(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089491
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】多孔質体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/26 20060101AFI20240626BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20240626BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240626BHJP
C08L 5/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CEP
C08J9/26 CFH
C08L101/14
C08L83/04
C08L5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204891
(22)【出願日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】竹下 覚
(72)【発明者】
【氏名】小野 巧
【テーマコード(参考)】
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4F074AA01
4F074AA90
4F074AA98
4F074CB34
4F074CB44
4F074CB45
4F074CC06X
4F074DA02
4F074DA24
4F074DA32
4F074DA43
4F074DA57
4J002AB001
4J002AB011
4J002AB031
4J002AB041
4J002AB051
4J002CP032
4J002GD00
4J002GD02
(57)【要約】
【課題】本発明は、水溶性バイオポリマーと、シリコーン化合物を主成分とし、安価で容易に製造可能な多孔質体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の多孔質体は、水溶性バイオポリマーと、シロキサン結合を骨格とするシリコーン化合物とを主成分として含む架橋体が繊維状に立体架橋された多孔質構造を有し、かさ密度が0.001g/cm
3~0.5g/cm
3であり、かつ、可視光透過性を有することを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性バイオポリマーと、シロキサン結合を骨格とするシリコーン化合物とを主成分として含む架橋体が繊維状に立体架橋された多孔質構造を有し、かさ密度が0.001g/cm3~0.5g/cm3であり、かつ、可視光透過性を有することを特徴とする多孔質体。
【請求項2】
シリコーン化合物が、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリエチルシルセスキオキサン及びポリジメチルシロキサンから選択される1種以上の化合物である請求項1に記載の多孔質体。
【請求項3】
シリコーン化合物が、ポリメチルシルセスキオキサンである請求項2に記載の多孔質体。
【請求項4】
水溶性バイオポリマーが、アルギン酸及びその塩、カルボキシメチルセルロース及びその塩、ペクチン及びその塩、並びに、カラジーナン及びその塩から選択される請求項1から3のいずれかに記載の多孔質体。
【請求項5】
水溶性バイオポリマーが、アルギン酸及びその塩、ペクチン及びその塩、並びに、カラジーナン及びその塩から選択される請求項4に記載の多孔質体。
【請求項6】
水滴接触角が80°以上である請求項1から3のいずれかに記載の多孔質体。
【請求項7】
架橋体が、直径1nm~50nmの繊維状体で形成される請求項1から3のいずれかに記載の多孔質体。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載の多孔質体を製造する方法であって、
水溶性バイオポリマーの水溶液に対し、シリコーン化合物の原料、界面活性剤及び加温前の前記水溶液のpHを弱酸性に制御し、かつ、加温後の前記水溶液のpHを中性ないし弱塩基性に制御するpH制御剤を加えた後、加温により架橋された前記シリコーン化合物のシリコーン化合物ゲルを形成させ、得られた前記シリコーン化合物ゲルを前記水溶性バイオポリマーの架橋剤に接触させて前記水溶性バイオポリマーを架橋させる水溶性バイオポリマー後架橋工程、及び、前記水溶性バイオポリマーの水溶液に対し、前記シリコーン化合物の原料、前記界面活性剤、前記pH制御剤及び前記架橋剤を加えて前記水溶性バイオポリマーを架橋させた後、加温により架橋された前記シリコーン化合物の前記シリコーン化合物ゲルを形成させる水溶性バイオポリマー前架橋工程のいずれかの工程から選択され、前記シリコーン化合物及び前記水溶性バイオポリマーの架橋体を含む湿潤ゲルを形成する湿潤ゲル形成工程と、
前記湿潤ゲルを非水溶媒に浸漬後、前記湿潤ゲルを乾燥させて多孔質体を得る乾燥工程と、
を含むことを特徴とする多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性バイオポリマー及びシリコーン化合物を用いて形成される多孔質体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、体積に対する空隙の割合が高く、かさ密度が低い空隙構造を持つ固体を、多孔質体という。多孔質体は、その空隙構造を活用し、断熱材、吸着材、吸音材、分離剤やフィルター等に利用されている。
