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特開2024-89230成型プレス用金型装置及びプレス成型方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089230
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】成型プレス用金型装置及びプレス成型方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 37/16 20060101AFI20240626BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
B21D37/16
B21D24/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204471
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(71)【出願人】
【識別番号】392026073
【氏名又は名称】ハシダ技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】首代 英樹
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 慶介
(72)【発明者】
【氏名】伊田 展充
(72)【発明者】
【氏名】北川 勝也
(72)【発明者】
【氏名】花畑 明博
【テーマコード(参考)】
4E050
4E137
【Fターム(参考)】
4E050GA02
4E050GA04
4E137AA10
4E137BA02
4E137BA05
4E137BA07
4E137BB01
4E137CA09
4E137DA02
4E137EA01
4E137EA26
4E137FA02
4E137FA15
4E137FA25
(57)【要約】
【課題】成型プレス機によってプレス成型された加工対象物の成型精度を安定化する。
【解決手段】一実施形態に係る成型プレス用金型装置は、成型プレス機で用いられる成型プレス用金型装置であって、上下一対の金型と、金型を加熱するためのヒータと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成型プレス機で用いられる成型プレス用金型装置であって、
上下一対の金型と、
前記金型を加熱するためのヒータと、
を備える、
成型プレス用金型装置。
【請求項2】
前記ヒータが取り付けられていて、前記上下一対の金型とは別部材であるライナ、
を備える、
請求項1に記載の成型プレス用金型装置。
【請求項3】
前記上下一対の金型は、上側金型と下側金型とを含み、
前記上下一対の金型の内の上側金型を保持する上側ホルダと、
前記上下一対の金型の内の下側金型を保持する下側ホルダと、
を備え、
前記ライナは、
前記上側金型と共に前記上側ホルダに保持される上側ライナと、
前記下側金型と共に前記下側ホルダに保持される下側ライナと、
を含み、
前記ヒータは、前記上側ライナ及び前記下側ライナにそれぞれ取り付けられている、
請求項2に記載の成型プレス用金型装置。
【請求項4】
前記上側ライナは、前記上側金型よりも上方で前記上側ホルダに保持され、
前記下側ライナは、前記下側金型よりも下方で前記下側ホルダに保持される、
請求項3に記載の成型プレス用金型装置。
【請求項5】
前記上側ライナは、前記上側ホルダに着脱自在に保持され、
前記下側ライナは、前記下側ホルダに着脱自在に保持される、
請求項3又は4に記載の成型プレス用金型装置。
【請求項6】
前記上側ライナ及び前記下側ライナは、前記ヒータを配置するための溝又は孔が形成されている、
請求項3又は4に記載の成型プレス用金型装置。
【請求項7】
前記ヒータで加熱された前記上下一対の金型のプレス面における表面温度は、80℃以下である、
請求項1又は2に記載の成型プレス用金型装置。
【請求項8】
前記上下一対の金型による加工対象物は、厚さが1mm以下の金属性の薄板である、
請求項1又は2に記載の成型プレス用金型装置。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の成型プレス用金型装置を用いて、成型プレス機によって加工対象物をプレス成型する、
プレス成型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成型プレス用金型装置及びプレス成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば金属製の薄板等の加工対象物をプレス成型によって所望の形状に加工するプレス成型方法が知られている。
