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特開2024-88849赤外発光インキ組成物、偽造防止印刷物及び真偽判別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088849
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】赤外発光インキ組成物、偽造防止印刷物及び真偽判別方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/50 20140101AFI20240626BHJP
   B41M 3/14 20060101ALI20240626BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20240626BHJP
   C09K 11/68 20060101ALI20240626BHJP
   G07D 7/206 20160101ALI20240626BHJP
   G07D 7/12 20160101ALI20240626BHJP
【FI】
C09D11/50
B41M3/14
C09K11/08 J
C09K11/68
G07D7/206
G07D7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203845
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 直子
(72)【発明者】
【氏名】河村 英司
【テーマコード(参考)】
2H113
3E041
4H001
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA06
2H113BA09
2H113BB02
2H113BB22
2H113CA32
2H113CA36
2H113CA39
2H113CA42
3E041AA03
3E041AA10
3E041BA09
3E041BB04
3E041BB05
3E041BB06
3E041BC06
3E041CA01
3E041CB08
3E041EA02
4H001CA05
4H001XA03
4H001XA08
4H001XA20
4H001XA74
4H001YA60
4H001YA70
4J039AD21
4J039BA13
4J039BA29
4J039BA30
4J039BA39
4J039BE01
4J039BE16
4J039BE27
4J039CA07
4J039EA06
4J039EA21
4J039EA27
4J039EA28
4J039EA40
4J039EA48
4J039GA02
4J039GA13
4J039GA34
(57)【要約】
【課題】
本発明は、偽造者にとっては発光特性の模倣が困難であり、発光強度及び耐酸性が良好な赤外発光インキ組成物及び偽造防止印刷物を提供する。
【解決手段】
本発明は、第一の赤外発光体と第二の赤外発光体は、発光波長域が同一であり、第一の赤外発光体は、第二の赤外発光体よりも紫外線領域、可視光領域及び近赤外線領域の各波長領域における少なくとも一つの励起波長域の発光強度が高く、第二の赤外発光体は、第一の赤外発光体よりも耐酸性が高く、第一の赤外発光体と第二の赤外発光体は、各波長領域に少なくとも一つの励起ピーク波長を有し、励起ピーク波長の少なくとも一つが第一の赤外発光体と第二の赤外発光体で異なることを特徴とする赤外発光インキ組成物である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の赤外発光体と第二の赤外発光体を少なくとも含有する赤外発光インキ組成物であって、
前記第一の赤外発光体と前記第二の赤外発光体は、発光波長域が略同一であり、
前記第一の赤外発光体は、前記第二の赤外発光体よりも紫外線領域、可視光領域及び近赤外線領域の各波長領域における少なくとも一つの励起波長域の発光強度が高く、
前記第二の赤外発光体は、前記第一の赤外発光体よりも耐酸性が高く、
前記第一の赤外発光体と前記第二の赤外発光体は、前記各波長領域に少なくとも一つの励起ピーク波長を有し、前記励起ピーク波長の少なくとも一つが前記第一の赤外発光体と前記第二の赤外発光体で異なることを特徴とする赤外発光インキ組成物。
【請求項2】
基材上の少なくとも一部に、請求項1記載の前記赤外発光インキ組成物により形成された、第一の情報パターンを備えた印刷画像を有することを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項3】
前記印刷画像が、前記第一の情報パターンに隣接又は近接して、前記第一の赤外発光体を含有する第二の赤外発光インキ組成物により形成された第二の情報パターン又は前記第二の赤外発光体を含有する第三の赤外発光インキ組成物により形成された第三の情報パターンの少なくともいずれか一方を更に有することを特徴とする請求項2記載の偽造防止印刷物。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の偽造防止印刷物の真偽判別方法であって、
前記印刷画像に対し、前記第一の赤外発光体と前記第二の赤外発光体の双方を励起する波長域の第一の照射波長又は前記双方を励起する波長域における前記第一の照射波長と異なる第二の照射波長の少なくとも一方と、前記第二の赤外発光体を励起する波長域で、前記第一の照射波長及び前記第二の照射波長と異なる波長の第三の照射波長を照射する照射工程と、
前記照射工程における前記印刷画像の各照射波長に対する発光強度を検出する検出工程と、
前記検出工程により検出された前記発光強度と、真正品の発光強度とを比較し、前記真正品の発光強度の基準値の範囲内であるか否かにより真偽を判定する判別工程から成ることを特徴とする真偽判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外発光体を使用した偽造防止印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、印紙、切手、有価証券、身分証明書、各種チケット、セキュリティラベル等をはじめとする偽造防止印刷物(以下「偽造防止印刷物」という。)には、高度な偽造防止技術や真偽判別技術を付与することが求められている。これら偽造防止技術や真偽判別技術の一つとして、特定の波長の光を照射することにより人の目に見えない近赤外領域の光を発光する発光体(以下「赤外発光体」という。)を付与し、この発光を読取装置で検出することにより真偽判別する方法がある。
【0003】
この方法に使用される赤外発光体は、白色で着色力が低く、目に見えにくいため、赤外発光体を付与したパターンを潜像として形成することができる。また、他の着色顔料と混合して使用することもできることから、発光体の存在を隠ぺいし、赤外発光体が付与されていることが知られにくく、偽造や変造の際にこの機能が見逃されて正確な模倣が難しくなる。
【0004】
