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特開2024-89865赤外線ガス分析計、赤外線ガス分析方法、及び、濃度演算プログラム
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  • 特開-赤外線ガス分析計、赤外線ガス分析方法、及び、濃度演算プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089865
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】赤外線ガス分析計、赤外線ガス分析方法、及び、濃度演算プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20240627BHJP
【FI】
G01N21/3504
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205362
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】阪倉 誠司
(72)【発明者】
【氏名】水谷 浩
(72)【発明者】
【氏名】青塚 冬樹
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059DD12
2G059DD15
2G059DD20
2G059EE01
2G059HH01
2G059KK01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】赤外線吸収波長域が重畳する2つの成分を1つの検出器で検出する。
【解決手段】赤外光源3と、サンプルを透過した赤外線を検出する赤外線検出器4と、サンプルに含まれる第1測定成分、及び、前記第1測定成分に干渉する第2測定成分の濃度の演算装置6とを備え、赤外線検出器4は、ニューマチック検出器であり、第1測定成分の測定用ガス室41と、第2測定成分の干渉用ガス室42と、測定用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第1センサ41xと、干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第2センサ42xとを有し、演算装置6は、第1センサ41xの出力、及び、第2センサ42xの出力を用いて前記第1測定成分の濃度を演算する第1演算部63と、第2センサ42xの出力を用いて第2測定成分の濃度を演算する第2演算部64とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルに赤外線を照射する赤外光源と、
前記サンプルを透過した赤外線を検出する赤外線検出器と、
前記赤外線検出器の出力を用いて、前記サンプルに含まれる第1測定成分、及び、前記第1測定成分に干渉する測定成分である第2測定成分の濃度を演算する演算装置とを備え、
前記赤外線検出器は、ニューマチック検出器であり、
前記第1測定成分の赤外線吸収特性に基づく測定用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する測定用ガス室と、
前記第2測定成分の赤外線吸収特性に基づく干渉用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する干渉用ガス室と、
前記測定用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第1センサと、
前記干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第2センサとを有し、
前記演算装置は、
前記第1センサの出力、及び、前記第2センサの出力を用いて前記第1測定成分の濃度を演算する第1演算部と、
前記第2センサの出力を用いて前記第2測定成分の濃度を演算する第2演算部とを有する、赤外線ガス分析計。
【請求項2】
前記第2演算部は、前記第2センサの出力、及び、前記第1演算部の出力を用いて前記第2測定成分の濃度を演算する、請求項1記載の赤外線ガス分析計。
【請求項3】
前記サンプルに含まれる二酸化炭素(CO)を測定するCO測定部をさらに備え、
前記演算装置は、前記CO測定部により得られたCOの濃度を用いて前記第1測定成分の濃度又は前記第2測定成分の濃度を補正する、請求項1又は2の何れか一項に記載の赤外線ガス分析計。
【請求項4】
前記第1測定成分は一酸化炭素(CO)であり、前記第2測定成分は一酸化二窒素(NO)である、請求項1乃至3の何れか一項に記載の赤外線ガス分析計。
【請求項5】
2つの前記赤外線検出器をさらに備え、
一方の前記赤外線検出器における前記第1測定成分及び前記第2測定成分は、それぞれ一酸化窒素(NO)及び水(HO)であり、