例えば特許文献1には、金属製の薄板をプレス装置によってプレス加工することで、プレート式熱交換器用の熱交換用プレートの凹凸のある伝熱面を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-285682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば特許文献1に記載の熱交換用プレートのような薄板に凹凸を形成するプレス成型において、成型後の加工対象物について比較的高い成型精度が要求される場合、加工対象物の引っ張り強さのばらつきの影響を無視できない場合がある。
加工対象物の引っ張り強さは、加工対象物の材料の仕様上許容されるばらつきの他にも、加工対象物の温度にも依存する。そのため、例えば、加工対象物の引っ張り強さが加工対象物の材料の仕様上許容される範囲の上限付近の値となる場合に、さらに冬季等、周囲の温度が低くなる環境下においては、規定の加圧圧力では成型後の加工対象物の成型精度を満足できなくなるおそれがある。
このような場合には、例えば加工対象物を加圧した状態で保持する保持時間を延長することや、加圧圧力を増加させる等の対応を取ることが考えられる。しかし、保持時間の延長は、プレス加工に要する時間が長くなることから生産性の低下を招く。そこで、加圧圧力を増加させることで対応する場合、成型プレス機の圧力能力の範囲内で加圧圧力を増加させることになる。
しかし、成型プレス機の圧力能力に余裕がない場合には、加圧圧力を増加させることで対応することが難しい。
【0005】
本開示の少なくとも一実施形態は、上述の事情に鑑みて、成型プレス機によってプレス成型された加工対象物の成型精度を安定化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る成型プレス用金型装置は、
成型プレス機で用いられる成型プレス用金型装置であって、
上下一対の金型と、
前記金型を加熱するためのヒータと、
を備える。
【0007】
(2)本開示の少なくとも一実施形態に係るプレス成型方法は、
上記(1)に記載の成型プレス用金型装置を用いて、成型プレス機によって加工対象物をプレス成型する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、成型プレス機によってプレス成型された加工対象物の成型精度を安定化できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態の成型プレス用金型装置の全体構成を示す図である。
図2】一実施形態の成型プレス用金型装置の模式的な正面図である。
図3】一実施形態に係る金型装置を用いたプレス成型方法における処理手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
図1は、一実施形態の成型プレス用金型装置の全体構成を示す図である。
図2は、一実施形態の成型プレス用金型装置の模式的な正面図である。
一実施形態に係る成型プレス用金型装置1は、成型プレス機3で用いられる成型プレス用金型装置である。以下の説明では、成型プレス用金型装置1のことを単に金型装置1とも称する。一実施形態に係る金型装置1は、上型1Uと、下型1Lとを備えている。なお、図1及び図2では、下型1Lに対して上型1Uを上下方向に移動可能に案内するためのガイド等の記載を省略している。また、図2では、金型装置1の組み立て後の状態よりも上型1Uと下型1Lとの間隔を空けた状態で図示している。
また、一実施形態に係る金型装置1は、後述するヒータ21を制御するためのヒータ制御装置9を備えている。
【0012】
一実施形態に係る金型装置1は、成型プレス機3のボルスタ3a上に設置され、上下動するスライド3bによって上型1Uが圧下されることで、後述する上下一対の金型8によって加工対象物11である金属製の薄板を所望の形状にプレス成型するように構成されている。
【0013】
(上型1U)
一実施形態に係る金型装置1では、上型1Uは、上側ホルダ5Uと、上側ライナ6Uと、上側金型8Uとを主要構成要素として含んでいる。
上側ホルダ5Uは、上下一対の金型8の内の上側金型8Uと、上側ライナ6Uとを保持するためのホルダである。
【0014】
上側ライナ6Uは、上側ホルダ5Uと上側金型8Uとの間に配置されていて、上側金型8Uと共に上側ホルダ5Uに保持されるライナである。上側ライナ6Uは、後述するようにヒータ21が取り付けられていて、上下一対の金型8とは別部材である。
一実施形態に係る金型装置1では、上側ライナ6Uは、上側ホルダ5Uの下面に取り付けられている。
一実施形態に係る金型装置1では、上側ライナ6Uの下面には、複数の溝6aが形成されている。複数の溝6aは、上側金型8Uを加熱するためのヒータ21を上側ライナ6Uに配置するため溝である。図2に示す例では、複数の溝6aは、図示奥行方向に延在しており、図示左右方向に間隔を空けて設けられている。
