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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088539
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】SOIウェーハの片面研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
H01L21/304 621B
H01L21/304 622S
H01L21/304 622W
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203775
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】大槻 昭太
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA03
5F057BA20
5F057CA12
5F057DA02
5F057GA13
5F057GA21
5F057GB02
5F057GB13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】活性層の膜厚分布をより均一化できるSOIウェーハの片面研磨方法を提供する。
【解決手段】方法は、研磨開始前の活性層の膜厚分布を測定して、研磨開始前における活性層の前記膜厚分布に基づく凹凸指数を計算する第1工程と、研磨開始前の凹凸指数に基づき初期研磨条件を決定する第2工程と、初期研磨条件に基づき活性層を研磨しつつ、活性層における中央部及び外周部の膜厚を研磨中に複数回測定して、研磨中での凹凸指数を計算する第3工程と、研磨中の凹凸指数の絶対値が目標値以下となったときに初期研磨条件での研磨を終了する第4工程と、活性層の中央部と外周部の膜厚平均値が目標厚みに到達するまで、仕上げ研磨条件に基づき活性層を研磨する第5工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SOIウェーハの活性層の膜厚分布を測定しながら前記活性層を研磨するSOIウェーハの片面研磨方法であって、
研磨開始前の前記活性層の膜厚分布を測定して、前記研磨開始前における前記活性層の前記膜厚分布に基づく凹凸指数を計算する第1工程と、
前記研磨開始前の前記凹凸指数に基づき初期研磨条件を決定する第2工程と、
前記初期研磨条件に基づき前記活性層を研磨しつつ、前記活性層における中央部及び外周部の膜厚を研磨中に複数回測定して、研磨中での前記凹凸指数を計算する第3工程と、
前記研磨中の前記凹凸指数の絶対値が目標値以下となったときに前記初期研磨条件での研磨を終了する第4工程と、
前記活性層の中央部と外周部の膜厚平均値が目標厚みに到達するまで、仕上げ研磨条件に基づき前記活性層を研磨する第5工程と、を含み、
前記凹凸指数は、前記活性層の中央部及び外周部のそれぞれの厚み平均の差である、SOIウェーハの片面研磨方法。
【請求項2】
前記第3工程において、前記中央部及び外周部での膜厚の測定回数は研磨ヘッドが一周期の揺動を完了するまでに測定される回数である、請求項1に記載のSOIウェーハの片面研磨方法。
【請求項3】
研磨時に前記活性層が受ける径方向加圧分布と、前記凹凸指数の矯正力との指数矯正関係をあらかじめ求めておき、前記第2工程では、前記指数矯正関係に基づき前記研磨開始前の前記凹凸指数に対応する前記初期研磨条件を決定する、請求項1又は2に記載のSOIウェーハの片面研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOIウェーハの片面研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高集積CMOS素子、高耐圧素子、イメージセンサ等の種々の半導体デバイス用途において、SOI(Silicon on Insulator)構造を有するSOIウェーハが注目されている。