前記多孔質体のうち、特に、空隙率が高く(一般に80%以上)、空隙を構成する空孔が数10ナノメートルスケールで、かつ、空孔同士が連なった連通孔である材料を、エアロゲルと呼ぶ。特に、シリカを主成分とするシリカエアロゲル(例えば、非特許文献1参照)は、これまで最も広く研究されてきたエアロゲルのひとつであり、軽量性、低いかさ密度、可視光透過性、低熱伝導率等の観点から、透明断熱材、チェレンコフ光検出器、宇宙塵捕捉材等への応用が検討されている。
【0003】
前記シリカは、組成式SiO2で表され、1つのシリコン原子から4つのSi―O―Si(シロキサン)結合が伸びた四面体を基本とする分子骨格を持つ。このうち、1つのSi―O―SiをSi―CH3に置換したポリメチルシルセスキオキサン(シリコーン化合物)からなるシリコーンエアロゲルは、曲げ変形に弱いものの、シリカエアロゲルと同等の可視光透過性を有し、シリカエアロゲルよりも圧縮変形に強い材料として知られている(特許文献1、非特許文献2参照)。
このため、断熱材としての実用化が検討されているほか、生体親和性や環境調和性の高いバイオポリマーとの複合化を通じて、物理化学特性の向上や、用途の拡大が検討されている。
【0004】
前記ポリメチルシルセスキオキサンと前記バイオポリマーとを複合化させた複合エアロゲルとしては、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン-1-オキシル(TEMPO)触媒を用いた酸化処理、遠心分離を用いた洗浄処理、及びホモジナイザーを用いた分散処理を経てナノサイズに解繊されたセルロースと前記ポリメチルシルセスキオキサンとの複合エアロゲルが報告されている(非特許文献3参照)。
また、TEMPO触媒を用いた酸化処理、及び透析による洗浄処理を経て作製されたコーンスターチ(アミロペクチン及びアミロースの混合物であり、非水溶性)分散体と前記ポリメチルシルセスキオキサンとの複合エアロゲルが提案されている(非特許文献4参照)。
【0005】
しかし、これらの複合エアロゲルは、製造に際し、TEMPO触媒を用いた改質処理や、その後の洗浄・分散処理など、煩雑かつ多大なコスト及びエネルギーを要する複数の工程を必要とする点から、産業応用に適さない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.S.Kistler,Nature 127,741(1931)
【非特許文献2】K.Kanamori,et al.Adv.Mater. 19,1589-1593(2007)
【非特許文献3】Q.Liu,et al.Nano Energy 48,266-274(2018)
【非特許文献4】G.Zu,et al.J.Mater.Chem.A 9,5769-5779(2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術における前記諸問題を解決し、水溶性バイオポリマーと、シリコーン化合物とを主成分とし、安価で容易に製造可能な多孔質体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
従来の前記複合エアロゲルでは、前記バイオポリマーとして、セルロースやアミロペクチンのような非水溶性ポリマーを用いており、この非水溶性ポリマーに起因したナノ解繊ファイバー体が、製造プロセスに問題を与えている。
そのため、前記非水溶性ポリマーに代えて、水溶性バイオポリマーを用いることができれば、製造プロセスを簡略化させることができる。
しかしながら、前記シリコーン化合物の原料分子と、前記水溶性バイオポリマーとは、両者の化学的性質が大きく異なり、複合化時に相分離が生じ易いことから、均質な複合化が極めて難しく、前記シリコーン化合物と、前記水溶性バイオポリマーとを、均質に複合化した複合エアロゲルの製造法は、何ら知られていないのが現状である。
即ち、均質な多孔質構造を持つ複合化エアロゲルであると、その均質性に起因した可視光透過性を有するが、前記水溶性バイオポリマーを用いる場合、このような可視光透過性を有する前記複合エアロゲルを製造できたとする報告例は、皆無である。
【0010】
一方、本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意検討を行い、以下の知見を得た。
即ち、前記水溶性バイオポリマーと前記シリコーン化合物とを主成分として、均質な複合エアロゲルを得るには、前記水溶性バイオポリマーと前記シリコーン化合物の原料との両方を含む均一な溶液を作製した後、(1)前記水溶性バイオポリマーの架橋と、(2)前記シリコーン化合物の原料の加水分解・縮合(架橋)とを、それぞれ異なるステップで逐次的に生じさせることで、両成分の複合化時の相分離を回避することができ、延いては、前記水溶性バイオポリマーを用いて均質な多孔質構造を持つ複合化エアロゲルが得られるとの知見を得た。また、同時に、前記(1)及び(2)の各ステップは、どちらを先に行ってもよいとの知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 水溶性バイオポリマーと、シロキサン結合を骨格とするシリコーン化合物とを主成分として含む架橋体が繊維状に立体架橋された多孔質構造を有し、かさ密度が0.001g/cm3~0.5g/cm3であり、かつ、可視光透過性を有することを特徴とする多孔質体。
<2> シリコーン化合物が、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリエチルシルセスキオキサン及びポリジメチルシロキサンから選択される1種以上の化合物である前記<1>に記載の多孔質体。
<3> シリコーン化合物が、ポリメチルシルセスキオキサンである前記<2>に記載の多孔質体。