他方の前記赤外線検出器における前記第1測定成分及び前記第2測定成分は、それぞれ二酸化硫黄(SO)及びメタン(CH)である、請求項4記載の赤外線ガス分析計。
【請求項6】
前記第1測定成分及び前記第2測定成分以外の複数の成分が封入されたガスフィルタをさらに備え、
前記ガスフィルタは、互いに反応しない複数の成分、又は、互いに平衡状態で安定した複数の成分が封入されている、請求項1乃至5の何れか一項に記載の赤外線ガス分析計。
【請求項7】
前記演算装置は、前記第1センサ及び前記第2センサの出力から前記CO測定部により得られたCOの濃度に所定の重み付け係数を乗算したものを減算することにより、前記第1測定成分及び前記第2測定成分の濃度を演算するとともに、前記COの濃度に基づいて前記重み付け係数を変更または補正する、請求項3記載の赤外線ガス分析計。
【請求項8】
サンプルに赤外線を照射するとともに、前記サンプルを透過した赤外線を赤外線検出器により検出して、前記サンプル中の第1測定成分及び前記第1測定成分に干渉する測定成分である第2測定成分を分析する赤外線ガス分析計に用いられる赤外線ガス分析方法であって、
前記赤外線ガス分析計は、
ニューマチック検出器である前記赤外線検出器と、
前記第1測定成分に基づく測定用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する測定用ガス室と、
前記第2測定成分に基づく干渉用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する干渉用ガス室とを有し、
前記赤外線ガス分析方法は、
前記測定用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出し、
前記干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出し、
前記測定用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化、及び、前記干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を用いて前記第1測定成分の濃度を演算し、
前記干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を用いて前記第2測定成分の濃度を演算する、赤外線ガス分析方法。
【請求項9】
サンプルに赤外線を照射する赤外光源と、前記サンプルを透過した赤外線を検出する赤外線検出器と、前記赤外線検出器の出力を用いて、前記サンプルに含まれる第1測定成分、及び、前記第1測定成分に干渉する測定成分である第2測定成分の濃度を演算する演算装置とを備える赤外線ガス分析計に用いられる濃度演算プログラムであって、
前記赤外線ガス分析計は、
ニューマチック検出器である前記赤外線検出器と、
前記第1測定成分に基づく測定用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する測定用ガス室と、
前記第2測定成分に基づく干渉用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する干渉用ガス室と、
前記測定用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第1センサと、
前記干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第2センサとを有し、
前記濃度演算プログラムは、
前記第1センサの出力、及び、前記第2センサの出力を用いて前記第1測定成分の濃度を演算する機能と、
前記第2センサの出力を用いて前記第2測定成分の濃度を演算する機能とをコンピュータに備えさせる、濃度演算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線ガス分析計、赤外線ガス分析方法、及び、濃度演算プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
排出される排ガス中の測定成分の濃度を測定する装置として、赤外線ガス分析計が用いられる。この種の赤外線ガス分析計は、特許文献1に示すように、非分散型赤外線吸収方式のもの(NDIR分析計)がある。
【0003】
この種のNDIR分析計を用いて、例えば一酸化二窒素(NO)といった測定成分を検出する場合には、赤外線吸収波長域では、NOの赤外線吸収波長域に一酸化炭素(CO)の赤外線吸収波長域が重畳し、NOに対してCOが干渉成分となる。このため、サンプル中のCOを酸化触媒により二酸化炭素(CO)に酸化して、COの干渉影響を低減している。
【0004】
