(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089486
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】分散体、該分散体を含む組成物、及び光変換層
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20240626BHJP
C09K 11/61 20060101ALI20240626BHJP
C09K 11/02 20060101ALI20240626BHJP
C09K 11/67 20060101ALI20240626BHJP
C09K 11/62 20060101ALI20240626BHJP
C09K 11/66 20060101ALI20240626BHJP
C09K 11/74 20060101ALI20240626BHJP
C09K 11/75 20060101ALI20240626BHJP
C09K 11/87 20060101ALI20240626BHJP
C09K 11/85 20060101ALI20240626BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C09K11/08 G
C09K11/61
C09K11/02 Z
C09K11/67
C09K11/62
C09K11/66
C09K11/74
C09K11/75
C09K11/87
C09K11/85
G02B5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204884
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】延藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】野中 祐貴
【テーマコード(参考)】
2H148
4H001
【Fターム(参考)】
2H148AA00
2H148AA07
4H001CA02
4H001CC11
4H001XA01
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4H001XA55
4H001XA63
4H001XA65
4H001XA70
4H001XA82
4H001XA83
(57)【要約】
【課題】発光特性の変化が少なく、長期保存性に優れる、ナノ結晶を含む発光性粒子を含有する分散体、前記分散体を含む組成物、及び前記組成物から形成される光変換層を提供すること。
【解決手段】メタルハライドからなる半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた発光性粒子を含有し、含水率が0.10%以上1.0%以下である、分散体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタルハライドからなる半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた発光性粒子を含有し、含水率が0.10%以上1.0%以下である、分散体。
【請求項2】
前記発光性粒子に対する水の比率(水/発光性粒子)が0.05以上10.0以下である、請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
前記半導体ナノ結晶が、一般式AaMbXcで表される化合物であり、
前記AがCs、Rb、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、アンモニウム、2-フェニルエチルアンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム及びベンジルトリエチルアンモニウムからなる群から選ばれる1つ以上の陽イオンを表し、
前記BがPb、Sn、Ge、Bi、Sb、Ag、In、Cu、Yb、Ti、Pd、Mn、Eu、Zr及びTbからなる群から選ばれる金属イオンを表し、
前記XがF、Cl、Br及びIからなる群から選ばれる1つ以上のハロゲン化物イオンを表し、
aが1~7の正数を表し、bが1~4の正数を表し、cが1~16の正数を表す、請求項1に記載の分散体。
【請求項4】
前記半導体ナノ結晶が、ペロブスカイト型結晶構造を有する、請求項1に記載の分散体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の分散体と、熱可塑性樹脂とを含む組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂及びポリカーボネート系樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の組成物から形成される、光変換層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光性粒子を含む分散体、該分散体を含有する組成物、及び該組成物からなる光変換層に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の表示素子に要求される国際規格BT.2020を満たす発光材料として、半導体性のナノ結晶が注目されており、例えば量子ドット、量子ロッド、その他の無機蛍光体粒子等の発光性ナノ結晶を用いて赤色光又は緑色光を取り出す光変換シートやカラーフィルター画素部のような光変換層、また発光性ナノ結晶をバックライトに用いた表示デバイスや照明装置が提案されている。
発光性ナノ結晶は蛍光又は燐光を発し、発光スペクトルの半値幅が狭いという特徴がある。現在主流のコアシェル型量子ドットでは、初期にはCdSe等を使用していたが、Cdによる有害性を回避するため、最近ではInP等が使用されている。しかし、粒子としての安定性が低く、安定化改善に向けた検討が精力的に進められている。また、コアシェル型量子ドットは、その粒子サイズにより発光波長が決まるため、半値幅がより狭い発光を得るためには粒子径の分散度を精密に制御する必要があり、その生産には課題が多い。
【0003】
一方、近年、ペロブスカイト型結晶構造をもつ量子ドットが見出され注目を集めている。例えば、一般式CsPbX3(Xはハロゲン原子のアニオンを表す。)で示される、ペロブスカイト型結晶構造を有する、セシウムと鉛とハロゲンとからなるメタルハライドであるナノ結晶は、ハロゲン原子の種類とその存在割合を調整することにより発光波長を制御できる利点があり、発光材料としての物性に優れることが非特許文献1に開示されている。また、粒子サイズの制御がInP量子ドット等に比べ容易であり、生産性面で有利である。特許文献1には、ペロブスカイト型結晶構造を有する発光性結晶とアクリレートポリマー由来の固体ポリマー含有組成物及び発光性部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nano Letters,2015,15,3692-3696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ペロブスカイト型結晶構造を有するナノ結晶を含む分散体は、発光特性の変化が少なく長期保存性に優れることが望まれる。
【0007】
本発明の目的は、発光特性の変化が少なく、長期保存性に優れる、ナノ結晶を含む発光性粒子を含有する分散体を提供することにある。
本発明の目的はまた、かかる分散体を含む組成物、及び前記組成物から形成される光変換層を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] メタルハライドからなる半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた発光性粒子を含有し、含水率が0.10%以上1.0%以下である、分散体。
[2] 前記発光性粒子に対する水の比率(水/発光性粒子)が0.05以上10.0以下である、[1]に記載の分散体。
[3] 前記半導体ナノ結晶が、一般式AaMbXcで表される化合物であり、
前記AがCs、Rb、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、アンモニウム、2-フェニルエチルアンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム及びベンジルトリエチルアンモニウムからなる群から選ばれる1つ以上の陽イオンを表し、
前記BがPb、Sn、Ge、Bi、Sb、Ag、In、Cu、Yb、Ti、Pd、Mn、Eu、Zr及びTbからなる群から選ばれる金属イオンを表し、
前記XがF、Cl、Br及びIからなる群から選ばれる1つ以上のハロゲン化物イオンを表し、
aが1~7の正数を表し、bが1~4の正数を表し、cが1~16の正数を表す、[1]又は[2]に記載の分散体。
[4] 前記半導体ナノ結晶が、ペロブスカイト型結晶構造を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の分散体。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の分散体と、熱可塑性樹脂とを含む組成物。
[6] 前記熱可塑性樹脂が、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂及びポリカーボネート系樹脂から選択される少なくとも1種である、[5]に記載の組成物。
[7] [5]又は[6]に記載の組成物から形成される、光変換層。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発光特性の変化が少なく、長期保存性に優れる、ナノ結晶を含む発光性粒子を含む分散体、前記分散体を含む組成物及び前記組成物から形成される光変換層を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る光変換層を備える積層構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明に係る光変換層を備える発光素子の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】アクティブマトリックス回路の構成を示す概略図である。
【
図4】
図3に示すアクティブマトリックス回路の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の分散体は、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶(以下、単に「ナノ結晶」とも記す。)の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた発光性粒子(以下、「発光性粒子」とも記す。)を含有し、含水率が0.10%以上1.0%以下である。本発明の分散体は、後述するように、例えば、発光ダイオード(LED)等の表示素子に用いられる光変換層を形成する波長変換材料として好適に使用できる。
【0012】
本発明の分散体は、所定の波長の光を吸収することにより、吸収した波長とは異なる波長の光(蛍光又は燐光)を発することができる、発光性を有する半導体ナノ結晶を含む発光性粒子を含有する。ここで、発光性とは、電子の励起により発光する性質であることが好ましく、励起光が照射されたときに、ナノ結晶に含まれる電子が基底状態から励起状態に励起されて、基底状態に戻る際に発光を生じる性質であるのがより好ましい。
【0013】
1.発光性粒子
<メタルハライドからなる半導体ナノ結晶>
本発明において、ナノ結晶はメタルハライドからなる半導体ナノ結晶であり、励起光を吸収して蛍光又は燐光を発光するナノサイズの結晶体(ナノ結晶粒子)である。かかるナノ結晶は、例えば、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定される最大粒子径が100nm以下である結晶体である。ナノ結晶は、例えば、所定の波長の光エネルギーや電気エネルギーにより励起され、蛍光又は燐光を発することができる。また、メタルハライドからなる量子ドットであるナノ結晶は、半値幅がより狭い発光を得ることができる。
【0014】
ナノ結晶は、一般式:AaMbXcで表される化合物である。ここで、aは、1~7の正数であり、bは、1~4の正数であり、cは、1~16の正数である。
一般式:AaMbXcで表される化合物の具体例としては、AMX、A4MX、AMX2、AMX3、A2MX3、AM2X3、A2MX4、A2MX5、A3MX5、A3M2X5、A3MX6、A4MX6、AM2X6、A2MX6、A4M2X6、A3MX8、A3M2X9、A3M3X9、A2M2X10、A7M3X16で表される化合物が好ましい。
【0015】
上記式中、Aは1価の陽イオンを表し、有機カチオン及び金属カチオンのうちの少なくとも1種である。有機カチオンとしては、アンモニウム、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、プロトン化チオウレア等が挙げられ、金属カチオンとしては、Cs、Rb、K、Na、Li等のカチオンが挙げられる。
Mは少なくとも1種の金属カチオンを表す。具体的には、1種の金属カチオン(M1)、2種の金属カチオン(M1
αM2
β)、3種の金属カチオン(M1
αM2
βM3
γ)、4種の金属カチオン(M1
αM2
βM3
γM4
δ)等が挙げられる。但し、α、β、γ、δは、それぞれ0~1の実数を表し、かつα+β+γ+δ=1を表す。Mが表す金属カチオンとしては、1族、2族、3族、4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、13族、14族、15族から選ばれる金属カチオンが挙げられる。より好ましくは、Ag、Au、Bi、Ca、Ce、Co、Cr、Cu、Eu、Fe、Ga、Ge、Hf、In、Ir、Mg、Mn、Mo、Na、Nb、Nd、Ni、Os、Pb、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Sb、Sc、Sm、Sn、Sr、Ta、Te、Ti、V、W、Zn、Zr等のカチオンが挙げられる。
Xは少なくとも1種のハロゲンを含むアニオンを表し、具体的には、1種又は2種以上のハロゲン化物アニオンを含む。Xとして2種以上のアニオンが共存する場合、その共存比には特に制限はない。かかるアニオンとしてはF-、Cl-、Br-、I-等のハロゲン化物イオンが挙げられる。
ナノ結晶は、その粒子サイズ、Xサイトを構成するアニオンの種類及び存在割合を調整することにより、発光波長(発光色)を制御できる。また、ナノ結晶は、発光特性をより向上させる観点から、Bi、Mn、Ca、Eu、Sb、Ybなどの金属イオンが添加(ドープ)されたものであってもよい。
【0016】
上記一般式:AaMbXcで表されるナノ結晶の中でも、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物は、その粒子サイズ、Mサイトを構成する金属カチオンの種類及び存在割合を調整し、さらにXサイトを構成するアニオンの種類及び存在割合を調整することにより、発光波長(発光色)を制御できる点で、ナノ結晶として特に好ましい。
具体的には、優れた発光特性を有する観点から、AMX3、A3MX5、A3MX6、A4MX6、A2MX6で表される化合物が好ましく、発光特性と合成の容易さの観点から、AMX3がより好ましい。式中のA、M及びXは上記のとおりである。また、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物は、上述のように、Bi、Mn、Ca、Eu、Sb、Ybなどの金属イオンが添加(ドープ)されたものであってもよい。
【0017】
ペロブスカイト型結晶構造を示す化合物の中でも、合成の容易さ、良好な発光特性及び結晶構造の堅牢性の観点から、AはCs、Rb、K、Na、Li、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウムからなる群から選ばれる陽イオンであることが好ましく、Cs、Rb、メチルアンモニウム及びホルムアミジニウムから選ばれる陽イオンがより好ましく、Cs及びホルムアミジニウムから選ばれる陽イオンがさらに好ましい。
Mは1種の金属カチオン(M1)、又は2種の金属カチオン(M1
αM2
