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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088552
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】不織布シート及び吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/511 20060101AFI20240625BHJP
   D04H 1/4391 20120101ALI20240625BHJP
【FI】
A61F13/511 300
A61F13/511 110
D04H1/4391
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203792
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴志
(72)【発明者】
【氏名】木村 明寛
(72)【発明者】
【氏名】出谷 耕
(72)【発明者】
【氏名】野口 貴司
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 友美
【テーマコード(参考)】
3B200
4L047
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA01
3B200BA03
3B200BA04
3B200BA14
3B200BB03
3B200DC02
3B200DC04
4L047AB02
4L047BA04
4L047CA12
4L047CA14
4L047CA19
4L047CB07
4L047CC04
4L047CC05
(57)【要約】
【課題】吸収した液体を不織布シート内で拡散しやすい吸収性物品に用いられる不織布シートを提供する。
【解決手段】吸収性物品(1)に用いられる不織布シート(3)であって、潜在捲縮繊維を備えた複数の繊維(3f)を有し、周囲よりも繊維(3f)の密度が高い線状の高密度部(DH)を有し、高密度部(DH)は、周囲よりも厚みが薄く、且つ、複数の繊維(3f)が互いに融着されていないことを特徴とする不織布シート(3)である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収性物品に用いられる不織布シートであって、
潜在捲縮繊維を備えた複数の繊維を有し、
周囲よりも前記繊維の密度が高い線状の高密度部を有し、
前記高密度部は、前記周囲よりも厚みが薄く、且つ、前記複数の繊維が互いに融着されていない
ことを特徴とする不織布シート。
【請求項2】
請求項1に記載の不織布シートであって、
前記不織布シートは、液体を吸収する吸収体であることを特徴とする不織布シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の不織布シートであって、
長手方向と幅方向と厚さ方向を備え、
前記不織布シートの前記長手方向の長さは、前記幅方向の長さより長く、
前記高密度部の前記周囲は、前記高密度部より前記繊維の密度が低い低密度部であり、
前記高密度部の前記長手方向における両側に、それぞれ、前記低密度部が隣接していることを特徴とする不織布シート。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の不織布シートであって、
長手方向と幅方向と厚さ方向を備え、
前記不織布シートの前記長手方向の長さは、前記幅方向の長さより長く、
前記高密度部が、前記長手方向に対して傾斜し、
前記長手方向と前記高密度部とがなす角度のうち、小さい方の角度が、45度以下である部分を有することを特徴とする不織布シート。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の不織布シートであって、
長手方向と幅方向と厚さ方向を備え、
前記不織布シートの前記長手方向の長さは、前記幅方向の長さより長く、
前記不織布シートの前記長手方向の長さを3等分し、前記長手方向の中央の部分を中央領域としたとき、
前記高密度部が、少なくとも前記中央領域の上端から下端まで連続する部分を有することを特徴とする不織布シート。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の不織布シートであって、
前記繊維間の距離の平均値が、5μm以上であり、且つ30μm以下であることを特徴とする不織布シート。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の不織布シートであって、
前記高密度部は、有底の凹部を形成していることを特徴とする不織布シート。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の不織布シートであって、
前記不織布シートの前記繊維の坪量が、80gsm以上であり、且つ、200gsm以下であることを特徴とする不織布シート。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の不織布シートであって、
吸収性物品に用いられ、
前記不織布シートが、前記吸収性物品の着用状態における着用者の股間位置に設けられることを特徴とする不織布シート。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の不織布シートを備える吸収性物品であって、
厚さ方向を備え、
前記不織布シートより肌側に設けられた肌側シートを有し、
前記肌側シートは、複数の繊維によって形成された第1空隙を有し、
前記不織布シートは、前記複数の繊維によって形成された第2空隙を有し、
所定領域中の前記空隙の割合を定量的に評価するための空隙割合評価試験における前記不織布シートの前記第2空隙の割合が、
前記空隙割合評価試験における前記肌側シートの前記第1空隙の割合より小さいことを特徴とする吸収性物品。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の不織布シートを備える吸収性物品であって、
長手方向と幅方向と厚さ方向を備え、
