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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089162
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の炭酸化予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204356
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西山 沙友里
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小田部 裕一
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造物におけるCO吸収固定量に基づいて、コンクリート構造物の炭酸化を予測できるコンクリート構造物の炭酸化予測方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物の炭酸化を予測する方法であって、下記工程(1)~(3)を含む、コンクリート構造物の炭酸化予測方法。
(1)コンクリート構造物におけるCO吸収固定量の最大値(CO(∞))を得る工程。
(2)任意の材齢(t)におけるコンクリート構造物のCO吸収固定量(CO(t))を得る工程。
(3)工程(1)で得られたCO(∞)、及び、工程(2)で得られたCO(t)を用いて、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の炭酸化を予測する方法であって、下記工程(1)~(3)を含む、コンクリート構造物の炭酸化予測方法。
(1)コンクリート構造物におけるCO吸収固定量の最大値(CO(∞))を得る工程。
(2)任意の材齢(t)におけるコンクリート構造物のCO吸収固定量(CO(t))を得る工程。
(3)工程(1)で得られたCO(∞)、及び、工程(2)で得られたCO(t)を用いて、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る工程。
【請求項2】
工程(3)が、下記工程(31)及び(32)を含む、請求項1に記載のコンクリート構造物の炭酸化予測方法。
(31)工程(1)で得られたCO(∞)、及び、工程(2)で得られたCO(t)を用いて、下記式(1)における係数α及び/又はβを求める工程。
(32)工程(31)で求めた係数α及び/又はβを代入した下記式(1)に基づき、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る工程。
【数1】
(式(1)中、tは材齢、CO(t)は材齢tにおけるCO吸収固定量、CO(∞)はCO吸収固定量の最大値、α及びβは係数、を表す。)
【請求項3】
さらに、下記工程(4)及び(5)を含む、請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の炭酸化予測方法。
(4)任意の材齢(t)におけるコンクリート構造物の中性化深さ(X(t))を得る工程。
(5)工程(2)で得られたCO(t)、及び、工程(4)で得られたX(t)を用いて、コンクリート構造物のCO吸収固定量と中性化深さとの関係を得る工程。
【請求項4】
コンクリート構造物が鉄筋を備え、
さらに、下記工程(6)を含む、請求項3に記載のコンクリート構造物の炭酸化予測方法。
(6)工程(5)で得られた関係を用いて、コンクリート構造物のCO吸収固定量から中性化深さを予測し、該中性化深さと、かぶり厚さと、を比較する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の炭酸化予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の劣化現象の一つとして、コンクリート構造物が大気中の二酸化炭素(CO)を吸収し、該コンクリート構造物のアルカリ性が低下する炭酸化(中性化)という現象が知られている。この炭酸化は、時間の経過とともに、コンクリート構造物の表面から内部に向かって進行する。そして、例えば、鉄筋コンクリート構造物の場合、鉄筋周辺のコンクリートが炭酸化することにより、該鉄筋が腐食し易くなる。その結果、コンクリート構造物の耐荷力、長期耐久性等が低下する虞がある。
【0003】