<4> 水溶性バイオポリマーが、アルギン酸及びその塩、カルボキシメチルセルロース及びその塩、ペクチン及びその塩、並びに、カラジーナン及びその塩から選択される前記<1>から<3>のいずれかに記載の多孔質体。
<5> 水溶性バイオポリマーが、アルギン酸及びその塩、ペクチン及びその塩、並びに、カラジーナン及びその塩から選択される前記<4>に記載の多孔質体。
<6> 水滴接触角が80°以上である前記<1>から<5>のいずれかに記載の多孔質体。
<7> 架橋体が、直径1nm~50nmの繊維状体で形成される前記<1>から<6>のいずれかに記載の多孔質体。
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の多孔質体を製造する方法であって、水溶性バイオポリマーの水溶液に対し、シリコーン化合物の原料、界面活性剤及び加温前の前記水溶液のpHを弱酸性に制御し、かつ、加温後の前記水溶液のpHを中性ないし弱塩基性に制御するpH制御剤を加えた後、加温により架橋された前記シリコーン化合物のシリコーン化合物ゲルを形成させ、得られた前記シリコーン化合物ゲルを前記水溶性バイオポリマーの架橋剤に接触させて前記水溶性バイオポリマーを架橋させる水溶性バイオポリマー後架橋工程、及び、前記水溶性バイオポリマーの水溶液に対し、前記シリコーン化合物の原料、前記界面活性剤、前記pH制御剤及び前記架橋剤を加えて前記水溶性バイオポリマーを架橋させた後、加温により架橋された前記シリコーン化合物の前記シリコーン化合物ゲルを形成させる水溶性バイオポリマー前架橋工程のいずれかの工程から選択され、前記シリコーン化合物及び前記水溶性バイオポリマーの架橋体を含む湿潤ゲルを形成する湿潤ゲル形成工程と、前記湿潤ゲルを非水溶媒に浸漬後、前記湿潤ゲルを乾燥させて多孔質体を得る乾燥工程と、を含むことを特徴とする多孔質体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、水溶性バイオポリマーとシリコーン化合物とを主成分とし、安価で容易に製造可能な多孔質体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る多孔質体の製造方法の概要を説明する概念図である。
【
図2】実施例1~21及び比較例1,2に係る各多孔質体の外観を示す図である。
【
図3】実施例2,5~7,10~15,17,19~21に係る各多孔質体、及び、比較例1,2に係る各多孔質体の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図4】実施例5及び比較例1に係る各多孔質体に対する水滴接触角の測定結果を示す図である。
【
図5】実施例5及び比較例1に係る各多孔質体の3点曲げ試験の結果を示す図である。
【
図6】実施例5,12,13,15,19~21及び比較例1に係る各多孔質体の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(多孔質体)
本発明に係る多孔質体は、水溶性バイオポリマーと、シリコーン化合物とを主成分として含む架橋体が繊維状に立体架橋された多孔質構造を有する。
なお、「主成分」とは、前記架橋体の形成時に連結するポリマー成分であることを意味する。
【0015】
<水溶性バイオポリマー>
前記水溶性バイオポリマーは、高分子、かつ、水溶性であれば特に制限はなく、例えば、公知の水溶性多糖及び多糖の塩が挙げられる。
前記水溶性多糖としては、特に制限はないが、アルギン酸、ペクチン、カラジーナン、カルボキシメチルセルロース、寒天、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、グアーガム、ローストビンガム、タラガム、グルコマンナン、キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、プルラン、アラビアガム、トラガンドガム、カラヤガム、ガッティガム、タマリンド種子ガム、アミロース、キトサン等が挙げられる。特に、金属イオンを用いて安価で簡便な架橋が行える観点から、カルボキシル基を有するアルギン酸、ペクチン、カルボキシメチルセルロース等や、スルホン酸基を有するカラジーナン等が好ましい。
前記多糖の塩としては、特に制限はなく、前記水溶性多糖の塩及び塩の状態で水溶性を示す多糖化合物が挙げられる。前記水溶性多糖の塩としては、特に制限はなく、前記水溶性多糖が前記アルギン酸であれば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸塩が挙げられる。
前記多孔質体(複合化エアロゲル)の製造にあたって、前記水溶性バイオポリマーを採用することで、均質な多孔質構造を持つ多孔質体を容易に製造することができる。加えて、前記水溶性バイオポリマーは、汎用性の高い持続可能な資源であることから、前記多孔質体の製造を安価に製造でき、かつ、生体親和性や環境調和性が高いことから、前記多孔質体に対し、豊富な産業応用の可能性を与える。
【0016】
ここで、「水溶性」とは、水又は酸性から塩基性の水溶液に可溶であることを意味し、「水又は酸性から塩基性の水溶液に可溶である」とは、前記水溶性多糖が水又は酸性から塩基性の水溶液1Lに対し、少なくとも1gが可溶であることを意味する。ここで、「可溶」とは、沈殿を生じない状態で水又は酸性から塩基性の水溶液に溶解可能なことを意味し、条件として後述の架橋剤との架橋反応を損なわない温度範囲で水又は酸性から塩基性の水溶液が加熱、冷却される場合を含む。
また、「水溶性バイオポリマー」には、水溶性のセグメントと非水溶性のセグメントとの複合体ポリマーを含み得るが、この場合、前記水溶性バイオポリマー全体として、水溶性を有する必要がある。
