(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089903
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】長繊維強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物および成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20240627BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20240627BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240627BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
C08J3/22
C08K7/02
C08L81/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205427
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】浅野 輝一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 文明
(72)【発明者】
【氏名】内潟 昌則
【テーマコード(参考)】
4F070
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA58
4F070AB24
4F070AD02
4F070AE01
4F070FA04
4F070FB04
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4F072AA02
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4F072AD46
4F072AH16
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4F072AL02
4F072AL13
4F072AL17
4J002CF062
4J002CF072
4J002CF162
4J002CL012
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4J002CN011
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4J002DL006
4J002FA042
4J002FA046
4J002FD012
4J002FD016
4J002GN00
(57)【要約】
【解決課題】造時の加工性と、得られる成形品の機械的特性、特に耐衝撃性に優れたポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂組成物および当該樹脂組成物から得られる成形品の製造方法を提供すること。
【解決手段】PAS樹脂と、5mm以上の繊維長を有する繊維強化材とを含む長繊維強化PAS樹脂組成物の製造方法であって、PAS樹脂(a1)と5mm以上の繊維長を有する繊維強化材とを含むマスターバッチを、PAS樹脂(a2)とドライブレンドする工程を有すること、前記PAS樹脂(a1)の溶融粘度が2.5~25Pa・sの範囲であり、かつ、PAS樹脂(a2)の溶融粘度が30~500Pa・sの範囲であることを特徴とする長繊維強化PAS樹脂組成物の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、5mm以上の繊維長を有する繊維強化材とを含む長繊維強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)と5mm以上の繊維長を有する繊維強化材とを含むマスターバッチを、ポリアリーレンスルフィド樹脂(a2)とドライブレンドする工程を有すること、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)の溶融粘度が2.5~25Pa・sの範囲であり、かつ、ポリアリーレンスルフィド樹脂(a2)の溶融粘度が30~500Pa・sの範囲であることを特徴とする長繊維強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(ただし、溶融粘度は300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10/1にて、6分間保持した後に測定した値である。)
【請求項2】
前記マスターバッチ100質量部に対して、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a2)が2~450質量部の範囲である、請求項1記載の長繊維強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記マスターバッチのうち、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)100質量部に対して、前記繊維強化材が1~400質量部の範囲である請求項1又は2記載の長繊維強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の製造方法で得られた前記長繊維強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形する工程を有する、長繊維強化ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は長繊維強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物および成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の省資源、省エネルギー、二酸化炭素低減を目的とした低燃費化が要求される中で、自動車部品についての軽量化が特に求められるようになってきている。従来、金属によって形成されている各種材料の軽量化を図るには、金属よりも低比重の樹脂材料、特に、ポリアミド系材料への置き換えが進んできたが、ポリアミド系材料は金属材料に比べて、耐熱性が不十分であることから、使用に際し制限が生じていた。このため、より耐熱性に優れた樹脂材料として、ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と略称することがある)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS樹脂と略称することがある)の使用が、自動車部品だけでなく電気・電子部品や精密機械部品などの各種用途に対して検討されている。
