(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089363
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】電極
(51)【国際特許分類】
A61B 5/263 20210101AFI20240626BHJP
A61B 5/0533 20210101ALI20240626BHJP
A61B 5/256 20210101ALI20240626BHJP
【FI】
A61B5/263
A61B5/0533
A61B5/256
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204687
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】工藤 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】三ツ井 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】松浦 睦
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA07
4C127BB03
4C127LL08
4C127LL22
(57)【要約】
【課題】部品交換や頻繁な洗浄などの、ウェアラブルデバイスの使用に大きな負荷となる行為を必要とせずに、生体電気信号を継続的にセンシング出来るよう、体動に伴うノイズの影響を受けにくい電極を提供することを課題とする。
【解決手段】自己吸着性電極は、多孔質構造を有し、導電性無機物を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造を有し、導電性無機物を含む、自己吸着性電極。
【請求項2】
前記導電性無機物が、鉄、アルミニウム、ジルコニウム、およびチタンからなる群のいずれか1つである、請求項1に記載の自己吸着性電極。
【請求項3】
前記多孔質構造の開口率が10%以上90%以下である、請求項1に記載の自己吸着性電極。
【請求項4】
前記多孔質構造の孔の深さが30nm以上、3000nm以下である、請求項1に記載の自己吸着性電極。
【請求項5】
前記多孔質構造の孔径が0.005μm以上、1000μm以下である、請求項1に記載の自己吸着性電極。
【請求項6】
前記多孔質構造の孔の径に対する孔の深さが、0.1以上10以下である、請求項1に記載の自己吸着性電極。
【請求項7】
前記多孔質構造の表面が親水性処理によって形成された、請求項1に記載の自己吸着性電極。
【請求項8】
前記多孔質構造の表面が疎水性処理によって形成された、請求項1に記載の自己吸着性電極。
【請求項9】
300mm/minの引張速度での180°ピール法によって測定される、前記多孔質構造の皮膚に対する吸着力が0.0025N/mm以上である、請求項1に記載の自己吸着性電極。
【請求項10】
表面算術粗さが0.4以下である、請求項1に記載の自己吸着性電極。
【請求項11】
前記多孔質構造が陽極酸化処理法によって形成された、請求項1に記載の自己吸着性電極。
【請求項12】
皮膚電位測定用の電極である、請求項1~11のいずれか1項に記載の自己吸着性電極。
【請求項13】
請求項12の自己吸着性電極を使用した、ウェアラブル端末。
【請求項14】
皮膚電位測定機能を有する、請求項13に記載のウェアラブル端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体電気信号を取得するために用いられる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
生体電気信号(例えば、心電、皮膚電気活動(抵抗、インピーダンス)、脳波など)は、診断、予防を目的に、これまで特に医療分野で広く用いられてきた。電気信号の取得は、人体に接触させた電極に、電位変化、抵抗変化などを測定する回路を接続した測定系により行われてきた。
【0003】
生体電気信号は微弱な場合が多く、また、人体と電極の接触性によりその値が大きく変化するため、体動や、電極および人体表面の汚れ、人体表面の保湿量などに強く影響する。測定したい要因以外の外部影響による測定信号の変化はノイズとなり、その信号を用いた診断の精度を損ねる。そのため、病院等に設置された診断装置での測定では、ディスポーサブルな粘着性電極によりしっかりと人体に固定する、一回一回皮膚をアルコールで洗浄する、接触性を高めるためのジェルを用いる、などの接触性を安定させる工夫がなされてきた。
