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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088970
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】接合体の製造方法及び接合体
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/48 20060101AFI20240626BHJP
   B29C 65/56 20060101ALI20240626BHJP
   B32B 7/05 20190101ALI20240626BHJP
【FI】
B29C65/48
B29C65/56
B32B7/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204039
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信行
(72)【発明者】
【氏名】森 優俊
【テーマコード(参考)】
4F100
4F211
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK53B
4F100AT00A
4F100AT00B
4F100DD03C
4F100DD20A
4F100EC03
4F100EJ17
4F100EJ25
4F100EJ42
4F100EJ43
4F100EJ46
4F100JA12B
4F100JB16B
4F100JB16C
4F100YY00B
4F211AA25
4F211AA28
4F211AA29
4F211AA34
4F211AA39
4F211AD03
4F211AG03
4F211AR02
4F211AR06
4F211TA03
4F211TA06
4F211TC08
4F211TD01
4F211TH17
4F211TN07
4F211TN13
4F211TN22
4F211TN24
4F211TN43
4F211TN56
(57)【要約】
【課題】接合プロセス時間が短く、異種材が強固に接合した接合体の製造方法及び接合体を提供する。
【解決手段】基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順に配置して接合してなる接合体の製造方法であって、前記基材Aは、金属及び無機物からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記基材Aが、前記接合面上に、少なくとも1つのアンダーカット形状の凹部を有し、前記凹部に、前記熱可塑性フィルムB及び前記樹脂Cを充填する、接合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順に配置して接合してなる接合体の製造方法であって、
前記基材Aは、金属及び無機物からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記基材Aが、前記接合面上に、少なくとも1つのアンダーカット形状の凹部を有し、
前記凹部に、前記熱可塑性フィルムB及び前記樹脂Cを充填する、
接合体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂Cが凸部を有しており、
前記熱可塑性フィルムBを前記樹脂Cに接合させた後、前記樹脂Cに接合した状態の熱可塑性フィルムBを前記基材Aに接面させ、前記熱可塑性フィルムB及び前記樹脂Cの凸部を溶融後固化させることにより、前記凹部に前記熱可塑性フィルムB及び前記樹脂Cの凸部が充填されて接合する、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂Cが凸部を有しており、
前記熱可塑性フィルムBを前記基材Aに接合させた後、前記基材Aに接合した状態の熱可塑性フィルムBを前記樹脂Cに接面させ、前記熱可塑性フィルムB及び前記樹脂Cの凸部を溶融後固化させることにより、前記凹部に前記熱可塑性フィルムB及び前記樹脂Cの凸部が充填されて接合する、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂Cが凸部を有しており、
前記基材Aと、前記熱可塑性フィルムBと、前記樹脂Cとを、この順で配置した状態で、前記熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融後固化させることにより、前記凹部に前記熱可塑性フィルムB及び前記樹脂Cの凸部が充填されて接合する、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項5】
前記接合が、接触加熱、温風加熱、熱プレス、赤外線加熱、熱板溶着、超音波溶着、振動溶着及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種によりなされる、請求項1~4のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項6】
前記接合が、100~400℃の接合温度及び0.01~20MPaの加圧下で、前記熱可塑性フィルムB及び前記樹脂Cを溶融後固化させることによりなされる、請求項1~4のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性フィルムBの厚さが、10μm以上3mm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性フィルムBが、非晶性熱可塑性樹脂を主成分とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項9】
前記非晶性熱可塑性樹脂が、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の接合体の製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性フィルムBが、エポキシ当量1,600g/eq.以上もしくはエポキシ基を含まない熱可塑性樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項11】
前記基材Aが、金属である、請求項1~4のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂Cが、熱可塑性樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項13】
基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順に配置して接合してなる接合体であって、
前記基材Aは、金属及び無機物からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記基材Aが、前記接合面上に、少なくとも1つのアンダーカット形状の凹部を有し、
前記凹部に、前記熱可塑性フィルムBと前記樹脂Cが充填されている、
接合体。
【請求項14】
前記熱可塑性フィルムBが、融解熱が15J/g以下の非晶性熱可塑性樹脂を主成分とする、請求項13に記載の接合体。
【請求項15】
前記非晶性熱可塑性樹脂が、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項14に記載の接合体。
【請求項16】
前記前記熱可塑性フィルムBが、エポキシ当量1,600g/eq.以上もしくはエポキシ基を含まない、請求項13~15のいずれか1項に記載の接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材が強固に接合した接合体の製造方法及び接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の軽量化及び高性能化等の観点より、自動車部品、医療機器、家電製品等、各種分野で部品のマルチマテリアル化が進んでいる。マルチマテリアル化とは、機能や材質の異なる材料(以下、異種材という)を併用することで材料の軽量化や高強度化を図る手法である。マルチマテリアル化の実現には、異種材を強固に接合する技術が不可欠である。
【0003】
一般的に用いられる異種材の接合方法には、例えば、機械締結、及び接着剤による接着層を介して接着する接合が知られている。
機械締結の場合は、ねじや溶接などによるものが知られている。ねじや溶接部などの締結物は金属などの高強度な素材であり、締結物が抜けないアンダーカット形状が利用されたり、金属同士の相容が利用されたりしているため、強固な接合が可能である。しかしながら、このような機械締結は基本的には局所的な「点」での接合になるため、面剛性が出しにくく、高い面剛性を得るためには締結部が増えることが課題である。
一方で、接着層を介して接着する接合の場合は、「面」での接合になるため、面剛性が高い。しかしながら、接着剤による異種材の貼り合わせは、接着面の全体の「面」に力がかかるせん断方向の力には比較的強いが、接着面の剥離過程においては、「線」に局所的に力がかかる剥離方向の力には弱い。特に、金属に対し、接着層を介して樹脂を接着する際、接着層が端の部分からの剥離に弱い傾向にある。
また、接着層を介して接着する接合の場合は、一般的に液状の液状型接着剤が用いられる。しかし、液状型接着剤を用いた接合は、液状の樹脂組成物を塗布する塗布工程と、塗布後に前記樹脂組成物を重合反応させて硬化させる硬化工程が必要となる。このため、液状型接着剤を用いて接合を行う場合、塗布工程においては樹脂組成物の塗布に時間がかかり、硬化工程においては重合反応に時間がかかり(すなわち、接合プロセス時間が長く)、利便性に欠けるという問題がある。
ここで、上記接合プロセス時間とは、接合体を構成する少なくとも1種の基材と接合剤の接触時を始点、接合体の作製の完了時を終点として、始点から終点までの時間を意味する。例えば基材に対して液状接着剤を塗布する工程や乾燥工程、もしくは固形接合剤を載せる工程、基材同士を接着する(例えば、接着層を硬化させる)のに要する時間を含む。
【0004】
また、液状の液状型接着剤を半硬化(Bステージ化)させ、Bステージ状の接着剤層付き積層体として、接合体の製造に用いる技術も知られている。
しかし、Bステージ状の接着剤は、貯蔵安定性が悪く、常温での長期保管ができず、低温での保管が必要であり、オープンタイムが短く利便性に欠けるという問題がある。
ここで、上記オープンタイムとは、基材Aの上に接合剤を塗布もしくは載せた後、基材Bを載せ終えるまでの制限時間を意味する。オープンタイム内であれば、接合剤の接着力が低下せず、十分な接着力で基材Aと基材Bを貼り合わせることができる。オープンタイムが長いほど、基材Aの上に接合剤を塗布もしくは載せた後、基材Bを載せ終えるまでの制限時間が長くなり、利便性が高い。