前記不織布シートの前記長手方向の長さは、前記幅方向の長さより長く、
前記不織布シートより肌側に設けられた肌側シートを有し、
前記幅方向の中央部において、前記不織布シートと前記肌側シートとの間に接着剤が設けられていないことを特徴とする吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布シート及び吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生理用ナプキン、使い捨ておむつ、吸収パッド等の吸収性物品が知られている。例えば、特許文献1には、肌当接面側に配置される表面シートと、非肌当接面側に配置される裏面シートと、表面シートと裏面シートとの間に配置される吸収体を有する生理用ナプキンが開示されている。特許文献1の吸収体はパルプ繊維等から形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-176412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等の生理用ナプキン等の吸収性物品の着用状態において、排泄物が表面シートの肌側面に留まると、排泄物が着用者の肌に当接し続けて、着用者に不快感を与えたり、肌荒れの原因になったり、吸収性物品から排泄物が漏れてしまう恐れがある。そのため、表面シート側から吸収した排泄物を速やかに吸収体に拡散させて、吸収体内で拡散、保持することが可能な吸収性物品が望まれている。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、吸収した液体を不織布シート内で拡散しやすい吸収性物品に用いられる不織布シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、吸収性物品に用いられる不織布シートであって、潜在捲縮繊維を備えた複数の繊維を有し、周囲よりも前記繊維の密度が高い線状の高密度部を有し、前記高密度部は、前記周囲よりも厚みが薄く、且つ、前記複数の繊維が互いに融着されていないことを特徴とする不織布シートである。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、吸収した液体を不織布シート内で拡散しやすい吸収性物品に用いられる不織布シートとすることができる 。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】生理用ナプキン1を肌側から見た平面図である。
図2図1中のA-A矢視概略断面図である。
図3】ナプキン1の構成を説明する図である。
図4】ナプキン1の吸収層10について説明する図である。
図5図5Aは、肌側層2の断面を模式的に示した図である。図5Bは、非肌側層3の断面を模式的に示した図である。
図6図4中の部分Xの拡大図である。
図7図6中のB-B矢視概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
(態様1)
吸収性物品に用いられる不織布シートであって、潜在捲縮繊維を備えた複数の繊維を有し、周囲よりも前記繊維の密度が高い線状の高密度部を有し、前記高密度部は、前記周囲よりも厚みが薄く、且つ、前記複数の繊維が互いに融着されていないことを特徴とする不織布シートである。
【0010】
繊維が融着した部分は、液体の拡散を妨げやすい一方で、繊維間の隙間が狭いほど、毛細管現象で液体は拡散しやすい。態様1の不織布シートによれば、繊維が融着されていないことで、繊維が融着している場合よりも吸収した液体の拡散が妨げられる恐れを軽減させ、潜在捲縮繊維がパルプ繊維のように液体を吸収して膨らむ恐れを軽減させることができるため、繊維同士の間の空隙を保持しやすくなる。また、不織布シートは、潜在捲縮繊維の捲縮によって繊維同士の隙間が狭くなることに加え、高密度部を有することでさらに繊維同士の隙間が狭くなることから、毛細管現象によって、吸収した液体を不織布シート内で拡散しやくすることができる。
【0011】
(態様2)
前記不織布シートは、液体を吸収する吸収体である、態様1に記載の不織布シートである。
【0012】
態様2の不織布シートによれば、吸収した液体を不織布シート内で拡散しやすいため、吸収した排泄物が局所的に留まることを軽減させて、排泄物の漏れや着用者に与える違和感を軽減させることができる。
【0013】
(態様3)
長手方向と幅方向と厚さ方向を備え、前記不織布シートの前記長手方向の長さは、前記幅方向の長さより長く、前記高密度部の前記周囲は、前記高密度部より前記繊維の密度が低い低密度部であり、前記高密度部の前記長手方向における両側に、それぞれ、前記低密度部が隣接している、態様1又は2に記載の不織布シートである。
【0014】
態様3の不織布シートによれば、長手方向の一方側の低密度部で吸収された液体を、毛細管現象によって高密度部に移行させやすくなり、高密度部で吸収し、吸収しきれなくなった液体が、長手方向の他方側に位置する低密度部で吸収されることで、不織布シートの長手方向に液体の拡散を促しやすくなる。
【0015】
(態様4)
長手方向と幅方向と厚さ方向を備え、前記不織布シートの前記長手方向の長さは、前記幅方向の長さより長く、前記高密度部が、前記長手方向に対して傾斜し、前記長手方向と前記高密度部とがなす角度のうち、小さい方の角度が、45度以下である部分を有する、態様1から3のいずれかに記載の不織布シートである。
【0016】
態様4の不織布シートによれば、不織布シートの長手方向に、吸収した液体を長手方向に拡散させやすくなる。
【0017】
(態様5)
長手方向と幅方向と厚さ方向を備え、前記不織布シートの前記長手方向の長さは、前記幅方向の長さより長く、前記不織布シートの前記長手方向の長さを3等分し、前記長手方向の中央の部分を中央領域としたとき、前記高密度部が、少なくとも前記中央領域の上端から下端まで連続する部分を有する、態様1から4のいずれかに記載の不織布シートである。
【0018】
態様5の不織布シートによれば、中央領域において長手方向への液体の拡散を促しやすくなる。
【0019】
(態様6)
前記繊維間の距離の平均値が、5μm以上であり、且つ30μm以下である、態様1から5のいずれかに記載の不織布シートである。
【0020】