β(但し、αとβはそれぞれ0~1の実数を表し、α+β=1を表す。))であり、合成の容易さ、良好な発光特性及び結晶構造の堅牢性の観点から、Pb、Sn、Ge、Bi、Sb、Ag、In、Cu、Yb、Ti、Pd、Mn、Eu、Zr及びTbからなる群から選ばれる金属イオンであることが好ましく、Pb、Sn、Bi、Sb、Ag、In、Cu、Mn及びZrからなる群から選ばれる金属イオンがより好ましく、Pb、Sn及びCuからなる群から選ばれる金属イオンがさらに好ましく、Pbイオンが特に好ましい。
XはF-、Cl-、Br-、I-からなる群から選ばれるハロゲン化物イオンであることが好ましく、合成の容易さ、良好な発光特性及び結晶構造の堅牢性の観点から、Cl-、Br-、I-からなる群から選ばれるハロゲン化物イオンがより好ましく、Br-、I-からなる群から選ばれるハロゲン化物イオンがさらに好ましく、Br-が特に好ましい。
【0018】
ペロブスカイト型結晶構造を有するナノ結晶の具体的な組成として、CsPbBr3、(CH3NH3)PbBr3、(CHN2H4)PbBr3、CsPbI3、(CH3NH3)PbI3、(CHN2H4)PbI3、CsPb(Br/I)3、(CH3NH3)Pb(Br/I)3、(CHN2H4)Pb(Br/I)3等の、MとしてPbを用いたナノ結晶は、光強度に優れると共に量子効率に優れることから、好ましい。また、CsSnBr3、CsSnCl3、CsSnBr1.5Cl1.5、Cs3Sb2Br9、(CH3NH3)3Bi2Br9、(C4H9NH3)2AgBiBr6、等のMとしてPb以外の金属カチオンを用いたナノ結晶は、低毒性であって環境への影響が少ないことから、好ましい。
【0019】
ナノ結晶として、605~665nmの波長範囲に発光ピークを有する光(赤色光)を発する赤色発光性の結晶、500~560nmの波長範囲に発光ピークを有する光(緑色光)を発する緑色発光性の結晶、420~480nmの波長範囲に発光ピークを有する光(青色)を発する青色発光性の結晶等を選択して用いることができる。
なお、ナノ結晶の発光ピークの波長は、例えば、絶対PL量子収率測定装置を用いて測定される蛍光スペクトル又は燐光スペクトルにおいて確認できる。
【0020】
赤色発光性のナノ結晶は、665nm以下、663nm以下、660nm以下、658nm以下、655nm以下、653nm以下、651nm以下、650nm以下、647nm以下、645nm以下、643nm以下、640nm以下、637nm以下、635nm以下、632nm以下又は630nm以下の波長範囲に発光ピークを有することが好ましく、628nm以上、625nm以上、623nm以上、620nm以上、615nm以上、610nm以上、607nm以上又は605nm以上の波長範囲に発光ピークを有することが好ましい。
これらの上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。なお、以下の同様の記載においても、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0021】
緑色発光性のナノ結晶は、560nm以下、557nm以下、555nm以下、550nm以下、547nm以下、545nm以下、543nm以下、540nm以下、537nm以下、535nm以下、532nm以下又は530nm以下の波長範囲に発光ピークを有することが好ましく、528nm以上、525nm以上、523nm以上、520nm以上、515nm以上、510nm以上、507nm以上、505nm以上、503nm以上又は500nm以上の波長範囲に発光ピークを有することが好ましい。
【0022】
青色発光性のナノ結晶は、480nm以下、477nm以下、475nm以下、470nm以下、467nm以下、465nm以下、463nm以下、460nm以下、457nm以下、455nm以下、452nm以下又は450nm以下の波長範囲に発光ピークを有することが好ましく、450nm以上、445nm以上、440nm以上、435nm以上、430nm以上、428nm以上、425nm以上、422nm以上又は420nm以上の波長範囲に発光ピークを有することが好ましい。
【0023】
ナノ結晶の形状は、特に限定されず、任意の幾何学的形状であってもよく、任意の不規則な形状であってもよい。ナノ結晶の形状としては、例えば、直方体状、立方体状、球状、正四面体状、楕円体状、角錐形状、ディスク状、枝状、網状、ロッド状等が挙げられる。ナノ結晶の形状は、直方体状、立方体状又は球状が好ましい。
【0024】
ナノ結晶の平均粒子径(体積平均径)は、40nm以下であることが好ましく、30nm以下がより好ましく、20nm以下がさらに好ましく、15nm以下が特に好ましい。また、ナノ結晶の平均粒子径は、1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上がより好ましく、2nm以上がさらに好ましく、3nm以上が特に好ましい。かかる平均粒子径を有するナノ結晶は、所望の発光波長を得ることができると共に、ナノ結晶の凝集による二次粒子の形成を抑制でき、蛍光量子収率、輝度及び色再現性の低下を抑制できる。
なお、ナノ結晶の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)又はX線回折装置(XRD)等によってナノ結晶の粒径を測定し、体積基準の平均粒径を算出して得られる。
【0025】
<シロキサン結合を有する構造を含む表面層>
本発明の分散体を構成する発光性粒子は、ナノ結晶の表面に、シロキサン結合を有する構造を含む表面層を備える。換言すれば、発光性粒子はナノ結晶をコアとし、その表面の少なくとも一部に、シロキサン結合を含む表面層をシェルとして備えている。
かかるシロキサン結合を有する構造を含む表面層は単独の層からなっていてもよく、複数の層からなっていてもよい。
ナノ結晶がシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えることで、発光性粒子の水分や酸素に対する安定性、耐光性等を向上できる。また本発明の分散体の長期保存性、及び本分散体を含む組成物から形成される光変換層の光学特性の耐久性等を向上できる観点から好ましい。
【0026】
シロキサン結合を有する構造を含む表面層は、ナノ結晶の表面に配位可能で、かつ分子同士がシロキサン結合を形成可能な化合物を含む配位子から構成されるのが好ましい。
かかる配位子は、ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基を有し、シロキサン結合を形成可能な反応性基を有するシラン化合物(以下、「シラン化合物」とも記す。)含むが、さらに、ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基を有する化合物を含んでもよい。
【0027】
シラン化合物における、シロキサン結合を形成可能な反応性基としては、シロキサン結合を容易に形成できる観点から、シラノール基、炭素原子数が1~6のアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基が好ましく、シラノール基、炭素原子数が1~2のアルコキシシリル基がより好ましい。換言すれば、シラン化合物は、ナノ結晶の表面に結合可能な結合性基及び加水分解性シリル基を有するシラン化合物である。
シラン化合物が有する結合性基としては、上述した結合性基が挙げられ、中でもカルボキシル基、メルカプト基及びアミノ基の少なくとも1種が好ましい。これらの結合性基は加水分解性シリル基よりも、ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに対する親和性が高いため、シラン化合物は結合性基をナノ結晶側にして配位する。そして、シラン化合物が有する加水分解性シリル基の縮合によりシロキサン結合を形成させることで、より容易かつ確実にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を形成できる。
シラン化合物としては、カルボキシル基含有シラン化合物、アミノ基含有シラン化合物、メルカプト基含有シラン化合物が好ましい。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0028】
カルボキシル基含有シラン化合物としては、例えば3-(トリメトキシシリル)プロピオン酸、3-(トリエトキシシリル)プロピオン酸、2-カルボキシエチルフェニルビス(2-メトキシエトキシ)シラン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N’-カルボキシメチルエチレンジアミン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]フタルアミド、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸、(6-トリエトキシシリル)-3-[[[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミノ]カルボニル]ヘキサン酸等が挙げられる。
【0029】
アミノ基含有シラン化合物としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジプロポキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジイソプロポキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリプロポキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチルジメチルメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-11-アミノウンデシルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルシラントリオール、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリイソプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリイソプロポキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルメチルジメトキシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-N-γ-(N-ビニルベンジル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-N-γ-(N-ビニルベンジル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジメチルベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ベンジルアミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリイソプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリイソプロポキシシラン、N-[2-[3-(トリメトキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン、N-[2-[3-(トリエトキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン、N-[2-[3-(トリプロポキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン、N-[2-[3-(トリイソプロポキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン等が挙げられる。
【0030】
メルカプト基含有シラン化合物としては、例えば3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、2-メルカプトエチルメチルジエトキシシラン、3-[エトキシビス(3,6,9,12,15-ペンタオキサオクタコサン-1-イルオキシ)シリル]-1-プロパンチオール等が挙げられる。
【0031】
ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基としては、例えばカルボキシル基、カルボン酸無水物基、アミノ基、アンモニウム基、メルカプト基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、スルホン酸基、ボロン酸基及びそれらの塩のうちの少なくとも1種が挙げられる。中でも、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、ホスホン酸基及びそれらの塩のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基を有する化合物である、シラン化合物ではない配位子として、具体的にはカルボキシル基含有化合物、アミノ基含有化合物、メルカプト基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物及びそれらの塩が好ましい。これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
発光性粒子の安定性を向上させる観点からは、シラン化合物ではないカルボキシル基含有化合物、アミノ基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物及びそれらの塩の1種以上と、シラン化合物の1種以上を用いることが好ましい。
配位子は、ナノ結晶の合成時に共存させるか、又はナノ結晶を形成後、ナノ結晶の合成時に共存させた配位子とは異なる配位子に置換することもできる。
【0032】
カルボキシル基含有化合物としては、例えばアラキドン酸、クロトン酸、trans-2-デセン酸、エルカ酸、3-デセン酸、cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸、4-デセン酸、all cis-5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸、all cis-8,11,14-エイコサトリエン酸、cis-9-ヘキサデセン酸、trans-3-ヘキセン酸、trans-2-ヘキセン酸、2-ヘプテン酸、3-ヘプテン酸、2-ヘキサデセン酸、リノレン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、3-ノネン酸、2-ノネン酸、trans-2-オクテン酸、ペトロセリン酸、エライジン酸、オレイン酸、3-オクテン酸、trans-2-ペンテン酸、trans-3-ペンテン酸、リシノール酸、ソルビン酸、2-トリデセン酸、cis-15-テトラコセン酸、10-ウンデセン酸、2-ウンデセン酸、酢酸、酪酸、ベヘン酸、セロチン酸、デカン酸、アラキジン酸、ヘンエイコサン酸、ヘプタデカン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヘプタコサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、メリシン酸、オクタコサン酸、ノナデカン酸、ノナコサン酸、n-オクタン酸、パルミチン酸、ペンタデカン酸、プロピオン酸、ペンタコサン酸、ノナン酸、ステアリン酸、リグノセリン酸、トリコサン酸、トリデカン酸、ウンデカン酸、吉草酸等の、炭素数1~30の直鎖状又は分岐状の脂肪族カルボン酸が挙げられる。
【0033】
アミノ基含有化合物としては、例えば1-アミノヘプタデカン、1-アミノノナデカン、ヘプタデカン-9-アミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、2-n-オクチル-1-ドデシルアミン、アリルアミン、アミルアミン、2-エトキシエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、イソブチルアミン、イソアミルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2-メトキシエチルアミン、2-メチルブチルアミン、ネオペンチルアミン、プロピルアミン、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、1-アミノデカン、ノニルアミン、1-アミノウンデカン、ドデシルアミン、1-アミノペンタデカン、1-アミノトリデカン、ヘキサデシルアミン、テトラデシルアミン等の、炭素数1~30の直鎖状又は分岐状の脂肪族アミンが挙げられる。
【0034】
