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特開2024-89622発光粉体、発光粉体の製造方法、インク組成物、光変換層、カラーフィルター及び波長変換フィルム、並びに発光スペクトルのピーク波長の調整方法
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  • 特開-発光粉体、発光粉体の製造方法、インク組成物、光変換層、カラーフィルター及び波長変換フィルム、並びに発光スペクトルのピーク波長の調整方法 図1
  • 特開-発光粉体、発光粉体の製造方法、インク組成物、光変換層、カラーフィルター及び波長変換フィルム、並びに発光スペクトルのピーク波長の調整方法 図2
  • 特開-発光粉体、発光粉体の製造方法、インク組成物、光変換層、カラーフィルター及び波長変換フィルム、並びに発光スペクトルのピーク波長の調整方法 図3
  • 特開-発光粉体、発光粉体の製造方法、インク組成物、光変換層、カラーフィルター及び波長変換フィルム、並びに発光スペクトルのピーク波長の調整方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089622
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】発光粉体、発光粉体の製造方法、インク組成物、光変換層、カラーフィルター及び波長変換フィルム、並びに発光スペクトルのピーク波長の調整方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20240626BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20240626BHJP
   C09K 11/74 20060101ALI20240626BHJP
   C09K 11/85 20060101ALI20240626BHJP
   C09K 11/68 20060101ALI20240626BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20240626BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20240626BHJP
   C09K 11/67 20060101ALI20240626BHJP
   C09K 11/87 20060101ALI20240626BHJP
   C09K 11/75 20060101ALI20240626BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20240626BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20240626BHJP
   C09D 11/50 20140101ALI20240626BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C09K11/08 J
C09K11/08 G
C09K11/61
C09K11/74
C09K11/85
C09K11/68
C09K11/62
C09K11/66
C09K11/67
C09K11/87
C09K11/75
C09K11/88
C09K11/08 A
C09D11/106
C09D11/50
G02B5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176704
(22)【出願日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2022204883
(32)【優先日】2022-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】延藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】野中 祐貴
【テーマコード(参考)】
2H148
4H001
4J039
【Fターム(参考)】
2H148AA07
4H001CA02
4H001CA05
4H001CC11
4H001CF01
4H001XA01
4H001XA03
4H001XA06
4H001XA07
4H001XA09
4H001XA11
4H001XA12
4H001XA17
4H001XA19
4H001XA20
4H001XA21
4H001XA22
4H001XA23
4H001XA24
4H001XA25
4H001XA26
4H001XA27
4H001XA28
4H001XA29
4H001XA30
4H001XA31
4H001XA32
4H001XA35
4H001XA37
4H001XA38
4H001XA40
4H001XA41
4H001XA42
4H001XA44
4H001XA45
4H001XA46
4H001XA47
4H001XA49
4H001XA50
4H001XA51
4H001XA52
4H001XA53
4H001XA55
4H001XA58
4H001XA62
4H001XA63
4H001XA72
4H001XA73
4H001XA74
4H001XA75
4H001XA76
4H001XA77
4H001XA79
4H001XA82
4H001XA83
4J039AD21
4J039BA10
4J039BA34
4J039BA39
4J039BC20
4J039BC56
4J039BE01
4J039BE27
4J039CA07
4J039EA27
4J039EA28
4J039FA04
4J039GA34
(57)【要約】
【課題】発光波長の精密な調整が可能であり、熱や水分等への耐久性に優れ発光特性の変化が少なく、長期保存性に優れる、ナノ結晶を含む発光粉体、前記発光粉体の製造方法、前記発光粉体を含むインク組成物及び前記インク組成物の硬化物からなる光変換層、並びに前記光変換層を備えたカラーフィルター及び波長変換フィルムを提供すること。
【解決手段】メタルハライドからなる第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第1の発光性粒子と、メタルハライドからなる第2の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第2の発光性粒子とを含有する、発光粉体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタルハライドからなる第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第1の発光性粒子と、
メタルハライドからなる第2の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第2の発光性粒子とを含有する、発光粉体。
【請求項2】
前記第1の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長と、前記第2の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長との差の絶対値が10~60nmの範囲である、請求項1に記載の発光粉体。
【請求項3】
前記第1の半導体ナノ結晶及び前記第2の半導体ナノ結晶が、一般式Aで表される化合物からなり、
前記AがCs、Rb、K、Na、Liメチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、アンモニウム、グアニジニウム、2-フェニルエチルアンモニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム及びベンジルトリエチルアンモニウムからなる群から選ばれる1つ以上の陽イオンを表し、
前記BがAg、Au、Bi、Ca、Ce、Co、Cr、Cu、Eu、Fe、Ga、Ge、Hf、In、Ir、Mg、Mn、Mo、Na、Nb、Nd、Ni、Os、Pb、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Sb、Sc、Sm、Sn、Sr、Ta、Tb、Te、Ti、V、W、Yb、Zn及びZrからなる群から選ばれる金属カチオンを表し、
前記XがF、Cl、Br及びIからなる群から選ばれる1つ以上のハロゲン化物イオンを表し、
aが1~7の正数を表し、bが1~4の正数を表し、cが1~16の正数を表す、請求項1に記載の発光粉体。
【請求項4】
前記第1の半導体ナノ結晶及び前記第2の半導体ナノ結晶が、ペロブスカイト型結晶構造を有する、請求項1に記載の発光粉体。
【請求項5】
メタルハライドからなる第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第1の発光性粒子と、メタルハライドからなる第2の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第2の発光性粒子とを含有した発光粉体の製造方法であって、
前記第1の半導体ナノ結晶を合成可能な第1の原料化合物と、前記第1の半導体ナノ結晶の表面に結合可能な結合性基及び加水分解性シリル基を有する第1のシラン化合物と、溶媒とを含む溶液から、前記第1の半導体ナノ結晶を形成しつつ当該半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を形成することにより、前記第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層を備えた第1の前駆体粒子を得る工程と、
前記第2の半導体ナノ結晶を合成可能な第2の原料化合物と、前記第2の半導体ナノ結晶の表面に結合可能な結合性基及び加水分解性シリル基を有する第2のシラン化合物と、溶媒とを含む溶液から、前記第2の半導体ナノ結晶を形成しつつ当該半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を形成することにより、前記第2の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層を備えた第2の前駆体粒子を得る工程と、
前記第1の前駆体粒子と前記第2の前駆体粒子とを混合する工程と、
得られた前駆体粒子混合物に、加水分解性シリル基を有し前記第1のシラン化合物及び前記第2のシラン化合物とは異なる第3のシラン化合物を混合し、前記第1の前駆体粒子及び前記第2の前駆体粒子の表面にシロキサン結合を形成することにより、前記第1の半導体ナノ結晶の表面に前記表面層を備えた第1の発光性粒子と、前記第2の半導体ナノ結晶の表面に前記表面層を備えた第2の発光性粒子とを含有した発光粉体を得る工程とを備えた、発光粉体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の発光粉体と、光重合性化合物と、光重合開始剤とを含むインク組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のインク組成物の硬化物からなる、光変換層。
【請求項8】
請求項7に記載の光変換層を備えた、カラーフィルター。
【請求項9】
請求項7に記載の光変換層を備えた、波長変換フィルム。
【請求項10】
メタルハライドからなる第1の半導体ナノ結晶を含む第1の発光性粒子を含有する分散液と、メタルハライドからなる第2の半導体ナノ結晶を含み、前記第1の発光性粒子とは発光スペクトルのピーク波長が異なる第2の発光性粒子を含有する分散液とを混合することにより、得られた混合分散液における発光スペクトルのピーク波長を、前記第1の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長と前記第2の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長との間の所望の位置に調整する、発光スペクトルのピーク波長の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光粉体、該発光粉体の製造方法、該発光粉体を含有するインク組成物、該インク組成物の硬化物からなる光変換層、カラーフィルター及び波長変換フィルム、並びに発光スペクトルのピーク波長の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の表示素子に要求される国際規格BT.2020を満たす発光材料として、半導体性のナノ結晶が注目されており、例えば量子ドット、量子ロッド、その他の無機蛍光体粒子等の発光性ナノ結晶を用いて赤色光又は緑色光を取り出す光変換シートやカラーフィルター画素部のような光変換層、また発光性ナノ結晶をバックライトに用いた表示デバイスや照明装置が提案されている。
発光性ナノ結晶は蛍光又は燐光を発し、発光スペクトルの半値幅が狭いという特徴がある。現在主流のコアシェル型量子ドットでは、当初CdSe等を使用していたが、Cdによる有害性を回避するため、最近ではInP等が用いられている。しかし、粒子としての安定性が低く、安定化改善に向けた検討が精力的に進められている。また、コアシェル型量子ドットは、その粒子サイズにより発光波長が決まるため、半値幅の狭い発光を得るためには粒子径の分散度を精密に制御する必要があり、その生産には課題が多い。
【0003】
一方、近年、ペロブスカイト型結晶構造をもつ量子ドットが見出され注目を集めている。例えば、一般式CsPbX(Xはハロゲン原子のアニオンを表す。)で示される、ペロブスカイト型結晶構造を有する、セシウムと鉛とハロゲンとからなるメタルハライドであるナノ結晶は、ハロゲン原子の種類とその存在割合を調整することにより発光波長を制御できる利点があり、発光材料としての物性に優れることが非特許文献1に開示されている。また、粒子サイズの制御がInP量子ドット等に比べ容易であり、生産性面で有利である。特許文献1には、ペロブスカイト型結晶構造を有する発光性結晶とアクリレートポリマー由来の固体ポリマー含有組成物及び発光性部品が開示されている。一般的に、ペロブスカイト型結晶構造を有する発光性ナノ結晶は、ホットインジェクション法、リガンド支援再沈殿(LARP(Ligand-Assisted Reprecipitation)法により合成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/028870号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nano Letters,2015,15,3692-3696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、所望の発光波長を備えた発光性粒子を得るのは困難であるという不都合がある。例えば、半導体ナノ結晶を合成する際に2種類のカチオン種を用いてメタルハライド化合物の組成を調整することにより、発光性粒子の発光波長を制御することが考えられる。しかし、カチオン種毎に結晶成長速度が異なるため、所望の組成のメタルハライド化合物からなるナノ結晶を合成することが困難である上に、そのようなナノ結晶を合成したとしても所望の発光波長を得られないことがある。さらに、ペロブスカイト型結晶構造を有するナノ結晶は、水分や酸素の存在下で光や熱により劣化しやすいという不都合がある。
【0007】
本発明の目的は、発光波長の精密な調整が可能であり、熱や水分等への耐久性に優れ、長期保存性に優れる、ナノ結晶を含む発光粉体を提供することにある。
本発明の目的はまた、かかる発光粉体の製造方法、かかる発光粉体を含むインク組成物及び前記インク組成物の硬化物からなる光変換層、並びに前記光変換層を備えたカラーフィルター及び波長変換フィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、発光スペクトルのピーク波長の精密かつ簡便な調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] メタルハライドからなる第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第1の発光性粒子と、
メタルハライドからなる第2の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第2の発光性粒子とを含有する、発光粉体。
[2] 前記第1の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長と、前記第2の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長との差の絶対値が10~60nmの範囲である、[1]に記載の発光粉体。
[3] 前記第1の半導体ナノ結晶及び前記第2の半導体ナノ結晶が、一般式Aで表される化合物からなり、
前記AがCs、Rb、K、Na、Li、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、アンモニウム、グアニジニウム、2-フェニルエチルアンモニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム及びベンジルトリエチルアンモニウムからなる群から選ばれる1つ以上の陽イオンを表し、
前記BがAg、Au、Bi、Ca、Ce、Co、Cr、Cu、Eu、Fe、Ga、Ge、Hf、In、Ir、Mg、Mn、Mo、Na、Nb、Nd、Ni、Os、Pb、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Sb、Sc、Sm、Sn、Sr、Ta、Tb、Te、Ti、V、W、Yb、Zn及びZrからなる群から選ばれる金属カチオンを表し、
前記XがF、Cl、Br及びIからなる群から選ばれる1つ以上のハロゲン化物イオンを表し、
aが1~7の正数を表し、bが1~4の正数を表し、cが1~16の正数を表す、[1]又は[2]に記載の発光粉体。
[4] 前記第1の半導体ナノ結晶及び前記第2の半導体ナノ結晶が、ペロブスカイト型結晶構造を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の発光粉体。
【0009】
[5] メタルハライドからなる第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第1の発光性粒子と、メタルハライドからなる第2の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第2の発光性粒子とを含有した発光粉体の製造方法であって、
前記第1の半導体ナノ結晶を合成可能な第1の原料化合物と、前記第1の半導体ナノ結晶の表面に結合可能な結合性基及び加水分解性シリル基を有する第1のシラン化合物と、溶媒とを含む溶液から、前記第1の半導体ナノ結晶を形成しつつ当該半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を形成することにより、前記第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層を備えた第1の前駆体粒子を得る工程と、
前記第2の半導体ナノ結晶を合成可能な第2の原料化合物と、前記第2の半導体ナノ結晶の表面に結合可能な結合性基及び加水分解性シリル基を有する第2のシラン化合物と、溶媒とを含む溶液から、前記第2の半導体ナノ結晶を形成しつつ当該半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を形成することにより、前記第2の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層を備えた第2の前駆体粒子を得る工程と、
前記第1の前駆体粒子と前記第2の前駆体粒子とを混合する工程と、
得られた前駆体粒子混合物に、加水分解性シリル基を有し前記第1のシラン化合物及び前記第2のシラン化合物とは異なる第3のシラン化合物を混合し、前記第1の前駆体粒子及び前記第2の前駆体粒子の表面にシロキサン結合を形成することにより、前記第1の半導体ナノ結晶の表面に前記表面層を備えた第1の発光性粒子と、前記第2の半導体ナノ結晶の表面に前記表面層を備えた第2の発光性粒子とを含有した発光粉体を得る工程とを備えた、発光粉体の製造方法。
[6][1]~[4]のいずれかに記載の発光粉体と、光重合性化合物と、光重合開始剤とを含むインク組成物。
[7] [6]に記載のインク組成物の硬化物からなる、光変換層。
[8] [7]に記載の光変換層を備えた、カラーフィルター。
[9] [7]に記載の光変換層を備えた、波長変換フィルム。
【0010】
[10] メタルハライドからなる第1の半導体ナノ結晶を含む第1の発光性粒子を含有する分散液と、メタルハライドからなる第2の半導体ナノ結晶を含み、前記第1の発光性粒子とは発光スペクトルのピーク波長が異なる第2の発光性粒子を含有する分散液とを混合することにより、得られた混合分散液における発光スペクトルのピーク波長を、前記第1の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長と前記第2の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長との間の所望の位置に調整する、発光スペクトルのピーク波長の調整方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発光波長の精密な調整が可能であり、熱や水分等への耐久性に優れ発光特性の変化が少なく長期保存性に優れる、ナノ結晶を含む発光粉体、前記発光粉体の製造方法、前記発光粉体を含むインク組成物及び前記インク組成物の硬化物からなる光変換層、並びに前記光変換層を備えたカラーフィルター及び波長変換フィルムを提供できる。
また、本発明によれば、発光スペクトルのピーク波長の精密かつ簡便な調整方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る光変換層を備える積層構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明に係る光変換層を備える発光素子の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図3】アクティブマトリックス回路の構成を示す概略図である。
図4図3に示すアクティブマトリックス回路の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.発光粉体
本発明の発光粉体は、メタルハライドからなる第1の半導体ナノ結晶(以下、「第1の半導体ナノ結晶」とも記す。)の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第1の発光性粒子と、メタルハライドからなる第2の半導体ナノ結晶(以下、「第2の半導体ナノ結晶」とも記す。)の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第2の発光性粒子とを含有する。
本発明の発光粉体は、後述するように、例えば、発光ダイオード(LED)等の表示素子に用いられる光変換層を形成する波長変換材料として好適に使用できる。
【0014】
本発明の発光粉体は、所定の波長の光を吸収することにより、吸収した波長とは異なる波長の光(蛍光又は燐光)を発することができる、発光性を有する半導体ナノ結晶を含む発光性粒子を複数含有する。ここで、発光性とは、電子の励起により発光する性質であることが好ましく、励起光が照射されたときに、ナノ結晶に含まれる電子が基底状態から励起状態に励起されて、基底状態に戻る際に発光を生じる性質であるのがより好ましい。
【0015】
本発明の発光粉体において、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子として、互いにその発光スペクトルのピーク波長が異なるものを用いる。なお、本実施形態では、発光粉体が2種の発光性粒子を含有するとしているが、発光スペクトルのピーク波長が互いに異なる発光性粒子を3種以上含有してもよい。
【0016】
第1の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長と第2の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長との差の絶対値は、10~60nmの範囲であるのが好ましい。その場合には、例えば、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子の両方に、500~560nmの範囲に発光スペクトルのピーク波長を有する光(緑色光)を発する、緑色発光性のナノ結晶を含む発光性粒子を用いることが好ましい。また、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子の両方に、605~665nmの範囲に発光スペクトルのピーク波長を有する光(赤色光)を発する、赤色発光性のナノ結晶を含む発光性粒子を用いることが好ましい。第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子の両方に、420~495nmの範囲に発光スペクトルのピーク波長を有する光(青色光)を発する、青色発光性のナノ結晶を含む発光性粒子を用いることが好ましい。
