(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089713
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】馬房システム
(51)【国際特許分類】
A01K 29/00 20060101AFI20240627BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20240627BHJP
G01G 17/08 20060101ALI20240627BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A01K29/00 A
A61B5/113
G01G17/08
A01K29/00 D
A61B5/11 100
A61B5/11 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205073
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 育郎
(72)【発明者】
【氏名】関澤 信一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】飯田 徳仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 学
(72)【発明者】
【氏名】西村 利明
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA05
4C038VA11
4C038VB15
4C038VB31
4C038VB33
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】馬房において馬の生体情報を得ることのできる馬房システムを提供する。
【解決手段】馬房システムは、馬房の床面に設置され、対象馬の荷重を検出する荷重検出器と、前記荷重に基づいて、前記対象馬の生体情報を生成する生体情報生成部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
馬房の床面に設置され、対象馬の荷重を検出する荷重検出器と、
前記荷重に基づいて、前記対象馬の生体情報を生成する生体情報生成部と、
を備える馬房システム。
【請求項2】
前記生体情報は、前記対象馬の呼吸に関する情報及び/又は前記対象馬の心拍に関する情報を含む請求項1に記載の馬房システム。
【請求項3】
前記生体情報は、前記対象馬の重心に関する情報を含む請求項1又は2に記載の馬房システム。
【請求項4】
前記生体情報に基づいて前記対象馬の状態を推定する状態推定部を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の馬房システム。
【請求項5】
前記対象馬の状態とは前記対象馬の怪我又は怪我の予兆の有無であり、
前記生体情報は、前記対象馬の各脚にかかる荷重に関する情報、前記対象馬の重心に関する情報、及び/又は前記対象馬の全体荷重を示す情報を含み、
前記状態推定部は、前記対象馬の各脚にかかる荷重の偏り度合、前記対象馬の重心の偏り度合、及び/又は前記対象馬の全体荷重の時間的変動に基づいて、前記対象馬の怪我又は怪我の予兆の有無を推定する、請求項4に記載の馬房システム。
【請求項6】
前記対象馬の状態とは前記対象馬が発情期であるか否かであり、
前記生体情報は、前記対象馬の重心位置の軌跡に関する情報を含み、
前記状態推定部は、前記重心位置の軌跡、前記軌跡が示すパターン、及び前記軌跡が示す前記重心位置の移動の周期性の少なくとも1つに基づいて、前記対象馬が発情期であるか否かを推定する、請求項4又は5に記載の馬房システム。
【請求項7】
前記対象馬の状態とは前記対象馬の疾患の有無であり、
前記生体情報は、前記対象馬の全体荷重を示す情報、前記対象馬の各脚にかかる荷重に関する情報、及び、前記対象馬の重心位置の軌跡に関する情報の少なくとも1つを含み、
前記状態推定部は、前記全体荷重又は前記各脚にかかる荷重の変動幅、及び/又は、所定時間内の前記重心位置の移動量に基づいて、前記対象馬の疾患の有無を推定する、請求項4~6のいずれか1項に記載の馬房システム。
【請求項8】
前記対象馬の状態とは前記対象馬の姿勢であり、
前記生体情報は、前記対象馬の重心位置の軌跡に関する情報を含み、
