(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089121
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20240626BHJP
G03F 1/54 20120101ALI20240626BHJP
G03F 1/48 20120101ALI20240626BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/54
G03F1/48
C23C14/06 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204297
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】生越 大河
【テーマコード(参考)】
2H195
4K029
【Fターム(参考)】
2H195BA02
2H195BA10
2H195BB35
2H195BB37
2H195BC05
2H195BC20
2H195CA01
2H195CA07
2H195CA22
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA02
4K029BA43
4K029BA50
4K029BA58
4K029BB02
4K029DC03
4K029DC05
4K029DC16
4K029DC34
4K029DC39
4K029JA02
(57)【要約】
【解決手段】EUV光を露光光とするEUVリソグラフィで用いられる反射型マスクの素材であり、基板と、基板の一の主表面上に形成され、露光光に対する屈折率が相対的に低い層と、露光光に対する屈折率が相対的に高い層とが交互に積層された周期積層構造を有し、露光光を反射する反射多層膜と、反射多層膜に接して形成された保護膜と、保護膜に接して形成され、露光光を吸収する吸収体膜とを有する反射型マスクブランクであって、吸収体膜の膜応力が、吸収体膜を基板に直接形成したときの吸収体膜の膜応力以下である反射型マスクブランク。
【効果】吸収体膜に必要な特性が確保され、かつ膜応力が低減された反射型マスクブランクを提供することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EUV光を露光光とするEUVリソグラフィで用いられる反射型マスクの素材であり、
基板と、該基板の一の主表面上に形成され、露光光に対する屈折率が相対的に低い層と、露光光に対する屈折率が相対的に高い層とが交互に積層された周期積層構造を有し、露光光を反射する反射多層膜と、該反射多層膜に接して形成された保護膜と、該保護膜に接して形成され、露光光を吸収する吸収体膜とを有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜の膜応力が、前記吸収体膜を前記基板に直接形成したときの吸収体膜の膜応力以下であることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記保護膜が、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)からなり、
前記反射多層膜に近接する側の組成が、ルテニウム(Ru)を含み、酸素(O)を含まず、
前記吸収体膜に接する側の組成が、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)、又はニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記保護膜において、前記反射多層膜に近接する側の組成が、ルテニウム(Ru)、又はルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)からなることを特徴とする請求項2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記保護膜の前記反射多層膜に近接する側の組成において、ニオブ(Nb)の含有率が60原子%以下であることを特徴とする請求項3に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記保護膜において、厚さ方向に、前記反射多層膜に近接する側から前記吸収体膜に接する側に向かって、ニオブ(Nb)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加することを特徴とする請求項3に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記保護膜の前記吸収体膜に接する側の組成において、ニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率が60原子%以上であることを特徴とする請求項2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記保護膜において、厚さ方向に、前記反射多層膜に近接する側から前記吸収体膜に接する側に向かって、酸素(O)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加することを特徴とする請求項2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記保護膜が、前記吸収体膜に接して形成された応力緩和層を含むことを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記保護膜が、
(A)ルテニウム(Ru)を含み、酸素(O)を含まない組成を有し、前記反射多層膜に近接する層と、
(B)ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)、又はニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる組成を有し、前記吸収体膜に接する層
との2層からなることを特徴とする請求項8に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
前記(A)層が、ルテニウム(Ru)、又はルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)からなることを特徴とする請求項9に記載の反射型マスクブランク。
【請求項11】
前記(A)層において、前記反射多層膜に近接する側のニオブ(Nb)の含有率が60原子%以下であることを特徴とする請求項10に記載の反射型マスクブランク。
【請求項12】
前記(A)層が、互いに組成が異なる2以上の副層、又は組成傾斜層で構成され、厚さ方向に、前記反射多層膜に近接する側から前記(B)層に接する側に向かって、ニオブ(Nb)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加する層であることを特徴とする請求項10に記載の反射型マスクブランク。
【請求項13】
前記(B)層において、前記吸収体膜に接する側のニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率が60原子%以上であることを特徴とする請求項9に記載の反射型マスクブランク。
【請求項14】
前記(B)層が、互いに組成が異なる2以上の副層、又は組成傾斜層で構成され、厚さ方向に、前記(A)層に接する側から前記吸収体膜に接する側に向かって、酸素(O)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加する層であることを特徴とする請求項9に記載の反射型マスクブランク。
【請求項15】
前記保護膜の厚さが2nm以上5nm以下であり、前記(B)層の厚さが、前記保護膜の厚さの10%以上50%以下であることを特徴とする請求項9に記載の反射型マスクブランク。
【請求項16】
前記吸収体膜が、タンタル(Ta)及び窒素(N)を含有することを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項17】
前記吸収体膜が、更に、水素(H)、ホウ素(B)、炭素(C)、ケイ素(Si)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)、ゲルマニウム(Ge)及びアルミニウム(Al)から選ばれる1種以上の添加元素を含有し、該添加元素の合計の含有率が20原子%以下であることを特徴とする請求項16に記載の反射型マスクブランク。
【請求項18】
前記吸収体膜の厚さが50nm以上80nm以下であり、
前記吸収体膜が、タンタル(Ta)及び窒素(N)からなる単層、又はタンタル(Ta)及び窒素(N)からなる基板側の層と、タンタル(Ta)、窒素(N)及び酸素(O)からなる表層とからなり、
前記単層、前記基板側の層及び前記表層の、タンタル(Ta)と窒素(N)との比率Ta/Nが、原子比で55/45~65/35であり、前記表層の基板から最も離間する側において、酸素(O)の含有率が20原子%以上40原子%以下であり、
前記表層の厚さが2nm以下である
ことを特徴とする請求項16に記載の反射型マスクブランク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSIなどの半導体デバイスの製造などに使用される反射型マスクの素材である反射型マスクブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス(半導体装置)の製造工程では、転写用マスクに露光光を照射し、マスクに形成されている回路パターンを、縮小投影光学系を介して半導体基板(半導体ウェハ)上に転写するフォトリソグラフィ技術が繰り返し用いられる。従来、露光光の波長は、フッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光を用いた193nmが主流となっており、露光プロセスや加工プロセスを複数回組み合わせるマルチパターニングというプロセスを採用することにより、最終的には露光波長より小さい寸法のパターンを形成してきた。