メルカプト基含有化合物としては、例えばn-ドデシルチオール、tert-ドデシルチオール、1-ドデカンチオール、n-オクタンチオール、1-オクタデカンチオール等が挙げられる。
【0035】
スルホン酸基含有化合物又はその塩としては、例えばドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルホスホン酸、4-n-オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、4-ドデシルベンゼン-1-スルホン酸ナトリウム、4-ウンデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、4-テトラデシルベンゼン-1-スルホン酸ナトリウム、4-トリデシルベンゼン-1-スルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸ナトリウム、1-ドデカンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
ホスホン酸基含有化合物又はその塩としては、例えばドデシルホスホン酸等が挙げられる。
【0036】
上記した化合物の中でも、本発明においては、シラン化合物と併用する配位子として、オレイン酸、オクタン酸、ラウリン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルホスホン酸、オレイルアミン、オクチルアミン、トリオクチルホスフィンが好ましく、オレイン酸、ラウリン酸、オレイルアミン、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルホスホン酸、がより好ましい。
【0037】
特に、シロキサン結合を有する構造を含む表面層は、ナノ結晶の表面に、配位子として例えばオレイン酸、3-アミノプロピルトリエトキシシランを配位させ、さらに3-アミノプロピルトリエトキシシランが有するアルコキシシリル基を縮合させシロキサン結合を形成させて得られたものであることが好ましい。
【0038】
また、前記シラン化合物と併用する配位子は、ナノ結晶表面にシロキサン結合を有する構造を含むシェル層を形成させたのちに添加することによってナノ結晶表面に配位させてもよい。
【0039】
シロキサン結合を有する構造を含む表面層の厚さは0.5~50nmの範囲が好ましく、1.0~30nmの範囲がより好ましい。シロキサン結合を有する構造を含む表面層の厚さが前記範囲であると、発光性粒子の熱に対する安定性を十分に高められる。なお、シロキサン結合を有する構造を含む表面層の厚さは、配位子の結合基と反応性基とを連結する連結構造の原子数(鎖長)を調整することで変更できる。
【0040】
発光性粒子においては、前記配位子のほか、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド、フェネチルアンモニウムブロミド、フェネチルアンモニウムヨージド、メチルトリオクチルアンモニウムブロミド、テトラオクチルアンモニウムブロミド、ジデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド等のアンモニウム塩が、ナノ結晶表面に配位していても良い。
【0041】
<発光性粒子及び分散体の製造方法>
発光性粒子は、例えば以下の方法で製造できる。
すなわち、ナノ結晶を合成可能な原料化合物と、ナノ結晶の表面に結合可能な結合性基及び加水分解性シリル基を有するシラン化合物と、溶媒とを含む溶液から、ナノ結晶を形成しつつ当該ナノ結晶の表面にシロキサン結合を形成することにより、ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた発光性粒子を得る。
【0042】
かかる製造方法には、例えばホットインジェクション法やLARP法を適用できる。
発光性粒子を得る製造方法は、前記したAaMbXcで表される化合物からなるナノ結晶を合成可能な原料化合物と、上述した配位子(ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基を有する化合物)と、シラン化合物と、溶媒とを含む溶液を複数調製し、これらを混合した後に、析出したナノ結晶の表面に配位したシラン化合物の反応性基(加水分解性シリル基)を縮合させて行うのが好ましい。
溶液を混合する際は、加熱してもよく、加熱しなくてもよい。
ここで原料化合物は、陽イオンAを含む化合物、金属イオンMを含む化合物、及びハロゲン化物イオンXを含む化合物である。陽イオンAを含む化合物としては、例えば陽イオンAの水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩;これらの水和物;等が挙げられる。金属イオンMを含む化合物としては、金属イオンの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物塩、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩;これらの水和物;等が挙げられる。ハロゲン化物イオンXを含む化合物としては、カルボン酸ハロゲン化物、ハロゲン化有機ケイ素化合物、ハロゲン化水素、アンモニウム塩が挙げられる。
なお、第1の原料化合物として、金属イオンMを含みかつハロゲン化物Xを含む、金属ハロゲン化物塩を好適に使用できる。
溶媒としては、例えば、1-オクタデセン、ジオクチルエーテル、ジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0043】
溶液を混合する際に加熱する場合、具体的には、陽イオンAを含む化合物と溶媒とを含む第1の溶液、及び、金属イオンMを含む化合物とハロゲン化物イオンXを含む化合物と溶媒とを含む第2の溶液をそれぞれ調製する。第2の溶液において、金属イオンMを含む化合物とハロゲン化物イオンXを含む化合物に代えて、前述の金属ハロゲン化物塩を用いてもよい。
このとき、いずれか一方の溶液には上述した配位子を、もう一方の溶液にはシラン化合物を加えて各溶液を調製する。シラン化合物を含む溶液は、上述した配位子を含んでいてもよい。各溶液の調製において配位子又はシラン化合物を共存させておくことにより、第1の溶液と第2の溶液とを反応させた際に、配位子又はシラン化合物を表面に備えたナノ結晶を得ることができる。また、配位子又はシラン化合物を共存させることで、過剰な結晶成長を防ぎ、目的の粒径範囲内のナノ結晶を得ることができる。
配位子及びシラン化合物の量は、各々の溶液の調製に用いる溶媒の体積量に対して10%~100%の範囲であるのが、ナノ結晶の表面に配位した配位子を備えるナノ結晶を得やすい観点、また配位子を共存させておくことによる過剰な結晶成長を防ぐ効果を得られる観点から好ましい。
【0044】
次いで、140~260℃に加熱した所定量の第2の溶液に、所定量の第1の溶液を添加して反応させ、-20~30℃に冷却後、さらに大気下で10~30℃で攪拌することで、ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層を備えた発光性粒子を析出させる。
第2の溶液に第1の溶液を混合した後の反応時間は、過度な結晶成長を抑制し発光可能な粒子径を備えたナノ結晶を得るために、5分以内であるのが好ましく、1秒~60秒の範囲がより好ましく、3秒~10秒の範囲がさらに好ましい。また、反応後の冷却時間は、第2の溶液に第1の溶液を混合する際の設定温度や、反応のスケールによっても異なり得るが、ナノ結晶を速やかに析出させる観点から、通常、1~60分の範囲であるのが好ましい。なお、冷却手段には特に制限はなく、目的とする冷却温度と冷却までの時間に応じて、氷水、水-エチレングリコール混合系冷媒、ドライアイス-アセトン浴等を適宜選択して使用できる。また、上記した各溶液の調製や、溶液を混合して反応させ、その後冷却する操作は、大気雰囲気下で行っても、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
なお、第1の溶液及び第2の溶液の混合量は、各溶液中に含有させる陽イオンAを含む化合物、金属イオンMを含む化合物とハロゲン化物イオンXを含む化合物(又は金属イオンMを含みかつハロゲン化物Xを含む金属ハロゲン化物塩)、配位子及びシラン化合物のそれぞれの含有量、並びに陽イオンA、金属イオンM及びハロゲン化物イオンXの所望の混合比により適宜調節できる。
【0045】
例えば、溶媒40mLに対し、陽イオンAを含む化合物として炭酸セシウムを0.2~2g、配位子としてオレイン酸を0.1~10mLの範囲で混合し、90~150℃で10~180分間減圧乾燥後、100~200℃に加熱して溶解させ、セシウム-オレイン酸溶液である第1の溶液を調製できる。
一方、溶媒5mLに対し、金属イオンMとハロゲン化物イオンXを含む金属ハロゲン化物として臭化鉛(II)20~100mgを添加して、90~150℃で10~180分間減圧乾燥後、シラン化合物として3-アミノプロピルトリエトキシシラン0.1~2mLを添加して、第2の溶液を調製できる。
次に、140~260℃に加熱した第2の溶液に第1の溶液を添加して反応させた後、-20~30℃に冷却して撹拌すると、表面に3-アミノプロピルトリエトキシシラン及びオレイン酸が配位したナノ結晶が析出してくる。
この混合物を、さらに湿度5~60%の大気下、10~30℃で5~300分間撹拌した後、酢酸メチルを添加することで、ナノ結晶を形成しつつ当該ナノ結晶の表面にて3-アミノプロピルトリエトキシシランのエトキシシリル基が縮合してシロキサン結合を形成し、ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた発光性粒子を含む懸濁液を得る。
得られた懸濁液を例えば遠心分離することにより、発光性粒子を回収できる。回収した発光性粒子に分散媒を添加し、振倒撹拌して分散させることで、発光性粒子の分散体を得る。そして、必要に応じて分散体に水を添加したり、脱水処理を行う等して、発光性粒子の分散体における含水率を0.10%以上1.0%以下の範囲に調整する。
分散媒としては、例えばシクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルム、トルエン、オクタン、クロロベンゼン、テトラリン、ジフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、又はこれらの混合物などが挙げられる。光変換層の形成時に組成物から溶剤の除去が容易である観点から、溶剤の沸点は300℃以下であるのが好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。
分散体における分散媒の量は、分散体全体に対して80~99.5質量%であるのが好ましい。
かかる分散体は、ナノ結晶を含む発光性粒子が溶媒に分散したコロイド溶液である。かかる分散体は、濾過、遠心分離、吸着、カラムクロマトグラフ等により、不純物を除去することが好ましい。また分散体を直ちに使用しない場合は、光学特性の安定性及び分散安定性の維持の観点から、遮光下で保管することが好ましい。保管温度は-70℃以上40℃以下が好ましく、-50℃以上30℃以下がより好ましく、-30℃以上20℃以下がさらに好ましく、-20℃以上10℃以下が特に好ましい。
【0046】
上述のように、ナノ結晶を得る際に、第1の溶液と第2の溶液とを加熱した状態で混合してもよいが、加熱せずに混合させてもよい。その場合、ナノ結晶の原料化合物及びシラン化合物とは異なる配位子を含む溶液を、シラン化合物をナノ結晶に対する貧溶媒に溶解した溶液中に大気下にて滴下・混合することにより、ナノ結晶を析出させる方法が挙げられる。
例えば、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド等のナノ結晶を溶解する溶媒(良溶媒)10mLに対し、陽イオンAを含む化合物として臭化セシウムを5~25mg、金属イオンMとハロゲン化物イオンXを含む金属ハロゲン化物として臭化鉛(II)を10~50mg、配位子としてオレイン酸0.2~2mL、配位子としてオレイルアミン0.05~0.5mlの範囲で混合して溶解させた溶液(i)を調製する。一方、イソプロパノール、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等の、ナノ結晶の貧溶媒5mLに対し、シラン化合物として3-アミノプロピルトリエトキシシラン0.01~0.5mLを添加した溶液(ii)を調製する。
そして、溶液(ii)の5mLに対し、溶液(i)の0.1~1mLを、大気下で0~30℃で添加すると同時に5~180秒間撹拌する。溶液(ii)に溶液(i)を添加したときにナノ結晶が析出すると共に、かかるナノ結晶の表面に3-アミノプロピルトリエトキシシラン、オレイン酸及びオレイルアミンが配位する。そして、大気下での撹拌中に3-アミノプロピルトリエトキシシランのアルコキシシリル基が縮合し、ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層を備えた発光性粒子を含む懸濁液を得る。
得られた懸濁液を例えば遠心分離することにより、発光性粒子を回収できる。回収した発光性粒子にトルエン等の分散媒を添加し、振倒撹拌して分散させることで、発光性粒子の分散体を得る。そして、必要に応じて分散体に水を添加したり、脱水処理を行う等して、発光性粒子の分散体における含水率を0.10%以上1.0%以下の範囲に調整する。
【0047】
発光性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、50nm以下が特に好ましい。また、発光性粒子の平均粒子径は1nm以上が好ましく、1.5nm以上がより好ましく、2nm以上がさらに好ましく、5nm以上が特に好ましい。平均粒子径が前記範囲であると、所望の波長の光を発しやすい。なお、発光性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡より各粒子の粒子径を測定し、体積平均径を算出して得られる。
【0048】
発光性粒子は、バッチリアクターを使用して製造できる。また、粒子サイズのバラつき低減、不純物の混入防止、製造効率、温度制御等の観点からは、連続層流、液滴ベース又は強制薄膜式等のフローリアクターを使用して製造することがより好ましい。
【0049】
2.分散体の含水率
本発明の分散体の含水率は、ナノ結晶表面の水によるパッシベーション効果を得るために、0.10%以上1.0%以下であり、0.50%以上0.90%以下であることがより好ましい。
また、本発明の分散体において、前記した発光性粒子に対する水の比率(水/発光性粒子)が質量比で0.05以上10.0以下であることが好ましく、1.0以上7.5以下がより好ましい。
なお、本発明の分散体の含水率は、カールフィッシャー水分計(例えば、三菱化学社製、型番CA-06、気化ユニットは同社製VA-06)により測定できる。
【0050】
本発明の分散体の含水率、また発光性粒子に対する水の比率(質量比)を上記範囲に制御する手段として、以下が挙げられる。
例えば、上述したシラン化合物が有する加水分解性シリル基の縮合によるシロキサン結合の形成を促進する観点から、発光性粒子を形成する際に水を添加しても良く、水を添加せずに溶媒又は反応雰囲気に含まれる微量の水分によってシロキサン結合の形成を促進しても良い。この場合は、予め脱水処理等を特に行わない原料化合物を使用し、大気雰囲気下で発光性粒子の調製を行ってよい。また、加熱によってシロキサン結合の形成を促進しても良い。加熱する場合の温度は20℃以上120℃以下が好ましく、30℃以上100℃以下がより好ましく、40℃以上80℃以下がさらに好ましい。
また、発光性粒子を含む分散体を形成後、含水率を上記した所定範囲内に調整することを目的に、分散体に水を添加するか、または必要に応じて加熱又は減圧による脱水処理を行ってもよい。
さらに、加熱又は減圧による脱水処理を行った後に、水の添加により分散体の含水率を調整してもよい。
【0051】
ナノ結晶を形成させる際に配位子を共存させると、かかる配位子はナノ結晶の表面に存在するカチオン又はアニオン(ダングリングボンド)に配位して、ナノ結晶が安定化される。また、ナノ結晶の形成時に水が存在する場合は、水自体がナノ結晶表面のキャッピングリガンド密度を減少させていわば配位子としても機能し、ナノ結晶表面の不動態化に一時的に寄与し得ると考えられる。一方で、水が多量に存在すると、ナノ結晶に配位した配位子又は水はナノ結晶表面には固定化されていないため徐々に脱離し、ナノ結晶成分が溶出したり凝集していき、発光特性が低下する原因となる。
【0052】