【0017】
本発明の発光粉体は、第1の発光性粒子と第2の発光性粒子とを含有することから、第1の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長と第2の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長との間に位置する発光スペクトルのピーク波長を呈する。このとき、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子の含有量を調整することにより、発光粉体の発光スペクトルのピーク波長を所望の値に精密かつ簡便に調整することができる。
【0018】
<メタルハライドからなる半導体ナノ結晶>
本発明において、第1の半導体ナノ結晶及び第2の半導体ナノ結晶は、いずれも、メタルハライドからなる半導体ナノ結晶(以下、単に「ナノ結晶」とも記すことがある。)であり、励起光を吸収して蛍光又は燐光を発光するナノサイズの結晶体(ナノ結晶粒子)である。かかるナノ結晶は、例えば、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定される最大粒子径が100nm以下である結晶体である。ナノ結晶は、例えば、所定の波長の光エネルギーや電気エネルギーにより励起され、蛍光又は燐光を発することができる。また、メタルハライドからなる量子ドットであるナノ結晶は、半値幅がより狭い発光を得ることができる。
【0019】
第1の半導体ナノ結晶及び第2の半導体ナノ結晶は、互いに異なる組成を有してもよく、同一組成であってもよいが、いずれも、一般式:Aで表される化合物である。ここで、aは、1~7の正数であり、bは、1~4の正数であり、cは、1~16の正数である。
一般式:Aで表される化合物の具体例としては、AMX、AMX、AMX、AMX、AMX、AM、AMX、AMX、AMX、A、AMX、AMX、AM、AMX、A、AMX、A、A、A10、A16で表される化合物が好ましい。
【0020】
上記式中、Aは1価の陽イオンを表し、有機カチオン及び金属カチオンのうちの少なくとも1種である。有機カチオンとしては、アンモニウム、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、プロトン化チオウレア等が挙げられ、金属カチオンとしては、Cs、Rb、K、Na、Li等のカチオンが挙げられる。
Mは少なくとも1種の金属カチオンを表す。具体的には、1種の金属カチオン(M)、2種の金属カチオン(M α β)、3種の金属カチオン(M α β γ)、4種の金属カチオン(M α β γ δ)等が挙げられる。但し、α、β、γ、δは、それぞれ0~1の実数を表し、かつα+β+γ+δ=1を表す。Mが表す金属カチオンとしては、1族、2族、3族、4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、13族、14族、15族から選ばれる金属カチオンが挙げられる。より好ましくは、Ag、Au、Bi、Ca、Ce、Co、Cr、Cu、Eu、Fe、Ga、Ge、Hf、In、Ir、Mg、Mn、Mo、Na、Nb、Nd、Ni、Os、Pb、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Sb、Sc、Sm、Sn、Sr、Ta、Te、Ti、V、W、Zn、Zr等のカチオンが挙げられる。
Xは少なくとも1種のハロゲンを含むアニオンを表し、具体的には、1種又は2種以上のハロゲン化物アニオンを含む。Xとして2種以上のアニオンが共存する場合、その共存比には特に制限はない。かかるアニオンとしてはF、Cl、Br、I等のハロゲン化物イオンが挙げられる。
ナノ結晶は、その粒子サイズ、Xサイトを構成するアニオンの種類及び存在割合を調整することにより、発光波長(発光色)を制御できる。また、ナノ結晶は、発光特性をより向上させる観点から、Bi、Mn、Ca、Eu、Sb、Ybなどの金属イオンが添加(ドープ)されたものであってもよい。
【0021】
上記一般式:Aで表されるナノ結晶の中でも、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物は、その粒子サイズ、Mサイトを構成する金属カチオンの種類及び存在割合を調整し、さらにXサイトを構成するアニオンの種類及び存在割合を調整することにより、発光波長(発光色)を制御できる点で、ナノ結晶として特に好ましい。
具体的には、優れた発光特性を有する観点から、AMX、AMX、AMX、AMX、AMXで表される化合物が好ましく、発光特性と合成の容易さの観点から、AMXがより好ましい。好ましい。式中のA、M及びXは上記のとおりである。また、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物は、上述のように、Bi、Mn、Ca、Eu、Sb、Ybなどの金属イオンが添加(ドープ)されたものであってもよい。
【0022】
ペロブスカイト型結晶構造を示す化合物の中でも、合成の容易さ、良好な発光特性及び結晶構造の堅牢性の観点から、AはCs、Rb、K、Na、Li、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウムからなる群から選ばれる陽イオンであることが好ましく、Cs、Rb、メチルアンモニウム及びホルムアミジニウムから選ばれる陽イオンがより好ましく、Cs及びホルムアミジニウムから選ばれる陽イオンがさらに好ましい。
Mは1種の金属カチオン(M)、又は2種の金属カチオン(M α β(但し、αとβはそれぞれ0~1の実数を表し、α+β=1を表す。))であり、合成の容易さ、良好な発光特性及び結晶構造の堅牢性の観点から、Pb、Sn、Ge、Bi、Sb、Ag、In、Cu、Yb、Ti、Pd、Mn、Eu、Zr及びTbからなる群から選ばれる金属カチオンであることが好ましく、Pb、Sn、Bi、Sb、Ag、In、Cu、Mn及びZrからなる群から選ばれる金属カチオンがより好ましく、Pb、Sn及びCuからなる群から選ばれる金属カチオンがさらに好ましく、2価のPbカチオンが特に好ましい。
XはF、Cl、Br、Iからなる群から選ばれるハロゲン化物イオンであることが好ましく、合成の容易さ、良好な発光特性及び結晶構造の堅牢性の観点から、Cl、Br、Iからなる群から選ばれるハロゲン化物イオンがより好ましく、Br、Iからなる群から選ばれるハロゲン化物イオンがさらに好ましく、Brが特に好ましい。
【0023】
ペロブスカイト型結晶構造を有するナノ結晶の具体的な組成として、CsPbBr、(CHNH)PbBr、(CHN)PbBr、CsPbI、(CHNH)PbI、(CHN)PbI、CsPb(Br/I)、(CHNH)Pb(Br/I)、(CHN)Pb(Br/I)等の、MとしてPbを用いたナノ結晶は、光強度に優れると共に量子効率に優れることから、好ましい。また、CsSnBr、CsSnCl、CsSnBr1.5Cl1.5、CsSbBr、(CHNHBiBr、(CNHAgBiBr、CsCu95等のMとしてPb以外の金属カチオンを用いたナノ結晶は、低毒性であって環境への影響が少ないことから、好ましい。
【0024】
ナノ結晶として、605~665nmの波長範囲に発光ピークを有する光(赤色光)を発する赤色発光性の結晶、500~560nmの波長範囲に発光ピークを有する光(緑色光)を発する緑色発光性の結晶、420~480nmの波長範囲に発光ピークを有する光(青色)を発する青色発光性の結晶等を選択して用いることができる。
なお、ナノ結晶の発光ピークの波長は、例えば、絶対PL量子収率測定装置を用いて測定される蛍光スペクトル又は燐光スペクトルにおいて確認できる。
【0025】
赤色発光性のナノ結晶は、665nm以下、663nm以下、660nm以下、658nm以下、655nm以下、653nm以下、651nm以下、650nm以下、647nm以下、645nm以下、643nm以下、640nm以下、637nm以下、635nm以下、632nm以下又は630nm以下の波長範囲に発光ピークを有することが好ましく、628nm以上、625nm以上、623nm以上、620nm以上、615nm以上、610nm以上、607nm以上又は605nm以上の波長範囲に発光ピークを有することが好ましい。
これらの上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。なお、以下の同様の記載においても、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0026】
緑色発光性のナノ結晶は、560nm以下、557nm以下、555nm以下、550nm以下、547nm以下、545nm以下、543nm以下、540nm以下、537nm以下、535nm以下、532nm以下又は530nm以下の波長範囲に発光ピークを有することが好ましく、528nm以上、525nm以上、523nm以上、520nm以上、515nm以上、510nm以上、507nm以上、505nm以上、503nm以上又は500nm以上の波長範囲に発光ピークを有することが好ましい。
【0027】
青色発光性のナノ結晶は、480nm以下、477nm以下、475nm以下、470nm以下、467nm以下、465nm以下、463nm以下、460nm以下、457nm以下、455nm以下、452nm以下又は450nm以下の波長範囲に発光ピークを有することが好ましく、450nm以上、445nm以上、440nm以上、435nm以上、430nm以上、428nm以上、425nm以上、422nm以上又は420nm以上の波長範囲に発光ピークを有することが好ましい。
【0028】
ナノ結晶の形状は、特に限定されず、任意の幾何学的形状であってもよく、任意の不規則な形状であってもよい。ナノ結晶の形状としては、例えば、直方体状、立方体状、球状、正四面体状、楕円体状、角錐形状、ディスク状、枝状、網状、ロッド状等が挙げられる。ナノ結晶の形状は、直方体状、立方体状又は球状が好ましい。
【0029】
ナノ結晶の平均粒子径(体積平均径)は、40nm以下であることが好ましく、30nm以下がより好ましく、20nm以下がさらに好ましく、15nm以下が特に好ましい。また、ナノ結晶の平均粒子径は、1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上がより好ましく、2nm以上がさらに好ましく、3nm以上が特に好ましい。かかる平均粒子径を有するナノ結晶は、所望の発光波長を得ることができると共に、ナノ結晶の凝集による二次粒子の形成を抑制でき、蛍光量子収率、輝度及び色再現性の低下を抑制できる。
なお、ナノ結晶の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)又はX線回折装置(XRD)等によってナノ結晶の粒径を測定し、体積基準の平均粒径を算出して得られる。
【0030】
<シロキサン結合を有する構造を含む表面層>
本発明の発光粉体を構成する第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子は、それぞれ、第1の半導体ナノ結晶又は第2の半導体ナノ結晶の表面に、シロキサン結合を有する構造を含む表面層を備える。換言すれば、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子は、それぞれ第1の半導体ナノ結晶又は第2の半導体ナノ結晶をコアとし、その表面の少なくとも一部に、シロキサン結合を含む表面層をシェルとして備えている。
表面層は、シロキサン結合を有する構造を層として1層有してもよく、複数層有してもよい。第1の半導体ナノ結晶及び第2の半導体ナノ結晶の水分や酸素に対する安定性、耐光性等を向上でき、本発明の発光粉体の耐光性及び長期保存性等を向上できる観点から、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子はシロキサン結合を有する構造を複数層備えることがより好ましい。
【0031】
以下、第1の半導体ナノ結晶の表面に、第1のシラン化合物に起因するシロキサン結合を有する構造と、第1のシラン化合物とは異なる第3のシラン化合物に起因するシロキサン結合を有する構造とを備えた第1の発光性粒子の構成について説明する。
第1の半導体ナノ結晶に近い側から順に、第1のシラン化合物に起因するシロキサン結合を有する構造を「第1のシェル層」とし、第3のシラン化合物に起因するシロキサン結合を有する構造を「第2のシェル層」とする。第2の発光性粒子が第1のシェル層と第2のシェル層を備える場合、第2の発光性粒子は、第2の半導体ナノ結晶の表面に、第2のシラン化合物に起因するシロキサン結合を有する構造と、第2のシラン化合物とは異なる第3のシラン化合物に起因するシロキサン結合を有する構造とを備えるが、第2のシラン化合物は第1のシラン化合物と同一であってもよく、異なっていてもよい。第2の発光性粒子の構成は、第1の発光性粒子の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0032】
[第1のシェル層]
第1のシェル層は、ナノ結晶の表面に配位可能で、かつ分子同士がシロキサン結合を形成可能な反応性基を有する第1のシラン化合物を含む。第1のシェル層は、第1のシラン化合物に加えて、ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基を有する化合物をさらに含むことが好ましい。
【0033】
第1のシラン化合物における、シロキサン結合を形成可能な反応性基としては、シロキサン結合を容易に形成できる観点から、シラノール基、炭素原子数が1~6のアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基が好ましく、シラノール基、炭素原子数が1~2のアルコキシシリル基がより好ましい。換言すれば、第1のシラン化合物は、ナノ結晶の表面に結合可能な結合性基及び加水分解性シリル基を有するシラン化合物である。
第1のシラン化合物が有する結合性基としては、上述した結合性基が挙げられ、中でもカルボキシル基、メルカプト基及びアミノ基の少なくとも1種が好ましい。これらの結合性基は加水分解性シリル基よりも、ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに対する親和性が高いため、第1のシラン化合物は結合性基をナノ結晶側にして配位する。そして、第1のシラン化合物が有する加水分解性シリル基の縮合によりシロキサン結合を形成させることで、第1のシェル層をより容易かつ確実に形成できる。
第1のシラン化合物としては、カルボキシル基含有シラン化合物、アミノ基含有シラン化合物、メルカプト基含有シラン化合物が好ましい。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0034】
カルボキシル基含有シラン化合物としては、例えば3-(トリメトキシシリル)プロピオン酸、3-(トリエトキシシリル)プロピオン酸、2-カルボキシエチルフェニルビス(2-メトキシエトキシ)シラン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N’-カルボキシメチルエチレンジアミン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]フタルアミド、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸、(6-トリエトキシシリル)-3-[[[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミノ]カルボニル]ヘキサン酸等が挙げられる。
【0035】
アミノ基含有シラン化合物としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジプロポキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジイソプロポキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリプロポキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチルジメチルメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-11-アミノウンデシルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルシラントリオール、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリイソプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェニルトリイソプロポキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルメチルジメトキシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-N-γ-(N-ビニルベンジル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-N-γ-(N-ビニルベンジル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジメチルベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ベンジルアミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリイソプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリイソプロポキシシラン、N-[2-[3-(トリメトキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン、N-[2-[3-(トリエトキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン、N-[2-[3-(トリプロポキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン、N-[2-[3-(トリイソプロポキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン等が挙げられる。
【0036】
メルカプト基含有シラン化合物としては、例えば3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、2-メルカプトエチルメチルジエトキシシラン、3-[エトキシビス(3,6,9,12,15-ペンタオキサオクタコサン-1-イルオキシ)シリル]-1-プロパンチオール等が挙げられる。
【0037】
ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基としては、例えばカルボキシル基、カルボン酸無水物基、アミノ基、アンモニウム基、メルカプト基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、スルホン酸基、ボロン酸基及びそれらの塩のうちの少なくとも1種が挙げられる。中でも、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、スルホン酸基、ホスホン酸基及びそれらの塩のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基を有する化合物である、第1のシラン化合物ではない配位子として、具体的にはカルボキシル基含有化合物、アミノ基含有化合物、メルカプト基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物及びそれらの塩が好ましい。これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子の安定性を向上させる観点からは、第1のシラン化合物ではないカルボキシル基含有化合物、アミノ基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物及びそれらの塩の1種以上と、第1のシラン化合物の1種以上を用いることが好ましい。
配位子は、ナノ結晶の合成時に共存させるか、又はナノ結晶を形成後、ナノ結晶の合成時に共存させた配位子とは異なる配位子に置換することもできる。
【0038】
カルボキシル基含有化合物としては、例えばアラキドン酸、クロトン酸、trans-2-デセン酸、エルカ酸、3-デセン酸、cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸、4-デセン酸、all cis-5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸、all cis-8,11,14-エイコサトリエン酸、cis-9-ヘキサデセン酸、trans-3-ヘキセン酸、trans-2-ヘキセン酸、2-ヘプテン酸、3-ヘプテン酸、2-ヘキサデセン酸、リノレン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、3-ノネン酸、2-ノネン酸、trans-2-オクテン酸、ペトロセリン酸、エライジン酸、オレイン酸、3-オクテン酸、trans-2-ペンテン酸、trans-3-ペンテン酸、リシノール酸、ソルビン酸、2-トリデセン酸、cis-15-テトラコセン酸、10-ウンデセン酸、2-ウンデセン酸、酢酸、酪酸、ベヘン酸、セロチン酸、デカン酸、アラキジン酸、ヘンエイコサン酸、ヘプタデカン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヘプタコサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、メリシン酸、オクタコサン酸、ノナデカン酸、ノナコサン酸、n-オクタン酸、パルミチン酸、ペンタデカン酸、プロピオン酸、ペンタコサン酸、ノナン酸、ステアリン酸、リグノセリン酸、トリコサン酸、トリデカン酸、ウンデカン酸、吉草酸等の、炭素数1~30の直鎖状又は分岐状の脂肪族カルボン酸が挙げられる。
【0039】
アミノ基含有化合物としては、例えば1-アミノヘプタデカン、1-アミノノナデカン、ヘプタデカン-9-アミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、2-n-オクチル-1-ドデシルアミン、アリルアミン、アミルアミン、2-エトキシエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、イソブチルアミン、イソアミルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2-メトキシエチルアミン、2-メチルブチルアミン、ネオペンチルアミン、プロピルアミン、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、1-アミノデカン、ノニルアミン、1-アミノウンデカン、ドデシルアミン、1-アミノペンタデカン、1-アミノトリデカン、ヘキサデシルアミン、テトラデシルアミン等の、炭素数1~30の直鎖状又は分岐状の脂肪族アミンが挙げられる。
【0040】
メルカプト基含有化合物としては、例えばn-ドデシルチオール、tert-ドデシルチオール、1-ドデカンチオール、n-オクタンチオール、1-オクタデカンチオール等が挙げられる。
【0041】
スルホン酸基含有化合物又はその塩としては、例えばドデシルベンゼンスルホン酸、4-n-オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、4-ドデシルベンゼン-1-スルホン酸ナトリウム、4-ウンデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、4-テトラデシルベンゼン-1-スルホン酸ナトリウム、4-トリデシルベンゼン-1-スルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸ナトリウム、1-ドデカンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
ホスホン酸基含有化合物又はその塩としては、例えばドデシルホスホン酸等が挙げられる。
【0042】
上記した化合物の中でも、本発明においては、第1のシラン化合物と併用する配位子として、オレイン酸、オクタン酸、ラウリン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルホスホン酸、オレイルアミン、オクチルアミン、トリオクチルホスフィンが好ましく、オレイン酸、ラウリン酸、オレイルアミン、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルホスホン酸がより好ましい。
【0043】
