用される。
【0048】
一方、散乱線除去部23は、第2の放射線画像G2に対しても上記第1の放射線画像G1と同様に散乱線除去処理を行う。なお、以降の説明において、散乱線成分が除去された第1の放射線画像および第2の放射線画像についても参照符号としてG1,G2を用いるものとする。
【0049】
骨部画像導出部24は、散乱線除去部23により散乱線成分が除去された第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2から、被写体Hの骨部領域を表す骨部画像Gbを生成する。なお、骨部が本開示の特定構造の一例である。
図6は、骨部画像導出部24が生成した骨部画像Gbの一例を示す図である。
【0050】
骨部画像導出部24は、第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2に対して、下記の式(6)に示すように、相対応する画素間で重み付け減算を行うことにより、第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2に含まれる被写体Hの骨部のみが抽出された骨部画像Gbを生成する。なお、下記式(6)におけるα1は重み付け係数であり、被写体Hの軟部および骨部の放射線エネルギーに応じた減弱係数に基づいて導出される。また、x、yは骨部画像Gbの各画素の座標である。
Gb(x,y)=G1(x,y)-α1×G2(x,y) (6)
【0051】
補正部25は、骨部画像導出部24が生成した骨部画像Gbを補正することにより、被写体Hの骨部領域における骨密度を表す骨密度画像を導出する。骨部画像Gbを補正する処理が本開示のあらかじめ定められた画像処理の一例である。補正部25は、骨部画像Gbの画素(x,y)毎に骨密度B(x,y)を導出することにより骨密度画像Bを導出する。なお、骨部画像Gbに含まれる全ての骨について骨密度B(x,y)を導出してもよいし、あらかじめ定められた骨についてのみ骨密度B(x,y)を導出してもよい。
【0052】
具体的には補正部25は、骨部画像Gbの骨部領域の各画素値Gb(x,y)を、基準撮影条件により取得した場合の骨部画像の画素値に変換した値を骨密度と見なして、骨部画像Gbの各画素に対応する骨密度B(x,y)を導出する。より具体的には、補正部25は、後述するルックアップテーブルから取得される補正係数を用いて、骨部画像Gbの各画素値Gb(x,y)を補正することにより画素毎の骨密度B(x,y)を導出する。
【0053】
ここで、放射線源3における管電圧が高く、放射線源3から放射される放射線が高エネルギーであるほど、放射線画像における軟部と骨部とのコントラスト(すなわち画素値の差)が小さくなる。また、放射線が被写体Hを透過する過程において、放射線の低エネルギー成分が被写体Hに吸収され、放射線が高エネルギー化するビームハードニングが生じる。ビームハードニングによる放射線の高エネルギー化は、被写体Hの体厚が大きいほど大きくなる。
【0054】
図7は被写体Hの体厚に対する骨部と軟部とのコントラストの関係を示す図である。なお、
図7においては、80kV、90kVおよび100kVの3つの管電圧における、被写体Hの体厚に対する骨部と軟部とのコントラストの関係を示している。
図7に示すように、管電圧が高いほどコントラストは低くなる。また、被写体Hの体厚がある値を超えると、体厚が大きいほどコントラストは低くなる。なお、骨部画像Gbにおける骨部領域の画素値Gb(x,y)が大きいほど、骨部と軟部とのコントラストは大きくなる。このため、
図7に示す関係は、骨部画像Gbにおける骨部領域の画素値Gb(x,y)が大きいほど、高コントラスト側にシフトすることとなる。
【0055】
本実施形態において、骨部画像Gbにおける、撮影時の管電圧に応じたコントラストの相違、およびビームハードニングの影響によるコントラストの低下を補正するための補正係数を取得するためのルックアップテーブルが、ストレージ13に記憶されている。補正係数は、骨部画像Gbの各画素値Gb(x,y)を補正するための係数である。
【0056】
図8は、ストレージ13に記憶されるルックアップテーブルの一例を示す図である。
図8において、基準撮影条件を、管電圧90kVに設定したルックアップテーブルLUT1が例示されている。
図8に示すようにルックアップテーブルLUT1において、管電圧が大きいほど、かつ被写体の体厚が大きいほど、大きい補正係数が設定されている。
図8に示す例において、基準撮影条件が管電圧90kVであるため、管電圧が90kVで体厚が0の場合に、補正係数が1となっている。なお、
