(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088864
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】蓄熱材及びこれを利用した発電モジュール
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20240626BHJP
H10N 10/13 20230101ALI20240626BHJP
【FI】
C09K5/06 Z
H10N10/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203873
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】末森 浩司
(57)【要約】
【課題】広い温度範囲での蓄熱性に優れる蓄熱材及びこれを利用することで動作安定性に優れる発電モジュールの提供。
【解決手段】蓄熱材は、動作温度範囲内で相転移温度を互いに異にする3種類以上の相転移材料を組み合わせてなることを特徴とする。また、この蓄熱材を熱電変換素子と組み合わせて発電モジュールが構成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作温度範囲内で相転移温度を互いに異にする3種類以上の相転移材料を組み合わせてなることを特徴とする蓄熱材。
【請求項2】
前記相転移温度は固体/液体の相互に相変化する融点及び凝固点であることを特徴とする請求項1記載の蓄熱材。
【請求項3】
前記動作温度範囲は摂氏-20℃以上60℃以下の温度範囲内にあることを特徴とする請求項2記載の蓄熱材。
【請求項4】
相転移温度を異にする前記相転移材料のそれぞれを隔壁で密閉し、前記隔壁同士を直接または熱伝導を有する物質を介して間接に接触させて熱的な接触を与えられていることを特徴とする請求項1記載の蓄熱材。
【請求項5】
相転移温度を異にする前記相転移材料をそれぞれカプセルに収納して液体に浸漬してなることを特徴とする請求項1記載の蓄熱材。
【請求項6】
前記液体は水であることを特徴とする請求項5記載の蓄熱材。
【請求項7】
前記カプセルはメラミン樹脂からなることを特徴とする請求項5記載の蓄熱材。
【請求項8】
前記相転移材料はアルカンからなることを特徴とする請求項1乃至7のうちの1つに記載の蓄熱材。
【請求項9】
前記相転移材料はヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカンのいずれか又はこれらを組み合わせた混合物であることを特徴とする請求項8記載の蓄熱材。
【請求項10】
請求項1乃至7のうちの1つに記載の蓄熱材に熱電変換素子を組み合わせたことを特徴とする発電モジュール。
【請求項11】
前記蓄熱材の相転移材料はアルカンからなることを特徴とする請求項10記載の発電モジュール。
【請求項12】
前記蓄熱材料はヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカンのいずれか又はこれらを組み合わせた混合物であることを特徴とする請求項11記載の発電モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相転移材料を用いた蓄熱材及びこれを利用した発電モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
気温の変動サイクルは、室内又は屋外を問わずあらゆる場所に存在し、かつ、半永久的に継続する。かかる気温変動に由来する熱エネルギーを電力に変換する環境発電を利用し、エネルギー・ハーベスティング製品を動作させようとする試みが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、熱電変換素子に蓄熱材を組み合わせた環境発電に使用され得る発電モジュールを開示している。蓄熱材として温度変化のより少ない材料を用いることで、熱電変換素子の発電の駆動力となる温度差を大きくすることが出来て、従来以上に高効率な発電電力を得られるとしている。かかる蓄熱材としては、水よりも比熱が大きい混合液が好ましいとし、一種類以上の一価のアルコールと水との混合液を例示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような、熱電変換素子に蓄熱材を組み合わせた環境発電用の発電モジュールの該蓄熱材に、環境温度で固体/液体に相転移する相転移材料を用いることで、比熱の無限大に発散する融点及び凝固点といった相転移温度を上下に往復する温度変化に対して良好な蓄熱性を与えることが期待される。一方で、環境の温度変化(環境温度)は地域や季節によっても異なり、発電モジュールの動作安定性を確保するには、かかる環境温度に対応できる広い温度範囲での蓄熱性に優れる蓄熱材が必要となる。また、室温近傍で相転移する相転移材料の多くは凝固点降下を示すため、凝固点降下が融点と凝固点の温度を分離させることも考慮する必要がある。
