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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089482
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240626BHJP
   C08K 5/3417 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/3417
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204877
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】西口 浩司
(72)【発明者】
【氏名】星野 純一
(72)【発明者】
【氏名】宮林 佑妃
(72)【発明者】
【氏名】秋山 誠治
(72)【発明者】
【氏名】竹下(福島) 慶
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BB001
4J002BC021
4J002BD031
4J002CF001
4J002CK051
4J002EU056
4J002FD096
4J002FD206
4J002GB01
(57)【要約】
【課題】樹脂中で近赤外蛍光材料を均一に高分散させた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、近赤外蛍光材料と、樹脂とを含む樹脂組成物であって、近赤外蛍光材料が、下記化学式(1)に示すカチオン種と、ハロゲンを除くアニオン種とから成る1種又は2種以上の化合物である。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外蛍光材料と、樹脂とを含む樹脂組成物であって、
前記近赤外蛍光材料が、下記化学式(1)に示すカチオン種と、ハロゲンを除くアニオン種とから成る1種又は2種以上の化合物である、樹脂組成物:
【化1】
化学式(1)中、
lは1又は2のいずれかの数であり、
Xは単結合、炭素、窒素、酸素、リン、及び硫黄分子からなる群から選択され、mは1又は2のいずれかの数であり、
は、脂肪族又は芳香族性の炭化水素基であり、他のRと共に環を形成していてもよく、一部水素がハロゲンに置換されてもよく、nは1~5のいずれかの数であり、
は、脂肪族の炭化水素基であり、直鎖、分岐炭化水素基、又は環状構造を有する炭化水素基である。
【請求項2】
前記樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂が、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前期樹脂が、ウレタン系樹脂であり、その組成にシリコンポリオールを含んでいてもよい、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記化学式(1)中、Xが単結合、窒素、及び酸素からなる群から選択される、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記化学式(1)中、Rが炭素数1~6の炭化水素基である、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記アニオン種がホウ素又はリンを含む対イオンである、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記カチオン種が下記化学式
【化2】
から選択される1種又は2種以上の化合物である、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
添加剤をさらに含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
放射線不透過性物質をさらに含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
医療用材料として用いられる、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の樹脂組成物を加工して得られる成形体。
【請求項13】
少なくとも一部が、患者の体内で使用される医療用具である、請求項12に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその製造方法に関する。詳しくは、蛍光又は燐光を発する機能を付与した樹脂組成物及びその製造方法、ならびに当該樹脂組成物を加工して得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
直接触れることの出来ない箇所へ軽薄短小に加工された機器を導入して、遠隔操作で作業に当たる手法は、建設及び医療など幅広い分野で活用されている。その際投入機器の位置を確認する手段として、機器自体に位置を知らせる機能を付与する方法が存在する。具体的な方法として、電磁波を発する電子機器といった自発的なもの、及び発光物質又は放射線不透過性物質を添加し外部測定機器を補助するものが挙げられる。後者はその単純さ故に軽薄短小な加工が容易であり、医療分野など精密な操作を要求する分野で広く用いられている。発光物質としては、蛍光材料及び燐光材料がある。
【0003】
医療分野で用いられている具体例として、シャントチューブ、カテーテル、及びステント等の生体内に埋め込まれた状態で使用される医療用具が挙げられ、生体内における位置を生体外からいかにして確認するかが重要である。現在では主に、生体内での医療用具を可視化する方法として、医療用具に放射線不透過性物質を含有させる方法が用いられている(例えば、特許文献1及び2参照。)。例えば、放射線不透過性物質を含有させた樹脂より形成された医療用具は、X線放射して撮像されたX線画像に基づいて生体内における位置を確認することができる。
【0004】
その他、医療用具に、発光物質のひとつである近赤外蛍光材料を含有させる方法もある。特に、近赤外波長領域の特徴として、ヒトの肉眼では目視できないこと、生体への影響が少ないこと、皮膚などの生体透過性が高いこと等が知られている。医療用具自体に近赤外蛍光材料を含有させることにより、このような特徴を利用することができる。例えば、シャントチューブ等の医療用具に近赤外蛍光材料を含有させることにより、生体外から近赤外光を照射することによって生体内に埋め込まれた医療用具の位置を確認するシステムが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。近赤外光は、X線よりも生体に対する影響が小さいため、より安全に生体内の医療用具を可視化することができる。
【0005】
近赤外蛍光材料には無機蛍光材料及び有機蛍光材料がある。無機材料は希土類のレアアースを必要と資源及びコスト面に懸念を抱える一方で、有機蛍光材料は、比較的簡便に合成することができ、波長の調整がしやすいといった特徴から、近年、様々な構造を有する有機近赤外蛍光材料が開発されている。その代表例としてシアニン色素の1つであるインドシアニングリーン(ICG)が挙げられる。ICGはアメリカ食品医薬品局(FDA)から医療での使用が認可されており、肝機能検査及び眼底造影検査などに広く臨床応用されている。
【0006】
またICGと同様に医療用途に用いられている蛍光材料としてメチレンブルー(MB)が挙げられる。メトヘモグロビン血症の治療薬として知られているMBだが、色素内視鏡検査時に結腸直腸腫瘍の染色にも使用されている。
【0007】
シアニン系色素の類縁体であるスクアリウム色素(SQ)は中央部にスクアリン酸部位を有する特異な構造と、双性イオンという特徴を持っており、色素増感太陽電池(DSSC)の増感色素として研究されている(非特許文献1)。
【0008】
キサンテン色素はキサンテン部位に結合した官能基で制御され、アミノ基によって修飾されたローダミンは近赤外蛍光色素として使用可能である。この色素もまた先のスクアリウム色素と同様にDSSCへの応用が期待されている(非特許文献2)。
【0009】
近年注目が集まっている色素がホウ素錯体である。ホウ素によって架橋及び固定化されることで無放射失活が抑制され、結果高い量子効率を発揮する色素が数多く報告されている。ホウ素錯体は骨格によって更に区別され、耐光性や耐熱性等に優れたアゾ-ホウ素錯体化合物(非特許文献3、特許文献4)や、発光量子収率が高い事で知られるπ共役化合物のホウ素錯体であるボロンージピロメテン骨格のBODIPY色素類が知られている(非特許文献4)。後者のBODIPY色素で医療向けに近赤外蛍光を発する様に制御したBODIPY骨格中にヘテロ環を有する色素が開示されている(非特許文献5、特許文献5)。
【0010】
BODIPY色素類は核酸やタンパク質等の生体分子や腫瘍組織等を標識するバイオマーカーとして検討されており(非特許文献6)、この用途では他にジケトピロロピロール(DPP)誘導体をホウ素錯体化したものが報告されている(非特許文献7)。
【0011】
一方で樹脂組成物への適用として、ICG骨格を有する色素をポリ(メタクリル酸メチル)とのアセトニトリル溶液に調製して、コーティングフィルムへと加工した事例(特許文献6)アルキレン基を介してオルガノシロキサニル基が導入されたシロキサン含有BODIPY色素をシリコーン樹脂中に共重合させた事例(特許文献7)や、溶媒と共に混合させた事例(特許文献8)が開示されている。
【0012】
また、特許文献6のようにBODIPY色素を樹脂に混練させた事例としては、光学フィルター向けで特許文献9、色変換材料として特許文献10が開示されている。
【0013】
以上の様に色素を樹脂組成物に添加した事例は複数確認できるが、一方で医療用途向けの近赤外蛍光材料として適用可能なものは多くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000-060975号公報
【特許文献2】特表2008-541987号公報
【特許文献3】特開2012-115535号公報
【特許文献4】特開2011-162445号公報
【特許文献5】特許第5177427号公報
【特許文献6】特表2021-512748号公報
【特許文献7】特開2013-060399号公報
【特許文献8】米国特許出願公開第2013/0249137号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2013/0252000号明細書
【特許文献10】特開2011-241160号公報
【特許文献11】国際公開第2015/022977
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Burke, A., et al., (2007). "A novel blue dye for near-IR ‘dye-sensitised’solar cell applications.", Chemical Communications, 3, 234-236, 2007