【0003】
しかし、継続的なデバイスパターンの微細化により、更なる微細パターンの形成が必要とされてきていることから、露光光としてArFエキシマレーザ光より更に波長の短い極端紫外(Extreme Ultraviolet:以下「EUV」と称す。)光を用いたEUVリソグラフィ技術が用いられるようになってきた。EUV光とは、波長が0.2~100nm程度の光であり、より具体的には、波長が13.5nm付近の光である。EUV光は、物質に対する透過性が極めて低く、従来の透過型の投影光学系やマスクが使えないことから、反射型の光学素子が用いられる。そのため、パターン転写用のマスクも反射型マスクが提案されている。
【0004】
反射型マスクは、一般的には、ガラス製の低熱膨張基板の一方の主表面の上に、EUV光を反射する反射多層膜が形成され、更に、反射多層膜の上に、EUV光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。一方、吸収体膜にパターニングする前の状態のもの(レジスト膜が形成された状態のものを含む。)は、反射型マスクブランクと呼ばれ、これが反射型マスクの素材として用いられる。反射型マスクブランクは、ガラス製の低熱膨張基板の一方の主表面の上に、EUV光を反射する反射多層膜が形成され、更に、反射多層膜の上に、EUV光を吸収する吸収体膜が形成されたものであり、反射多層膜と吸収体膜とを含む基本構造を有する。
【0005】
反射多層膜としては、通常、モリブデン(Mo)層とシリコン(Si)層とを交互に積層することでEUV光の反射率を確保するMo/Si反射多層膜が用いられる。また、吸収体膜の材料としては、EUV光に対して消衰係数の値が比較的大きいタンタル(Ta)を主成分とする材料などが用いられる(特開2002-246299号公報(特許文献1))。一方、基板の他方の主表面の上には、反射型マスクを露光装置に保持する際の静電チャッキングのために、金属膜などの裏面導電膜が形成される。裏面導電膜としては、主に、クロム(Cr)、タンタル(Ta)を含有する膜が用いられる。
【0006】
また、反射多層膜と吸収体膜との間には、通常、反射多層膜を保護するための保護膜が形成される。保護膜は、吸収体膜にマスクパターンを形成するために実施されるエッチングにおいてエッチングガスに曝される際や、マスクパターン形成後の洗浄において洗浄液に曝される際に反射多層膜を保護するために、更には、マスクパターン形成後に欠陥が検出された際のパターン修正加工などにおいて、反射多層膜がダメージを受けることがないように設けられる。保護膜の材料としては、例えば、ルテニウム(Ru)が用いられる(特開2002-122981号公報(特許文献2))。保護膜に、更に、EUV光で露光した際の反射多層膜の反射率の低下を抑える機能が求められる場合には、ルテニウム(Ru)に、ニオブ(Nb)、ロジウム(Rh)、ジルコニウム(Zr)などを添加した材料を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-246299号公報
【特許文献2】特開2002-122981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
反射型マスクブランクの製造工程においては、反射多層膜の形成後に欠陥座標位置の基準となるマークを形成した状態で、位相欠陥とよばれる欠陥を検出するためEUV光を用いたABI検査(Actinic Blank Inspection)が実施される。反射型マスク加工時には、ABI検査時の欠陥座標情報を元に、反射型マスクのパターン描画の工程において、欠陥が転写しないように、所謂ミチゲーション(ディフェクトミチゲーション)が行われ、最終的には吸収体膜に所望のパターンを形成する。ミチゲーション時の位置ずれや、パターニング後の基板形状の変化を防止する観点から、吸収体膜の膜応力はなるべく低く抑える必要がある。
【0009】
反射型マスクブランクの吸収体膜は、パターンを形成するために膜の一部を除去するため、膜応力が大きいとパターンの形成によって、基板のそり量が変化する。そのため、パターンの位置精度を維持するためには、膜応力が小さい方が好ましい。しかし、吸収体膜には、膜応力以外にも、所定の厚さで反射率が十分に低いこと、パターンのLER(Line Edge Roughness)を低く抑えるために、微結晶構造、かつ低表面粗さの膜質であること、加工性を確保するため、エッチングレートが高いこと、EB(Electron Beam)描画の際に基板が帯電しないように、シート抵抗が107Ω/□以下に抑えられていることなどが求められる。吸収体膜の膜応力は、成膜条件で、ある程度は調整可能であるが、成膜条件を変えると、膜応力だけでなく、膜質などの膜応力以外の特性も大きく変わってしまう。特に、窒化度の高い膜では、成膜条件を変えるだけでは、膜応力の調整ができず、膜応力を低減することは難しい。
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、膜応力が低い吸収体膜、特に、吸収体膜に必要な特性が確保され、かつ膜応力が低い吸収体膜を有する反射型マスクブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、吸収体膜と接する保護膜を、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる材料で形成し、反射多層膜に近接する側の組成を、ルテニウム(Ru)を含み、酸素(O)を含まない組成、吸収体膜に接する側の組成を、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)、又はニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる組成とし、この保護膜に接して吸収体膜を形成することにより、吸収体膜に必要な特性が確保され、かつ膜応力が低い吸収体膜、特に、保護膜と接している吸収体膜の膜応力が、吸収体膜を基板に直接形成したときの膜応力以下である吸収体膜を有する反射型マスクブランクとなることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、以下の反射型マスクブランクを提供する。
1.EUV光を露光光とするEUVリソグラフィで用いられる反射型マスクの素材であり、
基板と、該基板の一の主表面上に形成され、露光光に対する屈折率が相対的に低い層と、露光光に対する屈折率が相対的に高い層とが交互に積層された周期積層構造を有し、露光光を反射する反射多層膜と、該反射多層膜に接して形成された保護膜と、該保護膜に接して形成され、露光光を吸収する吸収体膜とを有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜の膜応力が、前記吸収体膜を前記基板に直接形成したときの吸収体膜の膜応力以下であることを特徴とする反射型マスクブランク。
2.前記保護膜が、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)からなり、
前記反射多層膜に近接する側の組成が、ルテニウム(Ru)を含み、酸素(O)を含まず、
前記吸収体膜に接する側の組成が、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)、又はニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる
ことを特徴とする1に記載の反射型マスクブランク。
3.前記保護膜において、前記反射多層膜に近接する側の組成が、ルテニウム(Ru)、又はルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)からなることを特徴とする2に記載の反射型マスクブランク。
4.前記保護膜の前記反射多層膜に近接する側の組成において、ニオブ(Nb)の含有率が60原子%以下であることを特徴とする3に記載の反射型マスクブランク。
5.前記保護膜において、厚さ方向に、前記反射多層膜に近接する側から前記吸収体膜に接する側に向かって、ニオブ(Nb)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加することを特徴とする3に記載の反射型マスクブランク。
6.前記保護膜の前記吸収体膜に接する側の組成において、ニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率が60原子%以上であることを特徴とする2に記載の反射型マスクブランク。
7.前記保護膜において、厚さ方向に、前記反射多層膜に近接する側から前記吸収体膜に接する側に向かって、酸素(O)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加することを特徴とする2に記載の反射型マスクブランク。
8.前記保護膜が、前記吸収体膜に接して形成された応力緩和層を含むことを特徴とする1に記載の反射型マスクブランク。
9.前記保護膜が、
(A)ルテニウム(Ru)を含み、酸素(O)を含まない組成を有し、前記反射多層膜に近接する層と、
(B)ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)、又はニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる組成を有し、前記吸収体膜に接する層
との2層からなることを特徴とする8に記載の反射型マスクブランク。