【0004】
一方、近年、スマートウォッチ、スマートリングなどのウェアラブルデバイスに、バイタルセンサーが搭載され、継続的に生体信号を取得することにより、ヘルスケア、予防に役立てる動きが加速している。特に、従来の病院に設置された装置による測定が、ある瞬間のものに限られていることと異なり、ウェアラブルデバイスは、ほぼ24時間常時生体信号を測定することができ、長時間のデータの取得、解析により従来できなかった分析、体調診断が可能となっている。その中で、皮膚電気活動の測定など、生体電気信号をセンシングする方法も搭載が進んできている。
【0005】
スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスでは、使い捨てでなく、耐久材としての使用が前提となっているため、付加的な操作なく、部品交換もできるだけ少なく、日常継続的に使用できる状態が必要である。生体電気活動の、電極による測定は、前述の通り、体動がノイズになる課題があるが、ウェアラブルデバイスでは、病院装置で実施されてきたような、ディスポーサブルな粘着性電極によりしっかりと人体に固定する事ができない。そのため、体動の影響が受けにくいような状態を実現する事が必要となる。一般に、例えば、スマートウォッチなど体に巻き付けるタイプのデバイスであれば、バンドの締め付け圧を高めるなど、しっかり固定する手段を取る事が考えられる。しかし、バンドの締め付け圧を強める行為は、使用時の不快感、汗のむれなどを発生させることがあり、広く受け入れられる方法ではない。ウェアラブルデバイス用の電極の例は複数あり、例えば、公知文献1では、衣服などに取り付けてウェアラブルセンサとして用いたときに、柔軟性を保ちつつ、断線が生じ難い電極や配線例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のような電極例は、体動に伴うノイズを防止する機能が不十分であった。導電性、耐久性などを有し電極として機能しつつ体動に伴うノイズ防止能を有する態様についてはこれまで開示されてこなかった。
【0008】
本発明の目的は、部品交換や頻繁な洗浄などの、ウェアラブルデバイスの使用に大きな負荷となる行為を必要とせずに、生体電気信号を継続的にセンシング出来る様、体動に伴うノイズの影響を受けにくい電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1]多孔質構造を有し、導電性無機物を含む、自己吸着性電極。
[2]上記導電性無機物が、鉄、アルミニウム、ジルコニウム、およびチタンからなる群のいずれか1つである[1]に記載の自己吸着性電極。
[3] 上記多孔質構造の開口率が10%以上90%以下である、[1]または[2]に記載の自己吸着性電極。
[4] 上記多孔質構造の孔の深さが30nm以上、3000nm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の自己吸着性電極。
[5] 上記多孔質構造の孔径が0.005μm以上、1000μm以下である[1]~[4]のいずれかに載の自己吸着性電極。
[6] 上記多孔質構造の孔の径に対する孔の深さが、0.1以上10以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の自己吸着性電極。
[7] 上記多孔質構造の表面が親水性処理によって形成された、[1]~[6]のいずれかに記載の自己吸着性電極。
[8] 上記多孔質構造の表面が疎水性処理によって形成された、[1]~[7]のいずれかに記載の自己吸着性電極。
[9] 300mm/minの引張速度での180°ピール法によって測定される、上記多孔質構造の皮膚に対する吸着力が0.0025N/mm以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の自己吸着性電極。
[10] 表面算術粗さが0.4以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の自己吸着性電極。
[11] 上記多孔質構造が陽極酸化処理法によって形成された、[1]~[10]のいずれかに記載の自己吸着性電極。
[12] 皮膚電位測定用の電極である、[1]~[11]のいずれかに記載の自己吸着性電極。
[13] [1]~[12]のいずれかに記載の自己吸着性電極を使用した、ウェアラブル端末。