しかしながら、この種のNDIR分析計は、NOの濃度を算出することができる一方、COは干渉影響の低減のためにCOへと酸化されるので、COの濃度を算出することができない。その結果、NOの濃度とCOの濃度とを1つのNDIR分析計で測定することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-96889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上述した問題を解決すべくなされたものであり、赤外線吸収波長域が重畳する2つの成分を1つの赤外線ガス分析計で測定することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る赤外線ガス分析計は、サンプルに赤外線を照射する赤外光源と、前記サンプルを透過した赤外線を検出する赤外線検出器と、前記赤外線検出器の出力を用いて、前記サンプルに含まれる第1測定成分、及び、前記第1測定成分に干渉する測定成分である第2測定成分の濃度を演算する演算装置とを備え、前記赤外線検出器は、ニューマチック検出器であり、前記第1測定成分の赤外線吸収特性に基づく測定用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する測定用ガス室と、前記第2測定成分の赤外線吸収特性に基づく干渉用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する干渉用ガス室と、前記測定用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第1センサと、前記干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第2センサとを有し、前記演算装置は、前記第1センサの出力、及び、前記第2センサの出力を用いて前記第1測定成分の濃度を演算する第1演算部と、前記第2センサの出力を用いて前記第2測定成分の濃度を演算する第2演算部とを有することを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、測定用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第1センサと、干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第2センサとを有し、演算装置がこれら各センサの出力に基づいて、第1測定成分の濃度及び第2測定成分の濃度を演算するので、1つの赤外線検出器によって第1測定成分及び第2測定成分の濃度を測定することができる。
【0009】
前記第2演算部は、前記第2センサの出力、及び、前記第1演算部の出力を用いて前記第2測定成分の濃度を演算することが望ましい。
【0010】
このような構成であれば、第2演算部が第2センサの出力及び第1演算部の出力を用いて、第2測定成分の濃度を演算するので、第2測定成分の濃度は、第1演算部により演算された第1測定成分の濃度によって補正される。その結果、第2測定成分の濃度をより精度よく演算することができる。
【0011】
前記演算装置が前記第1測定成分の濃度及び前記第2測定成分の濃度を算出する場合に、サンプルに含まれる二酸化炭素(CO)の濃度に応じて、第1センサ及び第2センサの出力が変化し、測定誤差を生じることがある。
この測定誤差を防ぐために、前記赤外線ガス分析計は、前記サンプルに含まれる二酸化炭素を検出するCO測定部をさらに備え、前記演算装置は、前記CO測定部により得られたCO濃度を用いて前記第1測定成分の濃度又は前記第2測定成分の濃度を補正することが望ましい。
【0012】
このような構成であれば、演算装置が第1測定成分の濃度及び第2測定成分の濃度を演算する場合に、CO測定部により得られたCOの濃度を用いて第1測定成分の濃度又は第2測定成分の濃度を補正するので、COの濃度に応じた測定誤差を低減させることができる。
【0013】
本発明の赤外線ガス分析計における前記第1測定成分は一酸化炭素(CO)であり、前記第2測定成分は一酸化二窒素(NO)であることが望ましい。
【0014】
このような構成であれば、赤外線吸収波長域が重畳する2つの成分である一酸化炭素及び一酸化二窒素を1つの赤外線検出器で検出することができる。また、一酸化二窒素は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスであるので、本発明の赤外線ガス分析計を環境負荷軽減が求められる産業分野において好適に用いることができる。
【0015】
本発明の赤外線ガス分析計は、2つの前記赤外線検出器をさらに備え、一方の前記赤外線検出器における前記第1測定成分及び前記第2測定成分は、それぞれ一酸化窒素(NO)及び水(HO)であり、他方の前記赤外線検出器における前記第1測定成分及び前記第2測定成分は、それぞれ二酸化硫黄(SO)及びメタン(CH)であることが望ましい。
【0016】