10.前記(A)層が、ルテニウム(Ru)、又はルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)からなることを特徴とする9に記載の反射型マスクブランク。
11.前記(A)層において、前記反射多層膜に近接する側のニオブ(Nb)の含有率が60原子%以下であることを特徴とする10に記載の反射型マスクブランク。
12.前記(A)層が、互いに組成が異なる2以上の副層、又は組成傾斜層で構成され、厚さ方向に、前記反射多層膜に近接する側から前記(B)層に接する側に向かって、ニオブ(Nb)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加する層であることを特徴とする10に記載の反射型マスクブランク。
13.前記(B)層において、前記吸収体膜に接する側のニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率が60原子%以上であることを特徴とする9に記載の反射型マスクブランク。
14.前記(B)層が、互いに組成が異なる2以上の副層、又は組成傾斜層で構成され、厚さ方向に、前記(A)層に接する側から前記吸収体膜に接する側に向かって、酸素(O)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加する層であることを特徴とする9に記載の反射型マスクブランク。
15.前記保護膜の厚さが2nm以上5nm以下であり、前記(B)層の厚さが、前記保護膜の厚さの10%以上50%以下であることを特徴とする9に記載の反射型マスクブランク。
16.前記吸収体膜が、タンタル(Ta)及び窒素(N)を含有することを特徴とする1乃至15のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
17.前記吸収体膜が、更に、水素(H)、ホウ素(B)、炭素(C)、ケイ素(Si)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)、ゲルマニウム(Ge)及びアルミニウム(Al)から選ばれる1種以上の添加元素を含有し、該添加元素の合計の含有率が20原子%以下であることを特徴とする16に記載の反射型マスクブランク。
18.前記吸収体膜の厚さが50nm以上80nm以下であり、
前記吸収体膜が、タンタル(Ta)及び窒素(N)からなる単層、又はタンタル(Ta)及び窒素(N)からなる基板側の層と、タンタル(Ta)、窒素(N)及び酸素(O)からなる表層とからなり、
前記単層、前記基板側の層及び前記表層の、タンタル(Ta)と窒素(N)との比率Ta/Nが、原子比で55/45~65/35であり、前記表層の基板から最も離間する側において、酸素(O)の含有率が20原子%以上40原子%以下であり、
前記表層の厚さが2nm以下である
ことを特徴とする16に記載の反射型マスクブランク。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吸収体膜に必要な特性が確保され、かつ膜応力が低減された反射型マスクブランクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の反射型マスクブランクの第1の態様の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の反射型マスクブランクの第2の態様の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の反射型マスクブランクの第3の態様の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の反射型マスクは、EUV光を露光光とするEUVリソグラフィで用いられる。本発明の反射型マスクブランクは、反射型マスクの素材である。EUV光を露光光とするEUVリソグラフィに用いられるEUV光の波長は13~14nmであり、通常、波長が13.5nm程度(例えば13.4~13.6nm)の光である。EUV光を露光光とする反射型マスクブランク及び反射型マスクは、各々、EUVマスクブランク及びEUVマスクとも呼ばれる。
【0016】
本発明の反射型マスクブランクは、基板と、基板の一の主表面(表面)上(上側)に形成され、露光光を反射する反射多層膜と、反射多層膜に接して形成された保護膜と、保護膜に接して形成され、露光光を吸収する(露光光の反射率を低減する)吸収体膜とを有する。反射多層膜は、基板の一の主表面に接して設けることが好ましいが、基板の一の主表面との間に、下地膜などの他の膜を設けてもよい。
【0017】
なお、本発明において、基板の一の主表面を表面かつ上側とし、後述する裏面導電膜を設けることができる他の主表面を裏面かつ下側としているが、両者の表裏及び上下は便宜上定めたものである。一の主表面と他の主表面とは、基板における2つの主表面(膜形成面)のいずれかであり、表裏及び上下は置換可能である。
【0018】
基板は、EUV光露光用として、低熱膨張特性を有するものであることが好ましく、例えば、熱膨張係数が、好ましくは±2×10-8/℃以内、より好ましくは±5×10-9/℃の範囲内の材料で形成されている。このような材料としては、例えばチタニアをドープしたSiO2-TiO2系ガラスが用いられる。また、基板は、表面が十分に平坦化されているものを用いることが好ましく、基板の主表面の表面粗さは、RMS値で、好ましくは0.5nm以下、より好ましくは0.2nm以下である。このような表面粗さは、基板の研磨により得ることができる。基板には、例えば、SEMI規格において規定されている、6インチ角、厚さ0.25インチの6025基板と呼ばれる基板が好適である。6025基板は、SI単位系を用いた場合、通常、152mm角、厚さ6.35mmの基板と表記される。
【0019】
反射多層膜は、露光光に対する屈折率が相対的に低い層(露光光に対する屈折率が相対的に低い材料(低屈折率材料)で形成された層)と、露光光に対する屈折率が相対的に高い層(露光光に対する屈折率が相対的に高い材料(高屈折率材料)で形成された層)とが交互に積層された周期積層構造を有する。周期積層構造としては、例えば、露光光に対する屈折率が相対的に高い材料であるケイ素(Si)で形成された層(Si層)と、露光光に対する屈折率が相対的に低い材料であるモリブデン(Mo)で形成された層(Mo層)とが交互に積層された多層で構成されたSi/Mo周期積層構造が挙げられる。
【0020】
Si層及びMo層は、各々、Si単体及びMo単体で形成されている層であることが好ましいが、10原子%未満であれば、他の元素を含有していてもよい。Si層及びMo層の積層数は、好ましくは40周期以上(各々40層以上)であり、また、好ましくは60周期以下(各々60層以下)である。
【0021】
Si層及びMo層の厚さは、露光波長に応じて適宜設定され、Si層の厚さは5nm以下であることが好ましく、Mo層の厚さは、4nm以下であることが好ましい。Si層及びMo層の厚さの下限は、特に限定されるものではないが、各々、通常1nm以上である。Si層及びMo層の厚さは、露光光に対して高い反射率が得られるように設定すればよい。また、Si層の各々の厚さ及びMo層の各々の厚さは、一定であっても、層毎に異なっていてもよい。Si/Mo周期積層構造の全体の厚さ(反射多層膜がSi/Mo周期積層構造のみで構成されている場合は、反射多層膜の厚さ)は、通常250~450nm程度である。
【0022】
Si/Mo周期積層構造には、Si層とMo層との間のいずれか1以上に、ケイ素(Si)と窒素(N)とを含有する層が、Si層とMo層との双方に接して形成されていてもよい。ケイ素(Si)と窒素(N)とを含有する層は、酸素(O)を含まないことが好ましい。ケイ素(Si)と窒素(N)とを含有する層として具体的には、SiN(ここで、SiNは構成元素がケイ素(Si)及び窒素(N)からなることを表し、組成比を表すものではない。)層が好適である。ケイ素(Si)と窒素(N)とを含有する層の窒素(N)の含有率は、好ましくは1原子%以上、より好ましくは5原子%以上であり、また、好ましくは60原子%以下、より好ましくは57原子%以下である。また、ケイ素(Si)と窒素(N)を含有する層の厚さは、好ましくは2nm以下、より好ましくは1nm以下である。ケイ素(Si)と窒素(N)を含有する層の厚さの下限は、特に限定されるものではないが、0.1nm以上であることが好ましい。
【0023】
反射多層膜の形成方法としては、ターゲットに電力を供給し、供給した電力で雰囲気ガスをプラズマ化(イオン化)して、スパッタリングを行うスパッタ法や、イオンビームをターゲットに照射するイオンビームスパッタ法が挙げられる。スパッタ法としては、ターゲットに直流電圧を印加するDCスパッタ法、ターゲットに高周波電圧を印加するRFスパッタ法がある。スパッタ法とはスパッタガスをチャンバーに導入した状態でターゲットに電圧を印加し、ガスをイオン化し、ガスイオンによるスパッタリング現象を利用した成膜方法で、特にマグネトロンスパッタ法は生産性において有利である。ターゲットに印加する電力はDCでもRFでもよく、また、DCには、ターゲットのチャージアップを防ぐために、ターゲットに印加する負バイアスを短時間反転するパルススパッタリングも含まれる。
【0024】
Si/Mo周期積層構造は、例えば、複数のターゲットを装着できるスパッタ装置を用いてスパッタ法により形成することができる。具体的には、Si層、SiN層などのケイ素(Si)を含む層を形成するためのケイ素(Si)ターゲットと、Mo層などのモリブデン(Mo)を含む層を形成するためのモリブデン(Mo)ターゲット)とを用い、スパッタガスとして、Si層及びMo層を形成する場合は、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを、また、SiN層を形成する場合は、希ガスと共に、反応性ガスとして窒素(N2)ガスを用いて、SiターゲットとMoターゲットとを順次スパッタリングすることにより、各層を順次形成することができる。