態様6の不織布シートによれば、繊維の融着によって液体の拡散が妨げられることを防ぎつつ、繊維間の距離の平均値を5μmより小さくした場合よりも液体を拡散させるための流路や液体を保持する領域を確保しつつ、繊維間の距離の平均値を30μmより大きくした場合よりも毛細管現象によって吸収した液体の引き込みや吸収を促しやすくなる。
【0021】
(態様7)
前記高密度部は、有底の凹部を形成している、態様1から6のいずれかに記載の不織布シートである。
【0022】
態様7の不織布シートによれば、有底の凹部を形成した場合でも吸収した液体を不織布シート内で拡散しやすくすることができる。
【0023】
(態様8)
前記不織布シートの前記繊維の坪量が、80gsm以上であり、且つ、350gsm以下である、態様1から7のいずれかに記載の不織布シートである。
【0024】
態様8の不織布シートによれば、不織布シートの繊維の坪量が80gsmより小さい場合よりも不織布シートが液体を吸収しやすく、不織布シートの繊維の坪量が350gsmより大きい場合よりも、不織布シートが過度に厚くなったり、硬くなったりする恐れを軽減させることができる。
【0025】
(態様9)
吸収性物品に用いられ、前記不織布シートが、前記吸収性物品の着用状態における着用者の股間位置に設けられる、態様1から8のいずれかに記載の不織布シートである。
【0026】
態様9の不織布シートによれば、不織布シートが排泄物を吸収した場合に、不織布シート内で排泄物を拡散させやすくなり、排泄物が漏れたり、排泄物が局所的に留まることによる不快感を軽減させることができる。
【0027】
(態様10)
かかる吸収性物品であって、厚さ方向を備え、前記不織布シートより肌側に設けられた肌側シートを有し、前記肌側シートは、複数の繊維によって形成された第1空隙を有し、前記不織布シートは、前記複数の繊維によって形成された第2空隙を有し、所定領域中の前記空隙の割合を定量的に評価するための空隙割合評価試験における前記不織布シートの前記第2空隙の割合が、前記空隙割合評価試験における前記肌側シートの前記第1空隙の割合より小さい、態様1から9のいずれかに記載の不織布シートである。
【0028】
態様10の不織布シートによれば、肌側シートで吸収した液体は、毛細管現象によって、不織布シートに拡散されやすくなるため、肌側シートに残存する液体を少なくさせやすくなり、着用者の肌に排泄物が当接することによる不快感を軽減させることができる。
【0029】
(態様11)
かかる吸収性物品であって、長手方向と幅方向と厚さ方向を備え、前記不織布シートの前記長手方向の長さは、前記幅方向の長さより長く、前記不織布シートより肌側に設けられた肌側シートを有し、前記幅方向の中央部において、前記不織布シートと前記肌側シートとの間に接着剤が設けられていない、態様1から10のいずれかに記載の不織布シートである。
【0030】
態様11の不織布シートによれば、接着剤によって液体の吸収が妨げられる恐れを軽減させることができる。
【0031】
===実施形態===
本発明に係る吸収性物品として、生理用ナプキン1(以下「ナプキン1」とも呼ぶ)を例に挙げて実施形態を説明する。但し、本発明に係る吸収性物品は、大人用又は乳幼児用のパンツ型使い捨ておむつやテープ型使い捨ておむつ、生理用ショーツ、生理用ナプキン、軽失禁パッド、吸収パッド、動物用の使い捨ておむつや吸収シート、ドリップシート等であってもよい。なお、ドリップシート等の場合には、以下の実施形態の「着用状態」は、「使用状態」となり、着用者は、「使用者等」となる。以下、着用状態を「使用状態」ともいい、着用者を「使用者等」ともいう。
【0032】
<<<生理用ナプキン1の構成>>>
図1は、生理用ナプキン1(以下「ナプキン」とも呼ぶ)を肌側から見た平面図である。図2は、ナプキン1のA-A矢視概略断面図である。図3は、ナプキン1の構成を説明する図である。ナプキン1は、互いに直交する長手方向と幅方向と厚み方向を有する。厚み方向において着用者の肌に当接する側が肌側であり、その反対側が非肌側である。厚さ方向における肌側は、着用状態において排泄物(液体)を受ける側であり、「吸収面側」ともいう。厚さ方向における非肌側は、吸収面側と反対側であり、「非吸収面側」ともいう。図1等に示す中心線C-Cは、幅方向におけるナプキン1の中心(中央位置)を示している。
【0033】
ナプキン1は、肌側層(不織布シート)2、非肌側層(不織布シート)3、バックシート4、及びサイドシート5を有する。図3等に示すように、ナプキン1は、厚さ方向において、肌側から順に、サイドシート5、肌側層2、非肌側層3、バックシート4の順で重ねられている。厚さ方向に重ねられた各部材同士は、ホットメルト接着剤等の接着剤で固定されている。
【0034】
肌側層2は、ナプキン1の幅方向の中央部において、最も肌側に位置する肌側シートであり、着用状態において、排泄口に当接して、排泄口から排出された排泄物を受け止める吸収部材である。肌側層2は、長手方向に長い略長方形状であり、長手方向の長さL2が、幅方向の長さW2より長い。肌側層2をナプキン1の着用状態における着用者の股間位置に設けることで、ナプキン1が排泄物を吸収した場合に、肌側層2が排泄物を吸収し、吸収した排泄物を非肌側層3に向けて拡散させることができる。そのため、ナプキン1から排泄物が漏れたり、排泄物が肌側層2の表面等で局所的に留まることによる着用者に与える不快感を軽減させることができる。
【0035】
非肌側層3は、厚さ方向の肌側層2とバックシート4との間に設けられた非肌側シートであり、非肌側層3は、平面視において肌側層2の大きさより一回り小さい。非肌側層3は、長手方向に長い略長方形状であり、長手方向の長さL3が、幅方向の長さW3より長い。非肌側層3は、肌側層2が吸収した排泄物を吸収し、排泄物を保持する吸収部材である。非肌側層3をナプキン1の着用状態における着用者の股間位置に設けることで、ナプキン1が排泄物を吸収した場合に、非肌側層3が排泄物を吸収し、非肌側層3内で排泄物を拡散させることができる。そのため、ナプキン1から排泄物が漏れたり、排泄物が肌側層2の表面等で局所的に留まることによる着用者に与える不快感を軽減させることができる。
【0036】