【0005】
さらに、異種材を接合する手段として、熱可塑性接着剤組成物(以下、ホットメルト接着剤)も使用されている。ホットメルト接着剤を用いることにより、具体的には、ホットメルト接着剤は重合反応を伴わない相変化を利用して接着を行うものであるため、塗布工程は不要であって、硬化時間が早く、利便性に優れる。また、常温での長期保管も可能であって、オープンタイムが長い点においても利便性に優れる。
しかし、従来のホットメルト接着剤は、溶融粘度を低くするために、結晶性の樹脂からなるか、もしくは、結晶性の樹脂を含む樹脂からなるため、接着樹脂内の凝集力が高く、基材への十分な相互作用を持つことができない。また、溶融して接着する際に、高温においては低粘度になり、接着面から流出しやすく、また粘度の制御がしにくいので膜厚が安定しない。これらの要因により、従来のホットメルト接着剤では高い接着力を安定して得ることができないという問題がある。
【0006】
そこで、異種材を接合する手段として、機械締結と接着とを組み合わせる手法がある。例えば、接着剤を介在させた状態で溶接を行い接合するウェルドボンディング法が知られている(特許文献1及び2等)。また、接着剤とねじ締結を併用する方法が知られている(特許文献3等)。また、基材にアンダーカット形状等の凹状部を設け、当該凹状部に対して溶融した樹脂を充填して接合する方法が知られている(特許文献4等)。
機械締結と接着とを組み合わせる接合の場合、接着での課題である端部の剥離方向への弱さが機械締結により補足されてより強固な接合体が得られる。また、機械締結単独の場合の面剛性の不足が、接着との組み合わせにより補足される。
一方で、ウェルドボンディング法のように液状接着剤を用いる場合は、上記のように硬化工程で時間がかかることや、オープンタイムの制限があるなどの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2-59181号公報
【特許文献2】特開平2-150485号公報
【特許文献3】特開2013-61006号公報
【特許文献4】特開2022-18341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ウェルドボンディング法は、接着剤による面での接合と、溶接による点での接合とを組み合わせた方法であり、強固な接合が可能である。しかし、ウェルドボンディング法や、接着剤とねじ締結とを併用する方法などは、複数の工程を経るため製造方法が煩雑になり、接合プロセス時間が長く、利便性に欠けるという問題がある。
また、単にアンダーカット形状の凹状部を設けるだけでは、異種材間は接着しておらず、隙間が生じやすく、ガタつきが起きやすいため、異種材の高い接合力を安定して得ることは容易ではないという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、接合プロセス時間が短く、異種材が強固に接合した接合体の製造方法及び接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、基材のアンダーカット形状の凹部を有し、かつ、所定の熱可塑性の接着フィルムを介し接合することにより、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0011】
[1] 基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順に配置して接合してなる接合体の製造方法であって、
上記基材Aは、金属及び無機物からなる群から選択される少なくとも1種であり、
上記基材Aが、上記接合面上に、少なくとも1つのアンダーカット形状の凹部を有し、
上記凹部に、上記熱可塑性フィルムB及び上記樹脂Cを充填する、
接合体の製造方法。
[2] 上記樹脂Cが凸部を有しており、上記熱可塑性フィルムBを上記樹脂Cに接合させた後、上記樹脂Cに接合した状態の熱可塑性フィルムBを上記基材Aに接面させ、上記熱可塑性フィルムB及び上記樹脂Cの凸部を溶融後固化させることにより、上記凹部に上記熱可塑性フィルムB及び上記樹脂Cの凸部が充填されて接合する、上記[1]に記載の接合体の製造方法。
[3] 上記樹脂Cが凸部を有しており、上記熱可塑性フィルムBを上記基材Aに接合させた後、上記基材Aに接合した状態の熱可塑性フィルムBを上記樹脂Cに接面させ、上記熱可塑性フィルムB及び上記樹脂Cの凸部を溶融後固化させることにより、上記凹部に上記熱可塑性フィルムB及び上記樹脂Cの凸部が充填されて接合する、上記[1]に記載の接合体の製造方法。
[4] 上記樹脂Cが凸部を有しており、上記基材Aと、上記熱可塑性フィルムBと、上記樹脂Cとを、この順で配置した状態で、上記熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融後固化させることにより、上記凹部に上記熱可塑性フィルムB及び上記樹脂Cの凸部が充填されて接合する、上記[1]に記載の接合体の製造方法。
[5] 上記接合が、接触加熱、温風加熱、熱プレス、赤外線加熱、熱板溶着、超音波溶着、振動溶着及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種によりなされる、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[6] 上記接合が、100~400℃の接合温度及び0.01~20MPaの加圧下で、上記熱可塑性フィルムB及び上記樹脂Cを溶融後固化させることによりなされる、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[7] 上記熱可塑性フィルムBの厚さが、10μm以上3mm以下である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[8] 上記熱可塑性フィルムBが、非晶性熱可塑性樹脂を主成分とする、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[9] 上記非晶性熱可塑性樹脂が、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[8]に記載の接合体の製造方法。
[10] 上記熱可塑性フィルムBが、エポキシ当量1,600g/eq.以上もしくはエポキシ基を含まない熱可塑性樹脂である、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[11] 上記基材Aが、金属である、上記[1]~[10]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[12] 上記樹脂Cが、熱可塑性樹脂である、上記[1]~[11]のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
[13] 基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順に配置して接合してなる接合体であって、
上記基材Aは、金属及び無機物からなる群から選択される少なくとも1種であり、
上記基材Aが、上記接合面上に、少なくとも1つのアンダーカット形状の凹部を有し、
上記凹部に、上記熱可塑性フィルムBと上記樹脂Cが充填されている、
接合体。
[14] 上記熱可塑性フィルムBが、融解熱が15J/g以下の非晶性熱可塑性樹脂を主成分とする、上記[13]に記載の接合体。
[15] 上記非晶性熱可塑性樹脂が、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[14]に記載の接合体。
[16] 上記熱可塑性フィルムBが、エポキシ当量1,600g/eq.以上もしくはエポキシ基を含まない、上記[13]~[15]のいずれか1つに記載の接合体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接合プロセス時間が短く、異種材が強固に接合した接合体の製造方法及び接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】a法の説明図である。
図2】b法の説明図である。
図3】c法の説明図である。
図4】アンダーカット形状の例を示す模式図である。
図5】実施例及び比較例で用いた試験片を示す模式図である。
図6】実施例及び比較例で用いた試験片を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本明細書において、「接合」とは、物と物とを繋合わせることを意味し、接着及び溶着はその下位概念である。「接着」とは、テープや接着剤の様な有機材(熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等)を介して、2つの被着材(接着しようとするもの)を接合状態とすることを意味する。「溶着」とは、熱可塑性樹脂等の表面を熱によって溶融し、冷却することにより、分子拡散による絡み合いを生じさせて接合状態とすることを意味する。
本明細書において、「接合プロセス時間」とは、接合体を構成する基材とフィルムの接触時を始点、接合体の作製の完了時を終点として、始点から終点までの時間を意味する。例えば基材に対してフィルムを載せる工程、基材同士を接合する(例えば、フィルムを硬化させる)のに要する時間を含む。
【0015】
<接合体の製造方法>
本実施形態に係る接合体の製造方法は、基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順で配置して接合する工程を有する。
基材Aは、金属及び無機物からなる群から選択される少なくとも1種である。
基材Aは、接合面上、すなわち熱可塑性フィルムB及び樹脂Cと接合する面上に、少なくとも1つのアンダーカット形状の凹部を有し、当該凹部の少なくとも一部に、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cを充填する。
本明細書において、上記「アンダーカット形状」とは、基材A、熱可塑性フィルムB、及び樹脂Cの順に積層する方向に、樹脂Cを引っ張るだけでは、基材Aから容易に離反できない形状のことをいい、引っ掛かり形状ともいう。例えば、断面が台形もしくは楕円形であるなど、凹部の空間の底部もしくは中間部の断面が、凹部の入り口の断面よりも大きい場合が挙げられる。また、上記の空間の底部もしくは中間部の断面と凹部の入り口の断面とが異形状である場合も挙げられる。
【0016】
熱可塑性フィルムBは、接着性を有しつつ、溶融しても適度な粘度を示すことができる。そのため、熱可塑性フィルムBは、溶融した状態でも基材Aと樹脂Cとの間から流れ出ることを回避でき、基材Aと樹脂Cとを強固に接合することができる。