【非特許文献2】Guillen, E., et al., "Photovoltaic performance of nanostructured zinc oxide sensitised with xanthene dyes.", Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry, 200(2-3), 364-37, 2008
【非特許文献3】Yoshino, J., et al., "Intensely fluorescent azobenzenes: synthesis, crystal structures, effects of substituents, and application to fluorescent vital stain.", Chemistry-A European Journal, 16(17), 5026-5035, 2010
【非特許文献4】Tomimori, Y., et al., "Synthesis of π-expanded O-chelated boron-dipyrromethene as an NIR dye.", Tetrahedron, 67(18), 3187-3193, 2011
【非特許文献5】Gorman, A., et al., "In vitro demonstration of the heavy-atom effect for photodynamic therapy.", Journal of the American Chemical Society, 126(34), 10619-10631, 2004
【非特許文献6】Zhu, T., et al., "A novel amphiphilic fluorescent probe BODIPY-O-CMC-cRGD as a biomarker and nanoparticle vector." RSC advances, 8(36), 20087-20094, 2018
【非特許文献7】Fischer, G. M., et al., "Near-infrared dyes and fluorophores based on diketopyrrolopyrroles.", Angewandte Chemie Intrernational Edition, 46(20), 3750-3753, 2007
【非特許文献8】Funchien, P., et al., "A highly efficient near infrared organic solid fluorophore based on naphthothiadiazole derivatives with aggregation-induced emission enhancement for a non-doped electroluminescent device." Chemical Communications, 56(46), 6305-6308, 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
例えば、特許文献7に記載のシロキサン含有BODIPY色素は、シリコーン樹脂以外の樹脂及び樹脂溶液への相溶性は低い、という問題がある。また、特許文献8の樹脂組成物は、溶媒が樹脂中に残留する可能性があるため、安全性に問題がある。加えて、特許文献7、特許文献8、特許文献9、及び特許文献10には、近赤外蛍光材料について記載がなく、医療用途への適用についても記載されていない。
【0017】
特許文献6のICGについても溶液を一定時間乾燥させたものであり、医療用途への展開を考える場合、積極的な乾燥による溶媒除去及び無溶媒での加工が必要となる。
【0018】
そのような背景の下、近年上記のホウ素錯体を近赤外蛍光材料として樹脂へ溶融混練した事例が開示されており(特許文献11)、それらの材料を用いた製品も市場に出回り始めている。しかしながら、その濃度は樹脂に対して400ppmまでと抑えられている。これは蛍光材料の濃度が上昇するとともに、蛍光材料間の相互作用によって、濃度消光と呼ばれる凝集による蛍光の減衰が発生するからである。
【0019】
これらの蛍光材料はその性能上共役系を拡張した構造を有しており、π-π相互作用といった分子間相互作用が強く凝集しやすい性質を有している。よって濃度を増加させた際に、容易に濃度消光を発生させる恐れがある。加えてその相互作用は強く、せん断力の小さい混練機では再分散させる事は困難である。対応としてせん断力を高めて混練した場合、樹脂の分子量低下といった他材料への影響を無視できなくなり、結果意図した物性から外れることとなって製品への適用が困難となる。
【0020】
近年は凝集によって発光を増大させる凝集誘起発光を利用した蛍光材料も報告されているが(非特許文献8)、有機蛍光発光ダイオード向けの分子設計の段階であり、医療用途への展開はまだ進んでいない。
【0021】
本発明者らは、新規の蛍光材料を検討開発し、実績のあるICGの構造を踏襲しつつ樹脂内での分散性を向上させることで、樹脂中を速やかに広がり均一な状態へと安定させることに成功した。本発明の一態様は、樹脂中で近赤外蛍光材料を均一に高分散させた樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、近赤外蛍光材料と、樹脂とを含む樹脂組成物であって、前記近赤外蛍光材料が、下記化学式(1)に示すカチオン種と、ハロゲンを除くアニオン種とから成る1種又は2種以上の化合物である、樹脂組成物。
【0023】
【化1】
【0024】
化学式(1)中、lは1又は2のいずれかの数であり、Xは単結合、炭素、窒素、酸素、リン、及び硫黄分子からなる群から選択され、mは1又は2のいずれかの数であり、Rは、脂肪族又は芳香族性の炭化水素基であり、他のRと共に環を形成していてもよく、一部水素がハロゲンに置換されてもよく、nは1~5のいずれかの数であり、Rは、脂肪族の炭化水素基であり、直鎖、分岐炭化水素基、又は環状構造を有する炭化水素基である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様によれば、樹脂中で近赤外蛍光材料を均一に高分散させた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、樹脂内での分散性が高い蛍光材料と樹脂とを含有する、樹脂組成物である。
【0027】
<発光物質>
本発明の一態様に係る樹脂組成物が含有する発光物質は、当該樹脂組成物から得られる成形体等に要求される製品品質、及び混合される樹脂の種類等を考慮して、適宜選択して用いることができる。発光物質には蛍光材料及び燐光材料がある。当該蛍光材料は、蛍光極大波長が可視光領域にあるもの(可視光蛍光材料)であってもよく、蛍光極大波長が近赤外領域にあるもの(近赤外蛍光材料)であってもよく、蛍光極大波長が赤外領域にあるもの(赤外蛍光材料)であってもよい。また、無機物質であってもよく、有機化合物であってもよい。
【0028】
可視光蛍光材料としては、例えば、クマリン系色素、シアニン系色素、キノール系色素、ローダミン類、オキサゾール系色素、フェナジン系色素、アゾ-ヒドラゾン系色素、ビオラントロン系色素、ビラントロン系色素、フラバントロン系色素、フルオレセイン類、キサンテン系色素、ピレン類、ナフタルイミド系色素、アントラキノン系色素、チオインジゴ系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、アゾ-ホウ素系色素、国際公開2007/126052号公報などに記載のボロンージピロメテン(BODIPY)系色素、ポルフィリン系色素等の化合物が挙げられる。また、ZnS:Ag、(ZnCd)S:Cu、(ZnCd)S:Ag、ZnSiO:Mn、Cd:Mn、(SrMg)(PO:Mn、YVO:En,CaWO等の無機蛍光体もある。
【0029】
近赤外蛍光材料及び赤外蛍光材料としては、例えば、ポリメチン系色素、アントラキノン系色素、ジチオール金属塩系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、インドフエノール系色素、シアミン系色素、スチリル系色素、アルミニウム系色素、ジイモニウム系色素、アゾ系色素、アゾ-ホウ素系色素、国際公開2007/126052号公報などに記載のボロンージピロメテン(BODIPY)系色素、スクアリウム系色素、ペリレン系色素等の化合物が挙げられる。
【0030】
また、燐光材料としては、イリジウム錯体、オスミニウム錯体、白金錯体、ユーロピウム錯体、銅錯体などの有機金属錯体、ポルフィセン錯体等が挙げられる。
【0031】
本発明の一態様に係る樹脂組成物が、例えば生体内で使用される医療機器の素材として用いられる場合には、近赤外蛍光材料及び赤外蛍光材料の少なくとも一方を含有することが好ましい。上記近赤外蛍光材料及び赤外蛍光材料の少なくとも一方を含有する樹脂組成物及びこれから得られる成形体は、目に見えない近赤外領域の光で励起、検出できるため、励起光及び発光が目視での生体組織などの色調を変えることなく検出できる。加えて生体組織透過性は可視光より高く、生体深部を鮮明に可視化することが可能である。
【0032】
本発明の一態様に係る樹脂組成物が含有する近赤外蛍光材料としては、上記記載の材料の中では、シアニン色素、特にICG系列が医療分野での使用実績の観点から好ましい。更に、ICG系列の骨格を有した下記化学式(2)にあげるカチオン種の置換基A,B,Cを精密に制御し、それらカチオン種に適した対イオンを選別した蛍光材料は、耐熱性ならびに樹脂での分散性の観点から更に好ましい。
【0033】
【化2】
【0034】
本発明では樹脂組成物を主眼としており、近赤外蛍光材料単体を用いることを想定していない。しかし近赤外蛍光材料のストークスシフトは媒体によって影響するものの、各近赤外蛍光材料の相対差は大きく変化しない。また、近赤外蛍光材料の置換基を制御した際に影響を解析にするにあたり、近赤外蛍光材料単体を溶解させた溶液を対象に分析データを収集することがある。そのため、この項では溶液状態での近赤外蛍光材料について記載する。近赤外蛍光材料を含む樹脂組成物については後述する。
【0035】
一般的に、蛍光材料から発される蛍光を検出する場合、励起光の散乱光及び反射光も検出器に入ってきてしまうため、通常は、検出器に励起光の波長域をカットするフィルターが入れられている。このような検出器では、励起光及び蛍光の波長域が重複し、蛍光がフィルターによってカットされる波長域にある蛍光材料の蛍光は検出できないという問題がある。蛍光と励起光とを区別し、蛍光のみを高感度で検出することを可能にするためには、近赤外蛍光材料のストークスシフト(極大吸収波長と極大蛍光波長との差)が充分に大きいことが必要である。
【0036】
具体的にはストークスシフトが50nm以上のものがより好ましく、ストークスシフトが大きいほど蛍光が励起光によるノイズカットの影響で削られる割合を抑えることができ、一般的な検出器を用いた場合でも、蛍光をより高感度で検出することが可能である。
