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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089366
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】抗HBs抗体およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240626BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240626BHJP
   C07K 16/08 20060101ALI20240626BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
A61K39/395 N
A61P31/20
A61P1/16
C07K16/08
C07K16/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204692
(22)【出願日】2022-12-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「肝炎等克服実用化研究事業 B型肝炎創薬実用化等研究事業」「高効率感染細胞系と長期持続肝炎マウスモデルを用いたHBV排除への創薬研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】茶山 一彰
(72)【発明者】
【氏名】茶山 弘美
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA40
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】HBV感染の治療または予防に有効な抗体を提供する。
【解決手段】本開示は、抗HBs抗体および前記抗体を含む医薬組成物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号5のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域、および、
配列番号7のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号8のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号9のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域
を含む、抗HBs抗体。
【請求項2】
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域、および、
配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域
を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
ヒト化抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
配列番号2のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号2のアミノ酸配列もしくは配列番号2のアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および
配列番号6のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号6のアミノ酸配列もしくは配列番号6のアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域
を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域から特定されるCDR1、CDR2、およびCDR3を含む軽鎖可変領域、および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域から特定されるCDR1、CDR2、およびCDR3を含む重鎖可変領域を含む、抗HBs抗体。
【請求項7】
HBs抗原への結合において請求項1~6のいずれかに記載の抗体と競合する、抗HBs抗体。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の抗体を含む、医薬組成物。
【請求項9】
B型肝炎ウイルス感染の治療または予防のための、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
慢性B型肝炎、急性B型肝炎、または肝硬変の治療または予防のための、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項7に記載の抗体を含む、医薬組成物。
【請求項12】
B型肝炎ウイルス感染の治療または予防のための、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
慢性B型肝炎、急性B型肝炎、または肝硬変の治療または予防のための、請求項12に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、B型肝炎ウイルス(HBV)のHBs抗原に対する抗体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
HBVは、世界でおよそ3億人が感染し、2億人以上が持続感染している、広く世界中に存在しているウイルスである。年間100万人以上がこのウイルスに由来する肝硬変や肝臓癌により死亡するという、深刻な感染症を引き起こしている。ウイルスは、多くは幼少期の感染により持続感染となるが、成人で感染しても慢性化する症例もある。持続感染となった症例の一部は慢性肝炎から肝硬変へと進展し、また一部の症例は肝細胞癌を発症する。このようにB型肝炎ウイルスの持続感染は深刻な保健上の問題であり、その治療法、感染の予防法、病態の評価方法などが喫緊の課題としてあげられている。
【0003】
HBVは、約3,200塩基の一部分2本鎖環状DNAをゲノムとして有するウイルスである。HBVのウイルス粒子は、内部にHBVの遺伝子を持つコア粒子と、これを包む外殻(エンベロープ)とからなる。現在、HBV感染の診断には、外殻に存在するHBs抗原、コア粒子に存在するHBc関連抗原、血液中に放出されるHBe抗原、これら抗原に対する抗体や、HBV DNA量などがマーカーとして用いられ、これらを組み合わせて感染の有無や病態または治療効果の判定が行われている。HBV感染の抗ウイルス治療にはインターフェロンや核酸アナログが用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、HBV感染の治療または予防に有効な抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、ある態様において、
配列番号3のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号5のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域、および、
配列番号7のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号8のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号9のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域