前記状態推定部は、前記対象馬の重心位置の軌跡に基づいて、前記対象馬の前記姿勢として、前記対象馬の体軸の向き、及び/又は前記対象馬の頭部及び/又は尾部の配置を推定する、請求項4~7のいずれか一項に記載の馬房システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、馬房システムに関する。
【背景技術】
【0002】
馬は、競走馬として用いられるほか、乗馬等のスポーツや農耕などにおいても活用されている。馬の状態をセンサにより把握する装置として、特許文献1は、情報提供装置を開示している。特許文献1の情報提供装置は、バイタルセンサーによって得られる出走する予定の馬の生体情報を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記生体情報を含む情報を他の装置に対して出力する出力制御部とを備える。
【0003】
その他、特許文献2は、測定台と荷重センサとを備える馬体重測定装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-109631号公報
【特許文献2】特開2011-52994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1の情報提供装置は、馬の生体情報を取得するために馬にバイタルセンサーを取り付ける必要がある。一方で、特許文献2の馬体重測定装置は、馬体重を測定できるのみである。
【0006】
上記に鑑み、本発明は、馬房において馬の生体情報を得ることのできる馬房システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、
馬房の床面に設置され、対象馬の荷重を検出する荷重検出器と、
前記荷重に基づいて、前記対象馬の生体情報を生成する生体情報生成部と、
を備える馬房システムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の馬房システムによれば、馬房において馬の生体情報を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の馬房システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2(a)は、荷重検出器の側面図である。
図2(b)は、荷重検出器の平面図である。
【
図3】
図3は、馬房システムを用いて対象馬の状態を推定する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
本発明の実施形態の馬房システム100について、
図1~
図3を参照して説明する。
【0011】
本実施形態の馬房システムは、馬房の床に荷重検出器を配置して、荷重検出器の検出する荷重を分析することにより馬房内の馬の生体情報を生成するものである。また、本実施形態の馬房システムは、生成した生体情報に基づいて当該馬の状態を推定する。ここで、馬房は馬が一日の多くの時間を過ごす空間であり、一頭に一つずつ用意されている場合が多い。馬房は例えば、厩舎内に複数個が並んで配置されている。馬房は例えば、矩形の床の一対の長辺と一方の短辺に設けられた壁、柵等の固定構造体と、矩形の床の一方の短辺に設けられた扉、馬栓棒(かんぬき)等の可動体とを含む。馬房の面積は一例として2m2~4m2程度である。
【0012】
図1に示す通り、馬房システム100は、荷重検出器10と、制御装置20と、入力装置30と、表示装置40とを主に含む。
【0013】
荷重検出器10は、馬房の床F(
図2(a))に設置されて、被験体である馬(以下、「対象馬OH」と記載する)の荷重を検出する。
図2(a)、
図2(b)に示す通り、荷重検出器10は、第1荷重検出部111、第2荷重検出部112、第3荷重検出部113、及び第4荷重検出部114と、これらに支持された矩形の載置板12とを有する。
【0014】
以下の説明では、便宜上、載置板12の短辺方向、長辺方向をそれぞれ、X方向、Y方向とし(
図2(b))、載置板12の中心を原点Oとする。また、X方向、Y方向のそれぞれについて、正側、負側を
図2(a)、
図2(b)に記載の通り規定する。
【0015】
第1荷重検出部111、第2荷重検出部112、第3荷重検出部113、及び第4荷重検出部114はそれぞれ、対象馬OHの荷重を検出する。第1荷重検出部111~第4荷重検出部114は互いに同一の構造を有するため、ここでは代表的に第2荷重検出部112の構造を説明する。
【0016】