上記のとおり、当該製造方法は、熱可塑性フィルムBを介し、かつ、基材Aがアンダーカット形状の凹部を有することにより、異種材が強固に接合した接合体を得ることができる。
【0017】
本実施形態に係る接合体の製造方法において、基材A、熱可塑性フィルムB、及び樹脂C、をこの順で接合する方法として、例えば、次のa法、b法、及びc法が挙げられる。また、a法、b法、及びc法において、樹脂Cは凸部を有する樹脂成形体として用いてもよい。
【0018】
[a法]
図1は、a法の説明図である。
a法は、熱可塑性フィルムBを樹脂Cに接合させた後、樹脂Cに接合した状態の熱可塑性フィルムBを基材Aに接面させ、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融後固化させることにより、凹部に熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部が充填されて接合する方法である。
a法は、まず、a1工程として、事前に熱可塑性フィルムBを樹脂Cに接合させる(図1のa1)。例えば、金型の空洞内の壁面に熱可塑性フィルムBが設置されている状態において、当該空洞内に樹脂Cを射出することにより、樹脂Cが凸部を有する樹脂成形体としつつ、熱可塑性フィルムBを樹脂Cに接合させてもよい。
熱可塑性フィルムBと樹脂Cを予め接合することで、基材Aと樹脂Cとを精度よく接合することができる。この時、熱可塑性フィルムBは、タック性を有していてもよい。
【0019】
次に、a2工程として、樹脂Cに接合した状態の熱可塑性フィルムBを基材Aに接面させ(図1のa2)、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融後固化させる。
この時、溶融した熱可塑性フィルムBを、基材Aに押し付けることで、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を凹部に充填させることができる(図1のa3)。溶融した熱可塑性フィルムBに、基材Aを押し付けて、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cを凹部に充填させてもよい。
熱可塑性フィルムBを溶融させることにより、少なくとも当該熱可塑性フィルムBに接する樹脂Cの接面部分が、熱可塑性フィルムBと共に溶融し、凹部に熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部が充填される。熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部は、凹部内に充填された状態で固化し、基材Aと樹脂Cとを接合することができる。
【0020】
熱可塑性フィルムBを基材Aに接面させて熱可塑性フィルムBを溶融させる際、高い接合力を得る観点から、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの少なくとも1種の融点以上の温度で加熱して熱可塑性フィルムBを溶融させることが好ましい。熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの少なくとも1種の溶融温度以上の温度で加熱することで、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cが相容化し、より強い接合力が得られ易い。
a法において、熱可塑性フィルムBを溶融後固化させる方法は、後述する《溶融及び固化》のとおりである。
【0021】
[b法]
図2は、b法の説明図である。
熱可塑性フィルムBを基材Aに接合させた後、基材Aに接合した状態の熱可塑性フィルムBを樹脂Cに接面させ、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融後固化させることにより、凹部に熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部が充填されて接合する方法である。
b法は、まず、b1工程として、事前に熱可塑性フィルムBを基材Aに接合させる(図2のb1)。例えば、熱可塑性フィルムBを基材Aに接面させた状態で、当該熱可塑性フィルムBを溶融後固化させることにより、熱可塑性フィルムBを基材Aに接合させてもよい。
熱可塑性フィルムBと基材Aを予め接合することで、基材Aと樹脂Cとを精度よく接合することができる。この時、熱可塑性フィルムBは、タック性を有していてもよい。
【0022】
次に、b2工程として、基材Aに接合した状態の熱可塑性フィルムBを樹脂Cに接面させ(図2のb2)、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融後固化させる。
この時、溶融した熱可塑性フィルムBを、樹脂Cからなる樹脂成形体に押し付けることで、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を凹部に充填させることができる(図2のb3)。溶融した熱可塑性フィルムBに、樹脂Cからなる樹脂成形体を押し付けて、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を凹部に充填させてもよい。もしくは、熱可塑性フィルムBが接合した状態の基材Aを金型内に設置し、樹脂Cをそこに射出成形することにより、樹脂樹脂Cからなる凸部を有する樹脂成形体を成形する過程で、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を凹部に充填させてもよい。
溶融した熱可塑性フィルムBを樹脂Cに押し付けることにより、少なくとも当該熱可塑性フィルムBに接する樹脂Cの接面部分が、熱可塑性フィルムBと共に溶融し、凹部に熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部が充填される。溶融した熱可塑性フィルムB及び樹脂Cは、凹部内に充填された状態で固化し、基材Aと樹脂Cとを接合することができる。
【0023】
熱可塑性フィルムBを樹脂Cに接面させて熱可塑性フィルムBを溶融させる際、高い接合力を得る観点から、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの少なくとも1種の溶融温度以上の温度で加熱して熱可塑性フィルムBを溶融させることが好ましい。熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの少なくとも1種の溶融温度以上の温度で加熱することで、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cが相容化し、より強い接合力が得られ易い。
b法において、熱可塑性フィルムBを溶融後固化させる方法は、後述する《溶融及び固化》のとおりである。
【0024】
[c法]
図3は、c法の説明図である。
基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順で配置した状態で、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融後固化させることにより、凹部に熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部が充填されて接合する方法である。
c法は、まず、c1工程として、基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順で配置して積層させた積層体とする(図3のc1)。上記積層体は、基材Aと熱可塑性フィルムB、熱可塑性フィルムBと樹脂Cの何れも、接合しておらずそれぞれ独立した部材を重ね合わせてなる。この時、熱可塑性フィルムBは、タック性を有していてもよい。
【0025】
次に、c2工程として、上記積層体における熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融後固化させる。
この時、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融させた状態で、基材A側から、あるいは樹脂C側から、あるいは基材A側及び樹脂C側の両方から、熱可塑性フィルムB方向に力を加えて押し付け、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を凹部に充填させてもよい(図3のc2)。
熱可塑性フィルムBを溶融させることにより、少なくとも当該熱可塑性フィルムBに接する樹脂Cの接面部分が、熱可塑性フィルムBと共に溶融し、凹部に熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部が充填される。溶融した熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部は、凹部内に充填された状態で固化し、基材Aと樹脂Cとを接合することができる。
【0026】
積層体における熱可塑性フィルムBを溶融させる際、高い接合力を得る観点から、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの少なくとも1種の溶融温度以上の温度で加熱して熱可塑性フィルムBを溶融させることが好ましい。熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの少なくとも1種の溶融温度以上の温度で加熱することで、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cが相容化し、より強い接合力が得られ易い。
c法において、熱可塑性フィルムBを溶融後固化させる方法は、後述する《溶融及び固化》のとおりである。
【0027】
[組み合わせ]
本実施形態に係る接合体の製造方法は、上述したa法におけるa1工程、b法におけるb1工程、及びc法におけるc1工程から選ばれる少なくとも2つの工程の組み合わせを有してもよい。
一例として、a1工程とb1工程との組み合わせが挙げられる。
具体的には、a1工程により熱可塑性フィルムBを樹脂Cに接合させた接合体aと、b1工程により熱可塑性フィルムBを基材Aに接合させた接合体bとを接合させる。接合体a及び接合体bは、それぞれに接合している熱可塑性フィルムBを向かい合わせて接面させ、両方の熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融後固化させる。この時、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融させた状態で、接合体a側から、あるいは接合体b側から、あるいは接合体a側及び接合体b側の両方から、熱可塑性フィルムB方向に力を加えて押し付けることで、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部が基材Aの凹部に充填した接合体とすることができる。すなわち、a1工程とb1工程との組み合わせを有する接合体の製造方法は、2つの熱可塑性フィルムBを用いて、基材Aと樹脂Cとを接合することができる。