【0003】
一般的にPAS樹脂を用いた成形品は靭性が乏しい傾向にあり、繊維強化材等の各種フィラーを添加して機械的特性を改善した成形品が提供されているが、金属材料を完全に代替するにはなお課題があった。更なる機械的特性の改善方法として、例えば、5mm以上の繊維長を有する繊維強化材を配合するPAS樹脂組成物が提案されている(特許文献1等)。しかしながら、繊維強化材を樹脂で被覆する際の加工性の観点から、溶融粘度が比較的小さいPAS樹脂を用いる必要があり、マトリクス樹脂の高粘度化で達成できる更なる機械的特性の向上の実現は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2016/152845号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明が解決しようとする課題は、製造時の加工性と、得られる成形品の機械的特性、特に耐衝撃性に優れたPAS樹脂組成物および当該樹脂組成物から得られるPAS樹脂成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、溶融粘度の低いPAS樹脂と、5mm以上の繊維長を有する繊維強化材とを含む樹脂組成物(本開示では「マスターバッチ」と称する)を予め作製し、該マスターバッチ(以下、MBと略称することがある)をより溶融粘度の高いPAS樹脂とドライブレンドして樹脂組成物を得た後に溶融成形することで、製造時の加工性とマトリクス樹脂の高粘度化を両立できること、さらに、溶融成形中にも粘度域の異なるPAS樹脂が共存することで繊維強化材の繊維長の低下を抑制できることを見出し、耐衝撃性等の機械的強度に優れた長繊維強化PAS樹脂成形品を製造する方法である本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、PAS樹脂と、5mm以上の繊維長を有する繊維強化材とを含む長繊維強化PAS樹脂組成物の製造方法であって、
PAS樹脂(a1)と5mm以上の繊維長を有する繊維強化材とを含むMBを、PAS樹脂(a2)とドライブレンドする工程を有すること、
前記PAS樹脂(a1)の溶融粘度が2.5~25Pa・sの範囲であり、かつ、PAS樹脂(a2)の溶融粘度が30~500Pa・sの範囲であることを特徴とする長繊維強化PAS樹脂組成物の製造方法に関する。
【0008】
また、本発明は、前記製造方法で得られた前記長繊維強化PAS樹脂組成物を溶融成形する工程を有する、長繊維強化PAS樹脂成形品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、PAS樹脂の優れた耐熱性を維持しつつ、機械的強度、特に、耐衝撃性に優れたPAS樹脂成形品の製造方法、および、当該成形品を提供するためのPAS樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0011】
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、PAS樹脂と、5mm以上の繊維長を有する繊維強化材とを含む長繊維強化PAS樹脂組成物の製造方法であって、
PAS樹脂(a1)と5mm以上の繊維長を有する繊維強化材とを含むMBを、PAS樹脂(a2)とドライブレンドする工程を有すること、
前記PAS樹脂(a1)の溶融粘度が2.5~25Pa・sの範囲であり、かつ、PAS樹脂(a2)の溶融粘度が30~500Pa・sの範囲であることを特徴とする。
【0012】
<PAS樹脂>
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、PAS樹脂を必須成分として用いる。PAS樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記式(1)
【0013】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記式(2)
【0014】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。下記式(8)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して、0.001モル%以上から、3モル%以下が好ましく、特に0.01モル%以上から、1モル%以下であることが好ましい。
【0015】
ここで、前記式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR1及びR2は、前記PAS樹脂(A)の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0016】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0017】
また、前記PAS樹脂は、前記式(1)や式(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)
【0018】
【化4】
で表される構造部位を、前記式(1)と式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂中に、上記式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0019】
また、前記PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0020】