【0025】
保護膜は、反射多層膜を保護するための膜である。保護膜は、例えば、反射型マスクへの加工における洗浄や、反射型マスクの修正などにおいて、反射多層膜を保護するために設けられる。保護膜の上に形成される吸収体膜の応力は、膜組成や膜の成膜条件などに依存する。しかし、膜組成や膜の成膜条件などの変更のみでは、例えば、タンタル(Ta)と窒素(N)を含む吸収体膜において、窒化度が高い場合などに、吸収体膜の応力を低くすることには限界がある。また、吸収体膜の応力を低くするために、膜組成や膜の成膜条件を変更すると、吸収体膜が必要とする反射率、膜質、エッチングレート、シート抵抗などの他の特性が変化し、通常、膜応力と、他の特性がトレードオフの関係にあるため、吸収体膜に必要な特性を維持したままで、吸収体膜の応力を低くすることにも限界がある。
【0026】
本発明の保護膜に接して吸収体膜を形成すると、本発明の保護膜には、吸収体膜の応力を緩和する作用があり、吸収体膜に必要な特性を確保した上で、膜応力が低い吸収体膜を有する反射型マスクブランクとなる。また、本発明の保護膜は、吸収体膜の膜応力を、吸収体膜を基板に直接形成したときの吸収体膜の膜応力以下にすることができる。吸収体膜を基板に直接形成したときの吸収体膜の膜応力(吸収体膜形成前の基板のTIRと、吸収体膜形成後の基板のTIRとの差であるΔTIR)は、他の膜の影響を受けていない吸収体膜の膜応力ということができるが、本発明の保護膜は、基板に反射多層膜と保護膜と吸収体膜とを順に形成したときの吸収体膜の膜応力(吸収体膜形成前の反射多層膜と保護膜とを形成した状態での基板のTIRと、吸収体膜形成後の基板のTIRとの差であるΔTIR)を、他の膜の影響を受けていない吸収体膜の膜応力以下とすることができる。
【0027】
本発明において、保護膜は、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる材料で形成される。また、保護膜は、反射多層膜に近接する側の組成、具体的には、反射多層膜に近接する界面又は界面部における組成と、吸収体膜に接する側の組成、具体的には、吸収体膜に接する界面又は界面部における組成とが異なるように構成される。
【0028】
保護膜の反射多層膜に近接する側の組成は、ルテニウム(Ru)を含み、酸素(O)を含まない組成とする。保護膜の反射多層膜に近接する側の組成は、ニオブ(Nb)を含んでいてもよい。反射多層膜に近接する側の組成を、このようにすることにより、保護膜の形成による反射率の低下を抑えることができ、反射型マスクブランクから得られる反射型マスクの露光光に対する反射率を十分に確保することができる。保護膜の反射多層膜に近接する側の組成は、ルテニウム(Ru)、又はルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)からなることが好ましい。
【0029】
保護膜の反射多層膜に近接する側の組成が、ルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)からなる場合、ニオブ(Nb)の含有率は、好ましくは60原子%以下、より好ましくは50原子%以下、更に好ましくは40原子%以下であり、0原子%超、好ましくは5原子%以上、より好ましくは10原子%以上、更に好ましくは20原子%以上である。ニオブ(Nb)の含有率が高すぎると、吸収体膜のエッチングにおいて、塩素系エッチングに対する耐性が低下し、保護膜がダメージを受けると、反射多層膜の反射率が低下するおそれがあり、また、SPM洗浄耐性が低下するおそれがある。
【0030】
一方、保護膜の吸収体膜に接する側の組成は、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)、又はニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる組成とする。吸収体膜に接する側の組成を、このようにすることにより、保護膜と接して形成される吸収体膜の応力を緩和することができる。また、吸収体膜のエッチングにおいて、塩素系エッチングに対する耐性を高くすることができる。
【0031】
保護膜の吸収体膜に接する側の組成は、ニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率が高い方が好ましく、ニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率は、好ましくは60原子%以上、より好ましくは70原子%以上、更に好ましくは80原子%以上である。
【0032】
保護膜の厚さは、好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上であり、また、好ましくは5nm以下、より好ましくは4nm以下である。
【0033】
保護膜の組成は、厚さ方向に、反射多層膜に近接する側から吸収体膜に接する側に向かって、ニオブ(Nb)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加又は減少するようにすることができる。また、保護膜の組成は、厚さ方向に、反射多層膜に近接する側から吸収体膜に接する側に向かって、酸素(O)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加するようにすることができる。
【0034】
保護膜の反射多層膜に近接する側の組成を、ルテニウム(Ru)を含み、酸素(O)を含まない組成、好ましくはルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)を含み、酸素(O)を含まない組成、より好ましくはルテニウム(Ru)、又はルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)からなる組成とし、保護膜の吸収体膜に接する側の組成を、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)、又はニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる組成とすることにより、保護膜の形成による反射率の低下を抑えて、保護膜と接して形成される吸収体膜の応力を緩和することができ、また、吸収体膜のエッチングにおける塩素系エッチングに対する耐性を確保することができる。
【0035】
反射多層膜に近接する側の組成が、ルテニウム(Ru)を含み、酸素(O)を含まない組成、保護膜の吸収体膜に接する側の組成が、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)、又はニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる組成である保護膜を形成する方法としては、ターゲットとして、ルテニウム(Ru)ターゲットと、必要に応じてニオブ(Nb)ターゲットを用い、スパッタリングガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いて、スパッタリングにより、まず、反射多層膜に近接する側を形成し、その後、スパッタリングガスとして、希ガスと共に、反応性ガスとして酸素(O2)ガスを用いて、反応性スパッタリングにより、吸収体膜に接する側を形成する方法が挙げられる。スパッタリングにおいて、ルテニウム(Ru)ターゲットと、ニオブ(Nb)ターゲットとに印加する電力の比率を変更することにより、ルテニウム(Ru)とニオブ(Nb)との比率を変化させることができる。また、導入する酸素(O2)ガスの量を変更することにより、酸素ガスの含有率を変化させることができる。
【0036】
また、ターゲットとして、ルテニウム(Ru)ターゲットと、必要に応じてニオブ(Nb)ターゲットを用い、スパッタリングガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いて、酸素(O)を含まない組成の保護膜を形成し、その後、酸素プラズマによるアッシング処理や、大気中などの酸素ガス存在下での熱処理を実施して、保護膜の吸収体膜に接する側の組成を、酸素(O)を含む組成とする方法も挙げられる。
【0037】
特に、熱処理により、保護膜の吸収体膜に接する側の組成を、酸素(O)を含む組成とする方法は、容易で、欠陥発生リスクが低いことから好ましい。熱処理の温度は、高い方が酸化させやすいが、反射率の低下を考慮し、150℃以下とすることが好ましい。更に、熱処理温度を150℃以下とする場合は、酸化が進行し易くするために、酸素(O)を含まない組成の膜を熱処理前に形成する際に、保護膜の吸収体膜に接する側の組成のニオブ(Nb)の含有率を高くする、又はルテニウム(Ru)を含まない組成とすることが好ましい。また、熱処理により保護膜の吸収体膜に接する側の組成を、酸素(O)を含む組成とする場合、反射多層膜と保護膜とを積層した状態での露光光(EUV光)に対する反射率の熱処理前後の変化率を、0.5%以下とすることが好ましい。
【0038】
保護膜は、単層で構成することができ、その場合、保護膜を、厚さ方向に組成が変化する組成傾斜膜とする。
図1は、本発明の反射型マスクブランクの第1の態様の一例を示す断面図である。この反射型マスクブランク101は、基板1と、基板1上に、基板1に接して形成されている反射多層膜2と、反射多層膜2に接して形成されている保護膜3と、保護膜3に接して形成されている吸収体膜4とを備える。この場合、保護膜3は、単層構造であり、厚さ方向に組成が断続的及び/又は連続的に変化する組成傾斜を有していればよい。
【0039】