を含む、抗HBs抗体を提供する。
【0006】
本開示は、ある態様において、前記抗体を含む医薬組成物を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によりHBs抗原に対する抗体が提供される。本開示の抗体は、HBV感染予防効果のみならず、長期間持続しうる抗ウイルス効果を有する。本開示の抗体はさらに、他の治療薬との併用においてHBV感染に対する優れた治療または予防効果を発揮しうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、完全なHBV粒子(Dane粒子)、桿状粒子、および小型球形粒子に共通して存在するHBs抗原の領域の各遺伝子型(Genotype)の代表例アミノ酸配列を比較した図である。Genotype A, B, C, D, E, F, Hの配列(配列番号10~16)を示す。GenBankにおける各HBs抗原のSドメインの99~155番目のアミノ酸配列(A-determinant領域は121~147番目)である。上部の図は想定されているHBs抗原の膜表面上におけるループ構造を示したものである。
図2図2は、9種類のハイブリドーマの培養上清(0.01、0.1、1μg/ml)の、ヒト初代培養肝細胞に対するHBV感染阻止効果を見たものである。感染9日後のHBs抗原の産生を測定して評価した。
図3図3は、図2と同様の実験を行い、その効果をHBe抗原の産生を測定して評価したものである。
図4図4は、ハイブリドーマの拡大培養後の上清から精製した抗体を使用した実験を図3と同様に行い、その効果をHBs抗原で見たものである。
図5図5は、ハイブリドーマの拡大培養後の上清から精製した抗体を使用した実験を図3と同様に行い、その効果をHBe抗原で見たものである。
図6図6は、ハイブリドーマの拡大培養後の上清から精製した抗体#7-4gおよび3種類の抗preS1抗体(抗体41、抗体1A、抗体10)の、ヒト初代培養肝細胞に対するHBV感染阻止効果を見たものである。感染9日後のHBs抗原の産生を測定して評価した。
図7図7は、ハイブリドーマの拡大培養後の上清から精製した抗体#7-4gおよび3種類の抗preS1抗体(抗体41、抗体1A、抗体10)の、ヒト初代培養肝細胞に対するHBV感染阻止効果を見たものである。感染9日後のHBe抗原の産生を測定した評価した。
図8図8は、ヒト肝細胞キメラマウス(N=3)において抗体#7-4gのHBV感染阻止効果をみたものである。縦軸はHBVのDNA量を示す。
図9図9は、ヒト肝細胞キメラマウス(N=3)における抗preS1抗体(上)および抗体#7-4g(下)の抗ウイルス効果を比較して示したものである。ラインはHBVのDNA量、色付きのバーはHBs抗原量(sAg)、斜線のバーは抗Hbs抗体量(sAb)を示す。バーは左から、実線、破線、点線のマウスの結果を示す。
図10図10は、ヒト肝細胞キメラマウス(N=3)において抗体#7-4gと抗preS1抗体とを併用投与した場合の抗ウイルス効果を見たものである。ラインはHBVのDNA量、色付きのバーはHBs抗原量(sAg)、斜線のバーは抗Hbs抗体量(sAb)を示す。バーは左から、実線、破線、点線のマウスの結果を示す。
図11図11は、ヒト肝細胞キメラマウス(N=3)においてエンテカビル(ETV)を投与した場合の抗ウイルス効果を見たものである。ラインはHBVのDNA量、色付きのバーはHBs抗原量(sAg)またはHBe抗原(eAg)を示す。バーは左から、実線、破線、点線のマウスの結果を示す。
図12図12は、ヒト肝細胞キメラマウス(N=1)において抗体#7-4gとエンテカビル(ETV)とを併用投与した場合の抗ウイルス効果を見たものである。ラインはHBVのDNA量、色付きのバーはHBs抗原量(sAg)、斜線のバーは抗Hbs抗体量(sAb)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
【0010】
本明細書において、アミノ酸残基は以下の略号で表される。
AlaまたはA:アラニン
ArgまたはR:アルギニン
AsnまたはN:アスパラギン
AspまたはD:アスパラギン酸
CysまたはC:システイン
GlnまたはQ:グルタミン
GluまたはE:グルタミン酸
GlyまたはG:グリシン
HisまたはH:ヒスチジン
IleまたはI:イソロイシン
LeuまたはL:ロイシン
LysまたはK:リジン
MetまたはM:メチオニン
PheまたはF:フェニルアラニン
ProまたはP:プロリン
SerまたはS:セリン
ThrまたはT:スレオニン
TrpまたはW:トリプトファン
TyrまたはY:チロシン
ValまたはV:バリン
【0011】
HBVは、約3,200塩基の一部分2本鎖環状DNAをゲノムとして有するウイルスである。HBVのウイルス粒子は、内部にHBVの遺伝子を持つコア粒子と、これを包む外殻(エンベロープ)とからなる。本明細書において、抗HBs抗体とは、外殻に存在するタンパク質である、HBs抗原(Hepatitis B surface antigen, HBsAg)に結合する抗体を意味する。HBs抗原には、S、preS1およびpreS2の3つのドメインが存在し、この3つのドメインから構成されるLタンパク質、preS1ドメインを欠き、SドメインとpreS2ドメインとで構成されるMタンパク質、preS1ドメインとpreS2ドメインとを欠き、Sドメインのみで構成されるSタンパク質がある。本明細書において、抗HBs抗体は、Sドメイン、preS1ドメインおよびpreS2ドメインのいずれのドメイン中のエピトープに結合する抗体であってもよい。本明細書において、抗preS1抗体とはHBs抗原のpreS1ドメイン中のエピトープに結合する抗体を、抗S抗体とはHBs抗原のSドメイン中のエピトープに結合する抗体を、抗preS2抗体とはHBs抗原のpreS2ドメイン中のエピトープに結合する抗体を意味する。
【0012】
HBVは、少なくとも、A、B、C、D、E、F、G、H、Jの9種類の遺伝子型(Genotype)に分けられる。本開示におけるHBVにはいずれの遺伝子型のHBVも含まれ、HBs抗原はいずれの遺伝子型のタンパク質であってもよい。HBs抗原(Genotype C)の代表的アミノ酸配列(accession No. MH887433)を配列番号1に示すが、本開示のHBs抗原は配列番号1のアミノ酸配列を含むものに限定されない。

MGGWSSKPRQGMGTNLSVPNPLGFFPDHQLDPAFGANSNNPDWDFNPNKDHWPEANQVGAGAFGSGFTPPHGGLLGWSPQAQGILTTVPAAPPPASTNRQSGRQPTPISPPLRDSHPQAMQWNSTTFHQALLDPRVRGLYFPAGGSSSGTVNPVPTTASPISSIFSRTGDPAPNMENTTSGFLGPLLVLQAGFFLLTRILTIPQSLDSWWTSLNFLGGAPTCPGQNSQSPTSNHSPTSCPPICPGYRWMCLRRFIIFLFILLLCLIFLLVLLDYQGMLPVCPLLPGTSTTSTGPCKTCTIPAQGTSMFPSCCCTKPSDGNCTCIPIPSSWAFARFLWEWASVRFSWLSLLVPFVQWFVGLSPTVWLSVIWMMWYWGPSLYNILSPFLPLLPIFFCLWVYI(配列番号1)