前記PAS樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、例えば1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄を、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩を添加したり、水酸化アルカリを添加しても良い。上記2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02モル以上、0.5モル以下の範囲にコントロールすることによりPAS樹脂を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01モル以上、0.9モル以下の有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0021】
重合工程により得られたPAS樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PASや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法、(4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過および乾燥する方法、等が挙げられる。
【0022】
尚、上記(1)~(5)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。さらに、乾燥したPAS樹脂を公知の方法で処理しても良い。
【0023】
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法において、PAS樹脂(a1)としては、300℃での溶融粘度(V6)が好ましくは2.5Pa・s以上、より好ましく5.0Pa・s以上、さらに好ましくは8.0Pa・s以上から、より好ましくは22.5Pa・s以下、さらに好ましくは20Pa・s以下までの範囲のPAS樹脂を用いる。かかる範囲において、後述の製造方法において、繊維強化材を被覆する際の加工性や含侵性に優れる。
【0024】
一方、PAS樹脂(a2)としては、前記300℃での溶融粘度(V6)が、好ましくは30Pa・s以上、より好ましくは75Pa・s以上、さらに好ましくは100Pa・s以上から、好ましくは500Pa・s以下、より好ましくは400Pa・s以下、さらに好ましくは300Pa・s以下までの範囲のものを用いる。かかる範囲において、得られる成形品の機械的強度、特に、耐衝撃性や引張特性に優れる。
【0025】
ただし、溶融粘度(V6)は高化式フローテスターを用いて、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した値である。
【0026】
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法で用いるPAS樹脂の非ニュートン指数は特に限定されないが、0.90以上から1.2以下の範囲であることが加工性の観点から好ましい。ただし、本発明において非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。なお、本発明の製造方法において用いるPAS樹脂(a1)と、前記PAS樹脂(a2)とは、溶融粘度が異なる点を除き、他は、同一であっても、異なっても良い。
【0027】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]
【0028】
<繊維強化材>
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、5mm以上の繊維長を有する繊維強化材を必須成分として用いる。当該繊維強化材の種類としては、公知の無機繊維強化材や有機繊維強化材を用いることできる。例えば、ガラス繊維強化材、金属繊維強化材、バサルト繊維強化材、カーボン繊維(炭素繊維)強化材、アラミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維)強化材、ナイロンMXD6繊維(m-キシリレンジアミンとアジピン酸との共縮重合体からなる繊維)強化材、PET繊維強化材、PBT繊維強化材、全芳香族ポリエステル繊維(ケブラー繊維)強化材等を挙げることができる。
【0029】
これらの繊維強化材はモノフィラメントの形として用いられるばかりでなく、モノフィラメントの多数本を集束剤で相互に集束したロービングを用いることができる。ロービングとしては、機械強度が向上する観点から、平均繊維径が、好ましくは5μm以上、より好ましくは6μm以上から、更に好ましくは9μm以上から、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは24μm以下、最も好ましくは20μm以下までの範囲のモノフィラメントを使用する。更に、好ましくは500本以上、より好ましくは1000本以上から、好ましくは60000本以下、より好ましくは20000本以下の範囲のモノフィラメントを集束したものを用いる。更にこれらのロービングを2本以上合糸した形で用いることもできる。またこれらのロービング自体に撚りが付与されたものも用いることができる。また、集束剤としては、例えば、無水マレイン酸系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、及びこれら化合物の共重合体から選ばれる1種以上を含有する集束剤が挙げられ、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物を含有する集束剤が好ましいものとして挙げられる。このうち、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物が好ましいものとして挙げられ、さらにエポキシ系化合物がより好ましいものとして挙げられる。エポキシ系化合物としては、ビスフェノール・エピクロルヒドリン型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テトラエポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン、エポキシアルキルエステルあるいはエポキシ化不飽和化合物などが例示される。また、ウレタン系化合物としては、m-キシリレンジイソシアナート(XDI)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)(HMDI)やイソホロンジイソシアナート(IPDI)等のイソシアネートと、ポリエステル系やポリエーテル系のジオールとから合成されるものなどが挙げられる。