従来、この炭酸化現象に対しては、炭酸化の進行を遅らせるために打設するコンクリートを緻密にする、コンクリートのかぶり厚さを十分に確保する、樹脂等で被覆を施した鉄筋を用いる等の対策が取られている。また、コンクリート構造物がどの程度炭酸化しているかを把握するため、例えば、特許文献1には、既存建物のコンクリートの中性化深さを予測する予測式を得る方法が開示されている。具体的には、コンクリートの経過年数、コンクリートがおかれた環境の空気のCO濃度、コンクリート上のモルタルの厚さ、コンクリート上の化粧建材の厚さとの関係式を用いて、既存建物のコンクリートの中性化深さを予測する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-12710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで、コンクリート構造物の炭酸化は劣化現象として捉えられていて、コンクリート構造物がCOを吸収・固定する点には着目されていなかった。ところが、近年になり、カーボンニュートラル機運の上昇により、コンクリート構造物におけるCOを吸収・固定する性能に関心が高まっている。
【0006】
しかしながら、コンクリート構造物の材齢に応じて、コンクリート構造物がどの程度の量のCOを吸収・固定しているのか、また、コンクリート構造物が吸収・固定したCO量(以下において、「CO吸収固定量」と記載することがある。)とコンクリート構造物の中性化深さとの関係性も見出されていない。そのため、コンクリート構造物のCO吸収固定量に基づき、コンクリート構造物の炭酸化を予測することが求められている。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、コンクリート構造物のCO吸収固定量に基づき、コンクリート構造物の炭酸化を予測できるコンクリート構造物の炭酸化予測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
コンクリート構造物の炭酸化予測方法は、コンクリート構造物の炭酸化を予測する方法であって、下記工程(1)~(3)を含む。
(1)コンクリート構造物におけるCO吸収固定量の最大値(CO(∞))を得る工程。
(2)任意の材齢(t)におけるコンクリート構造物のCO吸収固定量(CO(t))を得る工程。
(3)工程(1)で得られたCO(∞)、及び、工程(2)で得られたCO(t)を用いて、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る工程。
【0009】
本発明に係るコンクリート構造物の炭酸化予測方法は、斯かる構成により、コンクリート構造物におけるCO吸収固定量に基づき、コンクリート構造物の炭酸化を予測できる。
【0010】
コンクリート構造物の炭酸化予測方法は、工程(3)が、下記工程(31)及び(32)を含んでもよい。
(31)工程(1)で得られたCO(∞)、及び、工程(2)で得られたCO(t)を用いて、下記式(1)における係数α及び/又はβを求める工程。
(32)工程(31)で求めた係数α及び/又はβを代入した下記式(1)に基づき、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る工程。
【数1】

(式(1)中、tは材齢、CO(t)は材齢tにおけるCO吸収固定量、CO(∞)はCO吸収固定量の最大値、α及びβは係数、を表す。)
【0011】
本発明に係るコンクリート構造物の炭酸化予測方法は、斯かる構成により、より精度良く、コンクリート構造物におけるCO吸収固定量を得ることができる。
【0012】
コンクリート構造物の炭酸化予測方法は、さらに、下記工程(4)及び(5)を含んでもよい。
(4)任意の材齢(t)におけるコンクリート構造物の中性化深さ(X(t))を得る工程。
(5)工程(2)で得られたCO(t)、及び、工程(4)で得られたX(t)を用いて、コンクリート構造物のCO吸収固定量と中性化深さとの関係を得る工程。
【0013】
本発明に係るコンクリート構造物の炭酸化予測方法は、斯かる構成により、コンクリート構造物におけるCO吸収固定量に基づき、さらにコンクリート構造物の中性化深さを予測できるため、劣化の進行度合いを把握できる。
【0014】
コンクリート構造物の炭酸化予測方法は、コンクリート構造物が鉄筋を備え、さらに、下記工程(6)を含んでもよい。
(6)工程(5)で得られた関係を用いて、コンクリート構造物のCO吸収固定量から中性化深さを予測し、該中性化深さと、かぶり厚さと、を比較する工程。
【0015】
本発明に係るコンクリート構造物の炭酸化予測方法は、斯かる構成により、コンクリート構造物が備える鉄筋の健全性を照査できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コンクリート構造物におけるCO吸収固定量に基づき、コンクリート構造物の炭酸化を予測できるコンクリート構造物の炭酸化予測方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例におけるコンクリート構造物のCO吸収固定量と中性化深さとの関係を示すグラフである。