特に、第1のシェル層は、ナノ結晶の表面に、配位子として例えばオレイン酸、3-アミノプロピルトリエトキシシランを配位させ、さらに3-アミノプロピルトリエトキシシランが有するアルコキシシリル基を縮合させシロキサン結合を形成させて得られたものであることが好ましい。
【0044】
また、前記第1のシラン化合物と併用する配位子は、ナノ結晶表面に第1のシェル層を形成させたのちに添加することによってナノ結晶表面に配位させてもよい。
【0045】
第1のシェル層の厚さは0.5~50nmの範囲が好ましく、1.0~30nmの範囲がより好ましい。第1のシェル層の厚さが前記範囲であると、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子の水分及び熱に対する安定性を十分に高められる。なお、第1のシェル層の厚さは、配位子の結合基と反応性基とを連結する連結構造の原子数(鎖長)を調整することで変更できる。
【0046】
第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子においては、前記配位子のほか、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド、フェネチルアンモニウムブロミド、フェネチルアンモニウムヨージド、メチルトリオクチルアンモニウムブロミド、テトラオクチルアンモニウムブロミド、ジデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド等のアンモニウム塩が、ナノ結晶表面に配位していても良い。
【0047】
[第2のシェル層]
第2のシェル層をさらに有する場合、第2のシェル層を第1のシェル層の表面に均一に形成するために、第2のシェル層は、第1のシラン化合物及び第2のシラン化合物とは異なる、加水分解性シリル基を有する第3のシラン化合物に起因するシロキサン結合を有する構造を有することが好ましい。
また、第1のシェル層の表面に第2のシェル層を均一に被覆する観点から、塩基性基を含む構造単位を有するポリマーβ(以下、「ポリマーβ」とも記す。)を共存させるのが好ましい。詳細には、まず、第1のシェル層表面にポリマーβが有する塩基性基を吸着させることにより、第1のシェル層の表面に反応場を形成する。次いで第3のシラン化合物を混合して、該反応場にて第3のシラン化合物がその有する加水分解性シリル基の縮合により、第1のシェル層表面にシロキサン結合を形成することで、第2のシェル層を形成できる。該第2のシェル層を備えた第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子は、水分や酸素下における光に対する安定性により優れ、その結果、発光特性に優れる。
【0048】
ポリマーβは、塩基性基を有する第一の構造単位と、分散媒への親和性に優れた親溶媒性であって塩基性基を有さない第二の構造単位とを備えたポリマーであるのが好ましい。なお、分散媒とは本発明の発光粉体(すなわち第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子)を分散可能な化合物を意味し、各種の有機溶剤又は光重合性化合物等であることができる。
【0049】
第一の構造単位が有する塩基性基としては、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、四級アンモニウム基、イミノ基、ピリジル基、ピリミジン基、ピペラジニル基、ピペリジル基、イミダゾリル基、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基等が挙げられる。
第一のシェル層への吸着性に優れる観点から、第一の構造単位が有する塩基性基としては、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、四級アンモニウム基、ピリジル基が好ましい。
第一の構造単位を与える化合物としては、例えばエチレンイミン、プロピレンイミン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、4-アミノスチレン、4-ジメチルアミノスチレン、1-ビニルイミダゾール、N-ビニル-2-ピロリドン、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、アリルアミン等が挙げられる。第一の構造単位は、これらの化合物の1種単独で構成されていても、2種以上から構成されていてもよい。
なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」はアクリレート、メタアクリレート及びそれらの双方を総称する用語である。
【0050】
第二の構造単位を与える化合物としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコサニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式構造を有する(メタ)アクリレート;
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アリロキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキル基末端ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;
グリシジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;
スチレン、α-メチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、p-イソブチルスチレン等のスチレン誘導体等が挙げられる。
第二の構造単位は、インク組成物中に使用される光重合性化合物との相溶性に優れる化合物を用いることが好ましい。第二の構造単位は、これらの化合物の1種単独で構成されていても、2種以上から構成されていてもよい。
【0051】
ポリマーβは、第一の構造単位からなる重合体ブロック及び第二の構造単位からなる重合体ブロックを有するブロックコポリマーであってもよく、第一の構造単位と第二の構造単位をランダムに有するランダムポリマーであってもよく、第一の構造単位と第二の構造単位を有するグラフトポリマーであってもよい。第1のシェル層表面への吸着性の観点から、ポリマーβがブロックコポリマー又はグラフトポリマーであることが好ましい。
【0052】
ポリマーβにおける第一の構造単位の含有量は、ポリマーβを構成する全構造単位を基準として3モル%以上であることが好ましく、4モル%以上がより好ましい。第一の構造単位の含有量は50モル%以下であることが好ましく、30モル%以下がより好ましい。
ポリマーβにおける第二の構造単位の含有量は、ポリマーβを構成する全構造単位を基準として70モル%以上であることが好ましく、75モル%以上がより好ましい。第二の構造単位の含有量は97モル%以下であることが好ましく、96モル%以下がより好ましい。
【0053】
ポリマーβは、第一の構造単位及び第二の構造単位に加え、他の構造単位をさらに含んでいてもよい。他の構造単位をさらに含む場合、ポリマーβにおける第一の構造単位及び第二の構造単位の合計の含有量は、ポリマーβを構成する全構造単位を基準として70モル%以上であるのが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。
他の構造単位としては、例えばカルボキシル基、スルホ基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基、メルカプト基等の酸性基を有する構造単位が挙げられる。
酸性基を有する構造単位を与える化合物としては、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレアート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート等のカルボキシ基を有する(メタ)アクリレート、スルホン酸エチル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2-(ホスホノオキシ)エチル等のリン酸基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0054】
ポリマーβの重量平均分子量(Mw)は、本発明の発光粉体の分散性の観点から、3000以上200000以下が好ましく、4000以上100000以下がより好ましく、5000以上80000以下がさらに好ましい。なお、Mwはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された、標準ポリスチレン換算の値である。
【0055】
第3のシラン化合物としては、下記式(C1)で表される化合物(以下、「シラン化合物C1」とも記す。)が好ましい。
【0056】
【化1】
【0057】
式中、RC1及びRC2は、それぞれ独立にアルキル基を表し、RC3及びRC4は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表し、nは0又は1を表し、mは1以上の整数を表す。mは10以下の整数であることが好ましく、第2のシェル層の堅牢性の観点から、nは1を表し、mは1以上7以下の整数であることがより好ましく、nは1を表し、mは1以上4以下の整数であることがさらに好ましい。
【0058】
シラン化合物C1の具体例には、テトラブトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルルトリメトキシシラン、n-ドデシルトリメトキシシラン、n-ドデシルトリエトキシシラン、n-ヘキサデシルトリメトキシシラン、n-ヘキサデシルトリエトキシシラン、n-オクタデシルトリメトキシシラン、トリメトキシ(3、3、3-トリフルオロプロピル)シラン、トリメトキシ(ペンタフルオロフェニル)シラン、トリメトキシ(11-ペンタフルオロフェノキシウンデシル)シラン、トリメトキシ(1H、1H、2H、2H-ノナフルオロヘキシル)シラン、テトラメトキシシランの部分加水分解オリゴマー(製品名:メチルシリケート51、メチルシリケート53A(以上、コルコート株式会社製))、テトラエトキシシランの部分加水分解オリゴマー(製品名:エチルシリケート40、エチルシリケート48(以上、コルコート株式会社製)、テトラメトキシシランとテトラエトキシシラン混合物の部分加水分解オリゴマー(製品名:EMS-485(コルコート株式会社製))等が挙げられる。シラン化合物C1は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0059】
また、シラン化合物C1に、下記式(C2)で表される化合物(以下、「シラン化合物C2」とも記す。)及び下記式(C3)で表される化合物(以下、「シラン化合物C3」とも記す。)を併用してもよい。
【0060】
【化2】
【0061】
式中、RC21、RC22及びRC31はそれぞれ独立にアルキル基を表し、RC23、RC24、RC32、RC33及びRC34は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、フェニル基、シクロヘキシル基を表し、前記アルキル基中の炭素原子は酸素原子或いは窒素原子に置換されていてもよく、m2は1以上10以下の整数を表す。
シラン化合物C2及びシラン化合物C3の具体例には、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン等が挙げられる。これらは、シラン化合物C1と1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0062】
本発明の発光粉体が含有する、第1の発光性粒子の1つの形態は、メタルハライドからなり発光性を有する第1の半導体ナノ結晶と、第1の半導体ナノ結晶の表面に配位した配位子とを含有する。第1の半導体ナノ結晶の表面に配位子が配位していることによりナノ結晶構造を維持できる。配位子として、第1のシラン化合物を用い、さらに、例えば、オレイン酸、オクタン酸、ラウリン酸、オレイルアミン、オクチルアミン、トリオクチルホスフィン等を併用する。これにより、第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層、すなわち第1のシェル層が形成されている。第1のシェル層により、第1の半導体ナノ結晶の水分や酸素下での光に対する安定性を向上でき、優れた発光特性を得ることができる。
また、第1のシェル層の表面に、第3のシラン化合物が縮合によりシロキサン結合を形成した表面層、すなわち第2のシェル層がさらに存在することで、第1の半導体ナノ結晶の水分や酸素下での光に対する安定性をさらに向上でき、優れた発光特性を得ることができる。
なお、第2の発光性粒子の1つの形態は、上記第1の発光性粒子と同様の形態である。
【0063】
2.発光粉体の製造方法
第1の発光性粒子と第2の発光性粒子とを含有する本発明の発光粉体は、例えば以下の方法で製造できる。
すなわち、第1の半導体ナノ結晶を合成可能な第1の原料化合物と、第1の半導体ナノ結晶の表面に結合可能な結合性基及び加水分解性シリル基を有する第1のシラン化合物と、溶媒とを含む溶液から、第1の半導体ナノ結晶を形成しつつ当該ナノ結晶の表面にシロキサン結合を形成することにより、第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層を備えた第1の前駆体粒子を得る工程と、
第2の半導体ナノ結晶を合成可能な第2の原料化合物と、第2の半導体ナノ結晶の表面に結合可能な結合性基及び加水分解性シリル基を有する第2のシラン化合物と、溶媒とを含む溶液から、第2の半導体ナノ結晶を形成しつつ当該ナノ結晶の表面にシロキサン結合を形成することにより、第2の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層を備えた第2の前駆体粒子を得る工程と、
前記第1の前駆体粒子と前記第2の前駆体粒子とを混合する工程と、
得られた前駆体粒子混合物に、加水分解性シリル基を有し第1のシラン化合物及び第2のシラン化合物とは異なる第3のシラン化合物を混合し、前記第1の前駆体粒子及び前記第2の前駆体粒子の表面にシロキサン結合を形成することにより、第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第1の発光性粒子と、第2の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第2の発光性粒子とを含有した発光粉体を得る工程とを行う。このとき、第2のシラン化合物は、第1のシラン化合物と同一の化合物であってもよく、異なる化合物であってもよい。
【0064】
第1の前駆体粒子を得る工程、及び第2の前駆体粒子を得る工程はいずれも、例えばホットインジェクション法やLARP法を適用できる。以下、第1の前駆体粒子を得る工程について説明するが、第2の前駆体粒子を得る工程についても同様に行うことができる。
第1の前駆体粒子を得る工程は、前記したAで表される化合物からなる第1の半導体ナノ結晶を合成可能な第1の原料化合物と、上述した配位子(ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基を有する化合物)と、第1のシラン化合物と、溶媒とを含む溶液を複数調製し、これらを混合した後に、析出した第1の半導体ナノ結晶の表面に配位した第1のシラン化合物の反応性基(加水分解性シリル基)を縮合させて行うのが好ましい。
溶液を混合する際は、加熱してもよく、加熱しなくてもよい。
ここで、第1の原料化合物は、陽イオンAを含む化合物、金属カチオンMを含む化合物、及びハロゲン化物イオンXを含む化合物である。陽イオンAを含む化合物としては、例えば陽イオンAの水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩;これらの水和物;等が挙げられる。金属カチオンMを含む化合物としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属ハロゲン化物塩、金属酢酸塩、金属炭酸塩、金属硝酸塩、金属硫酸塩;これらの水和物;等が挙げられる。ハロゲン化物イオンXを含む化合物としては、カルボン酸ハロゲン化物、ハロゲン化有機ケイ素化合物、ハロゲン化水素、アンモニウム塩が挙げられる。
なお、第1の原料化合物として、金属カチオンMを含みかつハロゲン化物Xを含む、金属ハロゲン化物塩を好適に使用できる。
溶媒としては、例えば、1-オクタデセン、ジオクチルエーテル、ジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0065】
溶液を混合する際に加熱する場合、具体的には、陽イオンAを含む化合物と溶媒とを含む第1の溶液、及び、金属カチオンMを含む化合物とハロゲン化物イオンXを含む化合物と溶媒とを含む第2の溶液をそれぞれ調製する。第2の溶液において、金属カチオンMを含む化合物とハロゲン化物イオンXを含む化合物に代えて、前述の金属ハロゲン化物塩を用いてもよい。
このとき、いずれか一方の溶液には上述した配位子を、もう一方の溶液には第1のシラン化合物を加えて各溶液を調製する。第1のシラン化合物を含む溶液は、上述した配位子を含んでいてもよい。各溶液の調製において配位子又は第1のシラン化合物を共存させておくことにより、第1の溶液と第2の溶液とを反応させた際に、配位子又は第1のシラン化合物を表面に備える第1の半導体ナノ結晶を含む第1の前駆体粒子を得ることができる。また、配位子又は第1のシラン化合物を共存させておくことにより、第1の溶液と第2の溶液とを反応させた際に、過剰な結晶成長を防ぎ、目的の粒径範囲内の第1の半導体ナノ結晶を含む第1の前駆体粒子を得ることができる。
配位子及び第1のシラン化合物の量は、各々の溶液の調製に用いる溶媒の体積量に対して10%~100%の範囲であるが、第1の溶液と第2の溶液とを反応させた際に、第1の半導体ナノ結晶の表面に配位した配位子を備える第1の前駆体粒子を得やすい観点、また配位子を共存させておくことによる過剰な結晶成長を防ぐ効果を得られる観点から好ましい。
【0066】
次いで、140~260℃に加熱した所定量の第2の溶液に、所定量の第1の溶液を添加して反応させ、-20~30℃に冷却後、さらに大気下で10~30℃で攪拌することで、第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層を備えた第1の前駆体粒子を析出させる。
第2の溶液に第1の溶液を混合した後の反応時間は、過度な結晶成長を抑制し発光可能な粒子径を備えた第1の半導体ナノ結晶を得るために、5分以内であるのが好ましく、1秒~60秒の範囲がより好ましく、3秒~10秒の範囲がさらに好ましい。また、反応後の冷却時間は、第2の溶液に第1の溶液を混合する際の設定温度や、反応のスケールによっても異なり得るが、第1の半導体ナノ結晶を速やかに析出させる観点から、通常、1~60分の範囲であるのが好ましい。なお、冷却手段には特に制限はなく、目的とする冷却温度と冷却までの時間に応じて、氷水、水-エチレングリコール混合系冷媒、ドライアイス-アセトン浴等を適宜選択して使用できる。また、上記した各溶液の調製や、溶液を混合して反応させ、その後冷却する操作は、大気雰囲気下で行っても、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
析出した第1の前駆体粒子は必要に応じ、遠心分離等の定法により単離できる。
なお、第1の溶液及び第2の溶液の混合量は、各溶液中に含有させる陽イオンAを含む化合物、金属カチオンMを含む化合物とハロゲン化物イオンXを含む化合物(又は金属カチオンMを含みかつハロゲン化物Xを含む金属ハロゲン化物塩)、配位子及び第1のシラン化合物のそれぞれの含有量、並びに陽イオンA、金属カチオンM及びハロゲン化物イオンXの所望の混合比により適宜調節できる。
【0067】
例えば、溶媒40mLに対し、陽イオンAを含む化合物として炭酸セシウムを0.2~2g、配位子としてオレイン酸を0.1~10mLの範囲で混合し、90~150℃で10~180分間減圧乾燥後、100~200℃に加熱して溶解させ、セシウム-オレイン酸溶液である第1の溶液を調製できる。
一方、溶媒5mLに対し、金属カチオンMとハロゲン化物イオンXを含む金属ハロゲン化物として臭化鉛(II)20~100mgを添加して、90~150℃で10~180分間減圧乾燥後、第1のシラン化合物として3-アミノプロピルトリエトキシシラン0.1~2mLを添加して、第2の溶液を調製できる。
次に、140~260℃に加熱した第2の溶液に第1の溶液を添加して反応させた後、-20~30℃に冷却して撹拌すると、表面に3-アミノプロピルトリエトキシシラン及びオレイン酸が配位した第1の半導体ナノ結晶が析出してくる。
この混合物を、さらに湿度5~60%の大気下、10~30℃で5~300分間撹拌した後、エタノールを添加することで、第1の半導体ナノ結晶を形成しつつ当該ナノ結晶の表面にて3-アミノプロピルトリエトキシシランのエトキシシリル基が縮合してシロキサン結合を形成し、第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第1の前駆体粒子を含む懸濁液を得る。なお、ここで形成されるシロキサン結合を有する表面層は、前述した第1のシェル層に相当する。
得られた懸濁液を例えば遠心分離することにより、第1の前駆体粒子を回収できる。
【0068】
上述のように、第1の前駆体粒子を得る際に、第1の溶液と第2の溶液とを加熱した状態で混合してもよいが、加熱せずに混合させてもよい。その場合、第1のメタルハライドの原料化合物と第1のシラン化合物とは異なる配位子を含む溶液を、第1のシラン化合物を第1の半導体ナノ結晶に対する貧溶媒に溶解した溶液中に大気下にて滴下・混合することにより、第1の半導体ナノ結晶を析出させる方法が挙げられる。
例えば、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド等の第1の半導体ナノ結晶を溶解する溶媒(良溶媒)10mLに対し、陽イオンAを含む化合物として臭化セシウムを5~25mg、金属カチオンMとハロゲン化物イオンXを含む金属ハロゲン化物として臭化鉛(II)を10~50mg、配位子としてオレイン酸0.2~2mL、配位子としてオレイルアミン0.05~0.5mlの範囲で混合して溶解させた溶液(i)を調製する。一方、イソプロパノール、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等の、第1の半導体ナノ結晶を溶解しない溶媒(貧溶媒)5mLに対し、第1のシラン化合物として3-アミノプロピルトリエトキシシラン0.01~0.5mLを添加した溶液(ii)を調製する。
そして、溶液(ii)の5mLに対し、溶液(i)の0.1~1mLを、大気下で0~30℃で添加すると同時に5~180秒間撹拌する。溶液(ii)に溶液(i)を添加したときに第1の半導体ナノ結晶が析出すると共に、かかる第1の半導体ナノ結晶の表面に3-アミノプロピルトリエトキシシラン、オレイン酸及びオレイルアミンが配位する。そして、大気下での撹拌中に3-アミノプロピルトリエトキシシランのアルコキシシリル基が縮合し、第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層を備えた第1の前駆体粒子を含む懸濁液を得る。なお、ここで形成されるシロキサン結合を含む表面層は、前述した第1のシェル層に相当する。得られた懸濁液を例えば遠心分離することにより、第1の前駆体粒子を回収できる。第1の前駆体粒子は、シロキサン結合を含む表面層を備えることにより、合成後の凝集を抑制でき、発光特性を十分に発揮できる。
【0069】
第2の前駆体粒子を得る工程は、その発光スペクトルのピーク波長が第1の半導体ナノ結晶とは異なり、前記したAで表される化合物からなる第2の半導体ナノ結晶を合成可能な第2の原料化合物を用いる点と、第1のシラン化合物に代えて第2のシラン化合物を用いる点以外は、第1の前駆体粒子を得る工程と同様に行える。このとき、第2の半導体ナノ結晶の組成は、第1の半導体ナノ結晶の組成と同一であってもよく、異なっていてもよい。第2のシラン化合物は、第1のシラン化合物と同一の化合物であってもよく、異なる化合物であってもよい。
このようにして得た、第1の前駆体粒子と第2の前駆体粒子とを混合する工程により、前駆体粒子混合物を得る。
得られた前駆体粒子混合物に、加水分解性シリル基を有し第1のシラン化合物及び第2のシラン化合物とは異なる第3のシラン化合物を混合し、第1の前駆体粒子及び第2の前駆体粒子の表面にシロキサン結合を形成することにより、第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第1の発光性粒子と、第2の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第2の発光性粒子とを含有した発光粉体を得る。
【0070】