【0037】
目安であるが、近赤外領域の励起光に対しては極大吸収波長が650nm以上であればよいが、吸収効率の観点からは、極大吸収波長が励起光の波長に近い方が好ましく、665nm以上がより好ましく、680nm以上であることが特に好ましい。
【0038】
極大蛍光波長については、700nm以上であれば実用的には問題がないが、720nm以上であることが好ましく、740nm以上であることがより好ましく、760nm以上であることが特に好ましい。なお、極大吸収波長が短い場合には、近赤外領域における検出感度の観点から、ストークスシフトがより大きいことが好ましい。これらの値は樹脂組成物での用途上での値であるので、近赤外蛍光材料単体では多少前後してもよい。
【0039】
置換基Aには耐熱性向上の観点から嵩高い置換基を導入することが好ましい。加えてπ共役系と置換基Aの間にヘテロ原子を介在させることで近赤外蛍光材料の極大吸収波長と極大蛍光波長、及びその差のストークスシフトを用途に適した値へと調整することが可能である。
【0040】
これまでの検討結果より、置換基Aは芳香族間を含む置換基が好ましく、その芳香族間上に炭化水素基が存在する方がより好ましいことを明らかとした。置換基上の一部の水素がハロゲンに置換されていてもよい。
【0041】
また、置換基Aとπ共役系の間には単結合、もしくはO、N、S、Pが好ましく、特に単結合、O、Nが量子効率の観点からも好ましい。
【0042】
置換基Bは量子効率の観点から炭素数1~6の炭化水素基が好ましく、炭素数3~6の炭化水素基がより好ましく、炭素数3~4のプロピル基又はブチル基がさらに好ましい。
【0043】
置換基Cは熱失活抑制の観点から、何も無いものが好ましく、両端の構造はベンゾインドール環が好ましい。加えて芳香環を介した相互作用を小さくすることで、凝集とそれによる消光を抑える効果も期待できる。
【0044】
π共役中央の構造は五員環、もしくは六員環が好ましく、安定性及び量子効率の観点から六員環が特に好ましい。
【0045】
対イオンは近赤外蛍光材料のイオン性を非局在化させることで、蛍光材料間の凝集とそれによる消光を抑えることが期待できる。よって対イオンは嵩高いものが好ましい。本発明に関して対イオンは、ハロゲンを除く無機対イオン、もしくは有機対イオンのいずれかが好ましく、テトラフェニルボラート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、テトラキス(4-フルオロフェニル)ボラート、テトラフェニルボラート、テトラキス[3,5-ビス-(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート、テトラキス[3,5-ビス-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ボラートおよびテトラキス[ペルフルオロ-tert-ブトキシ]アルミネートから選択される嵩高い有機対イオン、もしくはテトラフルオロボラート、ヘキサフルオロホスファートから選択される無機対イオンのいずれかがさらに好ましい。
【0046】
本発明の一態様に係る樹脂組成物が含有する近赤外蛍光材料としては、具体的には、下記化学式(1)に示すカチオン種と、ハロゲンを除くアニオン種とから成る1種又は2種以上の化合物であることが好ましい。
【0047】
【化3】
【0048】
化学式(1)中、lは1又は2のいずれかの数であることが好ましい。
【0049】
化学式(1)中、Xは単結合、炭素、窒素、酸素、リン、及び硫黄分子からなる群から選択されることが好ましく、単結合、窒素、及び酸素からなる群から選択されることがより好ましい。mは1又は2のいずれかの数であることが好ましい。
【0050】
化学式(1)中、Rは、脂肪族又は芳香族性の炭化水素基であることが好ましく、他のRと共に環を形成していてもよく、一部水素がハロゲンに置換されてもよく、nは1~5のいずれかの数であってもよい。
【0051】
化学式(1)中、Rは、脂肪族の炭化水素基であることが好ましく、直鎖、分岐炭化水素基、又は環状構造を有する炭化水素基であり得る。Rは炭素数1~6の炭化水素基であることが好ましい。
【0052】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、他蛍光材料と比較して、π-π相互作用の小さい脂肪族の共役系であるICG系の構造を主骨格とし、中心部と末端の置換基をデザインし、更に対イオンの種類を選択する事で、高い樹脂内での分散性を実現した。高い分散性によって樹脂内に速やかに広がり均一な状態へと落ち着くため、高濃度での濃度消光の抑制と、低濃度でも発生する局部の凝集によるムラ発生を抑制する。
【0053】
高濃度な近赤外蛍光材料はマスターバッチといった利用が可能となり、少量多品種生産である医療部材でもコストを抑制できる。
【0054】
また、均一な近赤外蛍光材料を加工した成形体は、輝度が全体を通して一定である為、その形状を正確に表示し精密作業を行う際の負担軽減に貢献する。
【0055】
実績のあるICGと類似の構造を有する為、従来の医療機器をそのまま活用でき、導入するハードルを下げる効果も期待できる。
【0056】
カチオン種は、下記化学式
【化4】
から選択される1種又は2種以上の化合物であることが好ましい。
【0057】
アニオン種は、ホウ素又はリンを含む対イオンであることが好ましい。
【0058】
<放射線不透過性物質>
本発明の一態様に係る樹脂組成物が含有する放射線不透過性物質としては、放射線の透過性が、皮膚、筋肉、及び脂肪等よりも低いものが好ましく、骨及びカルシウム等よりも低いものがより好ましい。このような放射線不透過性物質としては、例えば、非金属原子からなるものとして、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、臭素、臭化物、ヨウ素、ヨウ化物等が挙げられ、金属原子を含むものとして、チタン、亜鉛、ジルコニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、タンタル、タングステン、レニウム、イリジウム、プラチナ、金、ビスマス等の金属の金属粉末及び酸化物等が挙げられる。また、雲母、タルク等も放射線不透過性物質として用いることができる。
【0059】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、医療用材料として用いられ得る。本発明の一態様に係る樹脂組成物が、例えば生体内で使用される医療用具の素材として用いられる場合には、生体適合性の高い放射線不透過性物質を含有することが好ましい。生体適合性の高い放射線不透過性物質としては、例えば、硫酸バリウム、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タングステン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ジルコニウム、チタン、白金、次硝酸ビスマス、ビスマス等が挙げられる。本発明の一態様において用いられる放射線不透過性物質としては、安全性等の点から、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、次炭酸ビスマス、又は酸化ビスマスがより好ましく、発光物質に対する増感効果の点から、硫酸バリウムが特に好ましい。本発明の一態様に係る樹脂組成物は、1種類の放射線不透過性物質を含有していてもよく、2種類以上を含有していてもよい。本発明の一態様に係る樹脂組成物においては、前記で挙げられた放射線不透過性物質の1種又は2種以上を含有するものが好ましい。
【0060】
本発明の一態様において用いられる放射線不透過性物質の形状は、配合された樹脂組成物に放射線不透過性を付与できるものであれば特に限定されるものではなく、粒子状、フィラメント状、不定形状のいずれであってもよい。本発明の一態様において用いられる放射線不透過性物質としては、樹脂への分散性、放射線透過性の点から、粒子状であることが好ましい。
【0061】
放射線不透過性物質の含有量は、放射線検査機器の検知感度に依存するが、一般的に樹脂100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、樹脂の物性を確保する観点から80質量部以下であることが好ましい。より好ましくは10~50質量部であり、更に好ましくは20~30質量部である。
【0062】
樹脂組成物における放射線不透過性物質の合計含有量は、樹脂100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、80質量部以下であることが好ましい。当該含有量は、より好ましくは10~50質量部であり、更に好ましくは20~30質量部である。
【0063】
<樹脂>
本発明の一態様に係る樹脂組成物が含有する樹脂は、特に限定されるものではなく、成形体を形成した際に要求される製品品質等を考慮して、公知の樹脂組成物及びその改良物から適宜選択して用いることができる。例えば、当該樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよい。本発明の一態様に係る樹脂組成物が含有する樹脂としては、熱可塑性樹脂であることが好ましい。本発明の一態様において用いられる樹脂としては、1種のみを用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。2種類以上を混合する場合には、相溶性の高い樹脂同士を組み合わせて用いることが好ましい。
【0064】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において用いられる樹脂としては、例えば、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)等のウレタン系樹脂;ポリカーボネート(PC);ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂等の塩化ビニル系樹脂;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル等のアクリル系樹脂;ポリエチレンテレフタレ-ト(PET)、ポリブチレンテレフタレ-ト、ポリトリメチレンテレフタレ-ト、ポリエチレンナフタレ-ト、ポリブチレンナフタレ-ト等のポリエステル系樹脂;ナイロン(登録商標)等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン(PS)、イミド変性ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、イミド変性ABS樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合(SAN)樹脂、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン(AES)樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、シクロオレフィン樹脂等のオレフィン系樹脂;ニトロセルロース、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、イソシアヌレート系エポキシ樹脂、ヒダントイン系エポキシ樹脂等のエポキシ系樹脂;メラミン系樹脂;シリコーン系樹脂;フッ素系樹脂;ゴム系樹脂等が挙げられる。樹脂は、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。中でも、発光物質の分散性が高いことから、当該樹脂としては、PU、PET、PVC、PC、PMMA、PSが好ましく、これらのうちの2種以上を混合して使用しても構わない。樹脂がウレタン系樹脂である場合、その組成にシリコンポリオールを含んでいてもよい。