このような赤外発光体として、Nd0.5Yb0.2Na(WO 及びNd0.9Yb0.1Na(MoO (例えば、特許文献1)、Nd0.1Yb0.1Gd0.10.7PO (例えば、特許文献2)、Li(Nd,Yb)P12(例えば、特許文献3)、(Lu,Yb,Nd)S(例えば、特許文献4)、Ca(A1-x-y,Nd,Yb(RO (D=Li,Ag,Al,Ga,In、A=Sc,Y,La,Gd,Lu,Al,Ga,In、R=Mo,W,V)(例えば、特許文献5)の各一般式で示される赤外発光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54-100991号公報
【特許文献2】特許第3438188号公報
【特許文献3】特許第2756852号公報
【特許文献4】特開2010-132750号公報
【特許文献5】特開2011-21161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載の赤外発光体は、水分に溶解しやすい性質を持っており、特に酸性雰囲気ではこの傾向が強くなる。このため、湿気や特に酸性雰囲気下で発光強度が大幅に低下する恐れがある。
【0007】
また、特許文献5に記載の赤外発光体は、化学的安定性が良好であり、かつ、発光特性が良好であるが、特許文献4に記載の赤外発光体と比較したとき、発光強度が高く、アルカリ性に対する耐性は高いが、酸に対する耐性が相対的に低いため、堅ろう性が求められる偽造防止印刷物に使用するには懸念が残るという問題があった。
【0008】
また、特許文献4に記載の赤外発光体は、化学的安定性が良好であり、かつ、発光特性が良好であるが、実際に特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献5に記載の赤外発光体と比較したとき、同じ質量のときの発光強度が低く、高い発光強度を必要とする場合は相対的に大量に(高コンテントで)使用しなければならないという問題があった。
【0009】
単一の材料で所望する特性を満足できない場合、複数種の材料を混合使用する手法は通常実施される手段であるが、異なる特性を有する二種類以上の赤外発光体を混合した場合において、赤外発光体の組合せによっては、赤外発光体の適性により互いの機能効果を阻害し、発光強度、耐酸性を低下させる恐れがある。
【0010】
また、異なる波長域の励起及び発光特性を有する二種類以上の赤外発光体を混合し、二つの異なる発光特性を奏する場合は、発光現象を熟知した者(偽造者)が発光特性を把握し、類似する発光特性を有する二種類以上の赤外発光体を配合することによって、同様の発光特性を模倣される恐れがあった。
【0011】
更に、異なる波長域の励起特性を有する二種類以上の赤外発光体を混合した場合においては、簡易な二種類の読取方法により赤外発光体の発光特性を読取ることができるため、発光材料を特定される恐れがあった。
【0012】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、同一の波長域における一部励起特性が異なり、かつ、同一の発光特性を奏する二つの赤外発光体を混合することによって、一種類の赤外発光体を使用した場合と同様に単一の波長域で読取りができ、かつ、一部異なる励起特性を利用し読取方法を複雑にすることで、偽造者にとっては発光特性の模倣が困難であり、発光強度及び耐酸性が良好な赤外発光インキ組成物及び偽造防止印刷物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、第一の赤外発光体と第二の赤外発光体を少なくとも含有する赤外発光インキ組成物であって、第一の赤外発光体と第二の赤外発光体は、発光波長域が略同一であり、第一の赤外発光体は、第二の赤外発光体よりも紫外線領域、可視光領域及び近赤外線領域の各波長領域における少なくとも一つの励起波長域の発光強度が高く、第二の赤外発光体は、第一の赤外発光体よりも耐酸性が高く、第一の赤外発光体と第二の赤外発光体は、各波長領域に少なくとも一つの励起ピーク波長を有し、励起ピーク波長の少なくとも一つが第一の赤外発光体と第二の赤外発光体で異なることを特徴とする赤外発光インキ組成物である。
【0014】
本発明は、基材上の少なくとも一部に、赤外発光インキ組成物により形成された第一の情報パターンを備えた印刷画像を有することを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0015】
本発明は、印刷画像が、第一の情報パターンに隣接又は近接して、第一の赤外発光体を含有する第二の赤外発光インキ組成物により形成された第二の情報パターン又は前記第二の赤外発光体を含有する第三の赤外発光インキ組成物により形成された第三の情報パターンの少なくとも一方を更に有することを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0016】
本発明は、偽造防止印刷物の真偽判別方法であって、印刷画像に対し、第一の赤外発光体と第二の赤外発光体の双方を励起する波長域の第一の照射波長又は双方を励起する波長域における第一の照射波長と異なる第二の照射波長の少なくとも一方と、第二の赤外発光体を励起する波長域で、第一の照射波長及び第二の照射波長と異なる波長の第三の照射波長を照射する照射工程と、照射工程における印刷画像の各照射波長に対する発光強度を検出する検出工程と、検出工程により検出された発光強度と、真正品の発光強度とを比較し、真正品の発光強度の基準値の範囲内であるか否かにより真偽を判定する判別工程から成ることを特徴とする真偽判別方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、発光特性が高く、かつ、耐酸性に優れ、一種類の赤外発光体を使用した場合と同様に単一の波長域で読取りが可能であり、一部の異なる励起特性を利用することによって読取方法を複雑にすることで、発光特性の模倣及び特定が困難である赤外発光インキ組成物及び偽造防止印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の偽造防止印刷物を示す一例図である。
図2】本発明の偽造防止印刷物を示す一例図である。
図3】本発明の偽造防止印刷物を示す一例図である。
図4】本発明の赤外発光体の蛍光スペクトルを示す一例図である。
図5】本発明の赤外発光体の励起スペクトルを示す一例図である。
図6】本発明の検出結果を示す一例図である。
図7】本発明の真偽判別方法を示す一例図である。
図8】本発明の真偽判別方法を示す一例図である。
図9】本発明の実施例に係る検出結果を示す一例図である。
図10】本発明の真偽判別方法を示す一例図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0020】
(実施の形態)
本発明の実施の形態について、図1を用いて説明する。図1に示すとおり、本発明の偽造防止印刷物(1)は、基材(2)の少なくとも一部に、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)を含む赤外発光インキ組成物により形成された第一の情報パターン(4)を備えた印刷画像(9)を有する。
