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特開2024-89265N-アセチルラクトサミンの製造方法およびN-アセチルラクトサミン含有組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089265
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】N-アセチルラクトサミンの製造方法およびN-アセチルラクトサミン含有組成物
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/26 20060101AFI20240626BHJP
   C12N 9/38 20060101ALN20240626BHJP
【FI】
C12P19/26
C12N9/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204528
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 淳一
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】野々山 典子
(72)【発明者】
【氏名】福留 博文
(72)【発明者】
【氏名】酒井 史彦
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050DD02
4B050KK06
4B050KK07
4B050KK11
4B050LL02
4B050LL05
4B064AE01
4B064CA21
4B064CB24
4B064CD07
4B064CD09
4B064DA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安価でかつ安全なGal供与体である乳糖と、Gal受容体であるN-アセチルグルコサミンを含む溶液にβ-ガラクトシダーゼを接触させてN-アセチルラクトサミン含有組成物を製造する方法において、従来の方法よりも、副生成物の生成を抑え、乳糖を除くオリゴ糖に占めるN-アセチルラクトサミンの割合が高いN-アセチルラクトサミン含有組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】乳糖及びN-アセチルグルコサミンを含む溶液とBifidobacterium属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを接触させる工程を含み、前記溶液中のβ-ガラクトシダーゼを接触させる前の乳糖の濃度がN-アセチルグルコサミンの濃度に対して物質量比で5.2倍以下であることを特徴とするN-アセチルラクトサミン含有組成物の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳糖及びN-アセチルグルコサミンを含む溶液とビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを接触させる工程を含み、
β-ガラクトシダーゼを接触させる前の前記溶液中の乳糖の濃度がN-アセチルグルコサミンの濃度に対して物質量比で5.2倍以下であることを特徴とするN-アセチルラクトサミン含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記工程が、酵素としてビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼのみを接触させる工程である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼが、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)の菌由来のβ-ガラクトシダーゼである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の製造方法により製造したN-アセチルラクトサミン含有組成物であって、乳糖を除くオリゴ糖に占めるN-アセチルラクトサミンの割合が52重量%以上であることを特徴とする前記組成物。
【請求項5】
請求項3に記載の製造方法により製造したN-アセチルラクトサミン含有組成物であって、乳糖を除くオリゴ糖に占めるN-アセチルラクトサミンの割合が52重量%以上であることを特徴とする前記組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はN-アセチルラクトサミンの製造方法およびN-アセチルラクトサミン含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