【0065】
また、本発明の一態様に係る樹脂組成物において用いられる樹脂としては、耐放射線性を有するものが好ましい。耐放射線性を有する樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂などが挙げられる。これら以外の樹脂であっても、添加剤を併用することにより耐放射線性を向上させることができる。当該添加剤としては、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定化剤、有機系増核剤等が挙げられる。
【0066】
なお、本発明の一態様に係る樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物の場合、樹脂としては、樹脂全体として熱可塑性樹脂であればよく、少量の非熱可塑性樹脂を含有していてもよい。同様に、本発明の一態様に係る樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物の場合、樹脂としては、樹脂全体として熱硬化性樹脂であればよく、少量の非熱硬化性樹脂を含有していてもよい。
【0067】
<樹脂組成物>
本発明の一態様に係る樹脂組成物の製造方法は、発光物質、分散剤、放射線不透過性物質、及び樹脂を含有する樹脂組成物の製造方法である。本発明の一態様に係る樹脂組成物の製造方法は、発光物質と、分散剤とを予め混合して混合物を得る第1混合工程と、混合物と、前記樹脂とを混合して前記樹脂組成物を得る第2混合工程とを含む。本発明の一態様に係る樹脂組成物は、第1混合工程において発光物質と分散剤と予め混合した混合物を、第2混合工程において樹脂と混合及び分散させることにより製造できる。混合物を樹脂に混合及び分散する方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法で行ってもよく、さらに添加剤を併用しても構わない。例えば、適当な溶媒に溶解させた樹脂組成物溶液に、混合物を添加して分散させてもよい。また、溶媒を使用しない場合も、樹脂組成物に混合物を添加して溶融混練させ、本発明の一態様に係る樹脂組成物を得ることができる。こうして樹脂中に混合物が均一に分散された状態の樹脂組成物が得られる。
【0068】
樹脂組成物中の発光物質の含有量は、発光物質が樹脂に混合し得る濃度であれば特に限定されるものでは無い。発光物質は、凝集誘起発光を利用した発光物質といった事例を除けば、一般的に発光物質の相互作用が無視できる程度の希薄条件下が、最も濃度見合いの発光強度が高いことが知られている。しかし、各種測定機器における検出感度の観点から実用的な発光強度を確保することが好ましい。そのために、発光物質の含有量は樹脂100質量部に対して0.0001質量部以上が好ましく、濃度消光及び発光の再吸収による発光強度の低下から樹脂100質量部に対して1質量部以下が好ましい。樹脂100質量部に対して、より好ましくは0.001~0.1質量部の範囲で、さらに好ましくは0.006~0.02質量部の範囲である。樹脂組成物を加工して得られる成形体での発光物質の含有量は、この範囲内に収めることで実用に足る発光強度が得られる。
【0069】
一方で、成型体加工前の樹脂組成物での発光物質の含有量は、マスターバッチ及びコンパウンドといった他樹脂へ添加する用途に対応するため、成形体より高くしてもよい。ハンドリングの観点からその含有量は、樹脂組成物100質量部に対して好ましくは1質量部以内であり、より好ましくは0.1質量部である。
【0070】
以上の点より、樹脂組成物中の近赤外蛍光材料の含有量は樹脂100質量部に対して、0.0001~1質量部であることが好ましい。加工面から好ましくは0.0001~0.1質量部であり、性能上好ましくは0.001~0.1質量部の範囲であり、さらに好ましくは0.006~0.02質量部の範囲である。
【0071】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、耐放射線性に優れた近赤外蛍光を発する。ここで、蛍光を発する樹脂組成物が「耐放射線性に優れている」とは、放射線照射による極大吸収波長の吸光度の減衰率〔([放射線照射前の吸光度]-[放射線照射後の吸光度])/[放射線照射前の吸光度]×100(%)〕が小さいことを意味する。ここで、極大吸収波長の吸光度の減衰率とは、600~1100nmの波長領域での最大の吸光度を有する極大吸収波長の吸光度の減衰率を意味する。具体的には、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、25kGyの放射線照射による極大吸収波長における吸光度の減衰率が50%以下である。減衰率がこの範囲であれば実用的に問題は無い。しかしながら、感度の点から本発明の一態様に係る樹脂組成物としては、25kGyの放射線照射による極大吸収波長における吸光度の減衰率が30%以下であるものが好ましく、20%以下であるものがより好ましく、15%以下であるものがさらに好ましい。
【0072】
また、本発明の一態様に係る樹脂組成物としては、放射線照射による極大吸収波長の変化は小さい方が好ましい。放射線照射前の極大吸収波長と放射線照射後の極大吸収波長との差は、30nm以下であればよく、20nm以下がより好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。さらにまた、本発明の一態様に係る樹脂組成物としては、放射線照射による極大蛍光波長の変化は小さい方が好ましい。放射線照射前の極大蛍光波長と放射線照射後の極大蛍光波長との差は、30nm以下であればよく、20nm以下がより好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。
【0073】
樹脂組成物に放射線の照射をする場合は、目的に応じて放射線の種類及び照射線量を適宜選択すればよい。例えば、医療器具を放射線滅菌する場合は、5kGy以上の照射線量で行なわれることが多い。医療器具の種類及び滅菌工程設備によって適宜最適なものを選択すればよいが、滅菌レベルを保つために照射線量を高く設定する必要がある場合もある。一般に、50kGy以上の照射において耐放射線があれば、充分な滅菌が可能となる。この観点から、本発明の一態様に係る樹脂組成物としては、50kGy照射時の極大吸収波長の吸光度の減衰率が70%以下であるものが好ましく、60%以下であるものがより好ましく、50%以下であるものがさらに好ましい。
【0074】
一般的に、蛍光材料から発される蛍光を検出する場合、励起光の散乱光及び反射光も検出器に入ってきてしまうため、通常は、検出器に励起光の波長域をカットするフィルターが入れられている。このような検出器では、励起光と蛍光の波長域が重複し、蛍光がフィルターによってカットされる波長域にある蛍光材料の蛍光は検出できないという問題がある。蛍光と励起光を区別し、蛍光のみを高感度で検出することを可能にするためには、近赤外蛍光材料のストークスシフト(極大吸収波長と極大蛍光波長の差)が充分に大きいことが必要である。
【0075】
そこで、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、ストークスシフト(極大吸収波長と極大発光波長の差)が大きいものが好ましく、ストークスシフトが50nm以上のものがより好ましい。ストークスシフトが大きいほど、励起光によるノイズカットのためのフィルターが備えられている一般的な検出器を用いた場合でも、当該成形体から発される蛍光をより高感度で検出することが可能である。
【0076】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、近赤外領域の励起光で励起しても目視状態で色彩が変わらず、かつ、不可視の近赤外領域の蛍光を発し、検出器で検出できる。したがって、近赤外領域の励起光に対しては極大吸収波長が650nm以上であればよいが、吸収効率の観点からは、極大吸収波長が励起光の波長に近い方が好ましく、665nm以上がより好ましく、680nm以上であることが特に好ましい。
【0077】
本発明の一態様に係る樹脂組成物及び当該組成物から得られる成形体は、被照射物の色彩が変わらず、かつ、検出感度を考慮すると、極大蛍光波長が700nm以上であれば実用的には問題がない。具体的には、720nm以上であることが好ましく、740nm以上であることがより好ましく、760nm以上であることが特に好ましい。なお、極大吸収波長が短い場合には、近赤外領域における検出感度の観点から、ストークスシフトがより大きいことが好ましい。
【0078】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、前記の近赤外蛍光材料、分散剤、放射線不透過性物質、及び樹脂以外の他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、結晶化促進剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、離型剤等が挙げられる。
【0079】
<成形体>
本発明の一態様に係る成形体は、本発明の一態様に係る樹脂組成物を加工して得られる。当該成形体の成形方法は、特に限定されないが、キャスティング(注型法)、金型を用いた射出成形、圧縮成形及びTダイ等による押し出し成形、ブロー成形などが挙げられる。
【0080】
蛍光検出は、市販されている蛍光検出装置等を使用し、常法により実施することができる。蛍光検出に用いる励起光としては、任意の光源を使用でき、波長幅が長い近赤外線ランプの他、波長幅が狭いレーザー、LEDなどを使用することができる。
【0081】
本発明の一態様に係る樹脂組成物から得られた成形体は、近赤外領域の光を照射しても色彩が変わらず、従来よりも高感度に検出可能な近赤外蛍光を発する。そのため、本発明の一態様に係る成形体の少なくとも一部は、好ましくは、患者の体内で使用される医療用具である。具体的には、当該成形体は、特に、患者の体内に挿入したり留置したりする医療用具に好適である。
【0082】