【0003】
SOIウェーハは一般的に、単結晶シリコンウェーハからなる支持基板ウェーハ上に、酸化シリコン(SiO)等の絶縁層及びデバイス活性層として使用される単結晶シリコン層などの半導体層が順次形成された構造を有する。なお、この半導体層は活性層又はSOI層とも呼ばれ、以下、本明細書では「活性層」と称する。バルクの単結晶シリコンウェーハでは素子と基板部分との間に発生し得る寄生容量が比較的大きいものの、活性層は絶縁層上に設けられるために寄生容量を大幅に低減できる。そのため、SOIウェーハはデバイスの高速化、高耐圧化、低消費電力化等の点で有利である。
【0004】
半導体デバイスの高集積化はますます加速しており、半導体ウェーハの平坦度などの表面品質の改善が求められている。この要望に応えるため、半導体ウェーハの研磨装置及び研磨方法の改良が幅広く行われている。
【0005】
例えば特許文献1に記載の半導体ウェーハの研磨装置では、研磨圧力に伴う半導体ウェーハの変形を防止するため、複数の圧力室を具える研磨ヘッドが用いられている。
【0006】
また、特許文献2では、活性層の膜厚分布を均一にするために、SOIウェーハ全体の厚み分布ではなく活性層の径方向膜厚分布に着目し、研磨に先立ち活性層の径方向膜厚分布を測定している。そして、特許文献2ではこの測定結果に基づいて研磨ヘッドにおける加圧制御室の加圧分布を適正制御する。
【0007】
また特許文献2では、光学式膜厚測定部を有する研磨装置を用いて、研磨中の膜厚を評価している。この光学式膜厚測定部は、測定光を入射可能な光源及びこの測定光の反射光を受光可能な受光センサを有する。そして、光源からの測定光の入射光を、光ファイバを経由してレンズにより集光し、定盤の窓部を介して測定光をSOIウェーハのSOI層(活性層)の露出面に入射させ、絶縁層によって反射された測定光を、レンズ及び光ファイバを経由して、受光センサが当該測定光の反射光を受光する。こうすることで、特許文献2の片面研磨装置は研磨中にSOI層(活性層)の膜厚を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-131920号公報
【特許文献2】特開2021-106193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、SOIウェーハの活性層の平坦性の改善がますます求められている。活性層に求められる仕様の一つに「膜厚レンジ」がある。研磨仕上げ後の活性層の目標厚みを表記する場合、活性層の膜厚分布のうち、最も厚い側と最も薄い側に許容されるそれぞれの厚み誤差をaと表記すれば、活性層の膜厚分布を[目標厚み]±aの範囲内に収める必要がある。すなわち、膜厚最大値と膜厚最小値との差を2aに収める必要がある。膜厚レンジはこの膜厚最大値と膜厚最小値との差を意味する。膜厚レンジを従来技術よりもさらに小さくすることのできるSOIウェーハの片面研磨方法が求められる。
【0010】
そこで本発明は、SOI層の膜厚分布をより均一化できるSOIウェーハの片面研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した。そして、SOIウェーハの活性層の中央部及び外周部のそれぞれの厚み平均の差である凹凸指数なる指標を用いることを本発明者らは着想した。そして、この凹凸指数を用いて研磨中にまず凹凸指数の値を絶対値として小さくなるよう研磨を行い、研磨中の凹凸指数が所定条件を満足した後、活性層全面の厚みを全体的に減少させることにより、活性層の膜厚分布を均一化できることを本発明者らは知見した。上記知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0012】
(1)SOIウェーハの活性層の膜厚分布を測定しながら前記活性層を研磨するSOIウェーハの片面研磨方法であって、
研磨開始前の前記活性層の膜厚分布を測定して、前記研磨開始前における前記活性層の前記膜厚分布に基づく凹凸指数を計算する第1工程と、