このような構成であれば、演算装置が、一方の赤外線検出器によって検出されたNO及びHOを用いてNOの濃度を算出し、他方の赤外線検出器によって検出されたSO及びCHを用いてSO又はCHの濃度を算出するので、本発明の赤外線ガス分析計は、サンプルに含まれる5つの成分であるNO、NO、CO、CO、SO又はCHを同時に測定することができる。
【0017】
本発明の赤外線ガス分析計は、前記第1測定成分及び前記第2測定成分以外の複数の成分が封入されたガスフィルタをさらに備え、前記ガスフィルタは、互いに反応しない複数の成分、又は、互いに平衡状態で安定した複数の成分が封入されていることが望ましい。
【0018】
このような構成であれば、サンプル中の第1測定成分及び第2測定成分以外の複数の成分が封入されたガスフィルタを有するので、複数の第2測定成分の少なくとも一つを酸化又は還元させる触媒を不要にすることができ、その結果、ランニングコストを低減することができる。
【0019】
前記演算装置は、前記第1センサ及び前記第2センサの出力から前記CO測定部により得られたCOの濃度に所定の重み付け係数を乗算したものを減算することにより、前記第1測定成分及び前記第2測定成分の濃度を演算するとともに、前記COの濃度に基づいて前記重み付け係数を変更又は補正することが望ましい。
【0020】
このような構成であれば、演算装置がCOの濃度に基づいて重み付け係数を変更又は補正するので、重み付け係数が一定の場合に生じる測定誤差を低減させることができ、COの濃度に関わらず、第1測定成分及び第2測定成分を精度よく測定することができる。
【0021】
また、本発明に係る赤外線ガス分析方法は、サンプルに赤外線を照射するとともに、前記サンプルを透過した赤外線を赤外線検出器により検出して、前記サンプル中の第1測定成分及び前記第1測定成分に干渉する第2測定成分を分析する赤外線ガス分析計に用いられる赤外線ガス分析方法であって、前記赤外線ガス分析計は、ニューマチック検出器である前記赤外線検出器と、前記第1測定成分に基づく測定用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する測定用ガス室と、前記第2測定成分に基づく干渉用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する干渉用ガス室とを有し、前記赤外線ガス分析方法は、前記測定用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出し、前記干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出し、前記測定用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化、及び、前記干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を用いて前記第1測定成分の濃度を演算し、前記干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を用いて前記第2測定成分の濃度を演算することを特徴とする。
さらに、本発明に係る濃度演算プログラムは、サンプルに赤外線を照射する赤外光源と、前記サンプルを透過した赤外線を検出する赤外線検出器と、前記赤外線検出器の出力を用いて、前記サンプルに含まれる第1測定成分、及び、前記第1測定成分に干渉する第2測定成分の濃度を演算する演算装置とを備える赤外線ガス分析計に用いられる濃度演算プログラムであって、前記赤外線ガス分析計は、ニューマチック検出器である前記赤外線検出器と、前記第1測定成分に基づく測定用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する測定用ガス室と、前記第2測定成分に基づく干渉用ガスが封入され、前記サンプルを通過した赤外線が入射する干渉用ガス室と、前記測定用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第1センサと、前記干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第2センサとを有し、前記濃度演算プログラムは、前記第1センサの出力、及び、前記第2センサの出力を用いて前記第1測定成分の濃度を演算する機能と、前記第2センサの出力を用いて前記第2測定成分の濃度を演算する機能とをコンピュータに備えさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
このように構成した本発明によれば、赤外線吸収波長域が重畳する2つの成分を1つの検出器で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る赤外線ガス分析計を示す模式図である。
図2】同実施形態に係る各成分の赤外吸収スペクトルを示す図である。
図3】変形実施形態に係る赤外線ガス分析計を示す模式図である。