上述したように、複数の溝6aには、ヒータ21がそれぞれ配置されている。ヒータ21は、例えばシーズヒータのような棒状のヒータである。
【0015】
一実施形態に係る金型装置1では、上側ライナ6Uの例えば側面から上側ライナ6Uの内部に向かって形成された複数の孔6bが設けられている。複数の孔6bは、上側金型8Uを加熱するためのヒータ21を上側ライナ6Uに配置するため孔である。図2に示す例では、複数の孔6bは、図示左右方向に延在しており、図示奥行方向に間隔を空けて設けられている。
上述したように、複数の孔6bには、ヒータ21がそれぞれ配置されている。
【0016】
一実施形態に係る金型装置1では、上側ライナ6Uの溝6aや孔6bとヒータ21との間の隙間には、熱伝導性が良好なパテなどの充填材31が充填されているとよい。
【0017】
一実施形態に係る金型装置1では、上側ライナ6Uは、上側ホルダ5Uに着脱自在に保持されている。
なお、後述するように、ヒータ21によって上側金型8Uを加熱する必要がない場合には、上側ライナ6Uは、上型1Uから取り外され、ヒータ21や、ヒータ21を配置するための溝6aや孔6b等が設けられていない不図示のライナが上型1Uに取り付けられる。
【0018】
上側金型8Uは、一実施形態に係る金型装置1による加工対象物11である金属製の薄板を所望の形状にプレス成型するためのプレートパターンが下面に形成された型である。
なお本実施形態では、加工対象物11は、例えば厚さが1mm以下の金属性の薄板である。
一実施形態に係る金型装置1では、上側金型8Uは、上側ライナ6Uの下面に取り付けられている。すなわち、上側ライナ6Uは、上側金型8Uよりも上方で上側ホルダ5Uに保持されている。
【0019】
(下型1L)
一実施形態に係る金型装置1では、下型1Lは、下側ホルダ5Lと、下側ライナ6Lと、ダイライナ7と、下側金型8Lとを主要構成要素として含んでいる。
下側ホルダ5Lは、上下一対の金型8の内の下側金型8Lと、ダイライナ7と、下側ライナ6Lとを保持するためのホルダである。
【0020】
下側ライナ6Lは、下側ホルダ5Lとダイライナ7との間に配置されていて、下側金型8Lと共に下側ホルダ5Lに保持されるライナである。下側ライナ6Lは、後述するようにヒータ21が取り付けられていて、上下一対の金型8とは別部材である。
一実施形態に係る金型装置1では、下側ライナ6Lは、下側ホルダ5Lの下面に取り付けられている。
一実施形態に係る金型装置1では、下側ライナ6Lの上面には、複数の溝6aが形成されている。複数の溝6aは、下側金型8Lを加熱するためのヒータ21を下側ライナ6Lに配置するため溝である。図2に示す例では、複数の溝6aは、図示奥行方向に延在しており、図示左右方向に間隔を空けて設けられている。
上述したように、複数の溝6aには、ヒータ21がそれぞれ配置されている。
【0021】
一実施形態に係る金型装置1では、下側ライナ6Lの例えば側面から下側ライナ6Lの内部に向かって形成された複数の孔6bが設けられていてもよい。この複数の孔6bは、図示左右方向に延在していて、図示奥行方向に間隔を空けて設けられていてもよい。この複数の孔6bには、下側金型8Lを加熱するためのヒータ21が設けられていてもよい。
【0022】
一実施形態に係る金型装置1では、下側ライナ6Lの溝6aや孔6bとヒータ21との間の隙間には、熱伝導性が良好なパテなどの充填材31が充填されているとよい。
【0023】
一実施形態に係る金型装置1では、下側ライナ6Lは、下側ホルダ5Lに着脱自在に保持されている。
なお、後述するように、ヒータ21によって下側金型8Lを加熱する必要がない場合には、下側ライナ6Lは、下型1Lから取り外され、ヒータ21や、ヒータ21を配置するための溝6a等が設けられていない不図示のライナが下型1Lに取り付けられる。
【0024】
ダイライナ7は、下側ライナ6Lと下側金型8Lとの間に配置されたライナである。
一実施形態に係る金型装置1では、ダイライナ7は、下側ライナ6Lの上面に取り付けられている。ダイライナ7は、例えば下側金型8Lの高さ位置を所望の高さ位置に配置するための高さ調整部材としての役割を果たす。
【0025】
下側金型8Lは、加工対象物11を所望の形状にプレス成型するためのプレートパターンが上面に形成された型である。
一実施形態に係る金型装置1では、下側金型8Lは、ダイライナ7の上面に取り付けられている。すなわち、下側ライナ6Lは、下側金型8Lよりも下方で下側ホルダ5Lに保持されている。
【0026】
(一実施形態に係る金型装置1による利点について)
一実施形態に係る金型装置1では、加工対象物11に凹凸を形成することができる。ここで、成型後の加工対象物11について比較的高い成型精度が要求される場合、加工対象物11の引っ張り強さのばらつきの影響を無視できない場合がある。