N-アセチルラクトサミン(以下、単にLacNAcということがある)は、ガラクトース(以下、単にGalということがある)がN-アセチルグルコサミン(以下、単にGlcNAcということがある)にβ-1,4結合したオリゴ糖である。LacNAcは、ヒトミルクオリゴ糖や、リポ多糖、各種の糖蛋白質及び糖脂質の糖鎖中に存在する、生化学的に非常に重要なオリゴ糖である。また、腸内細菌の一つであるビフィズス菌の発育因子としても知られており、機能性食品素材としても有用な物質である。
【0003】
LacNAcの製造には、化学合成法や、ウリジン二リン酸ガラクトース(UDP-Gal)とGlcNAcを基質としたGal転移酵素による合成方法が知られている。しかし、化学合成法では、食品には利用できない有害な試薬や溶媒の使用が必須であり、Gal糖転移酵素を用いた合成法では、基質となるUDP-GalとGal転移酵素が非常に高価であるため、これらの合成法は、食品への利用を前提とした工業的生産としては現実的ではない。
【0004】
一方、簡便なLacNAcの合成方法として、β-ガラクトシダーゼの糖転移反応を利用し、乳糖(ラクトースともいう)やp-nitrophenyl-Galactoside(以下、単にPNP-Galということがある)のGal残基をGlcNAcに転移させる方法がある。
特許文献1、特許文献2、特許文献3では、それぞれデイプロコッカス ニューモニエ(Diplococcus pneumoniae)の菌由来、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の菌由来、バシラス(Bacillus)属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを用いてLacNAcを調製しているが、食品には使用できない合成基質であるPNP-GalをGal供与体として使用しているため、やはり食品への応用が不可能であった。
以上より、LacNAcを食品に利用するための工業的生産方法としては、Gal供与体として安価、かつ安全な糖である乳糖を用いることが望ましい。
【0005】
乳糖とGlcNAcの溶液にβ-ガラクトシダーゼを作用させると、目的物質であるLacNAcの他に、単糖(グルコース、ガラクトース、およびGlcNAc)、未反応の乳糖、ならびに副生成物のガラクトオリゴ糖(以下、単にGOSということがある)が生成する。GOSは、乳糖にβ-ガラクトシダーゼを作用させた場合に生成するオリゴ糖の総称であり、様々な種類のオリゴ糖で構成される。
ここで、LacNAc含有組成物を様々な食品へ添加する場合、できるだけLacNAcの含有量が高く、副生成物は少ない方が、その添加量は少量ですみ、また、食品の風味や物性への影響を少なくできるため、好ましい。したがって、一般的に、β-ガラクトシダーゼを作用させて調製したLacNAc含有組成物を食品に利用する場合は、LacNAcを濃縮する工程を経る必要がある。例えば、一般的なLacNAcの濃縮工程では、まず、GOSが生成しにくいβ-ガラクトシダーゼを作用させて残存する乳糖を全て単糖に変換し、その後、限外濾過膜や活性炭クロマトグラフィーなどで単糖とオリゴ糖を分画する。これらの工程によって、LacNAc含有組成物中の単糖と乳糖の大部分が除去され、LacNAcとGOSを含むオリゴ糖画分を調製できる。さらに、当該オリゴ糖画分に含まれるLacNAcを濃縮するためには、より高度なクロマトグラフィー技術によりLacNAcとGOSを分離する必要がある。しかし、工業的規模でそのようなクロマトグラフィー技術を使用することは現実的ではない。このように、LacNAc含有組成物から単糖と乳糖を分離することは容易であるが、GOSを分離することは極めて困難であった。
したがって、乳糖とGlcNAcの溶液にβ-ガラクトシダーゼを作用させた段階で、副生成物であるGOSが少なく、乳糖を除くオリゴ糖に占めるLacNAcの割合が高いLacNAc含有組成物の製造方法が望まれていた。
【0006】
特許文献4では、乳糖とGlcNAcを含有する溶液にバシラス サーキュランス(Bacillus circulans)の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを作用させてLacNAcを調製する方法が開示されている。当該方法は、基質である乳糖とGlcNAcの物質量比(乳糖/GlcNAc比)を0.25~0.5に設定してLacNAcを調製する方法であるが、当該文献には副生成物であるGOSの生成量については開示されていない。しかし、バシラス サーキュランスの菌由来のβ-ガラクトシダーゼはGOSを生成しやすい酵素であるため、GOSが多量に生成しているものと推測できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-335395号公報
【特許文献2】特開平10-23898号公報
【特許文献3】特許第6771756号公報