前記研磨開始前の前記凹凸指数に基づき初期研磨条件を決定する第2工程と、
前記初期研磨条件に基づき前記活性層を研磨しつつ、前記活性層における中央部及び外周部の膜厚を研磨中に複数回測定して、研磨中での前記凹凸指数を計算する第3工程と、
前記研磨中の前記凹凸指数の絶対値が目標値以下となったときに前記初期研磨条件での研磨を終了する第4工程と、
前記活性層の中央部と外周部の膜厚平均値が目標厚みに到達するまで、仕上げ研磨条件に基づき前記活性層を研磨する第5工程と、を含み、
前記凹凸指数は、前記活性層の中央部及び外周部のそれぞれの厚み平均の差である、SOIウェーハの片面研磨方法。
【0013】
(2) 前記第3工程において、前記中央部及び外周部での膜厚の測定回数は研磨ヘッドが一周期の揺動を完了するまでに測定される回数である、(1)に記載のSOIウェーハの片面研磨方法。
【0014】
(3) 研磨時に前記活性層が受ける径方向加圧分布と、前記凹凸指数の矯正力との指数矯正関係をあらかじめ求めておき、前記第2工程では、前記指数矯正関係に基づき前記研磨開始前の前記凹凸指数に対応する前記初期研磨条件を決定する、(1)又は(2)に記載のSOIウェーハの片面研磨方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、活性層の膜厚分布をより均一化できるSOIウェーハの片面研磨方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】点平均凹凸指数の計算方法の一例を説明する模式図である。
図1B】領域凹凸指数の計算方法の一例を説明する模式図である。
図2】凹凸指数と膜厚レンジとの関係の一例を示す図である。
図3A】膜厚凹形状ウェーハにおける指数矯正関係の一例を示した図である。
図3B】膜厚凸形状ウェーハにおける指数矯正関係の一例を示した図である。
図4】本発明の一実施形態に従うSOIウェーハの片面研磨装置の一部を示した図である。
図5A】実施例1において測定した研磨前後における径方向膜厚分布である。
図5B】比較例1において測定した研磨前後における径方向膜厚分布である。
図6A】実施例1及び比較例1において、研磨前のウェーハに対して測定した活性層の膜厚の変動幅を示すグラフである。
図6B】実施例1及び比較例1において、研磨後のウェーハに対して測定した活性層の膜厚の変動幅を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態の説明に先立ち、研磨時の膜厚分布の評価方法と実際に測定される膜厚分布との関係について確認すべく、以下の予備実験を実施した。
【0018】
(予備実験)
前述した膜厚レンジは活性層の膜厚の誤差を正確に説明できるものの、研磨中の膜厚測定によってウェーハ全面の膜厚分布を評価することは測定点数の観点で時間的に困難である。さらに、研磨中の測定であれば必然的に膜厚測定中にも研磨が進行するため、正確な膜厚分布を評価することはできない。一般的に、SOIウェーハの活性層の厚みは、中央部から外周部に向かうほど線形減少(中央部が凸型)または線形増加(中央部が凹型)していく。そこで研磨加工中でも膜厚レンジの状態を簡易的に把握するために、以下に詳述する活性層の中央部及び外周部のそれぞれの厚み平均の差を用いた「凹凸指数」なる指標の導入を検討し、その実効性を本発明者らは検証した。
【0019】
<凹凸指数>
本明細書において、SOIウェーハの活性層の中央部及び外周部のそれぞれの厚み平均の差を「凹凸指数」と称する。まず、図1Aを参照して、本予備実験で用いた具体的な凹凸指数(便宜上、「点平均凹凸指数」と称する)を説明する。点平均凹凸指数においては、中央部の代表値としてSOIウェーハ100の中心点101の活性層の膜厚と、SOIウェーハ100の中心からウェーハ半径の10%の円周111上の活性層の膜厚との平均値(算術平均値を指し、以下、単に「平均値」という。)を用いた。そして同様に外周部の代表値としてSOIウェーハ100の中心からウェーハ半径の90%の円周191上の活性層の膜厚の平均値を用い、このときの中央部の膜厚平均値から外周部の膜厚平均値を差し引いた値([中央部膜厚平均値]-[外周部膜厚平均値])を特に点平均凹凸指数と称し、図1Bを参照して後述する領域平均凹凸指数と区別する。
