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特開2024-8871マルチ電子ビーム画像取得装置、マルチ電子ビーム画像取得方法、電子ビーム画像取得装置、及び電子ビーム画像取得方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008871
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】マルチ電子ビーム画像取得装置、マルチ電子ビーム画像取得方法、電子ビーム画像取得装置、及び電子ビーム画像取得方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/153 20060101AFI20240112BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H01J37/153 B
H01J37/147 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107379
(22)【出願日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2022109275
(32)【優先日】2022-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 宗博
(72)【発明者】
【氏名】白土 昌孝
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101EE03
5C101EE04
5C101EE08
5C101EE13
5C101EE15
5C101EE22
5C101EE33
5C101EE38
5C101EE44
5C101EE48
5C101EE51
5C101EE65
5C101EE68
5C101EE69
5C101EE70
5C101FF15
5C101FF56
5C101GG04
5C101GG19
5C101GG37
5C101HH24
5C101HH25
5C101HH40
5C101JJ06
5C101JJ07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ビームのエネルギー状態が変化する場合でも偏向器による走査量に応じた収差を補正可能な装置を提供する。
【解決手段】マルチ電子ビーム画像取得装置は、4極子以上の複数の電極を有する2段の偏向器209,208と、マルチ1次電子ビームで基板が照射されたことに起因して放出されるマルチ2次電子ビームをマルチ1次電子ビームから分離するE×B分離器214と、マルチ2次電子ビームを検出するマルチ検出器222と、基板にリターディング電位を印加するリターディング電位制御回路130と、リターディング電位の大きさに応じて、マルチ1次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように複数の第1の静電偏向器のための偏向方向の第1の位相差を決定する位相差決定部と、複数の第1の静電偏向器の各電極に偏向方向の第1の位相差に応じた個別の電位をそれぞれ印加する偏向制御回路128と、を備えたことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を載置するステージと、
マルチ1次電子ビームを用いて、前記マルチ1次電子ビームを一括して偏向することにより、前記マルチ1次電子ビームで前記基板を走査する、4極子以上の複数の電極を有する2段の複数の第1の静電偏向器と、
前記マルチ1次電子ビームで前記基板が照射されたことに起因して放出されるマルチ2次電子ビームを前記マルチ1次電子ビームから分離する分離器と、
前記マルチ1次電子ビームから分離された前記マルチ2次電子ビームを検出するマルチ検出器と、
前記基板にリターディング電位を印加する電位印加回路と、
前記リターディング電位の大きさに応じて、前記マルチ1次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように前記複数の第1の静電偏向器のための偏向方向の第1の位相差を決定する第1の決定部と、
前記複数の第1の静電偏向器の各電極に前記偏向方向の第1の位相差に応じた個別の電位をそれぞれ印加する偏向制御回路と、
を備えたことを特徴とするマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項2】
前記マルチ1次電子ビームを用いた走査により変動する前記マルチ検出器の検出面上での前記マルチ2次電子ビームの位置を前記マルチ2次電子ビームの振り戻し偏向により不動にする、4極子以上の複数の電極を有する2段の複数の第2の静電偏向器と、
前記リターディング電位の大きさに応じて、前記マルチ2次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように前記複数の第2の静電偏向器の偏向方向の第2の位相差を決定する第2の決定部と、
をさらに備え、
前記偏向制御回路は、さらに、前記複数の第2の静電偏向器の各電極に前記偏向方向の第2の位相差に応じた個別の電位をそれぞれ印加することを特徴とする請求項1記載のマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項3】
前記複数の第1の静電偏向器は、同じ位相で配置されることを特徴とする請求項1又は2記載のマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項4】
前記マルチ1次電子ビームを前記基板に結像する対物レンズをさらに備え、
前記複数の第1の静電偏向器は、前記分離器と前記対物レンズとの間に配置されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項5】
前記マルチ2次電子ビームを前記マルチ検出器に投影する投影レンズをさらに備え、
前記複数の第2の静電偏向器は、前記分離器と前記投影レンズとの間に配置されることを特徴とする請求項2記載のマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項6】
マルチ1次電子ビームを用いて、4極子以上の複数の電極を有する2段の複数の第1の静電偏向器により、前記マルチ1次電子ビームを一括して偏向することにより、前記マルチ1次電子ビームでステージに載置される基板を走査する工程と、
前記マルチ1次電子ビームで前記基板が照射されたことに起因して放出されるマルチ2次電子ビームを前記マルチ1次電子ビームから分離する工程と、
前記マルチ1次電子ビームから分離された前記マルチ2次電子ビームを検出し、検出された2次電子画像を出力する工程と、
前記基板にリターディング電位を印加する工程と、
前記リターディング電位の大きさに応じて、前記マルチ1次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように前記複数の第1の静電偏向器のための偏向方向の第1の位相差を決定する工程と、
前記複数の第1の静電偏向器の各電極に前記偏向方向の第1の位相差に応じた個別の電位をそれぞれ印加する工程と、
を備えたことを特徴とするマルチ電子ビーム画像取得方法。
【請求項7】
基板を載置するステージと、
1次電子ビームを用いて、前記1次電子ビームを偏向することにより、前記1次電子ビームで前記基板を走査する、4極以上の2段以上の第1の偏向器と、
前記1次電子ビームで前記基板が照射されたことに起因して放出される2次電子ビームを前記1次電子ビームから分離する分離器と、
前記1次電子ビームから分離された前記2次電子ビームを検出する検出器と、
前記基板にリターディング電位を印加する電位印加回路と、
前記リターディング電位の大きさに応じて偏向収差があらかじめ決めた閾値以下になるように、前記2段以上の第1の偏向器の第1の偏向角比と、前記2段以上の第1の偏向器のための偏向方向の第1の位相差との少なくとも一方を決定する第1の決定部と、
決定された第1の偏向角比と第1の位相差との少なくとも一方に応じて、前記2段以上の第1の偏向器を制御する偏向制御回路と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム画像取得装置。
【請求項8】
前記1次電子ビームを用いた走査により変動する前記検出器の検出面上での前記2次電子ビームの位置を前記2次電子ビームの振り戻し偏向により不動にする、4極以上の2段以上の第2の偏向器と、
前記リターディング電位の大きさに応じて偏向収差があらかじめ決めた閾値以下になるように、前記2段以上の第2の偏向器の第2の偏向角比と、前記2段以上の第2の偏向器のための偏向方向の第2の位相差との少なくとも一方を決定する第2の決定部と、
をさらに備え、
前記偏向制御回路は、さらに、決定された第2の偏向角比と第2の位相差との少なくとも一方に応じて、前記2段以上の第2の偏向器を制御することを特徴とする請求項7記載の電子ビーム画像取得装置。
【請求項9】
1次電子ビームを用いて、4極以上の2段以上の第1の偏向器により、前記1次電子ビームを偏向することにより、前記1次電子ビームでステージに載置される基板を走査する工程と、
前記1次電子ビームで前記基板が照射されたことに起因して放出される2次電子ビームを前記1次電子ビームから分離する工程と、
前記1次電子ビームから分離された前記2次電子ビームを検出し、検出された2次電子画像を出力する工程と、
前記基板にリターディング電位を印加する工程と、
前記リターディング電位の大きさに応じて偏向収差があらかじめ決めた閾値以下になるように、前記2段以上の第1の偏向器の第1の偏向角比と、前記2段以上の第1の偏向器のための偏向方向の第1の位相差との少なくとも一方を決定する工程と、
決定された第1の偏向角比と第1の位相差との少なくとも一方に応じて、前記2段以上の第1の偏向器を制御する工程と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム画像取得方法。
【請求項10】
基板を載置するステージと、
マルチ1次電子ビームを用いて、前記マルチ1次電子ビームを一括して偏向することにより、前記マルチ1次電子ビームで前記基板を走査する、4極子以上の複数の電極を有する2段以上の第1の静電偏向器と、
前記マルチ1次電子ビームで前記基板が照射されたことに起因して放出されるマルチ2次電子ビームを前記マルチ1次電子ビームから分離する分離器と、
前記マルチ1次電子ビームから分離された前記マルチ2次電子ビームを検出するマルチ検出器と、
前記基板にリターディング電位を印加する電位印加回路と、