配列番号1におけるpreS1ドメイン、preS2ドメインおよびSドメインは、それぞれ、1番目~119番目、120番目~174番目および175番目~400番目の領域である。当業者は、各遺伝子型のHBs抗原のアミノ酸配列を、GenBankなどのデータベースから容易に取得することができる。
【0013】
「抗体」なる用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、抗体断片など、種々の抗体構造を含む意味で用いられる。モノクローナル抗体には、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体が含まれる。抗体断片は、抗体の一部分を構成要素として含む分子意味し、例えば、限定はされないが、抗体の重鎖および軽鎖可変領域(VHおよびVL)、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv、disulphide-linked FV (sdFv) 、Single-Chain FV (scFV) およびこれらの重合体が挙げられる。抗体の種は特に限定されず、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒト由来の抗体が挙げられる。
【0014】
抗体のイムノグロブリンクラスは、重鎖定常領域に基づき決定される。イムノグロブリンクラスとしては、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMが挙げられ、これらに対応する重鎖はそれぞれ、α鎖、δ鎖、ε鎖、γ鎖、およびμ鎖と呼ばれる。イムノグロブリンクラスは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2に分けることができる。本明細書における抗体のイムノグロブリンクラスは、特に限定はされない。ある実施形態において、抗体は、IgGである。さらなる実施形態において、抗体は、IgG1またはIgG4である。抗体の軽鎖は、その定常領域に基づきκ鎖およびλ鎖に分けることができるが、本明細書における抗体は、κ鎖およびλ鎖のいずれを有していてもよい。
【0015】
抗体の可変領域は、通常、4つのフレームワーク領域(framework region)(FRとも記載する)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity determining region)(CDRとも記載する)で構成される。本明細書において、抗体の可変領域およびCDRは、特に記載する場合を除き、Kabatの定義 (Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. 1991)により特定する。
【0016】
本開示の抗体は、一般的な抗体作製方法により得ることができる。例えば、本開示の抗体は、遺伝子工学的手法を用いて本開示の抗体をコードする配列を含む発現ベクターを作製し、細胞で発現させることによって得ることができる。
【0017】
ある実施形態において、本開示の抗体は、モノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は、当該抗体をコードする配列を含む発現ベクターを作製し宿主細胞で発現させることにより、得ることができる(P.J.Delves., ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES., 1997 WILEY; P.Shepherd and C.Dean., Monoclonal Antibodies., 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS; J.W. Goding., Monoclonal Antibodies:principles and practice., 1993 ACADEMIC PRESS)。また、目的の抗体をコードする配列を内在遺伝子に組み込んだトランスジェニック動物(例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジまたはブタ)を作製し、そのトランスジェニック動物のミルク中から抗体を取得する方法も知られている。
【0018】
ある実施形態において、本開示の抗体は、キメラ抗体である。キメラ抗体は、互いに由来の異なる配列を含む抗体であり、例えば、互いに由来の異なる可変領域と定常領域とを連結した抗体である。ある実施形態において、キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体の可変領域と、ヒト抗体由来の定常領域から構成される。キメラ抗体は、例えば、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体の可変領域をコードするポリヌクレオチドとヒト抗体の定常領域をコードするポリヌクレオチドを連結し、これを発現ベクターに組み込み、この発現ベクターを宿主に導入して発現させることによって、取得することができる。
【0019】
CDRは、実質的に抗体の結合特異性を決定する領域であり、そのアミノ酸配列は多様性に富む。一方、FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも高い相同性を示す。そのため、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を他の抗体に移植することができる。
【0020】
ある実施形態において、本開示の抗体は、ヒト化抗体である。ヒト化抗体は、一般に、ヒト以外の動物由来の抗体のCDRと、ヒト抗体由来のFRおよびヒト抗体由来の定常領域とから構成される。ヒト化抗体は、ヒト以外の動物由来の抗体のCDRをヒト抗体に移植することにより得ることができる。ヒト化抗体は種々の方法により作製することができるが、一例として、Overlap Extension PCRが挙げられる(Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008))。本方法では、ヒト以外の動物由来の抗体(例えばマウス抗体)のCDRとヒト抗体のFRとの末端にオーバーラップする部分を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行い、ヒト以外の動物由来の抗体のCDRとヒト抗体のFRとが連結されたポリヌクレオチドを合成する。次いで、得られたポリヌクレオチドをヒト抗体の定常領域をコードするポリヌクレオチドと連結し、発現ベクターに組み込んで、この発現ベクターを宿主に導入して発現させることにより、ヒト化抗体を取得することができる。
【0021】
ヒト化抗体の作製に好適なFRの選択方法は公知であり、例えば、ベストフィット法(Sims et al. J. Immunol. 151:2296 (1993))により選択されたFRや、ヒト抗体の軽鎖または重鎖可変領域の特定のサブグループのコンセンサス配列に由来するFR(Carter et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4285 (1992); Presta et al. J. Immunol. 151:2623 (1993))を用いることができる。
【0022】
多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に結合する抗体である。多重特異性抗体としては、二重特異性抗体、三重特異性抗体などが挙げられる。ある実施形態において、多重特異性抗体は、HBs抗原と、1以上の他の抗原とに結合する。多重特異性抗体は、例えば、遺伝子工学的手法により、あるいは認識抗原が異なる2つ以上の抗体を結合することにより、作製することができる。