図2(a)に示す通り、第2荷重検出部112は、支持台SBと、長尺部材である起歪体FMと、スペーサSPとを有する。支持台SBは、馬房の床Fに設けられた平面視矩形の凹部RC(載置板12と略同一の形状を有する)の底面に配置されて、起歪体FMを片持ち梁状に支持する。起歪体FMの自由端FMa(支持台SBに固定された固定端FMbとは反対側の端部)は、スペーサSPを介して載置板12の底面に固定されている。起歪体FMにはひずみゲージ(不図示)が貼り付けられており、起歪体FMとひずみゲージによりロードセルが構成されている。
【0017】
図2(b)に示す通り、第1荷重検出部111はX方向正側且つY方向負側に、起歪体FMの長手方向をY方向に一致させて配置されている。起歪体FMの自由端FMaが、起歪体FMの固定端FMbよりも、Y方向の正側に位置している。第2荷重検出部112はX方向負側且つY方向負側に、起歪体FMの長手方向をY方向に一致させて配置されている。起歪体FMの自由端FMaが、起歪体FMの固定端FMbよりも、Y方向の正側に位置している。
【0018】
第3荷重検出部113はX方向負側且つY方向正側に、起歪体FMの長手方向をY方向に一致させて配置されている。起歪体FMの自由端FMaが、起歪体FMの固定端FMbよりも、Y方向の負側に位置している。第4荷重検出部114はX方向正側且つY方向正側に、起歪体FMの長手方向をY方向に一致させて配置されている。起歪体FMの自由端FMaが、起歪体FMの固定端FMbよりも、Y方向の負側に位置している。
【0019】
載置板12は、荷重検出器10の計量皿として機能する。載置板12は、本実施形態では平面視矩形且つ金属製(一例として、ステンレス、鋼等)の平板である。
【0020】
載置板12は、その四隅のそれぞれの近傍において、第1荷重検出部111~第4荷重検出部114に支持されている。本実施形態では、載置板12は、凹部RCの内部に、凹部RCを画定する壁面との間にわずかな隙間を有して配置されている。載置板12の上面は馬房の床Fの上面と面一であってもよい。
【0021】
本実施形態では、馬房の床Fは平面視矩形であり、床Fの長辺方向がY方向に一致している。即ち、床Fの長辺方向、載置板12の長辺方向、及び凹部RCの長辺方向が互いに一致しており、床Fの短辺方向、載置板12の短辺方向、及び凹部RCの短辺方向が互いに一致している。馬房の出入口はY方向正側である。当該出入口には扉が設けられている。ただし、馬房に対する載置板12、凹部RC等の配置はこれには限られない。
【0022】
制御装置20は、荷重検出器10が検出した対象馬OHの荷重に基づいて、対象馬OHに関する様々な情報を取得する。制御装置20は、荷重検出器10の第1荷重検出部111~第4荷重検出部114と、配線又は無線により接続されている。
【0023】
制御装置20は、専用又は汎用のコンピュータであり、内部に生体情報生成部21、状態推定部22、及び記憶部23を有する。
【0024】
生体情報生成部21は、荷重検出器10が検出した対象馬OHの荷重に基づいて対象馬OHの生体情報を生成する。生成される生体情報は、例えば、対象馬OHの呼吸に関する情報、対象馬OHの心拍に関する情報、対象馬OHの重心に関する情報、対象馬OHの荷重(重量)に関する情報等を含む。生体情報生成部21について、詳細は後述する。
【0025】
状態推定部22は、生体情報生成部21が生成した対象馬OHの生体情報に基づいて、対象馬OHの状態を推定する。推定される対象馬OHの状態は、怪我又は怪我の予兆の有無、発情期であるか否か、疾患の有無、及び姿勢等を含む。状態推定部22について、詳細は後述する。
【0026】
記憶部23は、制御装置20の動作に必要なデータ、及び制御装置20の動作により生じるデータ等を記憶する。記憶部23は、例えば、ハードディスクや不揮発性メモリ等であってよい。
【0027】
なお、制御装置20は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等により実現され得る。制御装置20に含まれる生体情報生成部21、状態推定部22等の各種機能ブロックは、CPUとしての制御装置20が、記憶部23に記憶されているプログラムデータを読み出して実行することにより適宜実現されるものであってもよい。
【0028】
入力装置30は、制御装置20に対して所定の入力を行うためのユーザインターフェイスである。入力装置30は、制御装置20と、配線又は無線により接続されている。入力装置30は例えば、タッチパネル、キーボード、マウス等であってよい。
【0029】
表示装置40は、馬房システム100のユーザに対する情報の表示を行うユーザインターフェイスである。表示装置40は、制御装置20と、配線又は無線により接続されている。