【0028】
また、別の一例として、a1工程とc1工程との組み合わせが挙げられる。
具体的には、c1工程において、樹脂Cの代わりに、a1工程により熱可塑性フィルムBを樹脂Cに接合させた接合体aを配置する。この時、接合体aに接合している熱可塑性フィルムBを、独立した別の熱可塑性フィルムBと向かい合わせる。すなわち、基材Aと、熱可塑性フィルムBと、接合体aとを、この順で配置して積層させた積層体とする。次いで、当該積層体における両方の熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融後固化させる。この時、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融させた状態で、接合体a側から、あるいは基材A側から、あるいは接合体a側及び基材A側の両方から、熱可塑性フィルムB方向に力を加えて押し付けることで、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部が基材Aの凹部に充填した接合体とすることができる。すなわち、a1工程とc1工程との組み合わせを有する接合体の製造方法は、2つの熱可塑性フィルムBを用いて、基材Aと樹脂Cとを接合することができる。
【0029】
また、別の一例として、b1工程とc1工程との組み合わせが挙げられる。
具体的には、c1工程において、基材Aの代わりに、b1工程により熱可塑性フィルムBを基材Aに接合させた接合体bを配置する。この時、接合体bに接合している熱可塑性フィルムBを、独立した別の熱可塑性フィルムBと向かい合わせる。すなわち、接合体bと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順で配置して積層させた積層体とする。次いで、当該積層体における両方の熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融後固化させる。この時、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部を溶融させた状態で、樹脂C側から、あるいは接合体b側から、あるいは樹脂C側及び接合体b側の両方から、熱可塑性フィルムB方向に力を加えて押し付けることで、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部が基材Aの凹部に充填した接合体とすることができる。すなわち、b1工程とc1工程との組み合わせを有する接合体の製造方法は、2つの熱可塑性フィルムBを用いて、基材Aと樹脂Cとを接合することができる。
【0030】
《溶融及び固化》
基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順で接合する方法としては、接触加熱、温風加熱、熱プレス、熱板溶着、赤外線加熱、超音波溶着、振動溶着及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法が挙げられる。中でも、製造容易性及び接合プロセス短縮の観点から、熱プレス、超音波溶着、及び高周波誘導溶着が好ましい。
【0031】
熱プレスを行う場合の条件については特に限定はない。
熱プレスにおける接合温度は、100℃~400℃が好ましく、120℃~350℃がより好ましく、150℃~300℃が更に好ましい。100℃~400℃で接合することにより、熱可塑性フィルムBが効率よく変形、溶融し接合面に有効に濡れ広がるため高い接合力が得られる。
熱プレスにおける加圧力は0.01~20MPaが好ましく、0.1~10MPaがより好ましく、0.2~5MPaが更に好ましい。このような圧力範囲であると、熱可塑性フィルムBが効率よく変形し接合面に有効に濡れ広がるため高い接合力が得られる。樹脂Cが熱可塑性樹脂の場合、0.01~20MPaで加圧することにより、熱可塑性フィルムBと基材を相容化させ、強い接合力を得ることができる。
例えば、上記接合は、100~400℃の接合温度及び0.01~20MPaの加圧下で、熱可塑性フィルムB及び樹脂Cを溶融後固化させることにより行うことができる。
【0032】
超音波溶着を行う場合の条件に付いては特に限定は無い。
例えば、発信周波数は、好ましくは10~70kHz、より好ましくは15~40kHzである。
超音波印可時間は、接着性と外観性の観点から、好ましくは0.1~3秒、より好ましくは0.2~2秒である。
超音波印可時に基材Aと樹脂Cとを加圧する場合、加圧力は0.01~20MPaが好ましく、0.1~10MPaがより好ましく、0.2~5MPaが更に好ましい。このような圧力範囲であると、熱可塑性フィルムBが効率よく変形し接着面に有効に濡れ広がるため高い接着力が得られる。
【0033】
超音波溶着を行う場合の条件に付いては特に限定は無い。
例えば、発振周波数は、1~1500kHzの範囲が挙げられる。基材A及び樹脂Cの大きさや種類に応じて、適切な発振周波数に調整すればよい。
出力は、100~5000Wの範囲が挙げられる。
発振時間は、基材A及び樹脂Cの大きさや種類に応じて調整すればよく、例えば、好ましくは1.0~10.0秒であり、より好ましくは1.5~8.0秒である。
【0034】
溶融した熱可塑性フィルムBを固化させる方法としては、常温で放冷する方法又は冷却装置を用いて放冷する方法が挙げられる。なお、「常温」とは、5~30℃の範囲内の一般的な室温を意味する。中でも、製造容易性の観点から、常温で放冷する方法が好ましい。
なお、本明細書において、「固化」とは、常温で固体、即ち23℃の加圧のない状態下において流動性が無いことを意味する。
基材Aと樹脂Cとの接合は、熱可塑性フィルムBの相変化(固体~液体~固体)を利用したものであり、化学反応を伴わないため、従来の熱硬化型のエポキシ樹脂よりも短時間で接合を完了することができる。
【0035】
[熱可塑性フィルムB]
熱可塑性フィルムBは、熱可塑性樹脂を主成分とする。また、熱可塑性フィルムBは、基材Aに対して接着性を有することが好ましい。
上記「主成分」とは、熱可塑性フィルムB中の樹脂成分のうちで最も含有量の高い成分を意味する。熱可塑性フィルムBは、樹脂成分を50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましく、90質量%以上含むことが特に好ましい。
また、上記「フィルム」とは、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物を薄い膜状に成型したものを意味する。
【0036】
熱可塑性フィルムBは、非晶性熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましい。なお、「非晶性熱可塑性樹脂を主成分とする」における主成分の意味は、上記「主成分」と同義であり、熱可塑性フィルムB中の樹脂成分のうちで最も含有量の高い成分を意味する。
熱可塑性フィルムBに非晶性熱可塑性樹脂の特性を十分に付与する点から、非晶性熱可塑性樹脂の含有量は、熱可塑性フィルムB中の樹脂成分のうち、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
【0037】
本実施の形態における非晶性熱可塑性樹脂とは、結晶を有さないか、有していても少量であり、示差走査熱量計(DSC)を用いた測定において、融解熱が15J/g以下となる樹脂を意味する。ただし、融解に伴う吸熱ピークが検出限界以下、もしくはノイズと同等以下で分化できない場合も含む。
融解熱は、DSC(示差走査熱量計)の吸熱ピークの面積と、熱可塑性樹脂成分の重量から算出する。無機充填剤等が熱可塑性フィルムB中に含まれる場合には、無機充填剤は除いた、熱可塑性樹脂成分の重量から算出する。具体的には、試料を2から10mg秤量し、アルミ製パンに入れ、DSC(株式会社リガク製DSC8231)を用いて23℃から10℃/minで200℃以上まで昇温してDSCカーブを得、次いでそのDSCカーブから求めた融解時の吸熱ピークの面積と、上記秤量値から算出することができる。
【0038】
非晶性熱可塑性樹脂の融解熱は、15J/g以下であることが好ましく、11J/g以下であることがより好ましく、7J/g以下であることが更に好ましく、4J/g以下であることがより更に好ましく、融解ピークが検出限界以下であることが特に好ましい。
融解熱が15J/g以下である非晶性熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性フィルムBとして用いることにより、加熱時に、従来のホットメルト接着剤で見られるような急激な粘度低下は起こらず、200℃を超える高温度領域においても低粘度(0.001~100Pa・s)状態には至らない。このため当該熱可塑性フィルムBは溶融した状態でも、基材Aと樹脂Cとの間から流れ出すことはなく、熱可塑性フィルムBの厚みが安定して確保でき、高い接合力を安定して得ることができる。
【0039】
非晶性熱可塑性樹脂は、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂は、樹脂内の凝集力が低く、かつ水酸基を有し得るため、基材A及び樹脂Cとの相互作用が強く、従来の結晶性のホットメルト接着剤よりも高い接合力で異種材を接合することが期待できる。
【0040】
中でも、保管性の観点から、熱可塑性フィルムBが、エポキシ当量1,600g/eq.以上もしくはエポキシ基を含まない熱可塑性樹脂であることが好ましい。
上記エポキシ当量は、2,000g/eq.以上であることがより好ましく、5,000g/eq.以上であることが更に好ましく、9,000g/eq.以上であることがより更に好ましく、検出限界以上であってエポキシ基が実質的に検出されないことが特に好ましい。なお、エポキシ当量が検出限界以上とは、後述のJIS K 7236:2001に基づきエポキシ当量を測定した際に、エポキシ基が検出されないことを意味する。
ここで言うエポキシ当量(エポキシ基1モルが含まれる上記熱可塑性樹脂の重量)は、接合前の熱可塑性フィルムBに含まれる熱可塑性樹脂のエポキシ当量の値であり、JIS-K7236:2001に規定された方法で測定された値(単位「g/eq.」)である。具体的には、電位差滴定装置を用い、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液を用い、溶媒希釈品(樹脂ワニス)は、不揮発分から固形分換算値としての数値を算出した値である。なお、2種以上の樹脂の混合物の場合はそれぞれの含有量とエポキシ当量から算出することもできる。
【0041】