【0020】
上記点平均凹凸指数と、実際に直径200mmのSOIウェーハ全面について膜厚測定して求めた膜厚レンジとを比較したグラフを図2に示す。この結果から、凹凸指数と膜厚レンジには良好な相関が見られることが分かった。すなわち、SOIウェーハの活性層の膜厚の凹凸指数を把握することで、膜厚レンジを精度よく予測できることが分かった。例えば凹凸指数が正の値(この場合、中央部が凸型である)であれば、一段階目の研磨では外周部の研磨取り代が比較的小さく、中央部の研磨取り代が比較的大きい研磨条件を採用する。そうして一段回目の研磨で凹凸指数を絶対値でできるだけ小さくしてから一段階目の研磨を終え、二段階目の研磨では単にSOI層の厚みを目標厚みにまで減じるだけの研磨をすれば、実質的に目標とする膜厚レンジのSOIウェーハを得ることができる。反対に、例えば凹凸指数が負の値(この場合、中央部が凹型である)であれば、一段階目の研磨では外周部の研磨取り代が比較的大きく、中央部の研磨取り代が比較的小さい研磨条件を採用する。そうして一段回目の研磨で、凹凸指数を絶対値でできるだけ小さくしてから同様に二段階目の研磨を行えば、実質的に目標とする膜厚レンジのSOIウェーハを得ることができる。
【0021】
(SOIウェーハの片面研磨方法)
すなわち、本発明に従うSOIウェーハの片面研磨方法は、SOIウェーハの活性層の膜厚分布を測定しながら活性層を研磨するSOIウェーハの片面研磨方法であって、研磨開始前の活性層の膜厚分布を測定して、研磨開始前における活性層の膜厚分布に基づく凹凸指数を計算する第1工程と、研磨開始前の凹凸指数に基づき初期研磨条件を決定する第2工程と、初期研磨条件に基づき活性層を研磨しつつ、活性層における中央部及び外周部の膜厚を研磨中に複数回測定して、研磨中での凹凸指数を計算する第3工程と、研磨中の凹凸指数の絶対値が目標値以下となったときに初期研磨条件での研磨を終了する第4工程と、活性層の中央部と外周部の膜厚平均値が目標厚みに到達するまで、仕上げ研磨条件に基づき活性層を研磨する第5工程と、を含む。また、ここで凹凸指数は、活性層の中央部及び外周部のそれぞれの厚み平均の差である。以下、各工程の詳細を順次説明する。
【0022】
<第1工程>
第1工程では、研磨開始前の活性層の膜厚分布を測定して、研磨開始前における活性層の膜厚分布に基づく凹凸指数を計算する。研磨開始前の膜厚分布の測定方法は特に限定されず、研磨装置とは別のフーリエ変換赤外分光法などを用いた任意の装置を用いてもよいし、例えば特許文献2で前述したような、研磨装置に組み込まれた光学式の膜厚測定機構を用いてもよい。
【0023】
<<凹凸指数>>
凹凸指数は、上述のとおり、活性層の膜厚分布の指標として導入する指数であり、活性層の中央部及び外周部のそれぞれの厚み平均の差によって定義される。活性層の膜厚分布の全面を評価して膜厚レンジを求める際の測定点数よりも、凹凸指数を算出するための測定点数は少なくてよい。そのため、活性層の凹凸形状を簡易的に評価することが可能である。凹凸指数を計算する際に中央部及び外周部の具体的な範囲は限定されないが、中央部とはウェーハ中心から概ねウェーハ半径の30%以下までの範囲を指し、外周部とは概ねウェーハ半径の70%以上100%以下の範囲を指す。図2で示したとおり、膜厚レンジと凹凸指数との間には良い一次相関が見られるため、任意の計算方法で得られた凹凸係数から膜厚レンジを容易に予想することができる。図1Aを参照して説明した点平均凹凸指数を凹凸指数として採用してもよい。なお図1AではSOIウェーハの中心膜厚及び中心からウェーハ半径の10%の円周上の膜厚値と、中心からウェーハ半径の90%の円周上の膜厚値を利用しているが、これは例示に過ぎない。
【0024】
-領域平均凹凸指数-