【0030】
表示装置40は、例えば視覚的に情報を表示するディスプレイ等の視覚表示装置であってよい。また、視覚表示装置は、入力装置30のタッチパネルと一体であってよい。表示装置40は、視覚表示装置とともに、或いは視覚表示装置に代えて、音声出力装置を備えていてもよい。音声出力装置は、馬房システム100のユーザに対して、音声で情報を提示する。
【0031】
制御装置20、入力装置30、及び表示装置40の少なくとも2つは、一体に構成されていてもよい。
【0032】
本実施形態の馬房システム100を用いて馬房内の対象馬OHの状態を推定する方法を説明する。
【0033】
馬房システム100を用いた対象馬OHの状態の推定は、
図3のフローチャートに示す通り、対象馬OHの荷重を検出する荷重検出工程S1と、検出した対象馬OHの荷重に基づいて対象馬OHの生体情報を生成する生体情報生成工程S2と、生成された生体情報に基づいて対象馬OHの状態を推定する状態推定工程S3と、推定した対象馬OHの状態を表示装置40に表示する表示工程S4とを含む。
【0034】
[荷重検出工程S1]
荷重検出工程S1では、荷重検出器10を用いて、載置板12上の対象馬OHの荷重を検出する。載置板12上の対象馬OHの荷重は、載置板12の四隅に配置された第1荷重検出部111~第4荷重検出部114に分散して付与され、これらによって分散して検出される。
【0035】
第1荷重検出部111~第4荷重検出部114はそれぞれ、荷重(荷重変化)を検出してアナログ信号として出力する。出力されたアナログ信号はA/D変換部(不図示)においてデジタル信号に変換され、制御装置20に入力される。以下では、第1荷重検出部111、第2荷重検出部112、第3荷重検出部113、及び第4荷重検出部114から出力されたアナログ信号をA/D変換して得られるデジタル信号をそれぞれ、荷重信号s1、s2、s3、s4と呼ぶ。A/D変換のサンプリング周期は任意であるが、一例として、5ミリ秒とし得る。
【0036】
[生体情報生成工程S2]
生体情報生成工程S2では、生体情報生成部21が、荷重信号s1、s2、s3、s4に基づいて、対象馬OHの生体情報を生成(算出、取得)する。生成される生体情報及びその生成方法の一例は、次の通りである。
【0037】
(1)部分荷重
荷重信号s1、s2、s3、s4の各々により示される対象馬OHの荷重(即ち、対象馬OHの部分的な荷重。部分荷重)も生体情報の一種である。以下では、荷重信号s1、s2、s3、s4に基づく対象馬OHの部分荷重をそれぞれ、部分荷重W1、W2、W3、W4と記載する。
【0038】
(2)全体荷重(重量、馬体重)
対象馬OHの全体荷重(重量、馬体重)は、荷重信号s1、s2、s3、s4により示される対象馬OHの部分荷重W1、W2、W3、W4を合計することにより算出される。以下では、全体荷重Wと記載する。
【0039】
(3)重心の位置
対象馬OHの重心Gの位置は、載置板12上における対象馬OHの重心Gの位置、即ち
図2(b)のXY座標(以下、単にXY座標と呼ぶ)における対象馬OHの重心Gの位置である。重心Gの位置は例えば、XY座標における重心Gの位置を(x、y)、XY座標における第1荷重検出部111、第2荷重検出部112、第3荷重検出部113、第4荷重検出部114の自由端の座標をそれぞれ(X
1、Y
1)、(X
2、Y
2)、(X
3、Y
3)、(X
4、Y
4)として、次の式1、式2により算出される。
【0040】
【0041】
(4)重心軌跡
重心軌跡GT、即ち重心Gの位置の時間的変動の軌跡も生体情報の一種である。重心軌跡GTは、所定の周期で算出される対象馬OHの重心Gの位置に基づいて生成される。
【0042】
(5)重心の偏り
重心Gの位置が偏っている旨の情報も生体情報の一種である。生体情報生成部21は、具体的には例えば、所定期間における重心Gの平均位置が、過去の平均位置に対して一方側に偏っていることに基づいて、重心Gの位置が偏っていると判断し得る。
【0043】
(6)呼吸情報
対象馬OHの呼吸情報は、対象馬OHの呼吸数、呼吸の深さ等を含む。対象馬OHの呼吸情報は、対象馬OHの部分荷重W1、W2、W3、W4、対象馬OHの全体荷重W、重心Gの位置、重心軌跡GT等に基づいて、次のようにして求められる。
【0044】
呼吸情報を生成する方法の一例として、馬の呼吸に応じた馬の重心の移動に基づいて馬の呼吸情報を生成する方法を説明する。
【0045】