【0021】
基材(2)は、印刷が可能なものであれば特に制限はなく、赤外発光体が吸収する波長域や発光する波長域に吸収を持たない材質(素材)が好ましく、紙、プラスチックフィルム、金属、箔等のシート類、タグや缶などの成形物等の公知の材料を使用することができる。また、基材(2)の色彩も同様の理由により特に制限はないが、真偽判別を考慮した場合は、赤外発光体が吸収する波長域や発光する波長域に吸収を持たない色彩であることが好ましい。
【0022】
(印刷画像)
次に、印刷画像(9)について説明する。図1及び図2は、印刷画像(9)中に第一の情報パターン(4)しか含まれないため、印刷画像(9)と第一の情報パターン(4)は同じである。図1(a)は、基材(2)上に多角形の第一の情報パターン(4)をベタ刷りにより形成した例であるが、画線、網点により形成してもよい。また、図1(b)から図1(d)に示すように、第一の情報パターン(4)の形状は、赤外発光を検出して真偽判別に用いることができれば特に限定されず、四角形、円形、三角形等の任意の形状により形成することができる。
【0023】
更に、第一の情報パターン(4)は、図2(a)に示すように、図形やマークでもよいし、図2(b)に示すように、文字や、数字、記号でもよい。図2(c)に示すように万線(曲万線、直万線)のほか、彩紋模様や籠目模様等でもよいし、図2(d)に示すように、バーコードや二次元コードをはじめとするコード情報でもよい。
【0024】
また、図3(a)に示すように、印刷画像(9)は、第一の情報パターン(4)が、赤外発光インキ組成物と赤外発光特性が異なる第二の赤外発光インキ組成物による第二の情報パターン(5)と隣接又は近接、あるいは第一の情報パターン(4)と第二の情報パターン(5)の一部を重畳して形成してもよい(図示せず)。また、印刷画像(9)は、図3(b)に示すように、第一の情報パターン(4)が第二の情報パターン(5)により囲まれていてもよく、第二の情報パターン(5)を第一の情報パターン(4)により囲んで形成してもよい。
【0025】
更には、図3(c)に示すように、印刷画像(9)は、赤外発光インキ組成物及び第二の赤外発光インキ組成物と赤外発光特性が異なる第三の赤外発光インキ組成物により形成した第三の情報パターン(6)を、第一の情報パターン(4)と第二の情報パターン(5)に近接して形成してもよい。また、各情報パターンの大きさは、検出器による赤外発光の検出の点から、面積率が大きい方が真偽判別には有利である。なお、赤外発光インキ組成物、第二の赤外発光インキ組成物及び第三の赤外発光インキ組成物については、後述する。
【0026】
なお、本明細書における隣接とは、隣り合う二つの情報パターンの少なくとも一部が接する又は交差していることをいい、近接とは、隣り合う二つの情報パターンが接してはいないが、近くにあることをいう。
【0027】
(赤外発光体)
赤外発光インキ組成物に使用する赤外発光体は、200nm~400nmまでの紫外線領域、400nm~700nmの可視光域、700nm以上の近赤外線領域のうち、少なくとも一つの波長域の、一部の波長域の光を吸収し800nm以上の近赤外線領域に発光する特徴を持つ。この、吸収する波長域を「励起波長」という。励起波長は、紫外、可視、近赤外の各波長域の中に二つ以上あってもよい。
【0028】
このような特徴を持つ赤外発光体として、少なくとも特許文献1から特許文献5に示された赤外発光体のみならず、特許文献1から特許文献5に示す赤外発光体と同様な特性を有する公知の赤外発光体を使用することができる。いずれも、少なくとも一つの発光のピーク波長がシリコンフォトダイオードで受光できる波長域の850nm~1100nmの間にあり、汎用的な検出器を使用して真偽判別できる。励起波長は、ほとんどの赤外発光体が、紫外、可視、近赤外の各波長域に複数ある。
【0029】
本発明の実施の形態として、Li(Nd,Yb)P12(特許文献3)、(Lu,Yb,Nd)S(特許文献4)、CaLi(Nd,Yb(WO (特許文献5)を使用する場合を例として説明するが、赤外発光特性がほぼ同一でその他の特性が異なる赤外発光体が二種類以上であれば、前述の赤外発光体に限定されるものではない。もちろん、赤外発光に限定されず、紫外発光、可視発光、アップコンバージョン発光においても同じ手法を用いることができる。
【0030】
ここで、Li(Nd,Yb)P12(特許文献3)又はCaLi(Nd,Yb(WO(特許文献5)に示される赤外発光体を「第一の赤外発光体(7)」、(Lu,Yb,Nd)S(特許文献4)に示される赤外発光体を「第二の赤外発光体(8)」として説明する。これらの赤外発光体を詳細に比較すると、第一の赤外発光体(7)は、第二の赤外発光体(8)と比較して相対的に発光強度が高い。一方、第二の赤外発光体(8)は、第一の赤外発光体(7)と比較して、酸性及びアルカリ性の薬品に対する耐薬品性が非常に高い。更に、第二の赤外発光体(8)と比較して、特許文献3記載の第一の赤外発光体(7)は耐水性と耐酸性が低い。
【0031】
偽造防止印刷物(1)に対し、赤外発光による真偽判別要素を付与する場合は、真偽判別性、経済性、印刷適性の観点から、少量の赤外発光体で高い発光強度が得られる使用方法が好ましい。よって、相対的に発光強度の高い第一の赤外発光体(7)を使用することが好ましい。しかし、意図せずとも水濡れやアルコール類、エステル類及びエーテル等の有機溶剤、酸性及びアルカリ性の薬品への曝露の可能性は否めない。これら、接触や曝露した偽造防止印刷物(1)であっても、真正性を保証する必要があることから、真偽判別要素は、耐薬品性が高い必要が望まれる。
【0032】
偽造防止印刷物(1)について、通常の使用方法においては、水や有機溶剤、各種薬品に接触することは少なく、水や有機溶剤、各種薬品に接触することは異常なケースである。このような異常なケースを以後「特異状態」という。よって、特異状態を基準にして赤外発光体の種類や配合割合を選択した場合、通常状態においては過剰性能であり、経済性や印刷適性の点で不利になる。よって、使用する赤外発光体の種類や配合割合は、通常の使用状態を基準に設定し、特異状態においても真正性を保証できる方策を取るのが合理的である。
【0033】
この方法として、発光強度の高い第一の赤外発光体(7)を主たる赤外発光体として使用し、特異状態における真正性の保証のために第二の赤外発光体(8)を適正な割合で混合使用する手法を見出した。この方法を取ることで、赤外発光インキ組成物における第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)の配合割合を抑えつつ、特異状態でも真正性を保証できる。
【0034】