また、図1Bを参照して説明するとおり、領域平均での凹凸指数(以下、「領域平均凹凸指数」と称する)を凹凸指数として採用しても構わない。例えば、SOIウェーハ100の中心からウェーハ半径の10%以下の円状領域112上の活性層の膜厚の平均値から、SOIウェーハ100の中心からウェーハ半径の90%以上100%以下の環状領域192の活性層の膜厚の平均値を差し引いた値を領域平均凹凸指数とすることができる。
【0025】
なお、本工程では膜厚分布を研磨中に測定するわけではないので、第3工程において後述する測定点数の制限はなく、ウェーハ全面の測定結果を用いて凹凸指数を計算してもよいし、数点~数十点程度の測定点数から凹凸指数を計算してもよい。
【0026】
<第2工程>
第2工程では、第1工程により求めた研磨開始前の凹凸指数に基づき初期研磨条件を決定する。研磨後のSOIウェーハの凹凸指数の絶対値が小さくなるよう、適宜に初期研磨条件を採用すればよい。具体的には、活性層の研磨前の凹凸を緩和するようなウェーハ径方向加圧分布を設定すればよく、例えば凹凸指数が正の値である(活性層の膜厚の中央部が外周部よりも大きく、凸形状である)場合にはウェーハを保持する部材のウェーハ中央部の加圧を比較的大きくすればよい。反対に、凹凸指数が負の値である(活性層の膜厚の外周部が中央部よりも大きく、凹形状である)場合にはウェーハを保持する部材のウェーハ中央部の加圧を比較的小さくすればよい。
【0027】
<第3工程>
第3工程では、上記第2工程で決定した初期研磨条件に基づき活性層を研磨しつつ、活性層における中央部及び外周部の膜厚を研磨中に複数回測定して、研磨中での凹凸指数を計算する。例えば特許文献2に例示される測定機構を用いれば、このような研磨中の測定を行うことができる。
【0028】
膜厚測定精度の観点からは、より正確な平均値を得るために、中央部及び外周部でそれぞれ2回以上測定することが好ましい。一方で、膜厚測定の際には研磨も同時進行してしまうこともあり、正確性、迅速性の観点から、凹凸指数を計算するための中央部及び外周部の各部の膜厚の測定回数は少ない方がよく、後述するとおり研磨ヘッドがSOIウェーハの直径分の距離を行き来する一周期の揺動を完了するまでに測定される回数とすることができる。一周期の揺動で中央部と外周部は各2度通過するため、それぞれで複数回の測定が行われる。
【0029】
<第4工程>
第4工程では、研磨中の凹凸指数の絶対値が目標値以下となったときに、第2工程で決定した初期研磨条件での研磨を終了する。なお、特定条件を満足した場合に加工を終えることは終点検知とも呼ばれる。終点検知の判定条件となる本工程での目標値は適宜定めればよい。研磨装置の加工精度によっても異なるものの、絶対値で0μmに近い値を目標値に設定した場合、研磨中に目標値を検知できず過剰に研磨するおそれがあり、過剰な研磨の進行に伴い膜厚の形状は悪化し凹凸指数が目標値に収束しないため、目標値は100分の数μm程度とすることが好ましい。前述の予備実験を用いて説明したとおり、研磨中の凹凸指数の絶対値が目標値以下となっていれば、活性層の凹凸を十分に解消して膜厚レンジを小さくできたと判断できる。
【0030】
<第5工程>
そこで、続く第5工程では活性層の中央部と外周部の膜厚平均値が目標厚みに到達するまで、仕上げ研磨条件に基づき活性層を研磨する。第5工程では凹凸指数を計算する必要はないが、引き続き研磨を続けながら活性層の膜厚を測定しながら研磨を進める。
【0031】
ここで、仕上げ研磨条件は通常、初期研磨条件とは異なる。仕上げ研磨条件は、初期研磨条件を用いた研磨により活性層の凹凸が除去、あるいは少なくとも緩和された状態のSOIウェーハの活性層に対し、膜厚の凹凸傾向を概ね維持したまま活性層の中央部と外周部の膜厚平均値が目標厚みに到達するまで研磨する条件である。研磨装置の特性に応じて加圧分布を設定すればよく、ウェーハ中央部及び外周部の加圧分布を均等にしてもよいし、装置傾向に応じて調整を加えるなどすることも好ましい。一般的には、研磨開始前の凹凸指数が正の値(中央部凸型)であれば初期研磨条件ではウェーハ中央部の加圧を比較的大きくし、仕上げ研磨条件ではウェーハ中央部の加圧を初期研磨条件よりも小さくすればよい。反対に、研磨開始前の凹凸指数が負の値(中央部凹型)であれば、初期研磨条件ではウェーハ外周部の加圧を比較的大きくし、仕上げ研磨条件ではウェーハ外周部の加圧を初期研磨条件よりも小さくすればよい。第5工程による活性層の研磨取り代は、所望の仕上げ研磨後の活性層の膜厚と、研磨開始前の膜厚と、第3工程から第4工程までの研磨取り代に応じて定まる。