[14] 皮膚電位測定機能を有する、[13]に記載のウェアラブル端末。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、部品交換や頻繁な洗浄などの、ウェアラブルデバイスの使用に大きな負荷となる行為を必要とせずに、生体電気信号を継続的にセンシングできる新規な電極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の電極の一例を概念的に示す図である。
【
図2】直流電解による陽極酸化処理装置を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の電極について、詳細に説明する。
【0013】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「同一」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。
【0014】
本明細書において、表記される2価の基(例えば、-CO-O-等)の結合方向は、特段の断りがない限り、制限されない。例えば、「X-Y-Z」なる式で表される化合物中の、Yが-CO-O-である場合、上記化合物は「X-O-CO-Z」及び「X-CO-O-Z」のいずれであってもよい。
【0015】
なお、以下に示す図は、いずれも、本発明を説明するための概念的な図である。従って、各部材の形状、厚さ、大きさ、および、位置関係等は、必ずしも、実際のものとは一致しない。
【0016】
本発明において、本発明者らが鋭意検討の結果、多孔質構造を有し、導電性無機物を含む、自己吸着性電極とすることで、導電性を担保しつつ、体動ノイズの影響を抑制する機能を有する電極を実現できることを見出した。本発明の電極は、例えば導電性無機物上に細孔を設けるなどして、多孔質構造を形成し、自己吸着性を持たせた電極とすることが出来る。
【0017】
図1に、本発明の電極の一例を概念的に示す。
図1に示す電極10は、基材11と、基材上に、孔径14、深さ15の孔13が空いている領域12を含む。この時、基材11と領域12は同じ組成でも良く、異なる組成でも良い。また、基材11、領域12の材料は単一でも良いが、複数の材料、積層体からなっても良い。
【0018】
基材11、領域12は、電極として機能するため導電性を有することが好ましく、また耐久性の観点から導電性無機物であることが望ましい。導電性無機物としては、特に制限はないが、金属、金属を含む無機からなる導電物・半導体が好ましい。金属を含む無機物質として、鉄、アルミニウム、ジルコニウム、チタンなどが挙げられ、金属アレルギーの観点からは、アルミニウム、ジルコニウム、チタンが好ましい。金属を含む無機物質としては、酸化物、窒化物などが好ましく用いられる。
【0019】
基材11の厚みに特に制限はないが、ウェアラブル素材に用いる事を考慮し、薄いことが好ましく、10mm以下、好ましくは5mm以下、更に好ましくは1mm以下である。
【0020】
領域12の厚みに特に制限はないが、ウェアラブル素材に用いる事を考慮し、薄いことが好ましい。また、純金属でなく、無機化合物で形成する場合、導電性の観点からより薄い事が好ましく、1mm以下、好ましくは0.1mm以下、更に好ましくは0.01mm以下である。
【0021】
電極10は導電性を有することが好ましい。そのため、基材11は導電性を有することが好ましく、その体積抵抗率は5000μΩcm以下であることが好ましく、1000μΩcm以下がより好ましく、100μΩcm以下が更に好ましい。領域12の導電性は、100MΩcm以下が好ましく、25MΩcm以下がより好ましく、10MΩcm以下が更に好ましい。
【0022】
電極10の電極体積抵抗率は100kΩcm以下であることが好ましく、10kΩcm以下であることがより好ましく、1kΩcm以下であることが更に好ましい。領域12の体積抵抗率は、2×2cmの導電性基材11上に領域12を形成し、2×2cmの導電性平滑金属板(例えば平滑な50μm厚のステンレス板)をその上に押し当て、導電性基材間(導電性基材と導電性平滑金属板)の抵抗を測定し、そこから導電性平滑金属および基材11分の抵抗を減じた値を、領域12の膜厚方向の抵抗として、厚みで割り面積を乗じた値を体積抵抗率として求める。また、電極10の体積抵抗率は、2×2cmの電極10に対し、2×2cmの導電性平滑金属板を領域12側から押し当て、導電性基材間の抵抗を測定し、そこから導電性平滑金属板分の抵抗を減じた値を、電極10の膜厚方向の抵抗として、厚みで割り面積を乗じた値を体積抵抗率として求める。
【0023】