この方法の要件として、混合使用する赤外発光体は、真偽判別を行う場合の条件である励起波長及び発光波長域は同一である必要がある。この点、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)を混合使用して真偽判別を行う場合は、例えば、励起波長を590nmとし、検出波長域を850nm以上、シリコンフォトダイオードの検出範囲までとした場合、ほぼ同一な発光特性を示すことから、いずれかの赤外発光体を単独配合した赤外発光インキと同様に使用できる。
【0035】
発光強度の高い第一の赤外発光体(7)と耐薬品性の高い第二の赤外発光体(8)の配合割合は、偽造防止印刷物(1)の真偽判別条件における発光強度によって決定すればよい。例えば、特異状態で第一の赤外発光体(7)がすべて消失した場合、第二の赤外発光体(8)のみの発光強度で真正性を保証する必要があることから、少なくとも検出限界を超える配合量が必要である。第一の赤外発光体(7)と耐薬品性の高い第二の赤外発光体(8)の赤外発光インキ組成物中の配合割合は、通常の状態で安定的に検出できる割合を配合すればよい。
【0036】
なお、本実施の形態は、第一の赤外発光体(7)及び第二の赤外発光体(8)の二種類の赤外発光体を使用した例であるが、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)の特性に影響を与えず、励起波長及び発光波長域が同一な材料であれば、三種類以上の赤外発光体を使用することができる。
【0037】
(赤外発光インキ組成物)
赤外発光インキ組成物について説明する。赤外発光インキ組成物は、少なくとも第一の赤外発光体(7)及び第二の赤外発光体(8)の二種類の赤外発光体とワニス材料から成り、ワニス材料によっては、光重合開始剤、乾燥剤等の助剤、分散剤やゲル化剤、界面活性剤、滑材等の各種調整剤を配合する。
【0038】
色材としては、赤外発光が検出不能にならない範囲で、有機又は無機の着色顔料、パール顔料等の光輝性顔料、磁性材料、クロミック材料等の機能性材料、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化ケイ素等の体質顔料等を配合してもよい。なお、真偽判別のための検出を考慮すると、真偽判別を行う場合の赤外発光体の励起波長及び赤外発光波長に相当する波長域の光を吸収しないワニス材料や顔料が好ましく、光重合開始剤の吸収特性にも同様な注意が必要である。
【0039】
赤外発光インキ組成物の種類は、特に限定されず、オフセットインキ、凸版インキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、グラビアインキ、凹版インキ、インクジェットインキ、コーティング液等の公知のインキとして使用することができる。また、ワニス材料の乾燥あるいは重合方式も特に限定されず、浸透乾燥、蒸発乾燥、酸化重合、電離放射線乾燥等の公知の方式を使用することができる。
【0040】
(製造方法)
赤外発光インキ組成物の製造方法は、前述したインキの構成成分を均一に混合できる製造方法であれば、特に限定されない。赤外発光インキ組成物の製造方法における構成成分の混合に際しては、例えば、プラネタリミキサ、タンブラー、ビーズミル、サンドミル、スターラー、撹拌機、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ペイントシェーカー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、3本ロールミル等の混合機を用いることができる。
【0041】
(印刷方法)
赤外発光インキ組成物の基材(2)の付与方法は、特に限定されず、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、凹版印刷、インクジェット印刷等の印刷、グラビアコーティングを含むコーティング全般等、赤外発光体を付与できる方法であれば公知の付与方法を使用することができる。
【0042】
(第二の赤外発光インキ組成物及び第三の赤外発光インキ組成物)
第二の赤外発光インキ組成物は、赤外発光インキ組成物と異なり、第一の赤外発光体(7)は含有するが、第二の赤外発光体(8)を含有しない。また、第三の赤外発光インキ組成物は、赤外発光インキ組成物と異なり、第一の赤外発光体(7)を含有せず、第二の赤外発光体(8)を含有する。なお、ワニス材料、色材、顔料等の諸材料、製造方法及び付与方法については、赤外発光インキ組成物と同様である。
【0043】
(耐酸性)
赤外発光インキ組成物で形成された第一の情報パターン(4)の耐酸性は、使用する赤外発光体、赤外発光体の配合割合、インキバインダーの特性、印刷膜厚等の条件によって異なるが、酸に接触した場合、相対的に耐酸性の低い第一の赤外発光体(7)によって発光強度は低下する。一方、第二の赤外発光体(8)は、耐酸性が高く酸に接触しても第一の赤外発光体(7)と比較して発光強度が大きく低下することはない。
【0044】
よって、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)を混合することで、酸性下における第一の赤外発光体(7)の強度低下を第二の赤外発光体(8)が補っている。第二の赤外発光体(8)は、第一の赤外発光体(7)と比較して相対的に発光強度が低いことから、第一の赤外発光体(7)を混合使用することで、第二の赤外発光体(8)の発光強度を第一の赤外発光体(7)が補うこととなる。なお、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)を任意の割合で混合した赤外発光インキ組成物について、酸性溶液に浸漬させたときの、スクリーン印刷物とオフセット印刷物の発光強度の変化については、後述の実施例で説明する。
【0045】
次に、第一の赤外発光体(7)、第二の赤外発光体(8)の特性について説明する。図4は、励起ピーク波長として中心波長590nmの橙色光を照射したときの、第一の赤外発光体(7)、第二の赤外発光体(8)の蛍光スペクトルである。第一の赤外発光体(7)、第二の赤外発光体(8)は、両者とも950nmから1050nmまでの近赤外線領域で発光する。この領域は、小型で安価なシリコンフォトダイオードで検出可能な波長域である。
【0046】
図5は、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)において、それぞれの発光ピーク波長における励起スペクトルである。第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)の両者の励起スペクトル形状は近似している。しかしながら、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)の、紫外線領域、可視光領域及び及近赤外線領域の各波長領域における励起ピーク波長が数nmずれていること及び紫外線領域の励起ピーク波長においてその半値幅が異なっており、最も顕著であるのが、300nm近辺の励起スペクトルの強度差である。
【0047】