肌側層2及び非肌側層3は、それぞれ、潜在捲縮繊維2f及び潜在捲縮繊維3f(図5参照)で構成された不織布(不織布シート)である。本実施形態の肌側層2及び非肌側層3は、潜在捲縮繊維のみ(潜在捲縮繊維が100%)で形成された不織布である。ただし、肌側層2及び非肌側層3を構成する層(不織布)が、潜在捲縮繊維に加えて、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリエステル(PETやPBT)、ポリアミド等からなる繊維、及びこれらの複合繊維の他、レーヨン、パルプ、コットン等の親水性繊維等を用いてもよい。以下、潜在捲縮繊維2f及び潜在捲縮繊維3fを、単に「繊維2f」、「繊維3f」ともいう。
【0037】
「不織布」とは、繊維シート,ウェブ又はバットで,繊維が一方向又はランダムに配向しており,交絡,及び/又は融着,及び/又は接着によって繊維間が結合されたものである(JIS L0222:2001 不織布用語101)。つまり、不織布は、繊維を織ることなく一体化された布であり、破断強度が5[N]/25mm以上のシートである。破断強度は、周知の方法で測定することができ、例えば、以下の方法によって測定できる。最大荷重容量が50Nであるロードセルを備えた引張試験機(島津製作所株式会社製:オートグラフ、AGS-1kNG)を使用する。不織布シートの分離強度を測定する際は、一方のチャックで不織布シートの長手方向又は短手方向の一方側の先端部を把持し、他方のチャック不織布シートの他方側を把持する。引張試験機で、二つのチャックの間隔が拡がるよう、二つのチャックを一定速度(例示:100mm/min)で引っ張りつつ、2つのチャックに掛かる荷重を測定する。不織布シートが破断したときの荷重を破断強度とする。
【0038】
不織布としては、例えば、メルトブローン法により得られた不織布(メルトブローン不織布)、エレクトロスピニング法により得られた不織布(エレクトロスピニング不織布)、スパンボンド法により得られた不織布(スパンボンド不織布)、エアスルー法で製造された不織布(エアスルー不織布)、スパンレース法により製造された不織布(スパンレース不織布)、若しくはニードルパンチ法により製造された不織布(ニードルパンチ不織布)、又はこれらの不織布のうちの2種以上の不織布の積層体、若しくはこれらの不織布とそれ以外の不織布やその他の材料との積層体などが挙げられる。本実施形態の肌側層2及び非肌側層3は、それぞれ、接着剤を用いておらず、水流によって繊維同士が交絡したスパンレース不織布である。
【0039】
本実施形態のナプキン1の肌側層2の不織布シートは、下記のようなスパンレース法で形成している。
(a)まず、親水性繊維2fbをカード機等により処理をしてカードウェブ等の形態を有する非肌側繊維ウェブを形成する。
(b)続いて、疎水性繊維2faをカード機等により処理をしてカードウェブ等の形態を有する肌側繊維ウェブを、非肌側繊維ウェブを搬送しながら、非肌側繊維ウェブ上に供給し、積層して、積層ウェブを得る。
(c)積層ウェブの肌側からウォータージェット等の高圧水流処理を施すことによって、各繊維層間の繊維同士及び各ウェブの繊維同士を交絡させて、積層体を得る。
(d)最後に、積層体を乾燥機に投入して、積層体を潜在捲縮性繊維の捲縮可能な温度に加熱することで、一体化した不織布シート(肌側層2)を得る。この不織布シートは、複数の繊維2fによって形成された空隙を有する。
【0040】
本実施形態のナプキン1の非肌側層3の不織布シートも肌側層2の不織布シートと同様の方法で形成している。ただし、非肌側層3の不織布シートは、疎水性繊維を用いておらず、親水性繊維のウェブをのみを積層する点が肌側層2と異なっている。
【0041】
潜在捲縮繊維2f、3fは、加熱処理により捲縮して螺旋形状を発現する繊維である。潜在捲縮性繊維2f、3fには、例えば、高収縮成分と低収縮成分が並列に配置されたサイド・バイ・サイド型複合繊維や、高収縮成分を芯、低収縮成分を鞘とし、両成分の重心が一点に重ならない芯鞘型に配置された偏芯芯鞘型複合繊維がある。潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させると、潜在捲縮性繊維は、例えばコイル状に捲縮する。
【0042】
潜在捲縮繊維2f、3fを形成する熱収縮率又は熱膨張率の異なる複数の樹脂としては、互いに熱収縮率または熱膨張率が異なる樹脂の組み合わせであれば、特に限定なく用いられ、同系又は単一の樹脂の組み合わせや、異系の樹脂の組み合わせであってもよい。この潜在捲縮繊維を形成するための熱収縮率又は熱膨張率が異なる樹脂の組み合わせの具体例としては、例えば、ポリエステル系樹脂同士の組み合わせやポリアミド系樹脂同士の組み合わせの潜在捲縮性繊維を採用することができる。
【0043】
本実施形態の肌側層2及び非肌側層3の不織布は、ポリエステル系樹脂(単一成分の樹脂)同士の組み合わせであり、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)と変性PETとの組み合わせの潜在捲縮性繊維を用いている。なお、変性PETは、PETの構成成分であるエチレングリコールおよびテレフタル酸に、少量成分として、エチレングリコール以外のジオール成分またはテレフタル酸以外のジカルボン酸成分を共重合することにより変性されたPETである。エチレングリコール以外のジオール成分の具体例としては、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど等が挙げられる。またテレフタル酸以外のジカルボン酸成分の具体例としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。そして、カード機などのウェブ形成手段でPETと変性PETとの組み合わせの潜在捲縮性繊維からなるウェブを形成し、このウェブに対してスパンレース法で繊維同士を交絡させて不織布状態とし、これを所定温度に加熱して潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させることにより、肌側層2及び非肌側層3の不織布が作製される。これによって、加熱前の不織布状態の潜在捲縮性繊維の坪量よりも、加熱後の不織布の潜在捲縮繊維の坪量の方が大きくなる。つまり、潜在捲縮性繊維の捲縮によって不織布が縮み、繊維の坪量が大きくなる。
【0044】