また、「バイオポリマー」とは、天然物から抽出されるポリマー自体及びそのポリマーから誘導されるポリマーのいずれかであり、天然物由来であることを意味する。
【0017】
なお、前記水溶性バイオポリマーの分子量としては、特に制限はなく、例えば、数平均分子量で10,000~10,000,000程度である。
また、前記水溶性バイオポリマーとしては、1種単独であってもよく、2種以上が併用されていてもよい。
【0018】
<シリコーン化合物>
前記シリコーン化合物は、シロキサン結合を骨格とする化合物であれば特に制限はなく、例えば、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリエチルシルセスキオキサン、ポリジメチルシロキサン等の公知のシリコーン化合物が挙げられる。中でも、疎水性及び原料価格の観点から、ポリメチルシルセスキオキサンが好ましい。
また、前記シリコーン化合物は、1種単独であってもよく、2種以上が併用されていてもよい。
【0019】
なお、前記多孔質体としては、発明の効果を妨げない限り、必要に応じて、公知の添加剤を含むこととしてもよい。
前記添加剤としては、特に制限はなく、例えば、公知の可塑剤、安定剤、耐衝撃性向上剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、染料、充填剤、酸化防止剤、加工助剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防菌剤、防黴剤等が挙げられる。なお、これら添加剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
<多孔質体の特性>
前記多孔質体は、かさ密度が0.001g/cm3~0.5g/cm3であることを特徴の1つとする。
前記多孔質体が、前記かさ密度を有すると、前記多孔質体の伝導伝熱性が低くなり、前記多孔質体を断熱性に優れた材料とすることができる。
一方で、かさ密度が低すぎると機械的な安定性を損なうことがあり、また、かさ密度が高すぎると所望の断熱性能を示さないことがある。このため、前記多孔質体のかさ密度としては、0.01g/cm3~0.25g/cm3であることが好ましい。
【0021】
前記多孔質体としては、こうしたかさ密度を有しつつ、構造の機械的安定性を備える上で、前記水溶性バイオポリマーと前記シリコーン化合物とを主成分として含む前記架橋体が繊維状に立体架橋された前記多孔質構造を有することが有利となる。
特に、前記架橋体が、直径1nm~50nmの繊維状体で形成されることが好ましい。このように形成されると、前記多孔質構造が均質なうえに微細で緻密な立体構造とされ、前記多孔質体に対し、曲げ耐性や柔軟性など、有利な特性を付与することができる。
【0022】
また、前記多孔質体は、可視光透過性を有することを特徴の1つとする。
本明細書では、可視光透過性を有するか否かを次のように定義する。
即ち、前記多孔質体の波長800nmに対する光透過率(%)を測定し、光透過率(%)を下記(1)式によって光学密度に換算する。
光学密度=-log10(光透過率/100%) (1)
得られた光学密度を前記多孔質体の厚さ(mm)で除し、再び10mmを掛け合わせることで、厚さ10mmあたりの光学密度を算出した後、再び前記(1)式を用いて厚さ10mmあたりの光透過率(%)に換算する。
そして、この光透過率が5%以上のときに、可視光透過性を有すると定義する。
【0023】
また、前記多孔質体としては、特に制限はないが、常温、常圧の大気下において、水滴に対する静的接触角(水滴接触角)が80°以上であることが好ましい。前記多孔質体が、前記接触角を有すると、前記多孔質体が十分な疎水性を有し、大気中の水蒸気の吸湿を抑制することで耐湿性に優れた材料とすることができる。
【0024】
(多孔質体の製造方法)
本発明の多孔質体の製造方法は、湿潤ゲル形成工程と、乾燥工程と、を含む。
また、前記湿潤ゲル形成工程は、水溶性バイオポリマー後架橋工程(以下、単に「後架橋」と称することがある)、及び、水溶性バイオポリマー前架橋工程(以下、単に「前架橋」と称することがある)のいずれかの工程から選択され、前記シリコーン化合物及び前記水溶性バイオポリマーの架橋体を含む湿潤ゲルを形成する工程である。
【0025】
先ず、本発明に係る多孔質体の製造方法の概要を
図1を参照しつつ、説明する。
該
図1中の(a)に示すように、前記後架橋を選択する場合は、先ず、前記シリコーン化合物の原料と、前記水溶性バイオポリマーとを均一に混合した水溶液を調製し、次いで、前記シリコーン化合物によるネットワークを生成させた後、前記水溶性バイオポリマーの架橋剤を加えて前記水溶性バイオポリマーの架橋体によるネットワークを生成させ、二重のネットワークを形成させる。
このようにすることで、前記シリコーン化合物を骨格とするゲルの内部で前記水溶性バイオポリマーの架橋が行われ、粗大な構造の生成を伴う相分離を防ぎ、均質な前記多孔質体を得ることができる。
【0026】
また、該
図1中の(b)に示すように、前記前架橋を選択する場合は、先ず、前記シリコーン化合物の原料と、前記水溶性バイオポリマーとを均一に混合した水溶液を調製し、次いで、前記バイオポリマーの架橋剤を加えて前記水溶性バイオポリマーの架橋体によるネットワークを生成させた後、前記シリコーン化合物からなるネットワークを生成させ、二重のネットワークを形成させる。
このようにすることで、前記水溶性バイオポリマーの前記架橋体の内部で前記シリコーン化合物の生成が行われ、粗大な構造の生成を伴う相分離を防ぎ、均質な前記多孔質体を得ることができる。