加工対象物11の引っ張り強さは、加工対象物11の材料の仕様上許容されるばらつきの他にも、加工対象物11の温度にも依存する。そのため、例えば、加工対象物11の引っ張り強さが加工対象物11の材料の仕様上許容される範囲の上限付近の値となる場合に、さらに冬季等、周囲の温度が低くなる環境下においては、規定の加圧圧力では成型後の加工対象物11の成型精度を満足できなくなるおそれがある。
【0027】
このような場合には、例えば加工対象物11を加圧した状態で保持する保持時間を延長することや、加圧圧力を増加させる等の対応を取ることが考えられる。しかし、保持時間の延長は、プレス加工に要する時間が長くなることから生産性の低下を招く。そこで、加圧圧力を増加させることで対応する場合、成型プレス機3の圧力能力の範囲内で加圧圧力を増加させることになる。
しかし、成型プレス機3の圧力能力に余裕がない場合には、加圧圧力を増加させることで対応することが難しい。
【0028】
そこで、一実施形態に係る金型装置1では、例えば上述したような成型プレス機3の加圧圧力を増加させる必要が生じたものの成型プレス機3の圧力能力に余裕がない場合に、加工対象物11を昇温して加工対象物11の引っ張り強さを抑制するようにしている。
一実施形態に係る金型装置1では、例えばヒータ制御装置9によるヒータ21の出力の制御により、冬季の温度環境下にて上側金型8U及び下側金型8Lのプレス面8aの温度を80℃以下の温度に保持できる。一実施形態に係る金型装置1では、例えばプレス面8aの温度は、60℃を保つように設定される。
【0029】
発明者らが鋭意検討した結果、冬季の温度環境下にて、例えばプレス面8aの温度を60℃に保ち、加工対象物11として厚さ0.8mmのステンレス製の薄板を一実施形態に係る金型装置1によって成型する場合、加工対象物11に成型圧力を作用させる保持時間を5秒とした場合に、プレス成型後の加工対象物11の温度が40℃程度となることが判明した。
すなわち、一実施形態に係る金型装置1によって加工対象物11を昇温しながらプレス成型することで、加工対象物11を昇温して加工対象物11の引っ張り強さを抑制した状態でプレス成型できるので、冬季以外の比較的温暖な温度環境下でプレス成型した場合と同様の成型精度が得られる。
【0030】
このように、一実施形態に係る金型装置1は、上下一対の金型8と、金型を加熱するためのヒータ21と、を備える。
一実施形態に係る金型装置1によれば、ヒータ21で加熱された金型8によって加工対象物11をプレス成型する際に、金型8から加工対象物11に熱が伝わって加工対象物11の温度が上昇する。この温度上昇により、加工対象物11の引っ張り強さが抑制される。これにより、加工対象物11を加圧した状態で保持する保持時間を延長したり、加圧圧力を増加させたりしなくても、成型プレス機3によってプレス成型された加工対象物11の成型精度を安定化できる。
【0031】
一実施形態に係る金型装置1は、ヒータ21が取り付けられていて、上下一対の金型8とは別部材である上側ライナ6U及び下側ライナ6Lを備えているので、ヒータ21を設けるために金型8を加工する必要がなく、金型8の強度を確保できる。
【0032】
一実施形態に係る金型装置1では、ヒータ21は、上側ライナ6U及び下側ライナ6Lにそれぞれ取り付けられている。
これにより、ヒータ21を備えた上側ライナ6Uによって上側金型8Uを昇温でき、ヒータ21を備えた下側ライナ6Lによって下側金型8Lを昇温できる。よって、プレス成型時に加工対象物11を安定して昇温でき、プレス成型された加工対象物11の成型精度を安定化できる。
【0033】
一実施形態に係る金型装置1では、上側ライナ6Uは、上側金型8Uよりも上方で上側ホルダ5Uに保持され、下側ライナ6Lは、下側金型8Lよりも下方で下側ホルダ5Lに保持される。
これにより、ヒータ21を備えた上側ライナ6U及び下側ライナ6Lを金型装置1に効率的に配置できる。また、一実施形態に係る金型装置1によれば、金型8を側方から昇温する場合と比べ、一実施形態に係る金型8のように、金型8の側面面積よりも上面や下面の面積の方が大きい場合には、一実施形態に係る金型装置1のように金型8の上面や下面から熱を伝えるようにすることで、金型8を効率的に昇温できる。
【0034】
一実施形態に係る金型装置1では、上側ライナ6Uが上側ホルダ5Uに着脱自在に保持され、下側ライナ6Lが下側ホルダ5Lに着脱自在に保持されているので、例えば成型プレス機3の周囲の温度環境が比較的温暖である場合のように、ヒータ21によって金型8を昇温する必要がない場合には、上側ライナ6U及び下側ライナ6Lを金型装置1から取り外すことができる。
これにより、上側ライナ6U及び下側ライナ6Lの負担を減らして寿命を延ばすことができる。
【0035】