【0023】
抗体断片は、例えば、パパイン、ペプシン等のプロテアーゼにより抗体を消化することにより得ることができる。あるいは、抗体断片をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを宿主細胞に導入し発現させることで得ることができる(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137; Hudson et al., Nat. Med., (2003) 9, 129-134)。
【0024】
前述のように、抗体は、これをコードする配列を含む発現ベクターを細胞に導入して発現させることにより、得ることができる。具体的には、抗体をコードする配列がエンハンサーやプロモーターなどの発現制御領域のもとで発現するよう発現ベクターを構築し、この発現ベクターで宿主細胞を形質転換して、抗体を発現させる。
【0025】
抗体をコードする配列は、軽鎖可変領域をコードする配列、重鎖可変領域をコードする配列、またはこれらの組み合わせでありうる。軽鎖可変領域をコードする配列と重鎖可変領域をコードする配列は、同一のベクターに含まれていても別のベクターに含まれていてもよい。ベクターとしては、プラスミド、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどのウイルスベクター、人工染色体などが挙げられる。
【0026】
宿主細胞としては、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞などの真核細胞を用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞(例えば、CHO、COS、NIH3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero)、両生類細胞(例えばアフリカツメガエル卵母細胞)、または昆虫細胞(例えば、Sf9、Sf21、Tn5)が挙げられる。真菌細胞としては、酵母(例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、糸状菌(例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))などが挙げられる。また、大腸菌(E. coli)(例えば、JM109、DH5α、HB101等)、枯草菌などの原核細胞を宿主細胞として用いることもできる。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、リポフェクションなどの方法により行うことができる。
【0027】
得られた抗体は、当該分野において周知の方法、例えばプロテインAカラムによるクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、硫安塩析法、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより、精製することができる。
【0028】
抗体のHBs抗原への結合および結合親和性は、酵素免疫測定法(EIA)(ELISAを含む)、放射免疫測定法(RIA)、化学発光免疫測定法(CIA)、蛍光免疫測定法(FIA)などの免疫測定法や、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイなどにより確認することができる。ある実施形態において、抗HBs抗体は、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、10-8M~10-12M、10-9M~10-12M、または10-9M~10-11Mの解離定数 (Kd) を有する。ある実施形態において、結合親和性は、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイにより測定される。HBs抗原としては、実施例に記載のように調製したHBs抗原、または遺伝子工学的手法により合成したHBs抗原(例えば配列番号1のHBs抗原)を用いることができる。
【0029】
抗体のHBs抗原への結合は、競合アッセイにより確認することもできる。例えば、得られた抗体が、配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域、および、配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗HBs抗体と、または配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む抗HBs抗体と、HBs抗原への結合において競合するか否かを調べることにより、確認することができる。
【0030】
ある実施形態において、本開示の抗体は、
配列番号3のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号5のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域、および、
配列番号7のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号8のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号9のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域
を含む抗体である。
【0031】
さらなる実施形態において、本開示の抗体は、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域、および、
配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域
を含む抗体である。
【0032】
ある実施形態において、本開示の抗体は、
配列番号2のアミノ酸配列と80%、85%、90%、または95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号2のアミノ酸配列もしくは配列番号2のアミノ酸配列において1~20個、1~10個、1~5個、または1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および
配列番号6のアミノ酸配列と80%、85%、90%、または95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号6のアミノ酸配列もしくは配列番号6のアミノ酸配列において1~20個、1~10個、1~5個、または1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域
を含む抗体である。
【0033】
さらなる実施形態において、本開示の抗体は、
配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む抗体である、
【0034】