前記リターディング電位の大きさに応じて、前記マルチ1次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように前記2段以上の第1の静電偏向器のための偏向方向の第1の位相差を決定する第1の決定部と、
前記2段以上の第1の静電偏向器の各電極に前記偏向方向の第1の位相差に応じた個別の電位をそれぞれ印加する偏向制御回路と、
を備えたことを特徴とするマルチ電子ビーム画像取得装置。
【請求項11】
マルチ1次電子ビームを用いて、4極子以上の複数の電極を有する2段以上の第1の静電偏向器により、前記マルチ1次電子ビームを一括して偏向することにより、前記マルチ1次電子ビームでステージに載置される基板を走査する工程と、
前記マルチ1次電子ビームで前記基板が照射されたことに起因して放出されるマルチ2次電子ビームを前記マルチ1次電子ビームから分離する工程と、
前記マルチ1次電子ビームから分離された前記マルチ2次電子ビームを検出し、検出された2次電子画像を出力する工程と、
前記基板にリターディング電位を印加する工程と、
前記リターディング電位の大きさに応じて、前記マルチ1次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように前記2段以上の第1の静電偏向器のための偏向方向の第1の位相差を決定する工程と、
前記2段以上の第1の静電偏向器の各電極に前記偏向方向の第1の位相差に応じた個別の電位をそれぞれ印加する工程と、
を備えたことを特徴とするマルチ電子ビーム画像取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ電子ビーム画像取得装置、マルチ電子ビーム画像取得方法、電子ビーム画像取得装置、及び電子ビーム画像取得方法に関する。例えば、マルチ1次電子ビームの照射に起因した2次電子画像を用いてパターン検査するマルチビーム検査装置の画像取得手法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化及び大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅はますます狭くなってきている。そして、多大な製造コストのかかるLSIの製造にとって、歩留まりの向上は欠かせない。しかし、1ギガビット級のDRAM(ランダムアクセスメモリ)に代表されるように、LSIを構成するパターンは、サブミクロンからナノメータのオーダーになっている。近年、半導体ウェハ上に形成されるLSIパターン寸法の微細化に伴って、パターン欠陥として検出しなければならない寸法も極めて小さいものとなっている。よって、半導体ウェハ上に転写された超微細パターンの欠陥を検査するためにも、高精度な画像を撮像する必要がある。
【0003】
検査装置では、例えば、電子ビームを使ったマルチ1次電子ビームで検査対象基板を走査して、検査対象基板から放出される各ビームに対応する2次電子を検出して、パターン画像を撮像する。かかる走査は偏向器によって行われる。例えば、静電偏向器を使用してマルチ1次電子ビームを偏向すると、走査量に応じた収差が発生する。かかる収差のうち、例えば、コマ収差は偏向器によりダイナミックに補正することが困難である。そこで、位相をずらして上下2段の静電偏向器を配置することによって、かかるコマ収差を補正することが行われる(例えば特許文献1参照)。このように、機械的に上下2段の静電偏向器の位相をずらして収差を補正する手法では、ビームのエネルギー状態が一意に決定している場合には有効であるが、ビームのエネルギー状態が変化する場合には、収差を補正できる有効な位相差が変化してしまうので使用することが困難となる。例えば、電子ビームの基板へのランディングエネルギーを変えて使用したいといったニーズがある。電子線を用いた画像取得では、検査対象の試料の収率に応じて最適なランディングエネルギーが存在する。そのため、画像を撮像するのにあたり、試料に合わせてランディングエネルギーを変化させることが求められる。ランディングエネルギーを変化させると、ビームのエネルギー状態が変化するので、収差を補正できる有効な位相差が変化してしまう。かかる問題は、検査装置に限るものではなく、マルチ電子ビームを用いて画像を取得する装置全般に対して同様に生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-153131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の一態様は、ビームのエネルギー状態が変化する場合でも偏向器による走査量に応じた収差を補正可能な装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のマルチ電子ビーム画像取得装置は、
基板を載置するステージと、
マルチ1次電子ビームを用いて、マルチ1次電子ビームを一括して偏向することにより、マルチ1次電子ビームで基板を走査する、4極子以上の複数の電極を有する2段の複数の第1の静電偏向器と、
マルチ1次電子ビームで基板が照射されたことに起因して放出されるマルチ2次電子ビームをマルチ1次電子ビームから分離する分離器と、
マルチ1次電子ビームから分離されたマルチ2次電子ビームを検出するマルチ検出器と、
基板にリターディング電位を印加する電位印加回路と、
リターディング電位の大きさに応じて、マルチ1次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように複数の第1の静電偏向器のための偏向方向の第1の位相差を決定する第1の決定部と、
複数の第1の静電偏向器の各電極に偏向方向の第1の位相差に応じた個別の電位をそれぞれ印加する偏向制御回路と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、マルチ1次電子ビームを用いた走査により変動するマルチ検出器の検出面上でのマルチ2次電子ビームの位置をマルチ2次電子ビームの振り戻し偏向により不動にする、4極子以上の複数の電極を有する2段の複数の第2の静電偏向器と、
リターディング電位の大きさに応じて、マルチ2次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように複数の第2の静電偏向器の偏向方向の第2の位相差を決定する第2の決定部と、
をさらに備え、
偏向制御回路は、さらに、複数の第2の静電偏向器の各電極に前記偏向方向の第2の位相差に応じた個別の電位をそれぞれ印加すると好適である。
【0008】
また、複数の第1の静電偏向器は、同じ位相で配置されると好適である。
【0009】
また、マルチ1次電子ビームを基板に結像する対物レンズをさらに備え、
複数の第1の静電偏向器は、分離器と対物レンズとの間に配置されると好適である。
【0010】
また、マルチ2次電子ビームをマルチ検出器に投影する投影レンズをさらに備え、
複数の第2の静電偏向器は、分離器と結像レンズとの間に配置されると好適である。
【0011】
本発明の一態様のマルチ電子ビーム画像取得方法は、
マルチ1次電子ビームを用いて、4極子以上の複数の電極を有する2段の複数の第1の静電偏向器により、マルチ1次電子ビームを一括して偏向することにより、マルチ1次電子ビームでステージに載置される基板を走査する工程と、
マルチ1次電子ビームで基板が照射されたことに起因して放出されるマルチ2次電子ビームをマルチ1次電子ビームから分離する工程と、
マルチ1次電子ビームから分離されたマルチ2次電子ビームを検出し、検出された2次電子画像を出力する工程と、
基板にリターディング電位を印加する工程と、
リターディング電位の大きさに応じて、マルチ1次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように複数の第1の静電偏向器のための偏向方向の第1の位相差を決定する工程と、
複数の第1の静電偏向器の各電極に偏向方向の第1の位相差に応じた個別の電位をそれぞれ印加する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様の電子ビーム画像取得装置は、
基板を載置するステージと、
1次電子ビームを用いて、前記1次電子ビームを偏向することにより、前記1次電子ビームで前記基板を走査する、4極以上の2段以上の第1の偏向器と、
1次電子ビームで基板が照射されたことに起因して放出される2次電子ビームを1次電子ビームから分離する分離器と、
1次電子ビームから分離された2次電子ビームを検出する検出器と、
基板にリターディング電位を印加する電位印加回路と、
リターディング電位の大きさに応じて偏向収差があらかじめ決めた閾値以下になるように、前記2段以上の第1の偏向器の第1の偏向角比と、前記2段以上の第1の偏向器のための偏向方向の第1の位相差との少なくとも一方を決定する第1の決定部と、
決定された第1の偏向角比と第1の位相差との少なくとも一方に応じて、前記2段以上の第1の偏向器を制御する偏向制御回路と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、1次電子ビームを用いた走査により変動する検出器の検出面上での2次電子ビームの位置を2次電子ビームの振り戻し偏向により不動にする、4極以上の2段以上の第2の偏向器と、
リターディング電位の大きさに応じて偏向収差があらかじめ決めた閾値以下になるように、前記2段以上の第2の偏向器の第2の偏向角比と、前記2段以上の第2の偏向器のための偏向方向の第2の位相差との少なくとも一方を決定する第2の決定部と、
をさらに備え、
偏向制御回路は、さらに、決定された第2の偏向角比と第2の位相差との少なくとも一方に応じて、前記2段以上の第2の偏向器を制御すると好適である。
【0014】
本発明の一態様の電子ビーム画像取得方法は、
1次電子ビームを用いて、4極以上の2段以上の第1の偏向器により、1次電子ビームを偏向することにより、1次電子ビームでステージに載置される基板を走査する工程と、
1次電子ビームで基板が照射されたことに起因して放出される2次電子ビームを1次電子ビームから分離する工程と、
1次電子ビームから分離された2次電子ビームを検出し、検出された2次電子画像を出力する工程と、
基板にリターディング電位を印加する工程と、
リターディング電位の大きさに応じて偏向収差があらかじめ決めた閾値以下になるように、前記2段以上の第1の偏向器の第1の偏向角比と、前記2段以上の第1の偏向器のための偏向方向の第1の位相差との少なくとも一方を決定する工程と、
決定された第1の偏向角比と第1の位相差との少なくとも一方に応じて、前記2段以上の第1の偏向器を制御する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明の他の態様のマルチ電子ビーム画像取得装置は、
基板を載置するステージと、