一実施形態に係る金型装置1では、上側ライナ6U及び下側ライナ6Lには、ヒータ21を配置するための溝6a又は孔6bの少なくとも何れか一方が形成されているとよい。
これにより、上側ライナ6U及び下側ライナ6Lにヒータ21を容易に配置できる。
【0036】
一実施形態に係る金型装置1では、ヒータ21で加熱された上下一対の金型8のプレス面8aにおける表面温度は、80℃以下である。
一実施形態に係る金型装置1によれば、例えば一般的な金属製の加工対象物11の調質を伴わずに、引っ張り強さを抑制できる。
【0037】
一実施形態に係る金型装置1では、加工対象物11は、厚さが1mm以下の金属性の薄板である。
一実施形態に係る金型装置1によれば、金属製の薄板の成型精度を安定化できる。
【0038】
(プレス成型方法について)
以下、一実施形態に係る金型装置1を用いたプレス成型方法について説明する。
図3は、一実施形態に係る金型装置1を用いたプレス成型方法における処理手順を示したフローチャートである。本実施形態に係るプレス成型方法は、例えば図1に示した成型プレス機3によって実施される。
本実施形態に係るプレス成型方法では、加工対象物11のプレス成型に先立ち、ヒータ21による金型8の昇温を開始する(ステップS1)。
ステップS1では、ヒータ制御装置9は、各ヒータ21への通電を開始して、予め設定された設定温度を保つように、各ヒータ21への電力供給を制御する。
例えばステップS1では、ヒータ21の設定温度は、プレス面8aの温度との乖離を考慮した温度に設定される。ヒータ21の設定温度よりもプレス面8aの温度が例えば20℃程度低くなる場合には、ヒータ21の設定温度は、プレス面8aの目標温度よりも20℃程度高い温度に設定される。
【0039】
また、ヒータ制御装置9は、上側ライナ6Uに設けられた各ヒータ21と、下側ライナ6Lに設けられた各ヒータ21とを独立して温度制御可能に構成されているとよい。これにより、上型1Uと下型1Lとで熱容量が異なる場合であっても、適切な温度制御、すなわち、上側金型8Uのプレス面8aの温度と下側金型8Lのプレス面8aの温度との差が抑制されるような温度制御を実施できる。
【0040】
ヒータ21による金型8の昇温を開始後は、規定時間が経過するまで待機する(ステップS3)。
なお、この規定時間は、ヒータ21による金型8の昇温開始からプレス面8aが規定温度(例えば60℃)に達するまでに要する時間である。
規定時間の経過の待機に代えて、プレス面8aの温度を適宜測定して、プレス面8aが規定温度に達するまで待機してもよい。
【0041】
上述した待機の後、加工対象物11が下側金型8Lのプレス面8aに載置され(ステップS7)、成型プレス機3によってプレス成型が行われる(ステップS7)。
その後、プレス成型された加工対象物11が金型装置1から取り出される(ステップS9)。
【0042】
その後、成型作業を終了するのであれば(ステップS11肯定判断)、プレス成型工程は終了し、成型作業を継続するのであれば(ステップS11否定判断)、上述したステップS5へ戻る。
【0043】
このように、本実施形態に係るプレス成型方法では、一実施形態に係る金型装置1を用いて、成型プレス機3によって加工対象物11をプレス成型する。
これにより、加工対象物11を加圧した状態で保持する保持時間を延長したり、加圧圧力を増加させたりしなくても、成型プレス機3によってプレス成型された加工対象物11の成型精度を安定化できる。
【0044】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、上述した加工対象物11は、例えば厚さ0.8mmのステンレス製の薄板であったが、加工対象物11の厚さや材質は上記の厚さや材質でなくてもよい。
一実施形態に係る金型装置1では、加工対象物11の厚さは、例えば1.0mm以下であってもよい。また、一実施形態に係る金型装置1では、加工対象物11の材質は、ステンレスに限らず、チタンやアルミ、リン青銅等、種々の金属材料であってもよい。
【0045】
一実施形態に係る金型装置1の使用環境は、上述したような冬季等、周囲の温度が低くなる環境下でなくてもよい。例えば比較的温暖な温度環境下であっても、例えば加工対象物11の引っ張り強さを抑制してプレス成型を行う必要性のある場合に使用してもよい。
【0046】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る成型プレス用金型装置1は、成型プレス機3で用いられる成型プレス用金型装置1であって、上下一対の金型8と、金型8を加熱するためのヒータ21と、を備える。
【0047】