熱可塑性フィルムBに用いられる熱可塑性樹脂が融点を有する場合、融点は50~400℃であることが好ましく、60℃~350℃であることがより好ましく、70℃~300℃であることが更に好ましい。50~400℃の範囲に融点があることにより、熱可塑性フィルムBが加熱により効率よく変形及び溶融し、接合面に有効に濡れ広がるため高い接合力が得られる。
本明細書において、熱可塑性樹脂の融点とは、DSCで測定される融解ピーク温度を意味する。なお、融解ピークが得られない場合や、融解熱が15J/g以下である場合は、ガラス転移点に70℃を足した温度を融点とする。ガラス転移点は、DSCで200℃まで昇温後、40℃以下に冷却し、さらに200℃まで加熱した2サイクル目のDSCカーブの降下開始時の温度を意味する。具体的には、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0042】
《熱可塑性エポキシ樹脂》
熱可塑性フィルムBは、接着性、耐熱性の観点から、熱可塑性エポキシ樹脂である非晶性熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましい。
熱可塑性エポキシ樹脂は、(a)2官能エポキシ樹脂モノマーもしくはオリゴマーと(b)フェノール性水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、イソシアネート基及びシアネートエステル基からなる群より選ばれる同一の又は異なる2つの官能基を有する2官能性化合物との重合体であることが好ましい。
かかる化合物を使用することにより、直鎖状のポリマーを形成する重合反応が優先的に進行して、所望の特性を具備する熱可塑性エポキシ樹脂を得ることが可能となる。
【0043】
(a)2官能エポキシ樹脂モノマーもしくはオリゴマーとは、分子内にエポキシ基を2個有するエポキシ樹脂モノマーもしくはオリゴマーをいう。
(a)2官能エポキシ樹脂モノマーもしくはオリゴマーの具体例として、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、2官能のフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、2官能のナフタレン型エポキシ樹脂、2官能の脂環式エポキシ樹脂、2官能のグリシジルエステル型エポキシ樹脂(例えばジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ダイマー酸ジグリシジルエステルなど)、2官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂(例えばジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジンなど)、2官能の複素環式エポキシ樹脂、2官能のジアリールスルホン型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂(例えばヒドロキノンジグリシジルエーテル、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテルなど)、2官能のアルキレングリシジルエーテル系化合物(例えばブタンジオールジグリシジルエーテル、ブテンジオールジグリシジルエーテル、ブチンジオールジグリシジルエーテルなど)、2官能のグリシジル基含有ヒダントイン化合物(例えば1,3-ジグリシジル-5,5-ジアルキルヒダントイン、1-グリシジル-3-(グリシドキシアルキル)-5,5-ジアルキルヒダントインなど)、2官能のグリシジル基含有シロキサン(例えば1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、α,β-ビス(3-グリシドキシプロピル)ポリジメチルシロキサンなど)及びそれらの変性物などが挙げられる。これらのうち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂が、反応性及び作業性の点から好ましい。
【0044】
(b)のフェノール水酸基を持つ2官能性化合物としては、例えばカテコール、レゾルシン、ヒドロキノンなどのベンゼン環を1個有する一核体芳香族ジヒドロキシ化合物類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)などのビスフェノール類、ジヒドロキシナフタレンなどの縮合環を有する化合物、ジアリ
ルレゾルシン、ジアリルビスフェノールA、トリアリルジヒドロキシビフェニルなどのアリル基を導入した2官能フェノール化合物、ジブチルビスフェノールAなどが挙げられる。
(b)のカルボキシル基含有化合物の具体例としては、アジピン酸、コハク酸、マロン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸などが挙げられる。
(b)のメルカプト基を持つ2官能性化合物としては、例えば、エチレングリコールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネートなどが挙げられる。
(b)のイソシアネート基含有の2官能性化合物の具体例としては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、へキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、及びトリレンジイソシアネート(TDI)などが挙げられる。
(b)のシアネートエステル基含有の2官能性化合物の具体例としては、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、及びビス(4-シアナトフェニル)メタンなどが挙げられる。
【0045】
上記(b)の2官能性化合物のなかでもフェノール水酸基を持つ2官能性化合物が熱可塑性の重合物を得る観点から好ましく、フェノール性水酸基を2つ持ち、ビスフェノール構造もしくはビフェニル構造を持つ2官能性化合物が耐熱性及び接合性の観点から好ましく、ビスフェノールA、ビスフェノールFもしくはビスフェノールSが耐熱性及びコストの観点から好ましい。
【0046】
(a)がビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂であり、(b)がビスフェノールA、ビスフェノールFもしくはビスフェノールSである場合、当該(a)と(b)の重合により得られるポリマーは、パラフェニレン構造とエーテル結合を主骨格とし、それらをアルキレン基で連結した主鎖と、重付加により生成した水酸基が側鎖に配置された構造を有する。
パラフェニレン骨格からなる直鎖状の構造により、重合後のポリマーの機械的強度を高めることができるとともに、側鎖に配置された水酸基により、基材への密着性を向上させることができる。この結果、熱硬化性樹脂の作業性を維持しながら、高い接合強度を実現することができる。さらに、熱可塑性樹脂である場合は、熱で軟化・溶融させることによってリサイクル及びリペアが可能となり、熱硬化性樹脂における問題点であるリサイクル性及びリペア性を改善することができる。
【0047】
《フェノキシ樹脂》
フェノキシ樹脂は、ビスフェノール類と、エピクロルヒドリンより合成されるポリヒドロキシポリエーテルであり、熱可塑性を有する。フェノキシ樹脂の製造には、二価フェノール類とエピクロルヒドリンの直接反応による方法、二価フェノール類のジグリシジルエーテルと二価フェノール類の付加重合反応による方法が知られているが、本発明に用いられるフェノキシ樹脂はいずれの製法により得られるものであってもよい。二価フェノール類とエピクロルヒドリンの直接反応の場合は、二価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、ビフェニレンジオール、フルオレンジフェニル等のフェノール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等の脂肪族グリコールが挙げられる。中でも、コストや接合性、粘度、耐熱性の観点から、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSが好ましい。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂に類似の化学構造をもち、パラフェニレン構造とエーテル結合を主骨格とし、それらを連結した主鎖と、水酸基が側鎖に配置された構造を有する。
【0048】
《熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂の物性》
熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂は、GPC(ゲル・パーミエ―ション・クロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値である重量平均分子量が10,000~500,000であることが好ましく、18,000~300,000であることがより好ましく、20,000~200,000であることが更に好ましい。重量平均分子量はGPCによって検出される溶出ピーク位置から算出され、それぞれ標準ポリスチレン換算での分子量の値である。重量平均分子量がこの値の範囲であると熱可塑性と耐熱性のバランスが良く、効率よく溶融によって接合体が得られ、その耐熱性も高くなる。重量平均分子量が10,000以上であると耐熱性に優れ、500,000以下であると溶融時の粘度が低く、接合性が高くなる。
【0049】
《熱可塑性フィルムB中における樹脂成分以外の成分》
必要に応じて、本発明の目的を阻害しない範囲で、熱可塑性フィルムBは、樹脂成分以外の成分として、フィラーや添加剤を含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0050】
フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラー(樹脂粉体)が挙げられる。
無機フィラーとしては、例えば、球状溶融シリカ、鉄などの金属の金属粉、珪砂、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、酸性白土、珪藻土、カオリン、石英、酸化チタン、シリカ、フェノール樹脂マイクロバルーン、ガラスバルーン等が挙げられる。
【0051】
添加剤としては、例えば、消泡剤、シランカップリング剤等のカップリング剤、顔料等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上含有していてもよい。
熱可塑性フィルムB中における添加剤の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
熱可塑性フィルムB中における樹脂成分の含有量は、好ましく10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上、一態様では80質量%以上、別の態様では90質量%以上、別の態様では99質量%以上である。