1次電子ビームを用いて、1次電子ビームを偏向することにより、1次電子ビームで基板を走査する、4極子以上の複数の電極を有する2段以上の第1の静電偏向器と、
1次電子ビームで基板が照射されたことに起因して放出される2次電子ビームを1次電子ビームから分離する分離器と、
1次電子ビームから分離された2次電子ビームを検出する検出器と、
基板にリターディング電位を印加する電位印加回路と、
リターディング電位の大きさに応じて、1次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように2段以上の第1の静電偏向器のための偏向方向の第1の位相差を決定する第1の決定部と、
2段以上の第1の静電偏向器の各電極に偏向方向の第1の位相差に応じた個別の電位をそれぞれ印加する偏向制御回路と、
を備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明の他の態様のマルチ電子ビーム画像取得方法は、
1次電子ビームを用いて、4極子以上の複数の電極を有する2段以上の第1の静電偏向器により、1次電子ビームを偏向することにより、1次電子ビームでステージに載置される基板を走査する工程と、
1次電子ビームで基板が照射されたことに起因して放出される2次電子ビームを1次電子ビームから分離する工程と、
1次電子ビームから分離された2次電子ビームを検出し、検出された2次電子画像を出力する工程と、
基板にリターディング電位を印加する工程と、
リターディング電位の大きさに応じて、1次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように2段以上の第1の静電偏向器のための偏向方向の第1の位相差を決定する工程と、
2段以上の第1の静電偏向器の各電極に偏向方向の第1の位相差に応じた個別の電位をそれぞれ印加する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、ビームのエネルギー状態が変化する場合でも偏向器による走査量に応じた収差を補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態1におけるパターン検査装置の構成を示す構成図である。
図2】実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図3】実施の形態1における半導体基板に形成される複数のチップ領域の一例を示す図である。
図4】実施の形態1における画像取得処理を説明するための図である。
図5】実施の形態1の比較例における2段の偏向器の配置例を示す上面図である。
図6】実施の形態1における2段の偏向器の配置例を示す上面図である。
図7】実施の形態1におけるビームの入射角の一例を示す図である。
図8A】実施の形態1における偏向器面での複数の偏向器による偏向量の一例をベクトルで示す図である。
図8B】実施の形態1における試料面での複数の偏向器による偏向量の一例をベクトルで示す図である。
図9】実施の形態1における位相差制御回路の内部構成の一例を示すブロック図である。
図10】実施の形態1におけるマルチ1次電子ビームを用いた走査に伴うランディングエネルギーと位相差とリターディング電位との関係を示す関係テーブル(1)の一例を示す図である。
図11】実施の形態1におけるマルチ2次電子ビームを用いた振り戻し偏向に伴うランディングエネルギーと位相差とリターディング電位との関係を示す関係テーブル(2)の一例を示す図である。
図12】実施の形態1の変形例1におけるパターン検査装置の構成を示す構成図である。
図13】実施の形態1の変形例2における2段の偏向器の偏向角を説明するための図である。
図14】実施の形態1の変形例2における2段の偏向器の位相差を説明するための図である。
図15】実施の形態1の変形例2におけるランディングエネルギーと偏向収差と位相差との関係の一例を示す図である。
図16】実施の形態1の変形例2におけるランディングエネルギーと偏向収差と偏向角比との関係の一例を示す図である。
図17】実施の形態1の変形例2における位相差算出回路の内部構成の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態では、マルチ電子ビーム画像取得装置の一例として、マルチ電子ビーム検査装置について説明する。但し、画像取得装置は、検査装置に限るものではなく、マルチビームを用いて画像を取得する装置であれば構わない。
【0020】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1におけるパターン検査装置の構成を示す構成図である。図1において、基板に形成されたパターンを検査する検査装置100は、マルチ電子ビーム検査装置の一例である。検査装置100は、マルチ電子ビーム画像取得装置の一例である。検査装置100は、画像取得機構150、及び制御系回路160(制御部)を備えている。画像取得機構150は、電子ビームカラム102(電子鏡筒)、検査室103、検出回路106、チップパターンメモリ123、ステージ駆動機構142、及びレーザ測長システム122を備えている。電子ビームカラム102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、電磁レンズ205、一括偏向器212、制限アパーチャ基板213、電磁レンズ206、E×B分離器214(分離器)、2段の複数の偏向器208,209(第1の静電偏向器、第1の偏向器)、電磁レンズ207、偏向器218、2段の複数の偏向器226,227(第2の静電偏向器、第2の偏向器)、電磁レンズ224、及びマルチ検出器222が配置されている。
また、偏向器208,209(226,227)として、4極以上の静電偏向器若しくは4極以上の磁場偏向器を用いる。実施の形態1では、偏向器208,209(226,227)を例えば、静電偏向器として説明する。
【0021】
電子銃201、電磁レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、電磁レンズ205、一括偏向器212、制限アパーチャ基板213、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、及び2段の偏向器208,209によって1次電子光学系151(照明光学系)を構成する。また、電磁レンズ207(対物レンズ)、E×B分離器214、偏向器218、2段の偏向器226,227、及び電磁レンズ224によって2次電子光学系152(検出光学系)を構成する。
【0022】
検査室103内には、少なくともXY方向に移動可能なステージ105が配置される。ステージ105上には、検査対象となる基板101(試料)が配置される。基板101には、露光用マスク基板、及びシリコンウェハ等の半導体基板が含まれる。基板101が半導体基板である場合、半導体基板には複数のチップパターン(ウェハダイ)が形成されている。基板101が露光用マスク基板である場合、露光用マスク基板には、チップパターンが形成されている。チップパターンは、複数の図形パターンによって構成される。かかる露光用マスク基板に形成されたチップパターンが半導体基板上に複数回露光転写されることで、半導体基板には複数のチップパターン(ウェハダイ)が形成される。以下、基板101が半導体基板である場合を主として説明する。基板101は、例えば、パターン形成面を上側に向けてステージ105に配置される。また、ステージ105上には、検査室103の外部に配置されたレーザ測長システム122から照射されるレーザ測長用のレーザ光を反射するミラー216が配置されている。
【0023】
また、マルチ検出器222は、電子ビームカラム102の外部で検出回路106に接続される。検出回路106は、チップパターンメモリ123に接続される。
【0024】
図1の例では、2段の複数の偏向器208,209と、2段の複数の偏向器226,227とが配置される場合を示している。図1の例では、2段の偏向器208,209が、E×B分離器214と電磁レンズ207(対物レンズ)との間に配置される。また、2段の偏向器226,227が、E×B分離器214と電磁レンズ224(投影レンズ)との間に配置される。より具体的には、2段の偏向器226,227が、偏向器218と電磁レンズ224(投影レンズ)との間に配置される。
【0025】
制御系回路160では、検査装置100全体を制御する制御計算機110が、バス120を介して、位置回路107、比較回路108、参照画像作成回路112、ステージ制御回路114、レンズ制御回路124、ブランキング制御回路126、偏向制御回路128、リターディング制御回路130、E×B分離器制御回路132、位相差算出回路134、磁気ディスク装置等の記憶装置109、モニタ117、メモリ118、及びプリンタ119に接続されている。また、偏向制御回路128は、DAC(デジタルアナログ変換)アンプ144,145,146,147,148に接続される。DACアンプ146は、偏向器208に接続され、DACアンプ144は、偏向器209に接続される。DACアンプ148は、偏向器218に接続される。DACアンプ145は、偏向器226に接続され、DACアンプ147は、偏向器227に接続される。
【0026】
また、チップパターンメモリ123は、比較回路108に接続されている。また、ステージ105は、ステージ制御回路114の制御の下に駆動機構142により駆動される。駆動機構142では、例えば、ステージ座標系におけるX方向、Y方向、θ方向に駆動する3軸(X-Y-θ)モータの様な駆動系が構成され、XYθ方向にステージ105が移動可能となっている。これらの、図示しないXモータ、Yモータ、θモータは、例えばステップモータを用いることができる。ステージ105は、XYθ各軸のモータによって水平方向及び回転方向に移動可能である。そして、ステージ105の移動位置はレーザ測長システム122により測定され、位置回路107に供給される。レーザ測長システム122は、ミラー216からの反射光を受光することによって、レーザ干渉法の原理でステージ105の位置を測長する。ステージ座標系は、例えば、マルチ1次電子ビーム20の光軸に直交する面に対して、1次座標系のX方向、Y方向、θ方向が設定される。
【0027】