本発明の一態様に係る樹脂組成物から得られた成形体を蛍光検出する場合には、近赤外領域の励起光を照射することが好ましいが、被照射物の色彩が多少赤みを帯びても構わない場合には、必ずしも近赤外線領域の励起光を使用する必要はない。例えば、励起光を照射して体内の医療用具を蛍光検出しようとした場合、皮膚などの生体に対する透過性の高い波長領域で励起光を使用することが必要となるが、この場合には、生体透過性の高い650nm以上の励起光を使用すればよい。
【0083】
当該医療用具としては、例えば、ステント、コイル塞栓子、カテーテルチューブ、注射針、シャントチューブ、ドレーンチューブ、インプラント等が挙げられる。
【0084】
<滅菌方法>
本発明の一態様に係る樹脂組成物から得られた成形体を滅菌する場合には、当該滅菌方法としては、医療用具等の滅菌の際に使用される各種方法を用いることができる。例えば、医療用具等の滅菌方法は、高圧蒸気滅菌、EOG滅菌、γ線滅菌、電子線滅菌、紫外線滅菌等が挙げられる。その中でも、γ線及び電子線滅菌に代表されるような放射線滅菌は、効率的で処理方法が簡便であることから、好ましい処理方法である。
【0085】
(まとめ)
本発明の態様1に係る樹脂組成物は、近赤外蛍光材料と、樹脂とを含む樹脂組成物であって、前記近赤外蛍光材料が、下記化学式(1)に示すカチオン種と、ハロゲンを除くアニオン種とから成る1種又は2種以上の化合物である。
【化5】
化学式(1)中、lは1又は2のいずれかの数であり、Xは単結合、炭素、窒素、酸素、リン、及び硫黄分子からなる群から選択され、mは1又は2のいずれかの数であり、Rは、脂肪族又は芳香族性の炭化水素基であり、他のRと共に環を形成していてもよく、一部水素がハロゲンに置換されてもよく、nは1~5のいずれかの数であり、Rは、脂肪族の炭化水素基であり、直鎖、分岐炭化水素基、又は環状構造を有する炭化水素基である。
【0086】
本発明の態様2に係る樹脂組成物は、前記の態様1において、前記樹脂が熱可塑性樹脂であってもよい。
【0087】
本発明の態様3に係る樹脂組成物は、前記の態様1又は2において、前記樹脂が、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0088】
本発明の態様4に係る樹脂組成物は、前記の態様3において、前期樹脂が、ウレタン系樹脂であり、その組成にシリコンポリオールを含んでいてもよい。
【0089】
本発明の態様5に係る樹脂組成物は、前記の態様1~4のいずれか1つにおいて、前記化学式(1)中、Xが単結合、窒素、及び酸素からなる群から選択されてもよい。
【0090】
本発明の態様6に係る樹脂組成物は、前記の態様1~5のいずれか1つにおいて、前記化学式(1)中、Rが炭素数1~6の炭化水素基であってもよい。
【0091】
本発明の態様7に係る樹脂組成物は、前記の態様1~6のいずれか1つにおいて、前記アニオン種がホウ素又はリンを含む対イオンであってもよい。
【0092】
本発明の態様8に係る樹脂組成物は、前記の態様1~7のいずれか1つにおいて、前記カチオン種が下記化学式
【0093】
【化6】
【0094】
から選択される1種又は2種以上の化合物であってもよい。
【0095】
本発明の態様9に係る樹脂組成物は、前記の態様1~8のいずれか1つにおいて、添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0096】
本発明の態様10に係る樹脂組成物は、前記の態様1~9のいずれか1つにおいて、放射線不透過性物質をさらに含んでいてもよい。
【0097】
本発明の態様11に係る樹脂組成物は、前記の態様1~10のいずれか1つにおいて、医療用材料として用いられてもよい。
【0098】
本発明の態様12に係る成形体は、前記の態様1~11のいずれか1つの樹脂組成物を加工して得られてもよい。
【0099】
本発明の態様13に係る成形体は、前記の態様12において、少なくとも一部が、患者の体内で使用される医療用具であってもよい。
【0100】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0101】
以下、実施例及び比較例等を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0102】
<輝度測定>
780nmのLED光源と840nmのバンドパスフィルターを取り付けた近赤外蛍光観察用カメラ(ニレック株式会社製FL VIEW)を用いて暗室にて観測した発光データを画像処理アプリケーション(ニレック株式会社製FL VISION)を用いて発光強度を測定した。
【0103】
<分散性評価>
プレス成形後のシート上の成形体の分散性を以下の指標で評価した。
○:分散性は良好であった。
△:分散性は問題なかった。
×:ムラが確認された、又は近赤外蛍光材料の凝集物が確認された。
【0104】
[合成例a]リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート-エチルエーテル錯体の合成方法
【0105】
【化7】
【0106】
アルゴン雰囲気下、500mL容四頸反応器にて、ブロモペンタフルオロベンゼン(10.13g、4.1eq.)のn-ペンタン(200mL)溶液を室温で撹拌し、内温-70℃に冷却した。1.6Mのn-BuLi-ヘキサン溶液(25.0mL、4.0eq.)を内温-68℃以内で22分間掛けて滴下し、30分間撹拌した。1MのBCl-ヘキサン溶液(10.0mL、1.0eq.)を内温-65℃以内で4分間掛けて滴下し、室温へ戻しながら一夜撹拌した。
【0107】
再度内温-10℃まで冷却後、精製水(25mL)でクエンチし、ジエチルエーテル(100mL×2回)で抽出した。有機層を減圧濃縮した後に得られた濃縮残渣(12.1g)をショートカラム精製(関東化学シリカゲル60N球状中性、63~210μm、40gをジエチルエーテルで充填し、ジエチルエーテルで溶出)にて分離精製し、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート-エチルエーテル錯体(6.89g,収率90.6%)を得た。
【0108】
[合成例1]近赤外蛍光材料1の合成方法
【0109】
【化8】
【0110】
窒素雰囲気下60mL容Schlenk管に、2,3,3-トリメチルインドレニン(東京化成工業株式会社製、15.92g、0.100mol)、1-ヨードヘキサン(42.41g、2.0eq.)を仕込み、ヒートブロック110℃設定で18時間加熱撹拌した。室温へ放冷後、固体を解砕しながらジエチルエーテル(20mL×3回)でデカンテーションして懸洗し、残渣を真空減圧下50℃5時間乾燥させ、化合物1-1(38.31g、収率100%)を得た。
【0111】
【化9】
【0112】
窒素雰囲気下2L容四頸反応器に、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(超脱水、120mL)を仕込み、内温0℃に冷却後、塩化ホスホリル(101mL、4.6eq.)を内温6℃以内で滴下し、内温0~6℃で20分間撹拌した。次いで、シクロヘキサノン(23.5g、0.239mol)のジクロロメタン(超脱水、50mL)溶液を、内温10℃以内で滴下し、還流温度までゆっくり昇温しながら撹拌し、100℃2時間撹拌した。再度0℃まで冷却後、アニリン(87.5mL、4.0eq.)のエタノール(87.5mL)溶液を、内温10℃以内で滴下した。得られた溶液を内温0~6℃1時間撹拌後、0℃で撹拌した塩酸水(=6M塩酸、72mL、1.8eq.+精製水、2.4L)中に注ぎ30分間撹拌した。沈殿を吸引濾取し、得られた濾滓をメタノール(720mL)で溶解し、0℃で撹拌した混合溶媒(=ヘキサン、2.4L+tert-ブチルメチルエーテル、2.4L)中に注ぎ、0℃で30分間撹拌した。沈殿を吸引濾取した後、窒素雰囲気下ジエチルエーテル(200mL)を加え、室温にて20分間懸濁撹拌した。沈殿を吸引濾取し、得られた濾滓を真空減圧下40℃4時間乾燥させ、化合物1-2(55.6g、粗収率64.6%)を得た。
【0113】
【化10】
【0114】
窒素気流下2L容四頸反応器に、化合物1-2(13.56g、37.74mmol)、エタノール(800mL)、化合物1-1(30.83g、2.2eq.)を仕込み、室温にて10分間撹拌後、酢酸ナトリウム(7.21g、2.3eq.)を加えた。油浴80℃設定にして10時間撹拌した後、室温まで放冷した。
【0115】
減圧下に溶媒を留去し、残渣の青紫色粘体粗体(44.4g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、63~210μm、750gをジクロロメタンで充填し、ジクロロメタン/メタノール=9/1で溶出)にて分離精製した。濃縮残渣(12.0g)にヘキサン(40mL)を加え、室温にて暫く懸濁撹拌した後に吸引濾取、ヘキサン(40mL)でリンスした。得られた結晶を真空減圧下40℃4時間乾燥させ、化合物1-3(8.820g、収率35.4%)を得た。
【0116】
【化11】
【0117】
窒素雰囲気下500mL容四頸反応器に、化合物1-3(3.000g、4.547mmol)、4-tert-オクチルフェノール(東京化成工業株式会社製、1.689g、1.8eq.)、DMF(152mL)を仕込み、トリエチルアミン(1.150g、2.5eq.)を滴下し、85℃にて8時間加熱撹拌した。室温へ冷却後、精製水(150mL)でクエンチし、ジクロロメタン(150mL×2回)で抽出した。有機層を精製水(80mL×2回)、ブライン(30mL)で順次洗浄後、無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、暗褐色ペースト状粗体(9.4g)を得た。
【0118】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、63~210μm、380gをジクロロメタンで充填し、メタノール/ジクロロメタン=1/19で溶出)にて分離精製し、目的物1-4(1.04g、収率27.5%)を得た。
【0119】
【化12】
【0120】
窒素雰囲気下60mL容Schlenk管に、化合物1-4(980mg、1.185mmol)のジクロロメタン(39mL)溶液を室温撹拌し、化合物リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート-エチルエーテル錯体(1.17g、1.3eq.)を分割投入した。室温にて3時間撹拌後、精製水(5mL)を加え油水分離し、有機層を無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、粗体(3.2g)を得た。
【0121】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、40~50μm、80gをヘキサン/ジクロロメタン=9/1で充填し、1/1~1/2で溶出)にて分離精製し、粗生成物を得た。不純物を除去するため、再カラム精製(関東化学シリカゲル60N球状中性、40~50μm、80gをヘキサン/ジクロロメタン=9/1で充填し、1/1で溶出)し、近赤外蛍光材料1(914mg、収率52.5%)を得た。