保護膜は、2層又は3層の多層で構成することが好ましい。
図2は、本発明の反射型マスクブランクの第2の態様の一例を示す断面図である。この反射型マスクブランク102は、基板1と、基板1上に、基板1に接して形成されている反射多層膜2と、反射多層膜2に接して形成されている保護膜3と、保護膜3に接して形成されている吸収体膜4とを備える。この場合、保護膜3は、反射多層膜2に接して形成されている(A)層31と、吸収体膜4に接して形成されている(B)層32との2層構造である。なお、保護膜は、4層以上の多層で構成してもよい。
【0040】
保護膜は、2層で構成する場合、反射多層膜に近接する層を、ルテニウム(Ru)を含み、酸素(O)を含まない組成を有する層((A)層)と、吸収体膜に接する層を、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)、又はニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる組成を有する層((B)層)として構成することができる。
【0041】
(A)層は、ルテニウム(Ru)を含み、酸素(O)を含まない層とする。(A)層は、ニオブ(Nb)を含んでいてもよい。(A)層を、このようにすることにより、保護膜の形成による反射率の低下を抑えることができ、反射型マスクブランクから得られる反射型マスクの露光光に対する反射率を十分に確保することができる。(A)層は、ルテニウム(Ru)からなる層、又はルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)からなる層が好ましい。
【0042】
(A)層の組成が、ルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)からなる場合、(A)層の反射多層膜に近接する側において、ニオブ(Nb)の含有率は、好ましくは60原子%以下、より好ましくは50原子%以下、更に好ましくは40原子%以下であり、0原子%超、好ましくは5原子%以上、より好ましくは10原子%以上、更に好ましくは20原子%以上である。ニオブ(Nb)の含有率が高すぎると、吸収体膜のエッチングにおいて、塩素系エッチングに対する耐性が低下し、保護膜がダメージを受けると、反射多層膜の反射率が低下するおそれがあり、また、SPM洗浄耐性が低下するおそれがある。
【0043】
一方、(B)層は、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる層、又はニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる層とする。(B)層を、このようにすることにより、保護膜と接して形成される吸収体膜の応力を緩和する層(応力緩和層)とすることができる。また、吸収体膜のエッチングにおいて、塩素系エッチングに対する耐性が高い層とすることができる。
【0044】
(B)層は、ニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率が高い方が好ましく、(B)層の吸収体膜に接する側において、ニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率は、好ましくは60原子%以上、より好ましくは70原子%以上、更に好ましくは80原子%以上である。
【0045】
保護膜の厚さ(保護膜が多層である場合は、多層を構成する全ての層の合計の厚さ)は、好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上であり、また、好ましくは5nm以下、より好ましくは4nm以下である。保護膜を(A)層と(B)層とで構成する場合、(B)層の厚さは、保護膜の厚さの好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上であり、また、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下である。(B)層が厚すぎると、保護膜の形成による反射率の低下が大きくなるおそれがあり、また、SPM洗浄耐性が低下するおそれがある。(B)層の厚さとして具体的には、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは0.6nm以上であり、また、好ましくは2nm以下、より好ましくは1.5nm以下である。
【0046】
(A)層及び(B)層の一方又は双方の組成を、厚さ方向に、反射多層膜側から吸収体膜側に向かって、ニオブ(Nb)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加又は減少するようにしてもよい。(A)層の場合は、反射多層膜に近接する側から(B)層に接する側に向かって、ニオブ(Nb)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加又は減少する層であってよく、(B)層の場合は、(A)層に接する側から吸収体膜に接する側に向かって、ニオブ(Nb)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加又は減少する層であってよい。この場合、(A)層及び(B)層は、互いに組成が異なる2以上の副層、又は組成傾斜層で構成すればよい。
【0047】
(B)層の一方又は双方の組成は、厚さ方向に、反射多層膜側から吸収体膜側に向かって、酸素(O)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加するようにしてもよい。(B)層は、(A)層に接する側から吸収体膜に接する側に向かって、ニオブ(Nb)の含有率が、段階的及び/又は連続的に増加する層であってよい。この場合、(B)層は、互いに組成が異なる2以上の副層、又は組成傾斜層で構成すればよい。
【0048】
図3は、本発明の反射型マスクブランクの第3の態様の一例を示す断面図である。この反射型マスクブランク103は、基板1と、基板1上に、基板1に接して形成されている反射多層膜2と、反射多層膜2に接して形成されている保護膜3と、保護膜3に接して形成されている吸収体膜4とを備える。保護膜3は、反射多層膜2に接して形成されている(A)層31と、吸収体膜4に接して形成されている(B)層32とで構成されており、(B)層32は、(A)層31に接して形成されている第1の副層32aと、吸収体膜4に接して形成されている第2の副層32bとの2層で構成されている。この場合、保護膜3は、(A)層31と、第1の副層32aと、第2の副層32bとの3層構造である。
【0049】
(A)層が、ルテニウム(Ru)を含み、酸素(O)を含まない層、(B)層が、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)、又はニオブ(Nb)及び酸素(O)からなる層である保護膜を形成する方法としては、ターゲットとして、ルテニウム(Ru)ターゲットと、必要に応じてニオブ(Nb)ターゲットを用い、スパッタリングガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いて、スパッタリングにより、まず、(A)層を形成し、その後、スパッタリングガスとして、希ガスと共に、反応性ガスとして酸素(O2)ガスを用いて、反応性スパッタリングにより、(B)層を形成する方法が挙げられる。スパッタリングにおいて、ルテニウム(Ru)ターゲットと、ニオブ(Nb)ターゲットとに印加する電力の比率を変更することにより、ルテニウム(Ru)とニオブ(Nb)との比率を変化させることができる。また、導入する酸素(O2)ガスの量を変更することにより、酸素ガスの含有率を変化させることができる。
【0050】
また、ターゲットとして、ルテニウム(Ru)ターゲットと、必要に応じてニオブ(Nb)ターゲットを用い、スパッタリングガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いて、酸素(O)を含まない組成の保護膜を形成し、その後、酸素プラズマによるアッシング処理や、大気中などの酸素ガス存在下での熱処理を実施して、保護膜の吸収体膜に接する側の組成を、酸素(O)を含む組成として、(A)層と(B)層とを形成する方法も挙げられる。
【0051】
特に、熱処理により、保護膜の吸収体膜に接する側の組成を、酸素(O)を含む組成とする方法は、容易で、欠陥発生リスクが低いことから好ましい。熱処理の温度は、高い方が酸化させやすいが、反射率の低下を考慮し、150℃以下とすることが好ましい。更に、熱処理温度を150℃以下とする場合は、酸化が進行し易くするために、酸素(O)を含まない組成の膜を熱処理前に形成する際に、保護膜の吸収体膜に接する側の組成のニオブ(Nb)の含有率を高くする、又はルテニウム(Ru)を含まない組成とすることが好ましい。また、熱処理により保護膜の吸収体膜に接する側の組成を、酸素(O)を含む組成として(B)層を形成する場合、反射多層膜と保護膜とを積層した状態での露光光(EUV光)に対する反射率の熱処理前後の変化率を、0.5%以下とすることが好ましい。
【0052】
吸収体膜は、露光光を吸収し、パターン加工が可能な材料で形成されていればよく、特に制限されるものではないが、例えば、タンタル(Ta)を含有することが好ましい。吸収体膜は、加工形状や耐性の観点から、タンタル(Ta)及び窒素(N)を含有することが好ましい。また、吸収体膜が、結晶性が高い構造(XRDにおいて高い強度のピークが検出されるような、メタル結合の多い構造)を含有するより、微結晶構造又はアモルファス構造を有している方が、吸収体膜の応力を低くでき、窒素(N)の含有は、微結晶構造又はアモルファス構造の吸収体膜の形成に効果的である。そのため、吸収体膜の窒素(N)の含有率は35原子%以上であることが好ましい。吸収体膜の窒素(N)の含有率の上限は、特に限定されるものではないが、45原子%以下であることが好ましい。吸収体膜は、タンタル(Ta)と窒素(N)との比率Ta/Nが、原子比で55/45~65/35であることが好ましい。