図8において、ルックアップテーブルLUT1を2次元で示しているが、補正係数は骨部領域の画素値に応じて異なる。このため、ルックアップテーブルLUT1は、実際には骨部領域の画素値を表す軸が加わった3次元のテーブルとなる。
【0057】
ここで、補正係数は、人体の軟部組織に相当する物質および骨部組織に相当する物質を含む、人体を模擬したファントムを用いて放射線画像の撮影を行うことにより導出される。軟部組織に相当する物質としては、例えば、アクリルまたはウレタン等を適用することができる。また、人体の骨部組織に相当する物質としては、例えば、ハイドロキシアパタイト等を適用することができる。なお、ファントムにおける軟部組織に相当する物質については、放射線の減弱係数および脂肪率は物質に応じたあらかじめ定められた値となる。ここで、上述したように、被写体の体厚が大きいほど骨部と軟部とのコントラストは小さくなる。その結果、体厚が同一の場合、骨密度が同一であっても放射線画像から導出される骨密度は体厚が大きいほど小さくなる。
【0058】
このため、各種厚さを有するファントムを撮影することにより取得された放射線画像から、体厚に応じた骨部領域の画素値を導出し、導出した画素値が同一の骨密度となるように、体厚に応じた補正係数を導出する。また、補正係数を各種管電圧に応じて導出する。これにより、
図8に示すルックアップテーブルLUT1を導出することができる。
【0059】
補正部25は、被写体Hの体厚分布T(x,y)およびストレージ13に記憶された管電圧の設定値を含む撮影条件に応じた画素毎の補正係数C0(x,y)を、ルックアップテーブルLUT1から取得する。なお、放射線源3の劣化により管電圧は設定値から変動する。このため、本実施形態においては、補正係数C0(x,y)を取得する際に使用する管電圧として、管電圧センサ9が出力した実際の管電圧を用いる。そして、補正部25は、下記の式(7)に示すように、骨部画像Gbにおける骨部領域の各画素値Gb(x,y)に対して、補正係数C0(x,y)を乗算することにより、骨部画像Gbの画素毎の骨密度B(x,y)を導出する。これにより、骨密度B(x,y)を画素値とする骨密度画像Bが導出される。このようにして導出された骨密度B(x,y)は、基準撮影条件である90kVの管電圧により被写体Hを撮影することにより取得され、かつビームハードニングの影響が除去された放射線画像に含まれる骨部領域の骨部の画素値を表すものとなる。なお、本実施形態においては骨密度の単位はg/cm2であるものとする。骨密度画像Bが本開示のサブトラクション画像の一例である。
B(x,y)=C0(x,y)×Gb(x,y) (7)
【0060】
表示制御部26は、骨密度画像Bをディスプレイ14に表示する。
図9は骨密度画像Bの表示画面を示す図である。
図9に示すように表示画面40には骨密度画像Bが表示されている。
【0061】
次いで、第1の実施形態において行われる処理について説明する。
図10は第1の実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。まず、画像取得部21が撮影装置1に被写体Hのエネルギーサブトラクション撮影を行わせることにより、第1および第2の放射線画像G1,G2を取得する(放射線画像取得;ステップST1)。次いで、到達線量取得部22が到達線量I0を取得する(ステップST2)。そして、散乱線除去部23が、到達線量取得部22が取得した到達線量I0を用いて、被写体Hの体厚分布T(x,y)を導出し(ステップST3)、第1および第2の放射線画像G1,G2から散乱線成分を除去する(ステップST4)。なお、ステップST3およびステップST4の処理は並列に行われる。そして、骨部画像導出部24が、散乱線成分が除去された第1および第2の放射線画像G1,G2から、被写体Hの骨部が抽出された骨部画像Gbを導出する(ステップST5)。
【0062】
次いで、補正部25が骨部画像Gbを補正することにより骨密度画像Bを導出し(ステップST6)、表示制御部26が骨密度画像Bを表示し(ステップST7)、処理を終了する。
【0063】
ここで、被写体Hが存在しない状態において、放射線源3を駆動して放射線検出器5に放射線を照射した場合、放射線検出器5への到達線量I0は、撮影装置1において設定した撮影条件を用いて下記の式(8)により導出することができる。式(8)において、撮影条件に含まれるmAsは線量、kVは管電圧である。ここで、Fは基準となるSID(例えば100cm)にて、基準となる線量(例えば1mAs)を被写体Hがない状態で放射線検出器5に照射した場合に、放射線検出器5に到達する放射線量を表す線形または非線形の関数である。Fは、管電圧に依存して変化する。また、到達線量I0は、放射線検出器5により取得される放射線画像G0の画素毎に導出されるため、(x,y)は各画素の画素位置を表す。