本発明の分散体では、上述したように、ナノ結晶の表面に配位可能で、かつ分子同士がシロキサン結合を形成可能な化合物を含む配位子、好適にはナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基を有する化合物、及び前述したシラン化合物の両者を、ナノ結晶の形成時に配位子として用いている。所定量の水が存在することで、シラン化合物の縮合により、ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた発光性粒子となる。かかる表面層が形成されたナノ結晶では配位子の脱離が起こりにくく、またナノ結晶表面の水分子も脱離しにくくなると考えられる。また、表面層が存在することで、ナノ結晶中のイオン成分の移動による結晶組成の変化や、発光性粒子の凝集を抑制でき、発光特性を十分に発揮できると考えられる。
したがって、本発明の分散体はその保管安定性が向上し、発光性粒子の発光特性を長期に亘り維持できると推定される。
【0053】
3.組成物
本発明はまた、上述した分散体と、熱可塑性樹脂とを含む組成物である。
本発明の組成物が含有する熱可塑性樹脂は発光性粒子のバインダーとして機能し、本発明の組成物から形成される光変換層において、発光性粒子が分散した状態のマトリックスを形成する役割を有する。
【0054】
熱可塑性樹脂は、光変換層としての寸法安定性、加工性および光学特性に優れる観点から、そのガラス転移温度(Tg)が-30~230℃であることが好ましく、50~200℃であることがより好ましく、60~170℃であることが特に好ましい。なお、熱可塑性樹脂のTgは、示差走査熱量計(DSC)を用い、まず300℃まで昇温して10分間保持し熱履歴を消去後、10℃/分で-30℃まで降温して10分間保持し、再び10℃/分で昇温させた際のサーモグラムに階段状に現れる転移領域の変曲点を示す温度として求められる。
【0055】
熱可塑性樹脂の熱分解温度(Td)は300℃以上であることが好ましく、260℃以上がより好ましく、220℃以上がさらに好ましい。
熱可塑性樹脂の屈折率は1.35~1.77であることが好ましく、1.40~1.65がより好ましく、1.45~1.60がさらに好ましい。
前記熱可塑性樹脂の、ISO 13468-2に準拠して測定できる全光線透過率は、70~95%であることが好ましく、80~95%がより好ましく、90~95%がさらに好ましい。
【0056】
熱可塑性樹脂としては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、マレイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂は透明性樹脂であるのが好ましく、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂及びポリカーボネート系樹脂から選択される少なくとも1種であるのが、光学フィルムとしての透明性を有する観点から好ましい。
【0057】
アクリル系樹脂としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシへキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチルの単独重合体又は2種以上の共重合体が挙げられる。中でも、熱安定性に優れる観点からメタクリル酸メチルを主成分とするアクリル系樹脂がより好ましい。アクリル系樹脂として、工業的に製造され市販されている各種アクリル系の熱可塑性樹脂を使用できる。
なお、本明細書中において「(メタ)アクリル」とは、アクリル、メタクリル及びそれらの双方を総称する用語である。
【0058】
スチレン系樹脂としては、耐熱性やフィルム強度の観点から、例えばポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-無水マレイン酸系樹脂等が好ましい。また、スチレン-無水マレイン酸系樹脂として例えばノバケミカル社製の「Daylark D332」等、スチレン-アクリル系樹脂として例えば旭化成ケミカル社製の「デルペット980N」等を使用できる。
【0059】
環状オレフィン系樹脂としては、例えばノルボルネン系化合物の付加重合又は開環重合により得られるノルボルネン系樹脂が含まれる。付加重合により得られる環状オレフィン系樹脂として、例えば特許第3517471号、特許第3559360号、特許第3867178号、特許第3871721号、特許第3907908号、特許第3945598号、特表2005-527696号、特開2006-28993号、特開2006-11361号、国際公開第2006/004376号、国際公開第2006/030797号に記載される樹脂が挙げられる。また、開環重合により得られる環状オレフィン系樹脂として、国際公開第98/14499号、特許第3060532号、特許第3220478号、特許第3273046号、特許第3404027号、特許第3428176号、特許第3687231号、特許第3873934号、特許第3912159号に記載される樹脂が挙げられる。
【0060】
セルロースアシレート系樹脂としては、例えばセルロース単位中の3個の水酸基の少なくとも一部がアシル基で置換されたセルロースアシレートもいずれも含まれる。当該アシル基は炭素数3~22であるのが好ましく、脂肪族アシル基および芳香族アシル基のいずれでもよいが、炭素数3~7の脂肪族アシル基が好ましい。このような脂肪族アシル基としてはアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。これらのアシル基は複数種がセルロース1単位中に存在していてもよい。
製造が容易である観点から、アセチル基、プロピオニル基及びブチリル基から選択される1種または2種以上を有するセルロースアシレートが特に好ましい。このようなセルロースアシレートは工業的に製造され市販されており、例えば「CAP-482」「CAB-381」(いずれも商品名、EASTMAN CHEMICAL社製)が挙げられる。
【0061】
ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールA骨格を有するポリカーボネート樹脂が挙げられ、例えば特開2006-277914号、特開2006-106386号公報、特開2006-284703号公報に記載される樹脂が好ましい。これらのポリカーボネート樹脂は工業的に製造され市販されており、例えば「タフロンMD1500」(商品名、出光興産社製)等が挙げられる。
【0062】
本発明の組成物における熱可塑性樹脂の含有量は、インクジェット方式の印刷方式を用いて塗布する場合、組成物を調製した際の粘度安定性、吐出性や塗布性に優れる観点、光変換層の製造時における表面の平滑性低下を抑制し得る観点、光変換層において、本発明の組成物からなる画素部の表面の均一性、耐溶剤性、耐磨耗性が向上する観点、また優れた光学特性(例えば外部量子効率)が得られる観点から、組成物全体に対して3質量%以上15質量%以下であることが好ましく、4質量%以上12質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
【0063】
本発明の組成物の粘度は、インクジェット方式の印刷方式を用いて塗布する場合、吐出安定性の観点から、通常、2mPa・s以上が好ましく、5mPa・s以上がより好ましい。組成物の粘度は、20mPa・s以下が好ましく、15mPa・s以下がより好ましい。組成物の粘度は、例えば、E型粘度計によって測定される。
本発明の組成物の表面張力は、インクジェット方式に適した表面張力であることが好ましく、通常、20~40mN/mの範囲が好ましく、25~35mN/mがより好ましい。表面張力を該範囲とすることで飛行曲がりの発生を抑制できる。なお、飛行曲がりとは、組成物をインク吐出孔から吐出させたとき、組成物の着弾位置が目標位置に対して30μm以上のずれを生じることをいう。
【0064】
本発明の組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合禁止剤、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、光散乱粒子、可塑剤、紫外線吸収剤等の他の成分をさらに含有していてもよい。また、本発明の組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、光重合性化合物等の重合性化合物、光重合開始剤等の重合開始剤、連鎖移動剤等をさらに含有していてもよい。
【0065】
重合禁止剤としては、例えばp-メトキシフェノール、クレゾール、tert-ブチルカテコール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン等のキノン系化合物;p-フェニレンジアミン、4-アミノジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等のアミン系化合物;フェノチアジン、ジステアリルチオジプロピオネート等のチオエーテル系化合物;2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル等のN-オキシル化合物;N-ニトロソジフェニルアミン、N-ニトロソフェニルナフチルアミン、N-ニトロソジナフチルアミン等のニトロソ系化合物が挙げられる。
重合禁止剤を含有する場合、その量は組成物に含まれる熱可塑性樹脂の総量に対して0.01~1質量%の範囲であることが好ましく、0.02~0.5質量%がより好ましい。
【0066】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられ、例えばペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)-6-[(2-エチルヘキシル)オキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2-ビス[[3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロピルオキシ]メチル]-1,3-プロパンジイル等が挙げられる。
組成物及び組成物から形成される光変換層の熱安定性の観点から、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤がより好ましい。また、組成物から形成される光変換層の長期間の熱安定性の観点から、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用することが好ましい。
酸化防止剤を含有する場合、その量は組成物に含まれる熱可塑性樹脂の総量に対して0.01~2質量%の範囲であることが好ましく、0.02~1質量%がより好ましい。
【0067】
分散剤としては、例えばトリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、ヘキシルホスホン酸等のリン原子含有化合物;オレイルアミン、オクチルアミン、トリオクチルアミン等の窒素原子含有化合物;1-デカンチオール、オクタンチオール、ドデカンチオール等の硫黄原子含有化合物;アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の高分子分散剤が挙げられる。これらは、例えばビックケミー社製の「DISPER(登録商標)BYK」シリーズ、エボニック社製の「TEGO(登録商標)Dispers」シリーズ、BASF社製の「EFKA(登録商標)」シリーズ、日本ルーブリゾール社製の「SOLSPERSE(登録商標)」シリーズ、味の素ファインテクノ社製の「アジスパー(登録商標)」シリーズ、楠本化成社製の「DISPARLON(登録商標)」シリーズ、共栄社化学社製の「フローレン(登録商標)」等の市販品として入手できる。
分散剤を含有する場合、その量は組成物に含まれる熱可塑性樹脂の総量に対して、0.05~10質量%の範囲であることが好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0068】
界面活性剤としては、発光性粒子を含有する薄膜を形成する場合に、膜厚ムラを低減させ得る化合物が好ましい。例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類及び脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩類、及び第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤;並びにシリコーン系やフッ素系の界面活性剤が挙げられる。これらは、例えばDIC社製の「メガファック(登録商標)」シリーズ、ネオス社製の「フタージェント(登録商標)」シリーズ、BYK社製の「BYK(登録商標)」シリーズ、エボニック社製の「TEGO(登録商標)Rad」シリーズ、楠本化成社製の「DISPARLON(登録商標) OX」シリーズ、共栄社化学社製の「ポリフローNo.7」、「フローレンAC-300」、「フローレンAC-303」等の市販品として入手できる。
界面活性剤を含有する場合、その添加量は組成物に含まれる熱可塑性樹脂の総量に対して0.005~2質量%の範囲であることが好ましく、0.01~0.5質量%がより好ましい。
【0069】
光散乱粒子は、光学的に不活性な無機微粒子であることが好ましい。光散乱粒子は、発光層(光変換層)に照射された光源部からの光を散乱させることができる。光散乱粒子を構成する材料としては、例えばタングステン、ジルコニウム、チタン、白金、ビスマス、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、プラチナ、金等の単体金属;シリカ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナホワイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、次炭酸ビスマス、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩;水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の複合酸化物、次硝酸ビスマス等の金属塩が挙げられる。
中でも、漏れ光の低減効果により優れる観点から、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、酸化チタン、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種を含むことがより好ましく、酸化チタンであることが特に好ましい。
【0070】
光散乱粒子を含有する場合、その量は、例えば本発明の組成物をカラーフィルター層の形成材料として用いる場合には、バックライトの青色光の透過を抑える観点で、組成物全体に対して1~10質量%の範囲であることが好ましく、2~7.5質量%の範囲がより好ましく、3~5質量%の範囲が特に好ましい。また、本発明の組成物を光変換シートの形成材料として用いる場合には、バックライトの青色光の取出しの観点で、組成物全体に対して0.1~5質量%の範囲であることが好ましく、0.15~3質量%の範囲がより好ましく、0.2~1.5質量%の範囲がさらに好ましい。
【0071】
溶剤としては、例えばシクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルム、トルエン、オクタン、クロロベンゼン、テトラリン、ジフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、又はこれらの混合物などが挙げられる。画素部の形成時に組成物から溶剤の除去が容易である観点から、溶剤の沸点は300℃以下であるのが好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。
組成物が分散体を構成する溶媒に加えてさらに溶剤を含む場合、発光性粒子の凝集を防ぐ観点から、その量は組成物全体に対して5~50質量%であるのが好ましい。
【0072】
本発明の組成物の調製方法には特に制限はなく、上記した各成分を配合することにより調製できる。例えば、分散体、熱可塑性樹脂、必要に応じて溶剤及び他の成分を添加して、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、3本ロールミル、ペイントコンディショナー、アトライター、超音波等を使用して攪拌混合することで調製できる。