肌側層2及び非肌側層3は、それぞれ、液透過性を有し、液体の吸収機能、且つ液体の保持機能を有する所定の厚みを有する吸収層10である。図4は、ナプキン1の吸収層10について説明する図である。ナプキン1において、肌側層2は、着用者の肌に当接する肌側シートであり、着用状態で、まず最初に排泄物を受け止める部材で、受け止めた排泄物を肌側層2内で吸収し、且つ、非肌側に向かって透過させる部材である。非肌側層3は、肌側層2から透過された排泄物を吸収し、保持する部材である。
【0045】
図5に示すように、肌側層2及び非肌側層3は、それぞれ複数の繊維(潜在捲縮繊維)2f、3fによって形成された空隙を備える。図5Aは肌側層2の断面を模式的に示した図であり、図5Bは非肌側層3の断面を模式的に示した図であり、寸法等は必ずしも正確ではない。なお、肌側層2及び非肌側層3における空隙は、非連続(複数の繊維)の繊維と繊維の間における空隙であってもよく、1本の連続した繊維が湾曲したり、螺旋状となることで形成された空隙であってもよく、これらの組み合わせによる空隙であってもよい。複数の繊維2f、3fによって形成された空隙とは、肌側層2、非肌側層3のうち、複数の繊維2f、3fが設けられていない空間・領域をいう。なお、空隙には、繊維2f、3fに囲まれた空間、又は繊維によって閉じられた空間だけでなく、繊維2f、3fによって形成された空隙の少なくとも一部開かれた空間であってもよい。
【0046】
肌側層2及び非肌側層3は、それぞれ潜在捲縮繊維2f、3fを有するため、繊維2f、3fの捲縮によって繊維2f、3fと繊維2f、3fの間を縫うように、絡み合うように螺旋形状を成している。例えば、繊維2f、3fと繊維2f、3fの間の距離が捲縮によって縮まったり、距離が縮められた繊維2f、3fと繊維2f、3fの間に、別の繊維が入りこみ、さらに繊維2f、3fと繊維2f、3fの間の空隙が小さくなる。そのため、潜在捲縮繊維を含む繊維2f、3fで形成された空隙は、捲縮していない繊維で形成された一般的な不織布における複数の繊維で形成された空隙よりも小さい。
【0047】
また、肌側層2及び非肌側層3にそれぞれ設けられた潜在捲縮繊維2f、3fは、その繊維自体には液体が吸収されにくい。例えば、パルプ繊維等のような繊維では液体(排泄物)を吸収して繊維の太さが太くなるが、肌側層2及び非肌側層3の潜在捲縮繊維2f、3fは、液体と接触しても、その繊維の内側には液体を吸収しづらい。そのため、肌側層2及び非肌側層3では、着用状態において、ナプキン1が排泄物を吸収した場合でも、肌側層2と非肌側層3の潜在捲縮繊維2f、3fは、繊維自体の太さが太くなりにくい。繊維自体の太さが太くなりにくいことで、繊維2f、3fによって形成された空隙の大きさが小さくなりにくく、空隙が潰れにくくなる。このことから、肌側層2及び非肌側層3では、繊維2f、3fによって形成された空隙に液体(排泄物)を保持することができるため、肌側層2及び非肌側層3は、それぞれ、液体の透過が可能である層であるとともに、液体の吸収と保持が可能な層である。また、肌側層2及び非肌側層3は、それぞれ繊維2f、3fで形成された不織布シートであり、繊維2f、3fによって形成された空隙を有することから、通気性にも優れており、着用状態における着用者に与える蒸れや肌荒れを軽減させて、着用状態の快適性を向上させることができる。
【0048】
上述のとおり、肌側層2における潜在捲縮繊維2fは、PETと変性PETとの組み合わせの潜在捲縮性繊維であり、全域において、同じ太さの繊維を用いている。本実施形態では、潜在捲縮繊維2faの太さを2.2dtexとしている。また、肌側層2の空隙の平均狭さは104μmである。そして、肌側層2における空隙の割合(肌側層2のうち、繊維2fが設けられていない領域の割合)は、94%である。肌側層2の坪量は、約170gsmである。また、肌側層2において、肌側には疎水性繊維を用い、非肌側には親水性繊維を用いることが好ましい。
【0049】
非肌側層3における潜在捲縮繊維3fは、PETと変性PETとの組み合わせの潜在捲縮性繊維であり、厚さ方向における全域に同じ太さの繊維を用いている。本実施形態の非肌側層3における潜在捲縮繊維3fの太さを2.2dtexとしている。
【0050】
本実施形態の非肌側層3の坪量は、約120gsmである。非肌側層3の繊維3fの坪量は、80gsm以上であり、且つ、200gsm以下であることが好ましい。そうすることで、非肌側層3の繊維3fの坪量が80gsmより小さい場合よりも、非肌側層3に空隙がより多く形成されるため、液体を吸収しやすい。一方、非肌側層3の繊維3fの坪量が200gsmより大きい場合よりも、非肌側層3が過度に厚くなったり、硬くなったりする恐れを軽減させることができる。
【0051】
バックシート4は、非肌側層3より非肌側に配置された液不透過性のシート(外層)である。液不透過性のシートとしては、ポリエチレン(PE)の樹脂フィルム等を例示できる。サイドシート5は、肌側層2の肌側面の幅方向の両側部から外側に延出したシートである。サイドシート5としては、疎水性のエアスルー不織布や疎水性のスパンボンド不織布等を例示できる。
【0052】
また、ナプキン1は、長手方向の略中央部において、幅方向の外側に延出した一対のウィング部1wを有する。ウィング部1wは、サイドシート5とバックシート4によって形成されている。なお、ナプキン1が、必ずしもウィング部1wを備えてなくてもよい。ナプキン1がウィング部1wを備えない場合には、サイドシート5を備えてもよく、サイドシート5を備えなくてもよい。
【0053】
また、ナプキン1は、肌側層2と非肌側層3とがその厚み方向に窪んでいる圧搾部20を有している。圧搾部20によって、肌側層2と非肌側層3との位置を固定させたり、ナプキン1の液拡散性を向上させたりすることができる。
【0054】
圧搾部20では、周囲に比べてナプキン1の厚みが薄く、ナプキン1(肌側層2及び非肌側層3)の繊維密度が高くなっている。これらの比較は周知の方法で行うとよい。ナプキン1の厚みの比較としては、目視で比較する方法や、ミツトヨ(株)製のダイアルシックネスゲージID-C1012C又はそれと同等のものを使用し、対象部位を例えば3.0gf/cm2で加圧して測定した値を取得して比較する方法を例示できる。ナプキン1の密度の比較としては、ナプキン1を厚み方向に切った断面を電子顕微鏡等で拡大した画像に基づき比較する方法を例示できる。また、圧搾部20の形状は図1に示すものに限定されない。例えば複数の点状圧搾部が離散的に配置されたものでもよい。