上記(1)の構成によれば、ヒータ21で加熱された金型8によって加工対象物11をプレス成型する際に、金型8から加工対象物11に熱が伝わって加工対象物11の温度が上昇する。この温度上昇により、加工対象物11の引っ張り強さが抑制される。これにより、加工対象物11を加圧した状態で保持する保持時間を延長したり、加圧圧力を増加させたりしなくても、成型プレス機3によってプレス成型された加工対象物11の成型精度を安定化できる。
【0048】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、ヒータ21が取り付けられていて、上下一対の金型8とは別部材であるライナ(上側ライナ6U、下側ライナ6L)、を備えているとよい。
【0049】
上記(2)の構成によれば、ヒータ21を設けるために金型8を加工する必要がないので、金型8の強度を確保できる。
【0050】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、上下一対の金型8は、上側金型8Uと下側金型8Lとを含む。幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、上下一対の金型8の内の上側金型8Uを保持する上側ホルダ5Uと、上下一対の金型8の内の下側金型8Lを保持する下側ホルダ5Lと、を備える。上記ライナ(上側ライナ6U、下側ライナ6L)は、上側金型8Uと共に上側ホルダ5Uに保持される上側ライナ6Uと、下側金型8Lと共に下側ホルダ5Lに保持される下側ライナ6Lと、を含むとよい。ヒータ21は、上側ライナ6U及び下側ライナ6Lにそれぞれ取り付けられているとよい。
【0051】
上記(3)の構成によれば、ヒータ21を備えた上側ライナ6Uによって上側金型8Uを昇温でき、ヒータ21を備えた下側ライナ6Lによって下側金型8Lを昇温できる。これにより、プレス成型時に加工対象物を安定して昇温でき、プレス成型された加工対象物11の成型精度を安定化できる。
【0052】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、上側ライナ6Uは、上側金型8Uよりも上方で上側ホルダ5Uに保持され、下側ライナ6Lは、下側金型8Lよりも下方で下側ホルダ5Lに保持されるとよい。
【0053】
上記(4)の構成によれば、ヒータ21を備えた上側ライナ6U及び下側ライナ6Lを成型プレス用金型装置1に効率的に配置できる。
【0054】
(5)幾つかの実施形態では、上記(3)又は(4)の構成において、上側ライナ6Uは、上側ホルダ5Uに着脱自在に保持され、下側ライナ6Lは、下側ホルダ5Lに着脱自在に保持されるとよい。
【0055】
上記(5)の構成によれば、例えば成型プレス機3の周囲の温度環境が比較的温暖である場合のように、ヒータ21によって金型8を昇温する必要がない場合には、上側ライナ6U及び下側ライナ6Lを成型プレス用金型装置1から取り外すことができる。
これにより、上側ライナ6U及び下側ライナ6Lの負担を減らして寿命を延ばすことができる。
【0056】
(6)幾つかの実施形態では、上記(3)乃至(5)の何れかの構成において、上側ライナ6U及び下側ライナ6Lは、ヒータ21を配置するための溝6a又は孔6bが形成されているとよい。
【0057】
上記(6)の構成によれば、上側ライナ6U及び下側ライナ6Lにヒータ21を容易に配置できる。
【0058】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れかの構成において、ヒータ21で加熱された上下一対の金型8のプレス面8aにおける表面温度は、80℃以下であってもよい。
【0059】
上記(7)の構成によれば、例えば一般的な金属製の加工対象物11の調質を伴わずに、引っ張り強さを抑制できる。
【0060】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れかの構成において、上下一対の金型8による加工対象物11は、厚さが1mm以下の金属性の薄板あってもよい。
【0061】
上記(8)の構成によれば、金属製の薄板の成型精度を安定化できる。
【0062】
(9)本開示の少なくとも一実施形態に係るプレス成型方法は、上記(1)乃至(8)の何れかの構成の成型プレス用金型装置1を用いて、成型プレス機3によって加工対象物11をプレス成型する。
【0063】
上記(9)の方法によれば、加工対象物11を加圧した状態で保持する保持時間を延長したり、加圧圧力を増加させたりしなくても、成型プレス機3によってプレス成型された加工対象物11の成型精度を安定化できる。
【符号の説明】
【0064】
1 成型プレス用金型装置(金型装置)
1U 上型
1L 下型
3 成型プレス機
5U 上側ホルダ
5L 下側ホルダ
6U 上側ライナ
6L 下側ライナ
6a 溝
6b 孔
7 ダイライナ
8 金型
8U 上側金型
8L 下側金型
8a プレス面
9 ヒータ制御装置
11 加工対象物
21 ヒータ
図1
図2
図3