【0052】
《熱可塑性フィルムBの形態》
熱可塑性フィルムBは、シート状物である。熱可塑性フィルムBの厚さは、好ましくは10μm以上3mm以下である。
短い接合プロセス時間で強固に接合した接合体を得る観点から、熱可塑性フィルムBの厚さは、1mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることが更に好ましく、0.3mm以下であることがより更に好ましく、0.2mm以下であることが特に好ましく、0.1mm以下であることが最も好ましい。
熱可塑性フィルムBの厚さが上記数値範囲内であると、基材Aと樹脂Cの間に挟み、加熱や加圧等によって効率よく接合面に広がることができ、高い接合力が得られる。
【0053】
熱可塑性フィルムBは単層であってもよく複数層からなる積層体であってもよいが、製造容易性の観点及び接合力の向上の観点から単層であることが好ましい。
また、熱可塑性フィルムBは、接合力やその耐熱性を阻害しない範囲で、タック性があってもよい。
【0054】
《熱可塑性フィルムBの製造方法》
熱可塑性フィルムBの製造方法は特に限定されないが、例えば、2官能エポキシ化合物のモノマーもしくはオリゴマーを加熱して重合させることで樹脂組成物を得、得られた樹脂組成物に必要に応じて溶媒を加え、離型フィルム等に塗布し、硬化・乾燥、必要に応じて加圧することにより熱可塑性フィルムBを得てもよい。
【0055】
[基材A]
図4は、アンダーカット形状の例を示す模式図である。
基材Aは、熱可塑性フィルムBと接合する面(図4のx)に、少なくとも1つのアンダーカット形状の凹部(図4のy)を有することを特徴とする。
上記「アンダーカット形状」の具体的態様の一例として、基材A、熱可塑性フィルムB、及び樹脂Cの順に積層する方向の凹部断面において、凹部内部の幅が凹部入口の幅よりも広くなっている部分がある形状が挙げられる(図4の4-1及び4-2)。
また、上記「アンダーカット形状」の具体的態様の一例として、凹部内部に、基材Aと樹脂Cとを離反し難くするための突起部分(凸部)を備える形状が挙げられる(図4の4-3)。
アンダーカット形状は、上述したように基材Aと樹脂Cとが容易に離反できないような引っ掛かり形状であればよく、図4に示された形状に限定されるものではない。例えば、基材Aの熱可塑性フィルムBと接合する面において、一方向に長い溝を形成する手法でもよく、その場合アンダーカット形状は少なくとも溝に対して垂直な断面がアンダーカット形状になっていればよい。上記溝状の凹部の1~2面が解放面になっていてもよい。
【0056】
熱可塑性フィルムBと接合する基材Aの面を真上から見たときに、上記凹部入口が多角形である場合、当該凹部入口の大きさは、少なくとも最も長い辺が、1mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることが更に好ましい。上記最も長い辺の上限は、基材Aの大きさ等に応じてかわるため一概には規定できないが、50mm以下とすることができる。
また、熱可塑性フィルムBと接合する基材Aの面を真上から見たときに、上記凹部入口が円形若しくはランダムな不定形である場合、当該凹部入口の大きさは、少なくとも円形上若しくは不定形上にある任意の2点を結ぶ最も長い直線が、1mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることが更に好ましい。上記最も長い直線の上限は、基材Aの大きさ等に応じてかわるため一概には規定できないが、50mm以下とすることができる。
上記最も長い辺若しくは上記最も長い直線が、1mm以上であると、樹脂Cの凸部、特に根本部(凹部入口に相当する部分)が破壊されにくいため、強固な接合体が得られる。
なお、上記樹脂Cの凸部は、凹部に充填されている樹脂Cの凸形状部分を意味する。
【0057】
アンダーカット形状の形成法に限定はなく、既存の手法を用いることができる。例えば、機械的な切削、プレス加工による後加工;鋳造、押出成形などによる成形加工;等が挙げられる。特に、アルミニウム合金などの押出成形の際に、断面をアンダーカット形状にする形成法により、後加工を経ずにアンダーカット形状を容易に形成することができる。
【0058】
基材Aは、金属又は無機物からなる群から選択される少なくとも1種である。基材Aの材料は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
基材Aは、耐熱性や強度の観点から、金属であることが好ましい。
金属は、特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム、鉄、銅、マグネシウム、チタン等が挙げられる。
なお、本実施形態において、「鉄」の語は、鉄及びその合金を含む意味で用いられる。鉄の合金としては、例えば、鋼、ステンレス等が挙げられる。同様に、銅、アルミニウム、マグネシウム、チタンも、これらの単体及びその合金を含む意味で用いるものとする。
【0059】
無機物は、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス、セラミック、カーボン成形体等が挙げられる。
ガラスとしては、例えば、一般的なガラスの他、耐熱ガラス、防火ガラス、耐火ガラス、スマートフォンの保護等に用いられる化学強化ガラス等であってもよい。具体的には、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等が挙げられる。
セラミックスとしては、例えば、半導体、自動車、産業用機器等に用いられるファインセラミックス等が挙げられる。具体的には、アルミナ、ジルコニア、チタン酸バリウム等の酸化物系セラミックス;ハイドロキシアパタイト等の水酸化物系セラミックス、炭化ケイ素等の炭化物系セラミックス;窒化ケイ素等の窒化物系セラミックス等が挙げられる。
【0060】
基材Aは、表面の汚染物の除去、及び/又は、アンカー効果を目的として、表面に前処理を施すことが好ましい。
前処理としては、例えば、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、レーザー処理、エッチング処理、フレーム処理等が挙げられる。
前処理としては、基材Aの表面を洗浄する前処理又は表面に凹凸を付ける前処理が好ましい。具体的には、基材Aがアルミニウム、ガラス、セラミック、又は鉄からなる場合、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理、エッチング処理からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。基材AがFRP、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミド、又はポリブチレンテレフタレートからなる場合、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理及びコロナ放電処理からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
前処理は、1種のみであってもよく、2種以上を施してもよい。これらの前処理の具体的な方法としては、公知の方法を用いることができる。
通常、FRPの表面には樹脂や補強材に由来する水酸基が存在し、ガラスやセラミック表面には元々水酸基が存在すると考えられるが、上記の前処理によって新たに水酸基が生成され、基材Aの表面の水酸基を増やすことができる。
【0061】
脱脂処理とは、基材A表面の油脂などの汚れをアセトン、トルエン等の有機溶剤等で溶かして除去する方法である。
【0062】
UVオゾン処理とは、低圧水銀ランプから発光する短波長の紫外線の持つエネルギーとそれにより発生するオゾン(O)の力で、表面を洗浄したり改質する方法である。ガラスの場合、表面の有機系不純物の除去を行う表面洗浄法の一つとなる。一般に、低圧水銀ランプを用いた洗浄表面改質装置は、「UVオゾンクリーナー」、「UV洗浄装置」、「紫外線表面改質装置」などと呼ばれている。
【0063】
ブラスト処理としては、例えば、ウェットブラスト処理、ショットブラスト処理、サンドブラスト処理等が挙げられる。中でも、ウェットブラスト処理は、ドライブラスト処理と比べより緻密な面が得られるため、好ましい。
【0064】
研磨処理としては、例えば、研磨布を用いたバフ研磨や、研磨紙(サンドペーパー)を用いたロール研磨、電解研磨等が挙げられる。
【0065】
プラズマ処理とは、高圧電源とロッドでプラズマビームを作り素材表面にぶつけて分子を励起させて官能状態とするもので、素材表面に水酸基や極性基を付与できる大気圧プラズマ処理方法等が挙げられる。
【0066】
コロナ放電処理とは、高分子フィルムの表面改質に施される方法が挙げられ、電極から放出された電子が高分子表面層の高分子主鎖や側鎖を切断し発生したラジカルを起点に表面に水酸基や極性基を発生させる方法である。
【0067】
レーザー処理とは、レーザー照射によって基材Aの表面のみを急速に加熱、冷却して、表面の特性を改善する技術で表面の粗面化に有効な方法である。公知のレーザー処理技術を使用することができる。
【0068】
エッチング処理としては、例えば、アルカリ法、リン酸-硫酸法、フッ化物法、クロム酸-硫酸法、塩鉄法等の化学的エッチング処理、また、電解エッチング法等の電気化学的エッチング処理等が挙げられる。
【0069】
フレーム処理とは、燃焼ガスと空気の混合ガスを燃やすことで空気中の酸素をプラズマ化させ、酸素プラズマを処理対象物に付与することで表面の親水化を図る方法である。公知のフレーム処理技術を使用することができる。
【0070】
[樹脂C]
樹脂Cは、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び繊維強化プラスチック(FRP)からなる群から選択される1種からなることが好ましい。中でも、樹脂Cは、接合力やコスト、成形の容易性の観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、例えば、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、熱可塑性エポキシやそれらの繊維強化材等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等から選ばれる1種以上を使用することができる。耐熱性、接合力やコスト、成形の容易性等の観点から、ポリカーボネート、ガラス繊維強化ポリアミド、ガラス繊維強化ポリブチレンテレフタレート、ガラス繊維強化ポリフェニレンサルファイドより選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。