ある実施形態において、本開示の抗体は、本明細書に記載の抗HBs抗体と、HBs抗原への結合において競合する抗体である。本明細書において、所定の抗体(すなわち、参照抗体)と競合する抗体とは、参照抗体のHBs抗原への結合を有意に減少させる抗体を意味する。競合実験は、以下のように行うことができる。まず、試験抗体と参照抗体とを種々のモル比で混合する。試験抗体は、通常、参考抗体に対して過剰量で(例えば、1倍、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、または100倍)用いられる。参照抗体は、適当な標識(例えばビオチン)で標識されていてもよい。次いで、前記混合物を、HBs抗原を固相化したプレートに添加し、反応させた後、プレートを洗浄し、検出試薬(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)で標識した二次抗体、または、ビオチン化した試験抗体を用いた場合、HRP-ストレプトアビジン)を添加して、HBs抗原に結合した標識参照抗体の量を測定する。ある実施形態において、本開示の抗体は、参照抗体のHBs抗原への結合を、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または95%以上減少させる。
【0035】
さらなる実施形態において、本開示の抗体は、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域、および、
配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域
を含む抗体と、HBs抗原への結合において競合する抗体である。
【0036】
さらなる実施形態において、本開示の抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む抗体と、HBs抗原への結合において競合する抗体である。
【0037】
ある実施形態において、本開示の抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域から特定されるCDR1、CDR2、およびCDR3を含む軽鎖可変領域、および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域から特定されるCDR1、CDR2、およびCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗体である。本実施形態において、CDRの特定方法は任意である。好ましくは、CDRは、Kabatの定義 (Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. 1991)、Chothiaの定義(Chothia et al., J. Mol. Biol., 1987; 196: 901-917)、AdMの定義 (Martin et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1989; 86: 9268-9272)、Contactの定義 (MacCallum et al., J. Mol. Biol. 1996; 262: 732-745)、およびIMGTの定義(Lefranc et al., Dev Comp Immunol. 2003; 27(1): 55-77)のいずれかにより特定される。
【0038】
本明細書において、所定のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列には、その所定のアミノ酸配列に1以上のアミノ酸残基が付加されたアミノ酸配列と、その所定のアミノ酸からなる配列とが包含される。
【0039】
本明細書において、所定の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸配列と80%、85%、90%、または95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域または軽鎖可変領域、および、所定の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸配列において1~20個、1~10個、1~5個、または1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域または軽鎖可変領域には、その所定の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸配列におけるCDRに改変が生じていない抗体が含まれる。
【0040】
本明細書における、アミノ酸配列に関する「配列同一性」とは、最適な状態に(一致が最大となる状態に)アラインメントされた参照配列と候補配列との間で一致するアミノ酸残基の割合を意味する。候補配列の参照配列に対する配列同一性は以下の式により算出される:配列同一性(%)=[(参照配列と候補配列との間で一致するアミノ酸残基数)/(参照配列のアミノ酸残基数)]×100。2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加または欠失(例えばギャップ等)が存在してもよい。配列同一性は、公共のデータベース(例えば、DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp))で提供されるFASTA、BLAST、CLUSTAL W等のプログラムを用いて算出することができる。あるいは、市販の配列解析ソフトウェア(例えば、Vector NTI(登録商標)ソフトウェア、GENETYX(登録商標) ver. 12)を用いて求めることもできる。配列同一性は、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上でありうる。ある実施形態において、配列同一性は、90%以上である。
【0041】
アミノ酸配列の改変には、アミノ酸残基の欠失、置換、および付加(挿入も包含する)が含まれる。2個以上のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列という場合、各アミノ酸残基の改変は欠失、置換、および付加から独立に選択される。改変されるアミノ酸残基の数は、1~20個、1~10個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個でありうる。ある実施形態において、改変されるアミノ酸残基の数は、1~3個、1~2個、または1個である。
【0042】
アミノ酸配列を改変し所望の特性を有する抗体を得る方法として、様々な方法が知られている。例えば、結合親和性を改善した変異体は、ファージディスプレイに基づく方法により得ることができる。この方法では、例えば、アラニンスキャニング変異導入法により抗体と抗原の相互作用に影響するアミノ酸残基を同定するか、あるいは、抗原抗体複合体の結晶構造を解析して抗体と抗原の間の接触点を同定するなどして、変異導入部位を決定する。この部位のアミノ酸を改変した変異体をエラープローンPCRや部位特異的変異導入などにより作製し、得られた変異体のライブラリーをスクリーニングすることにより、所望の特性を有する変異体を得ることができる。
【0043】
抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性や補体依存性細胞傷害(CDC)活性または体内動態の調節のため、イムノグロブリンのサブクラスが選択されていてもよく、Fc領域のアミノ酸配列または糖鎖が改変されていてもよい。例えば、補体活性化能の低減を目的として、IgG4が選択されうる。また、Fc受容体またはC1qへの結合性を低減または増強する改変、血中半減期の延長のためFcRnへの結合親和性を上昇させる改変などが行われうる。
【0044】