例えば、前駆体粒子の混合物及び溶媒を含む溶液と、第3のシラン化合物及び溶媒を含む溶液とを混合する。溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。ここで、前駆体粒子の混合物と及び溶媒を含む溶液には、さらに前述したポリマーβを含有させて溶液を調製するのが、第3のシラン化合物から形成されるシロキサン結合を含む層で前駆体粒子を均一に被覆しやすい観点から好ましい。
また、前駆体粒子の混合物及び溶媒を含む溶液と、第3のシラン化合物及び溶媒を含む溶液とを混合したのち、加水分解制御の観点から、水(例えば、イオン交換水或いは純水)を更に添加してもよい。
第3のシラン化合物の加水分解性シリル基が縮合してシロキサン結合を形成することにより、第1の前駆体粒子及び第2の前駆体粒子の表面に、好適にはポリマーβを包含する第3のシラン化合物の重合体を含む表面層が形成される。なお、ここで形成されるシロキサン結合を含む表面層は、前述した第2のシェル層に相当する。
その結果、第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第1の発光性粒子と、第2の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第2の発光性粒子が形成される。すなわち、形成されたシロキサン結合を含む表面層は、第1のシラン化合物又は第2のシラン化合物の縮合に由来するシロキサン結合、並びにポリマーβ及び第3のシラン化合物の縮合に由来するシロキサン結合を含むものである。
得られた反応混合物から不溶物を除去し、得られた溶液にイソプロパノール、シクロヘキサン等のナノ結晶を分散しない溶媒(貧溶媒)を加えて第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子を析出させ、溶媒を除去することにより、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子を含む発光粉体を得ることができる。その後、必要に応じて、遠心分離等により分離して、溶媒を除去することにより、発光粉体を得る。
【0071】
例えば、前駆体粒子混合物とポリマーβと溶媒を混合して溶解させた溶液(iii)を調製する。一方、第3のシラン化合物と溶媒を混合して溶解させた溶液(iv)を調製する。溶液(iii)が含有する前駆体粒子混合物1質量部に対し、第3のシラン化合物が0.1~50質量部となるように、溶液(iii)に溶液(iv)を添加し、10~60℃で、5~300分間撹拌する。第3のシラン化合物が有する加水分解性基の縮合によるシロキサン結合形成の制御の観点から、溶液(iii)に溶液(iv)を添加する際に、第3のシラン化合物に対して1~100質量倍の範囲で水をさらに添加してもよい。
得られた反応混合物から例えば遠心分離により不溶物を除去後、回収した上澄み液に対して例えば2倍体積%のシクロヘキサンを加えて振倒攪拌し、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子を析出させる。そして、遠心分離等により分離し、溶媒を除去することで、第1の発光性粒子と第2の発光性粒子とを含有した発光粉体を得る。
【0072】
本発明の発光粉体はまた、以下の手順で製造できる。
すなわち、前記したAで表される化合物からなる第1の半導体ナノ結晶を合成可能な第1の原料化合物と、上述した配位子(ナノ結晶に含まれるカチオン又はアニオンに結合する結合性基を有する化合物)と、第1のシラン化合物と、溶媒とを含む溶液を複数調製し、これらを混合し、第1の半導体ナノ結晶を形成しつつ当該ナノ結晶の表面にシロキサン結合を形成することにより、第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を含む表面層を備えた第1の前駆体粒子を得る。得られた第1の前駆体粒子に、加水分解性シリル基を有し第1のシラン化合物とは異なる第3のシラン化合物を混合し、第1の前駆体粒子の表面にシロキサン結合を形成することにより、第1の半導体ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含む表面層を備えた第1の発光性粒子を得る。ここで、第3のシラン化合物の混合に際して、前述したポリマーβをさらに含有させると、第3のシラン化合物から形成されるシロキサン結合を含む層で第1の前駆体粒子を均一に被覆しやすい観点から好ましい。
一方、その発光スペクトルのピーク波長が第1の半導体ナノ結晶とは異なり、前記したAで表される化合物からなる第2の半導体ナノ結晶を合成可能な第2の原料化合物を用いる点と、第1のシラン化合物に代えて第2のシラン化合物を用いる点以外は、上記と同様にして、第2の発光性粒子を得る。このとき、第2のシラン化合物は、第1のシラン化合物と同一の化合物であってもよく、異なる化合物であってもよい。
このようにして得た、第1の発光性粒子と第2の発光性粒子とを混合することにより、本発明の発光粉体を得る。
【0073】
第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子がそれぞれ備える、シロキサン結合を有する構造を含む表面層は、第1のシラン化合物又は第2のシラン化合物の縮合に由来するシロキサン結合、及びポリマーβ及び第3のシラン化合物の縮合に由来するシロキサン結合を含むものであり、前述した第1のシェル層及び第2のシェル層の合計に相当する。第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子がそれぞれ備える、シロキサン結合を有する構造を含む表面層の厚さ、すなわち、第1のシェル層及び第2のシェル層の合計厚さは、0.5~50nmであることが好ましく、1.0~30nmがより好ましい。かかる厚さを有すると、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子の光に対する安定性を十分に高められ、かつ分散安定性に優れる。なお、上記厚さは高分解能電子顕微鏡により測定できる。
なお、第1のシェル層及び第2のシェル層の合計厚さは、配位子の結合基と反応性基とを連結する連結構造の原子数(鎖長)を調整することで変更できる。
【0074】
本発明の発光粉体が含有する第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、50nm以下が特に好ましい。また、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子の平均粒子径は1nm以上が好ましく、1.5nm以上がより好ましく、2nm以上がさらに好ましく、5nm以上が特に好ましい。平均粒子径が前記範囲であると、所望の波長の光を発しやすい。なお、第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡より各粒子の粒子径を測定し、体積平均径を算出して得られる。
【0075】
本発明の発光粉体は、バッチリアクターを使用して製造できる。また、粒子サイズのバラつき低減、不純物の混入防止、製造効率、温度制御等の観点からは、連続層流、液滴ベース又は強制薄膜式等のフローリアクターを使用して製造することがより好ましい。
シロキサン結合の形成を促進する観点から、上記した反応の際に水を添加しても良く、水を添加せずに溶媒又は反応雰囲気に含まれる微量の水分によってシロキサン結合の形成を促進しても良い。また、加熱によってシロキサン結合の形成を促進しても良い。その場合、加熱温度は20℃以上120℃以下が好ましく、30℃以上100℃以下がより好ましく、40℃以上80℃以下がさらに好ましい。
【0076】
3.インク組成物
本発明はまた、上述した発光粉体と、光重合性化合物と光重合開始剤とを含むインク組成物である。
【0077】
発光粉体の詳細は、上述のとおりである。インク組成物中の発光粉体の含有量は、好ましくは、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であり、好ましくは、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、又は10質量%以下である。発光粉体の含有量を前記範囲に設定することにより、発光性粒子同士が凝集し難くなり、インク組成物での保存安定性ならびに得られる発光層(光変換層)の外部量子効率を高めることもできる。
【0078】
本発明のインク組成物中に含まれる光重合性化合物は、硬化物中においてバインダーとして機能し、光(活性エネルギー線)の照射により重合する化合物である。光重合性化合物としては、ラジカル重合性化合物、カチオン重合性化合物、アニオン重合性化合物等が挙げられ、モノマーであってもオリゴマーであってもよい。中でも、硬化性が良好な観点から、ラジカル重合性化合物が好ましい。
【0079】
ラジカル重合性化合物としては、例えば、重合性官能基としてエチレン性不飽和基を有する化合物が挙げられる。なお、本明細書において、エチレン性不飽和基とは、エチレン性不飽和結合(重合性の炭素-炭素二重結合)を有する基を意味する。エチレン性不飽和基としては、例えば、ビニル基、ビニレン基、ビニリデン基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。エチレン性不飽和基を有する化合物が有するエチレン性不飽和結合の数(例えばエチレン性不飽和基の数)は、例えば1~6であってよい。
エチレン性不飽和基を有する化合物としては、インク組成物から得られる硬化物の外部量子効率をより向上できる観点から、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく、単官能又は多官能の(メタ)アクリレートがより好ましく、単官能又は二官能の(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
なお、本明細書中において「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基、メタクリロイル基及びそれらの双方を総称する用語である。「(メタ)アクリレート」はアクリレート、メタアクリレート及びそれらの双方を総称する用語である。
また、単官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を1つ有する(メタ)アクリレートを意味し、多官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する(メタ)アクリレートを意味する。
【0080】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルベンジル(メタ)アクリレート、こはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]フタルイミド、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]テトラヒドロフタルイミド等が挙げられる。
【0081】
多官能(メタ)アクリレートは、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、4官能(メタ)アクリレート、5官能(メタ)アクリレート、6官能(メタ)アクリレート等である。例えば、ジオール化合物の2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、トリオール化合物の2つ又は3つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート又はトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0082】
2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートの2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、1モルのネオペンチルグリコールに4モル以上のエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加して得られるジオールの2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、1モルのビスフェノールAに2モルのエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加して得られるジオールの2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、1モルのトリメチロールプロパンに3モル以上のエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加して得られるトリオールの2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、1モルのビスフェノールAに4モル以上のエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加して得られるジオールの2つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、1モルのプロピレングリコールと2モルのエピクロルヒドリンの反応生成物に(メタ)アクリル酸を付加したジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0083】
3官能(メタ)アクリレートとしては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1モルのトリメチロールプロパンに3モル以上のエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加して得られるトリオールの3つの水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
4官能(メタ)アクリレートとしては、例えばペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
5官能(メタ)アクリレートとしては、例えばジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
6官能(メタ)アクリレートとしては、例えばジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0084】
多官能(メタ)アクリレートは、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のジペンタエリスリトールの複数の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたポリ(メタ)アクリレート、一分子中にエチレン性二重結合を2つ以上有する芳香族ウレタンオリゴマー、脂肪族ウレタンオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー及びその他特殊オリゴマーからなる群から選択される少なくとも一種の化合物であってもよい。
【0085】
(メタ)アクリレート化合物は、リン酸基を有する、エチレンオキシド変性リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性アルキルリン酸(メタ)アクリレート等であってもよい。
【0086】
該組成物の硬化物の表面のべたつき(タック)を低減する観点では、光重合性化合物として、環状構造を有するラジカル重合性化合物を用いることが好ましい。環状構造は、芳香環構造であっても非芳香環構造であってもよい。環状構造の数(芳香環及び非芳香環の数の合計)は、1又は2以上であるが、3以下であることが好ましい。環状構造を構成する炭素原子の数は、例えば、4以上であり、5以上又は6以上であることが好ましい。炭素原子の数は、例えば20以下であり、18以下であることが好ましい。
【0087】
芳香環構造は、炭素数6~18の芳香環を有する構造であることが好ましい。炭素数6~18の芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環等が挙げられる。芳香環構造は、芳香族複素環を有する構造であってもよい。芳香族複素環としては、例えば、フラン環、ピロール環、ピラン環、ピリジン環等が挙げられる。芳香環の数は、1であっても、2以上であってもよいが3以下であることが好ましい。有機基は、2以上の芳香環が単結合により結合した構造(例えば、ビフェニル構造)を有していてもよい。
【0088】
非芳香環構造は、例えば、炭素数5~20の脂環を有する構造であることが好ましい。炭素数5~20の脂環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環等のシクロアルカン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘプテン環、シクロオクテン環等のシクロアルケン環などが挙げられる。脂環は、ビシクロウンデカン環、デカヒドロナフタレン環、ノルボルネン環、ノルボルナジエン環、イソボルニル環等の縮合環であってもよい。非芳香環構造は、非芳香族複素環を有する構造であってもよい。非芳香族複素環としては、例えば、テトラヒドロフラン環、ピロリジン環、テトラヒドロピラン環、ピぺリジン環等が挙げられる。
【0089】
環状構造を有するラジカル重合性化合物は、好ましくは、環状構造を有する単官能又は多官能(メタ)アクリレートである。環状構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。環状構造を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、PO変性ビスフェノールAジアクリレート等が挙げられる。
【0090】
環状構造を有するラジカル重合性化合物の含有量は、該インク組成物から形成される光変換層において、優れた耐熱性を発現する観点から、該インク組成物中における光重合性化合物の全質量を基準として、3~85質量%であることが好ましく、5~60質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることがさらに好ましく、15~45質量%であることが特に好ましい。
【0091】
光重合性化合物の分子量は、例えば50以上であり、100以上又は150以上であってもよい。光重合性化合物の分子量は、例えば500以下であり、400以下又は300以下であってもよい。
本発明のインク組成物をインクジェット方式の印刷方式を用いて塗布する場合、粘度及び吐出後のインクの耐揮発性を両立しやすい観点から、光重合性化合物の分子量は50~500であるのが好ましく、100~400がより好ましい。
本発明のインク組成物をロールコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、ダイコーター等の印刷方式を用いてフィルム等の基材に塗布する場合、粘度とレベリング性を両立しやすい観点から、光重合性化合物の分子量は100~500であるのが好ましく、150~400がより好ましい。
【0092】
本発明のインク組成物において、硬化可能成分である光重合性化合物として、重合性官能基を1分子中に2つ以上有する光重合性化合物を必須成分として用いると、得られる硬化物の耐久性(強度、耐熱性等)を向上できる観点から好ましい。
より具体的には、インク組成物を調製した際の粘度安定性、吐出性、塗布性に優れる観点、インク組成物の硬化性が良好となる観点、発光粉体を含有する塗膜等の硬化物の製造時における、硬化収縮に起因する塗膜表面の平滑性低下を抑制し得る観点、本発明のインク組成物からなる光変換層において、プラスチック、ガラス等の基材への密着性、耐溶剤性、耐磨耗性が向上する観点、また優れた光学特性(例えば外部量子効率)が得られる観点から、2種以上のラジカル重合性化合物を用いることが好ましく、単官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとを組み合わせて用いることが好ましい。
本発明のインク組成物における光重合性化合物の含有量は、40質量%以上95質量%以下であることが好ましく、50質量%以上94質量%以下がより好ましく、60質量%以上93質量%以下がさらに好ましい。
【0093】
本発明のインク組成物が含有する光重合開始剤としては、例えば分子開裂型又は水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。
分子開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、例えばベンゾインイソブチルエーテル、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)エトキシフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。これら以外に、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン等を併用してもよい。
水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルスルフィド等が挙げられる。
分子開裂型の光ラジカル重合開始剤と水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤とを併用してもよい。
【0094】
また、光重合開始剤として、フォトブリーチング性を有する光重合開始剤を含有することが好ましい。この場合、本発明のインク組成物の硬化物の光透過性が高まりやすい。フォトブリーチング性を有する光重合開始剤としては、例えばフォトブリーチング性を有するオキシムエステル系化合物又はアシルホスフィンオキシド系化合物の少なくとも一方を含有するのが好ましい。
フォトブリーチング性を有するオキシムエステル系化合物としては、例えば1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン2-(O-ベンゾイルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。
フォトブリーチング性を有するアシルホスフィンオキシド系化合物としては、例えば2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
硬化物の内部硬化性に優れ、かつ初期着色度が小さい硬化物を形成できる観点から、少なくとも1種以上のアシルホスフィンオキシド系化合物を含有することが好ましい。この場合、365nm、385nm、395nm又は405nm等の、特定波長を中心とする±15nm域の狭スペクトル出力を有する紫外発光ダイオード(UV-LED)を用いた硬化に適する観点からも好ましい。
【0095】
光重合開始剤の含有量は、光重合性化合物への溶解性、インク組成物の硬化性、及びインク組成物から形成される光変換層の経時安定性(外部量子効率の維持安定性)の観点から、インク組成物中の光重合性化合物に対して0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~15質量%がより好ましく、1~15質量%がさらに好ましく、3~7質量%が特に好ましい。
また、光重合開始剤におけるアシルホスフィンオキシド系化合物の含有比率は、インク組成物の硬化性の観点から50~100質量%であることが好ましく、60~100質量%がより好ましく、70~100質量%がさらに好ましい。
【0096】
本発明のインク組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合禁止剤、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、光散乱粒子、連鎖移動剤、増感剤、溶剤等の他の成分をさらに含有していてもよい。
【0097】
重合禁止剤としては、例えばp-メトキシフェノール、クレゾール、tert-ブチルカテコール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン等のキノン系化合物;p-フェニレンジアミン、4-アミノジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等のアミン系化合物;フェノチアジン、ジステアリルチオジプロピオネート等のチオエーテル系化合物;2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル等のN-オキシル化合物;N-ニトロソジフェニルアミン、N-ニトロソフェニルナフチルアミン、N-ニトロソジナフチルアミン等のニトロソ系化合物が挙げられる。
重合禁止剤を含有する場合、その量はインク組成物に含まれる光重合性化合物の総量に対して0.01~1質量%の範囲であることが好ましく、0.02~0.5質量%がより好ましい。