図4】変形実施形態に係る各成分の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る赤外線ガス分析計の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に示すいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略し又は誇張して模式的に描かれている場合がある。同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0025】
本実施形態に係る赤外線ガス分析計100は、例えば下水処理施設、清掃工場、産業廃棄物処理場や化学プラントなどの産業設備から排出される排ガス(煙道排ガス)などのサンプル中の一酸化二窒素(NO)、窒素酸化物(NO)、二酸化硫黄(SO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、メタン(CH)などの成分濃度を非分散型赤外線吸収方式(NDIR)により測定するものである。
【0026】
具体的に赤外線ガス分析計100は、サンプル中のCO及びNOの濃度を測定するものであり、図1に示すように、サンプルが導入される測定セル2と、測定セル2の一端側に設けられて、測定セル2に赤外線を照射する赤外光源3と、測定セル2の他端側に設けられて、測定セル2を通過した赤外線を検出する赤外線検出器4と、サンプル中の二酸化炭素を測定するCO測定部5と、赤外線検出器4及びCO測定部5からの出力を取得して、第1測定成分(CO)及び第1測定成分に干渉する測定成分である第2測定成分(NO)の濃度を算出する演算装置6とを備えている。
【0027】
測定セル2は、例えば概略筒形状をなし、その両端部が赤外線透過性材料からなるセル窓部材2a、2bによって封止され、サンプルをセル内部に導入するための導入ポートP1及びサンプルをセル外部に導出するための導出ポートP2が側壁に設けられている。
【0028】
赤外光源3は、測定セル2の一端側においてセル窓部材2aに対向して設けられて、測定セル2の内部に赤外線を照射するものである。赤外光源3と測定セル2との間には、光チョッパ(不図示)が設けられており、例えばモータにより回転駆動されて、赤外光源3によって発生される赤外線を一定周期で断続(チョッピング)するように構成している。
【0029】
赤外線検出器4は、測定セル2の他端側におけるセル窓部材2bに対向して設けられており、例えばコンデンサマイクロフォン型のニューマチック検出器である。具体的に赤外線検出器4は、第1測定成分(CO)の赤外線吸収特性に基づく測定用ガスが封入され、サンプルを通過した赤外線が入射する測定用ガス室41と、第2測定成分(NO)の赤外線吸収特性に基づく干渉用ガスが封入され、サンプルを通過した赤外線が入射する干渉用ガス室42とを有する。測定用ガス室41及び干渉用ガス室42は、測定セル2の他端側からこの順に光学的に直列配置されている。
【0030】
測定用ガス室41は、耐腐食性金属からなる本体ブロックの両端部が赤外線透過性材料からなる窓部材によって封止されると共に、その内部に第1センサ41xが配置されている。測定用ガス室41内には、第1測定成分(CO)又はそれと同等の赤外線吸収特性を示す測定用ガスが封入されており、第1センサ41xは、第1測定成分(CO)の赤外吸収スペクトルに応じた圧力変化を検出する。本実施形態の第1センサ41xは、第1測定成分及び第2測定成分の両方に感度を持つ。
【0031】
本実施形態では第1測定成分がCOであることから、測定用ガス室41内には、所定濃度のCOガスを封入している。これにより、第1センサ41xは、COの赤外吸収スペクトルに応じた圧力変化を検出する(図2参照)。
【0032】
干渉用ガス室42は、耐腐食性金属からなる本体ブロックの両端部が赤外線透過性材料からなる窓部材によって封止されると共に、その内部に第2センサ42xが配置されている。そして干渉用ガス室42内には、第2測定成分(NO)又はそれと同等の赤外線吸収特性を示す干渉用封入ガスが封入されており、第2センサ42xは、第2測定成分の赤外吸収スペクトルに応じた圧力変化を検出する。この干渉用ガス室42は、測定用ガス室41の後段に設けられており、COは測定用ガス室41でほとんど吸収されるため、第2測定成分に感度を持つ。
【0033】
本実施形態では、COに対するNOの干渉影響を補正すべく、干渉用ガス室42内には、測定用ガス室41のCOガスよりも高い濃度のCOガスを封入している。これにより、干渉用ガス室42は、NOの赤外吸収スペクトルに合わせた波長域の赤外線強度を検出する(図2参照)。
【0034】
さらに、本実施形態では、サンプル中のSOやCHなどの成分の干渉影響を低減するために、赤外線検出器4に検出される赤外線の波長を狭めるための光学フィルタ8が設けられている。この光学フィルタ8は、CO及びNOの吸収波長域の赤外線を透過するものであり、具体的に光学フィルタ8は、例えば4μm~5μmの波長域を透過する。本実施形態の光学フィルタ8は、測定セル2及び赤外線検出器4の間に設けられている。