I0(x,y)=mAs×F(kV)/SID2 (8)
【0064】
一方、撮影装置1の放射線源3において使用されている放射線の管球および放射線検出器5,6の感度は、経時により劣化する。管球が劣化すると撮影装置1に設定した撮影条件が設定値からずれる。ここで到達線量I0は、上記式(8)を用いて管電圧および線量から導出することが可能であるが、撮影条件が設定値からずれると、管電圧および線量が設定値からずれるため、式(8)を用いて導出される到達線量I0が実際の到達線量からずれ、その結果、上記式(2)、(2-1)を用いて導出される初期体厚分布Tsもずれる。このため、被写体Hの体厚分布を精度よく導出することができなくなる。また、放射線検出器5,6の感度が劣化すると、放射線検出器5,6から出力される信号値の精度が低下する。体厚分布の精度および信号値の精度が低下すると、上記式(4)において導出される散乱線成分の精度が低下し、その結果、放射線画像G1,G2から散乱線成分を精度よく除去できなくなる。
【0065】
また、管電圧が設定値からずれ、さらには体厚分布の精度が低下すると、式(7)における補正係数C0(x,y)の精度も低下するため、骨部画像Gbを精度よく補正することができなくなる。
【0066】
本実施形態においては、到達線量取得部22が放射線源3から出射された放射線のうち、被写体Hを透過せず、第1の放射線検出器5に直接到達した放射線量である到達線量I0を取得するようにした。このため、放射線の管球および第1および第2の放射線検出器5,6の感度が経時により劣化していても、実測された到達線量I0を使用することから、初期体厚分布Tsさらには被写体の体厚分布を精度よく求めることができる。したがって、式(4)により散乱線成分を精度よく導出することができるため、放射線画像G1,G2から散乱線成分を精度よく除去できる。したがって、エネルギーサブトラクション処理により導出される骨部画像Gb、さらには骨密度画像Bの画質を安定させることができる。
【0067】
また、本実施形態においては、管電圧センサ9により実際の管電圧を計測しているため、式(7)における補正係数C0も精度よく導出することができ、その結果、骨密度画像Bを精度よく導出することができる。したがって、本実施形態によれば、エネルギーサブトラクション処理により導出される骨密度画像Bの画質を安定させることができる。
【0068】
次いで、本開示の第2の実施形態について説明する。
図11は第2の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を示す図である。なお、
図11において
図3と同一の構成については同一の参照番号を付与し、詳細な説明は省略する。第2の実施形態においては、散乱線除去処理のみを行い、骨部画像Gbを補正する処理を行わないようにした点が第1の実施形態と異なる。このため、第2の実施形態による放射線画像処理装置10Aは、補正部25を備えていない。第2の実施形態においては、骨部画像Gbが本開示のサブトラクション画像の一例である。
【0069】
次いで、第2の実施形態において行われる処理について説明する。
図12は第2の実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。まず、画像取得部21が撮影装置1に被写体Hのエネルギーサブトラクション撮影を行わせることにより、第1および第2の放射線画像G1,G2を取得する(放射線画像取得;ステップST11)。次いで、到達線量取得部22が到達線量I0を取得する(ステップST12)。そして、散乱線除去部23が、到達線量取得部22が取得した到達線量I0を用いて、被写体Hの体厚分布T(x,y)を導出し(ステップST13)、第1および第2の放射線画像G1,G2から散乱線成分を除去する(ステップST14)。なお、ステップST13およびステップST14の処理は並列に行われる。そして、骨部画像導出部24が、散乱線成分が除去された第1および第2の放射線画像G1,G2から、被写体Hの骨部が抽出された骨部画像Gbを導出する(ステップST15)。次いで、表示制御部26が骨密度画像Bを表示し(ステップST16)、処理を終了する。