【特許文献4】特許第2819312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、安価でかつ食品利用に安全なGal供与体である乳糖と、Gal受容体であるN-アセチルグルコサミンを含む溶液にβ-ガラクトシダーゼを接触させてN-アセチルラクトサミン含有組成物を製造する方法において、バシラス サーキュランスの菌由来のβ-ガラクトシダーゼを使用した従来の方法よりも、副生成物であるガラクトオリゴ糖の生成を抑え、乳糖を除くオリゴ糖に占めるN-アセチルラクトサミンの割合が高いN-アセチルラクトサミン含有組成物の製造方法を提供することである。また、乳糖を除くオリゴ糖に占めるN-アセチルラクトサミンの割合が高く、例えば前記割合が52重量%以上であるN-アセチルラクトサミン含有組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、N-アセチルラクトサミンの製造に用いるβ-ガラクトシダーゼとして、ビフィドバクテリウム属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを使用し、乳糖及びN-アセチルグルコサミンを含む酵素反応前の溶液において、乳糖の濃度をN-アセチルグルコサミンの濃度に対して物質量比で5.2倍以下とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は以下の構成を有する。
<1>
乳糖及びN-アセチルグルコサミンを含む溶液とビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを接触させる工程を含み、
β-ガラクトシダーゼを接触させる前の前記溶液中の乳糖の濃度がN-アセチルグルコサミンの濃度に対して物質量比で5.2倍以下であることを特徴とするN-アセチルラクトサミン含有組成物の製造方法。
<2>
前記工程が、酵素としてビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼのみを接触させる工程である<1>に記載の製造方法。
<3>
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼが、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)の菌由来のβ-ガラクトシダーゼである<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4>
<1>又は<2>に記載の製造方法により製造したN-アセチルラクトサミン含有組成物であって、乳糖を除くオリゴ糖に占めるN-アセチルラクトサミンの割合が52重量%以上であることを特徴とする前記組成物。
<5>
<3>に記載の製造方法により製造したN-アセチルラクトサミン含有組成物であって、乳糖を除くオリゴ糖に占めるN-アセチルラクトサミンの割合が52重量%以上であることを特徴とする前記組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乳糖とN-アセチルグルコサミンを含む溶液にβ-ガラクトシダーゼを接触させてN-アセチルラクトサミン含有組成物を製造する方法において、ビフィドバクテリウム属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを使用し、酵素反応前の溶液に含まれる乳糖の濃度をN-アセチルグルコサミンの濃度に対して物質量比で5.2倍以下とすることにより、副生成物であるガラクトオリゴ糖の生成量を抑え、乳糖を除くオリゴ糖に占めるN-アセチルラクトサミンの割合が高い組成物を提供することができる。
したがって、本発明の製造方法によれば、酵素反応後のN-アセチルラクトサミン含有組成物から高度なクロマトグラフィー技術によりガラクトオリゴ糖を分離するという煩雑な濃縮工程を経ることなく、単糖と乳糖を分離する工程のみで食品に利用可能な高純度のN-アセチルラクトサミン含有組成物を提供することができる。したがって、食品に利用可能な高純度のN-アセチルラクトサミン含有組成物を工業的規模でも提供することができるというメリットもある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(製造方法)