図2図2は、試験例1により得られた材齢とCO吸収固定量との関係を示すグラフである。
図3図3は、試験例2により得られた中性化深さとCO固定化率との関係を示すグラフである。
図4図4は、試験例2により得られた材齢とCO吸収固定量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態に係るコンクリート構造物の炭酸化予測方法について説明する。
【0019】
<炭酸化予測方法>
本実施形態に係る炭酸化予測方法は、コンクリート構造物の炭酸化を予測する方法であって、下記工程(1)~(3)を含む。
(1)コンクリート構造物におけるCO吸収固定量の最大値(CO(∞))を得る工程。
(2)任意の材齢(t)におけるコンクリート構造物のCO吸収固定量(CO(t))を得る工程。
(3)工程(1)で得られたCO(∞)、及び、工程(2)で得られたCO(t)を用いて、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る工程。
【0020】
工程(1)は、コンクリート構造物におけるCO吸収固定量の最大値(CO(∞))を得る工程である。なお、CO(∞)は、コンクリート構造物が吸収・固定し得る最大のCO量を意味する。
【0021】
コンクリート構造物のCO吸収固定量は、コンクリート構造物を構成するコンクリートの組成、配合等によって変わる。そこで、CO(∞)は、例えば、対象となるコンクリート構造物と同じ組成及び配合で作製された供試体を用いて得る。なお、本明細書において、コンクリート構造物と同じ配合で作製された供試体は、コンクリート、モルタル、セメントペーストから作製されたものを含む。
【0022】
CO(∞)は、一例として、促進中性化試験により得ることができる。促進中性化試験は、雰囲気中のCO濃度を高くすることによってコンクリートの炭酸化(中性化)を促進させる試験であり、JIS A 1153:2012に規定される。CO濃度は、例えば、1.0%以上15.0%以下の範囲とする。CO(∞)は、促進中性化試験によってCO濃度の高い雰囲気中に所定時間曝された供試体のCO吸収固定量を測定することで得ることができる。具体的には、供試体のCO吸収固定量は、前記雰囲気中に曝した曝露時間に応じて増加するため、曝露時間を順次増やして、CO吸収固定量が増加しなくなるまで複数回の測定を行う。そして、例えば、曝露時間が2番目に長い供試体のCO吸収固定量の値に対して、曝露時間が最も長い供試体のCO吸収固定量の値が-5%以上+2%以下の範囲となったら、その時の曝露時間が最も長い供試体のCO吸収固定量をCO(∞)として判断してもよい。なお、CO吸収固定量の測定は、公知の方法で行えばよい。CO吸収固定量の測定としては、例えば、熱重量-示差熱同時分析(TG-DTA)法による測定、クーロメーター法による測定、TOC計を用いた測定、元素分析計を用いた測定等が挙げられる。
【0023】
CO(∞)を得る別の態様としては、促進中性化試験によって炭酸化を促進させることなく、実環境下(屋外又は屋内)に長時間曝された供試体を用いてCO(∞)を得てもよい。その際、供試体のCO吸収固定量が最大値に達しているかは、上述の判断と同じであってもよい。
【0024】
工程(2)は、任意の材齢(t)におけるコンクリート構造物のCO吸収固定量(CO(t))を得る工程である。
【0025】
工程(2)では、対象のコンクリート構造物と同じ組成及び配合の供試体を用いてCO(t)を得てもよいし、対象となるコンクリート構造物自体を用いてCO(t)を得てもよい。また、供試体を用いる場合、供試体は、促進中性化試験によって炭酸化を促進させたものであってもよいし、実環境下(屋外又は屋内)に曝露したものであってもよい。
【0026】
工程(2)では、コンクリート構造物の材齢(t)におけるCO(t)を得ることができれば、その方法は特に限定はない。CO(t)を得る方法としては、例えば、任意の材齢(t)において、実環境下(屋外又は屋内)でCO(t)を測定する方法、任意の材齢(t)におけるコンクリート構造物の中性化深さ(X(t))からCO固定化率を求めた後、CO(t)を得る方法等が挙げられる。なお、CO固定化率とは、セメント中のCaOがCOと反応してCaCOとなった割合を示す値である。
【0027】
CO(t)の測定は、工程(1)と同様に、公知の方法で行えばよい。CO(t)の測定は、炭酸化予測の精度を高くする観点から、暴露時間を1ヶ月~5年とし、その間に、好ましくは、3回以上の測定を行う。測定回数は、炭酸化予測の精度を高くする観点から多いほど好ましいが、測定を簡略化する観点から、好ましくは、10回以下である。
【0028】
工程(3)は、工程(1)で得られたCO(∞)、及び、工程(2)で得られたCO(t)を用いて、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る工程である。