【0070】
次いで、本開示の第3の実施形態について説明する。
図13は第3の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を示す図である。なお、
図13において
図3と同一の構成については同一の参照番号を付与し、詳細な説明は省略する。第3の実施形態においては、散乱線除去処理を行わず、骨部画像Gbを補正する処理のみを行うようにした点が第1の実施形態と異なる。このため、第3の実施形態による放射線画像処理装置10Bは、散乱線除去部23を備えていない。一方、上述したように補正係数を導出するためには被写体Hの体厚分布が必要である。第3の実施形態においては、補正部25が被写体Hの体厚分布を導出する。あるいは、被写体Hの体厚分布を導出する体厚導出部を別途備えるものとしてもよい。また、第3の実施形態において散乱線除去部23を備えるものとし、散乱線除去部23において体厚分布を導出するようにしてもよい。第3の実施形態においては、骨密度画像Bが本開示のサブトラクション画像に対応する。
【0071】
次いで、第3の実施形態において行われる処理について説明する。
図14は第3の実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。まず、画像取得部21が撮影装置1に被写体Hのエネルギーサブトラクション撮影を行わせることにより、第1および第2の放射線画像G1,G2を取得する(放射線画像取得;ステップST21)。次いで、到達線量取得部22が到達線量I0を取得する(ステップST22)。そして、補正部25が、到達線量取得部22が取得した到達線量I0を用いて、被写体Hの体厚分布T(x,y)を導出する(ステップST23)。そして、骨部画像導出部24が、第1および第2の放射線画像G1,G2から、被写体Hの骨部が抽出された骨部画像Gbを導出する(ステップST24)。次いで、補正部25が骨部画像Gbを補正することにより骨密度画像Bを導出し(ステップST25)、表示制御部26が骨密度画像Bを表示し(ステップST26)、処理を終了する。
【0072】
なお、上記各実施形態においては、検出面の縁部付近の領域の画像センサの一部が線量センサ31に置換された放射線検出器5,6を用いているが、これに限定されるものではない。
図15に示すように放射線検出器5,6の全面において均等な間隔で画像センサの一部を線量センサ31に置換するようにしてもよい。
【0073】
また、上記各実施形態においては、放射線検出器5,6の画像センサの一部を線量センサ31に置換し、線量センサ31を用いて到達線量I0を取得しているが、これに限定されるものではない。
図16に示すように放射線検出器5,6における画像センサが設置された領域の外側に線量センサ32を設置し、設置された線量センサ32を用いて到達線量I0を取得するようにしてもよい。
【0074】
また、上記各実施形態においては、線量センサ31,32を用いて到達線量I0を取得しているが、これに限定されるものではない。放射線検出器5における直接放射線領域の信号値を到達線量I0として取得するようにしてもよい。この場合、到達線量取得部22は、放射線検出器5における直接放射線領域にある画像センサが出力した信号値すなわち第1の放射線画像G1における直接放射線領域の画素値を変換することにより到達線量I0を取得する。
図17は画素値と線量との関係を示す図である。本実施形態においては、
図17に示す関係を表すルックアップテーブルLUT2がストレージ13に保存されている。到達線量取得部22は、LUT2を参照して、直接放射線領域の画素値を変換することにより到達線量I0を取得する。このようにして取得した到達線量I0を用いても、上記各実施形態と同様に、エネルギーサブトラクション処理により導出された画像の画質を安定させることができる。
【0075】
また、上記各実施形態においては、表示画面30に骨密度画像Bあるいは骨部画像Gbを表示しているが、これに限定されるものではない。下記の式(9)により被写体Hの軟部画像Gsを導出し、軟部画像Gsと骨部画像Gbとを切り替え可能に表示してもよい。さらに、軟部画像Gsおよび骨部画像Gbに加えて放射線画像G1,G2を切り替え可能に表示してもよい。この場合、表示される放射線画像G1,G2は散乱線が除去されたものであっても、除去されていないものであってもよい。
Gs(x、y)=G1(x、y)-α2×G2(x、y) (9)
【0076】