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、相転移材料を用いた蓄熱材及びこれを利用した発電モジュールであって、広い温度範囲での蓄熱性に優れる蓄熱材及びこれを利用することで動作安定性に優れる発電モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蓄熱材は、動作温度範囲内で相転移温度を互いに異にする3種類以上の相転移材料を組み合わせてなることを特徴とする。かかる特徴によれば、動作温度範囲内の広い温度範囲で優れた蓄熱性を示すのである。
【0008】
上記した発明において、前記相転移温度は固体/液体の相互に相変化する融点及び凝固点であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、温度の上昇及び下降のいずれにおいても、動作温度範囲内の広い温度範囲で優れた蓄熱性を示すのである。
【0009】
上記した発明において、前記動作温度範囲は摂氏-20℃以上60℃以下の温度範囲内にあることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、室内又は屋外の環境温度範囲で優れた蓄熱性を示すのである。
【0010】
上記した発明において、相転移温度を異にする前記相転移材料のそれぞれを隔壁で密閉し、前記隔壁同士を直接または熱伝導を有する物質を介して間接に接触させて、熱的な接触を与えられていることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、簡便な構成で、動作温度範囲内の広い温度範囲で優れた蓄熱性を示すのである。
【0011】
上記した発明において、相転移温度を異にする前記相転移材料をそれぞれカプセルに収納して液体に浸漬してなることを特徴としてもよい。また、前記液体は水であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、動作温度範囲内の広い温度範囲でより優れた蓄熱性を示すのである。
【0012】
上記した発明において、前記カプセルはメラミン樹脂からなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、動作温度範囲内の広い温度範囲で優れた蓄熱性を示すのである。
【0013】
上記した発明において、前記相転移材料はアルカンからなることを特徴としてもよい。また、前記相転移材料はヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカンのいずれか又はこれらを組み合わせた混合物であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、動作温度範囲内の広い温度範囲でより優れた蓄熱性を示すのである。
【0014】
本発明の発電モジュールは、上記した発明による蓄熱材に熱電変換素子を組み合わせたことを特徴とする。かかる特徴によれば、動作温度範囲内における動作安定性に優れるとともに、高効率な発電電力を得られるのである。
【0015】
上記した発明において、前記蓄熱材の相転移材料はアルカンからなることを特徴としてもよい。また、前記相転移材料はヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカンのいずれか又はこれらを組み合わせた混合物であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、動作温度範囲内の広い温度範囲でより優れた蓄熱性を示す蓄熱材との組み合わせにより、動作温度範囲内における動作安定性により優れるとともに、高効率な発電電力を得られるのである
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による実施例としての発電モジュールの断面図である。
【
図2】本発明による実施例としての蓄熱材の構成図である。
【
図3】本発明による実施例としての蓄熱材の温度-比熱の関係を示す模式グラフである。
【
図4】製造試験に用いた蓄熱材について(a)温度を上昇させた場合、(b)温度を下降させた場合の温度-比熱の関係を示すグラフである。