【0122】
[合成例2]近赤外蛍光材料2の合成方法
【0123】
【化13】
【0124】
窒素雰囲気下1L容四頸反応器に、化合物2-1:2-[2-[2-クロロ-3-[(1,3-ジヒドロ-3,3-ジメチル-1-プロピル-2H-インドール-2-イリデン)エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-3,3-ジメチル-1-プロピル-1H-インドリウムヨージド(American Dye Source社製、9.00g、13.5mmol)、4-tert-オクチルフェノール(東京化成工業株式会社製、5.01g、1.8eq.)と、DMF(450mL)を仕込み、トリエチルアミン(4.7mL、2.5eq.)を滴下し、85℃にて8時間加熱撹拌した。室温へ冷却後、精製水(500mL)でクエンチし、ジクロロメタン(500mL×2回)で抽出した。有機層を精製水(250mL×2回)、ブライン(150mL)で順次洗浄後、無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、暗褐色ペースト状粗体(25g)を得た。
【0125】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、63~210μm、1.25kgをジクロロメタンで充填し、メタノール/ジクロロメタン=1/15で溶出)にて分離精製を繰り返し行ない、目的物2-2(439mg、収率3.9%)を得た。
【0126】
【化14】
【0127】
窒素雰囲気下20mL容Schlenk管に、化合物2-2(430mg、0.514mmol)のアセトン(3.0mL)溶液を室温撹拌し、1.0MのNHPF水溶液(514μL、1.0eq.)を滴下した。室温にて1時間撹拌後、減圧下アセトンを留去し、析出物を吸引濾取、精製水(10mL)でリンスした。結晶を真空減圧下50~80℃恒量まで8時間乾燥させ、近赤外蛍光材料2(388mg、収率88.4%)を得た。
【0128】
[合成例3]近赤外蛍光材料3の合成方法
【0129】
【化15】
【0130】
窒素雰囲気下300mL容三頸反応器に、化合物2-1:2-[2-[2-クロロ-3-[(1,3-ジヒドロ-3,3-ジメチル-1-プロピル-2H-インドール-2-イリデン)エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-3,3-ジメチル-1-プロピル-1H-インドリウムヨージド(American Dye Source社製、2.00g、3.00mmol)、o-トリフルオロメチル-フェノール(東京化成工業株式会社製、875mg、1.8eq.)とDMF(100mL)を仕込み、トリエチルアミン(1.1mL、2.5eq.)を滴下し、85℃にて8時間加熱撹拌した。室温へ冷却後、精製水(100mL)でクエンチし、ジクロロメタン(100mL×2回)で抽出した。有機層を精製水(100mL×2回)、ブライン(50mL)で順次洗浄後、無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、暗褐色ペースト状粗体(5.8g)を得た。
【0131】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、40~50μm、150gをジクロロメタンで充填し、メタノール/ジクロロメタン=1/19で溶出)にて分離精製を繰り返し行ない、化合物3-1(229mg、収率9.6%)を得た。
【0132】
【化16】
【0133】
窒素雰囲気下20mL容Schlenk管に、化合物3-1(220mg、0.278mmol)のジクロロメタン(9mL)溶液を室温撹拌し、化合物リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート-エチルエーテル錯体(275mg、1.3eq.)を分割投入した。室温にて3時間撹拌後、精製水(3mL)を加え油水分離し、有機層を無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、暗緑色無定形粗体(911mg)を得た。
【0134】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、40~50μm、45gをヘキサン/ジクロロメタン=2/1で充填し、1/1で溶出)にて分離精製し、近赤外蛍光材料3(190mg、収率51%)を得た。
【0135】
[合成例4]近赤外蛍光材料4の合成方法
【0136】
【化17】
【0137】
アルゴン雰囲気下60mL容Schlenk管に、化合物2-1:2-[2-[2-クロロ-3-[(1,3-ジヒドロ-3,3-ジメチル-1-プロピル-2H-インドール-2-イリデン)エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-3,3-ジメチル-1-プロピル-1H-インドリウムヨージド(American Dye Source社製、1.000g、1.499mmol)、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸(東京化成工業株式会社製、522mg、1.35eq.)、リン酸三カリウム無水物(東京化成工業株式会社製、309mg、0.97eq.)、精製水(4mL)、エタノール(16mL)を室温にて仕込み、真空減圧とアルゴン置換とを繰り返して脱気した。酢酸パラジウム(東京化成工業株式会社製、522mg、1.35eq.)、t-BuXPhos(東京化成工業株式会社製、522mg、1.35eq.)を一気に投入後、15時間還流撹拌した。室温へ冷却後、ジクロロメタン(50mL×2回)で抽出した。有機層を精製水(20mL)、ブライン(10mL)で順次洗浄後、無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、粗体(2.4g)を得た。
【0138】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、40~50μm、45gをジクロロメタンで充填し、メタノール/ジクロロメタン=1/19で溶出)にて分離精製を繰り返し行ない、目的物4-1(338mg、収率26.7%)を得た。
【0139】
【化18】
【0140】
窒素雰囲気下20mL容Schlenk管に、化合物4-1(300mg、0.355mmol)のジクロロメタン(12mL)溶液を室温撹拌し、化合物リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート-エチルエーテル錯体(351mg、1.3eq.)を分割投入した。室温にて3.5時間撹拌後、精製水(5mL)を加え油水分離し、有機層を無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、暗緑色ペースト状粗体(1.1g)を得た。
【0141】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、40~50μm、45gをヘキサン/ジクロロメタン=4/1で充填し、2/1~1/1で溶出)にて分離精製し、近赤外蛍光材料4(217mg、収率44%)を得た。
【0142】
[合成例5]近赤外蛍光材料5の合成方法
【0143】
【化19】
【0144】
窒素雰囲気下20mL容Schlenk管に、化合物2-2(194mg、0.260mmol)のジクロロメタン(9mL)溶液を室温撹拌し、化合物リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート-エチルエーテル錯体(257mg、1.3eq.)を分割投入した。室温にて3時間撹拌後、精製水(3mL)を加え油水分離し、有機層を無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、粗体を得た。
【0145】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、40~50μm、45gをヘキサン/ジクロロメタン=5/1で充填し、3/2~2/1で溶出)にて分離精製し、近赤外蛍光材料5(278mg、収率77.0%)を得た。
【0146】
[合成例6]近赤外蛍光材料6の合成方法
【0147】
【化20】
【0148】
アルゴン雰囲気下20mL容Schlenk管に、化合物6-1:2-[2-[2-クロロ-3-[2-(1,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-2H-インドール-2-イリデン)エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]エテニル]-1,3,3-トリメチル-3H-インドリウムクロリド(東京化成工業株式会社製、520mg、1.00mmol)、9,9-ジメチルフルオレン-2-ボロン酸(東京化成工業株式会社製、321mg、1.35eq.)、リン酸三カリウム無水物(東京化成工業株式会社製、206mg、0.97eq.)、精製水(2mL)、及びエタノール(8mL)を室温にて仕込み、真空減圧とアルゴン置換とを繰り返して脱気した。酢酸パラジウム(東京化成工業株式会社製、22mg、0.1eq.)及びt-BuXPhos(東京化成工業株式会社製、85mg、0.2eq.)を一気に投入後、17時間還流撹拌した。室温へ冷却後、ジクロロメタン(30mL×2回)で抽出した。有機層を精製水(10mL)、ブライン(10mL)で順次洗浄後、無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、粗体(0.96g)を得た。
【0149】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、40~50μm、40gをジクロロメタンで充填し、同~メタノール/ジクロロメタン=1/19~1/9で溶出)にて分離精製し、目的物6-2(359mg、収率53.0%)を得た。
【0150】
【化21】
【0151】
窒素雰囲気下60mL容Schlenk管に、化合物6-2(350mg、0.517mmol)のジクロロメタン(17mL)溶液を室温撹拌し、化合物リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート-エチルエーテル錯体(511mg、1.3eq.)を分割投入した。室温にて3時間撹拌後、精製水(5mL)を加え油水分離し、有機層を無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、粗体(1.1g)を得た。
【0152】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、40~50μm、40gをヘキサン/ジクロロメタン=2/1で充填し、1/1~1/2で溶出)にて分離精製し、近赤外蛍光材料6(459mg、収率67.3%)を得た。
【0153】