【0053】
吸収体膜は、タンタル(Ta)及び窒素(N)からなるものであってもよいが、更に、吸収体膜が、水素(H)、ホウ素(B)、炭素(C)、ケイ素(Si)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)、ゲルマニウム(Ge)及びアルミニウム(Al)から選ばれる1種以上の添加元素を含有していてもよい。添加元素の含有は、微結晶構造又はアモルファス構造を有する吸収体膜を形成に効果的である。この場合、添加元素の合計の含有率は20原子%以下であることが好ましい。
【0054】
吸収体膜の膜応力は、低いほど好ましいが、本発明では、吸収体膜を形成する前後で測定したTIR値から算出されるΔTIR(吸収体膜形成前の基板のTIRと、吸収体膜形成後の基板のTIRとの差)が、絶対値で好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下である反射型マスクブランクを提供することができる。
【0055】
吸収体膜は単層で構成されていることが好ましいが、吸収体膜の表面部は、通常、自然酸化されている。その場合、吸収体膜は、酸素(O)を含有することになるが、酸素(O)の含有は、吸収体膜の基板から最も離間する側の表層(表面酸化層)のみであることが好ましい。この場合、吸収体膜は、基板側の層と表層とからなり、酸素(O)を含有する表層の厚さは、2nm以下であることが好ましい。また、酸素(O)を含有する表層の酸素(O)の含有率は、酸素(O)を含有する表層の基板から最も離間する側において、20原子%以上40原子%以下であることが好ましい。表層が厚すぎる場合や、表層の酸素(O)の含有率が高すぎる場合、吸収体膜が露光光を吸収し難くなるおそれがある。
【0056】
吸収体膜の厚さは、好ましくは50nm以上、より好ましくは55nm以上であり、また、好ましくは80nm以下、より好ましくは70nm以下である。吸収体膜のシート抵抗は、好ましくは1×106Ω/□以下、より好ましくは1×105Ω/□以下である。また、吸収体膜の表面粗さSqは、好ましくは0.8nm以下、より好ましくは0.6nm以下である。
【0057】
吸収体膜は、スパッタリングで形成することができ、スパッタリングは、マグネトロンスパッタが好ましい。具体的には、ターゲットとして、タンタル(Ta)ターゲット、添加元素が金属である場合は、添加元素の金属ターゲットなどの金属ターゲットや、タンタル(Ta)窒素ターゲット、添加元素が非金属の場合は、タンタル(Ta)と添加元素とを含むターゲットなどの金属化合物ターゲットなどを用いることができる。また、スパッタリングガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いることができ、また、希ガスと共に、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどの反応性ガスとを用いた反応性スパッタリングにより形成することもできる。反応性ガスとして具体的には、酸素(O2)ガス、窒素(N2)ガス、亜酸化窒素(N2O)ガス、一酸化窒素(NO)ガス、二酸化窒素(NO2)ガスなどの酸化窒素ガス、一酸化炭素(CO)ガス、二酸化炭素(CO2)ガスなどの酸化炭素ガスなどが挙げられる。
【0058】
吸収体膜上の基板から離間する側には、好ましくは吸収体膜と接して、吸収体膜とはエッチング特性が異なるハードマスク膜(吸収体膜のエッチングマスク膜)を設けてもよい。このハードマスク膜は、吸収体膜をドライエッチングする際のエッチングマスクとして機能する膜である。このハードマスク膜は、吸収体膜のパターンを形成した後には、例えばパターン検査などの検査で用いる光の波長における反射率を低減するための反射率低減層として残しても、取り除いて反射型マスク上には残存させないようにしてもよい。ハードマスク膜の材料としては、クロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。クロム(Cr)を含有する材料で形成されているハードマスク膜は、特に、吸収体膜が、タンタル(Ta)を含有し、クロム(Cr)を含有しない材料で形成されている場合に好適である。吸収体膜の一部として、パターン検査などの検査で用いる光の波長における反射率を低減する機能を主に担う層(反射率低減層)を形成する場合は、ハードマスク膜は、吸収体膜の反射率低減層の上に形成することができる。ハードマスク膜は、例えば、マグネトロンスパッタ法により形成することができる。ハードマスク膜の厚さは、特に制限されるものではないが、通常5~20nm程度である。
【0059】
基板の一の主表面と反対側の面である他の主表面(裏面)上(下側)には、好ましくは他の主表面に接して、反射型マスクを露光装置に静電チャッキングするために用いる裏面導電膜を設けてもよい。
【0060】
裏面導電膜は、シート抵抗が100Ω/□以下であることが好ましく、材質に特に制限はない。裏面導電膜の材料としては、例えば、タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。また、タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含有する材料は、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などを含有していてもよい。タンタル(Ta)を含有する材料としては、Ta単体、TaO、TaN、TaON、TaC、TaCN、TaCO、TaCON、TaB、TaOB、TaNB、TaONB、TaCB、TaCNB、TaCOB、TaCONBなどのタンタル(Ta)化合物が挙げられる。クロム(Cr)を含有する材料として具体的には、Cr単体、CrO、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、CrB、CrOB、CrNB、CrONB、CrCB、CrCNB、CrCOB、CrCONBなどのクロム(Cr)化合物が挙げられる。
【0061】
裏面導電膜の厚さは、静電チャッキング用として機能すればよく、特に制限されるものではないが、通常5~100nm程度である。裏面導電膜の厚さは、反射型マスクとして形成した後、即ち、吸収体膜のパターンを形成した後に、反射多層膜、保護膜及び吸収体膜のパターンと、膜応力がバランスするように形成することが好ましい。裏面導電膜は、反射多層膜を形成する前に形成しても、基板の反射多層膜側の全ての膜を形成した後に形成してもよく、また、基板の反射多層膜側の一部の膜を形成した後、裏面導電膜を形成し、その後、基板の反射多層膜側の残部の膜を形成してもよい。裏面導電膜は、例えば、マグネトロンスパッタ法により形成することができる。
【0062】
本発明の反射型マスクブランクは、基板から最も離間する側に、レジスト膜が形成されたものであってもよい。レジスト膜は、電子線(EB)レジストが好ましい。
【0063】
反射型マスクブランクからは、例えば、基板と、基板の一の主表面上に形成された反射多層膜と、反射多層膜に接して形成された保護膜と、保護膜に接して形成された吸収体膜のパターン(回路パターン又はマスクパターン)とを有する反射型マスクを得ることができる。反射型マスクにおいては、吸収体膜が形成されている部分と、吸収体膜が形成されていない部分との反射率の差によって、転写パターンが形成される。
【0064】
具体的には、まず、反射型マスクブランクにレジスト膜を形成し、又はレジスト膜が形成された反射型マスクブランクを用い、レジスト膜に、電子線リソグラフィにてパターン描画とレジストパターン形成を行う。次に、レジストパターンをエッチングマスクとして、吸収体膜を除去する、又はレジストパターンをエッチングマスクとして、ハードマスク膜のパターンを形成し、ハードマスク膜のパターンをエッチングマスクとして、吸収体膜を除去することにより、吸収体膜の残存部が吸収体膜のパターンとして形成される。その後、レジストパターンを除去し、必要に応じてハードマスク膜のパターンを除去することにより反射型マスクを得ることができる。
【実施例0065】
以下、参考例、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0066】
[参考例1]
152mm角、6.35mm厚の低熱膨張ガラス基板(SiO2-TiO2系ガラス基板)の主表面上に、厚さ59nmのTaN膜を形成した。TaN膜は、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより成膜した。チャンバー内に低熱膨張ガラス基板を設置し、Arガス(40vol%)とN2ガス(60vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.48Paとして、タンタル(Ta)ターゲットに1,800Wの電力を印加して形成した。
【0067】
得られたTaN膜を室温で大気中に取り出した後、組成を、X線光電子分光(XPS)装置(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製、K-Alpha)にて測定したところ、タンタル(Ta)及び窒素(N)の合計に対して、タンタル(Ta)は57原子%、窒素(N)は43原子%であった。この場合、大気中での自然酸化による表面酸化層が形成されていた(厚さ1nm)。表面酸化層の酸素含有率は、表面酸化層の基板から最も離間する側で、タンタル(Ta)、窒素(N)及び酸素(O)の合計に対して、25原子%であった。得られた膜を、吸収体膜に相当する膜とした。
【0068】