抗体は、また、例えば抗体の血中半減期の延長、または安定性の改善等のため、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレンまたはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマーなどのポリマーと結合していてもよい。抗体は、また、化学療法剤、毒性ペプチド、放射性化学物質などと結合していてもよい。
【0045】
本開示の抗体は、HBs抗原の測定やB型肝炎ウイルス感染の評価に、あるいは医薬組成物の有効成分として、用いることができる。
【0046】
ある実施形態において、本開示の抗HBs抗体は、HBV感染の治療または予防に用いられる。HBV感染の治療には、HBV感染による症状または疾患の治療、例えば慢性または急性B型肝炎および肝硬変の治療が含まれる。HBV感染の予防には、HBVの汚染針の受針事故後の感染予防、輸血または臓器移植の後の感染予防などが含まれる。
【0047】
本開示の抗体は、所望の効果(例えば、HBV感染の治療または予防)を発揮しうる量(本明細書において、有効量という)で対象に投与される。抗体の投与量は、投与方法、投与対象の年齢、体重、健康状態等によって適宜選択される。例えば、成人1日あたり、10 μg/kg~100 mg/kg、100 μg/kg~10 mg/kg、または1 mg/kg~10 mg/kgを、連日、または数日、1週間もしくは数週間に1回、投与することができるが、これに限定されない。抗体の投与方法も、投与対象の年齢、体重、健康状態等によって適宜選択される。投与方法は、経口投与であっても非経口投与であってもよいが、非経口投与が好ましい。非経口投与としては、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、静脈内投与などが挙げられるが、静脈内投与によることが好ましい。
【0048】
対象は、哺乳動物、例えばヒトまたは非ヒト哺乳動物でありうる。非ヒト哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、およびサルが挙げられる。ある実施形態において、対象はヒトである。ある実施形態において、対象は、HBV感染、慢性または急性B型肝炎、または肝硬変を伴うヒト対象である。ある実施形態において、対象は、HBV汚染針の受針事故後のヒト対象、または輸血または臓器移植を受けたヒト対象である。
【0049】
医薬組成物は、常法により製剤化することができる。医薬組成物は、抗体に加えて、滅菌水、生理食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤、結合剤などの、医薬上許容される担体または添加剤を含むことができる。剤型は、抗体医薬に通常用いられる剤型であってよく、限定はされないが、例えば注射剤である。注射剤には、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、および用時調製型注射剤(例えば、凍結乾燥注射剤)が含まれる。
【0050】
医薬組成物の有効成分として、2種以上の本開示の抗HBs抗体を併用してもよい。あるいは、本開示の抗体は他の治療薬と併用してもよい。治療薬としては、インターフェロン(例えば、ペグインターフェロンα-2a)および核酸アナログ(例えば、エンテカビル、ラミブジン、アデホビル、テノホビル)が挙げられる。治療薬は、HBs抗原に対する抗体(例えば抗preS1抗体、抗preS2抗体、抗S抗体)またはHBs抗原以外のHBVタンパク質に対する抗体であってもよい。ある実施形態において、本開示の抗体は、エンテカビルと併用される。本明細書において、2種以上の有効成分を併用する場合、その全てまたは一部の有効成分が同一の組成物に含まれていてもよく、全ての有効成分が別の組成物に含まれていてもよい。また、2種以上の有効成分の投与スケジュールは同じであっても異なっていても良い。
【0051】
ある態様において、本開示は、
B型肝炎ウイルス感染を治療または予防するための方法であって、その処置を必要とする対象に有効量の本開示の抗HBs抗体を投与することを含む方法;
B型肝炎ウイルス感染の治療または予防に使用するための、本開示の抗HBs抗体;
B型肝炎ウイルス感染を治療または予防するための医薬の製造のための、本開示の抗HBs抗体の使用
を提供する。
【0052】
本開示の例示的実施形態を以下に記載する。
【0053】
[1]
配列番号3のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号5のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域、および、
配列番号7のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号8のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号9のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域
を含む、抗HBs抗体。
[2]
配列番号3のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号5のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域、および、
配列番号7のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号8のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号9のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域
を含む、前記1に記載の抗体。
[3]
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域、および、
配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR1、
配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR2、および
配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域
を含む、前記1または2に記載の抗体。
[4]
ヒト化抗体である、前記1~3のいずれかに記載の抗体。
[5]
配列番号2のアミノ酸配列と80%、85%、90%、または95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号2のアミノ酸配列もしくは配列番号2のアミノ酸配列において1~20個、1~10個、1~5個、または1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および
配列番号6のアミノ酸配列と80%、85%、90%、または95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号6のアミノ酸配列もしくは配列番号6のアミノ酸配列において1~20個、1~10個、1~5個、または1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域
を含む、前記1~3のいずれかに記載の抗体。
[6]
配列番号2のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号2のアミノ酸配列もしくは配列番号2のアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および