以下では、前記諸工程をより具体的に説明する。
【0027】
<水溶性バイオポリマー後架橋工程(後架橋)>
前記水溶性バイオポリマー後架橋工程(後架橋)は、前記水溶性バイオポリマーの水溶液に対し、前記シリコーン化合物の原料、界面活性剤及び加温前の前記水溶液のpHを弱酸性に制御し、かつ、加温後の前記水溶液のpHを中性ないし弱塩基性に制御するpH制御剤を加えた後、加温により架橋された前記シリコーン化合物のシリコーン化合物ゲルを形成させ、得られた前記シリコーン化合物ゲルを前記水溶性バイオポリマーの架橋剤に接触させて、前記水溶性バイオポリマーを架橋させる工程である。
【0028】
前記水溶性バイオポリマー及び前記シリコーン化合物としては、本発明の前記多孔質体について説明した事項を適用することができる。
前記水溶性バイオポリマーの水溶液中の濃度としては、好適な濃度範囲があり、前記水溶性バイオポリマーの効果が十分に発揮でき、かつ、前記水溶液の流動性が確保できることが求められる。例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液を用いる場合、1g/L~50g/Lが好ましい。
また、前記シリコーン化合物の原料の前記水溶性バイオポリマー水溶液中の濃度としては、好適な濃度範囲があり、低いかさ密度を実現しつつ、かつ、ゲルとして取り扱える程度の強度を実現することが求められる。例えば、トリメトキシメチルシランを用いる場合、前記水溶性バイオポリマー水溶液の溶液量に対して20体積%~75体積%が好ましい。
【0029】
前記界面活性剤は、前記シリコーン化合物の原料の加水分解及び縮合(架橋)に伴う相分離を抑制する役割を有する。
前記界面活性剤としては、前記役割を実現することができれば特に制限はなく、例えば、両親媒性のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、カチオン性の臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等を用いることができる。
前記界面活性剤の添加量としては、それぞれ好適な添加量範囲があり、前記界面活性剤と、前記シリコーン化合物の原料の種類及び量とによって異なる。
【0030】
前記pH制御剤としては、前記シリコーン化合物の原料を加水分解して溶解させる役割と、加水分解された前記シリコーン化合物の原料を縮合して前記シリコーン化合物を析出(架橋)させる役割を有する。
このため、前記pH制御剤としては、反応初期に弱酸性とした後、加温によって中性~弱塩基性に上昇するものが好ましく、典型的には、それぞれの役割に対応して、希薄な酸と、熱分解して水酸化物イオンを放出する化合物とを組み合わせて用いる。
前記酸としては、特に制限はなく、酢酸、シュウ酸、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられ、その濃度の設定には、反応初期において、前記シリコーン化合物の原料の加水分解を進行させつつも、急速な縮合を進行させない弱酸性(pH3~5程度)に保つことが求められる。
前記熱分解して水酸化物イオンを放出する化合物としては、特に制限はなく、尿素、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等が挙げられ、その濃度の設定には、熱分解後に反応系内のpHを中性~弱塩基性(pH6~8)に調整することが求められる。
【0031】
前記架橋剤としては、使用する前記水溶性バイオポリマーに応じ、静電的相互作用による物理架橋、水素結合による物理架橋、または、化学架橋を形成する架橋剤が選択される。
また、前記架橋剤としては、濃度が調整された溶液として用いられ、例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液、ペクチン水溶液、またはκ‐カラジーナン水溶液等を用いた場合、カルシウムイオンを含む化合物の水溶液が適し、カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液等を用いた場合、アルミニウムイオンを含む化合物の水溶液が適する。前記カルシウムイオンを含む化合物としては、塩化カルシウム及びその水和物、乳酸カルシウム及びその水和物等が挙げられる。前記アルミニウムイオンを含む化合物としては、硫酸ナトリウムアルミニウム及びその水和物、硫酸カリウムアルミニウム及びその水和物等が挙げられる。
また、溶液中の前記架橋剤の濃度としては、使用する水溶性バイオポリマーに応じて好適な濃度範囲があり、十分な架橋が得られつつ、乾燥工程で未反応の架橋剤等が過剰に残留しない濃度に調整される。また、前記シリコーン化合物ゲルを前記架橋剤に接触させる方法としては、特に制限はなく、前記シリコーン化合物ゲルが形成された前記水溶性バイオポリマーの水溶液に前記架橋剤の溶液を加えることや、前記水溶性バイオポリマーの水溶液から取り出した前記シリコーン化合物ゲルを前記架橋剤の溶液に浸漬すること等が挙げられる。
【0032】
<水溶性バイオポリマー前架橋工程(前架橋)>
前記水溶性バイオポリマー前架橋工程(前架橋)は、前記水溶性バイオポリマーの水溶液に対し、前記シリコーン化合物の原料、前記界面活性剤、前記pH制御剤及び前記水溶性バイオポリマーの前記架橋剤を加えて前記水溶性バイオポリマーを架橋させた後、加温により架橋された前記シリコーン化合物の前記シリコーン化合物ゲルを形成させる工程である。
前記水溶性バイオポリマー及び前記シリコーン化合物の原料とそれらの濃度、前記界面活性剤とその濃度、前記pH制御剤とその濃度、前記架橋剤としては、前記水溶性バイオポリマー後架橋工程(後架橋)について説明した事項を適用することができる。