なお、図5の励起スペクトルは、スペクトル形状比較のため規格化して記載している。また、第一の赤外発光体(7)、第二の赤外発光体(8)を含有する赤外発光インキ組成物、第二の赤外発光体(8)を含有する第三の赤外発光インキにおいては、使用するワニス材料、光重合開始剤、添加剤、助剤等の吸収特性によっては、図5に示した赤外発光体の励起スペクトルと励起特性が異なる場合がある。本実施の形態として、可視光領域及び紫外線領域の励起特性の違いを利用して詳細に説明するが、赤外線領域の励起特性の違いを利用した検出も、当然可能である。
【0048】
励起波長は、使用する赤外発光体の吸収があればどこでもよいが、最も発光強度が高くなる励起波長が好ましい。可視光領域を励起波長とすると、光源の照射位置が目視できることが利点である一方、配合できる着色顔料が限定される。光源は、タングステンランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、水銀ランプ、ナトリウムランプ等のランプを使用し、フィルタにより特定波長域のみを取り出してもよいし、特定波長のLEDやレーザー光源等を使用してもよい。
【0049】
(検出器)
偽造防止印刷物(1)の赤外発光を検出する検出器は、赤外発光波長域の光を検出できるセンサであれば特に限定されない。センサは、シリコンフォトダイオードやインジウムガリウム砒素フォトダイオードなどの半導体検出器や、感度の高いフォトマルチプライヤー、イメージインテンシファイアー等の光電変換センサを用いることができる。検出方法は、センサをライン状又はエリア状に配置し、赤外発光画像として検出してもよい。検出感度が低い場合は、検出された光を電気信号に変換し増幅してもよい。使用するセンサの感度特性によるが、各情報パターンの赤外発光以外の光を検出しないよう、受光部の前に光学フィルタを装着するのが好ましい。例えば、シリコンフォトダイオードを用いる場合は、可視光、例えば850nm以下をカットするシャープカットフィルタを装着する。
【0050】
更に、検出器は、公知のフォトセンサ、増幅器、A/D変換器を組み合わせ、更に、判定アプリケーションを構築してもよいし、市販の装置を使用してもよい。例えば、Foster+Freeman Ltd.製偽造防止技術解析装置では発光状態を画像として目視でき、根本特殊化学(株)製NKC-1、NKC-10では、任意単位の数値として発光を検出できる。
【0051】
(真偽判別方法)
次に、本発明の偽造防止印刷物の真偽判別方法について説明する。図10に示すように、本発明の偽造防止印刷物の真偽判別方法は、偽造防止印刷物(1)の印刷画像(9)に第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)の双方を励起する波長域の第一の照射波長(λ1)又は双方を励起する波長域における第一の照射波長(λ1)と異なる第二の照射波長(λ2)の少なくとも一方と、第二の発光体(8)を励起する波長域であり、第一の照射波長(λ1)及び前記第二の照射波長(λ2)と異なる波長の第三の照射波長(λ3)を照射する照射工程(E)と、照射工程(E)における印刷画像(9)の各照射波長に対する発光強度を検出する検出工程(D)と、検出工程(D)により検出された発光強度と、真正品の発光強度とを比較し、真正品の発光強度の基準値の範囲内であるか否かにより真偽を判定する判別工程(J)から成ることを特徴とする真偽判別方法である。
【0052】
本例における真偽判別方法は、第一の照射波長(λ1)又は第二の照射波長(λ2)の少なくとも一方と、第三の照射波長(λ3)の二つの照射波長により行う事もできるが、より良好な判定として、第一の照射波長(λ1)、第二の照射波長(λ2)及び第三の照射波長(λ3)の三つの照射波長を使用した例について説明する。なお、本例の照射工程(E)は、偽造防止印刷物(1)に対し、590nmの第一の照射波長(λ1)と、254nmの第二の照射波長(λ2)と312nmの第三の照射波長(λ3)の、それぞれ異なる励起波長域の光を照射する。
【0053】
検出工程(D)は、第一の検出工程(E-1)により第一の照射波長(λ1)における印刷画像(9)の発光を第一のセンサ(S1)で検出し、第二の検出工程(D―2)により第二の照射波長(λ2)における発光を第二のセンサ(S2)で検出し、第三の検出工程(D―3)により第三の照射波長(λ3)における発光を第三のセンサ(S3)により検出する。
【0054】
判別工程(J)は、検出工程(D)における発光強度と、あらかじめ定めた基準値とを照合し、所定の基準値の範囲内である場合に真正と判断する。判断する方法の一例としては、あらかじめ真正品を測定して得られた発光強度の出力電圧を基準値とし、当該基準値を中心として許容範囲を基準値±誤差と設定し、許容最大値と許容最小値の間に判別対象物から得られた出力電圧が入っていれば、「真」であると判別し、許容範囲に入っていなければ「偽」と判別する。なお、当該基準値の設定については、後述する。
【0055】
あるいは、あらかじめ測定した真正品の発光強度の出力波形である発光強度プロファイルを基準値とし、判別対象物の発光強度の出力波形である発光強度プロファイルとパターンマッチングさせて、一致できたものを「真」と判別してもよい。なお、パターンマッチングについては、両方の出力波形の重ね合わせ具合により、完全に一致した出力波形が形成されないことも有り得るため、基準値として定めた範囲内を閾値として設定し、設定した閾値の範囲内の類似度であれば、同一の波形であることとする判別基準を設定してもよい。ここで、閾値については、適宜、設定すればよい。
【0056】
次に、図3(c)に示す偽造防止印刷物(1)を使用した真偽判別方法の一例を図6により説明する。
【0057】
図6は、偽造防止印刷物(1)に対し、第一の照射波長(λ1)、第二の照射波長(λ2)及び第三の照射波長(λ3)を照射したときの、第二の情報パターン(5)、第一の情報パターン(4)、第三の情報パターン(6)の任意の1ライン(3)における発光強度プロファイルを検出して真偽判別を行う一例図である。
【0058】
なお、前述したとおり、第一の情報パターン(4)は、第一の赤外発光体と第二の赤外発光体を少なくとも含有する赤外発光インキ組成物によって形成されて成り、第二の情報パターン(5)は、第一の赤外発光体を含有する第二の赤外発光インキ組成物によって形成されて成り、第三の情報パターン(6)は、第二の赤外発光体を含有する第三の赤外発光インキ組成物によって形成されて成る。
【0059】
第一の赤外発光体と第二の赤外発光体は、蛍光(発光)波長域が同一であり、第一の赤外発光体は、第二の赤外発光体よりも紫外線領域、可視領域及び及近赤外線領域の各波長領域における少なくとも一つの励起波長域の発光強度が高く、第二の赤外発光体は、第一の赤外発光体よりも耐酸性が高く、第一の赤外発光体と第二の赤外発光体は、各波長領域に少なくとも一つの励起波長ピークを有し、励起波長ピークの少なくとも一つが第一の赤外発光体と第二の赤外発光体で異なる。
【0060】
第一の照射波長(λ1)を照射したときは第一の発光強度プロファイル(L1)、第二の照射波長(λ2)を照射したときは第二の発光強度プロファイル(L2)、第三の照射波長(λ3)を照射したときは第三の発光強度プロファイル(L3)を示している。発光強度としては、センサが検出した電圧値や、一旦画像として検出したデータを画像処理し輝度値に変換しても良い。