本発明の製造方法は、乳糖及びN-アセチルグルコサミンを含む溶液とビフィドバクテリウム属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを接触させる工程を含み、β-ガラクトシダーゼを接触させる前の前記溶液中の乳糖の濃度がN-アセチルグルコサミンの濃度に対して物質量比で5.2倍以下であるN-アセチルラクトサミン含有組成物の製造方法である。すなわち、基質として乳糖とN-アセチルグルコサミンを含有する溶液に、酵素としてガラクトース転移作用を有する酵素であるβ-ガラクトシダーゼを添加して基質に作用させて、N-アセチルラクトサミンを生成する方法において、ビフィドバクテリウム属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを用いること、及びβ-ガラクトシダーゼを作用させる前(酵素反応前)の前記溶液中の乳糖の濃度をN-アセチルグルコサミンの濃度に対して物質量比で5.2倍以下とすることを特徴とする。これらの構成の組み合わせによって、副生成物であるガラクトオリゴ糖の生成量を抑え、乳糖を除くオリゴ糖に占めるN-アセチルラクトサミン比率の高いN-アセチルラクトサミン含有組成物を製造することができる。
酵素としては、β-ガラクトシダーゼのガラクトース転移作用を阻害しない範囲において、他の酵素を添加することも可能である。例えば、グルコースオキシダーゼなどを添加することで、基質として乳糖とN-アセチルグルコサミンを用いるN-アセチルラクトサミン酵素合成反応の反応副生成物であるグルコースを除去することも可能である。しかし、風味への影響や低コスト化のためには、酵素としてβ-ガラクトシダーゼのみを用いることが望ましい。本発明の製造方法によれば、酵素としてβ-ガラクトシダーゼのみを用いた場合であっても、乳糖を除くオリゴ糖に対するN-アセチルラクトサミンの割合を52重量%以上とすることが可能である。
【0012】
(β-ガラクトシダーゼ)
本発明におけるβ-ガラクトシダーゼは、乳糖からガラクトース残基をN-アセチルグルコサミンに転移する反応を触媒する作用を有するビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の菌由来の酵素であり、そのような作用を示す酵素であれば種や菌株は特に限定されない。ビフィドバクテリウム属の菌由来の酵素としては、精製酵素、部分生成酵素、該酵素の作用を有する静止菌体、乾燥菌体、菌体破砕物なども使用することができる。N-アセチルラクトサミンは、D-ガラクトースとN-アセチルグルコサミンがβ-1,4-グリコシド結合している二糖であるため、β-1,4-グリコシド結合に対する特異性の高いβ-ガラクトシダーゼが好ましく、特に、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)の菌由来のβ-ガラクトシダーゼの精製酵素もしくは部分精製酵素又は該酵素を含有する物質(静止菌体、乾燥菌体、菌体破砕物等)が好ましい。
【0013】
本発明のビフィドバクテリウム属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼの濃度は、上記酵素反応が好適に進行するように当業者が適宜設定することができるが、例えば終濃度で0.01U/ml~100U/mlが好ましく0.1U/ml~10U/mlとすることがより好ましい。尚、β-ガラクトシダーゼ1Uの酵素活性は、乳糖溶液(pH6.5)に、該酵素を添加し、50℃で10分間反応を行った場合、1分間に1μモルのグルコースを遊離させる酵素量と定義する。
【0014】
本発明の製造方法における上記酵素反応は、乳糖及びN-アセチルグルコサミンを含有する溶液(例えば、水溶液、緩衝液溶液)中で、これらの基質にビフィドバクテリウム属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを作用させてN-アセチルラクトサミンを生成させる反応である。本酵素反応が進行する限り、反応条件等は限定されないが、用いるβ-ガラクトシダーゼの至適pH及び至適温度において、緩衝液中で行うことが好ましい。例えば、pH4~9、5~70℃の条件下、該pHに保持できる緩衝液中で酵素反応を行うことが好ましい。
【0015】
上記酵素反応に基質として用いられる乳糖とN-アセチルグルコサミンは、通常は乳糖とN-アセチルグルコサミンを含有する水溶液あるいは緩衝液溶液として用いられ、各基質の含有量、含有比等は上記酵素反応に不都合でない限り特に限定されない。乳糖は、好ましくは0.05~1.5M程度、より好ましくは1M程度で用いる。N-アセチルグルコサミンは0.05~1.5M程度、より好ましくは0.5M程度の濃度で用いる。酵素反応開始前の溶液における乳糖の濃度は、N-アセチルグルコサミンの濃度に対して、物質量比で5.2倍以下であればよく、下限としては、0.1倍以上が好ましく、0.2倍以上がさらに好ましい。また好ましい範囲としては、0.1~5.2倍であり、さらに好ましくは0.2~5.2倍であり、さらにいっそう好ましくは0.2~2倍であり、もっとも好ましくは1.1~2倍である。当該物質量比(乳糖/N-アセチルグルコサミンの物質量比)は、酵素反応開始前の溶液中の乳糖の濃度(M)を同じく酵素反応開始前の溶液中のN-アセチルグルコサミンの濃度(M)で除して求めることができる。前記物質量比が5.2倍以下であれば、N-アセチルラクトサミン含有組成物において、乳糖を除くオリゴ糖に対するN-アセチルラクトサミンの割合を52重量%以上とすることが可能であるからである。