得られた膜のX線回折(XRD)測定を、X線回折装置((株)リガク製、SmartLab)にて実施し、膜に含まれる結晶相を確認したところ、β-Ta結晶相、α-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相は、いずれも検出されなかった。また、吸収体膜を形成する前後において、基板表面中央部の142mm角内のそり(TIR)を、フラットネステスタ(CORNING社製、Tropel Ultra Flat 200Mask)にて測定し(以下のそり(TIR)の測定において同じ。)、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.39μmであった。
【0069】
[実施例1]
152mm角、6.35mm厚の低熱膨張ガラス基板(SiO2-TiO2系ガラス基板)の主表面上に、モリブデン(Mo)ターゲットとケイ素(Si)ターゲットを用い、両ターゲットと基板の主表面とを対向させ、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより、厚さ284nmの反射多層膜を形成した。ターゲットを2つ装着でき、ターゲットを片方ずつ又は両方同時に放電することができるスパッタ装置に、各々のターゲットを装着し、基板を設置した。
【0070】
まず、チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを流しながらケイ素(Si)ターゲットに電力を印加し、厚さ4nmのケイ素(Si)層を形成し、ケイ素(Si)ターゲットへの電力の印加を停止した。次に、チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを流しながら、モリブデン(Mo)ターゲットに電力を印加し、厚さ3nmのモリブテン(Mo)層を形成し、モリブデン(Mo)ターゲットへの電力の印加を停止した。これらケイ素(Si)層とモリブデン(Mo)層とを形成する操作を1サイクルとし、これを40サイクル繰り返して、40サイクル目のモリブデン(Mo)層を形成した後、最後に、上記の方法でケイ素(Si)層を4nm形成して反射多層膜とした。
【0071】
次に、反射多層膜の上に、ルテニウム(Ru)ターゲットとニオブ(Nb)ターゲットを用い、両ターゲットと基板の主表面とを対向させ、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングによりRuNbからなる膜を形成した。ターゲットを2つ装着でき、ターゲットを片方ずつ又は両方同時に放電することができる別のスパッタ装置に、各々のターゲットを装着し、反射多層膜の成膜後に、大気中に取り出すことなく、反射多層膜を成膜したスパッタ装置から、真空状態を維持した搬送路を経由して、反射多層膜を成膜した基板を設置した。
【0072】
まず、チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを流しながらルテニウム(Ru)ターゲットとニオブ(Nb)ターゲットに同時に電力を印加し、時間の経過とともにニオブ(Nb)ターゲットに印加する電力を徐々に増加させながら、厚さ方向にニオブ(Nb)が増加する組成傾斜を有するRuNbからなる膜を形成した。
【0073】
次に、反射多層膜及びRuNbからなる膜を形成した基板に対して、ホットプレート方式の加熱装置で、大気雰囲気中、150℃で、15分間の熱処理を実施して、RuNbからなる膜の表面部を酸化させた。形成された酸化層の厚さは1.5nmであり、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計に対するニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率は、吸収体膜を形成する側において、70原子%であった。
【0074】
熱処理して得られた膜を、RuNbからなり、ルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)の合計に対するニオブ(Nb)の含有率が厚さ方向に10原子%から20原子%に増加する組成傾斜を有する厚さ2.4nmの(A)層と、RuNbOからなる厚さ1.5nmの(B)層とからなる保護膜とした。保護膜全体の厚さは3.9nmであった。
【0075】
次に、参考例1と同様の方法で、保護膜の上に、吸収体膜を形成した。吸収体膜を形成する前後において、基板表面中央部の142mm角内のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.27μmであった。
【0076】
[実施例2]
152mm角、6.35mm厚の低熱膨張ガラス基板(SiO2-TiO2系ガラス基板)の主表面上に、実施例1と同様にして、反射多層膜を形成した。
【0077】
次に、反射多層膜の上に、ルテニウム(Ru)ターゲットとニオブ(Nb)ターゲットを用い、両ターゲットと基板の主表面とを対向させ、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングによりRuNbからなる膜を形成した。ターゲットを2つ装着でき、ターゲットを片方ずつ又は両方同時に放電することができる別のスパッタ装置に、各々のターゲットを装着し、反射多層膜の成膜後に、大気中に取り出すことなく、反射多層膜を成膜したスパッタ装置から、真空状態を維持した搬送路を経由して、反射多層膜を成膜した基板を設置した。
【0078】
まず、チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを流しながらルテニウム(Ru)ターゲットとニオブ(Nb)ターゲットに同時に電力を印加し、時間の経過とともにニオブ(Nb)ターゲットに印加する電力を徐々に増加させながら、厚さ方向にニオブ(Nb)が増加する組成傾斜を有するRuNbからなる膜を形成した。
【0079】
次に、反射多層膜及びRuNbからなる膜を形成した基板に対して、ホットプレート方式の加熱装置で、大気雰囲気中、150℃で、15分間の熱処理を実施して、RuNbからなる膜の表面部を酸化させた。形成された酸化層の厚さは1.5nmであり、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計に対するニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率は、吸収体膜を形成する側において、88原子%であった。
【0080】
熱処理して得られた膜を、RuNbからなり、ルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)の合計に対するニオブ(Nb)の含有率が厚さ方向に15原子%から25原子%に増加する組成傾斜を有する厚さ2.4nmの(A)層と、RuNbOからなる厚さ1.5nmの(B)層とからなる保護膜とした。保護膜全体の厚さは3.9nmであった。
【0081】
次に、参考例1と同様の方法で、保護膜の上に、吸収体膜を形成した。吸収体膜を形成する前後において、基板表面中央部の142mm角内のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.23μmであった。
【0082】
[実施例3]
152mm角、6.35mm厚の低熱膨張ガラス基板(SiO2-TiO2系ガラス基板)の主表面上に、実施例1と同様にして、反射多層膜を形成した。
【0083】
次に、反射多層膜の上に、ルテニウム(Ru)ターゲットとニオブ(Nb)ターゲットを用い、両ターゲットと基板の主表面とを対向させ、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングによりRuNbからなる層と、Nbからなる層とからなる膜を形成した。ターゲットを2つ装着でき、ターゲットを片方ずつ又は両方同時に放電することができる別のスパッタ装置に、各々のターゲットを装着し、反射多層膜の成膜後に、大気中に取り出すことなく、反射多層膜を成膜したスパッタ装置から、真空状態を維持した搬送路を経由して、反射多層膜を成膜した基板を設置した。
【0084】
まず、チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを流しながらルテニウム(Ru)ターゲットとニオブ(Nb)ターゲットに同時に電力を印加し、時間の経過とともにニオブ(Nb)ターゲットに印加する電力を徐々に増加させながら、厚さ方向にニオブ(Nb)が増加する組成傾斜を有するRuNbからなる層を形成し、更に、ニオブ(Nb)ターゲットのみに電力を印加し、Nbからなる層を形成し、RuNbからなる層と、Nbからなる層とからなる膜を形成した。
【0085】
次に、反射多層膜及びRuNbからなる層と、Nbからなる層とからなる膜を形成した基板に対して、ホットプレート方式の加熱装置で、大気雰囲気中、150℃で、15分間の熱処理を実施して、RuNbからなる層と、Nbからなる層とからなる膜の表面部を酸化させた。形成された酸化層の厚さは1.5nmであり、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計に対するニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率は、吸収体膜を形成する側において、100原子%であった。
【0086】
熱処理して得られた膜を、RuNbからなり、ルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)の合計に対するニオブ(Nb)の含有率が厚さ方向に10原子%から20原子%に増加する組成傾斜を有する厚さ2.4nmの(A)層と、RuNbOからなる厚さ1nmの反射多層膜側の第1の副層、及びNbOからなる厚さ0.5nmの吸収体膜を形成する側の第2の副層で構成された(B)層とからなる保護膜とした。保護膜全体の厚さは3.9nmであった。