【
図5】発電モジュールの製造試験で与えた温度変化を示すグラフである。
【
図6】(a)温度を下降させた場合、(b)温度を上昇させた場合の発電モジュールの発生した電力のグラフである。
【
図7】蓄熱材に収容する水の有無による(a)温度を上昇させた場合、(b)温度を下降させた場合の発電モジュールの発生した電力のグラフである。
【
図8】(1)HEX、(2)HPT、(3)HPTとOCTの重量比2:1の混合物、(4)HPTとOCTの重量比1:2の混合物、(5)OCTにおいて、(a)温度を上昇させた場合、(b)温度を下降させた場合の温度-比熱の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明による1つの実施例である蓄熱材とこれを利用した発電モジュールについて、
図1乃至
図3を用いて説明する。
【0018】
図1に示すように、発電モジュール1は、断熱体による容器2と容器2内に密閉される蓄熱材3と、蓄熱材3と熱的に接触する熱電変換素子4と、熱電変換素子4に熱的に接触するヒートシンク5とを備える。
【0019】
熱電変換素子4は、蓄熱材3に接触させた側とヒートシンク5に接触させた側との間の温度差に基づいて、ゼーベック効果によって起電力を得る素子である。また、ヒートシンク5は、外気に曝されており、変化する外気温に追従しやすいよう熱伝導率の高いアルミニウムなどの金属材料によって形成される。つまり、熱電変換素子4は、外気温によって温度の変化するヒートシンク5と蓄熱材3との間の温度差に基づく熱流を電力に変換して発電できるようにされている。また、熱電変換素子4は、図示しない回路によって電力を外部に取り出せるよう構成されている。なお、発電モジュール1について、蓄熱材3以外については公知であるため、これ以上の詳細については説明を省略する。
【0020】
ところで、このような発電モジュール1において、まず、外気温と蓄熱材3の温度が同一で熱的につり合っている状態を考える。このときの外気及び蓄熱材3の初期温度をTair0とする。次に、外気の温度をTairfまで変化させた場合に、これに追従して蓄熱材3の温度TがTairfまで変化したとする。このとき、外気と蓄熱材3との間の熱電変換素子4を通過した熱量Qは、蓄熱材の重量m及び温度Tのときの蓄熱材の比熱c(T)を用いて以下の式のように表せる。
【0021】
【0022】
この式から判るように、同じ外気温の変化に対して熱量Qを大きくしようとする場合、比熱c(T)の積分値を大きくする必要がある。一般に、動作温度範囲内に相転移温度を有するものを蓄熱材料として用いるが、この場合、相転移温度を超える際の高い比熱c(T)を利用することで比較的大きい熱量Qを得ることができる。相転移温度において、蓄熱材料は温度を保ったまま外部と潜熱の授受を生じる。このとき、潜熱の授受に対して温度変化を生じないから、理論上は比熱を無限大に発散させる。実際には、示差走査熱量測定計によって温度変化を測定しつつ移動した熱量を見積もると、実効的な比熱として、温度変化に対して数℃程度の半値幅を有するピークを含む曲線を得ることができる。これは、計測試料の電熱面に近い側から相転移が起こり、試料全体が相転移し終わる際には試料の電熱面に近い部分は相転移温度に比べて温度が変化しているためである。つまり、かかるピークを有する蓄熱材料は、相転移温度を超えて温度変化することで優れた蓄熱性を示すのである。
【0023】
ところで、このような相転移温度を有する蓄熱材料であっても、相転移温度を超える温度変化を得ることができなければ大きな熱量の移動は望めない。つまり、動作温度範囲内の広い温度範囲で優れた蓄熱性を示すことはできない。さらに、環境発電においては気温等の環境の温度変化の範囲内に相転移温度を有する蓄熱材料を用いることになるが、室温付近に相転移温度を有する蓄熱材料の多くは凝固点降下を生じる。そのため、融点と凝固点とが乖離し、仮に温度の下降により凝固点を通過して発電ができて、次に凝固点を超える温度となったとしても、融点を超える温度でなければ相転移温度を超えることができない。さらに、そこから凝固点以下まで温度を下降させても、融点を超えておらす固体のままなので、相変化を生じることはない。つまり、相変化を伴うためには、少なくとも融点と凝固点との乖離幅を超える温度幅の上昇及び下降を必要とし、これによっても良好に動作可能な温度範囲の狭小化となってしまう。
【0024】
そこで、本願発明者は、以下のように、動作温度範囲内で相転移温度を互いに異にする複数の蓄熱材料からなる蓄熱材3を用いることを考えた。
【0025】