【0032】
以上のとおり、本発明に従う片面研磨方法では研磨中に凹凸指数を計算して、目標とする凹凸指数を初期段階での終点検知に用い、続く仕上げ研磨条件での研磨を行うため、活性層の膜厚レンジを従来技術で達成できる水準よりも小さくすることができる。
【0033】
<指数矯正関係>
また、本発明に係るSOIウェーハの片面研磨方法において、活性層の膜厚分布をさらに均一化するために、活性層が受ける径方向加圧分布と、凹凸指数の矯正力との関係を予め求めておくことが好ましい。この関係を「指数矯正関係」と以下では称し、図3にその一例を示す。図3Aでは、外周部の膜厚の方が大きいSOIウェーハ(膜厚凹形状ウェーハ)に対して研磨装置の外周部の圧力を変えていった場合の凹凸指数の矯正力を示し、図3Bでは中央部の膜厚の方が大きいSOIウェーハ(膜厚凸形状ウェーハ)に対して研磨装置の中央部の圧力を変更した場合の凹凸指数の矯正力を示す。ここで図3において示される「ゾーン1」及び「ゾーン3」は、図4を参照して後述する片面研磨装置の加圧制御室の一部領域を示す名称であり、それぞれ加圧制御室45A、45Cに対応する。矯正力は圧力に対して線形の関係である。そこで、第2工程において、指数矯正関係に基づき研磨開始前の凹凸指数に対応する初期研磨条件を決定すれば、終点検知を行うための精度の良い初期研磨条件を設定することができる。
【0034】
また、研磨装置はその使用部材の交換直後(部材使用開始時)や交換直前(部材使用末期)かで、同じ加圧条件を用いても得られる研磨取り代は大きく異なりうる。そのため、予め使用部材の使用時期に応じた指数矯正関係を求めておくことで、研磨前のSOIウェーハの活性層の膜厚の凹凸指数に基づいてより正確な初期研磨条件を決定することができ、好ましい。
【0035】
なお、上述した実施形態では初期研磨と仕上げ研磨の2段階での研磨条件の変更による膜厚レンジの改善を説明したが、3段階以上の多段階で研磨条件を変更しても構わない。その際に、最終段階以外は凹凸指数を用いて終点検知することが好ましい。仕上げ状態のみ、ウェーハ全体の厚みを減ずるような片面研磨を行うことが好ましい。
【0036】
以下では、本発明に適用可能な具体的態様についてより詳細に説明する。ただし、本発明が以下の具体例に限定されないことは当然に理解される。
【0037】
<SOIウェーハ>
研磨対象であるSOIウェーハをあらためて説明すると、SOIウェーハは支持基板ウェーハと、支持基板ウェーハの一方の表面に設けられた絶縁層と、絶縁層の表面に設けられた活性層とを有する。ここで、研磨前のSOIウェーハの活性層の膜厚分布は特に限定されないが、一般的にSOIウェーハは、周方向ばらつきよりも径方向ばらつきの方が大きく、径方向に対して一様に増大又は減少していく特徴がある。なお、研磨前のSOIウェーハの全体の厚みは概ね400~1200μm程度である。
【0038】
<<支持基板ウェーハ>>
シリコン単結晶からなる単結晶シリコンウェーハを支持基板ウェーハに用いることができる。単結晶シリコンウェーハは、チョクラルスキー法(CZ法)や浮遊帯域溶融法(FZ法)等により育成された単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスしたものを使用することができる。また、単結晶シリコンウェーハには炭素および/または窒素が添加されていてもよい。さらに、任意の不純物を添加して、n型またはp型としてもよい。
【0039】
<<絶縁層>>
絶縁層は通常、酸化シリコン膜が用いられる。もっとも、絶縁性のある材料であれば他の材料からなる膜を用いても構わない。