配列番号6のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号6のアミノ酸配列もしくは配列番号6のアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域
を含む、前記5に記載の抗体。
[7]
配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、前記5または6に記載の抗体。
[8]
配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域から特定されるCDR1、CDR2、およびCDR3を含む軽鎖可変領域、および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域から特定されるCDR1、CDR2、およびCDR3を含む重鎖可変領域を含む、抗HBs抗体。
[9]
HBs抗原への結合において前記1~8のいずれかに記載の抗体と競合する、抗HBs抗体。
【0054】
[10]
前記1~9のいずれかに記載の抗体を含む、医薬組成物。
[11]
B型肝炎ウイルス感染の治療または予防のための、前記10に記載の医薬組成物。
[12]
慢性B型肝炎、急性B型肝炎、または肝硬変の治療または予防のための、前記11に記載の医薬組成物。
[13]
慢性B型肝炎の治療のための、前記12に記載の医薬組成物。
【0055】
[14]
B型肝炎ウイルス感染を治療または予防するための方法であって、その処置を必要とする対象に有効量の前記1~9のいずれかに記載の抗体を投与することを含む方法。
[15]
慢性B型肝炎、急性B型肝炎、または肝硬変を治療または予防するための、前記14に記載の方法。
[16]
慢性B型肝炎を治療するための、前記15に記載の方法。
【0056】
[17]
B型肝炎ウイルス感染の治療または予防に使用するための、前記1~9のいずれかに記載の抗体。
[18]
慢性B型肝炎、急性B型肝炎、または肝硬変の治療または予防に使用するための、前記17に記載の抗体。
[19]
慢性B型肝炎の治療に使用するための、前記18に記載の抗体。
【0057】
[20]
B型肝炎ウイルス感染の治療または予防のための医薬の製造のための、前記1~9のいずれかに記載の抗体の使用。
[21]
慢性B型肝炎、急性B型肝炎、または肝硬変の治療または予防のための医薬の製造のための、前記20に記載の使用。
[22]
慢性B型肝炎の治療のための医薬の製造のための、前記21に記載の使用。
【実施例0058】
1.抗体の作製
ウイルスに結合し、ウイルスの細胞への感染を阻止する抗体を得るために、B型肝炎ウイルス持続感染患者血清からウイルス粒子を蔗糖密度勾配超遠心により精製し、加熱処理によりウイルスを不活化した。その後透析により不要な物質を除き、精製HBs抗原とした。このようにして得られた抗原をマウスに免疫した。腸骨法によりリンパ球を回収し、ハイブリドーマを常法により作製した。
【0059】
得られたハイブリドーマが産生する抗体と、上記により得られた不活化精製HBs抗原を用いて、ELISAを行った。96ウェルポリスチレンプレートにHBs抗原を固相化し、ハイブリドーマの培養上清を添加してインキュベートした。洗浄後、ホースラディッシュパーオキシデース(HRP)で標識した抗マウスウサギ抗体を添加し、陽性反応を呈する上清を陽性とし、HBs抗原に反応するハイブリドーマを選択した。その結果、9種類のハイブリドーマ(#7-4G、#11-4E-2H、#16-2G、#18-6B、#24-11D、#30-12G、#43-3D、#49-1B、#66-2F)が得られた。
【0060】
今回作製した抗体は、ELISAプレートに固相化した上記不活化精製HBs抗原と結合し、その存在を色素でラベルした抗マウスIgG抗体(Rabbit anti-Mouse IgG (H+L) Secondary Antibody, HRP, Invitrogen)により検出することができた。この際、HBs抗原にその立体構造を崩すように100 mM Tris-HCl、4% SDS、10% 2ME(pH7.0)を加え、95℃で3分間加熱処理して同様の検出を行ったところ、シグナルが消失したことから、これら抗体はHBs抗原の膜表面上のループ構造を認識するものと考えられた(図1)。HBVのウイルス粒子には完全なHBV粒子(Dane粒子)と不完全な桿状粒子および小型球形粒子があり、この領域はこれら粒子に共通して存在する。この領域は各遺伝子型のHBVで配列同一性が高く、作製した抗体は各遺伝子型のHBs抗原を認識すると考えられた。
【0061】
2.抗体の配列決定
遺伝子の5'および3’領域に設定したプライマーを用いて可変領域のcDNAを増幅し、ベクターに組み込んでクローニングし配列を決定した。抗体#7-4gの軽鎖および重鎖の可変領域(VR)、並びにそれらのCDR1、2および3の配列をKabatの方法により特定した(表1)。表中の下線は、CDR1、2および3を示す。

【表1】
【0062】
3.インビトロにおけるHBV感染阻止
ヒト肝細胞キメラマウス(Tateno C, et al., PLoS One. 2015 Nov 4;10(11):e0142145)の肝臓から作製したヒト初代培養肝細胞を用いて、得られた抗体のHBV感染阻止効果を検討した。ヒト初代培養肝細胞(105 細胞)に、HBV(約20ウイルス粒子/細胞)と、抗体産生ハイブリドーマの培養上清または精製抗体とを添加し、13日間培養後、培養上清中のHBs抗原またはHBe抗原の量を、HBsAg検出キット(シスメックス株式会社)またはHBeAg検出キット(シスメックス株式会社)を用いてCLIA法により測定した。精製抗体は、拡大培養した抗体産生ハイブリドーマの培養上清から抗体精製カラム(プロテノバ株式会社)を用いて取得した。精製抗体および培養上清中の抗体濃度は、Mouse IgG1 ELISAキットを用いて定量した。結果は、各ウェルの測定値の平均(IU/mL)で示した。
【0063】
コントロールのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と比較して、各抗体は培養後のHBs抗原の産生を顕著に抑制しており、HBVの感染を阻止することが示された(図2~5)。特に、抗体#7-4gは高い感染阻止効果を示した。
【0064】
同様にして、ヒト初代培養肝細胞において、抗体#7-4g(精製抗体)と、既報の3種類の抗preS1抗体(抗体41、抗体1A、抗体10)(WO2020/130138)とのHBV感染阻止効果を比較した(図6および7)。preS1ドメインは肝細胞上の受容体と結合しHBVの感染に重要な役割を果たす。これら抗preS1抗体はpreS1ドメイン中の異なるエピトープを認識する。コントロールとして、PBS、マウスIgG1(OY-TES-1 (G-5), santacruz: sc-390594)またはマウスIgG3(Mouse IgG3 (isotype control), MBL: M078-3)を使用した。抗体#7-4gが最も優れた感染阻止効果を、特に高濃度領域で示した。抗preS1抗体の方が低濃度では強い抑制効果を有していたが、再現性を見る実験を行っても、高濃度においてHBs抗原の産生を強く抑制するのは抗HBs抗体である抗体#7-4gであった。
【0065】
4.インビボにおけるHBV感染阻止および抗ウイルス効果