光散乱粒子を含有させる場合は、光散乱粒子と高分子分散剤を混合してビーズミルにより前記溶剤へ分散させたミルベースを別途作成し、前記分散体、熱可塑性樹脂と共に混合することにより調製できる。
【0073】
4.光変換層
本発明の分散体を含む組成物を基板上に塗布して被膜を形成し、この被膜を乾燥させることで塗膜を得、光変換層を形成することができる。この場合、本発明の組成物における熱可塑性樹脂の含有量は、得られる塗膜における発光性粒子の分散性及び発光効率の観点から、組成物全体に対して3質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましく、7質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。また、発光性粒子の含有量は、分散性及び発光効率の観点から、組成物全体に対して0.01質量%以上15質量%以下が好ましく、0.02質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0074】
また、本発明の組成物を溶融させ、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間に通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形して、本発明の光変換層を形成することもできる。この場合、本発明の組成物における熱可塑性樹脂の含有量は、組成物全体に対し60質量%以上97質量%以下が好ましく、70質量%以上96質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。また、発光性粒子の含有量は、分散性及び発光効率の観点から、組成物全体に対して0.01質量%以上15質量%以下が好ましく、0.05質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0075】
中でも、本発明の組成物を基板上に塗布して被膜を形成し、この被膜を乾燥させて塗膜を得ることが好ましい。かかる本発明の組成物の塗膜からなる光変換層は、カラーフィルター及び波長変換フィルム用途に好適である。
本発明の組成物を基板上に塗布する際の方法としては、スピンコーティング、ダイコーティング、エクストルージョンコーティング、ロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング、ディッピング、インクジェット法、プリント法等が挙げられる。塗布の際、必要に応じ、組成物に炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、アルコール、ケトン、エステル、非プロトン性極性化合物等を溶媒としてさらに添加してもよい。組成物を基板上に塗布後、自然乾燥、加熱下又は減圧下での乾燥を行う。
【0076】
本発明の組成物を基板上に塗布する際の基板の形状は、平板の他に、曲面を構成部分として有していても良い。基板を構成する材料は、有機材料又は無機材料のいずれも使用できる。有機材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリアリレート、ポリスルホン、トリアセチルセルロース、セルロース、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられ、無機材料としては、例えばシリコン、ガラス、方解石等が挙げられる。
【0077】
本発明の組成物を形成材料とする波長変換フィルムは、初期の特性変化を軽減し、安定的な特性発現を図るため、熱処理を施してもよい。かかる熱処理は50~250℃の温度範囲で、30秒~12時間の処理時間であることが好ましい。
【0078】
このような方法によって得られた波長変換フィルムは、基板から剥離して単体で用いても良く、剥離せずに用いてもよい。また、得られた波長変換フィルムを積層しても、他の基板に貼り合わせて用いてもよい。
本発明の組成物を形成材料とする波長変換フィルムを積層構造体に用いる場合、かかる積層構造体は、例えば基板、バリア層、光散乱層等の任意の層を有していても良い。基板を構成する材料は、前記したとおりである。バリア層としては、ポリエチレンテレフタレート、ガラス等が挙げられる。光散乱層としては、例えば前記光散乱粒子を含有する層や、光散乱フィルムが挙げられる。
積層構造体の構成例としては、例えば、2枚の基板間に本発明の組成物を形成材料とする光変換層を挟持した構造が挙げられる。その場合、水分や酸素から光変換層を保護するために、基板間の外周部を封止材によって封止しても良い。
図1は、本実施形態の積層構造体の構成を模式的に示す断面図である。積層構造体40は、第1の基板41及び第2の基板42の間に、本実施形態の波長変換フィルム44が挟持されている。波長変換フィルム44は、光散乱粒子441と発光性粒子442とを含有する本発明の組成物を材料として形成され、光散乱粒子441及び発光性粒子442は、波長変換フィルム中に均一に分散している。波長変換フィルム44は、封止材によって形成された封止層43によって封止されている。
【0079】
本発明の組成物を形成材料とする積層構造体は、例えば、プリズムシート、導光板、発光性粒子を含む積層構造体及び光源を有する発光デバイス用途に好適である。光源としては、例えば、発光ダイオード、レーザー、電界発光デバイスが挙げられる。
また、本発明の組成物を形成材料とする積層構造体は、ディスプレイ用の波長変換部材として使用されることが好ましい。波長変換部材として使用する場合の構成例としては、例えば、2枚のバリア層の間に本発明の組成物を形成材料とする波長変換フィルムを封止した積層構造体を、導光板上に設置する構造が挙げられる。この場合、導光板の側面に設置された発光ダイオードからの青色光を、前記積層構造体を通すことによって、緑色光や赤色光へと変換し、青色光、緑色光及び赤色光が混色されて白色光を得ることができることから、ディスプレイ用のバックライトとして使用できる。
【0080】
5.発光素子
以下、青色有機LEDバックライトを備えた発光素子のカラーフィルター画素部を、本発明の組成物にて形成する場合を例に挙げて説明する。
図2は、本発明の組成物の硬化物からなる光変換層を備える発光素子の一実施形態を示す断面図であり、
図3及び
図4は、それぞれアクティブマトリックス回路の構成を示す概略図である。なお、
図2では、便宜上、各部の寸法及びそれらの比率を誇張して示し、実際とは異なる場合がある。また、以下に示す材料、寸法等は一例であって、本発明は、それらに限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更することが可能である。以下では、説明の都合上、
図2の上側を「上側」又は「上方」と、下側を「下側」又は「下方」と言う。また、
図2では、図面が煩雑になることを避けるため、断面を示すハッチングの記載を省略している。
【0081】
図2に示すように、発光素子100は、下基板1と、EL光源部200と、充填層10と、保護層11と、上述した発光性粒子を含有し発光層として作用する光変換層12と、上基板13とをこの順に積層した構造を備える。
EL光源部200は、陽極2と、複数の層からなるEL層14と、陰極8と、図示しない偏光板と、封止層9とを順に備える。EL層14は、陽極2側から順次積層された正孔注入層3と、正孔輸送層4と、発光層5と、電子輸送層6と、電子注入層7とを含む。
かかる発光素子100は、EL光源部200(EL層14)から発せられた光を光変換層12によって吸収及び再放出するか或いは透過させ、上基板13側から外部に取り出すフォトルミネセンス素子である。このとき、光変換層12に含まれる発光性粒子によって所定の色の光に変換される。
以下、各層について順次説明する。
【0082】
[下基板1及び上基板13]
下基板1及び上基板13は、それぞれ発光素子100を構成する各層を支持及び/又は保護する機能を有する。発光素子100がトップエミッション型である場合、上基板3が透明基板で構成される。一方、発光素子100がボトムエミッション型である場合、下基板2が透明基板で構成される。ここで、透明基板とは、可視光領域の波長の光を透過可能な基板を意味し、透明には、無色透明、着色透明、半透明が含まれる。
【0083】
透明基板としては、例えば、石英ガラス、合成石英板等のガラス基板;石英基板;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリカーボネート等で構成される樹脂基板;鉄、ステンレス、アルミニウム、銅等で構成される金属基板;シリコン基板、ガリウム砒素基板等を使用できる。中でも、アルカリ成分を含まない無アルカリガラスからなるガラス基板が、熱膨脹率が小さく寸法安定性及び高温加熱処理における作業性に優れる観点から好ましい。このようなガラス基板として、例えばコーニング社製の「7059ガラス」、「1737ガラス」、「イーグル2000」及び「イーグルXG(登録商標)」、AGC社製の「AN100」、日本電気硝子社製の「OA-10G」及び「OA-11」を好適に使用できる。
下基板1及び上基板13の平均厚さに特に限定はなく、通常、100~1000μmの範囲が好ましく、300~800μmの範囲がより好ましい。
発光素子100に可撓性を付与する場合、下基板1及び上基板13には、それぞれ樹脂基板又は比較的厚さの小さい金属基板を選択できる。なお、発光素子100の使用形態に応じ、下基板1及び上基板13のいずれか一方又は双方を省略してもよい。
【0084】
図3に示すように、下基板1上には、R、G、Bで示される画素電極PEを構成する陽極2への電流の供給を制御する信号線駆動回路C1及び走査線駆動回路C2と、これらの回路の作動を制御する制御回路C3と、信号線駆動回路C1に接続された複数の信号線706と、走査線駆動回路C2に接続された複数の走査線707とを備えている。
また、各信号線706と各走査線707との交差部近傍には、
図4に示すように、コンデンサ701と、駆動トランジスタ702と、スイッチングトランジスタ708とが設けられている。
【0085】
コンデンサ701は、一方の電極が駆動トランジスタ702のゲート電極に接続され、他方の電極が駆動トランジスタ702のソース電極に接続されている。駆動トランジスタ702は、ゲート電極がコンデンサ701の一方の電極に接続され、ソース電極がコンデンサ701の他方の電極及び駆動電流を供給する電源線703に接続され、ドレイン電極がEL光源部200の陽極2に接続されている。
【0086】
スイッチングトランジスタ708は、ゲート電極が走査線707に接続され、ソース電極が信号線706に接続され、ドレイン電極が駆動トランジスタ702のゲート電極に接続されている。また、本実施形態において、共通電極705は、EL光源部200の陰極8を構成している。なお、駆動トランジスタ702及びスイッチングトランジスタ708は、例えば、薄膜トランジスタ等で構成することができる。
【0087】
走査線駆動回路C2は、走査線707を介して、スイッチングトランジスタ708のゲート電極に走査信号に応じた走査電圧を供給又は遮断し、スイッチングトランジスタ708のオン又はオフする。これにより、走査線駆動回路C2は、信号線駆動回路C1が信号電圧を書き込むタイミングを調整する。一方、信号線駆動回路C1は、信号線706及びスイッチングトランジスタ708を介して、駆動トランジスタ702のゲート電極に映像信号に応じた信号電圧を供給又は遮断し、EL光源部200に供給する信号電流の量を調整する。
【0088】
したがって、走査線駆動回路C2から走査電圧がスイッチングトランジスタ708のゲート電極に供給され、スイッチングトランジスタ708がオンすると、信号線駆動回路C1から信号電圧がスイッチングトランジスタ708のゲート電極に供給される。このとき、この信号電圧に対応したドレイン電流が電源線703から信号電流としてEL光源部200に供給される。その結果、EL光源部200は、供給される信号電流に応じて発光する。
【0089】
<EL光源部200>
[陽極2]
陽極2は、外部電源から発光層5に向かって正孔を供給する機能を有する。陽極2の構成材料(陽極材料)としては、例えば、金、アルミニウム等の金属;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物;等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
陽極2の平均厚さに特に限定はなく、通常、10~1000nmの範囲が好ましく、10~200nmの範囲がより好ましい。
陽極2は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法のような乾式成膜法により形成できる。この際、フォトリソグラフィー法やマスクを用いた方法により、所定のパターンを有する陽極2を形成してもよい。
【0090】
[陰極8]
陰極8は、外部電源から発光層5に向かって電子を供給する機能を有する。陰極8の構成材料(陰極材料)としては、例えば、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、銀、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、希土類金属、ITO、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、SnO2、ZnO等の金属又は金属酸化物等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
陰極8の平均厚さに特に限定はなく、通常、0.1~1000nmの範囲が好ましく、1~200nmの範囲がより好ましい。
陰極8は、例えば、蒸着法やスパッタリング法のような乾式成膜法により形成できる。
発光素子100がトップエミッション型である場合、陰極8はITO等で形成される透明電極で構成される。この場合、陽極2はアルミニウム等で形成される反射電極で構成してもよい。
一方、発光素子100がボトムエミッション型である場合、陽極2はITO等で形成される透明電極で構成される。この場合、陰極8はアルミニウム等で形成される反射電極で構成してもよい。
【0091】
[正孔注入層3]
正孔注入層3は、陽極2から供給された正孔を受け取り、正孔輸送層4に注入する機能を有する。なお、正孔注入層3は必要に応じて設け、省略してもよい。
正孔注入層3の構成材料(正孔注入材料)としては、例えば、銅フタロシアニン等のフタロシアニン化合物;4,4’,4’’-トリス[フェニル(m-トリル)アミノ]トリフェニルアミン等のトリフェニルアミン誘導体;1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン等のシアノ化合物;酸化バナジウム、酸化モリブデン等の金属酸化物;アモルファスカーボン;ポリアニリン(エメラルディン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT-PSS)、ポリピロール等の高分子等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、PEDOT-PSSがより好ましい。
【0092】
正孔注入層3の平均厚さに特に限定はなく、通常、0.1~500nmの範囲が好ましく、1~300nmの範囲がより好ましく、2~200nmの範囲がさらに好ましい。また、正孔注入層3は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
正孔注入層3は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。
湿式成膜法では、通常、正孔注入材料を含有する液状組成物を、インクジェット印刷法(ピエゾ方式又はサーマル形式の液滴吐出法)、スピンコート法、キャスト法、LB法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ノズルプリント印刷法等により塗布し、得られた塗膜を乾燥する。なお、ノズルプリント印刷法とは、液状組成物をノズル孔から液柱としてストライプ状に塗布する方法である。
乾式成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等を好適に使用できる。
【0093】
[正孔輸送層4]
正孔輸送層4は、正孔注入層3から正孔を受け取り、発光層5まで効率的に輸送する機能を有する。また、正孔輸送層4は、電子の輸送を防止する機能を有していてもよい。なお、正孔輸送層4は必要に応じて設ければよく、省略することもできる。
【0094】