【0098】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられ、例えばペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)-6-[(2-エチルヘキシル)オキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2-ビス[[3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロピルオキシ]メチル]-1,3-プロパンジイル等が挙げられる。
インク組成物及びインク組成物から形成される光変換層の熱安定性の観点から、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤がより好ましい。また、インク組成物から形成される光変換層の長期間の熱安定性の観点から、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用することが好ましい。
酸化防止剤を含有する場合、その量は、インク組成物の硬化性を阻害しない観点から、インク組成物に含まれる光重合性化合物の総量に対して0.01~2質量%の範囲であることが好ましく、0.02~1質量%がより好ましい。
【0099】
分散剤としては、例えばトリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、ヘキシルホスホン酸等のリン原子含有化合物;オレイルアミン、オクチルアミン、トリオクチルアミン等の窒素原子含有化合物;1-デカンチオール、オクタンチオール、ドデカンチオール等の硫黄原子含有化合物;アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の高分子分散剤が挙げられる。これらは、例えばビックケミー社製の「DISPER(登録商標)BYK」シリーズ、エボニック社製の「TEGO(登録商標)Dispers」シリーズ、BASF社製の「EFKA(登録商標)」シリーズ、日本ルーブリゾール社製の「SOLSPERSE(登録商標)」シリーズ、味の素ファインテクノ社製の「アジスパー(登録商標)」シリーズ、楠本化成社製の「DISPARLON(登録商標)」シリーズ、共栄社化学社製の「フローレン(登録商標)」等の市販品として入手できる。
分散剤を含有する場合、その量はインク組成物に含まれる光重合性化合物の総量に対して、0.05~10質量%の範囲であることが好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0100】
界面活性剤としては、発光粉体を含有する薄膜を形成する場合に、膜厚ムラを低減させ得る化合物が好ましい。例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類及び脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩類、及び第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤;並びにシリコーン系やフッ素系の界面活性剤が挙げられる。これらは、例えばDIC社製の「メガファック(登録商標)」シリーズ、ネオス社製の「フタージェント(登録商標)」シリーズ、BYK社製の「BYK(登録商標)」シリーズ、エボニック社製の「TEGO(登録商標)Rad」シリーズ、楠本化成社製の「DISPARLON(登録商標) OX」シリーズ、共栄社化学社製の「ポリフローNo.7」、「フローレンAC-300」、「フローレンAC-303」等の市販品として入手できる。
界面活性剤を含有する場合、その添加量はインク組成物に含まれる光重合性化合物の総量に対して0.005~2質量%の範囲であることが好ましく、0.01~0.5質量%がより好ましい。
【0101】
光散乱粒子は、光学的に不活性な無機微粒子であることが好ましい。光散乱粒子は、発光層(光変換層)に照射された光源部からの光を散乱させることができる。光散乱粒子を構成する材料としては、例えばタングステン、ジルコニウム、チタン、白金、ビスマス、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、プラチナ、金等の単体金属;シリカ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナホワイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、次炭酸ビスマス、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩;水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の複合酸化物、次硝酸ビスマス等の金属塩が挙げられる。
中でも、漏れ光の低減効果により優れる観点から、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、酸化チタン、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種を含むことがより好ましく、酸化チタンであることが特に好ましい。
【0102】
光散乱粒子を含有する場合、その量は、例えば本発明のインク組成物をカラーフィルター層の形成材料として用いる場合には、バックライトの青色光の透過を抑える観点で、インク組成物全体に対して1~10質量%の範囲であることが好ましく、2~7.5質量%の範囲がより好ましく、3~5質量%の範囲が特に好ましい。また、本発明のインク組成物を光変換シートの形成材料として用いる場合には、バックライトの青色光の取出しの観点で、インク組成物全体に対して0.1~5質量%の範囲であることが好ましく、0.15~3質量%の範囲がより好ましく、0.2~1.5質量%の範囲がさらに好ましい。
【0103】
連鎖移動剤としては、例えば1,4-テルピノレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、ジペンテン等の不飽和炭化水素;ペンタフェニルエタン、α-メチルスチレンダイマー等の芳香族炭化水素;クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、ブロモトリクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;ブタンチオール、ペンタンチオール、オクタンチオール、ドデカンチオール、テトラデカンチオール、ヘキサデカンチオール、ヘキサンジチオール、デカンジチオール、1,4-ブタンジオールビスチオプロピオネート、1,4-ブタンジオールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、トリメルカプトプロピオン酸トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、1,4-ジメチルメルカプトベンゼン、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-(N,N-ジブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン等のチオール化合物;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドのようなスルフィド化合物;N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジビニルアニリン、アクロレイン、アリルアルコール等が挙げられる。中でも、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)が好ましい。
連鎖移動剤を含有する場合、その量はインク組成物に含まれる光重合性化合物の総量に対して、0.1~30質量%の範囲であることが好ましく、1~25質量%がより好ましく、5~20質量%がさらに好ましい。
【0104】
溶剤としては、例えばシクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルム、トルエン、オクタン、クロロベンゼン、テトラリン、ジフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、又はこれらの混合物などが挙げられる。画素部の形成時、すなわちインク組成物を硬化させる前にインク組成物から溶剤の除去が容易である観点から、溶剤の沸点は300℃以下であるのが好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。
インク組成物が溶剤を含む場合、その量はインク組成物全体に対して5質量%以下であるのが好ましい。溶剤の除去の操作を不要とする観点からは、インク組成物は溶剤を含有しないのがより好ましい。
【0105】
本発明のインク組成物の調製方法には特に制限はなく、上記した各成分を配合することにより調製できる。例えば、分散液の状態にある発光粉体より発光粉体を単離し、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、3本ロールミル、ペイントコンディショナー、アトライター、超音波等を使用して光重合性化合物中に分散させる。次いで、光重合開始剤及び必要に応じてさらに他の成分を添加して攪拌混合することで調製できる。
光散乱粒子を含有させる場合は、光散乱粒子と高分子分散剤を混合してビーズミルにより前記光重合性化合物へ分散させたミルベースを別途作成し、前記発光粉体と共に光重合性化合物、光重合開始剤とを混合することにより調製できる。
【0106】
4.光変換層
本発明のインク組成物を基板上に塗布して被膜を形成し、この被膜を硬化させて硬化物を得ることができる。かかる本発明のインク組成物の硬化物からなる光変換層は、カラーフィルター及び波長変換フィルム用途に好適である。
本発明のインク組成物を基板上に塗布する際の方法としては、スピンコーティング、ダイコーティング、エクストルージョンコーティング、ロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング、ディッピング、インクジェット法、プリント法等が挙げられる。塗布の際、必要に応じ、インク組成物に炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、アルコール、ケトン、エステル、非プロトン性極性化合物等を溶媒として添加してもよい。溶媒を添加した場合は、インク組成物を基板上に塗布後、自然乾燥、加熱下又は減圧下での乾燥を行う。
【0107】
本発明のインク組成物を基板上に塗布する際の基板の形状は、平板の他に、曲面を構成部分として有していても良い。基板を構成する材料は、有機材料又は無機材料のいずれも使用できる。有機材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリアリレート、ポリスルホン、トリアセチルセルロース、セルロース、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられ、無機材料としては、例えばシリコン、ガラス、方解石等が挙げられる。
【0108】
本発明のインク組成物の硬化は、紫外線又は電子線等の活性エネルギー線を照射することで行うのが好ましい。詳細は光変換層の作成の説明にて後述する。
【0109】
本発明のインク組成物を形成材料とする波長変換フィルムは、初期の特性変化を軽減し、安定的な特性発現を図るため、熱処理を施してもよい。かかる熱処理は50~250℃の温度範囲で、30秒~12時間の処理時間であることが好ましい。
【0110】
このような方法によって得られた波長変換フィルムは、基板から剥離して単体で用いても良く、剥離せずに用いてもよい。また、得られた波長変換フィルムを積層しても、他の基板に貼り合わせて用いてもよい。
本発明のインク組成物を形成材料とする波長変換フィルムを積層構造体に用いる場合、かかる積層構造体は、例えば基板、バリア層、光散乱層等の任意の層を有していても良い。基板を構成する材料は、前記したとおりである。バリア層としては、ポリエチレンテレフタレート、ガラス等が挙げられる。光散乱層としては、例えば前記光散乱粒子を含有する層や、光散乱フィルムが挙げられる。
積層構造体の構成例としては、例えば、2枚の基板間に本発明のインク組成物を形成材料とする光変換層を挟持した構造が挙げられる。その場合、水分や酸素から光変換層を保護するために、基板間の外周部を封止材によって封止しても良い。
図1は、本実施形態の積層構造体の構成を模式的に示す断面図である。積層構造体40は、第1の基板41及び第2の基板42の間に、本実施形態の波長変換フィルム44が挟持されている。波長変換フィルム44は、光散乱粒子441と発光粉体442とを含有する本発明のインク組成物を材料として形成され、光散乱粒子441及び発光粉体442は、波長変換フィルム中に均一に分散している。波長変換フィルム44は、封止材によって形成された封止層43によって封止されている。
【0111】
本発明のインク組成物を形成材料とする積層構造体は、例えば、プリズムシート、導光板、本発明の発光粉体を含む積層構造体及び光源を有する発光デバイス用途に好適である。光源としては、例えば、発光ダイオード、レーザー、電界発光デバイスが挙げられる。
また、本発明のインク組成物を形成材料とする積層構造体は、ディスプレイ用の波長変換部材として使用されることが好ましい。波長変換部材として使用する場合の構成例としては、例えば、2枚のバリア層の間に本発明のインク組成物を形成材料とする波長変換フィルムを封止した積層構造体を、導光板上に設置する構造が挙げられる。この場合、導光板の側面に設置された発光ダイオードからの青色光を、前記積層構造体を通すことによって、緑色光や赤色光へと変換し、青色光、緑色光及び赤色光が混色されて白色光を得ることができることから、ディスプレイ用のバックライトとして使用できる。
【0112】
5.発光素子
以下、青色有機LEDバックライトを備えた発光素子のカラーフィルター画素部を、本発明のインク組成物にて形成する場合を例に挙げて説明する。
図2は、本発明のインク組成物の硬化物からなる光変換層を備える発光素子の一実施形態を示す断面図であり、図3及び図4は、それぞれアクティブマトリックス回路の構成を示す概略図である。なお、図2では、便宜上、各部の寸法及びそれらの比率を誇張して示し、実際とは異なる場合がある。また、以下に示す材料、寸法等は一例であって、本発明は、それらに限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更することが可能である。以下では、説明の都合上、図2の上側を「上側」又は「上方」と、下側を「下側」又は「下方」と言う。また、図2では、図面が煩雑になることを避けるため、断面を示すハッチングの記載を省略している。
【0113】
図2に示すように、発光素子100は、下基板1と、EL光源部200と、充填層10と、保護層11と、本発明の発光粉体を含有し発光層として作用する光変換層12と、上基板13とをこの順に積層した構造を備える。ここで、発光粉体を構成する第1の発光性粒子及び第2の発光性粒子が、第1の半導体ナノ結晶又は第2の半導体ナノ結晶にそれぞれ備えるシロキサン結合を有する構造を含む表面層は、シロキサン結合を有する層を1層有してもよく、複数層有するものであってもよい。
【0114】
EL光源部200は、陽極2と、複数の層からなるEL層14と、陰極8と、図示しない偏光板と、封止層9とを順に備える。EL層14は、陽極2側から順次積層された正孔注入層3と、正孔輸送層4と、発光層5と、電子輸送層6と、電子注入層7とを含む。
かかる発光素子100は、EL光源部200(EL層14)から発せられた光を光変換層12によって吸収及び再放出するか或いは透過させ、上基板13側から外部に取り出すフォトルミネセンス素子である。このとき、光変換層12に含まれる発光粉体によって所定の色の光に変換される。
以下、各層について順次説明する。
【0115】
[下基板1及び上基板13]
下基板1及び上基板13は、それぞれ発光素子100を構成する各層を支持及び/又は保護する機能を有する。発光素子100がトップエミッション型である場合、上基板3が透明基板で構成される。一方、発光素子100がボトムエミッション型である場合、下基板2が透明基板で構成される。ここで、透明基板とは、可視光領域の波長の光を透過可能な基板を意味し、透明には、無色透明、着色透明、半透明が含まれる。
【0116】
透明基板としては、例えば、石英ガラス、合成石英板等のガラス基板;石英基板;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリカーボネート等で構成される樹脂基板;鉄、ステンレス、アルミニウム、銅等で構成される金属基板;シリコン基板、ガリウム砒素基板等を使用できる。中でも、アルカリ成分を含まない無アルカリガラスからなるガラス基板が、熱膨脹率が小さく寸法安定性及び高温加熱処理における作業性に優れる観点から好ましい。このようなガラス基板として、例えばコーニング社製の「7059ガラス」、「1737ガラス」、「イーグル2000」及び「イーグルXG(登録商標)」、旭硝子社製の「AN100」、日本電気硝子社製の「OA-10G」及び「OA-11」を好適に使用できる。
下基板1及び上基板13の平均厚さに特に限定はなく、通常、100~1000μmの範囲が好ましく、300~800μmの範囲がより好ましい。
発光素子100に可撓性を付与する場合、下基板1及び上基板13には、それぞれ樹脂基板又は比較的厚さの小さい金属基板を選択できる。なお、発光素子100の使用形態に応じ、下基板1及び上基板13のいずれか一方又は双方を省略してもよい。
【0117】
図3に示すように、下基板1上には、R、G、Bで示される画素電極PEを構成する陽極2への電流の供給を制御する信号線駆動回路C1及び走査線駆動回路C2と、これらの回路の作動を制御する制御回路C3と、信号線駆動回路C1に接続された複数の信号線706と、走査線駆動回路C2に接続された複数の走査線707とを備えている。
また、各信号線706と各走査線707との交差部近傍には、図4に示すように、コンデンサ701と、駆動トランジスタ702と、スイッチングトランジスタ708とが設けられている。
【0118】
コンデンサ701は、一方の電極が駆動トランジスタ702のゲート電極に接続され、他方の電極が駆動トランジスタ702のソース電極に接続されている。駆動トランジスタ702は、ゲート電極がコンデンサ701の一方の電極に接続され、ソース電極がコンデンサ701の他方の電極及び駆動電流を供給する電源線703に接続され、ドレイン電極がEL光源部200の陽極2に接続されている。
【0119】
スイッチングトランジスタ708は、ゲート電極が走査線707に接続され、ソース電極が信号線706に接続され、ドレイン電極が駆動トランジスタ702のゲート電極に接続されている。また、本実施形態において、共通電極705は、EL光源部200の陰極8を構成している。なお、駆動トランジスタ702及びスイッチングトランジスタ708は、例えば、薄膜トランジスタ等で構成することができる。
【0120】
走査線駆動回路C2は、走査線707を介して、スイッチングトランジスタ708のゲート電極に走査信号に応じた走査電圧を供給又は遮断し、スイッチングトランジスタ708のオン又はオフする。これにより、走査線駆動回路C2は、信号線駆動回路C1が信号電圧を書き込むタイミングを調整する。一方、信号線駆動回路C1は、信号線706及びスイッチングトランジスタ708を介して、駆動トランジスタ702のゲート電極に映像信号に応じた信号電圧を供給又は遮断し、EL光源部200に供給する信号電流の量を調整する。
【0121】
したがって、走査線駆動回路C2から走査電圧がスイッチングトランジスタ708のゲート電極に供給され、スイッチングトランジスタ708がオンすると、信号線駆動回路C1から信号電圧がスイッチングトランジスタ708のゲート電極に供給される。このとき、この信号電圧に対応したドレイン電流が電源線703から信号電流としてEL光源部200に供給される。その結果、EL光源部200は、供給される信号電流に応じて発光する。
【0122】
<EL光源部200>
[陽極2]
陽極2は、外部電源から発光層5に向かって正孔を供給する機能を有する。陽極2の構成材料(陽極材料)としては、例えば、金、アルミニウム等の金属;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物;等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
陽極2の平均厚さに特に限定はなく、通常、10~1000nmの範囲が好ましく、10~200nmの範囲がより好ましい。
陽極2は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法のような乾式成膜法により形成できる。この際、フォトリソグラフィー法やマスクを用いた方法により、所定のパターンを有する陽極2を形成してもよい。
【0123】
[陰極8]
陰極8は、外部電源から発光層5に向かって電子を供給する機能を有する。陰極8の構成材料(陰極材料)としては、例えば、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、銀、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、希土類金属、ITO、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、SnO、ZnO等の金属又は金属酸化物等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
陰極8の平均厚さに特に限定はなく、通常、0.1~1000nmの範囲が好ましく、1~200nmの範囲がより好ましい。
陰極8は、例えば、蒸着法やスパッタリング法のような乾式成膜法により形成できる。
発光素子100がトップエミッション型である場合、陰極8はITO等で形成される透明電極で構成される。この場合、陽極2はアルミニウム等で形成される反射電極で構成してもよい。
一方、発光素子100がボトムエミッション型である場合、陽極2はITO等で形成される透明電極で構成される。この場合、陰極8はアルミニウム等で形成される反射電極で構成してもよい。
【0124】
[正孔注入層3]
正孔注入層3は、陽極2から供給された正孔を受け取り、正孔輸送層4に注入する機能を有する。なお、正孔注入層3は必要に応じて設け、省略してもよい。
正孔注入層3の構成材料(正孔注入材料)としては、例えば、銅フタロシアニン等のフタロシアニン化合物;4,4’,4’’-トリス[フェニル(m-トリル)アミノ]トリフェニルアミン等のトリフェニルアミン誘導体;1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン等のシアノ化合物;酸化バナジウム、酸化モリブデン等の金属酸化物;アモルファスカーボン;ポリアニリン(エメラルディン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT-PSS)、ポリピロール等の高分子等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、PEDOT-PSSがより好ましい。
【0125】
正孔注入層3の平均厚さに特に限定はなく、通常、0.1~500nmの範囲が好ましく、1~300nmの範囲がより好ましく、2~200nmの範囲がさらに好ましい。また、正孔注入層3は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
正孔注入層3は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。
湿式成膜法では、通常、正孔注入材料を含有する液状組成物を、インクジェット印刷法(ピエゾ方式又はサーマル形式の液滴吐出法)、スピンコート法、キャスト法、LB法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ノズルプリント印刷法等により塗布し、得られた塗膜を乾燥する。なお、ノズルプリント印刷法とは、液状組成物をノズル孔から液柱としてストライプ状に塗布する方法である。
乾式成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等を好適に使用できる。
【0126】
[正孔輸送層4]
正孔輸送層4は、正孔注入層3から正孔を受け取り、発光層5まで効率的に輸送する機能を有する。また、正孔輸送層4は、電子の輸送を防止する機能を有していてもよい。なお、正孔輸送層4は必要に応じて設ければよく、省略することもできる。
【0127】
正孔輸送層4の構成材料(正孔輸送材料)としては、電子輸送能より正孔輸送能の高い材料を用いることが好ましい。係る正孔輸送材料としては、例えば芳香族アミン、カルバゾール誘導体、芳香族炭化水素、スチルベン誘導体等が挙げられ、π電子過剰型複素芳香族又は芳香族アミン等を好適に使用できる。