また、前記酵素反応開始前の乳糖/N-アセチルグルコサミンの物質量比が5.2倍より低ければ低い程、N-アセチルラクトサミン含有組成物における、乳糖を除くオリゴ糖に対するN-アセチルラクトサミンの割合を高くすることが可能である。一方で、乳糖/N-アセチルグルコサミンの物質量比が低すぎる場合には、生成されるN-アセチルラクトサミンの量自体は少なくなる。すなわち、酵素反応開始前の乳糖/N-アセチルグルコサミンの物質量比が低ければ乳糖を除くオリゴ糖に対するN-アセチルラクトサミンの割合を高くすることが可能であるが、乳糖/N-アセチルグルコサミンの物質量比が低すぎるとN-アセチルラクトサミンの生成量は減少するため、基質の乳糖やN-アセチルグルコサミンが残ってしまい、無駄になる。
したがって、乳糖を除くオリゴ糖に対するN-アセチルラクトサミンの割合が52重量%以上、かつ、一定以上のN-アセチルラクトサミン物質量を実現するためには、酵素反応開始前の乳糖の濃度が酵素反応前のN-アセチルグルコサミンの濃度に対して物質量換算で5.2倍以下に調整する必要があり、好ましくは0.1~5.2倍であり、さらに好ましくは0.2~5.2倍であり、さらにいっそう好ましくは0.2~2倍であり、もっとも好ましくは1.1~2倍である。
【0016】
(N-アセチルラクトサミン含有組成物)
本発明のN-アセチルラクトサミン含有組成物は、酵素反応後の乳糖を除くオリゴ糖に対するN-アセチルラクトサミンの割合が52重量%以上である組成物であって、乳糖とN-アセチルグルコサミンを含有する溶液中の乳糖の濃度をN-アセチルグルコサミンの濃度に対して物質量比で5.2倍以下とした溶液に、ビフィドバクテリウム属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを作用させることにより製造することができる。乳糖とN-アセチルグルコサミンに酵素としてビフィドバクテリウム属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼのみを作用させた場合、他の余分な生成物が生じないため風味に与える影響が少ないというメリットが期待できる。
本発明のN-アセチルラクトサミン含有組成物において乳糖を除くオリゴ糖に対するN-アセチルラクトサミンの割合(実施例ではLacNAc比率として表示)は、53重量%以上がさらに好ましく、54重量%以上がさらにいっそう好ましく、60重量%以上がもっとも好ましい。当該比率は、酵素反応終了後の溶液中のN-アセチルラクトサミン濃度(w/w%)を、乳糖を除くオリゴ糖濃度(w/w%)で除した値に100をかけることにより求めることができる。
【実施例0017】
[実施例1]
表1に示す8水準の濃度で乳糖とGlcNAcを溶解した1mLの50mM酢酸緩衝液(pH 6.0)に、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)の菌由来のβ-ガラクトシダーゼ(ノボザイムズジャパン株式会社:Saphera Fiber L)、またはバシラス サーキュランス(Bacillus circulans)の菌由来のβ-ガラクトシダーゼ(天野エンザイム株式会社:ビオラクタFN5)を5U/mLの濃度で添加し、50℃で反応させてLacNAcを調製した。経時的にサンプリングし、反応液を5分間煮沸することで反応を停止させ、反応液中の乳糖とLacNAcの濃度を下記測定条件によりHPLCで定量した。また、下記のオリゴ糖の測定条件によりHPLCで重合度2以上のオリゴ糖を乳糖換算で定量し、下記のGlcNAc含有オリゴ糖の測定条件によりHPLCで重合度2以上のGlcNAc含有オリゴ糖をLacNAc換算で定量した。さらに、乳糖を除くオリゴ糖の濃度、GOSの濃度、乳糖を除くオリゴ糖に占めるLacNAcの重量比率(LacNAc比率)、乳糖を除くオリゴ糖に占めるGOSの重量比率(GOS比率)を、それぞれ下式1、2、3、4により算出した。各水準の経時的に採取したサンプルの中でLacNAc比率の最大値と、その時のLacNAc、GOS、乳糖を除くオリゴ糖の濃度、およびGOS比率を表2に示す。
【0018】
(式1)
乳糖を除くオリゴ糖(w/w%)=オリゴ糖測定値(w/w%)-乳糖測定値(w/w%)
【0019】
(式2)
GOS(w/w%)=式1で算出した乳糖を除くオリゴ糖(w/w%)-GlcNAc含有オリゴ糖測定値(w/w%)
【0020】
(式3)
LacNAc比率(w/w%)
=(LacNAc測定値(w/w%)/式1で算出した乳糖を除くオリゴ糖(w/w%))×100
【0021】
(式4)
GOS比率(w/w%)