正孔輸送層4の構成材料(正孔輸送材料)としては、電子輸送能より正孔輸送能の高い材料を用いることが好ましい。係る正孔輸送材料としては、例えば芳香族アミン、カルバゾール誘導体、芳香族炭化水素、スチルベン誘導体等が挙げられ、π電子過剰型複素芳香族又は芳香族アミン等を好適に使用できる。
正孔輸送材料の具体例としては、、TPD(N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン)、α-NPD(4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル)、m-MTDATA(4,4’,4’’-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)等のトリフェニルアミン誘導体;ポリビニルカルバゾール;ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン](poly-TPA)、ポリフルオレン(PF)、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン](Poly-TPD)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(sec-ブチルフェニル)ジフェニルアミン))(TFB)、ポリフェニレンビニレン(PPV)等の共役系化合物重合体;及びこれらのモノマー単位を含む共重合体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正孔輸送材料としては、トリフェニルアミン誘導体、置換基が導入されたトリフェニルアミン誘導体の重合体又は共重合体が好ましく、置換基が導入されたトリフェニルアミン誘導体の重合体がより好ましい。
【0095】
正孔輸送層4の平均厚さに特に限定はなく、通常、1~500nmの範囲が好ましく、5~300nmの範囲がより好ましく、10~200nmの範囲がさらに好ましい。
正孔輸送層4は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
このような正孔輸送層4は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0096】
[電子注入層7]
電子注入層7は、陰極8から供給された電子を受け取り、電子輸送層6に注入する機能を有する。なお、電子注入層7は必要に応じて設け、省略してもよい。
電子注入層7の構成材料(電子注入材料)としては、例えば、Li2O、LiO、Na2S、Na2Se、NaO等のアルカリ金属カルコゲナイド;CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、MgO、CaSe等のアルカリ土類金属カルコゲナイド;CsF、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl、NaCl等のアルカリ金属ハライド;8-ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)等のアルカリ金属塩;CaF2、BaF2、SrF2、MgF2、BeF2等のアルカリ土類金属ハライド等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属ハライド、アルカリ金属塩が好ましい。
【0097】
電子注入層7の平均厚さに特に限定はなく、通常、0.1~100nmの範囲が好ましく、0.2~50nmの範囲がより好ましく、0.5~10nmの範囲がさらに好ましい。また、電子注入層7は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
電子注入層7は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0098】
[電子輸送層6]
電子輸送層6は、電子注入層7から電子を受け取り、発光層5まで効率的に輸送する機能を有する。また、電子輸送層6は、正孔の輸送を防止する機能を有していてもよい。なお、電子輸送層6は、必要に応じて設ければよく、省略することもできる。
電子輸送層6の構成材料(電子輸送材料)としては、正孔輸送能より電子輸送能の高い材料を用いることが好ましい。電子輸送材料としては、例えば、フラーレン、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、キノキサリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、イミダゾール誘導体、キノリン誘導体、ペリレン誘導体、トリアジン誘導体、又はピリミジン誘導体等の含窒素複素芳香族化合物のようなπ電子不足型複素芳香族;キノリン配位子、ペリレン配位子、ベンゾキノリン配位子、オキサゾール配位子、ベンズオキサゾリン配位子、ベンゾチアゾリン配位子、又はチアゾール配位子を有する金属錯体等が挙げられる。
【0099】
電子輸送材料の具体例としては、トリス(8-キノリラート)アルミニウム(Alq)、トリス(4-メチル-8-キノリノラート)アルミニウム(Almq3)、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラート)(p-フェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(8-キノリノラート)亜鉛、ビス[2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンズオキサゾラート]亜鉛、ビス[2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラート]亜鉛、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン(OXD-7)、9-[4-(5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)フェニル]カルバゾール(CO11)、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(TPBI)、2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]-1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール(mDBTBIm-II)、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BPhen)等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、電子輸送材料として、無機半導体材料を用いてもよい。電子輸送層6を無機半導体材料で構成することにより、電子輸送層6中における電子の移動度を高め、発光層5への電子の注入効率を向上できる。係る電子輸送材料としては、例えば、炭酸セシウム等の金属塩;酸化チタン(TiOx)、酸化亜鉛等の金属酸化物を好適に使用できる。
【0100】
電子輸送層6の平均厚さに特に限定はなく、通常、5~500nmの範囲が好ましく、5~200nmの範囲がより好ましい。また、電子輸送層6は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
電子輸送層6は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0101】
発光素子100に正孔注入層3及び電子注入層7を設けると、正孔輸送層4及び電子輸送層6を介した発光層5への正孔及び電子の輸送効率を高めることができる。その結果、発光層5の発光効率をより向上させ、高輝度での発光が可能で、かつ長寿命な発光素子が得られる。
【0102】
[発光層5]
発光層5は、発光層5に注入された正孔及び電子の再結合により生じるエネルギーを利用して、発光を生じさせる機能を有する。本実施形態の発光層5は、400~500nmの範囲の波長の青色光を発し、より好ましくは420~480nmの範囲である。
発光層5は、発光材料(ゲスト材料又はドーパント材料)及びホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料と発光材料との質量比に特に制限はなく、通常、10:1~300:1の範囲が好ましい。
発光材料としては、一重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物又は三重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物を使用でき、有機低分子蛍光材料、有機高分子蛍光材料及び有機燐光材料からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0103】
一重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物としては、蛍光を発する有機低分子蛍光材料又は有機高分子蛍光材料が挙げられる。
有機低分子蛍光材料としては、アントラセン構造、テトラセン構造、クリセン構造、フェナントレン構造、ピレン構造、ペリレン構造、スチルベン構造、アクリドン構造、クマリン構造、フェノキサジン構造又はフェノチアジン構造を有する化合物が好ましい。
【0104】
有機低分子蛍光材料の具体例としては、例えば、5,6-ビス[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-2,2’-ビピリジン、5,6-ビス[4’-(10-フェニル-9-アントリル)ビフェニル-4-イル]-2,2’-ビピリジン、N,N’-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N,N’-ジフェニルスチルベン-4,4’-ジアミン、4-(9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン、4-(9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)トリフェニルアミン、N,9-ジフェニル-N-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン、4-(10-フェニル-9-アントリル)-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン、4-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン、ペリレン、2,5,8,11-テトラ(tert-ブチル)ペリレン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス[4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]ピレン-1,6-ジアミン、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ビス[3-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]-ピレン-1,6-ジアミン、N,N’-ビス(ジベンゾフラン-2-イル)-N,N’-ジフェニルピレン-1,6-ジアミン、N,N’-ビス(ジベンゾチオフェン-2-イル)-N,N’-ジフェニルピレン-1,6-ジアミン、N,N’’-(2-tert-ブチルアントラセン-9,10-ジイルジ-4,1-フェニレン)ビス[N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン]、N,9-ジフェニル-N-[4-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン、N-[4-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)フェニル]-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’,N’’,N’’,N’’’,N’’’-オクタフェニルジベンゾ[g,p]クリセン-2,7,10,15-テトラアミン、クマリン30、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-アミン、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン、N,N,9-トリフェニルアントラセン-9-アミン、クマリン6、クマリン545T、N,N’-ジフェニルキナクリドン、ルブレン、5,12-ビス(1,1’-ビフェニル-4-イル)-6,11-ジフェニルテトラセン、2-(2-{2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}-6-メチル-4H-ピラン-4-イリデン)プロパンジニトリル、2-{2-メチル-6-[2-(2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)テトラセン-5,11-ジアミン、7,14-ジフェニル-N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)アセナフト[1,2-a]フルオランテン-3,10-ジアミン、2-{2-イソプロピル-6-[2-(1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、2-{2-tert-ブチル-6-[2-(1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、2-(2,6-ビス{2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}-4H-ピラン-4-イリデン)プロパンジニトリル、2-{2,6-ビス[2-(8-メトキシ-1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、5,10,15,20-テトラフェニルビスベンゾ[5,6]インデノ[1,2,3-cd:1’,2’,3’-lm]ペリレン等が挙げられる。
【0105】
有機高分子蛍光材料としては、例えば、フルオレン誘導体に基づく単位からなるホモポリマー、フルオレン誘導体に基づく単位とテトラフェニルフェニレンジアミン誘導体に基づく単位とからなるコポリマー、ターフェニル誘導体に基づく単位からなるホモポリマー、ジフェニルベンゾフルオレン誘導体に基づく単位からなるホモポリマー等が挙げられる。
【0106】
三重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物としては、燐光を発する有機燐光材料が好ましい。有機燐光材料としては、例えば、Ir、Rh、Pt、Ru、Os、Sc、Y、Gd、Pd、Ag、Au、Alからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属錯体が挙げられる。中でも、Ir、Rh、Pt、Ru、Os、Sc、Y、Gd及びPdからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属錯体が好ましく、Ir、Rh、Pt及びRuからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属錯体がより好ましく、Ir錯体又はPt錯体がさらに好ましい。
【0107】
発光層5はホスト材料を含んでもよい。ホスト材料は、発光層5に注入された正孔と電子との再結合の場を提供し、その分子上での正孔-電子対(励起子;エキシトン)の形成を促進する。この励起子の励起エネルギーは、ナノ結晶に移動(フェルスター共鳴エネルギー移動)し、発光する。係る現象を利用することにより、発光層5の発光効率を向上できる。
ホスト材料としては、発光材料のエネルギーギャップより大きいエネルギーギャップを有する化合物の少なくとも1種を用いるのが好ましい。また発光材料が燐光材料である場合、ホスト材料は、発光材料よりも三重項励起エネルギー(基底状態と三重項励起状態とのエネルギー差)の大きい化合物を選択することが好ましい。
【0108】