また、上記各実施形態においては、被写体Hの胸部についての骨密度画像Bを導出しているが、これに限定されるものではない。例えば、被写体Hの大腿骨、椎骨、踵骨および中手骨等の任意の骨部についての骨密度画像Bを導出するようにしてもよい。
【0077】
また、上記各実施形態においては、骨密度を導出するためのエネルギーサブトラクション処理を行うに際し、1ショット法により第1および第2の放射線画像G1,G2を取得しているが、これに限定されるものではない。1つの放射線検出器のみ用いて撮影を2回行う、いわゆる2ショット法により第1および第2の放射線画像G1,G2を取得してもよい。2ショット法の場合、被写体Hの体動により、第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2に含まれる被写体Hの位置がずれる可能性がある。このため、第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2において、被写体の位置合わせを行った上で、本実施形態の処理を行うことが好ましい。
【0078】
また、上記実施形態においては、第1および第2の放射線検出器5,6を用いて被写体Hを撮影するシステムにおいて取得した放射線画像を用いて骨密度を導出しているが、放射線検出器に代えて、蓄積性蛍光体シートを用いて第1および第2の放射線画像G1,G2を取得する場合にも、本開示の技術を適用できることはもちろんである。この場合、2枚の蓄積性蛍光体シートを重ねて被写体Hを透過した放射線を照射して、被写体Hの放射線画像情報を各蓄積性蛍光体シートに蓄積記録し、各蓄積性蛍光体シートから放射線画像情報を光電的に読み取ることにより第1および第2の放射線画像G1,G2を取得すればよい。なお、蓄積性蛍光体シートを用いて第1および第2の放射線画像G1,G2を取得する場合にも、2ショット法を用いるようにしてもよい。
【0079】
また、上記実施形態における放射線は、とくに限定されるものではなく、X線の他、α線またはγ線等を用いることができる。
【0080】
また、上記実施形態において、例えば、画像取得部21、散乱線除去部23、骨部画像導出部24、補正部25、および表示制御部26といった各種の処理を実行する処理部(Processing Unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(Processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、上述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device :PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0081】
1つの処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせまたはCPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0082】
複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントおよびサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアとの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0083】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(Circuitry)を用いることができる。
【0084】
以下、本開示の付記項を記載する。
(付記項1)
エネルギー分布が異なる放射線によって被写体を撮影することにより取得された複数の放射線画像を重み付け減算することにより導出され、かつあらかじめ定められた画像処理が施された、前記被写体内の特定の組織が抽出されたサブトラクション画像を導出する放射線画像処理装置であって、
少なくとも1つのプロセッサを備え、
前記プロセッサは、
前記放射線画像を取得する放射線検出器へ直接到達する放射線量である到達線量を取得し、
前記到達線量に基づいて前記画像処理を行うことにより前記サブトラクション画像を導出する放射線画像処理装置。
(付記項2)
前記プロセッサは、前記複数の放射線画像を取得し、
前記到達線量、前記複数の放射線画像のいずれか、および前記複数の放射線画像を取得した際の撮影条件に基づいて前記被写体の体厚分布を導出し、
前記体厚分布および前記撮影条件に基づいて前記複数の放射線画像から前記被写体により散乱された放射線の散乱線成分を除去し、