【0030】
<その他の任意成分>
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法において、必要に応じて熱可塑性エラストマを任意成分として用いることができる。必要に応じて用いることができる熱可塑性エラストマとしては、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナト基または下記の構造式(1)、構造式(2)
【0031】
【化5】
(ただし、構造式(1)、構造式(2)中、Rは炭素原子数1~8のアルキル基を表す。)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する熱可塑性エラストマであることが好ましい。これらの基または部分構造は、カルボキシ基と相溶性の良い官能基または反応性を有する官能基であるため、カルボキシ基を有するPAS樹脂と溶融混練されることによって良好に相溶ないし反応する。その結果、本発明の成形品は機械的強度、特に優れた曲げ強度、高耐衝撃性、高い曲げ弾性率を奏することができることから好ましい。
【0032】
前記熱可塑性エラストマとしては、例えばα-オレフィンと前記官能基を有していてもよいビニル重合性化合物などの単量体とを共重合して得られるポリオレフィンであることが好ましい。前記α-オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1等の炭素数2~8のα-オレフィン等が挙げられる。前記官能基を有していてもよいビニル重合性化合物としては、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等のα,β-不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他の炭素数4~10の不飽和ジカルボン酸とそのモノ及びジエステル、その酸無水物等のα,β-不飽和ジカルボン酸及びその誘導体等が挙げられる。
【0033】
より具体的に説明すれば、例えば、エポキシ基を有するポリオレフィンは、エポキシ基を有するオレフィン系重合体であれば特に限定されないが、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルからなる共重合体が好ましく用いられる。α-オレフィンとしてはエチレン、プロピレンおよびブテン-1などが挙げられる。また、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとしては、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルおよびエタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。α-オレフィンに対する、各単量体成分の変性割合は、特に制限されるものではないが、共重合体中の変性部位を各単量体質量に換算し、共重合体100質量に対する割合として、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上から、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下の範囲である。
【0034】
またアミノ基またはイソシアナト基を有するポリオレフィンは、たとえば、上記のカルボン酸で変性されたポリオレフィンに、アルキレンジアミンやアルキレンジイソシアネートといった多価アミンや多価イソシアネートを反応させて得ることができる。アルキレンジアミンとしてはアルキレンジアミンとしては、エチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジイソシアナト、ペンタメチレンジイソシアナト、ヘキサメチレンジイソシアナト等が挙げられる。
【0035】
また、カルボキシ基と反応する官能基を有していない、いわゆる未変性オレフィン系重合体を用いることもでき、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ1-ブテン、ポリ1-ペンテン、ポリメチルペンテンなどの単独重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体などが用いられる。これらのなかでも、エチレン-α-オレフィン共重合体が好ましい。
【0036】
該エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレンおよび炭素原子数3~20を有する少なくとも1種以上のα-オレフィンを構成成分とする共重合体である。上記の炭素原子数3~20のα-オレフィンとして、具体的にはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。これらα-オレフィンの中でも炭素数6から12であるα-オレフィンを用いた共重合体が機械強度の向上、改質効果の一層の向上が見られるためより好ましい。
【0037】
官能基を有していない、いわゆる未変性ポリオレフィンを用いる場合、その溶融粘度は特に制限されるものではないが、メルトフローレイト(温度190℃、荷重2.16kg)による測定で0.01ポイズ以上から70ポイズ以下の範囲のものが好ましい。
【0038】
なお、オレフィン系重合体には、本発明の効果を損わない範囲で、他のオレフィン系モノマ、たとえばアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニルおよびビニルエーテルなどを共重合させてもよい。
【0039】