【0055】
<<<非肌側層3について>>>
非肌側層3は、ナプキン1(吸収性物品)に用いられる不織布シートであり、上述の通り、潜在捲縮繊維を備えた複数の繊維3fを有している。非肌側層3は、周囲(低密度部DL)よりも繊維3fの密度が高い線状の高密度部DHと、高密度部DHよりも繊維3fの密度が低い低密度部DLを有する。この高密度部DHは、周囲(低密度部DL)よりも厚みが薄く、且つ繊維が互いに融着されていない。
【0056】
「線状」の高密度部DHとは、周囲より密度が高い部分が線状に連続された部分だけに限らない。複数の密度が高い部分を間欠に線状又は点状に配置した場合には、互いに隣接する複数の密度が高い部分同士の間の領域を含めて線状の高密度部DHとする。互いに近接した隣接する複数の密度が高い部分同士の間の領域は、密度が高い部分として形成された部分よりも繊維密度は低いものの、周囲よりも繊維密度が高い領域であるため、全体として線状の高密度部となる。
【0057】
本実施形態のナプキン1の高密度部DHは、非肌側層3の上端から下端まで長手方向に連続する高密度部DLを幅方向に所定の間隔で複数配置されている。長手方向に連続する高密度部DLは、幅方向の両側に凹部と凸部を交互に有する波型形状である。図6は、図4中の部分Xの拡大図である。図7は、図6中のB-B矢視概略断面図である。本実施形態のナプキン1は、図7に示すように、低密度部DLの厚さ方向の長さは非肌側層3の厚さ方向の長さH3であり、高密度部DHの厚さ方向の長さHdhが、低密度部DLの厚さ方向の長さH3より短い(Hdh<H3)。非肌側層3の高密度部DHと低密度部DLの厚みの比較は、周知の方法で行うことができ、例えば、上述の方法で測定可能である。
【0058】
高密度部DLは、例えば、非肌側層3の製造過程において、厚さ方向が略均一の不織布シートを、一対のロールの間に挟みつつ搬送することで形成することができる。一対のロールのうち、一方のロールは、凸部を外周面に有したヒートエンボスロールであり、他方のロールは、平滑な外周面のアンビルロールである。ヒートエンボスロールによる繊維3fの加熱温度を、非肌側層3の繊維3fの潜在捲縮繊維の軟化点より高く、且つ融点より低くすることで、高密度部DHにおいて繊維3fを融着させることなく、高密度部DHにおける低密度部DLより厚みが薄い形態を維持しやすくなる。
【0059】
一般的に、不織布シートにおいて、繊維が融着した部分は排泄物(液体)の拡散を妨げやすい。一方、繊維間の隙間が狭いほど排泄物(液体)は拡散しやすい。そのため、高密度部DHにおいて、繊維3f同士が互いに融着されていないことで、繊維同士が融着している場合よりも吸収した液体(排泄物)の拡散が妨げられる恐れを軽減させることができる。また、非肌側層3が潜在捲縮繊維を備えた不織布シートであることで、複数の繊維が交絡によってその形状が維持されているため、複数の繊維によって形成された空隙の形状を維持しやすい。そして、パルプ繊維のように液体を吸収して膨らんで、繊維3fによって形成される空隙を潰してしまう恐れを軽減させ、その空隙を保持しやすくなる。また、非肌側層3は、潜在捲縮繊維3fが螺旋状(コイル状)に捲縮していることで、繊維3f同士の間隔が狭くなりやすい。さらに、非肌側層3に設けられた高密度部DHによって、繊維3f同士の空隙が狭い部分をより設けやすくなる。そのため、液体(排泄物)を吸収した後の非肌側層3は、繊維3f同士の間の空隙を保持しつつ、高密度部DHによる毛細管現象によって高密度部DHへの液体の引き込みを促しやすくなり、吸収した液体を非肌側層3内で拡散しやすくなる。
【0060】
図7に示すように、高密度部DHが有底の凹部を形成していることが好ましい。つまり、高密度部DHにおいて、繊維3f同士によって形成された空隙とは異なった、厚さ方向に意図的に貫通させた部分が設けられていないことが好ましい。高密度部DHが有底の凹部を有する場合であっても、非肌側層3における液体の拡散を促しやすい。また、ナプキン1のように、非肌側層3より肌側に肌側層2を有し、非肌側層3の凹部が肌側に設けられている場合には、高密度部DHの凹部は、肌側層2と離間しやすいため、一旦、非肌側層3で吸収した排泄物が肌側層2に戻る恐れを軽減させることができ、着用者の肌に与える不快感を軽減させることができる。なお、ナプキン1の非肌側層3は、肌側面が非肌側に向かって窪んだ凹部を有し、非肌側面が平らな面を有しているが、これに限られない。非肌側層3の肌側面と非肌側面の両側に凹部を有していてもよい。また、厚さ方向に見て、肌側面の凹部と非肌側面の凹部とが、同じ位置に設けられていてもよく、異なる位置に設けられていてもよい。さらに、非肌側層3の肌側面が平らな面であり、非肌側面が肌側に向かって窪んだ凹部を有する構成であってもよい。
【0061】
非肌側層3は不織布シートであるが、ナプキン1において、非肌側層3は液体を吸収する吸収体として用いている。この非肌側層3を吸収体として用いることで、高密度部DLによって、吸収した排泄物を非肌側層3内で拡散させやすくなる。そのため、吸収した排泄物が局所的に留まってしまうことを軽減させやすくなるため、排泄物が着用者の肌に当接し続けたり、排泄物がナプキン1の内側に吸収される前にナプキン1から漏れてしまったりする恐れを軽減させることができる。
【0062】
一般的な吸収性物品の吸収体(吸収性コア)は、パルプ繊維等の液体吸収性繊維やSAP、高分子フォーム構造体等で形成されている。例えば、パルプ繊維等の液体吸収性繊維で形成された吸収体(吸収性コア)は、液体吸収性繊維の単なる積層体であり、液体吸収性繊維を互いに交絡させる等、繊維が互いに交絡されていない。そのため、複数の繊維によって形成された空隙は、空隙としての形状を維持しづらく、液体を吸収すると、液体吸収性繊維自体が太くなるだけでなく、空隙の形状が崩れやすくなるため、空隙に液体を吸収しづらいという特徴がある。また、液体吸収性繊維自体が液体を吸収するために、空隙が潰されやすい。また、パルプ繊維等の液体吸収性繊維で形成された吸収性コアは、破断強度が5[N]/25mmより小さいことから、不織布シートよりも変形や破損しやすい。このように、液体吸収性繊維で形成された吸収体は、液体を吸収すると、繊維の形状が崩れやすいため、吸収体がヨレやすくなり、強度も低下しやすい。