【0035】
CO測定部5は、サンプル中のCOを測定するものである。具体的にCO測定部5は、サンプルが導入されるCO測定セル51と、CO測定セル51に赤外線を照射する赤外線照射部52と、CO測定セル51を透過した赤外線を検出するCO検出器53とを有している。本実施形態のCO測定セル51を通過したサンプルが測定セル2に導入されるように構成されているが、逆であっても良い。
【0036】
CO測定セル51は、上述した測定セル2と同様の構成であるが、そのセル長がCO濃度に合わせて、測定セル2のセル長よりも短いものである。また、CO検出器53は、上述した赤外線検出器4と同様に、例えばコンデンサマイクロホン型のニューマチック検出器である。
【0037】
ここで、赤外線照射部52は、上述した赤外光源3及び赤外光源3と測定セル2との間に設けられた集光部材7を用いて構成されている。集光部材7には、赤外線を集光するテーパ状の内壁面からなる第1光路7aが形成されている。この第1光路7aを通過することによって、赤外光源3からの赤外線は測定セル2に集光されて照射される。また、第1光路7aを形成する内壁面には、CO測定セル51に赤外線を照射するための第2光路7bが接続されている。この第2光路7bには、テーパ状の内壁面で反射した赤外線が通過し、第2光路7bを通過した赤外線がCO測定セル51に照射される。
【0038】
演算装置6は、赤外線検出器4の出力及びCO測定部5の出力に基づいてCOの濃度及びNOの濃度を算出するものである。なお、演算装置6は、演算したCOの濃度及びNOの濃度などの測定結果をディスプレイなどの表示部70に表示することができる。
【0039】
具体的に演算装置6は、第1センサ41xの出力を増幅して出力する測定用前置増幅器61と、第2センサ42xの出力を増幅して出力する干渉用前置増幅器62と、測定用前置増幅器61からの出力及び干渉用前置増幅器62からの出力を用いて第1測定成分の濃度を演算する第1演算部63と、干渉用前置増幅器62からの出力を用いて第2測定成分の濃度を演算する第2演算部64と、CO検出器53の出力を増幅して出力するCO用前置増幅器65とを備える。
【0040】
第1演算部63は、第1測定成分に対する第2測定成分の干渉影響を除去する第2測定成分除去部63aと、第1測定成分に対するCOの干渉影響を除去する第1CO除去部63bとを備える。具体的に第2測定成分除去部63aは、測定用前置増幅器61からの出力から干渉用前置増幅器62からの出力を減算する。また、第1CO除去部63bは、第2測定成分除去部63aからの出力からCO用前置増幅器65からの出力を減算する。その結果、第1演算部63は、第1測定成分の濃度を出力することができる。なお、第1演算部63は、第1CO除去部63bを備えなくともよい。
【0041】
第2演算部64は、第2測定成分に対するCOの干渉影響を除去する第2CO除去部64aと、第2測定成分に対する第1測定成分の干渉影響を除去する第1測定成分除去部64bとを備える。具体的に第2CO除去部64aは、干渉用前置増幅器62からの出力からCO用前置増幅器65からの出力を減算する。また、第1測定成分除去部64bは、第2CO除去部64aの出力から第1演算部63によって演算された第1測定成分の濃度を減算する。その結果、第2演算部64は、第2測定成分の濃度を出力することができる。なお、第2演算部64は、第2CO除去部64aを備えなくともよい。
【0042】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態の赤外線ガス分析計100によれば、測定用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第1センサ41xと、干渉用ガスの赤外線吸収に応じた圧力変化を検出する第2センサ42xとを有し、演算装置6がこれら各センサの出力に基づいて、第1測定成分の濃度及び第2測定成分の濃度を演算するので、1つの赤外線検出器4によって第1測定成分及び第2測定成分の濃度を測定することができる。
【0043】
<その他の実施形態>
前記実施形態の第1演算部63は、第2測定成分の干渉影響を除去した後にCOの干渉影響を除去するものであったが、第1演算部63は、COの干渉影響を除去した後に第2測定成分の干渉影響を除去するものであってもよい。具体的に第1演算部63は、測定用前置増幅器61からの出力からCO用前置増幅器65からの出力を減算し、その後、干渉用前置増幅器62からの出力を減算する構成としてもよい。
【0044】
前記実施形態における第2演算部64は、COの干渉影響及び第1測定成分の干渉影響を除去するものであったが、第2演算部64はこれらの干渉影響を除去しなくともよい。すなわち、第2演算部64は、干渉用前置増幅器62の出力から、直接、第2測定成分の濃度を演算してもよく、第2CO除去部64a及び第1測定成分除去部64bを備えなくともよい。