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法に用いることができる熱可塑性エラストマは、PAS樹脂を混練する温度で、溶融し、混合分散可能であることが好ましい。その点から、融点が300℃以下であり、室温でゴム弾性を有するエラストマがより好ましい。とりわけ、耐熱性、混合の容易さ、耐氷結性向上の点を考慮した場合、ガラス転移点が-30℃以下のものを用いると、極低温でもゴム弾性を有するため好ましい。前記ガラス転移点は、耐氷結性向上の点では低いほど好ましいが、好ましくは-180℃以上、より好ましくは-150℃以上から、-30℃以下までの範囲のものである。
【0040】
上述した、カルボキシ基と相溶性の良い官能基または反応性を有する官能基を有するポリオレフィン、ないし、当該官能基を有していない、いわゆる未変性ポリオレフィンは、それぞれ、一種または複数種を適宜組み合わせて用いることができる。
【0041】
また、本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、本発明の効果を損ねない範囲で、更に強度、耐熱性、寸法安定性等の性能を更に改善するために、本発明の必須成分である5mm以上の繊維長を有する繊維強化材とは別に、各種の充填剤(以下、他の充填剤ということがある)を任意成分として用いることができる。このような充填剤としては、本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることができ、例えば、粒状、繊維状などさまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維等の、繊維長が5mm未満の繊維状の充填剤や、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が使用できる。本開示で用いる充填剤は必須成分ではないが、前記PAS樹脂100質量部に対して0質量部より多く、通常は10質量部以上、500質量部以下を加えることによって、強度、剛性、耐熱性、放熱性および寸法安定性など、加える充填剤の目的に応じて各種性能を向上させることができるため、好ましい。
【0042】
また、本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、本発明の効果を損ねない範囲で公知の添加剤を任意成分として用いることができる。このような公知の添加剤としては、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、また用途に応じて、適宜、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂、あるいは、シランカップリング等のカップリング剤等を配合してもよい。本発明で用いる添加剤は必須成分ではないが、前記PAS樹脂100質量部に対して0質量部より多く、通常は10質量部以上、500質量部以下を加えることによって、加える添加剤の目的に応じて各種性能を向上させることができるため、好ましい。
【0043】
なお、上記の熱可塑性エラストマや他の充填剤等の任意成分は、本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法において、前記MB中に、原料成分として加えても良く、また、前記MBとPAS樹脂(a2)とドライブレンドする工程で加えても良く、また、PAS樹脂(a2)と予め溶融混練しても良い。
【0044】
<マスターバッチの製造方法>
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、PAS樹脂(a1)と5mm以上の繊維長を有する繊維強化材とを含むMBを用いる。当該MBは、例えば、特開2003-192911号公報記載の方法等に準拠して、連続した繊維(モノフィラメントないしロービング)に、溶融したPAS樹脂を塗布又は含浸させ、次いで冷却して得られるストランドを5mm以上の長さに切断して得ることができる。その際、溶融したPAS樹脂(a1)に、必要に応じて任意成分として例示した前記熱可塑性エラストマ、前記充填剤、前記添加剤などを加えることもできる。
【0045】
本実施形態で用いるMBの製造方法は、PAS樹脂(a1)と、必要に応じて前記熱可塑性エラストマ、加工安定剤、酸化安定剤、成形助剤、フィラーその他の添加剤等とを配合した上で、加熱機構を有する単軸または二軸スクリュー押出機へ投入してPAS樹脂(a1)の融点以上、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲で、より好ましくは融点+15℃以上、さらに好ましくは融点+20℃以上から、好ましくは融点+100℃以下、より好ましくは融点+50℃以下までの温度範囲で、溶融混練を行なって流動可能状態へ移行させた後に含浸装置(含浸ダイス)へ所定速度で装入する。
【0046】
該含浸装置は、連続した繊維がロービングの場合には開繊含浸装置を用いる。開繊含浸装置は溶融樹脂貯留部、上流側の境壁又は上流側の天板に穿設された繊維導入孔(導入口)を備えると共に下流側の境壁に穿設された賦形ノズルを備え、同装置中には2本以上の開繊ピン(長繊維の移動に拘わらず回転しない様に固定されている)又は開繊ロール(長繊維の移動に伴って自発的又は随伴的に回転可能)が下流側へ向けて系列的にしかも左右壁を架橋する状態で両壁に固定又は回転(回動)可能に装着されている。なお、開繊ピン又は開繊ロールが所定の間隙等を介して上下2段以上に装着されていても良い。上記の開繊含浸装置の中で連続した繊維を溶融樹脂中に導入し、開繊ピン又は開繊ロールに千鳥型に周回させるか、または上下2段に所定間隔だけ離して設置された2本の開繊ピンの中間を両者の何れにも接触させずに通過させるか、によってロービングの開繊と開繊した繊維への溶融樹脂の塗布または含浸とを行えばよい。
【0047】