[合成例7]近赤外蛍光材料7の合成方法
【0154】
【化22】
【0155】
窒素雰囲気下200mL容三頸反応器に、化合物7-1:1-ブチル-2-(2-[3-[2-(1-ブチル-3,3-ジメチル-1,3-ジヒドロ-インドール-2-イリデン)-エチリデン]-2-ジフェニルアミノ-シクロペンタ-1-エニル]-ビニル)-3,3-ジメチル-3H-インドリウムテトラフルオロボレート(FEW Chemicals社製、1.380g、1.752mmol)のジクロロメタン(58mL)溶液を室温撹拌し、化合物リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート-エチルエーテル錯体(1.731g、1.3eq.)を分割投入した。室温にて3時間撹拌後、精製水(10mL)を加え油水分離し、有機層を無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、粗体(3.9g)を得た。
【0156】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、63~210μm、120gをヘキサン/ジクロロメタン=4/1で充填し、2/1~1/1で溶出)にて分離精製し、近赤外蛍光材料7(1.95g、収率80.7%)を得た。
【0157】
[合成例8]近赤外蛍光材料8の合成方法
【0158】
【化23】
【0159】
化合物2-1:2-[2-[2-クロロ-3-[(1,3-ジヒドロ-3,3-ジメチル-1-プロピル-2H-インドール-2-イリデン)エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-3,3-ジメチル-1-プロピル-1H-インドリウムヨージド(American Dye Source社製)をそのまま利用する。
【0160】
[合成例9]近赤外蛍光材料9の合成方法
【0161】
【化24】
【0162】
化合物1-ブチル-2-(2-[3-[2-(1-ブチル-3,3-ジメチル-1,3-ジヒドロ-インドール-2-イリデン)-エチリデン]-2-フェニル-シクロヘキサ-1-エニル]-ビニル)-3,3-ジメチル-3H-インドリウムヘキサフルオロホスフェート(FEW Chemicals社製)をそのまま利用する。
【0163】
[合成例10]近赤外蛍光材料10の合成
【0164】
【化25】
【0165】
化合物10-1:3-ブチル-2-(2-[3-[2-(3-ブチル-1,1-ジメチル-1,3-ジヒドロベンゾ[e]インドール-2-イリデン)エチリデン]-2-クロロ-シクロヘキサ-1-エニル]ビニル)-1,1-ジメチル-1H-ベンゾ[e]インドリウムヘキサフルオロホスフェート(Few Chemicals社製)を用いて合成例6と同様にボランを用いた反応で近赤外蛍光材料10を得た。
【0166】
[合成例11]近赤外蛍光材料11の合成
【0167】
【化26】
【0168】
近赤外蛍光材料10を用いて合成例6と同様に対イオンの交換反応で近赤外蛍光材料11を得た。
【0169】
[合成例12]近赤外蛍光材料12の合成方法
【0170】
【化27】
【0171】
窒素雰囲気下、60mL容Schlenk管にて、化合物6-1(東京化成工業株式会社製、250mg、0.481mmol)のジクロロメタン(16mL)溶液を室温撹拌し、化合物リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート-エチルエーテル錯体(330mg、1.0eq.)を分割投入した。室温にて3時間撹拌後、精製水(5mL)を加え油水分離し、有機層を無水芒硝で脱水後、濾過し、濾液を濃縮して、粗体(1.0g)を得た。この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性、40~50μm、45gをヘキサン/ジクロロメタン=2/1で充填し、ヘキサン/ジクロロメタン=2/1で溶出)にて分離精製し、近赤外蛍光材料12
(412mg,収率73.6%)を得た。
【0172】
[合成例13]近赤外蛍光材料13の合成
【0173】
【化28】
【0174】
Fischer, G. M., et al., "Pyrrolopyrrole cyanine dyes: A new class of near-infrared dyes and fluorophores.", Chemistry-A European Journal 15(19), 4857-4864, 2009に記載の方法を参考に近赤外蛍光材料13を合成した。
【0175】
[合成例14]近赤外蛍光材料14の合成
【0176】
【化29】
【0177】
特開2022-26256号に記載の実施例を参考に近赤外蛍光材料14を合成した。
【0178】
[合成例15]近赤外蛍光材料15の合成
【0179】
【化30】
【0180】
宇都宮大学の伊藤智志研究室の協力の元、近赤外蛍光材料15を合成した。構造については第9回CSJフェスタ2019のポスター発表(P3-034)でπ共役拡張O-キレートBODIPYとして報告されている。
【0181】
[合成例16]近赤外蛍光材料16の合成方法
【0182】
【化31】
【0183】
窒素気流下3L容四頸反応器に、化合物16-1:4-ブロモフェノール(94.54g、0.5464mol)、1-ブロモブタン(97.34g、0.7104mol、1.3eq.)、炭酸カリウム(無水)(377.6g、2.732mol、5.0eq.)、アセトン(1L)を仕込み、16時間還流撹拌した。室温へ冷却後、不溶物を濾去しアセトン(800mL)でリンスした。濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性63-210um, 2.5kgをヘキサンでパッキングし、同~ヘキサン/ジクロロメタン=19/1にて溶出)にて分離精製し、化合物16-2(無色油状、106.0g、収率84.7%、LC純度99.74%)を得た。
【0184】
【化32】
【0185】
窒素気流下2L容四頸反応器に、化合物16-3:2,3-ジシアノハイドロキノン(東京化成工業株式会社製、35.65g、0.2226mol)をジクロロメタン(超脱水、430mL)に撹拌、溶解させ内温8℃にて、2,6-ルチジン(70.13g、2.94eq.)を加え、内温-33℃に冷却した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物(147.6g、2.35eq.)を内温-33~-25℃にて24分間掛けて滴下し、次いで内温12℃まで戻しながら一夜撹拌した。
【0186】
精製水(300mL)でクエンチし、油水分離し、水層をジクロロメタン(300mL)で抽出した。2つの有機層を合わせた後、精製水(300mL)、ブライン(100mL)で順次洗浄後、無水芒硝乾燥させ、濾過、濾液を濃縮し、濃縮残渣(129.8g)を得た。この粗体を酢酸エチル(390mL)に溶解させた後、室温で撹拌したヘキサン(1.95L)中に滴下して再沈殿化させ、得られた懸濁液を室温にて30分間撹拌した。結晶を吸引濾取し、酢酸エチルとヘキサンとの混合液(=40mL+200mL)でリンスした。真空減圧下50℃にて乾燥させ、化合物16-4(淡褐色粉体、56.56g、収率59.9%、LC純度92.46%)を得た。
【0187】
【化33】
【0188】
アルゴン気流下3L容四頸反応器に、マグネシウム(削り状、11.32g、3.86eq.)を仕込み、THF(超脱水、40mL)を加え、化合物16-2(105.1g、0.4586mol、3.8eq.)のうち約2mLを加えた。ヨウ素(粒状、3粒)を加え、発熱し反応が開始したことを確認した。次いで、残りの化合物3-2のTHF(超脱水、200mL)希釈液を、反応系内温が41~58℃以内になる様に1時間30分間掛けて滴下した。未だMagnesiumが溶け残って居るので、更に2時間還流撹拌するとほぼ消失した。THF(超脱水, 240mL)を加え希釈した後、内温-65℃に冷却後、硫黄(粉末、11.61g、3.0eq.)のTHF(超脱水、240mL)溶液を内温-50℃以内になるように30分間掛けて滴下した。内温30℃まで47分間掛けて昇温した後、内温28~30℃にて30分間撹拌した。再度内温-35℃に冷却後、化合物16-4(51.20g、0.1207mol)のTHF(超脱水、154mL)溶液を内温-4℃以内になるように20分間掛けて滴下した。内温30℃まで30分間掛けて昇温後、更に1時間撹拌した。
【0189】
再度-4℃に冷却後、2M塩酸(460mL)を滴下してクエンチし、室温へ戻しながら暫く撹拌後、酢酸エチル(600mL×2回)抽出した。2つの有機層を合わせ、精製水(500mL)、ブライン(300mL)で順次洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液を濃縮し、濃縮残渣(175.9g)を得た。
【0190】
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性63~210μm、1.8kgをヘキサンでパッキングし、ヘキサン/酢酸エチル=5/1~3/1にて溶出)にて分離精製した。得られた濃縮残渣(34.6g)をTHF(52mL)に溶解させた後、室温で撹拌したエタノール(312mL)中に滴下して再沈殿化させ、室温にて1時間撹拌した。得られた結晶を吸引濾取し、エタノール(100mL)でリンスした。真空減圧下50℃乾燥させ、化合物16-5(淡褐色粉体、22.49g、収率38.1%、LC純度97.69%)を得た。
【0191】
【化34】
【0192】
アルゴン気流下1L容四頸反応器に、1-ブタノール(脱水、220mL)を室温で仕込み、20分間アルゴンバブリングした後、リチウム(粒状、2.12g、6.8eq.)を加え、油浴120℃設定にして昇温し、リチウムが溶解するまで35分間加熱撹拌した。化合物16-5(22.00g、45.02mmol)を分割投入した後、湯浴127℃設定にして昇温し、内温116~117℃にて2時間撹拌した。
【0193】
室温へ冷却後、1v/v%硫酸-メタノール溶液(1.63L)でクエンチし室温にて10分間撹拌した後、得られた沈殿を吸引濾取し、メタノール(500mL)でリンスし、濾滓として黒紫色固体(23.8g)を得た。この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性40~50μm、440gをヘキサン/クロロホルム=1/1でパッキングし、ヘキサン/クロロホルム=1/2~0/1にて溶出)にて分離精製した。得られた濃縮残渣(16.9g)をメタノール(340mL)に室温にて懸濁撹拌した後、沈殿を吸引濾取し、メタノール(340mL)でリンスした。真空減圧下60℃乾燥させ、近赤外蛍光材料16(黒紫色粉体、14.44g、収率65.6%)を得た。
【0194】
[合成例17]近赤外蛍光材料17の合成方法
【0195】
【化35】
【0196】