電磁レンズ202、電磁レンズ205、電磁レンズ206、電磁レンズ207、及び電磁レンズ224は、レンズ制御回路124により制御される。また、一括偏向器212は、2極以上の電極により構成され、電極毎に図示しないDACアンプを介してブランキング制御回路126により制御される。偏向器209は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ144を介して偏向制御回路128により制御される。偏向器208は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ146を介して偏向制御回路128により制御される。偏向器218は、4極以上の電極により構成される2段の偏向器により構成され、電極毎にDACアンプ148を介して偏向制御回路128により制御される。また、偏向器226は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ145を介して偏向制御回路128により制御される。また、偏向器227は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ147を介して偏向制御回路128により制御される。リターディング制御回路130(電位印加回路)は、基板101に所望のリターディング電位を印加して、基板101に照射されるマルチ1次電子ビーム20のエネルギーを調整する。
【0028】
E×B分離器214は、E×B分離器制御回路132により制御される。
【0029】
電子銃201には、図示しない高圧電源回路が接続され、電子銃201内の図示しないフィラメントと引出電極間への高圧電源回路からの加速電圧の印加と共に、所定の引出電極(ウェネルト)の電圧の印加と所定の温度のカソードの加熱によって、カソードから放出された電子群が加速させられ、電子ビーム200となって放出される。
【0030】
ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。検査装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0031】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、2次元状の横(x方向)m列×縦(y方向)n段(m,nは2以上の整数)の穴(開口部)22がx,y方向に所定の配列ピッチで形成されている。図2の例では、23×23の穴(開口部)22が形成されている場合を示している。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチ1次電子ビーム20が形成されることになる。成形アパーチャアレイ基板203には、マルチ1次電子ビームを形成するマルチビーム形成機構の一例となる。
【0032】
画像取得機構150は、電子ビームによるマルチビームを用いて、図形パターンが形成された基板101から図形パターンの被検査画像を取得する。以下、検査装置100における画像取得機構150の動作について説明する。
【0033】
電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、電磁レンズ202によって屈折させられ、成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、図2に示すように、複数の穴22(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、マルチ1次電子ビーム20が形成される。
【0034】
形成されたマルチ1次電子ビーム20は、電磁レンズ205、及び電磁レンズ206によってそれぞれ屈折させられ、中間像およびクロスオーバーを繰り返しながら、マルチ1次電子ビーム20の各ビームの中間像面(像面共役位置:I.I.P.)に配置されたE×B分離器214に進む。そして、E×B分離器214を通過して、電磁レンズ207に進む。また、マルチ1次電子ビーム20のクロスオーバー位置付近に、通過孔が制限された制限アパーチャ基板213を配置することで、散乱ビームを遮蔽できる。また、一括偏向器212によりマルチ1次電子ビーム20全体を一括して偏向して、マルチ1次電子ビーム20全体を制限アパーチャ基板213で遮蔽することにより、マルチ1次電子ビーム20全体をブランキングできる。
【0035】
マルチ1次電子ビーム20が電磁レンズ207(対物レンズ)に入射すると、電磁レンズ207は、マルチ1次電子ビーム20を基板101に結像する。言い換えれば、電磁レンズ207は、マルチ1次電子ビーム20で基板101を照射する。このように、1次電子光学系151は、基板101にマルチ1次電子ビーム20を照明する。
【0036】
対物レンズ207により基板101(試料)面上に焦点が合わされ(合焦され)たマルチ1次電子ビーム20は、偏向器208及び偏向器209によって一括して偏向され、各ビームの基板101上のそれぞれの照射位置に照射される。このように、1次電子光学系151は、基板101にマルチ1次電子ビーム20を照明する。
【0037】
基板101の所望する位置にマルチ1次電子ビーム20が照射されると、かかるマルチ1次電子ビーム20が照射されたことに起因して基板101から反射電子を含む2次電子の束(マルチ2次電子ビーム300)が放出される。マルチ1次電子ビーム20の各ビームに対応する2次電子ビームが放出される。
【0038】
基板101から放出されたマルチ2次電子ビーム300は、電磁レンズ207を通って、E×B分離器214に進む。
【0039】
E×B分離器214は、マルチ2次電子ビーム300をマルチ1次電子ビーム20の軌道上から分離する。
【0040】
E×B分離器214は、コイルを用いた4極以上の複数の磁極(電磁偏向コイル)と、4極以上の複数の電極(静電偏向電極)とを有する。例えば、90°ずつ位相をずらした複数の磁極と、90°ずつ位相をずらした複数の電極とが配置される。また、複数の磁極と複数の電極とが45°ずつ位相をずらして交互に配置される。配置の仕方はこれに限るものではない。複数の磁極と複数の電極とが同じ位相に重なって配置されても構わない。E×B分離器214でマルチ2次電子ビーム300を偏向することで分離作用を生じさせる。E×B分離器214では、複数の磁極によって指向性の磁界を発生させる。同様に、複数の電極によって指向性の電界を発生させる。具体的には、E×B分離器214は、マルチ1次電子ビーム20の中心ビームが進む方向(軌道中心軸)に直交する面上において電界Eと磁界Bを直交する方向に発生させる。電界は電子の進行方向に関わりなく同じ方向に力を及ぼす。これに対して、磁界はフレミング左手の法則に従って力を及ぼす。そのため、電子の侵入方向によって電子に作用する力の向きを変化させることができる。E×B分離器214に上側から侵入してくるマルチ1次電子ビーム20には、電界による力FEと磁界による力FBが打ち消し合い、マルチ1次電子ビーム20は下方に直進する。これに対して、E×B分離器214に下側から侵入してくるマルチ2次電子ビーム300には、電界による力FEと磁界による力FBがどちらも同じ方向に働き、マルチ2次電子ビーム300は所定の方向に偏向されることによって斜め上方に曲げられ、マルチ1次電子ビーム20の軌道上から分離する。
【0041】
斜め上方に曲げられ、マルチ1次電子ビーム20から分離したマルチ2次電子ビーム300は、2次電子光学系152によってマルチ検出器222に導かれる。具体的には、マルチ1次電子ビーム20から分離したマルチ2次電子ビーム300は、偏向器218によって偏向されることにより、さらに曲げられ、電磁レンズ224に進む。そして、マルチ2次電子ビーム300は、マルチ1次電子ビーム20の軌道上から離れた位置で電磁レンズ224によって、集束方向に屈折させられながらマルチ検出器222に投影される。マルチ検出器222(マルチ2次電子ビーム検出器)は、マルチ1次電子ビーム20の軌道上から分離されたマルチ2次電子ビーム300を検出する。言い換えれば、マルチ検出器222は、屈折させられ、投影されたマルチ2次電子ビーム300を検出する。マルチ検出器222は、複数の検出エレメント(例えば図示しないダイオード型の2次元センサ)を有する。そして、マルチ1次電子ビーム20の各ビームは、マルチ検出器222の検出面において、マルチ2次電子ビーム300の各2次電子ビームに対応する検出エレメントに衝突して、電子を発生し、2次電子画像データを画素毎に生成する。マルチ検出器222にて検出された強度信号は、検出回路106に出力される。
【0042】
図3は、実施の形態1における半導体基板に形成される複数のチップ領域の一例を示す図である。図3において、半導体基板(ウェハ)101の検査領域330には、複数のチップ(ウェハダイ)332が2次元のアレイ状に形成されている。各チップ332には、露光用マスク基板に形成された1チップ分のマスクパターンが図示しない露光装置(ステッパ)によって例えば1/4に縮小されて転写されている。
【0043】
図4は、実施の形態1における画像取得処理を説明するための図である。図4に示すように、各チップ332の領域は、例えばy方向に向かって所定の幅で複数のストライプ領域32に分割される。画像取得機構150によるスキャン動作は、例えば、ストライプ領域32毎に実施される。例えば、-x方向にステージ105を移動させながら、相対的にx方向にストライプ領域32のスキャン動作を進めていく。各ストライプ領域32は、長手方向に向かって複数の矩形領域33に分割される。対象となる矩形領域33へのビームの移動は、2段の偏向器208,209によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって行われる。
【0044】
図4の例では、例えば、5×5列のマルチ1次電子ビーム20の場合を示している。1回のマルチ1次電子ビーム20の照射で照射可能な照射領域34は、(基板101面上におけるマルチ1次電子ビーム20のx方向のビーム間ピッチにx方向のビーム数を乗じたx方向サイズ)×(基板101面上におけるマルチ1次電子ビーム20のy方向のビーム間ピッチにy方向のビーム数を乗じたy方向サイズ)で定義される。照射領域34が、マルチ1次電子ビーム20の視野となる。そして、マルチ1次電子ビーム20を構成する各1次電子ビーム10は、自身のビームが位置するx方向のビーム間ピッチとy方向のビーム間ピッチとで囲まれるサブ照射領域29内に照射され、当該サブ照射領域29内を走査(スキャン動作)する。各1次電子ビーム10は、互いに異なるいずれかのサブ照射領域29を担当することになる。そして、各1次電子ビーム10は、担当サブ照射領域29内の同じ位置を照射することになる。2段の偏向器208,209は、マルチ1次電子ビーム20を一括して偏向することにより、パターンが形成された基板101面上をマルチ1次電子ビーム20で走査する。言い換えれば、サブ照射領域29内の1次電子ビーム10の移動は、2段の偏向器208,209によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって行われる。かかる動作を繰り返し、1つの1次電子ビーム10で1つのサブ照射領域29内を順に照射していく。
【0045】