【0045】
前記実施形態では、SOやCHなどの成分の干渉影響を低減するために、赤外線検出器4に検出される赤外線の波長を狭めるための光学フィルタ9を用いているが、光学フィルタ9を用いなくても良い。
【0046】
前記実施形態の赤外線ガス分析計は、光チョッパを用いて赤外光源3の赤外線を一定周期で断続(チョッピング)する光チョッピング方式のものであったが、サンプルとリファレンスガスとを一定周期で交互に測定セル2に導入する流体変調方式のものであっても良い。
【0047】
さらに、前記実施形態の赤外線ガス分析計は、CO、NO、及びCOの濃度を測定するものであったが、NO、SO、CHなどのその他の成分の濃度を測定するものであっても良いし、それらのうち2以上の成分の濃度を測定するものであっても良い。
【0048】
例えば4つの成分の濃度それぞれを測定する赤外線ガス分析計100の構成例を図3に示す。この図3に示す赤外線ガス分析計100は、例えばCO、NO、SO、CO、NOの5つの成分それぞれの濃度を測定するものであり、前記実施形態の構成にさらに2つの赤外線検出器を備えている。
【0049】
一方の赤外線検出器10における第1測定成分及び第2測定成分は、それぞれ一酸化窒素(NO)及び水(HO)である。また、他方の赤外線検出器11における第1測定成分及び第2測定成分は、それぞれ二酸化硫黄(SO)及びメタン(CH)である。これら2つの赤外線検出器10、11は、上述した赤外線検出器4と同様に、例えばコンデンサマイクロホン型のニューマチック検出器である。この構成により、図4に示すように、赤外線吸収波長域が重畳するNO及びHO、SO及びCHのそれぞれに対して赤外線検出器10、11を用いることによって、サンプルに含まれる5つの成分であるNO、NO、CO、CO、SO又はCHを同時に測定することができる。
【0050】
また、この構成例では、測定セル2を透過した赤外線を、ハーフミラM1、M2などを用いたビームスプリッタ12を用いて、赤外線検出器4(NO検出器)、一方の赤外線検出器10、他方の赤外線検出器11に赤外線を分割している。
【0051】
そして、図3に示すように、ビームスプリッタ12と赤外線検出器4(NO検出器)との間に光学フィルタ9も設けている。また、ビームスプリッタ12とSO検出器101及びNO検出器111との間にも光学フィルタ13、14を設けている。さらに、ビームスプリッタ12と赤外線検出器4、10、11との間に、それらの第1測定成分に対する第2測定成分の干渉影響を除去するためにガスフィルタを設けても良い。なお、図3では、5つの成分の濃度を測定する構成例を示したが、例えばビームスプリッタの構成を変更することによって、3つ又は4つの成分の濃度を測定する構成にもできるし、6つ以上の成分の濃度を測定する構成にもできる。
【0052】
前記実施形態にさらに、第1測定成分及び第2測定成分以外の複数の成分が封入されたガスフィルタを備える構成としてもよい。具体的にガスフィルタは、測定セル2及び赤外線検出器4の間に設けられ、第1測定成分(CO)及び第2測定成分(NO)の吸収スペクトルに干渉影響を与えるCOの吸収スペクトルを低減又は除去するものである。ガスフィルタは、1つのチャンバ内にCOガスを封入している。また、ガスフィルタは、さらにCOに反応しない複数の成分、又は、COと平衡状態で安定した複数の成分として、メタン(CH)を封入してもよい。なお、ガスフィルタは、測定セル2及び赤外線検出器4の間に設けられているが、赤外光源3及び測定セル2の間に設けたり、又は、赤外光源3又は測定セル2に内蔵してもよい。
【0053】
さらに、前記実施形態の演算装置6は、CO測定部5からの出力を減算して、CO及びNOの濃度を演算するものであったが、第1センサ41x及び第2センサ42xの出力からCO測定部5により得られたCOの濃度に所定の重み付け係数kを乗算したものを減算することにより、第1測定成分及び第2測定成分の濃度を演算するものであってもよい。ここで、重み付け係数は、濃度が既知である複数のCOガスを用いて、重み付け係数kを予め求めて置き、演算装置6に記憶させておく。そして、測定時において、CO用前置増幅器65の出力信号又はそれから求められたCOの濃度に応じて、重み付け係数kを変更又は補正する。
【0054】
前記実施形態では、外燃機関から排出される排ガスを分析するものであったが、車両、船舶などの内燃機関から排出される排ガスを分析するものであっても良い。
【0055】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0056】
100・・・赤外線ガス分析計
2・・・測定セル
3・・・赤外光源
4・・・赤外線検出器
41・・・測定用ガス室
42・・・干渉用ガス室
41x・・・第1センシング部
42x・・・第2センシング部
5・・・CO測定部
6・・・演算装置
7・・・集光部材
8・・・光学フィルタ
図1
図2
図3
図4