前記架橋剤の溶液の量及び濃度としては、使用する前記水溶性バイオポリマーに応じて好適な範囲があり、十分な架橋効果が得られつつ、添加によって即座に不均質なゲルを形成することがない量と濃度範囲内に収める必要がある。
【0033】
<乾燥工程>
前記乾燥工程は、前記湿潤ゲルを非水溶媒に浸漬後、前記湿潤ゲルを乾燥させて多孔質体を得る工程である。
前記乾燥工程で実施される乾燥の方法としては、特に制限はないが、気液界面における界面張力の発生による応力の影響が低く抑えられ、前記湿潤ゲルの収縮が最小限にとどめられる方法が好ましく、例えば、超臨界乾燥法、常圧乾燥法が挙げられる。
【0034】
即ち、前記超臨界乾燥法では、前記湿潤ゲルに含まれる溶媒(前記非水溶媒)を、昇温・昇圧によって超臨界流体とした後、または、昇温・昇圧下で超臨界二酸化炭素と置換した後、気液界面を発生させることなく流体を除去することで、乾燥した多孔質体を得る。
前記湿潤ゲルに含まれる溶媒(前記非水溶媒)としては、液化二酸化炭素、または、昇温・昇圧下で二酸化炭素と均一相を形成するものが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、アセトン、ジメチルエーテル等、または、これらの混合溶媒が好ましい。
【0035】
また、前記常圧乾燥では、前記非水溶媒として、界面張力の小さい溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、アセトン、ジメチルエーテル、ヘキサン、へプタン、メチルノナフルオロブチルエーテル等を用いて、乾燥前の前記湿潤ゲルに含まれる溶媒と交換し、常圧で徐々に蒸発させることで、乾燥した多孔質体を得る。
【実施例0036】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
予め、実施例及び比較例に係る各多孔質体の製造条件の概要、並びに、製造された実施例及び比較例に係る各多孔質体のかさ密度及び可視光透過性をまとめたものを下記表1に示す。
【0037】
【0038】
なお、実施例及び比較例に係る各多孔質体の製造に用いた化合物は、次の通りである。
<水溶性バイオポリマー>
・アルギン酸ナトリウム:富士フイルム和光純薬株式会社製、300mPa・s~400mPa・s
・ペクチン:富士フイルム和光純薬株式会社製、かんきつ類由来
・κ‐カラジーナン:富士フイルム和光純薬株式会社製
・カルボキシメチルセルロースナトリウム:富士フイルム和光純薬株式会社製、規格含量6.5%~8.5%(as Na)
<シリコーン化合物の原料>
・トリメトキシメチルシラン:東京化成工業株式会社製
<pH制御剤>
・酢酸(10mM酢酸水溶液):富士フイルム和光純薬株式会社製。加温前の前記水溶液のpHを弱酸性に制御する。
・尿素:富士フイルム和光純薬株式会社製。加温後の前記水溶液のpHを中性ないし弱塩基性に制御する。
<界面活性剤>
・ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(160E.O.)(30P.O.):富士フイルム和光純薬株式会社製
<架橋剤>
・塩化カルシウム二水和物:富士フイルム和光純薬株式会社製
・乳酸カルシウム五水和物:富士フイルム和光純薬株式会社製
・硫酸カリウムアルミニウム12水和物:富士フイルム和光純薬株式会社製
【0039】
(実施例1/水溶性バイオポリマー後架橋工程を経て製造された多孔質体)
前記水溶性バイオポリマー後架橋工程を経て製造された多孔質体の実施例について具体的に説明する。
先ず、前記アルギン酸ナトリウムを10mM酢酸水溶液に溶解させ、濃度Xが10g/Lのアルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。
次に、前記アルギン酸ナトリウム水溶液2.25mLに対し、前記尿素0.75gと、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(160E.O.)(30P.O.)0.25gとを溶解させた後、前記トリメトキシメチルシランを添加量Yを0.934mLとして加え、激しく撹拌して透明な溶液を得た。前記溶液をテフロン(登録商標)製シャーレ(内径30mmφ)に投入し、これをポリプロピレン製容器内に密閉した後、60℃で3日間熟成し、湿潤ゲル(前記シリコーン化合物ゲル)を得た。
次に、前記湿潤ゲルを前記シャーレから取り外し、濃度Zが2g/Lの前記塩化カルシウム二水和物の水溶液75mLに1昼夜浸漬して、前記水溶性バイオポリマーを架橋させ、前記シリコーン化合物及び前記水溶性バイオポリマーの前記架橋体を含む湿潤ゲルを得た(以上、前記水溶性バイオポリマー後架橋工程)。
【0040】
続いて、前記水溶性バイオポリマー後架橋工程により得られた前記湿潤ゲルを水/エタノール=1/1(V/V)混合溶媒に5時間~6時間浸漬し、未反応の架橋剤等を除去した後、エタノールに2日間以上浸漬して溶媒置換を行った。この際、前記エタノールを逐次交換し、前記湿潤ゲル中に含まれる水を除去した。
【0041】
続いて、エタノールへの置換が完了した前記湿潤ゲルについて、以下の手順で超臨界乾燥を行った。
先ず、前記湿潤ゲルを適量のエタノールとともに圧力容器に封入し、50℃まで加温しつつ、二酸化炭素を注入して15MPaまで加圧した。
次に、50℃から60℃まで徐々に加温しつつ、15MPaを保持したまま、二酸化炭素を連続的に注入しながら前記圧力容器内の流体を排出し、6時間~8時間かけてエタノールを抽出した。
次に、抽出後、2時間かけて前記圧力容器内の二酸化炭素を徐々に排出することで常圧まで減圧し、前記圧力容器内に残留する乾燥固体を得た(以上、前記乾燥工程)。