【0061】
図6に、偽造防止印刷物(1)に対し、三種類の波長の励起光を照射した各情報パターンの赤外発光による発光画像及び発光強度プロファイルの一例を示す。図6(a)は、偽造防止印刷物(1)に対し、一例として、第一の照射波長(λ1)である590nmをピーク波長とする橙色光を照射したときの第一の赤外発光画像(P1)である。第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)は、ともに第一の照射波長(λ1)を吸収して赤外発光するため、第一の情報パターン(4)、第二の情報パターン(5)及び第三の情報パターン(6)の全ての情報パターンが白色の発光画像として検出できる。更に、第一の発光強度プロファイル(L1)においても、第一の情報パターン(4)、第二の情報パターン(5)及び第三の情報パターン(6)が同一強度である。
【0062】
なお、第一の情報パターン(4)、第二の情報パターン(5)及び第三の情報パターン(6)の各情報パターンの印刷膜厚を調整し、各情報パターンの赤外発光の強度を同程度にすることによって、全て同じ輝度の白色の発光画像として検出することも可能である。
【0063】
図6(b)は、偽造防止印刷物(1)に対し、第二の照射波長(λ2)として、ピーク波長が254nmを中心波長とする紫外光を照射したときの第二の赤外発光画像(P2)である。第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)は、ともに第二の照射波長(λ2)である紫外光を吸収して赤外発光するため、第二の赤外発光画像(P2)において、第二の情報パターン(5)、第一の情報パターン(4)、第三の情報パターン(6)の全てが、ほぼ白色の発光画像として検出できる。しかしながら、第二の照射波長(λ2)における第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)の発光強度は若干異なるため、第二の発光強度プロファイル(L2)において、発光強度が、第二の情報パターン(5)<第一の情報パターン(4)<第三の情報パターン(6)の順となる。
【0064】
図6(c)は、偽造防止印刷物(1)に対し、第三の照射波長(λ3)として、例えば、ピーク波長が312nmを中心波長とする紫外光を照射したときの第三の赤外発光画像(P3)である。第二の赤外発光体(8)は発光するが第一の赤外発光体(7)はほぼ発光がないことから第三の赤外発光画像(P3)において、第二の情報パターン(5)はほぼ検出されないため黒色、第三の情報パターン(6)は白色に、第一の情報パターン(4)は、第二の情報パターン(5)と第三の情報パターン(6)の中間程度、斜線で示す灰色の画像として検出される。更に、第三の発光強度プロファイル(L3)においても、発光強度が、第一の情報パターン(4)<第三の情報パターン(6)となる。
【0065】
前述に示すように、三種類の発光画像、又は三種類の発光強度プロファイルを検出して真偽判別する方法としては、あらかじめ登録している基準画像や基準プロファイルとのマッチングを用いて一定の類似度に基づいて判別する方法、発光画像の輝度値の閾値を設定し、設定値の範囲内に入るか否かで判別するなど、公知の方法を用いることができる。
【0066】
検出方法として、三種類の照射波長を使用した発光輝度(画像)の違いを示したが、もちろん、二種類の照射波長でも同様に発光輝度(画像)において差別化ができることは明確である。
【0067】
次に、本発明の偽造防止印刷物(1)の判別を行うための、別の実施形態について図7を用いて説明する。図1に記載した偽造防止印刷物(1)を例とする。第一の情報パターン(4)は、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)を任意の割合で適宜混合した赤外発光インキ組成物で形成する。
【0068】
図7に示すように、偽造防止印刷物(1)に対し、第一の照射波長(λ1)である590nmの光を照射して第一の情報パターン(4)の発光を第一のセンサ(S1)で検出する第一の検出工程(D1)、第二の照射波長(λ2)である254nmの光を照射して第一の情報パターン(4)の発光を第二のセンサ(S2)で検出する第二の検出工程(D2)、第三の照射波長(λ3)である312nmの光を照射して第一の情報パターン(4)の発光を第三のセンサ(S3)を検出する第三の検出工程(D3)により、波長が異なる励起光の照射による発光を検出する。
【0069】
第一のセンサ(S1)、第二のセンサ(S2)及び第三のセンサ(S3)で検出された発光は光電変換、A/D変換され発光強度に応じた電圧値として取り込まれる。
【0070】
なお、第一の検出値(V1)、第二の検出値(V2)及び第三の検出値(V3)の発光強度が低い場合は、必要に応じて増幅器により信号強度を増幅し、A/D変換器を通じてデジタルデータとしてデータ処理を行う判別工程(J)を行うコンピュータへ送信される。
【0071】
判別工程(J)において、コンピュータの比較演算部で、あらかじめ設定した閾値と取得した第一の検出値(V1)、第二の検出値(V2)、第三の検出値(V3)を比較して、真偽判別する。あらかじめ設定する閾値としては、真正品の実測値を使用する。例えば、第一の検出値(V1)に対する第一の閾値(T1)としたとき、第二の検出値(V2)に対する第二の閾値(T2)をT2=5×V1、第三の検出値(V3)に対する第三の閾値(T3)をT3=2×V1と定めることができる。第一の検出値(V1)、第二の検出値(V2)及び第三の検出値(V3)のすべてがあらかじめ定められた第一の閾値(T1)、第二の閾値(T2)及び第三の閾値(T3)の範囲内の場合にのみ、「真」の判定となる。
【0072】
つまり、第一の赤外発光体(7)が第二の赤外発光体(8)の紫外線領域の励起特性の違いを利用して、それぞれ第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)に適した紫外光を別々に照射して発光強度及び/又は輝度変化を観察することでなされる。また、第一の赤外発光体(7)及び第二の赤外発光体(8)以外の類似の材料を使用した模倣(偽造)物を見破ることができるようになる。
【0073】
本発明の偽造防止印刷物(1)の真偽判別方法において、更に別の実施形態について、図8を用いて説明する。図1に記載した偽造防止印刷物(1)を例とする。第一の情報パターン(4)は、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)を任意の割合で適宜混合した赤外発光インキ組成物で形成する。
【0074】
一例として、第一の照射波長(λ1)である590nmの光を照射して発光強度検出又は発光画像取得している状態で、更に第二の照射波長(λ2)である254nm及び第三の照射波長(λ3)である302nmの光を順次照射すると、発光強度又は発光画像の輝度は、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)の混合割合に応じて変化する。