【0040】
<<活性層>>
活性層は、シリコン単結晶からなる単結晶シリコンウェーハを、絶縁層を介して支持基板ウェーハと貼合せた後、研削するなどして薄膜化したものである。支持基板ウェーハと導電型(p型およびn型)を揃えてもよいし、異ならせても構わない。
【0041】
(片面研磨装置)
ここで、上述した本発明に係るSOIウェーハの研磨方法に適用可能な片面研磨装置の一例について、図4を参照してその要部を例示説明する。図4におけるSOIウェーハの片面研磨装置の研磨対象は、支持基板ウェーハ11と、支持基板ウェーハ11の一方の表面に設けられた絶縁層12と、絶縁層12の表面に設けられた活性層13とを有するSOIウェーハ10の、活性層13の表面である。そして、このSOIウェーハの片面研磨装置(以下、「片面研磨装置」)は、定盤20と、窓部21と、研磨パッド30と、研磨ヘッド40と、光学式膜厚測定部60と、を備える。そして、光学式膜厚測定部60はさらに光源61とセンサ62を備え、活性層13の少なくとも径方向の膜厚分布を測定し、これに基づき研磨ヘッド40によるSOIウェーハ10への加圧分布を制御して活性層13の表面を研磨する。膜厚分布の測定は、光源61からの測定光60Lの入射光を、光ファイバ63を経由してレンズ65により集光し、定盤20の窓部21を介して測定光60LをSOIウェーハ10の活性層13の露出面に入射することにより行うことができる。
【0042】
ここで、定盤20は回転軸25の回転による回転機構を備え、一方研磨ヘッド40は回転機構及び揺動機構を備えることもできる。また、このような装置においては、定盤が回転して光源61の位置と窓部21の位置が重なるタイミングで膜厚が測定されることとなるため、定盤の1回転につき一度、膜厚が測定されることとなる。研磨ヘッド40は光学式膜厚測定部60の測定範囲内で揺動しており、その一周期の揺動でSOIウェーハの測定位置は中心部を通りその直径の長さだけ行き来する。光学式膜厚測定部60により測定された活性層の厚みは研磨ヘッド内蔵の位置センサや図4に図示する外部カメラ70などで得られる測定位置情報と共に記録され、紐づけられる。
【0043】
また、片面研磨装置は研磨ヘッド40を備え、研磨ヘッド40によってSOIウェーハ10を保持することができる。この研磨ヘッド40は、ヘッド本体部41と、ヘッド本体部41の下面中央部に設けられ、支持基板ウェーハ11の他方の面(すなわち、絶縁層12とは反対側の面)を吸着可能なバッキングプレート43を有する。また、研磨ヘッド40には、研磨中のSOIウェーハ10の飛び出しを防止するためのリテーナリング47を設けてもよい。そして、ヘッド本体部41はこのバッキングプレート43を介して径方向の複数領域のそれぞれに加圧分布を設定可能な加圧制御室45(45A、45B、45C、)を具え、45A~Cに対応する領域を、それぞれゾーン1~3などと呼ぶことがある。なお、図4では、径方向に対称に配置された圧力制御室45A、45B、45Cが加圧制御室45を構成する場合を図示するものであるが、これは例示に過ぎない。2以上の圧力制御室があれば加圧分布を設定することは可能である。圧力制御室45A、45B、45Cを隔壁膜などにより区分することができ、加圧空気などの流体によって各圧力制御室の加圧力を制御することで、活性層の膜厚分布を均一化することができる。
【実施例0044】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、下記の実施例1及び比較例1における凹凸指数の計算は上述した点平均凹凸指数の計算方法を用いた。
【0045】
(実施例1)
図4を参照して説明した片面研磨装置を用いて、直径200mmの1枚のSOIウェーハの片面研磨を行った。まず、径方向膜厚分布として活性層の全面の膜厚分布を測定し、測定結果に基づき凹凸指数を計算したところ、0.4μmであった。得られた膜厚分布を図5Aに示す。凹凸指数が正の値であったので、1段階目の研磨では外周部よりも中央部の取り代が大きくなるよう初期研磨条件を設定する必要がある。初期研磨条件及び仕上げ研磨条件の径方向加圧分布を表1のとおりとし、特に初期研磨条件におけるゾーン3の圧力を5.3psiとした。なお、この加圧分布は図4に示した3つの加圧制御室の径方向の圧力分布であり、ゾーン3は中心位置含む中央部の加圧制御室に対応する。