正孔輸送材料の具体例としては、、TPD(N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン)、α-NPD(4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル)、m-MTDATA(4,4’,4’’-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)等のトリフェニルアミン誘導体;ポリビニルカルバゾール;ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン](poly-TPA)、ポリフルオレン(PF)、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン](Poly-TPD)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-[4,4’-(N-(sec-ブチルフェニル)ジフェニルアミン)]](TFB)、ポリフェニレンビニレン(PPV)等の共役系化合物重合体;及びこれらのモノマー単位を含む共重合体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正孔輸送材料としては、トリフェニルアミン誘導体、置換基が導入されたトリフェニルアミン誘導体の重合体又は共重合体が好ましく、置換基が導入されたトリフェニルアミン誘導体の重合体がより好ましい。
【0128】
正孔輸送層4の平均厚さに特に限定はなく、通常、1~500nmの範囲が好ましく、5~300nmの範囲がより好ましく、10~200nmの範囲がさらに好ましい。
正孔輸送層4は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
このような正孔輸送層4は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0129】
[電子注入層7]
電子注入層7は、陰極8から供給された電子を受け取り、電子輸送層6に注入する機能を有する。なお、電子注入層7は必要に応じて設け、省略してもよい。
電子注入層7の構成材料(電子注入材料)としては、例えば、LiO、LiO、NaS、NaSe、NaO等のアルカリ金属カルコゲナイド;CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、MgO、CaSe等のアルカリ土類金属カルコゲナイド;CsF、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl、NaCl等のアルカリ金属ハライド;8-ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)等のアルカリ金属塩;CaF、BaF、SrF、MgF、BeF等のアルカリ土類金属ハライド等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属ハライド、アルカリ金属塩が好ましい。
【0130】
電子注入層7の平均厚さに特に限定はなく、通常、0.1~100nmの範囲が好ましく、0.2~50nmの範囲がより好ましく、0.5~10nmの範囲がさらに好ましい。また、電子注入層7は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
電子注入層7は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0131】
[電子輸送層6]
電子輸送層6は、電子注入層7から電子を受け取り、発光層5まで効率的に輸送する機能を有する。また、電子輸送層6は、正孔の輸送を防止する機能を有していてもよい。なお、電子輸送層6は、必要に応じて設ければよく、省略することもできる。
電子輸送層6の構成材料(電子輸送材料)としては、正孔輸送能より電子輸送能の高い材料を用いることが好ましい。電子輸送材料としては、例えば、フラーレン、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、キノキサリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、イミダゾール誘導体、キノリン誘導体、ペリレン誘導体、トリアジン誘導体、又はピリミジン誘導体等の含窒素複素芳香族化合物のようなπ電子不足型複素芳香族;キノリン配位子、ペリレン配位子、ベンゾキノリン配位子、オキサゾール配位子、ベンズオキサゾリン配位子、ベンゾチアゾリン配位子、又はチアゾール配位子を有する金属錯体等が挙げられる。
【0132】
電子輸送材料の具体例としては、トリス(8-キノリラート)アルミニウム(Alq)、トリス(4-メチル-8-キノリノラート)アルミニウム(Almq3)、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラート)(p-フェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(8-キノリノラート)亜鉛、ビス[2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンズオキサゾラート]亜鉛、ビス[2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラート]亜鉛、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン(OXD-7)、9-[4-(5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)フェニル]カルバゾール(CO11)、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(TPBI)、2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]-1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール(mDBTBIm-II)、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BPhen)等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、電子輸送材料として、無機半導体材料を用いてもよい。電子輸送層6を無機半導体材料で構成することにより、電子輸送層6中における電子の移動度を高め、発光層5への電子の注入効率を向上できる。係る電子輸送材料としては、例えば、炭酸セシウム等の金属塩;酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛等の金属酸化物を好適に使用できる。
【0133】
電子輸送層6の平均厚さに特に限定はなく、通常、5~500nmの範囲が好ましく、5~200nmの範囲がより好ましい。また、電子輸送層6は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
電子輸送層6は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0134】
発光素子100に正孔注入層3及び電子注入層7を設けると、正孔輸送層4及び電子輸送層6を介した発光層5への正孔及び電子の輸送効率を高めることができる。その結果、発光層5の発光効率をより向上させ、高輝度での発光が可能で、かつ長寿命な発光素子が得られる。
【0135】
[発光層5]
発光層5は、発光層5に注入された正孔及び電子の再結合により生じるエネルギーを利用して、発光を生じさせる機能を有する。本実施形態の発光層5は、400~500nmの範囲の波長の青色光を発し、より好ましくは420~480nmの範囲である。
発光層5は、発光材料(ゲスト材料又はドーパント材料)及びホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料と発光材料との質量比に特に制限はなく、通常、10:1~300:1の範囲が好ましい。
発光材料としては、一重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物又は三重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物を使用でき、有機低分子蛍光材料、有機高分子蛍光材料及び有機燐光材料からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0136】
一重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物としては、蛍光を発する有機低分子蛍光材料又は有機高分子蛍光材料が挙げられる。
有機低分子蛍光材料としては、アントラセン構造、テトラセン構造、クリセン構造、フェナントレン構造、ピレン構造、ペリレン構造、スチルベン構造、アクリドン構造、クマリン構造、フェノキサジン構造又はフェノチアジン構造を有する化合物が好ましい。
【0137】
有機低分子蛍光材料の具体例としては、例えば、5,6-ビス[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-2,2’-ビピリジン、5,6-ビス[4’-(10-フェニル-9-アントリル)ビフェニル-4-イル]-2,2’-ビピリジン、N,N’-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N,N’-ジフェニルスチルベン-4,4’-ジアミン、4-(9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン、4-(9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)トリフェニルアミン、N,9-ジフェニル-N-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン、4-(10-フェニル-9-アントリル)-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン、4-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン、ペリレン、2,5,8,11-テトラ(tert-ブチル)ペリレン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス[4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]ピレン-1,6-ジアミン、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ビス[3-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]-ピレン-1,6-ジアミン、N,N’-ビス(ジベンゾフラン-2-イル)-N,N’-ジフェニルピレン-1,6-ジアミン、N,N’-ビス(ジベンゾチオフェン-2-イル)-N,N’-ジフェニルピレン-1,6-ジアミン、N,N’’-(2-tert-ブチルアントラセン-9,10-ジイルジ-4,1-フェニレン)ビス[N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン]、N,9-ジフェニル-N-[4-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン、N-[4-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)フェニル]-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’,N’’,N’’,N’’’,N’’’-オクタフェニルジベンゾ[g,p]クリセン-2,7,10,15-テトラアミン、クマリン30、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-アミン、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン、N,N,9-トリフェニルアントラセン-9-アミン、クマリン6、クマリン545T、N,N’-ジフェニルキナクリドン、ルブレン、5,12-ビス(1,1’-ビフェニル-4-イル)-6,11-ジフェニルテトラセン、2-(2-{2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}-6-メチル-4H-ピラン-4-イリデン)プロパンジニトリル、2-{2-メチル-6-[2-(2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)テトラセン-5,11-ジアミン、7,14-ジフェニル-N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)アセナフト[1,2-a]フルオランテン-3,10-ジアミン、2-{2-イソプロピル-6-[2-(1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、2-{2-tert-ブチル-6-[2-(1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、2-(2,6-ビス{2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}-4H-ピラン-4-イリデン)プロパンジニトリル、2-{2,6-ビス[2-(8-メトキシ-1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル、5,10,15,20-テトラフェニルビスベンゾ[5,6]インデノ[1,2,3-cd:1’,2’,3’-lm]ペリレン等が挙げられる。
【0138】
有機高分子蛍光材料としては、例えば、フルオレン誘導体に基づく単位からなるホモポリマー、フルオレン誘導体に基づく単位とテトラフェニルフェニレンジアミン誘導体に基づく単位とからなるコポリマー、ターフェニル誘導体に基づく単位からなるホモポリマー、ジフェニルベンゾフルオレン誘導体に基づく単位からなるホモポリマー等が挙げられる。
【0139】
三重項励起エネルギーを光に変換可能な化合物としては、燐光を発する有機燐光材料が好ましい。有機燐光材料としては、例えば、Ir、Rh、Pt、Ru、Os、Sc、Y、Gd、Pd、Ag、Au、Alからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属錯体が挙げられる。中でも、Ir、Rh、Pt、Ru、Os、Sc、Y、Gd及びPdからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属錯体が好ましく、Ir、Rh、Pt及びRuからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属錯体がより好ましく、Ir錯体又はPt錯体がさらに好ましい。
【0140】
発光層5はホスト材料を含んでもよい。ホスト材料は、発光層5に注入された正孔と電子との再結合の場を提供し、その分子上での正孔-電子対(励起子;エキシトン)の形成を促進する。この励起子の励起エネルギーは、ナノ結晶に移動(フェルスター共鳴エネルギー移動)し、発光する。係る現象を利用することにより、発光層5の発光効率を向上できる。
ホスト材料としては、発光材料のエネルギーギャップより大きいエネルギーギャップを有する化合物の少なくとも1種を用いるのが好ましい。また発光材料が燐光材料である場合、ホスト材料は、発光材料よりも三重項励起エネルギー(基底状態と三重項励起状態とのエネルギー差)の大きい化合物を選択することが好ましい。
【0141】
ホスト材料としては、例えば、Alq、Almq3、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(II)、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(4-フェニルフェノラト)アルミニウム(III)、ビス(8-キノリノラト)亜鉛(II)、ビス[2-(2-ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)、バソフェナントロリン、バソキュプロイン、9-[4-(5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)フェニル]-9H-カルバゾール、9,10-ジフェニルアントラセン、N,N-ジフェニル-9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン、4-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン、N,9-ジフェニル-N-{4-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]フェニル}-9H-カルバゾール-3-アミン、6,12-ジメトキシ-5,11-ジフェニルクリセン、9-[4-(10-フェニル-9-アントラセニル)フェニル]-9H-カルバゾール、3,6-ジフェニル-9-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール、9-フェニル-3-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール、7-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-7H-ジベンゾ[c,g]カルバゾール、6-[3-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)フェニル]-ベンゾ[b]ナフト[1,2-d]フラン、9-フェニル-10-{4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)ビフェニル-4’-イル}アントラセン、9,10-ビス(3,5-ジフェニルフェニル)アントラセン、9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、2-tert-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、9,9’-ビアントリル、9,9’-(スチルベン-3,3’-ジイル)ジフェナントレン、9,9’-(スチルベン-4,4’-ジイル)ジフェナントレン、1,3,5-トリ(1-ピレニル)ベンゼン、5,12-ジフェニルテトラセン又は5,12-ビス(ビフェニル-2-イル)テトラセン等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0142】
発光層5の平均厚さは、通常、1~100nmの範囲であることが好ましく、1~50nmの範囲がより好ましい。
発光層5は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
【0143】
なお、EL光源部200は、さらに、例えば正孔注入層3、正孔輸送層4及び発光層5を区画するバンク(隔壁)を有していてもよい。バンクの高さは特に限定されず、通常、0.1~5μmの範囲が好ましく、0.2~4μmの範囲がより好ましく、0.2~3μmの範囲がさらに好ましい。
バンクの開口の幅は、10~200μmの範囲が好ましく、30~200μmの範囲がより好ましく、50~100μmの範囲がさらに好ましい。バンクの開口の長さは、10~400μmの範囲が好ましく、20~200μmの範囲がより好ましく、50~200μmの範囲がさらに好ましい。
また、バンクの傾斜角度は、10~100°の範囲が好ましく、10~90°の範囲がより好ましく、10~80°の範囲がさらに好ましい。
【0144】
発光素子100は、発光層5と電子輸送層6との間にさらに正孔ブロック層を有していてもよい。正孔ブロック層は、正孔輸送層4から輸送された正孔が発光層5を通過し、電子輸送層6へ移動することを規制する機能を有する。正孔ブロック層を設けると、発光層5中で電子と再結合できなかった正孔を電子輸送層6へ逃すことなく、発光層5中に留めることができる。発光層5中に留まる正孔は、再度電子との再結合の機会を得られるため無駄にならず、発光層5の発光効率をより向上できる。
正孔ブロック層の構成材料としては、上述した電子輸送材料を、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
正孔ブロック層の平均厚さに特に限定はなく、通常、1~500nmの範囲が好ましく、2~300nmの範囲がより好ましく、3~200nmの範囲がさらに好ましい。また、正孔ブロック層は、単層でも、2層以上が積層された積層構成であってもよい。
正孔ブロック層は、湿式成膜法又は乾式成膜法により形成できる。湿式製膜法及び乾式製膜法については正孔注入層3の説明にて上述したとおりである。
また、発光素子100は、光を適切に反射させるための反射層、光を適切に透過させるための透明光学調整層、光を適切に透過及び散乱させるための光散乱層をさらに有していてもよい。
発光素子100の実施の形態は、上述の構成に限定されず、他の任意の構成を追加で備えてもよく、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されてもよい。
【0145】
<光変換層12>
光変換層12は、EL光源部200から発せられた光を変換して再発光するか、或いは、EL光源部200から発せられた光を透過する。
光変換層は、図2に示すように、画素部20として、前記範囲の波長の光を変換して赤色光を発する第1の画素部20aと、前記範囲の波長の光を変換して緑色光を発する第2の画素部20bと、前記範囲の波長の光を透過する第3の画素部20cとを有している。複数の第1の画素部20a、第2の画素部20b及び第3の画素部20cが、この順に繰り返すように格子状に配列されている。そして、隣り合う画素部の間、すなわち、第1の画素部20aと第2の画素部20bとの間、第2の画素部20bと第3の画素部20cとの間、第3の画素部20cと第1の画素部20aとの間に、光を遮蔽する遮光部30が設けられている。換言すれば、隣り合う画素部20同士は、遮光部30によって隔てられている。なお、第1の画素部20a及び第2の画素部20bは、それぞれの色に対応した色材を含んでもよい。
【0146】
第1の画素部20a及び第2の画素部20bは、それぞれ上述したインク組成物の硬化物を含む発光性の画素部である。硬化物は、発光粉体と硬化成分とを含有する。また、硬化物は、光を散乱させて外部へ確実に取り出すためにさらに光散乱粒子を含むことが好ましい。
第1の画素部20aは、第1硬化成分22aと、第1硬化成分22a中に分散された第1発光粉体90a及び第1光散乱粒子21aとを含む。同様に、第2の画素部20bは、第2硬化成分22bと、第2硬化成分22b中に分散された第2発光粉体90b及び第2光散乱粒子21bとを含む。なお、第1発光粉体90aは、実際には第1の発光性粒子と第2の発光性粒子とを含有するが、図2では各発光性粒子の記載を省略している。同様に、第2発光粉体90bは、実際には第1の発光性粒子と第2の発光性粒子とを含有するが、図2では各発光性粒子の記載を省略している。
硬化成分は、光重合性化合物の重合によって得られた成分であり、光重合性化合物の重合体と、インク組成物中の有機成分(分散剤、未反応の光重合性化合物等)が含まれていてもよい。
第1の画素部20a及び第2の画素部20bにおいて、第1硬化成分22aと第2硬化成分22bとは同一であっても異なっていてもよく、第1光散乱粒子21aと第2光散乱粒子21bとは同一であっても異なっていてもよい。
【0147】
第1発光粉体90aは、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し605~665nmの範囲に発光スペクトルのピーク波長を有する光を発する、赤色発光性粉体である。すなわち、第1の画素部20aは、青色光を赤色光に変換するための赤色画素部と言える。
また、第2発光粉体90bは、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し500~560nmの範囲に発光スペクトルのピーク波長を有する光を発する、緑色発光性粉体である。すなわち、第2の画素部20bは、青色光を緑色光に変換するための緑色画素部と言える。
【0148】
画素部20a、20bにおける発光粉体の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点及び優れた発光強度が得られる観点から、インク組成物の硬化物の全質量を基準として0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、3質量%以上が特に好ましい。発光粉体の含有量は、画素部20a、20bの信頼性に優れる観点及び優れた発光強度が得られる観点から、インク組成物の全質量を基準として30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下が特に好ましい。