以上により、乾燥固体としての実施例1に係る多孔質体を製造した。
【0042】
(実施例2~15/水溶性バイオポリマー後架橋工程で製造された多孔質体)
実施例1において、前記水溶性バイオポリマーの種類及び濃度X、前記トリメトキシメチルシランの添加量Y、並びに、前記架橋剤の種類及び濃度Zを前掲表1に記載された通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~15に係る各多孔質体を製造した。
【0043】
(実施例16/水溶性バイオポリマー前架橋工程で製造された多孔質体)
前記水溶性バイオポリマー前架橋工程を経て製造された多孔質体の実施例について具体的に説明する。
先ず、前記アルギン酸ナトリウムを10mM酢酸水溶液に溶解させ、濃度Xが10g/Lのアルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。
次に、前記アルギン酸ナトリウム水溶液2.25mLに対し、前記尿素0.75gと、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(160E.O.)(30P.O.)0.25gとを溶解させた後、前記トリメトキシメチルシランを添加量Yを1.245mLとして加え、激しく撹拌して透明な溶液を得た。
次に、前記溶液に対し、濃度Zが2g/Lの前記乳酸カルシウム五水和物の水溶液0.5mLを加え、前記溶液をテフロン製シャーレ(内径30mmφ)に投入し、これをポリプロピレン製密閉容器内に密閉した後、60℃で3日間熟成することで、先行する前記水溶性バイオポリマーの架橋に続いて、加温により前記シリコーン化合物が形成された湿潤ゲル(前記シリコーン化合物ゲル)を得た。
次に、前記湿潤ゲルを前記シャーレから取り外し、洗浄溶媒としての水に1昼夜浸漬して未反応物等を除去し、前記シリコーン化合物及び前記水溶性バイオポリマーの前記架橋体を含む湿潤ゲルを得た(以上、前記水溶性バイオポリマー前架橋工程)。
【0044】
続いて、得られた前記湿潤ゲルに対し、実施例1と同様の前記超臨界乾燥による前記乾燥工程を実施し、実施例16に係る多孔質体を製造した。
【0045】
(実施例17~21/水溶性バイオポリマー前架橋工程で製造された多孔質体)
実施例16において、前記水溶性バイオポリマーの種類及び濃度X、前記トリメトキシメチルシランの添加量Y、並びに、前記架橋剤の種類及び濃度Zを前掲表1に記載された通りに変更したこと以外は、実施例16と同様にして、実施例17~19に係る各多孔質体を製造した。
また、実施例16において、前記水溶性バイオポリマーの種類及び濃度X、前記トリメトキシメチルシランの添加量Y、並びに、前記架橋剤の種類及び濃度Zを前掲表1に記載された通りに変更し、前記洗浄溶媒を水から水/エタノール=1/1(V/V)に変更し、かつ、前記乾燥工程における水/エタノール=1/1への浸漬を省略したこと以外は、実施例16と同様にして、実施例20~21に係る各多孔質体を製造した。
【0046】
(比較例1)
実施例に係る前記各多孔質体と比較するために製造した、前記水溶性バイオポリマーを含まない前記多孔質体(シリコーンエアロゲル)の比較例について具体的に説明する。
先ず、10mM酢酸水溶液2.25mLに対し、前記尿素0.75gと、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(160E.O.)(30P.O.)0.25gとを溶解させた後、前記トリメトキシメチルシランを添加量Yを1.245mLとして加え、激しく撹拌して透明な溶液を得た。
次に、前記溶液をテフロン製シャーレ(内径30mmφ)に投入し、これをポリプロピレン製密閉容器内に密閉した後、60℃で3日間熟成し、前記シリコーン化合物の湿潤ゲルを得た。
次に、前記湿潤ゲルをシャーレから取り外し、洗浄溶媒としての水に1昼夜浸漬した。
続いて、得られた前記湿潤ゲルに対し、実施例1と同様の前記超臨界乾燥による前記乾燥工程を実施し、比較例1に係る多孔質体を製造した。
【0047】
(比較例2)
比較例1において、前記トリメトキシメチルシランの添加量Yを1.245mLから0.934mLに変更したこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2に係る多孔質体を製造した。
【0048】
(多孔質体の特性)
実施例1~21及び比較例1,2に係る各多孔質体に対して、以下の方法で、かさ密度、光透過率、及び赤外吸収スペクトルの測定又は算出を行った。
【0049】
<かさ密度>
かさ密度(g/cm3)は、測定したサンプルの体積及び重量から算出した。
上掲表1に示すように、実施例1~21及び比較例1,2に係る各多孔質体のかさ密度は、実用上求められる0.5g/cm3よりも低い値であり、すべて0.25g/cm3を下回っている。
【0050】
<光透過率>
紫外可視分光光度計(日本分光V―660)を用いてモノリス状サンプルの波長800nmに対する光透過率(%)を測定し、前記光透過率(%)を前記(1)式によって光学密度に換算した。
得られた光学密度をサンプルの厚さ/10mmで除し、厚さ10mmあたりの光学密度を算出した後、再び前記(1)式を用いて厚さ10mmあたりの光透過率に換算した。
なお、前記かさ密度及び前記光透過率の特性に関し、得られる多孔質体の特性ばらつきを考慮して、実施例3,6,19に係る各多孔質体の特性は、2つの試料平均で評価し、実施例1,4,11~14及び比較例2に係る各多孔質体の特性は、3つの試料平均で評価し、実施例2,5,20,21及び比較例1に係る各多孔質体の特性は、5つの試料平均で評価し、これらの平均値を前掲表1に記載している。
【0051】