馬の体内においては、胴体の頭側(吻側、前側)の領域に肺が存在し、肺の尾側(後側)に、横隔膜を介して、肝臓等の臓器が存在する。
【0046】
ここで、馬が吸気を行う際には、横隔膜が尾側に移動し肝臓も尾側に移動する。これにより、馬の重心が尾側に移動する。反対に馬が呼気を行う際には、横隔膜が頭側に移動し肝臓も頭側に移動する。これにより、馬の重心が頭側に移動する。したがって、馬の重心は、呼吸に伴って、頭側と尾側との間に延びる馬の体軸の方向に沿って振動する(即ち、単振動的な軌跡を描く)。
【0047】
したがって例えば、生体情報生成部21は、対象馬OHの重心軌跡GTに含まれる、対象馬OHの体軸AX(
図2(a))に沿って振動する重心Gの軌跡に基づいて対象馬OHの呼吸情報を生成する。具体的には例えば、生体情報生成部21は、体軸AXに沿った重心Gの振動の周期に基づいて対象馬OHの呼吸数を算出し、体軸AXに沿った重心Gの振動の振幅に基づいて対象馬OHの呼吸の深さに関する情報を生成する。
【0048】
また、本発明の発明者の知見によれば、馬においては一般に、呼気に応じた重心の移動速度が吸気に応じた重心の移動速度よりも大きい。したがって、馬の体軸方向に生じる馬の重心移動の速度に基づいて、当該馬が呼気を行っているか、吸気を行っているかを判別することができる。
【0049】
呼吸情報を生成する方法の他の一例として、馬の部分荷重に基づいて馬の呼吸情報を生成する方法を説明する。
【0050】
馬(成馬)の安静時の呼吸数は一般に、1分間に8回~20回程度である。即ち、馬の呼吸の周波数は一般に、0.13Hz~0.33Hz程度である。
【0051】
ここで、対象馬OHの呼吸に応じて重心Gが移動するため、部分荷重W1、W2、W3、W4の各々も対象馬OHの呼吸に応じてわずかに変動する。したがって例えば、生体情報生成部21は、部分荷重W1、W2、W3、W4のいずれか1つの時間的変動を示す波形について周波数解析(一例として高速フーリエ変換)を行い、馬の呼吸に応じた所定の帯域(一例として0.13Hz~0.33Hzの帯域)に現れるピーク周波数の値に基づいて対象馬OHの呼吸情報を生成する。具体的には例えば、生体情報生成部21は、特定したピーク周波数の値に基づいて、対象馬OHの呼吸数を算出する。一例として、特定したピーク周波数の値に60を乗算することにより、対象馬OHの1分間の呼吸数を算出し得る。
【0052】
呼吸情報を生成する方法の他の一例として、馬の全体荷重(馬体重)に基づいて馬の呼吸情報を生成する方法を説明する。
【0053】
本発明の発明者の知見によれば、馬が呼吸を行う際、馬の肺の膨張及び収縮に起因して力学的なベクトルが鉛直方向に生じ、馬の全体荷重(馬体重)の計測値に影響を及ぼし得る。したがって例えば、馬の呼吸に応じた当該馬の全体荷重の計測値の揺らぎ(即ち、時間的変動)の計測に基づいて、馬の呼吸情報を生成することが出来る。
【0054】
具体的には例えば、生体情報生成部21は、対象馬OHの全体荷重Wの時間的変動を示す波形について周波数解析(一例として高速フーリエ変換)を行い、馬の呼吸に応じた所定の帯域(一例として0.13Hz~0.33Hzの帯域)に現れるピーク周波数の値を求める。そして、求めたピーク周波数の値に基づいて対象馬OHの呼吸情報(例えば呼吸数)を生成する。
【0055】
その他、馬房内での対象馬OHの習慣的な居住体勢を勘案することにより、より詳細な呼吸情報を取得することも可能である。
【0056】
(7)心拍情報
対象馬OHの心拍情報は、対象馬OHの心拍数、心拍の深さ等を含む。対象馬OHの心拍情報は、対象馬OHの部分荷重W1、W2、W3、W4、対象馬OHの全体荷重W、重心Gの位置、重心軌跡GT等に基づいて、次のようにして求められる。
【0057】
心拍情報を生成する方法の一例として、馬の部分荷重に基づいて馬の心拍情報を生成する方法を説明する。
【0058】
馬(成馬)の安静時の心拍数は一般に、1分間に20~40回程度であり、呼吸数よりも4倍程度の高頻度を示す。即ち、馬の心拍の周波数は一般に、0.33~0.67Hz程度である。したがって例えば、部分荷重W1、W2、W3、W4のいずれか1つの時間的変動を示す波形から、フィルタリング等により、呼吸の周波数より高い周波数の成分(一例として、周波数0.1Hz以上の成分)を抽出する。これにより、0.13Hz~0.33Hz程度の周波数を有する呼吸波形と、0.33~0.67Hz程度の周波数を有し、呼吸波形にノッチ(V字状、U字状等の小さな波)として乗った心拍波形とが得られる。生体情報生成部21は、心拍波形に基づいて対象馬OHの心拍情報を生成する。