【0029】
CO(∞)、各材齢tにおけるCO(t)を用いて得られるコンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係は、コンクリート構造物の材齢からコンクリート構造物のCO吸収固定量を予測できれば、特に限定はない。
【0030】
本実施形態に係る炭酸化予測方法において、工程(3)は、好ましくは、下記工程(31)及び(32)を含み、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る。
(31)工程(1)で得られたCO(∞)、及び、工程(2)で得られたCO(t)を用いて、下記式(1)における係数α及び/又はβを求める工程。
(32)工程(31)で求めた係数α及び/又はβを代入した下記式(1)に基づき、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る工程。
【0031】
【数2】
【0032】
式(1)中、tは材齢、CO(t)は材齢tにおけるCO吸収固定量、CO(∞)はCO吸収固定量の最大値、α及びβは係数、を表す。
【0033】
工程(31)は、工程(1)で得られたCO(∞)、及び、工程(2)で得られたCO(t)を用いて、上記式(1)における係数α及び/又はβを求める工程である。
【0034】
工程(31)では、CO(∞)と、各材齢tにおけるCO(t)から式(1)に沿うようにα及びβの係数を決定する。係数α、βは、例えば、Origin、Deltagraph、KaleidaGraph等の公知のソフトを用いて計算により決定してもよい。
【0035】
係数α、βを決定する際、α、βの両方を計算により決定してもよいし、α、βのいずれか一方をあらかじめ定数として固定して、他方の係数を計算により決定してもよい。例えば、βの値をあらかじめ定数として固定して、αの値を計算により決定してもよい。α、βは、材齢tからCO吸収固定量を予測する精度を向上させる観点から、好ましくは、α、βの両方を計算により決定する。
【0036】
工程(32)は、工程(31)で求めた係数α及び/又はβを代入した式(1)に基づき、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る工程である。
【0037】
工程(32)では、工程(31)において係数α、βのいずれか一方をあらかじめ定数として固定した場合には、計算により得られたα又はβの値を式(1)に代入する。また、工程(31)において係数α、βの両方を計算により決定した場合には、計算により得られたα及びβの値を式(1)に代入する。これにより、対象のコンクリート構造物での材齢とCO吸収固定量との関係が得られる。
【0038】
本実施形態に係る炭酸化予測方法は、さらに下記工程(4)及び(5)を含んでいてもよい。
(4)任意の材齢(t)におけるコンクリート構造物の中性化深さ(X(t))を得る工程。
(5)工程(2)で得られたCO(t)、及び、工程(4)で得られたX(t)を用いて、コンクリート構造物のCO吸収固定量と中性化深さとの関係を得る工程。
【0039】
工程(4)は、任意の材齢(t)におけるコンクリート構造物の中性化深さ(X(t))を得る工程である。
【0040】
工程(4)では、コンクリート構造物の中性化深さ(X(t))を得るために、コンクリート構造物の材齢tにおけるX(t)を得る。X(t)の測定は、公知の方法により行うことができ、例えば、JIS A 1152:2018で規定された方法で行ってもよい。工程(4)では、対象のコンクリート構造物と同じ組成及び配合の供試体を用いてX(t)を得てもよいし、対象となるコンクリート構造物自体を用いてX(t)を得てもよい。また、供試体を用いる場合、供試体は、促進中性化試験によって炭酸化を促進させたものであってもよいし、実環境下(屋外又は屋内)に曝露したものであってもよい。
【0041】
X(t)の測定は、材齢tを変えて複数回行われる。X(t)を測定する回数は、コンクリート構造物のCO吸収固定量と中性化深さとの関係を精度よく得る観点から、好ましくは、3回以上である。X(t)を測定する回数は、コンクリート構造物のCO吸収固定量と中性化深さとの関係を精度よく得る観点から多いほど好ましいが、測定を簡略化する観点から、好ましくは、10回以下である。
【0042】
工程(5)は、工程(2)で得られたCO(t)、及び、工程(4)で得られたX(t)を用いて、コンクリート構造物のCO吸収固定量と中性化深さとの関係を得る工程である。
【0043】
工程(5)によって、コンクリート構造物の材齢tにおける、CO(t)とX(t)との関係が得られるため、例えば、コンクリート構造物のCO吸収固定量に基づき、中性化深さを予測できる。その結果、コンクリート構造物の劣化の進行度合いを把握できる。
【0044】