=(式2で算出したGOS(w/w%)/式1で算出した乳糖を除くオリゴ糖(w/w%))×100
【0022】
(式5)
乳糖/GlcNAc物質量比
=(基質の乳糖濃度(w/w%)/342.3)÷(基質のGlcNAc濃度(w/w%)/221.2)

注)342.3:乳糖分子量、221.2:GlcNAc分子量
【0023】
<乳糖、LacNAc測定条件>
カラム:CarboPac PA1(Thermo Fisher Scientific社製)
移動相:100 mM NaOH
流 速:1 mL/min
温 度:25℃
検出器:電気化学検出器
試 料:10 uL
【0024】
<オリゴ糖の測定条件>
カラム:Sugar KS-802(昭和電工製)
移動相:水
流 速:0.5 mL/min
温 度:60℃
検出器:示唆屈折率検出器
試 料:10 uL
【0025】
<GlcNAc含有オリゴ糖の測定条件>
カラム:Sugar KS-802(昭和電工製)
移動相:水
流 速:0.5 mL/min
温 度:60℃
検出器:紫外吸光度検出器
試 料:10 uL
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
表2の結果から、いずれの酵素を使用した場合でも、基質に占めるGlcNAcの割合が高くなるほど、すなわち乳糖/GlcNAc物質量比が低いほど、生成物の乳糖を除くオリゴ糖に占めるGOSの割合(GOS比率)が低くなり、LacNAcの割合(LacNAc比率)が高くなる傾向が認められた。一方、ビフィドバクテリウム属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを使用した場合、いずれの水準でもバシラス属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼよりもGOS比率が低く、LacNAc比率が高かった。また、バシラス属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを使用した場合、LacNAc比率は最大でも51%にとどまったが、ビフィドバクテリウム属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを使用し、乳糖/GlcNAc物質量比が5.2以下の場合にはLacNAc比率が52%以上になり、バシラス属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼでは調製できないような、高いLacNAc比率のLacNAc含有組成物が得られた。
【0029】
[実施例2]
脱脂粉乳を17.6%(乳糖濃度で8.4%)、食品用のGlcNAc素材(焼津水産化学工業株式会社:マリンスウィートYM40)をGlcNAc濃度で4.3%となるように調製した溶液(乳糖/GlcNAc物質量比:1.3)に、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)の菌由来のβ-ガラクトシダーゼ(ノボザイムズジャパン株式会社:Saphera Fiber L)を5.0U/mLの濃度で添加し、7℃で20時間反応させた。反応液を5分間煮沸して反応を停止させた後、実施例1の条件でHPLCによりLacNAcと乳糖を除くオリゴ糖の生成量を測定した。その結果、LacNAcの生成量は1.5%、乳糖を除くオリゴ糖の生成量は2.6%であり、得られたLacNAc含有組成物中の乳糖を除くオリゴ糖に占めるLacNAcの割合(LacNAc比率)は58%であった。
【0030】
[実施例3]
脱塩ホエイ粉を32kg(乳糖量として25kg)、GlcNAc素材(焼津水産化学工業株式会社:マリンスウィートYM40)をGlcNAc量として6.3kgを溶解した、総重量100kgの水溶液(乳糖/GlcNAc物質量比:2.6)に、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)の菌由来のβ-ガラクトシダーゼ(ノボザイムズジャパン株式会社:Saphera Fiber L)を500,000U添加し、50℃で1時間反応させた。反応液を95℃で10分間加熱して反応を停止させた後、実施例1と同様にHPLCによりLacNAcと乳糖を除くオリゴ糖の生成量を測定した。その結果、LacNAcの生成量は3.0kg、乳糖を除くオリゴ糖の生成量は5.7kgであり、得られたLacNAc含有組成物中の乳糖を除くオリゴ糖に占めるLacNAcの割合(LacNAc比率)は53%であった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、乳糖及びN-アセチルグルコサミンにビフィドバクテリウム属の菌由来のβ-ガラクトシダーゼを作用させることにより、簡単な精製、濃縮工程で、副生成物であるガラクトオリゴ糖の含有量が少ないN-アセチルラクトサミン含有組成物を提供できる。