【0046】
次に、凹凸指数の目標値を0.04μmとして、凹凸指数を測定しつつ、目標値に到達するまで、決定した初期研磨条件としての径方向の加圧分布で活性層を研磨した。このとき一回の凹凸指数を計算するにあたり、中央部の膜厚及び外周部の膜厚をそれぞれ2回ずつ測定した。そして、凹凸指数が目標値の0.04μm以下となった時点で、初期研磨条件での研磨を終了した。初期研磨条件での研磨における研磨取り代は1.0μmであった。
【0047】
さらに、凹凸を除去した初期研磨に引き続き、仕上げ研磨条件で、この膜厚形状を維持したまま活性層の中央部と外周部の膜厚平均値が目標厚みに到達するまで研磨した。このとき、終点検知としては、仕上げ研磨中常時膜厚を測定し、研磨ヘッドが一周期の揺動を完了するまでに測定された中央部と外周部の膜厚値で算出した平均値を用いた。仕上げ研磨条件としての径方向の加圧分布を表1に示す。仕上げ研磨条件での研磨における研磨取り代は1.0μmであった。仕上げ研磨後の膜厚分布を図5Aに示す。
【0048】
(比較例1)
次に、直径が200mmのSOIウェーハであって、活性層の膜厚分布を測定した際の凹凸指数が実施例1と同じであるウェーハに対し、初期研磨条件として実施例1と同じ径方向の加圧分布を採用し、研磨途中において凹凸指数を測定することなく、目標厚みになるまで1段回で研磨を完了した。なお、比較例1の研磨開始前の凹凸指数は実施例1と同じであるが、膜厚分布は図5Bのとおり、図5Aで示す実施例1の膜厚分布とは異なる。このときの、初期研磨条件での研磨における研磨取り代は2.5μmであった。研磨完了後の膜厚分布を図5Bに示す。
【0049】
実施例1及び比較例1による片面研磨を行う前後での径方向膜厚分布を図5A図5Bのそれぞれに示し、各凹凸指数及び膜厚レンジを表2に示す。比較例1の研磨後の凹凸指数が-0.1μmであるのに対して、実施例1の凹凸指数は0.04μmであり、実施例1において研磨後の活性層の膜厚分布を均一化できていることが確認できた。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
実施例1及び比較例1において測定した、研磨前及び研磨後の活性層の膜厚の変動幅を図6A図6Bのそれぞれに示す。膜厚の変動幅とは、目標厚みと膜厚測定値の厚み誤差([膜厚測定値-目標厚み])を表す。なお、これらグラフは、実施例1及び比較例1のそれぞれのSOIウェーハの全面における膜厚の測定値を各点毎にプロットしたものであり、それぞれ1枚のSOIウェーハから得た測定値である。図6Aは研磨前の膜厚分布の変動幅を示し、図6Bは研磨後の膜厚の変動幅を示す。研磨前の膜厚分布の変動幅には有意差といえるほどの差はなかったものの、研磨後の活性層の膜厚分布の変動幅を実施例1と比較例1とで比較すると、実施例1の方が膜厚の変動幅の方が小さく、大幅な膜厚精度の向上を確認することができた。なお、活性層の膜厚の変動幅における標準偏差は、実施例1では0.04μmであり、比較例1では0.08μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、活性層の膜厚分布をより均一化できるSOIウェーハの片面研磨方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 SOIウェーハ
20 定盤
21 窓部
25 回転軸
30 研磨パッド
40 研磨ヘッド
41 ヘッド本体部
43 バッキングプレート
45 加圧制御室
60 光学式膜厚測定部
65 レンズ
70 外部カメラ
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B