ヒト肝細胞キメラマウスを用いて、抗体#7-4gがHBV感染を阻止するかを調べた(図8)。ヒト肝細胞キメラマウスにGenotype CのHBV1000個に相当する量のHBV感染患者血清を尾静脈から接種した。無処置群(ウイルスのみを投与)、コントロール抗体(ITM社においてFRAGペプチドをマウスに免疫して作製したマウスモノクローナル抗FRAG抗体)(0.5 mg)投与群、抗preS1抗体(抗体10)(0.5 mg)投与群、抗体#7-4g(0.5 mg)投与群、抗preS1抗体(抗体10)(0.33 mg)+抗体#7-4g(0.66 mg)投与群を設定した。抗体投与群ではウイルス投与の1日前に抗体を静脈内投与した。1週間ごとに採血し、血清中のHBV DNAをTaqMan PCR により測定した。
【0066】
無処置またはコントロール抗体を投与したマウスでは3週目には定量可能なウイルスが出現し、感染が認められた。抗preS1抗体を投与したマウスでは感染は遅延し、4週目までは陽性になるマウスはいなかった。5週目に1頭、6週目には2頭、7週目には3頭すべてが定量可能なウイルス血症を生じた。これに対して、抗体#7-4gを投与したマウスでは7週までの経過観察期間中に定量可能な陽性となったマウスはいなかった。抗preS1抗体の2/3量と#7-4gの1/3量を投与したマウスでは定性でも陽性になったマウスはいなかった。
【0067】
次に、抗体#7-4gと抗preS1抗体の抗ウイルス効果を比較した(図9)。上記と同様にヒト肝細胞キメラマウスにHBVを接種し、ウイルス血症が成立した15週目に抗preS1抗体(抗体10)(2 mg)または抗体#7-4g(1 mg)を静脈内投与した。1週間ごとに採血し、血清中のHBV DNAを測定した。また、15~23、28、および35週目に血清中のHBs抗原量およびHBs抗体量をそれぞれHBsAg検出キット(シスメックス株式会社)およびHISCL HBsAb試薬(シスメックス株式会社)で測定した。
【0068】
抗preS1抗体の投与により、HBV DNAの上昇が止まり、HBs抗原(色付きのバー)が18週目にかけて少し減少した。HBs抗原はその後上昇して高値となった。抗preS1抗体投与群ではHBs抗体(斜線のバー)は陰性のままであった。抗体#7-4gを投与したマウスではすべてのマウスでHBV DNAが2程度減少し、このことはウイルス量が1/100に減少したことを示す。1頭のマウスではHBV DNAの増殖が35週目まで20週間にわたり持続的に抑制された。3頭のうちHBs抗原が測定できた2頭ではHBs抗原は16週目で陰性となり、HBs抗体が陽性となった。その後HBs抗原は再陽性化して徐々に高値となり、HBs抗体は陰性化した。このように、抗preS1抗体によってもある程度のウイルス増殖抑制作用がみられたが、抗体#7-4gは顕著な増殖抑制作用を有していた。
【0069】
抗体#7-4gと抗preS1抗体とを併用投与した場合の抗ウイルス効果を評価した(図10)。上記と同様にヒト肝細胞キメラマウスにHBVを接種し、ウイルス血症が成立した15週目に抗preS1抗体(抗体10)(2 mg)と抗体#7-4g(1 mg)とを混合して静脈内投与した。同様に、血清中のHBV DNA、HBs抗原量およびHBs抗体量を測定した。
【0070】
抗体#7-4gと抗preS1抗体とを併用投与した3頭のマウスではいずれもHBV DNAが2程度減少し、このことはウイルス量が1/100に減少したことを示す。1頭のマウスではHBV DNAが19週目で元の値に戻ったが、ほかの2頭ではHBV DNAの増殖抑制が31週まで16週間にわたり持続的に抑制された。3頭のうちHBs抗原が測定できた1頭ではHBs抗原は16週目で陰性となり、HBs抗体が陽性となった。その後HBs抗原は再陽性化して徐々に高値となり、HBs抗体は陰性化した。抗体#7-4gと抗preS1抗体を併用した場合も抗ウイルス効果がみられた。
【0071】
抗体#7-4gと抗ウイルス薬のエンテカビル(ETV)とを併用投与した場合の抗ウイルス効果を評価した(図11、12)。上記と同様にヒト肝細胞キメラマウスにHBVを接種し、HBVの感染が成立した9週目からエンテカビル(0.2 mg/kg/day)を連日持続的に経口投与した。抗体#7-4gとエンテカビルの併用群では抗体#7-4G(1 mg)を13、22、および29週目に静脈内投与した。併用群では、上記と同様に、血清中のHBV DNA、HBs抗原量およびHBs抗体量を測定した。エンテカビル単独投与群では血清中のHBV DNA、HBs抗原、およびHBe抗原を測定した。HBe抗原はHBeAg検出キット(シスメックス株式会社)により測定した。
【0072】
エンテカビルの投与によりHBV DNAは減少したが15週目以降から低下は鈍化し、HBs抗原も横ばいとなった(図11)。一方、抗体#7-4gとエンテカビルを併用投与したマウスでは、エンテカビルの投与によりHBV DNAは減少し、13週目に抗体#7-4Gを投与すると減少がさらに顕著となり、22週目および29週目に抗体#7-4Gを追加投与したところHBV DNAは陰性となった(図12)。HBs抗原量はエンテカビル投与によっては変化しなかったが、抗体#7-4G投与により陰性化した。抗体#7-4G投与によりHBs抗体は陽性となった。両薬剤の併用投与により、より優れた抗ウイルス効果がみられた。
【0073】
以上より、本開示の抗体は、強力な感染予防効果を有するのみならず、抗ウイルス効果(治療効果)を有すること、また、その抗ウイルス効果は長期間持続しうることが示された。さらに、本開示の抗体は既存の治療薬と併用することにより、より良い治療効果をもたらしうることが示された。
【0074】
Hehle et al.(J. Exp. Med. 2020, 217(10), e20200840)は、HBsAg/抗HBs抗体のセロコンバージョンを経験したヒトから分離したメモリーB細胞からヒト抗HBs抗体を作製している。この抗体はHBV感染ヒト肝細胞移植マウスにおいて1 mgの単回投与でHBV DNAを陰性化する効果があったが、HBV DNAは2週間以内にもとの値に復帰してしまっている。また、この抗体はHBV感染免疫不全マウスにおいて持続感染でも抗ウイルス効果が認められているが、本実験では20日間にわたり3-4日に1回の抗体投与を行っており、投与中止後すぐにウイルスの再増加が認められている。Wang et al.(Cell Host & Microbe 2020, 28, 335-349)はヒト抗HBs抗体を作製し、HBV感染ヒト肝細胞移植マウスでHBV DNAの低下を認めているが、その低下の程度は軽度であり、0.5 mg週3回の抗体の投与を必要としている。Zhang et al.(Gut 2016, 65, 658-671)はマウス抗HBs抗体を作製し、HBV感染ヒト肝細胞移植マウスへの20 mg/kgの単回投与でおよそ2logのHBV DNAの低下を認めているが、3週間以内に元の値に戻っている。Li et al.(eLife 2017, 6, e26738)は抗preS1抗体を作製し、HBV感染免疫不全マウスにおいて持続感染でも抗ウイルス効果があることを示している。しかしながら、免疫不全マウスでは8-10週でウイルス感染が確立し、治療が困難な状態が成立するところ、この実験では感染後わずか5日目のマウスに8回の抗体の投与を行っている。これに対して、本開示の抗体は、ウイルス感染が確立したマウスにおいても1回の投与で強力な抗ウイルス効果を示し、その抗ウイルス効果は従来の抗体よりも長期間持続している。このように、本開示の抗体はHBV感染の治療および予防において既存の抗体よりも優れた効果を有する。
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【配列表】
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