【0063】
これに対し、不織布シートによる非肌側層3は、複数の繊維が交絡によってその形状が維持されているため、複数の繊維によって形成された空隙の形状を維持しやすいため、その空隙に液体を保持しやすい。また、交絡によって空隙の形状を維持することで、液体を吸収した場合でも、非肌側層3(吸収体)の形状のヨレを軽減させることができ、非肌側層3の形状を維持しやすくなる。そのため、ナプキン1を長時間着用したり、排泄物を複数回に亘って吸収した場合でも、ナプキン1(非肌側層3)の変形を軽減させることができる。さらに、繊維3f同士が融着しておらず、繊維3fによって形成された空隙を有することから、一般的な吸収性物品の吸収体よりも通気性にも優れている。
【0064】
そして、非肌側層3において、高密度部DHの長手方向における両側に、それぞれ低密度部DLが隣接していることが好ましい。例えば、図6に示すように、非肌側層3の仮想直線Lにおいて、複数の高密度部DHは長手方向に間欠に配置されている。仮想直線Lは、長手方向に沿った、長手方向に平行な仮想の直線である。そして、1つの高密度部DHの長手方向の前側と後側に、それぞれ低密度部DLが隣接して設けられている。
【0065】
非肌側層3の高密度部DHは、繊維3fの密度が高いことから繊維3fによって形成された空隙が小さいため、毛細管現象によって液体を引き込みやすい部分である。高密度部DHは、液体を引き込みやすい一方で、空隙が小さいがために、液体を保持する保液能力が低い部分である。低密度部DLは、高密度部DHよりも空隙が大きいため、高密度部DHよりも液体の引き込みは弱いものの、空隙が大きいために、液体を保持する保液能力が大きい部分である。このことから、非肌側層3の高密度部DHの長手方向の両側に低密度部DLを設けることで、一旦、低密度部DLで吸収(保持)した液体を、低密度部DLに長手方向の一方側から隣接する高密度部DHに引き込みやすくし、高密度部DHに引き込み、保持し切れなく液体が高密度部DHに長手方向の一方側から隣接する低密度部DLに拡散することができ、これを1回又は複数回行うことで、長手方向への液体の拡散を促しやすくなる。
【0066】
また、線状の高密度部DHが長手方向に対して傾斜し、長手方向と高密度部DHとがなす角度のうち、小さい方の角度が45度以下である部分を有することが好ましい。ナプキン1では、図6に示すように、高密度部DHは長手方向に対して傾斜しており、仮想直線Lと高密度部DHとがなす角度のうち、小さい方の角度θが45度以下である部分を有している。これによって、長手方向に平行な高密度部DHを設けた場合よりも、上述のような長手方向における高密度部DHの液体の引き込みと低密度部DLの液体の保持を促しやすくなるため、液体の長手方向への拡散を促しやすくなる。なお、長手方向と高密度部DHとがなす角度のうち小さい方の角度の全てが45度以下であってもよく、長手方向と高密度部DHとがなす角度のうち小さい方の角度の少なくとも1つの45度以下の部分を有し、45度より大きい角度の部分を有していてもよい。
【0067】
非肌側層3の長手方向の長さを3等分し、3等分した部分のうちの前側の部分を前側領域31、中央の部分を中央領域32、後側の部分を後側領域33としたとき、高密度部DHが、少なくとも中央領域32の上端から下端まで連続する部分を有することがより好ましい。中央領域32は、着用状態において排泄口に当接されやすい領域である。非肌側層3の高密度部DHを中央領域32の上端から下端まで連続する部分を有することで、排泄された排泄物を中央領域32で、長手方向に拡散させやすくなる。これによって、ナプキン1において排泄物が局所的に留まってしまう恐れを軽減させたり、排泄物がナプキン1の横方向の外側に漏れる恐れを軽減させることができる。
【0068】
<繊維間距離の算出方法>
非肌側層3において、繊維3f間の距離の平均値が、5~30μmであることが好ましい。繊維3f間の距離の平均値は、周知の方法で得ることができる。例えば、下記のWrotnowskiの仮定に基づく式で繊維3f間の距離の平均値を得ることができる。非肌側層3における繊維3fが互いに融着されていないことで、繊維の融着部によって排泄物の拡散が妨げられる恐れを軽減させつつ、繊維3f間の距離の平均値を5μmより小さくした場合よりも排泄物を拡散させるための流路や吸収した排泄物を保持するための領域を確保し、且つ、繊維3f間の距離の平均値を30μmより大きくした場合よりも毛細管現象によって吸収した排泄物を非肌側層3内に引き込みやすくしたり、非肌側層3で吸収することを促しやすくなる。
【0069】
繊維3f間距離は、下記のように測定対象の非肌側層3の厚みを測定し、下記の式(1)に当てはめて求める。まず、測定対象の非肌側層3を長手方向50mm×幅方向50mmに切断し、非肌側層3の切断片を作製する。この切断片を、肌側層2とバックシート4の間に挟み、測定対象の非肌側層3を吸収層として用いた生理用ナプキンを作成する。作成した生理用ナプキンの状態下で、非肌側層3の厚みを49Pa加圧で測定する。測定環境は温度20±2℃、相対湿度65±5%、測定機器にはマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX-1000)を用いる。そして、非肌側層3の断面の拡大写真を得る。拡大写真には、既知の寸法のものを同時に写しこむ。非肌側層3の断面の拡大写真にスケールを合わせ、非肌側層3の厚みを測定する。以上の操作を3回行い、3回の平均値を乾燥状態の非肌側層3の厚み[mm]とする。なお積層品の場合は、繊維径からその境界を判断し、厚みを算出する。
【0070】
次いで、測定対象の非肌側層3を構成する繊維の繊維間距離は、以下に示す、Wrotnowskiの仮定に基づく式により求められる。Wrotnowskiの仮定に基づく式は、一般に、不織布を構成する繊維の繊維間距離を求める際に用いられる。Wrotnowskiの仮定に基づく式によれば、繊維間距離A(μm)は、不織布の厚みh(mm)、坪量e(g/m2)、不織布を構成する繊維の繊維径d(μm)、繊維密度ρ(g/cm3)によって、以下の式(1)で求められる。
【0071】