各ストライプ領域32の幅は、照射領域34のy方向サイズと同様、或いはスキャンマージン分狭くしたサイズに設定すると好適である。図3の例では、照射領域34が矩形領域33と同じサイズの場合を示している。但し、これに限るものではない。照射領域34が矩形領域33よりも小さくても良い。或いは大きくても構わない。そして、マルチ1次電子ビーム20を構成する各1次電子ビーム10は、自身のビームが位置するサブ照射領域29内に照射され、当該サブ照射領域29内を走査(スキャン動作)する。そして、1つのサブ照射領域29のスキャンが終了したら、2段の偏向器208,209によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって照射位置が同じストライプ領域32内の隣接する矩形領域33へと移動する。かかる動作を繰り返し、ストライプ領域32内を順に照射していく。1つのストライプ領域32のスキャンが終了したら、ステージ105の移動或いは/及び2段の偏向器208,209によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって照射領域34が次のストライプ領域32へと移動する。以上のように各1次電子ビーム10の照射によってサブ照射領域29毎のスキャン動作および2次電子画像の取得が行われる。これらのサブ照射領域29毎の2次電子画像を組み合わせることで、矩形領域33の2次電子画像、ストライプ領域32の2次電子画像、或いはチップ332の2次電子画像が構成される。また、実際に画像比較を行う場合には、各矩形領域33内のサブ照射領域29をさらに複数のフレーム領域30に分割して、フレーム領域30毎の測定画像となるフレーム画像31について比較することになる。図4の例では、1つの1次電子ビーム10によってスキャンされるサブ照射領域29を例えばx,y方向にそれぞれ2分割することによって形成される4つのフレーム領域30に分割する場合を示している。
【0046】
ここで、ステージ105が連続移動しながらマルチ1次電子ビーム20を基板101に照射する場合、マルチ1次電子ビーム20の照射位置がステージ105の移動に追従するように2段の偏向器208,209によって一括偏向によるトラッキング動作が行われる。そのため、マルチ2次電子ビーム300の放出位置がマルチ1次電子ビーム20の軌道中心軸に対して刻々と変化する。同様に、サブ照射領域29内をスキャンする場合に、各2次電子ビームの放出位置は、サブ照射領域29内で刻々と変化する。このように放出位置が変化した各2次電子ビームをマルチ検出器222の対応する検出領域内に照射させるように、2段の偏向器226,227は、マルチ2次電子ビーム300を一括偏向する。言い換えれば、2段の偏向器226,227は、マルチ1次電子ビーム20を用いた走査により変動するマルチ検出器222の検出面上でのマルチ2次電子ビーム300の位置をマルチ2次電子ビームの振り戻し偏向により不動にする。これにより、各2次電子ビームがマルチ検出器222の対応する検出素子にて検出されることができる。
【0047】
ここで、マルチ1次電子ビーム20で基板101を走査する際、例えば、1段の偏向器でマルチ1次電子ビーム20を一括偏向すると、マルチ1次電子ビーム20に偏向量に応じた収差が発生する。かかる収差には、例えば、コマ収差、像面湾曲、非点収差、及び/或いはディストーションといった収差が含まれる。これらの収差のうち、像面湾曲、非点収差、及び/或いはディストーションといった収差については、偏向器を構成する各電極に個別に電位を印加することによってダイナミックに補正できる。しかしながら、コマ収差については、ダイナミックに補正することが困難である。そのため、2段の偏向器を用いる。
【0048】
図5は、実施の形態1の比較例における2段の偏向器の配置例を示す上面図である。図5の比較例では、各段の偏向器309,308として、8極の電極1-1(2-1)~1-8(2-8)で構成される場合を示している。図5の比較例では、1段目の電極と2段目の対応する電極には同じ電位が印加される。例えば、電極1-1と電極2-1には同じ電位V1が印加される。例えば、電極1-2と電極2-2には同じ電位V2が印加される。例えば、電極1-3と電極2-3には同じ電位V3が印加される。例えば、電極1-4と電極2-4には同じ電位V4が印加される。例えば、電極1-5と電極2-5には同じ電位V5が印加される。例えば、電極1-6と電極2-6には同じ電位V6が印加される。例えば、電極1-7と電極2-7には同じ電位V7が印加される。例えば、電極1-8と電極2-8には同じ電位V8が印加される。比較例では、1段目の偏向器309で生じたコマ収差を2段目の偏向器308で補正する。そのために、2段目の偏向器308は、1段目の偏向器309に対して、位相をコマ収差がなるべく小さくなる角度Δθだけずらして配置される。このように、機械的に上下2段の偏向器の位相をずらして収差を補正する手法では、上述したように、ビームのエネルギー状態が一意に決定している場合には有効であるが、ビームのエネルギー状態が変化する場合には、収差を補正できる有効な位相差が変化してしまうので使用することが困難となる。例えば、電子ビームの基板へのランディングエネルギーを変化させると、ビームのエネルギー状態が変化するので、収差を補正できる有効な位相差Δθが変化してしまう。しかしながら、電子線を用いた画像取得では、検査対象の基板101の収率に応じて最適なランディングエネルギーが存在する。そのため、検査装置100では、画像を撮像するのにあたり、基板101に合わせてランディングエネルギー(L.E.)を変化させることが求められる。そこで、実施の形態1では、以下のように構成する。
【0049】
図6は、実施の形態1における2段の偏向器の配置例を示す上面図である。図6の例では、各段の偏向器209,208として、8極の電極1-1(2-1)~1-8(2-8)で構成される場合を示している。複数の偏向器209,208は、同じ位相で配置される。そして、図6の例では、1段目の電極と2段目の対応する電極には、ランディングエネルギー(L.E.)毎に定める収差をより小さくする偏向方向の位相差Δθに応じた個別の電位が印加される。
【0050】
図7は、実施の形態1におけるビームの入射角の一例を示す図である。図7では、マルチ1次電子ビーム20が基板101に入射角a(開き角)で入射する場合を示している。ここでは、マルチ1次電子ビーム20の軌道中心の入射角で示している。ビーム偏向に伴うコマ収差は、入射角aの2乗に偏向量Mを乗じた値に比例する。1段目の偏向器209で生じるコマ収差S1は、入射角aと、1段目の偏向器209による偏向量M1と、収差係数CC1とを用いて、次の式(1)で定義できる。
【0051】
【数1】
【0052】
同様に、2段目の偏向器208で生じるコマ収差S2は、2段目の偏向器208による入射角a2と、2段目の偏向器208による偏向量M2と、収差係数CC2とを用いて、次の式(2)で定義できる。
【0053】
【数2】
【0054】
ここで、次の式(3)に示すように、1段目の偏向器209と2段目の偏向器208との収差の和がゼロ或いは最小になる位相差Δθを求めればよい。
【0055】
【数3】
【0056】
ビーム偏向時において式(3)の入射角aはゼロではないので、CC1・M1+CC2・M2=0或いは最小になる偏向器面上での位相差Δθ1を求めればよい。位相差Δθ1を実際に計算で求めても良い。或いは、同じ量だけ偏向したときのΔθ1に対するビーム径をあらかじめ求めておいて、ビーム径が最小になるようにΔθ1を求めてもよい。
【0057】
図8Aは、実施の形態1における偏向器面での複数の偏向器による偏向量の一例をベクトルで示す図である。1段目の偏向器209と2段目の偏向器208のそれぞれの配置高さ面を便宜上、1つの偏向器面として説明する。
図8Bは、実施の形態1における試料面での複数の偏向器による偏向量の一例をベクトルで示す図である。試料面において、図8Bに示す2つのベクトルを合成した合成ベクトルの方向と大きさのビーム偏向を行う。1段目の偏向器209を角度θ1の方向に電位V1で偏向し、2段目の偏向器208を角度(θ1+Δθ1)の方向に電位V1で偏向する。このとき、図8Bに示すように、試料面上では、1段目の偏向器209の偏向により角度θiの方向に偏向量M1だけ偏向され、2段目の偏向器208の偏向により角度(θi+Δθi)の方向に偏向量M2だけ偏向される。図8Aに示す偏向器面の電圧の印加方向と図8Bに示す試料面上での偏向方向がずれる(θi-θ1)のは、電磁レンズ207により電子が回転するためである。また、1段目の偏向器209と2段目の偏向器208との位相差が偏向器面と試料面とでは等しくならない理由も偏向器の高さ分だけ、電磁レンズ207によってビームが回転するためである。走査する場合、偏向量及び偏向方向に応じて電位V1と角度θ1は刻々と変化することになる。
【0058】
1段目の偏向器209では、x軸を0°とした場合に、角度θ1の方向に電位V1のベクトルで示すビーム偏向を行う。そして、2段目の偏向器208では、x軸を0°とした場合に、角度(θ1+Δθ1)の方向に電位V1のベクトルで示すビーム偏向を行う。これにより、試料面では、これら2つのベクトルに対応する偏向量M1の大きさと偏向量M2の大きさとの2つのベクトルを合成した合成ベクトルの角度θの方向と偏向量Mの大きさのマルチ1次電子ビーム20のビーム偏向が行われることになる。Δθ1がコマ収差をゼロ或いは最小にする位相差に設定されていれば、コマ収差がゼロ或いは最小に補正されたビーム偏向を行うことができる。
【0059】
かかる場合に、1段目の偏向器209の電極1-1に印加する電位V11は、以下の式(4-1)で定義できる。1段目の偏向器209の電極1-2に印加する電位V12は、以下の式(4-2)で定義できる。1段目の偏向器209の電極1-3に印加する電位V13は、以下の式(4-3)で定義できる。1段目の偏向器209の電極1-4に印加する電位V14は、以下の式(4-4)で定義できる。1段目の偏向器209の電極1-5に印加する電位V15は、以下の式(4-5)で定義できる。1段目の偏向器209の電極1-6に印加する電位V16は、以下の式(4-6)で定義できる。1段目の偏向器209の電極1-7に印加する電位V17は、以下の式(4-7)で定義できる。1段目の偏向器209の電極1-8に印加する電位V18は、以下の式(4-8)で定義できる。
【0060】
【数4】
【0061】
一方、2段目の偏向器208の電極2-1に印加する電位V21は、以下の式(5-1)で定義できる。2段目の偏向器208の電極2-2に印加する電位V22は、以下の式(5-2)で定義できる。2段目の偏向器208の電極2-3に印加する電位V23は、以下の式(5-3)で定義できる。2段目の偏向器208の電極2-4に印加する電位V24は、以下の式(5-4)で定義できる。2段目の偏向器208の電極2-5に印加する電位V25は、以下の式(5-5)で定義できる。2段目の偏向器208の電極2-6に印加する電位V26は、以下の式(5-6)で定義できる。2段目の偏向器208の電極2-7に印加する電位V27は、以下の式(5-7)で定義できる。2段目の偏向器208の電極2-8に印加する電位V28は、以下の式(5-8)で定義できる。