ホスト材料としては、例えば、Alq、Almq3、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(II)、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(4-フェニルフェノラト)アルミニウム(III)、ビス(8-キノリノラト)亜鉛(II)、ビス[2-(2-ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)、バソフェナントロリン、バソキュプロイン、9-[4-(5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)フェニル]-9H-カルバゾール、9,10-ジフェニルアントラセン、N,N-ジフェニル-9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン、4-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン、N,9-ジフェニル-N-{4-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]フェニル}-9H-カルバゾール-3-アミン、6,12-ジメトキシ-5,11-ジフェニルクリセン、9-[4-(10-フェニル-9-アントラセニル)フェニル]-9H-カルバゾール、3,6-ジフェニル-9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール、9-フェニル-3-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール、7-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-7H-ジベンゾ[c,g]カルバゾール、6-[3-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)フェニル]-ベンゾ[b]ナフト[1,2-d]フラン、9-フェニル-10-{4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)ビフェニル-4’-イル}アントラセン、9,10-ビス(3,5-ジフェニルフェニル)アントラセン、9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、2-tert-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、9,9’-ビアントリル、9,9’-(スチルベン-3,3’-ジイル)ジフェナントレン、9,9’-(スチルベン-4,4’-ジイル)ジフェナントレン、1,3,5-トリ(1-ピレニル)ベンゼン、5,12-ジフェニルテトラセン又は5,12-ビス(ビフェニル-2-イル)テトラセン等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0109】
発光層5の平均厚さは、通常、1~100nmの範囲であることが好ましく、1~50nmの範囲がより好ましい。
発光層5は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0110】
なお、EL光源部200は、さらに、例えば正孔注入層3、正孔輸送層4及び発光層5を区画するバンク(隔壁)を有していてもよい。バンクの高さは特に限定されず、通常、0.1~5μmの範囲が好ましく、0.2~4μmの範囲がより好ましく、0.2~3μmの範囲がさらに好ましい。
バンクの開口の幅は、10~200μmの範囲が好ましく、30~200μmの範囲がより好ましく、50~100μmの範囲がさらに好ましい。バンクの開口の長さは、10~400μmの範囲が好ましく、20~200μmの範囲がより好ましく、50~200μmの範囲がさらに好ましい。
また、バンクの傾斜角度は、10~100°の範囲が好ましく、10~90°の範囲がより好ましく、10~80°の範囲がさらに好ましい。
【0111】
発光素子100は、発光層5と電子輸送層6との間にさらに正孔ブロック層を有していてもよい。正孔ブロック層は、正孔輸送層4から輸送された正孔が発光層5を通過し、電子輸送層6へ移動することを規制する機能を有する。正孔ブロック層を設けると、発光層5中で電子と再結合できなかった正孔を電子輸送層6へ逃すことなく、発光層5中に留めることができる。発光層5中に留まる正孔は、再度電子との再結合の機会を得られるため無駄にならず、発光層5の発光効率をより向上できる。
正孔ブロック層の構成材料としては、上述した電子輸送材料を、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
正孔ブロック層の平均厚さに特に限定はなく、通常、1~500nmの範囲が好ましく、2~300nmの範囲がより好ましく、3~200nmの範囲がさらに好ましい。また、正孔ブロック層は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
正孔ブロック層は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
また、発光素子100は、光を適切に反射させるための反射層、光を適切に透過させるための透明光学調整層、光を適切に透過及び散乱させるための光散乱層をさらに有していてもよい。
発光素子100の実施の形態は、上述の構成に限定されず、他の任意の構成を追加で備えてもよく、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されてもよい。
【0112】
<光変換層12>
光変換層12は、EL光源部200から発せられた光を変換して再発光するか、或いは、EL光源部200から発せられた光を透過する。
光変換層は、
図2に示すように、画素部20として、前記範囲の波長の光を変換して赤色光を発する第1の画素部20aと、前記範囲の波長の光を変換して緑色光を発する第2の画素部20bと、前記範囲の波長の光を透過する第3の画素部20cとを有している。複数の第1の画素部20a、第2の画素部20b及び第3の画素部20cが、この順に繰り返すように格子状に配列されている。そして、隣り合う画素部の間、すなわち、第1の画素部20aと第2の画素部20bとの間、第2の画素部20bと第3の画素部20cとの間、第3の画素部20cと第1の画素部20aとの間に、光を遮蔽する遮光部30が設けられている。換言すれば、隣り合う画素部20同士は、遮光部30によって隔てられている。なお、第1の画素部20a及び第2の画素部20bは、それぞれの色に対応した色材を含んでもよい。
【0113】
第1の画素部20a及び第2の画素部20bは、それぞれ上述した組成物より形成される発光性の画素部である。ここで、第1の画素部20a及び第2の画素部20bは、発光性粒子と熱可塑性樹脂とを含有しており、光を散乱させて外部へ確実に取り出すためにさらに光散乱粒子を含むことが好ましい。
第1の画素部20aは、第1樹脂成分22aと、第1樹脂成分22a中に分散された第1発光性粒子90a及び第1光散乱粒子21aとを含む。同様に、第2の画素部20bは、第2樹脂成分22bと、第2樹脂成分22b中に分散された第2発光性粒子90b及び第2光散乱粒子21bとを含む。
ここで、樹脂成分は、熱可塑性樹脂を主とする成分であり、組成物中の有機成分(分散剤等)が含まれていてもよい。
第1の画素部20a及び第2の画素部20bにおいて、第1樹脂成分22aと第2樹脂成分22bとは同一であっても異なっていてもよく、第1光散乱粒子21aと第2光散乱粒子21bとは同一であっても異なっていてもよい。
【0114】
第1発光性粒子90aは、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し605~665nmの範囲に発光スペクトルのピーク波長を有する光を発する、赤色発光性粒子である。すなわち、第1の画素部20aは、青色光を赤色光に変換するための赤色画素部と言える。
また、第2発光性粒子90bは、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し500~560nmの範囲に発光スペクトルのピーク波長を有する光を発する、緑色発光性粒子である。すなわち、第2の画素部20bは、青色光を緑色光に変換するための緑色画素部と言える。
【0115】
画素部20a、20bにおける発光性粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点及び優れた発光強度が得られる観点から、組成物中の固形分の全質量を基準として0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、3質量%以上が特に好ましい。発光性粒子の含有量は、画素部20a、20bの信頼性に優れる観点及び優れた発光強度が得られる観点から、組成物中の固形分の全質量を基準として30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下が特に好ましい。
【0116】
画素部20a、20bにおける光散乱粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点から、発光性粒子の質量を基準として、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、3質量%以上が特に好ましい。光散乱粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点及び画素部20の信頼性に優れる観点から、発光性粒子の質量を基準として、5質量%以下であることが好ましく、10質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0117】
第3の画素部20cは、420~480nmの範囲の波長の光に対し30%以上の透過率を有する。そのため、第3の画素部20cは、420~480nmの範囲の波長の光を発する光源を用いる場合に、青色画素部として機能する。第3の画素部20cは、例えば、本発明の分散体を構成する発光性粒子を含まない以外は上述した実施形態の組成物と同様の組成である組成物(非発光性組成物)より形成される、非発光性の画素部である。第3の画素部20cは発光性粒子を含有せず、光散乱性粒子と熱可塑性樹脂とを含有する。すなわち、第3の画素部20cは、第3樹脂成分22cと、第3樹脂成分22c中に分散された第3光散乱性粒子21cを含む。
第3樹脂成分22cは、例えば熱可塑性樹脂を主とする成分である。第3樹脂成分22cは、420~480nmの範囲の波長の光に対する透過率が30%以上となる限りにおいて、熱可塑性樹脂と、組成物中の有機成分(分散剤等)が含まれていてもよい。
第3光散乱性粒子21cは、第1光散乱性粒子21a及び第2光散乱性粒子21bと同一であっても、異なっていてもよい。
画素部20cにおける光散乱粒子の含有量は、視野角における光強度差をより低減する観点から、非発光性組成物中の固形分の全質量を基準として、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。光散乱粒子の含有量は、光反射をより低減する観点から、非発光性組成物中の固形分の全質量を基準として、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
なお、第3の画素部20cの透過率は、顕微分光装置により測定できる。
【0118】
画素部(第1の画素部20a、第2の画素部20b及び第3の画素部20c)の厚さは、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。
画素部(第1の画素部20a、第2の画素部20b及び第3の画素部20c)の厚さは、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。
【0119】
遮光部30は、隣り合う画素部20を隔てて混色(クロストーク)を防ぐ目的及び光源からの光漏れを防ぐ目的で設けられる隔壁部、いわゆるブラックマトリックスである。
遮光部30を構成する材料は特に限定されず、クロム等の金属の他、バインダー樹脂とカーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子を含む樹脂組成物等が挙げられる。バインダー樹脂には、例えばポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の1種又は2種以上を含む樹脂、感光性樹脂、O/Wエマルジョン樹脂(例えば、反応性シリコーンエマルジョン)等を使用できる。
遮光部30の厚さは、1μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0120】
[光変換層12の形成方法]
以上の第1~3の画素部20a~20cを備える光変換層12は、例えば、湿式成膜法により形成した塗膜を乾燥、加熱して製膜させることより形成することができる。第1の画素部20a及び第2の画素部20bは、本発明の組成物を用いて形成することができ、第3の画素部20cは、本発明の分散体を構成する発光性粒子を含まない、上述した非発光性組成物を用いて形成することができる。
【0121】
本発明の組成物の塗膜を得るための塗布法としては、インクジェット印刷法(ピエゾ方式又はサーマル方式の液滴吐出法)、スピンコート法、キャスト法、LB法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ノズルプリント印刷法等が挙げられる。
【0122】
インクジェット印刷法の場合、組成物の吐出量は特に限定されず、通常、1~50pL/回であることが好ましく、1~30pL/回がより好ましく、1~20pL/回がさらに好ましい。
ノズル孔の開口径は、5~50μmの範囲であることが好ましく、10~30μmの範囲であることがより好ましい。かかる範囲であると、ノズル孔の目詰まりを防止しつつ、組成物の吐出精度を高められる。
【0123】
塗膜を形成する際の温度は特に限定されず、通常、10~50℃の範囲が好ましく、15~40℃の範囲がより好ましく、15~30℃の範囲がさらに好ましい。かかる温度で液滴を吐出すれば、本発明の組成物中に含まれる各種成分の結晶化を抑制できる。
また、塗膜を形成する際の相対湿度も特に限定されず、通常、0.01ppm~80%の範囲であることが好ましく、0.05ppm~60%の範囲がより好ましく、0.1ppm~15%の範囲がさらに好ましく、1ppm~1%の範囲が特に好ましく、5~100ppmの範囲が最も好ましい。
【0124】
組成物に炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、アルコール、ケトン、エステル、非プロトン性極性化合物等を溶媒として添加した場合は、組成物を基板上に塗布後、自然乾燥、加熱下又は減圧下での乾燥を行う。生産性の観点から、加熱下、又は加熱下かつ減圧下で乾燥を行うのが好ましい。加熱温度は、添加した溶媒の沸点及び蒸気圧も考慮し、通常、50~130℃が好ましく、60~120℃がより好ましい。減圧下の圧力は、通常、0.001~100Paの範囲が好ましい。また、乾燥時間は、通常、1~30分間が好ましい。乾燥により溶媒を塗膜から除去することで、得られる光変換層の外部量子効率をより向上できる。
【0125】
上述したように、本発明の組成物は発光特性の変化が少なく、長期保存性、保存安定性に優れ、成形体(塗膜)である画素部20においても良好な発光を実現できる。また、本発明の組成物は分散性に優れるため発光性粒子の分散性に優れ、かつ平坦な画素部20を得やすい。
【0126】
さらに、第1の画素部20a及び第2の画素部20bに含まれる発光性粒子が、ペロブスカイト型結晶構造を有する半導体ナノ結晶を含む場合は、300~500nmの波長領域の吸収が大きい。そのため、第1の画素部20a及び第2の画素部20bにおいて、第1の画素部20a及び第2の画素部20bに入射した青色光が上基板13側へ透過する、すなわち、青色光が上基板13側へ漏れることを防止できる。したがって、本発明の分散体を構成する発光性粒子を含む、第1の画素部20a及び第2の画素部20bによれば、青色光が混色されることなく、色純度の高い赤色光及び緑色光を取り出すことができる。
【0127】
発光素子100は、トップエミッション型に代えて、ボトムエミッション型として構成することもできる。また、発光素子100はEL光源部200に代えて他の光源を使用することもできる。
【0128】
上述の発光素子は、カラーフィルターを備えたカラー表示デバイスへの適用に好適である。ここで、カラー表示デバイスとは、例えば、テレビ、モニター、スマートフォン、携帯電話等のカラー表示を行うデバイスであり、液晶層を用いないタイプと液晶層を用いるタイプのいずれをも包含する。
【0129】