本実施形態に係る炭酸化予測方法は、コンクリート構造物が鉄筋を備えた際、さらに下記工程(6)を含んでいてもよい。
(6)工程(5)で得られた関係を用いて、コンクリート構造物のCO吸収固定量から中性化深さを予測し、該中性化深さと、かぶり厚さと、を比較する工程。
【0045】
コンクリート構造物が鉄筋を備える場合、コンクリート構造物の中性化深さが、コンクリート構造物のかぶり厚さよりも大きくなると鉄筋が腐食し易くなる。よって、予測された中性化深さと、かぶり厚さと、を比較することにより、鉄筋の腐食の可能性、すなわち鉄筋の健全性を照査することができる。なお、コンクリート構造物のかぶり厚さとは、鉄筋からコンクリート構造物の表面までの最短距離をいう。
【0046】
(第1の態様)
以下、本実施形態に係る第1の態様について説明する。
【0047】
本態様では、まず、対象となるコンクリート構造物と同じ組成及び配合で作製された供試体を用いて、上述の促進中性化試験により、高濃度CO環境下での任意の材齢(t1)における前記供試体のCO(t1)を測定する。そして、材齢(t1)を変えてCO(t1)の測定を複数回行うことにより、供試体におけるCO(∞)を得る(工程(1))。
【0048】
次に、対象のコンクリート構造物と同じ組成及び配合の供試体を実環境下(屋外又は屋内)に暴露し、任意の材齢(t2)における該供試体のCO(t2)を得る(工程(2))。なお、CO(t2)は、実環境下において測定することなく、文献等の値を引用してもよい。
【0049】
続いて、工程(1)で得られたCO(∞)、及び、工程(2)で得られたCO(t2)を用いて、下記式(1’)における係数α1及び/又はβ1を求める(工程(31))。そして、工程(31)で求めた係数α1及び/又はβ1を代入した下記式(1’)に基づき、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る(工程(32))。
【0050】
【数3】
【0051】
(第2の態様)
以下、本実施形態に係る第2の態様について説明する。
【0052】
本態様では、まず、対象となるコンクリート構造物と同じ組成及び配合で作製された供試体を用いて、上述の促進中性化試験により、高濃度CO環境下での任意の材齢(t1)における前記供試体のCO(t1)及び中性化深さX(t1)を測定する。そして、材齢(t1)を変えてCO(t1)の測定を複数回行うことにより、供試体におけるCO(∞)を得る(工程(1))。なお、X(t1)の測定は、上述の工程(4)において中性化深さを得る方法として記載した公知の方法により行うことができる。
【0053】
次に、工程(1)でCO(∞)を得る過程において得られた任意の材齢(t1)における供試体のCO(t1)を用いて、下記式(2)に基づき、CO固定化率(Y(t1))を得る。
【0054】
【数4】
【0055】
式(2)中、Y(t1)は材齢t1におけるCO固定化率、CO(t1)は材齢t1におけるCO吸収固定量、Cは単位セメント量(kg/m)、CaOはセメント中のCaO量(%)、MCOはCOのモル質量(44.0g/mol)、MCaOはCaOのモル質量(56.1g/mol)、を表す。
【0056】
そして、任意の材齢(t1)における中性化深さX(t1)及びCO固定化率(Y(t1))を用いて、下記式(3)における係数α2及び/又はβ2を求める。そして、求めた係数α2及び/又はβ2を代入した下記式(3)に基づき、供試体の中性化深さX(t1)とCO固定化率(Y(t1))との関係を得る。なお、係数α2、β2は、上述の公知のソフトを用いて計算により決定してもよい。
【0057】
【数5】
【0058】
式(3)中、Y(t1)は材齢t1におけるCO固定化率、Y(∞)はCO固定化率の最大値、X(t1)は材齢t1における中性化深さ(mm)、α2及びβ2は係数、を表す。なお、Y(∞)は、CO(∞)の値を上記式(2)に代入して得ることができる。
【0059】
上記式(3)によって、中性化深さとCO固定化率の関係が得られたので、例えば、長期材齢のコンクリート構造物において任意の長期材齢t3における中性化深さ(X(t3))がわかれば、前記コンクリート構造物のCO固定化率Y(t3)を得ることができる。なお、X(t3)は、実環境下における測定によって得てもよく、文献等の値を引用してもよい。
【0060】
その後、得られたY(t3)を下記式(4)に代入することで、長期材齢t3におけるCO(t3)を得ることができる(工程(2))。
【0061】
【数6】
【0062】
式(4)中、CO(t3)は長期材齢t3におけるCO吸収固定量、Y(t3)は長期材齢t3におけるCO固定化率、Cは単位セメント量(kg/m)、CaOはセメント中のCaO量(%)、MCOはCOのモル質量(44.0g/mol)、MCaOはCaOのモル質量(56.1g/mol)、を表す。
【0063】