【0062】
【数5】
【0063】
図8Aに示すように、1段目の偏向器209を角度θ1の方向に電位V1で偏向し、2段目の偏向器208を角度(θ1+Δθ1)の方向に電位V1で偏向したとき、図8Bに示すように、試料面上の偏向量はMであったとする。この場合、これらの関係は比例で変化する。したがって、例えば印加電位を2倍にした場合、偏向量も2倍となる。
【0064】
また、電磁レンズ207によるビーム偏向の回転量をθmとすると、図8Bに示す試料面での1段目の偏向器209の偏向方向の角度θiは、θi=θ1+θmで定義できる。さらに、実際の偏向方向である角度θは、θ=θd+θiで表される。なお、θdは、1段目の偏向器209と2段目の偏向器208の合成ベクトルで決まる偏向方向となる。したがって、θ=θd+θm+θ1となる。θdおよびθmは定数なので、1段目の偏向器209のθ1により一意に偏向方向の角度θは決まる。θd+θmはあらかじめ1段目の偏向器209への指令θ1に対して、試料面上での偏向方向θを測定しておけば、オフセット成分として計測することができる。また、電位の大きさV1は中心からの距離に比例する。角度θ1は偏向方向の角度θを決める。これをV11~V18及びV21~V28の駆動電圧に割り振ればよい。
【0065】
なお、上述した式(4-1)~式(4-8)及び式(5-1)~式(5-8)では、マルチ1次電子ビーム20を用いた走査用のビーム偏向について示している。実施の形態1では、さらに、トラッキング制御を行う。かかる場合、式(4-1)~式(4-8)及び式(5-1)~式(5-8)は、式(6-1)~式(6-8)及び式(7-1)~式(7-8)で定義できる。
【0066】
【数6】
【0067】
【数7】
【0068】
式(6-1),(6-3)、及び式(7-1),(7-3)の第1項がマルチ1次電子ビーム20を用いた走査用のビーム偏向成分項を示し、第2項がトラッキング制御用のビーム偏向成分項を示している。式(6-1),(6-3)、及び式(7-1),(7-3)の第1項は、式(4-1),(4-3)、及び式(5-1),(5-3)と同じである。
【0069】
例えば、トラッキングの移動量としてX,Y方向に補正をかけるときに補正量と偏向感度から、電位Vx、Vyだけ補正が必要だとする。かかる場合、トラッキング用の電位Vthと角度αは以下の式(8-1)及び式(8-2)で定義できる。Aは定数である。得られた電位Vthと角度αを式(6-1),(6-3)、及び式(7-1),(7-3)の第2項に割り振ればよい。
【0070】
【数8】
【0071】
なお、偏向器209の各電極に印加する電位と、偏向器208の各電極に印加する電位とは逆であっても構わない。言い換えれば、位相差Δθ1を考慮する電位が印加される偏向器が、偏向器208の代わりに偏向器209であっても良い。
【0072】
ここで、上述したように、ランディングエネルギーが変更されるとコマ収差をゼロ或いは最小にする位相差Δθ1が変化する。式(3)では、収差係数CC1,CC2が変化する。そこで、実施の形態1では、ランディングエネルギーと、コマ収差をゼロ或いは最小にする位相差Δθ1との関係テーブルを作成する。
【0073】
図9は、実施の形態1における位相差制御回路の内部構成の一例を示すブロック図である。図9において、位相差制御回路134内には、磁気ディスク装置等の記憶装置71,76、リターディング電位取得部70、位相差算出部72、位相差決定部73、位相差算出部77、及び位相差決定部78が配置される。リターディング電位取得部70、位相差算出部72、位相差決定部73、位相差算出部77、及び位相差決定部78といった各「~部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。リターディング電位取得部70、位相差算出部72、位相差決定部73、位相差算出部77、及び位相差決定部78に入出力される情報および演算中の情報はメモリ118若しくは位相差制御回路134内の図示しないメモリにその都度格納される。
【0074】
図10は、実施の形態1におけるマルチ1次電子ビームを用いた走査に伴うランディングエネルギーと位相差とリターディング電位との関係を示す関係テーブル(1)の一例を示す図である。ランディングエネルギー(LE)は、以下の式(9)に示すように、加速電圧による1次電子のエネルギーEaから試料面に印加するリターディング電位による1次電子を減速させるエネルギーEsを差し引いた値で定義できる。また、Esは試料面上に発生した2次電子の加速エネルギーとも言える。
【0075】
【数9】
【0076】
図10に示すように、関係テーブル(1)では、ランディングエネルギー(L.E.)がE1の場合の位相差Δθ1がA1、及びリターディング電位VrがVr1と対応付けて定義される。L.E.がE2の場合の位相差Δθ1がA2、及びリターディング電位VrがVr2と対応付けて定義される。・・・・、L.E.がEnの場合の位相差Δθ1がAn、及びリターディング電位VrがVrnと対応付けて定義される。かかる関係は、シミュレーション或いは実験により求めればよい。ランディングエネルギー(L.E.)が決まれば、リターディング電位は決まるので、関係テーブルは、ランディングエネルギー(L.E.)が省略された、位相差Δθ1とリターディング電位Vrとの関係を示す関係テーブル(1)であっても良い。かかる関係テーブル(1)は、記憶装置109或いは位相差制御回路134内の記憶装置71に格納される。
【0077】
関係テーブル(1)が記憶装置109に格納される場合、制御計算機110は、記憶装置109から関係テーブル(1)を読み出し、位相差制御回路134内の記憶装置71に格納する。
【0078】
まず、リターディング電位取得部70は、リターディング電位制御回路130からリターディング電位を取得する。
【0079】
位相差算出部72は、リターディング電位の大きさに応じて、マルチ1次電子ビームの偏向により生じる収差を低減するように複数の偏向器208,209のための偏向方向の位相差Δθ1(第1の位相差)を算出する。そして、位相差決定部73(第1の決定部)は、偏向器209,208のための偏向方向の位相差を、算出された位相差Δθ1に決定する。決定された位相差Δθ1は、偏向制御回路128に出力される。
【0080】
画像取得時には、偏向制御回路128は、複数の偏向器208,209の各電極に決定された偏向方向の位相差Δθ1(第1の位相差)に応じた個別の電位V11~V18,V21~V28をそれぞれ印加する。そして、上述したように、複数の偏向器208,209は、マルチ1次電子ビーム20を一括して偏向することにより、マルチ1次電子ビーム20でステージ105に載置される基板101を走査する。
【0081】
基板101を走査すると、かかるマルチ1次電子ビーム20が照射されたことに起因して基板101から反射電子を含む2次電子の束(マルチ2次電子ビーム300)が放出される。そして、マルチ2次電子ビーム300は、E×B分離器214によってマルチ1次電子ビーム20の軌道上から分離される。そして、分離されたマルチ2次電子ビーム300は、上述したように、偏向器218を経由して、マルチ検出器222に進むことになる。
【0082】
ここで、上述したように、マルチ1次電子ビーム20で基板101を走査することによって位置変動が生じたマルチ2次電子ビーム300をマルチ検出器222のそれぞれ対応する各検出素子に投影するために、マルチ2次電子ビーム300を2段の偏向器226,227で振り戻す。1段の偏向器で振り戻す場合、マルチ2次電子ビーム300に偏向量に応じた収差が発生し得る。かかる収差には、例えば、コマ収差、像面湾曲、非点収差、及び/或いはディストーションといった収差が含まれる。これらの収差のうち、像面湾曲、非点収差、及び/或いはディストーションといった収差については、偏向器を構成する各電極に個別に電位を印加することによってダイナミックに補正できる。しかしながら、コマ収差については、ダイナミックに補正することが困難である。そのため、実施の形態1では、2段の偏向器226,227を用いる。2段の偏向器226,227は、偏向器208,209と同様、同じ位相で配置される。
【0083】
マルチ2次電子ビーム300を振り戻す場合、マルチ1次電子ビーム20での走査の場合と同様、2段の偏向器226,227の各ビーム偏向によるマルチ検出器222面での2つのベクトルを合成した合成ベクトルの角度θ′の方向と偏向量M′の大きさのビーム偏向を行う。また、1段目の偏向器226と2段目の偏向器227との位相差Δθ2は、マルチ1次電子ビーム20での走査の場合と同様、予め求めておく。
【0084】
1段目の偏向器226を角度θ2の方向に電位V2で偏向し、2段目の偏向器227を角度(θ2+Δθ2)の方向に電位V2で偏向する。このとき、マルチ検出器面上では、1段目の偏向器226の偏向により角度θjの方向に偏向量M1′だけ偏向され、2段目の偏向器227の偏向により角度(θj+Δθj)の方向に偏向量M2′だけ偏向される。偏向器面の電圧の印加方向と検出器面上での偏向方向がずれる(θj-θ2)のは、電磁レンズ224による回転のためである。また、1段目の偏向器226と2段目の偏向器227との位相差Δθ2が偏向器面とマルチ検出器面とでは等しくならない理由も偏向器と電磁レンズ224との距離分だけ、電磁レンズ224によってビームが回転するためである。振り戻し偏向を行う場合、偏向量及び偏向方向に応じて電位V2と角度θ2は刻々と変化することになる。
【0085】
1段目の偏向器226では、2次ビーム座標系のx軸を0°とした場合に、角度θ2の方向に大きさV2のベクトルで示すビーム偏向を行う。そして、2段目の偏向器227では、2次ビーム座標系のx軸を0°とした場合に、角度(θ2+Δθ2)の方向に大きさV2のベクトルで示すビーム偏向を行う。これにより、マルチ検出器222面において、これら2つのベクトルに対応する偏向量M1′の大きさと偏向量M2′の大きさとの2つのベクトルを合成した合成ベクトルの角度θ′の方向と偏向量M′の大きさのマルチ2次電子ビーム300ビーム偏向が行われることになる。Δθ2がコマ収差をゼロ或いは最小にする位相差に設定されていれば、コマ収差がゼロ或いは最小に補正されたビーム偏向を行うことができる。
【0086】