【0059】
具体的には例えば、生体情報生成部21は、心拍波形のノッチが現れる周期に基づいて対象馬OHの心拍数を算出し、心拍波形の振幅に基づいて対象馬OHの心拍の大きさに関する情報を生成する。一例として、60[秒]をノッチが現れる周期[秒]により除算することで、1分間の心拍数を算出することができる。
【0060】
なお、部分荷重W1、W2、W3、W4のいずれか1つの時間的変動を示す波形から、フィルタリング等により、心拍の周波数より高い周波数の成分(一例として、周波数0.33Hz以上の成分)を抽出してもよい(即ち、呼吸波形を抽出することなく心拍波形を抽出してもよい)。また、生体情報生成部21は、部分荷重W1、W2、W3、W4のいずれか1つの時間的変動を示す波形について周波数解析を行い、馬の心拍に応じた所定の帯域(一例として0.33Hz~0.67Hzの帯域)に現れるピーク周波数の値に基づいて対象馬OHの心拍情報を生成してもよい。
【0061】
心拍情報を生成する方法の他の一例として、馬の全体荷重(馬体重)に基づいて馬の心拍情報を生成する方法を説明する。
【0062】
馬の心臓が血液を1回拍出する際に、心臓のポンプ的な動きに起因して力学的なベクトルが鉛直方向に生じ、馬の全体荷重(馬体重)の計測値に影響を及ぼし得る。したがって例えば、馬の心拍に応じた当該馬の全体荷重の計測値の揺らぎ(即ち、時間的変動)の計測に基づいて、馬の心拍情報を生成することが出来る。
【0063】
具体的には例えば、生体情報生成部21は、対象馬OHの全体荷重Wの時間的変動を示す波形について周波数解析(一例として高速フーリエ変換)を行い、馬の心拍に応じた所定の帯域(一例として0.33Hz~0.67Hzの帯域)に現れるピーク周波数の値を求める。そして、求めたピーク周波数の値に基づいて対象馬OHの心拍情報(例えば心拍数)を生成する。例えば、求めたピーク周波数の値に60を乗算することで、1分間の心拍数を算出することができる。
【0064】
その他、馬が、外部温度環境に適応するために皮筋や骨格筋の震えなどの活動を活発化させている際に、皮筋や骨格筋の震えなどに起因する特異的な体重変動が認められる。したがって例えば、生体情報生成部21は、対象馬OHの全体荷重Wが特異的な変動を示していることに基づいて、対象馬OHが外部温度環境に適応しようとしている旨の情報を生成してもよい。
【0065】
[状態推定工程S3]
状態推定工程S3では、状態推定部22が、生体情報生成工程S2において生成した生体情報に基づいて、対象馬OHの状態を推定する。推定される状態及びその推定方法の一例は、次の通りである。
【0066】
(1)怪我又は怪我の予兆の有無
馬等の体重の重い四足動物の場合、四肢にかかる体重の負荷は均一であることが望ましく、怪我又は怪我の予兆のない馬においては四肢に係る体重の負荷は概ね均一である。したがって、各脚、及びその周辺の圧密度を比較して、四肢への体重負荷の均一性、及び/又は不均一性を検出することで、脚部に怪我又は怪我の予兆が生じていることを検出することができる。
【0067】
具体的には例えば、状態推定部22は、部分荷重W1、W2、W3、W4(対象馬OHの各脚にかかる荷重に関する情報)の偏り度合に基づいて、対象馬OHの怪我又は怪我の予兆の有無を推定する。この場合、状態推定部22は、部分荷重W1、W2、W3、W4が互いに均一或いはほぼ均一であると判定した場合は、対象馬OHに怪我或いは怪我の予兆はないと推定する。状態推定部22は、部分荷重W1、W2、W3、W4が不均一であると判定した場合には、対象馬OHに怪我或いは怪我の予兆があると推定する。均一であるか不均一であるかを判定するための閾値は適宜設定し得る。
【0068】
なお、部分荷重W1、W2、W3、W4の値は、載置板12上における対象馬OHの位置の影響を受ける。したがって、部分荷重W1、W2、W3、W4が均一であるか否かの判定を行う際には、対象馬OHの重心Gの位置に基づいて部分荷重W1、W2、W3、W4の値を調整し得る。具体的には例えば、対象馬OHの重心GがX方向の正側に位置する場合は、部分荷重W1、W4の値を減少させ、部分荷重W2、W3の値を増加させた上で判定を行い得る。このように、対象馬OHの重心Gの位置に基づいて部分荷重W1、W2、W3、W4の値を調整した上で判定を行うことで、載置板12上の対象馬OHの位置に起因する部分荷重W1、W2、W3、W4の値のばらつきの影響を抑制することができる。これにより、部分荷重W1、W2、W3、W4が均一であるか否かの判定を、載置板12上における対象馬OHの位置に拘わらず正確に行うことができる。