【0071】
樹脂Cが融点を有する場合、融点は100℃~400℃であることが好ましく、150℃~350℃であることがより好ましく、180℃~300℃であることが更に好ましい。100℃~400℃の範囲に融点があることにより、熱可塑性フィルムBが加熱により効率よく変形及び溶融し、接合面に有効に濡れ広がるため高い接合力が得られる。
樹脂Cが融点を示さない場合(例えば、非晶性熱可塑性樹脂の場合)は、樹脂Cのガラス転移点は、-50℃~200℃であることが好ましく、-30℃~180℃であることがより好ましく、0℃~150℃であることが更に好ましい。-50℃~200℃の範囲にガラス転移点があることにより、熱可塑性フィルムBが加熱により効率よく変形及び溶融し、接合面に有効に濡れ広がるため高い接合力が得られる。
【0072】
基材Aの材料と樹脂Cの組み合わせは特に限定されない。
基材A及び樹脂Cの厚さは0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.5mm以上であることがさらに好ましく、1mm以上であることが特に好ましい。0.1mm以上であると強固な接合体が得られる。また、基材A及び樹脂Cのそれぞれの厚さは10cm以下であることが好ましく、5cm以下であることがより好ましく、3cm以下であることがさらに好ましく、1cm以下であることが特に好ましい。10cm以下であると効率的に加熱し易く製造が容易となる。
【0073】
<接合体>
本発明の接合体は、
基材Aと、熱可塑性フィルムBと、樹脂Cとを、この順で配置して接合してなる接合体であって、
基材Aは、金属及び無機物からなる群から選択される少なくとも1種であり、
基材Aが、接合面上に、少なくとも1つのアンダーカット形状の凹部を有し、
凹部に、熱可塑性フィルムBと樹脂Cが充填されている、接合体である。
本発明の接合体は、例えば、上述の接合体の製造方法により製造することができ、また、本発明の接合体の好ましい実施態様は、上述の接合体の製造方法において記載された好ましい実施態様を援用することができる。
【0074】
本発明の接合体の一実施形態は、基材Aの凹部に、熱可塑性フィルムBと樹脂Cが充填されており、かつ、接着性を有する熱可塑性フィルムBを介して、基材Aと樹脂Cとが接合一体化されたものである。
本発明の接合体は、異種材の接合体でも、優れた接合強度を示す。接合強度は、熱可塑性フィルムBと基材Aとの間、及び熱可塑性フィルムBと樹脂Cとの間に働く界面相互作用の強さの他に、熱可塑性フィルムBの厚さ、熱可塑性フィルムBを構成するポリマーの分子量や化学構造、力学的特性、粘弾性的特性など数多くの因子に影響を受けるため、本発明の接合体が優れた接合強度を示す機構の詳細は明らかではない。
【0075】
また、接合体のより好ましい一実施形態は、アンダーカット形状の凹部に熱可塑性フィルムB及び樹脂Cの凸部が充填されていることに加え、熱可塑性フィルムBが、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である非晶性熱可塑性樹脂を主成分とすることである。当該より好ましい一実施形態がより優れた接合強度を示す機構の詳細は明らかではないが、非晶性熱可塑性樹脂内の凝集力が低いことと、樹脂内に水酸基が存在し、熱可塑性フィルムBと基材Aの界面、及び熱可塑性フィルムBと樹脂Cの界面で水素結合やファンデルワールス力などの化学結合や分子間力を形成することが主な要因であると推測される。
【0076】
しかしながら、本発明の接合体において、熱可塑性フィルムBと基材Aの界面、及び熱可塑性フィルムBと樹脂Cの界面の状態又は特性は、ナノメーターレベル以下のごく薄い化学構造であり、分析が困難である。そのため、上記界面の状態又は特性を特定することにより、熱可塑性フィルムBの使用によらないものと区別すべく表現することは、現時点の技術において、不可能又は非実際的である。
【実施例0077】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0078】
[フィルムの製造]
<製造例1>
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量約10,000)1.0当量(203g)、ビスフェノールS1.0当量(12.5g)、トリフェニルホスフィン2.4g、及びメチルエチルケトン1,000gを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分約20質量%の樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去して固体を得た。プレス機の上板及び下板に非粘着フッ素樹脂フィルム(ニトフロン(登録商標)No.900UL、日東電工株式会社製)を設置し、下板の非粘着フッ素樹脂フィルム上に上記固体を配置した後、上記プレス機を160℃に加熱し、上記樹脂組成物を2時間加熱圧縮して固形分100質量%、厚さ100μmのフィルムP-1を得た。得られたフィルムP-1の重量平均分子量、エポキシ当量、及び融解熱の測定結果は、表1に示すとおりである。なお、重量平均分子量の測定については、得られたフィルムをテトラヒドロフランに溶解させ測定した。
また、後述する他の製造例により得られたフィルム及び接合剤についても同様の測定を行い、その結果も表1及び2に示す。
【0079】
<製造例2>
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、フェノトート(登録商標)YP-50S(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、フェノキシ樹脂、重量平均分子量約50,000)20g、シクロヘキサノン80gを仕込み、撹拌しながら60℃まで昇温し、目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分20質量%の樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去して固体を得た。プレス機の上板及び下板に非粘着フッ素樹脂フィルム(ニトフロン(登録商標)No.900UL、日東電工株式会社製)を設置し、下板の非粘着フッ素樹脂フィルム上に上記固体を配置した後、上記プレス機を160℃に加熱し、上記樹脂組成物を2時間加熱圧縮して固形分100質量%、厚さ100μmのフィルムP-2を得た。
【0080】
<製造例3>
上記フィルムP-2と結晶性エポキシ樹脂YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)をそれぞれ粉砕して98対2の質量比で混合し、万力でプレスし、50℃に加熱することで固形分100質量%、厚さ100μmのフィルムP-3を得た。
【0081】
<製造例4>
上記フィルムP-2と結晶性エポキシ樹脂YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)をそれぞれ粉砕して94対6の質量比で混合し、万力でプレスし、50℃に加熱することで固形分100質量%、厚さ100μmのフィルムP-4を得た。
【0082】
<製造例5>
上記フィルムP-2と結晶性エポキシ樹脂YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)をそれぞれ粉砕して89対11の質量比で混合し、万力でプレスし、50℃に加熱することで固形分100質量%、厚さ100μmのフィルムP-5を得た。
【0083】
<製造例6>
非晶性のポリカーボネートフィルム(ユーピロン(登録商標)FE2000、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、厚さ100μm)をカットして、フィルムP-6を得た。
フィルムP-6においては、DSC測定で融解熱ピークは検出されず、エポキシ当量及び重量平均分子量は溶媒に不溶の為測定できなかった。
【0084】
<製造例7>
結晶性のポリアミド系ホットメルト接着剤フィルムNT-120(日本マタイ株式会社製、厚さ100μm)をカットして、厚さ100μmのフィルムP-7を得た。
フィルムP-7においては、溶媒に不溶の為エポキシ当量及び重量平均分子量は測定できなかった。融解熱の測定結果は、表1に示すとおりである。
【0085】
<比較製造例1>
熱硬化性液状エポキシ接着剤E-250(コニシ株式会社製、ビスフェノール型エポキシ樹脂とアミン硬化剤の2液タイプ)の2液を混合し、離型フィルムに塗布し、100℃で1時間硬化させたあと、冷却し、離型フィルムから剥がして、厚さ100μmのフィルムQ-1を得た。
フィルムQ-1においては、DSC測定で融解熱ピークは検出されず、エポキシ当量及び重量平均分子量は溶媒に不溶の為測定できなかった。
【0086】
<比較製造例2>
熱硬化性液状エポキシ接着剤E-250(コニシ株式会社製、ビスフェノール型エポキシ樹脂とアミン硬化剤の2液タイプ)を、そのまま液状の接合剤Q-2として用いた。
接合剤Q-2においては、DSC測定で融解熱ピークは検出されず、エポキシ当量及び重量平均分子量は溶媒に不溶の為測定できなかった。
【0087】
<比較製造例3>
フラスコに、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量約10,000)1.0当量(203g)、ビスフェノールS1.0当量(12.5g)、トリフェニルホスフィン2.4g、及びメチルエチルケトン1,000gを仕込み、常温で撹拌することで固形分約20質量%の液状の接合剤Q-3を得た。
なお、接合剤Q-3においては、後述の比較例3において樹脂Cの表面に形成した熱可塑性エポキシ樹脂重合物を用いて、重量平均分子量、エポキシ当量、融解熱、及び融点を測定した。
接合剤Q-3においては、DSC測定で融解熱ピークは検出されず、エポキシ当量は検出限界以上であった。
【0088】
<比較製造例4>
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、フェノトート(登録商標)YP-50S(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、フェノキシ樹脂、重量平均分子量約50,000)20g、シクロヘキサノン80gを仕込み、撹拌しながら60℃まで昇温し、目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分20質量%の液状の接合剤Q-4を得た。
なお、接合剤Q-4においては、後述の比較例4において樹脂Cの表面に形成したフェノキシ樹脂コーティング層を用いて、重量平均分子量、エポキシ当量、融解熱、及び融点を測定した。
接合剤Q-4においては、DSC測定で融解熱ピークは検出されず、エポキシ当量は検出限界以上であった。
【0089】
<評価方法>