次いで、含浸装置から押し出されたストランド状物を、PAS樹脂(a1)の溶融温度未満、好ましくは室温(23℃)まで冷却して、無端の繊維を引抜成形したストランドが得られる。その際、繊維強化材ないしロービングに撚りを付与することもでき、例えば、連続した繊維強化材ないしロービングの複数本、好ましくは2本以上から30本以下までの範囲を含浸装置に通し、複数本の繊維強化材ないしロービングを撚りながら巻き取り、一本のストランドを形成することもできる。本発明のMBは、得られたストランドを5mm以上の範囲、好ましくは5mmを超えて、30mm以下の範囲、より好ましくは6mm以上、かつ20mm以下の範囲、さらに好ましくは6mm以上、かつ15mm以下の範囲の長さに切断することによって柱状のペレットとして得られる。なお、ペレット直径とペレット長は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、ペレット直径が好ましくは1.0mm以上、より好ましくは1.5mm以上から、好ましくは6.0mm以下、より好ましくは4.0mm以下までの範囲である。また、ペレット長はストランドを切断した際の長さと同じである。
【0048】
このようにして得られたMBは、無端の繊維を引抜成形したストランドを切断して得られる柱状ペレットであることから、該ペレット中の繊維強化材の繊維長は該ペレットの長さ以上になる。このような繊維長の繊維を溶融粘度(V6)が25Pa・s以下の範囲のPAS樹脂(a1)と伴に用いることにより、溶融成形時、濡れ性が向上して繊維表面への樹脂の密着性が向上し、さらに、長繊維同士の物理的な絡まりが生じ、機械的物性や耐貫通性、破損時の破片の脱落や飛散防止に優れた成形品が得られる傾向となる。
【0049】
また、このようにして得られたMB中の繊維強化材のアスペクト比は、好ましくは250以上、より好ましくは600以上、さらに好ましくは800以上から、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、さらに好ましくは3000以下までの範囲である。また、5mm以上の繊維長を有する繊維強化材に、5mm未満の繊維長を有する繊維強化材を加えることもできるが、その場合でも、数平均で120以上から3000以下までの範囲に調整することが発明の効果を維持できる観点から好ましい。なお、本開示におけるアスペクト比は、実施例の方法で測定した重量平均繊維長/繊維直径の値である。
【0050】
また、溶融粘度(V6)が低いPAS樹脂で含浸させてMBを製造することで、のちの工程でより高粘度を有するPAS樹脂(a2)とドライブレンドした場合においても、成形可塑化時に繊維強化材周辺の樹脂の溶融粘度が低くなるため、繊維強化材の折損を抑制することができる。その結果、成形品における繊維長が長くなり、耐衝撃性等の機械的物性や耐貫通性、破損時の破片の脱落や飛散防止に優れた成形品が得られる傾向となる。
【0051】
なお、本実施形態に用いるMBにおいて、PAS樹脂(a1)と、前記繊維強化材との割合は、本発明の効果を損ねない範囲であれば特に限定されないが、PAS樹脂(a1)を100質量部に対し、繊維強化材が1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、400質量部以下が好ましく、250質量部以下がより好ましく、200質量部以下がさらに好ましい。かかる範囲において、溶融成形性に優れ、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性に代表される機械物性に優れた成形品が得られる傾向となる。
【0052】
前記MBに、さらに任意成分である熱可塑性エラストマを配合する場合、PAS樹脂(a1)100質量部に対し、前記熱可塑性エラストマが好ましくは1質量部以上から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下の範囲である。この範囲の配合割合を採用することによって溶融成形性に優れ、耐熱性、耐薬品性、特に、耐衝撃性と、室温下における引張強度だけでなく、さらに、例えば150℃以上といった高温下での引張強度に優れた成形品が得られる傾向となる。
【0053】
<長繊維強化PPS樹脂組成物の製造方法>
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、上記の方法で製造したMBを、PAS樹脂(a2)とドライブレンドする工程を有する。
【0054】
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法におけるドライブレンド工程は、具体的には、PAS樹脂の溶融温度以下で、前記MBとPAS樹脂(a2)と必要に応じて前記任意成分とを非溶融状態で混合する工程である。ドライブレンドは公知の方法を用いて行うことができる。例えば、前記MB、PAS樹脂(a2)および必要に応じて加える前記熱可塑性エラストマ(b2)等の任意成分を、リボンブレンダ、ヘンシェルミキサー、Vブレンダーなどに投入し、ドライブレンドして調製すればよい。
【0055】
前記MBと、PAS樹脂(a2)との割合は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではないが、該MB100質量部に対し、PAS樹脂(a2)が、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上から、好ましくは450質量部以下、より好ましくは300質量部以下、さらに好ましくは200質量部以下、特に好ましくは180質量部以下の範囲である。
【0056】
また、前記MBとドライブレンドする成分として、PAS樹脂(a2)に、さらに前記熱可塑性エラストマを用いることもできる。熱可塑性エラストマ(b2)を用いる場合の配合量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではないが、例えば、MB100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上から、好ましくは65質量部以下、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは25質量部以下の範囲である。
【0057】
ドライブレンドする際のPAS樹脂(a2)の形状は特に限定されず、例えば、円柱状、粉末状、粒状、顆粒状、ストランド状、棒状、針状、板状、管状、ブロック状等であってもよいが、MBと容易かつ均一に混合できる点から円柱状のペレットであることが好ましい。なお、任意成分として熱可塑性エラストマをドライブレンド時に用いる場合には、PAS樹脂(a2)と同様の形状であることが好ましい。
【0058】