【0069】
また、馬が脚部に怪我又は怪我の予兆を有している場合、馬は怪我又は怪我の予兆を有する脚をかばうため、当該脚とは反対側の半身(右半身又は左半身)に重心を移動させる傾向がある。したがって状態推定部22は、重心Gの偏り度合に基づいて対象馬OHの怪我又は怪我の予兆の有無を推定することができる。具体的には例えば、状態推定部22は、対象馬OHの重心Gの所定期間における平均位置が、所定の参照位置(例えば、過去の計測に基づいて算出された対象馬OHの平均的な重心位置)に対して、所定の閾値を越えて偏っている場合に、対象馬OHが怪我又は怪我の予兆を有すると判定し得る。
【0070】
その他、本発明の発明者の知見によれば、怪我又は怪我の予兆を有する脚をかばうため、当該脚とは反対側の半身(右半身又は左半身)に重心を移動させた状態においては、馬は不安定であり、全体荷重Wの検出値の揺らぎ(時間的変動)は大きくなる。したがって例えば、状態推定部22は、対象馬OHの全体荷重Wの時間的変動(例えば全体荷重Wの時間的変動の標準偏差)が所定の閾値以上となった場合に、対象馬OHが怪我又は怪我の予兆を有していると推定することができる。
【0071】
(2)発情期であるか否か
馬の繁殖期である冬から春の間に、一頭につき一回から数回の発情期が訪れる。発情期が訪れた馬は、落ち着かない状態となり、馬房内で姿勢を変えたり移動したりすることが多くなる。したがって例えば、状態判定部22は、対象馬OHの重心軌跡GT、重心軌跡GTが示すパターン、重心軌跡GTが示す重心Gの移動の周期性等に基づいて、対象馬OHに発情期が訪れていると推定することが出来る。
【0072】
具体的には例えば、記憶部23に、重心軌跡GTの所定のパターン(一種類、或いは複数種類)と、対象馬OHが発情期にあることを示す情報とを対応付けたテーブルを記憶させておく。そして、状態推定部22は、当該テーブルと、生体情報生成部21から受け取った対象馬OHの重心軌跡GTとに基づいて、対象馬OHに発情期が訪れていることを推定する。一例として、状態推定部22は、生体情報生成部21から受け取った重心軌跡GTがテーブルに記憶された所定のパターンと一致又は類似する場合に、対象馬OHに発情期が訪れていると推定し得る。
【0073】
(3)疾患の有無
馬において、疝痛(主に消化管に原因を有する、腹部の疼痛を伴う病気の総称)は生命予後に関わる重大な疾病である。疝痛を発症した馬は、大きな苦痛を感じ、立ち上がったり、飛び跳ねるような動作を行ったりすることがある。したがって例えば、対象馬OHが載置板12上で立ち上がったり飛び跳ねるような動作を行ったりした場合に生じる対象馬OHの全体荷重W、又は部分荷重W1、W2、W3、W4の少なくとも1つの瞬時的な増加に基づいて、対象馬OHが疝痛を発症していると推定することができる。具体的には例えば、状態推定部22は、対象馬OHの全体荷重W、又は部分荷重W1、W2、W3、W4の少なくとも1つの所定期間(例えば、瞬時的な増加の有無の判定に適した短い期間)における変動幅が所定の閾値を越えた場合に、対象馬OHが疝痛を発症していると推定することができる。
【0074】
また、疝痛を発症した馬が臥位(横臥位、仰臥位等)を取ることもある。この場合、馬の重心軌跡は、通常とは大きく異なった、瞬間移動的な軌跡を呈する。したがって例えば、状態推定部22は、対象馬OHの重心Gが所定の期間(例えば、重心の瞬時的な移動量の判定に適した短い期間)内に所定の距離を越えて移動したことに基づいて、対象馬OHが疝痛を発症していると推定することができる。
【0075】
(4)姿勢
状態推定部22は、対象馬OHの状態として、対象馬OHの姿勢を推定することができる。ここで、対象馬OHの姿勢とは、対象馬OHの体軸AXの向き、及び/又は体軸AXの方向における対象馬OHの頭部及び/又は尾部の配置を含む。
【0076】
上記の通り、馬の重心は、馬の呼吸に応じて馬の体軸に沿って振動する。したがって状態推定部22は、対象馬OHの重心軌跡GTに含まれる、対象馬OHの呼吸に応じて振動する軌跡の振動方向に基づいて、対象馬OHの体軸AXの延びる方向を推定することができる。
【0077】