5L容四頸反応器にアルゴン気流下室温にて、近赤外蛍光材料16(11.0g、5.62mmol)、DMSO(550mL)、クロロベンゼン(2.2L)、酢酸マグネシウム四水和物(6.03g、5.0eq.)を加え、130℃で3時間撹拌した。
【0197】
室温へ冷却後、精製水(1L)を注ぎ、クロロホルム(1L×3回)抽出した。3つの有機層を合わせて、精製水(1L)、ブライン(1L)で洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液を濃縮し、粗体(11.5g、濃紫色固体)を得た。この粗体をカラムクロマトグラフィー(活性アルミナ(富士フイルム和光純薬(株))45μm、575g、クロロホルムでパッキングし同溶出)で精製し、真空減圧下50℃で8時間乾燥させ、近赤外蛍光材料17(黒紫色粉体、9.40g、収率84.5%)を得た。
【0198】
[実施例1-1]
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを、以下の手順に従い、ワンショット法にて合成した。ディスポカップに1,4-ブタンジオール(14BG、三菱ケミカル株式会社):16.6gと100℃で加熱溶融したポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG1000、三菱ケミカル株式会社製、数平均分子量992):154.3gを秤量し、撹拌により相溶させた。その後近赤外蛍光材料1を15.6mg(総仕込量に対して60ppm)加え、2分間撹拌し混合液を得た。
【0199】
この混合液に70℃で融解した4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(ミリオネートMT、東ソー株式会社、以下MDIと称する)89.1gを加え、撹拌を開始した。発熱により液温度が100℃に達したことを確認し、即座に100℃の金型上へ流し込み硬化させた。その後硬化物を100℃のオーブンにて15時間温調しポリウレタン硬化物を得た。
【0200】
組成:PTMG1000/MDI/14BG=1.0/2.3/1.2(mol)
NCO Index=[NCO]MDI/[OH]PTMG+14BG=1.05
ポリウレタン硬化物を圧縮成形により2mm厚のシート状に成形した。先ず、ポリウレタン硬化物を予め100℃で2時間減圧乾燥させ、脱水した。その後、SUS板(200×200×2mm)上に、離型フィルム、フッ素コート処理をした金型(150×150×2mm)、ポリウレタン硬化物を設置し、更に離型フィルム、SUS板の順に載せ、ミニテストプレス(株式会社東洋精機製作所)を用いて圧縮成形を行った。尚、この時の温度および圧力は200~220℃、予備圧縮2.0MPa×2分、本圧縮13MPa×2分間であった。更に、冷却用ミニテストプレス(株式会社東洋精機製作所)を用いて10~30℃、本圧縮13MPa×2分冷却し、シート状の成形体を得た。
【0201】
得られた成形体を、近赤外蛍光観察カメラ(FL VIEW、ニレック株式会社)を用いてGAINレベル5、近赤外励起光出力レベル5の条件で観察し、輝度を測定した。
【0202】
輝度は109であり、分散性は良好であった。
【0203】
[実施例1-2]~[比較例1-6]
実施例1-1で用いた近赤外蛍光材料1の総仕込量に対して60ppmを、それぞれ表1に示す近赤外蛍光材料の60ppmに変更した以外は、実施例1-1と同様にしてシート状の成形体を作成した。輝度及び分散性はそれぞれ表1に示す通りであった。
【0204】
【表1】
【0205】
上記の結果を表1に示す。請求する構造を有する近赤外蛍光材料を用いた実施例1-1~1-7は、同じICG骨格を有する比較例1-1~1-5と比較して高い分散性を有している。加えてその分散性はカテーテルへ実際に導入されている近赤外蛍光材料13を用いた比較例1-6と比較しても高いことが確認された。
【0206】
[実施例2-1]
熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマーを、以下の手順に従い、プレポリマー法にて合成した。1Lのブリキ缶に100℃に温調したカルビノール変性シリコーンオイル(BY 16-201、ダウ・東レ株式会社、数平均分子量1870):456.0gを秤量し、70℃に融解したMDI:182.9gを加えた。窒素雰囲気下で15分撹拌し、プレポリマー溶液を得た。その後近赤外蛍光材料1を40.8mg(総仕込量に対して60ppm)添加し、さらに2分程撹拌混合することで混合液を得た。
【0207】
この混合液に1,4-ブタンジオール(14BG、三菱ケミカル株式会社):41.0gを加え撹拌した。発熱により液温度が100℃に達したことを確認した後、即座に100℃の金型上へ流し込み硬化させた。その後、硬化物を100℃のオーブンにて15時間温調しポリウレタン硬化物を得た。
【0208】
組成:BY 16ー201/MDI/14BG=1.0/3.0/2.0 (mol)
NCO Index=[NCO]MDI/[OH]PTMG+14BG=1.05
その後、輝度の測定方法は、実施例1―1と同様の内容で実施した。
【0209】
[実施例2-2]
実施例2-1で用いた近赤外蛍光材料1の総仕込量に対して60ppmを近赤外蛍光材料1の400ppmに変更した以外は、実施例1-1と同様にしてシート状の成形体を作成した。輝度は185であり、分散性は良好であった。
【0210】
[実施例2-3]
実施例2-1で用いた近赤外蛍光材料1の総仕込量に対して60ppmを近赤外蛍光材料1の1000ppmに変更した以外は、実施例1-1と同様にしてシート状の成形体を作成した。輝度は最大で155であり、ムラが確認された。
【0211】
[比較例2-1]
実施例2-1で用いた近赤外蛍光材料1の総仕込量に対して60ppmを近赤外蛍光材料13の60ppmに変更した以外は、実施例1-1と同様にしてシート状の成形体を作成した。輝度は238であり、分散性は問題なかった。
【0212】
[比較例2-2]~[比較例2-5]
実施例2-1で用いた近赤外蛍光材料1の総仕込量に対して60ppmを近赤外蛍光材料14~17の60ppmに変更した以外は、実施例1-1と同様にしてシート状の成形体を作成した。輝度は最大で93であり、近赤外蛍光材料の凝集物が確認された。
【0213】
【表2】
【0214】
上記の結果を表2に示す。請求する構造を有する近赤外蛍光材料1を用いた実施例2-1~2-3の結果より、少なくとも400ppmという高濃度でも実用に足る分散性を維持していた。カテーテルへ実際に導入されている近赤外蛍光材料13は比較例2-1で、他ホウ素錯体である比較例2-2~2-3及びフタロシアニン骨格である比較例2-4~2-5と比較して、分散性は高いが実施例2-2と同じ400ppmでは凝集が確認された。
【0215】
[実施例3-1]
コーティング用ポリウレタンを、溶液重合、ワンショット法により合成した。
【0216】
60℃のオイルバス上に、熱電対、冷却管及び撹拌装置を備えたセパラブルフラスコを設置し、80℃で溶融させたポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG1000、三菱ケミカル株式会社、数平均分子量:992):65.0gを秤量した。加えて、1,4-ブタンジオール(14BG、三菱ケミカル株式会社):5.9g、脱水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、和光純薬工業株式会社製):242.1g、スズ触媒(ネオスタンU-830、日東化成株式会社):17.3mg(50ppm)を添加後、窒素雰囲気下にて60rpmで撹拌し、系を均一化した。得られた混合液にMDIを29.5g添加し、1時間撹拌することで反応を進行させた。さらに、MDI:3.3gを数回に分け添加し、1時間撹拌することでポリウレタン溶液を得た。
【0217】
組成:PTMG1000/MDI/14BG=1.0/2.0/1.0(mol)
NCO Index=[NCO]MDI/[OH]PTMG+14BG=1.01)
DMF:2.0gに近赤外蛍光材料1を7.5mg(溶液中のポリウレタン質量に対して1000ppm)を加え混合した液を調製し、これを70℃で温調したポリウレタン溶液25gに加えさらに撹拌混合した。得られた混合液をアプリケーター(1000μm)にてフッ素樹脂シートに塗布し、80℃で1時間乾燥させた。その後100℃で30分、さらには減圧下100℃で1時間処理し、170μm厚のフィルム成形物を得た。
【0218】
輝度は66であり、近赤外材料の分散性は良好であった。
【0219】
[実施例3-2]
実施例3-1で用いた近赤外蛍光材料及びポリウレタン溶液にさらに硫酸バリウム(BaSO、堺化学工業株式会社製、溶液中のポリウレタン質量に対して1質量%)を加えて撹拌混合した以外は、実施例3-1と同様にしてシート状の成形体を作成した。輝度は83~158であり、近赤外蛍光材料の分散性は良好であったが、一部硫酸バリウムは比重の違いで底に沈殿していた。
【0220】
[実施例3-3]
実施例3-1で用いた近赤外蛍光材料及びポリウレタン溶液にさらに硫酸バリウム(BaSO、堺化学工業株式会社製、溶液中のポリウレタン質量に対して3質量%)を加えて撹拌混合した以外は、実施例3-1と同様にしてシート状の成形体を作成した。輝度は87~120であり、近赤外蛍光材料の分散性は良好であったが、一部硫酸バリウムは比重の違いで底に沈殿していた。
【0221】
[比較例3-1]
実施例3-1で用いた近赤外蛍光材料1の1000ppmを近赤外材料13の1000ppm以外に変えた以外は、実施例3-1と同様にしてシート状の成形体を作成した。輝度は2であり、近赤外蛍光材料凝集していた。
【0222】
[比較例3-2]
比較例3-1で用いた近赤外蛍光材料及びポリウレタン溶液にさらに硫酸バリウム(BaSO、堺化学工業株式会社製、溶液中のポリウレタン質量に対して1質量%)を加えて撹拌混合した以外は、実施例3-1と同様にしてシート状の成形体を作成した。輝度は3であり、で近赤外蛍光材料は変わらず凝集しており、硫酸バリウムはそこに沈殿していた。
【0223】
[比較例3-3]
比較例3-1で用いた近赤外蛍光材料とポリウレタン溶液にさらに硫酸バリウム(BaSO、堺化学工業株式会社製、溶液中のポリウレタン質量に対して3質量%)を加えて撹拌混合した以外は、実施例3-1と同様にしてシート状の成形体を作成した。輝度は3であり、近赤外蛍光材料は変わらず凝集しており、硫酸バリウムはそこに沈殿していた。
【0224】
【表3】
【0225】
上記の結果を表3に示す。請求する構造を有する近赤外蛍光材料1を用いた実施例3-1~3-3の結果より、放射線不透過性物質にも使用されるBaSOと親和性が良く、その結果BaSOによる蛍光の拡散効果で輝度が増加した。一方で比較例3-1~3-3の結果より、この親和性は色素の構造に依存する事が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0226】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、医療用具等の材料として利用することができる。