上掲表1に示すように、実施例1~21に係る各多孔質体は、全て可視光透過性を有し、均質な多孔質構造の形成を確認することができる。
ここで、実施例1~21及び比較例1,2に係る各多孔質体の外観を
図2に示す。
該
図2に示すように実施例1~21に係る各多孔質体は、最も不透明なものでも、背景の文字が確認される程度の透明性を有する。
【0052】
<赤外吸収スペクトル>
粉体化した前記多孔質体と臭化カリウム粉体を混合して成形したペレットを検体とし、フーリエ変換赤外吸光分光光度計(日本分光製FT/IR-4600)を用いて赤外吸収スペクトルを測定した。
【0053】
代表的な実施例として実施例2,5~7,10~15,17,19~21に係る各多孔質体、及び、比較例1,2に係る各多孔質体の赤外吸収スペクトルを
図3に示す。
該
図3に示すように、実施例に係る各多孔質体では、波数1,600cm
-1~1,650cm
-1付近のカルボキシル基の振動に帰属されるピークの相対強度が、比較例1,2に係る多孔質体における相対強度に比べて増大しており、実施例に係る各多孔質体に前記水溶性バイオポリマーが導入されたことが確認される。
なお、一般に、κ‐カラジーナンを構成する主成分のモノマーにはカルボキシル基が含まれていないが、使用したκ‐カラジーナン試薬が当該波数にピークを持つことを確認している。当該試薬が天然物由来であることから、前記試薬の一部には、カルボキシル基が含まれていると推測でき、結果として、実施例13,14,21に係る各多孔質体にκ‐カラジーナンの前記水溶性バイオポリマーが導入されたことが推測される。
なお、複数の試料を製造した実施例及び比較例に係る各多孔質体については、1つの試料を選択して赤外吸収スペクトルの測定を実施した。
【0054】
<水滴接触角>
実施例5及び比較例1に係る各多孔質体に対し、水滴接触角等の測定を行った。
自動接触角計(協和界面科学製DMs-401)を用いて、モノリス状の前記多孔質体に超純水1μLを滴下し、滴下直後の水滴の形状を撮影した。得られた画像から、θ/2法を用いて接触角を測定した。また、滴下後10秒間水滴を保持した後再度接触角を測定し、接触角保持率を算出した。なお、前記接触角保持率は、下記(2)式により求めることができる。
接触角保持率=(滴下10秒後の接触角/滴下直後の接触角)×100% (2)
【0055】
実施例5及び比較例1に係る各多孔質体に対する水滴接触角の測定結果を
図4に示す。
該
図4に示すように、実施例5及び比較例1に係る多孔質体は、どちらも、水滴をはじく結果となった。
また、算出された水滴接触角は、実施例5に係る多孔質体で127°であり、比較例1で125°であった。
また、水滴を10秒間保持した際の接触角保持率は、実施例5に係る多孔質体で100%であり、比較例1に係る多孔質体で98%であった。
以上から、実施例5及び比較例1に係る多孔質体は、ともに水滴が多孔質体内部に浸透せず、実用上求められる疎水性を有する。
なお、実施例5及び比較例1に係る各多孔質体については、それぞれ、5つの試料を製造しており、前記水滴接触角等の測定は、これら試料の中から1つを選択して実施した。
【0056】
<曲げ耐性>
実施例5及び比較例1に係る各多孔質体に対し、曲げ耐性の測定を行った。
具体的には、卓上万能試験機(島津製作所製EZ-LX 5kN)を用いて、以下の3点曲げ試験を行った。
支点間距離を22mmとし、支点治具の半径Rを2mmとし、押込治具の半径Rを5mmとし、幅11mm~12mm、厚み4mm~5mmの短冊状に加工した多孔質体を検体とした。
異なるバッチによるかさ密度のばらつきがある程度避けられないこと、かつ、機械特性がかさ密度に鋭敏に依存することから、実施例5と比較例1を異なるバッチでそれぞれ3検体ずつ作製し、計6検体の3点曲げ試験を行った。これらの結果を、かさ密度とともに
図5に示す。
該
図5に示すように、実施例5に係る多孔質体では、曲げにより破砕するまでの変形量と応力値とが、かさ密度によるばらつきを考慮したうえでも、比較例1に係る多孔質体のそれを上回る結果が得られている。
即ち、実施例5に係る多孔質体では、前記水溶性バイオポリマーを導入することで、比較例1に係る多孔質体よりも、曲げ変形に対する強さが向上している。
【0057】
<多孔質構造>
多孔質体の微視的構造を走査型電子顕微鏡(日立製作所製、SU―9000)を用いて観察した結果について説明する。
図6中に、代表的な比較例として、比較例1に係る多孔質体の走査型電子顕微鏡写真を示す(
図6中の(a)参照)。
この
図6に示されるように、比較例1に係る多孔質体では、前記架橋体(前記シリコーン化合物)が直径10nm~30nm程度の繊維状体として緻密に絡み合って立体架橋された多孔質構造を有することを確認することができる。
また、併せて、
図6中に、代表的な実施例として、実施例5,12,13,15,19~21に係る各多孔質体の走査型電子顕微鏡写真を示す(
図6中の(b)~(h)参照)。
この
図6に示されるように、実施例5,12,13,15,19~21に係る各多孔質体でも、比較例1に係る多孔質体と同様に、前記架橋体(前記シリコーン化合物及び前記水溶性バイオポリマーの架橋体)が直径10nm~30nm程度の繊維状体として緻密に絡み合って立体架橋された多孔質構造を有することを確認することができる。
即ち、前記水溶性バイオポリマーを導入した実施例に係る各多孔質体では、これを導入しない比較例1に係る多孔質体(シリコーンエアロゲル)に匹敵する緻密な多孔質構造が得られている。
つまり、本発明に係る多孔質体は、前記シリコーンエアロゲルにおける緻密な多孔質構造が維持されると同時に、前記シリコーンエアロゲルでは得ることができない有利な特性(曲げ耐性等)が付加され得る。