【0149】
画素部20a、20bにおける光散乱粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点から、インク組成物の硬化物の全質量を基準として、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、7質量%以上が特に好ましい。光散乱粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点及び画素部20の信頼性に優れる観点から、インク組成物の硬化物の全質量を基準として、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0150】
第3の画素部20cは、420~480nmの範囲の波長の光に対し30%以上の透過率を有する。そのため、第3の画素部20cは、420~480nmの範囲の波長の光を発する光源を用いる場合に、青色画素部として機能する。第3の画素部20cは、例えば、本発明の発光粉体を含まない以外は上述した実施形態のインク組成物と同様の組成である組成物(非発光性インク組成物)の硬化物を含む、非発光性の画素部である。硬化物は、発光粉体を含有せず、光散乱性粒子と硬化成分とを含有する。すなわち、第3の画素部20cは、第3硬化成分22cと、第3硬化成分22c中に分散された第3光散乱性粒子21cを含む。
第3硬化成分22cは、例えば、光重合性化合物の重合によって得られる成分であり、光重合性化合物の重合体を含む。第3硬化成分22cは、420~480nmの範囲の波長の光に対する透過率が30%以上となる限りにおいて、光重合性化合物の重合体と、インク組成物中の有機成分(分散剤、未反応の光重合性化合物等)が含まれていてもよい。
第3光散乱性粒子21cは、第1光散乱性粒子21a及び第2光散乱性粒子21bと同一であっても、異なっていてもよい。
画素部20cにおける光散乱粒子の含有量は、視野角における光強度差をより低減する観点から、非発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。光散乱粒子の含有量は、光反射をより低減する観点から、非発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
なお、第3の画素部20cの透過率は、顕微分光装置により測定できる。
【0151】
画素部(第1の画素部20a、第2の画素部20b及び第3の画素部20c)の厚さは、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。
画素部(第1の画素部20a、第2の画素部20b及び第3の画素部20c)の厚さは、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。
【0152】
遮光部30は、隣り合う画素部20を隔てて混色(クロストーク)を防ぐ目的及び光源からの光漏れを防ぐ目的で設けられる隔壁部、いわゆるブラックマトリックスである。
遮光部30を構成する材料は特に限定されず、クロム等の金属の他、バインダー樹脂とカーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子を含む樹脂組成物等が挙げられる。バインダー樹脂には、例えばポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の1種又は2種以上を含む樹脂、感光性樹脂、O/Wエマルジョン樹脂(例えば、反応性シリコーンエマルジョン)等を使用できる。
遮光部30の厚さは、1μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0153】
[光変換層12の形成方法]
以上の第1~3の画素部20a~20cを備える光変換層12は、例えば、湿式成膜法により形成した塗膜を乾燥、加熱して硬化させることより形成することができる。第1の画素部20a及び第2の画素部20bは、本発明のインク組成物を用いて形成することができ、第3の画素部20cは、本発明の発光粉体を含まない、上述した非発光性インク組成物を用いて形成することができる。
【0154】
本発明のインク組成物の塗膜を得るための塗布法としては、インクジェット印刷法(ピエゾ方式又はサーマル方式の液滴吐出法)、スピンコート法、キャスト法、LB法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ノズルプリント印刷法等が挙げられる。
塗布法としてインクジェット印刷法(特に、ピエゾ方式の液滴吐出法)が好ましい。これにより、インク組成物を吐出する際の熱負荷を小さくでき、発光粉体の熱による劣化を防ぐことができる。
【0155】
インクジェット印刷法において、インク組成物の吐出量は特に限定されず、通常、1~50pL/回であることが好ましく、1~30pL/回がより好ましく、1~20pL/回がさらに好ましい。
ノズル孔の開口径は、5~50μmの範囲であることが好ましく、10~30μmの範囲であることがより好ましい。かかる範囲であると、ノズル孔の目詰まりを防止しつつ、インク組成物の吐出精度を高められる。
【0156】
塗膜を形成する際の温度は特に限定されず、通常、10~50℃の範囲が好ましく、15~40℃の範囲がより好ましく、15~30℃の範囲がさらに好ましい。かかる温度で液滴を吐出すれば、本発明のインク組成物中に含まれる各種成分の結晶化を抑制できる。
また、塗膜を形成する際の相対湿度も特に限定されず、通常、0.01ppm~80%の範囲であることが好ましく、0.05ppm~60%の範囲がより好ましく、0.1ppm~15%の範囲がさらに好ましく、1ppm~1%の範囲が特に好ましく、5~100ppmの範囲が最も好ましい。相対湿度が上記下限値以上であると、塗膜を形成する際の条件の制御が容易となる。一方、相対湿度が上記上限値以下であると、得られる光変換層12に悪影響を及ぼし得る塗膜に吸着する水分量を低減できる。
【0157】
インク組成物に炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、アルコール、ケトン、エステル、非プロトン性極性化合物等を溶媒として添加した場合は、インク組成物を基板上に塗布後、硬化させる前に、自然乾燥、加熱下又は減圧下での乾燥を行う。生産性の観点から、加熱下、又は加熱下かつ減圧下で乾燥を行うのが好ましい。加熱温度は、添加した溶媒の沸点及び蒸気圧も考慮し、通常、50~130℃が好ましく、60~120℃がより好ましい。減圧下の圧力は、通常、0.001~100Paの範囲が好ましい。また、乾燥時間は、通常、1~30分間が好ましい。乾燥により溶媒を塗膜から除去することで、得られる光変換層の外部量子効率をより向上できる。
【0158】
本発明のインク組成物の硬化は、活性エネルギー線(例えば、紫外線)の照射により行える。照射源(光源)としては、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、LED等が挙げられ、塗膜への熱負荷の低減や低消費電力の観点から、LEDが好ましい。
【0159】
照射する光の波長は、200nm以上440nm以下が好ましい。また、光の強度は、塗膜表面と内部の硬化度にムラがなく十分に硬化でき、塗膜表面の平滑性を保ちやすい観点から、0.2~2kW/cmが好ましく、0.4~1kW/cmがより好ましい。光の照射量(露光量)は、10mJ/cm以上4000mJ/cm以下が好ましい。
塗膜の硬化は、大気雰囲気下、又は窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、塗膜表面の酸素阻害及び塗膜の酸化を抑制する観点から、不活性ガス下で行うことが好ましい。このような条件で塗膜を硬化させることにより、得られる光変換層の外部量子効率をより向上できる。
【0160】
上述したように、本発明のインク組成物は熱に対する安定性に優れるため、硬化物(成形体)である画素部20においても良好な発光を実現できる。また、本発明のインク組成物は分散性に優れるため発光粉体の分散性に優れ、かつ平坦な画素部20を得やすい。
【0161】
さらに、第1の画素部20a及び第2の画素部20bに含まれる発光粉体が、ペロブスカイト型結晶構造を有する半導体ナノ結晶を含む場合は、300~500nmの波長領域の吸収が大きい。そのため、第1の画素部20a及び第2の画素部20bにおいて、第1の画素部20a及び第2の画素部20bに入射した青色光が上基板13側へ透過する、すなわち、青色光が上基板13側へ漏れることを防止できる。したがって、本発明の発光粉体を含む、第1の画素部20a及び第2の画素部20bによれば、青色光が混色されることなく、色純度の高い赤色光及び緑色光を取り出すことができる。
【0162】
発光素子100は、トップエミッション型に代えて、ボトムエミッション型として構成することもできる。また、発光素子100はEL光源部200に代えて他の光源を使用することもできる。
【0163】
上述の発光素子は、カラーフィルターを備えたカラー表示デバイスへの適用に好適である。ここで、カラー表示デバイスとは、例えば、テレビ、モニター、スマートフォン、携帯電話等のカラー表示を行うデバイスであり、液晶層を用いないタイプと液晶層を用いるタイプのいずれをも包含する。
【0164】
6.発光スペクトルのピーク波長の調整方法
本発明はまた、メタルハライドからなる第1の半導体ナノ結晶を含む第1の発光性粒子を含有する分散液と、メタルハライドからなる第2の半導体ナノ結晶を含み、前記第1の発光性粒子とは発光スペクトルのピーク波長が異なる第2の発光性粒子を含有する分散液とを混合することにより、得られた混合分散液における発光スペクトルのピーク波長を、前記第1の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長と前記第2の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長との間の所望の位置に調整する、発光スペクトルのピーク波長の調整方法である。
【0165】
上記発光スペクトルのピーク波長の調整方法によれば、第1の発光性粒子と第2の発光性粒子の含有量を調整することにより、当該発光粉体の発光スペクトルのピーク波長を精密かつ簡便に調整することができる。上記発光スペクトルのピーク波長の調整方法によれば、例えば、半導体ナノ結晶を合成する際に2種類のカチオン種を用いてメタルハライド化合物の組成を調整することにより、発光性粒子の発光波長を制御するような従来の方法と比較して、所望の発光スペクトルのピーク波長を備えた発光粉体を容易かつ確実に得ることができる。
【0166】
第1の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長と第2の発光性粒子の発光スペクトルのピーク波長との差の絶対値は、10~60nmの範囲であるのが好ましい。その場合には、第1の発光性粒子と第2の発光性粒子の両方に、緑色発光性、赤色発光性又は青色発光性の半導体ナノ結晶を含む発光性粒子を用いることが好ましい。例えば、発光スペクトルのピーク波長が520nmの緑色発光を示す第1の発光性粒子と、発光スペクトルのピーク波長が535nmの緑色発光を示す第2の発光性粒子とを用い、各発光性粒子の含有比を調整することにより、520~535nmの範囲の所望のピーク波長を示す発光粉体を得ることができる。これは、赤色発光性又は青色発光性の半導体ナノ結晶を含む発光性粒子を用いる場合も同様である。
【0167】
かかる第1の半導体ナノ結晶を含む第1の発光性粒子及び第2の半導体ナノ結晶を含む第2の発光性粒子は、好適にはシロキサン結合を含む表面層を備える。かかる表面層は、前記した第1のシラン化合物又は第2のシラン化合物の縮合によるシロキサン結合を含む層(第1のシェル層)と、前記したポリマーβ及び前記した第3のシラン化合物の縮合によるシロキサン結合を含む層(第2のシェル層)とを含むのが好ましい。第1のシェル層及び第2のシェル層についての詳細は前述したものと同様である。
【0168】
第1の半導体ナノ結晶を含む第1の発光性粒子の分散液、及び第2の半導体ナノ結晶を含む第2の発光性粒子の分散液を構成する溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素が好ましい。分散液の調製方法には特に制限はなく、上述した第1の半導体ナノ結晶を含む第1の発光性粒子、又は第2の半導体ナノ結晶を含む第2の発光性粒子と溶媒を任意の比で混合して調製できる。
かかる分散液は、第1の半導体ナノ結晶を含む第1の発光性粒子又は第1の半導体ナノ結晶を含む第2の発光性粒子がそれぞれ溶媒に分散した分散体(コロイド溶液)である。
かかる分散液は、濾過、遠心分離、吸着、カラムクロマトグラフ等により、不純物を除去することが好ましい。また調製した分散液を直ちに使用しない場合は、光学特性の安定性及び分散安定性の観点から、水、アルコール等の含有量を0.1%以下とし、遮光下で保管することが好ましい。保管温度は-70℃以上40℃以下が好ましく、-50℃以上30℃以下がより好ましく、-30℃以上20℃以下がさらに好ましく、-20℃以上10℃以下が特に好ましい。
【0169】
第1の半導体ナノ結晶を含む第1の発光性粒子の分散液、及び第2の半導体ナノ結晶を含む第2の発光性粒子の分散液の混合量比を調整することにより、例えば緑色域におけるピーク波長、又は赤色域におけるピーク波長を、精密かつ簡便に調整できる。
【0170】
以上、本発明の発光粉体、前記発光粉体の製造方法、前記発光粉体を含むインク組成物及び前記インク組成物の硬化物からなる光変換層、並びに前記光変換層を備えたカラーフィルター、波長変換フィルム及び発光素子、さらに発光スペクトルのピーク波長の調整方法について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の発光粉体、発光粉体を含むインク組成物、インク組成物の硬化物からなる光変換層、光変換層を備えたカラーフィルター、波長変換フィルム、及び発光素子は、それぞれ、上述した実施形態の構成において、他の任意の構成を追加して有していてもよく、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。また、本発明の発光粉体の製造方法は、上述した実施形態の構成において、他の任意の目的の工程を有してもよいし、同様の効果を発揮する任意の工程と置換されていてもよい。
【実施例0171】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0172】
A.発光性粒子又はナノ結晶の製造例
製造例1(発光性粒子1を含有する分散液1の調製)
まず、0.12gの炭酸セシウムと、5mLの1-オクタデセンと、0.5mLのオレイン酸とを混合し、この混合液を120℃で30分間、減圧乾燥後、アルゴン雰囲気下に150℃で加熱して、セシウム-オレイン酸溶液を得た。
一方、0.2gの臭化鉛(II)と15mLの1-オクタデセンと、1.5mLのオレイン酸とを混合し、この混合液を90℃で10分間、減圧乾燥後、アルゴン雰囲気下に混合液に1.5mLの3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を添加した。さらに20分間減圧乾燥後、アルゴン雰囲気下に140℃で加熱した。
この臭化鉛(II)を含む混合液に、150℃で1.5mLの前記セシウム-オレイン酸溶液を添加し、5秒間撹拌した後、氷浴で冷却した。次いで、30mLの酢酸メチルを添加した。得られた懸濁液を遠心分離(10000rpm、1分間)した後、上澄み液を除去して得られた固形物(発光性粒子1)にトルエン20mLを加え振倒攪拌し分散させた。
得られたコロイド溶液を25℃、10000rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を回収することにより、発光性粒子1がコロイド状に分散した分散液1を得た。発光性粒子1について、X線粉末回折法を行ったところ、発光性粒子1を構成する半導体ナノ結晶がペロブスカイト型結晶構造を有するCsPbBrであることが判明した。また、発光性粒子1について、走査透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析法(STEM-EDS)によって元素分布を評価したところ、発光性粒子1の表面にSiが存在することが判明した。このSiは、APTESの加水分解によって生じたシロキサン結合に由来するものと考えられる。発光性粒子1の平均粒子径は、走査透過電子顕微鏡の観察により分析したところ10nmであった。
【0173】
製造例2(発光性粒子2を含有する分散液2の調製)
アルゴン雰囲気下、3口フラスコにホルムアミジン酢酸塩0.16g、オレイン酸5mLを加え、減圧(15±3kPa)下、120℃で30分間加熱撹拌した。アルゴン雰囲気のまま大気圧に戻した。150℃に昇温し、均一な溶液となるまで撹拌し、ホルムアミジニウム-オレイン酸溶液を得た。
一方、アルゴン雰囲気下、上記とは別の3口フラスコに臭化鉛(II)0.06g、オレイン酸0.6mL及び1-オクタデセン7.85mLを加え、減圧(15±3kPa)下、120℃で30分間加熱撹拌した。アルゴン雰囲気のまま大気圧に戻し、0.45mLのAPTESを加えた。140℃に昇温し、均一な溶液となるまで撹拌した。
この臭化鉛(II)を含む混合液に150℃で前記ホルムアミジニウム-オレイン酸溶液1.1mLを添加し、5秒間撹拌した後、氷浴で冷却した。次いで、30mLの酢酸メチルを添加した。得られた懸濁液を遠心分離(10000rpm、3分間)した後、上澄み液を除去して得られた固形物(発光性粒子2)にトルエン20mLを加え振倒攪拌し分散させた。
得られたコロイド溶液を25℃、10000rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を回収することにより、ペロブスカイト型結晶構造を有するFAPbBr(「FA」は、(NHCH、すなわちホルムアミジニウムを意味する。)をコアに有し、かつシロキサン結合を含む表面層を備える発光性粒子2がコロイド状に分散した分散液2を得た。前記発光性粒子2について、走査透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析法(STEM-EDS)によって元素分布を評価し、発光性粒子2の表面層にSiが含まれていることを確認した。発光性粒子2を走査透過電子顕微鏡観察により分析したところ、その平均粒子径は11nmであった。
【0174】
製造例3(発光性粒子3を含有する分散液3の調製)
製造例1と同様にして分散液1を得た。下記式(B4)で表される構造を有するブロックコポリマー(S2VP、PolymerSource.社製;以下「ブロックコポリマー(B4)」と記す。)0.8gをトルエン5mLに60℃で加熱しながら攪拌溶解させた。次に分散液1を5mL添加し、15分間撹拌した。
【0175】
【化3】
【0176】
その後、下記式(C4)で表される化合物(MS-51、コルコート株式会社製、式(C4)中のmの平均値は4;以下「MS-51(C4)」と記す。)0.5mL、水0.025mLを添加し、室温で2時間撹拌した。
【0177】
【化4】
【0178】
得られた混合液を、9000rpm、5分間の条件で遠心分離した後、上澄み液を回収することにより、発光性粒子1の表面にシロキサン結合を含む表面層を備える発光性粒子3が、トルエンに分散した分散液3を得た。この表面層は、上述した第2のシェル層に相当する。前記発光性粒子3について、走査透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析法(STEM-EDS)によって元素分布を評価し、発光性粒子3の表面層にSiが含まれていることを確認した。当該表面層の厚さを測定したところ、約4nmであった。また、前記発光性粒子3について、熱重量示差熱分析(TG-DTA;昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下)測定により、200~550℃の範囲で重量減少が確認されたことから、有機成分が含まれていることが示唆された。一方、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計(TD/Py-GC/MS)測定により、ブロックコポリマー(B4)が成分として同定された。
【0179】
製造例4(発光性粒子4を含有する分散液4の調製)
製造例2と同様にして分散液2を得た。ブロックコポリマー(B4)0.8gをトルエン5mLに60℃で加熱しながら攪拌溶解させた。次に分散液2を5mL添加し15分間攪拌した。その後、MS-51(C4)0.5mL、水0.025mLを添加し、室温で2時間撹拌した。
得られた混合液を、9000rpm、5分間の条件で遠心分離した後、上澄み液を回収することにより、発光性粒子2の表面にシロキサン結合を含む表面層を備える発光性粒子4が、トルエンに分散した分散液4を得た。この表面層は、上述した第2のシェル層に相当する。前記発光性粒子4について、走査透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析法(STEM-EDS)によって元素分布を評価し、発光性粒子4の表面層にSiが含まれていることを確認した。当該表面層の厚さを測定したところ、約4nmであった。
また、前記発光性粒子4について、熱重量示差熱分析(TG-DTA;昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下)測定により、200~550℃の範囲で重量減少が確認されたことから、有機成分が含まれていることが示唆された。一方、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計(TD/Py-GC/MS)測定により、ブロックコポリマー(B4)が成分として同定された。
【0180】
製造例5(発光性粒子5を含有する分散液5の調製)
アルゴン雰囲気下、3口フラスコに炭酸セシウム0.117g、ホルムアミジン酢酸塩0.075g、オレイン酸3mL及び1-オクタデセン5mLを加え、減圧(15±3kPa)下、120℃で30分間加熱撹拌した。アルゴン雰囲気のまま大気圧に戻した。150℃に昇温し、均一な溶液となるまで撹拌し、セシウム/ホルムアミジニウム-オレイン酸溶液を得た。
一方、アルゴン雰囲気下、上記とは別の3口フラスコに臭化鉛(II)0.13g、オレイン酸1.1mL、オレイルアミン1.5mL及び1-オクタデセン15mLを加え、減圧(15±3kPa)下、120℃で30分間加熱撹拌した。140℃に昇温し、均一な溶液となるまで撹拌した。
この臭化鉛(II)を含む混合液に150℃で前記セシウム/ホルムアミジニウム-オレイン酸溶液1.5mLを添加し、5秒間撹拌した後、氷浴で冷却した。次いで、30mLの酢酸メチルを添加した。得られた懸濁液を遠心分離(10000rpm、3分間)した後、上澄み液を除去して得られた固形物(発光性粒子5)にトルエン20mLを加え振倒攪拌し分散させた。
得られたコロイド溶液を25℃、10000rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を回収することにより、ペロブスカイト型結晶構造を有するCs0.5FA0.5PbBrをコアに有する発光性粒子5がコロイド状に分散した分散液5を得た。発光性粒子5を走査透過電子顕微鏡観察により分析したところ、その平均粒子径は10nmであった。
【0181】
製造例6(発光性粒子6を含有する分散液6の調製)
アルゴン雰囲気下、3口フラスコに炭酸セシウム0.026g、ホルムアミジン酢酸塩0.15g、オレイン酸3mL及び1-オクタデセン2mLを加え、減圧(15±3kPa)下、120℃で30分間加熱撹拌した。アルゴン雰囲気のまま大気圧に戻した。150℃に昇温し、均一な溶液となるまで撹拌し、セシウム/ホルムアミジニウム-オレイン酸溶液を得た。
一方、アルゴン雰囲気下、上記とは別の3口フラスコに臭化鉛(II)0.06g、オレイン酸0.6mL、オレイルアミン1.5mL及び1-オクタデセン7.85mLを加え、減圧(15±3kPa)下、120℃で30分間加熱撹拌した。140℃に昇温し、均一な溶液となるまで撹拌した。
この臭化鉛(II)を含む混合液に150℃で前記セシウム/ホルムアミジニウム-オレイン酸溶液1.6mLを添加し、5秒間撹拌した後、氷浴で冷却した。次いで、30mLの酢酸メチルを添加した。得られた懸濁液を遠心分離(10000rpm、3分間)した後、上澄み液を除去して得られた固形物(発光性粒子6)にトルエン20mLを加え振倒攪拌し分散させた。
得られたコロイド溶液を25℃、10000rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を回収することにより、ペロブスカイト型結晶構造を有するCs0.5FA0.5PbBrをコアに有する発光性粒子6がコロイド状に分散した分散液6を得た。発光性粒子6を走査透過電子顕微鏡観察により分析したところ、その平均粒子径は11nmであった。
【0182】