皮膚に対して、粘着剤を用いずに自己吸着性を持たせる事で、耐久材として常時装着するデバイス、用途において好ましく用いる事ができる。自己吸着性とは、耐久性を有する構造物そのもので、粘着剤なしに、対象物に対し粘着性を有する事を差す。皮膚に対する吸着性は、皮膚もしくは、皮膚模擬体(シリコーンゴムなど)に対し、自己吸着性電極を貼り合わせ、引き剥がす際に必要な力で測定することができる。例えば、人工皮膚としてシリコーンゴムを対象物に用いる場合、電極に貼り合わせたシリコーンゴムを180°の向きに300mm/minで引き剥がす際の粘着力は、0.002N/mm以上であることが好ましい。
【0024】
自己吸着性を有する多孔質構造を実現する方法としては、
図1のように表面に微細な孔を設ける、あるいは皮膚が追随できるレベルで微細に荒し接触表面積を増やす、などの方法がある。凹凸は大きくつけすぎると、皮膚が追随せず接触面積が逆に低下し粘着力が低下するケースがあり、高い吸着力を得る方法としては、表面に孔を設ける方式が好ましい。孔を設けて吸着力が上がるメカニズムは、皮膚が孔を塞ぎながら孔中に皮膚が入り込み、その後、皮膚の弾性で戻る際、孔内が減圧になり、大気圧との差分により吸着力が発生すると推定している。そのため、多孔質構造の孔径は、皮膚が孔の中に入り込むため優位なサイズを有し、且つ皮膚でふさぎきれないサイズである必要があり、0.005~1000μmが好ましく、0.01~100μmがより好ましく、0.015~1μmが更に好ましい。孔の深さは、皮膚が入り込む量によりその体積が減じられるほど減圧されやすいが、浅すぎる、あるいは孔の径に対し浅すぎると皮膚が底に当たり、上手く減圧状態を形成することができない。そのため、多孔質構造の孔の深さは、0.03~1000μmが好ましく、0.05~200μmがより好ましく、0.1~10μmが更に好ましい。また、多孔質構造の孔の深さと孔径の比は、深さ/孔径の値で、0.01~100であることが好ましく、0.1~10であることがより好ましい。表面積に対する孔の占める面積比(頻度)は、多いほど吸着部分が多くなり好ましいが、多すぎると孔同士が連結しリークしやすくなるため、表面積中に孔の占める面積は1~90%であることが好ましく、5~80%であることがより好ましく、15~50%であることが更に好ましい。孔の平均径は、陽極酸化皮膜表面を倍率15万倍の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)でN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、孔の個数が50個観察できる範囲を撮影し、孔径(直径)を測定し、平均した値である。
なお、孔の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの円の直径である。孔の深さは、領域12の断面の写真をとり、25個以上の孔の深さを測定し、平均した値である。孔の密度は孔の径を解析時に得られた4枚の画像において、100個以上観察できる範囲を撮影し、存在する孔の数をカウントするとこで算出する。
表面積に対する孔の占める面積比は、100個以上観察できる範囲を撮影し、各孔の面積を合算し、観察した領域面積に対する割合を計算することにより求める。
【0025】
電極表面の孔の開口部の形状については、特に制限はないが、吸着性をより好ましく発現させるため、円、楕円状などなめらかな曲線で形成されている形状が好ましい。多孔質構造の開口率は10%以上90%以下であることが好ましく、15%以上85%以下であることがより好ましい。
【0026】
孔の深さ方向の形状については、特に制限はないが、孔は貫通孔では吸着力が発現しにくいため、表面の開口部以外は閉じている構造であることが好ましい。また、皮膚で抑えた際、皮膚が入り込みやすく、且つ孔の体積をより小さくするため、表面の開口部に対し、深さ方向で狭くなっている構造も好ましく用いる事ができる。
【0027】
孔の開口部の形状、面積は、より均一である方が安定して吸着力を発現できるので好ましい。
【0028】
孔の深さ方向の形状、面積および、孔径に対する深さの比は、より均一である方が安定して吸着力を発現できるので好ましい。但し、孔の形状は特に制限されず、略直管状(略円柱状)であるが、深さ方向(厚み方向)に向かって径が小さくなる円錐状であってもよい。また、孔の底部の形状は特に制限されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
【0029】
各孔は均等に分布している方が、より安定して吸着力を発現できるので好ましい。また、孔が空いていない部分で、減圧状態を維持するため、各孔の間隔は一定の距離がある方が好ましいが、距離があり過ぎると孔の占める面積比が小さくなり吸着力が弱くなる。孔と孔の間の距離は0.001~100μmであることが好ましく、0.01~10μmであることが好ましく、0.05~1μmであることが更に好ましい。孔と孔の距離は、表面SEM像を観察し、各孔間の距離を求め、それを10個平均することで求める。