なお、繊維径d(μm)は、走査型電子顕微鏡(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用いて、カットした繊維の繊維断面を10本測定し、その平均値を繊維径とする。
繊維密度ρ(g/cm3)は、密度勾配管を使用して、JIS L1015化学繊維ステープル試験方法に記載の密度勾配管法の測定方法に準じて測定する。
坪量e(g/m2)は、所定(0.12m×0.06mなど)の大きさにカットし、重量測定後に、下記式で算出して坪量を求める。
重量÷所定の大きさから求まる面積=坪量(g/m2
【0072】
【数1】
【0073】
本実施形態のナプキン1の非肌側層3の繊維3f間距離を、高密度部DHと低密度部DLの各領域について、上述の式(1)に基づいて算出する。
[高密度部DH]
不織布の厚みh:0.32mm
坪量e:121.00g/m2
非肌側層3を構成する繊維3fの繊維径d:17.00μm
繊維密度ρ:1.360g/cm3
これらの値から繊維間距離Aを算出すると、高密度部DHの繊維間距離A=11.75μmとなる。
[低密度部DL]
不織布の厚みh:0.79mm
坪量e:121.00g/m2
非肌側層3を構成する繊維3fの繊維径d:17.00μm
繊維密度ρ:1.360g/cm3
これらの値から繊維間距離Aを算出すると、低密度部DLの繊維間距離A=27.92μmとなる。
【0074】
また、上述のとおり、ナプキン1は、非肌側層3と肌側層2(肌側シート)を有し、肌側層2は、複数の繊維2fによって形成された空隙(第1空隙)を有し、非肌側層3は、複数の繊維3fによって形成された空隙(第2空隙)を有している。この各空隙について、所定領域中の空隙の割合を定量的に評価するための空隙割合評価試験における非肌側層3の空隙(第2空隙)の割合が、空隙割合評価試験における肌側層2の空隙(第1空隙)の割合より小さいことが好ましい。ナプキン1においては、非肌側層3の全域に亘って高密度部DHを設けることで、空隙割合評価試験における非肌側層3の空隙(第2空隙)の割合を、空隙割合評価試験における肌側層2の空隙(第1空隙)の割合より小さくしている。ナプキン1が排泄物を吸収した際に、毛細管現象によって、肌側層2から、空隙の割合がより小さい非肌側層3に排泄物を引き込みやすくなり、非肌側層3内での排泄物の拡散を促しやすくなる。また、着用状態において、肌側層2に留まる排泄物を減少させやすくなるため、着用者の肌に排泄物が当接することによる不快感を軽減させることができる。
【0075】
なお、空隙割合評価試験における非肌側層3の空隙(第2空隙)の割合を、空隙割合評価試験における肌側層2の空隙(第1空隙)の割合より小さくする方法としては、非肌側層3に高密度領域DLを設けることに限らない。例えば、非肌側層3全体を厚さ方向に圧縮して、非肌側層3を厚さ方向に潰すことで繊維3fによって形成された空隙を小さくしてもよい。また、非肌側層3の繊維3fの太さ(繊維径)を肌側層2の繊維2fの太さ(繊維径)より細くしてもよい。さらに、非肌側層3の繊維3fに、肌側層2の繊維2fよりも強い捲縮する性質を有する潜在捲縮繊維を用いてもよい。
【0076】
<空隙割合評価試験方法>
本実施形態のナプキン1の肌側層2及び非肌側層3における空隙割合評価試験は、株式会社東レリサーチセンターで測定を行った。
空隙割合評価試験は、例えば、以下の方法で行うことができる。
【0077】
まず、肌側層2、非肌側層3に対して、それぞれX線CT測定を行う。リガク社製高分解能3DX線顕微鏡nano3DXを用いて、下記の条件にて非破壊断層撮影(CT測定)を実施する。
X線源 : Cu
管電圧―管電流 : 40kV―30mA
検出器 : sCMOSカメラ(レンズ:1080)
解像度 : 2.51μm/voxel
【0078】
撮影により得られた3次元データから肌側層2、非肌側層3の測定領域(所定領域)を無作為に抽出して、空隙を解析する。なお、この解析のための測定領域は、肌側層2、非肌側層3の面方向における任意の範囲で、厚さ方向の長さが肌側層2、非肌側層3の厚みH2、H3である直方体(立方体でもよい)である。
【0079】
X線CTで得られた断層像は、X線を透過しやすい低密度(空隙)成分は黒色、X線を吸収しやすい高密度(繊維)成分は白色で表示された画像となる。この画像から肌側層2、非肌側層3の測定領域の空隙割合を算出する。
【0080】
肌側層2、非肌側層3の空隙割合は、X線CTで得られた断層像から肌側層2、非肌側層3の測定領域における空隙の体積と測定領域の体積とを得ることで算出することができる。例えば、非肌側層3の空隙割合は、下記の通りである。
非肌側層3の空隙割合=(非肌側層3の空隙の体積)/(非肌側層3の体積)
なお、非肌側層3の体積は、非肌側層3の繊維の体積と非肌側層3の空隙の体積の和である。
【0081】
上述の実施形態では、厚さ方向に重ねた各部材の間にホットメルト接着剤等の接着剤を設けて、各部材を固定したがこれに限られない。肌側層2と非肌側層3との間に接着剤を設けていなくてもよい。特に、ナプキン1の幅方向の中央部において、肌側層2と非肌側層3との間に接着剤を設けていなくてもよい。これによって、接着剤によって、肌側層2及び非肌側層3における排泄物の吸収が妨げられてしまう恐れを軽減させ、肌側層2から非肌側層3への排泄物の拡散を妨げてしまう恐れを軽減させることができ、肌側層2に排泄物が留まってしまう恐れを軽減させることができる。
【0082】
===その他の実施形態===
上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更・改良され得ると共に、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
1 ナプキン(生理用ナプキン、吸収性物品)、
1w ウィング部、
2 肌側層(肌側シート)、
2f 潜在捲縮繊維(繊維)、
3 非肌側層(不織布シート)、
31 前側領域、
32 中央領域、
33 後側領域、
3f 潜在捲縮繊維(繊維)、
4 バックシート(外層)、
5 サイドシート、
10 吸収層、
20 圧搾部、
DH 高密度部、
DL 低密度部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7