得られた発光性粒子1~6の結晶組成、及び各々の分散液の分散液について、励起光(450nm)を照射することにより発光スペクトルを測定したところ、緑色発光が観測された。絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス株式会社製、「Quantaurus-QY」)を用いて、調製直後及び25℃で1か月(30日)保管後の分散液の、それぞれの絶対量子収率(PLQY)、発光スペクトルのピーク波長(λmax)及び発光スペクトルの半値幅(FWHM)を測定した。結果を表1に示す。
【0183】
【表1】
【0184】
製造例7<発光性粒子7(InP/ZnSeS/ZnSナノ結晶粒子)の分散液7の調製>
(1)アルゴン雰囲気下、トリオクチルホスフィンオキシド5g、酢酸インジウム1.46g(5mmol)及びラウリン酸3.16g(15.8mmol)をフラスコに添加し、混合物を160℃で40分間加熱した後、真空下で250℃にて20分間加熱した。次いで、反応温度(混合物の温度)をアルゴン下で300℃に昇温し、1-オクタデセン(ODE)3gとトリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.25g(1mmol)との混合物をフラスコに迅速に導入し、反応温度を260℃に維持した。5分後、ヒーターの除去により反応を停止させ、反応溶液を室温に冷却した。トルエン8mL及びエタノール20mLを反応溶液に添加して遠心分離を行い、InPナノ結晶粒子を沈殿させた後、上澄みの傾瀉によってInPナノ結晶粒子(赤色発光ナノ結晶粒子コア)を得た。次いで、得られたInPナノ結晶粒子をヘキサンに分散させた。
【0185】
(2)一方、ODE10g、酢酸インジウム146mg(0.5mmol)及びラウリン酸300mg(1.5mmol)をフラスコに添加し、真空下において混合物を140℃で2時間加熱することで透明な溶液(ラウリン酸インジウム前駆体溶液)を調製し、直ちにその所定量を上記(1)で得たInPナノ結晶粒子(InPコア)のヘキサン溶液の所定量を入れたフラスコに添加し混合物を得た。なお、InPコアのヘキサン溶液及びラウリン酸インジウム前駆体溶液の添加量は、InPコアが25mg、ラウリン酸インジウムが5gとなるように調整した。真空下、室温にて混合物を10分間静置した後、混合物の温度を230℃に上げて2時間保持した。
混合物の温度を室温に下げ、オレイン酸0.7gをフラスコに添加後、温度を80℃に上げた。次いで、この混合物中に、ODE1mlに溶解したジエチル亜鉛14mg、ビス(トリメチルシリル)セレニド8mg及びヘキサメチルジシラチアン7mg(ZnSeS前駆体溶液)を滴下し、厚さが0.5モノレイヤーのZnSeSシェルを形成させた。
ZnSeS前駆体溶液の滴下後、反応温度を80℃で10分間保持した。次いで、温度を140℃に上げ、30分間保持した。この混合物中にODE2mlに溶解したジエチル亜鉛69mg及びヘキサメチルジシラチアン66mg(ZnS前駆体溶液)を滴下することにより、厚さが2モノレイヤーのZnSシェルを形成させた。ZnS前駆体溶液の滴下の10分後に、ヒーターの除去により反応を停止させた。反応混合物を室温に冷却し、得られた白色沈殿物を遠心分離によって除去することにより、InP/ZnSeS/ZnSナノ結晶粒子が分散した透明なナノ結晶粒子溶液(ODE溶液)を得た。
【0186】
(3)下記式(2A)で表されるリガンド(以下、「リガンド(2A)」と記す。)30mgを上記(2)で得られたナノ結晶粒子溶液1mLに添加した。次いで、90℃で5時間加熱することによりリガンド交換を行った。エタノール3Lを加え、超音波処理して再分散させた。得られたナノ結晶粒子のエタノール分散液3mLにn-ヘキサン10mLを添加し、遠心分離を行ってナノ結晶粒子を沈殿させた後、上澄みの傾瀉及び真空下での乾燥によって、ナノ結晶粒子(リガンド(2A)で修飾されたInP/ZnSeS/ZnSナノ結晶粒子)を得た。
得られたナノ結晶粒子を不揮発分が30質量%となるようにイソボルニルアクリレート(商品名:ライトアクリレートIB-XA、共栄社化学社製)に分散させることにより、ナノ結晶粒子分散液7(不揮発分30質量%)を得た。
なお、リガンド(2A)は、JEFAMINE M-1000(Huntsman社製)をフラスコに投入し、窒素雰囲気下でJEFAMINE M-1000と等モル量の無水コハク酸を添加して80℃で8時間攪拌することにより、淡い黄色の粘稠な油状物として得た。
【0187】
【化5】
【0188】
製造例8<光散乱性粒子分散体の調製>
アルゴンガスで満たした容器内で、酸化チタン(石原産業株式会社製「CR60-2」)10.0質量部と、高分子分散剤[Efka PX4701](アミン価:40.0mgKOH/g、BASFジャパン株式会社製)1.0質量部と、フェノキシエチルアクリレート(ライトエステルPO-A;共栄社化学株式会社製)14.0質量部とを混合した。さらに、得られた配合物にジルコニアビーズ(直径:1.25mm)を加え、前記容器を密栓しペイントコンディショナーを用いて2時間振とうさせて配合物の分散処理を行うことにより、光散乱粒子分散体を得た。分散処理後の光拡散粒子の平均粒子径は、NANOTRAC WAVE IIを用いて測定したところ、0.245μmであった。
【0189】
B.発光粉体の分散液の調製例、及び発光特性の評価
実施例1
アルゴン雰囲気下で、分散液1及び分散液2を、発光性粒子1及び発光性粒子2の合計質量に対する、発光性粒子1の割合が50質量%、発光性粒子2の割合が50質量%となるように25℃にて混合、振倒攪拌することによって、発光粉体1の分散液を調製した。
なお、分散液中の発光粉体1の濃度は0.86質量%であった。
【0190】
実施例2
アルゴン雰囲気下で、分散液1及び分散液2を、発光性粒子1及び発光性粒子2の合計質量に対する、発光性粒子1の割合が10質量%、発光性粒子2の割合が90質量%となるように25℃にて混合、振倒攪拌することによって、発光粉体2の分散液を調製した。
なお、分散液中の発光粉体2の濃度は0.85質量%であった。
【0191】
実施例3
実施例1と同様にして発光粉体1の分散液を調製した。この分散液5mLに、ブロックコポリマー(B4)0.8gをトルエン5mLに60℃で加熱溶解させた溶液を添加し、15分間撹拌した。その後、MS-51(C4)0.5mL、水0.025mLを添加し、25℃で2時間撹拌した。
得られた混合液を、9000rpm、5分間の条件で遠心分離した後、上澄み液を回収することにより、発光粉体3の分散液を得た。
【0192】
実施例4
アルゴン雰囲気下で、分散液1及び分散液2を、発光性粒子1及び発光性粒子2の合計質量に対する、発光性粒子1の割合が25質量%、発光性粒子2の割合が75質量%となるように混合して分散液を調製した。
そして、実施例3において、発光粉体1の分散液に代えて上記で調製した分散液を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、発光粉体4の分散液を得た。
【0193】
実施例5
実施例3において、発光粉体1の分散液に代えて実施例2で得た発光粉体2の分散液を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、発光粉体5の分散液を得た。
【0194】
実施例6
アルゴン雰囲気下で、分散液1及び分散液2を、発光性粒子1及び発光性粒子2の合計質量に対する、発光性粒子1の割合が5質量%、発光性粒子2の割合が95質量%となるように混合して分散液を調製した。
そして、実施例3において、発光粉体1の分散液に代えて上記で調製した分散液を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、発光粉体6の分散液を得た。
なお、発光粉体3~発光粉体6は、発光性粒子1及び発光性粒子2の各々の表面にさらにシロキサン結合を含む表面層を備える発光性粒子の混合物に相当する。
【0195】
実施例7
アルゴン雰囲気下で、分散液3及び分散液4を、発光性粒子3及び発光性粒子4の合計質量に対する、発光性粒子3の割合が50質量%、発光性粒子4の割合が50質量%となるように混合して、発光粉体7の分散液を調製した。
なお、分散液中の発光粉体7の濃度は0.47質量%であった。
【0196】
実施例8~10
分散液の種類、及び得られる発光粉体における、発光性粒子の合計質量に対する、各発光性粒子の割合が表1に示す割合となるように分散液の混合量を変化させて、発光粉体8~10の分散液を調製した。
【0197】
得られた発光粉体1~10の分散液について、励起光(450nm)を照射することにより、発光粉体の発光スペクトルを測定したところ、緑色域の発光が観測された。絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス株式会社製、「Quantaurus-QY」)を用いて、調製直後及び25℃で1か月(30日)保管後の、それぞれの絶対量子収率(PLQY)、発光スペクトルのピーク波長(λmax)及び発光スペクトルの半値幅(FWHM)を測定した。結果を表2に示す。
【0198】
比較例1~2
製造例5~6で得た分散液5~6について、発光粉体1~11の分散液と同様に、調製直後及び25℃で1か月(30日)保管後のPLQY、λmax及びFWHMを測定した。結果を表2に併せて示す。
【0199】
【表2】
【0200】
まず、実施例1~2の分散液と比較例1~2の分散液について検討する。実施例1~2の分散液は、発光粉体として、半導体ナノ結晶がCsPbBrである発光性粒子1と半導体ナノ結晶がFAPbBrである発光性粒子2とを含有する。表1及び表2に示すように、実施例1~2の発光粉体が示すλmaxは、いずれも、発光性粒子1が示すλmax520nmから発光性粒子2が示すλmax535nmまでの範囲に含まれる値となっている。ここで、実施例1の発光粉体が示す発光スペクトルのピーク波長は、発光性粒子1が示すλmax520nm×発光性粒子1の含有率0.5+発光性粒子2が示すλmax535nm×発光性粒子2の含有率0.5=527.5nmにおおよそ対応している。同様に、実施例2の発光粉体が示すλmaxは、発光性粒子1が示すλmax520nm×発光性粒子1の含有率0.1+発光性粒子2が示すλmax535nm×発光性粒子2の含有率0.9=527.5nmにおおよそ対応している。このことから、本実施例によれば、各発光性粒子の混合比を変えるだけで、所望の発光スペクトルのピーク波長を備えた発光粉体を確実に得られることが明らかである。また、本実施例の発光スペクトルのピーク波長の調整方法によれば、発光粉体におけるピーク波長を容易に制御できることが明らかである。
【0201】
さらに、表1及び表2に示すように、実施例1~2の発光粉体のFWHMは、いずれも、発光性粒子1のFWHMである20nmから発光性粒子2のFWHMである24nmまでの範囲に含まれる値となっている。このことから、本実施例によれば、発光粉体のFWHMは、混合される2つの発光性粒子のFWHMと同程度であり、発光性粒子の混合自体が発光粉体のFWHMの増大を生じさせるものでないことがわかる。
【0202】
一方、比較例1の分散液に含まれる発光性粒子5は、半導体ナノ結晶がCs0.5FA0.5PbBrであり、λmax515nmを示している。また、比較例2の分散液に含まれる発光性粒子6は、半導体ナノ結晶がCs0.1FA0.9PbBr3であり、λmax521nmを示している。このことから、半導体ナノ結晶の組成を変えるだけでは、発光性粒子のλmaxを調整するのは大変難しいことがわかる。
【0203】
そして、比較例1~2の分散液は、1ヶ月保管後のPLQYが調製直後と比較して大きく低下しており、PLQY低下率が大きい。これに対し、実施例1~2の分散液は、比較例1~2の分散液と比較して、PLQYの低下率が小さい。このことから、実施例1~2の発光粉体を構成する発光性粒子が、半導体ナノ結晶の表面にSi、すなわち、シロキサン結合を有する構造を含むことから、熱や水分等への耐久性に優れると共に長期保存性に優れたものと考えられる。
【0204】
次に、実施例3~6の分散液と実施例7~10の分散液について検討する。実施例3~10の分散液に含まれる発光粉体は、いずれも、表面層として、APTESに起因するシロキサン結合を有する構造を含む第1のシェル層を備えると共に、MS51に起因するシロキサン結合を有する構造を含む第2のシェル層を備えている。但し、実施例3~6の発光粉体は、第1のシェル層を備えた発光性粒子1と第1のシェル層を備えた発光性粒子2とを混合した後に、各発光性粒子1,2の表面に第2のシェル層を形成したものであるのに対し、実施例7~10の発光粉体は、第1のシェル層を備えた発光性粒子1に第2のシェル層を形成してなる発光性粒子3と、第1のシェル層を備えた発光性粒子2に第2のシェル層を形成してなる発光性粒子4とを含むものであり、発光粉体の製造方法が異なる。
実施例3~6の発光粉体及び実施例7~9の発光粉体は、発光性粒子1及び発光性粒子2の含有率が同一であるもの同士を比較すると、いずれも、λmaxの値が略同一であり、FWHMの値も略同一である。さらに、実施例3~6の発光粉体及び実施例7~10の発光粉体は、発光性粒子1及び発光性粒子2の含有率が同一であるもの同士を比較すると、いずれも、1ヶ月保管後のPLQYが調製直後と略同等であり、PLQY低下率が小さい。このことから、実施例3~6の発光粉体及び実施例7~9の発光粉体は、その製造方法によらず、同等の性能を備え、いずれも、熱や水分等への耐久性に優れると共に長期保存性に優れることがわかる。
【0205】
C.インク組成物の調製例
実施例11
発光粉体1の分散液2mLとヘキサン4mLを混合し、得られた懸濁液を4000rpmで1分間遠心分離した。上澄み液を除去することで得られた発光粉体1を含む残留物0.3質量部に対して、フェノキシエチルアクリレート(PhEA;共栄社化学株式会社製「ライトアクリレートPO-A」)8.1質量部及びジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(DCPA;共栄社化学株式会社製「ライトアクリレートDCPA」)11質量部を加え、室温にて振倒攪拌することにより均一分散させた。その後、ジフェニル(2,4,6-トリメトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPO;BASFジャパン株式会社製「Omnirad TPO」)0.6質量部を加えて溶解させ、メンブレンフィルター(孔径0.5μm)により濾過して、インク組成物1を調製した。
【0206】
実施例12~20
実施例11において、発光粉体1の分散液に代えて発光粉体2~10の分散液をそれぞれ用いた以外は、実施例11と同様にして、インク組成物2~10を調製した。
【0207】
比較例3~4
実施例11において、発光粉体1の分散液に代えて分散液5~6をそれぞれ用いた以外は、実施例11と同様にして、インク組成物C1~C2を調製した。
【0208】
実施例21
発光粉体10の分散液2mLとヘキサン4mLを混合し、得られた懸濁液を4000rpmで1分間遠心分離した。上澄み液を除去することで得られた発光粉体10を含む残留物0.3質量部に対して、赤色発光量子ドット(製品名「CdSe/ZnS core-shell type quantum dots」、SIGMA-ALDRICH社製、コア:CdSe、シェル:ZnS、リガンド:オクタデシルアミン、発光スペクトルのピーク波長630nm)0.1質量部、製造例8で得た光散乱性粒子分散体0.25質量部、PhEA13.3質量部及びDCPA18.3質量部を加え、室温にて振倒攪拌することにより均一分散させた。その後、TPO1質量部を加えて溶解させ、メンブレンフィルター(孔径0.5μm)により濾過して、インク組成物11を調製した。
【0209】
実施例22
発光粉体10の分散液2mLとヘキサン4mLを混合し、得られた懸濁液を4000rpmで1分間遠心分離した。上澄み液を除去することで得られた発光粉体10を含む残留物0.3質量部に対して、製造例7で得た赤色発光の発光性粒子7(InP/ZnSeS/ZnS)0.2質量部、製造例8で得た光散乱性粒子分散体0.25質量部、PhEA13.3質量部及びDCPA18.3質量部を加え、室温にて振倒攪拌することにより均一分散させた。その後、TPO1質量部を加えて溶解させ、メンブレンフィルター(孔径0.5μm)により濾過して、インク組成物12を調製した。
【0210】
比較例5
分散液6を2mLとヘキサン4mLとを混合し、得られた懸濁液を4,000rpmで1分間遠心分離した。上澄み液を除去することで得られた発光性粒子6を含む残留物0.3質量部に対して、製造例10で得たInP/ZnSeS/ZnSナノ結晶粒子0.2質量部、製造例8で得た光散乱性粒子分散体0.25質量部、PhEA13.3質量部及びDCPA18.3質量部を加え、室温にて振倒攪拌することにより均一分散させた。その後、TPO1質量部を加えて溶解させ、メンブレンフィルター(孔径0.5μm)により濾過して、インク組成物C3を調製した。
【0211】
D.光変換層の製造及び評価
D-1.光変換層の製造
実施例12~22、比較例3~5で得た各インク組成物を、ガラス基板EagleXG(コーニング社製)に滴下し、もう一枚のガラス基板EagleXGを重ね置き、窒素雰囲気下、主波長が395nmのUV光を、積算光量が10J/cmになるように照射することによって、各インク組成物の硬化物からなる、発光性粒子を含有する厚み100μmの光変換層を製造した。
【0212】
D-2.発光特性評価
各光変換層について、絶対量子収率(PLQY)、発光スペクトルのピーク波長(λmax)及び発光スペクトルの半値幅(FWHM)を、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス株式会社製、「Quantaurus-QY」)を用いて、励起波長450nmにより測定した。
なお、実施例21~22及び比較例5で得た各インク組成物から製造した光変換層については、PLQYに代えて内部量子効率(IQE)を測定し、さらに輝度を測定した。
なお、内部量子効率(IQE)は、大塚電子株式会社製:量子効率測定システム(QE-2100)を用いて測定した。輝度は、株式会社トプコン製:分光放射輝度計(BM-9)を用いて測定し、比較例5で得られた輝度を100%としたときの輝度を相対値として求めた。
【0213】
D-3.耐光性の評価
各光変換層について、耐光性試験機(シーシーエス社製)を用いて、空気中、発光スペクトルのピーク波長450nmの青色光を、ステージ温度30℃で100mW/cm、100時間照射した。光照射後における光変換層のPLQYを測定し、PLQY保持率(%)を、下記式によって算出した。
耐光性試験でのPLQY保持率(%)=100×(光照射後の光変換層のPLQY/光照射前の光変換層のPLQY)
なお、実施例21~22及び比較例5で得た各インク組成物から製造した光変換層については、PLQYに代えてIQE保持率を同様にして測定した。
耐光性試験でのIQE保持率(%)=100×(光照射後の光変換層のIQE/光照射前の光変換層のIQE)
【0214】
D-4.耐湿熱性の評価
各光変換層について、恒温恒湿試験機を用いて、60℃、90%RH条件下で500時間保管した。試験前後のPLQY保持率(%)を下記式によって算出した
耐湿熱性試験でのPLQY保持率(%)=100×(500時間試験後の光変換層のPLQY/試験前の光変換層のPLQY)
なお、実施例21~22及び比較例5で得た各インク組成物から製造した光変換層については、PLQYに代えてIQE保持率を同様にして測定した。
耐湿熱性試験でのIQE保持率(%)=100×(500時間試験後の光変換層のIQE/試験前の光変換層のIQE)
以上の結果をまとめて、表3及び表4に示す。
【0215】
【表3】
【0216】
実施例11~20のインク組成物は、上述の発光粉体1~10を含み、比較例3~4のインク組成物は、上述の発光性粒子5~6を含む。表2及び表3から、実施例11~20及び比較例3~4のインク組成物の硬化物からなる光変換層は、いずれも、含まれる発光粉体1~10又は発光性粒子5~6が示すλmaxと同程度のλmaxを示すことがわかる。
また、実施例11~20の光変換層は、耐光性試験後のPLQY保持率がいずれも65%以上と高く、優れた耐光性を備えるのに対し、比較例3~4の光変換層は前記PLQY保持率が15%以下であって、耐光性に劣る。これは、実施例11~20に含まれる発光粉体1~10が優れた耐光性を備えることに起因するものと考えられる。
【0217】
さらに、実施例11~20の光変換層は、耐湿熱性試験後のPLQY保持率がいずれも72%以上と高く、優れた耐湿熱性を備えるのに対し、比較例3~4の光変換層は前記PLQY保持率が40%以下であって耐湿熱性に劣る。これは、実施例11~20に含まれる発光粉体1~10が優れた耐湿熱性を備えることに起因するものと考えられる。
【0218】
そして、実施例11~20の光変換層は、いずれも、例えば青色LEDによって発光スペクトルのピーク波長450nmの青色光を照射することにより、緑色光を取り出すことができる。このことから、実施例11~20の光変換層は、カラーフィルターとして適用可能であることが明らかである。
【0219】
【表4】
【0220】
実施例21のインク組成物は、発光粉体10とCdSe/ZnSである半導体ナノ結晶とを0.3:0.1、すなわち75:25の質量比で含有する。発光粉体10は、上述のとおり、CsPbBrである半導体ナノ結晶の表面層として第1のシェル層及び第2のシェル層を備えた発光性粒子3と、FAPbBrである半導体ナノ結晶の表面層として第1のシェル層及び第2のシェル層を備えた発光性粒子4とを5:95の質量比で含有し、533nmのλmaxを示す。CdSe/ZnSである半導体ナノ結晶は、当該ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含むような表面層を備えていない。
実施例21のインク組成物を硬化してなる光変換層は、2つのλmaxを示し、一方のλmaxが530nmであり、他方のλmaxが628nmである。前者のλmaxは発光粉体10に起因し、後者のλmaxはCdSe/ZnSである半導体ナノ結晶に起因する。実施例21の光変換層は、優れた耐光性、耐湿熱性を備えることが明らかである。
【0221】
そして、実施例21の光変換層は、例えば青色LEDによって発光スペクトルのピーク波長が450nmの青色光を照射することにより、λmax530nmの緑色光と、λmax628nmの赤色光とを取り出すことができ、これらの光と当該光変換層を透過した上記青色光とを混色することにより、白色光を取り出すことができる。このことから、実施例21の光変換層は、バックライトフィルムに適用可能であることが明らかである。
【0222】
実施例22のインク組成物は、発光粉体10と発光性粒子10とを0.3:0.2、すなわち60:40の質量比で含有する。発光性粒子6は、InP/ZnSeS/ZnSである半導体ナノ結晶を含むが、当該ナノ結晶の表面にシロキサン結合を有する構造を含むような表面層を備えていない。
実施例22のインク組成物を硬化してなる光変換層は、2つのλmaxを示し、一方のλmaxが530nmであり、他方のλmaxが642nmである。前者のλmaxは発光粉体10に起因し、後者のλmaxは発光性粒子6に起因する。実施例22の光変換層は、優れた耐光性及び耐湿熱性を備えると共に、実施例23の光変換層と同様に、バックライトフィルムとして適用可能であることが明らかである。
【0223】
上記の実施例のとおり、本発明の発光粉体は保存安定性に優れ、発光波長の精密な調整が容易である。また、本発明の発光粉体から形成した光変換層は良好な発光特性を示し、また耐光性と耐湿熱性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0224】
本発明の発光粉体は熱や水分等への耐久性に優れ、また発光特性の変化が少なく長期保存性に優れており、緑色域発光及び赤色域発光における発光スペクトルのピーク波長を精密かつ簡便に調整できる。そのため、光変換層、カラーフィルター、波長変換フィルム、さらにはカラー表示デバイス、液晶表示素子等の各種デバイスへ適用できる。
【符号の説明】
【0225】
100 発光素子
200 EL光源部
1 下基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 陰極
9 封止層
10 充填層
11 保護層
12 光変換層
13 上基板
14 EL層
20 画素部
20a 第1の画素部
20b 第2の画素部
20c 第3の画素部
21a 第1光散乱粒子
21b 第2光散乱粒子
21c 第3光散乱粒子
22a 第1硬化成分
22b 第2硬化成分
22c 第3硬化成分
90a 第1発光粉体
90b 第2発光粉体
30 遮光部

40 積層構造体
41 第1の基板
42 第2の基板
43 封止層
44 波長変換フィルム
441 光散乱粒子
442 発光粉体

701 コンデンサ
702 駆動トランジスタ
703 電源線
705 共通電極
706 信号線
707 走査線
708 スイッチングトランジスタ
C1 信号線駆動回路
C2 走査線駆動回路
C3 制御回路
PE 画素電極
図1
図2
図3
図4