前記散乱線成分が除去された複数の放射線画像を重み付け減算することにより、前記被写体の骨部が抽出された骨部画像を導出し、
前記体厚分布および前記撮影条件に基づいて前記骨部画像の画素値を補正する補正係数を導出し、
前記補正係数により前記骨部画像を補正することにより前記サブトラクション画像を導出する付記項1に記載の放射線画像処理装置。
(付記項3)
前記プロセッサは、前記複数の放射線画像を取得し、
前記到達線量、前記複数の放射線画像のいずれか、および前記複数の放射線画像を取得した際の撮影条件に基づいて前記被写体の体厚分布を導出し、
前記体厚分布および前記撮影条件に基づいて前記複数の放射線画像から前記被写体により散乱された放射線の散乱線成分を除去し、
前記散乱線成分が除去された複数の放射線画像を重み付け減算することにより前記サブトラクション画像を導出する付記項1に記載の放射線画像処理装置。
(付記項4)
前記プロセッサは、前記複数の放射線画像を取得し、
前記到達線量、前記複数の放射線画像のいずれか、および前記複数の放射線画像を取得した際の撮影条件に基づいて前記被写体の体厚分布を導出し、
前記複数の放射線画像を重み付け減算することにより、前記被写体の骨部が抽出された骨部画像を導出し、
前記体厚分布および前記撮影条件に基づいて前記骨部画像の画素値を補正する補正係数を導出し、
前記補正係数により前記骨部画像を補正することにより前記サブトラクション画像を導出する付記項1に記載の放射線画像処理装置。
(付記項5)
前記プロセッサは、前記放射線を出射する放射線源に印加される管電圧を計測する管電圧センサが出力した管電圧を前記撮影条件の1つとして取得する付記項2から4のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項6)
前記プロセッサは、前記放射線検出器において前記放射線が直接到達する直接放射線領域にある画像センサが出力した信号値を前記到達線量として取得する付記項1から5のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項7)
前記プロセッサは、前記放射線検出器において前記放射線が直接到達する直接放射線領域に設置された線量センサが出力した信号値を前記到達線量として取得する付記項1から5のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項8)
前記プロセッサは、前記放射線検出器における前記放射線を検出する領域外に設置された線量センサが出力した信号値を前記到達線量として取得する付記項1から5のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項9)
エネルギー分布が異なる放射線によって被写体を撮影することにより取得された複数の放射線画像を重み付け減算することにより導出され、かつあらかじめ定められた画像処理が施された、前記被写体内の特定の組織が抽出されたサブトラクション画像を導出する放射線画像処理方法であって、
前記放射線画像を取得する放射線検出器へ直接到達する放射線量である到達線量を取得し、
前記到達線量に基づいて前記画像処理を行うことにより前記サブトラクション画像を導出する。
(付記項10)
エネルギー分布が異なる放射線によって被写体を撮影することにより取得された複数の放射線画像を重み付け減算することにより導出され、かつあらかじめ定められた画像処理が施された、前記被写体内の特定の組織が抽出されたサブトラクション画像を導出する手順をコンピュータに実行させる放射線画像処理プログラムであって、
前記放射線画像を取得する放射線検出器へ直接到達する放射線量である到達線量を取得する手順と、
前記到達線量に基づいて前記画像処理を行うことにより前記サブトラクション画像を導出する手順とをコンピュータに実行させる放射線画像処理プログラム。
【符号の説明】
【0085】
1 撮影装置
3 放射線源
5、6 放射線検出器
7 放射線エネルギー変換フィルタ
9 管電圧センサ
10 放射線画像処理装置
11 CPU
12 放射線画像処理プログラム
13 ストレージ
14 ディスプレイ
15 入力デバイス
16 メモリ
17 ネットワークI/F
18 バス
21 画像取得部
22 到達線量取得部
23 散乱線除去部
24 骨部画像導出部
25 補正部
26 表示制御部
31,32 線量センサ
40 表示画面
LUT1、LUT2 ルックアップテーブル
Gb 骨部画像
B 骨密度画像
H 被写体