また、上記の通り、馬の呼気に応じた馬の重心の移動速度は、馬の吸気に応じた馬の重心の移動速度よりも大きい。したがって、状態推定部22は、対象馬OHの重心軌跡GTに含まれる、対象馬OHの呼吸に応じて振動する軌跡における重心Gの速度に基づいて、当該軌跡の振動方向のどちら側に対象馬OHの頭部が位置し、当該軌跡の振動方向のどちら側に対象馬OHの尾部が位置するかを推定することができる。具体的には例えば、状態推定部22は、対象馬OHの呼吸に応じて振動する軌跡について、振動方向の一方側に向かう重心Gの速度と振動方向の他方側に向かう重心Gの速度とを算出する。そして、重心Gの移動の速度が小さい軌跡を吸気に応じた軌跡であるとみなし、当該軌跡の起点側に対象馬OHの頭部が、当該軌跡の終点側に対象馬OHの尾部が位置すると推定する。
【0078】
その他、本発明の発明者の知見によれば、馬は通常、各個体により馬房内で好んで過ごす位置(即ち、定位置)が決まっている。そして、馬に何らかの異常が生じている場合には、馬は、通常時に好んで過ごす定位置から外れた状況で過ごす傾向にある。したがって例えば、馬房内における対象馬OHの位置のデータを蓄積して背景値とすることで、対象馬OHが定位置から外れた状況で過ごしている場合に、対象馬OHに異常が生じていると推定することが出来る。本推定方法によれば、脚部以外の異常(例えば、病気等の内的な異常)の有無についても推定することができる。
【0079】
具体的には例えば、記憶部23に、過去の所定期間における重心Gの平均位置、重心軌跡GTの平均分布領域等を記憶させておく。そして、状態推定部22は、対象馬OHの重心軌跡GTが、過去の重心軌跡GTとは異なる特異な軌跡(例えば、当該平均分布領域から所定の閾値を越えて離間した位置に、所定の閾値を越える期間留まっている等)を示したことに基づいて、対象馬OHに内的な異常が生じていると推定することが出来る。
【0080】
[表示工程S4]
表示工程S4では、生体情報生成工程S2で生成した生体情報、状態判定工程S3で判定した状態等を表示装置40に表示する。なお、対象馬OHの生体情報及び/又は対象馬OHの状態が所定の条件を満たす場合に、表示装置40により、視覚的及び/又は聴覚的なアラートを発してもよい。
【0081】
本実施形態の馬房システム100の効果を次にまとめる。
【0082】
本実施形態の馬房システム100によれば、馬房の床Fに荷重検出器10が設けられているため、馬房において対象馬OHの生体情報を得ることができる。
【0083】
本実施形態の馬房システム100によれば、馬房の床Fに設置された荷重検出器10を用いて、対象馬OHの状態を好適に推定することができる。
【0084】
本実施形態の馬房システム100は、馬房の床Fに設置された荷重検出器10を用いて荷重を検出し、当該荷重に基づいて対象馬OHの生体情報を得る。したがって、生体情報を得るために対象馬OHにセンサを取り付ける必要がなく、対象馬OHに与えるストレスが小さい。
【0085】
本実施形態の馬房システム100は、対象馬OHが多くの時間を過ごす馬房に荷重検出器10が設置されているため、生体情報を取得するために対象馬OHを計測装置等に導く手間がない。また、対象馬OHからの長期間に渡る継続的な情報取得が可能であるため、対象馬OHの生体情報を高い精度で生成することができる。そして、高精度で得られた生体情報に基づいて、対象馬OHの状態を高い精度で推定することができる。
【0086】
<変形例>
上記の実施形態について、次の変形態様を用いることもできる。
【0087】
上記実施形態の馬房システム100において、荷重検出器10が有する荷重検出部の数は4つには限られない。荷重検出器10は、3つ以下、或いは5つ以上の荷重検出部を有し得る。
【0088】
上記実施形態の馬房システム100において、対象馬OHの状態の推定は必須ではない。すなわち、馬房システム100において、制御装置20の状態推定部22は必須の構成ではない。対象馬OHの状態を推定しない場合、馬房システム100は、荷重検出工程S1及び生体情報生成工程S2を実行した後、状態推定工程S3を行わずに表示工程S4を実行する。表示工程S4を省略してもよく、この場合は例えば生体情報の取集、蓄積のみを行ってもよい。
【0089】
本発明の特徴を維持する限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の馬房システムによれば、対象馬の生体情報を生成して、例えば対象馬を良好な状態に保つための各種処置等に活用することが出来る。
【符号の説明】
【0091】
10 荷重検出器; 111 第1荷重検出部; 112 第2荷重検出部; 113 第3荷重検出部; 114 第4荷重検出部; 12 載置板; 20 制御装置; 21 生体情報生成部; 22 状態推定部; 23 記憶部; 30 入力装置; 40 表示装置; 100 馬房システム; OH 対象馬