続いて、工程(1)で得られたCO(∞)、及び、工程(2)で得られたCO(t3)を用いて、下記式(1’’)における係数α3及び/又はβ3を求める(工程(31))。そして、工程(31)で求めた係数α3及び/又はβ3を代入した下記式(1’’)に基づき、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得る(工程(32))。
【0064】
【数7】
【実施例0065】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
<供試体の作製>
単位セメント量:250kg/m、セメント中のCaO:65.25%であるコンクリートの供試体を作製した。
【0067】
<促進中性化試験>
作製した供試体を用いて、JIS A 1153:2012に規定の促進中性化試験(CO濃度5%)に基づき、各材齢(曝露時間)t1におけるCO吸収固定量(CO(t1))、及び、中性化深さ(X(t1))を測定した。なお、CO(t1)の測定は、STA2500(TG-DTA同時測定装置)(NETZSCH製)を用いTG-DTA法によって行い、X(t1)の測定は、JIS A 1152:2018に規定のコンクリートの中性化深さの測定方法に基づき行った。結果を表1に示す。また、CO吸収固定量と中性化深さとの関係を示したグラフを図1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
<CO(∞)の取得>
表1から、材齢182日のCO吸収固定量は、材齢91日のCO吸収固定量に対して+1.2%となり、-5%以上+2%以下の範囲内となる。したがって、材齢182日のCO吸収固定量である80kg・CO/mをCO(∞)とした。
【0070】
<試験例1>
作製した供試体を大気中に曝して、材齢t2におけるCO(t2)を測定した。CO(t2)の測定は、上述の方法と同様である。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
次に、表2の材齢を横軸、CO吸収固定量を縦軸にプロットし、プロットに沿うように上記式(1’)の係数α1、β1を決定した。係数α1及びβ1の計算には、グラフ作成データ解析用ソフトOriginを用いた。計算の結果、α1は1.22×10-3、β1は0.74であった。得られたα1及びβ1を上記式(1’)に代入し、得られた材齢とCO吸収固定量との関係を図2に示す。以上より、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を取得できた。
【0073】
<試験例2>
表1で得られたCO吸収固定量(CO(t1))を上記式(2)に代入して、CO固定化率(Y(t1))を得た。得られた結果を表3に示す。また、表3には、表1で得られた中性化深さ(X(t1))も併せて示す。なお、Y(∞)は、CO(∞)の値80kg・CO/mを上記式(2)に代入して0.625とした。
【0074】
【表3】
【0075】
次に、表3の中性化深さを横軸、CO固定化率を縦軸にプロットし、プロットに沿うように上記式(3)の係数α2、β2を決定した。係数α2及びβ2の計算には、グラフ作成データ解析用ソフトOriginを用いた。計算の結果、α2は7.07×10-4、β2は3.07であった。得られたα2及びβ2を上記式(3)に代入し、得られた中性化深さとCO固定化率との関係を図3に示す。以上より、中性化深さとCO固定化率との関係を得た。
【0076】
続いて、あらかじめ測定していた、大気中に長期曝露したコンクリート構造物の長期材齢t3における中性化深さ(X(t3))を得た。得られたX(t3)を係数α2及びβ2が代入された上記式(3)へ代入して、各材齢t3におけるCO固定化率(Y(t3))を得た。その後、得られたY(t3)を上記式(4)に代入し、CO吸収固定量(CO(t3))を得た。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
次に、表4の材齢を横軸、CO吸収固定量を縦軸にプロットし、プロットに沿うように上記式(1’’)の係数α3、β3を決定した。係数α3及びβ3の計算には、グラフ作成データ解析用ソフトOriginを用いた。計算の結果、α3は8.69×10-6、β3は1.19であった。得られたα3及びβ3を上記式(1’’)に代入し、得られた材齢とCO吸収固定量との関係を図4に示す。以上より、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を取得することができた。
【0079】
以上より、試験例1、試験例2のいずれの方法であっても、コンクリート構造物の材齢とCO吸収固定量との関係を得ることができた。したがって、コンクリート構造物における材齢からCO吸収固定量に基づき、コンクリート構造物の炭酸化を予測できることが示された。
図1
図2
図3
図4