なお、本工程で用いるPAS樹脂(a2)は、上記の熱可塑性エラストマや他の充填剤等の任意成分を溶融混練した樹脂組成物でも良い。樹脂組成物として用いる場合、PAS樹脂(a2)と上記任意成分を配合し、PAS樹脂の融点以上の温度範囲で溶融混錬する。樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、必須成分と必要に応じて任意成分を配合して、溶融混錬する方法、より詳しくは、必要に応じてタンブラー又はヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる
【0059】
溶融混錬は、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは該融点+10℃以上、さらに好ましくは該融点+20℃以上から、好ましくは該融点+100℃以下、より好ましくは該融点+50℃以下までの範囲の温度に加熱して行うことができる。
【0060】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。例えば、前記任意成分のうち、必要に応じて繊維状充填剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0061】
上記のMBと、PAS樹脂(a2)とをドライブレンドする工程を経て得た樹脂組成物における、繊維強化材の配合量は特に限定されないが、機械的性質の観点から、樹脂組成物100質量部に対して、15質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましい。
【0062】
<長繊維強化PPS樹脂成形品の製造方法>
本実施形態に係る長繊維強化ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法は、上記の製造方法で得られた前記長繊維強化ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形する工程を有する。溶融成形する工程は、公知の溶融成形法を用いることができ、例えば射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能である。また、耐ドローダウン性や偏肉性といった成形性に優れることから、ブロー成形法も可能である。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20℃~融点+50℃の温度範囲で前記PAS樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは130~190℃に設定すればよい。
【0063】
本実施形態に係る成形品の製造方法は、前記成形品にアニール処理する工程を有してもよい。アニール処理は、成形品の用途あるいは形状等により最適な条件が選ばれるが、アニール温度はPAS樹脂のガラス転移温度以上の温度範囲、好ましくは該ガラス転移温度+10℃以上の温度範囲であり、より好ましくは該ガラス転移温度+30℃以上の温度範囲である。一方、260℃以下の範囲であることが好ましく、240℃以下の範囲であることがより好ましい。アニール時間は特に限定されないが、0.5時間以上の範囲であることが好ましく、1時間以上の範囲であることがより好ましい。一方、10時間以下の範囲であることが好ましく、8時間以下の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、得られる成形品のひずみが低減し、かつ、樹脂の結晶性が向上するだけでなく、耐薬品性がさらに向上するため好ましい。アニール処理は空気中で行ってもよいが、窒素ガス等の不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0064】
本実施形態に係る製造方法で得られる成形品は、PAS樹脂と5mm以上の範囲、好ましくは5mm超、かつ30mm以下の範囲、より好ましくは6mm以上かつ20mm以下の範囲、さらに好ましくは10mm以上かつ15mm以下の範囲の繊維長を有する繊維強化材とを含む。なお、繊維長の評価方法については、実施例にて詳述する。
【0065】
本実施形態に係る製造方法で製造された樹脂組成物は、溶融成形する際に繊維強化材の折損を抑制することができるため、得られる成形品は優れた機械的特性を呈することができる。このような効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のメカニズムによるものと推測される。すなわち、溶融成形の際に、繊維強化材の周囲に低粘度のPAS樹脂が存在した状態で可塑化が始まるため、高粘度のPAS樹脂が存在する場合と比較して、樹脂の流動性の高いため繊維強化材へかかる応力が小さくなり、折損が抑制されると考える。なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、他の理由により本発明の効果が奏される場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0066】
本実施形態に係る製造方法で得られる成形品の耐衝撃特性は、特に限定されないが、十分な衝撃強度を備える観点から、ノッチ付きにおけるシャルピー衝撃強度が8kJ/cm2以上であることが好ましく、9kJ/cm2以上であることがより好ましく、10kJ/cm2以上であることが特に好ましい。なお、耐衝撃特性の評価方法については、実施例にて詳述する。
【0067】
本実施形態に係るに係る製造方法で得られる成形品は優れた機械的性質を有し、かつPAS樹脂が本来有する耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、耐冷熱衝撃性等の機械的強度等の優れた諸性能も具備しているので、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車部品、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、OA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの精密部品等の射出成形品や圧縮成形品、金属インサート成形品だけでなく、特に、ボトル、タンク、ダクトなど中空成形品として薬液用容器、空調ダクト、自動車など内燃機関や燃料電池から排出される高温ガス用ダクトおよびパイプなどに幅広く用いることができる。