【0030】
吸着力を挙げる観点から、表面平滑性は高い方が好ましく、レーザー顕微鏡(例えば、キーエンス社製VK-8700)で測定したRa(表面算術平均粗さ)において、0.4μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.25μm以下が更に好ましい。
【0031】
孔がない部分も、平坦であるほど減圧構造を保持しやすい。
【0032】
孔の形成は、陽極酸化処理法、フォトリソ法、物理切削などにより行う事ができ、その加工性、量産性から、陽極酸化処理法、フォトリソが好ましく、陽極酸化処理法が量産性の観点で最も好ましい。
【0033】
陽極酸化法としては、特許第6792633号、「チタンの陽極酸化」(廣地通明、大中隆 著、特集/軽金属への麦面処理、Vol.35, No.6, 1988)、および「ジルコニウムの陽極酸化皮膜を利用したポリマー基材の生物模倣ハードコーティング技術」(浦田 千尋・ベンジャミン マシェダー・ダルトン F. チェン・穂積 篤著、高分子論文集、Vol.70、No.5、pp.232-234(May,2013)等に記載の方法で好ましく本特許規定の形状を実現することができる。陽極酸化時に使用する、電解液、電流密度、電解時間等を制御することで孔の頻度、深さを制御し、その後に水酸化ナトリウム水溶液等で浸漬処理することで狙いの孔径に制御する事が好ましい。
【0034】
また、陽極酸化法の場合、陽極酸化被膜の厚み(
図1の16)としては、耐久性の観点からは厚い方が好ましく、陽極酸化被膜自体が高い抵抗を有するため高感度化の観点からは薄い方が望ましい。30nm以上3000nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以上2000nm以下が好ましく、さらに好ましくは100nm以上1500nm以下がこのましい。その制御は、陽極酸化の電解時間を制御することにより行う事ができる。
【0035】
陽極酸化法により孔形成する場合、孔同士が連結せずに、且つ優位に吸着力を発現するように孔を好ましく形成するために、皮膚が孔の中に入り込むため優位なサイズを有し、且つ皮膚でふさぎきれないサイズとして、5~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましく、15~150μmが更に好ましい。孔の深さは、皮膚が入り込む量によりその体積が減じられるほど減圧されやすいが、浅すぎる、あるいは孔の径に対し浅すぎると皮膚が底に当たり、上手く減圧状態を形成することができない。そのため、30~3000nmが好ましく、50~2000nmがより好ましく、100~1500nmが更に好ましい。
【0036】
吸着力を維持する観点で、電極表面に防汚性を持たせる事が好ましい。常時装着を想定すると、皮脂、化粧品などの汚れなどの可能性が高く、一般に、親水性あるいは疎水性の表面にするやり方がある。親水性にする場合、親水性処理することが出来、アクリルアミド、アクリルなどの親水性モノマーを表面に吸着効果処理する方法や、親水性ポリマーコート、シリケート処理などの方法があり、疎水性にする場合、疎水性処理することが出来、フッ素系や親油性モノマーを表面に吸着硬化処理する方法、親油性ポリマーコートなどの方法がある。親疎水性は、接触角により測定することができる。親水的にする場合、親水性は、水接触角で、40°以下であり、40°未満であることが好ましい。水接触角は、純水接触角は、接触角計(例えば、M553G-XM((株)シロ産業製)を用いて測定される。電極表面に純水を1μl滴下して、θ/2法により求め、5回測定して得た値の平均値を接触角の値とする。また、疎水的にする場合は、疎水性は、ヨウ化メチレン接触角で、50°以上が好ましく、60°以上がより好ましい。ヨウ化メチレン接触角は、上記水接触角の溶媒をヨウ化メチレンにすることで測定できる。例えば、孔が空いている状態に対し何かをコートするなどの処理をする場合、孔形状が処理により変化する可能性があるが、その場合、本願規定の孔形状になる様、もとの孔形状を広め/深め(あるいは狭め/浅め)に作っておく、あるいは、コーティング剤の塗布量を最小限に抑える、数分子層分のモノマーを表面吸着・硬化させるなどの工夫により、孔の寸法をほぼ変化しないように処理する、などの方法がある。
【0037】