【0075】
例えば、真正物の偽造防止印刷物(1)の第一の情報パターン(4)に、第一の照射波長(λ1)である590nmの光を照射したときに検出された赤外発光である第一の検出値(V1)が40mVであるとする。第一の照射波長(λ1)を照射した状態で第二の照射波長(λ2)を照射したときの第二の検出値(V2)が4×40mV(V1)、更に、第一の照射波長(λ1)及び第二の照射波長(λ2)を照射した状態で第三の照射波長(λ3)を照射したときの第三の検出値(V3)が8×40mV(V1)として、各基準値を設定する。
【0076】
赤外発光インキ組成物の構成を知らない者が、第一の赤外発光体(7)を単独、第二の赤外発光体(8)を単独、あるいは類似の異なる発光体を単独配合した赤外発光インキ組成物を付与した模倣印刷物の場合、配合した赤外発光体の励起特性と合致しない波長の紫外光を照射した場合、発光強度又は発光画像の輝度はほとんど変化しない。例えば、第一の赤外発光体(7)を単独配合した第二の赤外発光インキ組成物を付与した模倣印刷物の場合、第一の検出値(V1)は40mVであるため同様であるが、第二の検出値(V2)と第三の検出値(V3)の値は真正物である偽造防止印刷物(1)と異なるため、模倣物であると判別できる。
【0077】
つまり、第一の赤外発光体(7)が第二の赤外発光体(8)の紫外線領域の励起特性の違いを利用して、発光強度に差が生じる波長の励起光を照射して発光強度及び/又は輝度変化を観察することによってなされ得る。また、第一の赤外発光体(7)及び第二の赤外発光体(8)以外の類似の材料を使用した模倣(偽造)や第一の赤外発光体(7)及び第二の赤外発光体(8)を単独で使用した模倣物(偽造)を見破ることができるようになる。
【0078】
以下、発明を実施するための形態にしたがって、本発明の赤外発光インキ組成物及び偽造防止印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
本実施例1は、赤外発光インキ組成物をスクリーンインキ組成物として、図1(a)に示す対象図柄を基材(2)として上質紙(日本製紙(株)製しらおい)に対し、200メッシュの版面を使用して、(株)ミノグループ製卓上スクリーン印刷機WHT3号により各水準の偽造防止印刷物(1-1から1-4まで)を作製した。
【0080】
赤外発光インキ組成物は、第一の赤外発光体(7)をCaLi(Nd,Yb(WO、第二の赤外発光体(8)に根本特殊化学(株)製を使用して、後述する表1に示す混合割合を変えて作製した。なお、表1に示すように、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)をそれぞれ単独で含有する比較用の赤外発光インキ組成物を作製し、同様の条件で比較用の偽造防止印刷物としての赤外発光印刷物(2-1、2-2)を作製した。
【0081】
【表1】
【0082】
(発光強度測定)
表1に示す各水準の偽造防止印刷物(1-1から1-4まで)と比較例の偽造防止印刷物としての赤外発光印刷物(2-1、2-2)の赤外発光強度測定のために、根本特殊化学(株)製蛍光読取装置NKC-10を使用した。測定条件は、赤外発光体100%焼結体の基準板において、最高強度が得られる距離に発光検出部を固定し、この測定距離において赤外発光強度を測定した。
【0083】
各水準の偽造防止印刷物(1-1から1-4まで)において、耐酸性試験を行う試験試料1枚に対して3か所測定を行い、3点の平均値を算出した。次に、各水準の偽造防止印刷物(1-1から1-4まで)を、塩酸3%溶液に4時間浸漬し、溶液洗浄後乾燥させた試料について、試験前と同様に赤外発光強度測定を行った。耐酸性試験前後の赤外発光強度(任意単位)を表2に示した。
【0084】
【表2】
【0085】
表2に示すように、耐酸性試験前は、比較例の赤外発光印刷物(2-1)は、発光強度は高く、耐酸性がやや低い第一の赤外発光体(7)のみ配合されているため、酸に晒されていない状態では最も発光強度が高い。一方、比較例の赤外発光印刷物(2-2)は、第二の赤外発光体(8)のみ配合されており、酸に晒されていない状態では最も発光強度が低い。第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)を混合して配合した各水準の偽造防止印刷物(1-1から1-4まで)は、第一の赤外発光体(7)の比率が下がるにつれて発光強度が低くなっている。
【0086】
また、耐酸性試験前後の赤外発光強度割合においても、耐酸性試験後は、比較例の赤外発光印刷物(2-1)は、発光強度は高いが耐酸性がやや低い第一の赤外発光体(7)のみ配合されているため、発光強度が耐酸性試験前の約70%に低下した。一方、比較例の赤外発光印刷物(2-2)は、耐酸性が高い第二の赤外発光体(8)のみ配合されているため顕著な発光強度の低下がなかった。第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)を混合して配合した各水準の偽造防止印刷物(1-1から1-4)は、第一の赤外発光体(7)の比率の低下につれて(第二の赤外発光体(8)の比率が上がる)、発光強度の低下が抑えられていることが確認できた。
【0087】
(検出)
次に、図7に示すように、偽造防止印刷物(1-1まで)に対して、590nmのLEDによる橙色光を照射し、850nmアンダーをカットするシャープカットフィルタを装着したセンサ1(S1)で発光を検出、UVランプにより、254nmの短波紫外線を照射したときの発光をセンサ2(S2)で検出、302nmの中波紫外線を照射したときの発光をセンサ3(S3)で検出し、表3に示した検出値を得た。なお、センサは、InGaAsフォトダイオードモジュールC10439-11を使用した。各センサで検出された電圧値は、あらかじめ閾値として定めた電圧値の範囲内であり、偽造防止印刷物(1-1)を「真正」と判定した。
【0088】
【表3】
【0089】
(実施例2)
次に、赤外発光インキ組成物として、オフセットインキ組成物を作成した。なお、実施例1と同様の個所についての説明は省略する。
【0090】
表4に示すとおり、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)の混合割合を変えた各水準の赤外発光インキ組成物を作製し、図1(a)に示す対象図柄を基材(2)として上質紙(紀州製紙(株)製)に対し、熊谷理機工業(株)万能印刷適性試験機を使用し、印刷膜厚1μm±0.05μmになるようオフセット印刷を行い、各水準の偽造防止印刷物(1´-1から1´-4まで)を作製した。同様に、印刷膜厚2μm±0.05μmの各水準の偽造防止印刷物(1´-1´から1´-4´まで)を作製した。なお、前述同様に、表4に示す比較用のインキ(B´-1、B´-2)を使用して、比較用の赤外発光印刷物(2´-1´、2´-2´)を作製した。
【0091】
【表4】
【0092】
(耐酸性試験2-1)