かかる場合に、1段目の偏向器226の電極3-1に印加する電位V31は、以下の式(10-1)で定義できる。1段目の偏向器226の電極3-2に印加する電位V32は、以下の式(10-2)で定義できる。1段目の偏向器226の電極3-3に印加する電位V33は、以下の式(10-3)で定義できる。1段目の偏向器226の電極3-4に印加する電位V34は、以下の式(10-4)で定義できる。1段目の偏向器226の電極3-5に印加する電位V35は、以下の式(10-5)で定義できる。1段目の偏向器226の電極3-6に印加する電位V36は、以下の式(10-6)で定義できる。1段目の偏向器226の電極3-7に印加する電位V37は、以下の式(10-7)で定義できる。1段目の偏向器226の電極3-8に印加する電位V38は、以下の式(10-8)で定義できる。
【0087】
【数10】
【0088】
一方、2段目の偏向器227の電極4-1に印加する電位V41は、以下の式(11-1)で定義できる。2段目の偏向器227の電極4-2に印加する電位V42は、以下の式(11-2)で定義できる。2段目の偏向器227の電極4-3に印加する電位V43は、以下の式(11-3)で定義できる。2段目の偏向器227の電極4-4に印加する電位V44は、以下の式(11-4)で定義できる。2段目の偏向器227の電極4-5に印加する電位V45は、以下の式(11-5)で定義できる。2段目の偏向器227の電極4-6に印加する電位V46は、以下の式(11-6)で定義できる。2段目の偏向器227の電極4-7に印加する電位V47は、以下の式(11-7)で定義できる。2段目の偏向器227の電極4-8に印加する電位V48は、以下の式(11-8)で定義できる。
【0089】
【数11】
【0090】
ここで、マルチ1次電子ビーム20での走査の場合と同様、電圧の大きさV2は中心からの距離に比例する。θ2は偏向方向の角度θ′を決める。これをV31~V38及びV41~V48の駆動電圧に割り振ればよい。
【0091】
なお、偏向器226の各電極に印加する電位と、偏向器227の各電極に印加する電位とは逆であっても構わない。言い換えれば、位相差Δθ2を考慮する電位が印加される偏向器が、偏向器227の代わりに偏向器226であっても良い。
【0092】
ここで、ランディングエネルギーが変更されるとマルチ2次電子ビーム300のエネルギー状態が変化する。よって、ランディングエネルギーが変更されるとコマ収差をゼロ或いは最小にする位相差Δθ2が変化する。そこで、実施の形態1では、ランディングエネルギーと、コマ収差をゼロ或いは最小にする位相差Δθ2との関係テーブルを作成する。
【0093】
図11は、実施の形態1におけるマルチ2次電子ビームを用いた振り戻し偏向に伴うランディングエネルギーと位相差とリターディング電位との関係を示す関係テーブル(2)の一例を示す図である。
【0094】
図11に示すように、関係テーブル(2)では、ランディングエネルギー(L.E.)がE1の場合の位相差Δθ2がB1、及びリターディング電位VrがVr1と対応付けて定義される。L.E.がE2の場合の位相差Δθ2がB2、及びリターディング電位VrがVr2と対応付けて定義される。・・・・、L.E.がEnの場合の位相差Δθ2がBn、及びリターディング電位VrがVrnと対応付けて定義される。かかる関係は、シミュレーション或いは実験により求めればよい。ランディングエネルギー(L.E.)が決まれば、リターディング電位は決まるので、関係テーブル(2)は、ランディングエネルギー(L.E.)が省略された、位相差Δθ2とリターディング電位Vrとの関係を示す関係テーブルであっても良い。かかる関係テーブル(2)は、記憶装置109或いは位相差制御回路134内の記憶装置76に格納される。
【0095】
関係テーブル(2)が記憶装置109に格納される場合、制御計算機110は、記憶装置109から関係テーブル(2)を読み出し、位相差制御回路134内の記憶装置76に格納する。
【0096】
位相差算出部77は、リターディング電位の大きさに応じて、マルチ2次電子ビーム300の偏向により生じる収差を低減するように複数の偏向器226,227(第2の偏向器)の偏向方向の位相差Δθ2(第2の位相差)を算出する。そして、位相差決定部78(第2の決定部)は、偏向器226,227のための偏向方向の位相差を、算出された位相差Δθ2に決定する。決定された位相差Δθ2は、偏向制御回路128に出力される。
【0097】
画像取得時には、偏向制御回路128は、さらに、複数の偏向器226,227の各電極に偏向方向の位相差Δθ2(第2の位相差)に応じた個別の電位V31~V38,V41~V48をそれぞれ印加する。そして、上述したように、複数の偏向器226,227は、マルチ2次電子ビーム300を一括して偏向することにより、マルチ2次電子ビーム300を振り戻し、マルチ1次電子ビーム20を用いた走査を行う場合でも、マルチ2次電子ビーム300がマルチ検出器222に投影する位置を不動にする。
【0098】
これにより、各2次電子ビームがマルチ検出器222の対応する検出素子にて検出されることができる。
【0099】
以上のように、画像取得機構150は、ストライプ領域32毎に、スキャン動作をすすめていく。上述したように、マルチ1次電子ビーム20を照射して、マルチ1次電子ビーム20の照射に起因して基板101から放出されるマルチ2次電子ビーム300は、偏向器218内で中間像面(第2像面)を形成すると共に、偏向器218で偏向され、それからマルチ検出器222で検出される。検出されるマルチ2次電子ビーム300には、反射電子が含まれていても構わない。或いは、反射電子は、2次電子光学系を移動中に発散し、マルチ検出器222まで到達しない場合であっても構わない。そして。検出されたマルチ2次電子ビーム300の信号に基づいた2次電子画像が取得される。具体的には、マルチ検出器222によって検出された各サブ照射領域29内の画素毎の2次電子の検出データ(測定画像データ:2次電子画像データ:被検査画像データ)は、測定順に検出回路106に出力される。検出回路106内では、図示しないA/D変換器によって、アナログの検出データがデジタルデータに変換され、チップパターンメモリ123に格納される。そして、得られた測定画像データは、位置回路107からの各位置を示す情報と共に、比較回路108に転送される。
【0100】
一方、参照画像作成回路112は、基板101に形成された複数の図形パターンの元になる設計データに基づいて、フレーム領域30毎に、フレーム画像31に対応する参照画像を作成する。具体的には、以下のように動作する。まず、記憶装置109から制御計算機110を通して設計パターンデータを読み出し、この読み出された設計パターンデータに定義された各図形パターンを2値ないしは多値のイメージデータに変換する。
【0101】
上述したように、設計パターンデータに定義される図形は、例えば長方形や三角形を基本図形としたもので、例えば、図形の基準位置における座標(x、y)、辺の長さ、長方形や三角形等の図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報で各パターン図形の形、大きさ、位置等を定義した図形データが格納されている。
【0102】
かかる図形データとなる設計パターンデータが参照画像作成回路112に入力されると図形ごとのデータにまで展開し、その図形データの図形形状を示す図形コード、図形寸法などを解釈する。そして、所定の量子化寸法のグリッドを単位とするマス目内に配置されるパターンとして2値ないしは多値の設計パターン画像データに展開し、出力する。言い換えれば、設計データを読み込み、検査領域を所定の寸法を単位とするマス目として仮想分割してできたマス目毎に設計パターンにおける図形が占める占有率を演算し、nビットの占有率データを出力する。例えば、1つのマス目を1画素として設定すると好適である。そして、1画素に1/2(=1/256)の分解能を持たせるとすると、画素内に配置されている図形の領域分だけ1/256の小領域を割り付けて画素内の占有率を演算する。そして、8ビットの占有率データとなる。かかるマス目(検査画素)は、測定データの画素に合わせればよい。
【0103】
次に、参照画像作成回路112は、図形のイメージデータである設計パターンの設計画像データに、所定のフィルタ関数を使ってフィルタ処理を施す。これにより、画像強度(濃淡値)がデジタル値の設計側のイメージデータである設計画像データをマルチ1次電子ビーム20の照射によって得られる像生成特性に合わせることができる。作成された参照画像の画素毎の画像データは比較回路108に出力される。
【0104】
比較回路108内では、フレーム領域30毎に、被検査画像となるフレーム画像31(第1の画像)と、当該フレーム画像に対応する参照画像(第2の画像)とを、サブ画素単位で、位置合わせする。例えば、最小2乗法で位置合わせを行えばよい。
【0105】
そして、比較回路108は、フレーム画像31(第1の画像)と、参照画像(第2の画像)とを比較する。比較回路108は、所定の判定条件に従って画素36毎に両者を比較し、例えば形状欠陥といった欠陥の有無を判定する。例えば、画素36毎の階調値差が判定閾値Thよりも大きければ欠陥と判定する。そして、比較結果が出力される。比較結果は、記憶装置109、モニタ117、若しくはメモリ118に出力される、或いはプリンタ119より出力されればよい。
【0106】
なお、上述したダイ-データベース検査の他、同一基板上の異なる場所の同一パターンを撮像した測定画像データ同士を比較するダイ-ダイ検査を行っても好適である。或いは、自己の測定画像だけを用いて検査しても構わない。
【0107】
図12は、実施の形態1の変形例1におけるパターン検査装置の構成を示す構成図である。図12において、成形アパーチャアレイ基板203が省略された点以外は、図1と同様である。実施の形態1の変形例1では、成形アパーチャアレイ基板203が無いため、マルチ1次電子ビーム20が形成されない。そのため、1本の1次電子ビーム200がそのまま電磁レンズ205側に進み、2段の偏向器208,209による1本の1次電子ビーム200のビーム偏向によって、1本の1次電子ビーム200で基板101を走査する。
或いは、図1の構成にさらに、成形アパーチャアレイ基板203の前段若しくは後段に1本のビームだけを通過させて残りのビームは遮蔽する図示しないビーム選択アパーチャを配置して、マルチ1次電子ビーム20の中から1本の1次電子ビームを生成しても構わない。偏向器208,209(226,227)の制御内容は、上述した内容と同様である。その他の内容は上述した内容と同様である。
このように、マルチ電子ビームを用いる場合だけではなく、シングル電子ビームを用いる場合にも、同様に適用できる。
【0108】