図2に示すように、蓄熱材3は、例えば、動作温度範囲内に相転移温度を有する5つの相転移材料3a~3eを、後述するように互いに混合しないように、組み合わせて用いられる。それぞれの蓄熱材料の相転移温度は互いに異なるものである。ここで、5つの相転移材料3a~3eを混在させた上で、混合などによって互いの相転移温度に影響を与えないようにすべきである。例えば、相転移材料3a~3eを隔壁などで互いに空間的に分離しつつかかる隔壁を熱伝導性の高い材料で構成して相転移材料3a~3eを互いに熱的に接続させる態様などが考慮される。例えば、相転移材料3a~3eをそれぞれカプセルに収納し、液体6に浸漬させたものを蓄熱材3とすることができる。液体6としては、例えば、水を用いると比較的大なる比熱を有するため、高い蓄熱性を安価に与え得て好ましい。
【0026】
図3に示すように、このような蓄熱材3を用いると、相転移材料3a~3eのそれぞれの相転移温度において上記した比熱のピークを生じる。そして、それぞれのピークとその重なりの部分において移動する熱量Qを多く得ることができる。つまり、蓄熱材3は、動作温度範囲内の広い温度範囲で優れた蓄熱性を示すのである。そして、このような蓄熱材3を用いた発電モジュール1は、動作温度範囲内において複数の比熱のピークを有することで動作安定性に優れるとともに、高効率な発電電力を得られる。
【0027】
なお、上記した相転移温度は固体/液体の相互に相変化する融点及び凝固点であることが好ましい。蓄熱材3を容器2内に密閉する場合、体積を大幅に増減させる液相-気相間の相変化よりも、体積変化の比較的小さい固相-液相間の相変化の方が適しているからである。
【0028】
発電モジュール1は、環境発電に用いられる場合、例えば、動作温度範囲を摂氏-20℃以上60℃以下の温度範囲内から、同モジュールを設置する場所の気温に合わせて選択される。
【0029】
また、蓄熱材3に混在させる蓄熱材料の種類を適切に選択することで、比熱の高くなる温度領域を制御し得る。例えば、発電モジュール1を環境発電に用いる場合、平均気温の異なる様々な地域に合わせて蓄熱材3を作製し得る。
【0030】
[蓄熱材の製造試験]
次に、実際に蓄熱材を製造して示差走査熱量測定計によって比熱を測定した結果について説明する。ここでは蓄熱材料としてアルカンを用いて蓄熱材を製造した。
【0031】
蓄熱材料としてヘキサデカン(以降「HEX」と表記する)、ヘプタデカン(以降「HEP」と表記する)、オクタデカン(以降「OCT」と表記する、HEX及びOCTを重量比で1:2として混合したもの、同重量比を2:1として混合したもの、の5種類を用いた。これらのアルカン及びその混合物をそれぞれメラミン樹脂製のカプセルに収納し、断熱材による容器2内に収容し混在させ、蓄熱材とした。なお、この蓄熱材は、日本の気候によって環境発電を行うことを想定して選定した蓄熱材料によるものである。
【0032】
図4に示すように、このようにして得た蓄熱材の温度に対する実効的な比熱を示差走査熱量測定計によって測定した。同図(a)においては、7℃から45℃まで温度を上昇させた場合の実効的な比熱を示した。これによれば、5種類の蓄熱材料にそれぞれ対応すると思われる比熱のピークが観察され、13℃~28℃の範囲で高い比熱を示した。また、同図(b)においては、30℃から-15℃まで温度を下降させた場合の実効的な比熱を示した。これによれば、-5℃~23℃の範囲で高い比熱を示した。温度を上昇させた場合に比べて温度を下降させた場合に比熱の高い範囲を低温側にシフトさせていることがわかる。かかるシフトは、凝固点降下によって生じるものである。
【0033】
[発電モジュールの製造試験]
上記のように製造した蓄熱材を用いて発電モジュール1(
図1参照)を製造し、その特性を調査した。
【0034】
図5に示す様に、温度Tmを中心としてTm-x℃からTm+x℃まで発電モジュールの外気の温度を上昇させて、又は、Tm+x℃からTm-x℃まで温度を下降させて、発電モジュールにより発生した電力を測定した。この場合の(Tm±x℃、上昇(又は下降))と表記することにする。
【0035】
図6(a)には、22±5℃下降及び6±5℃下降の場合に生じた電力を示した。同図に示すように、27℃から17℃まで温度を下降させた場合において大きな電力を生じたが、11℃から1℃まで温度を下降させた場合において生じた電力は小さかった。
【0036】
図6(b)には、22±5℃上昇及び6±5℃上昇の場合に生じた電力を示した。同図に示すように、17℃から27℃まで温度を上昇させた場合において大きな電力を生じたが、1℃から11℃まで温度を上昇させた場合において生じた電力は小さかった。