以上、本発明の分散体、前記分散体を含む組成物及び前記組成物から形成される光変換層について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。例えば、本発明の分散体、分散体を含む組成物、組成物から形成される光変換層は、それぞれ、上述した実施形態の構成において、他の任意の構成を追加して有していてもよく、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
【実施例0130】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0131】
A.含水率の異なる、各種発光性粒子分散体の調製例
比較例1
まず、0.12gの炭酸セシウムと、5mLの1-オクタデセンと、0.5mLのオレイン酸とを混合し、アルゴン雰囲気下、150℃で均一に溶解させた後、100℃まで冷却してセシウム-オレイン酸溶液を得た。
一方、0.1gの臭化鉛(II)と、7.5mLの1-オクタデセンと、0.75mLのオレイン酸とを混合し、アルゴン雰囲気下、90℃で10分間減圧乾燥した後、0.75mLの3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を添加してさらに20分間撹拌しながら減圧乾燥し、次いで140℃に加熱した。
上記臭化鉛(II)を含む混合液に、150℃で0.75mLの前記セシウム-オレイン酸溶液を添加し、5秒間撹拌後、氷浴で冷却した。次いで、30mLの酢酸メチルを添加して振倒攪拌し、得られた懸濁液を遠心分離(10000rpm、1分間)した。上澄み液を除去して得た沈殿物に1.13gのトルエンを添加し振倒攪拌した後、上澄み液を回収することによって、オレイン酸が配位しかつAPTES同士のシロキサン結合を含む表面層を備える、ペロブスカイト型のCsPbBr3(以下、「QD1」と記す。)が濃度0.1質量%でトルエン中に分散した分散体C1を得た。分散体C1中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、0.004%であった。分散体C1中における、QD1に対する水の比(質量比)は0.04に相当する。
【0132】
比較例2
分散体C1に分散体重量に対して5%のモレキュラーシーブス3Aを添加し振倒することにより混合し24時間静置した。モレキュラーシーブス3Aは、脱水剤として作用する。次に、メンブレンフィルター(孔径5.0μm)でろ過することにより分散体C2を得た。分散体C2中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、0.003%であった。分散体C2中における、QD1に対する水の比は0.03に相当する。
【0133】
実施例1
比較例1の方法で得た分散体C1に、QD1に対する水の質量比が1.0となるように純水を添加し、激しく攪拌することにより、分散体1を得た。分散体1中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、0.117%であった。
【0134】
実施例2
比較例1の方法で得た分散体C1に、QD1に対する水の比が5.0となるように純水を添加し、激しく攪拌することにより、分散体2を得た。分散体2中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、0.576%であった。
【0135】
実施例3
比較例1の方法で得た分散体C1に、QD1に対する水の質量比が7.5となるように純水を添加し、激しく攪拌することにより、分散体3を得た。分散体3中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、0.860%であった。
【0136】
比較例3
実施例1において、臭化鉛(II)を含む混合液の調製時にAPTESに代えてオレイルアミンを添加した以外は、製造例1と同様の操作を行うことで、オレイン酸とオレイルアミンが配位した、ペロブスカイト型のCsPbBr3(以下、「QD2」と記す。)が濃度0.1質量%でトルエン中に分散した分散体C3を得た。分散体C3中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、0.004%であった。分散体C3中における、QD2に対する水の比(質量比)は0.04に相当する。
【0137】
比較例4
比較例1の方法で得た分散体C1に、QD1に対する水の質量比が10.9となるように純水を添加し、激しく攪拌することにより、分散体C4を得た。分散体C4中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、1.249%であった。
【0138】
比較例5
比較例3の方法で得た分散体C3に、QD2に対する水の質量比が4.2となるように純水を添加し、激しく攪拌することにより、分散体C5を得た。分散体C5中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、0.480%であった。
【0139】
比較例6
比較例3の方法で得た分散体C3に、QD2に対する水の質量比が10.1となるように純水を添加し、激しく攪拌することにより、分散体C6を得た。分散体C6中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、1.161%であった。
【0140】
比較例7
比較例3の方法で得た分散体C3に、QD2に対する水の質量比が47.6となるように純水を添加し、激しく攪拌することにより、分散体C7を得た。分散体C7中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、5.476%であった。
【0141】
比較例8
比較例3の方法で得た分散体C3に、QD2に対する水の質量比が90.3となるように純水を添加し、激しく攪拌することにより、分散体C8を得た。分散体C8中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、10.394%であった。
【0142】
比較例9
比較例3の方法で得た分散体C3に、QD2に対する水の質量比が319.0となるように純水を添加し、激しく攪拌することにより、分散体C9を得た。分散体C9中の含水率をカールフィッシャー法により測定したところ、36.697%であった。
【0143】
B.各発光性粒子の分散体の保管安定性
上記で得た各分散体について、調製直後、また40℃でそれぞれ1日、25日及び70日保管した後の、各分散体の絶対量子収率(PLQY)、発光スペクトルのピーク波長(λmax)及び発光スペクトルの半値幅(FWHM)を、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製、「Quantaurus-QY」)を使用して、励起波長450nmにより測定した。
結果を表1に示す。
【0144】
【0145】
実施例1~3の分散体は、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた発光性粒子を含有し、含水率が0.10%以上1.0%以下の範囲内にある。表1に示すように、実施例1~3の分散体は、いずれも、70日保管後のPLQYが50%を上回っており、十分な量子効率を備える上に、70日保管後のλmax及びFWHMが、調製直後と同程度である。このことから、実施例1~3の分散体は、耐久性に優れる上に、長期安定性に優れることが明らかである。
【0146】
一方、比較例1、2及び3の分散体は、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた発光性粒子を含有するものの、含水率が0.10%未満又は1.0%超である。表1に示すように、比較例1、2及び3の分散体は、いずれも、70日保管後のPLQYが40%以下であり、十分な量子効率を備えるとは言えない。よって、比較例1、2及び3の分散体は、長期安定性が不十分であることが明らかである。
【0147】
また、比較例5の分散体は、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶の表面に表面層を備えた発光性粒子を含有し、含水率が0.10%以上1.0%以下の範囲内である。但し、発光性粒子の表面層がシロキサン結合を有する構造を含むものではない。表1に示すように、比較例5の分散体は、70日保管後のPLQYが40%以下であって、十分な量子収率を備えていない上に、70日保管後のλmaxが調製直後と比較して短波長側に大きくシフトし、70日保管後のFWHMが調製直後と比較して広がっている。このことから、比較例5の分散体は、耐久性及び長期安定性に劣ることが明らかである。
【0148】
そして、比較例6~9の分散体は、含水率が0.10%以上1.0%以下の範囲内ではなく、発光性粒子の表面層がシロキサン結合を有する構造を含むものではない。表1に示すように、比較例6~9の分散体は、70日保管後のPLQYが40%を大きく下回っていて十分な量子収率を備えていない上に、70日保管後のλmaxが調製直後と比較して短波長側に大きくシフトし、70日保管後のFWHMが調製直後と比較して広がっている。このことから、比較例6~9の分散体は、耐久性及び長期安定性に劣ることが明らかである。
【0149】
C.光変換層の作製
以下の例では、上記で得た各発光性粒子の分散体と熱可塑性樹脂を含む組成物を調製し、かかる組成物から光変換層を形成した。
使用した熱可塑性樹脂の詳細を以下に示す。
PMMA:ポリメチルメタクリレート(Sigma-Aldrich社製、Mw=12万)
PS:ポリスチレン(Sigma-Aldrich社製、Mw=28万)
CAB:セルロースアセテートブチレート(EASTMAN CHEMICAL社製、Mw=7万)
PC:ポリカーボネート(出光興産社製、商品名「タフロンMD1500」)
【0150】
実施例4
PMMAをトルエンに60℃で溶解させ、20質量%濃度のPMMA溶液を調製した。このPMMA溶液1.0gを、調製直後の分散体1の1.1gと混合し、振倒撹拌により、組成物1を調製した。
ガラス基板上に組成物1を滴下して、乾燥後の膜厚が100μmとなるようにスピンコーターにて大気中で塗布し、60℃で15分間乾燥させることにより、QD1を含む光変換層1を形成した。
また、40℃で1日保管した分散体1、すなわち上記した保管安定性試験において1日経過した分散体1を用い、上記と同様にしてQD1を含む光変換層2を形成した。
さらに、40℃で25日及び70日保管した分散体1、すなわち上記した保管安定性試験において25日及び70日経過した分散体1をそれぞれ用い、上記と同様にして、QD1を含む、光変換層3及び光変換層4をそれぞれ形成した。
【0151】
実施例5
実施例4において、分散体1に代えて分散体2を用いた以外は実施例4と同様の操作により、組成物2を調製し、また、QD1を含む光変換層1~光変換層4を形成した。
【0152】
実施例6
実施例4において、分散体1に代えて分散体3を用いた以外は実施例4と同様の操作により、組成物3を調製し、また、QD1を含む光変換層1~光変換層4を形成した。
【0153】
比較例10
実施例4において、分散体1に代えて分散体C1の1.2gを用いた以外は、実施例4と同様の操作により、組成物C1を調製し、また、QD1を含む光変換層1~光変換層4を形成した。
【0154】
比較例11
比較例10において、分散体C1に代えて分散体C2の1.2gを用いた以外は、実施例4と同様の操作により、組成物C2を調製し、また、QD2を含む光変換層1~光変換層4をそれぞれ形成した。
【0155】
比較例12
比較例10において、分散体C1に代えて分散体C3の1.1gを用いた以外は、実施例4と同様の操作により、組成物C3を調製し、また、QD1を含む光変換層1~光変換層4をそれぞれ形成した。
【0156】
比較例13
比較例10において、分散体C1に代えて分散体C4の1.3gを用いた以外は、実施例4と同様の操作により、組成物C4を調製し、また、QD2を含む光変換層1~光変換層4をそれぞれ形成した。
【0157】
比較例14
比較例10において、分散体C1に代えて分散体C6の1.6gを用いた以外は、実施例4と同様の操作により、組成物C5を調製し、また、QD2を含む光変換層1~光変換層4をそれぞれ形成した。
【0158】
実施例7
PSをトルエンに60℃で溶解させ、20質量%濃度のPS溶液を調製した。このPS溶液1.0gを、調製直後の分散体2の1.1gと混合し、振倒撹拌により、組成物4を調製した。
ガラス基板上に組成物4を滴下して、乾燥後の膜厚が100μmとなるようにスピンコーターにて大気中で塗布し、60℃で15分間乾燥させることにより、QD1を含む光変換層1を形成した。
40℃で1日保管した分散体2、すなわち上記した保管安定性試験において1日経過した分散体2を用い、上記と同様にしてQD1を含む光変換層2を形成した。
また、40℃で25日及び70日保管した分散体2、すなわち上記した保管安定性試験において25日及び70日経過した分散体2をそれぞれ用い、上記と同様にして、QD1を含む、光変換層3及び光変換層4を形成した。
【0159】
実施例8
実施例7において、分散体2に代えて分散体3を用いた以外は実施例7と同様の操作により、QD1を含む光変換層1~光変換層4を形成した。
【0160】
実施例9
実施例7において、PSに代えてCABを用いた以外は実施例7と同様の操作により、QD1を含む光変換層1~光変換層4を形成した。
【0161】
実施例10
実施例7において、PSに代えてPCを用いた以外は実施例7と同様の操作により、QD1を含む光変換層1~光変換層4を形成した。
【0162】
D.光変換層の光学特性の評価
実施例4~10、比較例10~14でそれぞれ形成した、光変換層1(調製直後の分散体から形成)、光変換層2(40℃で1日保管後の分散体から形成)、光変換層3(40℃で25日保管後の分散体から形成)、光変換層4(40℃で70日保管後の分散体から形成)について、絶対量子収率(PLQY)、発光スペクトルのピーク波長(λmax)及び発光スペクトルの半値幅(FWHM)を、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製、「Quantaurus-QY」)を使用して、励起波長450nmにより測定した。
結果を表2に示す。
【0163】
【0164】
実施例4~10の組成物は、実施例1~3の分散体のうちのいずれかを含む。実施例4~10の組成物より形成した光変換層は、70日保管後の分散体を含む組成物を用いて形成した光変換層であっても、λmax及びFWHMが、調製直後の分散体を含む組成物を用いて形成した光変換層と同程度である。このことから、実施例1~3の分散体は、70日保管後に組成物として調製され、該組成物を用いて光変換層を形成した場合にも、優れた光学特性を発現することが明らかである。
【0165】
一方、比較例10の組成物は、比較例1の分散体を含む。比較例10の組成物より形成した光変換層は、70日保管後の分散体を含む組成物を用いて形成した光変換層のλmax及びFWHMが、調製直後の分散体を含む組成物を用いて形成した光変換層よりも劣る。これは、表1に示すように、70日保管後の分散体のPLQYが40%であり、分散体としての性能が不十分であるため、光変換層の光学特性が劣るものである。
【0166】
また、比較例11の組成物は、比較例2の分散体を含む。比較例11の組成物より形成した光変換層は、70日保管後の分散体を含む組成物を用いて形成した光変換層のλmax及びFWHMが、調製直後の分散体を含む組成物を用いて形成した光変換層よりも劣る。これは、表1に示すように、70日保管後の分散体のPLQYが40%であり、分散体としての性能が不十分であるため、光変換層の光学特性が劣るものである。
【0167】
また、比較例12~14の組成物は、比較例3、4及び6の分散体のうちのいずれかを含む。比較例12~14の組成物は、70日保管後の分散体を含む組成物を用いて形成した光変換層のλmax及びFWHMが、調製直後の分散体を含む組成物を用いて形成した光変換層と比較して、大きく低下している。
【0168】
これらのことから、比較例10~14の分散体は、70日保管後に組成物として調製され、該組成物を用いて光変換層を形成した場合に、優れた光学特性を備えた光変換層を形成できないことが明らかである。
【0169】
上記の実施例のとおり、本発明の分散体は保存安定性に優れる。また、本発明の分散体から形成した光変換層は良好な発光特性を示す。
本発明の分散体は、発光特性の変化が少なく長期保存性に優れる。そのため、光変換層、カラーフィルター、波長変換フィルム、さらにはカラー表示デバイス、液晶表示素子等の各種デバイスへ適用できる。