上記フィルム及び接合剤の重量平均分子量、融解熱及びエポキシ当量を、それぞれ以下のように求めた。また、フィルムの厚さを、以下の方法により測定した。
【0090】
(重量平均分子量)
上記フィルム及び接合剤をテトラヒドロフランに溶解し、Prominence501(昭和サイエンス株式会社製、Detector:Shodex(登録商標) RI-501(昭和電工株式会社製))を用い、以下の条件で測定した。
カラム:昭和電工株式会社製 LF-804×2本
カラム温度:40℃
試料:樹脂の0.4質量%テトラヒドロフラン溶液
流量:1ml/分
溶離液:テトラヒドロフラン
較正法:標準ポリスチレンによる換算
【0091】
(融解熱及び融点)
上記フィルム及び接合剤を2~10mg秤量し、アルミ製パンに入れ、DSC(株式会社リガク製DSC8231)で23℃から10℃/minで200℃まで昇温し、DSCカーブを得た。そのDSCカーブの融解時の吸熱ピークの面積と上記秤量値から融解熱を算出した。また、得られたDSCカーブの融解ピーク温度を融点とした。なお、融解ピークが得られない場合や、融解熱が15J/g以下である場合は、ガラス転移点に70℃を足した温度を融点とした。ガラス転移点は、DSCで200℃まで昇温後、40℃以下に冷却し、さらに200℃まで加熱した2サイクル目のDSCカーブの降下開始時の温度とした。なお、加熱により溶融しない熱硬化性樹脂については、融点は無しとした。
【0092】
(エポキシ当量)
上記フィルム及び接合剤を、JIS K-7236:2001で測定し、樹脂固形分としての値に換算した。また、反応を伴わない単純混合物の場合はそれぞれのエポキシ当量と含有量から算出した。
【0093】
(フィルムの厚さ)
上記フィルムの厚さは、23℃、湿度50%の雰囲気中に24時間放置後、株式会社ミツトヨ製のMDC-25MXを用いて測定した。
【0094】
[接合体の製造]
<基材A>
基材Aとして、以下の基材を使用した。
《鉄》
幅18mm、長さ45mm、厚さ1.6mmのSPCC-SDの表面に図5のように切削加工によりアンダーカット形状を形成後、アセトンで表面を拭き取ることで脱脂処理して試験片を得た。
ここで図5に関し次のとおり説明する。図5において、(5-1)は試験片の凹部を含む長さ方向の断面図であり、(5-2)は試験片の平面図である。また、図5において示される数値の単位は「mm」である(但し、角度70°は除く。)。本説明は、下記≪アルミニウム≫の試験片を示す図5についても同様である。
《アルミニウム》
幅18mm、長さ45mm、厚さ1.6mmのA6061-T6の表面に図5のように切削加工によりアンダーカット形状を形成後、アセトンで表面を拭き取ることで脱脂処理して試験片を得た。
【0095】
<熱可塑性フィルムB>
製造例1~7で製造したフィルムP-1~P-7。
<接合剤>
比較製造例1~4で製造した接合剤Q-1~Q-4。
【0096】
<樹脂C>
樹脂Cとして、以下の基材を使用した。
《PA6(6-ナイロン)》
東レ株式会社製アミランCM1011G-30を射出成形して、図6の形状の試験片(軟化点215℃、融点225℃)を得た。表面処理はせずに使用した。
ここで図6に関し次のとおり説明する。図6において、(6-1)は試験片の凸部を含む長さ方向の断面図であり、(6-2)は試験片の平面図である。また、図6において示される数値の単位は「mm」である。本説明は、下記≪PBT(ポリブチレンテレフタレート)≫、≪PC(ポリカーボネート)≫及び《PPS(ポリフェニレンスルフィド)》の試験片を示す図6についても同様である。
《PBT(ポリブチレンテレフタレート)》
SABIC製420-1001を射出成形して、図6の形状の試験片(軟化点207℃、融点225℃)を得た。表面処理はせずに使用した。
《PC(ポリカーボネート)》
SABIC製121Rを射出成形して、図6の形状の試験片(軟化点129℃、融点220℃)を得た。表面処理はせずに使用した。
《PPS(ポリフェニレンスルフィド)》
DIC株式会社製FZ-1130-D5(ガラス繊維30%)を射出成形して、図6の形状の試験片(軟化点265℃、融点280℃)を得た。表面処理はせずに使用した。
【0097】
<実施例1>
(c法)
基材Aとして上記アルミニウム基材の上に、8×3mmの大きさに裁断した上記フィルムP-1をアンダーカット形状の底部分に配置した。
続いて、樹脂Cとして上記PA6基材を凸部がアンダーカット部に嵌るように接面させた。これらの基材同士の重なりは幅10mm、奥行き5mmとした。上記フィルムP-1は上記基材同士の重なり領域をすべて覆うように配置した。つまり、上記基材Aと樹脂C同士は、直接触れず、その間に上記フィルムが介在した状態として、樹脂CとフィルムP-1は未接合の積層体を準備した。
次いで、高周波誘導溶着機(精電舎電子工業株式会社製、発振器UH-2.5K、プレスJIIP30S)を用いて高周波誘導により基材Aを発熱させ、その熱で上記フィルムP-1及び樹脂Cを溶融することで接合体を得た。加圧力は110N(圧力2.2MPa)、発振周波数は900kHzとした。発振時間は6秒とした。このようにして、接合体を作製した。
また、オープンタイム評価用として、上記基材AにフィルムP-1を接合した状態で3日間静置した後、基材Aに接合したフィルムP-1に樹脂Cを接面させ、基材Aと樹脂Cを接合したこと以外は上記と同様にして接合体を作製した。
【0098】
<実施例2>
(b法)
基材Aとして上記アルミニウム基材の上に、8×3mmの大きさに裁断した上記フィルムP-1をアンダーカット形状の底部分に配置した。その後、200℃に加熱したホットプレート上に置き、110Nで加圧を行い、上記フィルムP-1を基材Aに一体化した。これに樹脂Cとして上記PC基材を凸部がアンダーカット部に嵌るように接面させ、実施例1のc法と同様にして接合体を作製した。
【0099】
<実施例3>
(a法(フィルムインサート法))
表1に示す樹脂Cを射出成形する際に、予め金型内にフィルムP-1を凸部に対応する部分に配置し、その後樹脂Cを成形することで樹脂CとフィルムP-1が一体化した樹脂試験片を作製した。フィルムP-1の代わりに、上記樹脂試験片を基材Aのアンダーカット部に配置したこと以外は実施例1と同様にして接合体を作製した。
【0100】
<実施例4~11、比較例1>
各材料を表1及び表2のとおりとすること以外は実施例1と同様にして、接合体を作製した。
【0101】
<比較例2>
液状接合剤Q-2を、基材Aとして上記アルミニウム基材、及び樹脂Cとして上記PBT基材の表面の各々に、縦10mm×横18mmの領域にわたって塗布し、1分以内に貼り合わせをした。その後、クリップにて固定した状態で100℃のオーブン内に1時間静置することで接合剤を硬化させた。その後、室温まで冷却した。このようにして、接合体を作製した。接着剤層の厚みは0.1mmであった。
また、オープンタイム評価用として、基材Aと樹脂Cの各々に接合剤Q-2を塗布し、3日間静置した後、基材Aと樹脂Cを重ね合わせクリップにて固定した状態で100℃のオーブン内に1時間静置したこと以外は上記と同様にして、接合体を作製した。
【0102】
<比較例3>
基材Aとして上記アルミニウム基材の上に液状接合剤Q-3をバーコート塗布し、室温で30分乾燥させた後に、160℃のオーブンに2時間静置することで、縦20mm×横18mm×厚さ50μmの固形の熱可塑性エポキシ樹脂重合物コーティング層を基材Aの表面上に形成した。
続いて、基材Aと樹脂Cとして上記PC基材とを重ね合わせた後、実施例1と同様にして超音波溶着で接合体を得た。
また、オープンタイム評価用として、上記熱可塑性エポキシ樹脂重合物コーティング層を表面に形成した基材Aを3日間静置した後、当該基材Aと樹脂Cを重ねたこと以外は上記と同様にして、接合体を作製した。
【0103】
<比較例4>
基材Aとして上記アルミニウム基材の上に、液状接合剤Q-4をバーコート塗布し、70℃のオーブンに30分静置することで、20mm×横18mm×厚さ50μmのフェノキシ樹脂コーティング層を基材Aの表面上に形成した。
基材A上のコーティング層と樹脂Cとして上記PC基材とを重ね合わせたこと以外は比較例3同様にして、接合体を作製した。
また、オープンタイム評価用として、上記フェノキシ樹脂コーティング層を表面に形成した基材Aを3日間静置した後、当該基材Aと樹脂Cとを重ね合わせこと以外は上記と同様にして、接合体を作製した。
【0104】
<比較例5~7>
フィルムを用いずに、表2に示す基材Aと樹脂Cをこの順で積層して積層体を準備したこと以外は実施例1と同様にして、接合体(オープンタイム評価用接合体含む)を作製した。
【0105】
<接合体評価方法>
得られた接合体について、以下の評価を行った。その評価結果を表1及び2に示す。
【0106】
(接合力)
《曲げ試験力》
実施例及び比較例で得られた接合体を23℃で30分以上静置後、万能試験機(オートグラフ「AG-X plus」(株式会社島津製作所製);ロードセル10kN、曲げ速度10mm/min、支点間距離64mm、樹脂Cを上面にして設置)にて、23℃雰囲気での3点曲げ試験を行い、最大点試験力を接合強度として測定した。
【0107】
(利便性)
《接合プロセス時間》
接合プロセス時間は、接合体を構成する少なくとも1種の基材とフィルム又は接合剤との接触時を始点、接合体の作製の完了時を終点として、始点から終点までの時間を測定した。
【0108】
《オープンタイム評価》
オープンタイム評価用接合体を用いて、上記引張りせん断接合強度試験を23℃で実施した。上記実施例及び比較例の方法で作製した試験片と比べてせん断接合力が80%以上であれば良好(○)で、80%未満であれば不適(×)とした。オープンタイム評価が良好(○)とは、オープンタイムが長く、利便性に優れることを意味する。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の製造方法及び接合体は、例えば、ドアサイドパネル、ボンネットルーフ、テールゲート、ステアリングハンガー、Aピラー、Bピラー、Cピラー、Dピラー、クラッシュボックス、パワーコントロールユニット(PCU)ハウジング、電動コンプレッサー部材(内壁部、吸入ポート部、エキゾーストコントロールバルブ(ECV)挿入部、マウントボス部等)、リチウムイオン電池(LIB)スペーサー、電池ケース、LEDヘッドランプ、バンパーレインフォース等の自動車用部品や、スマートフォン、ノートパソコン、タブレットパソコン、スマートウォッチ、大型液晶テレビ(LCD-TV)、屋外LED照明の構造体等として用いられるが、特にこれら例示の用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0112】
A 基材A
B 熱可塑性フィルムB
C 樹脂C
x 基材Aの接合面
y 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6