【0037】
22±5℃の場合においては、上昇であっても下降であっても複数の蓄熱材料による比熱のピークを含んでおり(
図4参照)、相転移による高い比熱が得られた。一方、6±5℃の場合においては、下降の場合に比熱のピークを含んでいるものの、上昇の場合には比熱のピークを含んでいない(
図4参照)。そのため、相転移を生じず、発生した電力も低かった。
【0038】
より詳細には、上記した5種類の蓄熱材料の中で最も融点の低いHEXは固相から温度を上昇させる場合、14℃付近から溶融を開始する(
図4(a)参照)。一方、最も融点の高いOCTは液相から温度を下降させた場合、23℃付近から凝固を開始する(
図4(b)参照)。つまり、Tmを14~23℃の範囲内で設定してxを5℃とすれば、Tm±x℃の温度の変動でいずれかの蓄熱材料において相転位を生じ、相転移に用いられる高い潜熱に相当する熱量が熱電変換素子を通過することになり、比較的大きな電力を生じることになる。よって、この発電モジュールの良好に動作する動作温度範囲は、14-x<Tm<23+xとすることができる。つまり、x=5の場合は、動作温度範囲を9<Tm<28とし得る。
【0039】
続いて、直射日光の当たらない屋外において生じる一日周期での温度変化の大きさを調べるため、百葉箱内に温度計を設置し、温度の時間変化を計測した。一日における最高温度と最低温度の差は約14℃であった。すなわち、x=7に相当する。従って、動作温度範囲は7<Tm<30となる。ここで、Tm=7でx=7の場合、発電モジュール周辺の温度は0℃から14℃の間で変動する。また、Tm=30でx=7の場合、発電モジュール周辺の温度は23℃から37℃の間で変動する。従って、7<Tm<30の動作温度範囲とは、発電モジュール周辺の温度(T)が0℃<T<37℃の範囲内で変動するのであれば動作することを意味する。この温度範囲は日本を含む多くの温帯国及び亜熱帯国の外気温の変動幅を含んでいる。また、この温度幅は、熱帯から寒帯までの幅広い地域における室内温度の変動幅を含んでいると考えられる。
【0040】
本実施例で用いた5種類のカプセル封入相転移材料について、温度を上昇させた場合、及び温度を下降させた場合の温度-比熱の関係を
図8(a)および
図8(b)に示す。仮にHEXとOCTの2種類のカプセル封入相転移材料のみで蓄熱材を構成した場合、蓄熱材を昇温させた場合、及び蓄熱材を降温させた場合のいずれにおいても、HEXとOCTのピークの間にピークの重なりがなく、実効的な比熱の値が低い温度範囲ができることがわかる。蓄熱材を昇温させる場合、蓄熱材を降温させる場合のいずれにおいても、HEXとOCTのピークの間の領域で実効的な比熱を高めるためには、少なくともHPTが必要で、より好ましくはHPTとOCTの重量比2:1の混合物とHPTとOCTの重量比1:2の混合物も含まれていることが望ましいことがわかる。すなわち0℃<T<37℃の温度範囲において、動作する発電モジュールを実現するためには、少なくともHEX、OCT、HPTの3種類の相転移材料を混合させる必要があり、より好ましくはHPTとOCTの重量比2:1の混合物とHPTとOCTの重量比1:2の混合物も蓄熱材料に含まれていることが望ましいと結論できる。
【0041】
なお、上記した動作温度範囲をさらに広げようとする場合、上記した5種類の蓄熱材料よりも融点の低いペンタデカンや、融点の高いノナデカンなどを蓄熱材料として加えて混在させた蓄熱材とすることもできる。
【0042】
次に、蓄熱材の容器内において、蓄熱材料を封入したカプセル同士の間を液体で満たす場合について調査した。ここでは、液体として水を収容した場合と液体を収容しなかった(空気を収容した)場合とで比較を行った。
【0043】
図7に示すように、発電モジュールの外気の温度を17℃から27℃まで上昇させた場合(同図(a)参照)と、27℃から17℃まで下降させた場合(同図(b)参照)とで発電量を測定した。いずれにおいても、水を収容することで、水なしとする(空気を収容する)よりも発電量が向上した。容器内に比熱の高い液体を収容することで蓄熱材として熱電変換素子を通過する熱量Qを大きくし得ることが確認された。また、収容する液体の熱伝導率が高いと、発電モジュールとしての実効的な熱抵抗を低減させることができ、発電効率の向上を得られるものと考えられる。
【0044】
以上、本発明による代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0045】
1 発電モジュール
2 容器
3 蓄熱材
3a~3e 相転移材料
4 熱電変換素子
5 ヒートシンク
6 液体