上述した例では、1段目の偏向器209に印加する基準電圧となる偏向角VU1と2段目の偏向器209に印加する基準電圧となる偏向角VL1とを共にV1として、式(4-1)~式(4-8)と式(5-1)~式(5-8)(式(6-1)~式(6-8)と式(7-1)~式(7-8))に用いたがこれに限るものではない。以下、実施の形態1の変形例2として説明する。実施の形態1の変形例2では、マルチビームを用いる場合でもシングルビームを用いる場合でも構わない。よって、検査装置100の構成は、図1或いは図12と同様である。また、2段の偏向器が、静電偏向器であっても磁場偏向器であっても構わない。
【0109】
図13は、実施の形態1の変形例2における2段の偏向器の偏向角を説明するための図である。図13では、電子ビームを2段の偏向器208,209で偏向し、電磁レンズ207で1次電子ビーム200を基板101に結像させる様子の一例を示す。図13において、1段目の偏向器209が偏向する角度が偏向角VU1(偏向角1)である。また、2段目の偏向器208が偏向する角度が偏向角VL1(偏向角2)である。
偏向角1,2は、静電偏向器であれば電圧に相当し、磁場偏向器であればコイルに流す電流に相当する。
【0110】
図14は、実施の形態1の変形例2における2段の偏向器の位相差を説明するための図である。図14の例では、1段目の偏向器209で+x方向と-y方向に合成した偏向方向1に電子ビームを偏向する。そして、2段目の偏向器208で-x方向と+y方向に合成した偏向方向2に電子ビームを偏向する。かかる場合、基準軸となる例えばx軸から偏向方向1への位相角度α1とx軸から偏向方向2への位相角度α2との差分(α2-α1)が偏向位相差となる。
【0111】
図15は、実施の形態1の変形例2におけるランディングエネルギーと偏向収差と位相差との関係の一例を示す図である。図15において縦軸に偏向収差を示す。横軸に位相差Δθ(偏向位相差)を示す。図15の例では、ランディングエネルギーL.E.毎の偏向収差と偏向位相差との関係を示している。
図16は、実施の形態1の変形例2におけるランディングエネルギーと偏向収差と偏向角比との関係の一例を示す図である。図16において縦軸に偏向収差を示す。横軸に1段目の偏向器の偏向角Vと2段目の偏向器の偏向角Vと偏向角比(V/V)(電圧比)を示す。図16の例では、ランディングエネルギーL.E.毎の偏向収差と偏向角比との関係を示している。
図15及び図16に示すように、ランディングエネルギーL.E.毎に、偏向位相差Δθ及び/或いは偏向角比(V/V)によって収差が変化することがわかる。よって、各実施の形態において、1次電子ビームでの走査に使用する偏向角VU1と偏向角VL1とを共にV1として偏向角比=1に限定せずに、ずらしても良い。
【0112】
図17は、実施の形態1の変形例2における位相差算出回路の内部構成の他の一例を示す図である。図17において、位相差制御回路134内に、さらに、電圧比算出部82と電圧比決定部84と電圧比算出部87と電圧比決定部88とを追加した点以外は、図9と同様である。
リターディング電位取得部70、位相差算出部72、位相差決定部73、位相差算出部77、位相差決定部78、偏向角比算出部82、偏向角比決定部84、偏向角比算出部87、及び偏向角比決定部88といった各「~部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。リターディング電位取得部70、位相差算出部72、位相差決定部73、位相差算出部77、位相差決定部78、偏向角比算出部82、偏向角比決定部84、偏向角比算出部87、及び偏向角比決定部88に入出力される情報および演算中の情報はメモリ118若しくは位相差制御回路134内の図示しないメモリにその都度格納される。
【0113】
また、記憶装置71には、1次電子ビーム用のランディングエネルギーと偏向収差と位相差との関係、及びランディングエネルギーと偏向収差と偏向角比との関係とを示す関係データ(1)が格納される。記憶装置76には、2次電子ビーム用のランディングエネルギーと偏向収差と位相差との関係、及びランディングエネルギーと偏向収差と偏向角比との関係とを示す関係データ(2)が格納される。
【0114】
上述したように、ランディングエネルギー(LE)とリターディング電位の一方が決まれば、他方も決まる。
【0115】
まず、リターディング電位取得部70は、リターディング電位制御回路130からリターディング電位を取得する。
【0116】
位相差算出部72は、関係データ(1)を参照して、基板101に印加するリターディング電位の大きさに応じて、偏向収差が予め設定された閾値以下になる2段の偏向器208,209のための偏向位相差Δθ1を算出する。そして、位相差決定部73(第1の決定部)は、2段の偏向器209,208のための偏向方向の位相差を、算出された位相差Δθ1に決定する。決定された位相差Δθ1は、偏向制御回路128に出力される。
及び/或いは、偏向角比算出部82は、関係データ(1)を参照して、基板101に印加するリターディング電位の大きさに応じて、偏向収差が予め設定された閾値以下になる2段の偏向器208,209のための偏向角比VL1/VU1を算出する。そして、電圧比決定部83は、2段の偏向器209,208のための偏向角比を、算出された偏向角比VL1/VU1に決定する。決定された偏向角比VL1/VU1は、偏向制御回路128に出力される。
【0117】
また、位相差算出部77は、関係データ(2)を参照して、基板101に印加するリターディング電位の大きさに応じて、偏向収差が予め設定された閾値以下になる2段の偏向器226,227のための偏向位相差Δθ2を算出する。そして、位相差決定部78(第2の決定部)は、2段の偏向器226,227のための偏向方向の位相差を、算出された位相差Δθ2に決定する。決定された位相差Δθ2は、偏向制御回路128に出力される。
及び/或いは、偏向角比算出部87は、関係データ(2)を参照して、基板101に印加するリターディング電位の大きさに応じて、偏向収差が予め設定された閾値以下になる2段の偏向器226,227のための偏向角比VL2/VU2を算出する。そして、偏向角比決定部83は、2段の偏向器226,227のための偏向角比を、算出された偏向角比VL2/VU2に決定する。決定された偏向角比VL2/VU2は、偏向制御回路128に出力される。
【0118】
これにより、実施の形態1の変形例2において、1段目の偏向器209に印加する基準電圧となる偏向角VU1と2段目の偏向器209に印加する基準電圧となる偏向角VL1との一方をV1とし他方を偏向角比VL1/VU1によって求めた偏向角を用いて、式(4-1)~式(4-8)と式(5-1)~式(5-8)(式(6-1)~式(6-8)と式(7-1)~式(7-8))を算出すればよい。
【0119】
同様に、実施の形態1の変形例2において、1段目の偏向器226に印加する基準電圧となる偏向角VU2と2段目の偏向器227に印加する基準電圧となる偏向角VL2との一方をV2とし他方を偏向角比VL2/VU2によって求めた偏向角を用いて、式(10-1)~式(10-8)と式(11-1)~式(11-8)を算出すればよい。
【0120】
以上のように、実施の形態1によれば、ビームのエネルギー状態が変化する場合でも偏向器209,208による走査量に応じた収差を補正できる。同様に、ビームのエネルギー状態が変化する場合でも偏向器226,227による振り戻し偏向量に応じた収差を補正できる。
【0121】
以上の説明において、一連の「~回路」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~回路」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。プロセッサ等を実行させるプログラムは、磁気ディスク装置、磁気テープ装置、FD、或いはROM(リードオンリメモリ)等の記録媒体に記録されればよい。例えば、位置回路107、比較回路108、及び参照画像作成回路112等は、上述した少なくとも1つの処理回路で構成されても良い。
【0122】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。上述した例では、マルチ1次電子ビーム20を用いた走査に起因した収差の補正と、マルチ2次電子ビーム300を用いた振り戻し偏向に起因した収差の補正との両方を実施する場合について説明したが、これに限るものではない。マルチ1次電子ビーム20を用いた走査に起因した収差の補正と、マルチ2次電子ビーム300を用いた振り戻し偏向に起因した収差の補正との一方を行う場合であっても良い。
2段の偏向器208,209と、2段の偏向器226,227は、2段に限るものではなく、2段以上であればよい。
【0123】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。
【0124】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ電子ビーム画像取得装置、マルチ電子ビーム画像取得方法、電子ビーム画像取得装置及び電子ビーム画像取得方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0125】
20 マルチ1次電子ビーム
21 1次電子ビーム
22 穴
29 サブ照射領域
30 フレーム領域
31 フレーム画像
32 ストライプ領域
33 矩形領域
34 照射領域
70 リターディング電位取得部
71,76 記憶装置
72 位相差算出部
73 位相差決定部
77 位相差算出部
78 位相差決定部
82 偏向角比算出部
84 偏向角比決定部
87 偏向角比算出部
88 偏向角比決定部
100 検査装置
101 基板
102 電子ビームカラム
103 検査室
106 検出回路
107 位置回路
108 比較回路
109 記憶装置
110 制御計算機
112 参照画像作成回路
114 ステージ制御回路
117 モニタ
118 メモリ
119 プリンタ
120 バス
122 レーザ測長システム
123 チップパターンメモリ
124 レンズ制御回路
126 ブランキング制御回路
128 偏向制御回路
130 リターディング制御回路
132 E×B分離器制御回路
134 位相差制御回路
142 ステージ駆動機構
150 画像取得機構
151 1次電子光学系
152 2次電子光学系
160 制御系回路
200 電子ビーム
201 電子銃
202,205,207 磁気レンズ
203 成形アパーチャアレイ基板
208 偏向器
209 偏向器
212 一括偏向器
213 制限アパーチャ基板
214 E×B分離器
216 ミラー
218 偏向器
222 マルチ検出器
224 投影レンズ
226,227 偏向器
300 マルチ2次電子ビーム
330 検査領域
332 チップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
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図15
図16
図17