多孔質構造の300mm/minの引張速度での180°ピール法によって測定される皮膚に対する吸着力が0.0025N/mm以上であることが好ましく、0.0035N/mm以上であることが更に好ましい。
【0038】
本発明の電極は、電極を長期間装着している系で好ましく効果をあげることができる。例えば、スマートウォッチ、イヤホン、リングなどのウェアラブルデバイス、ホルダー心電図などの医療機器など。特に、日、月、年単位で装着するウェアラブルデバイスで好ましく用いる事ができる。
【0039】
本発明の電極は、平板形状でも良く、デバイス、機器の形態に合わせて、曲面、3次元構造になっていても良い。
【0040】
以上、本発明の電極について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例0041】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
以下に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す態様により限定的に解釈されるべきものではない。
【0042】
(実施例1)
図2に示す構造の直流電解による陽極酸化処理装置610を用いて、金属板の陽極酸化処理を行った。陽極酸化条件は表1に示す。
【0043】
【0044】
以下、
図2に示す陽極酸化処理装置610について説明する。
図2に示す陽極酸化処理装置610において、金属(アルミニウム、ジルコニウム、鉄(SUS)、チタン等)板616は、
図2中矢印で示すように搬送される。電解液618が貯溜された給電槽612にて金属(アルミニウム、ジルコニウム、鉄(SUS)、チタン等)板616は給電電極620によって(+)に荷電される。そして、金属板(アルミニウム板)616は、給電槽612においてローラ622によって上方に搬送され、ニップローラ624によって下方に方向変換された後、電解液626が貯溜された電解処理槽614に向けて搬送され、ローラ628によって水平方向に方向転換される。次いで、金属板616は、電解電極630によって(-)に荷電されることにより、その表面に陽極酸化皮膜が形成され、電解処理槽614を出た金属板616は後工程に搬送される。陽極酸化装置610において、ローラ622、ニップローラ624、及びローラ628によって方向転換手段が構成され、金属板616は、給電槽612と電解処理槽614との槽間部において、ローラ622、ニップローラ624、及びローラ628により、山型及び逆U字型に搬送される。給電電極620と電解電極630とは、直流電源634に接続されている。給電槽612と電解処理槽614との間には、槽壁632が配置されている。
【0045】
(ポアワイド処理)
上記陽極酸化処理した金属板を、温度40℃、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液に下記表2に示す条件で浸漬し、ポアワイド処理(以下、PWともいう。)を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0046】
【0047】
前記陽極酸化条件とポアワイド条件(以下、孔径制御条件ともいう)を組み合わせて下記表3に示すサンプルを作成した。
【0048】
【0049】
(比較例1~4)
基材を陽極酸化処理、ポアワイド処理しなかったこと以外は上記実施例21、20、22、23と同様に、比較例1、2、3、4のサンプルをそれぞれ作成した。比較例1~4はいずれも多孔質構造を有さないサンプルであった。
【0050】
(吸着性の評価方法)
作製した電極に、200μm厚のシリコーンゴムを2kg荷重ローラーで3往復で貼り合わせ、300mm/minの引張速度での180°ピール法で密着力評価した。
【0051】
(体動に伴うノイズの影響低減効果の評価方法)
HEIDON摩擦摩耗試験機上に、導電ゴムシート(エンジニア社製導電性カラーマット)3×7cmを設置し、その上に、長手方向に3cmの間隔で2×2cmの大きさに切り取った電極を置き、各電極の上にそれぞれ200gの重りを載せた。その後、摩耗試験機を、稼働速度2000mm/min、稼働距離20mmとして504回往復させ、2つの電極間の抵抗値を測定し、最大抵抗値と最小抵抗値の差分を抵抗値変動として計測した。この時、密着性が良ければ、電極の接触抵抗の変動が少なく、抵抗値差分が少なくなるため、本検討での抵抗値変動を密着性として評価した。
【0052】
実施例1~27比較例1~4についての評価結果を表4に示す。表4の通り、本発明の電極において、体動に伴うノイズの影響を低減することができる。
【0053】