【実施例0068】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0069】
<実施例1~11、比較例1~5>
【0070】
・マスターバッチ(MB)の製造
表1及び2に記載する組成成分および配合量にしたがい、PAS樹脂(a1)を2軸押出機に投入し、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数250rpm、シリンダー設定温度310℃で溶融混練しながら、押出機先端に設置した含浸ダイスに、繊維強化材(GF-AまたはGF-B)のロービングを、連続的に供給しながら押出して、繊維強化材(GF-AまたはGF-B)を溶融したPAS樹脂で被覆したストランドを製造した。その後、該ストランドを23℃に空冷してからストランドカッターで5mmの長さにカッティングして、MBを得た。
【0071】
・ドライブレンド
表1及び2に記載する組成成分および配合量にしたがい、製造したMBとPAS樹脂(a2)とを有限会社ミスギ製「まぜまぜマン HBT-500)に投入してドライブレンドし、樹脂組成物を得た。得られたペレットを130℃で1時間乾燥させた後、下記の試験を行った。
【0072】
<比較例6>
MBの製造は実施例1と同様に行った。その後ドライブレンドをせずに、MBを130℃で1時間乾燥させた後、各種評価を行った。
【0073】
<比較例7>
MBの製造は実施例1と同様に行った。表2に記載する組成成分および配合量にしたがい、製造したMBとPAS樹脂(a2)とを有限会社ミスギ製「まぜまぜマン HBT-500)に投入してドライブレンドし、樹脂組成物を得た。続いて、得られた樹脂組成物を45mmφ押出機(フルフライト型でかつ圧縮比1の単軸スクリュー)にて、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数250rpm、シリンダー設定温度290℃で押出を行い、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1時間乾燥させた後、下記の試験を行った。
【0074】
<評価>
【0075】
(1)溶融粘度の測定
用いたPAS樹脂の溶融粘度は、300℃での溶融粘度(V6)を、島津製作所製フローテスター「CFT-500D」を用い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)の条件にて、6分間保持した後に測定した。結果を表1~3に示す。
【0076】
(2)MB加工性の評価
各実施例及び比較例のMBの製造工程において、ストランドの引き抜き速度が10m/min以上においてストランドの断線が起こらず連続製造できた場合はMB加工性を○と評価し、ストランドの断線が生じて連続製造できなかった場合はMB加工性を×と評価した。なお、製造に用いる樹脂が高粘度であったり、繊維強化材の充填量が高い場合は、加工性が低下する傾向にある。結果を表1~3に示す。
【0077】
(3)成形品中の繊維長及びアスペクト比の測定
得られたペレットをシリンダー温度310℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75D-HP)に供給し、金型温度140℃に温調したISO Type-Aダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、ISO Type-Aダンベル片を得た。なお、ウェルド部を含まない試験片となるよう1点ゲートから樹脂を射出して作製したものとした。得られた試験片の中央ストレート部を2g程度切削し、マッフル炉中550℃で3h暴露させ、その灰分に含まれる繊維強化材を1Lの水中に分散させたあと、10mLをシャーレに分取した。デジタルマイクロスコープを用いてガラス繊維の繊維長を1000本測定し、重量平均繊維長を算出した。また、得られた重量平均繊維長測定値と使用したガラス繊維の繊維直径のカタログ値から、重量平均繊維長/繊維直径を算出して平均アスペクト比とした。結果を表1~3に示す。
【0078】
(4)シャルピー衝撃強さの測定
(3)と同様の方法で得た試験片の中央部分を長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの棒状に切り出し、ノッチ加工したものを耐衝撃性試験片とし、ISO179-1/1eAに準拠して、シャルピー衝撃試験を行い衝撃強度(kJ/mm2)の測定を行った。結果を表1~3に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
なお、表中に記載した各成分は以下のものを用いた。
・PAS樹脂
PAS-1;DIC株式会社製ポリフェニレンスルフィド樹脂「DIC.PPS」(V6溶融粘度5Pa・s、非ニュートン指数1.2)
PAS-2;DIC株式会社製ポリフェニレンスルフィド樹脂「DIC.PPS」(V6溶融粘度20Pa・s、非ニュートン指数1.2)
PAS-3;DIC株式会社製ポリフェニレンスルフィド樹脂「DIC.PPS」(V6溶融粘度30Pa・s、非ニュートン指数1.1)
PAS-4;DIC株式会社製ポリフェニレンスルフィド樹脂「DIC.PPS」(V6溶融粘度50Pa・s、非ニュートン指数1.2)
PAS-5;DIC株式会社製ポリフェニレンスルフィド樹脂「DIC.PPS」(V6溶融粘度150Pa・s、非ニュートン指数)
PAS-6;DIC株式会社製ポリフェニレンスルフィド樹脂「DIC.PPS」(V6溶融粘度300Pa・s、非ニュートン指数1.2)
【0083】
・繊維強化材
GF-A;ガラス繊維ロービング(Eガラス、平均繊維直径10μm、エポキシ系収束剤、比重2.6、引張強さ2000MPa)
GF-B;ガラス繊維ロービング(Eガラス、平均繊維直径24μm、エポキシ系収束剤、比重2.6、引張強さ2000MPa)
【0084】
表1~3の結果から、実施例の製造方法は比較例の製造方法と対比して、MBの加工性に優れており、また、得られたPAS樹脂成形品はより長い繊維強化材を含んでいることから耐衝撃性に優れることが示された。