次に、JIS K 5701-1:2000「平版インキ-第一部:試験方法」6.3.2耐酸性試験に準じて耐酸性試験を行った。各水準の偽造防止印刷物(1´-1から1´-4まで)を、硫酸5%溶液に完全に浸したろ紙に挟み1kgの荷重を載せ密閉した状態で10分間放置後、50℃で30分乾燥させた印刷物試験片について、試験前と同様に赤外発光強度測定を行った。耐酸性試験前後の各水準の偽造防止印刷物(1´-1から1´-4まで)の赤外発光強度を表4に示した。なお、JIS K 5701-1:2000「平版インキ-第一部;試験方法」の耐酸性試験条件においては、表5に示すように試験後の発光強度の低下はなかった。
【0093】
【表5】
【0094】
(耐酸性試験2-2)
次に、前述のJIS規格より強力な耐酸性の評価を行った。本評価は、銀行券、パスポート、セキュリティ印刷物等の偽造防止印刷物に求められる堅ろう性は、一般的な印刷物より強固なことが求められるため、過酷な浸漬試験より評価を行う必要性から行うものである。本耐酸試験では、各水準の偽造防止印刷物(1´-1から1´-4まで)を、塩酸3%溶液に4時間浸漬し、溶液洗浄後乾燥させた後、赤外発光強度測定を行った。耐酸性試験後の各水準の偽造防止印刷物(1´-1から1´-4まで)の赤外発光強度を表6に示した。
【0095】
【表6】
【0096】
表5に示すように、耐酸性試験前は、比較例の赤外発光印刷物(2´-1)の発光強度が最も高く、第一の赤外発光体(7)の配合比率が低下するにつれて発光強度が低くなっている。耐酸性試験後は、比較例の赤外発光印刷物(2´-1)は、発光強度は高いが耐酸性がやや低い第一の赤外発光体(7)のみ配合されているため、発光強度がはじめの約40%に低下した。一方、比較例の赤外発光印刷物(2´-2)は、耐酸性が高い第二の赤外発光体(8)のみ配合されているため発光強度の低下がなかった。第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)を混合して配合した偽造防止印刷物(1´-2から1´-4まで)に示すように、第一の赤外発光体(7)の比率が下がるにつれて(第二の赤外発光体(8)の比率が上がる)、発光強度の低下が抑えられていることを確認できた。
【0097】
同様に、塩酸1%溶液に4時間浸漬し、試験前後の発光強度比を算出した結果を表6に示した。塩酸1%の場合は、3%の時よりも試験後の発光強度低下は少ないが、同様な傾向であった。
【0098】
また、表7に示すように、印刷膜厚2μmの各水準の偽造防止印刷物(1´-1´から1´-4´まで)についても同様に行ったところ、偽造防止印刷物(1´-1から1´-4まで)と比べて全体的に耐酸性試験後の発光強度低下率は低くなるが、第一の赤外発光体(7)の配合割合が小さい、すなわち、第二の赤外発光体(8)の配合割合が大きくなるほど、発光強度の低下が抑えられている傾向は1μmの場合と同様であった。
【0099】
【表7】
【0100】
よって、第一の赤外発光体(7)と第二の赤外発光体(8)を混合使用することにより、通常は第一の赤外発光体(7)の効果により高い発光強度を示し、薬品などに晒される特異状態になった場合にも第二の赤外発光体(8)の効果で真正性を担保できる発光印刷物を作製することができた。
【0101】
(実施例3)
本実施例3は、赤外発光インキ組成物をオフセットインキ組成物、第一の赤外発光体(7)を単独で含有する第二の赤外発光インキ組成物、第二の赤外発光体(8)を単独で含有する第三の赤外発光インキ組成物を作製し、(株)下垣鉄工所製オフセット校正機にて、基材(2)として上質紙(日本製紙(株)製しらおい)に対し、表8に示す各インキ組成物により、図3(c)に示す第一の情報パターン(4)、第二の情報パターン(5)及び第三の情報パターン(6)を印刷し、偽造防止印刷物(1)を印刷した。第一の情報パターン(4)、第二の情報パターン(5)、第三の情報パターン(6)は無色のべた印刷であり、見た目では、光沢の違いを観察しないと印刷図柄を視認できなかった。また、第一の情報パターン(4)、第二の情報パターン(5)、第三の情報パターン(6)は、橙色光を照射した時の赤外発光強度が同程度となるように、インキ転移量を調整して印刷した。
【0102】
【表8】
【0103】
(検出)
偽造防止印刷物(1)に、100Wの白熱灯の光をフィルタリングした485~610nmの可視光、254nmを中心波長とする紫外線ランプによる長波紫外線、312nmを中心波長とする紫外線ランプによる中波紫外線を順次照射し、それぞれの照射状態において、850nmアンダーをカットするシャープカットフィルタを装着したCCDカメラで赤外発光画像を取得した。
【0104】
(判定)
図9(a)に示すように、第一の照射波長(λ1)として、485~610nmの可視光を照射したときの各パターンの第一の赤外発光画像(P1)は、各情報パターン(4、5、6)がいずれもほぼ同様な発光状態を示した。図9(b)に示すように、第二の照射波長(λ2)として、254nmの短波紫外線を照射したときの各パターンの第二の赤外発光画像(P2)は、第二の情報パターン(5)、第一の情報パターン(4)、第三の情報パターン(6)の全てが、ほぼ白色の発光画像として検出できた。しかしながら、第二の発光強度プロファイル(L2)における発光強度が、第二の情報パターン(5)<第一の情報パターン(4)<第三の情報パターン(6)となった。また、図9(c)に示すように、第三の照射波長(λ3)として、波長が312nmの紫外線を照射したときの各パターンの第三の赤外発光画像(P3)は、第二の情報パターン(5)はほぼ検出されないため黒色、第三の情報パターン(6)は白色に、第一の情報パターン(4)は、第二の情報パターン(5)と第三の情報パターン(6)の中間程度の灰色の画像として検出できた。更に、第三の発光強度プロファイル(L3)における発光強度が、第一の情報パターン(4)<第三の情報パターン(6)となった。
【0105】
次に、あらかじめ測定した真正品の各発光強度プロファイルである基準値と、偽造防止印刷物(1)の図9に示す各発光強度プロファイル(L1、L2、L3)のパターンマッチングを行い、双方の発光強度プロファイルが一致していることから、偽造防止印刷物(1)を「真正」と判定した。
【符号の説明】
【0106】
1 偽造防止印刷物
2 基材
3 1ライン
4 第一の情報パターン
5 第二の情報パターン
6 第三の情報パターン
7 第一の赤外発光体
8 第二の赤外発光体
9 印刷画像
P1 第一の照射波長(λ1)を照射したときの第一の赤外発光画像
P2 第二の照射波長(λ2)を照射したときの第二の赤外発光画像
P3 第三の照射波長(λ3)を照射したときの第三の赤外発光画像
L1 第一の照射波長(λ1)を照射したときの第一の発光強度プロファイル
L2 第二の照射波長(λ2)を照射したときの第二の発光強度プロファイル
L3 第三の照射波長(λ3)を照射したときの第三の発光強度プロファイル
S センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10