【0087】
次に、参考例1と同様の方法で、保護膜の上に、吸収体膜を形成した。吸収体膜を形成する前後において、基板表面中央部の142mm角内のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.23μmであった。
【0088】
[比較例1]
152mm角、6.35mm厚の低熱膨張ガラス基板(SiO2-TiO2系ガラス基板)の主表面上に、実施例1と同様にして、反射多層膜を形成した。
【0089】
次に、反射多層膜の上に、ルテニウム(Ru)ターゲットを用い、ターゲットと基板の主表面とを対向させ、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングによりRuからなる膜を形成した。ターゲットを2つ装着でき、ターゲットを片方ずつ又は両方同時に放電することができる別のスパッタ装置に、各々のターゲットを装着し、反射多層膜の成膜後に、大気中に取り出すことなく、反射多層膜を成膜したスパッタ装置から、真空状態を維持した搬送路を経由して、反射多層膜を成膜した基板を設置した。
【0090】
チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを流しながらルテニウム(Ru)ターゲットに電力を印加し、Ruからなる膜を形成し、保護膜とした。この例において、熱処理は実施しなかった。保護膜全体の厚さは3.9nmであった。
【0091】
次に、参考例1と同様の方法で、保護膜の上に、吸収体膜を形成した。吸収体膜を形成する前後において、基板表面中央部の142mm角内のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.53μmであった。
【0092】
[実施例4]
152mm角、6.35mm厚の低熱膨張ガラス基板(SiO2-TiO2系ガラス基板)の主表面上に、実施例1と同様にして、反射多層膜を形成した。
【0093】
次に、反射多層膜の上に、ルテニウム(Ru)ターゲットとニオブ(Nb)ターゲットを用い、両ターゲットと基板の主表面とを対向させ、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングによりRuNbからなる膜を形成した。ターゲットを2つ装着でき、ターゲットを片方ずつ又は両方同時に放電することができる別のスパッタ装置に、各々のターゲットを装着し、反射多層膜の成膜後に、大気中に取り出すことなく、反射多層膜を成膜したスパッタ装置から、真空状態を維持した搬送路を経由して、反射多層膜を成膜した基板を設置した。
【0094】
まず、チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを流しながらルテニウム(Ru)ターゲットとニオブ(Nb)ターゲットに同時に電力を印加し、時間の経過とともにニオブ(Nb)ターゲットに印加する電力を徐々に増加させながら、厚さ方向にニオブ(Nb)が増加する組成傾斜を有するRuNbからなる膜を形成した。
【0095】
次に、反射多層膜及びRuNbからなる膜を形成した基板に対して、ホットプレート方式の加熱装置で、大気雰囲気中、150℃で、15分間の熱処理を実施して、RuNbからなる膜の表面部を酸化させた。形成された酸化層の厚さは1.5nmであり、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計に対するニオブ(Nb)及び酸素(O)の合計の含有率は、吸収体膜を形成する側において、60原子%であった。
【0096】
熱処理して得られた膜を、RuNbからなり、ルテニウム(Ru)及びニオブ(Nb)の合計に対するニオブ(Nb)の含有率が厚さ方向に5原子%から10原子%に増加する組成傾斜を有する厚さ2.4nmの(A)層と、RuNbOからなる厚さ1.5nmの(B)層とからなる保護膜とした。保護膜全体の厚さは3.9nmであった。
【0097】
次に、参考例1と同様の方法で、保護膜の上に、吸収体膜を形成した。吸収体膜を形成する前後において、基板表面中央部の142mm角内のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.39μmであった。
【0098】
[比較例2]
152mm角、6.35mm厚の低熱膨張ガラス基板(SiO2-TiO2系ガラス基板)の主表面上に、実施例1と同様にして、反射多層膜を形成した。
【0099】
次に、反射多層膜の上に、ルテニウム(Ru)ターゲットとニオブ(Nb)ターゲットを用い、両ターゲットと基板の主表面とを対向させ、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングによりRuNbからなる膜を形成した。ターゲットを2つ装着でき、ターゲットを片方ずつ又は両方同時に放電することができる別のスパッタ装置に、各々のターゲットを装着し、反射多層膜の成膜後に、大気中に取り出すことなく、反射多層膜を成膜したスパッタ装置から、真空状態を維持した搬送路を経由して、反射多層膜を成膜した基板を設置した。
【0100】
まず、チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを流しながらルテニウム(Ru)ターゲットとニオブ(Nb)ターゲットに同時に電力を印加し、時間の経過とともにニオブ(Nb)ターゲットに印加する電力を徐々に増加させながら、厚さ方向にニオブ(Nb)が増加する組成傾斜を有するRuNbからなる膜を形成し、保護膜とした。この例において、熱処理は実施しなかった。保護膜全体の厚さは3.9nmであった。
【0101】
次に、参考例1と同様の方法で、保護膜の上に、吸収体膜を形成した。吸収体膜を形成する前後において、基板表面中央部の142mm角内のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.53μmであった。
【0102】
[参考例2]
152mm角、6.35mm厚の低熱膨張ガラス基板(SiO2-TiO2系ガラス基板)の主表面上に、厚さ59nmのTaSiN膜を形成した。TaSiN膜は、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより成膜した。チャンバー内に低熱膨張ガラス基板を設置し、Arガス(67vol%)とN2ガス(33vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.27Paとして、タンタル(Ta)ターゲットに1,620W、ケイ素(Si)ターゲットに180Wの電力を印加して形成した。
【0103】
得られたTaSiN膜を室温で大気中に取り出した後、組成を、X線光電子分光(XPS)装置(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製、K-Alpha)にて測定したところ、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)の合計に対して、タンタル(Ta)は55原子%、ケイ素(Si)は10原子%、窒素(N)は35原子%であった。得られた膜を、吸収体膜に相当する膜とした。
【0104】
得られた膜のX線回折(XRD)測定を、X線回折装置((株)リガク製、SmartLab)にて実施し、膜に含まれる結晶相を確認したところ、β-Ta結晶相、α-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相は、いずれも検出されなかった。また、吸収体膜を形成する前後において、基板表面中央部の142mm角内のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.41μmであった。
【0105】
[実施例5]
152mm角、6.35mm厚の低熱膨張ガラス基板(SiO2-TiO2系ガラス基板)の主表面上に、実施例1と同様にして、反射多層膜を形成した。次に、反射多層膜の上に、実施例1と同様にして、保護膜を形成した。
【0106】
次に、参考例2と同様の方法で、保護膜の上に、吸収体膜を形成した。吸収体膜を形成する前後において、基板表面中央部の142mm角内のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.37μmであった。
まず、チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを流しながらケイ素(Si)ターゲットに電力を印加し、厚さ4nmのケイ素(Si)層を形成し、ケイ素(Si)ターゲットへの電力の印加を停止した。次に、チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを流しながら、モリブデン(Mo)ターゲットに電力を印加し、厚さ3nmのモリブデン(Mo)層を形成し、モリブデン(Mo)ターゲットへの電力の印加を停止した。これらケイ素(Si)層とモリブデン(Mo)層とを形成する操作を1サイクルとし、これを40サイクル繰り返して、40サイクル目のモリブデン(Mo)層を形成した後、最後に、上記の方法でケイ素(Si)層を4nm形成して反射多層膜とした。
次に、反射多層膜の上に、ルテニウム(Ru)ターゲットを用い、ターゲットと基板の主表面とを対向させ、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングによりRuからなる膜を形成した。ターゲットを2つ装着でき、ターゲットを片方ずつ又は両方同時に放電することができる別のスパッタ装置に、ターゲットを装着し、反射多層膜の成膜後に、大気中に取り出すことなく、反射多層膜を成膜したスパッタ装置から、真空状態を維持した搬送路を経由して、反射多層膜を成膜した基板を設置した。